特開2017-154131(P2017-154131A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-154131(P2017-154131A)
(43)【公開日】2017年9月7日
(54)【発明の名称】機能性ポリオレフィンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 7/02 20060101AFI20170810BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20170810BHJP
   C09D 133/16 20060101ALI20170810BHJP
   C09D 123/28 20060101ALI20170810BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20170810BHJP
   C08J 7/04 20060101ALI20170810BHJP
【FI】
   B05D7/02
   C09D5/16
   C09D133/16
   C09D123/28
   B05D7/24 302P
   B05D7/24 302G
   C08J7/04 ZCES
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-240513(P2016-240513)
(22)【出願日】2016年12月12日
(31)【優先権主張番号】特願2016-51600(P2016-51600)
(32)【優先日】2016年2月26日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
【住所又は居所】兵庫県神戸市灘区六甲台町1−1
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】丸山 達生
【住所又は居所】兵庫県神戸市灘区六甲台町1−1 国立大学法人神戸大学内
(72)【発明者】
【氏名】北畑 繁
【住所又は居所】兵庫県神戸市灘区六甲台町1−1 国立大学法人神戸大学内
(72)【発明者】
【氏名】西野 孝
【住所又は居所】兵庫県神戸市灘区六甲台町1−1 国立大学法人神戸大学内
(72)【発明者】
【氏名】原 真奈美
【住所又は居所】兵庫県神戸市灘区六甲台町1−1 国立大学法人神戸大学内
【テーマコード(参考)】
4D075
4F006
4J038
【Fターム(参考)】
4D075CA34
4D075DB36
4D075DC30
4D075EB13
4D075EB16
4D075EB22
4D075EB37
4D075EB46
4F006AA12
4F006AB13
4F006AB24
4F006BA11
4F006CA09
4J038CB171
4J038CG141
4J038CH011
4J038CH111
4J038CH251
4J038MA06
4J038MA09
4J038NA05
4J038PA18
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】本発明は、不活性なポリオレフィンの表面へ簡便かつ安定的に機能性基を導入することができる機能性ポリオレフィンの製造方法、当該方法により製造される機能性ポリオレフィン、および、ポリオレフィンの表面を簡便に防汚化するための方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る機能性ポリオレフィンの製造方法は、ポリオレフィンを、機能性基およびフルオロ化炭化水素基を有する(メタ)アクリレート樹脂と変性ポリオレフィン樹脂との混合樹脂でコーティングする工程を含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性ポリオレフィンを製造するための方法であって、
ポリオレフィンを、機能性基およびフルオロ化炭化水素基を有する(メタ)アクリレート樹脂と変性ポリオレフィン樹脂との混合樹脂でコーティングする工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
上記機能性基が、ポリアルキレングリコール基、ポリビニルアルコール基、エポキシ基、アミノ基、カルボキシ基、活性エステル基、チオール基およびジスルフィド基からなる群より選択される1以上の基である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
さらに、上記機能性基を介して生体分子を結合させる工程を含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
機能性基およびフルオロ化炭化水素基を有する(メタ)アクリレート樹脂と変性ポリオレフィン樹脂との混合樹脂を含むコーティング層により被覆されていることを特徴とする機能性ポリオレフィン。
【請求項5】
上記機能性基がポリアルキレングリコール基および/またはポリビニルアルコール基である請求項4に記載の機能性ポリオレフィン。
【請求項6】
上記機能性基がエポキシ基、アミノ基、カルボキシ基、活性エステル基、チオール基およびジスルフィド基からなる群より選択される1以上の機能性基である請求項4に記載の機能性ポリオレフィン。
【請求項7】
上記変性ポリオレフィン樹脂が、クロロ基、ブロモ基およびヨード基からなる群より選択される1以上のハロゲノ基、並びに/または、カルボン酸基を有するものである請求項4〜6のいずれかに記載の機能性ポリオレフィン。
【請求項8】
ポリオレフィンの表面を防汚化する方法であって、
ポリオレフィンの表面を、ポリアルキレングリコール基またはポリビニルアルコール基およびフルオロ化炭化水素基を有する(メタ)アクリレート樹脂と変性ポリオレフィン樹脂との混合樹脂でコーティングする工程を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不活性なポリオレフィンの表面へ簡便かつ安定的に機能性基を導入することができる機能性ポリオレフィンの製造方法、当該方法により製造される機能性ポリオレフィン、および、ポリオレフィンの表面を簡便に防汚化するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
材料表面の機能化は幅広い分野で求められており、ペプチドやDNAなどの機能性物質を表面に固定化したものはバイオチップなどのデバイスとして用いられる。近年、バイオチップ基板として安価に大量生産できる樹脂材料の使用が増加しているが、耐薬品性や非特異的な分子吸着が課題である。こうした課題を克服できる材料として、ポリオレフィンが広く知られている。ポリオレフィンは化学耐性に優れ、非特異的な分子吸着が比較的少なく多用されている材料である。ポリオレフィンの中でもポリプロピレンは耐薬品性などに加えて加工性にも比較的優れるため、容器やピペットマンチップなどの材料として利用されている。
【0003】
上記のポリオレフィンの利点は、非極性や低表面自由エネルギー、すなわち低反応性によるといえる。しかし反応性が乏しいということは、表面修飾が困難であるという不利点の原因ともなる。事実、未処理のポリオレフィン表面への塗装や接着は難しく、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、クロム酸処理、研磨処理などが事前に必要となる。これら物理的処理は煩雑であり、工業的に不利になるのみでなく、凹凸や曲面を有する成形品への均一処理が難しいという問題がある。
【0004】
ポリオレフィンの表面処理として、塗料や接着剤などとポリオレフィンとの両方に親和性の高いプライマーを塗布するプライマー処理が知られている。プライマー処理はディップコートや噴霧といった簡便な操作で行うことができ、また、凹凸や曲面を有する成形品への均一処理も可能である。プライマー処理といえるものではないが、非特許文献1には、環状オレフィン共重合体(COC)の表面に、疎水性相互作用を利用して、ドデシル基またはフェニル基、ポリエチレングリコール基およびエポキシ基を側鎖に有するポリメチルメタクリレート層を形成し、COC表面に生体分子を結合させる方法が記載されている。
【0005】
また、ポリオレフィンは、非極性であるために親油性の汚れが付着し易い。すなわち、ポリオレフィンは、親水性の汚れが付着し難いためにピペットマンチップなど生体試料を取り扱う器具によく用いられており、たとえ親水性の汚れが付着しても水洗により容易に除去可能である。一方、親油性の汚れがポリオレフィンに付着しても、水洗では除去できない。
