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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-43529(P2017-43529A)
(43)【公開日】2017年3月2日
(54)【発明の名称】磁気ナノ微粒子
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/00 20060101AFI20170210BHJP
   H01F 1/34 20060101ALI20170210BHJP
   H01F 1/36 20060101ALI20170210BHJP
【FI】
   C01G49/00 B
   H01F1/34 B
   H01F1/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-169830(P2015-169830)
(22)【出願日】2015年8月28日
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
【住所又は居所】神奈川県横浜市保土ヶ谷区常盤台79番1号
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(72)【発明者】
【氏名】一柳 優子
【住所又は居所】神奈川県横浜市保土ヶ谷区常盤台79番1号 国立大学法人横浜国立大学内
【テーマコード(参考)】
4G002
5E041
【Fターム(参考)】
4G002AA07
4G002AB05
4G002AD04
4G002AE02
5E041AB02
5E041BC01
5E041CA10
5E041NN02
(57)【要約】
【課題】分散性に優れるとともに、毒性を考慮する必要が無く、粒径が変化しても外部磁場印加時の上昇温度の変化が小さい、磁気ナノ微粒子を提供する。
【解決手段】本発明に係る磁気ナノ微粒子は、Mn−Zn系フェライトからなるコアが、アモルファスSiOからなるシェルにより覆われて構成された磁気ナノ微粒子であって、室温条件下において、交流磁場周波数15[kHz]、交流磁場強度151[Oe]の外部磁場を印加した際に、交流磁場印加時の上昇温度が4〜14[℃]であることを特徴とする。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mn−Zn系フェライトからなるコアが、アモルファスSiOからなるシェルにより覆われて構成された磁気ナノ微粒子であって、
室温条件下において、交流磁場周波数15[kHz]、交流磁場強度151[Oe]の外部磁場を印加した際に、交流磁場印加時の上昇温度が4〜14[℃]であることを特徴とする磁気ナノ微粒子。
【請求項2】
前記コアの組成が、Mn(1−x)ZnFeにより定義され、
前記xが、0.2であることを特徴とする請求項1に記載の磁気ナノ微粒子。
【請求項3】
前記コアの組成が、Mn(1−x)ZnFeにより定義され、
前記xが、0<x<0.2の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の磁気ナノ微粒子。
【請求項4】
前記コアの組成が、Mn(1−x)ZnFeにより定義され、
前記xが、0.2<x<1の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の磁気ナノ微粒子。
【請求項5】
前記コアの平均粒径が、人間の体温に近い310[K]において、最大の交流磁化率虚数部χ”を示す粒径であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の磁気ナノ微粒子。
【請求項6】
前記コアの平均粒径が、スピンエコー法によりT緩和測定を行い、算出された緩和率Rが最大を示す粒径であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の磁気ナノ微粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MRIの造影剤として使用するのに好適な磁気ナノ微粒子に係る。より詳細には、良好な分散性を備え、かつ、毒性に関して懸念の無い、磁気ナノ微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメートルスケールの超微粒子は、従来にない新たな特異な物性をもたらし、機能材料としての高性能化が期待できることから、種々の物質について検討がされている。特に、磁性材料を微粒子化すると、磁壁を持たない単磁区粒子が生じ、抗磁力が大きくなることが期待されている。
本発明者らは、主に3d遷移金属を含んだ磁性ナノ微粒子を作製し、ナノサイズ特有の物性について研究を進めてきた。特に、本微粒子を用いてDDS(薬剤輸送)や磁気ハイパーサーミア(癌温熱療法)、MRI造影剤といった医療分野への応用について取り組んでいる。
【0003】
このような微粒子として、本発明者らは、飽和磁気モーメントの高いZn系フェライト磁気ナノ微粒子を報告している(特許文献1参照)。また、本発明者らは、マグネタイト磁気ナノ微粒子の表面をSiOにより被覆し、このSiOを介して官能基を導入した技術を報告している(特許文献2参照)。この官能基により、磁気微粒子への薬剤等の修飾や、細胞、組織内への磁気微粒子を容易に取り込むことが可能である。
【0004】
さらに、本発明者らは、Co−Ti系フェライト磁気ナノ微粒子に外部磁場を印加したとき、20℃近くの温度上昇が得られ、これら微粒子を癌の温熱療法(ハイパーサーミア)に応用可能であることを報告している(非特許文献1参照)。ここで、ハイパーサーミアは、健康な細胞に悪影響を与えることなく癌細胞を局所的に加温して死滅させる治療法であり、一般に癌細胞は42〜43℃以上で死滅すると言われている。
【0005】
また、本発明者らは、アモルファスSiOに包含されたマグネタイト微粒子を安定して製造する方法を報告している(特許文献3参照)。
さらに、本発明者らは、粒径が変化しても外部磁場印加時の上昇温度の変化が小さい、温熱療法用のNi−Ziフェライト磁気ナノ微粒子、及びそれを用いた薬物結合型複合体を報告している(特許文献4参照)。
またさらに、本発明者らは、Co系フェライトナノ微粒子において、10nm程度の微粒子がMRI測定の結果から造影剤として機能し、その造影効果も鉄系酸化物と比べて高いことを見出した。ゆえに、Co系フェライトはMRIの造影剤として効果的であることを報告している(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−069830号公報
【特許文献2】特開2007−269770号公報
【特許文献3】特開2011−236086号公報
【特許文献4】特開2013−256405号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Y. Ichiyanagi et al., Thermochimica Acta, 532(2012)123-126.
