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特開2017-6419被検体情報取得装置および画像表示方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-6419(P2017-6419A)
(43)【公開日】2017年1月12日
(54)【発明の名称】被検体情報取得装置および画像表示方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/13 20060101AFI20161216BHJP
【FI】
   A61B8/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-125787(P2015-125787)
(22)【出願日】2015年6月23日
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
【住所又は居所】東京都大田区下丸子3丁目30番2号
(74)【代理人】
【識別番号】100085006
【弁理士】
【氏名又は名称】世良 和信
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100131532
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 浩一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100155871
【弁理士】
【氏名又は名称】森廣 亮太
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 孝太郎
【住所又は居所】東京都大田区下丸子3丁目30番2号 キヤノン株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】大石 卓司
【住所又は居所】東京都大田区下丸子3丁目30番2号 キヤノン株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】中村 喜子
【住所又は居所】東京都大田区下丸子3丁目30番2号 キヤノン株式会社内
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601DE16
4C601EE04
4C601JC07
4C601JC10
4C601JC11
4C601KK02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】光音響装置により取得した被検体の特性情報分布に想定外の値が含まれる場合でも、診断能の低下を抑制する技術を提供する。
【解決手段】光を射出する光源1と、光が照射された被検体から発生する音響波を受信して電気信号を出力する変換素子3と、電気信号を用いて、被検体内部の光学特性の分布を示す特性分布を取得する特性分布取得部4と、特性分布に含まれる各位置の値が、測定対象から得られる値として想定される値である想定値、測定対象から得られる値ではないと考えられる異常値、想定値と異常値の間の値である保留値、のいずれに含まれるかを判別する判別部と、特性分布取得部4が取得した特性分布に基づく画像データの表示方法を、判別された領域に応じて変更する表示制御部8を有する被検体情報取得装置を用いる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を射出する光源と、
前記光が照射された被検体から発生する音響波を受信して電気信号を出力する変換素子と、
前記電気信号を用いて、前記被検体内部の光学特性の分布を示す特性分布を取得する特性分布取得部と、
前記特性分布に含まれる各位置の値が、測定対象から得られる値として想定される値である想定値、測定対象から得られる値ではないと考えられる異常値、前記想定値と前記異常値の間の値である保留値、のいずれに含まれるかを判別する判別部と、
前記特性分布取得部が取得した特性分布に基づく画像データの表示方法を、前記判別された領域に応じて変更する表示制御部と、
を有する被検体情報取得装置。
【請求項2】
前記光源は複数の波長の光を照射できるものであり、
前記変換素子は、前記複数の波長の光のそれぞれに対応する複数の電気信号を出力し、
前記特性分布取得部は、前記特性分布として、前記複数の電気信号を用いて前記被検体内部の物質の濃度関連分布を取得する
ことを特徴とする請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項3】
前記濃度関連分布は、オキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンの比を表す酸素飽和度分布である
ことを特徴とする請求項2に記載の被検体情報取得装置。
【請求項4】
前記表示制御部は、前記想定値の領域が前記酸素飽和度に応じたカラーマップにより表示されるように制御し、前記保留値の領域が、前記酸素飽和度に応じており、かつ前記想定値に用いられるカラーマップとは異なるカラーマップにより表示されるように制御することを特徴とする請求項3に記載の被検体情報取得装置。
【請求項5】
前記表示制御部は、前記想定値の領域においては、前記酸素飽和度と色相を対応させたカラーマップを使用し、前記保留値の領域においては、前記酸素飽和度と彩度を対応させたカラーマップを使用する
ことを特徴とする請求項4に記載の被検体情報取得装置。
【請求項6】
前記判別部は、前記酸素飽和度が0%以上100%以下の場合に値が前記想定値だと判別し、前記酸素飽和度が100%より大きい場合は前記異常値と前記想定値の間に前記保留値を設定し、前記酸素飽和度が0%未満の場合は前記異常値と前記想定値の間に前記保留値を設定しない
ことを特徴とする請求項3から5のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項7】
前記表示制御部は、前記想定値、前記保留値および前記異常値の少なくともいずれか1つに対応する領域が点滅するような制御を行う
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項8】
前記表示制御部は、前記想定値、前記保留値および前記異常値の少なくともいずれか1つをテクスチャ画像により表示するような制御を行う
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項9】
前記特性分布取得部は、前記特性分布として前記被検体内部の吸収係数分布を取得し、
前記判別部は、前記吸収係数分布の各位置の値の強度を閾値と比較して血管であるかど
うかを判別し、
前記表示制御部は、前記血管であると判別された領域が強調されるような表示制御を行う
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項10】
前記被検体内部の血管位置を特定する血管位置特定部をさらに有し、
前記表示制御部は、前記血管の領域が強調されるようなトリミングを行う
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項11】
ユーザーからの入力を受け付ける入力部をさらに有し、
前記判別部は、前記入力部から入力される値に基づいて、前記想定値、前記保留値および前記異常値のそれぞれの範囲を判別する
ことを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項12】
ユーザーからの入力を受け付ける入力部をさらに有し、
前記表示制御部は、前記入力部から入力される、前記保留値と判別された領域が前記想定値と前記異常値のいずれであるかを示す情報に基づいて、前記画像データの表示方法を変更する
ことを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項13】
前記表示制御部は、前記特性分布取得部における算出誤差を含めた誤差分布が表示されるような制御を行う
ことを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項14】