【0006】
非特許文献2には、側鎖にフルオロ炭化水素基とポリエチレングリコール基を有するアクリレート系共重合体により、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体(P(2F−4F))とポリメチルメタクリレートとの混合マトリックス樹脂の表面に、撥水性と共に接着性を付与する技術が開示されている。かかる混合マトリックス樹脂の表面にはPEG鎖が提示されているため、親油性の汚れも付着し難いと考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Daekyung Sungら,Langmuir,2012,28,4507−4514
【非特許文献2】Kaya Tokudaら,Langmuir,2015,31,209−214
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、環状オレフィン共重合体の表面に生体分子を導入する技術は非特許文献1に開示されている。しかし当該技術では、炭化水素基による疎水的相互作用により環状オレフィン共重合体に特定高分子を結合させているに過ぎず、当該高分子は極めて剥離し易いので、表面改質技術としては不十分である。また、非特許文献2の技術では、フルオロ炭化水素基とポリエチレングリコール基を有するアクリレート系共重合体は溶媒中でマトリックス樹脂と混合されており、例えばマトリックス樹脂の成形品の表面を改質する例や方法は記載されていない。
【0009】
そこで本発明は、不活性なポリオレフィンの表面へ簡便かつ安定的に機能性基を導入することができる機能性ポリオレフィンの製造方法、当該方法により製造される機能性ポリオレフィン、および、ポリオレフィンの表面を簡便に防汚化するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、ポリオレフィンの表面を、ポリオレフィンへの接着力を有する変性ポリオレフィンと、機能性基およびフルオロ化炭化水素基を側鎖に有する(メタ)アクリレート樹脂との混合樹脂でコーティングすれば、コーティング層の変性ポリオレフィンがポリオレフィン表面に高い接着性を示し、且つフルオロ化炭化水素基の作用により機能性基がコーティング層の表面に偏析し、物理的な表面処理などをしなくてもポリオレフィンの表面を簡便かつ安定的に改質できることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0011】
[1] 機能性ポリオレフィンを製造するための方法であって、
ポリオレフィンを、機能性基およびフルオロ化炭化水素基を有する(メタ)アクリレート樹脂と変性ポリオレフィン樹脂との混合樹脂でコーティングする工程を含むことを特徴とする方法。
【0012】
[2] 上記機能性基が、ポリアルキレングリコール基、ポリビニルアルコール基、エポキシ基、アミノ基、カルボキシ基、活性エステル基、チオール基およびジスルフィド基からなる群より選択される1以上の基である上記[1]に記載の方法。
【0013】
[3] さらに、上記機能性基を介して生体分子を結合させる工程を含む上記[1]または[2]に記載の方法。
【0014】
[4] 機能性基およびフルオロ化炭化水素基を有する(メタ)アクリレート樹脂と変性ポリオレフィン樹脂との混合樹脂を含むコーティング層により被覆されていることを特徴とする機能性ポリオレフィン。
【0015】
[5] 上記機能性基がポリアルキレングリコール基および/またはポリビニルアルコール基である上記[4]に記載の機能性ポリオレフィン。
【0016】
[6] 上記機能性基がエポキシ基、アミノ基、カルボキシ基、活性エステル基、チオール基およびジスルフィド基からなる群より選択される1以上の機能性基である上記[4]に記載の機能性ポリオレフィン。
【0017】
[7] 上記変性ポリオレフィン樹脂が、クロロ基、ブロモ基およびヨード基からなる群より選択される1以上のハロゲノ基、並びに/または、カルボン酸基を有するものである上記[4]〜[6]のいずれかに記載の機能性ポリオレフィン。
【0018】
[8] ポリオレフィンの表面を防汚化する方法であって、
ポリオレフィンの表面を、ポリアルキレングリコール基またはポリビニルアルコール基およびフルオロ化炭化水素基を有する(メタ)アクリレート樹脂と変性ポリオレフィン樹脂との混合樹脂でコーティングする工程を含むことを特徴とする方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、不活性なポリオレフィンの表面に、煩雑で均一処理が難しい場合のある物理的処理を行うことなく機能性基を簡便かつ安定的に導入することができる。例えば、ポリオレフィンの表面に機能性基としてポリアルキレングリコール鎖を導入すれば、本来は親油性であるポリオレフィン表面が親水性となり、油性の汚れが付着し難くなる。また、機能性基としてエポキシ基などの反応性基を導入すれば、耐薬品性などに優れながら不活性であるポリオレフィンの表面に、生体分子などを強固に結合させることが可能になる。よって本発明は、不活性で耐薬品性などに優れるが故にピペットマンチップやバイオチップ基板などバイオ実験製品などの材料として汎用されているポリオレフィンの表面に機能性を付与することのできる技術として、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、後記の実施例1で設計・合成した、メタクリル酸メチル(MMA)、2−(パーフルオロオクチル)エチル アクリレート(PFEA8)、およびポリエチレングリコール−メチル−エーテル メタクリレート(PEGMA500)からなるランダム共重合体(PFP)の化学構造式である。
図2図2は、後記の実施例1で設計・合成したランダム共重合体(PFP)と塩素化酸変性ポリオレフィン(MPO)の示差走査熱量測定の結果を示すグラフである。
図3図3は、後記の実施例1で設計・合成したランダム共重合体(PFP)のみの溶液を使って表面改質したPP基板と、PFP/MPO混合溶液を使って表面改質したPP基板の接着性試験の結果を示す写真である。
図4図4は、ヘキサデカンを滴下した、未処理PP基板、MPO塗膜形成PP基板、および剥離処理前後のMPO/PFP塗膜形成PP基板の表面拡大写真と接触角である。
図5図5は、未処理PP基板、MPO塗膜形成PP基板、PFP塗膜形成PP基板、およびMPO/PFP塗膜形成PP基板の表面のXPS測定結果である。
図6図6は、様々な濃度のMPO/PFPを使って表面処理したPP基板の剥離処理前後の油滴接触角を示すグラフである。
図7図7は、MPO/PFP溶液で表面処理したポリプロピレン製のエッペンチューブおよびピペットマンチューブの表面の剥離処理前後に油滴を接触させた際の拡大写真である。
図8図8は、未処理PP基板、および様々な塗膜を表面に形成したPP基板に水滴を接触させた際の拡大写真である。
図9図9は、未処理PP基板、および様々な塗膜を表面に形成したPP基板に水滴を接触させた際の接触角を示すグラフである。
図10図10は、非特異的吸着の指標となるBSAの、未処理PP基板、および様々な塗膜を表面に形成したPP基板への吸着量の測定結果を示すグラフである。
図11図11は、未処理PP基板、および様々な塗膜を表面に形成したPP基板の表面を、原子間力顕微鏡(AFM)で観察した面形状図である。
図12図12は、後記の実施例2で設計・合成した、メタクリル酸メチル(MMA)、2−(パーフルオロオクチル)エチル アクリレート(PFEA8)、およびグリシジルメタクリレート(GMA)からなるランダム共重合体(pGMA)の化学構造式である。
図13図13は、トリス(2−アミノエチル)アミンを反応させた、未処理PP基板、MPO塗膜形成PP基板、およびMPO/pGMA塗膜形成PP基板の表面のXPS測定結果を示すグラフである。
図14図14は、後記の実施例3で設計・合成した、メタクリル酸メチル(MMA)、2−(パーフルオロオクチル)エチル アクリレート(PFEA8)、およびBocポリエチレングリコール メタクリレート(BocPEGMA)からなるランダム共重合体(PMPB)の化学構造式である。
図15図15は、未処理PP基板、およびMPOまたはPMPBの塗膜を表面に形成したPP基板のカルボキシ基定量結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
