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平成28(ワ)39582不正競争行為差止等請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所
裁判年月日 平成29年9月28日
事件種別 民事
当事者 被告島津エス・ディー株式会社
原告ユニパルス株式会社
法令 不正競争
不正競争防止法2条1項1号5回
不正競争防止法5条2項1回
キーワード 差止2回
実施1回
ライセンス1回
損害賠償1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,原告が,原告の販売する別紙原告商品表示目録(但し,同目録中「約 10°」とは「10°±1°」を意味する。)記載の形態的特徴を有する重量 検品ピッキングカート(以下「原告商品」という。)の形態が原告の商品等表示 として需要者の間に広く認識される状態に至っていたところ,被告が販売を開 始した別紙被告商品目録記載の重量検品ピッキングカート(支柱等が赤色のも のに限らない。以下「被告商品」という。)の形態は原告商品の形態と類似し, これと混同を生じさせるから,被告による被告商品の販売が,不正競争防止法 2条1項1号の不正競争行為に当たる旨主張して,被告に対し,同法3条1項 及び2項に基づき,被告商品の譲渡等の差止め及び被告商品の廃棄を求める(前 記第1の1,2)と共に,同法4条に基づき,損害賠償金3億0400万円の 一部である4400万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みま で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(前記第1の3) 事案である。

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判決文

平成29年9月28日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成28年(ワ)第39582号 不正競争行為差止等請求事件
口頭弁論の終結の日 平成29年6月20日
判 決

原 告 ユ ニ パ ル ス 株 式 会 社

同訴訟代理人弁護士 田 中 伸 一 郎
同 高 石 秀 樹
同 外 村 玲 子

被 告 島津エス・ディー株式会社

同訴訟代理人弁護士 田 中 昌 利
同 近 藤 正 篤
同 平 野 有 加 里
同訴訟代理人弁理士 喜 多 俊 文
同 江 口 裕 之
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,別紙被告商品目録記載の商品を譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引
渡しのために展示してはならない。
2 被告は,被告所有に係る前項記載の商品を廃棄せよ。

