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平成27(行ケ)10190審決取消請求事件

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裁判所 一部認容 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成29年2月22日
事件種別 民事
当事者 被告日本水産株式会社
原告プロノヴァ・バイオファーマ
対象物 油または脂肪中の環境汚染物質の低減方法,揮発性環境汚染物質低減作業流体,健康サプリメントおよび動物飼料製品
法令 特許権
特許法134条の21回
特許法36条6項1号1回
特許法36条4項1号1回
特許法36条6項2号1回
特許法29条1項3号1回
キーワード 審決154回
実施94回
無効17回
無効審判4回
特許権1回
優先権1回
主文 1 特許庁が無効2013-800118号事件について平成27年5月13日にした審決のうち,特許第3905538号の請求項1,2,4ないし6,9及び12ないし21に係る部分を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを11分し,その8を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
4 原告に対し,この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等 原告は,平成15年7月8日に国際出願(PCT/IB2003/002 827号,優先権主張:平成14年7月11日(以下「本件優先日」という。) スウェーデン王国)され,平成19年1月19日に設定登録された,発明の 名称を「油または脂肪中の環境汚染物質の低減方法,揮発性環境汚染物質低 減作業流体,健康サプリメントおよび動物飼料製品」とする特許第3905 538号(以下「本件特許」という。設定登録時の請求項の数は28。)の 特許権者である。

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判決文

平成29年2月22日判決言渡
平成27年(行ケ)第10190号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成28年11月24日
判 決

原 告 プロノヴァ・バイオファーマ
・ノルゲ・アーエス

訴訟代理人弁護士 大 野 聖 二
同 金 本 恵 子

被 告 日 本 水 産 株 式 会 社

訴訟代理人弁護士 鈴 木 修
同 末 吉 剛
訴訟代理人弁理士 松 山 美 奈 子
主 文
1 特許庁が無効2013-800118号事件について平成27年5
月13日にした審決のうち,特許第3905538号の請求項1,2,
4ないし6,9及び12ないし21に係る部分を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを11分し,その8を被告の負担とし,その余を原
告の負担とする。
4 原告に対し,この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付
加期間を30日と定める。
事 実 及 び 理 由

第1 請求
特許庁が無効2013-800118号事件について平成27年5月13日
にした審決のうち,「特許第3905538号の請求項1,2,4ないし6,9,
12ないし27に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消
す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
原告は,平成15年7月8日に国際出願(PCT/IB2003/002
827号,優先権主張:平成14年7月11日(以下「本件優先日」という。)
スウェーデン王国)され,平成19年1月19日に設定登録された,発明の
名称を「油または脂肪中の環境汚染物質の低減方法,揮発性環境汚染物質低
減作業流体,健康サプリメントおよび動物飼料製品」とする特許第3905
538号(以下「本件特許」という。設定登録時の請求項の数は28。)の
特許権者である。
被告は,平成19年8月31日,本件特許の特許請求の範囲請求項3に記
載された発明についての特許を無効とすることを求めて無効審判請求をし
た。
特許庁は,上記請求を無効2007-800186号事件として審理し,
平成20年9月18日,「特許第3905538号の請求項3に係る発明に
ついての特許を無効とする。」との審決をし,その後,同審決は確定した。
被告は,平成25年7月5日,本件特許の特許請求の範囲請求項1,2及
び4ないし28に記載された発明についての特許を無効とすることを求め
て無効審判請求をした。
原告は,平成26年12月16日付けで本件特許の特許請求の範囲につい
ての訂正請求をした(以下,この訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。 。

特許庁は,上記無効審判請求を無効2013-800118号事件として

審理し,平成27年5月13日,以下のとおりの審決(以下「本件審決」とい
う。)をし,同月21日,その謄本が原告に送達された。なお,本件審決につ
いては,出訴期間として90日が付加された。
「請求のとおり訂正を認める。
特許第3905538号の請求項1,2,4ないし6,9,12ないし27
に係る発明についての特許を無効とする。
特許第3905538号の請求項7,8,10,11及び28に係る発明に
ついての審判請求を却下する。」
原告は,平成27年9月17日,本件審決のうち,「特許第390553
8号の請求項1,2,4ないし6,9,12ないし27に係る発明について
の特許を無効とする。」との部分の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載
本件特許の本件訂正後の特許請求の範囲は,請求項1,2,4ないし6,9及
び12ないし27からなり(請求項7,8,10,11及び28は,本件訂正に
おいて削除された。),その記載は,次のとおりである(以下,本件訂正後の各
請求項に係る発明を,それぞれ請求項の番号に応じて「本件訂正発明1」などと
いい,これらを併せて「本件訂正発明」という。また,本件訂正後の明細書及び
図面を「本件訂正明細書」という。甲58。)。
【請求項1】
環境汚染物質を含有する,食用であるかまたは化粧品中に用いるための海産
油中の環境汚染物質の量を低減させるための方法であって:
該環境汚染物質が臭素化難燃剤およびPCBからなる群より選択され,
- 揮発性作業流体を外部から該海産油に添加する過程であって,該揮発性
作業流体が,脂肪酸エステル,脂肪酸アミドおよび遊離脂肪酸のうちの少なくと
も1つを含む過程;
および

- 該海産油が添加された該揮発性作業流体とともに少なくとも1回のスト
リッピング処理過程に付される過程であって,該ストリッピング処理過程が1
50~270℃の間の温度で実行され,食用であるかまたは化粧品中に用いる
ための該海産油中に存在するある量の環境汚染物質が,該揮発性作業流体と一
緒に該海産油から分離される過程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記揮発性作業流体が,前記海産油から分離されるべき環境汚染物質と揮発
性が本質的に等しいかまたはより少なく,環境汚染物質が臭素化難燃剤である,
請求項1記載の方法。
【請求項4】
脂肪酸エステル,脂肪酸アミド,および遊離脂肪酸のうちの少なくとも1つ
が,植物,微生物,および動物性脂肪または油のうちの少なくとも1つから得ら
れ,前記環境汚染物質が2,2’,4,4’-テトラブロモジフェニルエーテル
(BDE47),2,2’,4,4’,5-ペンタブロモジフェニルエーテル(B
DE99)および2,2’,4,4’,6-ペンタブロモジフェニルエーテル(B
DE100)からなる群より選択される臭素化難燃剤である,請求項1記載の方
法。
【請求項5】
前記動物性脂肪または油が,魚油および/または海洋哺乳類から得られる油
であり,前記環境汚染物質がBDE47である,請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記揮発性作業流体が,C10~C22脂肪酸およびC1~C4アルコール
から構成される少なくとも1つの脂肪酸エステル,あるいは各々C10~C2
2脂肪酸およびC1~C4アルコールから構成される2つ以上の脂肪酸エステ
ルの組合せを含み,前記環境汚染物質が臭素化難燃剤である,請求項1記載の方

法。
【請求項9】
前記海産油が,魚または海洋哺乳類から得られ,トリグリセリドの形態の少な
くとも飽和および不飽和脂肪酸を含有し,前記環境汚染物質が臭素化難燃剤で
ある,請求項1記載の方法。
【請求項12】
(揮発性作業流体) (食用であるかまたは化粧品中に用いるための海産油)

の比が1:100~15:100であり,前記環境汚染物質が臭素化難燃剤であ
る,請求項1記載の方法。
【請求項13】
(揮発性作業流体):(食用であるかまたは化粧品中に用いるための海産油)
の比が3:100~8:100であり,前記環境汚染物質がBDE47,BDE
99およびBDE100からなる群より選択される臭素化難燃剤である,請求
項12記載の方法。
【請求項14】
前記ストリッピング処理過程が,150~200℃の間の温度で実行され,前
記環境汚染物質がBDE47,BDE99およびBDE100からなる群より
選択される臭素化難燃剤である,請求項1記載の方法。
【請求項15】
前記ストリッピング処理過程が,150~200℃の間の温度で実行され,前
記環境汚染物質がデカクロロビフェニルである,請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記ストリッピング処理過程が,1mbarより低い圧力で実行され,前記環
境汚染物質がBDE47である,請求項1記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1つの前記ストリッピング処理過程が,薄膜蒸発法,分子蒸留,ま

たはショートパス蒸留,あるいはこれらの任意の組合せのうちの1つであり,前
記環境汚染物質がBDE47,BDE99およびBDE100からなる群より
選択される臭素化難燃剤である,請求項1記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1つの前記薄膜蒸発法が,10~300kg/h・m2の間の海産
油流速で実行され,前記海産油がトリグリセリド形態の脂肪酸である,請求項1
7記載の方法。
【請求項19】
食用であるかまたは化粧品中に用いるための海産油中の,環境汚染物質の量
を低減させるための方法における,脂肪酸エステル,脂肪酸アミド,遊離脂肪酸,
およびこれらのいずれかの組み合わせのうちの少なくとも1種を含んでいる揮
発性環境汚染物質低減作業流体の使用であって,該海産油は環境汚染物質を含
有し,該環境汚染物質は臭素化難燃剤であって,該方法において,該揮発性環境
汚染物質低減作業流体が外部から該海産油に添加され,次に,該海産油が少なく
とも1つのストリッピング処理過程に付され,該ストリッピング処理過程が1
50~270℃の間の温度で実行され,そして食用であるかまたは化粧品中に
用いるための該海産油中に存在する環境汚染物質の量が,該揮発性環境汚染物
質低減作業流体と一緒に該海産油から分離される使用。
【請求項20】
前記ストリッピング処理過程が,薄膜蒸発法,分子蒸留またはショートパス蒸
留,あるいはこれらの任意の組合せであり,前記海産油がトリグリセリド形態の
脂肪酸であり,前記環境汚染物質がBDE47,BDE99およびBDE100
からなる群より選択される臭素化難燃剤である,請求項19記載の使用。
【請求項21】
前記揮発性環境汚染物質低減作業流体が,エチルおよび/またはメチルエス
テル濃縮物の生産のための方法からの副産物であって,該エチルおよび/また

はメチルエステル濃縮物の生産のための方法においては,食用もしくは非食用
の魚油が,エチル化および/またはメチル化工程そして二段階分子蒸留に付さ
れて,一次分子蒸留工程からの揮発性画分が二次分子蒸留工程でもう一度蒸留
され,該副産物は該二次分子蒸留工程からの揮発性画分である,請求項19もし
くは20記載の使用。
【請求項22】
請求項1記載の方法に従って調製される海産油製品。
【請求項23】
前記海産油製品が医薬品である,請求項22記載の海産油製品。
【請求項24】
前記海産油製品が健康サプリメントである,請求項22記載の海産油製品。
【請求項25】
前記海産油製品が動物飼料製品である,請求項22記載の海産油製品。
【請求項26】
前記動物飼料製品が魚飼料製品である,請求項25記載の海産油製品。
【請求項27】
前記海産油製品が化粧品である,請求項22記載の海産油製品。
3 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書写しのとおりであるが,その要旨は,次の
とおりである。
ア 本件訂正は,特許法134条の2第1項ただし書1号又は3号に掲げる
事項を目的とするものであり,かつ,同条9項が準用する同法126条5項
及び6項の各規定に適合するものであるから,本件訂正は認められる。
イ 本件特許に係る請求項1及び19の記載が,特許法36条6項2号の規
定(明確性要件)に適合しないとはいえない。
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載が,特許法36条4項1号

に規定する要件(実施可能要件)を満たしていないとはいえない。
本件特許に係る請求項の記載は,特許法36条6項1号の規定(サポート
要件)に適合しないとはいえない。
ウ 本件訂正発明1,2,4ないし6,9及び12ないし27についての特許
は,以下のとおり,特許法29条1項3号又は2項の規定に違反してされた
ものであって,無効とすべきものである。
本件訂正発明1について
本件訂正発明1は,特表平9-510091号公報(甲1。以下「甲
1公報」という。)に記載された方法に係る発明(以下「甲1発明1」
という。)及びV.F.Stoutら作成の「Chapter 4 FRACTIONATION OF FISH
OILS AND THEIR FATTY ACIDS」と題する文献(甲2。以下「甲2文献」
という。)又は米国特許第3082228号明細書(甲3。以下「甲3
明細書」という。)に記載の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明
をすることができたものといえる。
本件訂正発明2について
本件訂正発明2は,甲1発明1及び甲2文献又は甲3明細書に記載の
周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとい
える。
本件訂正発明4ないし6及び9について
本件訂正発明4ないし6及び9は,甲1発明1及び甲2文献又は甲3
明細書に記載の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることが
できたものといえる。
本件訂正発明12及び13について
本件訂正発明12及び13は,甲1発明1並びに甲3明細書に記載さ
れた発明及び甲2文献又は甲3明細書に記載の周知技術に基づいて,当
業者が容易に発明をすることができたものといえる。

本件訂正発明14ないし16について
本件訂正発明14ないし16は,甲1発明1並びに甲2文献又は甲3
明細書及び長浜邦雄監修の「普及版 高純度化技術 第2巻 分離技術」
と題する文献(甲14。以下「甲14文献」という。)に記載の周知技術
に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
本件訂正発明17について
本件訂正発明17は,甲1発明1及び甲2文献又は甲3明細書に記載
の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと
いえる。
本件訂正発明18について
本件訂正発明18は,甲1発明1並びに甲2文献又は甲3明細書及び
甲14文献に記載の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をするこ
とができたものといえる。
本件訂正発明19について
本件訂正発明19は,甲1公報に記載された使用に係る発明(以下「甲
1発明2」という。)及び甲2文献又は甲3明細書に記載の周知技術に基
づいて,当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
本件訂正発明20について
本件訂正発明20は,甲1発明2及び甲2文献又は甲3明細書に記載
の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと
いえる。
本件訂正発明21について
本件訂正発明21は,甲1発明2及び甲2文献又は甲3明細書に記載
の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと
いえる。
本件訂正発明22について

本件訂正発明22は,甲1公報に記載された油組成物に係る発明(以下
「甲1発明3」という。)と実質的に相違するところがなく,甲1公報に
記載された発明である。
本件訂正発明23ないし27について
本件訂正発明23ないし27は,甲1発明3に基づき当業者が容易に
発明をすることができたものである。
エ 本件訂正前の請求項7,8,10,11及び28は本件訂正により削除さ
れたから,これらの請求項に係る発明についての無効審判請求は却下すべ
きものである。
本件審決が の各判断の前提として認定した甲1発明1,甲1発明
2及び甲1発明3(以下「甲1発明1ないし3」という。)の各内容並びに本件
訂正発明と甲1発明1ないし3との各一致点及び相違点は,以下のとおりで
ある。
ア 甲1発明1ないし3の各内容
甲1発明1
「トリグリセリドの形態で飽和および不飽和脂肪酸を含有する海産油な
どの医薬又は食品用の油組成物からの殺虫剤および多塩素化ビフェニル
(PCB類)等の環境汚染物質の除去のための方法であって,次の工程:
(a)該油組成物を,実質的に無水の条件下,かつ飽和および単不飽和脂
肪酸のエステル交換を優先的に触媒するに活性なリパーゼの存在下に,
C1~C6アルコールを用いて,エステル交換反応に供し,飽和および単
不飽和脂肪酸とC1~C6アルコールとの脂肪酸エステルを含む油組成物
を生成する工程;そしてその後で,
(b)工程(a)において得られた生成物を1またはそれ以上の分子蒸留
に供して,環境汚染物質が優先的に除去された残余画分を回収する工程;
を含むことを特徴とする方法」

甲1発明2
「トリグリセリドの形態で飽和および不飽和脂肪酸を含有する海産油な
どの医薬又は食品用の油組成物中の殺虫剤および多塩素化ビフェニル
(PCB類)等の環境汚染物質を除去するための方法における,該油組成
物を飽和および単不飽和脂肪酸のエステル交換を優先的に触媒するに活
性なリパーゼの存在下に,C1~C6アルコールを用いたエステル交換反
応に供することにより合成された飽和および単不飽和脂肪酸とC 1~C6
アルコールとの脂肪酸エステルの使用であって,上記油組成物をエステ
ル交換反応に供することにより合成された上記脂肪酸エステルを含む油
組成物を分子蒸留に供して当該脂肪酸エステルと共に優先的に当該環境
汚染物質を除去する使用(方法)」
甲1発明3
「甲1発明1の方法に従って環境汚染物質が除去された海産油などに由
来の医薬又は食品用の油組成物」
イ 本件訂正発明と甲1発明1ないし3との各一致点及び相違点
本件訂正発明1について
a 本件訂正発明1と甲1発明1の一致点
「環境汚染物質を含有する,食用である海産油中の環境汚染物質の量
を低減させるための方法であって:
- 海産油中に脂肪酸エステルなどの成分を存在させる過程;およ

- 該海産油が存在する脂肪酸エステルなどの成分とともに少なく
とも1回のストリッピング処理過程に付される過程であって,食用で
ある該海産油中に存在するある量の環境汚染物質が,該脂肪酸エステ
ルなどの成分と一緒に該海産油から分離される過程
を含む方法」

b 本件訂正発明1と甲1発明1の相違点
相違点1
本件訂正発明1では,「揮発性作業流体が,脂肪酸エステル,脂肪
酸アミドおよび遊離脂肪酸のうちの少なくとも1つを含む」のに対
し,甲1発明1では,「飽和および単不飽和脂肪酸とC1~C6アル
コールとの脂肪酸エステル」である点。
⒝ 相違点2
脂肪酸エステルなどの成分を海産油中に存在させるための操作
が,本件訂正発明1では,「揮発性作業流体を外部から該海産油に添
加する」であるのに対して,甲1発明1では,「該油組成物を,実質
的に無水の条件下,かつ飽和および単不飽和脂肪酸のエステル交換
を優先的に触媒するに活性なリパーゼの存在下に,C1~C6アルコ
ールを用いて,エステル交換反応に供し,飽和および単不飽和脂肪酸
とC1~C6アルコールとの脂肪酸エステルを含む油組成物を生成す
る」である点。
⒞ 相違点3
「ストリッピング処理過程」を実施する温度範囲につき,本件訂正
発明1では,「150~270℃の間の温度」であるのに対して,甲
1発明1では,「ストリッピング処理過程」に相当する分子蒸留の温
度につき特定されていない点。
⒟ 相違点4
「環境汚染物質」につき,本件訂正発明1では,「臭素化難燃剤お
よびPCBからなる群より選択され」るのに対して,甲1発明1で
は,「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等」である点。
本件訂正発明2について
bの相違点1ないし3に加え,

以下の点において相違し,その余で一致する。
a 相違点5
本件訂正発明2では,「前記揮発性作業流体が,前記脂肪または油混
合物から分離されるべき環境汚染物質と揮発性が本質的に等しいかま
たはより少ない」のに対し,甲1発明1では,環境汚染物質と脂肪酸エ
ステルとの揮発性の大小につき特定されていない点。
b 相違点6
「環境汚染物質」につき,本件訂正発明2では,「臭素化難燃剤」で
あるのに対して,甲1発明1では,「殺虫剤および多塩素化ビフェニル
(PCB類)等」である点。
本件訂正発明4ないし6及び9について
本件訂正発明4ないし6及び9と甲1発明1
ないし3に加え,以下の点においてそれぞれ相違し,その余で一致する。
a 相違点6-1(本件訂正発明4に係るもの)
「環境汚染物質」につき,本件訂正発明4では,「2,2’,4,4
’-テトラブロモジフェニルエーテル(BDE47),2,2’,4,
4’,5-ペンタブロモジフェニルエーテル(BDE99)および2,
2’ 4, ,
, 4’ 6-ペンタブロモジフェニルエーテル(BDE100)
からなる群より選択される臭素化難燃剤」であるのに対して,甲1発明
1では,
「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類) である点。
等」
b 相違点6-2(本件訂正発明5に係るもの)
「環境汚染物質」につき,本件訂正発明5では,「BDE47」であ
るのに対して,甲1発明1では,「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(
PCB類)等」である点。
c 相違点6’(本件訂正発明6及び9に係るもの)
「環境汚染物質」につき,本件訂正発明6及び9では,「臭素化難燃

剤」であるのに対して,甲1発明1では,「殺虫剤および多塩素化ビフ
ェニル(PCB類)等」である点。
本件訂正発明12及び13について
本件訂正発明12及び13と甲1発明1
し3に加え,以下の点においてそれぞれ相違し,その余で一致する。
a 相違点7(本件訂正発明12及び13に係るもの)
本件訂正発明12では,「(揮発性作業流体):(食用であるかまた
は化粧品中に用いるための海産油)の比が1:100~15:100で
あ」り,本件訂正発明13では,「(揮発性作業流体):(食用である
かまたは化粧品中に用いるための海産油)の比が3:100~8:10
0であ」るのに対し,甲1発明1では,「飽和および単不飽和脂肪酸と
C1~C6アルコールとの脂肪酸エステル」と「油組成物」との組成比
につき特定されていない点。
b 相違点6’’(本件訂正発明12に係るもの)
「環境汚染物質」につき,本件訂正発明12では,「臭素化難燃剤」
であるのに対して,甲1発明1では,「殺虫剤および多塩素化ビフェニ
ル(PCB類)等」である点
c 相違点6-1’(本件訂正発明13に係るもの)
「環境汚染物質」につき,本件訂正発明13では,「BDE47,B
DE99およびBDE100からなる群より選択される臭素化難燃
剤」であるのに対して,甲1発明1では,「殺虫剤および多塩素化ビフ
ェニル(PCB類)等」である点。
本件訂正発明14ないし16について
本件訂正発明14ないし16と甲1発明1
び2に加え,以下の点においてそれぞれ相違し,その余で一致する。
a 相違点3-1(本件訂正発明14ないし16に係るもの)

