特開2017-1978(P2017-1978A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特開2017-1978銅錯体の製造方法およびこれを含有する導電膜形成用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-1978(P2017-1978A)
(43)【公開日】2017年1月5日
(54)【発明の名称】銅錯体の製造方法およびこれを含有する導電膜形成用組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 213/08 20060101AFI20161209BHJP
   C07F 1/08 20060101ALI20161209BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20161209BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20161209BHJP
   C07C 215/08 20060101ALI20161209BHJP
   C07C 53/06 20060101ALI20161209BHJP
   C07C 51/347 20060101ALI20161209BHJP
【FI】
   C07C213/08
   C07F1/08 C
   H01B13/00 503Z
   H01B5/14 Z
   C07C215/08
   C07C53/06
   C07C51/347
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-116153(P2015-116153)
(22)【出願日】2015年6月8日
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
【住所又は居所】北海道札幌市北区北8条西5丁目
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(74)【代理人】
【識別番号】100190067
【弁理士】
【氏名又は名称】續 成朗
(72)【発明者】
【氏名】米澤 徹
【住所又は居所】北海道札幌市北区北8条西5丁目 国立大学法人北海道大学内
(72)【発明者】
【氏名】塚本 宏樹
【住所又は居所】北海道札幌市北区北8条西5丁目 国立大学法人北海道大学内
【テーマコード(参考)】
4H006
4H048
5G307
5G323
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB91
4H006AC41
4H006AC46
4H006AC52
4H006BN10
4H006BS70
4H006BU32
4H048AA02
4H048AA03
4H048AB91
4H048VA56
4H048VB10
4H048VB20
4H048VB40
5G307GA06
5G323AA03
(57)【要約】
【課題】高濃度で保存性に優れた導電膜形成用組成物の調製が可能である、構造的に安定な銅錯体の製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される、銅化合物とアルカノールアミンとからなる5員環または6員環構造の銅錯体の製造方法であって、前記銅化合物1molに対して、前記アルカノールアミンを1mol以上2mol未満添加する。
【化1】

[式中、RおよびRは各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、RおよびRは各々独立に、任意の置換基を表し、nは2または3である]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される、銅化合物とアルカノールアミンとからなる5員環または6員環構造の銅錯体の製造方法であって、前記銅化合物1molに対して、前記アルカノールアミンを1mol以上2mol未満添加することを特徴とする銅錯体の製造方法。
【化1】
[式中、RおよびRは各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、RおよびRは各々独立に、任意の置換基を表し、nは2または3である]
【請求項2】
前記銅化合物1molに対して、前記アルカノールアミンを1mol添加することを特徴とする請求項1に記載の銅錯体の製造方法。
【請求項3】