3 被告は,原告に対し,4400万円及びこれに対する平成28年12月29
日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が,原告の販売する別紙原告商品表示目録(但し,同目録中「約
10°」とは「10°±1°」を意味する。)記載の形態的特徴を有する重量
検品ピッキングカート(以下「原告商品」という。)の形態が原告の商品等表示
として需要者の間に広く認識される状態に至っていたところ,被告が販売を開
始した別紙被告商品目録記載の重量検品ピッキングカート(支柱等が赤色のも
のに限らない。以下「被告商品」という。)の形態は原告商品の形態と類似し,
これと混同を生じさせるから,被告による被告商品の販売が,不正競争防止法
2条1項1号の不正競争行為に当たる旨主張して,被告に対し,同法3条1項
及び2項に基づき,被告商品の譲渡等の差止め及び被告商品の廃棄を求める(前
記第1の1,2)と共に,同法4条に基づき,損害賠償金3億0400万円の
一部である4400万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みま
で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(前記第1の3)
事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
原告は,ストレンゲージ・荷重・変位・トルク・振動などのセンサー,並
びに光学機器・メカトロニクス機器・エレクトロニクス機器の開発・製造・
販売を業とする株式会社である。
被告は,コンピュータのシステム・ソフトウエアの開発,設計及び販売,
コンピュータ関連機器の開発及び販売等を業とする株式会社である。
(2) 重量検品ピッキングカート
重量検品ピッキングカートは,物流センターで出荷商品を仕分けるなどの
ために使用される。すなわち,重量検品ピッキングカートは,物流センター
において,作業員が各出荷先への商品をピッキングするための折りたたみコ
ンテナ,トレイ,段ボール等を乗せるカートで,ピッキングの際に,予め登
録された商品の重量に基づき,商品及びその個数の検品を行う機能を有する。
このようなピッキングカートは,多品種の商品を場合によって少量でも出荷
しなくてはならない日用雑貨品を取扱う物流センター,更に現在では個人の
商品購入において大きな割合を占めるインターネットその他の通信販売に関
わる物流センター等において需要があり,使用されている。
(3) 原告及び被告による重量検品ピッキングカートの販売
原告及び被告は,それぞれ重量検品ピッキングカートを製造及び販売して
いる。原告の製造販売する重量検品ピッキングカートのうち,別紙原告商品
表示目録記載①及び②の形態的特徴(以下,それぞれ「本件特徴①」のよう
にいう。但し,同目録中「約10°」とは「10°±1°」を意味する。)
を有するものが,原告商品である。また,被告は,平成27年2月から,被
告商品の販売を開始した。
2 争点
(1) 不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争の成否(争点1)
ア 原告商品の形態が周知な商品等表示といえるか(争点1-1)
イ 原告商品と被告商品の形態の類似性及び混同のおそれの有無(争点1-
2)
(2) 被告の故意の有無(争点2)
(3) 損害額(争点3)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1-1(原告商品の形態が周知な商品等表示といえるか)について
《原告の主張》
原告商品の形態における本件特徴①及び②は,以下のとおり,特別顕著性
及び周知性を有し,不正競争防止法2条1項1号の商品等表示に当たる。
ア 形態の特別顕著性
原告商品の形態における本件特徴①及び②は,次のとおりである。
「①上下段にピッキングされた商品を入れるコンテナ,段ボール,トレイ
等を置く計量台が作業者の奥側から手前側に向かって下方向に約10°
(10°±1°)傾斜し,
②カート上段の左右端に設置された2本の把持部の先端が略半円状に上向
きに湾曲している。」
計量台は,重さを量る目的からすれば,本来的に水平であることが好ま
しく,またカートの把持部は,スーパーマーケットのショッピングカート
のように水平に伸びたり,あるいは若干下向きになっているのが通常であ
るが,計量台の傾きは商品の積み込みやすさ,把持部はいろいろな身長の
作業員がカートを使用する際,体に無理なくしっかり固定保持できるよう
にということで,原告は実施検証を重ねてあえてこのような特徴的な形態
としたのである。
原告が開発した重量検品ピッキングカートの市場には,その後,被告の
他,株式会社IHI,株式会社ダイフク,株式会社寺岡精工,株式会社イ
シダなどが参入してきたが,被告の従来品を含め,上述した原告商品の特
徴を有するものはなかった(甲7~13)。本件特徴①及び②を備えた重
量検品ピッキングカートは,原告の商品以外では,平成18年頃に販売さ
れたサイマルカート(原告の商品を模したと考えられる。 しか存在せず,

