ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和7(行ケ)10023 審決取消請求事件
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和8年4月16日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 対象物 | 熱可塑性樹脂組成物とそれを用いた樹脂成形品および偏光子保護フィルムならびに樹脂成形品の製造方法 |
| 法令 |
特許権 特許法29条2項1回 |
| キーワード | 実施74回 審決66回 無効17回 無効審判8回 進歩性6回 特許権1回 刊行物1回 優先権1回 |
| 主文 | 1 特許庁が無効2023-800048号事件について令和7年2月10 2 訴訟費用は、被告の負担とする。 |
| 事件の概要 | 1 特許庁における手続の経緯等 ⑴ 被告は、平成20年6月13日(優先権主張(日本)平成19年6月14 日(以下「本件優先日」という。)、同年8月1日)を出願日とし、名称を 「熱可塑性樹脂組成物とそれを用いた樹脂成形品および偏光子保護フィルム ならびに樹脂成形品の製造方法」とする発明につき特許出願(特願2008 -155734号。 以下、 この特許出願に添付された明細書を 「本件明細書」 という。)をし、平成24年4月20日、特許権の設定登録(特許第497 4971号。請求項の数10。以下、この特許を「本件特許」という。)を 受けた。(甲40) ⑵ 原告は、令和5年7月27日、本件特許のうち特許請求の範囲の請求項1 及び6に記載された発明についての特許を無効とすることを求める無効審判 請求をした |
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令和8年4月16日判決言渡
令和7年(行ケ)第10023号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和8年2月3日
判 決
当事者の表示 別紙1当事者目録記載のとおり
主 文
1 特許庁が無効2023-800048号事件について令和7年2月10
日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 被告は、平成20年6月13日(優先権主張(日本)平成19年6月14日(以下「本件優先日」という。)、同年8月1日)を出願日とし、名称を「熱可塑性樹脂組成物とそれを用いた樹脂成形品および偏光子保護フィルムならびに樹脂成形品の製造方法」とする発明につき特許出願(特願2008-155734号。以下、この特許出願に添付された明細書を「本件明細書」という。)をし、平成24年4月20日、特許権の設定登録(特許第4974971号。請求項の数10。以下、この特許を「本件特許」という。)を受けた。(甲40)
⑵ 原告は、令和5年7月27日、本件特許のうち特許請求の範囲の請求項1及び6に記載された発明についての特許を無効とすることを求める無効審判請求をした(無効2023-800048号事件。以下「本件無効審判請求」という。)。(甲41)
⑶ 特許庁は、令和7年2月10日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月25日、原告に送達された。
⑷ 原告は、令和7年3月26日、本件審決の取消しを求めて本件訴えを提起
5 した。2 特許請求の範囲の記載本件特許に係る特許請求の範囲の記載のうち、原告が本件審判請求において無効とすることを求めた特許請求の範囲の請求項1及び6は、以下のとおりである(以下、請求項1に記載された発明を「本件発明1」、請求項6に記載された発明を「本件発明6」といい、本件発明1と本件発明6を併せて「本件発明」という。)。
⑴ 請求項1ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N-置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種の環構造を主鎖に有する熱可塑性アクリル樹脂と、ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有する、分子量が700以上の紫外線吸収剤と、を含み、110℃以上のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂組成物。ここで、前記ヒドロキシフェニルトリアジン骨格は、トリアジンと、トリアジンに結合した3つのヒドロキシフェニル基とからなる骨格((2-ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン骨格)である。
⑵ 請求項6ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N-置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種の環構造を主鎖に有する熱可塑性アクリル樹脂と、ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有する、分子量が700以上の紫外線吸収剤と、を溶融混合して、110℃以上のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂組成物を得る、熱可塑性樹脂組成物の製造方法。ここで、前記ヒドロキシフェニルトリアジン骨格は、トリアジンと、トリアジンに結合した3つのヒドロキシフェニル基とからなる骨格((2-ヒド
5 ロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン骨格)である。(以下、請求項1及び請求項6の記載にある「トリアジンと、トリアジンに結合した3つのヒドロキシフェニル基とからなる骨格((2-ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン骨格)」を「本件ヒドロキシフェニルトリアジン骨格」ということがある。)3 本件無効審判請求で主張された無効理由原告は、本件無効審判請求において、次のとおり、甲1(国際公開第2006/112223号)に基づく進歩性欠如の無効理由を主張した。本件発明は、本件優先日前に頒布された甲1に記載された発明及び甲2(特表2002-543265号公報)に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許請求の範囲の請求項1及び6に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。4 本件審決の理由等無効理由に対する本件審決の判断の要旨は次のとおりである。
⑴ 甲1に記載された発明について(本件審決「理由」第6の1⑴)甲1は、「優れた紫外線吸収能力を有するとともに、優れた耐熱性、優れた光学的透明性を有する偏光子保護フィルムを提供すること」を発明の課題とするものであり(段落[0006])、請求項1には、「(メタ)アクリル系樹脂を主成分として含み紫外線吸収剤をも含む偏光子保護フィルム」が記載されている。そして、段落[0054]には、「上記フィルムを形成する樹脂組成物」と記載され、実施例において、ラクトン環含有アクリル系樹脂ペレット(1A)100部に対し、紫外線吸収剤であるTINUVIN1577の1部と、アデカスタブLA-31の1部を混合して樹脂組成物を製造していることから、「(メタ)アクリル系樹脂を主成分として含み紫外線吸収剤をも含む偏光子保護フィルムを形成する樹脂組成物」及び「当該樹脂組成
5 物の製造方法」の発明も記載されているといえる。加えて、請求項1には、「該偏光子保護フィルムの厚み80μmにおける380nmでの光線透過率が30%以下であり、該偏光子保護フィルムのTgと該紫外線吸収剤を含まない以外は該偏光子保護フィルムと同じフィルムのTgの差が3℃以内、厚み80μmにおけるYIが1.3以下となる」と記載されており、段落[0033]ないし[0035]の記載を踏まえれば、請求項1の偏光子保護フィルムを形成する樹脂組成物は、甲1の発明の課題を解決するために、厚さ80μmの偏光子保護フィルムに成形した場合に、「該偏光子保護フィルムの厚み80μmにおける380nmでの光線透過率が30%以下」(以下「要件a」ともいう。)、「該偏光子保護フィルムのTgと該紫外線吸収剤を含まない以外は該偏光子保護フィルムと同じフィルムのTgの差が3℃以内」(以下「要件b」ともいう。)、「厚み80μmにおけるYIが1.3以下となる」(以下「要件c」ともいう。)を同時に満たすように調製されるべきものである(判決注:「Tg」は、本件発明に係る特許請求の範囲の記載にある「ガラス転移温度」と同一のものを指す。以下、本判決において、「ガラス転移温度」のことを「Tg」ということがある。)。また、請求項1を引用する請求項2には、「前記 (メタ)アクリル系樹脂が、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂である」ことが記載されているから、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。「ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を主成分として含み紫外線吸収剤をも含む偏光子保護フィルムを形成する樹脂組成物であって、該樹脂組成物を厚さ80μmの偏光子保護フィルムに成形した場合に、該偏光子保護フィルムの厚み80μmにおける380nmでの光線透過率が30%以下であり、該偏光子保護フィルムのTgと該紫外線吸収剤を含まない以外は該偏光子保護フィルムと同じフィルムのTgの差が3℃以内、厚み80μ
5 mにおけるYIが1.3以下となる、上記樹脂組成物。」(以下「甲1発明A」という。)さらに、甲1には、以下の「樹脂組成物の製造方法」の発明についても記載されていると認められる。「ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を主成分として含み紫外線吸収剤をも含む偏光子保護フィルムを形成する樹脂組成物の製造方法であって、該樹脂組成物を厚さ80μmの偏光子保護フィルムに成形した場合に、該偏光子保護フィルムの厚み80μmにおける380nmでの光線透過率が30%以下であり、該偏光子保護フィルムのTgと該紫外線吸収剤を含まない以外は該偏光子保護フィルムと同じフィルムのTgの差が3℃以内、厚み80μmにおけるYIが1.3以下となる、上記樹脂組成物の製造方法。」(以下「甲1発明B」という。)
