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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-127799(P2017-127799A)
(43)【公開日】2017年7月27日
(54)【発明の名称】コアシェル構造型ナノシート
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/46 20060101AFI20170630BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20170630BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20170630BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20170630BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20170630BHJP
【FI】
   B01J23/46 301M
   H01M4/86 M
   H01M4/92
   B01J35/02 311B
   H01M8/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-7531(P2016-7531)
(22)【出願日】2016年1月19日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、固体高分子形燃料電池利用高度化技術開発事業/普及拡大基盤技術開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
【住所又は居所】長野県松本市旭三丁目1番1号
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】杉本 渉
【住所又は居所】長野県上田市常田三丁目15番1号 国立大学法人信州大学繊維学部内
(72)【発明者】
【氏名】望月 大
【住所又は居所】長野県上田市常田三丁目15番1号 国立大学法人信州大学繊維学部内
(72)【発明者】
【氏名】綾戸 勇輔
【住所又は居所】長野県上田市常田三丁目15番1号 国立大学法人信州大学繊維学部内
(72)【発明者】
【氏名】大西 智弘
【住所又は居所】長野県上田市常田三丁目15番1号 国立大学法人信州大学繊維学部内
(72)【発明者】
【氏名】滝本 大裕
【住所又は居所】長野県上田市常田三丁目15番1号 国立大学法人信州大学繊維学部内
【テーマコード(参考)】
4G169
5H018
5H026
5H126
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA01C
4G169BA02C
4G169BA08B
4G169BA17
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BB04C
4G169BB05C
4G169BB06C
4G169BB08C
4G169BB09C
4G169BB10C
4G169BB20C
4G169BC02C
4G169BC03C
4G169BC31C
4G169BC50A
4G169BC54A
4G169BC55A
4G169BC59A
4G169BC62A
4G169BC67A
4G169BC68A
4G169BC70A
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4G169BC74A
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169BD01C
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4G169EC27
4G169EE06
4G169EE07
4G169FA05
4G169FB06
4G169FB14
4G169FB21
4G169FB27
4G169FB30
4G169FB44
4G169FB45
4G169FB49
4G169FB58
4G169FB66
4G169FC02
5H018AA06
5H018AS02
5H018AS03
5H018EE02
5H018EE03
5H026AA06
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】新規なコアシェル構造型ナノシートを提供するとともに、燃料電池の電極触媒として用いた場合、触媒活性を向上するとともに触媒性能の低下を抑制できるコアシェル構造型ナノシートを提供する。
【解決手段】金属ナノシート1と、その金属ナノシート1の表面に設けられた白金原子層2とを有するコアシェル構造型ナノシート10により上記課題を解決する。このコアシェル構造型ナノシート10において、白金原子層2は金属ナノシート1の表面の全部に設けられていることが好ましい。また、このコアシェル構造型ナノシート10は、燃料電池等のカソード触媒又はアノード触媒として用いることができる。なお、金属ナノシート1は、厚さが0.2nm以上0.3nmの範囲内であり、面内方向の長さが数十nm以上数μm以下の範囲内であることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノシートと、当該金属ナノシートの表面に設けられた白金原子層とを有することを特徴とするコアシェル構造型ナノシート。
【請求項2】
前記白金原子層が、前記金属ナノシートの表面の全部に設けられている、請求項1に記載にコアシェル構造型ナノシート。
【請求項3】
電極触媒として用いられる、請求項1又は2に記載のコアシェル構造型ナノシート。
【請求項4】
前記電極触媒が、カソード触媒又はアノード触媒である、請求項3に記載のコアシェル構造型ナノシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアシェル構造型ナノシートに関する。さらに詳しくは、金属ナノシートをコアとし、白金をシェルとしたコアシェル構造型ナノシートに関するものであり、例えば固体高分子形燃料電池等の電極触媒への適用が可能である。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池の本格普及には、電極触媒の高性能化が求められている。現在の実用的な触媒性能を示すものとしては、Ptナノ粒子をカーボンに担持したPtナノ粒子/C触媒が知られている。
