特開2017-93(P2017-93A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人

▶ 出光興産株式会社の特許一覧
特開2017-93セルロース含有固形物の製造方法及びグルコースの製造方法
<>
  • 特開2017000093-セルロース含有固形物の製造方法及びグルコースの製造方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-93(P2017-93A)
(43)【公開日】2017年1月5日
(54)【発明の名称】セルロース含有固形物の製造方法及びグルコースの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C13B 5/00 20110101AFI20161209BHJP
   C13K 1/02 20060101ALI20161209BHJP
【FI】
   C13B5/00
   C13K1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-118532(P2015-118532)
(22)【出願日】2015年6月11日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度 独立行政法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(先端的低炭素化技術開発)「天然多環芳香族からの構成単環芳香族類の単離回収基盤技術開発」に係る委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
【住所又は居所】東京都千代田区丸の内3丁目1番1号
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
【住所又は居所】北海道札幌市北区北8条西5丁目
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100153866
【弁理士】
【氏名又は名称】滝沢 喜夫
(72)【発明者】
【氏名】小山 啓人
【住所又は居所】千葉県袖ケ浦市上泉1280番地
(72)【発明者】
【氏名】増田 隆夫
【住所又は居所】北海道札幌市北区北8条西5丁目 国立大学法人北海道大学内
(72)【発明者】
【氏名】多湖 輝興
【住所又は居所】北海道札幌市北区北8条西5丁目 国立大学法人北海道大学内
(57)【要約】
【課題】糖化性に優れるセルロース含有固形物を得ることのできるセルロース含有固形物の製造方法、及び当該セルロース含有固形物からグルコースを得るグルコースの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係るセルロース含有固形物の製造方法は、水と炭素数4〜8の脂肪族アルコールから選ばれる少なくとも1種のアルコールとの混合溶媒中において、植物系バイオマスを下記条件の下で処理し、該処理の後、固液分離によりセルロース含有固形物を得るものである。
条件A:該原料の該溶媒に対する仕込み濃度が1質量%以上50質量%以下である
条件B:反応温度が100℃以上350℃以下である
条件C:反応時間が0.1時間以上10時間以下である
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と炭素数4〜8の脂肪族アルコールから選ばれる少なくとも1種のアルコールとの混合溶媒中において、植物系バイオマスを下記条件の下で処理し、
条件A:該原料の該溶媒に対する仕込み濃度が1質量%以上50質量%以下である
条件B:反応温度が100℃以上350℃以下である
条件C:反応時間が0.1時間以上10時間以下である
該処理の後、固液分離によりセルロース含有固形物を得る、セルロース含有固形物の製造方法。
【請求項2】
前記混合溶媒における水と前記アルコールとのモル比(水/アルコール)が1/1〜40/1である請求項1に記載のセルロース含有固形物の製造方法。
【請求項3】
前記脂肪族アルコールが、1−ブタノール、2−ブタノール及び2−メチル−1−プロパノールから選ばれる少なくとも1つである請求項1又は2に記載のセルロース含有固形物の製造方法。
【請求項4】
