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平成28(行ケ)10199審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成29年7月26日
事件種別 民事
当事者 被告Y田上洋平
原告セキ工業株式会社北山元章
対象物 プロジェクションナットの供給方法とその装置
法令 特許権
特許法36条6項2号1回
キーワード 審決35回
無効25回
実施15回
無効審判8回
進歩性4回
抵触4回
侵害1回
特許権1回
訂正審判1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等 (1) 被告は,発明の名称を「プロジェクションナットの供給方法とその装置」 とする特許第3309245号(平成8年12月28日出願,平成14年5 月24日設定登録。請求項の数4。以下「本件特許」という。)の特許権者 である。

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判決文

平成29年7月26日判決言渡
平成28年(行ケ)第10199号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成29年5月15日
判 決

原 告 セ キ 工 業 株 式 会 社

訴訟代理人弁護士 大 澤 久 志
北 山 元 章
植 松 祐 二
鈴 木 奈 裕 子
訴訟代理人弁理士 前 田 弘
竹 内 宏

被 告 Y
訴訟代理人弁護士 松 本 司
田 上 洋 平
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2013-800145号事件について平成28年7月12日
にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
(1) 被告は,発明の名称を「プロジェクションナットの供給方法とその装置」
とする特許第3309245号(平成8年12月28日出願,平成14年5
月24日設定登録。請求項の数4。以下「本件特許」という。)の特許権者
である。
なお,被告は,平成24年8月1日付けで訂正審判請求(訂正2012-
390099号)をし,同月28日付けで訂正認容審決を得ている(以下「本
件訂正」という。)。
(2) 原告は,平成25年8月1日,本件特許の請求項全部につき無効審判を請
求し(無効2013-800145号),特許庁は,平成26年9月9日,
「特許第3309245号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を
無効とする。」との審決をした。
被告は,同年10月15日,知的財産高等裁判所に上記審決の取消しを求
めて訴えを提起した(平成26年(行ケ)第10230号)。
知的財産高等裁判所は,平成27年6月24日,上記審決を取り消す旨の
判決をし,同判決は確定した。
(3) その後,特許庁において,上記無効審判の審理が再開された。
特許庁は,平成28年7月12日,「本件審判の請求は,成り立たない。」
との審決をし(以下,この審決を「本件審決」という。),同月22日,そ
の謄本が原告に送達された。
原告は,同年8月19日,知的財産高等裁判所に本件審決の取消しを求め
て本件訴えを提起した。
2 特許請求の範囲の記載
本件訂正後の特許請求の範囲の記載は,構成要件に分説すると,次のとおり
である(下線部は訂正箇所を示す。以下「本件発明」といい,個別に特定する
ときは,請求項の数字に従って「本件発明1」などという。また,本件訂正後
の明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。)。
【請求項1】
M 円形のボウルに振動を与えてプロジェクションナットを送出するパーツフ
ィーダと
N このパーツフィーダからのプロジェクションナットをストッパ面に当てて
所定位置に停止させ,
O その後,供給ロッドのガイドロッドをプロジェクションナットのねじ孔内
へ串刺し状に貫通させてプロジェクションナットを目的箇所へ供給する形式
のものにおいて,
P パーツフィーダに設置した計測手段により正規寸法よりも大きいプロジェ
クションナットを排除して正規寸法あるいはそれ以下のプロジェクションナ
ットだけを通過させ,
Q ガイドロッドの外径は正規寸法のプロジェクションナットのねじ孔の内径
よりもわずかに小さく設定されていると共に正規寸法よりも小さいプロジェ
クションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定されており,
R ストッパ面に位置決めされた正規寸法よりも小さいプロジェクションナッ
トを供給ロッドの進出時にそのガイドロッド先端部で弾き飛ばす
S ことを特徴とするプロジェクションナットの供給方法。
【請求項2】
A 円形のボウルに振動を与えてプロジェクションナットを送出するパーツフ
ィーダと
B このパーツフィーダからのプロジェクションナットをストッパ面に当てて
所定位置に停止させ,
C その後,供給ロッドのガイドロッドをプロジェクションナットのねじ孔内
へ串刺し状に貫通させてプロジェクションナットを目的箇所へ供給する形式
のものにおいて,
D 正規寸法よりも大きいプロジェクションナットを排除し正規寸法あるいは
それ以下のプロジェクションナットを通過させる計測手段をパーツフィーダ
の送出通路に設置し,
E ストッパ面に位置決めされた正規寸法よりも小さいプロジェクションナッ
トを供給ロッドの進出時にその先端部で弾き飛ばすガイドロッドの外径は正
規寸法のプロジェクションナットのねじ孔の内径よりもわずかに小さく設定
されていると共に正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔の
内径よりも大きく設定されている
F ことを特徴とするプロジェクショナットの供給装置。
【請求項3】
G 請求項2において,
H ストッパ面に当たって一時係止されている正規寸法のプロジェクションナ
ットのねじ孔軸心とガイドロッドの軸心とが同軸とされていることによりプ
ロジェクションナットの所定位置が設定されている
I ことを特徴とするプロジェクションナットの供給装置。
【請求項4】
J 請求項3において,
K 計測手段は送出通路に閉断面状の形態で設置され,プロジェクションナッ
トの高さあるいは幅が正規寸法またはそれ以下のものだけを通過させる構造
とされている
L ことを特徴とするプロジェクションナットの供給装置。
3 本件審決の理由の要旨
(1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。その要旨は,
①甲13の1(平成25年5月29日付け事実実験公正証書)に示されたナ
ットフィーダ(以下「甲13装置」という。)は,本件特許出願前の昭和5
6年に株式会社電元社製作所(以下「電元社」という。)により製造された
ナットフィーダ(昭和56年製ナットフィーダ)と同一とはいえず,したが
って,甲13装置から認定できる発明は,本件特許出願前に日本国内におい
て公然知られ,あるいは日本国内において公然実施された発明とはいえない
し,本件発明2の構成要件Eは,甲14(特開平7-215429号公報),
甲15(特公昭47-41655号公報)及び甲16(実願昭59-384
79号〔実開昭60-151821号〕のマイクロフィルム)のいずれにも
記載されていないから,本件発明2ないし4は,いずれも,甲13装置から
認定できる発明及び甲14ないし甲16のそれぞれに記載された発明(以下
「甲14発明」などという。)に基づいて当業者が容易に発明をすることが
できたものであるということはできない,②本件発明1の構成要件Q及び本
件発明2の構成要件Eにおける「ガイドロッドの外径は正規寸法のプロジェ
クションナットのねじ孔の内径よりもわずかに小さく設定されていると共に
正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく
設定され」という記載は明確であるから,本件発明1ないし4はいずれも明
確である,③本件発明2及び4は,いずれも,後記認定のとおりの甲14発
明,甲15に記載された技術的事項(以下「甲15技術的事項」という。),
甲16に記載された事項,甲20(日刊工業新聞社「機械設計」第17巻第
11号〔1973年11月号〕)に記載された技術的事項(以下「甲20技
術的事項」という。)及び甲31(実願昭52-031083号〔実開昭5
3-126272号〕のマイクロフィルム)に記載された技術的事項(以下
「甲31技術的事項」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすること
ができたものということはできない,というものである。
(2) 本件審決が認定した甲14発明,甲15技術的事項,甲20技術的事項,
甲31技術的事項並びに本件発明2と甲14発明との一致点及び相違点は,
以下のとおりである。
ア 甲14発明
「円形のボウルに振動を与えてナットwを送出する整列手段1と,この整
列手段1からのナットwをストッパ面にあてて所定位置に停止させ,その
後,エアシリンダ等の突き出し部材10における送出杆11の先端部をナ
ットwのねじ孔12内に係合させてナットwを目的箇所へ供給する形式の
ものにおいて,シュート3の位置決め部材15により,ナットwを希望す
る姿勢に整列させて供給する装置。」
イ 甲15技術的事項
「スピンドル5の案内棒6をナット10を貫通してナット10を目的箇所
へ供給する形式のものにおいて,案内棒6はナット10の螺子孔よりもや
や小径に設定すること。」
ウ 甲20技術的事項
「中板ホッパフィーダにおいて,ゲートの切欠き形状を通過するような小
さいものは,あらかじめ選別しておく必要があること。」
エ 甲31技術的事項
「プロジェクションナットをスポット溶接機へ送給するパーツフィーダの
ボウルにおいて,裏向きのM6及びM8ナットを通過させ,M6未満のナ
ット,M8以上のナット並びに表向きのM6及びM8ナットをボウル内に
落下させること。」
オ 本件発明2と甲14発明との対比
(一致点)
両発明は,「円形のボウルに振動を与えてプロジェクションナットを送
出するパーツフィーダとこのパーツフィーダからのプロジェクションナッ
トをストッパ面に当てて所定位置に停止させ,その後,供給ロッドのガイ
ドロッドをプロジェクションナットのねじ孔内へ挿入させてプロジェクシ
ョンナットを目的箇所へ供給する形式のプロジェクションナットの供給装
置。」である点。
(相違点1)
本件発明2は,「ガイドロッドをプロジェクションナットのねじ孔内へ
串刺し状に貫通」させているのに対して,甲14発明は,「送出杆11の
先端部をナットwのねじ孔12内に係合」させている点。
(相違点2)
本件発明2は,「正規寸法よりも大きいプロジェクションナットを排除
し正規寸法あるいはそれ以下のプロジェクションナットを通過させる計測
手段をパーツフィーダの送出通路に設置し」ているのに対して,甲14発
明は,そのような計測手段を備えているかどうか不明な点。
(相違点3)
本件発明2は,「ストッパ面に位置決めされた正規寸法よりも小さいプ
ロジェクションナットを供給ロッドの進出時にその先端部で弾き飛ばすガ
イドロッドの外径は正規寸法のプロジェクションナットのねじ孔の内径よ
りもわずかに小さく設定されていると共に正規寸法よりも小さいプロジェ
クションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定されている」のに対して,
甲14発明は,送出杆11の先端部の外径がどのように設定されているの
か不明な点。
(3) 上記相違点についての本件審決の判断の要旨は,次のとおりである。
まず相違点3を検討すると,本件発明2において「ガイドロッドの外径は
正規寸法のプロジェクションナットのねじ孔の内径よりもわずかに小さく設
定されていると共に正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔
の内径よりも大きく設定されている」(構成要件E)と特定されていること
の技術的な意味は,正規寸法よりも小さいナットを,ガイドロッドが串刺し
にしてしまうことを解決しようとするものであって,ガイドロッドの先端部
が確実に干渉してナットを弾き飛ばす作用を実現させようとするものである。
これに対して,ガイドロッドの外径を正規寸法よりも小さいプロジェクシ
ョンナットのねじ孔の内径よりも大きく設定して,ナットを弾き飛ばすこと
について,甲15技術的事項,甲20技術的事項,甲31技術的事項や,そ
の他の証拠には記載も示唆もない。
すなわち,甲15技術的事項を参照すると,本件発明2のガイドロッドに
相当する案内棒6を正規寸法のナット10のねじ孔の内径よりもやや小さく
設定することが示されているものの,ガイドロッドの外径を正規寸法よりも
小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定して,ナッ
トを弾き飛ばすことについて記載も示唆もない。
また,甲20技術的事項及び甲31技術的事項から,正規寸法よりも小さ
いプロジェクションナットが混入する課題自体は,本件特許出願時に周知の
課題といえる。しかし,甲20技術的事項は,その課題の解決手段として「あ
らかじめ選別しておく」ことを示唆するものであり,甲31技術的事項は,
「M6未満のナット,…をボウル内に落下させること。」というものである
から,ガイドロッドの外径を正規寸法よりも小さいプロジェクションナット
のねじ孔の内径よりも大きく設定して,ナットを弾き飛ばすことについて,
甲20技術的事項及び甲31技術的事項には,記載も示唆もない。
さらに,他の証拠を参照しても,ガイドロッドの外径を正規寸法よりも小
さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定して,ナット
を弾き飛ばすことについて,記載も示唆もない。
したがって,相違点1及び2について検討するまでもなく,本件発明2は,
甲14発明,甲15技術的事項,甲16に記載された事項,並びに甲20及
び甲31に示す従来周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明でき
たものであるということはできない。
4 取消事由
(1) 甲15発明の認定の誤り(取消事由1)
(2) 発明の明確性についての判断の誤り(取消事由2)
第3 取消事由に関する原告の主張
1 取消事由1(甲15発明の認定の誤り)について
本件審決は,甲14ないし16に本件発明2の構成要件Eに相当する構成が
示されていないと判断したが,この判断は,次のとおり,甲15発明の認定を
誤ったものである。この誤りは,本件発明2ないし4の進歩性の判断に影響を
及ぼし,ひいては本件審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,本
件審決は取り消されるべきである。
(1) 本件特許の出願時における技術常識等
ア ナットとガイドロッドのはめ合いの隙間の大きさについて
(ア) プロジェクションナット(以下,特に必要がない限り,単に「ナット」
という。)をストッパ面に当てて所定位置に停止させ,その後,供給ロ
ッドのガイドロッドをナットのねじ孔内へ串刺し状に貫通させてナット
を目的箇所へ供給するナット供給装置(以下「串刺し方式のナット供給
装置」という。)は,本件明細書(【0002】)に従来技術として記
載され,また,甲4(電元社「ナット・フィーダ取扱説明書」),甲1
5(特公昭47-41655号公報)及び甲57(特公昭49-227
47号公報)に記載されているように,本件特許の出願時において当業
者に周知である。
串刺し方式のナット供給装置は,本件明細書,甲4,甲15,甲57
に記載されているとおり,ナットを目的箇所(溶接すべき鋼板部品の上)
へ,ねじ孔が抵抗溶接用の固定電極のガイドピンにはまるように供給す
るために使用されている。この使用においては,ナットを固定電極のガ
イドピンに確実にはめるべく,ナットをそのねじ孔軸心がガイドピンの
軸心に対してずれずに同軸となるように送ることが求められる。
例えば,甲4の「5.定置式スポット溶接機への組付」 (A) 「3.
の の
高さ調整」の項(9頁)には,スピンドル先端を下部電極ピン(下部電
極のロケートピン)に最も近づけた状態で,スピンドル先端と下部電極
ピンの関係位置の調整がなされる旨の記載があり,甲4の「9.故障と
対策」の(Ⅰ)の項(16頁)には,スピンドル先端と下部電極ピンの
関係位置を再調整することで対策する旨の記載がある。
ここで,供給ロッド先端のガイドロッドと固定電極のガイドピンとの
関係位置を調整することによって,ナットをガイドピンに確実にはめる
ことができるようにするためには,当然のことながら,ナットのねじ孔
の内径とガイドロッドの外径との差が小さいこと,すなわち,ナットと
ガイドロッドのはめ合いの隙間が小さいことが前提となる。
ナットとガイドロッドのはめ合いの隙間が大きいときは,ナットのね
じ孔軸心がガイドロッドの軸心に対して大きくずれ動くことがあり得る
から,ガイドロッドと固定電極のガイドピンとの関係位置を調整しても,
ナットのねじ孔軸心は,必ずしも供給先においてガイドピンの軸心に合
致せずに大きくずれる。そのため,ナットがガイドピンにはまらずに落
ちることが多くなる。
以上のように,串刺し方式のナット供給装置において,ナットを目的
箇所に確実に供給するために,ナットとガイドロッドのはめ合いの隙間
をできるだけ小さくすることは,当業者の技術常識であったといえる。
このことは,電元社製品においても,本件特許の出願前から,ノーズ
ピンの外径が正規寸法のナットのねじ孔の内径よりも僅かに小さく設定
されているとともに,正規寸法より小さいナットのねじ孔の内径よりも
大きく設定されていた(甲4,33,41の1~3,63~66)こと
からも明らかである。
(イ) 本件明細書の【0002】には,従来のガイドロッドの外径がナット
のねじ孔の内径よりも大幅に小さく設定されている旨の記載があり,被
告は,その理由につき,異議2002-73160号事件における平成
15年6月23日付け意見書(甲21。以下「甲21意見書」という。)
において,「一つには,ナットがガイドロッドをスムーズに滑り降り,
かつ,ガイドロッドの下端から下部電極のガイドピンに円滑に乗り移る
ことができるようにするためです。また,ストッパ面に位置決めされた
ナットをガイドロッドの進出によって切り出す際に後続のナットとの絡
みつきを防止するためです。さらに,供給ロッドやその支持部材等の加
工精度や組立精度を過度に高くしなくても済むようにするためです。」
などと説明している。
しかし,その説明は,本件明細書の【0009】,【0010】,【0
012】及び【0014】の内容と大きく矛盾しており(例えば,【0
012】には,ガイドロッドとねじ孔の間の隙間をごく僅かの0.3m
mとすることが記載されている。),鵜呑みにできない。
被告の主張によれば,ガイドロッドの加工精度を高くすることなく,
ナットのスムーズな供給を実現するために,上記隙間を大きくすること
が本件特許の出願時の技術常識であったが,本件発明では,その技術常
識を覆して,上記隙間をごく僅か(例えば0.3mm)にした,という
ことになる。しかし,上記隙間をごく僅かにしても,ナットのスムーズ
な供給を実現することができる手段については,本件明細書に開示も示
唆もない。それにもかかわらず,本件発明が,上記隙間をごく僅か(例
えば0.3mm)にしても,ナットのスムーズな供給を実現することが
できるということは,そもそも被告の主張する技術常識(当時は,上記
隙間が小さいときはナットのスムーズな供給が妨げられるため,その隙
間を大きくすることが一般的であった)が存在せず,ナットのスムーズ
な供給の実現のために上記隙間を大きくする必要は元来ないのであって,
むしろ,原告が主張するように,ガタを減らすために,隙間を小さくす
ることが技術常識であったということになる。
仮に,被告が,本件特許の出願前に,ナット供給装置の部品の加工精
度や組立精度を過度に高くしなくても済むように,ガイドロッドの外径
をナットのねじ孔の内径よりも大幅に小さくしていたとしても,それは
設計思想の一つであって,ナットをガイドピンに確実にはめるためには
ナットとガイドロッドのはめ合いの隙間をできるだけ小さくするという
当業者の技術常識とは関係がなく,そのことによって当該技術常識が否
定されるわけでもない。
(ウ) 串刺し方式のナット供給装置では,フラフープ現象(案内棒=ガイド
ロッドの軸心に対してナットが偏心しながら回転する現象)が発生する
ため,ナットがガイドピンに正しくはまらないという課題があることは,
甲70(実公昭53-36365号公報)で指摘されているように,当
業者に周知である。
すなわち,ナットがガイドロッドに沿って滑り落ちるときに回転力を
生じ,フラフープ現象を起こすのは,ナットとガイドロッドのはめ合い
に隙間があるからであり,当然のことながら,そのはめ合いの隙間が大
きくなるほど,フラフープ現象は顕著になって,ナットのねじ孔軸心と
下部電極のガイドピンの軸心とのずれが大きくなる。そして,ナットが
ガイドロッドから離れるときに,ガイドロッドの先端とガイドピンの先
端との間に隙間があるために,ナットの上記軸心のずれによってガイド
ピンにはまらずに落下するのである。
したがって,ナットとガイドロッドのはめ合いの隙間が大きいときは,
ガイドピンの先端の形状やガイドロッドとガイドピンの位置関係が適切
に設定されていても,ナットがガイドピンにはまらずに落下するという
ことは当業者に周知の事項であり,換言すれば,当業者はナットをガイ
ドピンに確実にはめるためにはナットとガイドロッドのはめ合いの隙間
をできる限り小さくする方が良いことを技術常識の一つとして経験的に
認識している。
イ パーツフィーダにおいて異種ナットが混入する可能性について
甲20の54頁右欄30行ないし39行には,パーツフィーダにおいて
は,類似形状でサイズが異なるような異種部品の混入が問題になること,
そして,そのような異種部品をゲートで選別することが記載されている。
また,甲31には,特大ナット(例えばM10以上)及びM6未満のナ
ットを排除し,M6ナット及びM8ナットを選別してスポット溶接機等へ
送給するパーツフィーダのボウルが記載されている。このパーツフィーダ
のボウルでは,排除される特大ナット及びM6未満のナットが,選別すべ
きM6ナット及びM8ナットに混入した異種ナットに相当する。
さらに,甲4の「9.故障と対策」の(C)項(15頁)では「シュー
トレールの途中でナットがひっかかる」という故障に,「異種ナットが混
入していないでしょうか。」という確認を行なうことが説明されている。
以上によれば,パーツフィーダにおいて異種ナットが混入する場合があ
ることは,本件特許の出願時に当業者が想定し得たことであるといえる。
(2) 甲15発明について
ア 前記のとおり,串刺し方式のナット供給装置において,ナットとガイド
ロッドのはめ合いの隙間をできるだけ小さくすることは,本件特許の出願
時の当業者の技術常識であり,パーツフィーダにおいて,異種ナットが混
入する場合があることは,本件特許の出願時に当業者が想定し得たことで
ある。
したがって,当業者は,本件特許の出願時に異種ナットの混入を想定し
得たのであるから,甲15の記載事項,特に第2欄3行ないし18行の記
載事項から,甲15のナット供給装置において正規寸法よりも小さいナッ
トが混入し磁石7に吸引されて摺動孔4内の所定位置に停止することを導
き出すことができたといわなければならない。
また,当業者は,甲15の記載事項,特に第2欄10行ないし12行の
記載事項から,串刺し方式のナット供給装置において,ナットとガイドロ
ッドのはめ合いの隙間をできるだけ小さくするという出願時の技術常識を
参酌することにより,案内棒6の外径は正規寸法よりも小さいナットのね
じ孔の内径よりも自ずと大きく設定されることになるという事項を導き出
すことができるといわなければならない。なお,甲15の記載「目的ナッ
トの螺糸孔よりも稍小径」 「螺糸孔」 「螺子孔」
( は の誤記と認められる。)
の「稍」は,「ほかの事物または普通の標準に比べて,幾分違っている物
事の程度を表す語。いくらか。すこし。「―大きい」「―ぬるい」」(甲6
7広辞苑)を意味する。すなわち,甲15の案内棒は,目的ナットの螺子
孔よりも,「いくらか」小径,あるいは「すこし」小径であって,本件特
許明細書の従来技術の欄に記載されているガイドロッドのように「プロジ
ェクションナットのねじ孔の内径よりも大幅に小さく設定されている」の
ではない。したがって,甲15の案内棒の外径は正規寸法よりも小さいナ
ットのねじ孔の内径よりも大きいという事項が甲15の記載事項及び当業
者の技術常識から導き出されることは理の当然である。
イ そこで,正規寸法よりも小さいナットが甲15のナット供給装置に混入
した場合,甲15のナット供給装置では,「導入ナット群の最前端のもの
は其の側辺を磁石7に吸引されて摺動孔内に位置することになる。」(第
2欄16行~18行)とされている。
ここで,混入した正規寸法よりも小さいナットのサイズ(外径)が正規
寸法のナットのサイズよりも小さいケース(本件特許公報の【0013】
に記載されたケース)を図示すると,下記【図1】のとおりである。
このケースでは,正規寸法よりも小さいナットは,磁石7に吸着されて
摺動孔4内に位置したとき,ナットサイズが正規寸法のナットサイズより
も小さいから,ねじ孔軸心が案内棒6の軸心よりも磁石7側に偏った状態
になる(偏心量E)。そのため,案内棒6の先端部が正規寸法よりも小さ
いナットの上面又はねじ孔の角に当たる。すなわち,案内棒6による串刺
し作用を生じない。その結果,当該正規寸法よりも小さいナットは,磁石
7から外れ,案内棒6によって摺動孔4の前方の開口から弾き飛ばされる。
次に,混入した正規寸法よりも小さいナットのサイズ(外径)が正規寸
法のナットのサイズと同じであるケース(本件特許公報の【0016】に
記載されたケース)を図示すると,下記【図2】のとおりである。
このケースでは,正規寸法よりも小さいナットのねじ孔軸心と案内棒6
の軸心が一致する。しかし,案内棒6は,その外径が正規寸法よりも小さ
いナットのねじ孔の内径よりも大きいから,ねじ孔には入らない。すなわ
ち,案内棒6による串刺し作用を生じない。その結果,当該正規寸法より
も小さいナットは,磁石7から外れ,案内棒6によって摺動孔4の前方の
開口から弾き飛ばされる。
甲15のナット10,ナット10が吸着される磁石7の吸着面,スピン
ドル5及び案内棒6が,本件発明2の「プロジェクションナット」,「ス
トッパ面」,「供給ロッド」及び「ガイドロッド」各々に相当することは
自明である。
【図1】 【図2】