前記アルカノールアミンが、1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノ−1,3−プロパンジオール、1−3−ジアミノ−2−プロパノール、2−アミノ−1−ブタノール、1−アミノ−2−ブタノールおよび2-アミノエタノールからなる群より選択されることを特徴とする請求項1または2に記載の銅錯体の製造方法。
【請求項4】
前記アルカノールアミンが、3−アミノ−1−プロパノール、3−アミノ−1,2−プロパンジオール、3−アミノイソ酪酸、β-アラニン、3−アミノ酪酸、ホモセリン、イソセリンおよび3−アミノ−3−フェニル−1−プロパノールからなる群より選択されることを特徴とする請求項1または2に記載の銅錯体の製造方法。
【請求項5】
前記銅化合物が、ギ酸銅(II)4水和物、酢酸銅(II)1水和物および塩化銅(II)2水和物からなる群より選択されることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の銅錯体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の銅錯体の製造方法によって得られた銅錯体と、100nm以上1μm以下の平均粒子径を有する銅粉末とを含有することを特徴とする導電膜形成用組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の導電膜形成用組成物を基板上に形成してなる導電膜。
【請求項8】
請求項6に記載の導電膜形成用組成物を基板上に付与して塗膜を形成する工程、および前記塗膜を焼成して導電膜を形成する工程を含むことを特徴とする導電膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅錯体の製造方法およびこれを含有する導電膜形成用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属微粒子は、バルク材よりも低い温度で原子や分子の移動が生じ、融点や焼結温度の低下が起こることが知られている。また、銅は高い導電性を有することから、銅の微粒子と有機溶媒からなるインク(以下、「導電膜形成用組成物」ともいう。)を塗工・焼結して配線材を形成するプリンテッドエレクトロニクスが注目されている。
【0003】
基板材料としては、旧来エポキシ樹脂のコンポジット材料が広く一般に用いられているが、近年では、デジタルカメラや携帯電話などに代表されるデジタル家電の小型・薄型・軽量化により、フレキシブル基板の利用が拡大している。
【0004】
フレキシブル基板としては、耐熱性に優れたポリイミド(PI)が一般的であるが、はんだ付け作業などの耐熱性が要求されない用途では、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)なども用いられている。
【0005】
これらの材料の耐熱性は、UL746規格において、連続使用温度はPETが105℃、PENが160℃(機械特性)と規定されているため、プリンテッドエレクトロニクスにおいて最終的に実現を目指す焼結温度は、これらの規格値に合わせて、100〜160℃になるものと予測される。
【0006】
これまでに、低温での焼結を可能とすることを目的として、例えば、β−ケトカルボン酸銅化合物とアミン化合物と有機酸とを含有する組成物を用いて、120〜250℃で焼成することによって、所望の銅パターンを得ることが提案されている(特許文献1)。また、他の銅錯体としては、無修飾ギ酸銅を脂肪族アミンに溶解して得られるギ酸銅錯体が提案されており、このギ酸銅錯体を確実に分解させて銅粒子を得る観点から、焼結温度を70〜200℃とすることが開示されている(特許文献2)。
【0007】
ところで、プリンテッドエレクトロニクス用のインクにおいては、溶媒脱離によって薄膜にボイドやクラックが発生するのを防ぐため、50〜70wt%の高濃度で金属微粒子を含有するインクを用いるのが一般的である。
【0008】
ボイドの少ない導電膜を形成する観点からは、例えば、酸化銅粒子と、所定の銅錯体と、熱可塑性ポリマーと、溶媒とを含有する組成物が提案されており、この銅錯体としては、錯体1分子中に、配位子としてギ酸アニオン2分子と、アミン化合物2分子とを含むものが好ましいことが開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2013/073349号
【特許文献2】特開第2008−13466号公報