その販売は短期間で数量も限られたものであった。
したがって,原告商品の形態における本件特徴①及び②は,特異な形態
として,原告の商品であることを示す商品等表示性を獲得している(別紙
他商品写真参照)。
イ 周知性
以下の事情によれば,原告商品の形態における本件特徴①及び②は,周
知性を獲得している。
(ア) 原告商品の開発経緯及び販売開始後の顕著な業績
重量検品ピッキングカートは元々,原告が訴外花王株式会社からの打
診を受け,同社と共同で開発し,平成10年から,販売を開始したもの
である。原告の重量検品ピッキングカートは,数量等を計量によって正
確に判断し,仕分けミスを従来の100万分の1に抑えられる「夢の検
品レスシステム」として注目を集め,現在までに,全国100か所の大
手企業各社の物流センターに納品され,利用されている。
その後,他のいくつかの会社が重量検品ピッキングカートの市場に参
入しているが,上述のとおりその需要は特殊であり,原告の他には,被
告,株式会社IHI,株式会社ダイフク,株式会社寺岡精工,株式会社
イシダなど少数に留まっており,市場規模も年間約27ないし35億円
である。
その中で,原告の重量検品ピッキングカートの平均年間売上高は約5
ないし6億円であり,少なくとも市場シェアの25パーセントを確保し
ている。
(イ) 長期間の継続的かつ独占的使用
原告の重量検品ピッキングカートの出荷台数の累計(平成10年8月
~平成28年12月)は合計3084台に上っている。このうち,顧客
2社からの特別要請により本件特徴②について把持部の先端を下向きに
したもの177台(なお,これらの出荷期間は平成17年から平成19
年までの3年間にすぎない。)及び,計量台が2か所及び3か所のもの
141台(なお,原告商品は計量台が4か所である。)を除くと,原告
の重量検品ピッキングカートの計量台の傾斜角度は,①平成10年から
平成19年の中途まで製造された1183台は上段15度,下段10度,
②平成19年以降に製造された1583台は,上段,下段とも10度で
ある。
そして,上記アのとおり,原告商品の本件特徴①及び②は,原告がほ
ぼ独占的に使用してきた特異な形態である。
したがって,原告の重量検品ピッキングカートが画期的な商品として
注目を浴び,市場で好評を博してからおよそ10年にわたる原告による
販売により,平成19年頃の段階で,計量台が作業者の奥側から手前側
に向かって下方向に上下2段とも傾斜している重量検品ピッキングカー
トは原告の商品であると,需要者の間では良く知られた。そして,その
後の10年間にわたって,傾斜角度は上段,下段とも10度で1583
台が販売されたのであり,本件特徴①は,本件特徴②と共に,特異な形
態として,原告の商品であることを示す商品等表示性を獲得している。
(ウ) 専門雑誌における継続的紹介
原告商品は,別紙広告記事等目録に示されるように,平成10年の販
売開始から,全国版の専門雑誌において繰り返し紹介されており,原告
商品の特徴①及び②が確認できる写真が記事と併せて頻繁に紹介されて
きた。
(エ) 積極的かつ強力な宣伝広告活動
原告は,業界専門雑誌に原告商品の広告を継続的に掲載し,また商品
カタログを展示会,取引先等に幅広く配布してきた(これらの広告にお
いては,原告商品を正面や側面から写した写真が常に掲載されている。 。