本件訂正発明14及び15では,「ストリッピング処理過程が,15
0~200℃の間の温度で実行され」るものであり,本件訂正発明16
では,「ストリッピング処理過程が,1mbarより低い圧力で実行さ
れ」るものであるのに対し,甲1発明1では,分子蒸留の際の温度条件
及び圧力条件につき特定されていない点。
b 相違点6-1’’(本件訂正発明14に係るもの)
「環境汚染物質」につき,本件訂正発明14では,「BDE47,B
DE99およびBDE100からなる群より選択される臭素化難燃剤」
であるのに対して,甲1発明1では,「殺虫剤および多塩素化ビフェニ
ル(PCB類)等」である点。
c 相違点4-1(本件訂正発明15に係るもの)
「環境汚染物質」につき,本件訂正発明15では,「デカクロロビフ
ェニルである」のに対して,甲1発明1では,「殺虫剤および多塩素化
ビフェニル(PCB類)等」である点。
d 相違点6-2’(本件訂正発明16に係るもの)
「環境汚染物質」につき,本件訂正発明16では,「BDE47」で
あるのに対して,甲1発明1では,「殺虫剤および多塩素化ビフェニル
(PCB類)等」である点。
本件訂正発明17について
本件訂正発明17
え,以下の点において相違し,その余で一致する。
相違点6-1’’’
「環境汚染物質」につき,本件訂正発明17では,「BDE47,BD
E99およびBDE100からなる群より選択される臭素化難燃剤」で
あるのに対して,甲1発明1では,「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(
PCB類)等」である点。

本件訂正発明18について

相違点6-1’’’に加え,以下の点において相違し,その余で一致
する。
相違点8
本件訂正発明18では,「少なくとも1つの前記薄膜蒸発法が,10~
300kg/h・m2の間の混合物流速で実行され」るのに対して,甲1
発明1では,「分子蒸留」である点。
本件訂正発明19について
a 本件訂正発明19と甲1発明2の一致点
「食用である海産油中の,環境汚染物質の量を低減させるための方法
における,脂肪酸エステルなどの成分の使用であって,該海産油は環境
汚染物質を含有し,該方法において,該成分が該海産油に含有され,次
に,該海産油(混合物)が少なくとも1つのストリッピング処理過程に
付され,そして食用である該海産油中に存在する環境汚染物質の量が,
該成分と一緒に該海産油から分離される使用」
b 本件訂正発明19と甲1発明2の相違点
相違点1’
「脂肪酸エステルなどの成分」につき,本件訂正発明19において
は,「脂肪酸エステル,脂肪酸アミド,遊離脂肪酸およびこれらのい
ずれかの組み合わせのうちの少なくとも1種を含んでいる揮発性環
境汚染物質低減作業流体」であるのに対し,甲1発明2では,「飽和
および単不飽和脂肪酸とC1~C6アルコールとの脂肪酸エステル」
である点。
⒝ 相違点2’
本件訂正発明19では,
「揮発性作業流体が外部から該海産油に添

加され」るのに対し,甲1発明2では,「該油組成物を飽和および単
不飽和脂肪酸のエステル交換を優先的に触媒するに活性なリパーゼ
の存在下に,C1~C6アルコールを用いた…エステル交換反応に供
することにより合成された脂肪酸エステルを含む油組成物」である
点。
⒞ 相違点3’
本件訂正発明19では,「ストリッピング処理過程が,150~2
70℃の間の温度で実行され」るのに対して,甲1発明2では,分子
蒸留の際の温度条件につき特定されていない点。
⒟ 相違点6’’’
「環境汚染物質」につき,本件訂正発明19では,「臭素系難燃剤」
であるのに対して,甲1発明2では,「殺虫剤および多塩素化ビフェ
ニル(PCB類)等」である点。
本件訂正発明20について
’ないし3’に
加え,以下の点において相違し,その余で一致する。
相違点6-1’’’’
「環境汚染物質」につき,本件訂正発明20では,「BDE47,BD
E99およびBDE100からなる群より選択される臭素化難燃剤」で
あるのに対して,甲1発明2では,「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(
PCB類)等」である点。
本件訂正発明21について
’ないし3’及
び相違点6’’’並びに 相違点6-1’’’’に加え,以下の点
において相違し,その余で一致する。
相違点9

本件訂正発明21では,「揮発性環境汚染物質低減作業流体が,エチル
および/またはメチルエステル濃縮物の生産のための方法からの副産物
であって,該エチルおよび/またはメチルエステル濃縮物の生産のため
の方法においては,食用もしくは非食用の魚油が,エチル化および/また
はメチル化工程そして二段階分子蒸留に付されて,一次分子蒸留工程か
らの揮発性画分が二次分子蒸留工程でもう一度蒸留され,該副産物は該
二次分子蒸留工程からの揮発性画分である」のに対し,甲1発明2では,
「飽和および単不飽和脂肪酸とC1~C6アルコールとの脂肪酸エステル」
である点。
本件訂正発明22について
本件訂正発明22と甲1発明3は,「海産油製品」の点で一致し,以下
の点において相違する。
相違点10
本件訂正発明22では,「請求項1記載の方法に従って調製される」も
のであるのに対し,甲1発明3では,「甲1発明1の方法に従って環境汚
染物質が除去された」ものである点。
本件訂正発明23ないし27について
本件訂正発明23ないし27と甲1発明3は,「海産油製品」の点で一

本件訂正発明23ないし27においては,「海産油製品」の用途が,「
医薬品」(本件訂正発明23),「健康サプリメント」(本件訂正発明2
4),「動物飼料製品」(本件訂正発明25),「魚飼料製品」(本件訂
正発明26)及び「化粧品」(本件訂正発明27)に限定されているのに
対し,甲1発明3においては,そのような限定がない点。
第3 原告主張の取消事由
1 取消事由1(本件訂正発明1について,相違点の認定の誤り)

本件審決には,以下に述べるとおり,本件訂正発明1と甲1発明1との相違点
の認定を誤った違法がある。
相違点2の認定の誤り
本件審決は,
「甲1号証の魚油を化学的に変化させて得られたグリセリドと
エチルエステルの混合物」は,本件訂正発明1における「食用である…海産
油」に相当するとした上で,本件訂正発明1と甲1発明1との相違点2(前記
)を認定する。
しかし,本件訂正発明1で精製対象となる「海産油」は,甲1公報に「EP
AおよびDHAは,多くはそのトリグリセリドとして海産油中に現出する。」
(7頁10,11行)と記載されているとおり,主としてトリグリセリド形態
の脂肪酸を含むものであるのに対し,甲1発明1において魚油のエステル交
換によって生成される生成物は,魚油に本来含まれていたトリグリセリド形
態の脂肪酸の大部分が,モノグリセリド,ジグリセリド,エステルなどに変換
されたものであり,最初に存在した魚油とは異なる組成の混合物に化学的に
変化しているから,本件訂正発明1に係る「海産油」には相当しない。現に,
甲1公報において,「油組成物」という文言は,未処理の出発物質についての
み使用されている。
したがって,上記の相違を看過してされた本件審決の相違点2の認定は誤
りであり,正しくは,以下のア及びイのとおり認定されるべきである。
ア 相違点2-1
本件訂正発明1の「揮発性作業流体を外部から該海産油に添加する」は,
揮発性作業流体を外部から海産油に加える物理的な工程であるのに対し,
甲1発明1では,魚油をエステル交換に付して化学的に変化させた混合物
中に脂肪酸エステルが生成されている点。
イ 相違点2-2
ストリッピング処理工程に付される対象となるのが,本件訂正発明1で

は,揮発性作業流体を外部から添加された海産油であるのに対し,甲1発明
1では,魚油をエステル交換に付して化学的に変化させた混合物である点。
相違点3の認定の誤り
本件審決は,本件訂正発明1と甲1発明1との相違点3の認定において,
「甲1発明1では,「ストリッピング処理過程」に相当する分子蒸留の温度に
つき特定されていない」と認定する。
しかし,以下に述べるとおり,甲1発明1の分子蒸留の温度は125℃であ
ると認められるから,本件審決の上記認定は誤りである。
すなわち,甲1公報に記載される発明の最大の技術的特徴は,所望の多不飽
和脂肪酸(特に,EPA及びDHA)の高濃度組成物を回収するために,所望
でない飽和および単不飽和脂肪酸のエステル交換を優先的に触媒するリパー
ゼを利用して,魚油を選択的にエステル交換し,エステル交換反応によって生
成される「所望でない飽和および単不飽和脂肪酸」のエステルを,回収目的で
あるEPA及びDHAのグリセリドに富む画分から除去する点にある。
他方,甲1公報には,環境汚染物質を除去することについては,グリセリド
中の多不飽和脂肪酸の濃度上昇と同時に行うことが明記されており,環境汚
染物質の除去のみを単独で行うことは記載されていない。すなわち,甲1公報
には,分子蒸留を用いて多不飽和脂肪酸グリセリドを飽和および単不飽和脂
肪酸エステルと分離すると同時に,所望の多不飽和脂肪酸グリセリド画分か
ら環境汚染物質の除去をも行うことが記載されており(11頁下から4行~
最終行,17頁13~15行),特許請求の範囲の請求項22の工程(b)に
も,「工程(a)において得られた生成物を…分子蒸留に供して多不飽和脂肪
酸のグリセリドに富み,かつ環境汚染物質が優先的に除去された残余画分を
回収する工程」と記載されている。
このように,甲1発明1における環境汚染物質の除去は,グリセリド中の多
不飽和脂肪酸の濃度上昇と同時に行われるものであるから,分子蒸留は,「E

PAまたはDHAは蒸留物中に僅かしか失われないか,または全く失われな
い」(甲1公報の16頁9~14行)条件で行われる必要がある。
しかるところ,甲1公報の環境汚染物質除去に関する唯一の実施例である
実施例3では,
「実施例2のそれと類似の3つのパイロットプラント試行から
得られた生成物を分析して」いるところ(33頁実施例3の1~2行),実施
例2においては「125℃」で分子蒸留が行われている(31頁実施例2の下
から1~5行)。そして,ここで,分子蒸留の温度として「125℃」が選択
されているのは,この温度でなければ「EPAまたはDHAは蒸留物中に僅か
しか失われないか,または全く失われない」条件で分子蒸留を実施することが
できず,結果として甲1発明1の目的が果たせないためであることは,当業者
にとって自明である。なぜなら,甲1公報の実施例2に係る32頁の表V及び
33頁の最上部の表に,125℃の分子蒸留によってもEPA及びDHAが
それぞれ7.0%及び7.1%も蒸留物として除去されることが記載されてい
ることからすれば,当業者であれば,分子蒸留温度を125℃より高くすれ
ば,さらに多くの量のEPAやDHAが蒸留物として除去されてしまうこと
を当然に理解するからである。
以上によれば,甲1発明1における分子蒸留温度は「125℃」であるか
ら,本件審決の相違点3の認定は誤りであり,正しくは,相違点3として,
「「ストリッピング処理過程」を実施する温度範囲につき,本件訂正発明1で
は,「150~270℃の間の温度」であるのに対して,甲1発明1では「1
25℃」である点」と認定されるべきである。
相違点4の認定の誤り
本件審決は,本件訂正発明1と甲1発明1との相違点4の認定において,
「環境汚染物質」につき,「甲1発明1では,「殺虫剤および多塩素化ビフェ
ニル(PCB類)等」である」と認定する。
しかし, 甲1発明1では,125℃で分子蒸留が行

われるところ,この温度で揮発性の低いPCB類を除去できないことは,本件
優先日当時の当業者にとって自明である。現に,甲1公報の実施例3におい
て,エステル交換による生成物から除去されているのは,α-BCH,HC
B,総DDT,トキサフェン(以下,これらを「α-BCH等」という場合が
ある。)のみである(33頁の表Ⅶ)。
したがって,甲1発明1で除去される環境汚染物質は,多塩素化ビフェニル
(PCB類)ではなく,α-BCH等であると認められるから,本件審決の相
違点4の認定は誤りであり,正しくは,相違点4として,「「環境汚染物質」
につき,本件訂正発明1では,「臭素化難燃剤およびPCBからなる群より選
択され」るのに対して,甲1発明1では,「α-BCH,HCB,総DDT及
びトキサフェン」である点」と認定されるべきである。
2 取消事由2(本件訂正発明1について,相違点についての判断の誤り)
本件審決には,以下に述べるとおり,本件訂正発明1と甲1発明1との相違点
についての判断を誤った違法がある。
相違点2についての判断の誤り
本件審決は,相違点2に係る本件訂正発明1の構成について,甲1発明1と
甲2文献及び甲3明細書記載の周知技術に基づき,当業者が適宜なし得るこ
とである旨判断するが,以下に述べるとおり,その判断は誤りである。
ア 操作目的についての判断の誤り
本件審決は,上記判断の前提として,甲1発明1において,エステル交換
によって脂肪酸エステルを含む油組成物を生成することは,環境汚染物質
を除去するために分子蒸留に付すべき脂肪酸エステルを含む油組成物を生
成するという操作目的の点で,本件訂正発明1における「揮発性作業流体を
該混合物に添加する」ことと技術的に軌を一にする旨判断する。
述べたとおり,甲1発明1の目的は,「所望でない飽
和及び単不飽和脂肪酸」を選択的にエステル交換させて,目的物である多不

飽和脂肪酸の高濃度組成物から除去することであるから,目的物からの除
去対象である「所望でない飽和及び単不飽和脂肪酸」のエステルを生成する
ことが「操作目的」とはなり得ない。
したがって,そもそも甲1発明1に存在しない操作目的を設定した上で,
甲1発明1におけるエステル交換反応と本件訂正発明1における外部から
の海産油への揮発性作業流体の添加を,「操作目的の点で,…技術的に軌を
一にする」とする本件審決の判断は誤りである。
イ 周知技術についての認定の誤り
本件審決は,甲2文献及び甲3明細書の記載に基づき,魚油などの油組成
物について,コレステロール,臭気物などの不要物又は不純物を分子蒸留に
より除去するに当たり,穏やかな温度条件で蒸留による十分な目的物の除
去を行うことを意図し,脂肪酸エステル又はリノール酸などの低沸点成分
を油組成物に外部から添加し低沸点成分を含有する油組成物を構成した
後,当該油組成物を減圧下に分子蒸留することは,当業者の周知技術である
旨認定する。
しかし,以下に述べるとおり,本件審決の上記周知技術の認定は誤りであ
る。
脂肪酸などの添加後に分子蒸留で除去される対象について,甲2文献
に記載されているのは,「コレステロール」,すなわち臭素化難燃剤やP
CBよりはるかに高濃度でサケ頭油中に存在する物質であり,また,甲3
明細書では,「臭気物」,すなわち臭素化難燃剤やPCBよりはるかに揮
発性が高く,揮発性作業流体を添加しなくても分子蒸留等で容易に除去
できる物質であるから,当業者が,これらの記載に基づき,臭素化難燃剤
やPCBなどの環境汚染物質を含む不要物,不純物全般についても同様
の処理で除去できると判断することはできない。
また,甲2文献において,リノール酸が添加されているのは,リノール

酸が凝縮器内を液体として移動してコレステロールを流すことで,コレ
ステロールが固化してラインを詰まらせる問題を防ぐためであり,コレ
ステロールを除去するためではない。そして,このような問題は,サケ頭
油という,コレステロール濃度の非常に高い油に特有のものであり,他の
出発物質では生じないものである。
しかも,甲2文献88頁の「2.メンハーデン油の精製」の項には,分
子蒸留により魚油からPCBを除去する場合には,まずアルカリ精製処
理などによって遊離脂肪酸を除去してから,分子蒸留による環境汚染物
質の除去に供することが記載されている(甲56抄訳)。
そうすると,甲2文献に接した当業者は,少なくともPCBのような環
境汚染物質については,外部からリノール酸を添加して分子蒸留する方
法では除去できず,まずは遊離脂肪酸を除去してから分子蒸留に供する
必要があると理解するから,遊離脂肪酸に相当する成分を分子蒸留前に
外部から添加しようと試みるはずがない。
さらに,甲3明細書には,遊離脂肪酸のエステルを添加して臭気物を分
離する際には,分子蒸留は100℃以下で行われるべきことが記載され
ている(甲57抄訳)ことからすると,仮に甲3明細書の記載から何らか
の周知技術が認定され得るとしても,その周知技術は,遊離脂肪酸のエス
テルを揮発性作業流体として使用する際の分子蒸留の温度を150℃以
上とする(相違点3に係る本件訂正発明1の構成とする)上で,阻害要因
となり得るものである。
したがって,甲2文献及び甲3明細書の記載に基づいて,臭素化難燃剤
やPCBのような環境汚染物質を含む不要物,不純物全般についてまで,
「穏やかな温度条件での十分な目的物の除去を分子蒸留により行うため
に脂肪酸エステルを含む油組成物を構成すること」が周知技術であった
とすることはできない。

ウ 容易想到性判断の誤り
本件審決は,上記ア及びイの判断を前提に,甲1発明1において,リパー
ゼを用いた選択的エステル交換を行って脂肪酸エステルを含む油組成物を
生成することに代えて,穏やかな温度条件での十分な臭気物などの目的物
の除去を分子蒸留により行うための脂肪酸エステルを含む油組成物を構成
することを意図し,上記周知技術に基づき,「揮発性作業流体」を油組成物
に外部から添加することにより分子蒸留を行うべき油組成物を構成するこ
とは,当業者が適宜なし得ることである旨判断する。
しかし,以下に述べるとおり,甲1発明1において,当業者が相違点2に
係る本件訂正発明1の構成に想到する動機付けはなく,かえって阻害要因
が存在するから,本件審決の上記判断は誤りである。
甲1発明1の最大かつ必須の技術的特徴は,多不飽和脂肪酸の高濃度
組成物を回収するためにリパーゼを利用して魚油を選択的にエステル交
換する点にあるから,甲1公報の記載に接した当業者が,エステル交換に
代えて,揮発性作業流体の外部からの添加を行おうと試みることはない。
甲1発明1のエステル交換工程を揮発性作業流体を添加する工程で置換
すれば,選択的エステル交換ができなくなるから,多不飽和脂肪酸の高濃
度組成物を回収するという甲1発明1の目的は達成できなくなってしま
うからである。
したがって,甲1発明1のエステル交換に代えて,相違点2に係る本件
訂正発明1の構成を採用することには,阻害要因があるものといえる。し
かも, ,甲1公報には,グリセリド中の多不飽和
脂肪酸の濃度上昇と有害物質の除去とを同時に行うことが明記されてい
るのであるから,当業者が,エステル交換を同時に行うことなしに,外部
からエステルを添加して分子蒸留を行おうと動機付けられることはな
い。

甲1発明1において,エステル交換反
応で生成される「所望でない飽和および単不飽和脂肪酸」のエステルは,
出発物質から除去すべきものであるから,甲1公報の記載に接した当業
者が,このように除去すべきものとされる副生成物をあえて精製対象(出
発物質)に添加しようと動機付けられることはない。
さらに,脂肪/油から不要物や不純物を分子蒸留で除去して精製する
には,先にアルカリ精製処理などによって遊離脂肪酸を除去してから分
子蒸留に供することが,本件優先日当時の技術常識であった。このこと
甲2文献に,分子蒸留により魚油からPCBを除
去する場合には,先にアルカリ精製処理などによって遊離脂肪酸を除去
してから,分子蒸留による環境汚染物質の除去に供することが記載され
ている(88頁第1段落,甲56抄訳)ほか,甲26(甲66)に,「タラ
肝油は,ノルウェー北岸の異なる処理プラントから得られた。脱酸処理と
冷却ろ過で精製された。 (3頁Sampleの項の1~3行,
」 甲66抄訳)と,
甲33(甲68)に,「油(遊離脂肪酸(FFA)含量0.3-3.5%) を,
11.5%(w/w)のNaOH溶液と共に65-70℃で10分間攪拌
してアルカリ精製,1-2時間沈殿させた。 (192頁右欄2段落 「実
」 (
験手順」(Experimental Procedures)の項)の5~7行,甲68抄訳)
と,それぞれ記載されていることから明らかである。
そして,このような本件優先日当時の技術常識からすれば,前もって出
発物質から除去すべき遊離脂肪酸などの揮発性作業流体を,出発物質で
ある海産油にあえて添加するような動機付けは存在しない。
相違点3についての判断の誤り
本件審決は,甲1公報には125℃及び0.005ミリバールの条件で分子
蒸留を行うことが記載されていること,及び甲14文献の記載から,グリセリ
ド,(乳)脂肪酸,ビタミンEなどの精製において,0.1Torr(約0.