⑵ 本件発明1についてア 本件発明1と甲1発明Aとの対比(本件審決「理由」第6の2⑴ア)本件発明1と甲1発明Aとの一致点及び相違点は、以下のとおりである。<一致点>ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N-置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種の環構造を主鎖に有する熱可塑性アクリル樹脂と、紫外線吸収剤と、を含む、熱可塑性樹脂組成物。<相違点>本件発明1は、熱可塑性樹脂組成物に含まれる紫外線吸収剤が「ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有する、分子量が700以上の紫外線吸収剤ここで、前記ヒドロキシフェニルトリアジン骨格は、トリアジンと、トリアジンに結合した3つのヒドロキシフェニル基とからなる骨格((2-
5 ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン骨格)」であり、熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度が「110℃以上」であるのに対し、甲1発明Aは、熱可塑性樹脂組成物に含まれる紫外線吸収剤が「該樹脂組成物を厚さ80μmの偏光子保護フィルムに成形した場合に、要件a~cを同時に満たす」ものであるものの、当該紫外線吸収剤が「ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有する、分子量が700以上の」ものであることや、熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度が「110℃以上」であることは特定されていない点イ 相違点1に関する判断(本件審決「理由」第6の2⑴イ)(ア) 甲1には、甲2に記載される紫外線吸収剤を甲1の偏光子保護フィルムに用いることの一応の示唆があるといえる(段落[0027])。しかし、甲1の偏光子保護フィルムに用いる紫外線吸収剤は「任意の紫外線吸収剤」であり得て、甲2に記載される紫外線吸収剤が好ましいなどとは、甲1に記載されていない。また、甲2には、極めて多数のs-トリアジン紫外線吸収剤が記載されている一方、甲1に記載されるトリアジン系紫外線吸収剤は、段落[0028]、[0030]において、好ましく用いることができると記載されるとともに実施例でも用いられているチヌビン1577のみである。そうすると、甲2に記載されるいずれの紫外線吸収剤が甲1の偏光子保護フィルムに「適した」ものであるかを、当業者が直ちに認識し得るとは認められないから、甲1の段落[0027]を含む全ての記載を考慮しても、甲1には、甲2に記載される紫外線吸収剤のいずれかを選択して甲1発明Aに適用する動機付けがない。(イ) 甲2の段落【0068】には、s-トリアジン紫外線吸収剤の具体例として化合物E~Pの12種類の化合物が記載されているところ、それらのうち、化合物K、O、Pは、前記相違点に係る本件発明1の「ヒド
5 ロキシフェニルトリアジン骨格を有する、分子量が700以上」であって、ヒドロキシフェニルトリアジン骨格が本件ヒドロキシフェニルトリアジン骨格である「紫外線吸収剤」に該当するものである。しかし、甲2には、甲2に記載される紫外線吸収剤が甲1に「適した」ものであることや、甲2に記載される紫外線吸収剤が甲1の要件a~cを同時に満たすものであることを当業者が認識するような記載や示唆はなく、甲2の全ての記載を考慮しても、甲2には、甲2に記載されている紫外線吸収剤のいずれかを選択して甲1発明Aに適用する動機付けがない。(ウ) 要件a、要件b及び要件cの関係性について確認すると、フィルムの紫外線吸収性能に関する要件aと黄変度に関する要件cとは、一方の性能を高めようとすると他方の性能が連動して劣るようになる、トレードオフの関係であることがうかがえ、また、フィルムの紫外線吸収性能に関する要件aとTgに関する要件bも、一方の性能を高めようとすると他方の性能が紫外線吸収剤の種類や量により連動して劣るようになる、トレードオフの関係であることがうかがえる。そして、甲1、甲2、さらに原告(請求人)の提出したいずれの証拠にも、甲2に記載される化合物K、O、Pが、甲1の要件aないしcを同時に満足することは記載も示唆もされていないといえるから、甲2に記載される化合物K、O、Pが、甲1の要件aないしcを満足することを、本件優先日前に当業者が技術常識に基づいて認識し得たとはいえず、甲2に記載される化合物K、O、Pを選択して甲1発明Aに適用する動機付けはない。(エ) 甲1発明Aの紫外線吸収剤の選択にあたり、甲1の段落[0027]によれば、フィルム製造時のロール汚れを発生しにくくする観点から、融点が110℃以上の紫外線吸収剤を選択することが好ましいもので
5 あるところ、甲2の化合物Kの融点は55~56℃、化合物Pの融点は-20℃と、甲1において好ましい下限である110℃を大きく下回っていることから、甲2に記載される化合物K、Pを甲1発明Aに適用する動機付けはない。(オ) したがって、甲1発明Aにおいて、前記相違点に係る甲1発明Aの紫外線吸収剤に代えて、前記相違点に係る本件発明1の紫外線吸収剤を採用することを、当業者は容易に想到し得ないから、前記相違点に係る本件発明1の構成のうちの「熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度が110℃以上」の部分について検討をするまでもなく、甲1発明Aにおいて、前記相違点に係る本件発明1の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たものではない。ウ 本件発明1の効果について(本件審決「理由」第6の2⑴ウ)(ア) 本件明細書の実施例における紫外線吸収剤CGL777MPAによって示される効果(高温成形時の発泡「なし」、吸光度(昇華性)「0」、吸光度(飛散性)「0.01以下」、濁度変化量「0」)は、比較例との対比から、前記相違点に係る本件発明1の紫外線吸収剤を採用したことによって奏されたものといえるところ、甲2に記載される他の化合物から前記相違点に係る本件発明1の紫外線吸収剤(甲2に記載された化合物K、O、P)を区別し選択して甲1発明Aに適用することを当業者は容易に想到し得ないのであるから、本件発明1が奏する前記効果も、当業者が甲1及び甲2から予測し得たものとはいえない。(イ) 特に、フィルムからブリードアウトした紫外線吸収剤の量の程度を示す濁度変化量が「0」となっている点に関して、「ブリードアウト」とは、一般的に「プラスチックの表面にプラスチック材料との相溶性に欠ける添加剤、たとえば着色剤、可塑剤または滑剤、その他が吹き出てくる現象」(甲36。審決段階の乙17)をいうものであるところ、相違点に係
5 る本件発明1の紫外線吸収剤と熱可塑性アクリル樹脂との高い相溶性に起因するブリードアウトの抑制、すなわち濁度変化量が「0」であることは、甲1及び甲2の記載事項から、当業者が予測し得るものではない。また、甲4(国際公開第2005/109052号)は、本件明細書とは、紫外線吸収剤のブリードアウトのしにくさを全く異なる手法で評価し、本件発明1における熱可塑性アクリル樹脂と紫外線吸収剤との「相溶性」に関する情報は何ら示されていないから、本件発明1の上記効果は、甲4の記載からも予測し得ないものである。エ 小括したがって、本件発明1は、甲1発明A及び甲2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
⑶ 本件発明6についてア 本件発明6と甲1発明Bとの対比(本件審決「理由」第6の2⑵ア)本件発明6と甲1発明Bとの一致点及び相違点は、以下のとおりである。<一致点>ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N-置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種の環構造を主鎖に有する熱可塑性アクリル樹脂と、紫外線吸収剤と、を含む、熱可塑性樹脂組成物の製造方法。<相違点6-1>本件発明6は、熱可塑性樹脂組成物に含まれる紫外線吸収剤が「ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有する、分子量が700以上の紫外線吸収剤ここで、前記ヒドロキシフェニルトリアジン骨格は、トリアジンと、トリアジンに結合した3つのヒドロキシフェニル基とからなる骨格((2-
5 ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン骨格)」であり、熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度が「110℃以上」であるのに対し、甲1発明Bは、熱可塑性樹脂組成物に含まれる紫外線吸収剤が「該樹脂組成物を厚さ80μmの偏光子保護フィルムに成形した場合に、該偏光子保護フィルムの厚み80μmにおける380nmでの光線透過率が30%以下であり、該偏光子保護フィルムのTgと該紫外線吸収剤を含まない以外は該偏光子保護フィルムと同じフィルムのTgの差が3℃以内、厚み80μmにおけるYIが1.3以下となる」事項を満たすものであるものの、当該紫外線吸収剤が「ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有する、分子量が700以上の」ものであることや、熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度が「110℃以上」であることは特定されていない点<相違点6-2>熱可塑性樹脂組成物の製造方法が、本件発明6は熱可塑性アクリル樹脂と、紫外線吸収剤と、を「溶融混合」するのに対し、甲1発明Bはそのような特定がされていない点イ 相違点に関する判断(本件審決「理由」第6の2⑵イ、ウ)相違点6-1は、本件発明1と甲1発明Aとの相違点と同じであるところ、相違点6-1に係る甲1発明Bの紫外線吸収剤に代えて、相違点6-1に係る本件発明6の紫外線吸収剤(甲2に記載される化合物K、O、P)を採用することを、当業者は容易に想到し得ないから、相違点6-1に係る本件発明6の構成のうちの「熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度が『110℃以上』」の部分について検討をするまでもなく、甲1発明Bにおいて、相違点6-1に係る本件発明6の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たものではない。したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明6は、甲1発明B及び甲2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明を