光源から光を照射された被検体から発生する音響波に由来する電気信号を用いて生成された、前記被検体内部の光学特性の分布を示す特性分布を表す画像データの表示を制御する画像表示方法であって、
前記特性分布に含まれる各位置の値が、測定対象から得られる値として想定される値である想定値、測定対象から得られる値ではないと考えられる異常値、前記想定値と前記異常値の間の値である保留値、のいずれに含まれるかを判別するステップと、
前記画像データの表示方法を、前記判別された領域に応じて変更するステップと、
を有する画像表示方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体情報取得装置および画像表示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野において生体の生理的情報である機能情報のイメージングの研究が近年行われている。機能情報のイメージング技術の一つとして光音響イメージング(Photoacoustic Imaging:PAI)がある。
【0003】
光音響イメージングでは、まず、光照射部から発生したパルス光が被検体に照射される。被検体内で伝播・拡散した照射光のエネルギーが、被検体内の光吸収体(例えば血管や皮膚など)に吸収されると、光音響効果によって音響波(以降、光音響波と呼ぶ)が発生する。変換素子によって光音響波から変換された受信信号を情報処理装置が解析処理することで、被検体内部の光学特性分布が取得される。光学特性分布を画像データ化して表示することで、診断などに有益な情報が得られる。
【0004】
光学特性分布としては、光吸収により発生する音圧の分布(初期音圧分布)や、光の吸収係数分布などがある。また、互いに異なる波長を有する複数のパルス光を照射して、波長ごとの光の吸収係数を求めることにより、被検体内に存在する物質の濃度関連分布(物質の濃度に関する値の分布)が得られる。
【0005】
濃度関連分布としては、非特許文献1にあるような、血液中の全ヘモグロビンに対するオキシヘモグロビンの含有率の分布、つまり、血液中の酸素飽和度分布がある。これは、デオキシヘモグロビンとオキシヘモグロビンの光吸収スペクトルが異なることを利用して、異なる波長で測定したスペクトルを比較することによってそれぞれの含有率を取得し、その結果に基づいて求められる値である。被検体内の各位置において酸素飽和度を求めることにより、酸素飽和度分布が取得される。また、非特許文献1では、0%以上100%以下の酸素飽和度を、酸素飽和度の値に対応する色相で表示させている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】L. V. Wang, et al. "Photoacoustic Tomography: In Vivo Imaging from Organelles to Organs" Science, Vol 335(Mar. 2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、光音響装置で得られる特性情報分布の算出誤差により、特性情報分布において想定される値以外の値が算出される場合がある。この場合、光音響装置による診断能の低下が生じる可能性がある。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、光音響装置により取得した被検体の特性情報分布に想定外の値が含まれる場合でも、診断能の低下を抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成を採用する。すなわち、
光を射出する光源と、
前記光が照射された被検体から発生する音響波を受信して電気信号を出力する変換素子
と、
前記電気信号を用いて、前記被検体内部の光学特性の分布を示す特性分布を取得する特性分布取得部と、
前記特性分布に含まれる各位置の値が、測定対象から得られる値として想定される値である想定値、測定対象から得られる値ではないと考えられる異常値、前記想定値と前記異常値の間の値である保留値、のいずれに含まれるかを判別する判別部と、
前記特性分布取得部が取得した特性分布に基づく画像データの表示方法を、前記判別された領域に応じて変更する表示制御部と、
を有する被検体情報取得装置である。
【0010】
本発明は、また、以下の構成を採用する。すなわち、
光源から光を照射された被検体から発生する音響波に由来する電気信号を用いて生成された、前記被検体内部の光学特性の分布を示す特性分布を表す画像データの表示を制御する画像表示方法であって、
前記特性分布に含まれる各位置の値が、測定対象から得られる値として想定される値である想定値、測定対象から得られる値ではないと考えられる異常値、前記想定値と前記異常値の間の値である保留値、のいずれに含まれるかを判別するステップと、
前記画像データの表示方法を、前記判別された領域に応じて変更するステップと、
を有する画像表示方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光音響装置により取得した被検体の特性情報分布に想定外の値が含まれる場合でも、診断能の低下を抑制する技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】光音響装置の構成を示す模式図。
図2】信号処理部の動作を示すフローチャート。
図3】表示画面の一例を示す模式図。
図4】各値域の区分を説明するための図。
図5】表示画面の一例を示す模式図。
図6】表示画面の一例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を参照しつつ、本発明の好適な実施の形態について説明する。ただし、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状およびそれらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。よって、この発明の範囲を以下の記載に限定する趣旨のものではない。
【0014】
本発明は、被検体から伝播する音響波を検出し、被検体内部の特性情報を生成し、取得する技術に関する。よって本発明は、被検体情報取得装置またはその制御方法、あるいは被検体情報取得方法や信号処理方法として捉えられる。本発明はまた、これらの方法をCPUやメモリ等のハードウェア資源を備える情報処理装置に実行させるプログラムや、そのプログラムを格納した記憶媒体としても捉えられる。
【0015】
本発明の被検体情報取得装置には、被検体に光(電磁波)を照射することにより被検体内で発生した音響波を受信して、被検体の特性情報を画像データとして取得する光音響効果を利用した装置(光音響装置)を含む。本発明の特性情報とは、光音響波を受信することにより得られる受信信号を用いて生成される、被検体内の複数位置のそれぞれに対応する特性値の情報である。
【0016】
本発明により取得される特性情報は、光エネルギーの吸収率を反映した値である。例えば、光照射によって生じた音響波の発生源、被検体内の初期音圧、あるいは初期音圧から導かれる光エネルギー吸収密度や吸収係数、これらは「光吸収に基づく特性情報」とも言える。特性情報はまた、組織を構成する物質の濃度関連情報を含む。
【0017】
濃度関連情報は、複数波長分の光吸収に基づく特性情報を用いて求められる、被検体内に存在する物質の濃度に関係する値を含む。具体的には、酸素飽和度、酸素飽和度に吸収係数等の強度を重み付けした値、トータルヘモグロビン濃度、オキシヘモグロビン濃度、デオキシヘモグロビン濃度などである。さらに、濃度関連情報は、グルコース濃度、コラーゲン濃度、メラニン濃度、脂肪や水の体積分率などでもよい。また、被検体内の各位置の濃度関連情報に基づいて、2次元または3次元の特性情報分布が得られる。分布データは画像データとして生成され得る。
【0018】
本発明でいう音響波とは、典型的には超音波であり、音波、音響波と呼ばれる弾性波を含む。探触子等により音響波から変換された電気信号を音響信号とも呼ぶ。ただし、本明細書における超音波または音響波という記載は、それらの弾性波の波長を限定する意図ではない。光音響効果により発生した音響波は、光音響波または光超音波と呼ばれる。光音響波に由来する電気信号を光音響信号とも呼ぶ。
