特開2017-39976(P2017-39976A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特開2017-39976温熱治療用の発熱軟磁性粉体、発熱複合体及び発熱シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-39976(P2017-39976A)
(43)【公開日】2017年2月23日
(54)【発明の名称】温熱治療用の発熱軟磁性粉体、発熱複合体及び発熱シート
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20060101AFI20170203BHJP
   H05B 6/02 20060101ALI20170203BHJP
   A61F 7/00 20060101ALI20170203BHJP
   A61N 1/40 20060101ALI20170203BHJP
   A61K 33/26 20060101ALI20170203BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20170203BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20170203BHJP
【FI】
   B22F1/00 W
   H05B6/02 Z
   A61F7/00 320
   A61N1/40
   A61K33/26
   A61P35/00
   C22C38/00 303T
   C22C38/00 303S
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-162653(P2015-162653)
(22)【出願日】2015年8月20日
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
【住所又は居所】神奈川県横浜市保土ヶ谷区常盤台79番1号
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
【住所又は居所】愛知県名古屋市東区東桜一丁目1番10号
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】特許業務法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】竹村 泰司
【住所又は居所】神奈川県横浜市保土ヶ谷区常盤台79番1号 国立大学法人横浜国立大学内
(72)【発明者】
【氏名】筒井 美紀子
【住所又は居所】愛知県名古屋市南区大同町2丁目30番地 大同特殊鋼株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】藤田 雄一郎
【住所又は居所】愛知県名古屋市港区竜宮町10 大同特殊鋼株式会社内
【テーマコード(参考)】
3K059
4C053
4C086
4C099
4K018
【Fターム(参考)】
3K059AB22
3K059AD10
4C053LL18
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA10
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C099AA01
4C099CA19
4C099JA11
4K018BA14
4K018BA16
4K018BB01
4K018BD01
4K018BD10
4K018KA43
4K018KA70
(57)【要約】
【課題】 数十kHz程度の低い周波数の外部交流磁場の印加でも高い発熱効率を与える温熱治療用の発熱軟磁性粉体、これを用いた発熱複合体及び発熱シートの提供。
【解決手段】 温熱治療用発熱軟磁性粉体は、単位重量[kg]あたりの発熱仕事量[W]を印加磁場の周波数[Hz]及び磁場の強さ[A/m]の2乗で除した指標(ILP)で0.50×10−9[H・m/kg]以上とすることを特徴とする。温熱治療用発熱複合体は、温熱治療用発熱軟磁性粉体をマトリクス材料に混合し分散させたことを特徴とする。また温熱治療用発熱シートは、温熱治療用発熱軟磁性粉体をシート状のマトリクス材料に混合し配向分散させたことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部交流磁場の印加によって発熱する温熱治療用発熱軟磁性粉体であって、