5 することができたものではない。5 原告の主張する取消事由
⑴ 取消事由1審理不尽
⑵ 取消事由2本件審決の認定した引用発明に基づく進歩性判断(相違点に関する判断)の誤り
⑶ 取消事由3本件発明の効果に関する判断の誤り
第3 当事者の主張
1 取消事由1(審理不尽)について
〔
(原告の主張)
〕
⑴ 特許公報である引用例から把握できる複数の発明の一つを引用発明として
認定することは許されるところ、請求項記載の発明や当該発明の課題解決に関係する発明に限定されるとする合理的な理由はなく、要件aないしcを考慮すべき理由はないから、甲1に記載された発明は、甲1の段落[0027]の記載も考慮し、紫外線吸収剤が甲2に記載のトリアジン系紫外線吸収剤であることを特定する、以下に示す「主引用発明1」 のとおりに認定されるべきである。「1-a:下記一般式で表されるラクトン環構造を主鎖に有する熱可塑性(メタ)アクリル樹脂と(段落[0015]、[0019]、[0021]、[化1])、1-b:トリアジン系紫外線吸収剤と(段落[0027])、1-c:を含み、1-d:上記(メタ)アクリル樹脂に紫外線吸収剤を添加した樹脂組成物のガラス転移温度が112℃以上である(段落[0016]、請求項1)1-e:偏光子保護フィルム。(請求項1、段落[0015])
5 1-f:ここで、前記トリアジン系紫外線吸収剤は、特表2002-543
265号公報に記載の紫外線吸収剤である。(段落[0027])」
⑵ 甲1及び甲2から、
「主引用発明1」に甲2に具体的に開示され、好ましいとされる4種類の紫外線吸収剤、特に化合物Kの適用を試みることには動機付けがある。
⑶ 本件審決は、引用発明の認定における裁量権を逸脱し、引用発明の認定を
誤り、容易想到性の判断も誤ったものであるから、審判手続の審理判断に審理不尽の違法がある。〔
(被告の主張)
〕
⑴ 要件aないしcは、甲1の段落[0033]ないし[0035]から、発
明が解決しようとする課題である「優れた紫外線吸収能力・優れた耐熱性・優れた光学的透明性」に対応し、請求項1でも特定されているところ、甲1記載の発明の技術的思想を無視し、これらを意図的に外して主引用発明を認定することは許されない。
⑵ 原告が主張する主引用発明1に甲2に記載の紫外線吸収剤を適用する動機
付けに関しては、取消事由2に含まれるべきものである。
⑶ 原告が主張する「主引用発明1」を認定しなければならないことは予定さ
れていないから、引用発明の認定における裁量権の逸脱には当たらず、本件審決に原告が主張する誤りはなく、審判手続に審理不尽に当たる瑕疵はない。
2 取消事由2(本件審決の認定した引用発明に基づく進歩性判断(相違点に関
する判断)の誤り)について〔
(原告の主張)
〕
⑴ 甲1発明Aに甲2の紫外線吸収剤を適用することの動機付けについて
ア 甲2には12種類のトリアジン系が具体的に示され、好ましいとされる4種類から適した紫外線吸収剤を選択するのに困難はなく、甲1の樹脂組成物に含まれる紫外線吸収剤は、380nm近傍に対する優れた吸収能を
5 有するところ、化合物Kも同波長に対する高い吸収能を有するから、甲2
の4種類の紫外線吸収剤から化合物Kを選択することは容易である。イ 甲1の段落[0027]には、紫外線吸収剤を1種のみ用いても良いことが明示され、好ましく用いられる紫外線吸収剤としてトリアジン系紫外線吸収剤とトリアゾール系紫外線吸収剤が挙げられており、いずれも単独で好ましく用い得ることを理解できるから、トリアジン系紫外線吸収剤を適用する動機付けがある。また、実施例及び比較例に用いられた紫外線吸収剤であるTINUVIN1577(トリアジン系)とアデカスタブLA-31(トリアゾール系)の対比のみから、直ちにトリアゾール系紫外線吸収剤全般とトリアジン系紫外線吸収剤全般の優劣を断じ、二つの選択肢の一方を排除することは、当業者の合理的な判断として考えがたい。紫外線吸収剤の添加量を調整することでTgの低下を抑制できるとの技術常識を踏まえると、化合物K、O、Pのように紫外線吸収能力が高いものであれば使用量を抑えることが可能であり、これによりTgの低下を抑制し、要件aと要件bを同時に満たす可能性があることを理解できるところ、甲1のTINUVIN1577はヒドロキシフェニル基が1個のもので、ヒドロキシフェニル基が3個の化合物K、O、Pとは化学構造が異なるから、甲1の表1の結果は、化合物K、O、Pを使用した場合にも同様の結果となることを当業者は直ちに想起せず、化合物K、O、Pを適用することを試みる動機付けは否定されない。ウ 甲2において、いずれの紫外線吸収剤が甲1の要件aないしcを同時に満足するのか否かの記載がないのは、副引例として通常のことであるから、この点の記載がないことを理由に、甲2を適用する動機付けは否定されない。
⑵ 要件a及び要件cの両立について
ア 本件審決は、甲32の1(審判乙13の1)及び甲32の2(審判乙1
5 3の2)の記載に基づき、
「紫外線カットオフの波長が384nm」である紫外線吸収剤であればフィルムの黄色化はないこと、他方で、「紫外線カットオフの波長が400nm」である紫外線吸収剤を含むフィルムは、紫外線吸収剤の吸収曲線のゆるやかな勾配に起因して、フィルムが黄色味を帯び易くなることを、本件優先日時の技術常識として認定した。そしてこの「技術常識」に基づき、甲2記載の紫外線吸収剤である化合物Pにつき、「化合物Pの紫外線吸収は・・全くあるいは殆ど黄色化の無い384nmを超え、紫及び青色光の吸収が起こり得る400nm付近の波長まで吸収があるものであるといえる。」と認定し、この認定に基づき、化合物P、さらには化合物K及びOについても、要件aと要件cを同時に満足しない可能性があると判断した。しかし、甲32の2でいう「紫外線カットオフ」とは、被告も認めるように、紫外線吸収の効力がある波長域の上限を意味するものであり、甲32の2において「黄色として知覚される」と評価されている「カットオフが400nm」である紫外線吸収剤とは、400nmまでは紫外線吸収の効力があり、400nmを超えた波長域で紫外線吸収の効力が急激に低下するような紫外線吸収剤を指すことになる。この点、甲13の図7、図8に示されるとおり、化合物P、さらには化合物K及びOは「カットオフが400nm」である紫外線吸収剤に当たらない。むしろ、甲13の図7、図8によれば、化合物Pは、385nm以下まで効力があり、385nm付近の波長域でその効力が急激に低下していることから、化合物Pのカットオフは385nmよりも低いといえ、甲32の2において、「全くあるいは殆ど黄色化が無い」と評価されている「384nmを上限とするカットオフの高い吸収剤」に該当することになる。したがって、甲32の2の記載に照らせば、化合物P、さらには化合物K及びOは、要件aとcを両立し得る。
5 イ 本件審決は、上記アの技術常識の認定から、380nmといった長波長
紫外線を吸収するような紫外線吸収剤であれば、紫外線吸収剤の吸収曲線のゆるやかな勾配に起因して、400nmまでの波長を吸収するはずであり、400nm付近に吸収がある紫外線吸収剤であれば、黄色味を帯び易くなるため、その結果、そのような紫外線吸収剤を含むフィルムは、直ちに要件cを満たさない可能性がある、との前提に立っている。しかし、以下に述べるとおり、青色光の吸収が大きいほど黄色として認識されやすくなるという一般的な性質はあるものの、そもそも人間の目は400nm以下の青色光をほとんど感知しないから、400nm以下の青色光が吸収されても黄色としてはほとんど認識されず、380nmや400nm付近の波長を吸収する紫外線吸収剤を用いたとしても、それによる青色光の吸収が要件cが規定するYIに対する影響は極めて限定的である。甲1の要件cは、「厚み80μmにおけるYIが1.3以下となる」との要件であって、黄変を一切許さないとする要件ではない。言い換えれば、要件cは、厚み80μmにおけるYIを1.3までは許容するという要件である。甲1の段落[0108]によれば、YIとは、高速積分球式分光透過率測定機(商品名DOT-3C:村上色彩技術研究所製)を用い、測定で得られる色の三刺激値(X、Y、Z)より、次式によって求めることとされている(以下、下記に示される式を「YI計算式」という)。YI=[(1.28X-1.06Z)/Y]×100ここで、YI計算式の計算に使用される、色の三刺激値(X、Y、Z)を簡単に説明すると、測定に使用する標準の光 (以下「測色用イルミナント」という。)を、測定対象である試料(例えばフィルム)を通過させて見たときに、人間の目にどのように感じられるかを数値化したものであり、X、Y、Zとは、それぞれ赤色、緑色、青色に関してどのように感じるかを数値化したものである。測定対象フィルムが、測色用イルミナントを吸
5 収することなく完全に透過させる場合(無色透明フィルムの場合)、YIは
