知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成29(ネ)10022 特許権侵害差止等請求控訴事件

この記事をはてなブックマークに追加

平成29(ネ)10022特許権侵害差止等請求控訴事件

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
裁判年月日 平成29年10月3日
事件種別 民事
当事者 控訴人マイティキューブ株式会社
被控訴人アイアンドティテック株式会社清原直己
対象物 盗難防止タグ,指示信号発信装置,親指示信号発信装置及び盗難防止装置
法令 特許権
キーワード 実施7回
特許権5回
侵害4回
審決2回
無効2回
損害賠償1回
無効審判1回
進歩性1回
間接侵害1回
差止1回
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事件の概要 1 事案の概要(略称は,原判決に従う。) 本件は,名称を「盗難防止タグ,指示信号発信装置,親指示信号発信装置及び盗 難防止装置」とする発明に係る特許権(本件特許権)を有する控訴人が,原判決別 紙被告製品目録記載1-1,1-2及び2の盗難防止タグ(被告製品1及び2)は, 本件発明1から3までの技術的範囲に,同目録記載3及び4の盗難防止タグ用リモ コン(被告製品3及び4)は,本件発明4及び6の技術的範囲に属するから,被控 訴人が被告製品1から4までを製造・販売する行為は,本件特許権を侵害する行為 であり,被告製品1及び2のプログラムを作成した行為は,本件特許権を侵害する 行為とみなされると主張して,被控訴人に対し,不法行為に基づく損害賠償金62 42万2510円及びこれに対する不法行為の後の日である平成26年9月11日 (訴状送達の日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払 を求める事案である。

▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 特許権に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

平成29年10月3日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成29年(ネ)第10022号 特許権侵害差止等請求控訴事件
原審・東京地方裁判所平成26年(ワ)第20319号
口頭弁論終結日 平成29年8月29日
判 決

控 訴 人 マイティキューブ株式 会 社
(旧商号:株式会社S-Cube)

同訴訟代理人弁護士 池 田 眞 一 郎
鈴 木 正 勇
濱 田 真 一 郎

被 控 訴 人 アイアンドティテック株式会社

同訴訟代理人弁護士 三 山 峻 司
清 原 直 己
矢 倉 雄 太
同訴訟代理人弁理士 吉 本 力
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,6242万2510円及びこれに対する平成2

6年9月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
4 仮執行宣言
第2 事案の概要等
1 事案の概要(略称は,原判決に従う。)
本件は,名称を「盗難防止タグ,指示信号発信装置,親指示信号発信装置及び盗
難防止装置」とする発明に係る特許権(本件特許権)を有する控訴人が,原判決別
紙被告製品目録記載1-1,1-2及び2の盗難防止タグ(被告製品1及び2)は,
本件発明1から3までの技術的範囲に,同目録記載3及び4の盗難防止タグ用リモ
コン(被告製品3及び4)は,本件発明4及び6の技術的範囲に属するから,被控
訴人が被告製品1から4までを製造・販売する行為は,本件特許権を侵害する行為
であり,被告製品1及び2のプログラムを作成した行為は,本件特許権を侵害する
行為とみなされると主張して,被控訴人に対し,不法行為に基づく損害賠償金62
42万2510円及びこれに対する不法行為の後の日である平成26年9月11日
(訴状送達の日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払
を求める事案である。
原審は,被控訴人は被告製品1及び2を製造・販売しておらず,これらのプログ
ラムも作成していない,また,被告製品1及び2は,本件発明1ないし3の技術的
範囲に,被告製品3及び4は,本件発明4又は6の技術的範囲に属するということ
はできないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。
そこで,控訴人が原判決を不服として控訴したものである。
2 前提事実
次のとおり訂正するほか,原判決「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであ
るから,これを引用する。
⑴ 原判決5頁16行目に「本件各発明」とあるのを,「本件各発明及び本件発
明5」と訂正する。

⑵ 原判決5頁19行目に「本件各発明」とあるのを,「本件各発明及び本件発
明5」と訂正する。
⑶ 原判決9頁16行目末尾に,改行の上,次を加える。
「⑾ 無効審判請求に対する判断
特許庁は,平成28年11月14日,本件訂正を認めず,本件発明1から6まで
は,いずれも進歩性を欠くとして,これらの発明についての本件特許を無効にすべ
き旨の審決をし,控訴人は,同審決の取消請求訴訟を提起した。」
3 争点
原判決の「事実及び理由」の第2の3記載のとおりであるから,これを引用する。
第3 争点に対する当事者の主張
1 原判決の引用
争点に対する当事者の主張は,以下のとおり,争点⑴ア並びに⑵ウ及びエに対す
る当事者の主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の第3記載のとおり
であるから,これを引用する。
2 争点⑴ア(被控訴人による被告製品1及び2の製造・販売の有無)について
〔控訴人の主張〕
⑴ 横山作成に係る陳述書
横山作成に係る陳述書(甲10)には,被控訴人が盗難防止タグの開発,生産を
行っていた旨記載がある。そして,横山は,エム・アールビジネスの取締役として,
同社の重要な業務事項について正確に報告を受けており,被控訴人の主張とも整合
し,被控訴人に不利な陳述をするとは考え難いから,上記陳述書の記載は信用でき
る。
⑵ 乙21請求書
ア 被控訴人は,KDエレクトロニクスのエム・アールビジネスに対する平成2
5年3月29日付け請求書(乙21請求書)は,「ID無し」の量産試作のための
盗難防止タグに関するものであると主張するが,信用できない。当初は被控訴人が

