特開2016-216404(P2016-216404A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特開2016-216404陽子線治療用増感剤および陽子線治療方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-216404(P2016-216404A)
(43)【公開日】2016年12月22日
(54)【発明の名称】陽子線治療用増感剤および陽子線治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20161125BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20161125BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20161125BHJP
   A61K 41/00 20060101ALI20161125BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20161125BHJP
   A61K 31/7072 20060101ALI20161125BHJP
   A61K 31/7076 20060101ALI20161125BHJP
   A61K 31/708 20060101ALI20161125BHJP
   A61N 5/10 20060101ALI20161125BHJP
【FI】
   A61K45/00
   A61P43/00 105
   A61P35/00
   A61K41/00
   A61K31/7068
   A61K31/7072
   A61K31/7076
   A61K31/708
   A61N5/10 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-104243(P2015-104243)
(22)【出願日】2015年5月22日
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
【住所又は居所】北海道札幌市北区北8条西5丁目
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】稲波 修
【住所又は居所】北海道札幌市北区北8条西5丁目 国立大学法人北海道大学内
(72)【発明者】
【氏名】白土 博樹
【住所又は居所】北海道札幌市北区北8条西5丁目 国立大学法人北海道大学内
(72)【発明者】
【氏名】松田 彰
【住所又は居所】北海道札幌市北区北8条西5丁目 国立大学法人北海道大学内
(72)【発明者】
【氏名】山盛 徹
【住所又は居所】北海道札幌市北区北8条西5丁目 国立大学法人北海道大学内
(72)【発明者】
【氏名】安井 博宣
【住所又は居所】北海道札幌市北区北8条西5丁目 国立大学法人北海道大学内
(72)【発明者】
【氏名】前田 憲一郎
【住所又は居所】北海道札幌市北区北8条西5丁目 国立大学法人北海道大学内
【テーマコード(参考)】
4C082
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C082AC05
4C084AA11
4C084AA17
4C084NA05
4C084NA06
4C084NA14
4C084ZB211
4C084ZB261
4C084ZC412
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA17
4C086EA18
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA06
4C086NA14
4C086ZB21
4C086ZB26
(57)【要約】
【課題】陽子線治療において、均一の物理線量下において生物線量(RBE)も一定にできる手段を提供すること。
【解決手段】照射陽子線の複数のブラッグピークの重ね合わせ(SOBP)内で均一物理線量の陽子線を照射して行われる悪性腫瘍の治療において、SOBP内での生物線量(RBE)を調整するために用いられる、RNA合成阻害剤を有効成分とする陽子線治療用増感剤。RNA合成阻害剤を有効成分とする増感剤を投与した患部に、SOBP内で均一物理線量の陽子線を照射することを含む、陽子線治療方法。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射陽子線の複数のブラッグピークの重ね合わせ(以下、SOBPと呼ぶ)内で均一物理線量の陽子線を照射して行われる悪性腫瘍の治療において、SOBP内での生物線量(RBE)を調整するために用いられる、RNA合成阻害剤を有効成分とする陽子線治療用増感剤。
【請求項2】
前記RNA合成阻害剤は、DNA二本鎖切断に対する細胞の相同組換え修復能阻害剤である、請求項1に記載の増感剤。
【請求項3】
前記RNA合成阻害剤は、下記一般式で表される3'-置換ヌクレオシド誘導体である、請求項1または2に記載の増感剤。
【化1】
(式中、Bは置換基を有してもよい核酸塩基を示し、Zはトリアルキルシリル基で置換されてもよいエチニル基を示す。)
【請求項4】
3'-置換ヌクレオシド誘導体は、下記化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項3に記載の増感剤。
1-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)シトシン、
1-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)-5-フルオロシトシン、
1-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)ウラシル、