ウ 以上によれば,本件特許の出願時の当業者の技術常識を考慮すれば,甲
15には,本件発明2の構成要件Eに相当する構成が記載されているに等
しいということができる。
(3) 進歩性の判断について
以上のとおり,本件発明2の構成要件Eは甲15に記載されているに等し
い事項であり,相違点3はこの構成要件Eに係る構成に関するものであるか
ら,甲15に記載されているに等しい事項を甲14発明に適用して本件発明
2の構成要件E(相違点3)のように構成することは,当業者であれば,容
易になし得ることであるといえる。
ところが,本件審決は,甲13装置を主たる証拠とする無効理由(無効理
由7,13,15,20)と,甲14を主引用例とする無効理由(無効理由
5,18)のいずれについても,甲14ないし16に構成要件Eに相当する
構成が示されていないことを理由に,理由がない(想到容易ではない)もの
と結論付けた。
かかる結論は,甲15発明の認定を誤ったものであり,その誤りがなけれ
ば,本件発明2ないし4に無効理由がないと判断することはできなかったも
のである(本件発明2の相違点1及び2に係る構成は,それぞれ甲15及び
甲16に記載されている事項であり,本件発明3の構成要件Hに相当する構
成は,本件特許の出願前に周知慣用の技術であり,本件発明4の構成要件K
に相当する構成は,甲16に記載されている事項である。)。
したがって,上記認定の誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかで
あるから,本件審決は取り消されるべきである。
(4) 本件訴訟の審理範囲について
被告は,後記のとおり,原告主張の取消事由1は,そもそも最高裁判例(最
高裁大法廷昭和51年3月10日判決・メリヤス編機事件)に抵触し,本件
訴訟の審理範囲とならない旨主張する。
しかし,上記最高裁判例は,「審決の取消訴訟においては,抗告審判の手
続において審理判断されなかつた公知事実との対比における無効原因は,審
決を違法とし,又はこれを適法とする理由として主張することができないも
のといわなければならない。」と判示したものであるところ,本件審決は,
甲15を引用例とする無効理由として,無効理由5ないし7(本件発明2に
関し),無効理由12ないし15(本件発明3に関し)及び無効理由18な
いし20(本件発明4に関し)を列挙し,甲15の記載事項及び甲15技術
的事項の認定を行った上で,その判断をしている。また,本件審決は,「す
なわち,甲15技術的事項を参照すると,特許発明2のガイドロッドに相当
する案内棒6を正規寸法のナット10のねじ孔の内径よりもやや小さく設定
することが示されているものの,ガイドロッドの外径を正規寸法よりも小さ
いプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定して,ナットを
弾き飛ばすことについて記載も示唆もない。」とも判断しており,公知事実
との対比において無効原因(特許発明2の構成要件Eについて甲15に記載
又は示唆があるか否か)が実質的に審理判断されている。
したがって,上記被告の主張は失当である。
2 取消事由2(発明の明確性についての判断の誤り)について
(1) 本件審決は,本件発明1の構成要件Q及び本件発明2の構成要件Eにおけ
る「ガイドロッドの外径は正規寸法のプロジェクションナットのねじ孔の内
径よりもわずかに小さく設定されていると共に正規寸法よりも小さいプロジ
ェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定され」という記載は明確
であると判断した。
すなわち,本件審決は,「ガイドロッドの外径は正規寸法のプロジェクシ
ョンナットのねじ孔の内径よりもわずかに小さく設定されている」との記載
がガイドロッドの外径の上限の設定値を意味し,「正規寸法よりも小さいプ
ロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定され」との記載がガ
イドロッドの外径の下限の設定値を意味することは明らかであるところ,こ
れらの記載の技術的な意味は,「正規寸法よりも小さいナットを,ガイドロ
ッドが串刺しにしてしまうことを解決しようとするものであって,ガイドロ
ッドの先端部が確実に干渉してナットを弾き飛ばす作用を実現させようとす
るものであるといえる。」から,当業者であれば,正規寸法のナットが通常
通りに串刺しされるように,ガイドロッドの外径の上限値を設定し,正規寸
法よりも小さいナットを弾き飛ばすように,ガイドロッドの外径の下限値を
設定すればよいことを当然に理解できると判断している。
(2) しかしながら,これらの記載がガイドロッドの外径の上限の設定値と下限
の設定値を意味するとしても,例えば,下限値についてみた場合,一般に「正
規寸法よりも小さいプロジェクションナット」は複数種類存在する(M6ナ
ットを正規寸法とすれば,M5ナットもM4ナットも存在する)から,その
下限値を設定する「正規寸法よりも小さいプロジェクションナット」が,正
規寸法よりも小さいどのようなナットを意味するのかは不明である。
この点,被告は,M6を正規寸法とする場合,「正規寸法より小さいナッ
ト」がM5ナットを意味するものであることは自明であるとし,その論拠と
して,M4ナットも正規寸法より小さいナットではあるが,同じく正規寸法
より小さいナットであるM5ナットよりガイドロッドの外径が小さいのであ
れば,「正規寸法より小さいナット(M5)の内径よりも大き」いとはいえ
ないと主張するが,これは「正規寸法よりも小さいナット」がM5であるこ
とを前提とした論理であって,当該論理によって,M4ナットが「正規寸法
より小さいナット」となることが排斥されるものではない。
(3) また,被告は,審判答弁書24頁において,「M6ナットを正規寸法とす
る場合,同ナットより小さいナットにはM5ナットも含まれるのであるから,
M5ナット(正規寸法より小さいナット)のねじ孔内径(甲9〔甲22の誤
記と認める。〕によれば4.134mm)よりも小さい3.5mmをガイド
ロッドの外径とする製品は,本件発明1ないし4の実施品ではない。すなわ
ち,本件発明2の構成要件E及び本件発明1の構成要件Qにおける「正規寸
法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定さ
れている」との構成を備えていないものである。」と述べている。
しかし,甲22によれば,M5ナットにはピッチの異なる2種類があり,
ピッチが0.8mmであるM5ナット(以下「M5ナットA」という。)の
ねじ孔の内径は4.134mmであるが,ピッチが0.5mmであるM5ナ
ット(以下「M5ナットB」という。)のねじ孔の内径は4.459mmで
あるところ,このピッチの異なる2種類のM5ナットA及びBは,いずれも
そのねじ孔の内径がM6ナットのねじ孔の内径(例えば,ピッチが1mmで
あるとき内径は4.917mm)よりも小さい。
ここで,当業者が,ガイドロッドの外径をM5ナットAのねじ孔の内径4.
134mmと,M5ナットBのねじ孔の内径4.459mmとの中間寸法に
設定した場合,「正規寸法よりも小さいプロジェクションナット」が,ねじ
孔の内径が正規寸法のナットに最も近いものを意味すると解すれば,ねじ孔
の内径が4.459mmであるM5ナットBが「正規寸法よりも小さいプロ
ジェクションナット」ということになるから,ガイドロッドの外径が上記中
間寸法に設定された方法及び装置は,そのガイドロッドの外径が「正規寸法
よりも小さいプロジェクションナット」のねじ孔の内径よりも小さく,本件
発明1ないし4の範囲に入らないことになる。他方,審判答弁書24頁の記
載によれば,ねじ孔の内径4.134mmであるM5ナットAが正規寸法よ
りも小さいナットとされているから,ガイドロッドの外径が上記中間寸法(し
たがって,M5ナットAのねじ孔の内径よりも大きい寸法)にされた方法及
び装置は,なお本件発明1ないし4の範囲に入ることになる。しかし,その
場合,ねじ孔の内径4.459mmであるM5ナットBは,ねじ孔の内径が
正規寸法のナットに最も近い,正規寸法よりも小さいナットではあるが,
「正
規寸法よりも小さいプロジェクションナット」ではないということになる。
この点,被告は,M6ナットを正規寸法とする場合,M6ナットより少し
でも小さいM5ナットBを「正規寸法よりも小さいナット」と解すべきこと
は自明であると主張するが,この主張によれば,例えば,ピッチ0.8mm
のM5ナット(ねじ孔内径4.134mm)を正規寸法としたとき,ピッチ
0.5mmのM4.5ナット(ねじ孔内径3.959mm)は「正規寸法よ
りも小さいナット」と解されるところ,ガイドロッドの外径をM4.5ナッ
トのねじ孔内径より僅かに大きい3.960mmにしたとき,ガイドロッド
の外径と正規寸法のM5ナットのねじ孔の内径との差は0.174mm(片
側の隙間は0.087mm)という微小なものとなり,ナットの製造誤差や
ナット供給装置の部品の組付誤差を考えれば,正規寸法のM5ナットに対し
てガイドロッドの正常な串刺し作用がなされるとは,技術常識として到底考
えられないから,被告の主張は,正規寸法のナットに対して正常なガイドロ
ッドの串刺し作用を生じさせるという本件発明の前提を無視した当を得ない
ものというべきである。
(4) 以上のように,本件発明1の構成要件Q及び本件発明2の構成要件Eにお
ける「正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも
大きく設定されている」は,その意味するところが不明確であり,本件明細
書の記載を考慮しても,当該記載の意味内容を明確に把握することができな
い。そのため,本件発明1ないし4の範囲が不明確になっている。
本件審決は,本件発明の明確性についての判断を誤ったものであり,その
誤りがなければ,明確性要件違反の無効理由(本件発明1につき無効理由2
3,本件発明2ないし4につき無効理由24)がないと判断することはでき
なかったものである。
したがって,上記の誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである
から,本件審決は取り消されるべきである。
第4 被告の反論
1 取消事由1(甲15発明の認定の誤り)について
原告の主張は争う。次のとおり,本件特許の出願時における当業者の技術常
識を勘案しても,甲15には,本件発明2の構成要件Eに相当する構成は記載
も示唆もされておらず,本件審決の認定に誤りはない。
なお,甲15に本件発明2の構成要件Eに相当する構成が記載されていると
の主張は,本件訴訟において原告が初めてした主張であり,無効審判において
実質的に審理判断された事実もない(原告が無効審判において本件発明2の構
成要件Eに相当する構成が開示されていると主張した引例は甲14であり,甲
15ではない。甲15は,構成要件Cに相当する構成が開示されている引例と
して主張されていたものである。)。したがって,原告主張の取消事由1は,
そもそも最高裁判例(最高裁大法廷昭和51年3月10日判決・メリヤス編機
事件)に抵触し,本件訴訟の審理範囲とならないものである。
(1) 本件特許の出願時における技術常識等について
ア ナットとガイドロッドのはめ合いの隙間の大きさについて
(ア) 本件明細書の【0002】によれば,本件特許の出願前においては,
ガイドロッドの外径をナットのねじ孔の内径よりも「大幅に」小さく設
定することが技術常識であった。その理由は,甲21意見書で説明した
とおりである。
原告は,かかる説明は本件明細書の【0009】,【0010】,【0
012】及び【0014】の記載内容と大きく矛盾すると主張するが,
隙間を小さくすれば,ガイドロッドの加工精度(寸法,表面の平滑性)
を高くしない限り,甲21意見書に記載した問題点が解消せず,コスト
がかさむという問題があった。それゆえ,本件発明の出願前の当業者は,
そのようなコストがかさむ加工を行わず,ガイドロッドとナットのねじ
孔との間に十分な隙間を設けることにより,ナットのスムーズな供給を
実現していたのである。
このように,本件発明の出願前の当業者には,ガイドロッドの外径を
「正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも
大きく設定」するなどという技術常識は存在しない。したがって,甲1
5に当業者の技術常識を併せて考えても,甲15に本件発明2の構成要
件Eに相当する構成が記載されているなどと認定することは不可能であ
る。
(イ) 原告は,串刺し方式のナット供給装置が甲4に記載されていると主張
するが,甲4記載の供給装置は磁力によりナットを保持して目的箇所に
ナットを供給するものであり,本件発明にいう「供給ロッドのガイドロ
ッドをねじ孔内へ串刺し状に貫通させてプロジェクションナットを目的
箇所へ供給する形式」(構成要件C及びO)が記載されているものでは
ない。