【0019】
なお、以下の実施形態における光音響装置は、人や動物の悪性腫瘍や血管疾患などの診断や化学治療の経過観察などを主な目的とする。よって、被検体としては生体の一部、具体的には人や動物の一部位(乳房、臓器、循環器、消化器、骨、筋肉、脂肪等)の検査対象が想定される。また、検査対象の物質としては、ヘモグロビン、グルコース、また、体内に存在する水、メラニン、コラーゲン、脂質などを含む。さらには、体内に投与されたICG(インドシアニン・グリーン)等の造影剤等、光の吸収スペクトルが特徴的な物質であればよい。
【0020】
濃度関連情報に関して、例えば、血液中の酸素飽和度は、一般的に0%以上100%以下という想定値の範囲内で算出される。しかし、光音響装置で得られた初期音圧値や光の吸収係数値に、ノイズや再構成アーチファクトなどによる算出誤差が含まれている場合、酸素飽和度値として想定値(0〜100%)に含まれない値(想定外値)が算出される場合がある。この場合、測定対象(血管等)の存在する位置において想定外値となる場合もある。
【0021】
光音響装置により取得した被検体の特性情報分布に想定外値が含まれる場合、光音響装置による診断能が低下する可能性がある。一方、測定対象の位置であっても想定外の値となる可能性があるため、想定外値の領域であっても表示することが望まれる場合がある。そこで、本発明は、想定外値を異常値と保留値とに区別し、想定値、異常値、および保留値に対応する領域の表示方法を変更する。この結果、診断能の低下を抑制できる。
【0022】
[第1の実施形態]
(全体的な装置構成)
図1(a)は本実施形態の光音響装置の構成を示す模式図である。装置は、光源1、光音響波を受信する変換素子3を含むプローブ30、変換素子3から出力される受信信号を用いて信号処理を行う信号処理部40、を少なくとも備える。また、入力部12と表示部7を備えても良い。
【0023】
光源1から出力された光は、ファイバー、ミラー、レンズ等の光伝搬部材(不図示)を介して被検体2に照射される。なお、光源1は、互いに異なる波長を有する複数のパルス光を、別々のタイミングで被検体に照射できることが好ましい。照射された光は被検体内
を伝搬・拡散し、被検体内の光吸収体により吸収される。すると光吸収体から、光音響効果により光音響波が発生する。例えば光源が2波長の光を照射可能であれば、第1波長の光により第1光音響波が発生し、第2波長の光により第2光音響波が発生する。このときの各光音響波の音圧は、光吸収体の光吸収スペクトルに応じた値となる。発生した各光音響波は、被検体内を伝搬し変換素子3に到達する。なお、変換素子3は、被検体と音響的にマッチングするよう設けられる。例えば水、ジェル、ひまし油等の音響マッチング材を用いることが好ましい。
【0024】
複数の変換素子3の各々は、光音響波を受信して時系列の受信信号に変換し、出力する。つまり、第1光音響波を受信することにより時系列の第1受信信号を出力し、第2光音響波を受信することにより時系列の第2受信信号を出力する。出力された受信信号は、信号処理部40に入力される。
【0025】
信号処理部40には、照射されたパルス光ごとに、受信信号が順次入力される。信号処理部40は、入力された受信信号を用いて、被検体内の光吸収に基づく特性分布や濃度関連分布等の分布を生成する。また信号処理部40は、生成した分布を基に画像データを生成し、表示部7に画像を表示させる。また信号処理部40は、入力部12を介してユーザー(医師や技師等の術者)から領域設定等の入力を受け付ける。
【0026】
なお、光音響装置が、光音響顕微鏡等の比較的小さな被検体を検査対象とする装置の場合は、プローブ30が備える変換素子3は1つでもよい。また、光音響装置が、乳房等の比較的大きな被検体を検査対象とする装置の場合は、プローブ30が備える変換素子3は複数設けられていることが好ましい。
【0027】
(信号処理部の内部構成)
次に、本実施形態の信号処理部40内の構成を説明する。信号処理部40は、信号収集部9、特性分布取得部4、濃度関連情報取得部5、表示方法設定部6、表示制御部8を備える。
【0028】
信号収集部9は、複数の変換素子3のそれぞれから出力される時系列のアナログ受信信号をチャネルごとに収集し、受信信号の増幅や、アナログの受信信号のAD変換、デジタル化された受信信号の記憶等の信号処理を行う。また、信号補正処理を行ってもよい。
【0029】
特性分布取得部4は、信号収集部9から出力される受信信号を用いて、被検体内の光吸収に基づく特性分布を生成する。なお以降の説明では、光吸収に基づく特性分布として吸収係数分布を求める例について説明する。被検体内のある位置(座標(i,l,k))における吸収係数μは、式(1)により求められる。
【数1】

ここで、Pは位置(i,l,k)における初期音圧(発生音圧)、Γはグリューナイゼン定数、φは位置(i,l,k)に届いた光量を示す。
【0030】
なお、3次元空間座標上の位置(i,l,k)における初期音圧Pは、信号収集部9から出力されたチャネルごとの受信信号に対する画像再構成により求められる。この際に探触子の帯域補正用のフィルターをかけても良い。画像再構成には、Universal Back projection(UBP)や、Filtered Back Projection(FBP)等の既知の手法を適用できる。また、整相加算(Delay a
nd Sum)処理を用いてもよい。
【0031】
この画像再構成処理を被検体内の各位置に対して行うことにより、初期音圧分布が取得できる。初期音圧分布は、被検体内のある領域に対応する3次元分布データ(ボクセルの集合データ)でもよいし、そのうちの一断面に対応する2次元分布データ(ピクセルの集合データ)でもよい。
【0032】
なお、光フォーカス型の光音響顕微鏡や、フォーカス型プローブを用いた音響フォーカス型の光音響顕微鏡の場合は、画像再構成処理を行わずに分布データを生成できる。具体的には、走査機構(不図示)により、プローブ3と光照射スポットとを被検体2に対して相対移動させて、プローブ3は複数の走査位置で光音響波を受信する。そして、特性分布取得部4は、得られた受信信号を時間変化に対して包絡線検波した後、光パルスごとの信号における時間軸方向を奥行き方向に変換して、空間座標上にプロットする。これを走査位置ごとに行うことにより、分布データが得られる。
【0033】
特性分布取得部4は、このようにして求められた初期音圧分布を基に、式(1)を用いて、吸収係数分布を求める。なお、グリューナイゼン定数は一定と見なすことができる。光量Φは被検体内で一定としてもよいが、より正確に濃度関連情報を求めるためには、被検体内部での光量分布を求めるほうが良い。光量分布は、被検体に入射する照射光分布から被検体内部の光伝搬を考慮した計算により取得できる。より簡便には、被検体の種類に応じたモデル計算により光量分布が得ても良い。特性分布取得部4は、このようにして、光照射部1から出射される複数の波長ごとに吸収係数分布を求め、濃度関連情報取得部5に出力する。
【0034】
濃度関連情報取得部5は、特性分布取得部4から出力される波長ごとの吸収係数分布を複数用いて、濃度関連分布を生成する。なお以降の説明では、濃度関連分布として酸素飽和度分布を求める例について説明する。
【0035】
波長λと波長λでは、ヘモグロビン以外の光吸収が無視できるほど低いと仮定すると、波長λと波長λの吸収係数はそれぞれ、オキシヘモグロビンのモル吸光係数とデオキシヘモグロビンのモル吸収係数を用いて式(2)、式(3)のように表わされる。
【数2】

ここで、μ(λ)は、位置(i,j,k)における波長λの光の吸収係数、μ(λ)は位置(i,j,k)における波長λの光の吸収係数を示し、単位は[mm−1]である。Coxはオキシヘモグロビンの量[mol]、Cdeはデオキシヘモグロビンの量[mol]である。いずれも位置(i,j,k)における値を示すものとする。
【0036】
εox(λ)とεde(λ)はそれぞれ波長λにおけるオキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビンのモル吸収係数[mm−1mol−1]を示す。εox(λ)とεde(λ)はそれぞれ波長λにおけるオキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビンのモル吸収係数[mm−1mol−1]を示す。εox(λ)、εde(λ)、εox(λ)、εde(λ)は、あらかじめ測定や文献値によって取得できる。よって、C