3-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)ウラシル、
1-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)-5-フルオロウラシル、
9-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)アデニン、
9-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)グアニン。
【請求項5】
3'-置換ヌクレオシド誘導体は、下記式で表される1-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)シトシンである請求項3に記載の増感剤。
【化2】
【請求項6】
RNA合成阻害剤を有効成分とする増感剤を投与した患部に、SOBP内で均一物理線量の陽子線を照射することを含む、陽子線治療方法。
【請求項7】
前記RNA合成阻害剤は、DNA二本鎖切断に対する細胞の相同組換え修復能阻害剤である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記RNA合成阻害剤は、下記一般式で表される3'-置換ヌクレオシド誘導体である、請求項6または7に記載の方法。
【化3】
(式中、Bは置換基を有してもよい核酸塩基を示し、Zはトリアルキルシリル基で置換されてもよいエチニル基を示す。)
【請求項9】
3'-置換ヌクレオシド誘導体は、下記化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項8に記載の方法。
1-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)シトシン、
1-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)-5-フルオロシトシン、
1-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)ウラシル、
3-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)ウラシル、
1-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)-5-フルオロウラシル、
9-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)アデニン、
9-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)グアニン。
【請求項10】
3'-置換ヌクレオシド誘導体は、下記式で表される1-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)シトシンである請求項8に記載の方法。
【化4】
【請求項11】
陽子線の物理線量を前記増感剤不使用時の、95%以下とする請求項6〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記増感剤の患部への投与量は、2.0 mg/m2〜6.85 mg/m2の範囲である請求項6〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
SOBPは、表皮から50〜300mmの範囲である請求項6〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記患部は、悪性腫瘍である請求項6〜13のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽子線治療用増感剤および陽子線治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
陽子線治療は、「陽子」を加速させたものを体の外から病変に当てて治療する放射線治療である。「陽子」は水素の原子核で、この陽子を束にして加速したものが陽子線である。放射線治療に用いられる放射線には陽子線のほかにX線、電子線、ガンマ線、炭素線などがある。陽子線と炭素線による治療を合わせて「粒子線治療」と呼ぶこともある。
【0003】
現在一般的に放射線治療に用いられているX線は、体の表面からある一定の深さでエネルギーが最大になる性質がある(図1参照)。その後X線は緩やかに減っていくが、この性質ゆえに、病変の後ろ側にある正常組織にも、一定量の放射線があたることになる。これに対して陽子線には、到達深度の終わり近くでエネルギーの大半を放出する「ブラッグピーク」という物理学的特徴がある。陽子線は病変の近くでエネルギーの大半を放出してしまうので、照射位置を適切に調整すれば、病変の後ろには陽子線が当たることなく治療できる。これが陽子線治療の大きな特徴であり、利点である。
【0004】
放射線治療は、病変部位と正常組織にあたる放射線の量を適切にコントロールし、同時に副作用を低減することを目指して発展してきた。陽子線治療は、前述した陽子線の特徴であるブラッグピークにより、病変部で止まるという優れた性質を利用することで病変部位に限局した放射線治療が可能である。そのため、陽子線治療は、病変の制御率向上と副作用の低減の両立が期待される理想的な放射線治療である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Y Matsumoto, T Matsuura, M Wada, Y Egashira, T Nishio, and Y Furusawa, Enhanced radiobiological effects at the distal end of a clinical proton beam: in vitro study. J Radiat Res. 2014; 55: 816-22.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように陽子線には、到達深度の終わり近くでエネルギーの大半を放出する「ブラッグピーク」という物理学的特徴があり、そのため腫瘍へ高線量を照射しつつ周囲の正常組織への線量の低減が可能である。しかし、実際の治療は、複数のエネルギーのブラッグピークを重ね合わせて、腫瘍のみを選択的に照射することで行われる。複数のピークの重ね合わせ(spread-out Bragg-peak(SOBP))は、腫瘍位置で一定の物理的線量になるように設定される(図2(A))。