1mmHg)以下の減圧下で100~300℃程度の温度範囲で薄膜蒸留す
ることは,当業者の技術常識又は周知慣用の技術であると認められることを
理由として,甲1発明1において,十分な不要物除去と精製の生産性の観点か
ら所望する場合に,125℃を超えて更に高温の150~270℃の温度範
囲で分子蒸留をすることは,当業者が適宜なし得る旨判断する。
しかし,甲14文献には,揮発性作業流体を外部から添加して分子蒸留する
ことも,環境汚染物質を除去することも記載されていないから,当業者が甲1
4文献の開示を甲1発明1と結びつけることはない。
また,そもそも甲1公報の記載に接した当業者は,分子蒸留の温度を125
℃より上げれば,価値ある多不飽和脂肪酸の損失が増大すると予測するから,
甲1発明1において,分子蒸留の温度を150~270℃に上げることを試
みる余地はない。
したがって,当業者が相違点3に係る本件訂正発明1の構成に想到するこ
とは容易ではないから,本件審決の上記判断は誤りである。
相違点4についての判断の誤り
本件審決は,甲1発明1においても環境汚染物質として「多塩素化ビフェニ
ル(PCB類)」が規定されているから,相違点4は実質的な相違点ではない
旨判断する。
しかし, 述べたとおり,甲1公報の環境汚染物質除去に関する唯
一の実施例である実施例3において,エステル交換生成物から除去されてい
るのはα-BCH等のみであるところ,これらは本件訂正発明1の環境汚染
物質には含まれない。
そして,本件優先日当時,臭素化難燃剤やPCBは,α-BCH等と比較し
て蒸気圧が低く沸点が高いことは周知であったから,当業者であれば,α-B
CH等を除去するための分子蒸留条件では,臭素化難燃剤やPCBは容易に
除去できないことを当然に予測する。

してみると,当業者が,海産油からの臭素化難燃剤やPCBの除去に甲1発
明1を適用することを試みることはなく,相違点4に係る本件訂正発明1の
構成に想到することは容易ではない。
したがって,本件審決の相違点4についての判断は誤りである。
3 取消事由3(本件訂正発明1について,顕著な効果についての判断の誤り)
本件審決は,グリセリド(脂肪)を含む魚油などの油組成物について,元来含
有されているコレステロール,臭気物などの不要物又は不純物を分子蒸留によ
り除去するに当たり,穏やかな温度条件で蒸留による十分な目的物の除去を行
うことを意図し,脂肪酸エステルなどの低沸点成分を油組成物に添加した後分
子蒸留することは,当業者の周知技術であり,甲1発明1において,当該周知技
術を組み合わせて脂肪酸エステルなどの低沸点成分を添加使用した場合,穏や
かな温度条件で分子蒸留をすることにより環境汚染物質を含む不要物を十分に
除去できるであろうことは当業者が予期することができるから,本件訂正発明
の効果は,当業者が予期し得ない程度の格別顕著なものとはいえない旨判断す
る。
しかし,本件訂正発明1によれば,揮発性作業流体を外部から海産油に添加し
て,150~270℃という穏やかな温度条件のストリッピング処理過程に付
すことで,回収目的とする多不飽和脂肪酸等の品質を劣化させることなく,海産
油中にppbレベルで含まれる臭素化難燃剤およびPCBからなる群より選択
される環境汚染物質を,検出限界以下の非常に低いレベルまで低減できること
は,本件訂正明細書の実施例の記載等から明らかであるところ,以下に述べると
おり,このような優れた効果は,甲1公報の開示や周知技術からは予測できない
ものであるから,本件審決の上記判断は誤りである。
甲1発明1の方法は,EPA,DHA等のグリセ
リドの高度精製組成物を得るために,分子蒸留を125℃で行っているもの
であるが,この温度では,魚油などの海産油中にppbレベルで存在する臭素

化難燃剤やPCBを十分に除去することはできず,現に,甲1発明1において
エステル交換生成物から除去されている環境汚染物質は,比較的沸点の低い
α-BCH等のみである。したがって,当業者は,甲1発明1の方法では,α
-BCH等より沸点の高い臭素化難燃剤やPCBは除去できないと当然に予
測する。
しかも,甲1公報の実施例に開示されるデータ(実施例2a,実施例3の表
Ⅶ)からは,甲1発明1の方法では,比較的沸点の低い環境汚染物質であるD
DTについても,甲26と比較してその除去率が向上していないことが明ら
かであるから,甲1公報の記載に接した当業者は,甲1発明1の方法によって
海産油中のPCBや臭素化難燃剤が十分に除去できると予想することはな
い。
また,前記2 述べたとおり,甲2文献及び甲3明細書の記載に基づい
て,臭素化難燃剤やPCBのような環境汚染物質を含む不要物,不純物全般に
ついてまで,
「穏やかな温度条件での十分な目的物の除去を分子蒸留により行
うために脂肪酸エステルを含む油組成物を構成すること」が周知技術であっ
たとすることはできない。
さらに, PCB,臭素化難燃剤などの
環境汚染物質を分子蒸留で除去するには,先に遊離脂肪酸を除去してから分
子蒸留に供することが本件優先日当時の技術常識であったから,この点から
も,遊離脂肪酸などの揮発性作業流体を出発物質に添加することで,優れた除
去効果が奏されることが予測できなかったことは明らかである。
4 取消事由4(本件訂正発明2について,相違点の認定,相違点についての判断
及び顕著な効果についての判断の誤り)
本件審決には,以下に述べるとおり,本件訂正発明2と甲1発明1との相違点
の認定,相違点についての判断及び顕著な効果についての判断を誤った違法が
ある。

相違点の認定の誤り
ア 本件審決の相違点2及び3の認定に誤りがあることは,本件訂正発明1
に関して述べたとおりである。
イ 本件審決は,本件訂正発明2と甲1発明1との相違点6の認定において,
「環境汚染物質」につき,「甲1発明1では,「殺虫剤および多塩素化ビフ
ェニル(PCB類)等」である」と認定する。
しかし,上記認定に誤りがあることは,本件訂正発明1に係る相違点4の
認定の誤りに関して述べたとおりである。
相違点についての判断の誤り
ア 本件審決の相違点2及び3についての判断に誤りがあることは,本件訂
正発明1に関して述べたとおりである。
イ 本件審決の相違点6についての判断に誤りがあることは,本件訂正発明
1に係る相違点4についての判断の誤りに関して述べたとおりである。
顕著な効果についての判断の誤り
本件訂正発明に顕著な効果がないとした本件審決の判断が誤りであること
は,本件訂正発明1に関して述べたとおりである。
5 取消事由5(本件訂正発明4ないし6及び9について,相違点の認定,相違点
についての判断及び顕著な効果についての判断の誤り)
本件審決には,以下に述べるとおり,本件訂正発明4ないし6及び9と甲1発
明1との相違点の認定,相違点についての判断及び顕著な効果についての判断
を誤った違法がある。
⑴ 相違点の認定の誤り
ア 本件審決の相違点2及び3の認定に誤りがあることは,本件訂正発明1
に関して述べたとおりである。
イ 本件審決は,本件訂正発明4と甲1発明1との相違点6-1,本件訂正発
明5と甲1発明1との相違点6-2並びに本件訂正発明6及び9と甲1発

明1との相違点6’の認定において,「環境汚染物質」につき,「甲1発明
1では,「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等」である」と認
定する。
しかし,上記認定に誤りがあることは,本件訂正発明1に係る相違点4の
認定の誤りに関して述べたとおりである。
ウ 相違点の看過
本件訂正発明6と甲1発明1は,本件訂正発明6では,海産油に外部から
添加されるのが,
「C10~C22脂肪酸およびC1~C4アルコールから
構成される少なくとも1つの脂肪酸エステル」であるのに対して,甲1発明
1では,エステル交換反応によって反応混合物中に生成される脂肪酸エス
テルの炭素数が限定されていない点においても相違する。
したがって,本件審決の認定は,上記の相違点を看過した点においても誤
っている。
⑵ 相違点についての判断の誤り
ア 本件審決の相違点2及び3についての判断に誤りがあることは,本件訂
正発明1に関して述べたとおりである。
イ 本件審決の相違点6-1,6-2及び6’についての判断に誤りがあるこ
とは,本件訂正発明1に係る相違点4についての判断の誤りに関して述べ
たとおりである。
顕著な効果についての判断の誤り
本件訂正発明に顕著な効果がないとした本件審決の判断が誤りであること
は,本件訂正発明1に関して述べたとおりである。
6 取消事由6(本件訂正発明12及び13について,相違点の認定,相違点につ
いての判断及び顕著な効果についての判断の誤り)
本件審決には,以下に述べるとおり,本件訂正発明12及び13と甲1発明1
との相違点の認定,相違点についての判断及び顕著な効果についての判断を誤

った違法がある。
相違点の認定の誤り
ア 本件審決の相違点2及び3の認定に誤りがあることは,本件訂正発明1
に関して述べたとおりである。
イ 本件審決は,本件訂正発明12と甲1発明1との相違点6’ 及び本件訂

正発明13と甲1発明1との相違点6-1’の認定において,「環境汚染物
質」につき,「甲1発明1では,「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PC
B類)等」である」と認定する。
しかし,上記認定に誤りがあることは,本件訂正発明1に係る相違点4の
認定の誤りに関して述べたとおりである。
ウ 相違点7の認定の誤り
本件審決は,本件訂正発明12及び13と甲1発明1との相違点7とし
て,「本件訂正発明12では,「(揮発性作業流体):(食用であるかまた
は化粧品中に用いるための海産油)の比が1:100~15:100であ」
り,本件訂正発明13では,「(揮発性作業流体):(食用であるかまたは
化粧品中に用いるための海産油)の比が3:100~8:100であ」るの
に対し,甲1発明1では,「飽和および単不飽和脂肪酸とC1~C6アルコ
ールとの脂肪酸エステル」 「油組成物」
と との組成比につき特定されていな
い点」を認定する。
しかし,甲1発明1において脂肪酸エステルが生成されるのは,魚油をエ
ステル交換に付して化学的に変化させた混合物中であるから,甲1発明1
において,本件訂正発明12及び13の「(揮発性作業流体):(食用であ
るかまたは化粧品中に用いるための海産油)の比」に対応するのは,「(エ
ステル交換後の混合物中のエチルエステル) (エステル交換後の混合物中

のモノグリセリド,ジグリセリド及びトリグリセリド)の比」である。
しかるところ,甲1公報の実施例3のエステル交換生成物に対応する実

施例2a及び2bに関する記載によれば,甲1発明1においては,(エチル
エステル) (モノグリセリド,
: ジグリセリド及びトリグリセリドの混合物)
=42.2:57.9~46.2:52.0である(31,32頁表Ⅳ,Ⅵ)。
したがって,本件審決の相違点7の認定は誤りであり,正しくは,「本件
訂正発明12では,「(揮発性作業流体):(食用であるかまたは化粧品中
に用いるための海産油)の比が1:100~15:100であ」り,本件訂
正発明13では,「(揮発性作業流体):(食用であるかまたは化粧品中に
用いるための海産油)の比が3:100~8:100であ」るのに対し,甲
1発明1では,「(飽和および単不飽和脂肪酸とC1~C6アルコールとの
脂肪酸エステル):(油組成物)の比が72.9:100(判決注:「42.
2:57.9」と同じ。)~88.8:100(判決注:「46.2:52.
0」と同じ。)である点」と認定されるべきである。
相違点についての判断の誤り
ア 本件審決の相違点2及び3についての判断に誤りがあることは,本件訂
正発明1に関して述べたとおりである。
イ 本件審決の相違点6’ 及び相違点6-1’
’ についての判断に誤りがある
ことは,本件訂正発明1に係る相違点4についての判断の誤りに関して述
べたとおりである。
ウ 相違点7についての判断の誤り
本件審決は,相違点7に係る本件訂正発明12及び13の構成について,
甲3明細書における,臭素化難燃剤と比較してはるかに揮発性の高い臭気
物の除去に関する開示から,
「甲1発明1における脂肪酸エステルの量を油
組成物全体に対して比較的少量(例えば1~15:100)として分子蒸留
に付し,揮発性を有する臭素化難燃剤を除去することは,上記公知技術に基
づき,当業者が適宜なし得ることである」と判断する。
しかし,相違点7は,上記⑴ウのとおりに認定されるべきところ,これに

よれば,本件訂正発明12及び13の(揮発性作業流体):(食用であるか
または化粧品中に用いるための海産油)の比と,甲1発明1の(飽和および
単不飽和脂肪酸とC1~C6アルコールとの脂肪酸エステル):(油組成物)
の比は著しく異なるから,当業者がこの相違点に想到することが容易では
ないことは明らかである。
また,仮に,本件審決の相違点7の認定を前提としても,甲3明細書で
は,脱臭目的でストリッピングを行っており,臭素化難燃剤のような揮発性
の低い環境汚染物質を除去することについての開示や示唆はないから,当
業者が,甲1発明1に甲3明細書に記載の条件を適用しようとする動機付
けは存在しない。
しかも,甲3明細書には,本件訂正発明13に係る「(揮発性作業流体)
:(食用であるかまたは化粧品中に用いるための海産油)の比が3:100
~8:100」に該当する記載はないから,仮に甲3明細書に記載の条件を
適用しても,相違点7を解消することはできない。
したがって,本件審決の上記判断は誤りである。
顕著な効果についての判断の誤り
本件訂正発明に顕著な効果がないとした本件審決の判断が誤りであること
は,本件訂正発明1に関して述べたとおりである。
7 取消事由7(本件訂正発明14ないし16について,相違点の認定,相違点に
ついての判断及び顕著な効果についての判断の誤り)
本件審決には,以下に述べるとおり,本件訂正発明14ないし16と甲1発明
1との相違点の認定,相違点についての判断及び顕著な効果についての判断を
誤った違法がある。
相違点の認定の誤り
ア 本件審決の相違点2の認定に誤りがあることは,本件訂正発明1に関し
て述べたとおりである。

イ 本件審決は,本件訂正発明14ないし16と甲1発明1との相違点3-
1の認定において,「甲1発明1では,分子蒸留の際の温度条件及び圧力条
件につき特定されていない」と認定する。
しかし,本件訂正発明1に係る相違点3の認定の誤りに関して述べたと
おり,甲1発明1の分子蒸留は,甲1公報の実施例2の条件である「125
℃」の温度条件及び「0.005mbar」の圧力条件で行われていると認
められるから,本件審決の相違点3-1の認定は誤りであり,正しくは,相
違点3-1として,「本件訂正発明14及び本件訂正発明15では,「スト
リッピング処理過程が,150~200℃の間の温度で実行され」るもので
あり,また,本件訂正発明16では,「ストリッピング処理過程が,1mb
arより低い圧力で実行され」るものであるのに対し,甲1発明1では,分
子蒸留の際の温度条件は125℃であり,圧力条件は0.005mbarで
ある点」と認定されるべきである。
ウ 本件審決は,本件訂正発明14と甲1発明1との相違点6-1’’,本件
訂正発明15と甲1発明1との相違点4-1及び本件訂正発明16と甲1
発明1との相違点6-2’の認定において,「環境汚染物質」につき,「甲
1発明1では,「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等」である」
と認定する。
しかし,上記認定に誤りがあることは,本件訂正発明1に係る相違点4の
認定の誤りに関して述べたとおりである。
相違点についての判断の誤り
ア 本件審決の相違点2についての判断に誤りがあることは,本件訂正発明
1に関して述べたとおりである。
イ 本件審決の相違点3-1についての判断に誤りがあることは,本件訂正
発明1に係る相違点3についての判断の誤りに関して述べたとおりであ
る。

ウ 本件審決の相違点6-1’’,相違点4-1及び相違点6-2’について
の判断に誤りがあることは,本件訂正発明1に係る相違点4についての判
断の誤りに関して述べたとおりである。
顕著な効果についての判断の誤り
本件訂正発明に顕著な効果がないとした本件審決の判断が誤りであること
は,本件訂正発明1に関して述べたとおりである。
8 取消事由8(本件訂正発明17について,相違点の認定,相違点についての判
断及び顕著な効果についての判断の誤り)
本件審決には,以下に述べるとおり,本件訂正発明17と甲1発明1との相違
点の認定,相違点についての判断及び顕著な効果についての判断を誤った違法
がある。
相違点の認定の誤り
ア 本件審決の相違点2及び3の認定に誤りがあることは,本件訂正発明1
に関して述べたとおりである。
イ 本件審決は,本件訂正発明17と甲1発明1との相違点6-1’’’の認
定において,「環境汚染物質」につき,「甲1発明1では,「殺虫剤および
多塩素化ビフェニル(PCB類)等」である」と認定する。
しかし,上記認定に誤りがあることは,本件訂正発明1に係る相違点4の
認定の誤りに関して述べたとおりである。
相違点についての判断の誤り
ア 本件審決の相違点2及び3についての判断に誤りがあることは,本件訂
正発明1に関して述べたとおりである。
イ 本件審決の相違点6-1’’’についての判断に誤りがあることは,本件
訂正発明1に係る相違点4についての判断の誤りに関して述べたとおりで
ある。
顕著な効果についての判断の誤り

本件訂正発明に顕著な効果がないとした本件審決の判断が誤りであること
は,本件訂正発明1に関して述べたとおりである。
9 取消事由9(本件訂正発明18について,相違点の認定,相違点についての判
断及び顕著な効果についての判断の誤り)
本件審決には,以下に述べるとおり,本件訂正発明18と甲1発明1との相違
点の認定,相違点についての判断及び顕著な効果についての判断を誤った違法
がある。
相違点の認定の誤り
ア 本件審決の相違点2及び3の認定に誤りがあることは,本件訂正発明1
に関して述べたとおりである。
イ 本件審決の相違点6-1’’’の認定に誤りがあることは,上記8⑴イの
とおりである。
ウ 相違点の看過
本件訂正発明18と甲1発明1は,本件訂正発明18では,海産油(つま
り,揮発性作業流体が外部から添加されてストリッピング処理過程に付さ
れる対象)がトリグリセリド形態の脂肪酸であるのに対し,甲1発明1で
は,内部に脂肪酸エステルが生成されて分子蒸留に付される対象が,魚油を
エステル交換に付してトリグリセリド形態の脂肪酸の大部分を,モノグリ
セリド,ジグリセリド及びエステルに化学的に変化させた混合物であると
いう点においても相違する。
したがって,本件審決の認定は,上記の相違点を看過した点においても誤
っている。
相違点についての判断の誤り
ア 本件審決の相違点2及び3についての判断に誤りがあることは,本件訂
正発明1に関して述べたとおりである。
イ 本件審決の相違点6-1’’’についての判断に誤りがあることは,本件

訂正発明1に係る相違点4についての判断の誤りに関して述べたとおりで
ある。
ウ 相違点8についての判断の誤り
本件審決は,相違点8に係る本件訂正発明18の構成について,甲1発明
1における分子蒸留を薄膜蒸留により行うに当たり,甲14文献に記載の
蒸留条件に係る技術常識又は周知慣用技術に基づき,当業者が容易になし
得ることである旨判断する。
しかし,甲14文献には,魚油に揮発性作業流体を添加して分子蒸留する
ことも,環境汚染物質を除去することも記載されていないから,当業者が甲
14文献に開示される蒸留条件を甲1発明1に適用しようと試みることは
ない。
したがって,本件審決の相違点8についての判断は誤りである。
エ 本件審決が看過した相違点について
甲1発明1の最大の目的は,リパーゼを利用して魚油をエステル交換す
ることでEPA及びDHAのグリセリドに富む画分を得ることであるか
ら,甲1公報には,そこに開示される方法を,エステル交換処理されていな
い「トリグリセリド形態の脂肪酸である海産油」に適用させる動機付け(つ
まり,海産油をエステル交換反応させることなく,外部から脂肪酸エステル
を添加して分子蒸留させる動機付け)は一切存在しない。
したがって,甲1発明1において,本件審決が看過した上記⑴ウの相違点
に係る本件訂正発明18の構成(海産油がトリグリセリド形態の脂肪酸で
あること)に想到することは容易でない。
顕著な効果についての判断の誤り
本件訂正発明に顕著な効果がないとした本件審決の判断が誤りであること
は,本件訂正発明1に関して述べたとおりである。
10 取消事由10(本件訂正発明19について,相違点の認定,相違点についての

判断及び顕著な効果についての判断の誤り)
本件審決には,以下に述べるとおり,本件訂正発明19と甲1発明2との相違
点の認定,相違点についての判断及び顕著な効果についての判断を誤った違法
がある。
相違点の認定の誤り
本件審決の相違点2’,3’及び6’’’の認定に誤りがあることは,それ
ぞれ本件訂正発明1に係る相違点2ないし4に関して述べたとおりである。
相違点についての判断の誤り
本件審決の相違点2’,3’及び6’’’についての判断に誤りがあること
は,それぞれ本件訂正発明1に係る相違点2ないし4に関して述べたとおり
である。
顕著な効果についての判断の誤り
本件訂正発明に顕著な効果がないとした本件審決の判断が誤りであること
は,本件訂正発明1に関して述べたとおりである。
11 取消事由11(本件訂正発明20について,相違点の認定,相違点についての
判断及び顕著な効果についての判断の誤り)
本件審決には,以下に述べるとおり,本件訂正発明20と甲1発明2との相違
点の認定,相違点についての判断及び顕著な効果についての判断を誤った違法
がある。
相違点の認定の誤り
ア 本件審決の相違点2’,3’及び6-1’’’’の認定に誤りがあること
は,それぞれ本件訂正発明1に係る相違点2ないし4に関して述べたとお
りである。
イ 相違点の看過
本件訂正発明20と甲1発明2は,本件訂正発明20では,海産油(つま
り,揮発性作業流体が外部から添加されてストリッピング処理過程に付さ

れる対象)がトリグリセリド形態の脂肪酸であるのに対し,甲1発明2で
は,内部に脂肪酸エステルが生成されて分子蒸留に付される対象が,魚油を
エステル交換に付してトリグリセリド形態の脂肪酸の大部分を,モノグリ
セリド,ジグリセリド及びエステルに化学的に変化させた混合物であると
いう点においても相違する。
したがって,本件審決の認定は,上記の相違点を看過した点においても誤
っている。
相違点についての判断の誤り
ア 本件審決の相違点2’,3’及び6-1’’’’についての判断に誤りが
あることは,それぞれ本件訂正発明1に係る相違点2ないし4に関して述
べたとおりである。
イ 本件審決が看過した相違点について
甲1発明2において,本件審決が看過した上記⑴イの相違点に係る本件
訂正発明20の構成(海産油がトリグリセリド形態の脂肪酸であること)に
想到することが容易でないことは,本件訂正発明18に関して述べたとお
りである。
顕著な効果についての判断の誤り
本件訂正発明に顕著な効果がないとした本件審決の判断が誤りであること
は,本件訂正発明1に関して述べたとおりである。
12 取消事由12(本件訂正発明21について,相違点の認定,相違点についての
判断及び顕著な効果についての判断の誤り)
本件審決には,以下に述べるとおり,本件訂正発明21と甲1発明2との相違
点の認定,相違点についての判断及び顕著な効果についての判断を誤った違法
がある。
相違点の認定の誤り
ア 本件審決の相違点2’,3’,6’’’及び6-1’’’’の認定に誤り

