特表-16021483IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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再表2016-21483炭素のナノ被覆層を有する基材粉末の製造方法、これを用いたMgB2超伝導体の製造方法およびMgB2超伝導体、リチウムイオン電池用正極材の製造方法およびリチウムイオン電池、並びに光触媒の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2016年2月11日
【発行日】2017年4月27日
(54)【発明の名称】炭素のナノ被覆層を有する基材粉末の製造方法、これを用いたMgB2超伝導体の製造方法およびMgB2超伝導体、リチウムイオン電池用正極材の製造方法およびリチウムイオン電池、並びに光触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/15 20170101AFI20170407BHJP
   C01B 32/18 20170101ALI20170407BHJP
   C01B 32/182 20170101ALI20170407BHJP
   B82B 1/00 20060101ALI20170407BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20170407BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20170407BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20170407BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20170407BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20170407BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20170407BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20170407BHJP
【FI】
   C01B31/02 101Z
   B82B1/00ZNM
   H01M4/36 C
   H01M4/48
   H01M4/58
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M10/0566
   H01M10/052
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】33
【出願番号】特願2016-540185(P2016-540185)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2015年7月30日
(31)【優先権主張番号】特願2014-158308(P2014-158308)
(32)【優先日】2014年8月4日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-218800(P2014-218800)
(32)【優先日】2014年10月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-33651(P2015-33651)
(32)【優先日】2015年2月24日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26〜27年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
【住所又は居所】茨城県つくば市千現一丁目2番地1
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(74)【代理人】
【識別番号】100190067
【弁理士】
【氏名又は名称】續 成朗
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 浩明
【住所又は居所】茨城県つくば市千現一丁目2番地1 国立研究開発法人物質・材料研究機構内
(72)【発明者】
【氏名】イェ シュジュン
【住所又は居所】茨城県つくば市千現一丁目2番地1 国立研究開発法人物質・材料研究機構内
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 明
【住所又は居所】茨城県つくば市千現一丁目2番地1 国立研究開発法人物質・材料研究機構内
(72)【発明者】
【氏名】久保 佳実
【住所又は居所】茨城県つくば市千現一丁目2番地1 国立研究開発法人物質・材料研究機構内
(72)【発明者】
【氏名】安川 栄起
【住所又は居所】茨城県つくば市千現一丁目2番地1 国立研究開発法人物質・材料研究機構内
(72)【発明者】
【氏名】野村 晃敬
【住所又は居所】茨城県つくば市千現一丁目2番地1 国立研究開発法人物質・材料研究機構内
【テーマコード(参考)】
4G146
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA17
4G146AB07
4G146AC01B
4G146AC15B
4G146AC16B
4G146AC17B
4G146AD15
4G146AD17
4G146AD22
4G146AD25
4G146AD28
4G146AD35
4G146AD40
4G146BA12
4G146BB04
4G146BC03
4G146BC27
4G146BC33B
4G146BC37B
4G146BC45
4G146CB10
4G146CB11
4G146CB13
4G146CB19
4G146CB34
4G146DA02
4G146DA12
5H029AJ02
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL04
5H029AL07
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029BJ03
5H029CJ02
5H029CJ03
5H029CJ08
5H029CJ22
5H029HJ02
5H029HJ04
5H029HJ14
5H050AA02
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA05
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB05
5H050CB08
5H050DA09
5H050EA08
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA14
(57)【要約】
本発明の炭素のナノ被覆層を有する基材粉末の製造方法は、基材粉末に多環芳香族炭化水素を添加し、前記多環芳香族炭化水素の沸点以上で当該沸点温度+300℃以下でありかつ前記多環芳香族炭化水素の熱分解温度以上の温度で加熱して、前記基材粉末の表面を0.1nm以上10nm層以下の炭素で覆うことを特徴とする。これにより、基材粉末を被覆する炭素の供給源を適切に選択することで、基材粉末の最終製品の用途において不具合を起こす可能性がなく、基材粉末の生産性もよい、改質された最終製品が得られる炭素のナノ被覆層を有する基材粉末を提供することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材粉末に多環芳香族炭化水素を添加し、前記多環芳香族炭化水素の沸点以上当該沸点温度+300℃以下でありかつ前記多環芳香族炭化水素の熱分解温度以上の温度で加熱して、前記基材粉末の表面を1層以上300層以下の炭素原子で覆うことを特徴とする炭素のナノ被覆層を有する基材粉末の製造方法。
【請求項2】
基材粉末に多環芳香族炭化水素を添加し、前記多環芳香族炭化水素の沸点以上で当該沸点温度+300℃以下でありかつ前記多環芳香族炭化水素の熱分解温度以上の温度で加熱して、前記基材粉末の表面を0.1nm以上10nm層以下の炭素で覆うことを特徴とする炭素のナノ被覆層を有する基材粉末の製造方法。
【請求項3】
前記基材粉末は、SnO粉末、LiVPO粉末、LiFePO粉末、LiNi0.5Mn1.5粉末、LiMnPO粉末、LiFeSiO粉末、V粉末、MnO粉末、LiCoO粉末、LiNiO粉末、LiNi0.5Mn0.5粉末、LiMn粉末、LiS粉末およびSiO粉末からなる群から選ばれたリチウムイオン電池負極材用の基材粉末、またはAg粉末とTiO粉末との積層体およびB粉末からなる群から選ばれた基材粉末であることを特徴とする請求項1または2に記載の炭素のナノ被覆層を有する基材粉末の製造方法。
【請求項4】
前記多環芳香族炭化水素は、コロネン(coronene)、アンタントレン(anthanthrene)、ベンゾペリレン(Benzo(ghi)perylene)、サーキュレン(circulene)、コランニュレン(corannulene)、ディコロニレン(Dicoronylene)、ディインデノペリレン(Diindenoperylene)、ヘリセン(helicene)、ヘプタセン(heptacene)、ヘキサセン(hexacene)、ケクレン(kekulene)、オバレン(ovalene)、ゼスレン(Zethrene)、ベンゾ[a]ピレン(Benzo[a]pyrene)、ベンゾ[e]ピレン(Benzo[e]pyrene)、ベンゾ[a]フルオランテン(Benzo[a]fluoranthene)、ベンゾ[b]フルオランテン(Benzo[b]fluoranthene)、ベンゾ[j]フルオランテン(Benzo[j]fluoranthene)、ベンゾ[k]フルオランテン(Benzo[k]fluoranthene)、ディベンゾ[a,h]アントラセン(Dibenz(a,h)anthracene)、ディベンゾ[a,j]アントラセン(Dibenz(a,j)anthracene)、オリンピセン(Olympicene)、ペンタセン(pentacene)、ペリレン(perylene)、ピセン(Picene)、テトラフェニレン(Tetraphenylene)、ベンゾ[a]アントラセン(Benz(a)anthracene)、ベンゾ[a]フルオレン(Benzo(a)fluorene)、ベンゾ[c]フェナントレン(Benzo(c)phenanthrene)、クリセン(Chrysene)、フルオランテン(Fluoranthene)、ピレン(pyrene)、テトラセン(Tetracene)、トリフェニレン(Triphenylene)、アントラセン(Anthracene)、フルオレン(Fluorene)、フェナレン(Phenalene)およびフェナントレン(phenanthrene)からなる群から選ばれることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の炭素のナノ被覆層を有する基材粉末の製造方法。
【請求項5】
前記多環芳香族炭化水素は、常温常圧で固体であり、かつ沸点温度が熱分解温度よりも低く、前記多環芳香族炭化水素における炭素原子の数と水素原子の数の比C:Hが1:0.5から1:0.8であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の炭素のナノ被覆層を有する基材粉末の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の方法で製造した基材粉末とカーボンの複合体。
【請求項7】
請求項6に記載の複合体をバインダーと混合した後、成形して得られる電極。