oxとCdeはそれぞれ、モル吸光係数と、μ(λ)及びμ(λ)と、を用いて式(2)、式(3)の連立方程式を解くことにより求められる。用いる波長の数が多い場合は、最小二乗法を用いるとよい。
【0037】
また、酸素飽和度SOは、式(4)に示すように、全ヘモグロビン中のオキシヘモグロビンの割合で定義される。よって、酸素飽和度SOは、式(2)、(3)、(4)に基づき、式(5)で表される。よって、濃度関連情報算出部5は、式(5)を用いて、モル吸光係数と、μ(λ)及びμ(λ)とに基づき、位置(i,j,k)における酸素飽和度SOを取得できる。
【数3】
【0038】
このような処理を各位置に対して行うことにより、被検体内部の酸素飽和度分布が取得できる。図3に、波長λの吸収係数分布と波長λの吸収係数分布とから酸素飽和度分布を得た場合の表示画面の一例を示す。符号301が波長λの吸収係数分布、符号302が波長λの吸収係数分布、符号303が酸素飽和度分布の画像を示す。画像303は、酸素飽和度の計算値の最大値までを表示できるレンジで表されている。すなわち画像303は、0%〜150%の計算値となった酸素飽和度の分布を表している。酸素飽和度分布は、被検体内のある領域に対応する3次元分布データ(ボクセルの集合データ)でもよいし、そのうちの一断面に対応する2次元分布データ(ピクセルの集合データ)でもよい。
【0039】
図3では、吸収体が存在しない領域での酸素飽和度値を便宜上0%としている。また、酸素飽和度分布は、吸収係数分布の比で得られるものであり、複数の波長での吸収係数分布が相対的に正しければ、酸素飽和度分布は適切に求められる。よって、吸収係数分布が絶対値として正確に求まっている必要はない。
【0040】
一方、符号304は、酸素飽和度分布画像303に対して血管の領域を強調する処理を行った後に、酸素飽和度が0%以上、100%以下の領域を表示した画像である。すなわち、画像304は、本発明に対する比較例である。画像304の右上の部分を見ると、表示レンジを超える値を持つ血管像が消失している。
【0041】
また、符号305は、酸素飽和度分布画像303に対して血管の領域を強調する処理を行った後に、酸素飽和度が0%以上、120%以下の領域を表示した画像である。画像305の右上の部分を見ると、画像304ではノイズによる誤差のせいで消失した血管の酸素飽和度分布も表示されている。なお、画像304,305では、視認性を高めるために、血管部位を他の部分より強調する処理を行っている。ここでは、画像301または302に示された吸収係数分布が所定の閾値よりも高い値を示す部分が血管だと判定した。そ
して、血管ではないと判定された領域を背景色と同化させた。
【0042】
表示方法設定部6は、濃度関連情報算出部5で求められた酸素飽和度分布の画像表示方法を設定する。このとき、入力部12からの入力情報に基づく設定を行っても良い。濃度関連情報分布の各位置における値について、図4(a)を用いて説明する。
【0043】
「想定値(Vin)」とは、本発明の測定系(装置構成および算出原理)により通常想定される値の範囲を指す。酸素飽和度または物質濃度は、算出原理上、0%以上100%以下という想定値の範囲内に収まることが期待される。想定値は、理想的な測定系によって導かれる理想的な濃度関連情報分布の値域と考えられるので、理想値と呼んでも良い。逆に、0%より小さいか、100%より大きい値は「想定外値(Vout)」である。
【0044】
ここで、想定外値の中には、「異常値(Vab)」と、「保留値(Vsus)」が含まれる。異常値領域とは、明らかに測定対象ではない部分(例えば血管以外の生体組織)において、ノイズ等の影響が大きくなり意味のある値が得られない被検体領域である。図では値が110%より大きいときに異常値としている。一方、保留値とは、測定対象以外から得られた値の可能性もあるが、測定対象(血管やヘモグロビン)から得られた値が計算過程における誤差等によって想定値から少し外れてしまった値の可能性もあるような値域の範囲である。図では値が100%より大きく110%以下のときに保留値としている。
【0045】
保留値を示した位置は、マスキング等をせず表示することを許容されるので、保留値のことを許容値と呼んでも良い。また、想定値と保留値を合わせた値域は、正常な値の可能性がある範囲なので、これらを合わせて正常値と呼んでも良い。
【0046】
保留値を設ける理由について説明する。装置で算出した吸収係数分布には、ノイズや、再構成アーチファクト、背景光学定数による誤差が重畳されている。そのため、算出された酸素飽和度が想定値を外れる場合がある。従来は、酸素飽和度が想定外値となるような被検体内の位置については、マスク処理による値の除去、背景色と同じ色での表示、値が100%の場合と同じ色にする(値を100%に丸める)、などの処理をしていた。しかしこのような処理では、ユーザーが、ノイズや再構成アーチファクトが生じている部分を判別できない。また、酸素飽和度の算出誤差によって想定外値が算出された領域は、理想的な測定系では想定値に収まる可能性がある。しかし上述の従来型処理では、このような領域も一律に異常値領域として判断されてしまう。
【0047】
しかし本発明の表示によれば、想定値や異常値に埋もれることなくユーザーが保留値領域を認識できる。その結果、ユーザーによる目視や、パターン認識等の画像処理によって、保留値領域が測定対象かどうかを判別できるので、より正確な診断が行われる。判別の結果、想定値であると分かった領域については想定値と同様の表示体系を適用して良い。その際、100%を超える値を100%に丸めても良い。あるいは、最大の酸素飽和度値が例えば108%であれば、0〜108%という値域を改めて色相に割り当てて表示しなおしても良い。また、異常値であると分かった領域については、他の異常値と同様に表示しなおせば良い。このような再表示処理は、判別結果を踏まえて自動的に行なっても良いし、ユーザーからの指示に基づいて行っても良い。
【0048】
なお計算過程における誤差とは、濃度関連情報分布の各位置で生じる算出誤差を示す。例えばノイズや再構成アーチファクトによる誤差や、背景光学定数による誤差などがある。背景光学定数とは、被検体の平均的な吸収係数及び等価散乱係数である。
【0049】
酸素飽和度分布の想定値は(0≦Vin≦100%)の範囲である。また保留値の値域は、想定値の値域に算出誤差分を加算することで得られる。したがって、濃度関連情報分
布の算出誤差を±10%とすると、保留値は(−10≦Vsus<0%)および(100<Vsus≦110%)の範囲となる。ただし本実施形態においては、酸素飽和度値が0%未満の値は保留値とせず、一律に異常値とする。これは、経験則上、静脈血にもある程度のオキシヘモグロビンが含まれているため、血中の酸素飽和度が0%近傍となることが少ないことに基づいている。なお、濃度関連情報分布の各位置での算出誤差の詳細な求め方は後述する。
【0050】
続いて、本実施形態におけるそれぞれの値域の画像表示方法を述べる。典型的には、各値域に異なるカラーマップを用いる方法がある。例えば、想定値については0〜100%を色スペクトルに割り当てた色相表示を行い、保留値については単色で明度の変化により表示し、異常値は表示しないという方法がある。また、想定値領域と保留値領域のどちらか一方を他方とは異なる模様に設定する方法がある。また、どちらか一方を点滅表示する方法がある。その他、各値域を区別可能にユーザーに提示できれば、どのような方法でもよい。またこれらの表示において、想定値と保留値をひとまとめに取り扱い、異常値と対比させても良い。
【0051】
本実施形態の装置は、濃度関連情報分布における想定値、保留値、異常値の少なくともいずれか区別して表示できる。その結果、酸素飽和度分布においてノイズや再構成アーチファクトが生じている部分の判別を助けられる。
【0052】
表示制御部8は、特性分布取得部4により生成された吸収係数分布や、濃度関連情報算出部5により生成された酸素飽和度分布等の分布データを基に、表示部7に表示するための画像データを生成する。具体的には、分布データを基に、輝度変換、歪補正、対数圧縮処理などの画像処理を行う。さらに、分布データと共に各種表示アイテムを並べて表示する等の表示制御を行う。