があることは,それぞれ本件訂正発明1に係る相違点2ないし4に関して
述べたとおりである。
イ 相違点の看過
本件審決に,相違点(海産油がトリグリセリド形態の脂肪酸である点に係
る相違点)を看過した誤りがあることは,上記 イで述べたとおりであ
る。
相違点についての判断の誤り
ア 本件審決の相違点2’,3’,6’’’及び6-1’’’’についての判
断に誤りがあることは,それぞれ本件訂正発明1に係る相違点2ないし4
に関して述べたとおりである。
イ 相違点9についての判断の誤り
本件審決は,相違点9に係る本件訂正発明21の構成について,甲1発明
2における脂肪酸エステルとして,魚油などの油組成物に対し低級アルコ
ールを反応させてメチルエステルなどの揮発性成分を生産する方法におけ
る生成物をさらに複数回の分子蒸留によって分画した揮発性画分を使用す
ることは,甲3明細書記載の周知技術に基づき,当業者が適宜なし得ること
である旨判断する。
しかし,脂肪酸エステルは,甲1発明2において出発物質から除去すべき
対象であり,これをあえて魚油などの精製対象(出発物質)に添加しようと
する動機付けは一切存在しないから,相違点9に係る構成に想到すること
は当業者にとって容易ではない。
そして,本件審決が依拠する甲3明細書の「経済的に…高度不飽和エステ
ル…から分離されたより低分子量のエステルを使用する」との記載は,脱臭
に関するものであり,そこに開示されるのは,揮発性が高く分子蒸留等で容
易に除去できる臭気物を除去するための技術にすぎないから,当業者は,甲
3明細書に開示される技術によっては,臭気物と比べてはるかに揮発性が

低い臭素化難燃剤は除去できないと予想するのが当然であり,この技術を
臭素化難燃剤,特にBDE47,BDE99およびBDE100からなる群
より選択される臭素化難燃剤の除去に適用しようと試みることはない。
したがって,本件審決の相違点9についての判断は誤りである。
ウ 本件審決が看過した相違点について
甲1発明2において,本件審決が看過した上記⑴イの相違点に係る本件
訂正発明21の構成(海産油がトリグリセリド形態の脂肪酸であること)に
想到することが容易でないことは,本件訂正発明18に関して述べたとお
りである。
顕著な効果についての判断の誤り
本件訂正発明に顕著な効果がないとした本件審決の判断が誤りであること
は,本件訂正発明1に関して述べたとおりである。
取消事由13(本件訂正発明22について,相違点の認定及び判断の誤り)
本件審決は,本件訂正発明22と甲1発明3について,「海産油製品」の点で
一致し,本件訂正発明22では,「請求項1記載の方法に従って調製される」も
のであるのに対し,甲1発明3では,「甲1発明1の方法に従って環境汚染物質
が除去された」ものである点(相違点10)で相違するが,十分に環境汚染物質
の低減化がなされた海産油(製品)として,本件訂正発明22に係る「請求項1
記載の方法に従って調製される海産油製品」と,甲1発明3の「甲1発明1の方
法に従って環境汚染物質が除去された」海産油製品とは実質的に相違しない旨
判断する。
しかし,前記1⑶で述べたとおり,甲1発明1においてエステル交換生成物か
ら除去されている環境汚染物質は,α-BCH等のみであり,臭素化難燃剤やP
CBのような揮発性の低い環境汚染物質は除去されていないから,本件審決の
相違点10の認定は誤りであり,正しくは,相違点10として,「本件訂正発明
22では,「請求項1記載の方法に従って調製され,臭素化難燃剤およびPCB

からなる群より選択される環境汚染物質が除去された」ものであるのに対し,甲
1発明3では,「甲1発明1の方法に従ってα-BCH,HCB,総DDT,ト
キサフェンが除去された」ものである点」と認定されるべきである。
そうすると,上記の相違点が実質的な相違点であることは明白であるから,本
件訂正発明22は甲1発明3と実質的に相違しないものとはいえない。
したがって,本件審決の上記判断は誤りである。
取消事由14(本件訂正発明23ないし27について,相違点の認定及び判
断の誤り)
本件審決は,本件訂正発明22と甲1発明3とが実質的に相違しないとの判
断を前提として,本件訂正発明22を引用し,その用途をそれぞれ限定する本件
訂正発明23ないし27について,これらの用途に限定することは当業者が適
宜なし得ることであるから,上記各発明は甲1発明3に基づき当業者が容易に
発明をすることができたものである旨判断する。
しかし,本件訂正発明22と甲1発明3との間に実質的な相違点があること
は上記 で述べたとおりであり,また,この相違点を解消することは,当業者に
とって容易ではないというべきである。
したがって,本件審決の上記判断は誤りである。
第4 被告の主張
1 取消事由1(本件訂正発明1について,相違点の認定の誤り)に対し
「相違点2の認定の誤り」に対し
原告は,本件訂正発明1で精製対象となる「海産油」は,主としてトリグリ
セリド形態の脂肪酸を含むものであるのに対し,甲1発明1において魚油の
エステル交換によって生成されるのは,最初に存在した魚油とは異なる組成
の混合物に化学的に変化したものであって,「海産油」には相当しないから,
この点の相違を看過してされた本件審決の相違点2の認定は誤りであり,正
しくは,相違点2-1及び2-2が認定されるべきである旨主張する。

しかし,本件訂正明細書の段落【0057】では,「油および脂肪」は,「
トリグリセリドおよびリン脂質形態のうちの少なくとも1つでの脂肪酸を意
味する」と定義され,海産油は,「魚またはその他の海洋性供給源からの,そ
してトリグリセリドの形態で脂肪酸,例えば多価不飽和脂肪酸を含有するそ
のまままたは部分的に処理された油のいずれかであってもよい」とされてい
る。そして,甲1発明1において,魚油をエステル交換に付した後の油組成物
も,依然としてトリグリセリドを含有しているから,当該油組成物も,本件訂
正発明1の「海産油」に該当する。
原告は,本件訂正発明1の「海産油」は「主としてトリグリセリド形態の脂
肪酸を含む」という独自の解釈を主張するが,当該解釈は,本件訂正明細書上
の根拠を欠いており,誤りである。
また,仮に,原告主張の相違点2-1及び2-2が存在するとしても,当該
相違点の存在は,本件審決の結論に影響を及ぼすものではない。すなわち,本
件審決は,相違点2に関し,エステル交換によって脂肪酸エステルを生成さ
せることに代えて,飽和及び単不飽和脂肪酸とC1~C6アルコールとのエス
テルを外部から添加し,相違点2を解消することは当業者が容易に想到し得
た事項であると判断したが,この判断と同一の過程により,相違点2-1及
び2-2も解消される。
したがって,相違点2の認定の誤りに係る原告の主張は理由がない。
「相違点3及び4の認定の誤り」に対し
原告は,甲1発明1における分子蒸留の温度及び環境汚染物質の種類は,実
施例3に示された「125℃」及び「α-BCH等」に限定されるとして,本
件審決の相違点3及び4の認定に誤りがある旨を主張する。
しかし,甲1公報には,分子蒸留の温度及び環境汚染物質の種類を実施例3
のものに限定することなく,環境汚染物質を除去する方法が明記され(請求項
22,16及び17頁),また,環境汚染物質の例として,PCB類が繰り返

し記載されている(甲1公報の11頁及び16頁)から,甲1発明1における
分子蒸留の温度及び環境汚染物質の種類が実施例3のものに限定される理由
はなく,本件審決の相違点3及び4の認定に誤りはない。
また,原告は,甲1発明1において,分子蒸留温度を125℃より高くする
と甲1発明1の目的を果たせない旨主張する。
しかし,蒸留温度は,圧力によっても異なるほか,目的に応じ,様々な要素
(例えば,蒸留に付す組成物の組成,蒸留物中に分離すべき成分,残物中に保
持すべき目的成分の濃度,原料中の当該目的成分のうち残物に回収された割
合(回収率))を考慮して決定されるものであり,甲1公報の実施例2a及び
2bでは,特定の組成物について「125℃」の蒸留温度が選択されている
が,他の組成物の蒸留では,その組成物に応じ,蒸留温度が決定されることに
なる。
したがって,甲1発明1に係る分子蒸留温度について,甲1公報の実施例と
いう特定の態様に係る分子蒸留温度に限定する理由はない。
以上によれば,相違点3及び4の認定の誤りに係る原告の主張は理由がな
い。
2 取消事由2(本件訂正発明1について,相違点についての判断の誤り)に対し
「相違点2についての判断の誤り」に対し
ア 「操作目的についての判断の誤り」に対し
原告は,甲1発明1において,目的物からの除去対象である「所望でない
飽和及び単不飽和脂肪酸」のエステルを生成することが「操作目的」とはな
り得ないから,環境汚染物質を除去するために分子蒸留に付すべき脂肪酸
エステルを含む油組成物を生成するという操作目的の点で,甲1発明1と
本件訂正発明1とは技術的に軌を一にするとした本件審決の判断は誤りで
ある旨主張する。
しかし,甲1公報では,穏やかな条件での分子蒸留により環境汚染物質を

除去するための手段として,リパーゼによるエステル交換によって飽和及
び単不飽和脂肪酸のエステルを生成しており(請求項22,16及び17
頁),請求項22においては,「環境汚染物質の除去のための方法」が規定
され,脂肪酸エステルは「環境汚染物質の除去」に用いられているのである
から,甲1発明1において,脂肪酸エステルの生成は,意図的に行われてい
るものであって,操作目的そのものである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
イ 「周知技術についての認定の誤り」に対し
原告は,甲2文献及び甲3明細書の記載に基づいて油組成物に低沸点成
分を添加して蒸留する技術を周知技術であるとした本件審決の認定は誤り
である旨主張するが,以下に述べるとおり,その主張には理由がない。
原告は,脂肪酸などの添加後に分子蒸留で除去される対象について,甲
2文献では,PCB及び臭素化難燃剤より濃度が高い「コレステロール」
のみが記載され,甲3明細書では「臭気物」のみが記載されており,本件
訂正発明1のPCB及び臭素化難燃剤とは異なるものである旨主張す
る。
しかし,魚油の脱臭(蒸留)による分離対象は,揮発性成分全般であり,
揮発性が同じ物質は,化学構造が異なっていようと,蒸留にとっては等
価である。また,魚油中には,様々な揮発性成分が含まれており,コレス
テロールだけでも0.5%を超えており,これらの揮発性成分の合計濃
度は高い。原告は,PCB及び臭素化難燃剤の濃度のみを抜粋して独自
の主張をしているが,かかる主張は,蒸留及び熱力学の誤解に基づく誤
った主張である。
原告は,甲3明細書の4欄40ないし44行(甲57抄訳)等の記載を
根拠として,甲3明細書では分子蒸留は100℃以下で行われるべきも
のとされているから,この記載に基づく周知技術は,分子蒸留の温度を1

50℃以上とする上で阻害要因となり得る旨主張する。
しかし,甲3明細書の実施例6には,200℃での分子蒸留が記載され
ているから,原告の上記主張は,当該実施例6を恣意的に省略したもので
あって,失当である。
魚油の分野において,低沸点成分を魚油に添加した後に蒸留し,目的物
を気相に分離する技術が本件優先日前からの周知技術であったことは,
甲2文献及び甲3明細書のほか,魚油から脂溶性ビタミンを気相に分離
するに当たり,ビタミンと沸点の近い液体物質を魚油に添加し,その混合
物を真空蒸留に付す技術が記載された米国特許第2146894号明細
書(甲4)及び魚油からコレステロールを除去するため,モノグリセリド
を添加して分子蒸留を行う技術が記載された特開昭60-23493号
公報(甲5)からも明らかである。
ウ 「容易想到性判断の誤り」に対し
原告は,甲1発明1において,当業者が相違点2に係る本件訂正発明1の
構成に想到する動機付けはなく,かえって阻害要因が存在するから,相違点
2についての容易想到性を認めた本件審決の判断は誤りである旨主張す
る。
しかし,以下に述べるとおり,この点に関する原告の主張は理由がない。
原告は,甲1発明1の技術的特徴は,多不飽和脂肪酸の高濃度組成物を
回収するためにリパーゼを利用して魚油を選択的にエステル交換する点
にあるところ,甲1発明1のエステル交換工程を揮発性作業流体を添加
する工程で置換すれば,選択的エステル交換ができなくなり,甲1発明1
の上記目的は達成できなくなるから,甲1発明1のエステル交換に代え
て,相違点2に係る本件訂正発明1の構成を採用することには,阻害要因
がある旨主張する。
しかし,甲1公報には,環境汚染物質の除去という利点があることが

記載されており(11頁及び16頁),環境汚染物質の除去は,甲1発明
1の目的である。
他方,魚油中の脂肪酸のうちEPA及びDHAを高濃度に濃縮する技
術は,本件優先日当時において既に技術常識であり,EPA及びDHA
の高濃度組成物を回収するためには,魚油から環境汚染物質を除去した
後,この技術常識の手段を適用すれば足りる。甲1公報にも,高濃度のE
PA及びDHAを最終目的物とする場合には,リパーゼを用いたエステ
ル交換の後,非選択的な化学反応による全ての脂肪酸のエステル化工程
とその後の脂肪酸エステル間の分離による濃縮工程を行うことが記載さ
れており(請求項10及び11,図1,18頁19行ないし19頁10行
及び実施例2a),このような後続の工程は,技術常識そのものである。
したがって,高濃度(例えば,85%以上)のEPA及びDHAを最終
目的物とする場合,甲1発明1におけるリパーゼによるエステル交換は,
環境汚染物質をより穏和な条件での蒸留によって分離するため,低沸点
成分を生成している点に技術的な意味があるというべきであり,穏やか
な条件の蒸留による環境汚染物質の除去を実現する目的で,リパーゼを
用いたエステル交換による脂肪酸エステルの生成に代えて,脂肪酸エス
テルを添加することは,当業者が容易に想到し得た事項である。
原告は,リパーゼを用いたエステル交換による脂肪酸エステルの生成
に代えて脂肪酸エステルを添加すると,甲1発明1の目的が達成できな
くなる旨主張するが,上記のとおり,甲1公報には,技術常識に沿って,
EPA及びDHAの濃縮のため,非選択的な化学反応による全ての脂肪
酸のエステル化工程とその後の脂肪酸エステル間の分離による濃縮工程
を付加することが記載されており,リパーゼによるエステル交換に代え
て脂肪酸エステルを添加しても,後続の工程でEPA及びDHAが濃縮
できるのであるから,原告主張の甲1発明1の目的は,何ら損なわれな

い。
また,原告は,甲1発明1において,エステル交換反応で生成される飽
和及び単不飽和脂肪酸のエステルは,本来除去すべき副生成物であるか
ら,これをあえて精製対象に添加しようと動機付けられることはない旨
主張する。
しかし,魚油に脂肪酸エステルを添加して蒸留に付し,環境汚染物質
を除去する工程は,非選択的に脂肪酸をエステル化して脂肪酸エステル
間を分離する工程とは別の工程であり,その前段に位置する。後段の工
程(非選択的なエステル化及び脂肪酸エステル間の分離)では,魚油中
に,飽和又は単飽和の短鎖脂肪酸エステルが,EPA及びDHAの濃縮
物の製造における副生成物として生じるが,このような副生成物を,次
の原料の処理の際に前段の工程で再利用することは,経済的であり,当
然に採用すべき事項である。現に,甲3明細書では,後段の工程によって
副生した短鎖脂肪酸エステルを低沸点成分として再利用することが記載
されている(5欄46ないし68行)。
したがって,副生成物である短鎖脂肪酸エステルを低沸点成分として
添加する積極的な動機付けはあるというべきであり,原告の上記主張は
誤りである。
さらに,原告は,脂肪/油から不要物等を分子蒸留で除去するには,先
に遊離脂肪酸を除去してから分子蒸留に付すことが本件優先日当時の技
術常識であったから,遊離脂肪酸などの揮発性作業流体を海産油にあえ
て添加する動機付けは存在しない旨主張する。
しかし,アルカリ精製によって遊離脂肪酸を除去した油では,260℃
の分子蒸留(乙11の88頁第2パラグラフ)及び250℃の真空水蒸気
蒸留(甲33)によってPCBが除去できたのに対し,アルカリ精製を行
わない場合には,より低温(例えば,180ないし220℃(甲29号証

の1)及び200℃(乙1号証))の分子蒸留によってPCBが除去でき
たことからすれば,PCBを除去するためには遊離脂肪酸を除去してか
ら分子蒸留に付す必要があるとの原告の主張は誤りである。
「相違点3についての判断の誤り」に対し
原告は,甲14文献には,揮発性作業流体を外部から添加して分子蒸留する
ことも,環境汚染物質を除去することも記載されていないから,当業者が甲1
4文献の開示を甲1発明1と結びつけることはない旨主張する。
しかし,甲14文献は,分離技術に関する書籍であり,本件優先日当時の蒸
留の技術常識を示すものであって,生産用の分子蒸留装置及びその運転条件
が記載されているものである(241頁及び244頁)から,これらの条件を
甲1発明1における分子蒸留に適用することは容易であり,原告の上記主張
は誤りである。
また,原告は,甲1公報の記載に接した当業者は,分子蒸留の温度を125
℃より上げれば,価値ある多不飽和脂肪酸の損失が増大すると予測するから,
甲1発明1において,分子蒸留の温度を150~270℃に上げることを試
みる余地はない旨主張するが,このような主張に理由がないことは,前記1

「相違点4についての判断の誤り」に対し
原告は,甲1発明1における「環境汚染物質」は,α-BCH等に限定され
る旨主張する
りである。
また,仮に,甲1発明1の「環境汚染物質」がα-BCH等に限定されると
しても,PCBの環境汚染が問題となっていたこと及びその除去が求められ
ていたことは本件優先日当時の技術常識であるから,甲1発明1において,P
CBを除去対象とすることは,当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって,甲1発明において,当業者が相違点4に係る本件訂正発明1の

構成に容易に想到し得ないとする原告の主張は理由がない。
3 取消事由3(本件訂正発明1について,顕著な効果についての判断の誤り)に
対し
原告は,揮発性作業流体を外部から海産油に添加して,150~270℃とい
う穏やかな温度条件のストリッピング処理過程に付すことで,回収目的とする
多不飽和脂肪酸等の品質を劣化させることなく,海産油中にppbレベルで含
まれる臭素化難燃剤およびPCBからなる群より選択される環境汚染物質を,
検出限界以下の非常に低いレベルまで低減できるという本件訂正発明1の効果
は,甲1公報の開示や周知技術からは予測できないものであるから,本件訂正発
明1の顕著な効果を否定した本件審決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,穏やかな温度条件での蒸留のために低沸点成分を添加することは周
知技術であり(甲2ないし5),しかも,揮発性作業流体を添加しなくても,1
80ないし260℃の分子蒸留によって魚油からPCBを除去できることは,
本件優先日当時の技術常識であったから,原告の主張する本件訂正発明1の効
果は,何ら新たな課題を解決するものではない。
また,原告の上記主張は,甲1発明1における分子蒸留温度が125℃である
こと(したがって,当該温度では,臭素化難燃剤やPCBを十分に除去できない
こと)を前提とするものであるところ,このような前提が誤りであることは,前

さらに,原告は,甲1公報の実施例に開示されるデータ(実施例2a,実施例
3の表Ⅶ)から,比較的沸点の低い環境汚染物質であるDDTについても除去率
が向上していない旨主張するが,上記データによれば,脱気及び予備的な分子蒸
留により,DDTは検出限界未満まで除去されている。原告の主張は誤った除去
率の計算に基づくものである。
したがって,本件訂正発明1の顕著な効果を否定した本件審決の判断に誤り
はなく,原告の上記主張は理由がない。

4 取消事由4(本件訂正発明2について,相違点の認定,相違点についての判断
及び顕著な効果についての判断の誤り)に対し
原告の主張は,本件訂正発明1についての相違点2ないし4に関する主張(取
消事由1及び2)及び顕著な効果に関する主張(取消事由3)と同様である。
したがって,取消事由1ないし3について述べたのと同様の理由により,取消
事由4に関する原告の主張も誤りである。
5 取消事由5(本件訂正発明4ないし6及び9について,相違点の認定,相違点
についての判断及び顕著な効果についての判断の誤り)に対し
原告の主張のうち,相違点2,3,6-1,6-2及び6’に関する主張は,
本件訂正発明1についての相違点2ないし4に関する主張(取消事由1及び
2)と同様であり,顕著な効果に関する主張は,取消事由3の主張と同様であ
る。
したがって,取消事由1ないし3について述べたのと同様の理由により,原
告の上記各主張は誤りである。
「相違点の看過」に対し
原告は,本件訂正発明6と甲1発明1は,本件訂正発明6では,海産油に外
部から添加されるのが「C10~C22脂肪酸およびC1~C4アルコール
から構成される少なくとも1つの脂肪酸エステル」であるのに対して,甲1
発明1では,エステル交換反応によって反応混合物中に生成される脂肪酸エ
ステルの炭素数が限定されていない点においても相違するとして,本件審決
に上記相違点の看過がある旨を主張する。
しかし,魚油中の脂肪酸の炭素数は,魚油の一般的な組成により特定されて
おり,C14ないしC22の脂肪酸がトリグリセリドの形態で含まれている(甲
21・183頁)。そして,甲1発明1のとおり,リパーゼによりアルコール
の存在下でエステル交換を行うと,C14ないしC22脂肪酸と当該アルコール
とのエステルが生成するが,甲1公報には,アルコールとしてC1ないしC6