【0007】
従来、一定の物理的線量であるSOBPにおいては生物効果(生物線量(RBE)も一定であると考えられていた(図2(B))。ところが、腫瘍位置で一定の物理的線量になるように設定された陽子線の実際の生物効果(生物線量(RBE)と呼ぶ)は、SOBP中で一定ではなく、RBEはSOBO中の深い位置ほど大きくなることが報告されている(図3)(非特許文献1)。
【0008】
SOBP内で物理線量が均一であってもRBEが一定ではない事で、均一な治療効果が達成されない可能性がある。
【0009】
そこで本発明は、均一の物理線量下において生物線量(RBE)も一定にできる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく種々検討した。その結果、RNA合成阻害剤を、陽子線照射をする患部に存在させることで、均一の物理線量下において生物線量(RBE)も一定にできることを見出して本発明を完成させた。
【0011】
本発明は以下の通りである。
[1]
照射陽子線の複数のブラッグピークの重ね合わせ(以下、SOBPと呼ぶ)内で均一物理線量の陽子線を照射して行われる悪性腫瘍の治療において、SOBP内での生物線量(RBE)を調整するために用いられる、RNA合成阻害剤を有効成分とする陽子線治療用増感剤。
[2]
前記RNA合成阻害剤は、DNA二本鎖切断に対する細胞の相同組換え修復能阻害剤である、[1]に記載の増感剤。
[3]
前記RNA合成阻害剤は、下記一般式で表される3'-置換ヌクレオシド誘導体である、[1]または[2]に記載の増感剤。
【化1】
(式中、Bは置換基を有してもよい核酸塩基を示し、Zはトリアルキルシリル基で置換されてもよいエチニル基を示す。)
[4]
3'-置換ヌクレオシド誘導体は、下記化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である[3]に記載の増感剤。
1-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)シトシン、
1-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)-5-フルオロシトシン、
1-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)ウラシル、
3-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)ウラシル、
1-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)-5-フルオロウラシル、
9-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)アデニン、
9-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)グアニン。
[5]
3'-置換ヌクレオシド誘導体は、下記式で表される1-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)シトシンである[3]に記載の増感剤。
【化2】
[6]
RNA合成阻害剤を有効成分とする増感剤を投与した患部に、SOBP内で均一物理線量の陽子線を照射することを含む、陽子線治療方法。
[7]
前記RNA合成阻害剤は、DNA二本鎖切断に対する細胞の相同組換え修復能阻害剤である、[6]に記載の方法。
[8]
前記RNA合成阻害剤は、下記一般式で表される3'-置換ヌクレオシド誘導体である、[6]または[7]に記載の方法。
【化3】
(式中、Bは置換基を有してもよい核酸塩基を示し、Zはトリアルキルシリル基で置換されてもよいエチニル基を示す。)
[9]
3'-置換ヌクレオシド誘導体は、下記化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である[8]に記載の方法。
1-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)シトシン、
1-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)-5-フルオロシトシン、
1-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)ウラシル、
3-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)ウラシル、
1-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)-5-フルオロウラシル、
9-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)アデニン、
9-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)グアニン。
[10]