ゼロになる。そして、上記式のうち「Z」は、測色用イルミナントを測定対象フィルムに通過させたときに、測色用イルミナントの青色部分が人間の目にどのように感じるかを数値化したものであって、具体的には、測色用イルミナントの青色の分光感度である「S(λ)×z(λ)」に、測定対象フィルムの透過率「R(λ)」を掛け合わせた「S(λ)×z(λ)×R(λ)」を、可視光の波長領域(380~780nm)について足し合わせることによって求められ、測定対象フィルムが測色用イルミナントの青色光を吸収する場合は、青色領域における測定対象フィルムの透過率「R(λ)」が、無色透明フィルムの透過率よりも下がるため、算出される測定対象フィルムの「Z」の値が、上述した無色透明フィルムの「Z」の値よりも減少し、YIがゼロよりも大きい値をとることになる。しかし、人間の目は、波長が400nm以下の青色光をほとんど感知しないことから、波長が400nm以下の「S(λ)×z(λ)」は極めて小さく、このため、380nmや400nm付近の波長領域における測定対象フィルムの透過率「R(λ)」が、無色透明フィルムの透過率よりも多少下がったとしても、その結果、算出される測定対象フィルム「Z」の値の、無色透明フィルムの「Z」の値からの減少の程度に対する影響は極めて限定的である。このように380nmや400nm付近の波長を吸収する紫外線吸収剤を用いたとしても、YIに対する影響は極めて限定的であることは、本件優先日当時の技術常識であったものである。したがって、上述した本件優先日当時の技術常識に基づけば、380nmや400nm付近の波長を吸収する紫外線吸収剤を含むフィルムが、直ちに要件cを満足しない可能性があるということにはならない。
5 ウ さらに、甲51及び54の記載によれば、波長380nm以下、あるい
は370nm以下の紫外線吸収能に優れ、かつ、黄変を防ぐ観点から波長400nm以上の可視光の吸収が可及的に少ないものが好ましいこと、これを達成するために、紫外線吸収能に優れた紫外線吸収剤を用いて、これの使用量をもって調整すること、つまり、高い紫外線吸収能と黄変防止は両立し得ることも、本件優先日当時からよく知られていた。エ 以上によれば、本件優先日前の上記技術常識に基づけば、当業者は、甲2に記載された化合物K、O、Pが、要件aとcの双方を満たす可能性が十分にあることを理解できるのであって、甲2記載の化合物K、O、Pが要件aないしcを同時に満足しない可能性があることを理由に、甲1発明Aに甲2発明の紫外線吸収剤を適用する動機付けがないとした本件審決の認定・判断は誤りである。オ 本件優先日前に公知でない乙 1 は、動機付けの欠如や阻害要因の根拠にならないが、乙1に示される「化合物Pの添加量とYI値との関係」は、YI値が低いフィルム(甲68~71)を使用すれば、要件aも満たしつつ、YI値も1.3以下となり要件cも満たすフィルムが得られることを示唆する。カ 甲72の1の実験報告書は、本件優先日に公知である、YI値の低い、優れた光学的透明性を有するラクトン環含有(メタ)アクリル系樹脂を用いた場合、甲2に記載された化合物Pの添加量を調節することによって、甲1発明Aの要件aと要件cの両立を達成できることを示している。
⑶ 要件a及び要件bの両立について
甲1には、紫外線吸収能力が高い紫外線吸収剤を少量用いることで、要件aと要件bを同時に満たした例(実施例1ないし4)が開示されている。また、甲1の実施例及び比較例を検討すると、紫外線吸収剤の添加量の増加に応じてTgが低下する傾向にあることも開示されている。このように、甲1
5 自体が、紫外線吸収剤の添加量に応じてTgの低下度合いが変動することを
示しているのであって、翻って、紫外線吸収剤の添加量を少なくすることによりTgの低下を抑制し得ること、つまり、吸収能力の高い紫外線吸収剤を使用して添加量を少なく調整することにより、要件aと要件bを同時に満足し得ることを示唆しているといえる。また、甲55ないし58の文献からも、紫外線吸収剤の添加量を調整することによりTgの低下を抑制することは、本件優先日当時の技術常識であったと認められる。以上のように、紫外線吸収剤の添加量に応じてTgが低下することを踏まえて、紫外線吸収剤の添加量を調整することにより、Tgの低下を抑制することは本件優先日当時の技術常識であった。そのため、当業者は、このような本件優先日当時の技術常識を踏まえて、甲2記載の化合物K、O、Pのように紫外線吸収能力が高いものであれば、使用量を少なく抑えることができ、これによりTgの低下を抑制することで、要件a及びbを同時に満たす可能性が十分にあることを理解することができた。したがって、甲1、甲2、さらに請求人の提出したいずれの証拠にも、甲2に記載された化合物K、O、Pが、甲1の要件a及びbを同時に満足することが記載も示唆もされていないとした本件審決の認定・判断は誤りである。甲72の1の実験報告書(前記⑵カ)は、甲2記載の紫外線吸収剤を使用することによって、甲1発明の要件a及び要件bの両立を達成できることも示している。
⑷ 阻害要因について
ア 本件審決は、甲1の段落[0027]の記載に基づき、化合物K、Pの融点が甲1において好ましい下限である110℃を大きく下回っているとして、甲2に記載される化合物K、Pを甲1発明Aに適用する動機付けはないと判断した。
5 しかし、甲1の段落[0027]の記載によれば、甲1において、紫外
線吸収剤の融点は、甲1記載の発明に適した紫外線吸収剤に必須な要素というよりも、付随的に備えられていれば好ましい点として挙げているにすぎない。また、甲1に記載された課題は、「優れた紫外線吸収能力を有するとともに、優れた耐熱性、優れた光学的透明性を有する偏光子保護フィルムを提供すること」(段落[0006])であって、甲1において、紫外線吸収剤の融点が110℃以上であるとの点は、上記課題とは関係がない効果である。甲1の実施例において、使用された紫外線吸収剤の融点に関する記載は一切なく、甲1記載の発明に適した紫外線吸収剤を記載した文献として甲2とともに挙げられている特開2001-72782号公報(甲63)には融点が20℃以下である紫外線吸収剤の具体例が多数開示されている。甲1の段落[0029]、[0030]には、甲1記載の発明に用いることができるトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例が挙げられているが、その中には融点が110℃に満たない化合物がいくつも存在する。さらに、甲1の段落[0027]は、紫外線吸収剤の融点が130℃以上であると、加熱溶融加工時の揮発が少なくなることを理由に、フィルム製造時のロール汚れを発生し難いと説明するが、紫外線吸収剤の揮発性は、分子量を大きくするほど揮発性が低下する傾向があり(甲5)、融点のみが原因でないことは技術常識であるから、当業者であれば、加熱溶融加工時の揮発性やフィルム製造時のロール汚れの発生は、紫外線吸収剤の融点のみが原因であるとは考えず、むしろ、甲2記載の化合物K、O、Pの分子量を考慮すれば、甲1の実施例と比較して揮発性が低く、フィルム製造時のロール汚れを防止できる可能性が十分にあると理解する。加えて、本件優先日当時、ロールを使用するフィルム成形をするに際して、融点が130℃を優に下回る紫外線紫外線吸収剤が問題なく使用されていた(甲9の
5 1・2、10の1・2)。
したがって、本件審決の上記判断は誤りである。イ 被告は、後記〔
(被告の主張)
〕⑴イのとおり、甲2の段落【0004】の記載や、紫外線吸収剤に吸収曲線のゆるやかな勾配があること(甲32の2)から、当業者は、化合物K、O、Pについて、400nm付近までの光についても強い吸収性能を有するため黄色味を帯びる(YI値が上昇する)と理解するから、甲1発明Aの紫外線吸収剤として化合物K、O、Pを採用することには阻害要因があると主張する。しかし、甲2の紫外線吸収剤は、甲1発明に適した紫外線吸収剤として甲1自体に挙げられたものであるから、甲2の記載に基づいて、甲1発明Aの紫外線吸収剤に化合物K、O、Pを採用する動機付けが阻害されることはない。加えて、前記⑵アのとおり、甲32の2には、「384nmを上限とするカットオフの高い吸収剤」について、「全くあるいは殆ど黄色化の無い」と説明しており、甲2の化合物Pはこれに該当する。そして、甲2に記載されている化合物K、Oのλmax(最も強い光吸収を持つ波長)及びモル吸光係数の値、並びに甲13に記載されている化合物Pの吸収能を踏まえれば、甲2の記載に基づいて、甲1発明Aの紫外線吸収剤に化合物K、O、Pを採用することの動機付けが阻害されることはない。〔
(被告の主張)
〕
⑴ア 甲1に記載された発明の目的は、「優れた紫外線吸収能力を有するとと
もに、優れた耐熱性、優れた光学的透明性を有する」ことである(段落[0006])。そして、段落[0033]には、「上記偏光子保護フィルムの厚み80μmにおける380nmでの光線透過率が30%を超えると、十分な紫外線吸収能力を発揮できないおそれがある。」と記載され、段落[0035]には「厚み80μmにおけるYIは、・・・YIが1.3を超えると、
5 優れた光学的透明性が発揮されないおそれがある。」と記載されている。
このように、甲1における「優れた紫外線吸収能力」は「偏光子保護フィルムの厚み80μmにおける380nmでの光線透過率が30%以下」であること(要件a)によって評価され、また「優れた光学的透明性」は「厚み80μmにおけるYIが1.3以下」であること(要件c)を一つの指標として評価されている。YIは、黄色度の指標であり、数値が大きいほど黄色度が大きいことを意味する(甲31)ことから、黄色度の高いフィルムは優れた光学的透明性を発揮しないことになる。一方、400nmまでの光を吸収する紫外線吸収剤を含むフィルムは、380nmを超える可視光を吸収するため、紫外線吸収剤の吸収曲線のゆるやかな勾配に起因して、以下の表(甲32の1の表2)に示される光の補色の関係により、フィルムが黄色味を帯びることは周知の技術事項であった(甲32の1・2)そうすると、甲1発明Aの紫外線吸収剤は、優れた紫外線吸収能力を発揮するために、「偏光子保護フィルムの厚み80μmにおける380nmでの光線透過率が30%以下」(要件a)、つまり380nmの光は十分に吸収するが、黄色味を防止するために、「厚み80μmにおけるYIが1.3以下」(要件c)、つまり380nmを超える光の吸収は少ないという、両立が困難な吸収性能を有する特殊な紫外線吸収剤であることが必要である。
5 そして、甲2の記載に接した当業者は、好ましい紫外線吸収剤として例