【0053】
(信号処理部の処理フロー)
次に、図2を参照しつつ、信号処理部40の処理フローを説明する。このフローは、信号処理部40内の信号収集部9に、照射された光の波長ごとにプローブから順次受信信号が入力され、信号収集部9においてAD変換や増幅等の処理が行なわれた状態からスタートしている。
【0054】
S101のステップでは、特性分布取得部4が、波長λの光による受信信号を用いて波長λにおける吸収係数分布を取得し、波長λの光による受信信号を用いて波長λにおける吸収係数分布を取得する。
【0055】
S102のステップでは、濃度関連情報算出部5が、波長λにおける吸収係数分布と、波長λにおける吸収係数分布と、を用いて対象領域内の酸素飽和度分布を生成する。なお、対象領域は、領域設定部13により吸収係数分布内の一部の領域が設定されてもよいし、吸収係数分布の範囲と同じ範囲が対象領域であってもよい。入力部12を経由してユーザーから指定された範囲を対象領域としても良い。
【0056】
S103のステップでは、表示方法設定部6が、濃度関連情報取得部5が求めた酸素飽和度分布に対する、各値域の範囲と、それぞれの値域に対するカラーマップを設定する。ここでは、装置に予め各値域の範囲とカラーマップが設定済みとする。これらの設定値は、信号処理部内または外部の不図示の記憶装置に格納しておく。また、入力部12を経由してユーザーからの指定を受け付けても良い。
【0057】
本フローでは、酸素飽和度分布の想定値を(0≦Vin≦100%)とし、保留値を(100<Vsus≦110%)とする。ここで、0%未満の値の側に保留値を設けていな
いのは、経験的に酸素飽和度が0%近傍になることは少ないことを踏まえた、簡易な処理を行う目的による。よって、0%未満および110%より大きい値は異常値となる。なお、保留値の範囲は、測定精度や、目的とする誤差範囲に応じて任意に設定できる。
【0058】
S104のステップでは、想定値および保留値に対するカラーマップを設定する。カラーマップはHSV色空間中で設定したものをRGB色空間に変換して用いる。HSV色空間は、色相(Hue)、彩度(Saturation・Chroma)、明度(Value・Lightness・Brightness)の3つの成分からなる色空間で、HSL色空間、HSB色空間とも言う。色相(H)は色の種類(赤、青、黄色など)を表し、0〜360の範囲を取る。ここで赤は0で、緑は120,青は240、再び赤が360で現れて色相が一周する。彩度(S)は色の鮮やかさを表し、0〜100%の範囲を取る。彩度が低下するにつれ、灰色が顕著になる。明度(V)は色の明るさを表し、0〜100%の範囲を取る。一方、RGB色空間は、赤(Red)、緑(Green)、青(Blue)の3つの色を用いて表現される色空間である。
【0059】
酸素飽和度が想定値内の範囲では、色相(H)の青(240)から緑(120)を経て赤(0)までを、酸素飽和度値の0%から100%までに対応させる。ここで、彩度(S)は100%とする。次に、想定外値のうち保留値の範囲では、色相は赤(0)のままとして、彩度(S)を100%から0%まで下げていく。そして、想定外値のうち異常値の範囲において、酸素飽和度値が0%以下を青(240)に、110%以上を白色に設定する。いずれのカラーマップの場合も、明度(V)に100%に正規化した吸収係数強度を代入し、吸収係数強度の強弱に従って明度を変化させる。最後に、設定された酸素飽和度値に対するHSV色空間でのカラーマップを、RGB色空間でのカラーマップに変換して保持しておく。このようにすることで、酸素飽和度値の各値域ごとに表示ルールを区別できる。
【0060】
S105のステップでは、表示制御部8は、濃度関連情報取得部5で算出された酸素飽和度分布を、表示方法設定部6で設定されたカラーマップを基に画像データを生成し、表示部7に表示する。
【0061】
このように、本実施形態では、イメージング対象の酸素飽和度分布に含まれる算出誤差を踏まえて、想定値、保留値、異常値といった値域ごとに区別し、表示の仕方を変更することで、異常値領域を判別可能となる。
【0062】
<変形例1:表示される情報の種類>
なお、濃度関連分布は、酸素飽和度分布に限定されない。濃度関連分布は、複数波長の光吸収に基づく特性分布を用いて求められる、物質の濃度に関係する値の分布であればよい。例えば、酸素飽和度に重み付けした値、トータルヘモグロビン濃度、オキシヘモグロビン濃度、デオキシヘモグロビン濃度、グルコース濃度、コラーゲン濃度、メラニン濃度」、脂肪や水の体積分率、体脂肪率、などの分布でもよい。
【0063】
さらに、本発明の表示方法が適用される対象を、濃度関連分布ではなく、何らかの生体物質の存在量や、生体成分の特性を示す特性値としてもよい。言い換えると本発明は、光音響装置により得られる何らかの値が、想定値(理想値)、保留値(許容値)、異常値に区別される場合であれば、適用可能である。例えば、ある成分の濃度が算出方法の特性上(D〜D)の範囲であると想定され、かつ、測定方法の特性上、±15%の誤差が起こり得る場合を考える。このとき本発明の考え方によれば、値が想定値±15%の範囲においても、想定値内とは異なる表示方法で画像表示がなされる。
【0064】
また、上述の例では、特性分布取得部4は、光吸収に基づく特性分布として、吸収係数
分布を取得したが、本実施形態はこれに限定されず、音圧分布(典型的には初期音圧分布)や、光エネルギー吸収密度分布でもよい。例えば、式(1)よりμはP/(Γ・Φ)で表されるため、式(5)のμをP/(Γ・Φ)で置換することで、酸素飽和度を初期音圧から直接的に算出できる。つまり、特性分布取得部4が、初期音圧分布を求めた後に吸収係数分布を一旦求めなくても、濃度関連情報算出部5は、初期音圧分布のデータから酸素飽和度分布を直接求めることができる。
【0065】
また、測定対象領域は、血管内の血液部分に限定されない。血管壁、リンパ管、筋肉組織、乳腺組織、脂肪組織、造影剤や分子標的薬など外部から注入された物質、これらの集合体、でも良い。
【0066】
<変形例2:表示方法>
また、想定値、保留値、異常値の範囲や、それらを判別するための所定の閾値(th)は、上記に限定されない。また、各値域を操作者の指定や装置状況に応じて変化させても良い。さらに、各値域においてどのような表示方法を採用するかは任意である。
【0067】
例えば、想定値および保留値で一続きのカラーマップを用いる方法がある。また、異常値のカラーマップを画像の背景色と同化させる方法、異常値のカラーマップの彩度(S)を0にしたり、明度(V)を0にしたり、色相(H)を0にしたりする方法がある。典型的には異常値領域を黒色で表示する。また、酸素飽和度値の変化に対するカラーマップの色相(H)、彩度は、線形に変化させることを仮定しているが、酸素飽和度の変化を示すのに適切な表示であれば、非線形で変化させてもよい。また、異常値のカラーマップとして他の値域のカラーマップが用いていない色を用いることで、識別性を高めても良い。
【0068】
また、図4(b)に保留値2および保留値3として示すように、想定値から外れている程度に応じて表示方法を変えても良い。また、特性値が0より低い場合に保留値1を設けても良い。これらの設定値は予め記憶装置に格納してもよいし、入力部12経由でユーザーからの指示を受け付けても良い。また、画像が表示されている最中に、ユーザーが入力部12を経由して、各値域の範囲、閾値、各値域ごとの表示方法、などを切替えても良い。
【0069】
<変形例3:血管強調処理>
本発明を酸素飽和度分布の表示に適用する場合、血液が存在する位置(すなわち血管の位置)を精度よく特定し、ユーザーに分かりやすく提示することは重要である。そこで、本発明の表示方法を、血管位置の強調技術やトリミング技術と組み合わせることが好ましい。
【0070】