アルコールが記載され,その中でもエタノール(C2)が好ましいとされ(1
5頁),実施例でもエタノールが使用されているから,甲1発明において,C
14 ないしC22脂肪酸とC2アルコールとの脂肪酸エステルが生成することは
明らかである。
したがって,本件訂正発明6と甲1発明1との間には,原告主張の相違点は
ない。
6 取消事由6(本件訂正発明12及び13について,相違点の認定,相違点につ
いての判断及び顕著な効果についての判断の誤り)に対し
原告の主張のうち,相違点2,3,6’’及び6-1’に関する主張は,本
件訂正発明1についての相違点2ないし4に関する主張(取消事由1及び2)
と同様であり,顕著な効果に関する主張は,取消事由3の主張と同様である。
したがって,取消事由1ないし3について述べたのと同様の理由により,原
告の上記各主張は誤りである。
「相違点7の認定の誤り」に対し
原告は,甲1発明1における「(揮発性作業流体):(食用であるかまたは
化粧品中に用いるための海産油)の比」について,甲1公報の実施例2a及び
2bの値のとおりに認定されるべきことを前提に,本件審決の相違点7の認
定に誤りがある旨を主張する。
しかし,特許文献に記載された発明は,実施例の発明に限定されるわけで
はない。そして,甲1公報の請求項22及び16,17頁には,エステル交換
反応によって生成する脂肪酸エステルの量を特定することなく,脂肪酸エス
テルを含む油組成物の蒸留により環境汚染物質を除去する発明が記載されて
いる。
したがって,原告の上記主張は誤りである。
「相違点7についての判断の誤り」に対し
原告は,本件審決の相違点7の認定を前提としても,甲3明細書では,脱臭

目的でストリッピングを行っており,臭素化難燃剤のような揮発性の低い環
境汚染物質を除去することについての開示等はなく,本件訂正発明13に係
る「(揮発性作業流体):(食用であるかまたは化粧品中に用いるための海産
油)の比が3:100~8:100」に該当する記載もないから,甲3明細書
の開示から,相違点7に係る構成の容易想到性を認めた本件審決の判断は誤
りである旨主張する。
しかし,甲3明細書における脱臭(蒸留)では,臭気成分だけでなく,添加
した脂肪酸エステル(実施例5)又は炭化水素(実施例6)及び魚油に元来含
まれている遊離脂肪酸も分離されているから,甲3明細書では臭気物のみが
分離対象であるかのように述べる原告の主張は誤りである。
また,本件優先日当時,脱臭(科学的には蒸留)の対象は魚油中の揮発性成
分全般に及んでおり,臭素化難燃剤及びPCBも,トリグリセリドよりも揮
発性の高い成分であり,脱臭の対象であったものといえるから,この点から
も原告の主張は誤りといえる。
さらに,甲3明細書の実施例6では,ニシン油に対し5%の炭化水素が添
加されており,甲3明細書には,(揮発性作業流体):(食用であるかまたは
化粧品中に用いるための海産油)の比が5:100の記載があるといえるか
ら,甲3明細書に当該比が「3:100~8:100」に該当する記載がない
とする原告の主張も誤りである。
したがって原告の上記主張は誤りである。
7 取消事由7(本件訂正発明14ないし16について,相違点の認定,相違点に
ついての判断及び顕著な効果についての判断の誤り)に対し
原告の主張のうち,相違点2,6-1’’,4-1及び6-2’に関する主
張は,本件訂正発明1についての相違点2及び4に関する主張(取消事由1及
び2)と同様であり,顕著な効果に関する主張は,取消事由3の主張と同様で
ある。

したがって,取消事由1ないし3について述べたのと同様の理由により,原
告の上記各主張は誤りである。
「相違点3-1の認定及び判断の誤り」に対し
原告は,甲1発明1における分子蒸留の温度条件及び圧力条件が甲1公報
の実施例2aのもの(125℃,0.005mbar)に限定して認定される
ことを前提に,本件審決の相違点3-1の認定に誤りがある旨を主張する。
しかし,甲1発明1に係る分子蒸留の温度等の条件を実施例の態様に限定
すべき理由はないから,原告の上記主張は誤りである。
また,原告は,本件訂正発明1についての相違点3に関する主張と同様の理
由により,本件審決の相違点3-1についての判断にも誤りがある旨主張す
るが,取消事由2について述べたのと同様の理由により,当該主張は誤りであ
る。
8 取消事由8(本件訂正発明17について,相違点の認定,相違点についての判
断及び顕著な効果についての判断の誤り)に対し
原告の主張は,本件訂正発明1についての相違点2ないし4に関する主張(取
消事由1及び2)及び顕著な効果に関する主張(取消事由3)と同様である。
したがって,取消事由1ないし3について述べたのと同様の理由により,取消
事由8に関する原告の主張も誤りである。
9 取消事由9(本件訂正発明18について,相違点の認定,相違点についての判
断及び顕著な効果についての判断の誤り)に対し
原告の主張のうち,相違点2,3及び6-1’’’に関する主張は,本件訂
正発明1についての相違点2ないし4に関する主張(取消事由1及び2)と同
様であり,顕著な効果に関する主張は,取消事由3の主張と同様である。
したがって,取消事由1ないし3について述べたのと同様の理由により,原
告の上記各主張は誤りである。
「相違点の看過」に対し

原告は,本件訂正発明18と甲1発明1には,本件審決が看過した新たな
相違点がある旨及び当該相違点に係る本件訂正発明18の構成(海産油がト
リグリセリド形態の脂肪酸であること)は容易に想到し得ない旨を主張する
が,その主張は,本件訂正発明1についての相違点2に関する主張と実質的
に同一である。
したがって,取消事由1及び2について述べたのと同様の理由により,原告
の上記主張も誤りである。
取消事由10(本件訂正発明19について,相違点の認定,相違点についての
判断及び顕著な効果についての判断の誤り)に対し
本件訂正発明19は,使用の発明であるが,その内容は,実質的には,方法の
発明である本件訂正発明1と重複する。
そして,取消事由10に関する原告の主張は,本件訂正発明1についての相違
点2ないし4に関する主張(取消事由1及び2)及び顕著な効果に関する主張
(取消事由3)と同様である。
したがって,取消事由1ないし3について述べたのと同様の理由により,取消
事由10に関する原告の主張も誤りである。
取消事由11(本件訂正発明20について,相違点の認定,相違点についての
判断及び顕著な効果についての判断の誤り)に対し
原告の主張のうち,相違点2’,3’及び6-1’’’’に関する主張は,
本件訂正発明1についての相違点2ないし4に関する主張(取消事由1及び
2)と同様であり,顕著な効果に関する主張は,取消事由3の主張と同様であ
る。
したがって,取消事由1ないし3について述べたのと同様の理由により,原
告の上記各主張は誤りである。
「相違点の看過」に対し
原告は,本件訂正発明20と甲1発明2には,本件審決が看過した新たな

相違点がある旨及び当該相違点に係る本件訂正発明20の構成(海産油がト
リグリセリド形態の脂肪酸であること)は容易に想到し得ない旨を主張する
が,その主張は,本件訂正発明1についての相違点2に関する主張と実質的
に同一である。
したがって,取消事由1及び2について述べたのと同様の理由により,原告
の上記主張も誤りである。
取消事由12(本件訂正発明21について,相違点の認定,相違点についての
判断及び顕著な効果についての判断の誤り)に対し
原告の主張のうち,相違点2’,3’,6’’’及び6-1’’’’に関す
る主張は,本件訂正発明1についての相違点2ないし4に関する主張(取消事
由1及び2)と同様であり,顕著な効果に関する主張は,取消事由3の主張と
同様である。
したがって,取消事由1ないし3について述べたのと同様の理由により,原
告の上記各主張は誤りである。
「相違点の看過」に対し
原告は,本件訂正発明21と甲1発明2には,本件審決が看過した新たな
相違点がある旨及び当該相違点に係る本件訂正発明21の構成(海産油がト
リグリセリド形態の脂肪酸であること)は容易に想到し得ない旨を主張する
が,その主張は,本件訂正発明1についての相違点2に関する主張と実質的
に同一である。
したがって,取消事由1及び2について述べたのと同様の理由により,原告
の上記主張も誤りである。
「相違点9についての判断の誤り」に対し
原告は,相違点9に係る本件訂正発明21の構成に関し,甲3明細書記載の
周知技術に基づき当業者が適宜なし得るとした本件審決の判断は誤りである
旨主張し,その理由として,甲1発明2において脂肪酸エステルは出発物質か

ら除去すべき対象であり,これをあえて魚油などの精製対象(出発物質)に添
加しようとする動機付けがないこと,甲3明細書に開示されるのは,揮発性の
高い臭気物を除去するための技術であり,これを,揮発性の低い臭素化難燃剤
に適用しようと試みることはないことなどを主張する。
しかし,甲1発明2において,副生成物である短鎖脂肪酸エステルを低沸点

述べたとおりである。
また,原告は,甲3明細書が臭気成分の除去のみを目的としているかのよう
に主張
である。
したがって,原告の上記主張は誤りである。
取消事由13(本件訂正発明22について,相違点の認定及び判断の誤り)に
対し
原告は,本件訂正発明22に係る「請求項1記載の方法に従って調製される海
産油製品」と,甲1発明3の「甲1発明1の方法に従って環境汚染物質が除去さ
れた」海産油製品とは実質的に相違しないとした本件審決の判断は誤りである
旨主張し,その理由として,甲1発明1においてエステル交換生成物から除去さ
れている環境汚染物質は,α-BCH等のみであり,臭素化難燃剤やPCBのよ
うな揮発性の低い環境汚染物質は除去されていないことを主張する。
しかし,甲1発明1において除去される環境汚染物質が,実施例3のα-BC
H等に限定されるものでないことは,本件訂正発明1についての相違点4の認
定の誤りに関して述べたとおりである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
取消事由14(本件訂正発明23ないし27について,相違点の認定及び判断
の誤り)に対し
原告は,本件訂正発明22と甲1発明3との間に実質的な相違点がないとし

た本件審決の判断が誤りであることを前提として,本件訂正発明23ないし2
7の容易想到性を認めた本件審決の判断も誤りである旨主張する。
しかし,本件訂正発明22に関する本件審決の判断に誤りがないことは前記

第5 当裁判所の判断
1 本件訂正発明について
本件特許の本件訂正後の特許請求の範囲の記載は,前記第2の2のとおり
である。
そして,本件訂正明細書(甲58)の発明の詳細な説明には,本件訂正発明
に関し,次のような記載がある(下記記載中に引用する【図1】については別
紙1を参照)。
ア 技術分野
【0001】
本発明は,食用であるかまたは化粧品中に用いるための脂肪または油を
含む混合物中の環境汚染物質の量を低減するための方法に関する。本発明
は,揮発性環境汚染物質低減作業流体にも関する。さらに本発明は,上記の
方法に従って調製される健康サプリメント,医薬品,化粧品および動物飼料
製品に関する。
イ 背景技術
【0002】
DDT(2,2ビス-(p-クロロフェニル)-1,1,1-トリクロロ
エタン)およびその分解産物は,今日,地球環境のほとんどどこでも見出さ
れる。多数の研究も,例えば海洋性生物体の沈殿物(deposit)中の,しば
しば比較的高濃度の環境汚染物質,例えばPCB,ダイオキシンおよび臭素
化難燃剤,ならびに殺虫剤,例えばトキサフェンおよびDDTならびにその
代謝産物の蓄積に関して報告している。ヒトおよび動物の両方に対するこ

れらの化合物の害毒は,食物および食料品中の有毒物質の含量についての
漸増する問題を引き起こしてきた。…
【0003】
汚染物質を全く含有しないかまたはその量を低減された食物製品が人気
を獲得しつつあり,ならびに市場の占有率を増大させつつある。その結果と
して,食物製品中の汚染物質の除去または低減は,市場性および価値を実質
的に増大させる可能性を有する。
【0004】
海産油,例えば魚油中の商業的に重要な多価不飽和脂肪酸は,好ましくは
EPA(エイコサペンタエン酸,C20:5n-3)およびDHA(ドコサ
ヘキサエン酸,C22:6n-3)である。…多くの目的のために,海産油
は,EPAおよび/またはDHAの含量を適切なレベルに増大させるため
に,あるいは生油中に天然に生じるある種のその他の物質の濃度を低減す
るかまたは排除さえするために,精製される必要がある。
【0005】
脂肪酸EPAおよびDHAはまた,特に製薬および栄養補助食品産業に
おいて漸増的に有益性を提供しつつある。工程のいくつかにおいて温度を
できるだけ低く保持することも,魚油およびその他の温度感受性油(例えば
長鎖多価不飽和脂肪酸を含有する油)にとって非常に重要である。
【0006】
高品質の海産油に対する需要は,増大しつつある。…環境汚染物質がこの
ような魚油から首尾よく除去され得るならば,それらは動物飼料産業に,例
えば動物飼料製品に用いるのに適している。
【0007】
文献から,分子蒸留,あるいはその技術を言い換えた場合のショートパス
蒸留は,魚油から殺虫剤DDTおよびその代謝物を除去するために用いら

れ得る,ということが知られている…。実用的な上限は65%の除去で,ビ
タミンAの約25%の損失を伴った。多数の工業的魚油精製法において,6
5%までのDDTの除去は,満足ではない。
【0012】
…脂肪または油からの環境汚染物質の除去が些細な事柄ではない…。こ
の仕事を成し遂げるための,…数種の異なる技法が開発されてきたが,それ
らの中で,脂肪または油に対して十分に有効で且つ穏やかであるものはな
い。…
ウ 発明が解決しようとする課題
【0013】
本発明の一目的は,食用であるかまたは化粧品中に用いるための脂肪ま
たは油中の,環境汚染物質の量を低減するための有効な方法を提供するこ
とである。
エ 課題を解決するための手段
【0014】
本発明の第1の態様に従って,この,およびその他の目的は,食用である
かまたは化粧品中に用いるための脂肪または油(環境汚染物質を含有する)
を含む混合物中の環境汚染物質の量を低減するための方法であって,以下
の:揮発性作業流体を該混合物に添加する過程であって,該揮発性作業流体
が脂肪酸エステル,脂肪酸アミド,遊離脂肪酸…のうちの少なくとも1つを
含む過程,および該混合物を添加された該揮発性作業流体とともに少なく
とも1回のストリッピング処理過程に付す過程であって,食用であるかま
たは化粧品中に用いるための脂肪または油中に存在するある量の環境汚染
物質が該揮発性作業流体と一緒に該混合物から分離される過程を包含する
方法を用いて達成される。本明細書中で,「ある量」とは,いくつかの環境
汚染物質の95~99%までの量の低減,即ち脂肪または油組成物からの

特定汚染物質および/または毒性成分の実質的な除去を包含すると解釈さ
れる。
【0016】
…揮発性作業流体の使用の利点は,混合物中のある量の環境汚染物質が,
該揮発性作業流体と一緒に容易にストリッピングされ得る,即ち,脂肪また
は油混合物中に存在する該環境汚染物質が,該作業流体と一緒に該混合物
から分離される,ということである。好ましくはこれは,該揮発性作業流体
が,脂肪または油混合物から除去されるべき環境汚染物質と揮発性が本質
的に等しいかまたはそれより少ない限り可能である。…
【0017】
さらに,…脂肪酸エステル,脂肪酸アミド,遊離脂肪酸…のうちの少なく
とも1つを含む揮発性作業流体の使用は,本発明の方法の使用が,魚油中の
ダイオキシンの量を95%より多く低減することになる。本発明の方法を
用いることにより,…塩素化有機殺虫剤(または汚染物質)(該汚染物質は
DDTよりさらに低揮発性であり,例えばダイオキシン,トキサフェンおよ
び/またはPCBである)の量を低減することもできる。高度不飽和油でさ
え分解させない穏和な条件を用いて,本発明に従って脂肪または油混合物
からこのような重く且つ望ましくない成分を分離することは,驚くべきこ
とである。さらに,先行技術からの既知の技法と比較して,本発明のストリ
ッピング法に従って,遙かにより低温で有効量のPAHを低減させること
が可能である。
【0018】
…揮発性作業流体を添加することのもう1つ別の利点は,遊離脂肪酸の
除去が容易化されるということであり,これはより高品質の油製品を結果
として与えるであろう。
【0026】

本発明の…好ましい実施形態では,…好ましくは,食用であるかまたは化
粧品中に用いるための脂肪または油は,海産油である。環境汚染物質を全く
含有しないかまたはその量を低減された海産油が人気を獲得しつつあり,
ならびに市場の占有率を増大させつつある。…したがって,本発明のより好
ましい実施形態では,該海産油は,トリグリセリドの形態で少なくとも飽和
および不飽和脂肪酸を含有し,魚または海洋哺乳類から得られる。…
【0030】
本発明の好ましい実施形態では,上記ストリッピング処理過程は120
~270℃の範囲の温度で実行される。
【0031】
最も好ましい実施形態では,該ストリッピング処理過程は,150~20
0℃の間の温度で実行される。この温度で該脂肪または油混合物に揮発性
作業流体を添加することにより,温度に弱い多価不飽和油でさえ,該油の品
質の劣化を生じることなく,良好な効果を伴って処理され得るということ
を,驚くべきことに本発明は示した。
【0040】
好ましくは,該揮発性環境汚染物質低減作業流体は,分留産物として生成
される。さらに,該揮発性環境汚染物質低減作業流体は,エチルおよび/ま
たはメチルエステル濃縮物の製造のための通常方法からの副産物,例えば
蒸留画分である。本発明のこの副産物は,脂肪または油中の環境汚染物質の
量を低減するための新規の方法に用いられ得る。より好ましくは,…揮発性
環境汚染物質低減作業流体は,エチルエステル濃縮物の製造のための通常
方法からの副産物(留出物画分)であり得るが,この場合,…好ましくは魚
油が,エチル化工程,そして好ましくは二段階分子蒸留に付される。該二段
階分子蒸留工程において,エチルエステル形態での多数の脂肪酸からなる
混合物が,揮発性(軽画分),重(残留物画分)および生成物画分に,お互

いに分離される。一次蒸留からの揮発性画分はもう一度蒸留され,そして二
次蒸留工程からの揮発性画分はその場合少なくとも該揮発性作業流体,好
ましくは脂肪酸エチルエステル画分から構成される。この画分は,…それが
適していると思われる場合には,1回以上再蒸留され得る。調製されたこの
作業流体は次に,脂肪または油中の環境汚染物質の量を低減するための新
規の方法における作業流体として用いられ得る…。
【0047】
さらに本発明は,上記の方法のうちの少なくとも1つに従って調製され
る海産油製品をも開示する。好ましくは,該海産油製品は,魚油または魚油
組成物を基礎にしたものである。
【0048】
さらに,高品質の海産油に対する需要が存在する。この問題は,魚油産業
に,代替的精製技法を考えるのを余儀なくさせるものである。さらに,本発
明による方法のうちの1つを用いることにより,良好な結果を伴って,例え
ば低品質を有する海産油中の環境汚染物質の量を同時に低減させ,および
/または遊離脂肪酸の量を低減させることが,今や可能である。このような
油は,例えば動物飼料製品中に用いられるのに適している。該油または脂肪
が多量の遊離脂肪酸で構成される場合,該遊離脂肪酸は,該ストリッピング
工程における揮発性作業流体として作用してもよい。
【0049】
本発明のもう1つ別の好ましい実施形態では,動物飼料製品は少なくと
も海産油を含有するが,該海産油は,該海産油中の環境汚染物質の量および
/または遊離脂肪酸の量を低減させるために,前に示された方法のうちの
1つに従って調製される。好ましくは,該動物飼料製品は,魚飼料製品であ
る。
オ 定義

【0057】
本明細書中で用いる場合,油および脂肪という用語は,トリグリセリドお
よびリン脂質形態のうちの少なくとも1つでの脂肪酸を意味する。一般に,
該ストリッピング工程における出発原料が海産油である場合,該油は魚ま
たはその他の海洋性供給源からの,そしてトリグリセリドの形態で脂肪酸,
例えば多価不飽和脂肪酸を含有するそのまままたは部分的に処理された油
のいずれかであってもよい。典型的には,このような海産油中の各々のトリ
グリセリド分子は,飽和,一価不飽和または多価不飽和であるか,あるいは
長鎖または短鎖である異なる脂肪酸エステル部分を,多かれ少なかれ無作
為に含有するであろう。…さらに,該脂肪または油は,上記のようにストリ
ッピング工程における出発原料を構成する前に,1つまたはいくつかの過
程において前処理されてもよい。このような前処理過程の一例は,脱臭工程
である。…
【0059】
本明細書中で用いる場合,作業流体という用語は,C10~C22脂肪酸
およびC1~C4アルコールから構成されるエステル,C10~C22脂
肪酸およびC1~C4アミンから構成されるアミド,C10~C22遊離
脂肪酸,鉱油,炭化水素およびバイオディーゼルのうちの少なくとも1つを
含む,適切な揮発性を有する溶媒,溶媒混合物,組成物および画分,例えば
蒸留工程からの画分を含むものと解釈される。
【0061】
さらに,本明細書中で用いる場合,ストリッピングという用語は,液体流
から気体化合物を除去し,分離しまたは(強制的に)追い出すための一般的
方法を含むものと解釈される。さらに,本明細書中で好ましい「ストリッピ
ング処理過程」という用語は,1つ以上の蒸留除去または蒸留方法,例えば
ショートパス蒸留,薄膜蒸留(薄膜ストリッピングまたは薄膜(蒸気)スト

リッピング),薄膜降下式蒸留および分子蒸留,ならびに蒸発法により,油
または脂肪中の環境汚染物質の量を低減させるための方法/工程に関する
ものである。
【0064】
本明細書中で用いる場合,海産油という用語は,魚類,甲殻貝類(甲殻類)
および海洋哺乳類からの油を含む。魚油の非限定例としては,例えば,メン
ヘイデン油,タラ肝油,ニシン油,カペリン油,サーディン油,アンチョビ
油およびサーモン油である。上記の魚油は,魚の器官から回収されてもよく
(例えばタラ肝油) ならびに魚肉からまたは魚の体全体から回収されても

