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平成28(行ケ)10100審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成29年2月8日
事件種別 民事
当事者 被告キャラウェイ・ゴルフ・カンパニ
原告
対象物 管状格子パターンを有するゴルフボール
法令 特許権
特許法181条2項1回
キーワード 審決39回
進歩性13回
無効11回
実施8回
刊行物4回
無効審判4回
特許権1回
優先権1回
訂正審判1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等 (1) 被告は,平成12年11月16日に国際出願(PCT/US2000/ 031777号,優先権主張:平成11年11月18日 アメリカ合衆 国)され,平成19年3月2日に設定登録された,発明の名称を「管状格 子パターンを有するゴルフボール」とする特許第3924467号(以下 「本件特許」という。設定登録時の請求項の数は10である。)の特許権 者である。

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判決文

平成29年2月8日判決言渡
平成28年(行ケ)第10100号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成28年11月22日
判 決

原 告 X
訴訟代理人弁理士 松 原 等
同 北 濵 壮 太 郎


被 告 キャラウェイ・ゴルフ・カンパニ

訴訟代理人弁護士 服 部 誠
同 中 村 閑
訴訟代理人弁理士 小 林 浩
同 新 井 剛
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2014-800007号事件について平成28年3月22日
にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
(1) 被告は,平成12年11月16日に国際出願(PCT/US2000/

031777号,優先権主張:平成11年11月18日 アメリカ合衆
国)され,平成19年3月2日に設定登録された,発明の名称を「管状格
子パターンを有するゴルフボール」とする特許第3924467号(以下
「本件特許」という。設定登録時の請求項の数は10である。)の特許権
者である。
(2) 原告は,平成22年11月4日,本件特許についての無効審判請求(無
効2010-800200号)をした。
特許庁は,平成23年9月27日,被告の同年6月16日付け訂正請求
に係る訂正を認めず,本件特許を無効とする審決をした。
そこで,被告は,平成24年1月25日,上記審決の取り消しを求める
訴訟(知的財産高等裁判所平成24年(行ケ)第10034号)を提起し
た。
平成24年4月10日,被告が本件特許についての訂正審判請求(訂正
2012-390047号)をしたため,知的財産高等裁判所は,同年6
月25日,平成23年法律第68号による改正前の特許法181条2項に
基づき,上記審決を取り消す旨の決定をした。
その後,被告は,平成24年9月14日付けで本件特許についての訂正
請求をし,その後,平成25年1月11日付け手続補正書及び同年3月1
2日付け手続補正書(方式)により上記訂正請求を補正した(この補正後
の訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。本件訂正後の請求項の数は
8である。 。

特許庁は,平成25年5月9日,本件訂正を認めた上で,無効審判請求
を不成立とする審決をし,同審決はその後確定した。
(3) 原告は,平成26年1月10日,本件特許の特許請求の範囲請求項1
ないし8に記載された発明に係る特許を無効とすることを求める無効審判
請求(無効2014-800007号)をした。

特許庁は,平成26年8月12日,無効審判請求を不成立とする審決を
した。
そこで,原告は,平成26年9月18日,上記審決の取消しを求める訴
訟(知的財産高等裁判所平成26年(行ケ)第10219号)を提起した。
知的財産高等裁判所は,平成27年4月13日,上記審決を取り消す旨
の判決をした。
その後,特許庁は,更に審理を行った結果,平成28年3月22日,
「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」とい
う。)をし,その謄本は,同月31日,原告に送達された。
(4) 原告は,平成28年4月26日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を
提起した。
2 特許請求の範囲の記載
本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである(甲
29,32。以下,各請求項を,請求項の番号に応じて「本件請求項1」など
といい,同請求項に記載された発明を,請求項の番号に応じて「本件発明1」
などという。また,本件訂正後の明細書及び図面を「本件明細書」という。。

【請求項1】
表面を有し,4.06cm~4.32cm(1.60in~1.70in)
の範囲の直径を有する内側球体と,
前記内側球体の表面から延びる格子構造であって,該格子構造は複数の相互
に連結した格子部材からなり,各格子部材は,第1の凹部分と第2の凹部分
と,前記第1の凹部分と第2の凹部分の間に設けられた凸部分を有する曲線の
断面を持ち,前記凸部分は頂部を有し,前記格子部材の底部から前記頂部まで
の距離が0.0127cm~0.0254cm(0.005in~0.010
in)の範囲であり,
前記第1の凹部分と第2の凹部分は0.38cm~0.51cm(0.15

0in~0.200in)の範囲の曲率半径を持ち,前記凸部分は0.07c
m(0.0275in)~0.0889cm(0.0350in)の曲率半径
を持ち,
前記相互に連結された格子部材の頂部はゴルフボールの最外部であり,
前記複数の格子部材は互いに辺を共有して連結された複数の6角形状の領域
と,複数の5角形状の領域とを形成し,前記複数の5角形状の領域は前記複数
の6角形状の領域の一部と互いに辺を共有して連結されている,
ディンプルを伴わないゴルフボール。
【請求項2】
ゴルフボールはポリウレタン材料のカバーを持ち,前記内側球体の直径は
4.24cm(1.67in)以上である請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項3】
ゴルフボールの最外部から0.005cmの範囲の体積は0.03491c
m3未満である請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項4】
ゴルフボールの最外部から0.0102cmの範囲の体積は0.08162
cm3未満である請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項5】
ゴルフボールの最外部から0.0152cmの範囲の体積は0.13784
cm3未満である請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項6】
前記ゴルフボールは,ソリッドコア,中空コア又は流体コアのいずれかを持
つ請求項1乃至5のいずれかに記載のゴルフボール。
【請求項7】
レイノルド数が70,000で回転数が毎分2000回のときの揚力係数が
0.18以上であり,レイノルド数が180,000で回転数が毎分3000

回のときの流体抵抗が0.23未満である請求項1乃至6のいずれかに記載の
ゴルフボール。
【請求項8】
ゴルフボールの表面の全体が複数の相互に連結された格子部材と内側球体に
よって画成されている請求項1乃至7のいずれかに記載のゴルフボール。
3 本件審決の理由の要旨
(1) 本件審決の理由は,別紙審決書写しのとおりであるが,その要旨は,次
のとおりである。
ア 本件発明1は,米国特許第4991852号明細書(甲1。以下「甲1
明細書」という。)記載の発明(以下「甲1発明」という。)と特開昭58
-25180号公報(甲2。以下「甲2公報」という。)記載の事項及び
周知事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
イ 本件発明1は,特開平7-289662号公報(甲10。以下「甲10
公報」という。)記載の発明(以下「甲10発明」という。)と甲2公報記
載の事項及び周知事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえ
ない。
ウ 本件発明2ないし8は,本件発明1を引用するものであるから,本件発
明1と同様に当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
エ 本件請求項1ないし8の記載は明確であるから,本件特許に明確性要件
違反はない。
(2) 本件審決が認定した甲1発明及び甲10発明の内容,本件発明1と甲1
発明及び甲10発明との各一致点・相違点は,以下のとおりである。
ア 甲1発明について
(ア) 甲1発明
「表面を有する球体と,
前記球体の表面から窪んだ格子構造であって,該格子構造は複数の相