【特許文献3】特開第2014−196384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来技術の何れの銅錯体も、銅原子1つに対して各々独立した2分子以上のアミン化合物が配位結合した構造を有しており、また、錯体形成に用いるアミン化合物自身が溶媒としての機能も兼ねている。そのため、銅源に対するアミン化合物の添加量は、少なくとも2モル当量以上が必要である。また、薄膜形成時に、インクに含まれる酸化銅(II)や銅錯体中の銅(+II)または銅(+I)を還元する観点からは、還元剤としても作用し得る程度の添加量でアミン化合物を添加することが望ましいため、高濃度のインクを調製することが難しい。また、アミン化合物の添加量を減らした場合には、銅錯体が非常に不安定になり、インクを長期間保存することが困難であるなどの課題があった。
【0011】
さらに、酸化銅を含むインクにおいては、酸化銅を金属銅に還元するために、加熱処理に加えて光照射処理などを行うことによって局所的に高温状態とする必要があるため、実質的には、耐熱性の低い(例えば、100〜150℃)基板材料を用いることが困難であるという懸念があった。
【0012】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、高濃度で保存性に優れた導電膜形成用組成物の調製が可能である、構造的に安定な銅錯体の製造方法を提供することを目的としている。
【0013】
また、本発明は、導電膜形成時の銅錯体の還元性に優れ、かつ雰囲気および温度条件の自由度が高い、前記銅錯体を含有する導電膜形成用組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を有する。
(1) 下記式(1)で表される、銅化合物とアルカノールアミンとからなる5員環または6員環構造の銅錯体の製造方法であって、前記銅化合物1molに対して、前記アルカノールアミンを1mol以上2mol未満添加することを特徴とする銅錯体の製造方法。
【化1】
[式中、RおよびRは各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、RおよびRは各々独立に、任意の置換基を表し、nは2または3である]
(2) 前記銅化合物1molに対して、前記アルカノールアミンを1mol添加することを特徴とする(1)に記載の銅錯体の製造方法。
(3) 前記アルカノールアミンが、1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノ−1,3−プロパンジオール、1−3−ジアミノ−2−プロパノール、2−アミノ−1−ブタノール、1−アミノ−2−ブタノールおよび2-アミノエタノールからなる群より選択されることを特徴とする(1)または(2)に記載の銅錯体の製造方法。
(4) 前記アルカノールアミンが、3−アミノ−1−プロパノール、3−アミノ−1,2−プロパンジオール、3−アミノイソ酪酸、β-アラニン、3−アミノ酪酸、ホモセリン、イソセリンおよび3−アミノ−3−フェニル−1−プロパノールからなる群より選択されることを特徴とする(1)または(2)に記載の銅錯体の製造方法。
(5) 前記銅化合物が、ギ酸銅(II)4水和物、酢酸銅(II)1水和物および塩化銅(II)2水和物からなる群より選択されることを特徴とする(1)〜(4)のうちのいずれか一項に記載の銅錯体の製造方法。
(6) (1)〜(5)のうちのいずれか一項に記載の銅錯体の製造方法によって得られた銅錯体と、100nm以上1μm以下の平均粒子径を有する銅粉末とを含有することを特徴とする導電膜形成用組成物。
(7) (6)に記載の導電膜形成用組成物を基板上に形成してなる導電膜。
(8) (6)に記載の導電膜形成用組成物を基板上に付与して塗膜を形成する工程、および前記塗膜を焼成して導電膜を形成する工程を含むことを特徴とする導電膜の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高濃度で保存性に優れた導電膜形成用組成物の調製が可能である、構造的に安定な銅錯体の製造方法が提供される。
【0016】
また、本発明によれば、導電膜形成時の銅錯体の還元性に優れ、かつ雰囲気および温度条件の自由度が高い、前記銅錯体を含有する導電膜形成用組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1で得られた銅錯体について、XRDの経時変化を示すチャートである。
図2】実施例2で得られた銅錯体について、XRDの経時変化を示すチャートである。
図3】比較例1で得られた銅錯体について、XRDの経時変化を示すチャートである。
図4】(a)実施例3の導電膜形成用組成物のアルミナ基板への塗工後(焼成前)および焼成後の薄膜試料の外観を示す写真である。(b)実施例3の導電膜形成用組成物を用いて作製した薄膜試料のXRDパターンを示すチャートである。