また,串刺し方式のナットの供給装置において,ガイドロッドの位置
とガイドピン(下部電極)の位置を調整する必要があることは否定しな
いが,甲14の【図1】や甲15の第1図で示されるとおり,ガイドピ
ン(下部電極)の先端は曲面となっているのであり,ナットのねじ孔の
内径とガイドロッドの外径との差が小さくなくとも,ガイドロッドとガ
イドピンの位置関係さえ適切に設定していれば,ナットの供給に支障が
生じることはない。すなわち,ガイドピンの先端は平面ではなく,端部
を最細部とする曲面であるため,ねじ孔の軸心とガイドピンの軸心が同
軸でなくとも,ねじ孔の一部にガイドピンの先端が通りさえすれば,そ
のままねじ孔がガイドピンの曲面に沿って誘導され,最終的にナットは
目的位置に位置決めされることとなるのであるから,ナットとガイドロ
ッドのはめ合いの隙間をできるだけ小さくすることが技術常識であると
の原告の主張は理由がない。
「電元社製品」に関する原告の主張も(これを技術常識ないし周知性
立証の主張であると善解したとしても)失当である。
(ウ) 原告は,甲70を引用して,串刺し方式のナット供給装置において,
ナットがガイドピンに正しくはまらないという問題が周知であったと主
張する。
しかしながら,本件特許の出願時には加工精度により心振れは生じな
くなっており,フラフープ現象なるものも生じることはなくなっていた
し,適切な調整がなされていれば,甲70に記載されているような,「下
部電極の心金上端に案内棒の下端が下降下限で接触」する(2欄24行
~25行)などということは起こり得ない。
また,甲70に記載されている「方向性を必要とする四角ナットやT
ナット等に対してはフラフープ現象によりナットが一定方向のまま安定
着地しないので,使用することができなかった。」(2欄32行~35
行)との課題は,正規寸法のナットのねじ孔の内径よりも,ガイドロッ
ドの外径を僅かに小さくするとの構成により解決するものではない。
そもそも,甲70は,原告が主張する問題(課題)を解決する手段と
して,電磁石による磁力保持方式を採用したものであり,正規寸法のナ
ットのねじ孔の内径よりも,ガイドロッドの外径を僅かに小さくすると
の構成については,記載も示唆もされてない。
したがって,原告が主張するナットとガイドロッドのはめ合いの隙間
を小さくするなどという技術常識は存在せず,甲70から導かれるもの
でもない。
イ パーツフィーダにおいて異種ナットが混入する可能性について
パーツフィーダにおいて異種ナットが混入する場合があることは,本件
特許の出願時に当業者が想定し得たことであるとの点に関し,被告も,当
該課題そのものが公知であることを否定するものではない。
しかしながら,甲20に記載されているのはパーツフィーダにナットを
投入する前の選別であり,パーツフィーダに正規寸法より小さいナットが
混入した場合の課題及び解決手段を示唆するものではない。
甲31においては,「このゲートプレート51とプレート41aで囲ま
れた部分には,トラック11とは逆に軸方向外側に上向きの斜面をもつ滑
降山部17が形成されており(第4図B参照),…すなわち表向き50a
とM6未満のナット50は,ここで下方に落下させる。」(4頁5行~1
3行)と,トラック11に設けた滑降山部を用いて正規寸法より小さいナ
ットを排除しており(実施可能性に疑問がないわけではないが),本件発
明と課題の解決手段において大きく相違するものである。
(2) 甲15発明について
以上より,甲15発明には本件発明2の構成要件Eに相当する構成が記載
も示唆もされていないことは自明である。
甲15には,確かに「摺動孔内には非磁性体製スピンドル摺動自在に嵌挿
しスピンドルには其の中心を貫通して目的ナットの螺糸孔よりも稍小径の案
内棒を嵌着して」(特許請求の範囲2)と記載されているが,当該「稍小径」
との記載から,ガイドロッドの内径が正規寸法のナットのねじ孔の内径より
も小さく設定されていることは理解できるが,ガイドロッドの内径の下限を
正規寸法より小さいナットの内径より大きくするとの技術的思想が甲15に
示唆されていると当業者が理解することは不可能である。
原告の主張は,誤った技術常識を前提とするものであり,当を得ない。
2 取消事由2(発明の明確性についての判断の誤り)について
原告の主張は争う。次のとおり,本件発明1の構成要件Q及び本件発明2の
構成要件Eの明確性に欠ける点はなく,本件審決の判断に誤りはない。
(1) 構成要件Q及びEの解釈
本件明細書の【0004】に記載されているとおり,ナットのねじ孔の内
径には規格があり,M10のナットが正規寸法である場合も,M8のナット
が正規寸法である場合も当然存在するのであるから,これを特許請求の範囲
において,一義的に数値で特定することは不可能である。したがって,本件
特許においては,構成要件Q及びE記載のとおり,正規寸法を基準に相対的
にガイドロッドの外径を特定しているのである。
そして,本件明細書の記載(【0004】及び【0009】)から,構成
要件Q及びEにおけるガイドロッドの外径の特定は,「正規寸法ナットの内
径>ガイドロッドの外径>正規寸法より小さいナットの内径」を意味するも
のであることは,当業者にとって自明である。
なお,発明を特定するための事項の意味内容や技術的意味の解釈に当たっ
ては,請求項の記載だけではなく,明細書及び図面の記載並びに出願時の技
術常識をも考慮すべきことは論をまたない。
(2) 原告の主張について
M6を正規寸法とする場合,本件発明1の構成要件Q及び本件発明2の構
成要件Eにおける「正規寸法より小さいナット」がM5ナットを意味するも
のであることは自明である。M4ナットも正規寸法より小さいナットではあ
るが,M4ナットの内径よりも大きくとも同じく正規寸法より小さいナット
であるM5ナットの内径よりガイドロッドの外径が小さいのであれば,「正
規寸法より小さいナット(M5)の内径よりも大き」いとはいえないからで
ある。
さらに,原告の主張するM5ナットA,M5ナットBも,いずれもM6ナ
ットより小さいのであるから,内径がより大きいM5ナットBを「正規寸法
より小さいナット」と解すべきことは自明である(ただし,均等侵害の可能
性はもちろん別である。)。
原告は,被告の無効審判における答弁書の主張を取り上げて主張するが,
原告の審判請求書における主張が,ピッチを0.8mmとするM5ナット(内
径4.134mm)を前提とするものであったため,被告もピッチを0.8
mmとするM5ナットを前提に反論したにすぎない。上記原告の主張は,被
告の無効審判における主張の前提を無視したものであり,当を得ないもので
ある。
また,原告は,ピッチが0.8mmのM5ナットを正規寸法とした場合,
ピッチが0.5mmのM4.5ナットの内径との差が0.174mmしかな
いことを例に挙げ,ガイドロッドの正常な串刺し作用がなされるとは技術常
識として考えられないとも主張するが,加工精度を向上すれば足りることで
あるし,そもそも明確性要件(特許法36条6項2号)との関連が明らかで
なく,主張自体失当である。
第5 当裁判所の判断
1 本件発明について
(1) 本件明細書の記載
証拠(甲60,61)によれば,次の記載が認められる(図面については,
別紙「本件明細書の図」を参照)。
ア 技術分野
【0001】【発明の属する技術分野】この発明は,プロジェクション
ナットを供給する分野におけるものであり,供給ロッドのガイドロッドを
プロジェクションナットのねじ孔内へ串刺し状に貫通させて,ナット供給
を行うものに関している。
イ 従来の技術
【0002】【従来の技術】円形のボウルに振動を与えてプロジェクシ
ョンナットを送出するパーツフィーダとこのパーツフィーダからのプロジ
ェクションナットをストッパ面に当てて所定位置に停止させ,その後,供
給ロッドのガイドロッドをプロジェクションナットのねじ孔内へ串刺し状
に貫通させてプロジェクションナットを目的箇所へ供給する形式のものに
おいては,前記ガイドロッドの外径がプロジェクションナットのねじ孔の
内径よりも大幅に小さく設定されている。
ウ 発明が解決しようとする課題
【0003】【発明が解決しようとする問題点】パーツフィーダのボウ
ル内へ入れられるプロジェクションナットは,常に同一寸法の正規のもの
ばかりであればよいのであるが,搬送中に何等かの原因で正規寸法以外の
ものが混入することがある。たとえば,ねじ孔内径が8mmの正規寸法の
ナットを入れた部品箱とねじ孔内径が6mmの異常寸法のナットを入れた
部品箱とを並べて自動車の荷台に積載しているようなときには,走行中に
荷台が振動するとナットが跳ねて隣の部品箱に入ることがある。あるいは,
作業者がまちがって異常寸法のものを正規寸法のところへ入れることもあ
る。このような現象により異常である6mmのものがストッパ面に停止し
ても,ガイドロッドが細すぎるために串刺しにしてしまって通常通りに供
給し,目的箇所の鋼板部品上に載置されてプロジェクション溶接がなされ
てしまう。このような現象が生じると,後工程でボルトを捩じ込もうとし
ても正規の8mm用ボルトが入らないというトラブルが発生する。
【0004】プロジェクションナットは製品の種類によって色々な寸法
のものが採用されるのであるが,たとえば,自動車のドアーであればねじ
孔内径が6mm,8mm,10mmといった3種類のナットが採用され,
各ナットの高さや幅がねじ孔内径に応じて大きくなっており,ある箇所へ
のナットは8mmが正規のもので,他派異常寸法ということになる。この
ような状況であるので上記のようなトラブルに対処しなければならないこ
とになるのである。
【0005】さらに,従来のプロジェクションナットの供給をシステム
として見てみると,パーツフィーダ側の送出コントロールと供給ロッドの
構造・寸法との有機的な関連性が設定されていないので,異常寸法のナッ
トに対する解決策が満足にとれていないという問題がある。
エ 発明の実施の形態
【0007】【発明の実施の形態】つぎに,発明の実施の形態を図示の
実施例にしたがって説明する。まず,図2の供給ロッドの作動ユニットに
ついて説明すると,固定電極1と可動電極2とが同軸上に配置され,固定
電極1上に鋼板部品3が載置してあり,その上に置かれたプロジェクショ
ンナット4に可動電極2が密着して電気抵抗溶接がなされる。供給ロッド
の作動ユニットは符号5で全般的に示されている。作動ユニット5は主と
して供給ロッド6とそれを案内するガイド管7と後述のパーツフィーダに
接続されているナット供給管8および磁石9からなっている。
【0008】作動ユニット5の詳細構造を図1で説明すると,ガイド管
7の端面10に矩形断面のナット供給管8の先端部分を密着させて溶接し
てある。ナット4は図3の二点鎖線図示のごとく正方形の形でねじ孔の軸
線方向に所定の高さを有しており,このような形状のナットを表裏や向き
を正しく維持するために,ナット供給管8は矩形断面とされている。ナッ
ト供給管8の先端部には仮止室11を形成する切欠き12が設けてある。
ガイド管7の下部には切除部13によって平面14が形成され,この平面
はナット供給管8の端面15と一連の同一平面を形成している。やや偏平
な直方体をなした厚板状の磁石(永久磁石)9は,図1や図3から明らか
なように平面14と端面15に押し付けた状態で固定されている。この固
定方法の一例として,押え金具16をボルト17でねじ止めする方法を採
用した。磁石9はやや厚い基板18に孔19を明け(原文ママ),そこに
磁石20をはめ込み,左右から被覆板21,22を密着させたもので,溶
接でこの密着がなされている。磁石20がナット4に対応した位置におか
れ,被覆板22の表面がストッパ面28とされていて,ナットが磁石で吸
着されて一時係止されていることにより,仮止室11内における位置決め
がなされている。
【0009】ガイド管7内のガイド孔23内に挿入された供給ロッド6
は,大径のロッド部24と小径でナット4のねじ孔29に進入するガイド
ロッド25からなり,両者の境界部に押出し面26が設けてある。ガイド
ロッド25の外径は正規寸法のナットのねじ孔29の内径よりもわずかに
小さく設定してある。その寸法を例示すると,ガイドロッド25の外径は
7.4mm,ナットのねじ孔内径は8mmである。また,ガイドロッド2
5の外径は正規寸法よりも小さいナットのねじ孔の内径よりも大きく設定
されている。図1は,ナット4が磁石9に吸引されて仮止室11内に一時
係止されている状態であり,このときにはガイドロッド25の軸心とねじ
孔29の軸心とが同軸になっている。換言すると,このような同軸状態が
得られるようにガイドロッド25の軸心とストッパ面28との間隔が設定
されているのである。
【0010】供給ロッド6が進出してくると,ガイドロッド25がナッ
ト4のねじ孔内に進入して押出し面26でナット4を押し下げてゆき,ガ
イドロッド25の先端が固定電極1のガイドピン30の直近で停止すると,
今度はナット4がガイドピン25を滑動してナットのねじ孔29がガイド