先ず、本発明に係る機能性ポリオレフィンの製造方法について説明する。
1.コーティング工程
本工程では、ポリオレフィンの表面を、機能性基およびフルオロ化炭化水素基を有する(メタ)アクリレート樹脂と変性ポリオレフィン樹脂との混合樹脂でコーティングする。
【0022】
本発明において原材料として用いる「ポリオレフィン」は、ポリオレフィンを主な材料とするものであり、既にポリオレフィン製品として流通しているものや、ポリオレフィン基材などポリオレフィン製品のための中間製品、および、成形前のポリオレフィン材料などを含むものである。
【0023】
ポリオレフィンとは、その構造中に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有するオレフィンモノマーの重合体をいう。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテンなどのポリ−α−オレフィン;ポリブタジエンなどのポリジオレフィン;ポリノルボルネンやポリ−ビシクロ[3.2.1]オクタ−2−エンなどのポリ環状オレフィンを挙げることができ、ポリ−α−オレフィンが好ましく、ポリエチレンまたはポリプロピレンがより好ましく、生物化学分野製品で汎用されているポリプロピレンがさらに好ましい。
【0024】
「ポリオレフィンを主な材料」とするとは、主要な材料がポリオレフィンであることを意味し、例えば、材料全体に対するポリオレフィンの割合が50質量%以上であるものをいう。当該割合としては、60質量%以上または80質量%以上が好ましく、90質量%以上または95質量%以上がより好ましく、98質量%以上がさらに好ましい。或いは、不可避的不純物など以外、実質的にポリオレフィンのみからなることが好ましい。
【0025】
ポリオレフィン製品としては、例えば、ポリ容器やビニール袋、生物化学分野製品で用いられるピペットマンチップ、エッペンドルフチューブ、PCRチューブ、マイクロプレート、シャーレなどを挙げることができる。ポリオレフィン中間製品としては、例えば、バイオチップ基板を挙げることができる。
【0026】
本発明では、ポリオレフィンの表面を、変性ポリオレフィン樹脂と、機能性基およびフルオロ化炭化水素基を有する(メタ)アクリレート樹脂との混合樹脂でコーティングする。
【0027】
本発明で用いる「変性ポリオレフィン樹脂」は、ポリオレフィン系樹脂であるが故にポリオレフィンの表面に対する接着性が高い上に、変性されているが故に上記(メタ)アクリレート樹脂との親和性に優れるものである。すなわち、ポリオレフィン自体は官能基を有さないためにポリオレフィンの表面は不活性であり、プラズマ処理や火炎処理など煩雑な事前処理を施さない限り、機能性基の導入やコーティングが難しい。しかし変性ポリオレフィン樹脂を用いることにより、ポリオレフィンの表面を上記(メタ)アクリレート樹脂を含むコーティング層で被覆することが可能になる。
【0028】
変性ポリオレフィン樹脂としては、クロロ基、ブロモ基およびヨード基からなる群より選択される1以上のハロゲノ基、並びに/または、カルボン酸基がポリオレフィン主鎖にグラフト付加しているものが好ましい。
ハロゲノ基は、ポリオレフィンの極性を高めることにより、上記(メタ)アクリレート樹脂に対する親和性を高めるのみでなく、溶媒に対する溶解性を高める作用効果を示す。また、カルボン酸基は、水素結合などにより、上記(メタ)アクリレート樹脂に対する親和性を高める。ハロゲノ基やカルボン酸基は、ポリオレフィン主鎖に直接結合していてもよいし、炭化水素基などのリンカー基を介して結合していてもよいものとする。また、カルボン酸基には、カルボン酸無水物基も含まれる。カルボン酸無水物としては、例えば、無水コハク酸基や無水マレイン酸基を挙げることができる。これらハロゲノ基およびカルボン酸基の導入量は適宜調整すればよいが、例えば、変性ポリオレフィン樹脂全体に対して10質量%以上、40質量%以下の範囲で調整することができる。
【0029】
変性ポリオレフィン樹脂は、エチレンやプロピレンなどのオレフィンモノマーに加えて、上記ハロゲノ基および/またはカルボン酸基を側鎖に有するオレフィンモノマーを共重合させることにより製造することができる。変性ポリオレフィン樹脂におけるハロゲノ基および/またはカルボン酸基の含有量は、上記オレフィンモノマーの使用割合により調整可能である。なお、変性ポリオレフィン樹脂は高分子であることから分析が困難であり、その構造を具体的に特定することは極めて難しい。
【0030】
本発明でポリオレフィンのコーティングに用いる(メタ)アクリレート樹脂は、機能性基とフルオロ化炭化水素基を有する。
本発明において(メタ)アクリレート樹脂には、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、およびアクリル酸−メタクリル酸共重合体が含まれ、また、ポリアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルや、ナトリウム塩などポリアクリル酸塩および/またはポリメタクリル酸塩も含まれる。エステルとしては、C1-6アルキルエステルを挙げることができ、C1-4アルキルエステルが好ましく、C1-2アルキルエステルがより好ましく、メチルエステルがさらに好ましい。
【0031】
上記機能性基は、ポリオレフィンに何らかの機能を付与するものであれば特に制限されないが、例えば、ポリアルキレングリコール基、ポリビニルアルコール基、エポキシ基、アミノ基、カルボキシ基、活性エステル基、チオール基およびジスルフィド基からなる群より選択される1以上の機能性基を挙げることができる。
【0032】
上記機能性基のうちポリアルキレングリコール基とポリビニルアルコール基は、上記(メタ)アクリレート樹脂へ主に親水性を付与する。その結果、水洗などでは容易に除去できない親油性の汚れは疎水性相互作用によりポリオレフィンの表面に付着するので、ポリアルキレングリコール基および/またはポリビニルアルコール基の導入により親油性汚れの付着を抑制することが可能になる。また、ポリアルキレングリコール基とポリビニルアルコール基の自由体積効果により、上記(メタ)アクリレート樹脂がコーティング層の表面に偏在することになる。
【0033】
ポリアルキレングリコール基としては、例えば、ポリエチレングリコール基、ポリプロピレングリコール基、ポリブチレングリコール基などを挙げることができ、ポリエチレングリコール基またはポリプロピレングリコール基が好ましく、水溶性の観点からはポリエチレングリコール基がより好ましい。また、ポリアルキレングリコール基の末端は水酸基のままであってもよいし、メチル基などによりC1-4アルキルエーテル化されていてもよい。末端水酸基には、反応性官能基として、さらに他の分子を結合させることも可能である。
【0034】
ポリアルキレングリコール基(−[C−C−O−]m−)およびポリビニルアルコール基(−[C−C(OH)−]n−)の重合数mおよびnは特に制限されず、適宜調整すればよいが、例えば、4以上50以下とすることができる。当該重合数が4以上であれば、水溶性向上効果や防汚効果など、ポリアルキレングリコール基による効果をより確実に発揮させることができる。一方、当該重合数が50以下であれば、上記変性ポリオレフィン樹脂と十分に相溶させることができる。当該重合数としては、6以上がより好ましく、8以上がさらに好ましく、また、40以下または20以下がより好ましく、16以下または14以下がさらに好ましい。
【0035】
上記機能性基のうちエポキシ基、アミノ基、カルボキシ基、活性エステル基、チオール基およびジスルフィド基は、反応性官能基として機能し、タンパク質、DNA、RNA、糖鎖などの生体分子などの分子を不活性なポリオレフィン基材表面へ導入することを可能にするものである。活性エステル基としては、例えば、スクシンイミドエステル、スルホスクシンイミドエステル、1−ヒドロキシベンゾトリアゾールエステル、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾールエステル、ペンタフルオロフェノールエステルなどを挙げることができる。また、ジスルフィド基としては、−S−S−CH3基など、−S−S−C1-4アルキル基を挙げることができる。
【0036】
フルオロ化炭化水素基は、主にその高い表面自由エネルギーにより、(メタ)アクリレート樹脂をコーティング層の表面に偏析させる機能を有する。その結果、上記機能性基がコーティング層に埋没することなく、表面活性化作用を発揮することが可能になる。