すなわち,原告は,16年以上の長期間にわたり何度も原告商品の宣
伝広告を掲載した(甲17~50)。また,重量検品ピッキングカート
市場は特殊な業界であり,取引者・需要者数は限られているにもかかわ
らず,原告は,原告商品のカタログを合計1万4000枚も印刷,配布
した(甲14)。
《被告の主張》
ア 本件特徴①及び②がそもそも識別力を有しないこと
重量検品ピッキングカートは,あくまで物流管理システムの一端を担う
という性質の商品であるから,その商品選択の基準となるのは,重量検品
ピッキングカートに搭載され,これと連動する物流管理システムによる仕
分け作業の精確性・効率性(商品間違い,数量間違い,仕分け間違いの防
止など)及び省コスト化といったソフト面の機能ないし品質や,いかに顧
客の希望する物流管理方法に適合したシステムを構築できるかといったソ
フト面に関する企業としての顧客対応力である。
したがって,重量検品ピッキングカートの形態ないし形状の中でも,本
件特徴①及び②,すなわち重量検品ピッキングカートの把持部の形状や計
量台の傾斜の有無及びその程度が,需要者が商品選択を行う基準として重
要であるとはいえず,これらは,需要者の間において商品の出所を表示す
るものとして認識されていない。
このことは,原告商品のパンフレット(甲1ないし4),及び各種記事
(甲5,6)に,重量検品ピッキングカートの具体的な形態ないし形状に
言及した部分はほとんど存在しないことからも明らかである。
イ 本件特徴①及び②はありふれたものであること
(ア) 本件特徴①については,原告の製造・販売する重量検品ピッキング
カートは,製品によって,計量台の傾斜の程度が統一されていないこと
(乙3),原告が原告商品であると主張する重量検品ピッキングカート
(甲1,2)も,上段の計量台と下段の計量台とでは,傾斜の角度が一
見して異なっていること,そもそも計量台が奥側から手前側に傾斜して
いる場合のその具体的な傾斜角度(約10°)について,需要者がこれ
を具体的に認識することは不可能であることによれば,原告の本件特徴
①に関する主張自体が失当である。
その点を措くとしても,計量台を奥側から手前側に向かって下方向に
傾斜させるという構造を備えた他社製の同種製品は多数存在しており,
まさにありふれた形態である(乙4ないし12)。また,被告は,古く
から,コンテナを載せる台が手前側に向かって下方向に傾斜した構造の
ピッキングカートを製造販売しているし(乙13ないし16),他社製
のピッキングカートにも,奥側から手前側に向かって下方向に傾斜した
台を備えているものがある(乙17,18)。さらに,加えて,被収容
物を収容するためのかごを載置する部分を奥側から手前側に向かって下
方向に傾斜させる構造は,いわゆるショッピングカート等のカートにお
いて旧来から広く採用されており(乙19ないし23),それ自体極め
てありふれた形態である。
(イ) 本件特徴②についても,原告自身,重量検品ピッキングカートにお
いて,把持部の先端を略半円状にした上,「上向き」にした商品と「下
向き」にした商品とを製造販売しているから,本件特徴②に関する主張
自体が失当である。
その点を措くとしても,カート上段の左右端に設置された2本の(独
立した)把持部の先端を略半円状に上向きに湾曲させた同種製品は,多
数存在しており,ありふれた形態である(乙4ないし6,11,12,
16,17,24ないし26)。カートやベビーカーなどにおける形態
をみても,把持部の先端が上向きの略半円状となっているものは旧来か
ら一般的かつ多数存在する(乙27)。
(ウ) このように,本件特徴①及び②はいずれもありふれた形態であり,
客観的に他の同種商品と異なる顕著な特徴ではないことから,このよう
な形態が複数備えられたからといって識別力が高められることにはなら
ない。また,本件特徴①及び②をいずれも備える同種製品も多数存在す
る(乙4ないし6,11,12)。
ウ 本件特徴①及び②は周知でもないこと
原告は,①原告商品の販売台数,②平均年間売上高,市場シェア,③原
告商品の掲載されたカタログの配布部数,④原告商品の掲載された雑誌の
発行部数等の事情に基づき,本件特徴①及び②の周知性を主張する。
しかし,上記①及び②については,何ら立証がされていないし,③につ
いても,カタログの印刷部数と配布部数が一致することの客観的裏付けが
ないし,配布態様についての立証も一切ない。④についても,実際の販売
部数等の立証がない。
そもそも,原告が提出したカタログ(甲3,4)及び広告記事(甲24
ないし50)においても,本件特徴①については一切触れられておらず,
また,本件特徴②については,これを備えない把持部が下向きに湾曲した
ものが多数存在する。これらの原告の宣伝広告の態様によれば,原告にお
いて,本件特徴①及び②を,自社の商品の特徴として積極的に宣伝広告し
たとの事実は認められないし,需要者において原告商品が本件特徴①及び
②を備えていたことを認識していたとも到底考えられない。
なお,原告は,平成10年から平成19年までに販売された原告商品の
販売数量・売上高も相まって,本件特徴①及び②が周知であると主張する
趣旨と考えられる。しかし,平成19年以前に販売されたという原告の重