血管強調技術として例えば、吸収係数分布に基づいてヘモグロビン由来と考えられる信号成分の強度が高い位置を血管と考えて、強度が低い位置よりも強調表示する方法がある。また、血管位置特定の技術として、予備的に撮影した光音響画像に基づいて血管位置を特定する方法や、他のモダリティ(カメラ、赤外光カメラ、超音波エコー装置など)により測定するための血管位置特定部を設ける方法がある。特定された血管位置に基づいた血管トリミング表示や血管強調表示により、ユーザーに見やすい表示が実現される。また逆に、酸素飽和度が異常値を示す部分に血管が存在する確率は低いため、このような領域をトリミング処理による削除対象としても良い。
【0071】
<装置の好ましい構成>
次に、本実施形態の各構成部の具体的な構成例について説明する。
【0072】
(光源1)
光源1は、ナノ秒からマイクロ秒オーダーのパルス光を射出するパルス光源が好ましい。射出する際の好適なパルス幅は、1ナノ秒以上100ナノ秒以下程度である。また、光の波長は400nm以上1600nm以下の範囲が好適である。生体の深部をイメージングする際には、「生体の窓」と呼ばれる波長帯域(生体の背景組織において吸収が少ない波長帯域)が好ましい。具体的には、700nm以上1100nm以下である。一方、生体表面近傍の血管を高解像度でイメージングする際は可視光領域が好ましい。ただし、テラヘルツ波、マイクロ波、ラジオ波領域の使用も可能である。
【0073】
具体的な光源1としては、レーザー装置が好ましい。複数波長の光を用いて物質濃度を求める場合、波長可変レーザーを用いる。また、互いに異なる波長の光を発振する複数台のレーザーを、切り替えながら用いることも可能である。レーザーとしては、固体レーザー、ガスレーザー、色素レーザー、半導体レーザーなど様々なレーザーを使用できる。特に、Nd:YAGレーザーやアレクサンドライトレーザーなどのパルスレーザーが好ましい。また、Nd:YAGレーザー光を励起光とするTi:saレーザーやOPO(Optical Parametric Oscillators)レーザーを用いてもよい。ただし、光源としてフラッシュランプや発光ダイオードなども利用できる。
【0074】
光源1から出力されたパルス光は、光ファイバー、レンズ、ミラー、拡散板等の光を伝搬する部材(光学部材)により被検体に導かれる。また、パルス光を導く際に、これらの光学部材を用いて、パルス光のスポット形状や光密度を変更することもできる。
【0075】
(プローブ3)
プローブ3は1つ以上の変換素子3を備える。変換素子3として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの圧電現象を用いた圧電素子、光の共振を用いた変換素子、CMUT等の静電容量型の変換素子などがある。他にも、音響波を受信して電気信号に変換できれば、どのような変換素子を用いてもよい。複数の変換素子3を備える場合は、1Dアレイ、1.5Dアレイ、1.75Dアレイ、2Dアレイ、と呼ばれるような平面又は曲面内に並ぶように配置されることが好ましい。
【0076】
また、プローブ3は、被検体に対して機械的に移動するよう構成されていてもよく、ユーザーがプローブ3を把持して動かすハンドヘルド型のプローブ3でもよい。光音響顕微鏡の場合は、プローブ3はフォーカス型プローブとすることが好ましく、プローブ3は被検体の表面に沿って機械的に移動することが好ましい。また、照射光の照射位置とプローブ3とは同期して移動することが好ましい。また、プローブ3内には、変換素子3から出力されるアナログ信号を増幅する増幅器を設けてもよい。プローブを機械走査する場合は、被検体を圧迫保持するプレート状の保持部材や、被検体を挟持する2枚のプレートからなる保持部材を設けて、測定の安定性を向上させても良い。
【0077】
また、半球状、球冠状、お椀状、カップ状などの支持体の内壁に、複数の変換素子3が取り付けられたプローブ3を用いても良い。このようなプローブ3であれば、複数の変換素子の受信感度の高い方向が集中する領域(高感度領域)を形成して、画像の分解能を向上させられる。かかるプローブを用いる場合、光や音響波を透過させるカップ状の保持部材で被検体を保持することが好ましい。
【0078】
(表示部7)
表示部8としては、LCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)、有機ELディスプレイ等のディスプレイを利用できる。なお、表示部7は、本実施形態の被検体情報取得装置が備える構成とはせずに、別に用意して被検体情報取得装置に接続しても良い。
【0079】
(信号処理部40)
信号収集部9は、一般的にDAS(Data Acquisition System)と呼ばれる回路を使用できる。具体的には、信号収集部9は、受信信号を増幅する増幅器、アナログの受信信号をデジタル化するAD変換器、受信信号を記憶するFIFO、RAM等のメモリ等を含む。
【0080】
特性分布取得部4、濃度関連情報算出部5及び表示方法設定部6は、CPU、MPU、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサを用いることができる。また、FPGA(Field Programmable Gate Array)チップ等の演算回路を用いてもよい。なお、特性分布取得部4や濃度関連情報算出部5は、1つのプロセッサや演算回路から構成されるだけでなく、複数のプロセッサや演算回路から構成されていてもよい。
【0081】
また、特性分布取得部4や濃度関連情報算出部5、表示方法設定部6は、信号収集部9から出力される受信信号を記憶するメモリを備えていてもよい。メモリは、典型的にはROM、RAM、およびハードディスクなどの記憶媒体から構成される。なお、メモリは、1つの記憶媒体から構成されるだけでなく、複数の記憶媒体から構成されていてもよい。
【0082】
表示方法設定部6についても同様に、CPUやGPU等のプロセッサ、FPGAチップ等の回路を1つ又は複数組み合わせて構成することができる。また、受信信号、分布データ、表示画像データ、各種測定パラメーター等を記憶するメモリを備えていてもよい。メモリは、典型的には1つ以上のROM、RAM、およびハードディスクなどの記憶媒体から構成される。
【0083】
図1(b)は、信号処理部40の一具体例と外部装置との関係を示す模式図である。信号処理部40は、DAS201、メモリ202、CPU203、GPU204を備える。DAS201は、本実施形態における信号収集部9の一機能を担う。DAS201から転送されたデジタル信号はメモリ202に記憶される。
【0084】
CPU203は、本実施形態における、特性分布取得部4、濃度関連情報算出部5、表示制御部8、表示方法設定部6のうちの機能の一部を担う。具体的にはCPU203は、システムバス200を介して各構成ブロックを制御する。また、CPU203は、メモリ202に記憶されたデジタル信号に対して積算処理や補正処理などの信号処理を実施できる。さらに、CPU203は、信号処理後のデジタル信号をメモリ202に再度書き込み、GPU204による分布データの生成に供される。
【0085】
GPU204は、本実施形態における、特性分布取得部4、濃度関連情報算出部5、表示制御部8、表示方法設定部6のうちの機能の一部を担う。具体的には、CPU203により信号処理されメモリ202に書き込まれたデジタル信号を用いて分布データを作成する。また、GPU204は、作成された分布データに対して、輝度変換や歪補正、注目領域の切り出しなどの各種画像処理を適用して、画像データを作成できる。なお、同様の処理は、CPU203でも可能である。濃度関連情報算出部および表示方法設定部は、本発明の判別部に相当するものと考えられる。ただし、表示方法設定部の一部の機能と表示制御部の機能を合わせて、本発明の表示制御部に相当すると考えてもよい。また、信号処理部40のうち、単一のまたは協同動作する複数の情報処理装置において稼働するプログラムのうち所定の複数のモジュールを、それぞれ本発明の判別部および表示制御部に相当すると考えても良い。
【0086】
(入力部12)
入力部12は、ユーザーからの数値範囲指定、領域指定、表示方式切り替えなど様々な
指示を受け付け、信号処理部に伝達するためのインターフェイスである。入力部としては、マウス、キーボード、トラックボール、タッチパッド、タッチペン、タッチパネル式ディスプレイ、コマンドライン入力装置、音声入力装置などを利用できる。
【0087】
[実施例1]