フルオロ化炭化水素基の炭素数は、適宜調整すればよいが、2以上15以下が好ましく、4以上10以下がより好ましい。また、フルオロ化炭化水素基においては、炭化水素基の水素原子の80原子%以上がフルオロ化されていることが好ましい。当該割合としては、90原子%以上がより好ましく、95原子%以上がさらに好ましく、全ての水素原子がフルオロ基に置換されているパーフルオロアルキル基が特に好ましい。
【0037】
上記機能性基およびフルオロ化炭化水素基は、(メタ)アクリレート樹脂の側鎖カルボン酸を介して導入すればよい。例えば、上記機能性基またはフルオロ化炭化水素基に置換されたアルコール化合物と、(メタ)アクリレート樹脂の主鎖を構成する(メタ)アクリレート系モノマーの側鎖カルボン酸との間でエステル結合を形成させた上で、(メタ)アクリレート系モノマーとラジカル共重合をさせればよい。或いは、上記機能性基のうち反応性官能基は、上記ポリアルキレングリコール基およびポリビニルアルコール基の側鎖水酸基または末端水酸基に直接的または間接的に結合していてもよい。すなわち、上記(メタ)アクリレート樹脂は、(メタ)アクリレート系モノマーに加えて、上記機能性基を側鎖に有する(メタ)アクリレート系モノマーと上記フルオロ化炭化水素基を側鎖に有する(メタ)アクリレート系モノマーとを共重合させることにより製造することができる。上記(メタ)アクリレート樹脂における機能性基とフルオロ化炭化水素基の含有量は、上記モノマーの使用割合により調整可能である。なお、上記(メタ)アクリレート樹脂は高分子であることから分析が困難であり、その構造を具体的に特定することは極めて難しい。
【0038】
ポリオレフィンの表面をコーティングする上記(メタ)アクリレート樹脂と変性ポリオレフィン樹脂の混合割合は特に制限されず、適宜調整すればよいが、例えば、上記(メタ)アクリレート樹脂に対して上記変性ポリオレフィン樹脂を0.1質量倍以上、60質量倍以下程度にすることが好ましい。当該割合が0.1質量倍以上であれば、ポリオレフィン基材表面へのコーティング層の接着性をより確実に確保することができる。一方、当該割合が60質量倍以下であれば、上記(メタ)アクリレート樹脂が有する機能性基の機能がより効果的に発揮される。当該割合としては、0.15質量%以上が好ましく、また、50質量%以下または40質量%以下が好ましく、30質量%以下または20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。
【0039】
上記変性ポリオレフィン樹脂が溶媒に溶解可能である場合、上記(メタ)アクリレート樹脂と変性ポリオレフィン樹脂を溶媒に溶解して溶液とし、得られた溶液を使うことにより、ディップコーティングやスプレーコーティングなどの簡便な方法でポリオレフィンをコーティングすることが可能になる。
上記溶液の溶媒は、上記変性ポリオレフィン樹脂などに対する溶解性や除去の容易さなどを考慮して適宜選択すればよいが、例えば、クロロベンゼンやトルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒;n−ヘキサンやn−オクタンなどの脂肪族炭化水素系溶媒;アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;酢酸エチルなどのエステル系溶媒などを挙げることができる。
【0040】
上記溶液の濃度は適宜調整すればよいが、例えば、上記(メタ)アクリレート樹脂と変性ポリオレフィン樹脂の合計濃度を0.05質量%以上、20質量%以下程度とすることができる。溶液の作製時には、溶媒の沸点未満で加熱してもよい。
【0041】
ポリオレフィンを上記溶液に浸漬するか、或いはポリオレフィンに上記溶液を噴霧または塗布した後は、乾燥することにより上記溶媒を留去してコーティング層を形成することが好ましい。但し、下記の加熱処理工程を行う場合には、乾燥処理に続いて加熱処理を行ってもよいが、加熱処理は乾燥処理を兼ねるため、乾燥処理を別途行う必要はない。
【0042】
2.加熱処理工程
本工程では、上記(メタ)アクリレート樹脂と変性ポリオレフィン樹脂の混合樹脂を含むコーティング層を表面に形成したポリオレフィンを、上記変性ポリオレフィン樹脂の融点以上、融点+40℃以下で加熱する。本工程の実施は任意であり、実施しなくてもよいが、実施することによりおそらく上記変性ポリオレフィン樹脂の少なくとも一部が溶融し、コーティング層表面への上記(メタ)アクリレート樹脂の偏析が促進されると考えられる。
加熱処理時間は特に制限されず、適宜調整すればよいが、例えば、1時間以上、24時間以内とすることができる。
【0043】
3.生体分子の結合工程
上記コーティング工程を経て、または上記コーティング工程と加熱処理工程を経て製造された機能性ポリオレフィンでは、表面に上記(メタ)アクリレート樹脂と変性ポリオレフィン樹脂の混合樹脂コーティング層が形成されている。当該コーティング層は、上記変性ポリオレフィン樹脂の作用により不活性なポリオレフィン基材の表面への接着性が高く、また、その表面には上記(メタ)アクリレート樹脂が偏析しており、上記機能性基が表面に露出していると考えられる。その結果、上記機能性基としてポリアルキレングリコール基および/またはポリビニルアルコール基を導入した場合には、最表面が比較的親水性となり、親油性の汚れが付着し難くなる。
【0044】
また、上記機能性基としてエポキシ基などの反応性官能基を導入した場合には、本来は不活性なポリオレフィンの表面に反応性官能基が存在することになる。その結果、不活性なポリオレフィンの表面に様々な分子を結合させることが可能になる。本工程の実施は任意であるが、例えば、かかる反応性官能基を介して機能性ポリオレフィンの表面に生体分子を結合させることができる。
【0045】
例えば、生体分子であるペプチドは末端や側鎖に様々な反応性官能基を有するため、上記反応性官能基と共有結合を形成することが可能である。例えば、ポリオレフィン中間製品であるポリオレフィンバイオチップ基板の表面にエポキシ基、活性エステル基、チオール基、ジスルフィド基を導入した場合には、通常のペプチドはその末端や側鎖にアミノ基やチオール基を有するため、ポリオレフィンバイオチップ基板の表面にペプチドを容易に結合させることができ、ポリオレフィンプロテインチップを作製することができる。
【0046】
従来、ポリオレフィンは安価で加工性や耐薬品性が高いために、生化学分野などの容器やチップの材料として期待されていたが、親水性が低く不活性であるために、水洗で容易に除去できない親油性の汚れが付着したり分子の導入が困難であった。しかし上記の通り、本発明によれば不活性なポリオレフィンの表面に機能性基を安定かつ容易に導入できるため、ポリオレフィンの用途をより一層広げることが可能である。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0048】
実施例1: 表面改質PP基板の作製
(1) PEG系含フッ素高分子(PFP)(ポリ(MMA−r−PFEA8−r−PEGMA500))の合成
図1に示すような、メタクリル酸メチル(MMA)、2−(パーフルオロオクチル)エチル アクリレート(PFEA8)、およびポリエチレングリコール−メチル−エーテル メタクリレート(PEGMA500)からなるランダム共重合体(PFP)(MMA:PFEA8:PEGMA500=73:17:10(モル比))を設計し、合成した。具体的には、メタクリル酸メチル(MMA)の原液をエバポレーターに繋いだナスフラスコに移し、40℃に設定したウォーターバスに浸した。留出側の丸底フラスコはアルミニウム箔で遮光した。エバポレーターの電源を入れ、徐々に減圧し80hPaでMMAを蒸留した。開始から5分間の初留は捨て、その後の留出液を褐色瓶に移して冷蔵庫で保管した。また、ポリエチレングリコール−メチル−エーテル メタクリレート(PEGMA500)を活性アルミナカラムに通し、重合禁止剤を除去した。
上記MMA(7.0g,70mmol)、2−(パーフルオロオクチル)エチル アクリレート(PFEA8)(10.36g,20mmol)、上記PEGMA500(5.0g,10mmol)、および酢酸エチル(50mL)を三ツ口フラスコに移し、30分間窒素バブリングを行った。窒素バブリング後、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)をモノマー全体量に対して0.5質量%加え、反応容器内をダイヤフラムポンプで窒素置換して密閉系とし、還流しながら70℃で20時間重合反応を行った。反応溶液を常温付近まで放冷した後、エバポレーターで溶液を約半量になるまで減圧濃縮した。その後、大過剰のヘキサンに反応溶液を滴下し、高分子を析出させた。析出させた高分子を大過剰のヘキサンで3回洗浄した後、回収した。回収した高分子を一晩真空ポンプで減圧乾燥し、さらに凍結乾燥機に一晩入れ乾燥させた(収量:17.3g,収率:77.4%)。