量検品ピッキングカートは,計量台の上段と下段との傾斜が明らかに異な
っており(甲1,2,52),原告が主張するように,計量台の上段と下
段が同じように約10°傾斜している原告商品とは一見して異なる形態で
ある。したがって,平成10年から平成19年までに販売された原告の重
量検品ピッキングカートの販売数量・売上高が本件特徴①及び②の周知性
を基礎付けることはあり得ない。
さらに,本件特徴①については,原告の重量検品ピッキングカートは,
現状においても,上記の角度に統一されているわけではなく,「7°」の
ものも存在する(乙35)。
(2) 争点1-2(原告商品と被告商品の形態の類似性及び混同のおそれの有無)
について
《原告の主張》
ア 被告商品の形態は,本件特徴①及び②を備えているところ,重量検品ピ
ッキングカートが上記の特徴を有すれば,需要者においては当然に原告の
製品であると認識するものであるから,被告商品を見れば,同商品につい
て,原告がOEM供給した商品,あるいは原告のライセンスの下で製造さ
れた商品であるとの出所の誤認混同を生じるおそれがあることは明らかで
ある。
なお,原告商品と被告商品は本件特徴①及び②に加え,以下の点におい
ても共通している。①トレーを積載するための上下2段の秤部,支柱部,
秤部の間に設置された仕切り部,把持部,操作部及びキャスターから構成
されている。②秤部には,角部が丸みを帯びた矩形状の積載部が左右に2
枚並列し,上下段で合計4枚の秤台が設けられ,下段の秤部が上段の検量
部より作業者側に突出している。③秤台の表面に縦長線線状の凹凸部が等
間隔に設けられている。④秤台と秤台の間に,伸長したコ字状の仕切り部
が配置されている。⑤カート上段の把持部の間に操作部が設けられている。
そして,原告商品と被告商品は,ともに物流センター等で使用される重
量検品ピッキングカートであり,原告商品の希望販売価格は約120万円
であり,被告商品の定価は120万円であり,価格帯も同一である。さら
に,重量検品ピッキングカート業界においては,他社の製造した商品を販
売する事例が実際に見受けられるから,重要な特徴が共通すれば,少なく
とも被告製品の販売者が原告と緊密な営業上の関係がある者と誤信するお
それがあり,広義の混同を生じるおそれがあることは明らかである。
イ なお,原告商品と被告商品のディスプレイ及び色合いの相違を根拠に原
告商品と被告商品の類似性及び混同のおそれを否定することはできない。
すなわち,ディスプレイについては,他社商品のディスプレイが別体であ
るのに対し,原告商品及び被告商品のディスプレイは埋め込み式であり,
むしろ両商品の類似性を高め,誤認混同が生じるおそれを強くする。また,
色合いについては,顧客の好みにより随時変更されるのであり,原告商品
にはいくつかの色が存在し,その中には被告商品の色に近いピンク色も存
在する。要するに商品の色は常に変更可能であり,商品選択に影響を与え
るものではない。
《被告の主張》
原告商品と被告商品を比較すると,全体的な外観における特徴的部分や,
その操作において重要な部分(計量台に設けられた検量情報を表示するディ
スプレイ)において,両者の相違点は一見して明らかであるから,両者は類
似しておらず,誤認混同を生ずるおそれは皆無である。
ア デザイン(色及び形状)における相違
原告商品は,把持部が黒色,計量台部分が銀色,その他の部分がグレー
となっており,全体的に機械そのままの色合いが採用されていることから,
需要者に対して無骨・淡泊な印象を与えるものである(甲1ないし甲4)。
これに対して,被告商品は,把持部が銀色,計量台部分が黒色,支柱部分
及び計量台を支える部位の一部が赤色となっており,視覚的に訴える特別
な色合いが採用されていることから,需要者に対して洗練されたカラフル
な印象を与えるものである(乙30)。なお,顧客の要望に応じて,更にカ
ートの色を変更することも可能である。
また,原告商品は,上段の計量台の端部から等幅の支柱が垂直に立って
いる。これに対して,被告商品は,上段の計量台の中央部からくの字形の
支柱が設けられており,より躍動感を与え,上述した赤色の採用も相まっ
て,支柱の形状の特殊性がより強調されている。
このような差異は,被告が被告商品を設計するに当たって,他社にない
デザインを採用すべく自動車のデザイナーにデザインを依頼したことに起
因するものである。このように,原告商品と被告商品は,外観を一見する
だけでも,需要者に対して与える印象が全く異なることが明らかである。
イ 各計量台に設けられたサブディスプレイの有無
重量検品ピッキングという機能からして,その操作において,重要な部
分である,計量台に設けられた検量情報を表示するディスプレイ部分が需
要者の注意を惹く。現に,原告自身も,雑誌の取材に対し,ディスプレイ
の配置部分を大きな特徴としてアピールしている。
そして,原告商品には,4つの計量台の手前部分にそれぞれサブディス
プレイが設けられており,確かに,このようなサブディスプレイを設けた
他社の同種製品は存在しないから,このサブディスプレイが,原告商品と
他社の同種製品を比較した際に原告商品の特徴的部分として認識される部
分である。これに対して,被告商品には,このようなサブディスプレイは