互に連結した格子部材からなり,各格子部材は,第1の凹状表面窪みと
第2の凹状表面窪み部分と,前記第1の凹状表面窪み部分と第2の凹状
表面窪み部分との間に設けられた非窪み部分を有する第1及び第2の凹
状表面窪み部分が曲線である断面を持ち,前記非窪み部分は頂部を有し,
各格子部材の底部から前記頂部までの距離が0.002インチ~0.0
14インチの範囲であり,
前記相互に連結された格子部材の頂部はゴルフボールの最外部であり,
前記複数の格子部材は互いに辺を共有して連結された複数の六角形状
の領域を形成している
ディンプルを伴うゴルフボール。」
(イ) 本件発明1と甲1発明の一致点
「表面を有する球体と,
前記球体の表面に形成された格子構造であって,該格子構造は複数の
相互に連結した格子部材からなり,各格子部材は第1の窪み部分と第2
の窪み部分と,前記第1の窪み部分と第2の窪み部分との間に設けられ
た隆起部分を有する第1及び第2の窪み部分が曲線である断面を持ち,
前記隆起部分は頂部を有し,
前記相互に連結された格子部材の頂部はゴルフボールの最外部であり,
前記複数の格子部材は互いに辺を共有して連結された複数の六角形状
の領域を形成している
ゴルフボール。」
(ウ) 本件発明1と甲1発明の相違点
a 相違点1
格子構造について着目すると,本件発明1の格子構造は4.06
cm~4.32cmの範囲を有する内側球体の表面から延びる格子構
造であるのに対し,甲1発明の格子構造は,球体の表面から窪んだ格

子構造である点。
b 相違点2
格子部材の断面に着目すると,本件発明1の格子部材は,第1の
凹部分と第2の凹部分と凸部分を有する曲線の断面を持ち(すなわ
ち,二つの凹部分と凸部分が曲線で形成されている。),格子部材
の底部から前記頂部までの距離が0.0127cm~0.0254
cmの範囲であり,第1の凹部分と第2の凹部分は0.38cm~
0.51cmの範囲の曲率半径を持ち,凸部分は0.07cm~0.
0889cmの曲率半径を持つ,ディンプルを伴わないゴルフボー
ルであるのに対し,甲1発明の格子部材は,第1及び第2の凹状表
面窪み部分が曲線である断面を持ち,各格子部材の底部から前記頂
部までの距離が0.005cm~0.0356cmの範囲であるこ
とは特定されるものの,各部分の曲率半径は不明であり,第1及び
第2の凹状表面窪みと非窪み部分の間は曲線の断面ではない点。
c 相違点3
格子部材の球の表面方向の形状に着目すると,本件発明1の格子部
材は,複数の六角形状の領域と,複数の五角形状の領域とを形成し,
前記複数の五角形状の領域は前記複数の六角形状の領域の一部と互い
に辺を共有して連結されているのに対し,甲1発明の格子部材は複数
の六角形の領域は形成しているものの,五角形状の領域については特
定がない点。
イ 甲10発明について
(ア) 甲10発明
「表面を有する球体と,
前記球体の表面から窪んだ格子構造であって,該格子構造は複数の相
互に連結した格子部材からなり,各格子部材は,第1のディンプルと第

2のディンプルと,前記第1のディンプルと第2のディンプルとの間に
設けられたランドを有する第1及び第2のディンプルが曲線である断面
を持ち,前記ランドは頂部を有し,
前記相互に連結された格子部材の頂部はゴルフボールの最外部であり,
前記複数の格子部材は互いに辺を共有して連結された複数の六角形状
の領域と,複数の五角形状の領域とを形成し,前記複数の五角形状の領
域は前記複数の六角形状の領域の一部と互いに辺を共有して連結されて
いる
ディンプルを伴うゴルフボール。」
(イ) 本件発明1と甲10発明の一致点
「表面を有する球体と,
前記球体の表面に形成された格子構造であって,該格子構造は複数の
相互に連結した格子部材からなり,各格子部材は第1の窪み部分と第2
の窪み部分と,前記第1の窪み部分と第2の窪み部分との間に設けられ
た隆起部分を有する第1及び第2の窪み部分が曲線である断面を持ち,
前記隆起部分は頂部を有し,
前記相互に連結された格子部材の頂部はゴルフボールの最外部であり,
前記複数の格子部材は互いに辺を共有して連結された複数の六角形状
の領域と,複数の五角形状の領域とを形成し,前記複数の五角形状の領
域は前記複数の六角形状の領域の一部と互いに辺を共有して連結されて
いる,
ゴルフボール。」
(ウ) 本件発明1と甲10発明の相違点
a 相違点イ
格子構造について着目すると,本件発明1の格子構造は4.06cm
~4.32cmの範囲を有する内側球体の表面から延びる格子構造であ

るのに対し,甲10発明の格子構造は,球体の表面から窪んだ格子構造
である点。
b 相違点ロ
格子部材の断面に着目すると,本件発明1の格子部材は,第1の凹部
分と第2の凹部分と凸部分を有する曲線の断面を持ち(すなわち,2つ
の凹部分と凸部分が曲線で形成されている),格子部材の底部から頂部
までの距離が0.0127cm~0.0254cmの範囲であり,第1
の凹部分と第2の凹部分は0.38cm~0.51cmの範囲の曲率半
径を持ち,凸部分は0.07cm~0.0889cmの曲率半径を持つ,
ディンプルを伴わないゴルフボールであるのに対し,甲10発明の格子
部材は,第1及び第2のディンプルが曲線である断面を持つことは特定
されるものの,格子部材の底部から頂部までの距離及び各部分の曲率半
径は不明であり,第1及び第2のディンプルとランドの間の断面形状は
明確ではない点。
4 取消事由
(1) 本件発明1について,甲1発明に基づく進歩性判断(相違点2に係る容
易想到性判断)の誤り(取消事由1)
(2) 本件発明1について,甲10発明に基づく進歩性判断(相違点ロに係る
容易想到性判断)の誤り(取消事由2)
(3) 本件発明2ないし8について,甲1発明又は甲10発明に基づく進歩性
判断の誤り(取消事由3)
第3 取消事由に関する当事者の主張
1 原告の主張
(1) 取消事由1(本件発明1について,甲1発明に基づく進歩性判断(相違
点2に係る容易想到性判断)の誤り)
本件審決は,甲1発明との相違点2に係る本件発明1の構成のうち,

「凸部分は0.07cm~0.0889cmの曲率半径を持つ」との構成
(以下「相違点2の凸部分の曲率半径に係る構成」という。)について,
甲3及び4記載のゴルフボールのディンプルとランド(球表面にディン
プルを設けたときにディンプル間に残る陸地部分)の間の箇所(以下,デ
ィン プ ル のあ る ゴル フボ ー ル にお け る当 該箇 所 を 「上 縁 辺部 」と い う
場合 が あ る。 ) は本 件発 明 1 の凸 部 分に 相当 し , 甲8 及 び 9 には 上 縁
辺部 の 曲 率半 径 を0 .0 5 0 8c m ~0 .2 0 3 2c m とし た ゴ ル フ
ボー ル が 記載 さ れて いる が , これ ら のゴ ルフ ボ ー ルに お いて 凸部 分 の
頂部 に 相 当す る 部位 はゴ ル フ ボー ル の外 周部 に あ るた め ,凸 部分 の 曲
率半 径 は ボー ル 半径 に等 し く , 0 . 07 cm ~ 0 .0 8 89 cm の 範
囲に あ る もの で はな い か ら , 甲3 , 4, 8及 び 9 には 凸 部分 の曲 率 半
径を 本 件 発明 1 の数 値範 囲 と する こ との 記載 は な く, こ れら の 記 載 事
項から,相違点2の凸部分の曲率半径に係る構成を当業者が容易に想到し
得たとすることはできない旨判断する。
しかし,以下に述べるとおり,本件審決の上記判断は誤りである。
ア 本 件審 決は , 本 件 発明 1 の 「凸 部分 は 0. 07 cm (0 . 02 7
5in)~0.0889cm(0.0350in)の曲率半径を持
ち」との構成について,凸部分の頂部における曲率半径が上記数値
範囲にあることを意味すると解釈した上で,甲8及び9には凸部分
の頂部における曲率半径を上記数値範囲とすることの記載はないか
ら,その記載から上記構成を容易に想到し得ない旨判断するが,本
件審決が前提とした上記解釈は誤りである。
すなわち,本件発明1の上記構成は,「凸部分は0.07cm
(0.0275in)~0.0889cm(0.0350in)の
曲率半径を持ち」というものであって,「凸部分の曲率半径は0.
07cm(0.0275in)~0.0889cm(0.0350