得られたPFPをNMRで分析した。結果を以下に示す。
1H−NMR(500MHz,CDCl3):δ(ppm)0.80−1.10(m,66H),2.41−2.50(m,10H),4.1(m,6H)
MMA:PFEA8:PEGMA500=73:17:10
【0049】
(2) PPフィルムの作製
市販のPPフィルムは表面処理が施されている可能性があるため、アイソタクチックPP(it−PP)のペレットをメルトプレスしてフィルムを自作した。具体的には、メルトプレス機(ゴンノ工機社製)の加熱部に加熱板を置き、上下の加熱機の温度を200℃に設定し、200℃で安定するまで待機した。アルミ板上にit−PPペレット(「NOBLEN HD 100G2」住友化学社製)(2.0〜2.5g)を均一に配置し、その上にアルミ板を置いた。当該アルミ板の上下を加熱板で挟み、加熱部に1分間静置して温度を200℃付近まで上昇させた。レバーが一旦固くなるところまで加熱部を上昇させ、3分間静置した。0〜40hPa間で1分間脱気した。圧力ゲージが100になるまで圧縮し、2分間静置した。加熱部から加熱板ごと取り出し、空気が入らないよう慎重に加熱板を外し、氷を張ったバケツ中にアルミ板を入れ急冷し、フィルムを作製した。
作製したPPフィルムに油性マジックで線を引き、1.0cm×5.0cmの領域に分け、定規とカッターを使って線に沿って切断した。得られたPP片を50mL容のバイアル瓶に集め、アセトンで5回洗浄することにより油性マジックを除去した後に真空乾燥し、サンプル用PP基板とした。
【0050】
(3) 表面改質PP基板の作製
接着性マトリックスレジンとして塩素化酸変性ポリオレフィン(「HARDLEN CY−9124P」東洋紡社製,Cl含有量:24wt%)をトルエンに80℃で溶解して20質量%溶液を調製し、得られた溶液をさらにトルエンで希釈して1.0質量%MPO溶液を調製した。当該MPO溶液に上記PFPを4.0質量%の割合で添加し、ホットスターラーを使って80℃で溶解させてMPO/PFP溶液を調製した。当該MPO/PFP溶液に上記サンプル用PP基板を浸漬した後に常温で乾燥させて、本発明に係る表面改質PP基板を得た。
【0051】
比較例1: ポリ(MMA−r−PEGMA500)の合成
上記実施例1(1)で精製したMMA(9.5g,95mmol)とPEGMA500(5.0g,5.0mmol)、および酢酸エチル(50mL)を三ツ口フラスコに移し、30分間窒素バブリングを行った。窒素バブリング後、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)をモノマー全体量に対して0.5質量%加え、反応容器内をダイヤフラムポンプで窒素置換し密閉系とし、還流しながら70℃で12時間重合反応を行った。反応溶液を常温付近まで放冷した後、エバポレーターで溶液を約半量になるまで減圧濃縮した。その後、大過剰のヘキサンに反応溶液を滴下し、高分子を析出させた。析出した高分子を大過剰のヘキサンで3回洗浄した後、高分子を回収した。回収した高分子を一晩真空ポンプで減圧乾燥した後、凍結乾燥機に一晩入れ乾燥させた(収量:10.5g,収率:87.5%)。
得られたポリ(MMA−r−PEGMA500)をNMRで分析した。結果を以下に示す。
1H−NMR(500MHz,CDCl3):δ(ppm)3.52(t,68H,−CO−CH2−CH2−CO−),1.79−2.10(m,20H,−C−CH2−),0.81−1.19(m,36H,−C−CH3
【0052】
比較例2: ポリ(MMA−r−PFEA8)の合成
上記実施例1(1)で精製したMMA(8.0g,80mmol)、PFEA8(10.4g,20mmol)、および酢酸エチル(50mL)を三ツ口フラスコに移し、30分間窒素バブリングを行った。窒素バブリング後、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)をモノマー全体量に対して0.5質量%加え、反応容器内をダイヤフラムポンプで窒素置換し密閉系とし、還流しながら70℃で12時間反応を行った。反応溶液を常温付近まで放冷した後、エバポレーターで溶液を約半量になるまで減圧濃縮した。その後、大過剰のヘキサンに反応溶液を滴下し、高分子を析出させた。析出した高分子を大過剰のヘキサンで3回洗浄した後、高分子を回収した。回収した高分子を一晩真空ポンプで減圧乾燥した後、凍結乾燥機に一晩入れ乾燥させた(収量:2.8g,収率:15.5%)。なお、収率が上記実施例1および比較例1に比べて低いが、重合禁止剤を完全に除去できなかったことによると考えられる。
【0053】
試験例1: 分子量測定
ゲル浸透クロマトグラフィー(「GPC8020」,「CO−8020」,「RI−8020」,「DP−8020GPC」東ソー社製)を用いた示差屈折率(RI)測定により、MPO(「HARDLEN CY−9124P」東洋紡社製)、並びに上記実施例1および比較例1,2で合成した高分子の分子量測定を行った。溶離液(移動相)にはHPLCグレードTHFを用い、流速1.0mL/min、温度40℃で行った。カラムは80×300mm(昭和電工社製)のものを2本用い、スタンダード試料としてPMMAを用いた。各試料をHPLCグレードTHFに0.2質量%の濃度で溶解し、フィルターを通してサンプル瓶に移しサンプラーにセットし分析時間17分で分子量測定を行った。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
上記結果より、上記実施例1および比較例1,2では高分子合成に成功していることが確認された。
【0056】
試験例2: 示差走査熱量測定
示差走査熱量計(「DSC8230」リガク社製)を用い、開始温度を30℃とし、昇温速度5.0℃/分で100℃まで昇温し、上記実施例1のPFPとMPO(塩素化酸変性ポリオレフィン「HARDLEN CY−9124P」東洋紡社製)のTm(融点)を測定した。結果を図2に示す。
図2に示す結果の通り、PFPは0〜100℃の領域で融点を持たなかったが、MPOは50℃付近に融点を持つことが分かった。
【0057】
試験例3: 接着性評価
上記実施例1(3)で作製した本発明に係る表面改質PP基板にセロハンテープ(ニチバン社製)を貼って押し付けた後に剥離するという操作を繰り返した。また、比較のために、トルエンにPFPのみを溶解して1.0質量%溶液を調製し、当該溶液を用いた以外は上記実施例1(3)と同様にして表面改質PP基板を作製し、同様に接着性を評価した。結果を図3に示す。図3中、(1)は1.0質量%PFP溶液を使って表面改質したPP基板の写真、(2)は剥離処理後の同PP基板の写真、(3)は1.0質量%MPO/1.0質量%PFP溶液を使って表面改質したPP基板の写真、(4)は剥離処理後の同PP基板の写真である。
図3(1)の写真の通り、PFP塗膜を形成した領域は光の透過性が向上し、透明になっていることが分かる。これは粗い表面がポリマーコートにより平滑になり、表面における光の散乱が抑えられていることに起因すると考えられる。同一の処理を行った表面をテープ剥離したサンプルを(2)として示すが、塗膜が剥がれ元のPP表面が露出している。この結果より、PFP自体はPP表面に対する接着性が乏しく、単体ではPP上に接着できないと判明した。一方、PFPとMPOを溶解させたMPO/PFP溶液の場合、剥離処理後もPP基板は透明性を維持し、ポリマーコートはPP表面に強固に接着していた。また、上記表面改質PP基板には加熱処理を施しておらず、室温での浸漬と乾燥でも十分な接着力を得られた。ただこの結果からはPFPがPP表面に固定化されているかは明確に判断できないため、次に撥油性などの評価を行ってPFPの残存性を評価した。
【0058】
試験例4: 撥油性評価