【非特許文献2】三池和成等、CoxFe3−xO4 ナノ微粒子の磁気特性とMRI造影効果、ナノ学会会報、Vol.12, No.2, p85-p90
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した各文献に開示されたナノ微粒子は、Zn系、Co系、Ni系であり、MRIの造影剤として有望ではあるが、臨床応用のためには「分散性の向上」を図る必要があるとともに、「(Zn,Co,Ni)イオンをドープすることによる毒性の評価が未だ不十分」である、という課題があった。
また、ナノ微粒子の粒径が変化すると外部磁場印加時の上昇温度が変化し、患部を加温し過ぎて健康な細胞に害を与える虞もあることから、粒径が変化しても外部磁場印加時の上昇温度の変化が小さい、ナノ微粒子の開発が期待されていた。
本発明は、このような従来の実情に鑑みて考案されたものであり、分散性に優れるとともに、毒性を考慮する必要が無く、粒径が変化しても外部磁場印加時の上昇温度の変化が小さい、磁気ナノ微粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に記載の磁気ナノ微粒子は、Mn−Zn系フェライトからなるコアが、アモルファスSiOからなるシェルにより覆われて構成された磁気ナノ微粒子であって、室温条件下において、交流磁場周波数15[kHz]、交流磁場強度151[Oe]の外部磁場を印加した際に、交流磁場印加時の上昇温度が4〜14[℃]であることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項2に記載の磁気ナノ微粒子は、請求項1において、前記コアの組成が、Mn(1−x)ZnFeにより定義され、前記xが、0.2であることが好ましい。
本発明の請求項3に記載の磁気ナノ微粒子は、請求項1において、前記コアの組成が、Mn(1−x)ZnFeにより定義され、前記xが、0<x<0.2の範囲にあることが好ましい。
本発明の請求項4に記載の磁気ナノ微粒子は、請求項1において、前記コアの組成が、Mn(1−x)ZnFeにより定義され、前記xが、0.2<x<1の範囲にあることが好ましい。
【0011】
本発明の請求項5に記載の磁気ナノ微粒子は、請求項1乃至4のいずれか一項において、前記コアの平均粒径が、人間の体温に近い310[K]において、最大の交流磁化率虚数部χ”を示す粒径であることが好ましい。
本発明の請求項6に記載の磁気ナノ微粒子は、請求項1乃至4のいずれか一項において、前記コアの平均粒径が、スピンエコー法によりT緩和測定を行い、算出された緩和率Rが最大を示す粒径であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明者らは、前述の課題を解決すべく鋭意検討した結果、ドープするイオンとして「Zn,Co,Ni」に代わる元素を、生体に対して「毒性」が懸念されない元素から選択した。すなわち、生体に取り込んでも影響の少ない「ミネラル[日本では、13元素(亜鉛、カリウム、カルシウム、クロム、セレン、鉄、銅、ナトリウム、マグネシウム、マンガン、モリブデン、ヨウ素、リン)を意味する]」の中に、その解を見出した。具体的には、マンガン(Mn)系が、有望であることを発見した。
すなわち、請求項1に記載の発明によれば、分散性に優れるとともに、毒性を考慮する必要が無く、粒径が変化しても外部磁場印加時の上昇温度の変化が小さい、磁気ナノ微粒子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】磁気ナノ微粒子の組成比と粉末X線回折パターンとの関係を示すグラフ。
図2】磁気ナノ微粒子の構造を示す模式図。
図3】磁気ナノ微粒子の組成比と室温における磁化曲線との関係を示すグラフ。
図4】磁気ナノ微粒子の組成比と磁化との関係を示すグラフ。
図5】粒径を変えた磁気ナノ微粒子の交流磁化率虚数部の温度依存性を示すグラフ。