設けられていない。被告商品のディスプレイは,計量台の中央に1つ備え
られているだけである。この点からも,原告商品と被告商品とは,一見し
て異なっており,紛れようがない。
(3) 争点2(被告の故意の有無)
《原告の主張》
被告は,従来から,重量検品ピッキングカート市場において原告と競業関
係にあり,本件特徴①及び②が市場で良く知られた原告商品の特徴であるこ
とを当然知っていたはずであり,被告商品の販売開始には明らかな不正競争
の意図があったといわざるを得ない。
《被告の主張》
否認ないし争う。
(4) 争点3(損害額)について
《原告の主張》
被告は,現在まで被告商品を少なくとも1500台販売しているところ,
1台当たりの利益額は20万円を下らないから,被告の得た利益額は合計3
億円を下らず,同額が原告の受けた損害額と推定される(不正競争防止法5
条2項)ところ,原告は一部請求として4000万円を請求する。
また,原告は,被告の不正競争行為により本訴の提起を余儀なくされ,事
案の性質・内容からこれを弁護士である原告代理人に依頼せざるを得なかっ
た。その結果,原告は,原告代理人らに弁護士費用の支払を約し,少なくとも
400万円の弁護士費用相当額の損害を被った。
《被告の主張》
争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1-1(原告商品の形態が周知な商品等表示といえるか)について
(1) 商品の形態と商品等表示性
不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」とは,
「人の業務に係る
氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を
表示するもの」をいうところ,商品の形態は,商標等と異なり,本来的には
商品の出所を表示する目的を有するものではないが,商品の形態自体が特定
の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。そして,商品の形
態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し,不正競争防止法2条1項
1号にいう「商品等表示」に該当するためには,①商品の形態が客観的に他
の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,②その
形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は極めて強力な宣
伝広告や爆発的な販売実績等により,需要者においてその形態を有する商品
が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)
を要すると解するのが相当である。
(2) 原告商品の形態の特別顕著性について
ア 原告の主張について
(ア) 原告は,原告商品の形態における本件特徴①及び②が,特異な形態
として,原告の商品であることを示す商品等表示性を獲得している旨主
張するところ,そこにおける本件特徴①及び②は,具体的には,次のと
おりである。
「①上下段にピッキングされた商品を入れるコンテナ,段ボール,トレイ
等を置く計量台が作業者の奥側から手前側に向かって下方向に約10°
(10°±1°)傾斜し,
②カート上段の左右端に設置された2本の把持部の先端が略半円状に上
向きに湾曲している。」
(イ) しかし,商品の形態が出所表示機能を有する前提となる顕著な特徴
とは,需要者が取引の場面において商品の形態を見た場合に,その特徴
の有無を認識区別することができるものでなければならないことは当
然であるところ,原告の主張する本件特徴①のうち,計量台の傾斜角度
については,それが10°±1°(すなわち,9°から11°まで)の
範囲内に含まれるか否かを需要者が取引の場面において厳密に認識区
別することができるとは到底認められず,需要者が認識区別できるのは,
せいぜい計量台が緩やかに前傾していること程度に止まるというべき
である。したがって,原告の上記主張は,その点において既に採用でき
ないものであるが,以下では,原告の主張する本件特徴①が「上下段に
ピッキングされた商品を入れるコンテナ,段ボール,トレイ等を置く計
量台が作業者の奥側から手前側に向かって下方向に緩やかに前傾し,」
(以下「本件特徴①’」という。)という趣旨を含むと善解した場合に
ついて,更に検討を進めることとする。
イ 本件特徴①’の特別顕著性について
(ア) 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
a 次の重量検品ピッキングカートは,いずれも,奥側から手前側に向
かって下方向に緩やかに傾斜した計量台という構成を備えている。
株式会社イシダが,遅くとも平成18年(2006年)には製造販
売している「さいまるカート」(乙4,5)(別紙他商品目録記載1
参照)(なお,原告は,同商品が平成18年頃の短期間に販売され,
現在は市場に存在しない旨主張するが,同事実を認めるに足りる証拠
はない。)
株式会社IHIエスキューブが,遅くとも平成20年(2008年)
には販売している「計量検品ピッキングカート(4ハカリ) (乙6)

