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特開2017-55057光子放出素子、量子デバイス及び光子放出素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-55057(P2017-55057A)
(43)【公開日】2017年3月16日
(54)【発明の名称】光子放出素子、量子デバイス及び光子放出素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/06 20100101AFI20170224BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20170224BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20170224BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20170224BHJP
   G01Q 80/00 20100101ALI20170224BHJP
【FI】
   H01L33/00 112
   G02B5/20
   B82Y20/00
   B82Y40/00
   G01Q80/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-179749(P2015-179749)
(22)【出願日】2015年9月11日
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
【住所又は居所】神奈川県横浜市保土ヶ谷区常盤台79番1号
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(72)【発明者】
【氏名】向井 剛輝
【住所又は居所】神奈川県横浜市保土ヶ谷区常盤台79番1号 国立大学法人横浜国立大学内
【テーマコード(参考)】
2H148
5F241
【Fターム(参考)】
2H148AA00
5F241AA03
5F241CA34
5F241CA41
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高効率、高指向性を備えるコンパクトな光子放出素子を提供する。
【解決手段】本発明の光子放出素子は、半導体からなる基板1と、前記基板の一面または内部に設けられた量子ドット2と、前記基板に対して平面視で量子ドットを囲み、延在方向に端部を有するメタマテリアル3と、を備える光子放出素子。さらに量子ドットが、前記メタマテリアルによって囲まれる領域の中央に配置され、同一平面上に存在する光子放出素子。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体からなる基板と、
前記基板の一面または内部に設けられた量子ドットと、
平面視で前記量子ドットを囲み、延在方向に端部を有するメタマテリアルと、を備える光子放出素子。
【請求項2】
前記量子ドットが、前記メタマテリアルによって囲まれる領域の中央に配置されている請求項1に記載の光子放出素子。
【請求項3】
前記量子ドットと前記メタマテリアルとが、同一平面上に存在する請求項1または2のいずれかに記載の光子放出素子。
【請求項4】
前記量子ドットが、化学合成量子ドットである請求項1〜3のいずれか一項に記載の光子放出素子。
【請求項5】
前記基板が、シリコンの単結晶基板である請求項1〜4のいずれか一項に記載の光子放出素子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の光子放出素子を備える量子デバイス。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の光子放出素子の製造方法であって、
量子ドットを設置するための凹部及びメタマテリアルを走査型プローブ顕微鏡によるリソグラフィーを用いて作製する光子放出素子の製造方法。
【請求項8】
前記量子ドットを設置するための凹部及び前記メタマテリアルを同時に作製する請求項7に記載の光子放出素子の製造方法。
【請求項9】
下地基板の一面に量子ドットを設置するための凹部を走査型プローブ顕微鏡によるリソグラフィーを用いて作製する工程と、
前記凹部に量子ドットを設置する工程と、
前記凹部が形成された面に、下地基板と同一材料からなる平坦化層を成膜する工程と、
前記平坦化層の外表面に前記メタマテリアルを走査型プローブ顕微鏡によるリソグラフィーを用いて作製する工程と、を有する請求項7に記載の光子放出素子の製造方法。
【請求項10】
下地基板の一面に前記メタマテリアルを走査型プローブ顕微鏡によるリソグラフィーを用いて作製する工程と、
前記メタマテリアルが形成された面に、下地基板と同一材料からなる平坦化層を成膜する工程と、
前記平坦化層の外表面に、前記凹部を走査型プローブ顕微鏡によるリソグラフィーを用いて作製する工程と、
前記凹部に量子ドットを設置する工程と、を有する請求項7に記載の光子放出素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光子放出素子、量子デバイス及び光子放出素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代の高セキュリティ情報伝送・高速情報処理を実現するために量子情報技術の研究が進められている。量子情報処理を固体素子によって実現するための技術として量子ドット(QD)を用いた研究が進められている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、SK(Stranski−Krastanow)型自己形成量子ドットを用いた単一光子発生器が記載されている。
【0004】
量子ドットは化学合成によって作製することもできる。例えば、非特許文献2には、化学合成によって作製された化学合成量子ドットの球対称性を高める合成方法について記載されている。
非特許文献3には、走査型プローブ顕微鏡(SPM)によるリソグラフィーを用いて量子ドットを設置するための凹部を作製し、量子ドットの位置を制御できることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】C.Santori et al.,Phys.Rev.B,vol.66,p045308(2002).