MPOとして塩素化酸変性ポリオレフィン(「HARDLEN CY−9124P」東洋紡社製)をトルエンに80℃で溶解して20質量%溶液を調製し、得られた溶液をさらにトルエンで希釈して1.0質量%のMPO溶液を調製した。当該MPO溶液に上記実施例1(1)で合成したPFPを1.0質量%の割合で添加し、ホットスターラーを使って80℃で溶解させてMPO/PFP溶液を調製した。当該MPO/PFP溶液に上記実施例1(2)で作製したサンプル用PP基板を浸漬した後に一晩常温で乾燥させた。各PP基板を上記試験例3と同様の剥離処理に付した後、油滴接触角の指標物質とされるヘキサデカン(4.5〜5.0μL)の液滴を滴下し、接触角を測定した。図4(a)に未処理PP基板表面の拡大写真と接触角を、図4(b)にMPO塗膜を形成したPP基板表面の拡大写真と接触角を、図4(c)にMPO/PFP塗膜を形成した剥離処理前のPP基板表面の拡大写真と接触角を、図4(d)にMPO/PFP塗膜を形成した剥離処理後のPP基板表面の拡大写真と接触角を示す。
図4(a)の未処理PP基板上の油滴接触角は約9°であり、親油性の高い表面であることが分かる。また、MPO塗膜を形成したPP基板(b)も接触角は10°と小さく、MPO自体はPP同様親油性の高い表面を形成することが分かった。次にMPO/PFP塗膜を形成したPP基板(c)では、PFP分子内のRf基由来の撥油性が表面に付与されており、塗膜表面付近にPFPの存在が確認できる。MPO/PFP塗膜を形成したPP基板の表面を2度テープ剥離したサンプルを(d)として図4中右端に示したが、(c)と同様に撥油性を維持しており、PP表面にPFPを固定化できたことを示している。接触角が約10°低下したが、これは(c)ではマトリックスレジンであるMPO層中に固定化できなかった余剰なPFPが塗膜最表面に存在し、テープ剥離によって除去されたと考えられる。
これらの結果から、接着性のマトリックスレジンとしてMPOを添加することで、dip−coatingという簡便な方法でPP表面にPFPを固定化することができた。こうして作製した機能性塗膜はPP表面に接着し、テープ剥離に耐えうる接着力を有していた。
【0059】
試験例5: XPSを用いたサンプル表面の元素分析
1.0質量%MPO溶液、1.0質量%PFP溶液および1.0質量%MPO/1.0質量%PFP溶液でそれぞれPP基板をdip−coatingし、室温で乾燥させた。形成した塗膜表面を上記試験例3と同様にして2回テープで剥離し、剥離処理後のサンプルとした。これとは別に、剥離処理していないサンプルも用意した。各PP片を1.0cm角にカッターで切り、XPS用PP基板とした。なお、これらのXPS用PP基板は5.0mLエッペンチューブに入れてXPS分析まで保管した。XPS分析には、走査型X線光電子分光分析装置(「PHI X−tool」ULVAC−PHI社製)を用いた。
図5に、各処理を施したPP基板表面のXPS測定結果を示す。図5(a)に未処理のPP基板表面のXPS測定結果を示すが、C1sのピークのみが観測されており、不純物を含まないPP表面であるとわかる。
(b)から(d)のグラフは上部がテープ剥離前、下部がテープ剥離後の分析結果を表している。まず(b)はMPOのみからなる塗膜を形成したPP基板の結果であるが、テープ剥離前後どちらの表面からもMPOの塩素原子由来のCl2sとCl2pに加え、無水マレイン酸部位由来のO1sのピークが観測された。このことから、MPOはPP表面上でテープ剥離に耐えうる接着強度を持つ塗膜を形成していることが分かった。
次に(c)にPFPのみからなる塗膜を形成したPP基板の結果を示すが、テープ剥離処理前後でピーク位置と強度に大きな差があることが分かる。PFPの特徴的なピークとして、剥離処理前表面((c)上部)からは含フッ素基のフッ素原子由来のF1sとFKLLのピークが観測された。一方、(c)下部の剥離処理後の表面からフッ素原子由来のピーク、およびMMAとPEG鎖の酸素原子由来のO1sは消失し、未処理のPP基板(a)と同様のスペクトルが観測された。この結果から、PFPはPP表面に対する接着性が弱く、剥離処理でほぼ完全に除去されてしまい固定化できなかったと考えられる。
最後にMPO/PFPからなる塗膜を形成したPP基板表面のXPS分析結果を(d)に示した。剥離処理前の表面((d)上部)からは(c)上部同様のスペクトルが観測され、塗膜表面にPFPの存在を確認できる。また剥離処理操作後の(d)下部からもピーク位置および強度共にほぼ同様のスペクトルが観測されていることから、PP表面に強固に接着する塗膜としてPFPを固定化できたと判断できる。また、(d)のスペクトルからは(b)で観測されたMPOの塩素原子由来のピークが見られなくなっており、MPO/PFP塗膜最表面にはPFPが偏析していることが示唆された。また、剥離処理後の基板表面からはSi由来の微弱なピークが100〜200eV付近に観測されたが、これはテープ剥離操作で使用したセロハンテープの表面に用いられているシリコンコーティングが転写されたものであると思われる。
これらの結果より、dip−coating溶媒中にMPOを混合させることで、MPOが接着性のマトリックスの役割をし、塗膜としてPFPを固定化できることが明らかとなった。
【0060】
試験例6: 加熱によるPFPの接着性と表面偏析の評価
MPOとして塩素化酸変性ポリオレフィン(「HARDLEN CY−9124P」東洋紡社製)をトルエンに80℃で溶解して20質量%溶液を調製し、得られた溶液をさらにトルエンで希釈して5.0質量%または1.0質量%のMPO溶液を調製した。当該MPO溶液に上記実施例1(1)で合成したPFPを4.0質量%、1.0質量%または0.1質量%の割合で添加し、ホットスターラーを使って80℃で溶解させてMPO/PFP溶液を調製した。当該MPO/PFP溶液に上記実施例1(2)で作製したサンプル用PP基板を浸漬した後に、常温またはオーブン中70℃で一晩乾燥させた。次いで、各PP基板に油滴接触角の指標物質とされるヘキサデカン(4.5〜5.0μL)の液滴を滴下し、接触角を測定した。また、各PP基板を上記試験例3と同様の剥離処理に付した後、同様に接触角を測定した。
まず図6の上段の混合塗料(MPO濃度:5.0質量%)の場合、MPO/PFP塗膜中のPFP濃度が高くなるほど油滴の接触角が大きいことが分かる。これはPFP濃度が低い混合塗料をdip−coatingした際にはMPO層中に埋没するPFPの割合が多くなり、表面に存在するPFP量が少なくなったことを表している。また、剥離処理前のPP基板では全てのPFP濃度で加熱により撥油性が向上して油滴接触角が増加した。一方、剥離処理後のPP基板では、加熱による共通の傾向は見受けられなかった。
次に、図6の下段の混合塗料(MPO濃度:1.0質量%)の場合、剥離処理前のPP基板は同様にPFP濃度が高くなるほど油滴の接触角は増加した。上段と同じくPFPのMPO層への埋没が原因と考えられるが、PFP濃度が0.1質量%でも接触角は60°付近を維持していた。これはMPO層が薄くなり、上段と比較して塗膜表面付近に存在するPFP量が増加したからであると考えられる。また、加熱による影響もMPO濃度が5.0質量%の場合と同様の傾向を示し、撥油性の向上が観測された。
これらの結果より、dip−coatingによる塗膜形成後の加熱処理により塗膜のマトリックス成分であるMPOが融解し、PFPの表面偏析が促進されたことが示された。また、塗膜表面に存在する固定化されていないPFPは剥離処理により除去され、固定化されたPFPが塗膜最表面に現れることが示された。
【0061】
試験例7: PP容器に対する表面修飾能の評価
PP製のエッペンドルフチューブおよびピペットマンチューブを例にとり、MPO/PFP溶液でdip−coatingした後に乾燥してMPO/PFP塗膜を形成し、さらにコート部位をテープ剥離した。塗膜形成前と剥離処理後に油滴を接触させた際の写真を図7に示す。元のPP容器表面には油滴が即座に広がったが、MPO/PFP塗膜形成および剥離処理後の容器はいずれも油滴が広がらず撥油性を維持していた。この結果から、実験室で用いられるPP製品にも、本発明により機能性高分子を表面に固定化可能であることが実証された。
【0062】
試験例8: 表面改質PP基板の水滴接触角の評価
1.0質量%の塩素化酸変性ポリオレフィン(「HARDLEN CY−9124P」東洋紡社製)水溶液に、比較例1のポリ(MMA−r−PEGMA)、比較例2のポリ(MMA−r−PFEA8)、または実施例1のPFPをそれぞれ1.0質量%溶解させ、MPO/ポリ(MMA−r−PEGMA)溶液、MPO/ポリ(MMA−r−PFEA8)溶液、およびMPO/PFP溶液を調製した。これら溶液にPP基板をdip−coatingし、常温乾燥後、水滴(4.5〜5.0μL)を滴下して接触角を測定した。水滴滴下後の各サンプル表面の拡大写真を図8に、接触角を図9に示す。