(別紙他商品目録記載2参照)
株式会社岡村製作所が,遅くとも平成21年(2009年)には製
造販売している「ピッキングカートシステム」(乙7,8)(別紙他
商品目録記載3参照)
株式会社寺岡精工が,遅くとも平成21年(2009年)には製造
販売している「AIピッキングカート」(乙9,10)
株式会社椿本チエインが,遅くとも平成22年(2010年)には
製造販売している「つばきクイックカート」(乙11)
b また,次のピッキングカートは,いずれも,奥側から手前側に向か
って下方向に緩やかに傾斜した台を備えている。
被告が,平成11年(1999年),ホクショー株式会社に対して
納入したピッキングカート(乙13ないし乙15)
被告が,遅くとも平成13年(2001年)には製造販売し,宣伝
広告を行っているピッキングカートシステム「PPWシリーズ」(乙
16)
株式会社アルゴシステムが,遅くとも平成23年(2011年)に
は製造販売している「ピッキングカート」
(乙18・2頁左下の写真)
(別紙他商品目録記載4参照)
c その他,ショッピングカート等において,被収容物を収容するため
のかご等を載置する部分を奥側から手前側に向かって下方向に 緩や
かに傾斜させる構造は,次のように,従来から最近に至るまで多数存
在している。
平成7年(1995年)3月7日付け出願に係る意匠登録第106
6217号公報(乙19)
平成10年(1998年)11月13日付け出願に係る意匠登録第
1072135号公報(乙20)
平成15年(2003年)2月28日付け出願に係る意匠登録第1
197416号公報(乙21)
平成29年3月時点におけるインターネットによるショッピング
カート等の検索結果(乙22の1ないし9・11)
(イ) 以上のとおり,被告商品の販売が開始された平成27年2月時点ま
でに,奥側から手前側に向かって下方向に緩やかに傾斜した計量台とい
う構成を備えている重量検品ピッキングカートや,奥側から手前側に向
かって下方向に緩やかに傾斜した台を備えているピッキングカートが相
当数存在し,その他にも,ショッピングカート等において,被収容物を
収容するためのかご等を載置する部分を奥側から手前側に向かって下方
向に緩やかに傾斜させる構造も従来から多数存在したものである。これ
らの事実によれば,重量検品ピッキングカートにおいて,「上下段にピ
ッキングされた商品を入れるコンテナ,段ボール,トレイ等を置く計量
台が作業者の奥側から手前側に向かって下方向に緩やかに前傾し,」と
いう構成(本件特徴①’)は,ごくありふれた構成というべきであり,
それが,客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴であるとは到底認
められない。
ウ 本件特徴②の特別顕著性について
(ア) 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
a 次の重量検品ピッキングカートはいずれも,先端を略半円状ないし
それに近い形状に上向きに湾曲させた2本の(独立した)把持部を備
えている。
被告が,遅くとも平成13年(2001年)には製造販売し,宣伝
広告を行っているピッキングカートシステム「APWシリーズ」(乙
16)(別紙他商品目録記載5参照)
株式会社イシダが,遅くとも平成18年(2006年)には製造販
売している「さいまるカート」(乙4,5)(別紙他商品目録記載1
参照)
株式会社IHIエスキューブが,遅くとも平成20年(2008年)
には販売している「計量検品ピッキングカート(4ハカリ)」(乙6)
(別紙他商品目録記載2参照)
株式会社椿本チエインが,遅くとも平成22年(2010年)には
製造販売している「つばきクイックカート」(乙11)
日本ファイリング株式会社が,遅くとも平成27年(2015年)