ピン30に嵌まり合うのである。供給ロッド6が進出中にナット4を押出
し面26に接触させておくために,供給ロッド6の進出速度をナットの落
下速度とほぼ同じかまたはそれよりも速く設定してある。なお,供給ロッ
ド6の進退作動は,図2に示したようなエアシリンダ27で行わせるのが
適当である。
【0011】つぎに,図6~図10にしたがってパーツフィーダ側につ
いて説明すると,円形のボウル31の内側に螺旋形の送出通路32が段状
に形成され,この通路32にナット供給管8が連続的に接続されている。
ボウル31の下側には起振部33が設置され,円弧方向と上下方向との合
成振動をボウル31に伝達してナット送出を行うのである。計測手段34
はパーツフィーダに設置されているもので,具体的には送出通路32に取
り付けてある。図9,図10に計測手段の具体例が図示されており,L字
型のゲージ部材35を鋼板を折り曲げて図9の符号36の箇所で溶接して
ある。このようにゲージ部材35によって閉断面状の形態になっており,
図9のごとく正規寸法あるいはそれ以下のナット4は通過させるが,正規
寸法よりも大きいナットは通過させないで排除するのである。この排除を
行わせるために,ゲージ部材35の上流側端縁が傾斜部37とされ,正規
寸法よりも大きいナット38が来たら,傾斜部37を摺動しながら送出通
路32からずれてゆき,最後にはボウル31の底部へ転落する。図9の計
測手段34はナット4の高さと幅の両方を計測する形式であるが,これを
高さだけあるいは幅だけで選別することも容易に実施できる。
【0012】本発明の作動を説明すると,まず,正規寸法よりも大きい
ナット38が進んで来たときには,図10のようにして排除される。そし
て,正規寸法のナット4は図9および図10のごとく計測手段34を通過
して図1のようにストッパ面28に一時係止されて,供給ロッド6の進出
により前述のように正常な供給が果たされる。そのときの過渡状況は図4
の通りであり,ねじ孔29とガイドロッド25との隙間はごく僅かであり,
前述の例示寸法からすると片側の隙間は0.3mmである。
【0013】今度は,正規寸法以下のナットは計測手段34を通過して
図5のようにストッパ面28に一時係止されるが,同図の二点鎖線図示の
正規寸法のナットと異常ナットとの寸法差は符号Lで示されており,した
がって,ねじ孔29もストッパ面28側に偏心していて,供給ロッド6が
進出するとガイドロッド25の先端部がナットの上面に当たることになり,
これによってナットは弾き飛ばされ,目的箇所へは供給されない。
オ 発明の効果
【0014】【効果】本発明によれば,パーツフィーダに設置した計測
手段で正規寸法よりも大きいプロジェクションナットを予め排除しておき,
正規寸法あるいはそれ以下のナットだけをストッパ面に到達させて位置決
めを行い,その後,供給ロッドを進出させるものであるから,正規寸法の
ナットが一時係止されているときには正常なガイドロッドの串刺し作用が
なされて,正しい部品供給がなされる。もし,正規寸法よりも小さいナッ
トがストッパ面に一時係止されているときには,ねじ孔がストッパ面側へ
偏心しているので,ガイドロッドの先端部がナットの上面かまたはねじ孔
の角部に当たり,串刺し作用が生じることなくナットは弾き飛ばされてし
まう。したがって,前述のような異常寸法のナットが目的箇所へ供給され
たり,溶接されるようなことが回避できるのである。特に,パーツフィー
ダにおける計測機能と一時係止状態にあるナットへのガイドロッドの作動
とが有機的に関連付けられているので,一連の作動がシステマティックに
行われ,しかも正規寸法よりも小さいナットを排除するための特別な機構
などが全く不要なので,装置の簡素化にとって非常に有利である。
【0015】ガイドロッドの外径は,正規寸法のナットのねじ孔内径よ
りもわずかに小さく設定してあるので,正規寸法よりも小さいナットに対
してガイドロッドの先端部が確実に干渉して弾き飛ばしがなされ,信頼性
の高い作動が実現する。
これは実施例について述べることのできる効果であるが,ストッパ面と
ガイドロッドの軸心との距離が,正規寸法のナットに合致させて設定して
あるから,正規寸法よりも小さいナットは上記距離を下回り,しかもねじ
孔の内径も正規のものよりも小さくなるので,ガイドロッドの先端部はナ
ットを確実に弾き飛ばすことになるのである。
【0016】さらに,ガイドロッドの外径は,正規寸法よりも小さいナ
ットのねじ孔内径よりも大きく設定してあるから,仮にねじ孔の軸心とガ
イドロッドの軸心とが同軸になったとしても,串刺し作用はなされずに確
実に弾き飛ばしがなされる。
【0017】計測手段は,送出通路に閉断面状の形態で設置されている
ので,ナットの高さあるいは幅で正規寸法またはそれ以下のものだけを通
過させることが確実に達成でき,前述の一連の作動の初期の機能を高い信
頼性のもとに果たさせることができる。
(2) 本件発明の内容
(1)の記載によれば,本件発明の内容は,次のとおりであると認められる。
ア 本件発明は,供給ロッドのガイドロッドをナットのねじ孔内へ串刺し状
に貫通させてナット供給を行うものに関する(【0001】)。
イ パーツフィーダの円形のボウルに振動を与えて送出したナットをストッ
パ面に当てて所定位置に停止させた後,供給ロッドのガイドロッドをナッ
トのねじ孔内へ串刺し状に貫通させて,ナットを目的箇所へ供給するもの
においては,ガイドロッドの外径は,ナットのねじ孔の内径より大幅に小
さく設定されている(【0002】)。
ウ ナットは,製品の種類によっていろいろな寸法のもの(例えば自動車の
ドアーであればねじ孔内径が6mm,8mm,10mmの3種類)が採用
され,ある個所に使用されるナットは,ねじ孔内径が例えば8mmのもの
が正規寸法のものであり,他は異常寸法ということになるところ,パーツ
フィーダのボウル内へ入れられるナットは,常に正規寸法のものばかりと
は限らず,何らかの原因で異常寸法のものが混入することがあり,正規寸
法のナット(ねじ孔内径が8mm)に混入した異常寸法のナット(ねじ孔
内径が例えば6mm)がストッパ面に停止した場合でも,ガイドロッドが
細過ぎる(ガイドロッドの外径が正規寸法のナットのねじ孔の内径8mm
より大幅に小さい)ので,そのナットを串刺しにして目的箇所に供給し,
プロジェクション溶接がされてしまうため,後工程でボルトをねじ込もう
としても,正規寸法のナット用のボルトが入らないというトラブルが発生
する(【0003】,【0004】)。
さらに,従来のナットの供給をシステムとしてみた場合,パーツフィー
ダ側の送出コントロールと供給ロッドの構造・寸法との有機的な関連性が
設定されていないので,異常寸法のナットに対する解決策が満足に取られ
ていないという問題がある(【0005】)。
エ 本件発明は,パーツフィーダに設置した計測手段で正規寸法よりも大き
いナットをあらかじめ排除しておき,正規寸法のナット及びそれよりも小
さいナットだけをストッパ面に到達させて位置決めを行い,その後,供給
ロッドを進出させるようにしたことに加え,ガイドロッドの外径が正規寸
法のナットのねじ孔の内径よりも僅かに小さく設定されるとともに,正規
寸法よりも小さいナットのねじ孔の内径よりも大きく設定されるようにし
たことにより,正規寸法のナットが一時係止されているときは,正常なガ
イドロッドの串刺し作用により部品供給が正しく行われる一方,正規寸法
よりも小さいナットが一時係止されているときは,仮にねじ孔とガイドロ
ッドとが同軸になったとしても,ガイドロッドの先端部がナットの上面部
又はねじ孔の角部に当たってナットに確実に干渉するため,串刺し作用が
生じることなく,ナットを弾き飛ばすので,異常寸法のナットが目的箇所
へ供給されて溶接される事態を回避できるという効果を奏するものであり,
特に,パーツフィーダにおける計測機能と一時係止状態にあるナットへの
ガイドロッドの作動とが有機的に関連付けられているので,一連の作動が
システマティックに行われ,しかも,正規寸法よりも小さいナットを排除
するための機構が不要なので,装置を簡素化できるという効果を奏するも
のである(【0014】~【0016】)。
2 取消事由1(甲15発明の認定の誤り)について
(1) 甲15発明の認定について
原告は,本件特許の出願時の当業者の技術常識を考慮すれば,甲15には,
本件発明2の構成要件Eに相当する構成が記載されているに等しいと主張す
るところ,その要点は,①串刺し方式のナット供給装置においては,ナット
とガイドロッドのはめ合いの隙間をできるだけ小さくすることが本件特許の
出願時の当業者の技術常識であったから,案内棒6(甲15)の外径が正規
寸法よりも小さいナットのねじ孔の内径よりも大きいという事項は,甲15
の記載及び当業者の技術常識から自ずと導き出されるものである,②パーツ
フィーダに異種ナットが混入する場合があることは,本件特許の出願時に当
業者が想定し得たことであるから,当業者は,甲15に記載されたナット供
給装置において正規寸法よりも小さいナットが混入し,磁石7に吸引されて
摺動孔4内の所定位置に停止することを導き出すことができた,③その場合,
①の技術常識が適用されていれば,混入した正規寸法よりも小さいナットは,
そのサイズ(外径)が正規寸法のナットのサイズ(外径)と同じでもそれよ
り小さくても,案内棒6による串刺し作用を生じない結果,磁石7から外れ,
案内棒6によって摺動孔4の前方の開口から弾き飛ばされる,との点にある
と認められるので,以下,順次検討する。
ア ナットとガイドロッドのはめ合いの隙間(前記①の点)について
(ア) 原告は,串刺し方式のナット供給装置は,本件明細書(【0002】)
に従来技術として記載され,また,甲4,甲15及び甲57に記載され
ているように,本件特許の出願時において当業者に周知であり,かかる
ナット供給装置において,ナットを目的箇所に確実に供給するために,
ナットとガイドロッドのはめ合いの隙間をできるだけ小さくすることは,
当業者の技術常識であったといえる旨主張する。
(イ) そこでまず,「串刺し方式のナット供給装置」なるものについて検討
する。
a 甲15の記載事項
甲15には,以下の記載が認められる(図面は省略)。
「其の要旨とする所は…(中略)…スポツト溶接機(図示せず)の
上下両電極1,2の軸芯に対して適宜角度α其の竪片を傾斜せしめた
直角L型の非磁性体供給ヘツド3に竪軸芯に沿つた外側壁面が平面の
摺動孔4と横軸芯に沿つた供給ナツトと同じ断面形状の通路溝9とを
それぞれ交叉するよう穿設し,交叉箇所外端部には磁石を其の表面が
摺動孔4の外側壁面と同一平面上にあらしめるよう装着し…(中略)
…,摺動孔4内には非磁性体製スピンドル5を摺動自在に嵌挿し,ス
ピンドル5には其の中心を貫通して目的ナツトの螺糸孔(判決注:「螺
子孔」の誤記と認める。)よりも稍小径の案内棒を嵌着してスピンド
ルの下降下限に於いて案内棒の下端が下部電極1の芯金1’上端に合
致するようなし,通路溝9内には目的のナツト10を案内シュート1
1を介して導入して成る装置である。従つて導入ナツト群の最前端の
ものは其の側辺を磁石7に吸引されて摺動孔内に位置することになる。」
(1欄31行~2欄18行)
「次に斯くなされた本発明ナツト供給装置の作用に就いて述べるに,
…(中略)…スピンドル5が下降行程に入り其の下部に設けた案内棒
6が第2図に示す如く直下のナツト10孔を貫通して其の下端が芯金
1’に接触合致する迄下降する。すると磁石7により吸着係止されて
いた最前部のナツト10は案内棒に嵌まつた状態のまま押し下げられ
て磁石7による吸着係止から外脱し,第4図に示す如く案内棒6に沿
つて辷り落ち芯金1’に自動的に嵌り込み,板金工作物12のナツト
溶接個所に正しく一個だけ供給される」(2欄19行~31行)
以上の記載によれば,甲15に記載されたナット供給装置は,ナッ
ト(ナツト10)をストッパ面(磁石7の表面)に当てて所定位置に
停止させ,その後,供給ロッド(スピンドル5)のガイドロッド(案
内棒6)をナットのねじ孔(ナツト10孔)内へ串刺し状に貫通させ
てナットを目的箇所へ供給するものであり,具体的には,ナット(ナ
ツト10)は,供給ロッド(スピンドル5)のガイドロッド(案内棒
6)がナットのねじ孔(ナツト10孔)を貫通し,ガイドロッド(案
内棒6)の下端がガイドピン(芯金1’)に接触合致するまで下降す
ると,磁石(磁石7)による吸着係止から外れ,ガイドロッドに沿っ
て滑り落ちてガイドピンに自動的にはまり込むものと認められる。
b 甲57の記載事項
甲57には,以下の記載が認められる(図面は省略)。
「本発明を実施例の図面に就いて詳述すれば,フイダー(図示せず)
から案内シユート2及び通孔1’を介して目的のナツトNを導入する
ようにした供給ヘツド1の上面に莢管3を螺着し,莢管3内にスリー
ブ4を摺動自在に嵌挿してその外周に発条5を被嵌し,該スリーブ4
内に摺動自在に莢挿した細径スピンドル6を莢管3の上端に螺着した