マイコンの選定作業等も行う予定であったという被控訴人の主張を前提とすれば,
「ID無し」の量産試作のための盗難防止タグの請求書の宛先は被控訴人になるは
ずである。また,同年5月20日の時点で「ID有り」の盗難防止タグの量産見積
りがされており(乙20見積書),時間的整合性から,乙21請求書も「ID有り」
の盗難防止タグに関するものというべきである。乙21請求書に記載された盗難防
止タグの数量も量産試作としては過大であり,金型代を請求するのも不自然である。
乙21請求書において,納品日は平成25年3月22日,請求日は同月29日であ
るところ,納品から1週間で,金型の評価が良好であったと判断できるものではな
い。
イ 被控訴人は,乙21請求書の盗難防止タグに搭載されたマイコンが「MSP
430G2302IPW14」(TI社製マイコン)であると主張するが,信用で
きない。乙21請求書において,盗難防止タグの数量は8812個であるが,同マ
イコンの数量は1568個であって大幅に不足するし,2つに分けて記載されてい
るのも不自然である。
⑶ 乙20見積書
被控訴人は,平成25年4月頃に,盗難防止タグのマイコンがTI社製マイコン
から,ルネサス社製マイコン(乙20見積書)に変更され,同マイコンの販売会社
が盗難防止タグを開発したと主張するが,信用できない。KDエレクトロニクスが
独自に盗難防止タグの開発を依頼することはできないし,マイコンの販売会社が盗
難防止タグの開発を行えるものでもない。盗難防止タグの開発は,回路や基板の変
更,機能に応じたプログラムの開発が必要であり,マイコンの販売業者が,1か月
間程度で行えるものではない。なお,従来の盗難防止タグのマイコンもルネサス社
製マイコンであったというべきである。
⑷ 盗難防止タグの単価
被控訴人は,平成25年4月頃,盗難防止タグのマイコンをTI社製マイコンか
ら,ルネサス社製マイコンに変更することにより単価を下げることになったと主張

するが,信用できない。乙21請求書のロット数は8812個であり,量産試作品
のものであって,量産品のものとは比較できないから,TI社製マイコンを使用す
る盗難防止タグの単価269円(乙21請求書)と,ルネサス社製マイコンを使用
する盗難防止タグの単価250円(乙24請求書)を比較することはできない。
⑸ 総勘定元帳に記載された開発費
エム・アールビジネスは,平成24年12月までに研究開発費1500万円を支
払っているから,同月までに「ID有り」の盗難防止タグは,量産試作を終え,完
成していたというべきである。
⑹ 盗難防止タグとリモコンの開発
被控訴人が「ID有り」のリモコンを先に開発し,他の者が「ID有り」の盗難
防止タグを開発することは,技術的に可能であっても,著しく不自然かつ不合理で
ある。リモコンと盗難防止タグとをマッチングさせ動作確認を行う必要があるから,
リモコンと盗難防止タグが別々に開発されることはない。また,被控訴人がルネサ
ス社製マイコンの取扱いができないということはできない。さらに,「ID有り」
のリモコンの開発によって,多くの機能がセットされていることからすれば(甲7),
これには多大な労力と費用がかかったというべきであり,被控訴人が「ID有り」
のリモコンの開発を行う一方で,あえて,「ID有り」の盗難防止タグの開発を断
ることは考え難い。
⑺ 被控訴人による転売
被控訴人は,エム・アールビジネスから盗難防止タグを購入したことについて,
信頼性試験を行うためであったと主張するが,信用できない。「ID有り」の盗難
防止タグの信頼性試験を行うのは,それを開発したエム・アールビジネスの関係取
引先になるはずである。また,量産品の販売後に信頼性試験を行っているのは不合
理である。被控訴人が,エム・アールビジネスから盗難防止タグを購入しているの
は,輸出による転売のためとみるしかなく,横山作成に係る陳述書の記載を裏付け
る。

⑻ ロイヤリティの支払
横山作成に係る陳述書のとおり,エム・アールビジネスは被控訴人に,1個当た
り10円から20円のロイヤリティを支払っている。ロイヤリティの金額が,当初
主張の30円から下がったのは確実を期したからであり,幅があるのも盗難防止タ
グの種類によって単価に差があるからである。
⑼ 盗難防止タグの電子基板の記載
被告製品1及び2の盗難防止タグの電子基板には,被控訴人が製造した盗難防止
タグ(乙28)と同様に,被控訴人の略称が付されている。電子基板に略称を記載
するのは,製造者の権利又は所在を示すために行われるものである。
被控訴人は,被告製品1及び2の電子基板に被控訴人の略称が付されているのは,
当初の「ID無し」の盗難防止タグの電子基板の回路設計の際に作成された設計図
面に被控訴人の略称が付されていたからであると主張するが,信用できない。「I
D有り」の盗難防止タグの開発者が,あえて被控訴人の略称を電子基板に付するこ
とはない。また,被控訴人が製造したリモコンの電子基板に,被控訴人の略称は記
載されていないから,略称の記載の有無は設計図面の作成とは関係がない。
⑽ 盗難防止タグの製造委託者
エム・アールビジネスがKDエレクトロニクスに盗難防止タグの見積り(乙20
見積書)を依頼しているのは,被控訴人の与信に不安があり,製造委託者を被控訴
人とすることができなかったためである。盗難防止タグの研究開発費1500万円
を,開発者である被控訴人が負担せず,エム・アールビジネスが負担しているのは,
被控訴人の資金状況が苦しかったことをうかがわせる。
〔被控訴人の主張〕
⑴ 横山作成に係る陳述書
横山作成に係る陳述書に記載された内容は,横山が担当者から報告を受けた伝聞
にすぎない。
⑵ 乙21請求書