には製造販売している「AMCスリムカート」(乙12)
b また,次のピッキングカートは,いずれも,先端を略半円状ないし
それに近い形状に上向きに湾曲させた2本の(独立した)把持部を備
えている。
トヨタL&F(株式会社豊田自動織機の社内カンパニー)が,遅く
とも平成22年(2010年)には製造販売しているピッキングカー
ト(乙24・7枚目右上の写真)
株式会社タクテックが,遅くとも平成21年(2009年)には製
造販売している「ピッキングカート システム」(乙17),及び遅く
とも平成24年(2012年)には製造販売しているピッキングカー
ト(乙25)
株式会社近江屋が,遅くとも平成26年(2014年)には製造販
売している「イレクター製ピッキングカート」(乙26)
c その他,ベビーカーにおいても,把持部の先端が上向きの略半円状
ないしそれに近い形状となっているものは,次のように,多数存在す
る。
平成29年3月時点におけるインターネットによる ベビーカーの
検索結果(乙27の1ないし18)
(イ) 以上のとおり,被告商品の販売が開始された平成27年2月時点ま
でに,先端を略半円状ないしそれに近い形状に上向きに湾曲させた2本
の(独立した)把持部という構成を備えている重量検品ピッキングカー
トやピッキングカートが相当数存在し,その他にも,ベビーカーにおい
て,把持部の先端が上向きの略半円状ないしそれに近い形状となってい
る構成も多数存在するものである。これらの事実によれば,重量検品ピ
ッキングカートにおいて,「カート上段の左右端に設置された2本の把
持部の先端が略半円状に上向きに湾曲している」という構成(本件特徴
②)も,ごくありふれた構成というべきであり,それが,客観的に他の
同種商品とは異なる顕著な特徴であるとは到底認められない。
エ 特別顕著性についての小括
上記イ及びウのとおり,本件特徴①’及び②は,いずれもありふれた形
態というべきであり,客観的に他の同種商品と異なる顕著な特徴とはいえ
ない。なお,ありふれた形態を併せただけでは,顕著な特徴とはいえない
し,そもそも,上記イ及びウのとおり,本件特徴①’及び②の両方を備え
る他の同種製品も,被告製品の販売開始時までに存在している(株式会社
イシダの「さいまるカート」(乙4及び乙5),株式会社IHIエスキュ
ーブの「計量検品ピッキングカート(4ハカリ)」(乙6),株式会社椿
本チエインの「つばきクイックカート」(乙11))。
したがって,原告の主張を善解してもなお,原告商品の形態は,客観的
に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているということはできず,
不正競争防止法2条1項1号の商品等表示には当たらない。
(なお,上記認定のとおり,本件特徴①’及び②は,原告により独占的に
使用されてきたとは認められないし,また,原告の製造販売する重量検品
ピッキングカートに係るカタログ(甲1~4)及び広告記事等(甲5の1
ないし12,6,17~50)においても,本件特徴①’及び②が商品の
特徴として強調されているとは認められないから,これらの事情によれば,
本件特徴①’及び②が原告の商品等表示として周知になっているとも認め
られない。)
2 結論
以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はい
ずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部


裁判長裁判官 沖 中 康 人


裁判官 矢 口 俊 哉


裁判官島田美喜子は,差支えのため署名押印できない。

裁判長裁判官 沖 中 康 人

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