in)の範囲にある」というものではない。「…の範囲にある」と
の文言であれば,…の範囲を外れる部分があるものを含まないと解
釈するのが自然であるが,「…を持ち」との文言は,…を持ち,か
つ…以外も持つものを含むと解釈するのが自然である。したがって,
本件発明1の「凸部分は0.07cm(0.0275in)~0.
0889cm(0.0350in)の曲率半径を持ち」との構成は,
凸部分の頂部に相当する部分に限らず,凸部分のうちのいずれかの
部分における曲率半径が上記数値範囲を満たせば足りるものである。
そして,このような解釈を前提とすれば,甲8及び9に記載され
たゴルフボールにおいて,その凸部分は,頂部(ランド)において
ボ ー ル 半 径 に 等 し い 曲 率 半 径 を 持 つ と し て も , 上 縁 辺 部 に お い て は,
「0.07cm~0.0889cm」の範囲を含む「0.0508
cm~0.2032cm」の曲率半径を持つのであるから,甲8及
び9には,相違点2の「凸部分は0.07cm~0.0889cm
の曲率半径を持つ」との構成が記載されているものといえる。
他方,甲8及び9のゴルフボールの上縁辺部の曲率半径は,「一
層良く飛び」(甲8の3頁左上欄下から2行),「遠くに飛び」
(甲9の15頁3行)という効果を奏するものであるから,これを
同じく飛距離を大きくすることを課題とする甲1発明に適用するこ
とには動機付けがある。
そうすると,相違点2の凸部分の曲率半径に係る構成は,甲1発明の上
縁辺部に,甲3,4,8及び9記載の上縁辺部の丸みを適用し,特に甲8
及び9の上縁辺部の曲率半径を適用して,上縁辺部において0.0508
cm~0.2032cmの範囲の曲率半径を持つようにすることにより,
当業者が容易に想到し得たものといえる。
したがって,相違点2の凸部分の曲率半径に係る構成について,当業者

が容易に想到し得ないとした本件審決の判断は誤りである。
イ また,仮に,本件発明1の「凸部分は0.07cm(0.0275in)
~0.0889cm(0.0350in)の曲率半径を持ち」との構成に
ついて,凸部分の頂部における曲率半径が上記数値範囲にあることを意味
するとの解釈を採ったとしても,当該構成は,甲3,4,8及び9の記載
事項に加え,甲10,16及び17の記載事項を適用することにより,当
業者が容易に想到し得たものである。
すなわち,甲10には,ディンプルを伴うゴルフボールにおいて,第1
のディンプルと第2のディンプルとの間に設けられたランドの幅を0.0
mmにすることが記載され(段落【0011】 ,また,甲16には,ディ

ンプルを伴うゴルフボールにおいて,ランドのない正弦波状の凸部分が記
載され(4頁右下欄下から5~3行目,第6図),さらに,甲17には,
ディンプルを伴うゴルフボールにおいて,ランド部の面積を小さくすると
空力特性が高くなり,飛距離が伸びることが記載されている(段落【00
02】【0004】。そして,甲1発明も同じく飛距離を大きくすること
, )
を課題とするものであるから,甲1発明に甲10,16及び17の上記記
載事項を適用することには動機付けがある。
そうすると,前記アのとおり甲3,4,8及び9記載の上縁辺部の丸み
を適用し,特に甲8及び9の上縁辺部の曲率半径を適用した甲1発明にお
いて,飛距離を大きくするために,更に甲10,16及び17の上記記載
事項を適用し,以下の図に示すように,ランドの幅をできるだけ細くして
下限値であるゼロとすることは,当業者にとって容易になし得ることであ
り,これにより,凸部分の頂部における曲率半径は甲8及び9記載の曲率
半径の範囲のものとなる。


したがって,相違点2の凸部分の曲率半径に係る構成について,当業者
が容易に想到し得ないとした本件審決の判断は誤りである。
ウ 小括
以上のとおり,本件審決は,相違点2についての容易想到性の判断を誤
り,その結果,本件発明1について,甲1発明に基づく進歩性判断を誤っ
たものであるから,取り消されるべきである。
(2) 取消事由2(本件発明1について,甲10発明に基づく進歩性判断(相
違点ロに係る容易想到性判断)の誤り)
本件審決は,甲10発明との相違点ロに係る本件発明1の構成のうち,
「凸部分は0.07cm~0.0889cmの曲率半径を持つ」との構成
について,甲1発明との相違点2に係る本件発明1の構成についての判断
と同様の理由により,甲3,4,8及び9の記載事項から当業者が容易
に想到し得たとすることはできない旨判断する。
しかし,上記(1)で述べたのと同様の理由により,本件審決の上記判
断は誤りであるから,本件審決は取り消されるべきである。
(3) 取消事由3(本件発明2ないし8について,甲1発明又は甲10発明に
基づく進歩性判断の誤り)
本件審決は,本件発明2ないし8について,本件発明1を引用するも
ので あ る から , 本 件 発明 1 と 同様 に 当 業 者が 容 易 に発 明 す る こと がで
きたものとはいえない旨判断する。
しかし,上記(1)及び(2)で述べたとおり,本件発明1について当業者
が容 易に 発明 でき た もの とは いえ ない と した 本件 審決 の判 断 は誤 りで

ある から ,本 件発 明 2な いし 8に つい て の本 件審 決の 判断 は その 前提
において誤りである。
したがって,本件審決は取り消されるべきである。
2 被告の主張
(1) 取消事由1(本件発明1について,甲1発明に基づく進歩性判断(相違
点2に係る容易想到性判断)の誤り)に対し
ア 原告は,相違点2の凸部分の曲率半径に係る構成は,甲1発明の上縁
辺部に,①甲3,4,8及び9記載の上縁辺部の丸みを適用し,更
に,②甲8及び9の上縁辺部の曲率半径を適用して,上縁辺部にお
いて0.0508cm~0.2032cmの範囲の曲率半径を持つ
ようにすることにより,当業者が容易に想到し得たものといえる旨
主張する。
しかし,以下に述べるとおり,原告の上記主張は誤りである。
(ア) 原告の上記主張は,上記①の段階で,甲1発明に周知技術を適
用し,これにより得られた発明に,上記②の段階において,甲8及
び9に記載された発明を適用することを主張するものと解される。
しかし,特許無効理由として,刊行物に記載された引用発明に周
知技術を適用して容易に得ることができる発明に,更に別の刊行物
に記載された発明を適用することによって,発明を容易に想到する
ことができると主張することは,いわゆる「容易の容易」の主張で
あって,主張自体失当というべきである。
(イ) また,原告は,本件発明1の「凸部分は0.07cm(0.0
2 7 5 i n ) ~ 0 . 0 8 8 9 c m ( 0 . 0 3 5 0 i n ) の 曲 率半
径 を 持 ち 」 と の 構 成 に お け る 「 持 ち 」 の 意 義 に つ い て , 「 … を持
ち 且 つ … 以 外 も 持 つ も の を 含 む 」 と 解 釈 す る こ と を 前 提 と し た上
で,甲8及び9には当該構成が記載されている旨主張する。