単位重量[kg]あたりの発熱仕事量[W]を印加磁場の周波数[Hz]及び磁場の強さ[A/m]の2乗で除した指標(ILP)で0.50×10−9[H・m/kg]以上とすることを特徴とする温熱治療用発熱軟磁性粉体。
【請求項2】
純鉄、Fe−Si−Al系合金又はFe−Si−Cr系合金のいずれか1つからなることを特徴とする請求項1記載の温熱治療用発熱軟磁性粉体。
【請求項3】
扁平形状を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の温熱治療用発熱軟磁性粉体。
【請求項4】
前記扁平形状のアスペクト比が2〜50であることを特徴とする請求項3記載の温熱治療用発熱軟磁性粉体。
【請求項5】
外部交流磁場の印加によって発熱する温熱治療用発熱複合体であって、請求項1乃至4のうちの1つに記載の温熱治療用発熱軟磁性粉体をマトリクス材料に混合し分散させたことを特徴とする温熱治療用発熱複合体。
【請求項6】
外部交流磁場の印加によって発熱する温熱治療用発熱シートであって、請求項3又は4記載の温熱治療用発熱軟磁性粉体をシート状のマトリクス材料に混合し配向分散させたことを特徴とする温熱治療用発熱シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部交流磁場の印加によって発熱する温熱治療用の発熱軟磁性粉体、これを用いた発熱複合体及び発熱シートに関し、特に低い周波数の交流磁場においても高い発熱効率を得られる温熱治療用の発熱軟磁性粉体、これを用いた発熱複合体及び発熱シートに関する。
【背景技術】
【0002】
癌などの悪性腫瘍の治療において、悪性腫瘍細胞の近傍を局所的に加温して正常細胞との熱感受性の差異によって悪性腫瘍細胞だけを死滅させる温熱治療法(ハイパーサーミア)が知られている。かかる温熱治療法の局所的な加温方法において、マイクロ波加温、高周波(RF)誘導加温、超音波加温などの電磁波を用いる方法がある。このような電磁波を用いる方法では、与える電磁波を高周波とすることで局所的に加温ができるが深部まで加温をすることは困難である。一方、低周波とすれば深部までの加温をできるが加温される範囲が広がりすぎてしまう。そこで、生体の深部の特定の領域を確実に加温できるよう、インプラント材を生体内に導入し外部交流磁場を印加してこれを発熱させることが提案されている。かかるインプラント材は交流磁場の印加によるヒステリシス損で発熱するのである。
【0003】
例えば、特許文献1では、温熱治療用の発熱軟磁性粉体の材料として、Fe、Ni及びCoのうち1種又は2種以上の遷移金属と、P、C、Si及びBのうち1種又は2種以上の半金属と、Cr及び/又はMoを含有するアモルファス合金を用いることを開示している。かかるアモルファス合金はCrやMoの添加によりキュリー点を42〜90℃の範囲まで低下させて感温性の合金とすることができ、温熱治療法のうち、インプラント材による温度の自己制御を可能とするソフトヒーティング法に適していることを述べている。ここでは粉末の粒径を63〜1000μmの扁平状粉末として、100kHzで2.0kA/mの交流磁場を印加することで昇温可能な温度がキュリー温度の64℃より20℃程度低い41〜44℃となり、インダクタンスの温度変化に依存するものであることを述べている。
【0004】
また、特許文献2では、温熱治療用の発熱軟磁性粉体の材料として、(Fe1−XCの構造を有するセメンタイト系化合物を開示している。但し、MはO,H,N,Na,K,Ca,Mg,Cr,Mn,Mo,V及びTiからなるグループから選んだ1種又は2種以上であり、0<X≦0.1である。また、粉体は各元素の粉末を材料としてメカニカルアロイング処理及び熱処理して得られるとしている。このような材料では、キュリー温度をセメンタイト(FeC)の210℃よりも低下させることができ、温熱治療法のインプラント材として好ましいとしている。
【0005】
更に、特許文献3では、温熱治療用の発熱軟磁性粉体として、感温性の磁性体の表面に金を含む被覆層を有する粉体を開示している。温熱治療において局所的に加温する患部の温度が目標温度に達したことを確認する必要があることを述べた上で、かかる粉体であれば、感温性磁性体がキュリー温度に達する前後での磁束ベクトルの変化を検出して目標温度の達成を確認しこの磁束ベクトルの制御で感温性磁性体の温度も調整できる。また、コア部分にあたる感温性軟磁性体のキュリー温度を低く設定する一方で、被覆層を発熱層として発熱効率を低下させないようにできるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−47243号公報