【0003】
しかし、Ptナノ粒子/C触媒は、高価で資源量の少ない白金をナノ粒子として使用しているため、白金使用量の削減が検討課題とされている。その解決手段の一例として、PtCo合金ナノ粒子をカーボンに担持したPtCoナノ粒子/C触媒が提案されている。また、他の例として、AuやRuのナノ粒子をコアとし、その表面にPt原子層が設けられたコアシェル構造をカーボンに担持した電極触媒が提案されている(特許文献1及び非特許文献1参照)。
【0004】
Auナノ粒子の表面にPt原子層を設けたコアシェル構造をカーボンに担持した電極触媒は、Pt量を少なくでき、さらに表面積を増大できるため、Ptの質量あたりの触媒活性を向上させ、Pt量の削減を図ることができるとされている。さらに、その電極触媒は、Auナノ粒子をコアとしているので、安定であるという利点もある。なお、この電極触媒において、Auナノ粒子の表面にPt原子層を設ける手段としては、電気化学反応による銅の単原子層析出法(Cu−UPD法)が適用されている。
【0005】
また、Ruナノ粒子の表面にPt原子層を1〜3モノレイヤーで設けたコアシェル触媒は、Pt/C触媒と比較して3〜5倍程度高い酸素還元反応活性を有することが報告されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−212666号公報
【特許文献2】特開2010−280977号公報
【特許文献3】特開2010−188549号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】L.Yang, M.B.Vukmirovic, D.Su, K.Sasaki, J.A.Herron, M.Mavrikakis, S.Liao, R.R.Adzic, J.Phys.Chem., C2013, 117(4), 1748‐1753.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来提案されているPtナノ粒子やPtCoナノ粒子を用いた電極触媒は、ナノ粒子の直径が約3nm程度であり、そのナノ粒子はおよそ600個程度の原子で構成されていると考えられる。そのため、ナノ粒子の構成原子のうち、粒子表面に露出している原子数の割合は50%程度であり、反応に寄与できないナノ粒子内部の原子が無駄になっている。
【0009】
特許文献1及び非特許文献1で提案された電極触媒は、Ptナノ粒子の代わりにAuやRuのナノ粒子を採用し、そのナノ粒子の表面にPt原子層を設けている。そのため、粒子内部のPt原子が無駄にならないという利点があることから、Ptの質量あたりの触媒活性を向上させることができるとともに、高価なPt量の削減を図ることができるという利点がある。しかしながら、この電極触媒は、コア粒子として、Ptナノ粒子と同様の高価なAuやRuのナノ粒子を採用している。さらに、ナノ粒子を利用した電極触媒は、燃料電池の作動中に、そのナノ粒子が凝集及び/又は粒子成長し、触媒性能が低下するおそれがある。
【0010】
本発明者は、燃料電池の電極触媒の触媒活性のさらなる向上と、ナノ粒子触媒のような凝集や粒子成長に基づく触媒性能の低下の抑制とを検討している過程で、新規なコアシェル構造型のナノシートを開発した。
【0011】
本発明の目的は、新規なコアシェル構造型ナノシートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るコアシェル構造型ナノシートは、金属ナノシートと、当該金属ナノシートの表面に設けられた白金原子層とを有することを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、金属ナノシートの表面に白金原子層が設けられているので、(1)従来のナノ粒子を用いた場合とは異なり、反応に寄与できない無駄な原子を極力少なくすることができる。また、(2)白金原子層が金属ナノシートの表面に設けられているので、例えば触媒として利用した場合、白金の質量あたりの触媒活性を向上させることができるとともに、高価な白金の削減を図ることができる。また、(3)ナノシート構造であるので、従来のナノ粒子を利用した場合とは異なり、ナノ粒子の凝集及び/又は粒子成長が起こりにくく、例えば触媒として利用した場合、その触媒性能の低下を抑制できる。
【0014】
本発明に係るコアシェル構造型ナノシートにおいて、前記白金原子層が、前記金属ナノシートの表面の全部に設けられているように構成できる。この発明によれば、白金原子層が金属ナノシートの表面の全部に設けられているので、例えば触媒として利用した場合、白金原子層がない低活性部分を極力低減できる。
【0015】
本発明に係るコアシェル構造型ナノシートにおいて、電極触媒として用いることが好ましい。この発明によれば、燃料電池等の電極触媒として用いるので、電極触媒(例えば固体高分子形燃料電池用電極触媒等)の触媒活性のさらなる向上と、ナノ粒子触媒のような凝集や粒子成長に基づく触媒性能の低下の抑制とを実現することができる。
【0016】
本発明に係るコアシェル構造型ナノシートにおいて、前記電極触媒は、カソード触媒又はアノード触媒に用いることができる。この発明によれば、カソード触媒として用いた場合においては、酸素還元活性をより高めることができるとともに、触媒性能の低下を抑制することができる。また、アノード触媒として用いた場合においては、一酸化炭素被毒耐性(CO被毒耐性)及び耐久性をより高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来にない新規なコアシェル構造型ナノシートを提供することができた。
【0018】
また、本発明に係るコアシェル構造型ナノシートによれば、(1)従来のナノ粒子を用いた場合とは異なり、反応に寄与できない無駄な原子を極力少なくすることができ、また、(2)例えば触媒として利用した場合、白金の質量あたりの触媒活性を向上させることができるとともに、高価な白金の使用量の削減を図ることができ、また、(3)ナノ粒子の凝集及び/又は粒子成長が起こりにくいので、例えば触媒として利用した場合、その触媒性能の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係るコアシェル構造型ナノシートを説明する模式図である。