図6】粒径を変えた磁気ナノ微粒子の交流磁場中における温度変化を示すグラフ。
図7】磁気ナノ微粒子の粒径と熱放出との関係を示すグラフ。
図8】粒径18nmの磁気ナノ微粒子における磁場と熱放出との関係を示すグラフ。
図9】磁気ナノ微粒子の粒径と粉末X線回折パターンとの関係を示すグラフ。
図10】磁気ナノ微粒子の粒径と磁化との関係を示すグラフ。
図11】粒径を変えた磁気ナノ微粒子の交流磁化率実数部の温度依存性を示すグラフ。
図12】粒径を変えた磁気ナノ微粒子の交流磁化率虚数部の温度依存性を示すグラフ。
図13】粒径を変えた磁気ナノ微粒子のT緩和曲線を示すグラフ。
図14】粒径を変えた磁気ナノ微粒子の緩和率Rを示すグラフ。
図15】磁気ナノ微粒子の粒度分布を示すグラフ。
図16】大気圧走査電子顕微鏡を用い、磁気ナノ微粒子の水中における様子を観察した結果を示す写真。
図17】組成比を変えた磁気ナノ微粒子の最大磁化Mmax と緩和率Rとの関係を示すグラフ。
図18】粒径を変えた磁気ナノ微粒子の最大磁化Mmax と緩和率Rとの関係を示すグラフ。
図19】組成比を変えた磁気ナノ微粒子のT緩和曲線を示すグラフ。
図20】組成比を変えた磁気ナノ微粒子の緩和率Rを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の実施形態に係る磁気ナノ微粒子は、Mn−Zn系フェライトからなるコアが、アモルファスSiOからなるシェルにより覆われて構成されている。
【0015】
<磁気ナノ微粒子のコア>
本発明の磁気ナノ微粒子を構成するコアは、Mn−Zn系フェライトからなる。従来の磁気ナノ微粒子では、コアにドープするイオンとして「Zn,Co,Ni」を用いていた。これに対して、本発明の磁気ナノ微粒子では、コアにドープするイオンとして、「Mn」を採用した。「Mn」は、生体に取り込んでも影響の少ない「ミネラル」の一つであり、生体に対して「毒性」が懸念されない元素である。
本発明の磁気ナノ微粒子は、Mn−Zn系フェライトからなるコアによって、後述する特性(外部磁場印加時の上昇温度)を実現したことにより、生体に投入して利用する用途、たとえば、DDS(薬剤輸送)や磁気ハイパーサーミア(癌温熱療法)、MRI造影剤といった医療分野への応用に好適である。
【0016】
コアとなる磁気ナノ微粒子の組成を、たとえばMn(1−x)ZnFe(組成比x=0.2)として、磁気ナノ微粒子の粒径[nm]を12.9〜30の範囲とした場合、図6に示すように、外部磁場印加時の上昇温度[℃]が4〜14の範囲内となる。被験者の体温が37℃の場合に局所的温度が42℃以上に昇温するので、本発明の磁気ナノ微粒子は温熱療法に適する。
なお、本発明においては、外部磁場印加時の上昇温度の絶対値が必ずしも重要ではなく、磁気ナノ微粒子の粒径が上記範囲で変動したときの上昇温度の変化が小さいことが重要である。これは、上昇温度の絶対値自体は、外部磁場の条件を変えることで変化させることができるからである。
【0017】
後述するように、本発明の磁気ナノ微粒子は、粒径が上記範囲で変動しても、外部磁場印加時の上昇温度の変化が小さい。このため、磁気ナノ微粒子が所定の幅の粒径分布を持ち、粒径が変化しても、外部磁場印加時に上昇温度が角に高くならず、患部を加温し過ぎて健康な細胞に害を与えることを抑制できる。
【0018】
図1は、本発明に係る磁気ナノ微粒子の組成比と粉末X線回折パターンとの関係を示すグラフである。図1において、(a)〜(h)は順に、磁気ナノ微粒子[Mn(1−x)ZnFe]の組成比xを変えた試料[x=0,0.1,0.2,0.3,0.5,0.7,0.9,1]の評価結果である。ほぼ同じ粒径(6.3〜7.0nm)の試料を用いた結果である。
【0019】