ア エム・アールビジネスは,平成25年3月当時,自ら,KDエレクトロニク
スに対し,TI社製マイコンを搭載した「ID無し」の盗難防止タグの量産試作を
発注し,この納入を受けていたものである(乙21請求書)。また,既に「ID」
の点を除く盗難防止タグは完成していたから,「ID無し」から「ID有り」への
盗難防止タグへの変更は,ルネサス社製マイコンを知るものが短期間で完成させる
ことができる。量産試作は,ユーザに使用してもらうものであり,1店舗1万個程
度でテストデータを採ることは何ら不自然ではなく,金型の評価も,エム・アール
ビジネスが進捗過程で随時把握していたものである。
イ 「ID無し」の盗難防止タグの量産試作は,当初1万個が予定されていたが,
一部部品の入手遅れなどから量産試作数は8812個にとどまった。乙21請求書
に記載されたTI社製マイコンの数量は,余分に残ったマイコン数を表しているに
すぎない。乙21請求書に記載された各部品及びその数量は,最低購入数量やボリ
ュームディスカウントの観点,以降の量産の観点から調達を行った部品のうち,量
産試作後の残余の部品がリストアップされているものである。
⑶ 乙20見積書
ルネサス社製マイコンを搭載した盗難防止タグは,KDエレクトロニクスと緊密
な取引関係にあるルネサス社製マイコンの販売会社が開発したものである。同社が
開発できないとする根拠はない。
⑷ 盗難防止タグの単価
乙21請求書の盗難防止タグの単価269円と,乙24請求書の盗難防止タグの
単価250円の差は,搭載されたマイコンが,TI社製マイコンからルネサス社製
マイコンへの変更によるコストダウンによるものである。乙21請求書の単価は,
量産試作による単価であり,量産移行してもこの価格が維持されることが確認され
ている。
⑸ 総勘定元帳に記載された開発費
控訴人の主張は,裏付けのない単なる憶測の域を出ない。

⑹ 盗難防止タグとリモコンの開発
「ID無し」のリモコンと「ID無し」の盗難防止タグとの通信が完成している
状態において,短期間で「ID有り」のリモコンを完成させることができる。また,
被控訴人の代表者は,ルネサス社製マイコンのソフト開発技術を有していたわけで
はない(原告代表者供述22頁~23頁)。
⑺ 被控訴人による転売
被控訴人は,盗難防止タグを作動させるアンテナ等も生産販売しているところ,
アンテナ等とのマッチングテストなどを行うために,エム・アールビジネスから,
「ID有り」の盗難防止タグを購入したものである(乙24請求書)。
⑻ ロイヤリティの支払
ロイヤリティの支払に関する横山作成に係る陳述書の記載は信用できない。
⑼ 盗難防止タグの電子基板の記載
被告製品1及び2の盗難防止タグの電子基板に被控訴人の表示が入っているのは,
盗難防止タグの回路設計図面を被控訴人が作成し,エム・アールビジネスに交付し
たからである。なお,タグ用電子基板は,ケース金型と同様に初期費用がかかると
ころ,エム・アールビジネスは,この初期費用を負担し(乙21請求書),乙20
見積書のワイヤータグにも,これを流用している。
⑽ 盗難防止タグの製造委託者
被控訴人が,KDエレクトロニクスに盗難防止タグを発注できなかったのは,エ
ム・アールビジネスが盗難防止タグについて製造も担当する立場をとったからであ
る。盗難防止タグの開発に当たり,エム・アールビジネスは,販売のみを担当する
予定であったが,利益を増やすために,自ら金型を保有し,KDエレクトロニクス
への製造委託を決定したものであり,乙21請求書はその過程でKDエレクトロニ
クスがエム・アールビジネスに提出したものである。
3 争点⑵ウ(被告製品3及び4が本件発明4及び6の「暗号コード」(構成要
件A4,B4,B6)を充足するか)について

〔控訴人の主張〕
⑴ 「暗号」は,多義的な意味を有するから(甲17),本件各発明の「暗号」
の意義は,本件明細書等の記載を考慮して判断すべきである。
そして,本件各発明の解除指示信号には「暗号コード」が含まれ,解除指示信号
は他店舗との間で共通の固定したコードとされないから,他店舗の者は,当該店舗
で送信される解除指示信号のコードを知ることはできず,また,当該信号を受信し
ても,それだけでは,当該信号が解除指示信号であることは分からない。
したがって,「暗号コード」を含む解除指示信号の送信は,「暗号」の広義の意
味での秘密通信というべきである。
よって,被告製品3及び4が発信する「ID情報」は,「暗号コード」に相当す
る。
⑵ 仮に,「暗号コード」を,通信の内容が第三者に知られることのないように
した符号を意味すると狭義に解したとしても,被告製品3及び4が発信する「ID
情報」は,「暗号コード」に相当する。
すなわち,被告製品3及び4においては,解除指示信号を他店舗との間で共通の
固定したコードとせず,当該店舗においてのみ独自に「ID情報」としてコードが
設定される。したがって,当該店舗は,例えば,リモコンから送信された「101
0」が解除指示信号に含まれる「ID情報」であることを判定できるが,第三者は,
「1010」が解除指示信号に含まれる「ID情報」であることが分からない。「I
D情報」は「通信の内容が第三者に知られることのないように,当事者間にのみ了
解されるように取り決めた特殊な数字をまとめた符号」ということができる。
〔被控訴人の主張〕
「暗号」に関する本件明細書等の記載は,「「暗号」は,4桁の暗号コードであ
る。」との一文しかなく,本件明細書等には,この他に「暗号」や「暗号コード」
自体の定義や説明はない。
また,本件各発明において,暗号は,データそのままであれば意味をなさず,何

らかのアルゴリズムでデコードして初めて意味を持つものである。暗号コードは,
単なる数字ではなく,第三者に知られないようにしたものでなければならない。
4 争点⑵エ(被告製品3及び4が本件発明6の「暗号変更指示信号」(構成要
件A6)を充足するか)について
〔控訴人の主張〕
請求項7では,「暗号変更指示信号」を,親指示信号発信装置が発信する「暗号
変更指示信号」と記載しており,盗難防止タグが備える受信手段が受信すべき「暗
号変更指示信号」とは記載していないから,後者に限定されるものではない。
請求項7が,「暗号変更指示信号」を,親指示信号発信装置が発信する「暗号変
更指示信号」と構成したのは,盗難防止タグと同じ新暗号コードにより記憶内容を
更新できれば足り,盗難防止タグが受信すべき「暗号変更指示信号」により記憶内
容を更新しなければならない必要はないからである。
また,指示信号発信装置の発明である本件発明6に対応する親指示信号発信装置
に,本件発明5の親指示信号発信装置に与える機能とは別の機能を与えることは排
除されていない。本件発明5の親指示信号発信装置は,盗難防止タグを対象とする
ものであり,指示信号発信装置を対象とすることは想定されていない。
よって,被告製品3及び4は,本件発明6の「暗号変更指示信号」を受信する受
信手段を備えるものである。
〔被控訴人の主張〕
請求項の文言上,請求項7の指示信号発信装置が受信する信号が,請求項6の暗
号変更指示信号であることは明らかである。
第4 当裁判所の判断
当裁判所は,被控訴人が被告製品1及び2を製造・販売したとも,これらのプロ
グラムを作成したとも,認めることはできず,また,被告製品3及び4は,本件発
明4又は6の技術的範囲に属すると認めることはできないから,控訴人の控訴は棄
却すべきものと判断する。