図2】UPD−白金置換法による白金原子層の形成ステップを説明する模式図である。
図3】(A)は金属ルテニウムナノシートをカーボンに担持した電極触媒の透過型電子顕微鏡像であり、(B)は金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒の透過型電子顕微鏡像であり、(C)は金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:4回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒の透過型電子顕微鏡像である。
図4】UPD−白金置換法による白金原子層の形成ステップの繰り返し回数(1回〜5回)と、それぞれで得られた金属ルテニウムナノシートコア/白金シェルからなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒における電気化学的活性表面積(ECSA)との関係を示すグラフである。
図5】(a)はPtナノ粒子をカーボンに担持した電極触媒について、白金量で割付けたCOストリッピングボルタモグラムであり、(b)は白金ルテニウムナノ粒子をカーボンに担持した電極触媒について、PtRu量で割付けたCOストリッピングボルタモグラムであり、(c)は金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒について、PtRu量で割付けたCOストリッピングボルタモグラムである。
図6】(a)は金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒について、PtRu量で割付けた水素中でのリニアスイープボルタモグラムであり、(b)は白金ルテニウムナノ粒子をカーボンに担持した電極触媒について、PtRu量で割付けた水素中でのストリッピングボルタモグラムである。
図7】(a)は金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒について、PtRu量で割付けた300ppmCO/H中でのクロノアンペログラムであり、(b)は白金ルテニウムナノ粒子をカーボンに担持した電極触媒について、PtRu量で割付けた300ppmCO/H中でのクロノアンペログラムである。
図8】(a)は金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒について、PtRu量で割付けた300ppmCO/H中での水素酸化反応活性と1000サイクル後の耐久試験(0.05〜0.4V vs.RHE(各3秒保持))後の水素酸化反応活性であり、(b)は白金ルテニウムナノ粒子をカーボンに担持した電極触媒について、PtRu量で割付けた300ppmCO/H中での水素酸化活性と1000サイクル後の耐久試験(0.05〜0.4V vs.RHE(各3秒保持))後の水素酸化反応活性である。
図9】(a)はPtナノ粒子をカーボンに担持した電極触媒について、白金量で割付けたORR活性のグラフであり、(b)は金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:4回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒において、白金量で割付けたORR活性のグラフであり、(c)は金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:5回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒において、白金量で割付けたORR活性のグラフである。
図10】(a)はPtナノ粒子をカーボンに担持した電極触媒について、初期ECSAで規格化したときのECSA減少率のプロットであり、(b)は金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:4回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒において、初期ECSAで規格化したときのECSA減少率のプロットであり、(c)は金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:5回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒において、初期ECSAで規格化したときのECSA減少率のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るコアシェル構造型ナノシートについて詳しく説明する。なお、本発明の範囲は、以下の実施形態及び実施例等の記載内容のみに限定されない。
【0021】
[コアシェル構造型ナノシート]
本発明は、新規なコアシェル構造型ナノシート10であり、そのコアシェル構造型ナノシート10は、図1に示すように、金属ナノシート1と、その金属ナノシート1の表面に設けられた白金原子層2とを有する。白金原子層2は、図2に示すように、アンダーポテンシャル析出法−白金置換法(本願では「UPD−白金置換法」と略す。)で形成され、その形成ステップの繰り返し回数により、単原子層が積層されて形成されている。
【0022】
こうしたコアシェル構造型ナノシート10は、金属ナノシート1の表面に白金原子層2を有するので、(1)従来のナノ粒子を用いた場合とは異なり、反応に寄与できない無駄な原子を極力少なくすることができる。また、(2)白金原子層2が金属ナノシート1の表面に設けられているので、例えば触媒として利用した場合、白金の質量あたりの触媒活性を向上させることができるとともに、高価な白金の使用量の削減を図ることができる。また、(3)ナノシート構造であるので、従来のナノ粒子を利用した場合とは異なり、ナノ粒子の凝集及び/又は粒子成長が起こりにくいので、例えば触媒として利用した場合、その触媒性能の低下を抑制できる。