示された化合物K、O、Pを含む12個の化合物は、甲2の接着剤組成物に求められる、「非常に高いモル吸光度値、接着剤組成物への高溶解性および優れた光安定性」を有するという点で好ましい化合物であり、350nmないし400nmの紫外線範囲にわたって強い吸収を有する化合物であると理解するから、これらが「380nmの光は十分に吸収する一方で、380nmを超える光の吸収は少ない」という吸収性能を有するものであるとは理解しない。そうすると、当業者が、甲1発明Aの紫外線吸収剤として、甲2に記載された化合物K、O、Pを採用する動機付けは存在しない。イ 甲2の段落【0068】には、化合物Kのλmax(最も強い光吸収を持つ波長)が359nmでモル吸光係数が6万であり、化合物Oのλmaxが358nmでモル吸光係数が5万5400であることが記載されているものの、甲2には「理想的な紫外線吸収剤は、290nmないし400nm、しかし特に350nmないし400nmの紫外線範囲に渡って、非常に光安定で且つ強い吸収を有するべきである。」と記載されている(段落【0004】)こと、及び紫外線吸収剤には吸収曲線のゆるやかな勾配がある(甲32の2)ことを踏まえれば、当業者は、化合物K、Oは359nmや358nmのみならず400nm付近までの光についても強い吸収性能を有するため黄色味を帯びる(YI値が上昇する)と理解し、化合物K、Oと化学構造が非常に類似する化合物Pについても同様であると理解する。したがって、甲1発明Aの紫外線吸収剤として甲2に記載された化合物K、O又はPを採用した場合には、フィルムが黄色味を帯びてしまい(つまり、YI値が上昇してしまい)、甲1発明Aで必要とされる「優れた光学的透明性」の目的が達成されなくなってしまうため、甲1発明Aの紫外線
5 吸収剤として化合物K、O、Pを採用することには、阻害要因が存在する。
ウ 乙1の実験報告書(以下「乙1実験報告書」という。)は、甲1の実施例で用いられた樹脂とほぼ同様の380nm透過率85.1%でYI値0.99の、主鎖にラクトン環を有するアクリル樹脂を合成し、この樹脂100重量部に対して、CGL777MPA(この製品は甲2の化合物Pに相当する。)の有効成分が甲1の段落[0043]に記載された好ましい含有量の範囲に包含される0.3~1.4重量部になるように添加することによって樹脂組成物を得た後、厚み80μmのフィルムを作成して、380nm透過率(%)及びYI値を測定したものである。その結果は以下の表のとおりである。CGL777MPA の有 380nm 透 過 率YI 値(E313-05)効成分量 (重量部) (%)フィルム1 0 85.1 0.99フィルム2 0.3 29.2 1.57フィルム3 0.4 20.3 1.68フィルム4 1.3 2.6 2.82フィルム5 1.4 1.2 2.91上記表のフィルム2の結果によれば、380nm透過率が30%以下となるには、紫外線吸収剤を少なくとも0.3重量部となるように添加する必要があるが、その場合のYI値は1.57であり、1.3を大きく上回る。380nm透過率をさらに下げようと、紫外線吸収剤の添加量を増やせば、さらに一層YI値は大きくなってしまう(フィルム3~5)。一方、YI値を1.3以下にするためには紫外線吸収剤の添加量をフィルム2の0.3重量部より下げる必要があるが、そうすると380nm透過率を30%以下にすることができない(フィルム1)。そして、化合物K、Oの化学構造、λmax及びモル吸光係数が、化合
5 物Pと似ていることからすれば、化合物K、Oも化合物Pと同様の傾向を
示すと理解できる。したがって、紫外線吸収剤の添加量を調整しても、甲1発明Aの要件aと要件cを両立することはできない。エ 原告の出願に係る特開2017-88728号公報(甲37)の記載によれば、上記出願がされた平成27年の時点においてすら、当業者である原告自身が、「トリアジンと、トリアジンに結合した3つのヒドロキシフェニル基とからなる骨格((2-ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン骨格)」であるヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有する紫外線吸収剤を含め、通常の紫外線吸収剤では、波長380nmまでの紫外線吸収を向上させようとすると、可視光も吸収して偏光子保護フィルムが黄色味を帯びてしまい、可視光に近い波長の紫外線吸収と可視光吸収とを独立して調節することができないことを認識していたと認められる。まして、本件優先日当時に要件aと要件cが両立できると当業者が考えるはずがない。オ 黄色度が低いフィルムを製造するための樹脂組成物である甲1発明Aに使用する紫外線吸収剤として、甲1の実施例で使用するような白色の紫外線吸収剤に代えて、強いオレンジ色を呈する化合物P(甲12、乙1)や、同様にオレンジ色を呈すると理解される化合物Kや化合物Oを添加することは、当業者であれば当然避けようとする。カ 甲1には、紫外線吸収剤を入れないでYI値が0.95であるラクトン環含有(メタ)アクリル樹脂が具体的に記載されているだけであり(段落[0129]表1)、紫外線吸収剤無添加のフィルムのYI値を下げれば紫外線吸収剤添加フィルムのYI値も下がること自体が、被告が提出した乙1実験報告書をグラフ化してみて初めて理解し得ることであり、本件優先日前に、甲1に接した当業者が、要件cを満たすためにYI値が極力低い
5 ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を選択することについて
動機付けられることはない。また、審判手続において審理判断されたのは、甲1に記載された発明の紫外線吸収剤に代えて甲2の化合物K、O、Pを採用することを、当業者が容易に想到し得るか否かであり、甲1に記載された「ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂」として甲68ないし71に記載された特定の樹脂を採用することを、当業者が容易に想到し得るか否かについては、上記審判手続で審理判断されていない。そして、甲68ないし71は、厚さ80μmのフィルムのYI値が0.7以下の優れた光学的透明性を有するラクトン環構造含有(メタ)アクリル系樹脂が、本件優先日当時の技術常識であったことを示すものでもない。甲68ないし71を用いた
(原告の主張)
は、甲1発明Aに甲2記載の紫外線吸収剤を適用するに際し、甲1発明Aのラクトン環構造含有(メタ)アクリル系樹脂に代えて、甲68ないし71のいずれかに記載されているYI値の低いラクトン環含有(メタ)アクリル系樹脂を適用し、これに甲2記載の化合物K、O、Pを適用するとの新たな無効理由の主張であり、本件訴訟の審理範囲を逸脱するものであり、許されない。
⑵ア 甲1に記載された発明の目的は、前記⑴アのとおりであるところ、甲1
の段落[0034]には、「上記偏光子保護フィルムのTgと上記紫外線吸収剤を含まない以外は上記偏光子保護フィルムと同じフィルムのTgの差は、好ましくは2.5℃以内、より好ましくは2.3℃以内、さらに好ましくは2.0℃以内である。上記差が3℃を超えると、優れた耐熱性が発揮できないおそれがある。」と記載されており、甲1における「優れた耐熱性」は、「偏光子保護フィルムのTgと上記紫外線吸収剤を含まない以外は上記偏光子保護フィルムと同じフィルムのTgの差が3℃以内」(要件b)であることによって評価されている。
5 そして、甲1には、
「本発明において特に好ましくは、トリアジン系紫外線吸収剤とトリアゾール系紫外線吸収剤を併用することである。」と記載され(段落[0027])、実施例においてもトリアジン系紫外線吸収剤とトリアゾール系紫外線吸収剤が併用されている。甲1では、トリアジン系紫外線吸収剤とトリアゾール系紫外線吸収剤が併用された[表1]の実施例1ないし4において、紫外線吸収剤を含まない比較例3のフィルムとのTgの差が3℃以内であり、耐熱性について優れた効果が示されている。そして、紫外線吸収剤を併用しない比較例1ないし3の各フィルムを対比すると、トリアジン系紫外線吸収剤のみを用いる場合(比較例1)よりもトリアゾール系紫外線吸収剤のみを用いる(比較例2)方が、ガラス転移点の低下が少なく、YI値、b値の点でも優れることが理解できる。そうであるにもかかわらず、耐熱性や光学的透明性の点でトリアゾール系紫外線吸収剤よりも劣るトリアジン系紫外線吸収剤のみに着目して、これを甲2に示される別のトリアジン系紫外線吸収剤に置き換えてみようとする動機付けは存在しない。イ 原告は、〔
(原告の主張)
〕⑶のとおり、甲1自体が、紫外線吸収剤の添加量に応じてTgの低下度合いが変動することを示しているとし、また、甲55ないし58を挙げて、紫外線吸収剤の添加量を調整することによりTgの低下を抑制することは、本件優先日当時の技術常識であったとして、甲2記載の化合物K、O、Pのように紫外線吸収能力が高いものであれば、使用量を少なく抑えることができ、これによりTgの低下を抑制することで、要件a及びbを同時に満たす可能性が十分にあることを理解することができたと主張する。しかし、甲1も甲55ないし58も、単に樹脂に紫外線吸収剤を多量に添加するとTgが低下することを記載ないし示唆するにすぎないもので
5 あり、紫外線吸収剤の添加量によって甲1発明Aの構成である要件aと要
件bを両立できることは記載されていない。紫外線吸収剤を多量に添加すれば紫外線吸収機能は向上するものの、Tgが大きく低下してしまい(甲55~58)、また、甲1によれば、紫外線吸収剤の違いによりTgの低下の度合いに差があることが明らかであるから、要件aと要件bを両立するには、適切な紫外線吸収剤を用いる必要があるといえ、要件aと要件bを両立できるか否かが不明な化合物K等を甲1発明Aに適用する動機付けはない。
⑶ 甲1の段落[0027]には「紫外線吸収剤の融点は、110℃以上が好
ましく、120℃以上がより好ましい。紫外線吸収剤の融点が130℃以上であれば、加熱溶融加工時の揮発が少なく、フィルム製造時のロール汚れを発生し難い。」と記載されている。そして、甲1の段落[0028]の記載や、実施例1ないし4で用いられているトリアジン系紫外線吸収剤「TINUVIN1577」の融点は147-151℃であること(甲34)も併せれば、甲1の上記記載に接した当業者は、甲1におけるトリアジン系紫外線吸収剤としては、単に「優れた紫外線吸収能力」を有するというだけではなく、甲1の目的を達成するため「優れた耐熱性、優れた光学的透明性」を有し、さらに、「加熱溶融加工時の揮発が少なくフィルム製造時のロール汚れも発生しにくい」という性質を有していなければならないと理解する。しかし、当業者は、甲2に記載された化合物K、O、Pが「優れた耐熱性、優れた光学的透明性」を有し、さらに、「加熱溶融加工時の揮発が少なくフィルム製造時のロール汚れも発生しにくい」ものであるとは理解できない。むしろ、化合物Kの融点は55-56℃であり(甲26、【0191】No.