前記植物系バイオマスが草本系バイオマスである請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルロース含有固形物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法によって得られたセルロース含有固形物を酵素糖化処理し、グルコースを得るグルコースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスを原料とするセルロース含有固形物の製造方法及びグルコースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境意識の高まりにより、バイオマス由来の原料が望まれるようになってきた。しかし、バイオマス由来の原料は、例えば、バイオエタノールの製造において、特に顕著となったように、デンプンや糖等、食料と競合する原料を用いる場合が多く、これにより食料価格上昇や食糧生産の減少に繋がる等問題が指摘されていた。そこで、現在、食料と競合しないセルロース系バイオマスからバイオ燃料、バイオ化学品等を製造する技術が注目されている。
食料と競合しないセルロース系バイオマスとして、例えば、パームヤシの樹幹及び空房、パームヤシ果実の繊維及び種子、バガス(さとうきび(高バイオマス量さとうきびを含む))の搾り滓)、稲わら、麦わら、トウモロコシの穂軸・茎葉・トウモロコシ残渣(コーンストーバー、コーンコブ、コーンハル)、ソルガム(スイートソルガムを含む)残渣、ヤトロファ種皮及び殻、カシュー殻、木材チップ、スイッチグラス、エリアンサス、エネルギー作物等が挙げられる。
【0003】
食料と競合しないセルロース系バイオマスを原料として活用する一例として、酵素糖化処理による糖の製造が挙げられる。しかし、上述したセルロース系バイオマスにはいずれも、糖に変換できるセルロースやヘミセルロース以外にリグニンが含まれている。
リグニンは、複雑な三次元構造を有しているため、酵素糖化処理において、セルロースを分解する酵素のセルロースへの接近を阻害する。このため、セルロース系バイオマスにリグニンが多く存在すると、酵素反応の効率が伸び悩むという問題があった。
そこで、酵素糖化処理を十分に進行させるための手法の一つとして、セルロース系バイオマスに、水性アンモニアを用いた前処理を施した後、酵素加水分解する方法が提案されている(特許文献1参照)。また、セルロース系バイオマスに、水蒸気爆発による前処理を施した後、酵素加水分解する方法が提案されている(特許文献2参照)。
しかし、上記いずれの方法をもってしても、得られるグルコースの収率の点から、さらなる改善が要求されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5377491号公報
【特許文献2】特表2013−541950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、糖化性に優れるセルロース含有固形物を得ることのできるセルロース含有固形物の製造方法、及び当該セルロース含有固形物からグルコースを得るグルコースの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、植物系バイオマスを、特定の条件で処理することにより、前記課題が解決できることを見出した。
すなわち、本発明の要旨は下記のとおりである。
[1]水と炭素数4〜8の脂肪族アルコールから選ばれる少なくとも1種のアルコールとの混合溶媒中において、植物系バイオマスを下記条件の下で処理し、
条件A:該原料の該溶媒に対する仕込み濃度が1質量%以上50質量%以下である
条件B:反応温度が100℃以上350℃以下である
条件C:反応時間が0.1時間以上10時間以下である
該処理の後、固液分離によりセルロース含有固形物を得る、セルロース含有固形物の製造方法。
【0007】
[2]前記混合溶媒における水と前記アルコールとのモル比(水/アルコール)が1/1〜40/1である[1]に記載のセルロース含有固形物の製造方法。
[3]前記脂肪族アルコールが、1−ブタノール、2−ブタノール及び2−メチル−1−プロパノールから選ばれる少なくとも1つである[1]又は[2]に記載のセルロース含有固形物の製造方法。
[4]前記植物系バイオマスが草本系バイオマスである[1]〜[3]のいずれかに記載のセルロース含有固形物の製造方法。
[5][1]〜[4]のいずれか1項に記載の製造方法によって得られたセルロース含有固形物を酵素糖化処理し、グルコースを得るグルコースの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、糖化性に優れるセルロース含有固形物を得ることのできるセルロース含有固形物の製造方法、及び当該セルロース含有固形物からグルコースを得るグルコースの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例で用いた回分式反応装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に係るセルロース含有固形物の製造方法について、以下詳細に説明する。
[セルロース含有固形物の製造方法]