図1(a)〜(h)の各図において、指数付けされたピークより、全ての試料(x=0〜1)は、スピネル型結晶構造をもつことが分かった。また、他に不純物のピークが無いことから、xに依存することなく、目的とした試料が単相で得られたことが、図1により確認された。さらに、各スペクトル(x=0〜1)において、横軸2θ=20°付近に観測されるブロードなピークから、何れの試料(x=0〜1)にも、アモルファスSiOの存在が確認された。これより、作製した試料が、組成比xに依存することなく、アモルファスSiOを含有していることが明らかとなった。
【0020】
<アモルファスSiOからなるシェル>
シェルは、コアを覆うアモルファスシリカネットワーク(網状膜)であり、たとえば上記の特許文献1に記載されているように、以下の湿式法により形成することができる。
つまり、Mnのハロゲン化物の水和物を含む溶液と、Znのハロゲン化物の水和物を含む溶液と、Feのハロゲン化物の水和物を含む溶液と、NaSiOの水和物を含む溶液とを均一混合することで生成する沈殿物を焼成すると、図2に示すように、アモルファスSiOの網状膜(シェル)によって分離された状態で磁気ナノ微粒子が保持された構造が得られる。ここで「網状膜」とは、図2に示すように、アモルファスSiOが個々の磁気ナノ微粒子の周囲を取り囲み、かつ、アモルファスSiOが連なっているものが例示されるが、これに限られるものではない。
【0021】
具体的には、上記シェル(コアを含む構造)は、Mn(1−x)ZnFeの組成に対して、たとえば以下のように製造することができる。
まず、MnCl・4HO水溶液、ZnCl水溶液、FeCl・4HO 水溶液、及びNaSiO・9HO 水溶液を、モル非として(1−x):x:2:3で添加し、上記混合及び静置する。湿式混合し、得られた上記沈殿物を繰り返し洗浄した後、約350Kの恒温槽にて乾燥させる。さらに空気雰囲気中の電気炉で873〜1373Kの間の温度領域で、沈殿物を10時間焼成する。
【0022】
ここで、得られた沈殿物は洗浄してから乾燥することにより、ガラス状塊になる。これを粉砕した後、空気雰囲気下で焼成することにより、金属水酸化物{Mn(1−x)ZnFe}(OH)の磁気ナノ微粒子を、金属水酸化物Mn(1−x)ZnFeの磁気ナノ微粒子に変化させる。この際の焼成温度を最適化することで、個々の磁気ナノ微粒子がアモルファスSiO網状膜によって分離された状態で保持された磁気ナノ微粒子分散体とする。なお、焼成時間は3時間以上とすることが好ましい。
【0023】
なお、このように、1つのMn−Zn系フェライト磁気ナノ微粒子は、シェルの内部に1個以上のコアを包摂した状態になっており、この包摂構造全体の平均粒径をMn−Zn系フェライト磁気ナノ微粒子の平均粒径とする。
また、Mn−Zn系フェライト磁気ナノ微粒子の平均粒径は、たとえば、粉末X線回折ピークの半値回折角度幅よりデバイシェラーの式を用いて算出することができる。さらに、本発明者らは、透過電子顕微鏡にて複数個の微粒子の直径を測定して、上記算出値と高い精度で一致することを確認した。
さらに、上記磁気ナノ微粒子を上述の湿式法で得られた沈殿物を焼成して製造する場合、焼成温度が高くなるほど、また焼成時間が長いほど、磁気ナノ微粒子が成長して粒径が大きくなるので、焼成温度または焼成時間を調整することで、磁気ナノ微粒子の粒径を制御できる。
【0024】
<磁化測定>
図3は、本発明に係る磁気ナノ微粒子の室温(300K)における磁化曲線を示すグラフである。図3において、横軸は印加磁場、縦軸は磁化である。
図3は、磁気ナノ微粒子[Mn(1−x)ZnFe]の組成比xを変えた試料[x=0,0.1,0.2,0.3,0.5,0.7,0.9,1]を用意し、各試料ごとに磁化曲線を測定した結果である。図3より、x=0.2とした試料αが最も大きな最大磁化Mmax を有することが分かった。ここで、「最大磁化Mmax 」は、最大の磁場を印加した場合に計測された磁化である。試料αに比べて、xが小さい試料βも、xが大きい試料γも、試料αより最大磁化Mmax が小さいことが明らかとなった。