その理由は,以下のとおりである。
1 本件各発明の意義
原判決の「事実及び理由」の第4の1記載のとおりであるから,これを引用する。
2 争点⑴ア(被控訴人による被告製品1及び2の製造・販売の有無)について
⑴ 控訴人は,被控訴人は,被告製品1及び2を製造し,これをエム・アールビ
ジネスに販売したと主張する。
しかし,エム・アールビジネスは,KDエレクトロニクスから,平成25年3月
頃に,盗難防止タグである「SMART TAG S1(SWITCH)」を88
12個購入し,同年5月頃に,盗難防止タグである「ワイヤータグ一式」を2万個
購入している(乙20見積書,乙21請求書)。そうすると,エム・アールビジネ
スが,被告製品1及び2を購入していたとしても,その購入先は,KDエレクトロ
ニクスであって,被控訴人ではない可能性が高いというべきである。
また,被控訴人代表者が平成25年9月に作成し,取引先に交付した説明書(甲
7)には,リモコン及びマスターリモコンの操作方法に関する記載があるのみで,
盗難防止タグに関する言及は一切ない。そうすると,被控訴人が取引先に譲渡した
製品は,リモコン及びマスターリモコンのみであったと解するのが自然である。
さらに,横山作成に係る陳述書(甲10)には,当初,エム・アールビジネスは
完成品を被控訴人から購入する構図になっていたところ,当初の計画を変更し,エ
ム・アールビジネス名義で盗難防止タグの生産をKDエレクトロニクスに発注する
ことになった旨記載されている。同記載は,エム・アールビジネスが,盗難防止タ
グを,KDエレクトロニクスから購入したとの事実を裏付けるものである。仮に,
被控訴人の与信に不安があったことから,盗難防止タグの購入者が,被控訴人から
エム・アールビジネスに変更されたとしても,これをもって,被控訴人が盗難防止
タグをKDエレクトロニクスから購入し,これをエム・アールビジネスに販売した
と評価できるものではない。
したがって,被控訴人が,被告製品1及び2を製造し,これをエム・アールビジ

ネスに販売したとの事実を認めるのは困難である。
⑵ 控訴人の主張について
ア 盗難防止タグとリモコンの開発
(ア) 控訴人は,概要,被控訴人は,当初からリモコンと盗難防止タグの開発を
行っていたほか,被告製品3及び4(リモコン)を製造し,これをエム・アールビ
ジネスに販売しており,当該リモコンは,被告製品1及び2(盗難防止タグ)を動
作させることが可能なものであることからすれば,盗難防止タグもまた,被控訴人
が製造し,エム・アールビジネスに販売したものであると認められる旨主張する。
(イ) しかし,被告製品3及び4(リモコン)のマイコンは,セットコード,リ
セットコードを発信する際の処理等を行うものである。一方,被告製品1及び2(盗
難防止タグ)のマイコンは,ワイヤーの取り外し状態検出信号を受信した際の処理,
リモコンから発信されたリセットコード信号を受信した際の処理等を行うものであ
る。このように,リモコンと盗難防止タグのマイコンを動作させるべきプログラム
内容は,大きく相違する。
また,リモコンによって盗難防止タグを作動させるためには,リモコンが発信す
るコードと,盗難防止タグが受信するコードの意味付けを統一させておけば足りる。
そして,エム・アールビジネスは,被控訴人に1500万円の研究開発費を支払っ
て,盗難防止タグ及びリモコンの開発を行ったものであり(甲6),これらの単な
る需要者ではないことからすれば,被控訴人が製造するリモコンが発信するコード
と第三者が製造する盗難防止タグが受信するコードの意味付けを統一させることの
できる地位にあったものである。
さらに,被控訴人は,当初,盗難防止タグ及びリモコンの研究開発を行っており,
その際,盗難防止タグのマイコンには,TI社製マイコンを使用していたものであ
る(乙21,23,28)。そして,その後,盗難防止タグのマイコンがルネサス
社製マイコンに変更されている(乙20,21)。このように,使用されるマイコ
ンの変更があり,従前のプログラムがそのまま利用できるものではないから,それ

を契機として,盗難防止タグのプログラムの作成主体が変更され,リモコンと盗難
防止タグの製造主体が同一ではなくなったとしても不自然ではない。
(ウ) このように,リモコンと盗難防止タグのマイコンを動作させるべきプログ
ラム内容は大きく相違し,本件においては,リモコンと盗難防止タグのプログラム
の作成主体が異なっても,相互に信号を受発信させることは容易に調整可能であり,
さらに,リモコンと盗難防止タグの製造主体が分離するに至る契機もあったもので
ある。
そうすると,被控訴人が,当初,リモコンと盗難防止タグの開発を行っていたほ
か,被告製品3及び4(リモコン)を製造し,これをエム・アールビジネスに販売
していることをもって,被控訴人が,当該リモコンによって動作可能な被告製品1
及び2(盗難防止タグ)をも製造し,これをエム・アールビジネスに販売したと認
めることは困難である。
(エ) なお,控訴人は,乙21請求書に記載された「MSP430G2302I
PW14」(TI社製マイコン)の数量は,2つの欄に分かれ,その合計数も15
68個にとどまり,実際のタグの納品数とは異なることなどから,当初製造された
盗難防止タグに使用されていたマイコンは,TI社製マイコンではない旨主張する。
しかし,乙21請求書に記載されたTI社製マイコンの数量は,実際に納品された
タグに使われたマイコンの数量を示すものではなく,TI社製マイコンの他に,マ
イコンを示す記載も見当たらない。したがって,控訴人の上記主張をもって,当初
製造された盗難防止タグに使用されていたマイコンが,TI社製マイコンであるこ
とを否定することはできない。
イ 盗難防止タグの電子基板の記載
控訴人は,被告製品1及び2の盗難防止タグの電子基板には,被控訴人が製造し
た盗難防止タグと同様に,被控訴人の略称が付されている(甲4〔8・12頁〕,
乙28)ところ,これは,被控訴人が,被告製品1及び2の製造者であることを示
すものであると主張する。