しかし,特許請求の範囲において,特定の数値を持つことを規定した
にもかかわらず,当該特定の数値のほかに,それ以外の数値を持つもの
を含むと解釈すると,当該特定の数値範囲を規定した意味が失われるこ
とになるから,このような解釈は不合理である。そして,このような解
釈が許容される場合があるとすれば,特許請求の範囲又は明細書に,そ
れを明示ないし示唆する記載がある場合に限られるところ,本件特許の
特許請求の範囲及び本件明細書には,凸部分が当該数値に該当しない数
値の曲率半径を持つものを含むことを明示ないし示唆する記載は一切な
い。かえって,本件明細書の段落【0052】に,凸部分の曲率半径の
数値に関して,「各格子部材40の凸面部56の半径R2は好ましくは
0.0275から0.0350インチの範囲である」と記載されている
ことからすれば,これに対応する特許請求の範囲の文言である「前記凸
部分は0.07cm(0.0275in)~0.0889cm(0.0
350in)の曲率半径を持ち」の「持ち」については,「範囲であ
る」と同旨であると理解すべきである。
したがって,本件発明1の「凸部分は0.07cm(0.0275i
n)~0.0889cm(0.0350in)の曲率半径を持ち」との
構成についての原告の上記解釈は誤りであり,これを前提として,甲8
及び9には当該構成が記載されているとする原告の主張も誤りである。
(ウ) さらに,以下に述べるとおり,甲1発明に,甲3,4,8及び9記
載の上縁辺部の丸みを適用する動機付けが存在しないことは明らかであ
る。
すなわち,甲1明細書の記載によれば,甲1発明は,従来のゴルフボ
ールでは,パッティングとドライビングにおいて,ボールの運動ライン
(方向)がクラブヘッドの動きのライン(方向)に関して不正確である
という課題,特に,ボールに作用するクラブヘッドの力が小さく,クラ

ブの接触力へのボール表面抵抗領域が小さくなるパッティングにおいて,
ボール表面接触領域抵抗の中心がディンプルのエッジ端部に作用するこ
とで,クラブの運動方向とボールの運動方向のずれを生むという課題が
あったことを踏まえ,この課題を解決するために,クラブのスイングの
軌道の中心に対し,ボールの軌道の偏りを抑制することで,飛距離のロ
スを抑えつつ,正確なパッティング及びドライビングを可能とすること
を目的とし,当該目的を,812個の凹んだ六角形表面窪みを規則的な
測地学の9周期20面体パターンでボール表面に形成し,各窪みを所定
の直径と深さとすることにより達成した発明である。
これに対し,甲3には,飛距離と打球感の両方について良好な特性を
得ることを課題とし,質量を従来のゴルフボールより軽い範囲に設定し
つつ,この質量減少に伴う飛距離の低下を,ゴルフボールの仮想球(ゴ
ルフボールの球状表面に全くディンプルがないと仮定した球体)の表面
積に対するディンプル面積の総和の割合を70%以上に設定し,ディン
プルの揚力発生効果を助長して補償することにより,上記課題を解決す
ることが記載されている(段落【0043】。このように,甲1発明が,

飛距離のロスを抑えつつ,正確なパッティング及びドライビングを可能
とすることを目的とするものであるのに対し,甲3は,飛距離と打球感
の両方について良好な特性を得ることを課題とするものであり,両者は,
解決すべき課題(目的)が異なるものであるから,甲1発明に,甲3記
載の上縁辺部の丸みを適用する動機付けは存在しない。
次に,甲4には,高速領域から低速領域に至るまでのゴルフボールの
実使用範囲において,抗力を極小化しつつ,揚力を最適化することを目
的として,複数種類のディンプルを配設し,ディンプルによって包囲さ
れた陸地部を,当該ディンプルの平均面積以上の面積を有する新たなデ
ィンプルが形成できない大きさとすることにより,高速領域においては

容積の小さいディンプルが効用を発揮し,低速領域においては容積の大
きいディンプルが効用を発揮することが記載されている(3頁右上欄~
左下欄)。このように,甲4は,ゴルフボールが飛行中の高速から低速
領域までの抗力,揚力を最適化することを目的とするものであり,上述
した甲1発明とは,その目的が異なるものであるから,甲1発明に,甲
4記載の上縁辺部の丸みを適用する動機付けは存在しない。
また,甲8には,飛距離の向上を目的として,ディンプルの凹みを広
くかつ浅くし,凹みの縁部の曲率半径を所定の値とすることが記載され
ている(208頁左上欄)。他方,甲1発明は,飛距離の向上を目的と
するものではなく,むしろ,正確なパッティング及びドライビングを可
能とすることを主目的とするものであって,両者はその目的が異なるも
のであるから,甲1発明に,甲8記載の上縁辺部の丸みを適用する動機
付けは存在しない。
さらに,甲9には,飛程の増大,自浄性(泥が付着しにくく付着して
も落ちやすい)の改善,製造上の利点等を目的として,ディンプルの径,
深さ及び縁の曲率半径を所定の値とすることが記載されている(3~8
頁)。他方,甲1発明は,自浄性や製造上の利点を目的とせず,かつ,
飛距離の向上を目的とするものでもなく,両者はその目的が異なるもの
であるから,甲1発明に,甲9記載の上縁辺部の丸みを適用する動機付
けは存在しない。
以上のとおりであるから,甲1発明に,甲3,4,8及び9記載の上
縁辺部の丸みを適用する動機付けが存在しないことは明らかである。
(エ) 以上によれば,原告の前記主張に理由がないことは明らかである。
イ さらに,原告は,本件発明1の「凸部分は0.07cm(0.0275
in)~0.0889cm(0.0350in)の曲率半径を持ち」との
構成について,凸部分の頂部における曲率半径が上記数値範囲にあること

を意味するとの解釈を採ったとしても,当該構成は,甲1発明の上縁辺部
に,①甲3,4,8及び9記載の上縁辺部の丸みを適用し,更に,②甲8
及び甲9記載の上縁辺部の曲率半径を適用し,更に,③甲10,16及び
17の記載事項を適用して,ランドの幅をできるだけ細くし,下限値であ
るゼロとすることにより,当業者が容易になし得ることである旨主張する。
しかし,以下に述べるとおり,原告の上記主張も誤りである。
(ア) 原告の上記主張は,特許無効理由として,刊行物に記載された
引用発明に周知技術を適用して容易に得ることができる発明に ,更
に別の刊行物に記載された発明を適用することによって ,発明を容
易に想到することができることを主張するものであるから,前記ア
(ア)で述べたとおり,そもそも主張自体失当というべきである。
しかも,原告の上記主張は,3つもの段階を経て本件発明1の構成に
想到することを主張するものであり,格別な努力を要し,当業者にとっ
て容易でないことは自明である。
(イ) 甲1発明に,甲3,4,8及び9記載の上縁辺部の丸みを適用する
動機付けが存在しないことは,前記ア(ウ)で述べたとおりである。
そして,甲1発明に,上縁辺部の丸みを適用する動機付けがない以上,
甲8及び9記載の上縁辺部の曲率半径を組み合わせることもできない。
(ウ) また,甲3,4,8及び9記載の上縁辺部の丸み並びに甲8及び9
記載の上縁辺部の曲率半径を適用した甲1発明に,更に甲10,16及
び17の記載(ランド幅をゼロにすること)を適用する動機付けは存在
しない。
むしろ,甲1明細書には,ディンプルの径の大きさに比例してボール
の軌道の偏りが大きくなることが試験結果をもって示されている(甲1
訳文9頁)のであるから,甲1明細書に接した当業者が,ディンプルの
径を大きくする技術,すなわちランド幅をゼロにする技術を適用するこ