【0025】
図4は、磁気ナノ微粒子の組成比と磁化との関係を示すグラフである。図4の横軸は、図3における磁気ナノ微粒子[Mn(1−x)ZnFe]の組成比xである。図4の縦軸である磁化は、図3から得られた最大磁化Mmax である。
図4より、試料α(x=0.2)よりxが小さい試料β(0<x<0.2)では、xの減少に伴い最大磁化Msが徐々に低減する傾向(38→30)を示した、その際、最大磁化Msは、試料α(x=0.2)に対して最大でも2割程度の減少に抑えられることが分かった。このような傾向から、試料β(0<x<0.2)を選択することにより、試料αとほぼ同等の最大磁化Msを有する磁気ナノ微粒子が安定に得られることが確認された。
【0026】
これに対して、試料α(x=0.2)よりxが大きい試料γ(0.2<x<1)では、xの増加し伴い最大磁化Mmax が急激に減少する傾向(38→4)を示した。その際、最大磁化Mmax は、最も減少した試料(x=1)において、試料α(x=0.2)に対して9割程度の減少幅(十分の一)となることが分かった。このような傾向から、試料γ(0.2<x<1)を選択することにより、最大磁化Mmax が大きく異なり、所望の最大磁化Mmax の値を有する磁気ナノ微粒子を、再現性良く製造できることが明らかとなった。
【0027】
ゆえに、本発明の磁気ナノ微粒子[Mn(1−x)ZnFe]は、その組成比xを変えるだけで、最大磁化Mmax の大きさを広範囲に、かつ、自在に狙った数値となるように、制御して製造できる。つまり、生体に投入して利用する用途先[たとえば、DDS(薬剤輸送)や磁気ハイパーサーミア(癌温熱療法)、MRI造影剤]で求められる最大磁化Mmax の磁気ナノ微粒子が、所定の粒径を保ちながら、本発明によって安定に製造できる。
【0028】
<交流磁化率測定>
SQUID磁束計を用いて交流磁化率の測定を行った。SQUID磁束計では、交流磁化率の実効成分と遅れ成分を同時に測定できる。
図5は、粒径を変えた磁気ナノ微粒子の交流磁化率虚数部の温度依存性を示すグラフである。図5において、横軸は温度[K]、縦軸は交流磁化率虚数部χ”[10−2emug−1Oe−1]である。交流磁化率虚数部χ”は、交流磁化を印加した場合、発熱に寄与する成分である。この測定には、周波数100[MHz]、磁場強度1[Oe]の交流磁場を用いた。
【0029】
図5から、粒径を変えた磁気ナノ微粒子の試料において、χ”を最大にする温度(ピーク温度)を確認することができる。試料の粒径が大きくなるにつれて、ピーク温度が高温側にシフトすることが確認された。これは、粒径が大きくなるにつれて、異方性が大きくなるためである。室温付近(310[K])では、粒径18[nm]の試料がピーク(P18)を示し、最も値が大きかった。ネール理論によると、この条件で最も熱散逸が効率よく働くと考えられる。
【0030】
これまでの研究成果(特許文献4)を用い、本発明の磁気ナノ微粒子[Mn(1−x)ZnFe]に機能化を施し、癌細胞に選択的に導入されることを確認した。そこで、実際に癌細胞を培養し、交流磁場を印加してin vitro実験を行ったところ、飛躍的なハイパーサーミア効果が観察できた。
【0031】
図6は、粒径を変えた磁気ナノ微粒子の交流磁場中における温度変化を示すグラフである。図6において、横軸は時間[sec]、縦軸は上昇温度[K]である。
図6より、磁気ナノ微粒子の温度は、粒径に依存せず、時間経過に伴い上昇傾向を示し、所望の時間を経ると、飽和することが分かった。また、所望の粒径からなる磁気ナノ微粒子を選択するだけ、所定の上昇温度が安定して得られることが確認された。中でも、粒径が18[nm]の試料αが、飽和時の温度が最も高いことが確認された。
【0032】