本実施形態に係るセルロース含有固形物の製造方法は、水と炭素数4〜8の脂肪族アルコールから選ばれる少なくとも1種のアルコールとの混合溶媒中において、植物系バイオマスを下記条件の下で処理し、該処理の後、固液分離によりセルロース含有固形物を得るものである。
条件は下記のとおりである。
条件A:該原料の該溶媒に対する仕込み濃度が1質量%以上50質量%以下である
条件B:反応温度が100℃以上350℃以下である
条件C:反応時間が0.1時間以上10時間以下である
ここで、仕込み濃度とは、混合溶媒と、該混合溶媒に対して投入した原料との質量比であり、混合溶媒に不溶な原料成分も含まれる。
【0011】
<セルロース含有固形物を含む固形分を分離する工程>
セルロース含有固形物を含む固形分を分離する工程は、水と炭素数4〜8の脂肪族アルコールから選ばれる少なくとも1種のアルコールとの混合溶媒中において、植物系バイオマスを上記条件の下で処理し、該処理の後、固液分離する処理を含む。
(原料)
植物系バイオマスとしては、木本系バイオマス、草本系バイオマスが挙げられる。木本系バイオマスとしては、スギ、ヒノキ、ヒバ、サクラ、ユーカリ、ブナ、タケなどの針葉樹、広葉樹が挙げられる。草本系バイオマスとしては、パームヤシの樹幹・空房、パームヤシ果実の繊維及び種子、バガス(さとうきび及び高バイオマス量さとうきびの搾り滓)、ケーントップ(さとうきびのトップ及びリーフ)、稲わら、麦わら、トウモロコシの穂軸・茎葉・残渣(コーンストーバー、コーンコブ、コーンハル)、ソルガム(スイートソルガムを含む)残渣、ヤトロファ種の皮及び殻、カシュー殻、スイッチグラス、エリアンサス、エネルギー作物等が挙げられる。
これらのなかでも、入手容易性や本発明において適用する製造方法との適合性の観点から、草本系バイオマスであることが好ましく、パームヤシの空房、麦わら、トウモロコシの茎葉・残渣、バガス、ケーントップがより好ましく、バガス、ケーントップがさらに好ましい。植物系バイオマスは、粉砕されたものを用いることもできる。また、ブロック、チップ、粉末、いずれの形状でもよい。
これらの原料から、下記の処理により、セルロース含有固形物が得られる。
【0012】
(固形分の分離に用いる溶媒)
セルロース含有固形物を含む固形分の分離に用いる溶媒について説明する。溶媒に用いられるアルコールは、炭素数4〜8の脂肪族アルコールであって、0℃以上50℃以下において水と二相分離するものを用いることができる。
例えば、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール等の飽和直鎖アルコールのほか、不飽和直鎖アルコールであってもよい。また、脂肪族炭化水素が分岐したアルコールであってもよい。不飽和分岐アルコールであってもよい。
ここで、二相分離する状態とは、混合溶媒の殆ど全てが二相分離しているが、水相とアルコール相とが互いにわずかながら相溶している状態も含まれる。また、アルコール相からアルコールを除去する処理には、アルコール相にわずかに相溶している水相を除去する処理も含む。
これらのアルコールのなかでも、0℃以上50℃以下において水と二相分離する観点から、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノールから選ばれる1種以上であることが好ましく、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノールが特に好ましい。
水とアルコールのモル比(水/アルコール)は、1/1〜40/1であることが好ましく、より好ましくは、1.5/1〜30/1、さらに好ましくは、2/1〜24/1である。水とアルコールとの比が上述した範囲を超える場合には、水とアルコールとが所定の条件下において、二相分離しない場合がある。また、上記範囲以外の混合比では、リグニンの分離・除去が不十分な場合がある。
水と二相分離するアルコールであれば、アルコールの回収が容易になるため、好ましい。これに対して、0℃以上50℃以下において二相分離せず、且つ水よりも低沸点のアルコールとの混合溶媒は、溶媒分離の際におけるエネルギー損失の観点から、溶媒としては適さない。
本実施形態において、溶媒に用いられる水としては、例えば、水道水、工業用水、イオン交換水、蒸留水等が挙げられる。
【0013】
(原料からセルロース含有固形物を含む固形分を分離する工程の条件)
条件Aにおける原料の溶媒に対する仕込み濃度は、1質量%以上50質量%以下であり、好ましくは、3質量%以上20質量%以下、より好ましくは、5質量%以上15質量%以下である。原料濃度が1質量%未満であると、溶媒の加温や、溶媒の除去に多量のエネルギー量を要し、生成プロセスのエネルギー効率が悪化する。また、材料が50質量%を超えると、溶媒量が十分でなく、リグニンの分離効率が低下する。