未処理のPP基板(a)とMPO塗膜を形成した基板(b)を比較すると、後者の接触角が5°ほど低下した。MPOには側鎖または末端に酸部位が導入されており、その影響によると考えられる。
しかしMPOに親水性部位として作用するPEG鎖を有するポリ(MMA−r−PEGMA)を混合した(c)では、MPOのみからなる塗膜を形成した(b)とほぼ同等の接触角が観測された。これはポリ(MMA−r−PEGMA)またはPEG鎖がMPO内部に埋没し、その作用を発揮できなかったからであると考えられる。
次に、MPO/ポリ(MMA−r−PFEA8)からなる塗膜を形成したPP基板(d)ではRf基の撥水性が顕著に表れ、接触角は110°以上になった。
一方、Rf基に加えPEG鎖を導入したPFPとMPOを塗布したPP基板(e)では、(d)と比較して接触角が大きく減少しており、親水性度合の向上が見られた。この結果は、Rf基の存在によりPEG鎖も塗膜表面付近に偏析していることを示唆している。
【0063】
試験例9: microBCA法を用いた非特異吸着抑制能評価
次に、PEG鎖による非特異吸着の低減についての検討を行った。pH7.4の0.1Mリン酸緩衝液にウシ血清アルブミン(BSA)を溶解させ、5.0mg/mL BSA/リン酸緩衝液を調製し、非特異吸着の試料溶液とした。1.0質量%MPO溶液、1.0質量%MPO/1.0質量%ポリ(MMA−r−PEGMA)溶液、1.0質量%MPO/1.0質量%ポリ(MMA−r−PFEA8)溶液、または1.0質量%MPO/1.0質量%PFP溶液でPP基板をdip−coatingし、70℃のオーブン中で乾燥させた。得られたPP基板を1.0cm角に切断し、上記BSA/リン酸緩衝液に24時間浸漬させた。24時間後、各PP基板表面をリン酸緩衝液(15mL)で洗浄し、非特異吸着以外のBSAを洗い流した。MicroBCAキットでBSAの検量線を先に作成した。洗浄後の各PP基板を2.0mLのBCA溶液に浸し、60℃で1時間加熱した。常温まで冷却後、各PP基板を浸したBCA溶液の567nmにおける吸光度を測定し、検量線に照らし合わせてPP基板表面へのBSAの非特異吸着量を算出した。
各サンプル表面へのBSA吸着量測定結果を図10に示す。一般的にPPはタンパク質吸着量が少ないプラスチックとして知られているが、今回の検討ではPBS溶液中のBSA濃度を高くしているためPP表面へ吸着し易い条件であり、吸着量は0.9μg/cm2となった。
次にMPOのみからなる塗膜を形成したサンプルではBSA吸着量が微増し、MPO/ポリ(MMA−r−PEGMA)塗膜を形成したサンプルもほぼ同程度の吸着量を示した。一方、MPO/ポリ(MMA−r−PFEA8)塗膜を形成したサンプルのBSA吸着量は0.5μg/cm2程度であり、吸着量に減少が見られた。これは塗膜中のポリ(MMA−r−PFEA8)が表面偏析し、Rf基のパッキング構造に由来する平滑表面が形成されBSA吸着が低減されたと考えている。
また、図10中右端のMPO/PFP塗膜を形成したサンプル表面へのBSA吸着量は0.3μg/cm2以下であり、今回検討した中で最もタンパク質の非特異吸着が少なく、未処理のPPと比較し1/3程度に抑制できた。この理由としては先に述べたRf基の表面偏析作用が大きく影響しており、PFP分子内のRf基の機能によりPFP全体が塗膜表面へと偏析し、それに伴いタンパク質吸着を抑制するPEG部位も表面に移行したと思われる。ポリ(MMA−r−PEGMA)塗膜にもPEG部位は含まれているが、Rf基を分子内に有しておらず表面偏析が促進されなかった結果、PEG部位がマトリックス(MPO)層中に埋没して機能を発揮できなかったと考えられる。
【0064】
試験例10: 塗膜表面の原子間力顕微鏡(AFM)観察
MPO溶液、MPO/ポリ(MMA−r−PEGMA)溶液、MPO/ポリ(MMA−r−PFEA8)、またはMPO/PFP溶液でPP基板をそれぞれdip−coatingし、70℃で3時間加温した。未処理のPP基板および乾燥後の各塗膜形成PP基板を1.0cm角に切断し、両面テープでAFM用試料板に固定した。走査領域を選定するために、環境制御型プローブ顕微鏡(「NanoNavi/E−sweep」エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用い、まず通常よりも大きめの5000μm四方の領域を1.0Hz、データ数を250に設定し走査することで表面情報を得た。得られた表面情報を元に周囲よりも平滑な領域を探し、そこから1000μm四方の領域を選択し、0.5Hz、データ数を500に設定し走査することでより詳細な表面情報を得た。表面形状のデータをフラット、1軸、2軸、3軸補正で修正をかけ、二乗平均面粗さ(RMS)と表面形状図を得た。各PP基板の面形状図を図11に、二乗平均表面粗さ(RMS)を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
図11と表2に示す結果の通り、未処理PP基板の表面には凹凸が目立ち、表面粗さも最大となった。MPOを塗布したPP基板(b)の表面は全体的に平滑になったが、これはPPと親和性の高いMPOがPP基板自体の凹凸を埋めたからだと考えられる。一方、MPO/ポリ(MMA−r−PEGMA)塗膜を形成したPP基板(c)の表面は凹凸が目立つようになり、RMSが5.4nmと粗さは増大した。その原因はMPOとポリ(MMA−r−PEGMA)の相溶性が悪いために十分混和せず、それぞれの濃度が高い領域ができたからであると思われる。しかしMPO/ポリ(MMA−r−PFEA8)塗膜を形成したPP基板(d)の表面は表面形状図からもわかるほど平滑になっており、RMSも1.0nmを切るほどであった。MPOとポリ(MMA−r−PFEA8)の高分子構造は大きく異なっており、塗膜内部での相溶性は(c)と同様に大きくないと思われるが、表面が平滑化した要因としては、フッ素系表面改質剤と同様に表面偏析したポリ(MMA−r−PFEA8)側鎖のRf基がパッキングした結果であると思われる。これらの結果を支持するように、PEG鎖とRf基を有するPFPとMPOからなる塗膜を形成したPP基板(e)の表面のRMSは、(c)と(d)の間に収まっていた。
【0067】
上記試験例9の結果の通り、分子内にRf基のみを導入したMPO/ポリ(MMA−r−PFEA8)でも未処理のPP基板と比較してBSAの非特異的吸着を2/3程度まで低減することができたが、これは試験例10のAFM測定の結果、表面が平滑化しPP基板表面積が小さくなったことに起因することが示された。一方、MPO/PFP塗膜を形成したPP基板は、MPO/ポリ(MMA−r−PFEA8)塗膜を形成したPP基板(d)、さらにはMPO塗膜を形成したPP基板(b)よりもRMS値が大きかったが、BSAの吸着量は最も低減された。かかる結果は、Rf基の作用効果によるPEG鎖の表面偏析に起因すると考えられる。このように、分子内部にPEGだけでなくRf基を導入したランダム共重合体であるPFPを用いて、PP表面への非特異吸着を低減することに成功した。
【0068】
実施例2: 表面改質PP基板の作製
(1) ポリ(MMA−r−PFEA8−r−GMA)の合成
PP表面に機能性分子を固定化するには足場となる反応性部位を導入する必要がある。そこで、新規反応性高分子として図12に示すような、MMA、PFEA8およびグリシジルメタクリレート(GMA)からなるランダム共重合体(pGMA)(MMA:PFEA8:GMA=50:25:25(モル比))を設計し、合成した。
減圧蒸留によりメタクリル酸メチル(MMA)から重合禁止剤を除去した。また、活性アルミナカラムを通すことでグリシジルメタクリレート(GMA)から重合禁止剤を除去した。2−(パーフルオロオクチル)エチル アクリレート(PFEA8)はそのまま使用した。上記MMA(5.0g,50mmol)、PFEA8(13.0g,25mmol)、上記GMA(3.3mL,25mmol)、および酢酸エチル(80mL)を三ツ口フラスコに移し、30分間窒素バブリングを行った。窒素バブリング後、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)をモノマー全体量に対して0.5質量%加え、反応容器内をダイヤフラムポンプで窒素置換し密閉系とし、還流しながら70℃で20時間反応を行った。反応溶液を常温付近まで放冷した後、エバポレーターで溶液を約半量になるまで減圧濃縮した。その後、大過剰のヘキサンに反応溶液を滴下し、高分子を析出させた。析出した高分子を大過剰のヘキサンで3回洗浄した後、一晩真空ポンプで減圧乾燥し、さらに凍結乾燥機に一晩入れ乾燥させた。