とには,阻害要因があるというべきである。
(エ) さらに,仮に,原告の主張する3つの段階を経たとしても,本件発
明1の構成に至ることは容易とはいえない。すなわち,甲1発明におい
て,上記①及び②の段階を経て,上記③の段階でランド幅をゼロにする
と,②の段階で適用した曲率半径の値のみならず,本件発明1に係る特
許請求の範囲で特定されている他の値(内側球体の直径,格子部材の底
部から頂部までの距離,第1の凹部分と第2の凹部分の曲率半径に対応
する甲1発明の値)にも影響を与え,これらの値がランド幅をゼロにし
たことに連動して変動することになるから,これらの値を本件発明1の
各数値範囲に設定しようとすれば,本件発明1のゴルフボールを一から
設計することと同じになる。
(オ) 以上によれば,原告の前記主張に理由がないことは明らかである。
ウ したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。
(2) 取消事由2(本件発明1について,甲10発明に基づく進歩性判断(相
違点ロに係る容易想到性判断)の誤り)に対し
ア 原告主張の取消事由2は,甲1発明を甲10発明とするほかは,いずれ
も,取消事由1についての主張と同様であるから,その誤りについては,
上記(1)で取消事由1について述べたことがほぼそのまま当てはまる。
イ ただし,甲10発明に,甲3,4,8及び9記載の上縁辺部の丸みを適
用する動機付けが存在しないことについては,以下のとおりである。
すなわち,甲10公報の記載によれば,甲10発明は,直進性,方向性,
コントロール性,安定性及び飛距離性を向上させることを目的として,デ
ィンプルを所定の配設としたゴルフボールを提供する発明である。
これに対し,甲3には,飛距離と打球感の両方について良好な特性を得
ることを課題とし,質量を従来のゴルフボールより軽い範囲に設定しつつ,
この質量減少に伴う飛距離の低下を,ゴルフボールの仮想球の表面積に対

するディンプル面積の総和の割合を70%以上に設定し,ディンプルの揚
力発生効果を助長することにより補償することにより,上記課題を解決す
ることが記載されている(段落【0043】。このように,甲10発明は,

直進性,方向性,コントロール性,安定性及び飛距離性を向上させること
を目的とするものであるのに対し,甲3は,飛距離と打球感の両方につい
て良好な特性を得ることを課題とするものであり,両者は,解決すべき課
題(目的)が異なるものであるから,甲10発明に,甲3記載の上縁辺部
の丸みを適用する動機付けは存在しない。
次に,甲4には,高速領域から低速領域に至るまでのゴルフボールの実
使用範囲において,抗力を極小化しつつ,揚力を最適化することを目的と
して,複数種類のディンプルを配設し,ディンプルによって包囲された陸
地部を,当該ディンプルの平均面積以上の面積を有する新たなディンプル
が形成できない大きさとすることにより,高速領域においては容積の小さ
いディンプルが効用を発揮し,低速領域においては容積の大きいディンプ
ルが効用を発揮することが記載されている(3頁右上欄~左下欄)。この
ように,甲4の目的は飛距離の増大のみであるのに対し,甲10発明は,
直進性,方向性,コントロール性,安定性をも目的とするものであり,両
者は,その目的が異なるものであるから,甲10発明に,甲4記載の上縁
辺部の丸みを適用する動機付けは存在しない。
また,甲8には,飛距離の向上を目的として,ディンプルの凹みを広く
かつ浅くし,凹みの縁部の曲率半径を所定の値とすることが記載されてい
る(208頁左上欄)。他方,甲10発明において,飛距離は多数の目的
の一つとされているにすぎず,むしろ,甲10発明は,飛距離のみならず,
直進性,方向性,コントロール性,安定性をも重視したゴルフボールの提
供を目的とするのであって,甲8とは目的が異なるものであるから,甲1
0発明に,甲8記載の上縁辺部の丸みを適用する動機付けは存在しない。

さらに,甲9には,飛程の増大,自浄性(泥が付着しにくく付着しても
落ちやすい)の改善,製造上の利点等を目的として,ディンプルの径,深
さ及び縁の曲率半径を所定の値とすることが記載されている(3~8頁)。
他方,甲10発明は,自浄性や製造上の利点を目的とせず,かつ,飛距離
の向上のみを目的とするものでもなく,両者はその目的が異なるものであ
るから,甲10発明に,甲9記載の上縁辺部の丸みを適用する動機付けは
存在しない。
以上のとおりであるから,甲10発明に,甲3,4,8及び9記載の上
縁辺部の丸みを適用する動機付けが存在しないことは明らかである。
(3) 取消事由3(本件発明2ないし8について,甲1発明又は甲10発明に
基づく進歩性判断の誤り)に対し
原告は,本件発明2ないし8について,本件発明1と同様に当業者が
容易 に 発 明す る こ と がで き た もの と は い えな い と した 本 件 審 決の 判断
につ い て ,本 件 発 明 1に つ い て当 業 者 が 容易 に 発 明で き る も のと はい
えないとした前提において誤りである旨主張する。
しか し , 本件 発 明 1 につ い て の本 件 審 決 の判 断 に 誤り が な い こと は ,
上記(1)及び(2)で述べたとおりであるから, 原告主張の取消事由3は理
由がない。
第4 当裁判所の判断
1 本件発明1について
(1) 本件請求項1の記載は前記第2の2のとおりである。
また,本件明細書(甲29,32)の発明の詳細な説明には,次のような
記載がある(以下に引用する図面のうち,図1,図4A,図8,図14及び
図15については別紙参照)。
ア 技術分野
本発明は,ゴルフボールの空気力学的表面パターンに関する。特に,本

発明は格子構造と内側球体を有するゴルフボールに関する。(段落【00
01】)
イ 背景技術
一般の使用者に好意をもって受け入れられている伝統的なゴルフボール
は,円形の断面を有する複数のディンプルを有する球体である。この伝統
的なものを打破する多くのゴルフボールが開示されたが,これらの伝統的
でないゴルフボールの大部分は商業的には成功しなかった。(段落【00
04】)
これらの伝統的でないゴルフボールの大部分はいまだに米国ゴルフ協会
(“USGA”)及びセントアンドリウスロイヤルエイシャントゴルフクラ
ブ(“R&A”)のゴルフ規則に固執しようとしている。このゴルフ規則の
付則Ⅲに規定されるように,ボールの重量は1.620オンスアバダポイ
ズ(avdp)を(45.93g)超えてはならず,ボールの直径は1.
680インチ(42.67mm)より小さくなく,温度23±1℃で行わ
れるテストで,ランダムの場所から選択された100個のうちから25個
以下のボールが1.680インチのリングゲージを通過し,球対称のボー
ルと異なる特性を持つように意図的に改変されたものでないものとされて
いる。(段落【0005】)
先行技術はゴルフボールの表面について多くの変形例を提供している
が,低速において空気の境界層を捕捉する一方,高速時には空気抵抗を少
なくするために必要とする最小の体積の表面を持つゴルフボールに対する
要求が残されている。(段落【0020】)
ウ 発明の開示
本発明はUSGAの要件を満たすゴルフボールを提供し,より大きな距
離を得るための必要な乱流を生じさせるため,飛行中にゴルフボールの周
りを取り囲む空気の境界層を捕捉する最小のランド領域を提供することを

可能とする(段落【0021】。

本発明は,ゴルフボールに,内側球体の表面の管状格子パターンを与え
ることによりこれを達成することを可能にしている(段落【0022】。

本発明の一つの態様は,表面を有する内側球体と外側球体を画定する複
数の格子部材を有するゴルフボールである。各格子部材は外側球体を画定
するゴルフボールの中心から最も離れた点において頂部を有する隆起した
断面形状を持つ。複数の格子部材はゴルフボール上に所定のパターンを形
成するように互いに連結されている。(段落【0023】)
ゴルフボール上の複数の格子部材は内側球体表面の20%から80%を
カバーしている。複数の格子部材の各々の頂部は0.00001インチよ
り小さい幅を有している。内側球体の直径は少なくとも1.67インチで
あり,連結された複数の格子部材の頂部の高さは内側球体の表面から少な
くとも0.005インチである。ゴルフボールは内側球体上に複数の円滑
な部分を有し,その円滑な部分と複数の格子部材は内側球体の全体の表面
をカバーしている。(段落【0024】)
エ 発明を実施するためのベストモード
図1-4に示されるように,ゴルフボールは全体として20で示されて
いる(段落【0045】。

ゴルフボール20は内側球体表面22を有する球体21を持っている。
ゴルフボール20は,また,第1の半球26と第2の半球28に分ける赤
道24を有している。第1の極30は第1の半球26の赤道24から経線
の円弧に沿って90度の点に位置している。第2の極32は,第2の半球
28の赤道24から経線の円弧に沿って90度の点に位置している。(段
落【0046】)
内側球体21の表面22に下がるように複数の格子部材40が存在す
る。好ましい実施例において,格子部材40は管状である。しかしなが