エアーシリンダー7のピストン桿8に連結し,エアーシリンダー7の
作動によって,スピンドル6が下降し,次いでスリーブ4がピストン
桿8に押圧されて下降するようなし,供給ヘツド1の下面には平面U
字型の板発条9を設けて,スピンドル6直下位置で目的のナツトNを
一時係止せしめるようになした」(2欄16行~29行)
「案内シユート2及び供給ヘツド1内通孔1’にあるナツトNは前
進して其の最前部のものが其の中心をスピンドル6の中心に合致して
板発条9上に載置される。此処で又エアーシリンダー7を下向きに作
動させるとスピンドル6は最前部ナツトNの中心孔を串刺しにして降
下し,スピンドル6の底端が下部電極の芯金B1に接触すると続いて
ピストン桿8がスリーブ4を押圧して,板発条に一時係止されている
ナツトNを離脱させるのである。すると該スピンドル6に嵌まつたナ
ツトNは第4図に二点鎖線で示す如くスピンドル6に沿つて辷り落ち
芯金B1に自動的に嵌まり込み,板金工作物Aのナツト溶接個所に正
しく一個供給される」(2欄最終行~3欄13行)
「案内シユート2を介して送られる目的のナツト等を,スピンドル
6の直下で一時的に係止するのに本発明では板発条9を使用している
が之に代え,第5図に示す如く当該個所に磁石10を設け,該磁石1
0によつて一時的に磁着させるか(この場合,ヘツド1及びスピンド
ル6は銅合金の如き非磁性体材料で造られる)又は其の他の機構によ
つて一時的に係止するようにしても同様の効果が得られる」(4欄2
行~10行)
以上の記載によれば,甲57に記載されたナット供給装置も,ナッ
ト(ナツトN)をストッパ面(磁石10の表面)に当てて所定位置に
停止させ,その後,供給ロッド(ピストン桿8)のガイドロッド(ス
ピンドル6)でナットのねじ孔(ナツトNの中心孔)内へ串刺し状に
貫通させてナットを目的箇所へ供給させるものであり,具体的には,
ナット(ナツトN)は,供給ロッド(ピストン桿8)のガイドロッド
(スピンドル6)がナットのねじ孔(ナツトNの中心孔)を貫通し,
ガイドロッド(スピンドル6)の底端が固定電極(下部電極)のガイ
ドピン(芯金B1)に接触するまで降下すると,磁石(磁石10)に
よる一時的な磁着から離脱し,ガイドロッドに沿って滑り落ちてガイ
ドピンに自動的にはまり込むものと認められる。
c 甲70の記載事項
他方,甲70には,以下の記載が認められる(図面は省略)。
「この考案はスポット溶接機へナツト(溶接用ナツト)を自動供給
する装置に関する。」(1欄34行~35行)
「従来この種の方法及び装置において,例えば特公昭47-416
55号公報(判決注:甲15)の技術的思想は一旦待機しているナツ
トをそのナツトのねじ内径よりやゝ小径の非磁性体の案内棒によりナ
ツトのねじ内径を貫通して,そのナツトを案内棒より重力を利用して,
これを下部電極の心金まで移動する間に案内棒よりナツトの自重によ
りナツトを辷り卸すようにしたナツト供給方法,いわゆる重力利用の
串刺し案内方法及び装置であることは公知技術であるが,この重力利
用の串刺し案内方式においては,磁石により一旦待機しているナツト
を案内棒により貫通しながら串刺してその磁石より離脱するときに,
ナツトに回転力が生じたりして案内棒にからみつくようなフラフープ
現象をおこしながら案内棒に沿って辷り落ち,とくにM4等の細径ナ
ツトにおいてはこれに対応する案内棒自身の外径がきわめて細いため
にスピンドルの下降に伴つて発生する振動により,案内棒の先方に心
振れを起すと共にフラフープ現象とあいまつてそのナツトの辷り落ち
る時間の異同がはげしいので,このため下部電極の心金上端に案内棒
の下端が下降下限で接触して,上昇の復帰時にナツトがタイミングを
はずしく(原文ママ)案内棒を辷り落ちるので,心金に供給する以前
にナツトが落ち,心金に確実に嵌合しないという本来の送給機能を十
分に発揮し得ないという欠点があり,…(中略)…さらに重力利用の
串刺し案内方式であるから,…(中略)…貫通孔のないナツト等を供
給することができないという欠点…(中略)…があつて」(2欄4行
~3欄4行)
「この考案は上記の欠点を解消するためになされたもので,ナツト
を溶接機の下部電極のガイドピンに,一定の方向性をもつて確実,且
つ迅速に供給して安全着地させるナツト自動供給装置を提供すること
を目的とし,その要旨は,傾動自在に取り付けたスリーブ4内に磁性
体ロツド2を設け,該磁性体ロツドをその前進行程において磁化させ
る電磁コイル5を該磁性体ロツドの周囲に同心的に配設し,該磁性体
ロツドの外周に設けたスリーブ6に該磁性体ロツドの特定の摺動位置
で前記電磁コイル5の通電を停止させる開閉器を取り付けると共に,
該磁性体ロツドの通路となる前記ナツト送給用シユートの先端部分に,
ナツトの供給時に開口するシヤツタ9を設けたことにある。」(3欄
11行~24行)
「磁性体ロツド2はナツトのねじ内径よりも太径に形成され,円錐
先端面を持ち,この円錐先端にナツト吸着面3が形成されている。」
(3欄34行~36行)
「次にこの考案の作用を説明する。通常磁性体ロツド2は上死点位
置にあり,先端部はスリーブ6内に収容され,電磁コイル5には通電
されていない。
シユート10を滑落してきたナツト13はストツパ15とシヤツタ
9によつて保持され待機している。
…(中略)…
シリンダー1の作動で磁性体ロツド2が前進を開始すると共に,電
磁コイル5に通電される。コイル5の励磁によつて磁性体ロツド2は
磁化されナツト13はナツト吸着面3に吸着 保持される。
・ この場合,
ナツト吸着面3は円錐状に形成されているので,ナツトねじ孔の大小
にかかわらず正確にセンタリングして吸着・保持される。
磁性体ロツド2が前進を開始するときに流体シリンダ16に連結さ
れたシヤソタ9(原文ママ)が開放され,第3図に示すように磁性体
ロツド2はナツト13をナツト吸着面3に所定の向きで保持しながら
ガイドピン14に向けて前進する。吸着ナツト13がガイドピン14
に近接した位置でガイド8がリミツトスイツチ7を操作して電磁コイ
ル5への通電が停止し,吸着を解除されたナツト13はガイドピン1
4に嵌入して被溶接材50上に位置する。」(4欄9行~40行)
「ナツト吸着面3を円錐形状にこだわることなく第2図に例示する
ように斜円柱形状2aとしてナツトを吸着・保持してもよい。」(6
欄2行~4行)
「この考案は上記のように電磁コイルにより磁性体ロツドをその前
進行程において磁化することによりロツド先端部にナツトを吸着・保
持して被溶接材の所定位置まで移送供給し,吸着・保持を解除してナ
ツトを強制的に所定の向きを維持して安定着地させるものであるから,
従来の重力利用の串刺し案内方式のように下部電極に案内棒が当接の
要なく,離れていても作業が可能であるから,孔なしの袋ナツト等に
も使用できる。…(中略)…さらにまた,重力利用の串刺案内方式で
はフラフープ現象を起したり,案内棒の心振れを発生したりしてナツ
トを確実に供給することができなかつたが,電磁コイルにより磁化し
た磁性体ロットを使用するこの考案においては正確かつ迅速にナツト
を供給できる」(6欄5行~21行)
d 甲51(特公昭56-10134号公報)の記載事項
また,甲51には,以下の記載が認められる(図面は省略)。
「本発明は,シユートに沿つて一定の向きに整列給送される溶接ナ
ツトを1個ずつスポツト溶接機の電極位置に供給するための自動供給
装置に関し,とくに一連の自動組立ラインにおける生産の流れにむだ
なく一定の供給速度で確実に正しい位置に供給できる溶接ナツト自動
供給装置の提供を目的とするものである。
一般にこの種供給装置は,たとえばシユートを滑降して給送される
ナツト群を先頭のナツトから一つずつシユート終端部に設けたナツト
停止具(ヒンジ板またはマグネツトなど)により一旦停止せしめ,上
方から目的位置の電極上面に到達移動するプツシユ・ロツドによりそ
のナツトの内径を串刺ししてナツトを前記ロツドに沿つて辷らせ,電
極に供給する目的および構成のものが種々量産工場において採用され
ている。
しかし,従来の装置は…(中略)…自動組立ラインにおける生産活
動能力に直接関係の深い送給速度・時間の異同に関連した種種の問題
を提供する。
すなわち,串刺しにされたナツトは前記ロツドを一定の速度で降下
せず,回転しながら辷り落ちるので,その降下速度に異同が生じる。
これに伴つて次の溶接作業工程に適正化された加圧・通電開始時にま
だナツトが供給されていなかつたりして溶接不良に起因する事故も往々
にして発生する惧れがあつた。」(2欄7行~35行)
「シユート1を通つて送給されてくるナツト群の中から先頭のナツ
トNを1個ずつ一旦停止せしめるようになし前記シユート1の終端部
とその斜め上方から交差するように流体圧シリンダ3を装置するとと
もに,引戻し状態にある前記シリンダ内のプツシユ・ロツド4の先端
面5と前記シユート終端部の交差するところには,前記ロツド4と磁
気回路を構造するための永久磁石6を設け,上,下電極7,8間に対
向して前進する際に,前記ロツド4を磁化せしめてナツトNを吸着・
保持せしめるようになしている。
ナツトNはロツド4の下端に吸着・保持される際にそれぞれの中心
を出来るだけ合致させることが安定な吸着・保持を行なうために必要
である。したがつて,該ロツド4の下端にはナツトNをロツド4の中
心に正しく位置決めするためのガイド9が取りつけ,取りはずしでき
るように設けられており,該ガイド9はナツトNの吸着・離脱特性を
よくするために,真鍮またはステンレス等の非磁性部材から形成され
ている。
したがつて,前記磁石6の磁界区域を通過するときに,前記ロツド
4の先端面に生じる磁気吸着力によつてナツトを吸着する。
実際に,前記ロツド4が流体圧シリンダ3の動作によりわずかに降
下した際,前記ロツド先端面5のガイド9がナツトNを位置決めし,
同時に前記磁石6により磁化された前記ロツドの先端面5にナツトN
を吸着するようになし,前記ロツド4とともにナツトNを電極8上面
に前進,移送する。
ここで,とくに前記ロツド先端面5に吸着したナツトNを効果的に
自重落下させるために考究された手段は次の通りである。
すなわち,前記ロツド4の先頭部4aを磁性体の部材にし,またそ
の後頭部4bを非磁性体の部材とに分けて形成し,ナツトNを所定の
位置まで吸着・移送する間は,前記磁石6の個所を磁性部材からなる
ロツド先頭部4aが通過して十分な磁気吸着力を得てナツトを吸着・
保持し,ナツトNが所定の目的位置に到達したときには,磁性部材の
ロツド先頭部4aが前記磁石6の箇所をすでに通過しており,前記磁
石6の箇所にはロツドの非磁性部材4bが位置するため,前記ロツド
先頭部4aの磁気吸着力はほとんど失われており,ナツトの保持が解
除されて,ナツトを自重で落下させることができる。」(3欄17行
~4欄17行)
「このような簡単な機構によつて従来の串刺し方式の場合の,ナツ
トが串刺しロツドを回転しながら辷り落ちるために生ずる降下速度の
バラツキのごとき問題を全く解消した。」(4欄29行~32行)
e 以上の各記載に基づいて検討するに,甲15及び甲57に記載され
た各ナット供給装置は,供給ロッドのガイドロッドがナットのねじ孔
を串刺し状に貫通し,ガイドロッドの先端が固定電極のガイドピンに
接触するまで下降すると,ナットが磁石による一時係止から離脱し,
ガイドロッドに沿って滑り落ちてガイドピンに自動的にはまり込むも
のであり,かかる方式(以下「滑り落とし供給方式」という。)のナ
ット供給装置では,磁石による一時係止から離脱したナットは,供給
ロッドのガイドロッドに沿って滑り落ちることでガイドピンまで移動
するから,供給ロッドのガイドロッドがナットのねじ孔を串刺し状に
貫通していることは,ナットの供給に必要不可欠であると認められる。
これに対し,甲70及び甲51に記載された各ナット供給装置は,
滑り落とし供給方式のナット供給装置では,ナットをガイドロッドに
沿って移動させるのに重力を利用しているため,ナットが回転しなが
ら滑り落ちてガイドロッドに絡み付くフラフープ現象を起こしたり,
ガイドロッド先端が心振れを起こしたりすると,ナットがガイドロッ
ドに沿って滑り落ちるのに要する時間が変動するので,ガイドロッド
の先端が下降して固定電極のガイドピン上端と接触し,その後に上昇
に転じるタイミングとナットがガイドロッドに沿って滑り落ちるタイ
ミングとが合わなくなる結果,ナットがガイドピンにはまらなくなる
との欠点があることから,この欠点を解消するために,ガイドロッド
をナットのねじ孔内に串刺し状に貫通させてナットを供給する代わり
に,供給ロッドの先端の吸着面にナットを磁力で吸着・保持し,供給
ロッドを固定電極のガイドピンに向けて前進させ,ガイドピンに近接
した位置でナットの吸着を解除することで,ナットをガイドピンには
める方式(以下「吸着移送供給方式」という。)を採用したものであ
る。かかる方式のナット供給装置では,ナットは,供給ロッドの先端
の吸着面に磁力で吸着 保持されたままガイドピンまで移動するから,