得られたpGMAをNMRで分析した。結果を以下に示す。
1H−NMR(500MHz,CDCl3):δ(ppm)3.52(t,68H,−CO−CH2−CH2−CO−),1.79−2.10(m,20H,−C−CH2−),0.81−1.19(m,36H,−C−CH3
また、得られたpGMAの分子量を上記試験例1と同様の条件で測定した。その結果、Mn=7.3×104g/mol、Mw/Mn=1.6であった。
以上の結果より、pGMAの合成に成功していることが確認された。
【0069】
(2) 表面改質PP基板の作製
接着性マトリックスレジンとして塩素化酸変性ポリオレフィン(「HARDLEN CY−9124P」東洋紡社製,Cl含有量:24wt%)をトルエンに80℃で溶解して20質量%溶液を調製し、得られた溶液をさらにトルエンで希釈して1.0質量%MPO溶液を調製した。当該MPO溶液に上記pGMAを1.0質量%の割合で添加し、ホットスターラーを使って60℃で溶解させてMPO/pGMA溶液を調製した。当該MPO/pGMA溶液に上記実施例1(2)で作製したサンプル用PP基板を浸漬した後、60℃で3時間乾燥させて、本発明に係る表面改質PP基板を得た。また、比較のために、MPO溶液のみを使って同様に表面改質PP基板を得た。
【0070】
試験例11: 表面改質PP基板の反応性評価
pH9.1のホウ酸緩衝液にトリス(2−アミノエチル)アミンを5.0mg/mLとなるよう溶解させ、当該溶液(2.0mL)と室温まで冷却した上記実施例2の各PP基板を60℃で24時間反応させた。反応後、純水(20mL)で各PP基板表面を洗浄し、XPS測定を行った。結果を図13と表3に示す。図13中、「−1」はワイドスキャン結果を示し、「−2」はナロースキャン結果を示す。
【0071】
【表3】
【0072】
洗浄後、未処理のPP基板のワイドスキャン、ナロースキャン共に窒素由来のピーク(N1s)が全く観測されなかったことから、未処理PP基板にはトリス(2−アミノエチル)アミンは結合しておらず、アミノ基の固定化は起こっていないと判断できた。MPO塗膜を形成したPP基板(b)のPP基板をナロースキャンで20sweep×50cycle測定すると、基板表面の窒素原子に由来するN1sのピークが観測された。また、MPO/pGMA塗膜を形成したPP基板(c)からもN1sのピークが観測されたため、ワイドスキャン時のC1sを参考にして固定化量を比較した。その結果、pGMAを混合した塗膜(c)は、MPOのみの塗膜(b)と比べ、約2倍のアミノ基を表面に固定化できていることが分かった。かかる結果は、塗膜表面にエポキシ基が偏析していることによると考えられる。
【0073】
実施例3: 表面改質PP基板の作製
(1) BocPEGMAモノマーの合成
【0074】
【化1】
【0075】
THF(10mL)にアミノ−dPEG8 t−ブチルエステル(BocPEG)(550mg)を溶解し、そこへトリエチルアミン(1542μL,10当量)を加えた。当該溶液を氷冷し、攪拌しながら、THF(5mL)にメタクリロイルクロライド(54μL,1.5当量)を溶解した溶液をパスツールピペットで徐々に加えた。メタクリロイルクロライド溶液が入っていた容器をTHF(2mL)で洗浄し、当該THFも加え、さらに3.5μLのTHFを加え、BocPEG濃度を10質量%に調整した。得られた溶液を氷浴から取り出し、遮光および攪拌しながら室温で24時間反応させた。
次いで、反応液を濾過して固体成分を取り除き、濾液を減圧濃縮した後にエタノールで洗浄した。不溶成分を濾過により除去し、濾液を減圧濃縮した後に一晩凍結乾燥した。凍結乾燥後のサンプル中には針状の結晶が確認されたため、サンプルをTHFに溶解させ、不溶の結晶を濾過により除去した。結晶を除去したサンプルを少量メタノールに溶解し、DART TOF/MSで分子量を測定したところ、結晶以外の固形成分が目的物であるBocPEGMAと確認することができた。
【0076】
(2) ポリ(MMA−r−PFEA8−r−BocPEGMA)の合成
図14に示す、メタクリル酸メチル(MMA)、2−(パーフルオロオクチル)エチル アクリレート(PFEA8)、およびBocポリエチレングリコール メタクリレート(BocPEGMA)からなるランダム共重合体(PMPB)を設計し、合成した。具体的には、重合禁止剤を除去したMMA(482mg)と、PFEA8(534g)、BocPEGMA(583mg)、および酢酸エチル(9mL)を三ツ口フラスコに移し、30分間窒素バブリングを行った。窒素バブリング後の三ツ口フラスコに2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)をモノマー全体量の0.5質量%(8mg)加え、反応容器内をダイヤフラムポンプで窒素置換してから密閉系とし、還流しながら70℃で20時間重合反応を行った。重合後、反応液を常温まで冷まし、大過剰のヘキサンに反応液を滴下し、高分子を析出させた。その後、得られた高分子を大過剰のヘキサンで3回洗浄した。回収した高分子は真空オーブンで一晩減圧し、乾燥させた。よく乾燥させた高分子のGPCを測定し、元素分析を行った。その結果、MMA:PFEA8:BocPEGMA=72:15:13(モル比)、Mn=2.0×104、Mw/Mn=1.8の高分子の合成を確認することができた。以下、得られた高分子を「PMPB」と略記する。
【0077】
(3) PPフィルムのコーティング
接着性マトリックスレジンとして塩素化酸変性ポリオレフィン(「HARDLEN CY−9124P」東洋紡社製,Cl含有量:24wt%)をトルエンに80℃で溶解して20質量%溶液を調製し、得られた溶液をさらにトルエンで希釈して1.0質量%MPO溶液を調製した。得られたMPO溶液に上記PMPBを1.0質量%となるように添加して80℃で溶解し、MPO/PMPB溶液を得た。
1.0×1.0cm正方形PPフィルムをピンセットでつかみ、MPO/PMPB溶液とMPO溶液に3秒間浸した。フィルムをサンプル溶液からあげ、15mL容量のエッペンチューブ内になるべく平らになるように静かに置き、乾燥させた。目視で液が乾燥しているのが確認できたら、エッペンチューブに入れたままの状態で、真空引きで一晩乾燥させた。
【0078】
試験例12: PP基板上のカルボキシ基の定量
上記実施例3で作製した各PP基板サンプルを2M NaOH(2mL)に浸漬し、40℃で一晩振とうすることにより、Boc基の加水分解を行った。未処理のPP基板は超純水での洗浄のみを行った。各PP基板サンプルを超純水で洗浄した後、1mMシスタミン(H2N−(CH22−S−S−(CH22−NH2)溶液(5mM DMT−MM in 0.1Mリン酸緩衝液(pH8.0)(5vol% DMSO))(2mL)に浸漬し、振とうしながら2時間反応させた。0.1Mリン酸緩衝液(pH8.0)で洗浄した。遮光下、0.2mMフルオロセイン溶液(in THF/0.1Mリン酸緩衝液(pH8.0)(1/4))(2mL)に浸漬し、振とうしながら3時間反応させた。0.1Mリン酸緩衝液(pH8.0)で洗浄した後、5mM NaOH(10mL)に浸漬し、40℃で1時間振とうした。さらに、5mM HCl(10mL)に浸漬し、一晩静置した。その後、40℃で1時間振とうした。5mM NaOH(10mL)に浸漬し、40℃で1時間振とうし、0.1Mリン酸緩衝液(pH8.0)で洗浄した。
次いで、2mM TCEP溶液(in 0.1Mリン酸緩衝液(pH8.0))(2mL)に浸漬し、40℃で振とうしながら1時間還元し、ジスルフィド結合を切断し、蛍光光度計によりで溶液に遊離したフルオレセインに由来する蛍光強度を室温で測定した(ex.490nm,em.513nm,感度low)。測定された蛍光強度を、PP基板表面に結合していたカルボキシ基量として評価した。結果を図15に示す。
図15に示す結果の通り、未処理PP基板(図中「Bare」)およびMPO塗膜を形成したPP基板(図中「MPO」)にはカルボキシ基が全くないことが分かる。一方、MPO/PMPBの塗膜を形成したPP基板(図中「MPO/PMPB」)では、1.5pmol/cm2程度のカルボキシ基が存在することが明らかになった。これは、MPOでPMPBがPP基板に固定化され、且つPMPB中のカルボキシ基が塗布最表面にパーフルオロアルキル基の効果で提示されたためである。このカルボキシ基は、各種反応に用いることができる。
図1
図2
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図15