ら,当業者であれば格子部材40は他の同様な形状でもよいことは理解で
きるであろう。格子部材は互いに連結されていて,内側球体の表面上に格
子構造42を形成している。連結された格子部材40は内側球体21の表
面22を区画された領域を囲む複数の多角形を形成している。これらの区
画された連結された領域44の大部分は六角形の連結された領域44a
で,いくつかの五角形の連結された領域44b,いくつかの八角形連結さ
れた領域44及びいくつかの四辺形の連結された領域44dを伴ってい
る。図1-4の実施例においては,380個の多角形が存在している。好
ましい実施例では,複数の格子部材40の各々は少なくとも他の格子部材
と連結している。各格子部材40は頂部46において少なくとも二つの他
の格子部材と対面している。頂部46の大部分は三つの格子部材40と一
致している。しかしながら,いくつかの頂部46aは四つの格子部材と一
致している。これらの頂部46a はゴルフボールの赤道に位置している。
各格子部材の高さは0.005-0.01インチの範囲であり,これによ
り,少なくとも1.68インチの外側球体を画定している。(段落【00
47】)
本発明の好ましい実施例は,複数の格子構造40の各ラインだけが1.
68インチの球体の面に存在するため,ランド領域をほとんどゼロに減少
している。より,特定的には,伝統的なゴルフボールのランド領域は,U
SGAとR&Aに適合するゴルフボールのために少なくとも1.68イン
チの球体を形成している。このランド領域は,伝統的なゴルフボールの球
体の表面に凹まされたディンプルによって最小にされ,この結果,ゴルフ
ボールの表面のディンプルのないランド領域をもたらしている。しかしな
がら,本発明によるゴルフボール20は,ゴルフボール20の外側球体の
ランド領域を画定する各格子部材40の頂部50ラインだけを有してい
る。(段落【0048】)

在来のゴルフボールは飛んでいるゴルフボールの表面の境界層をディン
プルが捕捉し,より大きい浮揚と流体抵抗を抑制するように設計されてい
る。本発明のゴルフボール20は飛んでいるゴルフボール20の表面の周
りに空気の境界層を捕捉する管状格子構造を有する。(段落【0049】)
図4Aに示されるように,線45で示される1.68インチの外側球体
は格子部材40と内側球体21を包囲している。各格子部材の底から頂部
50まで測定された格子構造42の体積は1.68インチの外側球体と内
側球体21の間の小さい体積である。好ましい実施例においては,頂部5
0は1.68インチの外側球体上にある。したがって,ゴルフボール20
の全体表面の90%以上,95%近くは1.68インチ外側球体より下方
にある。(段落【0050】)
図5及び6に示された格子部材40の断面は円形であるが,複数の格子
部材40の好ましい断面が図7及び8に示されている。この好ましい断面
は,第1の凹面部54と,凸面部56と,第2の凹面部58を有する湾曲
面52を有している。各格子部材40の凸面部56の半径R 2は好ましく
は0.0275から0.0350インチの範囲である。第1及び第2の凹
面部54,58の半径R 1は好ましくは0.150から0.200インチ
であり,最も好ましくは,0.175インチである。R ball は内側球体
の半径で,好ましくは0.831インチである。R OS は外側球体の半径
で好ましくは1.68である。(段落【0052】)
本発明による管状の格子パターンの空気力学は,より大きな揚力と少な
い空気抵抗を与え,これにより在来の同様な構成のゴルフボールより大き
な距離を飛ぶゴルフボールとなる(段落【0063】。

図14は本発明のゴルフボール20の表面の拡大図であり,ゴルフボー
ル20の外側球体の最大の範囲から所定の距離の小さい体積を示している。
より特定的には,ゴルフボール20の実施例の最も大きい範囲は,1.6

8インチの直径の球体面(線45で示される)上に位置する格子部材40
の頂部50である。当業者であれば,他の実施例として,頂部50は,1.
70インチ,1.72インチ,1.64インチ,及び1.60インチの球
面上,又はゴルフボール20の最大の直径の種々の直径の球面上に位置す
るようにすることができることが理解できるであろう。ゴルフボール20
の最大の範囲が決定されるため,本発明はこの最大のものから内側球体2
2に向けて小さい体積を持つようになる。例えば,線130はゴルフボー
ル20の最大範囲から0.002インチの距離の点(中心から半径0.8
39インチ)で格子部材40と交差する。最も大きい球面45と球面13
0の間の本発明のゴルフボールの体積はたったの0.0008134立方
インチである。換言すれば,ゴルフボール20の外側0.002インチ
(半径0.841と0.839の間)の体積は0.0008134立方イ
ンチである。(段落【0066】)
図15はランド区域144によって囲まれた在来のディンプル142を
有する先行技術のゴルフボール140の表面を示している。ランド区域1
44は先行技術のゴルフボール140の最大範囲を示している。本発明の
ゴルフボール20と比較するため,先行技術のゴルフボール140の最大
範囲144と球面130’の間の体積は0.00213立方インチである。
本発明のゴルフボール20において,0.004インチ,0.006イン
チ,0.008インチにおけるそれぞれの球面132,134,136は,
0.0023074立方インチ,0.0042164立方インチ,0.0
065404立方インチの体積をそれぞれ有している。一方,先行技術1
40におけるゴルフボール140の,0.004インチ,0.006イン
チ,0.008インチにおけるそれぞれの球面132’,134’,13
6’の体積は,0.00498立方インチ,0.00841立方インチ,
0.01238立方インチである。(段落【0067】)

本発明のゴルフボール20はゴルフボール20の最大範囲から所定の距
離において小さい体積を有する。この小さい体積は低速時において空気境
界層を捕捉するに必要とされる最小の量であり,一方,高速時において低
い空気抵抗を与える。(段落【0068】)
(2) 以上によれば,本件明細書には,本件発明1について,先行技術がゴル
フボールの表面について多くの変形例を提供しているものの,低速において
空気の境界層を捕捉する一方,高速時には空気抵抗を少なくするために必要
とする最小の体積の表面を持つゴルフボールに対する要求が残されている
(段落【0020】)との課題を解決するために,米国ゴルフ協会(USG
A)の要件を満たすゴルフボールを提供し,より大きな距離を得るための必
要な乱流を生じさせるため,飛行中にゴルフボールの周りを取り囲む空気の
境界層を捕捉する最小のランド領域を提供することを可能とすることを目的
とし(段落【0021】,当該目的を,ゴルフボールに,内側球体の表面の

管状格子パターン,すなわち,本件請求項1記載の構成を有する複数の相互
に連結した格子部材からなる格子構造を与えることにより達成した発明であ
ること(本件請求項1,段落【0022】)が開示されているものと認めら
れる。
2 取消事由1(本件発明1について,甲1発明に基づく進歩性判断(相違点2
に係る容易想到性判断)の誤り)について
(1) 甲3,4,8,9,10,16及び17には,次のような事項が記載さ
れていることが認められる。
ア 甲3(特開平4-314462号公報)
甲3には,表面にディンプルを有するゴルフボールが記載されており,
段落【0013】には,ディンプルの深さが0.1mm~0.2mmの
範囲であることが記載され,【図2】には,ディンプルの外端縁に丸み
をつけたものが記載されている。