条件Bにおける反応温度は、100℃以上350℃以下であり、好ましくは、150℃以上300℃以下であり、より好ましくは、170℃以上270℃以下である。100℃未満であると、リグニンの分離が進行しにくくなり、350℃を超えると、セルロースが分解するとともに、リグニンが再度重合することによりコークが生成するため好ましくない。
条件Cにおける反応時間は、0.1時間以上10時間以下であり、好ましくは、0.2時間以上8時間以下であり、より好ましくは、1時間以上6時間以下であり、さらに好ましくは、1時間以上3時間以下である。0.1時間未満では分離が十分に進行せず、10時間を超えると、セルロースが分解するとともに、リグニンが再度重合することによって生成されるコークの生成量を抑えることができない。
分離工程では、アルコール相及び水相の固形分であるセルロース含有固形物を分離する。
本実施形態に係るセルロース含有固形物の分離方法によれば、植物系バイオマス中に含まれるセルロース含有固形物を、アルコール相及び水相の沈殿物として得られる固形分として、効率的かつ高純度で回収することができる。
本実施形態に係るセルロース含有固形物の分離方法によれば、原料に含まれるリグニンは、上記溶媒のアルコール相に溶解される。このため、セルロース、ヘミセルロース、及びこれらの分解物に含有されるリグニンの量を低減させることができる。
(他の条件)
上述した条件A〜Cのほかに、分離工程における反応系の圧力を、0.5MPa以上30MPa以下に設定することが望まれる。より好ましい条件は、水、アルコール量と温度に応じて、適宜設定することができる。また、分離工程は、空気下で行うことができる。分離工程は、酸化反応による重合を抑えるために、窒素パージを行って酸素を減らした雰囲気下で行われることが好ましい。
【0014】
<固形分を水洗する工程>
本実施形態に係るセルロース含有固形物の製造方法は、固液分離により得られた固形分を水洗する工程を含んでいてもよい。水洗工程では、得られた固形分100質量部に対して、100質量部以上10000質量部以下の水が用いられ、攪拌された後、固形分と液相とが濾別される。水洗工程で用いられる水の量は、好ましくは1000質量部以上5000質量部以下であり、より好ましくは1000質量部以上2000質量部以下である。100質量部未満では十分な洗浄効果が得られず、10000質量部を超えると、設備が大きくなり過ぎる。
水洗工程によって、混合溶媒の除去及びヘミセルロース等の水に可溶な成分が溶出されて除去される。水洗工程は、複数回行うことが好ましく、3回以上繰り返し行うことがより好ましい。水洗工程を得て、セルロース含有固形物が得られる。
本実施形態に係るセルロース含有固形物の製造方法によれば、バイオマス中に含まれるセルロース含有固形物を、水相に残渣として得られる固形分として回収することができる。
また、本実施形態に係るセルロース含有固形物の分離方法によれば、原料に含まれるリグニンを上記溶媒のアルコール相に溶出して分離することができ、セルロース、ヘミセルロース、及びこれらの分解物に含有されるリグニンの量を低減させることができる。
【0015】
本発明の実施形態に係る製造方法における分離方式に、特に制限はないが、静置分離が可能である。例えば、一般的な回分式反応器、半回分式反応器等を利用することができる。また、植物系バイオマスと、水と、アルコールとからなるスラリーをスクリュー又はポンプ等で押し出しながら分離させる方式も適用可能である。
【0016】
<得られたセルロース含有固形物の特徴>
上述した方法により抽出されたセルロース含有固形物には、固形分として、セルロース含有固形物の全量基準において、セルロース及びセルロースを分解して得られるセルロース分解物が60質量%以上90質量%以下含まれ、リグニンが5質量%以上30質量%以下含まれ、ヘミセルロース及びヘミセルロースを分解して得られるヘミセルロース分解物が0質量%以上5質量%以下含まれる。
セルロース及びセルロースを分解して得られるセルロース分解物が60質量%未満の場合、或いは、リグニンが30質量%を超える場合には、酵素糖化処理によりグルコースを得る際の糖化率が低下する。
ヘミセルロース及びヘミセルロースを分解して得られるヘミセルロース分解物が5質量%を超えると、ヘミセルロースと結合しているリグニンの分離・除去が不十分となり、酵素糖化処理によりグルコースを得る際の糖化率が低下する。
【0017】
上述の観点から、セルロース含有固形物に含まれるセルロース及びセルロースを分解して得られるセルロース分解物は、セルロース含有固形物の全量基準で、70質量%以上90質量%以下が好ましく、75質量%以上90質量%以下がより好ましい。
また、セルロース含有固形物に含まれるリグニンは、セルロース含有固形物の全量基準で、5質量%以上25質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましい。