ナットのねじ孔を串刺し状に貫通する部材を供給ロッドの先端に設け
る必要はないが,仮にこれが設けられているとしても,それは,ナッ
トの位置決めに用いられる位置決め部材であり,ナットの供給に必要
不可欠なものであるとはいえない。
すなわち,甲70に記載されたナット供給装置では,供給ロッド(磁
性体ロツド2)はナットのねじ内径よりも太径に形成され,その先端
に形成された吸着面(ナツト吸着面3)は円錐形状でも斜円柱形状で
もよいとされており(3欄34行~36行,6欄2行~4行),ナッ
トを吸着・保持する供給ロッド自体がナットのねじ孔内を串刺し状に
貫通する必要はない。もっとも,甲51に記載されたナット供給装置
のように,ナットの中心とガイドロッド(ロツド4)の中心とを出来
るだけ合致させるために,供給ロッドの先端の吸着面(ロツド4の先
端面5) ナットのねじ孔内に挿入される位置決め部材
に, (ガイド9)
を設けることもでき,この位置決め部材は,ナットのねじ孔内へ串刺
し状に貫通する程度の長さにすることもできる(例えば,甲69〔実
公平3-53813号公報〕記載の装置がこれに当たる。)が,かか
る構成は必須の構成であるとはいえない。
以上のとおり,ナット供給装置がその供給ロッドの先端に,ナット
のねじ孔を串刺し状に貫通する部材を備えているとしても,そのナッ
ト供給装置が滑り落とし供給方式か吸着移送供給方式かによって,そ
の部材がナットの供給に必要不可欠か否かが変わるのであるから,そ
の部材が持つ技術的意義や課題についても,そのナット供給装置が両
方式のいずれかによって異なることが明らかである(例えば,滑り落
とし供給方式のナット供給装置では,供給ロッド先端に設けられたガ
イドロッドは,ナットの吸着係止位置付近からガイドピンにまで達す
る長さを有する。このように長いガイドロッドは振動しやすいから,
先端が心振れを起こしやすく,その結果,ナットがガイドロッドを滑
り落ちるのに要する時間の変動は大きくなる。また,ナットが滑り落
ちる距離が長い分,フラフープ現象によりナットの滑り落ち速度が少
し変化しただけでも,ナットがガイドロッドを滑り落ちるのに要する
時間は大きく変動することになる。これに対し,吸着移送供給方式の
ナット供給装置では,ナットは,供給ロッドの先端の吸着面に磁力で
吸着・保持されてガイドピンに近接した位置まで移動する。供給ロッ
ドの先端に位置決め部材が設けられ,それがナットのねじ孔を串刺し
状に貫通している場合,ガイドピンに近接した位置で吸着を解除され
たナットは,ガイドピンにはまる際に位置決め部材を滑り落ちること
になる。ここで,位置決め部材の長さは,ガイドピンに近接した位置
からガイドピンに達する程度のものにすぎないから,滑り落とし供給
方式のナット供給装置のガイドロッドに比べてはるかに短い。その結
果,吸着移送供給方式のナット供給装置のガイドロッドに比べて振動
しにくく,先端の心振れが起こりにくいし,フラフープ現象によりナ
ットの滑り落ち速度が変化したとしても,ナットが滑り落ちる距離が
短い分,ナットが位置決め部材を滑り落ちるのに要する時間の変動も
小さくなる。このように,吸着移送供給方式のナット供給装置のガイ
ドロッドと,吸着移送供給方式のナット供給装置の位置決め部材とで
は,生じ得る技術的課題も異なることになる。)。
ところで,甲4に記載されたナット供給装置は,スピンドル(供給
ロッドに相当する。)の先端にナットのねじ孔を串刺し状に貫通する
ノーズピンを有するものの(7頁の図),吸着移送供給方式を採用す
るものであって(4頁2行~5行),甲15及び甲57に記載された
各ナット供給装置(いずれも滑り落とし供給方式)とは方式を異にす
ることが明らかである。そうすると,甲4に記載されたナット供給装
置のスピンドル先端のノーズピンは,ナットを位置決めする位置決め
部材であって,これを,甲15及び甲57に記載された各ナット供給
装置の供給ロッド(甲15のスピンドル5,甲57のピストン桿8)
先端のガイドロッド(甲15の案内棒6,甲57のスピンドル6),
すなわち,ナットがそれに沿って滑り落ちてガイドピンに自動的には
まり込むガイドロッドと同一視することはできない。
そうすると,そもそも,甲4,甲15及び甲57のそれぞれに記載
されたナット供給装置を同列に並べて,「串刺し方式のナット供給装
置」なる装置が本件特許出願時において当業者に周知であるか否かを
論じることはできないというべきである。
(ウ) 次に,原告は,甲4の記載に基づいて,ガイドロッドと固定電極のガ
イドピンとの関係位置を調整することによってナットをガイドピンに確
実にはめることができるようになるには,ナットのねじ孔の内径とガイ
ドロッドの外径との差が小さいこと,すなわち,ナットとガイドロッド
のはめ合いの隙間が小さいことが前提となるから,串刺し方式のナット
供給装置でナットを目的箇所に確実に供給するために,ナットとガイド
ロッドのはめ合いの隙間をできるだけ小さくすることは当業者の技術常
識であると主張する。
しかしながら,甲4に記載されたナット供給装置は,前記のとおり吸
着移送供給方式であるから,そのスピンドル(供給ロッド)の先端に設
けられたノーズピンは,ナットを位置決めする位置決め部材であり,供
給ロッド先端のガイドロッド(ナットがそれに沿って滑り落ちて芯金に
自動的にはまり込むもの)ではない。
したがって,仮に原告が主張するように,甲4の記載から,ナットと
ノーズピンのはめ合いの隙間をできるだけ小さくすることが当業者の技
術常識であると認められるとしても,それは,吸着移送供給方式のナッ
ト供給装置の供給ロッドの先端に設けられた位置決め部材についての技
術常識にとどまるものである。
そうすると,方式を異にする滑り落とし供給方式のナット供給装置に
おいて,ナットと供給ロッド先端のガイドロッドのはめ合いの隙間をで
きるだけ小さくすることが当業者の技術常識であるかは不明というほか
ない。
(エ) また,原告は,電元社製品においても,本件特許の出願前から,ノー
ズピンの外径が正規寸法のナットのねじ孔内径よりも僅かに小さく設定
されているとともに,正規寸法よりも小さいナットのねじ孔の内径より
も大きく設定されていたとも主張する。
ここで,原告主張の「電元社製品」とは,平成18年5月29日付け
被告宛て電元社書簡(甲33)で言及され,同書簡に資料2ないし4と
して添付されたノーズピン製作部品図(甲41の1~3)に記載された
ノーズピンを採用している電元社製溶接ナットフィーダのことであると
認められるところ,甲33の2頁11行ないし14行の記載によれば,
電元社製品は,同書簡に資料1として添付された特公昭56-1013
4号公報(甲51)に記載されたナット供給装置の実施品であるから,
吸着移送供給方式を採用した装置であり,そのノーズピンは,ナットを
位置決めする位置決め部材である。
したがって,仮に原告が主張するように,電元社製品のノーズピンの
外径が正規寸法のナットのねじ孔内径よりも僅かに小さく設定されてい
るとともに,正規寸法よりも小さいナットのねじ孔の内径よりも大きく
設定されているとしても,甲15に記載された滑り落とし供給方式のナ
ット供給装置の供給ロッド(スピンドル5)先端のガイドロッド(案内
棒6)の外径が正規寸法のナットのねじ孔内径よりも僅かに小さく設定
されているとともに,正規寸法よりも小さいナットのねじ孔の内径より
も大きく設定されているか否かは不明というほかない。
(オ) また,原告は,串刺し方式のナット供給装置ではフラフープ現象が発
生するため,ナットがガイドピンに正しくはまらないという課題がある
ことは甲70で指摘されているように当業者に周知であり,当業者はナ
ットをガイドピンに確実にはめるためにはナットとガイドロッドのはめ
合いの隙間をできる限り小さくする方が良いことを技術常識の一つとし
て経験的に認識しているとも主張する。
しかしながら,甲70には,甲15に記載された重力利用の串刺し案
内装置(滑り落とし供給方式のナット供給装置)について,フラフープ
現象が起きる旨の記載はあるが(2欄4行~19行),ナットとガイド
ロッドのはめ合いの隙間が大きくなるほどフラフープ現象が顕著になる
旨の記載はない。
原告は,上記主張の根拠として,甲70における「ナツトに回転力が
生じたりして案内棒にからみつくようなフラフープ現象をおこしながら
案内棒に沿って辷り落ち,とくにM4等の細径ナツトにおいてはこれに
対応する案内棒自身の外径がきわめて細いためにスピンドルの下降に伴
つて発生する振動により,案内棒の先方に心振れを起すと共にフラフー
プ現象とあいまつてそのナツトの辷り落ちる時間の異同がはげしい」 2