(11))、化合物P(CGL777MPA)の融点は-20℃であって(甲
12の7頁)、甲1の段落[0027]に示された「融点130℃」を大幅に下回るから、甲1発明Aの紫外線吸収剤として化合物K又はPを採用した場
5 合には、甲1で必要とされる「加熱溶融加工時の揮発が少なくフィルム製造
時のロール汚れを発生し難い」という目的が達成されなくなることが明らかである。化合物Oも、化合物K、Pとの構造の類似性から、同様に融点は低いことが十分予想される。そうすると、甲1発明Aにおける「紫外線吸収剤」、より具体的には、優れた紫外線吸収能力を有するのみならず、優れた耐熱性、優れた光学的透明性を有し、かつ、加熱溶融加工時の揮発が少なくフィルム製造時のロール汚れも発生しにくい「TINUVIN1577」のような「トリアジン系紫外線吸収剤」に代えて、融点が甲1に記載された「130℃」を大幅に下回る化合物K、O、Pを積極的に用いる動機付けは存在せず、むしろ、これらの化合物を用いた場合には、「加熱溶融加工時の揮発が少なくフィルム製造時のロール汚れも発生しにくい」という甲1発明Aの目的が達成できなくなるため、阻害要因が存在する。
3 取消事由3(本件発明の効果に関する判断の誤り)について
〔
(原告の主張)
〕
⑴ 本件審決は、本件発明1のブリードアウトの抑制の効果(濁度変化量がゼ
ロであること)が予測し得ない効果であると判断しているが、この効果が予測できない顕著な効果であることまで判断したものではなく、相違点に係る構成(甲2の化合物K、O、Pを甲1発明Aに適用すること)が容易想到であることを前提にブリードアウトの抑制の効果を判断したものでもない。また、被告も、本件審決の判断に誤りがないというにすぎない。したがって、発明の効果が進歩性の判断に当たり有利に斟酌される余地はない。
⑵ 本件審決は、「甲2に記載される他の化合物から前記相違点に係る本件発
明1の紫外線吸収剤(甲2に記載された化合物K、O、P)を区別し選択して甲1発明Aに適用することを当業者は容易に想到し得ないのであるから、本件発明1が奏する前記効果も、当業者が甲1及び甲2から予測し得たもの
5 とはいえない。」と述べているが、甲2に記載された化合物K、O、Pを甲1
発明Aに適用することが容易想到ではないとするのであれば、そもそも本件発明1の効果を論じる意味はなく、上記の認定は結論を先取りした論理で意味があるものとは思われない。
⑶ 光学フィルムなどの樹脂成形品の内部から紫外線吸収剤などの配合剤(添
加剤)が固体、液体又は気体となって外部に放出される現象の主たる要因が、樹脂と配合剤との相溶性及び樹脂から分離した配合剤の樹脂表面への移動(拡散移動現象)であること(甲74、75)、及び、紫外線吸収剤のフィルムの表面からの放出についても、樹脂と紫外線吸収剤との溶解のしやすさ(相溶性)と樹脂から分離した配合剤の動きやすさ(移動・拡散)が重要な因子として作用するものであり、分子量が大きい紫外線吸収剤は、分子の動きやすさ(拡散移動現象)が抑制され、安定的に樹脂中に保留され、効果の持続性(保留性)に優れること(甲5、76、77)は、本件優先日当時において当業者にとって周知の技術的事項であり、本件発明と同じく三つのヒドロキシフェニル基を有するヒドロキシフェニルトリアジン紫外線吸収剤について、長いアルキル基を導入することにより、室温あるいは60℃の温度条件化において、ブリードアウトが抑制され、紫外線吸収効果が持続することも知られていた(甲78)。化合物Kは、長いアルキル基を有し、分子量が大きいものであり、甲1記載の発明に化合物Kを適用した場合、上記技術常識や刊行物の記載に照らせば、紫外線吸収剤が揮発しない温度条件下においてブリードアウトが抑制されることを容易に予測することができた。
⑷ 本件審決は、甲4では、ブリードアウトのしにくさを、紫外線吸収剤自体
を加熱して、揮散性をしめす5質量%減少温度で評価し、本件明細書は、紫外線吸収剤を添加した樹脂を成型したフィルムを100℃に保持した熱風乾燥器内に200時間放置した際の濁度量変化で評価しており、両者が紫外線吸収剤のブリードアウトのしにくさを全く異なる手法で評価しているなどと
5 して、本件発明1の効果が、甲4の記載から当業者に予測し得るものである
とはいえないと判断した。しかし、評価手法が異なることから直ちに本件明細書に記載されたブリードアウト抑制方法が予測不可能であるとはいえない。また、相溶性が良好であれば紫外線吸収剤が樹脂から分離して樹脂成形物の表面に移動し、ブリードアウトしたりフィルム表面から揮散することもないため、相溶性は常に紫外線吸収剤のブリードアウトや揮散の要因となり得るものであり、また、紫外線吸収剤自体の5質量%減少温度が低いということは、熱に弱いことを意味し、フィルムの表面に移動した紫外線吸収剤が、分解して液状・粉状になったり、気体となって空気中に移動しやすくなるため、紫外線吸収剤自体の5質量%減少温度も相溶性も、紫外線吸収剤のブリードアウトや揮散の要因であるから、本件審決のように、それぞれが何に起因して生じるのかを検討することは意味がない。しかも、甲4の記載からは、ブリードアウトの抑制や光学フィルムにおける紫外線吸収効果の持続性は、当業者にとって本件優先日時点における公知の課題であったことが理解できるところ、このようなブリードアウトの抑制を濁度変化量で評価したことをもって、本件発明の効果が、当業者が予測することができた範囲を超える顕著なものであったとはいえない。
⑸ ブリードアウトの抑制が樹脂と紫外線吸収剤の相溶性に起因するのであれ
ば、紫外線吸収剤が混合される熱可塑性アクリル樹脂の種類・構造によってその程度に差異があることが予想されるが、本件明細書には、ラクトン環構造以外の環構造を主鎖に有する熱可塑性アクリル樹脂を含む樹脂組成物が、濁度変化量等において、いかなる効果を奏するのかを認識し得るような記載はない。したがって、本件審決が、本件特許の請求項1に記載の熱可塑性アクリル樹脂であればすべからく相溶性に起因するブリードアウト抑制の効果が生じ
5 ることを前提に、本件発明1の効果を予測し得ないものと判断したことは誤
りである。
⑹ 本件審決は、本件明細書の実施例において濁度変化量がゼロとなっている
点に着目している。しかし、実施例と比較例の濁度変化量の差はわずか0.1%程度であり、本件明細書における濁度変化量の測定は、0.1%程度のわずかなフィルムの透明度の変化をとらえる測定であり、溶融押出フィルムの状態や、溶融押出フィルムから5㎝×5㎝のフィルムを切り出す場所によって測定値が変化する。しかも、そもそも濁度(ヘイズ)の測定精度には限界があり、不可避的に誤差を伴うものである上、二つの濁度の測定値から差を求める手法では測定に伴う誤差はさらに大きくなるから、本件明細書に記載された濁度変化量の差は誤差の範囲内であり、意味のある結論を導くことはできない。
⑺ 被告は、後記〔
(被告の主張)
〕⑶のとおり、乙3の実験成績証明書に基づく主張をする。しかし、本件優先日の後に作成された乙3を、樹脂がラクトン環構造以外の環構造でも本件発明の効果が奏されるとの主張の根拠として引用することは、特段の事情がない限り許されない。しかも、熱可塑性アクリル樹脂は、ラクトン環構造が主鎖のものと、他の環構造が主鎖のものとでは、樹脂の一次構造が全く異なっており、それによって相溶性等の物性が異なり、それらを含む樹脂組成物の濁度変化量を測定すれば、それぞれ異なる結果が得られることは、当業者の技術常識に照らし容易に想到される。本件明細書の段落【0026】にも、ラクトン環構造とグルタルイミド構造とでは、一次構造が異なることによって化学的性質が異なることが示されている。このように、本件明細書には、ラクトン環構造以外の環構造を主鎖に有する熱可塑性アクリル樹脂を含む樹脂組成物が、濁度変化量においていかなる効果を奏するのかを認識し得る記載はなく、本件明
5 細書の記載から、当業者がその効果を推論することもできないから、乙3は、
本件における証拠として意味を有しない。〔
(被告の主張)
〕以下に述べるとおり、本件発明が奏する効果である「ブリードアウト」の抑制は、当業者が本件発明の構成が奏するものとして予測することができない効果である。
⑴ 本件明細書の記載(段落【0169】、
【0202】~【0204】、【表1】)によれば、本件発明では、樹脂組成物から成型したフィルムについて、100℃、200時間の熱風乾燥処理の前後における濁度変化量を測定し、濁度変化量が小さいことをもって「ブリードアウト」が抑制されたと評価している。すなわち、本件発明の「ブリードアウト」は、「紫外線吸収剤が揮発しない温度条件下」で、紫外線吸収剤と樹脂との相溶性に起因して紫外線吸収剤がフィルムの内部から表面にゆっくり移動することにより生じる、フィルム表面の濁りの変化量を測定する濁度変化量で評価したものである。これに対し、甲4では、「極めて高い温度(紫外線吸収剤が揮発する温度)条件下」で、紫外線吸収剤自体の5質量%減少温度を測定し、紫外線吸収剤単独での揮散性が低いことをもってブリードアウトし難いと評価したものであるから、本件発明と甲4の「ブリードアウト」は全く異質なものである。また、甲5には、紫外線吸収剤の高分子量化により揮発性の低下が可能であると記載されているが、本件発明の「ブリードアウト」は、紫外線吸収剤と樹脂との相溶性の影響を大きく受け、紫外線吸収剤単独での揮発性では決まらない。