さらにまた、セルロース含有固形物に含まれるヘミセルロース及びヘミセルロースを分解して得られるヘミセルロース分解物は、セルロース含有固形物の全量基準で、0質量%以上3質量%以下が好ましく、0質量%以上2質量%以下がより好ましい。
【0018】
<セルロース含有固形物の用途>
本発明に係るセルロース含有固形物の製造方法により得られたセルロース含有固形物に含まれるセルロースは、リグニン含有量が少ないため、酸や酵素による糖化処理に好適に用いられる。
また、本実施形態に係る製造方法によって得られたセルロース含有固形物は、他の方法によって得られるセルロース含有固形物に比べて、解繊されやすい状態になっている。このため、用途展開がし易いという利点を有する。
また、本実施形態に係る製造方法によって得られたセルロース含有固形物から、公知の手法を用いてエタノールやブタノールを得ることができる。
また、本実施形態に係る製造方法により得られたセルロース含有固形物からは、セルロースナノファイバー等の樹脂強化繊維・化学繊維代替としてのゴム及びタイヤ補強材、カルボキシメチルセルロース、オリゴ糖等の食品添加物、乳酸、コハク酸等の化学品を得ることができる。
【0019】
<当該製造方法において分離されたヘミセルロース及びリグニンの用途>
本実施形態に係るセルロース含有固形物の製造方法によって分離されたヘミセルロースからは、オリゴ糖、キシリトール等の食品添加物、フルフラール等の化学品を得ることができ、有用である。
また、本実施形態に係るセルロース含有固形物の製造方法において、分離されたリグニンは、具体的に、燃料、セメント用の撥水材のとして用いることができる。また、これらのほかに、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂のベース樹脂原料、エポキシ樹脂の添加剤(硬化剤)、ポリウレタン樹脂の改質剤(難燃剤)等にも適用できる。これは、リグニンがフェノール性の構造単位を有する特徴によるものである。
ここで、ベース樹脂原料としての使用については、従来公知の手法を用いることができる。一例として、リグニンとヘキサメチレンテトラミンを代表とする公知の架橋剤とが配合されてなる樹脂組成物が挙げられる。
リグニンと架橋剤とが配合されてなる樹脂組成物に、各種の充填材や工業的に得られる一般のフェノール樹脂を必要に応じて配合してもよい。このような樹脂組成物は、住宅用の断熱材、電子部品、フラックサンド用樹脂、コーテッドサンド用樹脂、含浸用樹脂、積層用樹脂、FRP成型用樹脂、自動車部品、自動車タイヤの補強材等に用いることができる。
また、リグニンへのエポキシ基の導入及びリグニンのエポキシ樹脂硬化剤としての使用によりエポキシ樹脂への適用も可能となる。そのほか、公知の手法を用いて、ビニル基、マレイミド基、イソシアネート基等をリグニンに導入することにより、さらに広範囲の工業用樹脂への適用が可能となる。
【0020】
[グルコースの製造方法]
本発明の実施形態に係るセルロース含有固形物の製造方法によって得られたセルロース含有固形物を用いてグルコースを製造することができる。すなわち、本発明の実施形態に係るグルコースの製造方法は、水と炭素数4〜8の脂肪族アルコールから選ばれる少なくとも1種のアルコールとの混合溶媒中において、植物系バイオマスを下記条件の下で処理し、該処理の後、固液分離によりセルロース含有固形物を得て、該セルロース含有固形物を酵素糖化処理し、グルコースを得るというものである。セルロース含有固形物を得る処理の条件は下記のとおりである。
条件A:該原料の該溶媒に対する仕込み濃度が1質量%以上50質量%以下である
条件B:反応温度が100℃以上350℃以下である
条件C:反応時間が0.1時間以上10時間以下である
ここで、仕込み濃度とは、混合溶媒と、該混合溶媒に対して投入した原料との質量比であり、混合溶媒に不溶な原料成分も含まれる。
【0021】
本実施形態に係るグルコースの製造方法において、酵素糖化処理における条件は、下記のとおりである。
セルロース含有固形物に含まれるセルロース及びセルロースを分解して得られるセルロース分解物に対して作用する酵素を、セルロース含有固形物全量に対して、0.1質量%以上200質量%以下とすることができる。また、酵素糖化処理に用いる酵素活性は、100U/g以上10000U/g以下とすることができる。さらに、酵素糖化処理における処理温度は、30℃以上70℃以下であれば、酵素が活性化し、糖化率を向上させることができる。酵素糖化処理における処理時間は、12時間以上168時間以下であれば、酵素が活性化し、糖化率を向上させることができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
[セルロース含有固形物の分析]
<製造例1>