イ 甲4(特開昭62-192181号公報)
甲4には,ボール球面上に複数種類のディンプルが配設されたゴルフボ
ールが記載されており,5頁の第1表及び6頁の第2表には,ディンプル
の深さが,0.18mm~0.33mmの範囲であるものが記載され,第
11図及び第12図には,ディンプルエッジ6とボール仮想球面8が接す
る箇所の近傍を曲面としたものが記載されている。
ウ 甲8(特開昭48-63835号公報)
甲8には,表面に多数の凹みを含むゴルフボールに関し,「凹みの縁
部の曲率が約0.020~0.080インチ(0.508~2.032
mm)であるなら,ゴルフボールは尚一層良く飛ぶことを見出した」
(2頁左上欄)ことが記載され,凹み20と周縁14との間の上縁部が
丸みづけられ,その丸みづけ上縁部の曲率半径が約0.020~0.0
80インチ(0.508~2.032mm)であるゴルフボールが記載
されている(3頁左上欄,第2図,第3図。図面については別紙参照)。
エ 甲9(実願昭53-60965号(実開昭53-60965号)のマイ
クロフィルム)
甲9には,ゴルフボールのディンプル形態に関し,「ディンプルの縁の
曲率半径が0.020~0.080インチであるなら,多くの場合上述し
た利点(判決注:ボールの飛程の増大,自浄性質の改善,幾つかの製造上
の利益などを意味する。)は一層向上されることが見出された」(8頁)
ことが記載され,ディンプル20と周辺14との間の上縁辺部が丸みづけ
られ,その丸みづけられた上縁辺部の曲率半径が約0.020~0.08
0インチであるゴルフボールが記載されている(14頁,第2図,第3図。
図面については別紙参照)。
オ 甲10公報
甲10公報には,ディンプルを伴うゴルフボールにおいて,ランドの

幅を0.0~2.5mm位の範囲で適宜設定できること(段落【001
1】)が記載されている。
カ 甲16(特開昭53-115330号公報)
甲16には,ディンプルを伴うゴルフボールにおいて,表面の断面が
正弦波状のもの(凸部分の頂部が曲面であるもの。4頁右下欄,第6図)
が記載されている。
キ 甲17(特開平4-347177号公報)
甲17には,ディンプルを伴うゴルフボールにおいて,ランド部の面
積を小さくすると,空気特性が高くなり,飛距離が伸びること(段落
【0002】,段落【0004】)が記載されている。
(2) 甲8及び9には,相違点2の「凸部分は0.07cm~0.0889c
mの曲率半径を持つ」との構成が記載されている旨の原告の主張(前記第
3の1(1)ア)について
原告は,本件発明1の「凸部分は0.07cm(0.0275in)
~0 . 0 88 9 cm (0 . 0 35 0 in ) の 曲 率 半径 を 持ち 」と の 構
成に つ い て, 凸 部分 の頂 部 に 相当 す る部 分に 限 ら ず, 凸 部分 のう ち の
いず れ か の部 分 にお ける 曲 率 半径 が 上記 数値 範 囲 を満 た せば 足り る と
の 解 釈を 採 った 上で ,甲 8及 び 9に は当 該構 成が 記 載さ れて いる から ,
甲1発明と甲3,4,8及び9の記載事項に基づいて,当業者は相違点2
に係る凸部分の曲率半径に係る構成を容易に想到し得た旨主張するので,
以下,その当否について検討する。
ア 本件発明1の「凸部分は0.07cm(0.0275in)~0.0
889cm(0.0350in)の曲率半径を持ち」の意義について
(ア) 本件請求項1の記載によれば,本件発明1の「凸部分は0.07c
m(0.0275in)~0.0889cm(0.0350in)の曲
率半径を持ち」との構成は,ゴルフボールの「表面から延びる格子構造」

を成す「格子部材」について,「第1の凹部分と第2の凹部分の間に設
けられた」「頂部を有」する部分である「凸部分」の「曲線の断面」が,
上記数値範囲の曲率半径を有することを特定するものといえるところ,
その断面が上記数値範囲の曲率半径を有すべき「凸部分」の範囲(頂部
に相当する部分か,頂部を含まない部分でも足りるか。)については,
本件請求項1の記載自体から一義的に明らかであるとはいえない。
そこで,この点については,本件明細書の記載を考慮して解釈する必
要がある。
(イ) まず,本件明細書において,凸部分に求められる曲率半径の数値に
ついて述べた記載としては,段落【 0 0 5 2 】 に , 「 … 複 数 の 格 子
部材40の好ましい断面が図7及び8に示されている。この好まし
い断面は,第1の凹面部54と,凸面部56と,第2の凹面部58
を有する湾曲面52を有している。各格子部材40の凸面部56の
半径R 2 は好ましくは0.0275から0.0350インチの範囲
である。」との記載があり,他にこの点に言及する記載はない。
しかるところ,段落【0052】の上記記載及び同記載に係る図
8によれば,凸面部56の頂部を含む湾曲面について,本件請求項
1と同一の「0.0275から0.0350インチの範囲 」の曲率
半径とするものとされている。
(ウ) また,以下に述べるような本件明細書の記載を総合すれば,本
件発明1において凸部分の曲率半径を上記数値範囲と特定すること
には,次のような技術的意義があることが理解できる。
すなわち,本件発明1においては,「各格子部材は外側球体を画
定するゴルフボールの中心から最も離れた点において頂部を有する
隆起した断面形状を持つ」(段落【0023】)ものとすることで,
「複数の格子部材の各々の頂部は0.00001インチより小さい

幅を有し」(段落【0024】),「本発明のゴルフボール20は,
ゴルフボール20の外側球体のランド領域を画定する各格子部材4
0の頂部50ラインだけを有している 」(段落【0048】)もの
となり,その結果,「本発明による管状の格子パターンの空気力学
は,より大きな揚力と少ない空気抵抗を与え ,これにより在来の同
様な構成のゴルフボールより大きな距離を飛ぶゴルフボールとな」
り(段落【0063】),「本発明のゴルフボール20はゴルフボ
ール20の最大範囲から所定の距離において小さい体積を有する。
この小さい体積は低速時において空気境界層を捕捉するに必要とさ
れる最小の量であり,一方,高速時において低い空気抵抗を与える」
(段落【0068】) こととな って,前記1(2)のとおりの本件発
明1の目的(より大きな距離を得るための必要な乱流を生じさせる
ため,飛行中にゴルフボールの周りを取り囲む空気 の境界層を捕捉
する最小のランド領域を提供することを可能とすること)を達成す
るものであることが理解できる。そして,本件請求項1及び本件明
細書の上記(イ)の記載においては,上記格子部材に係る「外側球体
を画定するゴルフボールの中心から最も離れた点において頂部を有
する隆起した断面形状」を具体的に特定するものとして,凸部分の
曲率半径を上記数値範囲にすることが特定されているものといえる。
以上のような本件発明1の技術的意義に係る理解及び本件明細書
の前記(イ)の記載を前提とすれば,本件発明1において,その断面
が 上記数値範囲の曲率半径を有すべき「凸部分」とは,ゴルフボール
の外側球体のランド領域を画定する頂部に相当する部分であると解
するのが相当である。
(エ ) こ れ に 対し , 原 告は , 本 件 発明 1 の 「凸 部 分 は 0. 0 7 cm
(0.0275in)~0.0889cm(0.0350in)の

曲率半径を持ち」との構成における「…を持ち」との文言は,…を
持ち,かつ…以外も持つものを含むと解釈するのが自然であるから,
上記構成は,凸部分のうち,頂部に限らない ,いずれかの部分の曲
率半径が上記数値範囲を満たせば足りるものである旨主張する。
しかし,前記(ア)で述べたとおり,本件請求項1の記載によれば,
本件発明1の上記構成は,「第1の凹部分と第2の凹部分の間に設け
られた」「頂部を有」する部分である「凸部分」の「曲線の断面」が,
上記数値範囲の曲率半径を有することを特定するものであることは明ら
かであるものの,その断面が上記数値範囲の曲率半径を有すべき「凸部
分」の範囲(頂部に相当する部分か,頂部を含まない部分でも足りる
か。)については,本件請求項1の記載自体から一義的に明らかである
とはいえないというべきであり,このことは,「…を持ち」との文言
の一般的な解釈が原告主張のとおりであったとしても,異なるもので
はない。そして,本件明細書の記載やそこから理解される凸部分の曲
率半径を特定することの技術的意義に鑑みれば,上記(ウ)のとおり
の解釈が相当であることは,既に述べたとおりである。
したがって,専ら上記「…を持ち」の文言を根拠とする原告の上
記主張は,上記(ウ)の解釈を左右するものとはいえない。
(オ) 以上によれば,本件発明1の「凸部分は0.07cm(0.027
5in)~0.0889cm(0.0350in)の曲率半径を持ち」
との構成は,凸部分の頂部に相当する部分における曲率半径が上記数値
範囲にあることを意味するものと解するのが相当である。
イ 甲8及び9の記載について
前記(1)ウ及びエのとおり,甲8及び9には,ディンプルを有するゴル
フボールにおいて,ディンプル(凹み)20と周縁(周辺)14との間
の上縁部(上縁辺部)が丸みづけられ,その丸みづけられた上縁部(上