【非特許文献2】S.Nakashima,K.Mukai et al.,Journal of Crystal Growth,vol.378,pp537(2013).
【非特許文献3】K.Mukai et al.,Jpn.J.Appl.Phys.vol.54,04DJ02(2015).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、コンパクトで、十分な高効率、高指向性を備える光子放出素子を実現することができなかった。
例えば非特許文献1に記載されたSK型自己形成量子ドットは、基板上に形成されるため、扁平な形状となる。そのため、基板に垂直な方向への対称性が著しく低い。また結晶成長速度差によって面内対称性が損なわれることも多い。
【0007】
形状が非対称性な量子ドットは、量子もつれ合い状態の光子対を発生させることができない。量子もつれ合い状態の光子対とは、偏光の重ねあわせ状態にある光子対である。扁平な形状のSK型自己形成量子ドットからは、特定の偏光を有する光しか得ることができない。量子情報技術は、量子もつれ合い状態の光を礎に成り立っており、量子もつれ合い状態の光を得ることができないことは、実用化の妨げになる。
【0008】
これに対し、例えば非特許文献2に記載された化学合成量子ドットは、基板に拘束されない結晶成長をする。そのため、化学合成量子ドットは3次元的な対称性が高い。化学合成量子ドットは、主に、バイオ研究用の蛍光マーカ(標識)等に利用されている。
しかしながら、化学合成量子ドットは発光明滅(ブリンキング)現象が生じることが知られている。ブリンキング現象が生じるということは、量子ドットに励起光を加えた際に、量子ドットが発光するか発光しないか不確定であるということである。量子ドットの発光が不確定であるということは、励起光を入射するという入力に対する出力が不確定ということである。この不確定さは、量子コンピュータ等において出力結果の信用度を下げるため、量子情報処理技術の実用化を阻害する。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、高効率、高指向性を備えるコンパクトな光子放出素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討の結果、量子ドットをメタマテリアルに対して所定の位置に配設することによって、発光の高速化、発光効率の増大、ブリンキング現象の抑制、放射光の指向性等を高めることができることを見出した。
また発明者らの独自技術であるSPMリソグラフィーを用いた量子ドットの位置制御技術を利用することで、メタマテリアルと量子ドットの位置関係をナノオーダーの精度で制御し、上述の光子放出素子を実現できることを見出した。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0011】
本発明の一態様に係る光子放出素子は、半導体からなる基板と、前記基板の一面または内部に設けられた量子ドットと、平面視で前記量子ドットを囲み、延在方向に端部を有するメタマテリアルと、を備える。
【0012】
本発明の一態様に係る光子放出素子において、前記量子ドットが、前記メタマテリアルによって囲まれる領域の中央に配置されていてもよい。
【0013】
本発明の一態様に係る光子放出素子において、断面視で前記量子ドットと前記メタマテリアルとが、同一平面上に作製されていてもよい。
【0014】
本発明の一態様に係る光子放出素子において、前記量子ドットが、化学合成量子ドットであってもよい。
【0015】
本発明の一態様に係る光子放出素子において、前記基板が、シリコンの単結晶基板であってもよい。
【0016】
本発明の一態様に係る量子デバイスは、本発明の一態様に係る光子放出素子を備える。
【0017】
本発明の一態様に係る光子放出素子の製造方法は、上記の光子放出素子の製造方法であって、量子ドットを設置するための凹部及びメタマテリアルを走査型プローブ顕微鏡によるリソグラフィーを用いて作製する。
【0018】
本発明の一態様に係る光子放出素子の製造方法において、前記量子ドットを設置するための凹部及び前記メタマテリアルを同時に作製してもよい。
【0019】
本発明の一態様に係る光子放出素子の製造方法において、下地基板の一面に量子ドットを設置するための凹部を走査型プローブ顕微鏡によるリソグラフィーを用いて作製する工程と、前記凹部に量子ドットを設置する工程と、前記凹部が形成された面に、下地基板と同一材料からなる平坦化層を成膜する工程と、前記平坦化層の外表面に前記メタマテリアルを走査型プローブ顕微鏡によるリソグラフィーを用いて作製する工程と、を有してもよい。