【請求項8】
Mg粉末またはMgH粉末とB粉末との混合物を加圧成形して熱処理するMgB超伝導体の製造方法において、
前記B粉末に多環芳香族炭化水素を添加し、前記多環芳香族炭化水素の沸点以上で当該沸点温度+300℃以下でありかつ前記多環芳香族炭化水素の熱分解温度以上の温度で加熱して、前記B粉末の表面を1層以上300層以下の炭素原子又は0.1nm以上10nm層以下の炭素で覆う工程と、
前記炭素原子又は炭素で表面が覆われたB粉末を、前記Mg粉末またはMgH粉末と混合する工程と、
を有することを特徴とするMgB超伝導体の製造方法。
【請求項9】
前記多環芳香族炭化水素の添加量が、MgBの理論もしくは実験生成量に対して0.1〜40mol%であることを特徴とする請求項8に記載のMgB超伝導体の製造方法。
【請求項10】
前記混合物を金属管に充填し、加圧成形して熱処理することを特徴とする請求項8又は9に記載のMgB超伝導体の製造方法。
【請求項11】
請求項1から5のいずれか1項に記載の製造方法で製造された炭素のナノ被覆層を有する基材粉末であって、当該基材粉末がB粉末であり、
前記炭素のナノ被覆層を有するB粉末とMg棒とを金属管に充填し、加圧成形して熱処理することを特徴とするMgB超伝導体の製造方法。
【請求項12】
請求項8から11のいずれか1項に記載のMgB超伝導体の製造方法により得られたMgB超伝導体であって、MgBコアが1本または複数本あるMgB線材であることを特徴とするMgB超伝導体。
【請求項13】
請求項12に記載のMgB超伝導体であって、MgBコアが複数本ある多芯MgB線材であることを特徴とするMgB超伝導体。
【請求項14】
非水電解質を用いる二次電池用の正極材を構成する金属酸化物または金属硫化物と、前記金属酸化物または前記金属硫化物表面を被覆するカーボン被膜を有し、前記金属酸化物あるいは前記金属硫化物は、SnO、LiVPO、LiFePO、LiNi0.5Mn1.5、LiMnPO、LiFeSiO、V、MnO、LiCoO、LiNiO、LiNi0.5Mn0.5、LiMn、LiSおよびSiOからなる群から選ばれたリチウムイオン電池正極材用の基材粉末からなるリチウムイオン電池用正極材の製造方法であって、
前記基材粉末に多環芳香族炭化水素を添加し、前記多環芳香族炭化水素の沸点以上当該沸点温度+300℃以下でありかつ前記多環芳香族炭化水素の熱分解温度以上の温度で加熱して、前記基材粉末の表面を1層以上300層以下の炭素原子で覆うことを特徴とするリチウムイオン電池用正極材の製造方法。
【請求項15】
非水電解質を用いる二次電池用の正極材を構成する金属酸化物または金属硫化物と、前記金属酸化物または前記金属硫化物表面を被覆するカーボン被膜を有し、前記金属酸化物あるいは前記金属硫化物は、SnO、LiVPO、LiFePO、LiNi0.5Mn1.5、LiMnPO、LiFeSiO、V、MnO、LiCoO、LiNiO、LiNi0.5Mn0.5、LiMn、LiSおよびSiOからなる群から選ばれたリチウムイオン電池正極材用の基材粉末からなるリチウムイオン電池用正極材の製造方法であって、
前記基材粉末に多環芳香族炭化水素を添加し、前記多環芳香族炭化水素の沸点以上で当該沸点温度+300℃以下でありかつ前記多環芳香族炭化水素の熱分解温度以上の温度で加熱して、前記基材粉末の表面を0.1nm以上20nm層以下の炭素で覆うことを特徴とするリチウムイオン電池用正極材の製造方法。
【請求項16】
正極集電体上に正極活物質が設けられた正極と、
前記正極と電解液を介して対向する負極と、を有し、
前記正極活物質は、リチウム金属酸化物からなる基材粉末と、前記基材粉末の周囲を覆う炭素被覆層と、を有し、
前記炭素被覆層は、請求項14または15に記載の方法で製造されたことを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項17】
銀粒子とTiO粒子を用いる光触媒であって、前記TiO粒子を基材粉末とし、前記基材粉末の表面がカーボン被膜で被覆された光触媒の製造方法において、
前記基材粉末に多環芳香族炭化水素を添加し、前記多環芳香族炭化水素の沸点以上当該沸点温度+300℃以下でありかつ前記多環芳香族炭化水素の熱分解温度以上の温で加熱して、前記基材粉末の表面を1層以上300層以下の炭素原子で覆うことを特徴とする光触媒の製造方法。
【請求項18】
銀粒子とTiO粒子を用いる光触媒であって、前記TiO粒子を基材粉末とし、前記基材粉末の表面がカーボン被膜で被覆された光触媒の製造方法において、
前記基材粉末に多環芳香族炭化水素を添加し、前記多環芳香族炭化水素の沸点以上当該沸点温度+300℃以下でありかつ前記多環芳香族炭化水素の熱分解温度以上の温で加熱して、前記基材粉末の表面を0.1nm以上10nm層以下の炭素で覆うことを特徴とする光触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素のナノ被覆層を有する基材粉末の製造方法に関し、特に数nm程度の均一な厚さの熱分解炭素由来のアモルファス状態の炭素のナノ被覆層で基材粉末の表面を覆われた基材粉末の製造方法に関する。
【0002】
また、本発明は、上記の炭素のナノ被覆層を有する基材粉末の製造方法を用いたMgB超伝導体の製造方法およびMgB超伝導体に関する。
【0003】
また、本発明は、上記の炭素のナノ被覆層を有する基材粉末の製造方法を用いたリチウムイオン電池用正極材の製造方法に関する。
【0004】
また、本発明は、導電剤として炭素系物質を有する正極材料を用いたリチウムイオン電池に関し、特に正極材料としてリン酸鉄リチウム(LiFePO)等を用いたリチウムイオン電池の改良に関する。
【0005】
さらに、本発明は、上記の炭素のナノ被覆層を有する基材粉末の製造方法を用いた光触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0006】
基材粉末の表面を数nm程度の均一な厚さの炭素膜で覆うことは、基材粉末の改質を行うのに有効な場合があり、例えばMgB超伝導体、リチウムイオン電池用正極材、光触媒などの製造に中間製造工程や中間原料材として用いられている。この場合、基材粉末を被覆する炭素の供給源として各種のものが知られているが、芳香族炭化水素添加では熱処理時に芳香族炭化水素が分解して水素を発生し、これが基材粉末の最終製品の用途において不具合を起こす可能性がある。また、基材粉末粒子の表面に気相法で炭素をコートする方法も提案されているが、炭素被覆層の制御が難しく気相法であるために基材粉末の大量生産が困難(高コスト)という課題がある。
【0007】
次に、炭素のナノ被覆層を有する基材粉末の用途の一つであるMgB超伝導体については、実用超伝導材料に比べて臨界温度Tcが高いということの他に、実用上以下のような利点があげられる。
【0008】
i)一つの結晶粒から隣の結晶粒へ大きな超伝導電流を流すのに際して、高温酸化物超伝導体のような結晶粒の向きを揃えること(配向化)が不必要と考えられること、
ii)資源的にも豊富で原料が比較的安価であること、
iii)機械的にタフであること、
iv)軽量であること。
【0009】
このため、MgB超伝導体は実用材料として有望と考えられており、現在研究開発が進行している。
【0010】
他方で、MgB超伝導体は上部臨界磁界Hcが低いという問題点がある。これに対してはBサイトの一部をカーボン(C)で置換することによってHcが大幅に上昇することが報告されている。最も一般的なBサイトのC置換法はMgとBの混合原料粉末にSiC粉末を添加して熱処理することである。またMgとBの原料粉末に芳香族炭化水素を添加する方法も有効であり、芳香族炭化水素添加によってMgB結晶における一部のBサイトがCによって置換されて、高磁界でのJc特性の向上が得られる(特許文献1−3参照)。
【0011】
しかしながら芳香族炭化水素添加では熱処理時に芳香族炭化水素が分解して水素を発生し、これが長尺の超伝導線材作製においては不具合を起こす可能性がある。一方、B粉末粒子の表面に気相法でCをコートする方法も報告されている。すなわち、BClを原料としてrfプラズマ法でBナノ粉末を作製する際にメタンガスを導入すると、炭素被覆したナノB粉末が得られる。しかしながらこの方法ではClが不純物として残留すること、また炭素被覆層の制御が難しく気相法であるためにB粉末の大量生産が困難(高コスト)という問題点がある。
【0012】
また、リチウムイオン二次電池は、高電圧でエネルギー密度が高いことから、携帯電話やノートパソコンなどの携帯電子機器、並びに車輛搭載用電源に広く使用されている。リチウムイオン二次電池の正電極としては、コバルト酸リチウムやマンガン酸リチウムなど種々のものがあるが、これらの中でLiFePOは以下の理由により、大型電池用の正極材として注目される材料である。
【0013】
(i)レアメタルフリーであること、
(ii)無害であり、安全性が高いこと、
(iii)サイクル特性が良いこと。
【0014】
ただし、電気伝導度は他の正極材に比べ3桁から5桁ほど低く、電気伝導度を向上させるために、LiFePOナノ粉末粒子を使い、その表面へアセチレンブラック等を用いたナノカーボンコートが行われている。
【0015】
したがってLiFePOの実用化において最も重要な技術の一つが、LiFePO粒子表面へのナノカーボンコートのような導電剤の組込みである(例えば、非特許文献4参照)。LiFePOへのカーボンコート法としては、固相法におけるポリ塩化ビニル粉末の添加やメタノールを使う方法などがある(例えば、特許文献4、5ならびに非特許文献7参照)。しかし、これらの従来技術は溶媒を使用したり、回転機能を持った窯を使用したりする必要があり、いずれもプロセスとして簡単ではなく、低コストとは言えないという課題がある。
【0016】
他方で、電極活物質の表面を数nm程度の均一な厚さの炭素膜で覆うことは、電極活物質を構成する基材粉末の改質を行うのに有効な場合があり、リチウムイオン電池用正極材などの製造に際して、中間製造工程や中間原料材として用いられている。この場合、基材粉末を被覆する炭素の供給源として各種のものが知られているが、芳香族炭化水素添加では熱処理時に芳香族炭化水素が分解され水素を発生し、これが基材粉末の最終製品の用途において不具合を起こす可能性がある。また、基材粉末粒子の表面に気相法で炭素をコートする方法も提案されているが、炭素被覆層の制御が難しく気相法であるために基材粉末の大量生産が困難(高コスト)という課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第2007/049623号
【特許文献2】特開2007−59261号公報
【特許文献3】特開2008−235263号公報
【特許文献4】特開2011−76931号公報
【特許文献5】特開2012−99468号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Coronene Fusion by heat treatment: Road to Nanographenes, A.V. Talyzin, et al., J. Physical Chemistry
【非特許文献2】Strong enhancement of high-field critical current properties and irreversibility field of MgB2superconducting wires by coronene active carbon source addition via new B powder carbon-coating method: Ye shujun et al, Supercond. Sci & Technol.