しかし,被控訴人は,当初,盗難防止タグ及びリモコンの研究開発に関わってお
り(甲6) その際,
, 盗難防止タグの電子基板の回路を設計したものと認められる。
そして,盗難防止タグのマイコンはTI社製マイコンからルネサス社製マイコンに
変更されているものの(乙20,21,23),その際,従前の電子基板の回路図
(キバンイニシャル)は,「SW用使用します。」とされており,大きな変更はさ
れていない(乙20,21)。そうすると,ルネサス社製マイコンが使用されてい
る被告製品1及び2(乙28)についても,被控訴人が設計した電子基板の回路が
利用されている可能性があり,このことから,電子基板に被控訴人の略称が付され
ている可能性を否定できない。
したがって,被告製品1及び2の盗難防止タグの電子基板に,被控訴人の略称が
付されていることは,被控訴人が,被告製品1及び2を製造したことを裏付けるも
のとはいえない。
ウ 盗難防止タグのマイコンの変更
控訴人は,当初研究開発されていた盗難防止タグ及びリモコンが「ID無し」の
ものであり,これが「ID有り」のものに変更されたとの事実は認められない,ま
た,これらの変更を,1か月の短期間で行うことはできず,被控訴人は継続して盗
難防止タグの製造・販売を行っていたはずであると主張する。
しかし,前記のとおり,盗難防止タグに使用されるマイコンの変更が,盗難防止
タグとリモコンの製造者の分離を生じせしめたものと解される。盗難防止タグ及び
リモコンの機能について「ID無し」のものから「ID有り」のものに変更された
か否かという事実は,被控訴人が被告製品1及び2を製造し,これをエム・アール
ビジネスに販売したか否かという事実を直接裏付けるものではない。
また,ルネサス社製マイコンを使用した盗難防止タグの見積りは,TI社製マイ
コンからの変更が行われてから2か月程度で提出されているものの(乙20,21),
TI社製マイコンを動作させるプログラムが既に存在し,「ID無し」から「ID
有り」への機能追加も,電子基板の回路配置を大きく変更するようなものではなか

ったことからすれば,短期間で新たな盗難防止タグの見積りがされたことが不自然
であるということもできない。
同様に,盗難防止タグに使用されるマイコンの変更によって,多額の研究開発費
用が追加で必要になったということもできないから,被控訴人以外の者が被告製品
1及び2を製造したとしても,その製造者やエム・アールビジネスが,追加で多額
の費用の支出を迫られることになるともいえない。被控訴人が,技術的に,ルネサ
ス社製マイコンを使用した盗難防止タグの製造 販売ができたか否かは不明であり,

仮にこれができたとしても,エム・アールビジネスが,新たな盗難防止タグの製造・
販売を,被控訴人に発注しなければならない必要性も見当たらない。
エ その余の主張
控訴人のその余の主張は,次のとおり,客観的裏付けを欠き,また,被控訴人が,
被告製品1及び2を製造し,これをエム・アールビジネスに販売したとの事実を裏
付けるものにはならない。
(ア) 被控訴人が当初,マイコンの選定作業等を行っていたとしても,これに対
応する乙21請求書の宛先が被控訴人になるとは限らず,エム・アールビジネスを
宛先とする乙21請求書の記載が信用できないということはできない。
(イ) 盗難防止タグは量販店等で使用されることを考慮すれば,その量産試作が,
乙21請求書のとおり8812個に及んでも不自然ではない。また,1500万円
の研究開発費を支払い,単なる需要者ではないエム・アールビジネスが,乙21請
求書のとおり量産品の金型代を負担し,その金型を取得しようとするのも不自然で
はない。
(ウ) 乙21請求書の納品日及び請求日の記載のみから,納品された金型の評価
期間を推認することはできないから,同期間が短いことを根拠とする控訴人の主張
は採用できない。
(エ) 乙21請求書の記載は,量産試作品の単価を示すものであったとしても,
これは量産を前提とした単価であるから,量産品の単価がこれと異なることを前提

とする控訴人の主張は採用できない。
(オ) 被控訴人が,盗難防止装置の試験のために,エム・アールビジネスから盗
難防止タグを購入しても不自然ではないから,これを否定する控訴人の主張は採用
できない。
(カ) 被控訴人が,宛先をエム・アールビジネスとする乙20見積書及び乙21
請求書を所持するに至る理由は様々考えられるから,被控訴人がこれらを所持して
いることのみから,被控訴人がKDエレクトロニクスから盗難防止タグを受領した
上で,これをエム・アールビジネスに販売したとの事実は認められない。
(キ) 「ID無し」の盗難防止タグが他のメーカーから販売されていたとしても,
機能・価格等の点から,エム・アールビジネスが,被控訴人に,新たに「ID無し」
の盗難防止タグの研究開発を依頼することが考えられるから,これを不自然とする
控訴人の主張は採用できない。
⑶ 小括
以上によれば,被控訴人が,被告製品1及び2を製造し,これをエム・アールビ
ジネスに販売したとの事実を認めることはできない。
3 争点⑴イ(被控訴人による被告製品1及び2のプログラム制作による間接侵
害の成否)について
控訴人は,被控訴人は,被告製品1及び2のプログラムを制作したと主張する。
しかし,被告製品1及び2の盗難防止タグに使用されるルネサス社製マイコンと
被控訴人が従前研究開発を行っていた盗難防止タグに使用されるTI社製マイコン
の端子数は相違しているから(乙28,29),それぞれに書き込まれるプログラ
ムは異なるものと認められる。被控訴人がTI社製マイコンのプログラムを制作し
たことは,被控訴人がルネサス社製マイコンのプログラムを制作したことを裏付け
るものにはならない。
また,控訴人は,エム・アールビジネスは被控訴人に,盗難防止タグ1個当たり
10円から20円のロイヤリティを支払っている旨主張するが,その客観的裏付け