【0020】
本発明の一態様に係る光子放出素子の製造方法において、下地基板の一面に前記メタマテリアルを走査型プローブ顕微鏡によるリソグラフィーを用いて作製する工程と、前記メタマテリアルが形成された面に、下地基板と同一材料からなる平坦化層を成膜する工程と、前記平坦化層の外表面に、前記凹部を走査型プローブ顕微鏡によるリソグラフィーを用いて作製する工程と、前記凹部に量子ドットを設置する工程と、を有してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高効率、高指向性を備えるコンパクトな光子放出素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1実施形態に係る光子放出素子の斜視模式図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る光子放出素子の断面模式図である。
図3】メタマテリアルの形状の別の具体例を示す図である。
図4】第2実施形態に係る光子放出素子の断面模式図である。
図5】第3実施形態に係る光子放出素子の断面模式図である。
図6】SPMによる酸化のメカニズムを模式的に示した図である。
図7】光放出素子の製造方法における製造過程を模式的に示した図である。
図8】走査型プローブ顕微鏡による断面画像であり、(a)は凹部形成後の断面画像であり、(b)はPbSを分散した溶液を滴下後の断面画像である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。
以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0024】
(光子放出素子、量子デバイス)
図1は、本発明の第1実施形態に係る光子放出素子の斜視模式図である。また図2は、本発明の第1実施形態に係る光子放出素子の断面模式図である。光子放出素子10は、基板1と、量子ドット2と、メタマテリアル3とを備える。
【0025】
基板1は、量子ドット2及びメタマテリアル3を支持する。基板1を構成する材料は、半導体であれば特に問わない。例えば、シリコン、ガリウムヒ素等を用いることができる。近年高い注目を集めているシリコンフォトニクスデバイスとして光子放出素子10を用いることを考えると、基板1を構成する材料はシリコンであることが好ましい。
【0026】
第1実施形態に係る光子放出素子10において基板1は、単結晶基板からなることが望ましい。単結晶からなる基板1は、基板1の一面1Aの平坦度が高い。そのため、量子ドット3の位置制御性を高めることができる。
【0027】
量子ドット2は、基板1の一面1Aに設けられた凹部1Bに設けられている。量子ドット2は、3次元の量子井戸構造を作製する原子から構成された数nm〜50nm程度の粒径を有する発光性ナノ粒子である。
【0028】
量子ドット2として用いられる量子ドットは3次元対称性の高いものであれば、種類、物性及び形態は特に限定されるものではないが、化学合成量子ドットを用いることが好ましい。
【0029】
化学合成量子ドットは、化学反応で微結晶を成長させることにより合成される量子ドットである。化学合成量子ドットは、結晶成長する半導体基板への面方位依存性を有するエピタキシャル量子ドットと異なり、球対称性が高い。そのため、量子もつれ合い状態の光子対を発生させることができる。
【0030】
量子ドット2として用いる化学合成量子ドットの材質は特に限定されない。例えば、量子ドット2の材質として、PbS、InAs、PbSe等を用いることができる。光通信波長帯である1.3μm〜1.5μmの波長の光を効率的に発光させるためには、PbSを用いることが特に好ましい。
【0031】
メタマテリアル3は、パーセル効果により量子ドット2から放出する光子を増加させる共振器として機能する。パーセル効果とは、原子や分子の発光帯が局在モードの周波数に一致すると発光が促進される現象を意味する。本発明の一態様における光放出素子10においては、原子や分子の発光帯が量子ドット2の発光周波数に対応し、局在モードの周波数がメタマテリアル3内のプラズモンの共鳴周波数に対応する。
【0032】
メタマテリアル3内のプラズモンの共鳴周波数について説明する。プラズモンとは、金属中の自由電子が集団的に振動して擬似的な粒子としてふるまう状態をいう。本発明の一態様における光放出素子10では、量子ドット2から発生した電磁波が、メタマテリアル3内の電子を振動させる。この電子の振動がメタマテリアル3内のプラズモンに対応する。メタマテリアル3は、形状に起因した固有振動数を有し、この固有振動数がメタマテリアル3内のプラズモンの共鳴周波数になる。