【非特許文献3】S.J. Ye, et al., Enhancement of the critical current density of internal Mg diffusion processed MgB2 wires by the addition of both SiC and liquid aromatic hydrocarbon, Physica C471 (2011) 1133
【非特許文献4】J.M. Blanco, et al., Long-Range order in an organic overlayer induced by surface reconstruction: coronene on Ge(111), J. Phys. Chem. C 118(2014) 11699
【非特許文献5】Interpretation of Raman spectra of disordered and amorphous carbon, A.C. Ferrari, et al., Phys Rev. B 61 (2000) 14095.
【非特許文献6】リチウムイオン電池用LiFePO4正極活物質への新規カーボン担持方法、安永好伸他 GS Yuasa Technical Report, 2008年6月 第5巻 第1号
【非特許文献7】Material Matters 第7巻第4号第4頁−第10頁(2012年12月); http://www.sigmaaldrich.com/content/ dam/sigma-aldrich/ docs/ SAJ/Brochure/1/mm7-4_j.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上述した課題を解決したもので、基材粉末を被覆する炭素の供給源を適切に選択することで、基材粉末の最終製品の用途において不具合を起こす可能性がなく、基材粉末の生産性もよい、改質された最終製品が得られる炭素のナノ被覆層を有する基材粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【0020】
また、本発明は、炭素のナノ被覆層を有する基材粉末の製造方法を用いることで、MgB超伝導線材について均一性の優れた多環芳香族炭化水素(ナノグラフェン)添加を実現することができ、高い臨界電流密度(Jc)特性ならびに臨界電流密度(Jc)のバラツキの小さなMgB超伝導線材の製造方法およびMgB超伝導体を提供することを目的とする。
【0021】
また、本発明者が独自に開発した炭素のナノ被覆層を有する基材粉末の製造方法を用いることで、新規なリチウムイオン電池用正極材の製造方法を提供することを目的とする。
【0022】
また、本発明は、上記のリチウムイオン電池用正極材の製造方法を用いて、従来と比較して優れた放電特性を有するリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【0023】
さらに、本発明は、炭素のナノ被覆層を有する基材粉末の製造方法を用いることで、新規な光触媒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明はB粉末等の基材粉末に炭素被覆する新しい製造方法を提供するものである。すなわち、本発明者らが多環芳香族炭化水素(ナノグラフェン)の一態様であるコロネン(C2412)を用い、固体のコロネンとB粉末を混合して真空封入し、コロネンの沸点温度以上であって熱分解温度以上となる600℃以上で熱処理することにより、B粉末の炭素被覆を実現させたことを端緒として、本発明を想到するに至ったものである。即ち、この熱処理によってコロネンは蒸発するが、コロネン分子は水素を遊離しながら縮合を起こし、これが多量体となってB粉末表面に堆積して多量体のコーティングが起こる。熱処理温度が高い場合は、水素がすべて抜けてカーボンとなると考えられるため、基材粉末表面の炭素被覆層が得られる。
【0025】
本発明の炭素のナノ被覆層を有する基材粉末の製造方法は、基材粉末に多環芳香族炭化水素を添加し、前記多環芳香族炭化水素の沸点以上当該沸点温度+300℃以下でありかつ前記多環芳香族炭化水素の熱分解温度以上の温度で加熱して、前記基材粉末の表面を1層以上300層以下の炭素原子で覆うことを特徴とする。当該沸点温度+300℃以上では当該多環芳香族炭化水素の蒸気圧が高くなりすぎ、基材粉末と多環芳香族炭化水素の大量の混合物の加熱が技術的に難しくなる。
【0026】
また、本発明の炭素のナノ被覆層を有する基材粉末の製造方法は、基材粉末に多環芳香族炭化水素を添加し、前記多環芳香族炭化水素の沸点以上で当該沸点温度+300℃以下でありかつ前記多環芳香族炭化水素の熱分解温度以上の温度で加熱して、前記基材粉末の表面を0.1nm以上10nm層以下の炭素で覆うことを特徴とする。ナノ被覆層が上記の厚みであると、十分な炭素量かつ緻密な炭素層が得られる。
【0027】
本発明の炭素のナノ被覆層を有する基材粉末の製造方法において、好ましくは、前記基材粉末は、SnO粉末、LiVPO粉末、LiFePO粉末、LiNi0.5Mn1.5粉末、LiMnPO粉末、LiFeSiO粉末、V粉末、MnO粉末、LiCoO粉末、LiNiO粉末、LiNi0.5Mn0.5粉末、LiMn粉末、LiS粉末およびSiO粉末からなる群から選ばれたリチウムイオン電池負極材用の基材粉末、Ag粉末とTiO粉末の積層体からなる基材粉末、またはB粉末からなる基材粉末であるとよい。
【0028】
本発明の炭素のナノ被覆層を有する基材粉末の製造方法において、好ましくは、前記多環芳香族炭化水素は、コロネン(coronene)、アンタントレン(anthanthrene)、ベンゾペリレン(Benzo(ghi)perylene)、サーキュレン(circulene)、コランニュレン(corannulene)、ディコロニレン(Dicoronylene)、ディインデノペリレン(Diindenoperylene)、ヘリセン(helicene)、ヘプタセン(heptacene)、ヘキサセン(hexacene)、ケクレン(kekulene)、オバレン(ovalene)、ゼスレン(Zethrene)、ベンゾ[a]ピレン(Benzo[a]pyrene)、ベンゾ[e]ピレン(Benzo[e]pyrene)、ベンゾ[a]フルオランテン(Benzo[a]fluoranthene)、ベンゾ[b]フルオランテン(Benzo[b]fluoranthene)、ベンゾ[j]フルオランテン(Benzo[j]fluoranthene)、ベンゾ[k]フルオランテン(Benzo[k]fluoranthene)、ディベンゾ[a,h]アントラセン(Dibenz(a,h)anthracene)、ディベンゾ[a,j]アントラセン(Dibenz(a,j)anthracene)、オリンピセン(Olympicene)、ペンタセン(pentacene)、ペリレン(perylene)、ピセン(Picene)、テトラフェニレン(Tetraphenylene)、ベンゾ[a]アントラセン(Benz(a)anthracene)、ベンゾ[a]フルオレン(Benzo(a)fluorene)、ベンゾ[c]フェナントレン(Benzo(c)phenanthrene)、クリセン(Chrysene)、フルオランテン(Fluoranthene)、ピレン(pyrene)、テトラセン(Tetracene)、トリフェニレン(Triphenylene)、アントラセン(Anthracene)、フルオレン(Fluorene)、フェナレン(Phenalene)およびフェナントレン(phenanthrene)からなる群から選ばれるとよい。
【0029】
本発明の炭素のナノ被覆層を有する基材粉末の製造方法において、好ましくは、前記多環芳香族炭化水素は、常温常圧で固体であり、かつ沸点温度が熱分解温度よりも低く、前記多環芳香族炭化水素における炭素原子の数と水素原子の数の比C:Hが1:0.5から1:0.8であるとよい。比C:Hが上記の範囲であると、熱分解で生成した水素が多環芳香族炭化水素の分解に与える影響を無視できる程度に低く抑えることができる。
【0030】
本発明の基材粉末とカーボンの複合体は、上記のリチウムイオン電池用正極材の製造方法のいずれか1つの方法で製造したものである。
【0031】
本発明の電極は、上記の基材粉末とカーボンの複合体をバインダーと混合した後、成形して得られる電極である。
【0032】
本発明は、Mg粉末またはMgH粉末とB粉末との混合物を加圧成形して熱処理するMgB超伝導体の製造方法において、
前記B粉末に多環芳香族炭化水素を添加し、前記多環芳香族炭化水素の沸点以上で当該沸点温度+300℃以下でありかつ前記多環芳香族炭化水素の熱分解温度以上の温度で加熱して、前記B粉末の表面を1層以上300層以下の炭素原子又は0.1nm以上10nm層以下の炭素で覆う工程と、