【0023】
以下、コアシェル構造型ナノシートの構成要素について説明する。
【0024】
(金属ナノシート)
金属ナノシート1は、鱗片形状のシート状物質であり、その厚さは、理論的には約0.2nm〜0.3nmであり、実測ではnmオーダー〜サブnmオーダーである。こうした厚さは、金属ナノシート1が単原子層で形成されているか、単原子層の積層体で構成されているかで異なり、いずれの金属ナノシート1とするかは、その構成材料の種類、作製のし易さ、特性(例えば触媒特性)等で任意に選択される。また、金属ナノシート1の面内方向の最大長さは、数百nm〜μmオーダーであり、その最大長さの中間点を直交する長さも数百〜μmオーダーである。こうした金属ナノシート1は極めて薄いことから、従来のナノ粒子を用いた場合とは異なり、シート材料にかかわらず、反応に寄与できない無駄な原子を極力少なくすることができる。
【0025】
金属ナノシート1の構成材料としては、ルテニウム、イリジウム、チタン、ニオブ、バナジウム、マンガン、ニッケル、コバルト、モリブデン等を挙げることができる。上記した厚さや面内方向の寸法は、金属ナノシート1の構成材料の種類によって異なるが、その変化要因は、金属ナノシートの前駆体となる金属化合物ナノシートの構成要素に基づくものである。なお、後述する実施例では、ルテニウムからなる金属ナノシート1を有するコアシェル構造型ナノシートを作製し、そのコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒を作製して触媒特性を評価しているが、金属ナノシート1の構成材料は、ルテニウムに限定されず、ルテニウムと同様に上記した各種の構成材料を用いて作製することができる。特に、本発明に係るコアシェル構造型ナノシートは、金属ナノシート1の表面に触媒として寄与する白金原子層を有するので、金属ナノシート自体に触媒性能が無くてもよいという利点がある。
【0026】
金属ナノシート1をカーボンに担持させて電極触媒とすれば、高い性能を有する電極触媒、具体的には固体高分子形燃料電池用電極触媒の耐久性をより向上させることができる。その結果、この金属ナノシート1を用いて電極触媒を構成すれば、相対的に白金の使用量を低減させることができる。
【0027】
(金属ナノシートの作製方法)
金属ナノシート1は、本出願人が既に出願した上記特許文献2に記載の方法で製造することができる。すなわち、金属ナノシート1は、金属化合物が層状に重なる層状金属化合物を準備する工程(準備工程)と、前記層状金属化合物を剥離し、金属化合物ナノシートを得る工程(剥離工程)と、前記金属化合物ナノシートを還元して金属ナノシートを得る工程(還元工程)と、を有する方法で製造することができる。この製造方法は、層状金属化合物を剥離した金属化合物ナノシートを還元することにより、層状金属化合物を前駆体とする金属ナノシート1を製造する技術であり、上記した各種の構成金属からなる金属ナノシートを製造することができる。
【0028】
準備工程は、金属化合物が層状に重なる層状金属化合物を準備する工程である。この準備工程で準備される層状金属化合物としては、例えば、ルテニウム、イリジウム、チタン、ニオブ、バナジウム、マンガン、ニッケル、コバルト、モリブデン等の金属の硫化物、金属酸化物、金属水酸化物又はこれらの複合化合物からなる層状金属化合物である。また、層状金属化合物としては、ケイ素化合物やアルミニウム化合物等の粘土鉱物成分を含む層状金属化合物であってもよい。
【0029】
層状金属化合物は、固相反応法、均一沈殿法、フラックス法を用いた合成法等の各種の方法によって得ることができる。一例として層状酸化ルテニウムを挙げれば、後述の実施例では、酸化ルテニウムと炭酸カリウムとを所定量秤り取った後に湿式混合し、次に混合粉末をペレット化した後、そのペレットを焼成し、次に、焼成後のペレットを粉砕し、次に、洗浄して、K型層状酸化ルテニウムを得て、さらにそのK型層状酸化ルテニウムを酸処理し、洗浄し、ろ過して、K誘導型の水素型層状酸化ルテニウムを得ている。なお、層状金属化合物を作製できれば、その作製工程は適宜変更可能である。
【0030】
準備された層状金属化合物は、剥離工程の後に還元され、単層又は複数層の金属ナノシートになる。
【0031】
剥離は、層状の金属化合物又は層状の金属ナノシートの層間に、異種イオン又は溶媒分子を侵入させて層間を広げる無限膨潤化処理を利用すればよい。
【0032】
還元工程は、金属化合物ナノシートを還元し、層状金属化合物を前駆体とする金属ナノシートを得る工程である。
【0033】
剥離工程によって単層又は複数層に剥離された金属化合物ナノシートを還元することにより、単層又は複数層の金属ナノシート1が得られる。なお、複数層の金属ナノシート1は、そのまま用いてもよいが、その後にさらに剥離して単層の金属ナノシート1としてもよい。
【0034】
還元工程での還元は、乾式処理又は湿式処理で行うことができる。乾式処理としては、水素を含む還元性雰囲気下での熱処理を挙げることができる。一方、湿式処理としては、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)等の還元性溶液への浸漬処理を挙げることができる。
【0035】
金属ナノシート1は、上記したように、単層の金属ナノシート1でもよいし、複数層の金属ナノシート1でもよい。複数層の金属ナノシート1は、例えば特許文献3に示した自己組織的な薄膜形成を経由しても得ることができるが、その特許文献3に記載の方法に限定されるものではない。
【0036】
自己組織的な薄膜形成を経由した方法の一例としては、例えば基材表面上にカチオン性ポリマー(ポリカチオン)からなる正電荷層を形成した後、正電荷層に自己組織化反応によって、酸化ルテニウム(RuO2)ナノシート(アニオン性のナノシート/金属酸化物ナノシート)を吸着させてナノシートとポリマーとの複合薄膜を形成する。この複合薄膜である酸化ルテニウムナノシートは、厚さが2nm以下で横サイズがサブμmから数mmの範囲でナノシートが部分的に重なり合ってナノシート層の一層分が形成されているというものである。
【0037】
こうした作製方法により、単層又は複数層の金属ナノシート1を得ることができる。その結果、単原子層相当の厚さオーダーの極めて薄い金属ナノシート1を得ることもできるし、複数積層された数原子層相当の厚さオーダーの厚さの金属ナノシート1を得ることもできる。