よい。
カ 発明を実施するための最良の形態
【0076】
分子蒸留前に揮発性作業流体を添加することにより,食用であるかまた
は化粧品中に用いるための脂肪または油中の環境汚染物質の量を低減させ
るための方法の第1の実施形態が,図1に示されている。本発明の第1の実
施形態における食用であるかまたは化粧品中に用いるための出発原料であ
る脂肪または油は,環境汚染物質のレベルにより特徴化される,新たに精製
されたものか,元に戻されたものか,またはこれらの混合物かの魚油であ
る。環境汚染物質の正確な量は,魚種,季節性,地理的捕獲場所等のような
因子によって変わる。
【0077】
本明細書中で用いる場合,分子蒸留という用語は,高真空で,そして好ま
しくは低温(120℃を超える)で実施される蒸留工程である。本明細書中
では,縮合および蒸発表面は,油組成物に対する損害を最小にするために,
互いに短距離内にある。この技法は,ショートパス蒸留とも呼ばれ,市販の
設備が容易に入手可能である。

【0078】
図1に例示される分子蒸留プラント(1)は,ミキサー(2),予熱器
(3),脱気器(4),蒸留ユニット(5)および真空ポンプ(6)を含む。
この実施形態に従って,エチルエステル画分(該油に比して6%)を含む揮
発性作業流体が,魚油混合物に添加され,ミキサー(2)中で配合される。
該油混合物は次に任意に,油供給速度(本明細書中では約400kg/時)
を制御するための手段(3),例えば通常の絞り弁に通される。次に該魚油
混合物は,予熱手段(3),例えばプレート式熱交換器で予熱されて,予熱
された魚油混合物が提供される。該混合物は次に,脱気過程(4)を通され
て,分子パス(経路,path)距離エバポレーター(5),管(7)中にアド
ミットされ,縮合(8)およびエバポレーション(9)表面を包含する。0.
1~0.001mbarの圧力および約200℃の温度で,該ストリッピン
グ工程が実行される。濃縮されるべき該魚油混合物は,回転するブレードに
より管(7a)に入ると集められる。該ブレードは該管の底近くまで伸び
て,それらの先端と該管の内表面との間に約1.3mmの隙間が存在するよ
う,据え付けられる。さらに,該ブレードは外部モーターにより駆動され
る。該魚油混合物は該管の壁に対して投入され,直ちに薄膜へと広げられ,
そしてエバポレーション表面に迅速に押さえつけられる。該薄膜は重力に
より流れ落ち,それが落ちると濃縮されるようになる。加熱された壁および
高真空は,環境汚染物質と一緒に該揮発性作業流体をストリッピングし,即
ち接近して配置された内部濃縮器(8)に引き出される該揮発性成分(留出
物)が多いほど,そのシリンダーを下り続ける該揮発性成分(残渣)は少な
くなる。その結果得られる画分,少なくとも脂肪酸EPAおよびDHAを含
有するストリッピングされた魚油混合物が分離され,個々の流出口(10)
を通して出る。
キ 実施例

【実施例1】
【0082】
…以下の実施例は,分子蒸留による魚油の異なる精製からの,いくつかの
結果を要約するものである。
【0083】
[実験室での実験のための設備および条件]
以下の実施例1~3では,デカクロロビフェニル0.60mg/kgを,
汚染物質モデル物質として魚油組成物に添加した。デカクロロビフェニル
中の高い塩素含量により,この化合物が,環境汚染物質,例えばPCB,D
DTおよびその代謝物,トキサフェン,ダイオキシンおよび臭素化難燃剤よ
り,低揮発性であることが確実になる。
【0084】
別記しない限り,全ての実施例において,圧力は0.001mbarであ
った。しかしながら,これは圧力指標の下限であり,実際の圧力は変化する
であろう。それが,実施例によって結果が多少(やや)変動する理由である。
蒸留設備が安定な条件下に作動している場合,有意の変動は予測されない。
しかしながらこれは,一定の圧力が本発明を実行するための非常に強力な
条件ではない,ということを指摘するものである。
【実施例2】
【0085】
[実施例1:作業流体添加の効果]
トリグリセリド形態での脂肪酸およびデカクロロビフェニル(0.60m
g/kg)を,魚油に比して8%((揮発性作業流体):(魚油)の比が約
8:100である),作業流体(本明細書中ではエチルエステル)とともに
または伴わずに含有する魚油組成物を,実験室規模の分子蒸留により,60
0ml/時の速度および180℃の温度で蒸留した。用いたエチルエステ

ル混合物は,EPAおよびDHAエチルエステル濃縮物の生成物からの副
産物(留出物画分)であった。
【0086】
【表1】


【0087】
表1における結果は,魚油組成物への揮発性作業流体の添加が,デカクロ
ロビフェニルの除去に,驚くべきそして劇的な効果を有する,ということを
示す。ここで,95%より多くの量のデカクロロビフェニルが,分子蒸留に
より該魚油混合物から除去されている(「ストリッピングされ」た)。
前記 によれば,本件訂正明細書には,本件訂正発明に関し,次のような開
示があることが認められる。
すなわち,従来から,商業的に重要な多価不飽和脂肪酸(EPA及びDHA)
を含有する海産油において,ヒト及び動物に有害なPCB,臭素化難燃剤等の
環境汚染物質を除去し,品質や価値を向上させることが試みられ(段落【00
02】ないし【0006】,その方法として,分子蒸留,ショートパス蒸留等

が用いられ得ることも知られていたが,環境汚染物質の除去率において満足
のいくものではなく,また,油に対して十分に有効で且つ穏やかであるもので
はなかった(段落【0007】,
【0012】。
) しかるところ,本件訂正発明は,
食用であるかまたは化粧品中に用いるための海産油中の,環境汚染物質の量
を低減するための有効な方法を提供することを課題とし(段落【0013】,

脂肪酸エステル,脂肪酸アミド,遊離脂肪酸のうちの少なくとも一つを含む揮

発性作業流体を海産油に添加し,海産油を添加された揮発性作業流体ととも
に少なくとも1回のストリッピング処理過程に付すことにより,海産油中に
存在する環境汚染物質を揮発性作業流体と一緒に海産油から分離することで
上記課題を解決するものであり(段落【0014】【0076】及び【007

8】,
) 揮発性作業流体を使用することにより,高度不飽和油を分解させない穏
和な条件を用いて,魚油中のダイオキシンの量を95%より多く低減するこ
とができ,また,塩素化有機殺虫剤又はPCBを含む汚染物質の量を低減する
ことができ(段落【0017】【0031】及び【0087】,さらに,遊離
, )
脂肪酸の除去が容易化され,より高品質の油製品を得ることができる(【00
18】)という効果を奏するものである。
2 甲1公報の記載
甲1公報(特表平9-510091号公報)には,次の記載がある(下記記載
中に引用する【図1】については別紙2を参照)。
特許請求の範囲
ア 「1.より高い濃度の多不飽和脂肪酸を有する精製された生成物を得るた
めに,トリグリセリドの形態で飽和および不飽和脂肪酸を含有する油組成
物を処理する方法であって,次の工程:
(a) 該油組成物を,実質的に無水の条件下,かつ飽和および単不飽和脂
肪酸のエステル交換を優先的に触媒するに活性なリパーゼの存在下に,反
応中に存在するC1~C6アルコールの量が,存在するトリグリセリドに基
づいて15モル当量を超えない量であるC1~C6アルコールを用いて,エ
ステル交換反応に供する工程;そしてその後で,
(b) 多不飽和脂肪酸のグリセリドに富む残余画分を,前記リパーゼで
触媒されるエステル交換反応により製造された飽和および単不飽和脂肪酸
エステルを含有する画分から分離する工程;
を含むことを特徴とする,方法。」

イ 「22.トリグリセリドの形態で飽和および不飽和脂肪酸を含有する油
組成物からの環境汚染物質の除去のための方法であって,次の工程:
(a) 該油組成物を,実質的に無水の条件下,かつ飽和および単不飽和
脂肪酸のエステル交換を優先的に触媒するに活性なリパーゼの存在下に,
反応中に存在するC1~C6アルコールの量が,存在するトリグリセリドに
基づいて15モル当量を超えない量であるC1~C6アルコールを用いて,
エステル交換反応に供する工程;そしてその後で,
(b) 工程(a)において得られた生成物を1またはそれ以上の分子蒸
留に供して多不飽和脂肪酸のグリセリドに富み,かつ環境汚染物質が優先
的に除去された残余画分を回収する工程;
を含むことを特徴とする,方法。」
発明の詳細な説明
ア 「広く知られているように,EPAおよびDHAは特に医薬産業および
食品添加物産業においてその価値が上昇している。これらの酸はある種の
海産油…中に比較的高濃度で見出されるが,種々の目的のためには,これ
らの海産油を精製することにより,適切なレベルまでEPAおよび/また
はDHAの含有量を増加させるか,あるいは原料油中に生来的に現出する
ある種の他の物質の濃度を減少させるか,さらにはその物質を排除するこ
とが必要である。例えば医薬および食品に用いることを目的とする場合に
は,人口密集地域からかなり離れた海洋域において捕獲された魚から得ら
れたものであってさえも海産油中に広く現出する殺虫剤残渣を,実質的に
完全に排除する必要がある。

EPAおよびDHAは,多くはそのトリグリセリドとして海産油中に現
出する。現在までのところ,最も実際的な精製方法は,低分子量アルコー
ル(通常はエタノール)を用いて油をエステル化すること,または油を加

水分解して遊離酸またはその塩を形成させることのどちらかから出発し,
その後,所望の生成物を回収するための油の分別が開始されている。
しかし,海産原材料の複雑さの故に,高度に精製された形態の多不飽和脂
肪酸誘導体は,どのような単一分別技法によっても容易に調製されない。従
って,通常は複数の技法の組合せが用いられるが,その際には,原材料の組
成,濃度および生成物に求められるその他の品質基準に応じて,特定の組合
せが選択される。尿素錯化反応は,高EPAおよび/またはDHA含有量組
成物を回収する方法に広く採用されている分別技法の一つである。
…脂肪酸またはエステルを含有する海産油組成物が尿素溶液に添加され
たときに,酸の,より飽和した画分において,結晶性錯体が形成される。こ
の結晶は,より不飽和な脂肪酸または脂肪酸エステルのラフィネートから
除去され得る。
尿素錯化反応は,両方の遊離脂肪酸,ならびに脂肪酸のメチルまたはエチ
ルエステルに対して用いられている。この技法は,…連続的になされること
ができる。エステルを分別するときには,最初に油をアルコールおよび/ま
たはアルコール/水と反応させ,次に尿素錯化反応前にエステル/遊離脂
肪酸を単離することが普通の手順であると思われる。しかし,その場でのエ
ステル化と尿素分別との組合せも,…実施されることができる。
そのような方法が,例えば2またはそれ以上の工程の分子蒸留と組み合
わせて用いられれば,原料海産油由来のEPAおよびDHAが多くを占め
るn-3多不飽和脂肪酸を85重量%またはそれ以上含有する精製された
生成物を製造することが可能である。しかし,精製された生成物の総回収率
はあいにく低い。そのような従来の分別方法を用いた典型的な工業的操業
において期待し得るのは,…わずか6~8%の回収率である。この僅かな収
率は,そのような精製方法が非常に割高であることのみでなく,それらの方
法が大規模で複雑な装置を必要とすることをも意味している。

多くの環境汚染物質(例:殺虫剤および多塩素化ビフェニル)の親油性特
質は,これらの化合物の海産脂質中への集積という結果を生む。不運にも,
尿素はそのような汚染物質の多くとは錯体を形成せず,その結果,尿素錯化
反応により得られる濃縮物は,元の海産油に比べて上昇した,多くの目的に
は許容され得ないほど高いレベルの殺虫剤およびその他の環境汚染物を含
有する。従って,人間が消費するための精製魚油を製造するための,尿素錯
化反応に基づく現行の精製方法は,複雑で高価な精製手順を包含して汚染
物質レベルを許容され得る値まで減少させる必要がある。
本発明は,油組成物の多不飽和脂肪酸含量を増加させるための改良され
た方法,特にEPAおよび/またはDHAを増加した収率で魚油から回収
するための産業的方法に適合した方法を提供することを目的とする。 (6

頁23行~8頁24行)
イ 「公知のように,リパーゼは,EPAおよびDHA等の,海産油中に現出
する非常に不安定なn-3多不飽和脂肪酸を包含する方法における触媒と
しての使用に好適である。これは,低温で作用し得るリパーゼの能力,その
中性pHおよび作用の穏やかさのためであり,これらは,シス-トランス異
性体化,二重結合移行,重合化および酸化等の望ましくない副反応を最小限
に留めることを助ける。そして,海産油中の脂肪酸の加水分解のためのリパ
ーゼの利用は既によく文献に記述されている。

海産油脂肪酸のエステルを加水分解するためのリパーゼの使用に関する
この先行研究から,次のことが明らかである。即ち,異なるリパーゼが全く
異なる挙動をすること,ならびに,ある脂肪酸と別の脂肪酸との間またはあ
るタイプの脂肪酸と別のタイプの脂肪酸との間での非常に顕著な選択性が,
リパーゼによりしばしば発揮されることである。
ある種のリパーゼのこの基質選択性がズイとワードによって利用され,

そして彼らは,n-3多不飽和脂肪酸に富む画分を調製するための,タラ肝
臓油の,リパーゼで触媒されたアルコーリシスについて述べている…。この
著者らは9種類のリパーゼについて研究を行い,そして彼らはシュードモ
ナス・エスピー…のリパーゼ(Amano International
Enzyme CoからのCES)が他のリパーゼよりも高い割合で魚油
をアルコーリシスし,EPAおよびDHAに非常に富むモノグリセリドを
製造したことを見出した。この先行技術の方法において,(エタノールおよ
びイソプロパノールが使用されたが,)アルコールは,反応体と反応のため
の溶媒とを兼ねて採用された。
ズイとワードは反応媒質中の水の濃度の効果を研究し,そして彼らはリ
パーゼCESによる(イソプロパノールを用いた)アルコーリシスが0~7
.5%(v/v)の範囲内の含水量に連れて増加したことを見出した。公表され
たデータは,5%(v/v)の含水量が最適であること,および2.5%(v/v)
の含水量では油中に存在する元のトリグリセリドの40%を越えるものが
12時間後でも未反応のままであったことを示している…。付随してトリ
グリセリドから遊離脂肪酸への加水分解が(典型的には30%を越える)非
常に高い割合で生じており,例えば,5%(v/v)の含水量において,(アル
コーリシスは僅か15.5%であるのに比べて,)18.9%の加水分解が生
じている。
上記のズイとワードの方法は科学的には興味深いものであるが,不運に
も,この方法は精製EPA/DHA組成物を工業的に調製するための改良
された方法を提供していない。特に,リパーゼにより触媒された生成物中に
大量の遊離脂肪酸が不可分に存在することが,その後に所望のn-3多不
飽和脂肪酸を精製することを困難にしている。例えば,低い揮発性のため
に,従来の分子蒸留技法では遊離脂肪酸をグリセリドと分離することがで
きない。さらに,エステルおよび遊離脂肪酸は実質的に異なる極性を有し,

そしてモノ-およびジ-グリセリドはその中間的な極性であるので,抽出
法では,これらをグリセリドと分離することができない。下記に示すとお
り,これとは対照的に有利に,本発明は分子蒸留を用いて,多不飽和脂肪酸
グリセリドを飽和および単不飽和脂肪酸エステルと分離するのみならず,
同時に,所望の多不飽和脂肪酸グリセリド画分から殺虫剤および多塩素化
ビフェニル等の環境汚染物質の除去をも行うことができる。 (8頁25行

~11頁最終行)
ウ 「本発明者らは,本発明により,ズイとワードによって使用されたシュー
ドモナス・エスピー…のリパーゼを含むある種の特定のリパーゼが,実質的
に無水の反応条件下に海産油中のトリグリセリド内の飽和および不飽和脂
肪酸のエステル成分を選択的にエステル交換することに用いられ得ること
を思いがけず見出した。そのようなエステル交換が,実質的に付随する加水
分解無しに,変換の程度に応じて,主としてモノ-およびジグリセリドであ
るがトリグリセリドであってもよい,エステルとしてグリセロール成分に
結合したままの残余n-3多不飽和長鎖脂肪酸と,より感受性な飽和脂肪
酸のモノエステルの混合物をもたらすことが判明した。
より具体的には,本発明は,より高濃度の多不飽和脂肪酸を有する精製さ
れた生成物を得るために,トリグリセリドの形態で飽和および不飽和脂肪
酸を含有する油組成物を処理する方法であって,次の工程:
(a) 該油組成物を,実質的に無水の条件下,かつ飽和および単不飽和脂
肪酸のエステル交換を優先的に触媒するに活性なリパーゼの存在下に,反
応中に存在するC1~C6アルコールの量が,存在するトリグリセリドに基
づいて15モル当量を超えない量であるC1~C6アルコールを用いて,エ
ステル交換反応に供する工程;そしてその後で,
(b) 多不飽和脂肪酸のグリセリドに富む残余画分を,前記リパーゼで触
媒されるエステル交換反応により製造された飽和および単不飽和脂肪酸エ

ステルを含有する画分から分離する工程;
を含む方法を提供する。
既述の通り,本発明の方法は,海産油中で飽和および単不飽和脂肪酸のエ
ステル交換を優先的に触媒するに活性なリパーゼを利用する。…

本発明の方法の重要な特徴は,リパーゼで触媒されるエステル交換が実
質的に無水の反応条件下に実施されなければならないことである。好まし
くは,反応系内の総水量は,海産油とリパーゼを含む全ての供給源からのも
のを合わせて1%(w/w)未満でなければならず,好ましくは0.5(w/w)
未満であり,そして最も望ましくは0.01~0.25%(w/w)の間である。
(典型的な場合において,海産油出発材料は0.1~0.2%(w/w)の水を含
有し,アルコール試薬として使用される無水エタノールは0.2~0.5%
(w/w)の水を含有し,そしてリパーゼ調製物は2~2.5%(w/w)の水を
含有している。)
しかし,少量の水,一般的にはリパーゼの重量に基づいて約1~2重量%
が,活性を成立させるためには酵素系内に常に必要とされるので,完全な無
水反応条件を採用することは不可能である。…後記実施例に示すとおり,こ
れらの極少量の水は有意な加水分解を全く引き起こさず,そしてエステル
交換された生成物中の遊離脂肪酸の濃度を3重量%未満に維持すること,
即ち既述のズイとワードの報告の約10%だけの加水分解率を維持するこ
とが可能である。
本発明の別の重要な特徴は,存在するアルコールの量が,存在するトリグ
リセリドに基づいて15モル当量…を越えないように制限されなければな
らないことである…。従って,アルコールは本質的に溶媒としてよりもむし
ろ反応体として働く。海産油トリグリセリドの,リパーゼで触媒される選択
的エステル交換がそのような無溶媒反応系内で成功裏に生じることは驚く

べきことである。好ましくは,実質的に化学量論量のアルコール,即ち存在
するトリグリセリドに基づいて2~5モル当量のアルコールが採用される
が,それは化学量論量よりも大過剰の量のアルコールが所望の多不飽和脂
肪酸の低い回収をもたらすからである。
全てのC1~C6アルコールを利用可能であるが,…無水エタノールの使
用が好ましい。入手し易さおよび費用がその理由であり,また実質的に無水
な反応条件に留意してのことでもある。」(12頁1行~15頁9行)
エ 「グリセリド画分からのエチルエステル画分の分離は分子蒸留技法によ
り適切に実施されるが,該技法において,相対的に揮発性のエチルエステル
が揮発性に劣る残余グリセリド混合物から容易に除去されることができる。
エステル交換反応の生成物は実質的に無水である反応条件の使用の結果と
して,遊離脂肪酸を少量だけ含有しているので,分子蒸留後には,所望でな
い飽和および単飽和脂肪酸(判決注 「単不飽和脂肪酸」
: の誤記と思われる。)
を実質的に有しない残余画分が得られる。分子蒸留工程は少量の最も揮発
性なモノグリセリドを蒸留物中に出現させるという結果を生むことがある
が,これらのモノグリセリドは主として比較的短鎖の脂肪酸のモノグリセ
リドである(即ち,EPAまたはDHAは蒸留物中に僅かしか失われない
か,または全く失われない)。同様に,少量の低揮発性のエステル画分,即
ち主としてEPAおよびDHA等の長鎖脂肪酸のエステルが,残余グリセ
リド混合物と共に残り得る。従って,所望の多不飽和脂肪酸の比較的量の少
ない一部がエステル交換にあずかるが,それにもかかわらず,蒸留後の残余
画分中に残る。これらのことから,分子蒸留は難しい分離に適しているとは
一般的に見なされていないにもかかわらず,本発明の方法においては驚く
ほど有利であることが証明された。
殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等の環境汚染物質は長鎖脂
肪酸のグリセリドよりも揮発性であるので,分子蒸留はこれらの化合物を