前記炭素原子又は炭素で表面が覆われたB粉末を、前記Mg粉末またはMgH粉末と混合する工程と、を有するものである。
【0033】
本発明のMgB超伝導体の製造方法において、好ましくは、前記多環芳香族炭化水素の添加量が、MgBの理論もしくは実験生成量に対して1〜40mol%であるとよい。
【0034】
本発明のMgB超伝導体の製造方法において、好ましくは、前記混合物を金属管に充填し、加圧成形して熱処理するとよい。
【0035】
本発明のMgB超伝導体の製造方法において、好ましくは、上記の製造方法で製造された炭素のナノ被覆層を有する基材粉末であって、当該基材粉末がB粉末であり、前記炭素のナノ被覆層を有するB粉末とMg棒とを金属管に充填し、加圧成形して熱処理するとよい。
【0036】
本発明のMgB超伝導体は、上記のMgB超伝導体の製造方法により得られたMgB超伝導体であって、MgBコアが1本または複数本あるMgB線材であることを特徴とする。
【0037】
本発明のMgB超伝導体は、上記のMgB超伝導体であって、MgBコアが複数本ある多芯MgB線材であるとよい。
【0038】
本発明者らの独創的な知見として、固体の多環芳香族炭化水素とB原料粉末を一緒にして真空中で加熱をすると、以下のことが起こることが判明した。まず多環芳香族炭化水素の融点以上で多環芳香族炭化水素が融解してB粉末に浸透して行き、個々のB粉末粒子は多環芳香族炭化水素に覆われる。さらに温度が上がると多環芳香族炭化水素が気化かつ熱分解してB粉末に浸透して行き、B粉末粒子の表面が熱分解炭素によって均一に覆われることが判った。また、一部の多環芳香族炭化水素は沸点以上でもB粉末表面に残留して熱分解を起こし、B粉末粒子表面上で熱分解炭素になると考えられる。そこで、本発明者らは、この原理をMgB超伝導線材の製造方法に適用して、固体の多環芳香族炭化水素を沸点温度以上であって熱分解温度以上となる温度で加熱し、B原料粉末の表面に熱分解炭素を被覆する手法を編み出した。そして、この熱分解炭素を被覆したB粉末をパウダー・イン・チューブ(PIT)法の原料として用いると均一なBサイトのC置換が起こり、高いJcとJcの均一性に優れたMgB線材を得ることができる。内部Mg拡散(IMD)法の場合もこの多環芳香族炭化水素を被覆したB粉末を原料として用いることにより、高いJc特性ならびに優れた均一性を得ることができる。
【0039】
また、本発明はリチウムイオン電池用正極材に用いる基材粉末に炭素被覆する新しい製造方法を提供するものである。すなわち、本発明者らが多環芳香族炭化水素(ナノグラフェン)の一態様であるコロネンを用い、固体のコロネンとLiFePO粉末を混合してガラス管に真空封入し、熱処理を行ってLiFePO粉末表面へのカーボンコートをおこなうものである。温度が上昇するとコロネンが融解し、コロネンがLiFePO粉末に浸透して個々のLiFePO粒子がコロネンで覆われる。さらに温度を上げて600℃以上になると、LiFePO粒子表面に存在するコロネンは分解するが、この時コロネン分子は水素を遊離しながら縮合を起こし、これが多量体となってLiFePO粉末表面に堆積して多量体のコーティングが起こることを認識した点が、本発明の端緒である。熱処理温度が高い場合は、水素はすべて抜けてカーボンになると考えられるため、LiFePO粉末粒子表面にカーボンコーティングが得られる。
【0040】
本発明のリチウムイオン電池用正極材の製造方法は、非水電解質を用いる二次電池用の正極材を構成する金属酸化物または金属硫化物と、前記金属酸化物または前記金属硫化物表面を被覆するカーボン被膜を有し、前記金属酸化物あるいは前記金属硫化物は、SnO、LiVPO、LiFePO、LiNi0.5Mn1.5、LiMnPO、LiFeSiO、V、MnO、LiCoO、LiNiO、LiNi0.5Mn0.5、LiMn、LiSおよびSiOからなる群から選ばれたリチウムイオン電池正極材用の基材粉末からなるリチウムイオン電池用正極材の製造方法において、前記基材粉末に多環芳香族炭化水素を添加し、前記多環芳香族炭化水素の沸点以上当該沸点温度+300℃以下でありかつ前記多環芳香族炭化水素の熱分解温度以上の温度で加熱して、前記基材粉末の表面を1層以上300層以下の炭素原子で覆うことを特徴とする。
【0041】
当該沸点温度+300℃以上では当該多環芳香族炭化水素の蒸気圧が高くなりすぎ、基材粉末と多環芳香族炭化水素の大量の混合物の加熱が技術的に難しくなる。
【0042】
本発明のリチウムイオン電池用正極材の製造方法において、好ましくは、基材粉末に多環芳香族炭化水素を添加し、前記多環芳香族炭化水素の沸点以上で当該沸点温度+300℃以下でありかつ前記多環芳香族炭化水素の熱分解温度以上の温度で加熱して、前記基材粉末の表面を0.1nm以上10nm層以下の炭素で覆うとよい。
【0043】
本発明のリチウムイオン電池用正極材の製造方法において、好ましくは、前記基材粉末は、SnO粉末、LiVPO粉末、LiFePO粉末、LiNi0.5Mn1.5粉末、LiMnPO粉末、LiFeSiO粉末、V粉末、MnO粉末、LiCoO粉末、LiNiO粉末、LiNi0.5Mn0.5粉末、LiMn粉末、LiS粉末およびSiO粉末からなる群から選ばれたリチウムイオン電池正極材用の基材粉末であるとよい。
【0044】
本発明のリチウムイオン電池用正極材の製造方法において、好ましくは、前記多環芳香族炭化水素は、コロネン(coronene)、アンタントレン(anthanthrene)、ベンゾペリレン(Benzo(ghi)perylene)、サーキュレン(circulene)、コランニュレン(corannulene)、ディコロニレン(Dicoronylene)、ディインデノペリレン(Diindenoperylene)、ヘリセン(helicene)、ヘプタセン(heptacene)、ヘキサセン(hexacene)、ケクレン(kekulene)、オバレン(ovalene)、ゼスレン(Zethrene)、ベンゾ[a]ピレン(Benzo[a]pyrene)、ベンゾ[e]ピレン(Benzo[e]pyrene)、ベンゾ[a]フルオランテン(Benzo[a]fluoranthene)、ベンゾ[b]フルオランテン(Benzo[b]fluoranthene)、ベンゾ[j]フルオランテン(Benzo[j]fluoranthene)、ベンゾ[k]フルオランテン(Benzo[k]fluoranthene)、ディベンゾ[a,h]アントラセン(Dibenz(a,h)anthracene)、ディベンゾ[a,j]アントラセン(Dibenz(a,j)anthracene)、オリンピセン(Olympicene)、ペンタセン(pentacene)、ペリレン(perylene)、ピセン(Picene)、テトラフェニレン(Tetraphenylene)、ベンゾ[a]アントラセン(Benz(a)anthracene)、ベンゾ[a]フルオレン(Benzo(a)fluorene)、ベンゾ[c]フェナントレン(Benzo(c)phenanthrene)、クリセン(Chrysene)、フルオランテン(Fluoranthene)、ピレン(pyrene)、テトラセン(Tetracene)、トリフェニレン(Triphenylene)、アントラセン(Anthracene)、フルオレン(Fluorene)、フェナレン(Phenalene)およびフェナントレン(phenanthrene)からなる群から選ばれるとよい。
【0045】
本発明のリチウムイオン電池用正極材の製造方法において、好ましくは、前記多環芳香族炭化水素は、常温常圧で固体であり、かつ沸点温度が熱分解温度よりも低く、前記多環芳香族炭化水素における炭素原子の数と水素原子の数の比C:Hが1:0.5から1:0.8であるとよい。
【0046】
本発明のリチウムイオン電池は、例えば図18に示すように、正極集電体上に正極活物質が設けられた正極61と、正極61と電解液を介して対向する負極62とを有し、前記正極活物質は、リチウム金属酸化物からなる基材粉末と、前記基材粉末の周囲を覆う炭素被覆層と、を有し、前記炭素被覆層は、上記のリチウムイオン電池用正極材の製造方法のいずれか1つの方法で製造されたことを特徴とする。
【0047】
本発明の光触媒の製造方法は、銀粒子とTiO粒子を用いる光触媒であって、前記TiO粒子を基材粉末とし、前記基材粉末の表面がカーボン被膜で被覆された光触媒の製造方法において、
前記基材粉末に多環芳香族炭化水素を添加し、前記多環芳香族炭化水素の沸点以上当該沸点温度+300℃以下でありかつ前記多環芳香族炭化水素の熱分解温度以上の温度で加熱して、前記基材粉末の表面を1層以上300層以下の炭素原子で覆うことを特徴とする。
【0048】