【0038】
(白金原子層)
白金原子層2は、図1に示すように、金属ナノシート1の表面の全部又は一部に設けられている。特に、金属ナノシート1の表面の全部に設けられていることが好ましい。なお、「全部に設けられている」とは、白金原子層2が金属ナノシート1の表面を全て覆っているという意味である。白金原子層2が金属ナノシート1の表面の全部に設けられている場合には、例えば触媒として利用した場合、白金原子層2がない低活性な部分を極力低減できるという利点がある。
【0039】
白金原子層2は、単原子層として設けられていてもよいし、単原子層が積み重なった形態(単原子層積層体)で設けられていてもよい。白金原子層2が単原子層として設けられている場合はもちろん、単原子層が積み重なって設けられている場合においても、白金原子層は薄い層として設けられている。その結果、例えば白金を触媒材料として用いる場合、従来のPtナノ粒子を触媒材料として用いる場合とは異なり、反応に寄与できない粒子内部の無駄な白金を極力少なくすることができ、白金の質量あたりの触媒活性を向上させることができる。こうしたことは、高価な白金の使用量の削減につながるという利点もある。
【0040】
また、本発明では、白金原子層2をナノ粒子表面に設けているのではなく、金属ナノシート1の表面に設けているので、従来のナノ粒子を利用した場合とは異なり、ナノ粒子の凝集及び/又は粒子成長が起こりにくい。その結果、例えば触媒として利用した場合、その触媒性能の低下を抑制できるという格別の効果がある。
【0041】
(白金原子層の形成方法)
白金原子層2は、金属ナノシート1の表面に形成される。白金原子層2の形成方法としては、特に限定されず、種々の析出方法で形成可能である。金属ナノシート1の表面への白金原子層2の析出方法としては、アンダーポテンシャル析出法(以下、「UPD−白金置換法」と略す。)を挙げることができるが、鉛や水素を用いた析出法であってもよいし、それ以外の析出法であってもよい。以下では、UPD−白金置換法で白金原子層を形成する場合を例にして説明する。
【0042】
図2は、UPD−白金置換法で白金原子層を形成するステップの模式的な説明図である。このUPD−白金置換法は、金属の表面を銅の単原子層で被覆し、その後、塩化白金酸イオンが存在する塩酸溶液に浸漬して、銅と白金とを置換させ、白金の単原子層を形成するという方法である。
【0043】
このUPD−白金置換法を利用して金属ナノシート1の表面に白金原子層2を形成する方法としては、先ず、金属ナノシート1をカーボンに担持させたものを電極に担持させ、この電極を銅イオンを含む溶液中で電位をかけた状態で保持することにより、図2(A)(B)に示すように、金属ナノシート上に銅の単原子層をアンダーポテンシャル析出させ、その後、図2(C)に示すように、塩化白金酸溶液に浸漬して銅原子を白金原子に置換する。こうして、図2(D)に示すように、白金の単原子層が形成された金属ナノシート1が形成される。
【0044】
さらに、この方法を繰り返すことにより、図2(E)(F)に示すように、単原子層を積層することができる。図2(E)は、UPD−白金置換法を2回適用した場合であり、図2(F)はUPD−白金置換法を3回適用した場合である。このように、UPD−白金置換法は複数回繰り返して行うことができ、その結果、白金原子層の厚さを厚くすることができる。特に2回以上繰り返すことにより、金属ナノシート1の表面全体を白金原子層が覆うことができるので、例えば触媒として利用した場合、白金原子層2がない低活性な部分を極力低減できるという利点がある。
【0045】
白金原子層2は、上記したUPD−白金置換法で形成してもよいが、白金原子層を単原子層レベルで設けたり単原子層の積層形態で設けたりする他の方法で形成してもよい。そうした他の方法としては、特許文献1に記載の方法で白金原子層を設けてもよい。例えば、金属ナノシートを担持させたカーボン担体を用意し、これを水中に加え、超音波処理を行って担体を水中で分散させた後、金属ナノシートを被覆するのに十分な量の白金錯体(二価又は四価)を添加し、不活性雰囲気下で所定時間攪拌する。その後、遠心分離と超純水による洗浄を行い、その後乾燥して、金属ナノシートの表面に白金原子層2を形成する。
【0046】
このときの白金錯体溶液としては、二価白金イオン又は四価白金イオンを含む溶液が用いられ、例えば、テトラクロロ白金(II)酸の水溶液、テトラクロロ白金(II)酸カリウムの水溶液、ジアンミンジクロロ白金(II)の水溶液、ジアンミンジニトロ白金(II)の水溶液、テトラアンミン白金(II)塩化物(一水和物)の水溶液、ヘキサクロロ白金(IV)酸の水溶液、ヘキサクロロ白金(IV)酸カリウムの水溶液等を挙げることができる。また、これらの白金イオンは、陰イオン錯体、陽イオン錯体、非イオン錯体のいずれの状態で溶液中に存在していてもよい。
【0047】
白金原子層2の厚さは、単原子層とするか、単原子層の積層体とするかで異なるが、例えば、0.3nm以上、1.0nm以下の範囲内であることが好ましい。白金原子層2の厚さが0.3nm未満では、白金原子層2が金属ナノシート1の表面の全てを覆うことが難しくなり、例えば触媒として利用した場合、白金原子層2がない低活性な部分が増す。一方、白金原子層2の厚さが1.0nmを超えると、白金原子層2が厚くなり、例えば触媒として利用した場合、触媒として機能しない白金原子が相対的に増すことになり、白金の質量あたりの触媒活性が低下するとともに、高価な白金の使用量の削減を図ることができない。
【0048】
(コアシェル構造型ナノシート)
本発明に係るコアシェル構造型ナノシート10は、燃料電池の電極触媒として用いることが好ましい。燃料電池の電極触媒として用いた場合、燃料電池の電極触媒(特に固体高分子形燃料電池用電極触媒)の触媒活性のさらなる向上と、ナノ粒子触媒のような凝集や粒子成長に基づく触媒性能の低下の抑制とを実現することができる。
【0049】
特に、カソード触媒又はアノード触媒に用いることができ、カソード触媒として用いた場合においては、酸素還元活性をより高めることができるとともに、触媒性能の低下を抑制することができる。また、アノード触媒として用いた場合においては、一酸化炭素被毒耐性(CO被毒耐性)及び耐久性をより高めることができる。