図5】(a)実施例4の導電膜形成用組成物のアルミナ基板への塗膜後(焼成前)および焼成後の薄膜試料の外観を示す写真である。(b)実施例4の導電膜形成用組成物を用いて作製した薄膜試料のXRDパターンを示すチャートである。
図6】実施例4で作製した導電膜の電子顕微鏡観察結果を示す写真である。(a)倍率1000倍でのSEM像、(b)倍率10000倍での二次電子像、(c)(b)と同一視野で撮像した反射電子組成像。
図7】(a)比較例2の導電膜形成用組成物のアルミナ基板への塗膜後(焼成前)および焼成後の試料の外観を示す写真である。(b)比較例2の導電膜形成用組成物を用いて作製した試料のXRDパターンを示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0019】
<銅錯体>
本発明に係る銅錯体は、下記式(1)で表される、銅化合物とアルカノールアミンとからなる5員環または6員環構造の銅錯体である。
【化2】
[式中、RおよびRは各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、RおよびRは各々独立に、任意の置換基を表し、nは2または3である]
【0020】
すなわち、本発明に係る銅錯体は、銅化合物の銅原子に、アルカノールアミンが有するアミノ基とヒドロキシ基が配位結合することによって5員環または6員環構造が形成された、環状有機銅錯体である。また、本発明に係る銅錯体は、銅原子1つに対して1分子以上のアルカノールアミンが配位結合をすることで5員環または6員環構造を形成しているため、構造的に極めて安定である。
【0021】
本発明において、アルカノールアミンは、下記式(2)で表される脂肪族アミンである。
【化3】
[式中、RおよびRは各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、nは2または3である]
【0022】
銅原子に配位結合して5員環構造を形成するアルカノールアミンとしては、例えば、1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノ−1,3−プロパンジオール、1−3−ジアミノ−2−プロパノール、2−アミノ−1−ブタノール、1−アミノ−2−ブタノール、2-アミノエタノールなどが挙げられる。
【0023】
銅原子に配位結合して6員環構造を形成するアルカノールアミンとしては、例えば、3−アミノ−1−プロパノール、3−アミノ−1,2−プロパンジオール、3−アミノイソ酪酸、β-アラニン、3−アミノ酪酸、ホモセリン、イソセリン、3−アミノ−3−フェニル−1−プロパノールなどが挙げられる。
【0024】
なお、本発明に係る銅錯体において、アルカノールアミンは、より長期間の保存性の観点から、溶媒としての腐食性を考慮して選択される。より具体的には、銅化合物の銅原子に対する錯体形成の安定性に優れるものが好ましく、例えば、1−アミノ−2−プロパノールが好適である。
【0025】
本発明において、銅化合物は、銅の酸化数が+IIである化合物である。銅化合物としては、例えば、ギ酸銅(II)4水和物、酢酸銅(II)1水和物および塩化銅(II)2水和物などが挙げられる。中でも、銅化合物自身が還元作用を有するものが好ましく、例えば、ギ酸銅(II)4水和物が好適である。
【0026】
<銅錯体の製造方法>
本発明に係る銅錯体の製造方法では、銅化合物1molに対して、アルカノールアミンを1mol以上添加する。銅化合物1molに対するアルカノールアミンの添加量は、好ましくは1mol以上2mol未満であり、最も好ましくは1molである。そして、この混合物を十分に撹拌して、銅化合物を溶解させることによって、銅錯体を得る。なお、本明細書において、銅化合物およびアルカノールアミンの添加量に関しては、通常許容される誤差範囲を含むものとする。
【0027】
上述したように、本発明に係る銅錯体は、銅原子1つに対して1分子以上のアルカノールアミンが配位結合をすることで安定な5員環または6員環構造を形成する。そのため、銅原子1つに対して2分子以上のアミン化合物が配位結合した構造を有する従来の銅錯体と比較して、アルカノールアミンの添加量を、錯体構造を保持できる限度にまで減らすことができる。すなわち、本発明に係る銅錯体の製造方法では、アルカノールアミンの添加量を、銅原子1つに対して1分子以上とした場合であっても、構造的に安定な銅錯体を得ることができる。
【0028】
<導電膜形成用組成物>
本発明に係る銅錯体の製造方法によって得られた銅錯体は、単独で導電膜形成用組成物とすることができる。