また、本発明の光触媒の製造方法は、銀粒子とTiO粒子を用いる光触媒であって、前記TiO粒子を基材粉末とし、前記基材粉末の表面がカーボン被膜で被覆された光触媒の製造方法において、
前記基材粉末に多環芳香族炭化水素を添加し、前記多環芳香族炭化水素の沸点以上当該沸点温度+300℃以下でありかつ前記多環芳香族炭化水素の熱分解温度以上の温度で加熱して、前記基材粉末の表面を0.1nm以上10nm層以下の炭素で覆うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0049】
本発明の炭素のナノ被覆層を有する基材粉末の製造方法によれば、基材粉末を多環芳香族炭化水素と一緒に真空中で熱処理するだけの簡単な工程で炭素被覆層が得られるために簡便、低コストで大量生産に向くという利点があるだけでなく、多環芳香族炭化水素添加量を調節することで炭素被覆層厚を簡単に制御できるという利点もある。
【0050】
本発明のMgB超伝導体の製造方法によれば、B粉末を多環芳香族炭化水素と一緒に真空中で熱処理するだけの簡単な工程で炭素被覆層が得られるために簡便、低コストで大量生産に向くという利点があるだけでなく、多環芳香族炭化水素添加量を調節することで炭素被覆層厚を簡単に制御できるという利点もある。即ち、本発明のMgB超伝導体の製造方法によって、Bサイトの一部を炭素置換したMgB超伝導体が安価で簡便に得られるようになる。
【0051】
また、本発明の炭素のナノ被覆層を有する基材粉末の製造方法では、基材と多環芳香族炭化水素とを一緒に真空中で熱処理するだけなので、種々の基板(基材)上にナノメートルレベルの厚さの炭素被覆層を簡単に設けることが可能になる。そこで、MgB超伝導体に限定されるものではなく、リチウムイオン電池の正極の製造方法、光触媒の製造方法、トライボロジーなどに適用可能であり、本発明の応用範囲は広いと考えられる。
【0052】
本発明のリチウムイオン電池用正極材の製造方法によれば、基材粉末を多環芳香族炭化水素と一緒に真空中で熱処理するだけの簡単な工程で炭素被覆層が得られるために簡便、低コストで大量生産に向くという利点があるだけでなく、多環芳香族炭化水素添加量を調節することで炭素被覆層厚を簡単に制御できるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1A】本発明の実施形態で多環芳香族炭化水素に用いられる化学物質の化学式を示す図である。
図1B】本発明の実施形態で多環芳香族炭化水素に用いられる化学物質の化学式を示す図である。
図1C】本発明の実施形態で多環芳香族炭化水素に用いられる化学物質の化学式を示す図である。
図1D】本発明の実施形態で多環芳香族炭化水素に用いられる化学物質の化学式を示す図である。
図1E】本発明の実施形態で多環芳香族炭化水素に用いられる化学物質の化学式を示す図である。
図1F】本発明の実施形態で多環芳香族炭化水素に用いられる化学物質の化学式を示す図である。
図2】本発明のリチウムイオン電池用正極材の製造装置を説明する構成図である。
図3】本発明の実施例1で用いるカーボン被覆装置の構成図である。
図4】本発明の一実施例におけるコロネンと一緒に630℃で3時間の真空熱処理をしたボロンナノ粉末の透過電顕像である。
図5】コロネンと一緒に630℃で3時間の真空熱処理したボロンナノ粉末のボロンマッピング図である。
図6】コロネンと一緒に630℃で3時間の真空熱処理したボロンナノ粉末のカーボンマッピング図である。
図7】真空熱処理後のB粉末、コロネンとBの混合粉末(未熱処理)、B粉末、ならびにコロネン粉末の赤外線分光分析の結果を示す図である。
図8】真空熱処理後のB粉末、コロネンとBの混合粉末(未熱処理)、B粉末、ならびにコロネン粉末のX線回折パターンを示す図である。
図9】本発明の別の実施形態におけるコロネンと一緒に700℃で1時間の真空熱処理をしたLiFePO粉末の透過電顕像である。
図10図9のLiFePO粉末の透過電顕像に対応するカーボンマッピング図である。
図11図9のLiFePO粉末の透過電顕像に対応するリチウムマッピング図である。
図12図9のLiFePO粉末の透過電顕像に対応する鉄マッピング図である。
図13図9のLiFePO粉末の透過電顕像に対応するリンマッピング図である。
図14図9のLiFePO粉末の透過電顕像に対応する酸素マッピング図である。
図15】コロネンと一緒に700℃で1時間の真空熱処理したLiFePO粉末の高分解能透過電顕像である。
図16】コロネンと一緒に700℃で1時間の真空熱処理したLiFePO粉末ならびに真空熱処理をしていないLiFePO粉末のラマン散乱シフト図である。
図17】正極材料に用いられるLiFePO基材粒子の粒径分布を説明する図で、(A)は比較例としてのカーボン担持層のないLiFePO基材粒子、(B)はカーボン担持層を有するLiFePO基材粒子の場合を示している。
図18】本発明の一試験例に係る試験用リチウム二次電池(コインセル)を模式的に示す断面図である。
図19図18に示すコインセルに係る試作仕様の詳細を説明する図で、正極と負極の機械的な設計値を示してある。
図20図18に示すコインセルに係る試作仕様で製作した試験品の詳細を説明する図である。
図21】本発明の一試験例に係る試験品の放電容量特性を説明する図である。
図22】本発明の一試験例に係る試験品の放電容量特性を説明する充放電カーブを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、図面や表を用いて本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0055】
先ず、本発明の炭素のナノ被覆層を有する基材粉末の製造方法をMgB超伝導体の製造方法に適用した実施形態について述べる。なお、本明細書に用いる用語について、以下に定義を記載する。
【0056】
『Mg内部拡散法』は金属管の内部にMg棒を配置し、金属管とMg棒との隙間にB粉末を充填してこの複合体を線材に加工後、熱処理をする線材作製法である。
【0057】
『パウダー・イン・チューブ法』は、金属管に超伝導体の原料粉末を充填し、線材に加工後、熱処理をする線材作製法である。
【0058】
『臨界電流密度Jc』は超伝導線材の単位断面積あたりに流すことのできる最大の超伝導電流密度をいう。通常は、線材中の超伝導体コアの単位断面積あたりの値を言う。
【0059】
本実施形態では、Mg粉末またはMgH粉末とB粉末との混合物を加圧成形して熱処理することによりMgB超伝導体を製造する。
【0060】
原料として用いるMg粉末、MgH粉末、B粉末については、本出願人の提案に係る特許文献1−3に記載されたような従来と同様の純度や粒径のものを、適宜混合比を調節して用いることができる。例えば、粒径に関しては、Mg粉末またはMgH粉末の平均粒径が200nm〜50μm、B粉末の平均粒径が50nm〜1μmの範囲が好ましい。混合比については、モル比でMgまたはMgH/B=0.5/2〜1.5/2の範囲において混合することが好ましく、モル比0.8/2〜1.2/2の範囲において混合することがさらに好ましい。そして、MgあるいはMgH粉末とB粉末の混合物、あるいはB粉末に適量の多環芳香族炭化水素とSiCを加え、さらにボールミルなどで十分に混合することができる。
【0061】
多環芳香族炭化水素(ナノグラフェン)については、三環以上の炭素環または複素環を有する化合物のうちの各種のものが考慮されてよく、多環芳香族炭化水素の炭素数としては特に制限されることはないが、18〜50の範囲が好ましい。多環芳香族炭化水素は、本発明の作用効果を阻害しない限り各種の官能基を有していてもよく、入手容易性や取り扱い性、価格等を考慮して適宜に選択することができる。たとえば、置換基の典型例としては、炭素数1〜8、特に1〜4のアルキル基等が挙げられる。より具体的には、表1、表2(図1A〜1F)に掲げたコロネン、アントラセン、ペリレン、ビフェニルや、アルキル置換等の炭素環状の芳香族炭化水素、あるいはチオフェン等の複素環状の芳香族炭化水素が例示される。さらに、多環芳香族炭化水素の添加量については、MgBの理論もしくは実験生成量に対して0.1〜40モル%の割合で添加することが好ましい。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
なお、上記の表1、表2の多環芳香族炭化水素(ナノグラフェン)の沸点と融点に関しては、SciFinder(American Chemical Society; https://scifinder.cas.org/ scifinder/)のデータベースに依拠しており、実測値のない場合は計算値によった(Calculated using Advanced Chemistry Development (ACD/Labs) Software V11.02)。