【特許文献2】特開2002−275074号公報
【特許文献3】特開2011−251042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、温熱治療用の感温軟磁性粉体は、一般に、温熱治療としての目標温度を大きく越えてしまわないよう、キュリー温度を低く設定するとともに、印加する交流磁場においては、例えば、100kHz程度の周波数を用いている。かかる周波数域の交流磁場の印加のためには、比較的大がかりな装置を必要とするだけでなく、生体への影響についても考慮する必要がある。そこで、より低い周波数でも感温軟磁性粉体を適度に加温できれば、装置をより小型にできて、生体への影響も低減することができるであろう。つまり、低い周波数でも加温可能な、より発熱効率の高い軟磁性粉体が求められる。
【0008】
本発明はかかる状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、数十kHz程度の低い周波数の外部交流磁場の印加でも高い発熱効率を与える温熱治療用の発熱軟磁性粉体、これを用いた発熱複合体及び発熱シートの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による温熱治療用発熱軟磁性粉体は、外部交流磁場の印加によって発熱する温熱治療用発熱軟磁性粉体であって、単位重量[kg]あたりの発熱仕事量[W]を印加磁場の周波数[Hz]及び磁場の強さ[A/m]の2乗で除した指標(ILP)で0.50×10−9[H・m/kg]以上とすることを特徴とする。
【0010】
かかる発明によれば、数十kHz程度の低い周波数の外部交流磁場を印加しても高い発熱効率を得ることができ、温熱治療に適した目標温度を与え得るのである。
【0011】
上記した発明において、純鉄、Fe−Si−Al系合金又はFe−Si−Cr系合金のいずれか1つからなることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、上記したような比較的低い周波数の外部交流磁場を印加しても高い発熱効率を得ることができる。
【0012】
上記した発明において、扁平形状を有することを特徴としてもよい。また、前記扁平形状のアスペクト比が2〜50であることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、低い周波数の外部交流磁場内であっても高い発熱効率を得ることができるのである。
【0013】
さらに、本発明による温熱治療用発熱複合体は、外部交流磁場の印加によって発熱する温熱治療用発熱複合体であって、上記したうちの1つの温熱治療用発熱軟磁性粉体をマトリクス材料に混合し分散させたことを特徴とする。
【0014】
かかる発明によれば、低い周波数の外部交流磁場を印加しても高い発熱効率を得ることができ、このような温熱治療用発熱複合体を例えば針状体として人体に挿入して与えることで温熱治療を与え得るのである。
【0015】
また、本発明による温熱治療用発熱シートは、外部交流磁場の印加によって発熱する温熱治療用発熱シートであって、上記したうちの扁平形状を有する温熱治療用発熱軟磁性粉体をシート状のマトリクス材料に混合し配向分散させたことを特徴とする。
【0016】
かかる発明によれば、低い周波数の外部交流磁場を印加しても高い発熱効率を得ることができ、このような温熱治療用発熱シートを人体の外面に貼付等して与えることで温熱治療を与え得るのである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ILP測定試験の結果を示す図である。
図2】ILP測定試験の結果を示す図である。
図3】ILP測定試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による1つの実施例としての発熱軟磁性粉体について詳細に説明する。なお、本実施例における発熱軟磁性粉体は、その材料の成分組成の調整、及び粒径やアスペクト比などの形状によって後述するILPを0.50×10−9[H・m/kg]以上とし得るものである。
【0019】
ここで、ILP(Intrinsic Loss Power)は、ある磁性体に交流磁場を印加したときのその磁性体の単位重量[kg]あたりの発熱仕事量[W]を、交流磁場の周波数[Hz]及び磁場の強さ[A/m]の2乗で除した指標である。単位重量あたりの発熱仕事量は、SLP(Specific Loss Power、単位[W/kg])で表すことができて、発熱温度や交流ヒステリシス曲線から算出される。すなわちILPは以下の式で算出される。