【0029】
また、本発明に係る銅錯体の製造方法によって得られた銅錯体は、銅粉末と混合して、導電膜形成用組成物とすることができる。
【0030】
より具体的には、本発明に係る導電膜形成用組成物は、本発明に係る銅錯体の製造方法によって得られた銅錯体と、100nm以上1μm以下の平均粒子径を有する銅粉末とを含有する。
【0031】
本発明に係る導電膜形成用組成物において、銅粉末としては、その種類、製法などに制限はなく、通常の電解法、還元法、アトマイズ法、機械的粉砕などから得られる銅粉末を用いることができる。
【0032】
また、銅粉末の粒子形状は特に限定されず、球状、樹枝状、鱗片状、フレーク状、針状、板状、粒状などの銅粉末を用いることができる。また、粒子形状の異なる銅粉末を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
本発明に係る導電膜形成用組成物において、銅粉末の平均粒子径は、100nm以上であることが好ましく、より好ましくは、100nm以上1μm以下である。なお、本発明において、銅粉末の平均粒子径は、SEM観察像の計数によるメディアン径をいう。また粒子形状が球状でない場合は、粒子の最長部の長さを基準に算出したメディアン値を粒子径と定義する。
【0034】
平均粒子径が100nm以上であると、銅粉末粒子間の凝集力が低下し、溶媒中に銅粉末が分散しやすくなる。なお、一旦分散した後に粒子の自重により沈殿が生じた場合には、撹拌することで容易に再分散させることができる。また、平均粒子径が1μm以下であると、均一な表面の導電膜が得られやすく、導電膜の高速伝送性が向上する。この現象は表皮効果に起因する。すなわち、高周波信号では導体表面に電流集中が生じるため、導電膜表面が粗いと伝送経路が延び、損失が大きくなる。このため表面粗さは1μm以下にすることが望ましく、導電膜を構成する銅粉末の平均粒子径は少なくとも1μm以下とすることで、導電膜の均一性が確保しやすくなる。より均一性を高めるために焼成時、あるいは焼成後に熱プレスなどを用いて圧縮することで、粒子の密着性を高めるような操作も有効である。
【0035】
平均粒子径が100nm未満であると、銅粉末を微粒化する際に一般に用いられている有機表面保護剤に起因して、導電膜形成用組成物中の有機成分の含有量が増加し、この有機成分が絶縁体として機能することで、導電膜の導電性が十分に得られない場合がある。また、銅粉末の表面積が大きいため表面酸化が起こりやすくなり、導電膜形成用組成物の保存性を損なう場合がある。また、平均粒子径が1μm超であると、表面粗さが大きくなり、表皮効果による導電膜の高速伝送性が低下する場合がある。
【0036】
本発明に係る導電膜形成用組成物において、銅粉末の混合割合は、組成物中の銅の含有割合を考慮して適宜調整することができるが、導電性の観点からは、銅錯体インク10mmolに対して、銅粉末20〜430mmolの範囲内であることが好ましい。この範囲の導電膜形成用組成物は固形分濃度が概ね30〜90wt%の範囲内で調整可能となり、あらゆる印刷手法に好適に利用可能である。
【0037】
なお、本発明に係る導電膜形成用組成物は、本発明の所望の目的、効果を阻害しない範囲で、あるいは副次的効果を与えるものとして、銅錯体および銅粉末以外に、必要に応じて、一般的に用いられる添加剤などを含有させることができる。
【0038】
上述したように、本発明に係る銅錯体の製造方法では、銅錯体の構造的特徴に起因して従来の銅錯体の製造方法と比較してアルカノールアミンの添加量を減らすことができるため、銅の含有割合が高い、高濃度の導電膜形成用組成物を調製することができる。
【0039】
また、本発明に係る銅錯体は、5員環または6員環構造を有する環状有機銅錯体であるため、構造的に極めて安定であり、これを含有する導電膜形成用組成物の保存性にも優れている。
【0040】
そして、このような高濃度の導電膜形成用組成物を用いることにより、塗工品質に優れた導電膜を作製することができる。
【0041】
<導電膜>
本発明に係る導電膜は、本発明に係る導電膜形成用組成物を基板上に形成してなる。
【0042】
より具体的には、本発明に係る導電膜は、本発明に係る導電膜形成用組成物をプラスチック基板上に付与して塗膜を形成する工程、および前記塗膜を焼成して導電膜を形成する工程を含む製造方法により得ることができる。
【0043】
基板は特に限定されず、プラスチック基板、ガラス基板、金属基板など、一般に公知のものを用いることができる。プラスチック基板としては、例えば、ポリイミド、ポリエステル、エポキシ樹脂、ABS樹脂、ポリアミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂などが挙げられる。
【0044】
導電膜形成用組成物を基板上に付与する方法は特に制限されず、ドクターブレード法、スクリーン印刷法、ディップコーティング法、スプレーコート法、スピンコーティング法、インクジェット法など、一般に公知の方法を用いることができる。
【0045】
形成した塗膜を焼成する際の焼成温度は、基板の種類に応じて適宜調整され、基板の耐熱温度以下とする。例えば、基板としてポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのプラスチック基板を用いる場合には、100〜160℃とする。本発明に係る導電膜形成用組成物では、組成物中の銅錯体の環状構造を形成するアルカノールアミンの還元作用と、銅錯体を構成する銅化合物自身が還元作用を有する場合にはその還元作用とにより、100℃程度の焼成温度で導電膜を形成することができる。
【0046】
焼成を行う際の雰囲気条件としては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気が挙げられる。本発明に係る導電膜形成用組成物を用いることにより、例えば、一般に入手可能な窒素発生器などで生成可能な低純度(99.9%)の不活性ガス雰囲気下においても、実用上問題のない導電膜を得ることができる。また、他の焼成条件を適切に調整することによって、大気中で焼成を行うこともできる。
【0047】
焼成時間は、塗工膜厚や焼成温度などに応じて適宜調整され、例えば、1〜480分間とすることができるが、生産性などの観点から120分以下が好ましい。
【0048】
このように、本発明に係る導電膜形成用組成物および導電膜は、例えば、プリント基板(特に、フレキシブル基板)の回路形成材料、およびその他の微小配線材料として利用可能である。また、本発明に係る導電膜形成用組成物および導電膜は、帯電防止材や電磁波遮断材、赤外線遮断材等としても利用可能である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
1.銅錯体の製造
<実施例1>
ギ酸銅(II)四水和物(10mmol)と1−アミノ−2−プロパノール(10mmol)を自転公転ミキサーにてギ酸銅が完全に溶けるまで撹拌して、銅の含有割合が21wt%の銅錯体溶液を得た。
【0051】
図1は、得られた銅錯体について、XRDの経時変化を示すチャートである。図1から理解されるように、調製直後と14日後のXRDパターンに大きな変化は見られなかった。また、外観観察においても、銅錯体溶液の色味は濃紺透明な状態が維持され、14日後も結晶化は見られなかった。これらの結果から、本実施例の銅錯体は、錯体として極めて安定であることが確認された。
【0052】
<実施例2>
アルカノールアミンとして、1−アミノ−2−プロパノールの代わりに2−アミノ−1−ブタノールを用いたこと以外は実施例1と同じ手法で、銅の含有割合が20wt%の銅錯体溶液を得た。
【0053】
図2は、得られた銅錯体について、XRDの経時変化を示すチャートである。本実施例の銅錯体では、調製から4時間後に、XRDパターンにおいて2θ=20°付近に回折ピークが確認され、外観観察においてわずかに結晶化が見られたが、銅錯体溶液の色味は6時間後も濃紺透明な状態が維持され、実用上問題のないものであることが確認された。
【0054】
<比較例1>
ギ酸銅(II)四水和物(10mmol)と2−(ジエチルアミノ)エタノール(10mmol)を自転公転ミキサーにてギ酸銅が完全に溶けるまで撹拌して、銅の含有割合が19wt%の銅錯体溶液を得た。
【0055】
図3は、比較例1で得られた銅錯体について、XRDの経時変化を示すチャートである。本比較例の銅錯体では、調製から30分後に、XRDパターンにおいて2θ=14°および17°付近に回折ピークの立ち上がりが確認され、外観観察において明確な結晶化が見られた。また、銅錯体溶液の色味は、調製直後は濃紺透明であったが、数分後に不透明になり、時間経過と共に水色へと変色した。これらの結果から、本比較例の銅錯体は、錯体として極めて不安定であることが確認された。
【0056】
2.導電膜の製造
<実施例3>
実施例1で得られた銅錯体溶液をそのまま導電膜形成用組成物として用いて、100μmのドクターブレードによりアルミナ基板に塗工し、管状電気炉を用いて100℃窒素下(純度99.99%工業用窒素ボンベ使用、1L/min)で1時間焼成して、薄膜を作製した。
【0057】