【0065】
以上のような混合物を、バルク材、線材へと加工するが、超伝導線材における従来と同様の方法、条件が採用されてよい。バルク材であれば、加圧成形して熱処理をすることで製造することができ、例えば、通常の金型を用いたプレス等が例示され、圧力は100〜300kg/cmが好ましい。線材であれば、例えば、混合物を鉄などの金属管に充填し、圧延ロール等でテープやワイヤーに加工した後、熱処理をすることで製造することができ、条件については従来と同様の条件が採用されてよい。すなわち、慣用のとおり、アルゴン、真空などの不活性雰囲気下で、MgB超伝導相を得るに十分な温度、時間熱処理してできる。
【0066】
また、使用する金属管や熱処理温度、熱処理時間は、BサイトのC置換において本質的ではなく、従って種々の金属管や熱処理温度、熱処理時間を選択することができる。
【0067】
このようにして得られた本発明のMgB超伝導体は、超伝導リニアモーターカー、MRI医療診断装置、半導体単結晶引き上げ装置、超伝導エネルギー貯蔵、超伝導回転機、超伝導変圧器、超伝導ケーブルなどの高能力化に有用である。
【0068】
次に、本発明の炭素のナノ被覆層を有する基材粉末の製造方法をリチウムイオン電池用正極材の製造方法に適用した実施形態について述べる。ここでは、LiFePOを用いる場合を例に説明する。
【0069】
原料として用いるLiFePO粉末については、従来と同様の純度や粒径のものを、適宜混合比を調節して用いることができる。例えば、粒径に関しては、LiFePO粉末の平均粒径が200nm〜50μmの範囲が好ましい。混合比については、モル比でLiFePO/C=1.0/0.001〜1.0/5.0の範囲において混合することが好ましく、モル比1.0/0.01〜1.0/1.0の範囲において混合することがさらに好ましい。炭素の添加量が0.1モル%未満の場合には、十分なカーボンコート膜が形成されない、という不都合があり、好ましくない。炭素の添加量が500モル%超の場合には、不均一な厚いカーボンコート層が形成される、という不都合があり、好ましくない。そして、LiFePO粉末に適量の多環芳香族炭化水素を加え、さらにボールミルなどで十分に混合することができる。
【0070】
なお、正極用のリチウム含有粉末は、LiFePO粉末に限定されるものではなく、常用されているLiCoO粉末、LiNiO粉末、LiNi0.5Mn0.5粉末、LiMn粉末、LiMnPO粉末、LiFeSiO粉末に加えて、LiVPO粉末、LiNi0.5Mn1.5粉末、V粉末、SiO粉末、MnO粉末、およびLiS粉末などでもよい。
【0071】
多環芳香族炭化水素(ナノグラフェン)については、三環以上の炭素環または複素環を有する化合物のうちの各種のものが考慮されてよく、多環芳香族炭化水素の炭素数としては特に制限されることはないが、18〜50の範囲が好ましい。多環芳香族炭化水素は、本発明の作用効果を阻害しない限り各種の官能基を有していてもよく、入手容易性や取り扱い性、価格等を考慮して適宜に選択することができる。たとえば、置換基の典型例としては、炭素数1〜8、特に1〜4のアルキル基等が挙げられる。より具体的には、前記の表1、表2に掲げたコロネン、アントラセン、ペリレン、ビフェニルや、アルキル置換等の炭素環状の芳香族炭化水素、あるいはチオフェン等の複素環状の芳香族炭化水素が例示される。
【0072】
さらに、多環芳香族炭化水素の添加量については、上述した炭素のモル%で定めるのが基本であるが、製造作業においては当該炭素のモル%を多環芳香族炭化水素のモル%や質量%で読み替えるのが便利である。
【0073】
図2は、本発明のリチウムイオン電池用正極材の製造装置を説明する構成図である。図において、当該製造装置は、容器10、真空状態保持手段20、加熱装置30、熱処理制御装置40、搬送装置50で構成されている。
【0074】
容器10は、リチウムイオン電池用正極材に用いる基材粉末に多環芳香族炭化水素を添加した混合物を収容するもので、基材粉末や多環芳香族炭化水素との反応性を有しない材料よりなるものである。当該材料としては、例えばセラミックス、金属、ガラス等がある。
【0075】
真空状態保持手段20は、上記混合物を収容した状態の容器10を真空状態に保持するもので、例えば容器10がガラス製の場合には、真空ポンプとガラスを封止するバーナー等が用いられる。容器10がセラミックス製の場合には、セラミックス製の容器10全体を覆う真空容器と真空ポンプが用いられる。容器10が金属製の場合には、金属製の容器10全体を覆う真空容器と真空ポンプを用いても良く、また金属製の容器10に真空ポンプを接続して、金属製の容器10の内部を真空状態に排気しても良い。
【0076】
加熱装置30は、上記混合物を収容した状態の容器10を多環芳香族炭化水素の沸点以上で当該沸点温度+300℃以下でありかつ多環芳香族炭化水素の熱分解温度以上の温度で加熱するもので、例えば耐熱煉瓦と電熱器を組み合わせてある。
【0077】
熱処理制御装置40は、加熱装置30での加熱時間が、上記基材粉末の表面を1層以上300層以下の炭素原子で覆うような所定時間の間確保されるように制御する。熱処理制御装置40には、容器10の内部温度を測定する温度センサや加熱装置30の発熱量を制御する調節器が含まれる。調節器には、加熱装置30の熱処理パターンを記憶した温度調節計を用いると良い。
【0078】
搬送装置50は、上記混合物を収容した真空状態の容器10を加熱装置30の内部に搬送する機構で、併せて加熱装置30で熱処理された後の容器10を加熱装置30の外部に搬送する機構も有する。搬送装置50には、例えばマニピレータや搬送ロボットを用いることができる。
【0079】
以下に実施例を示し、本発明をさらに詳しく説明する。もちろん、以下の例によって本発明が限定されることはない。
【実施例】
【0080】
<実施例1>
図3は、本発明の実施例で用いるカーボン被覆装置の構成図である。図において、70はB+コロネン混合粉末、80はガラス管、90は熱処理炉である。粒径が約250nmのアモルファスナノB粉末(トルコPavezyum社製)と粒径が数mmのコロネン(C2412)固体粉末を、Bに対するカーボン量が5原子%となるように計量して乳鉢で混合し、石英管に真空封入した。これを熱処理炉に移して、630℃で3時間の熱処理を行った。また、比較のため、同じ混合物をコロネンの沸点(525℃)より低い520℃で1時間熱処理を行った。熱処理後のB粉末を透過型電子顕微鏡により組織観察を行った。630℃で熱処理をした試料について、図4に透過電顕像を示し、図5にBの分析結果(ボロンマッピング図)を示し、図6に炭素の分析結果(カーボンマッピング図)を示す。
【0081】
図5よりB粒子表面に厚さが3−4nmのアモルファス層が存在しているのが判るが、図6より、この層は炭素を含んだ層であることが判る。図7には真空封入−熱処理したB粉末、Bとコロネンの混合粉末(未熱処理)、B粉末のみ、ならびにコロネン粉末の赤外線分光分析の結果を、図8にはX線回折の結果を示す。
【0082】
赤外線分光分析においては、520℃で熱処理した試料ではコロネンのC−H結合に特徴的なピークが見られるものの、630℃で熱処理したB粉末試料では、これらのピークがほぼ消失している。またX線回折においては、520℃で熱処理した試料ではコロネンのピークが若干見られるものの、630℃で熱処理した試料ではコロネンやコロネンが縮合してできた多量体のピークは見られない。コロネンの融点は438℃、沸点は525℃であり、熱処理温度630℃ではコロネンは蒸発して気体になると考えられる。非特許文献3によると、コロネンを加熱して気体にした場合には、コロネン同士の縮合が次々に起こって水素が抜けるとともに多量体が形成され、600℃以上ではカーボンになると報告されている。また非特許文献4から、一部のコロネンは沸点以上でもB粉末粒子表面に存在し、熱分解により炭素となってそのままB粒子表面に存在することも推察される。従ってこの実験において630℃で熱処理したB粒子表面のナノメートル・オーダーの堆積層はカーボン層であると考えられる。
【0083】
<実施例2>
次に、実施例1で作製した炭素被覆B粉末を用いて、Mg内部拡散法によりMgB超伝導線材を作製した。外径6mm、内径4mmの鉄管の中心に、径2mmのMg棒を配置し、鉄管とMg棒との隙間にB粉末を充填して、溝ロールならびにダイス線引きにより径0.6mmの線材に加工した。この線材を675℃で8時間アルゴン雰囲気中で熱処理した。比較のために、rfプラズマ法で作製したカーボンコートB粉末を用いて、同様にしてMgB線材を作製した。表3には、両線材の4.2K、10テスラでの臨界電流密度を比較して示す。本発明によるB粉末はCl等の不純物を含まないためにrfプラズマ法の場合よりも高い臨界電流密度を示す。