以下、より具体的な実施例について説明する。本実施例では、乳房を模擬したファントムを被検体とし、被検体を保持するポリメチルペンテンからなる保持部材越しに光が照射され、保持部材越しにプローブ3は光音響波を受信する。プローブ3は1MHz±40%の周波数帯域の変換素子を複数有する2Dアレイプローブである。
【0088】
本実施例では、まず、被検体に対して光源1から波長797nmのパルス光を照射し、プローブ3によって光音響波を受信する。増幅やAD変換を経て、信号処理部40は、受信信号を基にユニバーサルバックプロジェクションを用いて画像再構成を行う。そして、求められた初期音圧分布と、光量分布と、グリューナイゼン定数と、を用いて吸収係数分布を作成する。吸収係数分布の値は、ボクセルデータとなっており、1ボクセルは1辺が0.25mmの立方体である。得られた吸収係数分布は、縦200ボクセル、横200ボクセル、高さが200ボクセルとなっている。
【0089】
次に、被検体に対して光源1から波長756nmのパルス光を照射し、プローブ3によって光音響波を受信する。信号処理部40は、受信により得られた受信信号を基にユニバーサルバックプロジェクションを用いて画像再構成を行う。そして、信号処理部40は、求められた初期音圧分布と、光量分布と、グリューナイゼン定数と、を用いて吸収係数分布を作成する。
【0090】
信号処理部40は、このような756nmの吸収係数分布と797nmの吸収係数分布とを基に、酸素飽和度分布を算出する。酸素飽和度の算出は、各波長の対応するボクセル同士で行い、酸素飽和度分布は、吸収係数分布と同じ縦200ボクセル横200ボクセル高さが200ボクセルとなる。
【0091】
酸素飽和度値を表示するための、色相(H)、彩度(S)を用いたカラーマップを説明する。低い異常値(0%未満)を青、想定値(0%〜100%)を青から緑を経て赤に表示し、保留値(100〜110%)を赤から白で表示し、高い異常値(110%より大きい値)を白で表示する。明度(V)には、吸収係数分布の強度から得られる重みを代入する。その際、吸収係数の値を操作者が設定する値で正規化して重みを算出する。これにより、血管と思われる領域や、ヘモグロビンを多く含むと思われる領域が強調表示されるという効果が得られる。
【0092】
3次元ボクセルデータを、高さ方向の複数スライスに対応する複数の2次元画像として表示する一手法を説明する。まず、各ボクセルを高さ方向に走査し、走査したボクセルの中で吸収係数値の重みが最大のボクセルでの酸素飽和度値を選択し、画像として表示する。ただし表示方法はこれに限られず、3次元ボクセルデータを2次元的に表示する既知の様々な手法を利用できる。
【0093】
また、HSV色空間で表現したカラーマップは、表示の際にRGB色空間に変換している。この色空間の変換は、用いる表示用ソフトウェアに依存する。HSV色空間のカラーマップで表示できるソフトウェアであればHSV表示を行う。また、HSV色空間のカラーマップをRGB色空間、sRGB色空間、RGBA色空間、CMY色空間、CMYK色空間、CMK色空間、HLS色空間などのカラーマップに変換しても良い。
【0094】
ここでは保留値を100〜110%とした。しかし、理論上、酸素飽和度の算出誤差が
予め±10%程度だとわかっている場合に、保留値の値域をマージンを付与した100〜115%としても良い。この場合、値が110%より大きい領域は必ず異常値領域であると判断できる。あるいは、図4(b)に示すように、想定値から外れた程度に応じて複数の保留値を設けて、それぞれ異なるルールで表示してもよい。
【0095】
本実施例によれば、吸収係数分布にノイズや再構成アーチファクト、背景光学定数による算出誤差が含まれることにより、酸素飽和度等の濃度関連情報が想定外値となる場合でも、ユーザーが認識容易なように画像を表示できる。
【0096】
[第2の実施形態]
第2の実施形態における装置構成および処理フローについて、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0097】
本実施形態の被検体情報取得装置は、表示方法設定部6が設定する濃度関連情報分布の各値域の表示方法が異なる。具体的には、想定値領域、保留値領域、異常値領域を、色の点滅やテクスチャ画像によって区別して表示する。3つの領域それぞれに異なる表示を適用しても良い。また、2つの領域(例えば想定値領域および保留値領域)をまとめて、異常値領域と異なるように表示してもよい。
【0098】
本実施形態の処理フローは、図2のステップS103までは第1の実施形態と同様である。そして、S104においては、設定した各値域において、表示された色が点滅するような色設定を行う。本実施形態では、異常値領域のみ点滅するように説明しているが、他の値域のみが点滅してもよいし、各値域が順番に点滅してもよい。また、想定値や保留値のうちどちらか片方のみが点滅するようにしても良いし、交互に点滅するようにしても良い。
【0099】
また、表示画面上に図5のようなユーザーインターフェイスを表示してもよい。ユーザーは、入力部12を用いて点滅する領域を選択できる。その際、チェックボックスを用いて点滅/非点滅を選択させたり、点滅表示領域を選択させたりできる。また、領域を画面上のカーソルでクリックすることで対象の領域の一部、もしくは全部が点滅するようにしても良い。図5では、点滅部分の周辺を棒線で強調して視認性を高めた。点滅が選択されている間は、画面上の対象領域の各ピクセルが、操作者が判別可能なスピードで点滅する。例えば、設定したカラーマップによる色表示と、「その他の表示方法」に係る色表示とが、1秒のうちに0.5秒ずつ交互に表示される。
【0100】
本実施形態では、「その他の表示方法」として、彩度(S)が0%になったカラーマップを使用する。しかし、設定したカラーマップの補色が自動的に選択されても良いし、設定したカラーマップ上で使用されていない色が用いられても良い。また彩度(S)や明度(V)を0%や100%にしたカラーマップをその他の色として用いても良い。また、その他の表示方法として、何らかの模様などが表示されても良いし、設定したカラーマップ上の色の彩度が時間の経過に従って減ってゆき、設定したその他の色に時間を経て変化していっても良い。
【0101】
続いて、各値域を区別するための表示方法として、どちらか一方の一部をテクスチャ画像を用いて表示する場合について述べる。テクスチャ画像とは、画像の質感や模様を視覚的な変化を用いて擬似的に表現するための模様である。例えば異常値領域をテクスチャ画像で表現する場合、異常値領域部分のみ質感の異なる模様を表示することで、それ以外の領域の均一なカラーマップで表現される領域とは区別できる。
【0102】
S105以降の処理は、第1の実施形態と同じである。このように本実施形態では、表
示設定部6において設定された値域の領域において、点滅等の特殊な表示方法を設定する。その結果、ユーザーによる領域の判別が容易になる。
【0103】
[第3の実施形態]
第3の実施形態の被検体情報取得装置は、第1及び第2の実施形態と同様の装置構成を用いるため、各構成の詳細説明は省略する。以下、信号処理部40における処理内容のうち、上記各実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0104】
本実施形態の被検体情報取得装置は、同一の被検体内に、各値域の境界となる閾値が互いに異なるような複数の領域が存在する場合でも、適切に被検体画像を表示できる。具体的には、装置は、算出誤差となる要因に基づいて、各領域ごとに閾値を理論的に計算する。そして、算出された閾値に基づいて各値域を自動で設定し、表示する。
【0105】
図2の処理フローにおいて、S102までは第1の実施形態と同様の処理を行う。そして、S103において、本実施形態では、酸素飽和度分布の各位置での算出誤差を求める。この酸素飽和度の算出誤差は、ノイズによる誤差や背景光学定数による誤差などがある。背景光学定数とは、被検体の平均的な吸収係数及び等価散乱係数であり、これらはあらかじめ求められている。
【0106】
まず、以下にノイズによる酸素飽和度の算出誤差に関して述べる。ここでノイズとは、システムノイズによる誤差を想定している。システムノイズによる酸素飽和度の算出誤差計算の流れは次のとおりである。まず、装置のシステムノイズを測定し、続いて、吸収体として血液球を仮定した場合の発生音圧とのノイズ信号強度比(SN比)を求める。そして、その初期音圧分布のSN比から、吸収係数分布や酸素飽和度分布の算出誤差を求める。