ILP[H・m/kg]=SLP[W/kg]/周波数[Hz]/(磁場の強さ[A/m]) …(式1)
ILPは、後述するように、印加した交流磁場に依存せず、発熱軟磁性粉体の材料及び形状に由来する本来の発熱指標となり得る。
【0020】
一方、SLPは、例えば、以下の様にして算出できる。
【0021】
まず、ガラス管内においてエポキシ樹脂中に分散させて固化させた発熱軟磁性粉体による粉体試料の直流磁化測定を行う。詳細には、振動試料磁力計(Vibrating Sample Magnetometer;VSM)を用いて、試料の磁化が飽和する範囲で均一磁界を印加した上で試料を振動させてヒステリシス曲線を測定し、これによって飽和磁化を求める。
【0022】
次に、交流磁化測定を行う。詳細には、2つの同等の小型コイルを逆向きに直列接続した検出コイルの一方のコイルに試料を挿入し、検出コイルを励磁コイル内に挿入して、交流励磁を行って検出コイル両端の開放電圧を測定する。検出コイルは2つのコイルで互いに誘導起電力を打ち消し合うから、1つのコイルに挿入した試料の磁化成分のみを検出できる。例えば、励磁周波数を10、30、50[kHz]、磁界強度を2、4、8[kA/m]として測定し、それぞれヒステリシス曲線を得る。
【0023】
最後にSLPを算出する。詳細には、交流磁化測定により得られたヒステリシス曲線に、直流磁化測定により得られた飽和磁化を乗じて磁化に換算し、ループ面積を求める。ループ面積と周波数の積がSLPとなる。
【0024】
ところで、上記した0.50×10−9[H・m/kg]以上のILPを得るために、数十kHz程度の低い周波数の外部交流磁場の印加においてヒステリシス損の大きい粉体であることが好ましい。このような発熱軟磁性粉体の材料としては、純鉄、Fe−Si−Al系合金、又は、Fe−Si−Cr系合金のいずれか1つが好ましい。特に、Fe−Si−Al系合金、Fe−Si−Cr系合金を用いた場合には、耐食性を向上させることができる。さらに、Fe−Si−Cr系合金は、加工歪みを蓄えやすく、より高い発熱効率を得ることができる。Fe−Si−Al系合金としては、例えば、Fe−9.5Si−5.5Al合金を好適に用い得る。また、Fe−Si−Cr系合金としては、例えば、Fe−13Cr−1Si合金を好適に用い得る。
【0025】
また、0.50×10−9[H・m/kg]以上のILPを得ることのできる発熱軟磁性粉体の形状としては、扁平形状を有する粉体であることが好ましい。特に、アスペクト比を2〜50の範囲内とすることが好ましい。アスペクト比が小さいと粉体は球に近づき、SLPとともにILPを低下させてしまう。また、アスペクト比を大きくすることでILPを大きくし得る傾向にあるが、過剰にアスペクト比を大きくしすぎると、粉砕等されやすくなり、粉体として安定した形状を維持することが困難になる。また、発熱軟磁性粉体の粒径としては1〜20μmの範囲内とすることが好ましい。
【0026】
このような発熱軟磁性粉体は、例えばアトマイズ法によって製作できる。すなわち、アトマイズ装置にて所定の成分組成の合金溶湯を流下させつつ水又はガスを吹きつけて合金溶湯を分断して落下させ、急冷凝固させて、合金粉体を得るのである。さらに扁平形状とする場合には、かかる合金粉体を有機溶媒や、粉砕助剤などとともにアトライター装置に投入して所定の平均粒径を得られるまで扁平化加工処理を行う。
【0027】
上記した発熱軟磁性粉体を用いて、発熱複合体を得ることもできる。発熱複合体は、樹脂等の結合材中に発熱軟磁性粉体を不規則に又は特定の方向に配向させて分散させたものである。これによって、例えば針状体を製作し、人体に挿入して温熱治療を行い得る。また、シート状の樹脂中に扁平形状の発熱軟磁性粉体をその主面をシート面に略平行とするように配向分散させて発熱シートを得て、例えばこれを人体の外面に貼付等して温熱治療を行うこともできる。なお、発熱軟磁性粉体の材料として、上記した材料の複数種類を混合してもよい。
【0028】
[ILP測定試験]
次に、上記したような発熱軟磁性粉体を製作して、ILPを測定した試験結果について、図1乃至3を用いて説明する。
【0029】