グリセリド画分から除去し,そしてこれらの化合物は蒸留物(エステル画
分)中に濃縮される。これが,本発明の方法における分子蒸留の使用のさら
に別の利点である。
実際,ある特定の態様において,本発明は,トリグリセリドの形態で飽和
および不飽和脂肪酸を含有する油組成物からの環境汚染物質の除去のため
の方法であって,次の工程:
(a) 該油組成物を,実質的に無水の条件下,かつ飽和および単不飽和脂
肪酸のエステル交換を優先的に触媒するに活性なリパーゼの存在下に,反
応中に存在するC1~C6アルコールの量が,存在するトリグリセリドに基
づいて15モル当量を超えない量であるC1~C6アルコールを用いて,エ
ステル交換反応に供する工程;そしてその後で,
(b) 工程(a)において得られた生成物を1またはそれ以上の分子蒸留
に供して多不飽和脂肪酸のグリセリドに富み,かつ環境汚染物質が優先的
に除去された残余画分を回収する工程;
を含む方法を提供する。
本発明の方法は,EPAおよびDHAを40重量%を越え,好ましくは7
0重量%を越える高濃度で含有する組成物の海産供給源からの調製に特に
適合している。リパーゼで触媒されるエステル交換の生成物は所望でない
飽和および単不飽和脂肪酸を遊離酸としてよりはむしろ主としてそれらの
エチルエステル(エチルアルコールが使用された場合)の形態で含有する
(多不飽和脂肪酸は実質的にグリセリドとして残る)ので,飽和脂肪酸画分
は,所望の多不飽和脂肪酸成分の比較的少ない損失を伴う比較的穏やかな
分子蒸留により除去され得る。同時に,殺虫剤およびPCB類等の比較的揮
発性の環境汚染物質が,上記で論じたように,エチルエステル画分と共に除
去される。EPA/DHA濃縮物を製造するための従来法と比較すると,本
発明は,特にその好ましい態様において,下記のような重要な利点をもたら

す。即ち,
(i) 溶媒の不存在が嵩高性の非常な減少をもたらし,この効果は化学量
論濃度のアルコールだけを使用し得ることにより強調され;
(ⅱ) エステル交換反応が,例えば室温のような穏やかな条件下に実施さ
れ得るので,副反応を最小限にし,そして高エネルギーの入力を必要とせ
ず;
(ⅲ) EPAおよびDHAの回収が非常に高く,そして回収された生成物
は環境汚染物質による汚染を本質的に被っておらず;そして
(ⅳ) 用いられる実質的に無水である反応条件は最小限の加水分解をも
たらしそれにより,エステル交換反応からのグリセリド画分の分子蒸留が,
所望でない飽和および単不飽和脂肪酸からの所望の多不飽和脂肪酸の良好
な分離を与える。」(16頁4行~17頁27行)
オ 「本発明のアルコーリシス法は,EPA+DHA濃縮物の製造のための統
合(integral)製造方法における最初の段階となり得る。そのよう
な統合方法において,飽和脂肪酸エチルエステル画分の多不飽和脂肪酸グ
リセリド画分からの分離を実施するための分子蒸留またはその他の技法の
後,所望の多不飽和脂肪酸を含有する後者の画分はさらに,存在する特定の
酸の濃度を上昇させるために処理されることができる。例えば,高度に濃縮
されたEPAおよびDHAを含有するエチルエステル組成物を得ることが
所望であれば,分子蒸留後に得られるグリセリド画分は,例えば,触媒量の
ナトリウムエトキシドまたはカリウムエトキシド等の存在下に無水エタノ
ールを用いた化学的エステル交換によりエステル化されることができる。

次いで,製造されたグリセロールが公知の技法を用いて除去され得る。典
型的には,これは,従来法に比べて非常に良好な多不飽和脂肪酸の回収によ
る,約45~50重量%のEPA+DHA含量をもたらす。

より具体的には,本発明による高濃度EPA+DHA組成物を得るため
の統合方法は,さらに次の工程:
(c) ナトリウムエトキシドまたはカリウムエトキシド等の塩基をエス
テル交換を触媒するに充分な量だけ含有するアルカリ性環境のような化学
的触媒作用か,または実質的に無水である条件下でカンジダ・アンタラクチ
カ…のリパーゼを用いるような酵素的触媒作用を用いて,グリセリド画分
を低級アルコールによりエステル交換する工程;
(d) 得られたアルキルエステル生成物をアルカノール中で過剰の尿素
と共に55~99℃の温度に加熱する工程;
(e) 工程(d)の生成物を,例えば0~25℃に冷却して尿素脂肪酸ア
ルキルエステル付加物を沈殿し,その後,該付加物を分離除去してn-3脂
肪酸エステルを主に含有する溶液を残す工程;
(f) 工程(e)で残した溶液からn-3脂肪酸アルキルエステルを分離
する工程;および
(g) 工程(f)で得られた混合物から全ての溶媒を除去する工程;
を含む。
本発明の統合方法の特に好ましい態様において,工程(g)で得られた濃
縮物が,例えば9工程の分子蒸留のような1種類またはそれ以上の手段に
よりさらに濃縮されて,その中に含まれるEPA+DHA濃度が85重量
%またはそれ以上に上昇させられる。
添付の図1は,85重量%EPA+DHAエチルエステル濃縮物の製造
のための,本発明によるそのような統合製造方法を模式的に説明している。
例えば触媒量のナトリウムエトキシドまたはカリウムエトキシドの存在
下にエタノールを用いて行うような,グリセリド画分の化学的エステル交
換の代替として,エステル交換は,例えばカンジダ・アンタラクチカ…のリ
パーゼを用いる等,酵素的に実施されることができる。このリパーゼはn-

3多不飽和脂肪酸に対して,他の脂肪酸に対すると同様に非常に活性であ
り,そして採用されたときに,穏やかな条件下かつ溶媒の不存在下に高度に
効率的にグリセリド画分のエステル交換を実施することにより,嵩高性の
さらなる減少に寄与し得る。」(17頁最終行~19頁20行)
カ 「実施例 2
本研究は,大規模な試行において2種類のシュードモナス属…のリパー
ゼを試験するために計画した。
実施例 2a-PSL
シュードモナス・エスピー…のリパーゼ(100g,25200活性単位
/g)を魚油(1000g,約1.13モル)と無水エタノール(170g,
3.70モル)の混合物に添加した。得られた酵素懸濁液を窒素雰囲気下に
室温で磁力攪拌器で穏やかに攪拌した。反応混合液の含水量を約0.3~
0.4重量%であると計算した。
25時間後,実施例1に記載の手順に従い試料を取り出し,分析した。反
応はさらに24時間続行させた。反応混合液とリパーゼとを分離するため(
5000rpmで10分間の)遠心を採用した。
50時間後に反応を停止した時点で,生成物は下記の組成を有していた:


(判決注:MGはモノグリセリド,DGはジグリセリド,FFAは遊離脂肪
酸,TGはトリグリセリド,EEはエチルエステルを意味する。)

生成物の一部(902.4g)を真空下に80℃で脱気して揮発性成分を
除去した。揮発性成分を液体窒素で冷却したコールドトラップ内に収集し
た。脱気後,844.1gのグリセリド/エチル/エステル混合物が残っ
た。この混合物を756.3g取り,125℃,0.005ミリバール(0.
05パスカル)にて分子蒸留用蒸留器内で蒸留した。これにより358.6
g(47.4%)の蒸留物と388.3g(51.3%)の重さの残物を得
た。それぞれの画分は下記の組成を有していた。


上記表Vは,残物が47.3%のEPA+DHAを含有していること,即
ち分子蒸留前よりも高濃度にこれら所望のn-3多不飽和脂肪酸を含有し
ていることを示している(表Ⅳ参照)。これは,さらなる濃縮のためには,
公知技法を用いること,即ち分子蒸留の後に尿素画分法を用いることが理
想的であることを意味している。
蒸留物がかなりの量のモノグリセリド(10.6%)を含有している一
方,残物は2.3%のエチルエーテル(判決注:「エチルエステル」の誤記
と思われる。)を含有していることに着目すべきである。既に論じたよう
に,これらはそれぞれ,比較的単鎖の脂肪酸由来のモノグリセリドと長鎖脂
肪酸由来のエチルエステルがほとんどであろう。
実施例 2b
実施例2aで用いたと同じ油を1kg用意し,これをPFL酵素を用い
てエタノールによりエステル交換した。反応は48時間後に停止させた。中
間生成物の組成を下記表Ⅵに示す。

中間生成物を脱気し,実施例2aと同様の条件下に分子蒸留した。その結
果を下記に表として示す。


実施例 3
実施例2のそれと類似の3つのパイロットプラント試行から得られた生
成物を分析して環境汚染物質のレベルを測定した。その結果を下記表Ⅶに
示す:


上記の結果は,汚染物質がエチルエステル画分内に濃縮されることを示
している。幾つかの殺虫剤については,出発材料中のレベルが明らかに適用
した分析法の検出限界を僅かに下回っていた。これが,本発明者らがこれら
の殺虫剤をエチルエステル画分内では検出したが,元の魚油内では検出し
なかったことの原因である。奇妙なことに,DDTのレベルは,元の油と比
較してエチルエステル画分中で上昇しているようには見えない。本発明者
らはエチルエステルとグリセリドを(分子蒸留により)分離する前に,穏や
かな分子蒸留工程を実施して反応混合物中の未反応エタノールを除去した。
明らかにこのエタノール除去がDDTの一部を除去するに充分であった。
回収したエタノールの分析(PSLの実施例)は0.03mg/kgの総D
DT量を示したが,一方その他の殺虫剤は検出されなかった。」(30頁2
5行~34頁7行)
3 取消事由1(本件訂正発明1について,相違点の認定の誤り)について
「相違点2の認定の誤り」について
原告は,本件訂正発明1で精製対象となる「海産油」は,主としてトリグリ
セリド形態の脂肪酸を含むものであるのに対し,甲1発明1において分子蒸
留の対象となるのは,魚油をエステル交換に付して化学的に変化させた混合
物(トリグリセリド形態の脂肪酸の大部分が,モノグリセリド,ジグリセリド,
エステルなどに変換されたもの)であって,本件訂正発明1に係る「海産油」
には相当しないものであるから,この点を看過してされた本件審決の相違点
2の認定 は誤りである旨主張する。
しかし,原告の上記主張は,本件訂正発明1における「海産油」が,
「主と
してトリグリセリド形態の脂肪酸を含むもの」に限定されることを前提とす
るものであるところ,本件訂正明細書の「海産油」に関する記載をみても,そ
のように限定して解釈すべきことを根拠づける記載は認められない。例えば,
本件訂正明細書の段落【0026】には,
「海産油は,トリグリセリドの形態

で少なくとも飽和および不飽和脂肪酸を含有し,魚または海洋哺乳類から得
られる。」との記載があるが,この記載は,海産油が,トリグリセリドの形態
の飽和及び不飽和脂肪酸を含有すること並びに魚または海洋哺乳類から得ら
れることを述べる記載にすぎず,精製対象となる「海産油」について,その組
成が「主としてトリグリセリド形態の脂肪酸」でなければならない旨を述べる
ものとはいえない(なお,原告は,甲1公報に「EPAおよびDHAは,多く
はそのトリグリセリドとして海産油中に現出する。 との記載があることをそ

の主張の根拠とするが,当該記載も,「海産油」が必ず「主としてトリグリセ
リド形態の脂肪酸」でなければならないことまで述べるものとはいえない。 。

かえって,本件訂正明細書の段落【0057】には,「本明細書中で用いる
場合,油および脂肪という用語は,トリグリセリドおよびリン脂質形態のうち
の少なくとも1つでの脂肪酸を意味する。一般に,該ストリッピング工程にお
ける出発原料が海産油である場合,該油は魚またはその他の海洋性供給源か
らの,そしてトリグリセリドの形態で脂肪酸,例えば多価不飽和脂肪酸を含有
するそのまままたは部分的に処理された油のいずれかであってもよい。,
」「さ
らに,該脂肪または油は,上記のようにストリッピング工程における出発原料
を構成する前に,1つまたはいくつかの過程において前処理されてもよい。」
との記載があり,本件訂正発明1で精製対象となる「海産油」について,トリ
グリセリドの形態で脂肪酸を含有する「そのまま」の油のみならず,
「部分的
に処理された油」あるいは「前処置された」油でもよいことが明示されている
ところ,これら部分的に処理又は前処理された油には,当該処理の内容次第に
よっては,その組成が「主としてトリグリセリドの形態の脂肪酸」ではないも
のも含まれるものといえる。
以上のような本件訂正明細書の記載からすれば,本件訂正発明1で精製対
象となる「海産油」は,魚または海洋哺乳類から得られた,トリグリセリドの
形態で脂肪酸を含有する「そのまま」の油に限られるものではなく,これを

「部分的に処理」したもの,例えば,甲1発明1のように,魚油をエステル交
換に付して化学的に変化させた混合物をも含むものと解するのが相当である。
してみると,本件訂正発明1に係る「海産油」を上記のとおり限定して解釈
することを前提として,本件審決の相違点2の認定に誤りがあるとする原告
の主張には理由がない。
「相違点3及び4の認定の誤り」について
原告は,甲1発明1における分子蒸留の温度及び除去される環境汚染物質
の種類について,それぞれ甲1公報の実施例2及び3に示される「125℃」
及び「α-BCH等」に限定されるとして,本件審決の相違点3及び4の認定
に誤りがある旨を主張する。すなわち,原
告は,甲1公報に記載される発明においては,リパーゼにより魚油を選択的に
エステル交換して生成される「所望でない飽和および単不飽和脂肪酸」のエス
テルを,回収目的である多不飽和脂肪酸(EPA及びDHA)のグリセリドに
富む画分から除去する点に最大の技術的特徴があり,環境汚染物質の除去に
ついても,グリセリド中の多不飽和脂肪酸の濃度上昇と同時に行うものとさ
れていることからすると,甲1発明1における環境汚染物質の除去のための
分子蒸留は,
「EPAまたはDHAは蒸留物中に僅かしか失われないか,また
は全く失われない」
(甲1公報の16頁9~14行)条件で行われる必要があ
るとの前提に立った上で,この条件を満たす分子蒸留の温度は,環境汚染物質
の除去に関する実施例である実施例3における「125℃」であると認められ
るとし,更に,
「125℃」での分子蒸留では,揮発性の低いPCB類は除去
できないから,甲1発明1で除去される環境汚染物質は,多塩素化ビフェニル
(PCB類)ではなく,実施例3における「α-BCH等」であると認められ
る旨を主張するものである。
そこで,原告の上記主張の当否につき,検討する。
ア 甲1公報の記載によると,同公報において,環境汚染物質の除去に関する

測定が行われている実施例は実施例3のみであり,当該実施例では,実施例
2と同様に「125℃, 005ミリバール」
0. の条件で分子蒸留が行われ,
蒸留物(エチルエステル画分)中に「α-BCH等」が濃縮されたことが示
されている。
しかしながら,甲1公報において,環境汚染物質の除去のための方法に係
る発明を特定する特許請求の範囲請求項22の記載(前記2⑴イ)及び当該
方法に関する発明の詳細な説明の記載(前記 )等をみても,分子蒸留
の温度条件を特定する記載はなく,また,除去される環境汚染物質の種類を
「α-BCH等」に限定する記載もないのであり,かえって,
「環境汚染物
質」については,後記イのとおり,
「殺虫剤及び多塩素化ビフェニル(PC
B類)等」であることが繰り返し記載されている。
このように,甲1公報の記載をみる限り,同公報記載の発明における分子
蒸留の温度及び除去される環境汚染物質の種類については,一実施例とし
て「125℃」及び「α-BCH等」である例が記載されているものの,こ
れらに限定されるものであることを明示又は示唆する記載は認められない
というべきである。
イ 原告は,甲1発明1の技術的特徴からすれば,甲1発明1における環境汚
染物質の除去のための分子蒸留は,
「EPAまたはDHAは蒸留物中に僅か
しか失われないか,または全く失われない」条件で行われる必要があり,そ
のためには,分子蒸留の温度が,揮発性の低いPCB類を除去できない程度
の低温(実施例3の「125℃」)でなければならない旨主張する。
この点,甲1公報の「本発明は,…特にEPAおよび/またはDHAを増
加した収率で魚油から回収するための産業的方法に適合した方法を提供す
ることを目的とする。」との記載(前記 )等によれば,甲1公報に記
載された発明が,EPAやDHAを,増加した収率で海産油から回収するた
めの方法を提供することを目的の一つとするものであることは明らかであ

るから,分子蒸留においては,できるだけEPAやDHAが蒸留物中に失わ
れないようにすることが甲1発明1の上記目的に沿うものであることは理
解し得るところである。
しかしながら,他方において,甲1公報の次のような記載,すなわち,
「E
PAおよびDHAは特に医薬産業および食品添加物産業においてその価値
が上昇している。これらの酸はある種の海産油…中に比較的高濃度で見出
されるが,…例えば医薬および食品に用いることを目的とする場合には,…
海産油中に広く現出する殺虫剤残渣を,実質的に完全に排除する必要があ
る。」との記載(前記 ),「本発明は分子蒸留を用いて,多不飽和脂
肪酸グリセリドを飽和および単不飽和脂肪酸エステルと分離するのみなら
ず,同時に,所望の多不飽和脂肪酸グリセリド画分から殺虫剤および多塩素
化ビフェニル等の環境汚染物質の除去をも行うことができる。」との記載
(前記 イ),
「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等の環境汚
染物質は長鎖脂肪酸のグリセリドよりも揮発性であるので,分子蒸留はこ
れらの化合物をグリセリド画分から除去し,そしてこれらの化合物は蒸留
物(エステル画分)中に濃縮される。これが,本発明の方法における分子蒸
留の使用のさらに別の利点である。」との記載(前記 )及び「ある特
定の態様において,本発明は,トリグリセリドの形態で飽和および不飽和脂
肪酸を含有する油組成物からの環境汚染物質の除去のための方法…を提供
する。…飽和脂肪酸画分は,所望の多不飽和脂肪酸成分の比較的少ない損失
を伴う比較的穏やかな分子蒸留により除去され得る。同時に,殺虫剤および
PCB類等の比較的揮発性の環境汚染物質が,上記で論じたように,エチル
エステル画分と共に除去される。」との記載(前記 )によれば,甲1
公報には,EPAやDHAを医薬や食品に用いる際には,海産油中に含まれ
る殺虫剤残渣等の環境汚染物質を実質的に完全に除去する必要があること,
甲1公報に記載された発明には,分子蒸留により殺虫剤やPCB類等の環

境汚染物質がグリセリド画分から除去されて蒸留物中に濃縮されるという
利点があること及びこのように油組成物から環境汚染物質を除去すること
も甲1公報に記載された発明の一態様であることが開示されているものと
いえる。その上で,甲1公報においては,
「トリグリセリドの形態で飽和お
よび不飽和脂肪酸を含有する油組成物からの環境汚染物質の除去のための
方法であって,…(a)該油組成物を,…リパーゼの存在下に,…エステル
交換反応に供する工程;そしてその後で,
(b)工程(a)において得られ
た生成物を…分子蒸留に供して多不飽和脂肪酸のグリセリドに富み,かつ
環境汚染物質が優先的に除去された残余画分を回収する工程;を含むこと
を特徴とする,方法。(前記
」 ),すなわち,
「多不飽和脂肪酸のグリセ
リドに富」む画分を回収するに際し,併せて,環境汚染物質の除去を行う方
法に係る発明が,その特許請求の範囲請求項22の発明として特定されて
いるのである。
以上のような甲1公報の記載によれば,甲1公報に記載された発明にお
いては,EPAやDHAを増加した収率で海産油から回収することがその
目的の一つとされるものの,それとともに,EPAやDHAを医薬や食品に
用いるために,海産油中に含まれる殺虫剤やPCB類等の環境汚染物質を
完全に除去することもその目的の一つとされていることは明らかといえる。
してみると,甲1発明1においては,少なくとも除去される環境汚染物質
として甲1公報中に明示されている「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(P
CB類)」を蒸留物中に濃縮することが可能な温度条件の下で分子蒸留を行
うことが当然の前提とされているものということができるから,あくまで
もEPAやDHAの濃縮という目的が優先され,その結果,その分子蒸留の
温度が,揮発性の低いPCB類を除去できない程度の低温(すなわち,実施
例3の「125℃」 に限定されるなどと解することはできないのであって,

原告の上記主張は誤りというほかない。

ウ また,原告は,甲1発明1における環境汚染物質の除去のための分子蒸留
が「EPAまたはDHAは蒸留物中に僅かしか失われないか,または全く失
われない」条件で行われる必要があるとする主張の根拠として,甲1公報中
にその旨の記載があることを指摘する。
この点,原告がその主張の根拠とする甲1公報の記載は,
「分子蒸留工程
は少量の最も揮発性なモノグリセリドを蒸留物中に出現させるという結果
を生むことがあるが,これらのモノグリセリドは主として比較的短鎖の脂
肪酸のモノグリセリドである(即ち,EPAまたはDHAは蒸留物中に僅か
しか失われないか,または全く失われない)。」(前記 )との記載で
あるところ,この記載は,分子蒸留によりグリセリド画分からエチルエステ
ル画分を分離するに当たり,グリセリドのうち最も揮発性の高いモノグリ
セリドが少量蒸留物中に出現することがあるが,このようなモノグリセリ
ドは,主として「比較的短鎖の脂肪酸」のモノグリセリドであり,EPAや
DHAのように「比較的短鎖の脂肪酸」とはいえない脂肪酸のモノグリセリ
ドではないことを述べているにすぎないものであって,甲1公報に記載さ
れた発明の分子蒸留においては, 「EPAまたはDHAは蒸留物中に僅
必ず
かしか失われないか,または全く失われない」ものでなければならないこと
まで述べていると解されるものではない。
したがって,甲1公報の上記記載によっても,原告の上記主張が根拠づけ
られるとはいえない。
エ 以上のとおり,甲1公報の記載及びそこから認められる同公報記載の発
明の目的等に鑑みれば,甲1発明1における分子蒸留の温度及び除去され
る環境汚染物質の種類について,甲1公報の実施例3に示される「125
℃」及び「α-BCH等」に限定されるべきものとはいえないから,そのよ
うに限定されることを前提として,本件審決の相違点3及び4の認定に誤
りがあるとする原告の主張には理由がない。