【0033】
例えば、メタマテリアル3の形状が図1に示すようなC字型の1重スプリットリングの場合、共鳴波長λはλ=2πc(LC)1/2で表され、この逆数が共鳴周波数となる。ここでLはインダクタンス、Cは静電容量、cは光速である。図1に示すようなC字型の1重スプリットリング内を電子が移動するということは、開口部3Aをコンダクタとした模式的なLC回路内を電流が流れたと換言することができ、LC回路の共振周波数がメタマテリアル3内のプラズモンの共鳴周波数になる。
【0034】
メタマテリアル3の形状は、図1に示すC字型の1重スプリットリングに限られない。メタマテリアル3が延在方向に端部を有すれば、その両端部の間で波が振動し、固有振動数が決定する。この固有振動数がメタマテリアル3内のプラズモンの共鳴周波数に対応する。すなわち、パーセル効果により量子ドット2から放出する光の強度を増加させる共振器として機能するためには、メタマテリアル3は延在方向に端部を有すればよい。
【0035】
図3は、メタマテリアルの形状の別の具体例を示す図である。
図3(a)に示すメタマテリアル13は、1つの開口部13Aを有するC字型のスプリットリングが2重に形成された2重スプリットリングである。開口部13Aにより内側のリング及び外側のリングのそれぞれが延在方向に端部を有する。この場合、共鳴波長λは、λ=(π/3w)1/2で表記される。このときrは最外周のメタマテリアル13の半径、wは2つのリングの間隔である。
【0036】
図3(b)に示すメタマテリアル23は、矩形の構造体の4か所を開口部23Aで分断した形状を有する。開口部23Aによる分断により端部が形成される。この場合、共鳴波長は、λ=2πc(LC)1/2/n1/2で表記される。このときLはインダクタンス、Cは静電容量、cは光速、nは分断した数である。
【0037】
図3(c)に示すメタマテリアル33は、渦状に形成されたスイスロール形状を有する。この場合、共鳴波長は、λ=(2επ(N−1)/w)1/2で表記される。このときεはロールの隙間に存在する物質の誘電率、rはメタマテリアル33に外接する円の半径、Nは渦の巻き数、wはロールの間隔である。
【0038】
メタマテリアル3は、平面視で量子ドット2を囲むように配設されている。メタマテリアル3が平面視で量子ドット2を囲むように配設されることで、量子ドット2から放射された電磁波が、メタマテリアル3内のプラズモンを効率よく誘起することができる。
【0039】
量子ドット2は、メタマテリアル3によって囲まれる領域の中央に配置されていることが好ましい。メタマテリアル3によって囲まれる領域の中央に量子ドット2が配置することで、メタマテリアル3におけるプラズモンの誘起を周方向均一にすることができる。
【0040】
メタマテリアル3の大きさは、量子ドット2の発光周波数とメタマテリアル3の形状から適宜設定することができる。例えば、図1に示す第1実施形態のメタマテリアル3の構造において、光通信波長帯である1.3μm〜1.5μmの波長の光を得るためには、メタマテリアル3の直径を434nmとすることが好ましい。図3(a)に示すメタマテリアル13においては、その最外周のメタマテリアル13の直径を888nmとすることが好ましい。図3(b)に示すメタマテリアル23においては、その矩形の形状の一辺を988nmとすることが好ましい。図3(c)に示すメタマテリアル33においては、そのメタマテリアル33に外接する円の直径を1860nmとすることが好ましい。
【0041】
メタマテリアル3は、自由電子の移動によりプラズモンを生じるため、少なくとも一部が金属によって形成されていることが好ましい。例えば、図1では、半導体からなる基部3a上に金属層3bを積層することによりメタマテリアル3を形成している。半導体も一部自由電子を有するが、金属層3bを有することで量子ドット2から生じる電磁波により誘起されるプラズモンの共振強度を高めることができる。
【0042】
また図2に示すように、量子ドット2とメタマテリアル3とが同一平面上に存在することが好ましい。量子ドット2から放射される光は面内方向に指向性を有する。メタマテリアル3内を動く電子に伴い、基板と垂直方向に誘導磁気モーメントが生じ、光の放射方向が面内方向に指向されるためである。
量子ドット2とメタマテリアル3とが同一平面上に存在すれば、効率よくパーセル効果が発現し、光放出素子10から放出される光の強度を高めることができる。
【0043】