はない。被控訴人が制作したTI社製マイコンに使用されるプログラムを,ルネサ
ス社製マイコンに使用されるプログラムに改変し,エム・アールビジネスは,これ
を利用していることから,エム・アールビジネスが被控訴人に何らかの金銭を支払
っている可能性も否定できない。
さらに,横山作成に係る陳述書(甲10)には,盗難防止タグの開発,生産の技
術は当初の計画と変わらず,継続して被控訴人が担っていたとの記載がある。しか
し,ルネサス社製マイコンに使用されるプログラムは,被控訴人の制作に係るTI
社製マイコンに使用されるプログラムが基になっていたことから,このように表現
されたものとも解され得る。横山作成に係る陳述書の上記記載の趣旨は,一義的に
明らかではない。
加えて,前記2⑵のとおり,控訴人の主張はいずれも採用できるものではない。
よって,被控訴人が,被告製品1及び2のプログラムを制作したとの事実を認め
ることはできない。
4 争点⑵(被告製品1ないし4は本件各発明の技術的範囲に属するか)につい

(1) 前記2,3のとおり,被控訴人が被告製品1及び2を製造・販売したとは認
められず,同各製品のプログラムを制作したとも認められないから,被告製品1及
び2については,本件発明1ないし3の技術的範囲に属するか否かについて検討す
るまでもなく,控訴人の請求に理由がない。
以下,被控訴人において製造・販売している被告製品3及び4が,本件発明4又
は6の技術的範囲に属するか否かについて検討する。
(2) 被告製品3及び4は本件発明4の技術的範囲に属するか
ア 本件発明4の「暗号コード」(構成要件A4,B4)の意義
(ア) 特許請求の範囲の記載
a 本件特許の特許請求の範囲請求項1及び4の記載によれば, 「暗号コード」

は,盗難防止タグの警報出力手段が作動可能である状態及び警報出力状態の解除を

指示する解除指示信号に含まれるものであって(構成要件D1) ②
, 「暗号コード」
は,指示信号発信装置の暗号記憶手段に記憶されるとともに(構成要件A4),③
「暗号コード」は,盗難防止タグの暗号記憶手段において記憶されており(構成要
件F1),④「暗号コード」は,指示信号発信装置の発信手段において発信され(構
成要件B4),⑤「暗号コード」は,盗難防止タグの受信手段において受信され(構
成要件D1),⑥盗難防止タグの一致判定手段において,記憶していた「暗号コー
ド」と,受信した「暗号コード」の一致判定が行われ(構成要件G1),⑦「暗号
コード」が一致すると判定されたときに,盗難防止タグの解除手段が,警報出力手
段が作動可能である状態及び警報出力状態が解除するもの(構成要件H1),であ
る。
そして,「コード」とは,「文字や記号,数字などをコンピューターが識別する
ためにまとめられた符号」(乙2),「データを表現するための一定の明確なルー
ルあるいはそのルールに基づいて表現されたもの」(乙3)との意味を有する。
そうすると,盗難防止タグと指示信号発信装置とは,盗難防止タグが受信した解
除指示信号が,当該盗難防止タグに対応した指示信号発信装置から発信されたもの
であるという内容の通信をするために,当該通信の内容を,第三者に知られること
のないように,盗難防止タグと指示信号発信装置との間でのみ了解されるように取
り決めた上で,これをコンピュータによって識別できるように符号としてまとめ,
これを送受信しているものであり,本件発明4の「暗号コード」とは,かかる符号
に相当するものである。
b したがって,特許請求の範囲の記載によれば,本件発明4の「暗号コード」
は,前記①ないし⑦を満たすものであって,通信の内容が,第三者に知られること
のないように,当事者間にのみ了解されるように取り決められ,コンピュータが識
別できるようにまとめられた符号であると解される。
(イ) 実施例の記載
a 本件明細書等の発明の実施の形態には,「暗号コード」について,以下のこ

とが開示されている。
リモートコントロールキーRK(指示信号発信装置)は,セットコード及びリセ
ットコードから選択したコードを発信することができる。(【0067】~【00
69】)
各コードはスタートビットS0とそれに続くデータビットD0ないしD11とで
構成されるコード信号として発信される。データビットD0ないしD11は「0」
又は「1」である。(【0071】【0072】【図5】【図6】)
各コードとデータコードD0ないしD5との対応関係は,例えばリセットコード
が「00「暗号」」,暗号変更コードが「11「暗号」」であり,「暗号」とは「4
桁の暗号コード」である。(【0073】【図7】)
盗難防止タグは,セットコード,リセットコード等を受信し,信号処理部5によ
って,受信したコードに対応したモードに設定される。信号処理部5は,受信した
コードがリセットコードであるときは,暗号コード記憶部9に記憶してある暗号コ
ードと,リセットコードに含まれる暗号コードとが一致するか否かを判定し,一致
すると判定するときのみ,盗難防止タグをリセットモードに設定する。(【004
6】~【0048】【0051】)
b 実施例における「暗号コード」の意義
実施例における盗難防止タグは,「0」又は「1」を任意に選んで4つ並べた数
字列を一部に含むリセットコードを受信したとき,その数字列と事前に記憶してあ
る数字列とを照合し,両者が一致することによって,そのリセットコードを発信し
た指示信号発信装置と当該盗難防止タグとが同じ店舗に属することを確認する。
これは,盗難防止タグと指示信号発信装置との間で,あらかじめ特定の数字列を
取り決めておき,指示信号発信装置からその特定の数字列が発信されない限り,盗
難防止タグは,受信した信号を,対応した指示信号発信装置から発信された信号で
あるとは認めず,処理を実行しないということであるから,その特定の数字列は,
対応した指示信号発信装置から発信された信号であるという通信の内容が,第三者