粉体試料は上記したように発熱軟磁性粉体をガラス管内においてエポキシ樹脂中に分散させて固化させて作成した。粉体試料では発熱軟磁性粉体を不規則な向きで分散させている。また、後述する実施例7のシート体試料については、シート状の樹脂にその主面と発熱軟磁性粉体の主面とを略平行にするように発熱軟磁性粉体を配向分散させている。なお、シート体の樹脂として塩素化ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂やその他のゴム系樹脂などを用い得る。また、各実施例において、発熱軟磁性粉体は厚さを0.25〜0.28μmとほぼ一定にして製作した。
【0030】
比較例及び実施例1〜6の粉体試料、さらに実施例7のシート体試料についてILPを測定し、図1〜3にその結果を示した。ILPについては、上記した通り、直流磁化測定、交流磁化測定により求められるSLPにより式1を用いて算出した。なお、直流磁化測定により得られる飽和磁化については、実施例1において171.8[emu/g]、実施例2において174.5[emu/g]、実施例3及び4において178.1[emu/g]、実施例5において91[emu/g]、実施例6及び7において152[emu/g]であった。
【0031】
図1に示すように、比較例としてのFeからなる球状粉体、及び、実施例としての純鉄(純Fe)からなる扁平状粉体のILPを算出した。なお、比較例においては印加磁場が実施例と異なるが、上記したようにILPによって印加磁場に依存せずに比較できるのである。ILPが印加磁場に依存しないことについては、後述するように実施例3及び4の比較からも示される。
【0032】
比較例ではILPを0.29×10−9[H・m/kg]としたのに対し、実施例1〜3ではいずれも0.50×10−9[H・m/kg]以上を得ることができている。すなわち、実施例1〜3の純鉄からなり扁平形状を有する発熱軟磁性粉体は比較例のFeからなる球状粉体に対して高い発熱効率を有する。また、アスペクト比がそれぞれ17及び23の実施例1及び2ではILPはほぼ同等であるが、アスペクト比を34とした実施例3においてはその7倍程度大きい。アスペクト比を大きくすることでILPを大きくする傾向にあり、また、アスペクト比30前後でILPを急激に変化させる特異点が予想される。これは、発熱軟磁性粉体の加工条件や酸化のしやすさ、粉体の体積に関係するものと推定される。
【0033】
図2に示すように、発熱軟磁性粉体にほぼ同等の形状を与えた場合の材料の違いによるILPへの影響を調べた。純鉄、Fe−9.5Si−5.5Al合金、Fe−13Cr−1Si合金のうち、実施例6のFe−13Cr−1Si合金においてILPが最も高かった。なお、実施例3及び4では、純鉄による同じ粉体試料を用い、印加磁場を大きく異ならせているが、ILPに大きな差はない。このことは、ILPが印加した交流磁場に依存しない発熱軟磁性粉体の発熱指標であることを示している。また、印加磁場を周波数30[kHz]、磁場の強さを8[kA/m]としたとき、比較例のSLPが552[W/kg](図1参照)であるのに対し、実施例5のSLPが8,112[W/kg]と大きいことも判る。このように、周波数30[kHz]、磁場の強さを8[kA/m]の印加磁場において、SLPは8,000[W/kg]以上であることが好ましい。
【0034】
図3に示すように、発熱軟磁性粉体を不規則にランダムな方向を向くように分散させた粉体試料と、同じ軟磁性粉体をシート状の樹脂にその主面をシートの主面に平行にするように配向分散させたシート体試料とを比較した。その結果、不規則な向きに分散させた粉体試料の実施例6に比べ、配向分散させたシート体試料の実施例7においてILPが2倍以上高くなった。
【0035】
なお、上記したいずれの粉体試料及びシート体試料でも、周波数50[kHz]、磁場の強さを4[kA/m]の外部交流磁場を印加して、室温から約25℃の温度上昇を得られることを確認した。
【0036】
以上のように、実施例では、ILPを0.50×10−9[H・m/kg]以上と高くでき、数十kHz程度の低い周波数の外部交流磁場を印加しても高い発熱効率を得ることができるのである。
【0037】
なお、上記した発熱軟磁性粉体は、温熱治療の用途に限らず、例えば、細胞培養プレートの加温など、ヒーターを導入する空間の確保の難しい環境や、電気や火気の使用を制限限される環境におけるワイヤレスの加温装置に用いることもできる。
【0038】
ここまで本発明による代表的実施例及びこれに基づく改変例について説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。当業者であれば、添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例を見出すことができるであろう。
図1
図2
図3