図4(a)は、導電膜形成用組成物のアルミナ基板への塗工後(焼成前)および焼成後の薄膜試料の外観を示す写真である。図4(b)は、作製した薄膜試料のXRDパターンを示すチャートである。
【0058】
図4(a)から理解されるように、本実施例の導電膜形成用組成物を用いることによって、比較的均一な薄膜が得られた。
【0059】
また、図4(b)に示す薄膜試料のXRDパターンより、本実施例の導電膜形成用組成物を用いて得られた薄膜では、銅錯体が還元され、金属銅が生成されることが確認された。なお、図4(b)において下側に示すXRDパターンは、一般に公知のデータベースから入手した金属銅およびアルミナのXRDパターンである。
【0060】
<実施例4>
実施例1で得られた銅錯体溶液に、60mmolの銅粉末(Dowa製RCT−5、SEM観察によるメディアン径0.8μm)を添加し、自転公転ミキサーにて12分間撹拌を行い、導電膜形成用組成物を調製した。この組成物中の銅の含有割合は65wt%である。この導電膜形成用組成物を、40μmのドクターブレードによりアルミナ基板に塗工し、管状電気炉を用いて100℃窒素下(純度99.9%窒素発生器使用、1L/min)で1時間焼成して、薄膜を作製した。
【0061】
図5(a)は、導電膜形成用組成物のアルミナ基板への塗工後(焼成前)および焼成後の薄膜試料の外観を示す写真である。図5(b)は、作製した薄膜試料のXRDパターンを示すチャートである。
【0062】
図5(a)から理解されるように、本実施例の導電膜形成用組成物を用いることによって、極めて均一性が高い薄膜が得られた。
【0063】
また、図5(b)に示す薄膜試料のXRDパターンより、本実施例の導電膜形成用組成物を用いて得られた薄膜では、銅錯体が還元され、金属銅が生成されることが確認された。また、銅の酸化物は見られず、純金属銅で構成されていることが確認された。なお、図5(b)において下側に示すXRDパターンは、一般に公知のデータベースから入手した金属銅およびアルミナのXRDパターンである。
【0064】
得られた薄膜試料の体積抵抗率を、抵抗率計(三菱化学アナリテック製ロレスタGP)を用いて四探針法により測定した。体積抵抗率は、9×10−4Ωcmであり、導電性を有することが確認された。
【0065】
図6は、本実施例で作製した導電膜の電子顕微鏡観察結果を示す写真である。図6(a)は、倍率1000倍でのSEM像であり、図6(b)は、倍率10000倍での二次電子像であり、図6(c)は、図6(b)と同一視野で撮像した反射電子組成像である。
【0066】
図6(a)に示すように、本実施例の導電膜は、厚さ8.6μmの均一な薄膜であった。また、図6(b)の二次電子像と図6(c)の反射電子組成像を比較観察すると、本実施例の導電膜では、導電膜形成用組成物に含まれる銅錯体の還元によって生成した金属銅が、銅粉末粒子の周囲を覆うことによって、各々の銅粒子が接合されている様子が明りょうに確認される。
【0067】
これらの結果より、本発明に係る導電膜形成用組成物を用いると、100℃という極低温の温度条件下でも、銅粉末間が焼結されて導電性薄膜が得られることが確認された。
【0068】
<比較例2>
比較例1で得られた銅錯体溶液をそのまま導電膜形成用組成物として用いて、100μmのドクターブレードによりアルミナ基板に塗工し、管状電気炉を用いて100℃窒素下(純度99.99%工業用窒素ボンベ使用、1L/min)で1時間焼成した。
【0069】
図7(a)は、比較例2の導電膜形成用組成物のアルミナ基板への塗膜後(焼成前)および焼成後の試料の外観を示す写真である。図7(b)は、比較例2の導電膜形成用組成物を用いて作製した試料のXRDパターンを示すチャートである。
【0070】
図7(b)に示すXRDパターンより、本比較例では、銅錯体が還元され、金属銅が生成されることが確認された。一方、図7(a)に示すように、焼成後の試料の表面は極めて粗く、所々、盛り上がりが生じており、薄膜を形成することは不可能であった。
【0071】
このように、本発明に係る銅錯体を用いることにより、銅錯体単独、または銅錯体と所定の平均粒子径を有する銅粉末とを含有する高濃度の導電膜形成用組成物を調製することができる。また、本発明に係る導電膜形成用組成物は、基板上に塗工し、窒素雰囲気で100℃にて焼成することにより、基板上に導電膜を形成することができる。本発明に係る導電膜形成用組成物を用いることにより、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどの耐熱性の低い(低融点の)基板材料上にも塗膜が形成できるものと考えられる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7