⑵ 濁度は、全光線透過率に対する拡散透過率の比として定義されるものであ
り(乙6)、本件明細書において濁度計で測定されるフィルムの濁度は、フィルム全体を通過する光のうちの散乱される光の割合であることから、フィルムの濁度変化量が小さいということは、紫外線吸収剤が揮発しない温度で長
5 期間放置した後でも、紫外線吸収剤がフィルム表面に析出しないのみならず
フィルム内部でも紫外線吸収剤が凝集析出しないために、フィルム全体にわたって濁度をほとんど生じないことを意味する。これに対し、甲5、74、76、77は、フィルム内部での紫外線吸収剤の凝集析出までを含む濁度変化のことは記載されておらず、甲75は、可塑剤と樹脂の相溶性について記載されたものであって、紫外線吸収剤と樹脂の相溶性について記載するものではない。また、本件明細書における濁度変化量と、甲77で測定されている「ヘイズ値の差」とは、評価対象が異なり、具体的な評価方法も異なる。さらに、本件発明において、フィルムの濁度変化量が小さいということは、紫外線吸収剤が揮発しない温度で長期間放置した後でも、紫外線吸収剤がフィルム表面に析出しないのみならず、フィルム内部でも紫外線吸収剤が凝集析出しないことを意味するのに対し、甲78の実施例B2で「視覚的なブリーミングは発生しなかった」と記載されているのは、紫外線吸収剤がフィルム表面に析出しなかったことを意味するにすぎないから、甲78に本件明細書の実施例と同様の効果が示されているとはいえない。したがって、長いアルキル基を有する分子量が大きい化合物Kを甲1記載の発明に適用した場合でも、100℃で200時間放置後の濁度変化量が小さいことを当業者が容易に予測できたとはいえない。
⑶ 原告は、本件発明のうち、ラクトン環の場合についてのみ構成の容易想到
性を主張しており、他の環の場合については構成の容易想到性を主張できていないのであるから、他の環の場合に濁度変化量等の効果が奏されるかどうかを問題にしても、本件審決の結論に影響を及ぼさない。なお、ラクトン環構造以外の環構造を主鎖に有する熱可塑性アクリル樹脂を含む樹脂組成物においても、ラクトン環構造を主鎖に有する熱可塑性アクリル樹脂の場合と同様に濁度変化量がゼロになることは、乙3の実験成績証
5 明書に示すとおりである。
⑷ 本件明細書では、段落【0169】に記載のとおり、5㎝×5㎝のサンプ
ルの濁度を測定した後、このサンプルを100℃に保持した熱風乾燥器内に200時間放置し、放置後の濁度を測定しており、使用された濁度計は5㎝×5㎝のサンプルの濁度をそのまま測定できる装置であって、サンプルを濁度計の同じ位置にセットすることにより200時間放置前後でサンプルの測定部位は一致する。また、汚染が生じないように実験を行うことは、当業者にとって当然のことであり、本件優先日前の2003年当時に存在していた上記濁度計の後継機種において、測定精度は「JIS K7361-1の方法にて再現性(100.00)フルスケールに対して、0.05%以内」とされている(乙10)から、汚染の影響や濁度の測定精度の限界による誤差の発生は、全く問題にならない。
第4 当裁判所の判断
1 本件発明の技術的意義等
⑴ 特許請求の範囲本件特許に係る特許請求の範囲の記載のうち、請求項1及び6は、前記第2の2のとおりである。
⑵ 本件明細書の記載本件明細書の記載は、別紙2「本件明細書の記載」のとおりである。
⑶ 本件発明の概要上記⑴の特許請求の範囲及び上記⑵の本件明細書の記載によれば、本件発明の技術分野、背景技術、本件発明の効果は、以下のとおり認められる。なお、本項に挙げた本件明細書の段落のうち、実施例及び比較例の樹脂組成物の製造方法に関して記載した段落並びにこれらの樹脂組成物又は樹脂組成物を成形して得られたフィルムの特性の試験方法に関して記載した段落につい
5 ては、別紙2において当該段落の記載を挙げていないものもある。ア 技術分野本発明は、耐熱性透明材料として好適な熱可塑性樹脂組成物と、当該組成物からなる樹脂成形品ならびに樹脂成形品の具体的な一例である偏光子保護フィルムとに関するものである。(段落【0001】)イ 背景技術アクリル樹脂は、紫外線を含む光に曝されると黄変して透明度が低下することがあり、これを防ぐ方法として、紫外線吸収剤(UVA)を添加する方法が知られている。しかし一般的なUVAでは、UVAを添加したアクリル樹脂組成物を成形する際に発泡が生じたり、UVAがブリードアウトしたりすることがある。樹脂あるいは樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)が高くなると、より高い成形温度が必要となる。このため、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂にUVAを添加すると、得られた樹脂成形品に発泡やUVAのブリードアウトが生じやすい。これらの問題を考慮し、従来、少量の添加により高い紫外線吸収効果が得られるとされるトリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物及びベンゾフェノン系化合物が、UVAとして、アクリル樹脂と組み合わせて用いられてきた。(段落【0002】~【0006】)ウ 発明が解決しようとする課題しかしながら、これらの化合物は、主鎖に環構造を有し、ガラス転移温度(Tg) が高いアクリル樹脂との相溶性に課題が残り、また、高温での成形時における発泡、ブリードアウトの発生の抑制も必ずしも十分であるとはいえず、アクリル樹脂の成形温度が高くなると、発泡およびブリードアウトが発生しやすくなるとともに、UVAの蒸散に伴う問題(得られた樹脂成形品における紫外線吸収能の低下、蒸散したUVAによる成形装置の汚染)が生じやすくなる。(段落【0007】)
5 本件発明は、アクリル樹脂とUVAとを含む樹脂組成物であって、Tgの高さに基づく優れた耐熱性を有しながら、高温での成形時においても、発泡、ブリードアウトなどの発生が抑制され、UVAの蒸散による問題の発生を低減できる樹脂組成物を提供することを目的とする。(段落【0008】)エ 課題を解決するための手段本件発明の樹脂組成物は、ラクトン環構造などの環構造を主鎖に有する熱可塑性アクリル樹脂と、「トリアジンと、トリアジンに結合した3つのヒドロキシフェニル基とからなる骨格((2-ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン骨格)」であるヒドロキシフェニルトリアジン骨格(本件ヒドロキシフェニルトリアジン骨格)を有する、分子量が700以上のUVAと、を含み、110℃以上のTgを有することを、技術的特徴とするものである。(段落【0009】)オ 本件発明の効果本件発明の樹脂組成物は、110℃以上という高いTgに基づく優れた耐熱性を示すとともに、高温での成形時においても発泡、ブリードアウトの発生が抑制され、UVAの蒸散による問題の発生が少ない。(段落【0015】)カ 発明を実施するための形態UVAの分子量は700以上であり、800以上が望ましく、900以上がより好ましい。UVAは2種以上の化合物の混合物であってもよく、主成分である化合物の分子量が700以上であればよい。本件明細書における主成分とは、最も含有量(含有率)が多い成分を意味し、その含有率は典型的には50%以上である。(段落【0061】、【0063】)本件明細書には、実施例1ないし5として、本件発明に係る熱可塑性樹脂組成物として、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂(A-1)