試料α(x=0.2)よりxが小さい試料β(0<x<0.2)では、xの減少に伴い飽和時の温度が大幅に低減する傾向(13→4.5)を示した。試料β(0<x<0.2)において、所定の組成比xとすることにより、上昇温度を広い範囲(13〜4.5)の中から自在に選択できる。
【0033】
これに対して、試料α(x=0.2)よりxが大きい試料γ(0.2<x<1)では、xの増加に伴い飽和時の温度が徐々に低減する傾向(13→10.5)を示した。試料γ(0.2<x<1)は、所定の組成比xとすることにより、上昇温度を狭い範囲(13〜10.5)の中か精密に選択できる。
【0034】
これにより、本発明の磁気ナノ微粒子は、外部磁場印加時の上昇温度[℃]が4〜14の範囲内になることが確認された。よって、被験者の体温が37℃の場合に局所的温度が42℃以上に昇温するので、本発明の磁気ナノ微粒子は温熱療法に適する。
【0035】
図7は、磁気ナノ微粒子の粒径と熱放出(Heat Dissipation)との関係を示すグラフである。□印が実測値、○印がネール理論に基づく計算値である。
図7より、粒径の異なる磁気ナノ微粒子における熱放出は、実測値と計算値が同じ傾向を示した。粒径が18[nm]の試料αが、熱放出が最も高いことが確認された。
【0036】
図8は、粒径18nmの磁気ナノ微粒子における磁場と熱放出との関係を示すグラフである。横軸のh(×10[Oe])は、特定の関係式「P=μπχ”fh」にて表わされるものであり、縦軸は熱放出(Heat Dissipation)である。粒径の異なる磁気ナノ微粒子における熱放出とh(×10[Oe])とは、所定の傾斜をもつ直線上にプロットされることから、本発明の磁気ナノ微粒子は、特定の関係式(ネール理論)との一致が確認された。
【0037】
図9は、磁気ナノ微粒子の粒径と粉末X線回折パターンとの関係を示すグラフである。図9において、(a)〜(f)は順に、磁気ナノ微粒子[Mn(1−x)ZnFe]の粒径dを変えた試料[d=7.7,13.1,16.1,18.1,22.1,31.0]の評価結果である。全ての試料において、組成比xは0.2である。
【0038】
図9(a)〜(f)の各図において、指数付けされたピークより、全ての試料(x=0〜1)は、スピネル型結晶構造をもつことが分かった。また、他に不純物のピークが無いことから、粒径dに依存することなく、目的とした試料が単相で得られたことが、図9により確認された。さらに、各スペクトル(d=7.7〜31.0)において、横軸2θ=20°付近に観測されるブロードなピークから、何れの試料(d=7.7〜31.0)にも、アモルファスSiOの存在が確認された。これより、作製した試料が、粒径dに依存することなく、アモルファスSiOを含有していることが明らかとなった。
【0039】
図10は、磁気ナノ微粒子の粒径と磁化との関係を示すグラフであり、室温(310K)における磁化曲線である。図10において、横軸は印加磁場、縦軸は磁化である。
図10は、磁気ナノ微粒子[Mn(1−x)ZnFe]の粒径dを変えた試料[d=7.7,13.1,16.1,18.1,22.1,31.0]を用意し、各試料ごとに磁化曲線を測定した結果である。全ての試料において、組成比xは0.2である。
図10より、粒径dが大きくなるにつれて、本発明の磁気ナノ微粒子の最大磁化Mmax は大きくなることが確認された。
【0040】
図11は、粒径を変えた磁気ナノ微粒子の交流磁化率実数部χ’の温度依存性を示すグラフである。図12は、粒径を変えた磁気ナノ微粒子の交流磁化率虚数部χ”の温度依存性を示すグラフである。全ての試料において、組成比xは0.2である。
図11図12は、前述した図5と同じ測定、すなわち、SQUID磁束計を用いて交流磁化率の測定を行った結果である。
図11において、横軸は温度[K]、縦軸は交流磁化率虚数部χ’[10−2emug−1Oe−1]である。図12において、横軸は温度[K]、縦軸は交流磁化率虚数部χ”[10−3emug−1Oe−1]である。
【0041】