これに対し、必ずしも量子ドット2とメタマテリアル3は同一平面上に存在しなくてもよい。量子ドット2とメタマテリアル3は、光放出素子10の放射効率の観点からは同一平面上に存在していることが好ましい。一方で、後述する光放出素子10を製造する観点から考えると、それぞれ異なる平面上に存在していてもよい。
【0044】
例えば、図4は、第2実施形態に係る光子放出素子の断面模式図である。第2実施形態に係る光子放出素子40は、基板41が下地基板41aと平坦化層41bからなり、下地基板41a上に量子ドット2が形成され、平坦化層41b上にメタマテリアル3が形成されている点が第1実施形態に係る光子放出素子10と異なる。下地基板41aは、例えば単結晶基板であり、平坦化層41bはスパッタ等の成膜手段により形成された層である。この構成によれば、量子ドット2とメタマテリアル3を段階的に製造することができる。
【0045】
この他に、図5は、第3実施形態に係る光子放出素子の断面模式図である。第3実施形態に係る光子放出素子50は、基板51が下地基板51aと平坦化層51bからなり、下地基板51a上にメタマテリアル3が形成され、平坦化層51b上に量子ドット2が形成されている点が第1実施形態に係る光子放出素子10と異なる。下地基板51aは、例えば単結晶基板であり、平坦化層51bはスパッタ等の成膜手段により形成された層である。この構成においても、量子ドット2とメタマテリアル3を段階的に製造することができる。
【0046】
ここまで、光子放出素子の構成について説明した。次いで、光子放出素子の動作原理について説明する。第1〜第3実施形態に係る光子放出素子の動作原理はいずれも同一であるため、図1に示す第1実施形態に係る光子放出素子10を基に説明を行う。
【0047】
光子放出素子10に光を照射すると、量子ドット2内の電子が励起され発光する。このとき照射する光源は特に問わない。例えば、量子ドット2をPbSからなる化学合成量子ドットとすることで、発光する光の波長を光通信波長帯である1.3μm〜1.5μmとすることができる。
【0048】
発光により生じた光(電磁波)は、メタマテリアル3における自由電子を動かす。自由電子は、メタマテリアル3に沿ってしか動くことができないため、面内方向と垂直な方向に磁場が生じる。量子ドット2から生じる電磁波はこの磁場の影響を受け、光子放出素子10の面内方向に指向する。
【0049】
またメタマテリアル3内にはプラズモンが誘起される。メタマテリアル3内のプラズモンは、メタマテリアル3の構造に起因した共鳴周波数に従って振動する。この共鳴周波数と、量子ドット2から発光する光の発光周波数が一致すると、エキシトンプラズモンカップリングに伴う、パーセル効果が生じる。その結果、量子ドット2からの発光が促進され、面内方向に高い指向性を有する光が、高い発光効率で放射される。
またこのパーセル効果に伴い、量子ドット2の発光状態が一義的に決められ、量子ドット2のブリンキング現象が改善される。
【0050】
上述にように、本発明の一態様に係る光放出素子を用いると、パーセル効果により量子ドットからの光子放出を促進することができる。そのため、光放出素子の発光効率を高めることができる。
【0051】
また本発明の一態様に係る光放出素子においては、量子ドットを囲むようにメタマテリアルが配置していることにより、量子ドットの発光を面内方向に指向することができる。発光する光が面内方向に指向しているため、この指向方向に光導波路等を設けることで量子デバイスとしてプレーナー回路等を実現することができる。
【0052】
また本発明の一態様に係る光放出素子においては、量子ドットの電子状態を一義的に決定することができ、量子ドットのブリンキング現象を改善ことができる。すなわち、量子ドットを必要に応じて発光させることができ、量子情報処理技術への適用性が高い。
【0053】
また本発明の一態様に係る光放出素子は、フォトニック結晶キャビティのような大面積かつ高精度な繰り返し構造を有さないため、コンパクトな光放出素子を得ることができる。
【0054】
(光放出素子の製造方法)
本発明の一態様に係る光放出素子の製造方法は、量子ドット及びメタマテリアルを走査型プローブ顕微鏡(SPM)によるリソグラフィーを用いて作製する工程を有する。
【0055】
第1実施形態に係る光子放出素子10の製造方法について説明する。
まず半導体からなる処理前基板を準備する。処理前基板は、量子ドット及びメタマテリアルを作製する面が清浄かつ平坦な面であることが好ましいため、単結晶であることが好ましい。
【0056】
次いで、処理前基板の表面の所定の箇所をSPMによるリソグラフィーを用いて酸化する。図6は、SPMによる酸化のメカニズムを模式的に示した図である。