植物系バイオマスとしてバガスを選択し、試料サイズ5mm角以下の試料を作製した。この試料と、水/1−ブタノール比が8/1で調製した混合溶媒とを、内容積0.92LのSUS(ステンレス)製回分式装置(図1)に入れた。溶媒の合計量は、315gであった。原料仕込み濃度は、原料/溶媒=1/10として行った。
SUS製回分式装置の装置内を窒素でパージした後、200℃まで昇温し、2時間処理を行った。このときの内圧(水と1−ブタノールの蒸気圧)は、1.9MPaであった。処理時間は、200℃に達してからの経過時間とした。また、熱電対にて温度を測定した。
処理終了後、SUS製回分式装置を冷却し、温度が室温付近まで下がった後、固形分と液相とを濾別した。
固形分に200gの水を加え、30分間攪拌洗浄の後、固形分と液相とを濾別した。当該操作を3回繰り返し、セルロース含有固形物Aを得た。
【0023】
<製造例2〜6>
第1表に示す原料バイオマスを、製造例1と同様の混合溶液を用いて、製造例1と同条件で処理することにより、固形分と液相とを濾別した。さらに製造例1と同様の操作により、セルロース含有固形物B〜Fを得た。得られたセルロース含有固形物の組成分析結果を第1表に示す。
【0024】
<比較製造例>
原料としてバガス(試料サイズ10cm×2cm角以下)を水蒸気爆砕装置の2Lの耐圧容器に入れ、水蒸気を圧入し、210℃で5分間保持した。その後バルブを急速に開放することでセルロース含有固形物A’を得た。
【0025】
<セルロース含有固形物の組成分析>
第1表の成分組成は、下記に示す前処理を行った後、構成糖分析に従って算出した。
(前処理)
前処理として、ウィレーミルを用いて試料となる原料を粉砕し、105℃で乾燥した。
(構成糖分析)
セルロース含有固形物の試料の適量を量りとり、72%硫酸を加え、30℃において、随時撹拌しながら1時間放置した。この反応液を純水と混釈しながら耐圧瓶に完全に移し、オートクレーブにて120℃で1時間処理した後、ろ液と残渣とを、ろ別した。ろ液中の単糖については、高速液体クロマトグラフ法により定量を行った。なお、C6多糖類(主にグルカン)をセルロース、C5多糖類(主にキシラン)をヘミセルロースと定義した。
(リグニン)
構成糖分析の過程でろ別して得られた残渣を105℃で乾燥し、重量を計測し、分解残渣率を算定した。さらに、灰分量補正することで、リグニンの含有量を算定した。
【0026】
【表1】
【0027】
[酵素糖化処理によるグルコースの製造]
<実施例1〜6及び比較例>
製造例1〜6により得られたセルロース含有固形物A〜F、又は比較製造例により得られたセルロース含有固形物A’のそれぞれについて、1g(乾燥重量)を50mL遠沈管に投入し、121℃、20分間滅菌処理を行った。同様の滅菌処理を実施した酢酸緩衝液を、液量が約20mL、pH5となるように、遠沈管に加え、その後、酵素(ナガセケムテックス(株)製、セルライザーACE)を、第2表に示す酵素量で投入した。当該遠沈管を50℃の恒温槽中、120rpmで、72時間振盪した。
0.625%のカルボキシメチルセルロースナトリウムの0.625%溶液(pH4.5)、4mlに、当該酵素1mlを加えて、40℃で30分間作用させたとき、1分間に1μmolのグルコースに相当する還元力を生成する活性を1CUNと表す。上記酵素は、1600CUN/g以上の酵素活性を有するものである。
【0028】
<酵素糖化して得られた糖の分析>
糖(グルコース)を、HPLCにて分析した。
(測定条件)
・カラム:昭和電工製 Shodex SP−G(ガードカラム)+SP0810
・移動相:蒸留水(HPLCグレード)
・検出器:RI(セル内60℃)
・カラム温度:80℃
・注入量:50μL
・検量線用標準試料:東京化成工業製 D−(+)−グルコース、D−(+)−キシロース
(試料調製)
ピペッターを用いて、10mLバイアル瓶に試料溶液を0.2mL採取し、蒸留水を1.8mL添加し十分に混合した。すなわち、10倍希釈溶液を作製した。これをバイアル瓶に採取した。
(計算方法)
検量線を用いて、グルコース濃度(g−グルコース/L)を算出した。糖化率(%)は、下記式に基づいて算出されるものである。
糖化率(%)=酵素糖化液中のグルコース量(g)/セルロース含有固形物中のグルコース量(g)×100
【0029】
【表2】
【0030】
[評価結果]
原料種によらず、本発明に係る製造方法の製造例1〜6により得られたセルロース含有固形物A〜Fを用いた実施例のサンプルは、水蒸気爆砕法による前処理が施された比較製造例により得られたセルロース含有固形物A’を用いた比較例のサンプルに比べて、セルラーゼの接近を阻害するリグニンの含有量が低くなっている。これにより、酵素糖化処理における糖化率が向上したものと推測される。
したがって、本発明に係る製造方法により得られたセルロース含有固形物を用いることにより、セルラーゼの接近が阻害されることなく、酵素糖化処理における糖化率を向上させることができる。
図1