図11図12から、粒径を変えた磁気ナノ微粒子の試料において、χ’とχ”を最大にする温度(ピーク温度)を確認することができる。試料の粒径が大きくなるにつれて、ピーク温度が高温側にシフトすることが確認された。これは、粒径が大きくなるにつれて、異方性が大きくなるためである。χ’とχ”の何れも、室温付近(310[K])では、粒径18[nm]の試料がピーク(P18)を示し、最も値が大きかった。ネール理論によると、この条件で最も熱散逸が効率よく働くと考えられる。
【0042】
<MRI測定(粒径依存性)>
図13は、粒径を変えた磁気ナノ微粒子のT緩和曲線を示すグラフである。スピンエコー法によりT緩和測定を行い、緩和率Rを算出した。緩和率Rの算出が、式ISB=N・K・exp(−TE/T)にフィッティングすることで求めた。全ての試料において、組成比はx=0.2である。すなわち、図13は、本発明の磁気ナノ微粒子[Mn(1−x)ZnFe]の試料について、MRの緩和時間を測定し、同様に粒径依存性を分析した結果である。
【0043】
図13より、本発明の磁気ナノ微粒子[Mn(1−x)ZnFe]の試料は、粒径に依存せず、優れた緩和率Rを示すことが確認された。
図14は、粒径を変えた磁気ナノ微粒子の緩和率Rを示すグラフである。図14から、(粒径[nm]、緩和率R)は、(7.7,27.2)、(13.1,37.3)、(16.1,37.2)、(18.1,53.8)、(22.1,46.8)、(31.0,38.0)である。特に、前述した条件(粒径18[nm])の試料(×印)が、最も高い緩和率Rを示すことが分かった。この試料は超常磁性を示し、最大磁化Msは45.2[emu/g]であり、磁気緩和現象が温熱および造影のパラメータに寄与していると考えられる。これより、MRIの造影剤としても、超常磁性が適していることが示された。
【0044】
<粒度分布>
MRI測定を行う際、微粒子を水中に分散しアガロースで固化させる。そこで、水中における分散性を評価するために、粒径が13.1[nm]である磁気ナノ微粒子[Mn(1−x)ZnFe]の粒度分布を測定した。この試料において、組成比xは0.2である。図15は、その測定結果であり、磁気ナノ微粒子の粒度分布を示すグラフである。このグラフから、メジアン径=19.9[nm]と、平均径=64.6[nm]とを算出した。この測定結果より、二次粒子にばらつきがあることが分かった。
【0045】
組成比xが0.2である磁気ナノ微粒子[Mn(1−x)ZnFe]を用い、この磁気ナノ微粒子の水中における様子を、大気圧走査電子顕微鏡で観察した。図16は、大気圧走査電子顕微鏡を用い、磁気ナノ微粒子の水中における様子を観察した結果を示す写真である。
図16より、磁気ナノ微粒子は、水中において、ブラウン運動をしていることが観察された。サークル(○印)で囲んだ粒子1〜4のブラウン運動の移動距離より、次の2つの式を用いて粒径を算出した。ここで、Dは拡散係数、Rは気体定数、Tは温度、Nはアボガドロ数、μは粘性係数(298Kで8.9×10−9[kg・m−1・s−1])、aは粒径、xは移動距離、tは時間である。
【0046】
【数1】
【0047】
【数2】
【0048】
その結果、粒子1の粒径は1.1[μm]、粒子2の粒径は3.4[μm]、粒子3の粒径は5.5[μm]、粒子4の粒径は12.6[μm]であることが分かった。
【0049】
<大気圧走査電子顕微鏡による観察結果と磁気ナノ微粒子の造影効果との関連性>
上述した大気圧走査電子顕微鏡による観察により、本発明の磁気ナノ微粒子[Mn(1−x)ZnFe]は全て、ナノ粒子であり、T短縮効果が確認された。粒度分布測定と大気圧走査電子顕微鏡による観察において、二次粒径に分布が見られた。二次粒子の分布により、微粒子の磁化にも分布が生じたと考えられる。その結果、プロトンの歳差運動のラーモア周波数に差が生じ、位相の分布が起きることで、T短縮効果につながったと考えられる。