図6に示すようにSPMのプローブを処理前基板61の所定の領域に近づけると、大気中の水分がプローブ63のチップ先端63aに付着し、チップ先端63aと処理前基板61の間に水64の柱が表面張力により形成される。チップ先端63aと処理前基板61の間に電圧を印加すると、水64がHとOHに電気分解される。電圧の印加を処理前基板61側の電位が正となるようにすることで、電気分解により生じたOHを処理前基板61側に移動させ、処理前基板61の一部を酸化し、酸化部62を作製する。
【0057】
図7(a)〜(d)は、光放出素子の製造方法における製造過程を模式的に示した図である。まず図7(a)に示すように、準備した処理前基板61の一部をSPMリソグラフィーにより酸化する。酸化は、SPMのプローブを処理前基板61の全体をスキャンさせることによって行う。この際、光放出素子のメタマテリアルになる部分は酸化処理を行わない。そのため、光放出素子のメタマテリアルになる部分は、図7(a)に示す未処理面61aとなる。
【0058】
またSPMリソグラフィーによる酸化処理を行う際には、処理前基板61の量子ドットを配置するための凹部に対応する部分を避けるように、SPMのプローブのチップ先端63をスキャンさせる。図6に示すように、SPMリソグラフィーによって形成される酸化部62は、処理前基板61のチップ先端63aと対向する部分を中心にある程度の広がりを有する。そのため、量子ドットを配置するための凹部に対応する部分を避けるようにSPMのプローブのチップ先端63をスキャンさせると、処理前基板61の量子ドットを配置するための凹部に対応する部分には、酸化膜厚の薄い凹部形成用酸化領域62aが形成される。
【0059】
次いで、図7(b)に示すように、表面の一部が酸化された処理前基板61の酸化部62が形成された側の面にメッキ処理を施す。メッキ処理は、公知の電気メッキ等を用いることができる。電気メッキにより形成される金属膜は、通電が生じる部分にのみ形成される。そのため、酸化部62及び凹部形成用酸化領域62aには金属膜が形成されず、未処理面61a上にのみ金属膜65が形成される。
【0060】
次いで、図7(c)に示すように、金属膜65が形成された処理前基板61の処理面に、ドライエッチング処理を施す。ドライエッチング処理を施すと、酸化部62及び凹部形成用酸化領域62aが、すこしずつエッチングされる。凹部形成用酸化領域62aは膜厚が薄いため、酸化部62より先に下地の処理前基板61が露出する。酸化されていない処理前基板61は、酸化された部分よりもエッチング速度が速い。そのため、凹部形成用酸化領域62aが形成されていた部分は、ドライエッチング後に凹部1Bが形成される。
【0061】
最後に、フッ酸等によりエッチングすることにより、酸化部62のみを選択エッチングする。これにより、図7(d)に示すように、凹部1B及びメタマテリアル3が形成された基板1を得ることができる。
【0062】
そして、凹部1B及びメタマテリアル3が形成された基板1の凹部1Bに向けて、量子ドットを含んだ液滴を滴下し、洗い流す。このとき量子ドットが凹部1Bに填まり、図2に示す光放射素子10を得ることができる。
【0063】
この方法によれば、後述する第2実施形態に係る光子放出素子40及び第3実施形態に係る光子放出素子50の製造過程において必要な平坦化層の形成工程を削除することができる。また平坦性の高い単結晶基板上でSPMリソグラフィーを行うことができるため、位置精度を高めることができる。
【0064】
次に、第2実施形態に係る光子放出素子40の製造方法及び第3実施形態に係る光子放出素子50の製造方法について、図4及び図5を基に説明する。これらの製造方法は、量子ドット2を作製するための凹部41B,51Bと、メタマテリル3を同一面上に形成していない点が異なる。
【0065】
図4に基づき、第2実施形態に係る光子放出素子40の製造方法について説明する。まず、下地基板41aを準備する。下地基板41aは、量子ドットを作製するため、単結晶であることが好ましい。
【0066】
準備した下地基板41aの凹部41Bを形成したい部分をSPMリソグラフィーにより酸化する。そして酸化した部分を上述の方法と同様に選択性エッチングにより除去し、凹部41Bを作製する。
【0067】
凹部41Bに量子ドットを含んだ液滴を滴下し、洗い流す。このとき量子ドット2が凹部41Bに填まる。これにより所定の位置に量子ドット2が配設された下地基板41aが形成される。
【0068】
次いで、下地基板41aの量子ドット2が配設された面に、下地基板41aと同一の材料からなる平坦化層41bをスパッタ等により成膜する。平坦化層41bの厚みは、凹部41Bによる凹凸を平坦化できる程度の厚みとする。