3'-置換ヌクレオシド誘導体は、下記式で表される1-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)シトシンである[8]に記載の方法。
【化4】
[11]
陽子線の物理線量を前記増感剤不使用時の、95%以下とする[6]〜[10]のいずれかに記載の方法。
[12]
前記増感剤の患部への投与量は、2.0 mg/m2〜6.85 mg/m2の範囲である[6]〜[11]のいずれかに記載の方法。
[13]
SOBPは、表皮から50〜300mmの範囲である[6]〜[12]のいずれかに記載の方法。
[14]
前記患部は、悪性腫瘍である[6]〜[13]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、均一の物理線量下において生物線量(RBE)も一定にできる陽子線照射による治療方法を提供することができる。さらにこの方法によれば、所定の物理線量下における生物線量(RBE)を、RNA合成阻害剤が存在しないときに比べて、高めることができ、そのため、より少ない陽子線照射量で、所望の治療効果を得られる可能性もある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】放射線治療に用いられているX線、および陽子線の体の表面から深さ方向への相対吸収線量を示す。
図2】(A)照射陽子線の複数のブラッグピークの重ね合わせ(SOBP)内で提供される均一物理線量の様子を示す。(B)従来想定されていたSOBPと生物効果(生物線量(RBE)との関係(実際の生物効果(生物線量)との差異)を示す。
図3】腫瘍位置で一定の物理的線量になるように設定された陽子線の実際の生物効果(生物線量(RBE)と呼ぶ)を示す。
図4】実施例における、陽子線の照射点を示す。
図5】実施例においてコロニー形成法から得られた生存曲線を示す。
図6】実施例において得られたECyd併用による線量分布の改善の状況を示す。
図7】実施例において得られたECydの併用によるSOBP中心におけるプラトー位置に対する線量比の向上の状況を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<陽子線治療用増感剤>
本発明は、陽子線治療に用いる増感剤(陽子線治療用増感剤)に関する。
本発明の陽子線治療用増感剤は、照射陽子線の複数のブラッグピークの重ね合わせ(SOBP)内で均一物理線量の陽子線を照射して行われる悪性腫瘍の治療において、SOBP内での生物線量(RBE)を調整するために用いられる。有効成分は、RNA合成阻害剤である。陽子線治療およびSOBP内でのRBEの調整については後述する。
【0015】
本発明の陽子線治療用増感剤に有効成分として用いるRNA合成阻害剤は、細胞内においてRNAポリメラーゼによるRNA合成を阻害する作用を有する物質である。細胞内においてRNAポリメラーゼによるRNA合成を阻害する作用を有する物質であれば、本発明におけるRNA合成阻害剤として特に制限なく利用できる。
【0016】
RNA合成阻害剤は、例えば、DNA二本鎖切断に対する細胞の相同組換え修復能阻害剤であることができる。相同組換え修復能阻害剤として、例えば、3'-置換ヌクレオシド誘導体が知られている(WO96/18636、WO97/43295、特開2000-154197参照)。本発明では、これらの公報に記載の3'-置換ヌクレオシド誘導体をRNA合成阻害剤として用いることができ、3'-置換ヌクレオシド誘導体は、例えば、下記一般式で表される化合物である。
【0017】
【化5】
式中、Bは置換基を有してもよい核酸塩基を示し、Zはトリアルキルシリル基で置換されてもよいエチニル基を示す。核酸塩基としては、シトシン、チミン、ウラシル等のピリミジン塩基、アデニン、グアニン等のプリン塩基を挙げることができる。核酸塩基Bが有することができる置換基としてはハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数1〜6の低級アルキル基、アシル基、炭素数1〜6の低級アルコキシカルボニル基、炭素数1〜6の低級アルケニルオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基等を挙げることができる。Zで示されるトリアルキルシリル基が有するアルキル基は、炭素数1〜6の低級アルキル基である。
【0018】
3'-置換ヌクレオシド誘導体の具体例としては、
1-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)シトシン、
1-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)-5-フルオロシトシン、
1-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)ウラシル、
3-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)ウラシル、
1-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)-5-フルオロウラシル、
9-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)アデニン、
9-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)グアニン、
を挙げることができる。
【0019】
核酸塩基がシトシンである1-(3-C-エチニル-β-D-リボフラノシル)シトシンは、以下の式で示され、以下ECydと略記されることがある。
【化6】
【0020】
これら3'-置換ヌクレオシド誘導体の製造方法は、WO96/18636、WO97/43295、特開2000-154197に記載されている。