欄16行~24行)との記載を引いているが,これは,M4ナットのよ
うな細径ナットのねじ孔を串刺し状に貫通するには,ガイドロッド(案
内棒)もそれ相応に細くなければならないという当然のことを述べてい
るにすぎず,ナットとガイドロッド(案内棒)のはめ合いの隙間の大小
について何ら言及するものではない。
(カ) 以上のとおり,原告の主張はいずれもその根拠を欠くものといわざる
を得ず,滑り落とし供給方式のナット供給装置において,ナットとガイ
ドロッドのはめ合いの隙間をできるだけ小さくすることが本件特許の出
願時における当業者の技術常識であったと認めることはできない。
したがって,案内棒6(甲15)の外径が正規寸法よりも小さいナッ
トのねじ孔の内径よりも大きいという事項は,甲15の記載及び当業者
の技術常識から自ずと導き出されるものであるとはいえないから,前記
①の点は採用できない。
イ 異種ナットの混入(前記②の点)について
(ア) 原告は,パーツフィーダに異種ナットが混入する場合があることは本
件特許の出願時に当業者が想定し得たことであるから,当業者は甲15
に記載されたナット供給装置において正規寸法よりも小さいナットが混
入し,磁石7に吸引されて摺動孔4内の所定位置に停止することを導き
出すことができたと主張し,その根拠として,甲20,甲31及び甲4
を挙げる。
(イ) そこで検討するに,甲20には,以下の記載が認められる。
「整列された部品のみ通過させるためのゲートの形状は,ちょうど姿
ケージのようなもので,整列された部品のシルエットよりやや大きめの
切欠きにしてある。
この方法で問題となるのは,類似形状でサイズが異なるような異種部
品が混入している場合である。その大きいものはゲートでひっかかりシ
ュートへ送り出されないが,ゲートの切欠き形状を通過するような小さ
いものは,整列された部品と同様,シュートへ送り出されるので,その
ようなおそれのある部品については,あらかじめ選別しておく必要があ
る。」(54頁右欄30行~39行)
この記載からは,類似形状で寸法が異なる異種部品が混入する場合が
あること,その場合には,正規寸法より小さいものをあらかじめ選別し
ておく必要があることを理解することができる。
(ウ) また,甲31には,以下の記載が認められる。
「この考案は主として溶接ナツト(プロジエクシヨンナツト)の表裏
及び大小を選別して整列した後,溶接ナツトの大小に応じて複数の排出
口から各々別個に,連続的又は間欠的にスポツト溶接機等へ送給するパ
ーツフイーダのボウルに関する。」(1頁15行~19行)
「この考案は…(中略)…一個のボウルで二種類以上の溶接ナツト等
を選別でき,溶接ナツト等の大小に応じて各々別個の排出口から送給で
きるパーツフイーダのボウルを提供することを目的とする。」(2頁5
行~9行)
「第一ガイドプレート41と第一ゲートプレート51と滑降山部17
とから,所望向き(例えば裏向き50b)とサイズ(例えばM6以上)
とが選別できる配列になつている。すなわち表向き50aとM6未満の
ナツト50は,ここで下方に落下させる。」(4頁8行~13行)
「第一ガイドプレート41に達したナット50群のうち,特大ナツト
(例えばM10以上)は溝41cに接触し不安定な状態となり落下し,
M8以下のナツトが溝41cを通過し滑降山部17に達する。滑降山部
17においては,ナツトの自重とボウル1の振動により,所望する例え
ばM6のナツト及びM6の表向き50aのナツトは,滑降山部17の斜
面を内側に向かつて滑り落ち,…(中略)…除去される。一方,M6の
裏向き50b及びM8以上のナツトは…(中略)…通過する…(中略)
…。すなわち,ここで裏向き50bでM6及びM8以上のナツトのみが
通過され,他は落下される。」(7頁15行~8頁9行。なお,「所望
する例えばM6のナツト」「M6未満のナツト」
は の誤記と認められる。)
「第四ガイドレール34を通過したナツト50群は,第五ガイドレー
ル35を通過した後開口61に達し,チエツクゲート62にて小ナツト
M6のみが選択されて排出口6から裏向き状態で,連設するスポツト溶
接機等…(中略)…に送給される。」(9頁3行~8行)
「チエツクゲート71にて裏向き50bでM8のナットのみ選別され
て排出口7から同様にしてスポツト溶接機等…(中略)…に送給され,
他はすべて落下される。」(10頁4行~8行)
以上の記載によれば,甲31には,例えばM6未満のナットからM1
0以上の特大ナットまでが混在する中から,所望の向きと寸法のナット
(例えば,裏向きのM6ナット及び裏向きのM8ナット)のみを選別し,
スポット溶接機に送給するための具体的な構成を備えたボウルが記載さ
れているものと認められる。
(エ) さらに,甲4の「9.故障と対策」の項(15頁)には,「(C)シ
ュートレールの途中でナットがひっかかる」という故障の対策として,
「3 異種ナットが混入していないでしょうか」との記載があり,シュ
ートレールの途中でナットが引っ掛かった場合には,異種ナットが混入
していないか確認することとされている。
この記載から,シュートレールの途中でナットが引っ掛かることの原
因の一つとして,異種ナットの混入が考えられることは理解できるが,
逆に,異種ナットが混入したときに,それが送給装置にまで到達し,さ
らにスピンドル先端の所定位置に停止することについては,言及がなく,
ほかにそのような事態が生じることを示唆する証拠はない。
(オ) 以上のとおり,正規寸法より小さいナットはあらかじめ選別しておく
必要があるとされており(前記(イ)) それを可能にする構成,
, すなわち,
寸法が互いに異なる複数種類のナットが混在する中から所望の寸法のも
のだけを選別する具体的な構成も知られており(前記(ウ)),しかも,正
規寸法以外のナットが供給されると,途中で引っ掛かって,送給装置に
まで到達しない可能性があることが知られている(前記(エ))のであるか
ら,当業者であれば,甲15に記載されたナット供給装置においても,
正規寸法以外のナットが供給され,途中で引っ掛かって送給装置まで到
達しない事態を避けるために,正規寸法より小さいナットをあらかじめ
選別する手段を設けることを当然に考えるというべきである。
そして,そのような手段を設けた場合,甲15に記載されたナット供
給装置において,正規寸法より小さいナットが磁石7に吸着係止される
ことは,想定外の異常事態であるというべきである。
したがって,パーツフィーダに異種ナットが混入する場合があること
自体は,本件特許の出願時に当業者が想定し得たことであるといえるが,
当業者は,甲15に記載されたナット供給装置において正規寸法よりも
小さいナットが混入し,磁石7に吸引されて摺動孔4内の所定位置に停
止することを導き出すことができたとはいえないから,前記②の点も採
用できない。
ウ ナットの弾き飛ばし(前記③の点)について
前記のとおり,案内棒6(甲15)の外径が正規寸法よりも小さいナッ
トのねじ孔の内径よりも大きいという事項は,甲15の記載及び当業者の
技術常識から自ずと導き出されるものであるとはいえないし,当業者は,
甲15に記載されたナット供給装置において正規寸法よりも小さいナット
が混入し,磁石7に吸引されて摺動孔4内の所定位置に停止することを導
き出すことができたということもできない。
そうすると,混入した正規寸法よりも小さいナットは,そのサイズ(外
径)が正規寸法のナットのサイズ(外径)と同じでもそれより小さくても,
案内棒6による串刺し作用を生じない結果,磁石7から外れ,案内棒6に
よって摺動孔4の前方の開口から弾き飛ばされるとの原告の主張(前記③
の点)は,その前提を欠くものであって,採用できない。
エ 以上によれば,甲15には,本件発明2の構成要件Eに相当する構成が
記載されているに等しいということはできず,この点に関する原告の主張
は採用できない。
(2) 進歩性の判断について
原告は,甲15に本件発明2の構成要件Eに相当する構成が記載されてい
るに等しいといえることを前提として,本件発明2の相違点3に係る構成と
することは,甲15に記載されているに等しい事項を甲14発明に適用する
ことにより当業者が容易になし得ることであると主張する。
しかし,前記のとおり,甲15に本件発明2の構成要件Eに相当する構成
が記載されているに等しいということはできないから,原告の主張は,その
前提を欠くものであって,採用できない。
また,甲14発明は,送出杆11の先端部をナットwのねじ孔12内に係
合させてナットwを目的箇所へ供給する形式のものであって(甲14の【0
023】等),(磁力で吸着・保持するかは必ずしも明らかでないものの)
吸着移送供給方式のナット供給装置であると認められるのに対し,甲15に
記載されたナット供給装置は,滑り落とし供給方式の供給装置であることか
らすると,甲15にどのような事項が記載されているにしても,それは,滑
り落とし供給方式の供給装置を前提とするものであって,吸着移送供給方式
のナット供給装置である甲14発明に直ちに適用できるものとは認められな
い。かような意味においても,原告の主張は採用できないものといわざるを
得ない。
(3) 以上によれば,原告主張の取消事由1は理由がない。
(4) なお,被告は,甲15に本件発明2の構成要件Eに相当する構成が記載さ
れているとの主張は,本件訴訟において原告が初めてした主張であり,無効
審判において実質的に審理判断された事実もないから,原告主張の取消事由
1は,そもそも最高裁判例(最高裁大法廷昭和51年3月10日判決・メリ
ヤス編機事件)に抵触し,本件訴訟の審理範囲とならない旨主張する。
しかし,原告の主張は,飽くまで甲14発明との対比において本件発明2
の進歩性の有無を論じるものであり,この点において何ら無効審判手続にお
ける主張と変わるものではなく,また,本件審決自体が,本件発明2の構成
要件Eに相当する構成(相違点3)が甲15に開示されているか否か(記載
ないし示唆があるか否か)を具体的に論じてその結論を導いている以上,審
決の判断の誤りを指摘するために上記の主張をしても何ら問題はなく,上記
最高裁判例に抵触するものではないというべきである。
3 取消事由2(発明の明確性についての判断の誤り)について
(1) 原告は,本件発明1の構成要件Q及び本件発明2の構成要件Eは,いずれ
もその意味するところが不明確であり,本件明細書の記載を考慮しても当該
記載の意味内容を明確に把握することができないから,本件発明1ないし4
は明確でないと主張する。
そこで検討するに,本件発明1の構成要件Q及び本件発明2の構成要件E
は,いずれも,「ガイドロッドの外径」が「正規寸法のプロジェクションナ
ットのねじ孔の内径よりもわずかに小さく設定されていると共に正規寸法よ
りも小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定されて」
いることを特定するものである。
そして,本件発明は,ガイドロッドの外径が正規寸法のナットのねじ孔の
内径よりも僅かに小さく設定されるとともに,正規寸法よりも小さいナット
のねじ孔の内径よりも大きく設定されるようにしたことにより,正規寸法の
ナットが一時係止されているときは,正常なガイドロッドの串刺し作用によ
り部品供給が正しく行われる一方,正規寸法よりも小さいナットが一時係止
されているときは,仮にねじ孔とガイドロッドとが同軸になったとしても,
ガイドロッドの先端部がナットの上面部又はねじ孔の角部に当たってナット
に確実に干渉するため,串刺し作用が生じることなく,ナットを弾き飛ばす
ので,異常寸法のナットが目的箇所へ供給されて溶接される事態を回避でき
るという効果を奏するものである(前記1(2)エ)。
ところで,本件発明は,供給ロッドのガイドロッドをナットのねじ孔内へ
串刺し状に貫通させてナットを目的箇所へ供給する形式のものであるから
(本
件発明1の構成要件O,本件発明2の構成要件C),ガイドロッドは,供給
しようとするナット(正規寸法のナット)のねじ孔を貫通できなければなら
ない。そのようなガイドロッドの外径には上限があり,それが正規寸法のナ
ットのねじ孔の内径であることは明らかである。したがって,ガイドロッド
の外径が正規寸法のナットのねじ孔の内径よりも小さく設定されていること
の趣旨は,正規寸法のナットのねじ孔を貫通できるガイドロッドの外径の上
限を特定することにあると理解することができる。
ここで,ナット供給装置の組立誤差,ガイドロッドやナットのねじ孔など
の加工精度,供給ロッド及びガイドロッドが進出する際の機械的振動などを
考慮すれば,ガイドロッドをナットのねじ孔内へ串刺し状に貫通させるため
には,ガイドロッドとナットのねじ孔との間にある程度の隙間が必要である
ことは明らかであるから,構成要件Q及び構成要件Eにおいて,ガイドロッ
ドの外径が正規寸法のナットのねじ孔の内径よりも「わずかに」小さいとさ
れているのは,そのような隙間が確保されていることを特定する趣旨と解さ
れる。
他方,本件発明が,正規寸法よりも小さいナットが一時係止されていると
きは仮にねじ孔とガイドロッドとが同軸になったとしても,ガイドロッドの
先端部がナットの上面部又はねじ孔の角部に当たってナットに確実に干渉す
るため,串刺し作用が生じることなく,ナットを弾き飛ばすという効果を奏
するのは,ガイドロッドが正規寸法よりも小さいナットのねじ孔よりも太い
ため,ガイドロッドがナットのねじ孔を貫通できない(ナットのねじ孔に入
らない)からである。正規寸法よりも小さいナットのねじ孔よりも太いガイ
ドロッドの外径には下限があり,それが正規寸法よりも小さいナットのねじ
孔の内径であることは明らかであるから,ガイドロッドの外径が正規寸法よ
りも小さいナットのねじ孔の内径よりも大きく設定されていることの趣旨は,
正規寸法よりも小さいナットのねじ孔を貫通できないガイドロッドの外径の
下限を特定することにあると理解することができる。
以上のとおりであるから,構成要件Q及び構成要件Eは,ガイドロッドの
外径の上限を正規寸法のナットのねじ孔の内径との関係で特定し,ガイドロ
ッドの外径の下限を正規寸法よりも小さいナットのねじ孔の内径との関係で
特定するものであることを理解することができる。
したがって,本件発明1の構成要件Q及び本件発明2の構成要件Eは,い
ずれも明確である。
(2) 原告の主張について
ア 原告は,本件発明1の構成要件Q及び本件発明2の構成要件Eの記載が
ガイドロッドの外径の上限の設定値と下限の設定値を意味するとしても,
例えば,下限値についてみた場合,一般に「正規寸法よりも小さいプロジ
ェクションナット」は複数種類存在する(M6ナットを正規寸法とすれば,
M5ナットもM4ナットも存在する)から,その下限値を設定する「正規
寸法よりも小さいプロジェクションナット」が,正規寸法よりも小さいど
のようなナットを意味するのかは不明であると主張する。
しかしながら,正規寸法のナット(M6ナット)よりも小さいナットが
複数種類存在する(M5ナット及びM4ナットがある)ときに,ガイドロ
ッドの外径をそれらのナットのうちの小さい方(M4ナット)のねじ孔の
内径よりも大きく設定しただけでは,大きい方(M5ナット)のねじ孔の
内径よりも大きく設定したことにはならないから,ガイドロッドの外径」