縁辺部)の曲率半径が,本件発明1の凸部分の曲率半径である「0.0
7cm(0.0275in)~0.0889cm(0.0350in)」
の範囲を含む「約0.020~0.080インチ」であるものが記載さ
れている。
しかし,甲8及び9記載のゴルフボールにおいて,本件発明1の「第
1の凹部分と第2の凹部分の間に設けられた凸部分」に相当する部位は,
上記丸みづけられた上縁部(上縁辺部)から周縁(周辺)14を経て隣
接するディンプル(凹み)20の上縁部(上縁辺部)に至る部位であり,
このうち,本件発明1における「ゴルフボールの最外部」である「頂部」
に相当する部位は,上記上縁部(上縁辺部)ではなく,ゴルフボールの
周縁(周辺)14上にあるものといえる(甲8の第2図及び第3図,甲
9の第2図及び第3図参照)。そして,当該周縁(周辺)14の曲率半
径がゴルフボールの半径に等しいものであることは明らかである。
そうすると,前記ア(オ)のとおりの解釈を前提とする限り,甲8及び
9には,本件発明1の「凸部分は0.07cm(0.0275in)~
0.0889cm(0.0350in)の曲率半径を持ち」との構成に
ついての記載はないものというほかない。
ウ 小括
以上によれば,甲8及び9には,相違点2の「凸部分は0.07cm
~0.0889cmの曲率半径を持つ」との構成が記載されているとは
認められないから,その記載があることを前提として,甲1発明と甲3,
4,8及び9の記載事項に基づいて,当業者は相違点2に係る凸部分の
曲率半径に係る構成を容易に想到し得たとする原告の前記主張には理由
がない。
(3) 相違点2の「凸部分は0.07cm~0.0889cmの曲率半径を持
つ」との構成は,甲1発明に,甲3,4,8及び9の記載事項に加え,甲1

0,16及び17の記載事項を適用することにより,当業者が容易に想到し
得た旨の原告の主張(前記第3の1(1)イ)について
原告は,本件発明1の「凸部分は0.07cm(0.0275in)~0.
0889cm(0.0350in)の曲率半径を持ち」との構成について,
凸部分の頂部における曲率半径が上記数値範囲にあることを意味するとの解
釈(すなわち,上記(2)ア(オ)のとおりの解釈)を採ったとしても,当該構
成は,甲1発明に,甲3,4,8及び9記載の上縁辺部の丸みを適用し,特
に甲8及び9の上縁辺部の曲率半径を適用した上で,更に甲10,16及び
17の記載事項を適用し,ランドの幅をできるだけ細くして下限値であるゼ
ロとすることにより,当業者が容易に想到し得た旨を主張する。
しかしながら,甲3,4,8及び9に開示された「上縁辺部に丸みをつけ
る技術」(更に,甲8及び9に開示された「丸みづけられた上縁辺部の曲率
半径を約0.020~0.080インチ(0.508~2.032mm)の
範囲とする技術」)は,いずれもゴルフボールの表面にディンプルとランド
が存在し,ランドの両端にディンプルに続く端縁である上縁辺部がそれぞれ
存在することを前提に,これらの上縁辺部に丸みをつけるという技術である
のに対し,甲10,16及び17に開示された「ランドの幅をゼロにする技
術」は,ゴルフボール表面のランドの領域をゼロにする技術であり,必然的
にランドの両端の上縁辺部をなくすこととなるものであるから,甲10,1
6及び17に開示された技術は,ランドの両端に上縁辺部が存在することを
前提とする甲3,4,8及び9に開示の技術とは相容れないものというほか
ない。すなわち,仮に,甲1発明に,甲3,4,8及び9の記載事項を適用
し,甲1発明の非窪み部分の両端にある上縁辺部に丸みをつけ,更に丸みづ
けられた当該上縁辺部の曲率半径を約0.020~0.080インチ(0.
508~2.032mm)の範囲とすることができたとしても,これに対し
て更に甲10,16及び17に開示された「ランドの幅をゼロにする技術」

を適用し,非窪み部分の両端の上縁辺部をなくすように構成することは,そ
もそも甲1発明に甲3,4,8及び9の記載事項を適用して当該上縁辺部に
上記曲率半径を有する丸みをつけたことの意味を失わせることとなるものと
いえる。
してみると,甲1発明に,甲3,4,8及び9に開示された「上縁辺部に
丸みをつける技術」等を適用することまでは可能であるとしても,これに対
して更に甲10,16及び17に開示された「ランドの幅をゼロにする技術」
まで適用することには阻害要因があるというべきであって,当業者が容易に
想到し得たこととはいえないから,原告の上記主張には理由がない。
(4) まとめ
以上の次第であるから,原告主張の取消事由1は理由がなく,本件発明
1について,甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえ
ないとした本件審決の判断に誤りがあるとは認められない。
3 取消事由2(本件発明1について,甲10発明に基づく進歩性判断(相違
点ロに係る容易想到性判断)の誤り)について
原告は,本件審決が,甲10発明との相違点ロに係る本件発明1の構成の
うち,「凸部分は0.07cm~0.0889cmの曲率半径を持つ」との
構成について,甲3,4,8及び9の記載事項から当業者が容易に想到し
得たと するこ とは で きない とした 判断 に ついて ,取消 事由 1 につい て述
べたのと同様の 理由(前記第3の1(1)ア及びイ記載の理由) により誤り
である旨主張する。
しかし ,原 告の 取消 事由1 に係 る主 張に 理由が ない こと は, 上記 2 で
述べた とおり であり ,これ と同様 の理由 により , 本件 発明1 につい て,
甲10 発明に 基づい て当業 者が容 易に想 到し得 たもの とはい えない とし
た本件審決の判断に誤りはないものといえる。
したがって,原告主張の取消事由2も理由がない 。

4 取消事由3(本件発明2ないし8について,甲1発明又は甲10発明に基
づく進歩性判断の誤り)について
原告は,本件審決が,本件発明1を引用する 本件発明2ないし8につい
て,本 件発 明1と 同 様に当 業者 が容易 に 発明す るこ とがで き たもの とは
いえな い と した判 断 につい て, 本件発 明 1につ いて 当業者 が 容易に 発明
できるものとはいえないとした前提において誤りである 旨主張する。
しかし,上記 2 及び3で述べたとお り, 本件発明1につ いて,甲1発
明又は 甲10発 明に 基づいて当業者 が容 易に想到し得た もの とはいえな
いとした本件審決の判断に誤りはない。
したがって,原告主張の取消事由3も理由がない。
5 結論
以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件審決にこれ
を取り消すべき違法は認められない。
よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のと
おり判決する。

知的財産高等裁判所第3部


裁判長裁判官 鶴 岡 稔 彦


裁判官 大 西 勝 滋


裁判官 杉 浦 正 樹


(別紙) 本件明細書の図面
【図1】


【図4A】


【図8】


【図14】


【図15】


(別紙) 甲8の図面

【第2図】


【第3図】


(別紙) 甲9の図面

【第2図】


【第3図】

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