【0050】
こうした電極触媒とするためには、コアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した形態である必要がある。このときの担体としては、各種のカーボンを用いることができ、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン等を挙げることができる。カーボンの大きさは、金属ルテニウムナノシートの大きさとの関係で任意に選択することができる。
【0051】
以上説明したように、本発明では、従来にない新規なコアシェル構造型ナノシート10を提供した。そして、そのコアシェル構造型ナノシート10は、反応に寄与できない無駄な原子を極力少なくすることができ、また、白金の質量あたりの触媒活性を向上させることができるとともに、高価な白金の低減を図ることができ、また、例えば触媒として利用した場合、その触媒性能の低下を抑制できるという格別の効果を奏する。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を具体的に説明する。以下の実験例では、金属ルテニウムナノシートの表面に白金原子層を設けた「金属ルテニウムナノシートコア/白金シェルからなるコアシェル構造型ナノシート」を例にして説明するが、以下のものに限定されず、金属ナノシートコア/白金シェルからなるコアシェル構造型ナノシートであれば、金属ナノシートの種類も金属ルテニウムナノシートに限定されない。
【0053】
[実験例1]
最初に、酸化ルテニウムナノシートを作製し、その後、酸化ルテニウムナノシートコロイドを用いて酸化ルテニウムナノシートをカーボンに担持させ、その後、還元して金属ルテニウムナノシート/カーボン担体とし、最後に、金属ルテニウムナノシートの表面に白金原子層を設けて、「金属ルテニウムナノシートコア/白金シェルからなるコアシェル構造型ナノシート」を作製した。以下、順に説明する。
【0054】
<酸化ルテニウムナノシートの作製>
最初に、酸化ルテニウムナノシートを得るための層状酸化ルテニウムを作製した。層状酸化ルテニウムは、酸化ルテニウムとアルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)との複合酸化物であり、中でもK0.2RuO2.1・nH2O、及びNa0.2RuO2・nH2Oは、イオン交換能を利用することで層一枚単位にまで層剥離することが可能であるので、これにより酸化ルテニウムナノシートを得ることができる。
【0055】
具体的には、先ず、酸化ルテニウム(RuO2)と炭酸カリウム(K2CO3)とをモル比8:5の割合となるように量り取り、メノウ乳鉢を用いてアセトン中で1時間湿式混合した。その後、錠剤成形器を用いて混合粉末をペレット化した。このペレットをアルミナボートにのせ、管状炉にてアルゴン流通下で850℃、12時間焼成した。焼成後、ペレットを粉砕し、イオン交換蒸留水で洗浄し、上澄み液を取り除いた。この操作を上澄み液が中性になるまで繰り返したものを層状酸化ルテニウム(カリウム型)とした。
【0056】
次に、層状酸化ルテニウム(カリウム型)に1MのHClを加え、60℃のウォーターバス内で72時間酸処理をして、層状酸化ルテニウム(カリウム型)に含まれるKイオンを水素イオン(プロトン)に置換した。その後、イオン交換蒸留水で洗浄し上澄み液を取り除いた。この操作を上澄み液が中性になるまで繰り返し、ろ過後に、層状酸化ルテニウム(水素型:H0.2RuO2.1)の粉末を得た。
【0057】
<酸化ルテニウムナノシートコロイドの調製>
次に、得られた層状酸化ルテニウム(水素型:H0.2RuO2.1)に、酸化ルテニウムナノシートを得る剥離剤としての10%TBAOH水溶液を加えた。層状酸化ルテニウム(水素型:H0.2RuO2.1)の濃度を、TBAOHとプロトンとの割合で、TBA/H=1.5、固液比=4g/Lとした。その後、層状酸化ルテニウム(水素型:H0.2RuO2.1)を蒸留水に加え、10日間振とうさせた。この方法で単層剥離させた酸化ルテニウムナノシートを2000rpmで30分間遠心分離した後、上澄み液を回収して、超純水にて濃度を10mg/mLとした酸化ルテニウムナノシートコロイドを得た。
【0058】
コロイド中の酸化ルテニウムナノシートの寸法は以下のようにして測定した。先ず、シリコンウエハを1質量%ポリビニルアルコール−ポリジアリルアミン共重合ポリマー水溶液中に10分間浸漬した後、水で数回洗浄し、乾燥した。次に、10mg/mLとした酸化ルテニウムナノシートコロイドを希釈して0.08mg/mLの酸化ルテニウムナノシート水分散液とし、この水分散液に2分浸漬した後、水で数回洗浄し、乾燥した。酸化ルテニウムナノシートの寸法は、原子間力顕微鏡(AFM)像の観察画像から測定した。具体的には、鱗片形状の酸化ルテニウムナノシートについて、最大長さとその最大長さの中点で直交する長さとを測定し、それらの平均を出して「寸法」とした。これを70〜80箇所繰り返した。その結果、酸化ルテニウムナノシートの寸法は、150nm以550nm以下の酸化ルテニウムナノシートが全体の70%以上であり且つモード径が200nm以上450nm以下であった。
【0059】
<金属ルテニウムナノシート/カーボン担体の作製>
次に、酸化ルテニウムナノシートコロイドを用いて酸化ルテニウムナノシートをカーボン担体に担持させ、その後、酸化ルテニウムナノシートを還元して、金属ルテニウムナノシートが担持したカーボン担体を作製した。
【0060】
具体的には、先ず、酸化ルテニウムナノシートを高比表面積カーボンと組み合わせるために、10mg/mLとなるようにカーボンを超純水15mL中に加え、撹拌を30分間及び超音波処理を30分間行って分散させて、カーボン分散溶液を得た。次に、このカーボン分散溶液に、酸化ルテニウムナノシートが10質量%でカーボン担体に担持するように、任意量の酸化ルテニウムナノシートコロイドを撹拌しながらゆっくり滴下した。酸化ルテニウムナノシートコロイドの濃度は任意に調整できるが、ここでは上記のように10mg/mLとした。さらに、均一な反応を確保するために、撹拌、超音波処理、60℃での静置、デカンテーション(中性になるまで水洗浄)を順に行った後、120℃で12時間乾燥させ、その後に粉砕して、「酸化ルテニウムナノシート/カーボン担体」を得た。得られた「酸化ルテニウムナノシート/カーボン担体」をアルミナボートに載せ、管状炉にて水素と窒素との還元雰囲気下で120℃、2時間焼成して還元した。水素流量は10cc/分で、窒素流量は150cc/分で、これらのガスを混合して管状炉へ流した。焼成後に粉砕して、「金属ルテニウムナノシート/カーボン担体」を得た。