が「正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも
大きく設定されて」いるということはできない。
すなわち,「ガイドロッドの外径」が「正規寸法よりも小さいプロジェ
クションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定されて」いるといえるの
は,ガイドロッドの外径が正規寸法よりも小さい全種類のナット(M4ナ
ット及びM5ナット)の内径よりも大きく設定されている場合だけであり
(正規寸法のナットよりも小さいナットが複数種類存在するときに,「ガ
イドロッドの外径」が「正規寸法よりも小さいプロジェクションナットの
ねじ孔の内径よりも大きく設定されて」いるとは,ガイドロッドの外径が
正規寸法よりも小さいどのナットの内径よりも大きく設定されていること
を意味することは明らかである。),この点において何ら不明はないとい
うべきである。
また,原告は,M6を正規寸法とする場合,M4ナットも正規寸法より
小さいナットではあるが,同じく正規寸法より小さいナットであるM5ナ
ットよりガイドロッドの外径が小さいのであれば,「正規寸法より小さい
ナット(M5)の内径よりも大き」いとはいえないとの被告主張は,「正
規寸法よりも小さいナット」がM5であることを前提とした論理であって,
当該論理によって,M4ナットが「正規寸法より小さいナット」となるこ
とが排斥されるものではないとも主張する。
しかしながら,正規寸法のナットがM6ナットであれば,M5ナットが
「正規寸法よりも小さいナット」に該当することに疑問の余地はないし,
被告主張はM4ナットが「正規寸法よりも小さいナット」に該当すること
自体を否定するものではない。
したがって,上記原告の主張は採用できない。
イ 次に,原告は,ピッチが0.8mmのM5ナットを正規寸法とした場合,
ピッチが0.5mmのM4.5ナットの内径との差が0.174mmしか
ないことを例に挙げ,その場合,上記M4.5ナットのねじ孔の内径より
太いガイドロッドによって正常な串刺し作用がなされるとは技術常識とし
て考えられないとも主張する。
しかしながら,そもそも,本件発明に係る供給方法を実施する装置や本
件発明に係る供給装置の実施品は,現実に存在する供給装置である以上,
その性能に限界があることは当然である。現実に存在する供給装置におい
て,ガイドロッドの外径を正規寸法よりも小さいナットであるM4.5の
ねじ孔の内径より大きくすると,正規寸法のM5ナットを供給できなくな
るということは,単に,本件発明に係る供給方法を実施する装置や本件発
明に係る供給装置の実施品の性能に限界がある(M5ナットに混入したM
4.5を排除できるほど高性能ではない)という当然の事実を示すにすぎ
ず,本件発明が明確であるか否かの点を何ら左右するものではない。
したがって,上記原告の主張はそれ自体失当である。
(3) 以上によれば,本件発明1ないし4はいずれも明確というべきであるから,
原告主張の取消事由2も理由がない。
4 結論
以上のとおり,原告主張の取消事由1及び2はいずれも理由がなく,本件審
決に取り消されるべき違法はない。
よって,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部


裁判長裁判官
鶴 岡 稔 彦


裁判官
大 西 勝 滋


裁判官
寺 田 利 彦
(別紙)
本件明細書の図(甲60)
【図1】 【図2】


【図3】 【図4】


【図5】 【図6】


【図7】 【図8】


【図9】 【図10】

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