【0084】
【表3】
【0085】
<比較例1>
カーボンコートしたB粉末については、BClを原料とし、rfプラズマ法でBナノ粉末を作製する際にメタンガスを導入すると、炭素被覆したナノB粉末が得られることが報告されている。しかしながらこの方法で作製した炭素被覆B粉末にはClが不純物として混入しており、このB粉末を用いてMgB超伝導体を作製した場合、Cl不純物のために実用的に重要な臨界電流密度が低いという難点があった。また、rfプラズマ法を適用しているために、炭素被覆量の制御が難しいだけでなく、高コストで大量生産が困難という難点があった。本発明による炭素被覆B粉末ではCl等の不純物を含まないので、上記のClを含む炭素被覆B粉末に比べて高い臨界電流密度が得られる。また、本発明によれば、炭素被覆量は封入するBとコロネンの比率を変化させるだけで簡単に制御できるだけでなく、大量生産も容易という特長がある。
【0086】
<実施例3:カーボン担持層を有する基材粒子の創製>
平均粒径が約5μmの市販のLiFePOナノ粉末とコロネン(C2412)固体粉末を、LiFePOに対するカーボン(C)量が5モル%となるように計量して乳鉢で混合し、石英管に真空封入した。これに対して700℃で1時間の熱処理を行った。熱処理後のLiFePO粉末について透過型電子顕微鏡により組織観察を行った。
【0087】
図9は本発明の一実施の形態としてのコロネンと一緒に700℃で1時間の真空熱処理をしたLiFePO粉末の透過電顕像である。図10乃至図14は、コロネンと一緒に700℃で1時間の真空熱処理したLiFePO粉末について、それぞれC、Li、Fe、P、Oの元素分析マッピングを示す図である。
【0088】
図9よりLiFePO粒子表面に厚さが3−4nmの層が存在しているのが確認できる。そして、図10乃至図14より、この層はCを含んだ層であることが判る。コロネンの融点は438℃、沸点は525℃であることから、熱処理温度700℃では、コロネンはLiFePO粒子表面には存在していないと考えられる。前出の非特許文献1によると、コロネンを加熱した場合には、コロネン同士の縮合が次々に起こって水素が抜けるとともに多量体が形成され、600℃以上では大部分の水素が抜けてカーボンになると報告されている。
【0089】
図15は高分解能透過電顕像を示すが、これよりこのカーボン層はアモルファス状であることが判る。従ってこの実験において700℃で熱処理したLiFePO粒子表面を覆っているナノメートルの堆積層はアモルファスカーボン層であると考えられる。この熱処理プロセスは次のように考えることができる。熱処理温度が上昇するとまずコロネンが融解してLiFePO粉末に浸透して行き、コロネンが個々のLiFePO粉末粒子表面を覆う。この温度が600℃以上になるとLiFePO粒子表面上のコロネンが分解してカーボンがアモルファスとして残留すると考えられる。このLiFePO粒子表面のコロネンがバリアとなってLiFePO粒子の凝集・粗大化が抑制されるので、図9に示したように熱処理後でもLiFePO粒子はナノレベルの大きさを保つことができる。これは電極材としては大きな利点である。
【0090】
アモルファスカーボンには、導電性のsp2ボンドと絶縁性のsp3ボンドが混在しているが、電極材の被膜としては導電性のsp2ボンドが多く含まれる必要がある。図16には700℃で熱処理してカーボンコートしたLiFePO粉末ならびにカーボンコートしていないLiFePO粉末のラマン散乱シフトを示す。カーボンコートしたLiFePOでは、二つのピーク(DおよびGピーク)が現れ、これらがカーボンコート層に起因することがわかる。非特許文献2から、DピークとGピークのピーク強度の比I(D)/I(G)ならびにGピークのグラファイトを基準としたシフトの大きさからsp2ボンドの比率を評価することができ、図16のデータからsp2ボンドの割合は80%以上と評価される。以上より、ここで作製したナノカーボン膜は十分な導電性を有し、電極材のカーボン被膜として適すると考えられる。
【0091】

<比較例1:カーボン担持層を有する基材粒子の創製>
LiFePO粒子表面にCをコートする方法にはいくつか報告されているが、その一つが前述したメタノールを使う方法である(非特許文献6)。LiFePOを、回転機能を持った窯(ロータリーキルン)に投入した後に,600℃まで昇温する。つぎに、この炉に窒素をキャリアガスとしてメタノール蒸気を供給することによって、カーボンを担持したLiFePO/C複合正極材料が得られる。
【0092】
しかしながらこの方法はロータリーキルンが必要でプロセスとしても簡単ではなく、必ずしも低コストとは言えない。本発明の一実施例ではLiFePOとコロネンをガラス管に真空封入して加熱するだけの簡便な方法で、大量生産も容易という特長がある。また本発明では、Cコート量は封入するLiFePOとコロネンの比率を変化させるだけで簡単に制御できるという利点もある。
【0093】
<試験例1:電極シートの作製>
続いて、実施例3で創製したカーボン担持層を有する基材粒子を正極材料として用いた、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン電池用の電極シートの作製について説明する。電極シートは、正極シートと負極シートとを、対として有する。
【0094】
図17は、正極材料に用いられるLiFePO基材粒子の粒径分布を説明する図で、(A)は比較例2としてのカーボン担持層のないLiFePO基材粒子(以下、『LFP』と表記する場合がある)、(B)は実施例3としてのカーボン担持層を有するLiFePO基材粒子(以下、『c−LFP』と表記する場合がある)の場合を示している。LFPの粒径分布は、図17(A)に示すようなベル型分布に類似したもので、平均粒径は5.0μm、最大粒径は60μmであり、平均粒径の12倍程度の粗大粒子が混在している。c−LFPの粒径分布は、図17(B)に示すようなベル型分布に類似したもので、平均粒径は5.8μm、最大粒径は17μmであり、凝集物や塊状物が混在している。
【0095】
次に、比較例2のLFP基材粒子と、実施例3のc−LFP基材粒子を用いて、正極シートを作製した。
【0096】
LFP組成では、合剤組成として、正極活物質としてのLFP粉末と、導電材としてのアセチレンブラックと、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、それらの質量比が86:7:7となるように水中で混合して正極活物質層形成用ペーストを調製した。このペースト調製にあたり、溶媒としてノルマルメチルピロリドン(NMP)を用いると共に、不揮発成分(NV)を50.7%含むものである。
【0097】
c−LFP組成では、合剤組成として、正極活物質としてのc−LFP粉末と、導電材としてのアセチレンブラックと、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、それらの質量比が86:7:7となるように水中で混合して正極活物質層形成用ペーストを調製した。
【0098】
これら組成のペーストを正極集電体(アルミニウム箔)の片面に塗布して乾燥することにより、該正極集電体の片面に正極活物質層を形成した。塗工にはドクターブレードを用いて薄膜を生成しており、そのギャップは350μmである。正極活物質層形成用ペーストの塗布量は、乾燥後で約18mg/cm(固形分基準)となるように調節した。
【0099】
負極基板では、黒鉛組成を選択している。負極シートの合剤組成として、負極活物質としての黒鉛粉末と、増粘材としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)と、バインダーとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)とを、それらの質量比が97.5:1.5:1となるように水中で混合して正極活物質層形成用ペーストを調製した。このペースト調製にあたり、溶媒として水(HO)を用いると共に、不揮発成分(NV)を50.7%含むものである。
【0100】
この組成のペーストを負極集電体(銅箔)の片面に塗布して乾燥することにより、該負極集電体の片面に負極活物質層を形成した。塗工にはドクターブレードを用いて薄膜を生成しており、そのギャップは180μmである。正極活物質層形成用ペーストの塗布量は、乾燥後で約7mg/cm(固形分基準)となるように調節した。
【0101】
<試験例2:リチウムイオン電池の製作>
上記試験例1で得られたLFP組成とc−LFP組成の正極シートを用いてリチウム二次電池(コインセル)を構築した。リチウム二次電池の作製は、以下のようにして行った。
【0102】