【0061】
<金属ルテニウムナノシートコア/白金シェルの作製>
次に、金属ルテニウムナノシートの表面に白金原子層を設けて、「金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル」からなるコアシェル構造型ナノシートを作製した。
【0062】
具体的には、先ず、2−プロパノール/超純水溶液(75/25体積割合)10mLに、上記で得られた「金属ルテニウムナノシート/カーボン担体」5mgを混合して、触媒分散液を準備した。この触媒分散液には、試験電極に対して良好な密着性を確保するためのプロトン伝導性バインダーとして、5質量%のナフィオン(Nafion、デュポン社の登録商標)溶液45μLを加えた。こうして得られた触媒分散液を30分間超音波処理した。
【0063】
金属ルテニウムナノシートの表面に白金原子層を設けるためには、「金属ルテニウムナノシート/カーボン担体」を電極上に設け、電気化学的手段であるアンダーポテンシャル析出法を適用する必要がある。そのために用いる電極として、直径6mmのグラッシーカーボンを用い、予め0.05μmの酸化アルミニウム粉末を用いてその端面をバフ研磨し、その後、真空中で60℃にて乾燥させた。この電極端面の表面は、0.5MHSO(25℃)電解液を使用して電気化学的な表面清浄化を行った(E=0.05〜0.8V vs.RHE、v=50mV/s)。表面洗浄した電極端面に上記した触媒分散液を滴下して、実験に供する電極を作製した。このときの電極の端面上における金属ルテニウムナノシートの重量は0.45μgであった。この電極を室温で自然乾燥させ、その後60℃での真空乾燥を30分間行った。
【0064】
この電極を、窒素ガスで脱気した2mM硫酸銅を含む0.5MHSO中で、可逆水素電極(RHE)に対して0.3Vで20分間保持した。こうして、金属ルテニウムナノシートの表面上に銅の単原子層をアンダーポテンシャル析出させた。この電極を、脱気した0.5Mテトラクロロ白金(II)酸カリウム水溶液に素早く浸漬し、そのまま20分間経過させることで、銅原子を白金原子に置換して、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:1回)からなるコアシェル構造型ナノシートを得た。なお、このアンダーポテンシャル析出と白金置換とによるUPD−白金置換法の回数は繰り返すことができ、括弧内は繰り返し回数を示す。
【0065】
[各測定とその結果]
<電気化学的測定>
得られたコアシェル構造型ナノシートの電気化学的測定は、標準的な三電極型の電気化学セルを用いたRDE測定で行った。試料電極として、上記したコアシェル構造型ナノシートを設けた直径6mmのグラッシーカーボンを用い、カウンター電極として、炭素繊維(TohoTenax社製、HTA−3K、フィラメント番号:3000)を用い、参照電極として、可逆水素電極(RHE)を用いた。RDE測定は、0.1MのHClO電解液中で行った。以下の電気化学的測定、このRDE測定で行った。
【0066】
<各種の触媒形態の観察>
図3(A)は、金属ルテニウムナノシートをカーボンに担持した電極触媒であり、図3(B)は、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒であり、図3(C)は、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:4回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒である。図3(B)と図3(C)に示すコアシェル構造型ナノシートは、いずれもナノシート形態が観察できた。
【0067】
<電気化学的活性表面積の評価実験>
図4は、UPD−白金置換法による白金原子層の形成ステップの繰り返し回数(1回〜5回)と、得られた金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:1回〜5回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒における電気化学的活性表面積(ECSA)との関係を示すグラフである。
【0068】
電気化学的活性表面積(ECSA)の評価は、上記したRDE測定用の試料電極を用い、サイクリックボルタモグラムの結果を利用して行った。具体的には、UPD−白金置換法を1回〜5回行ったそれぞれの試料電極を用い、サイクリックボルタモグラムの水素吸着領域における電気量から電気化学的活性表面積(ECSA)を算出した。ECSAは、UPD−白金置換法を繰り返すことで増加し、特に、1回と2回の差が大きかった。また、2回以降は、徐々に増加した。1回と2回の大きな差は、金属ルテニウムナノシートの表面の白金原子層の被覆割合に基づいているものと考えられ、1回では白金原子層が十分に被覆しておらず、2回以上繰り返すことにより、白金原子層が十分に被覆していることを示している。また、2回以上繰り返すことによる増加は、表面のラフネス(微細粗さ)が増加したことに起因すると考えられる。なお、従来公知のPtナノ粒子(平均直径3nm)/カーボン担体のECSAは、79m/(g−Pt)であったので、この実験例1で得られたコアシェル構造型ナノシートによって、1.6倍〜1.9倍のECSAの増加が確認できた。
【0069】
<CO酸化反応活性の評価実験>
図5(a)は、Ptナノ粒子をカーボンに担持した従来公知の電極触媒(「Ptナノ粒子/C」で表す。)について、白金量で割付けたCOストリッピングボルタモグラムであり、図5(b)は、PtRu合金ナノ粒子をカーボンに担持した従来公知の電極触媒(「PtRu/C」で表す。)について、PtRu量で割付けたCOストリッピングボルタモグラムであり、図5(c)は、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなる本発明のコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒について、PtRu量で割付けたCOストリッピングボルタモグラムである。