以上によれば,原告主張の取消事由1は理由がない。
4 取消事由2(本件訂正発明1について,相違点についての判断の誤り)につい

⑴ 「相違点2についての判断の誤り」について
本件審決は,甲2文献及び甲3明細書の記載に基づき,魚油などの油組成物
から不要物等を分子蒸留により除去するに当たり,脂肪酸エステル等の低沸
点成分を外部から添加し,低沸点成分を含有する油組成物を構成した後これ
を分子蒸留することが周知技術であることを認定した上で,甲1発明1にお
いて,リパーゼを用いた選択的エステル交換を行って脂肪酸エステルを含む
油組成物を生成することに代えて,上記周知技術に基づき,「揮発性作業流
体」を油組成物に外部から添加することにより分子蒸留を行うべき油組成物
を構成することは,当業者が適宜なし得ることであるとして,相違点2に係る
本件訂正発明1の構成の容易想到性を認める判断をする。
これに対し,原告は,上記周知技術の認定を争うとともに,当業者が相違点
2に係る本件訂正発明1の構成に想到する動機付けの欠如等を主張し,本件
審決の上記判断に誤りがある旨を主張する。
しかるところ,当裁判所は,仮に上記のとおりの周知技術が認定できるとし
ても,甲1発明1においてこれを適用し,リパーゼを用いた選択的エステル交
換を行って脂肪酸エステルを含む油組成物を生成することに代えて,
「揮発性
作業流体」を油組成物に外部から添加しようとすることには,動機付けが認め
られず,かえって阻害要因があるものと認められるから,本件審決の上記判断
は誤りであると判断する。その理由は,以下に述べるとおりである。
ア 前記2 に摘示した甲1公報の次のような記載,すなわち,「海産原材
料の複雑さの故に,高度に精製された形態の多不飽和脂肪酸誘導体は,どの
ような単一分別技法によっても容易に調製されない。従って,通常は複数の
技法の組合せが用いられる…。」との記載,「尿素錯化反応は,高EPAお

よび/またはDHA含有量組成物を回収する方法に広く採用されている分
別技法の一つである。…そのような方法が,例えば2またはそれ以上の工程
の分子蒸留と組み合わせて用いられれば,原料海産油由来のEPAおよび
DHAが多くを占める…精製された生成物を製造することが可能である。
しかし,精製された生成物の総回収率はあいにく低い。そのような従来の分
別方法を用いた典型的な工業的操業において期待し得るのは,…わずか6
~8%の回収率である。」との記載,「多くの環境汚染物質(例:殺虫剤お
よび多塩素化ビフェニル)の親油性特質は,これらの化合物の海産脂質中へ
の集積という結果を生む。不運にも,尿素はそのような汚染物質の多くとは
錯体を形成せず,その結果,尿素錯化反応により得られる濃縮物は,元の海
産油に比べて上昇した,多くの目的には許容され得ないほど高いレベルの
殺虫剤およびその他の環境汚染物を含有する。」との記載及び「本発明は,
油組成物の多不飽和脂肪酸含量を増加させるための改良された方法,特に
EPAおよび/またはDHAを増加した収率で魚油から回収するための産
業的方法に適合した方法を提供することを目的とする。」との記載によれ
ば,甲1公報に記載された発明は,従来,原料海産油からEPAやDHAを
回収する方法として用いられていた,尿素錯化反応と分子蒸留を組み合わ
せた方法において,EPAやDHAの回収率が低いという問題があること
を踏まえ,これを解決することを目的とする発明であることが理解できる
とともに,上記尿素錯化反応と分子蒸留とを組み合わせた方法には,多くの
環境汚染物質が除去されないという問題があることをも踏まえた発明であ
ることが理解できる。
イ また,前記2 に摘示した甲1公報の次のような記載,すなわ
ち,「公知のように,リパーゼは,EPAおよびDHA等の,海産油中に現
出する非常に不安定なn-3多不飽和脂肪酸を包含する方法における触媒
としての使用に好適である。」との記載,「ある種のリパーゼのこの基質選

択性がズイとワードによって利用され,…シュードモナス・エスピー…のリ
パーゼ…が他のリパーゼよりも高い割合で魚油をアルコーリシスし,EP
AおよびDHAに非常に富むモノグリセリドを製造したことを見出した。
この先行技術の方法において,…アルコールは,反応体と反応のための溶媒
とを兼ねて採用された。…上記のズイとワードの方法は…精製EPA/D
HA組成物を工業的に調製するための改良された方法を提供していない。
特に,リパーゼにより触媒された生成物中に大量の遊離脂肪酸が不可分に
存在することが,その後に所望のn-3多不飽和脂肪酸を精製することを
困難にしている。例えば,低い揮発性のために,従来の分子蒸留技法では遊
離脂肪酸をグリセリドと分離することができない。」との記載,「これとは
対照的に有利に,本発明は分子蒸留を用いて,多不飽和脂肪酸グリセリドを
飽和および単不飽和脂肪酸エステルと分離するのみならず,同時に,所望の
多不飽和脂肪酸グリセリド画分から殺虫剤および多塩素化ビフェニル等の
環境汚染物質の除去をも行うことができる。 との記載及び
」 「本発明の方法
は,海産油中で飽和および単不飽和脂肪酸のエステル交換を優先的に触媒
するに活性なリパーゼを利用する。…本発明の方法の重要な特徴は,リパー
ゼで触媒されるエステル交換が実質的に無水の反応条件下に実施されなけ
ればならないことである。…少量の水,一般的にはリパーゼの重量に基づい
て約1~2重量%が,…酵素系内に常に必要とされるので,完全な無水反応
条件を採用することは不可能である。…これらの極少量の水は有意な加水
分解を全く引き起こさず,そしてエステル交換された生成物中の遊離脂肪
酸の濃度を3重量%未満に維持すること,即ち既述のズイとワードの報告
の約10%だけの加水分解率を維持することが可能である。 との記載によ

れば,海産油からEPAやDHAを回収するに当たり,リパーゼの基質選択
性を利用してEPA及びDHAに富むモノグリセリドを製造する従来の方
法では,リパーゼにより触媒された生成物中に大量の遊離脂肪酸が存在し,

その低い揮発性のために,遊離脂肪酸をグリセリドと分離して,所望のn-
3多不飽和脂肪酸を精製することが困難であったのに対し,甲1公報に記
載された発明においては,海産油中で,飽和および単不飽和脂肪酸のエステ
ル交換を優先的に触媒するに活性なリパーゼを利用し,リパーゼで触媒さ
れるエステル交換を実質的に無水の反応条件下で実施することにより,エ
ステル交換された生成物中の遊離脂肪酸の濃度を低く維持した上で,分子
蒸留を行うことによって,多不飽和脂肪酸グリセリドを飽和および単不飽
和脂肪酸エステルと分離するのみならず,同時に,所望の多不飽和脂肪酸グ
リセリド画分から殺虫剤および多塩素化ビフェニル等の環境汚染物質の除
去をも行うことができるものであることが理解できる。
ウ さらに,前記2 に摘示した甲1公報の次のような記載,すなわち,
「エステル交換反応の生成物は実質的に無水である反応条件の使用の結果
として,遊離脂肪酸を少量だけ含有しているので,分子蒸留後には,所望で
ない飽和および単不飽和脂肪酸を実質的に有しない残余画分が得られる。」
との記載,「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等の環境汚染物
質は長鎖脂肪酸のグリセリドよりも揮発性であるので,分子蒸留はこれら
の化合物をグリセリド画分から除去し,そしてこれらの化合物は蒸留物(エ
ステル画分)中に濃縮される。これが,本発明の方法における分子蒸留の使
用のさらに別の利点である。 との記載,
」 「実際,ある特定の態様において,
本発明は,トリグリセリドの形態で飽和および不飽和脂肪酸を含有する油
組成物からの環境汚染物質の除去のための方法…を提供する。」との記載,
「本発明の方法は,EPAおよびDHAを40重量%を越え…る高濃度で
含有する組成物の海産供給源からの調製に特に適合している。リパーゼで
触媒されるエステル交換の生成物は所望でない飽和および単不飽和脂肪酸
を遊離酸としてよりはむしろ主としてそれらのエチルエステル(エチルア
ルコールが使用された場合)の形態で含有する(多不飽和脂肪酸は実質的に

グリセリドとして残る)ので,飽和脂肪酸画分は,所望の多不飽和脂肪酸成
分の比較的少ない損失を伴う比較的穏やかな分子蒸留により除去され得
る。同時に,殺虫剤およびPCB類等の比較的揮発性の環境汚染物質が,…
エチルエステル画分と共に除去される。 との記載及び
」 「EPA/DHA濃
縮物を製造するための従来法と比較すると,本発明は,特にその好ましい態
様において,下記のような重要な利点をもたらす。即ち,…(ⅲ)EPAお
よびDHAの回収が非常に高く,そして回収された生成物は環境汚染物質
による汚染を本質的に被っておらず, (ⅳ)
… 用いられる実質的に無水であ
る反応条件は最小限の加水分解をもたらしそれにより,エステル交換反応
からのグリセリド画分の分子蒸留が,所望でない飽和および単不飽和脂肪
酸からの所望の多不飽和脂肪酸の良好な分離を与える。」との記載によれ
ば,甲1公報に記載された発明は,海産油等から,EPAやDHAを高濃度
で含有する組成物を調製することに適合するものであり,実質的に無水の
条件で行われるリパーゼで触媒されるエステル交換反応の生成物は,所望
でない飽和および単不飽和脂肪酸を主としてそれらのエステルの形態で含
有し,他方,多不飽和脂肪酸は実質的にグリセリドとして残るため,分子蒸
留により,所望でない飽和および単不飽和脂肪酸を実質的に有しない残余
画分を得ることができ,同時に,比較的揮発性である殺虫剤及びPCB類等
の環境汚染物質も蒸留物(エステル画分)中に濃縮されてグリセリド画分か
ら除去されるため,EPA/DHA濃縮物を製造するための従来法と比較
すると,EPA及びDHAの回収が非常に高く,かつ,回収された生成物は
環境汚染物質による汚染を本質的に被っていないという利点をもたらすも
のであることが理解できる。
エ 以上のような甲1公報の記載に基づく理解によれば,甲1公報に記載さ
れた発明は,海産油等の油組成物からEPAやDHAを回収する方法につ
いて,従来技術である,尿素錯化反応と分子蒸留とを組み合わせた方法やリ

パーゼの基質選択性を利用してEPA及びDHAに富むモノグリセリドを
製造する方法における問題,すなわち,①原料海産油由来のEPA及びDH
Aの回収率が低いこと,②多くの環境汚染物質が除去されないこと及び③
EPAやDHAを精製することが困難であることを解決することを課題と
し,これらの解決のために,海産油中で,飽和および単不飽和脂肪酸のエス
テル交換を優先的に触媒するに活性なリパーゼを利用し,かつ,リパーゼで
触媒されるエステル交換を実質的に無水の反応条件下で実施し,その後分
子蒸留を行うことにより,所望でない飽和および単不飽和脂肪酸を実質的
に有しないグリセリドの残余画分を得ると同時に,比較的揮発性である殺
虫剤及びPCB類等の環境汚染物質を蒸留物(エステル画分)中に濃縮させ
てグリセリド画分から除去するものであるということができる。
オ そこで,以上の理解を踏まえて,本件審決の相違点2についての判断の当
否につき検討するに,本件審決は,甲1発明1において,エステル交換によ
って脂肪酸エステルを含む油組成物を生成することと,本件訂正発明1に
おいて,揮発性作業流体を混合物に添加することとは,環境汚染物質を除去
するために分子蒸留に付すべき脂肪酸エステルを含む油組成物を生成する
という操作目的の点で技術的に軌を一にすることを理由として,甲1発明
1における「リパーゼを用いた選択的エステル交換を行って脂肪酸エステ
ルを含む油組成物を生成する」構成を,周知技術である「揮発性作業流体を
油組成物に外部から添加する」構成に置換することの容易想到性を認める
判断をする。
しかしながら,上記エで述べたとおり,甲1公報に記載された発明は,上
記エ①ないし③の各課題を解決することを目的とする発明であると理解さ
れるところ,このうち,上記エ①及び③の課題の解決のためには,「リパー
ゼを用いた選択的エステル交換を行って脂肪酸エステルを含む油組成物を
生成」し,その上で分子蒸留を行うことにより,所望でない飽和および単不

飽和脂肪酸を実質的に有しないグリセリドの残余画分を得ることが不可欠
であり,この工程を,「揮発性作業流体を油組成物に外部から添加」した上
で分子蒸留を行う工程に置換したのでは,上記発明における上記エ②の課
題は解決できたとしても,これとともに解決すべきものとされる上記エ①
及び③の課題の解決はできないことになる。
してみると,甲1公報に記載された発明において,「リパーゼを用いた選
択的エステル交換を行って脂肪酸エステルを含む油組成物を生成する」構
成に代えて,周知技術である「揮発性作業流体を油組成物に外部から添加す
る」構成を採用することは,当該発明の課題解決に不可欠な構成を,あえて
当該課題を解決できない他の構成に置換することを意味するものであっ
て,当業者がそのような置換を行うべき動機付けはなく,かえって阻害要因
があるものというべきである。
なお,このことは,甲1公報の記載のうち,「トリグリセリドの形態で飽
和および不飽和脂肪酸を含有する油組成物からの環境汚染物質の除去のた
めの方法」に係る特許請求の範囲請求項22で特定される発明に専ら着目
してみても,異なるものではない。すなわち,当該発明においても,「(a)
該油組成物を,実質的に無水の条件下,かつ飽和および単不飽和脂肪酸のエ
ステル交換を優先的に触媒するに活性なリパーゼの存在下に,…エステル
交換反応に供する工程」を要し,かつ,「(b)工程(a)において得られ
た生成物を…分子蒸留に供して多不飽和脂肪酸のグリセリドに富み,かつ
環境汚染物質が優先的に除去された残余画分を回収する工程」を要するも
のとされているのであるから,上記エ②の課題とともに,上記エ①及び③の
課題をも解決するために,
「リパーゼを用いた選択的エステル交換を行って
脂肪酸エステルを含む油組成物を生成する」構成を不可欠の構成としてい
ることは明らかといえる。
カ 被告の主張について

これに対し,被告は,魚油中の脂肪酸のうちEPA及びDHAを高濃度に
濃縮する技術は,本件優先日当時の技術常識であり,甲1公報にも,高濃度
のEPA及びDHAを最終目的物とする場合には,リパーゼを用いたエス
テル交換の後,非選択的な化学反応による全ての脂肪酸のエステル化工程
とその後の脂肪酸エステル間の分離による濃縮工程を行うことが記載され
ており(請求項10及び11,図1,18頁19行ないし19頁10行及び
実施例2a) EPA及びDHAの高濃度組成物を回収するためには,
, 魚油
から環境汚染物質を除去した後,このような後続工程を行えば足りるから,
甲1発明1において,リパーゼによるエステル交換に代えて脂肪酸エステ
ルを添加するものとすることは,原告主張の甲1発明1の目的を何ら損な
うものではなく,当業者が容易に想到し得た事項である旨主張する。
そこで検討するに,前記2 に摘示した甲1公報の「本発明のアルコー
リシス法は,EPA+DHA濃縮物の製造のための統合…製造方法におけ
る最初の段階となり得る。そのような統合方法において,飽和脂肪酸エチル
エステル画分の多不飽和脂肪酸グリセリド画分からの分離を実施するため
の分子蒸留またはその他の技法の後,所望の多不飽和脂肪酸を含有する後
者の画分はさらに,存在する特定の酸の濃度を上昇させるために処理され
ることができる。例えば,高度に濃縮されたEPAおよびDHAを含有する
エチルエステル組成物を得ることが所望であれば,分子蒸留後に得られる
グリセリド画分は,例えば,触媒量のナトリウムエトキシドまたはカリウム
エトキシド等の存在下に無水エタノールを用いた化学的エステル交換によ
りエステル化されることができる。…次いで,製造されたグリセロールが公
知の技法を用いて除去され得る。典型的には,これは,従来法に比べて非常
に良好な多不飽和脂肪酸の回収による,約45~50重量%のEPA+D
HA含量をもたらす。 との記載及び図1の記載によれば,
」 甲1公報には,
被告主張の「非選択的な化学反応による全ての脂肪酸のエステル化工程と

その後の脂肪酸エステル間の分離による濃縮工程」に相当するもの(例え
ば,分子蒸留後に得られるグリセリド画分を触媒量のナトリウムエトキシ
ドまたはカリウムエトキシド等の存在下に無水エタノールを用いた化学的
エステル交換によりエステル化する工程と,次いで,製造されたグリセロー
ルが公知の技法を用いて除去される工程)が記載されているものの,これら
は,甲1公報に記載された発明において,リパーゼによる飽和および単不飽
和脂肪酸の選択的なエステル交換反応を行う工程及び分子蒸留の工程が存
在することを前提として,更に,「高度に濃縮されたEPAおよびDHAを
含有するエチルエステル組成物を得ることが所望であ」る場合の任意的,付
加的な工程として記載されているにすぎないものと認められる。
してみると,甲1公報に記載された発明は,上記のような任意的,付加的
な工程がない場合においても,上記エ①ないし③の課題を解決するもので
あることを前提としているというべきであり,そのためには,「リパーゼを
用いた選択的エステル交換を行って脂肪酸エステルを含む油組成物を生成
する」構成が不可欠なものであることは,前記オで述べたとおりである。
したがって,被告主張の後続工程の存在を考慮しても,上記オの判断が左
右されるものではなく,被告の上記主張には理由がない。
キ 小括
以上によれば,甲1発明1において,リパーゼを用いた選択的エステル交
換を行って脂肪酸エステルを含む油組成物を生成することに代えて,
「揮発
性作業流体」を油組成物に外部から添加しようとする動機付けを認めるこ
とはできず,かえって阻害要因があるものと認められる。
⑵ したがって,相違点2に係る本件訂正発明1の構成についての容易想到性
を認めた本件審決の判断は誤りである。そうすると,原告主張の相違点3及び
4についての判断の誤りの有無につき検討するまでもなく,本件訂正発明1
について,甲1発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明すること

ができたものとする本件審決の判断は誤りであるといえるから,原告主張の
取消事由2には理由がある(なお,原告主張の取消事由2に理由がある以上,
取消事由3については,判断の必要がない。。

5 取消事由4ないし12(本件訂正発明2,4ないし6,9及び12ないし21
について,相違点の認定,相違点についての判断及び顕著な効果についての判断
の誤り)について
上記4⑴で述べたのと同様の理由により,相違点2に係る本件訂正発明2,4
ないし6,9及び12ないし18の構成並びに相違点2’に係る本件訂正発明1
9ないし21の構成についての容易想到性を認めた本件審決の判断は誤りであ
るといえる。そうすると,その余の原告の主張につき検討するまでもなく,本件
訂正発明2,4ないし6,9及び12ないし18につき,甲1発明1及び周知技
術に基づいて,本件訂正発明19ないし21につき,甲1発明2及び周知技術に
基づいて,いずれも当業者が容易に発明することができたものとする本件審決
の判断は誤りであるといえるから,原告主張の取消事由4ないし12にはいず
れも理由がある。
6 取消事由13(本件訂正発明22について,相違点の認定及び判断の誤り)に
ついて
原告は,本件訂正発明22に係る「請求項1記載の方法に従って調製される海
産油製品」と,甲1発明3の「甲1発明1の方法に従って環境汚染物質が除去さ
れた」海産油製品とは実質的に相違しないとした本件審決の判断について,甲1
発明1においてエステル交換生成物から除去されている環境汚染物質は,
「α-
BCH等」のみであり,臭素化難燃剤やPCBのような揮発性の低い環境汚染物
質は除去されていないこと(原告の
として,本件審決の相違点10の認定には誤りがあり,正しい相違点の認定によ
れば,本件訂正発明22は甲1発明3と実質的に相違しないものとはいえない
旨主張する。

しかしながら,前記 で述べたとおり,甲1発明1においてエステル交換生
成物から除去されている環境汚染物質は,「α-BCH等」に限定されるもので
はなく,少なくとも甲1公報中に除去される環境汚染物質として明示される「殺
虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)」を含むものと認められるから,原
告の上記主張は,その前提において誤りである。
したがって,原告主張の取消事由13には理由がない。
7 取消事由14(本件訂正発明23ないし27について,相違点の認定及び判断
の誤り)について
原告は,本件訂正発明22と甲1発明3との間に実質的な相違点があるとの
主張を前提として,本件訂正発明22を引用する本件訂正発明23ないし27
について,甲1発明3に基づく容易想到性を認めた本件審決の判断に誤りがあ
る旨を主張する。
しかしながら,本件訂正発明22と甲1発明3との間に実質的な相違点があ
るとする原告の主張が誤りであることは上記6で述べたとおりであるから,原
告の上記主張は,その前提において誤りである。
したがって,原告主張の取消事由14にも理由がない。
第6 結論
以上によれば,原告主張の取消事由2及び4ないし12には理由があるから,
本件審決のうち,本件訂正発明1,2,4ないし6,9及び12ないし21につ
いての特許を無効とした部分にはこれを取り消すべき違法がある。他方,原告主
張の取消事由13及び14には理由がないから,本件審決のうち,本件訂正発明
22ないし27についての特許を無効とした部分にはこれを取り消すべき違法
は認められない。
よって,原告の請求は,本件審決のうち,本件特許の請求項1,2,4ないし
6,9及び12ないし21に係る部分の取消しを求める限度で理由があるから
これを認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文の

とおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部


裁判長裁判官 鶴 岡 稔 彦


裁判官 大 西 勝 滋


裁判官 杉 浦 正 樹


(別紙1) 本件訂正明細書の図面

【図1】


(別紙2) 甲1公報の図面

【図1】

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