【0069】
そして、再度SPMリソグラフィーにより平坦化層41bを酸化する。酸化はメタマテリアル3となる部分を残して行う。酸化後の平坦化層41bには、金属層3bを作製する。最後に平坦化層41bの酸化された部分を選択性エッチングにより除去すれば、図4に示す光放出素子20を作製することができる。但し、酸化部分を除去しなくても、光子放出素子として機能する。
【0070】
この方法によれば、平坦性の高い単結晶基板上に量子ドットを作製することができる。すなわち、量子ドットの位置制御性を高めることができる。また量子ドットを作成するための凹部の段差は数nm程度と比較的小さいため、平坦化層により比較的簡単に凹部の段差を平坦化することができる。
【0071】
最後に図5に基づき、第3実施形態に係る光子放出素子50の製造方法について説明する。まず、下地基板51aを準備する。下地基板51aは、単結晶であることが好ましい。
【0072】
準備した下地基板51aのメタマテリアル3を形成したい部分を残してSPMリソグラフィーにより酸化する。酸化後の下地基板51aの一面には金属層3bを形成し、上述の方法と同様に選択性エッチングにより酸化した部分を除去する。こうして、メタマテリアル3が形成された下地基板51aを作製する。
【0073】
次いで、下地基板51aのメタマテリアル3が配設された面に、下地基板51aと同一の材料からなる平坦化層51bをスパッタ等により成膜する。平坦化層51bの厚みは、メタマテリアル3による凹凸を平坦化できる程度の厚みとする。
【0074】
そして、得られた平坦化層51bの量子ドット2を形成したい部分を再度SPMリソグラフィーにより酸化する。平坦化層51bの酸化された部分を選択性エッチングにより除去することで、凹部51Bが形成される。
【0075】
最後に凹部51Bに量子ドットを含んだ液滴を滴下し、洗い流す。このとき量子ドット2が凹部51Bに填まり、図5に示す光放出素子50を作製することができる。
【0076】
この方法によれば、量子ドット上にスパッタ等により平坦化層を成膜する必要がない。すなわち、量子ドットがスパッタ等の処理によりダメージを受けることを抑制することができる。
【0077】
本発明の一態様に係る光放出素子の製造方法を用いると、量子ドット及びメタマテリアルの位置制御性を高めることができる。その結果、得られる光放出素子における量子ドットから発光する光の発光周波数と、メタマテリアル内のプラズモンの共鳴周波数との共振性を高めることができる。
【0078】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例】
【0079】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0080】
シリコンの単結晶基板を準備した。準備したシリコンの単結晶基板にSPMリソグラフィーで幅10nm深さ5nmの凹部を形成した。SPMリソグラフィーには、セイコーインスツルメンツ社製の走査型プローブ顕微鏡(Nanonavi IIe)を用いた。酸化した酸化部のエッチングはフッ酸で行った。そして、得られた凹部に直径5nmのPbSからなる化学合成量子ドットが分散した溶液を滴下した。そして、滴下後数分後に、滴下した溶液を洗い流した。
【0081】
図8は、走査型プローブ顕微鏡による断面画像であり、(a)は凹部形成後の断面画像であり、(b)はPbS滴下後の断面画像である。図8(a)及び図8(b)は二つの断面図を記載しているが、凹部を第1の方向に切断した断面と第1の方向に対して直交する第2の方向に切断した断面の二つの断面である。
図8に示すように、化学合成量子ドットが分散した溶液を凹部に滴下することで、凹部が埋まっていることが分かる。凹部は量子ドット1つ分の隙間しか有さないため、凹部に量子ドットが1つ埋め込まれていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の光放射素子は、量子情報処理分野の新たな基盤技術として用いることができる。
【符号の説明】
【0083】
1,41,51…基板、1A…一面、1B,41B,51B…凹部、2…量子ドット、3,13,23,33…メタマテリアル、3a…基部、3b…金属層、3A,13A,23A…開口部、10,40,50…光放出素子、41a,51a…下地基板、41b,51b…平坦化層、61…処理前基板、62…酸化部、62a…凹部形成用酸化部、63…プローブ、63a…チップ先端

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8