【0070】
図5(a)に示すように、Ptナノ粒子/Cでは、CO酸化ピーク電位が0.79V程度であったが、PtRu合金/Cでは、CO酸化ピーク電位が0.57Vに低下し、CO酸化反応活性が向上していた。金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートでは、CO酸化ピーク電位が0.57Vであり、PtRu/Cと同等のCO酸化反応活性であることがわかった。このことから、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートをアノード触媒として利用することが期待できる。
【0071】
<水素酸化反応活性の評価実験>
図6(a)は、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒について、PtRu量で割付けた水素中でのリニアスイープボルタモグラムであり、図6(b)は、PtRuナノ粒子をカーボンに担持した電極触媒について、PtRu量で割付けた水素中でのストリッピングボルタモグラムである。
【0072】
図6に示すように、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートについての水素酸化反応の電流値は、PtRu/Cの電流値よりも高く、水素酸化反応活性が高かった。
【0073】
<CO耐性の評価実験>
CO/Hに対する水素酸化反応活性は、水素酸化反応にかかる電流値の低下速度を評価することで、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートのCO耐性を検討した。図7(a)は、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒について、PtRu量で割付けた300ppmCO/H中でのクロノアンペログラムであり、図7(b)は、PtRuナノ粒子をカーボンに担持した電極触媒について、PtRu量で割付けた300ppmCO/H中でのクロノアンペログラムである。
【0074】
図7(a)に示すように、測定開始1時間(3600秒)後でも、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートの水素酸化反応電流は、図7(b)のPtRu/Cよりも高かった。このことから、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートは、高いCO耐性を有することがわかった。
【0075】
また、耐久試験後でも、図8(a)に示すように、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートの水素酸化反応電流は、ほとんど減少していないことに加え、図8(b)のPtRu/Cよりも高かった。このことから、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートは、高い耐久性を有することがわかった。
【0076】
<ORR活性の評価実験>
図9(a)は、Ptナノ粒子がカーボン担体に担持した電極触媒について、Pt量で割付けたORR活性のグラフであり、図9(b)は、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:4回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒において、Pt量で割付けたORR活性のグラフであり、図9(c)は、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:5回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒において、Pt量で割付けたORR活性のグラフである。
【0077】
酸化還元反応(ORR)活性については、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:4回)からなるコアシェル構造型ナノシートは、Ptナノ粒子/Cの3.7倍の1068A/(g−Pt)であった。また、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:5回)からなるコアシェル構造型ナノシートも、Ptナノ粒子/Cよりも高いORR活性を示した。
【0078】
<カソード触媒の耐久性の評価実験>
カソード触媒の耐久性を、ECSAの減少率で評価した。図10(a)は、Ptナノ粒子をカーボンに担持した電極触媒について、初期ECSAで規格化したときのECSA減少率のプロットであり、図10(b)は、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:4回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒において、初期ECSAで規格化したときのECSA減少率のプロットであり、図10(c)は、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:5回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒において、初期ECSAで規格化したときのECSA減少率のプロットである。
【0079】
図10に示すように、耐久試験において、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートにおけるECSAの低下度合いは、Ptナノ粒子/Cの場合よりも顕著ではなく、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートが、Ptナノ粒子/Cよりも高い耐久性を有することがわかった。
【符号の説明】
【0080】
1 金属ナノシート
2 白金原子層
10 コアシェル構造型ナノシート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10