【0050】
<組成の異なる磁気ナノ微粒子の磁気特性と緩和率Rとの関連性>
図17は、組成比を変えた磁気ナノ微粒子の最大磁化Mmax と緩和率Rとの関係を示すグラフである。このグラフを用いて、最大磁化Mmax と緩和率Rとの関連性を検証した。上述した300[K]における磁化測定では、最大で50[kOe]の磁場を印加しながら磁化を測定した。その結果、全ての試料が50[kOe]印加時に最大磁化Mmax を示した。図17より、最大磁化Mmax が大きくなるにつれて緩和率Rも大きくなることから、両者には関連性があると考えられる。
【0051】
<粒径の異なる磁気ナノ微粒子の磁気特性と緩和率Rとの関連性>
図18は、粒径を変えた磁気ナノ微粒子の最大磁化Mmax と緩和率Rとの関係を示すグラフである。図18より、粒径18.1[nm]の試料が最も緩和率Rが高いことが確認された。しかし、最大磁化Mmax と緩和率Rとの関係は認められなかった。
最大磁化Mmax と緩和率Rとの関係が確認できなかった理由として、磁性の振る舞いが関連していると考えられる。交流磁化率測定より室温300[K]において、粒径18.1[nm]以下で強磁性から超常磁性へと転移していると考えられる。超常磁性的な振る舞い、かつ、最大磁化Mmax の大きい粒径18.1[nm]で緩和率Rが最大となった。
磁化測定と交流磁化率測定の結果より、磁性の振る舞いと最大磁化Mmax が関連していると考えられる。
【0052】
<磁気ナノ微粒子によるT緩和促進作用>
上述したとおり、組成比xが0.2である磁気ナノ微粒子[Mn(1−x)ZnFe]においては、超常磁性的な振る舞い、かつ、最大磁化Mmax の大きい粒径18.1[nm]で緩和率Rが最大であった。プロトンの歳差運動のラーモア周波数ωは、以下の式で表わされる。
【0053】
【数3】
【0054】
この式から、ラーモア周波数ωは磁場Bに比例している。スピンエコー法での撮影の際に、RFパルスを照射する。RFパルスは電磁波なので、交流磁場を発生させる。この交流磁場によって微粒子の磁気モーメントが乱れ、付近のプロトン回りの磁場が変化する。この磁場の変化により歳差運動のラーモア周波数ωに差が生まれることにより巨視的磁化が減少する。その結果、シグナルが低下することにより、T緩和が促進されたと考えられる。
【0055】
<MRI測定(組成依存性)>
図19は、組成比xを変えた磁気ナノ微粒子のT緩和曲線を示すグラフである。図13と同様に、スピンエコー法によりT緩和測定を行い、緩和率Rを算出した。緩和率Rの算出は、式ISB=N・K・exp(−TE/T)にフィッティングすることで求めた。全ての試料において、粒径[nm]はおよそ7.0である。
図19より、本発明の磁気ナノ微粒子[Mn(1−x)ZnFe]の試料は、組成比に依存せず、優れた緩和率Rを示すことが確認された。
【0056】
図20は、組成比xを変えた磁気ナノ微粒子の緩和率Rを示すグラフである。図21から、(組成比x、緩和率R)は、(0,20.0)、(0.2,25.0)、(0.5,19.0)である。特に、前述した条件(組成比x=0.2)の試料(◇印)が、最も高い緩和率Rを示すことが分かった。この試料は超常磁性を示し、最大磁化Msは45.2[emu/g]であり、磁気緩和現象が温熱および造影のパラメータに寄与していると考えられる。組成依存性の結果からも、MRIの造影剤として、超常磁性が適していることが示された。
【0057】
以上、本発明の磁気ナノ微粒子について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、DDS(薬剤輸送)や磁気ハイパーサーミア(癌温熱療法)、MRI造影剤といった医療分野への応用に広く適用可能である。
図1
図2
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