に知られることのないように,当事者間にのみ了解されるように取り決められ,コ
ンピュータが識別できるようにまとめられた符号である。
c したがって,実施例における「暗号コード」である,「0」又は「1」を任
意に選んで4つ並べた数字列は,前記(ア)bのとおり解釈される「暗号コード」の
意義に沿うものである。
(ウ) 「暗号」の一般的意義
「暗号」とは,「通信の内容が第三者にもれないように,おたがいに約束して使
う記号(のしくみ)」(甲2),「秘密を保つために,当事者間にのみ了解される
ようにとり決めた特殊な記号・ことば。あいことば。」(甲5)との意味を有する
とされていることからすれば,本件発明4の「暗号」コードの意義を,前記(ア)b
のとおり解釈することは,
「暗号」という用語の一般的意義に反するものでもない。
(エ) 「暗号コード」の意義
よって,本件発明4の「暗号コード」とは,①盗難防止タグの警報出力手段が作
動可能である状態及び警報出力状態の解除を指示する解除指示信号に含まれるもの
であって,②指示信号発信装置の暗号記憶手段に記憶されるとともに,③盗難防止
タグの暗号記憶手段において記憶されており,④指示信号発信装置の発信手段にお
いて発信され,⑤盗難防止タグの受信手段において受信され,⑥盗難防止タグの一
致判定手段において,記憶していた「暗号コード」と,受信した「暗号コード」の
一致判定が行われ,⑦「暗号コード」が一致すると判定されたときに,盗難防止タ
グの解除手段が,警報出力手段が作動可能である状態及び警報出力状態を解除する
ものであって,通信の内容が,第三者に知られることのないように,当事者間にの
み了解されるように取り決められ,コンピュータが識別できるようにまとめられた
符号という意義を有するものというべきである。
(オ) 被控訴人の主張について
a 被控訴人は,「暗号」に関する本件明細書等の記載は,「4桁の暗号コード
である。」との一文しかなく,本件明細書等には,この他に「暗号」や「暗号コー

ド」自体の定義や説明はないと主張する。
しかし,本件明細書等には,「暗号コード」を含むリセットコードに対応するデ
ータコードD0ないしD5が「00「暗号」」である旨の記載(【0073】)や,
「暗号」は「0000~1111」の16種類から選択され得ることを示す記載も
ある(【図7】)。そして,前記(ア)ないし(ウ)のとおり,特許請求の範囲の記載
や実施例の記載,用語の一般的意義を踏まえれば,「暗号コード」は,前記(エ)の
とおりの意義を有するものということができる。
b 被控訴人は,本件各発明において,暗号は,データそのままであれば意味を
なさず,何らかのアルゴリズムでデコードして初めて意味を持つものである,暗号
コードは,単なる数字ではなく,第三者に知られないようにアルゴリズムで変換し
たものでなければならないと主張する。
しかし,本件各発明の盗難防止タグは,特定の数字列が発信されない限り,受信
した信号を,指示信号発信装置等から発信された信号であるとは認めず,処理を実
行しないものである。第三者が信号に含まれる「暗号コード」である特定の数字列
を理解できたとしても,その特定の数字列が,当該信号が対応した指示信号発信装
置等から発信された信号であるという通信の内容として,盗難防止タグと指示信号
発信装置等との間で取り決められたものであると知ることができなければ,第三者
は,通信の内容を知ることはできない。
また,特許請求の範囲の記載においても,解除指示信号に含まれる「暗号コード」
が,盗難防止タグ及び指示信号発信装置によって記憶されるだけではなく,さらに
何らかのアルゴリズムで変換されていることを示す記載はない。前記(イ)aのとお
り,実施例においても,指示信号発信装置は,「暗号コード」として,データビッ
トD2からD5までによって表される,「0」又は「1」を任意に選んで4つ並べ
た数字列を発信し,盗難防止タグの信号処理部5は,この数字列を受信し,そのま
ま暗号コード記憶部9に記憶してある暗号コードと比較して,一致するか否かを判
定しており,一致判定に使われる,暗号コード記憶部9に記憶してある「暗号コー

ド」も,「0」又は「1」を任意に選んで4つ並べた数字列であるにすぎない。
さらに,「暗号」は,「第三者に通信内容を知られないように行う特殊な通信(秘
匿通信)方法のうち,通信文を見ても特別な知識なしでは読めないように変換する
表記法(変換アルゴリズム)のこと」(乙1),「秘密にしたい情報をかき混ぜて
(暗号)特定の者以外にはその内容が解らないようにすること」(乙3),「情報
の意味が当事者以外にはわからないように,情報を変換すること」(乙17)との
意味を有するとされていることからすれば,「暗号」とは,通信の内容が何らかの
アルゴリズムで変換(デコード)されたものという意義も有すると解される。しか
し,前記(ア),(イ)のとおり,本願明細書等には,通信の内容をアルゴリズムで変
換することについては一切記載がないから,「暗号」の意義をこのように限定して
解釈することはできない。
したがって,第三者に知られないようにアルゴリズムで変換したものではない単
なる数字は,「暗号コード」に当たらないなどとする被控訴人の主張は採用できな
い。
イ 被告製品3及び4の「暗号コード」の充足性
(ア) 控訴人は,被告製品3の構成について,「被告製品1又は被告製品2の盗
難防止タグが備える受信手段が受信すべきリセットコード信号に含めるための暗号
コードを記憶する暗号記憶手段と,前記リセットコード信号を,該暗号記憶手段が
記憶する暗号コードを含めて発信する発信手段とを備える,盗難防止タグ用リモコ
ン」と主張し,被告製品4の構成について,被告製品3の構成と同じ構成であると
主張するところ,これを立証する証拠として,被告製品3及び4の写真(甲4)及
び取扱説明書(甲7)を提出するにとどまる。
(イ) 被告製品3及び4の内部写真(甲4) 被告製品3及び4の取扱説明書
, (甲
7の表2「RESET」欄及び「Tag ID 変更」欄)及び弁論の全趣旨によ
れば,IDがリセット時に送信されること,IDは被告製品3及び4に記憶される
こと,IDは被告製品1及び2に記憶されること,IDは被告製品3及び4から発