【0021】
<陽子線治療方法>
本発明は、RNA合成阻害剤を有効成分とする前記本発明の治療増感剤を用いる陽子線治療方法を包含する。本発明の陽子線治療方法は、前記RNA合成阻害剤を有効成分とする治療増感剤を投与した患部に、SOBP内で均一物理線量の陽子線を照射することを含む。
【0022】
SOBP内で均一物理線量の陽子線を照射する方法自体は、公知の方法である。本発明において陽子線治療対象の患部は、悪性腫瘍であり、悪性腫瘍としては、例えば、前立腺がん、脳腫瘍、頭頚部がん、食道がん、肺がん、肝臓がん、膵がんなどの固形がんが主な陽子線治療対象である。
【0023】
治療増感剤の患部への投与は、例えば、24時間かけてECydを静脈内に投与することにより行うことができる。投与量は、血液、尿及び身体的、神経的検査を定期的に観察し、異常値が検出されないことを持って決定することができ、1.0〜10.0 mg/m2の範囲、好ましくは2.0 mg/m2〜6.85 mg/m2の範囲とすることが適当である。
【0024】
SOBPは、患部の位置にもよるが、例えば、表皮から約20〜400mmの範囲、より好ましくは約50〜300mmであることができる。
【0025】
本発明の治療増感剤を用いると図6(ECyd存在下におけるRBE×物理線量の結果)に示すように、SOBP内でのRBEを調整する効果、より具体的にはSOBP内でのRBEをより一定にする効果があると共に、SOBP内の表皮に近い側のRBEを高める効果がある。このSOBP内の表皮に近い側のRBEを高める効果は、治療増感剤の種類、投与量、SOBPの条件等により変化するが、このRBEを高める効果を考慮して、本発明の方法では、陽子線の物理線量を治療増感剤不使用ときの、95%以下、好ましくは90%以下とすることができる。陽子線の物理線量を低減することで、患部周辺に存在する重要臓器に対する陽子線によるダメージを低減することが可能である。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0027】
<細胞株>
細胞にはチャイニーズハムスター肺線維芽細胞(V79)を使用した。V79は、陽子線の生物学的効果を評価するために、これまでに多くの研究で使用されている。細胞は、10%のfetal bovine serum(BioWest, Nuaille, France)が添加されたα-MEM(Life Technologies, Carlsbad, CA)培地を用いて、37℃、5% CO2の条件で培養された。
【0028】
<照射>
照射の6時間前に、1.6×106個の細胞をchamber slide flask(Lab-TekTM SlideFlask 170920, Thermo Scientific/Nunc, Penfield, NY)に播種した。照射の1時間前に、フラスコ内を培地、または0.4μMのECydが含まれた培地で満たした。
【0029】
陽子線照射は、北海道大学陽子線治療センターのProBeat RTを用いて行われた。Spread out Bragg peak(SOBP)幅は6cmとし、照射野は10×10cm2とした。照射点は、(1)位置A:入射点から5mm深、(2)位置B:SOBPの線量と比較してproximal側の95%の位置、(3)位置C:SOBP中心、(4)位置D:SOBPの線量と比較してdistal側の95%の位置の4箇所とした(図4参照)。
【0030】
コロニー形成法
照射後、即座に細胞をトリプシン処理により、スライドフラスコから回収した。細胞数をカウントし、6cmのディッシュに100個程度のコロニーを形成するように適当数播種した。7日間のインキュベーション後、コロニー(50個以上の細胞群)がカウントされた。
【0031】
各線量での生存率は、照射されなかったコントロールの集落形成率(plating efficiency)を用いて計算され、各物理線量上にプロットされた。コロニー形成法から得られた生存曲線を図5に示す。生存曲線 SF = EXP(-αD-βD2)(SFは生存率であり、Dは、物理線量)は線形二次(LQ)モデルに適合された。D10(それぞれ、10%まで生存率を減少させるために必要な線量)において、relative biological effectiveness(RBE)とsensitizer effective ratio(SER)の値は評価された。各実験は3回ずつ行われた。SERを表1に示し、RBEを表2に示す。表1に示すSERの結果から分かるように、C点ではD点に比べ顕著な陽子線増加効果が得られた。表2に示すRBEの結果から分かるように、C点でのRBEは顕著な上昇を示したのに対して、D点でのRBEはほとんど変化は無かった。
【0032】
【表1】
*D10:生存率が10%まで減少する線量で比較
【0033】
【表2】
*D10:生存率が10%まで減少する線量で比較
基準となるX線でのD10は8.91Gy
【0034】
ECyd併用による線量分布の改善の状況を図6に示す。
ECydの効果により標的内での生物線量(RBE×物理線量)が平坦となり、均一な治療効果が期待される。陽子線の物理的線量分布の特徴は維持されたまま、SOBP中心におけるプラトー位置に対する線量比が大きくなるので、より標的に対しての線量を集中させる事が可能であると考えられる。
【0035】
ECydの併用によるSOBP中心におけるプラトー位置に対する線量比の向上の状況を図7に示す。前記線量比は改善し、腫瘍に対しての高線量を集中させながら、腫瘍の手前や奥側の正常組織を守る事が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、陽子線治療に関連する分野に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7