図18は、本発明の一試験例に係る試験用リチウム二次電池(コインセル)を模式的に示す断面図である。図において、コインセル60は、充放電性能評価用のもので、例えば直径20mm、厚さ3.2mm(2032型)のステンレス製容器である。正極(作用極)61は、上記正極シートを直径16mmの円形に打ち抜いて作製したものである。負極(対極)62は、上記負極シートを直径16mmの円形に打ち抜いて作製したものである。セパレータ63は、直径22mm、厚さ0.02mmの多孔質ポリプロピレンシートで、電解液を含浸してある。ガスケット64は、容器(負極端子)65と蓋(正極端子)66を絶縁状態で所定姿勢に保持するものである。なお、コインセル60には正極61、負極62、セパレータ63と共に、非水電解液が組み込まれている。
【0103】
ここで、非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)と炭酸ジエチル(DEC)とを3:7の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPF6を約1mol/リットルの濃度で含有させたものを用いた。その後、常法により初期充放電処理(コンディショニング)を行って試験用のリチウム二次電池を得た。
【0104】
図19は、図18に示すコインセルに係る試作仕様の詳細を説明する図で、正極と負極の機械的な設計値を示してある。LFP組成の正極については、Al箔の厚みが20μm、極板の厚みが123μm、塗布幅が16φ、塗布面積が2.0cm、合剤密度が1.8g/cm、合剤面密度が18.3mg/cm、比容量が初回充電で160(mAh/g)、放電150(mAh/g)となっている。c−LFP組成の正極については、極板の厚みが116μm、合剤密度が1.8g/cm、合剤面密度が18.1mg/cmとなっている点を除き、LFP組成の正極と同様である。
【0105】
LFP組成の負極については、Cu箔の厚みが18μm、極板の厚みが70μm、塗布幅が16φ、塗布面積が2.0cm、合剤密度が1.5g/cm、合剤面密度が7.6mg/cm、使用容量が初回充電で389(mAh/g)、放電350(mAh/g)となっている。c−LFP組成の負極については、合剤面密度が7.7mg/cmとなっている点を除き、LFP組成の負極と同様である。
【0106】
図20は、図19に示すコインセルに係る試作仕様で製作した試験品の詳細を説明する図である。LFP組成のコインセルとして、LFP−01、02の二個の試験品を作製した。LFP−01の正極重量は47.85mg、負極重量は47.69mg、正極目付は18.401mg/cm、負極目付は7.627mg/cm、A/C比は1.14、設計容量は4.77mAhとなっている。LFP−02についても、LFP−01と同様である。さらに、CLFP−01、02についても、図20に示すような数値となっている。なお、3列目の太字の数値は、それぞれLFP−01とLFP−02、ならびにCLFP−01とCLFP−02の平均値である。
【0107】
<試験例3:リチウムイオン電池の充放電特性試験>
以上のようにして得られた試験用リチウム二次電池のそれぞれに対して、充放電試験を行った。放電容量試験については、室温21℃の温度条件にて、定電流(2.25mA)で端子間電圧が4.0Vとなるまで充電した後、4.0Vの定電圧で1.5時間充電した。かかるCC−CV充電後の電池を、室温21℃の温度条件にて、端子間電圧が2.0Vとなるまで、定電流(0.90mA)で放電させて、そのときの電池容量を測定した。
【0108】
結果を図21及び図22に示す。図21は、本発明の一試験例に係る試験品の放電容量特性を説明する図である。LFP組成のコインセルでは、比容量が約48mAh/gとなって、対設計値比では約32%に留まっている。これに対して、c−LFP組成のコインセルでは、比容量が約96mAh/gとなって、対設計値比では約64%に向上している。
【0109】
図22は、本発明の一試験例に係る試験品の放電容量特性を説明する充放電カーブを示すグラフである。c−LFP組成のコインセルでは、カーボン担持層を有するLiFePO基材粒子を用いているため、放電容量はLFP組成のコインセルと比較して約2倍に向上している。
【0110】
この結果から、正極活物質層表面にカーボン担持層を有するLiFePO正極シートを用いることにより、充放電特性に優れたリチウム二次電池を構築できることが確認できた。
【0111】
本発明の特定の実施形態を例示及び説明したが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、様々なその他の変形及び変更が可能であることは、当業者に明らかである。したがって、本発明の範囲内にあるそのようなすべての変形及び変更を添付の特許請求の範囲で扱うものとする。
【0112】
例えば、超伝導体の製造方法において、用いる芳香族炭化水素としては、コロネン以外にも、加熱によって気化し、重合・縮合を起こすものであれば良い。また、芳香族炭化水素の添加量については、添加量によってボロン粉末表面に付着する炭素量が変化するので、必要に応じて添加量を変化させることが出来る。さらに熱処理温度に関してはコロネンについては600℃以上で重合・縮合が進んでほぼカーボンのみが得られるために600℃以上で熱処理を行う必要があるが、他の芳香族炭化水素については、それぞれに固有な重合や縮合が進む温度があり、その温度以上で熱処理を行う必要がある。
【0113】
また、本発明のリチウムイオン電池用正極材の製造方法に掛る実施形態では用いる芳香族炭化水素としては、コロネンを例示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、コロネン以外にも、加熱によって気化し、重合・縮合を起こすものであれば良い。また、芳香族炭化水素の添加量については、添加量によってLiFePO粉末表面に付着する炭素量が変化するので、必要に応じて添加量を変化させることが出来る。さらに熱処理温度に関してはコロネンについては600℃以上で重合・縮合が進んでほぼカーボンのみが得られるために600℃以上で熱処理を行う必要があるが、他の芳香族炭化水素については、それぞれに固有な重合や縮合が進む温度があり、その温度以上で熱処理を行う必要がある。
【0114】
また、本発明のリチウムイオン電池では、コインセル型の実施例を示したものであるが、当業者が汎用しているコインセル型以外の形状でもよいし、また常用に従い捲回電極体型あるいは積層電極体型としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の炭素のナノ被覆層を有する基材粉末の製造方法によれば、基材と多環芳香族炭化水素とを一緒に真空中で熱処理するだけで、種々の基板(基材)上にナノメートルレベルの厚さの炭素被覆層を簡単に設けることが可能になり、MgB超伝導体、リチウムイオン電池、光触媒、トライボロジーなどに適用可能である。
【0116】
本発明のMgB超伝導体の製造方法によれば、MgB超伝導線材について均一性の優れた多環芳香族炭化水素(ナノグラフェン)添加を実現して、高い臨界電流密度(Jc)特性ならびに臨界電流密度(Jc)のバラツキの小さなMgB超伝導線材を提供できる。製作されたMgB超伝導体は、超伝導リニアモーターカー、MRI医療診断装置、半導体単結晶引き上げ装置、超伝導エネルギー貯蔵、超伝導回転機、超伝導変圧器、超伝導ケーブルなどに用いて好適である。
【0117】
本発明のリチウムイオン電池用正極材の製造方法によれば、基材と多環芳香族炭化水素とを一緒に真空中で熱処理するだけで、種々の基板(基材)上にナノメートルレベルの厚さの炭素被覆層を簡単に設けることが可能になり、リチウムイオン電池などに適用可能である。
【0118】
また、本発明のリチウムイオン電池によれば、正極活物質の粉末表面にカーボン担持層を有するLiFePO正極シートなどのリチウム含有正極シートを用いることにより、充放電特性に優れたリチウム二次電池を構築できる。
【符号の説明】
【0119】
図2、3、18
10 容器
20 真空状態保持手段
30 加熱装置
40 熱処理制御装置
50 搬送装置
60 コインセル
61 正極(作用極)
62 負極(対極)
63 セパレータ
64 ガスケット
65 容器(負極端子)
66 蓋(正極端子)
70 B+コロネン混合粉末
80 ガラス管
90 熱処理炉
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2
図7
図8
図16
図18
図19
図20
図21
図3
図4
図5
図6
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図17
図22
【国際調査報告】