信されること,IDは被告製品1及び2に受信されることは認められる。
しかし,IDがリセット時に送信されたとしても,それがリセット信号に含まれ
るものか否かは明らかではなく,被告製品1及び2が,記憶していたIDと,受信
したIDとの一致判定を行っているか否かも明らかではなく,前記ア(エ)の①,⑥
及び⑦を充足することを認めるに足りない。
被告製品1及び2が,盗難防止タグの一般的な特徴を備え,盗難防止タグとそれ
に対応するリモコンの研究開発は,被控訴人によって当初は同時に行われていたこ
とや,被告製品1及び2の盗難防止タグ並びに被告製品3及び4のリモコンは,エ
ム アールビジネスによって同一顧客に販売されていることが認められたとしても,

上記判断は左右されない。
(ウ) したがって,被告製品3及び4における「ID」が,前記ア(エ)の①ない
し⑦を満たすものであって,通信の内容が,第三者に知られることのないように,
当事者間にのみ了解されるように取り決められ,コンピュータが識別できるように
まとめられた符号であるということはできない。
よって,被告製品3及び4は,本件発明4の「暗号コード」(構成要件A4,B
4)を充足するということはできない。
ウ 以上によれば,被告製品3及び4は本件発明4の技術的範囲に属するとは認
められない。
(3) 被告製品3及び4は本件発明6の技術的範囲に属するか
ア 本件発明6の「暗号変更指示信号」(構成要件A6)の充足性
(ア) 原判決の「事実及び理由」の第4の6⑴から⑶までの記載のとおりである
から,これを引用する。
(イ) 控訴人の主張について
控訴人は,請求項7の「暗号変更指示信号」は,盗難防止タグが備える受信手段
が受信すべき「暗号変更指示信号」に限定されるものではないと主張する。
しかし,請求項7の「暗号変更指示信号」とは,「請求項6記載の親指示信号発

信装置が発信する」ものであって,請求項6記載の「親指示信号発信装置」は「盗
難防止タグが備える受信手段が受信すべき暗号変更指示信号」を発信するものとし
て特定されている。そして,「親指示信号発信装置」が,「盗難防止タグが備える
受信手段が受信すべき暗号変更指示信号」以外の「暗号変更指示信号」を発信する
ことは,本件明細書等には記載も示唆もされていない。むしろ,上記のとおり(引
用に係る原判決119頁13行~20行),「親指示信号発信装置」は,盗難防止
タグにも,指示信号発信装置にも同一の「暗号変更指示信号」を発信することが示
唆されているものである。
また,指示信号発信装置は,盗難防止タグと同じ新暗号コードにより記憶内容を
更新できれば足り,盗難防止タグが受信すべき「暗号変更指示信号」により記憶内
容を更新しなければならない必要がないとしても,本件明細書等には,指示信号発
信装置が受信する「暗号変更指示信号」と,盗難防止タグが受信すべき「暗号変更
指示信号」が,新暗号コード部分以外は異なってもよいとする記載も示唆もない。
さらに,請求項6の親指示信号発信装置が発信する暗号変更指示信号は,盗難防
止タグを対象とするものであるものの,請求項7の指示信号発信装置は,「請求項
6記載の親指示信号発信装置が発信する」暗号変更指示信号を受信するのであるか
ら,請求項7の指示信号発信装置は,親指示信号発信装置及び同装置が発信する暗
号変更指示信号を受信する盗難防止タグを前提とするものと解するのが自然である。
したがって,本件発明6の構成要件A6にいう「暗号変更指示信号」は,請求項
6の「盗難防止タグが備える受信手段が受信すべき暗号変更指示信号」に限定され
ていないとの控訴人の主張は採用できない。
(ウ) 以上によれば,被告製品3及び4は,本件発明6の「暗号変更指示信号」
(構成要件A6)を充足するということはできない。
イ よって,被告製品3及び4は本件発明6の技術的範囲に属するとは認められ
ない。
(4) 小括

以上のとおり,被告製品3及び4は,いずれも本件発明4及び6の技術的範囲に
属するということはできない。
5 結論
被控訴人が被告製品1及び2を製造・販売したとの事実並びにこれらのプログラ
ムを制作したとの事実は,認めることはできない。また,被告製品3及び4は,い
ずれも本件発明4及び6の技術的範囲に属するということはできない。
したがって,その余の争点について判断するまでもなく,控訴人の請求は理由が
ないから,控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は,相当である。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官 髙 部 眞 規 子


裁判官 山 門 優


裁判官 片 瀬 亮

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

特許事務所の求人知財の求人一覧

特許業務法人 広江アソシエイツ特許事務所

岐阜県 岐阜市 求人 特許業務法人 広江アソシエイツ特許事務所 弁理士・特許技術者・意匠商標補助者・事務担当者 募集中

今週の知財セミナー (10月16日~10月22日)

来週の知財セミナー (10月23日~10月29日)

10月24日(火) - 東京 港区

研究開発に必要な特許の基本

10月24日(火) - 東京 品川区

多角的な他社特許対策と戦略

10月25日(水) - 東京 港区

製品開発と他社特許対策

10月26日(木) - 東京 千代田区

製品のデザイン保護と事業の独占化戦略

10月27日(金) - 東京 千代田区

INPIT主催タイムスタンプセミナー(東京会場)

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

IVY(アイビー)国際特許事務所

愛知県名古屋市天白区中平三丁目2702番地 グランドールS 203号 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

SK特許業務法人

〒150-0012 東京都渋谷区広尾3-12-40 広尾ビル4階 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

IP-Creation特許商標事務所

東京都千代田区内神田3-13-4 東陽ビル5階 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 鑑定