【0107】
まず、被検体を置かずに装置で測定を行い、得られた信号を再構成して初期音圧分布を作成する。ここで初期音圧分布のサイズは、1ボクセルは1辺が0.25mmの立方体で、縦200ボクセル、横200ボクセル、高さが200ボクセルである。なお、実測の代わりに、各探触子で観測されるシステムノイズ強度をNEP(Noise Equivalent Pressure)として画像再構成を行うシミュレーションによってもノイズを作成できる。
【0108】
次に、吸収体として血液球を仮定した場合の、初期音圧分布各位置での血液球の発生音圧を求める。半径1mmの血液球を吸収体として想定する。血液のグリューナイゼン定数と光量分布、半径1mmの吸収係数値を設定することで、式(1)から初期音圧分布各位置での発生音圧が得られる。ここで血液のグリューナイゼン定数は0.2と設定し、光量分布は光照射強度分布や被検体形状に応じて算出する。具体的には、光輸送方程式あるいは光拡散方程式を解くことで、被検体の光量分布を計算により求めた。なお、光輸送方程式あるいは光拡散方程式には、モンテ・カルロ法、差分法、有限要素法など数値計算分野ですでに知られている方法を利用できる。
【0109】
これまで得られた信号とノイズの初期音圧分布を用いて、式(1)から吸収係数分布を算出する。この信号の吸収係数分布とノイズの吸収係数分布から、被検体各位置で吸収係数分布のSN分布が得られる。被検体各位置での吸収係数分布のSN分布の算出を2波長で行い、SN分布同士を計算することで、酸素飽和度のSN分布が得られる。酸素飽和度のSN分布において、各位置での酸素飽和度値の分散を算出することで、被検体各位置での酸素飽和度分布の算出誤差が求められる。
【0110】
次に、背景光学定数による酸素飽和度の算出誤差に関して述べる。ここで、シミュレー
ションにより、背景光学定数による酸素飽和度の算出誤差を計算することを考える。背景光学定数の推定は、背景光学定数の測定装置を用いて行われる。その測定装置は、背景光学定数の推定誤差が算出されているものとし、今回のシミュレーションでは±5%とする。その場合、背景光学定数の各測定において、測定結果にその推定誤差が重畳されていると考えることができる。
【0111】
被検体として、1ボクセルは1辺が0.25mmの立方体で、縦200ボクセル、横200ボクセル、高さが200ボクセルのボリュームデータを考える。そのボリュームデータ全体で、生体の間質の平均的な散乱係数と吸収係数(背景光学定数)が設定されているとする。測定装置でその被検体を測定し、取得した背景光学定数が平均的な散乱係数と吸収係数と同値だとした場合、背景光学定数の測定誤差は±5%である。そのため、誤差を含めた背景光学定数の取りうる値域が計算可能である。
【0112】
次に誤差を含めた背景光学定数を用いて、被検体の光量分布を求める。光量分布はここでも光輸送方程式あるいは光拡散方程式を解くことで得られる。これらから、被検体の吸収係数分布を取得できる。
【0113】
上記プロセスを2波長で行い、酸素飽和度分布を算出する。そして、背景光学定数の真値からのずれを算出することで、被検体領域での酸素飽和度分布の算出誤差を計算できる。このようにして得られたノイズや背景光学定数による酸素飽和度の算出誤差を足し合わせることで、被検体の各位置での酸素飽和度の算出誤差が計算できる。足し合わせる場合、複数の要因の誤差を被検体の各位置で自乗平均するのが望ましいが、加算するのでもよい。
【0114】
そして、表示設定部6において、被検体の各位置での閾値を設定する。ここで、表示部7で2次元画像(例えば、被検体の縦・横・高さのどれか1軸での断面画像や、複数ボクセル厚の画像など)を表示する場合、被検体の各位置ごとに閾値(または値域)が異なる可能性がある。その場合、例えば、各断面画像中の最大の閾値を採用する。
S104以降の処理は、第1の実施形態と同じである。
【0115】
以上のように、本実施形態では、算出した濃度関連分布の各位置における濃度関連分布の算出誤差に応じて、濃度関連分布の各値域を分ける閾値を設定する。その結果、各値域を精度よく分離できる。
【0116】
[第4の実施形態]
次に、第4の実施形態について、上記各実施形態と異なる部分を中心に説明する。本実施形態の被検体情報取得装置は、濃度関連分布が血中グルコース濃度分布の場合に、その各位置での血中グルコース濃度分布の算出誤差マップを算出する。
【0117】
図2の処理フローのS103において、血中グルコース濃度分布の各位置での誤差を算出するまでの処理は、実施形態3と同様である。これにより、血中グルコース濃度分布の各位置での誤差を示す、算出誤差分布が算出できる。これをS104の表示部7で表示することにより、被検体の各位置における血中グルコース濃度分布の各位置での算出誤差分布を表示できる。その際、図6のように、ある断面における血中グルコース濃度分布の算出誤差の百分率をコンター図で表しても良い。また、他の描画方法を用いても良い。
【0118】
以上のように、本実施形態では、算出した濃度関連分布の各位置における濃度関連分布の算出誤差を可視化することで、算出した濃度関連分布の各位置での信頼性を知ることができる。
【0119】
[第5の実施形態]
次に、第5の実施形態について、上記各実施形態とは異なる部分を中心に説明する。本実施形態の被検体情報取得装置は、濃度関連情報分布の想定値領域、保留値領域、異常値領域のうち少なくとも一つの領域を、選択的に表示する。ここでは濃度関連分布として、分子プローブ濃度分布を用いる。
【0120】
図2の処理フローのS102において、濃度関連情報分布を算出する。表示方法設定部6において、想定値と保留値の値域を、経験的に得られている値域で定める(例えばそれぞれ0〜100%、100〜110%)。それ以外の値域を異常値の値域とする。さらに、S104で濃度関連情報分布の想定値領域、保留値領域、異常値領域の少なくともひとつ以上の領域を表示する。表示する領域は、予め定められたものでも良いし、入力部12を用いた指定に従って切り替えても良い。なお、表示対象以外の値域については、背景色と同色で表示するなど、容易に識別できる表示方法が好ましい。
【0121】
本実施形態では、濃度関連情報分布の各値域の分布を容易に確認できる。特に、経験則等により設定された値を用いて、装置による算出処理がなくとも濃度関連情報分布を表示できるようになる。
【0122】
本発明によれば、算出した被検体の光学特性に関する分布にノイズや再構成アーチファクト、背景光学定数による算出誤差などが含まれている場合であっても、酸素飽和度分布などの濃度関連分布の異常値を判別可能なる。その結果、表示された濃度関連分布の診断能が向上する。
【0123】
[その他の実施形態]
記憶装置に記録されたプログラムを読み込み実行することで前述した実施形態の機能を実現するシステムや装置のコンピュータ(又はCPU、MPU等のデバイス)によっても、本発明を実施することができる。また、例えば、記憶装置に記録されたプログラムを読み込み実行することで前述した実施形態の機能を実現するシステムや装置のコンピュータによって実行されるステップからなる方法によっても、本発明を実施することができる。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、FPGAやASIC)も利用できる。この目的のために、上記プログラムは、例えば、ネットワークを通じて、又は、上記記憶装置となり得る様々なタイプの記録媒体(つまり、非一時的にデータを保持するコンピュータ読取可能な記録媒体)から、上記コンピュータに提供される。したがって、上記コンピュータ(CPU、MPU等のデバイスを含む)、上記方法、上記プログラム(プログラムコード、プログラムプロダクトを含む)、上記プログラムを非一時的に保持するコンピュータ読取可能な記録媒体は、いずれも本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0124】
1:光源、3:変換素子、40:信号処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6