5 とUVAとを含み、当該UVAとして、「本件明細書において式(8)として示された、本件ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有するUVA(分子量958)を主成分とし、分子量773及び分子量1142のUVAを副成分とするCGL777MPA」(段落【0175】)を含み、Tgが122~128℃である樹脂組成物が示されている。(段落【0170】~【0189】)また、本件明細書には、比較例に係る熱可塑性樹脂組成物として、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂(A-5)とUVAとを含み、当該UVAとして、「ベンゾトリアゾール骨格を有するUVA(アデカスタブLA-31、分子量659)」(比較例1及び比較例2)、「ベンゾトリアゾール骨格を有するUVA(Sumisorb300、分子量315)」(比較例3)、又は、「トリアジンにヒドロキシフェニル基が1つ結合した骨格を有するUVA(CGL479(TINUVIN479)、分子量676)」(比較例4)を含む、樹脂組成物が示されている。(段落【0190】~【0198】)本件明細書には、これらの樹脂組成物を用いて、樹脂組成物自体の特性(ガラス転移温度、発泡性、飛散性)、及び、樹脂組成物を成形して得られたフィルムの特性(透過率(%,380nm)、透過率(%,500nm)、昇華性、濁度変化量)について、試験した結果が示されている(段落【0156】~【0170】、【0199】~【0202】、【表1】)。本件明細書には、表1に示される結果について、「表1に示すように、実施例の樹脂組成物では、高いガラス転移温度、紫外線吸収能および可視光透過性を実現しながら、成形時におけるUVAの昇華性および飛散性を比較例に比べて抑制できた。また、実施例の樹脂組成物では、成形時の発泡の発生が抑制された。実施例の樹脂組成物から作製した樹脂フィルムの濁度変化量は、比較例(比較例1を除く)の樹脂組成物から作製した樹脂フィルムに比べて小さ
5 かった。実施例の樹脂組成物から作製した樹脂フィルムでは、比較例に比べて、フィルム成形後の熱によるUVAのブリードアウトが抑制されたと考えられる。」と記載されている(段落【0203】、【0204】)。
2 取消事由1(審理不尽)について原告は、取消事由1として本件審決の審理不尽を主張するが、その実質は甲1に記載された発明の認定の誤りを主張するものと解されるので、以下、甲1に記載された発明について検討し、これを基に取消事由1が認められるか否かを検討する。⑴ 甲1の記載甲1には、別紙3「甲1の記載」のとおりの記載がある。⑵ 甲1に記載された発明についてア 甲1に記載された発明は、優れた紫外線吸収能力を有するとともに、優れた耐熱性、優れた光学的透明性を有する偏光子保護フィルムを提供することを解決しようとする課題の一つとするものであり(段落[0006])、当該課題を解決するための手段として、(メタ)アクリル系樹脂を主成分として含み紫外線吸収剤をも含む偏光子保護フィルムであって、該偏光子保護フィルムの厚み80μmにおける380nmでの光線透過率が30%以下であり、該偏光子保護フィルムのTgと該紫外線吸収剤を含まない以外は該偏光子保護フィルムと同じフィルムのTgの差が3℃以内、厚み80μmにおけるYIが1.3以下であることが記載されている(段落[0007])。甲1には、偏光子保護フィルムの厚み80μmにおける380nmでの光線透過率が30%を超えると、十分な紫外線吸収能力を発揮できないおそれがあること(段落[0033])、偏光子保護フィルムのTgと紫外線吸収剤を含まない以外は偏光子保護フィルムと同じフィルムのTgの差が3℃を超えると、優れた耐熱性が発揮できないおそれがあること(段落
5 [0034])、偏光子保護フィルムの厚み80μmにおけるYIが1.3を超えると、優れた光学的透明性が発揮されないおそれがあること(段落[0035])が記載されている。イ 甲1には、紫外線吸収剤として、トリアジン系紫外線吸収剤である「チヌビン1577」、及び、トリアゾール系紫外線吸収剤である「アデカスタブLA-31」を使用し、ラクトン環含有アクリル系樹脂を用いて作製した、実施例1ないし4及び比較例1ないし3の厚さ80μmの偏光子保護フィルムについて、ガラス転移温度(Tg)、全光線透過率、380nmの光線透過率、YI値などの特性を評価した結果が示されている(別紙3の[表1]のとおり。)。当該結果によれば、紫外線吸収剤が配合されたフィルムである実施例1ないし4並びに比較例1及び2は、いずれも「380nmの光線透過率は30%以下」という条件を満たすものであるが、このうち「Tgの差が3℃以内」との条件及び「YIが1.3以下」との条件を満たすのは、実施例1ないし4だけである。ウ 甲1において、偏光子保護フィルムは(メタ)アクリル系樹脂及び紫外線吸収剤を含む樹脂組成物から形成されるところ(段落[0054])、甲1の請求の範囲には、請求項1において、「(メタ)アクリル系樹脂を主成分として含み紫外線吸収剤をも含む偏光子保護フィルムであって、該偏光子保護フィルムの厚み80μmにおける380nmでの光線透過率が30%以下であり、該偏光子保護フィルムのTgと該紫外線吸収剤を含まない以外は該偏光子保護フィルムと同じフィルムのTgの差が3℃以内、厚み80μmにおけるYIが1.3以下である、偏光子保護フィルム。」と記載され、該偏光子保護フィルムの厚み80μmにおける380nmでの光線透過率が30%以下(本件審決にいう「要件a」)、該偏光子保護フィルムのTgと該紫外線吸収剤を含まない以外は該偏光子保護フィルムと同
5 じフィルムのTgの差が3℃以内(本件審決にいう「要件b」)、(該偏光子保護フィルムの)厚み80μmにおけるYIが1.3以下(本件審決にいう「要件c」)という特性を有するものであることが特定されている。また、請求項2においては、「前記(メタ)アクリル系樹脂が、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂である、請求項1に記載の偏光子保護フィルム。」と記載されており、請求項1に記載された発明における(メタ)アクリル系樹脂について、甲1の実施例において使用するラクトン環含有アクリル系樹脂であることが特定されている。エ 以上によれば、甲1には、本件審決が認定した甲1発明A(前記第2の4⑴)が記載されていると認められる。また、甲1には、実施例1の偏光子保護フィルムの作製に関する記載の箇所などに樹脂組成物の製造方法に関する記載が存在すると認められるから、甲1には、本件審決が認定した、樹脂組成物の製造方法の発明である甲1発明B(前記第2の4⑴)も記載されていると認められる。⑶ 甲1に記載された発明の認定に関する原告の主張について原告は、前記第3の1〔原告の主張〕のとおり、甲1に記載された発明の認定として要件aないしcを考慮すべき理由は無く、「主引用発明1」のとおり認定すべきであると主張する。しかし、前記⑵アのとおり、甲1には、偏光子保護フィルムの厚み80μmにおける380nmでの光線透過率が30%を超えると、十分な紫外線吸収能力を発揮できないおそれがあること(段落[0033])、偏光子保護フィルムのTgと紫外線吸収剤を含まない以外は偏光子保護フィルムと同じフィルムのTgの差が3℃を超えると、優れた耐熱性が発揮できないおそれがあること(段落[0034])、偏光子保護フィルムの厚み80μmにおけるYIが1.3を超えると、優れた光学的透明性が発揮されないおそれがあること(段落[0035])が記載されている。そして、甲1に記載された発明
5 は、紫外線吸収剤を含む樹脂組成物から形成されるフィルムが、要件aないしcを同時に満たすという効果を奏する構成のものであることをもって、「優れた紫外線吸収能力を有するとともに、優れた耐熱性、優れた光学的透明性を有する偏光子保護フィルムを提供する」(段落[0006])という技術的思想を把握することができる。また、甲1は、実施例において、紫外線吸収剤の種類や添加量を変えて適用し、要件aないしcを満たすか否か検討し、確認しているが、この点について、当業者であれば実験によって確認するまでもなくあらかじめ把握することができたとは認められない。そうすると、甲1発明Aの構成として本件審決が認定した要件aないしcは、紫外線吸収剤を含む樹脂組成物から形成されるフィルムの構成を特定する事項であるとともに、紫外線吸収剤の種類や添加量などを変更することで、樹脂組成物から形成されるフィルムがそれらの要件を同時に満たすものであるか否か検討し、確認される、「フィルムによって奏される効果」を表すものでもあり、このような紫外線吸収剤を含む樹脂組成物から形成される「フィルムによって奏される効果」でもある要件aないしcを、フィルムを形成する樹脂組成物である甲1に記載された発明の構成の一部として認定することについて問題はない。以上によれば、本件審決が、紫外線吸収剤を含む樹脂組成物から形成される「フィルムによって奏される効果」でもある要件aないしcを、甲1に記載された発明の構成として含む、甲1発明Aを認定したことは、本件発明1に示された技術的思想と対比する上で必要な限度で、甲1に示された技術的思想を表す構成について認定するものであって、不当な点は認められない。また、紫外線吸収剤を甲2に記載のトリアジン系紫外線吸収剤と認定しなかったことについては、甲1の段落[0027]におけるトリアジン系紫外線吸収剤などについての記載は、紫外線吸収剤の例を示すものにすぎないから、当該記載のみに基づき、甲1に記載された発明の構成として、「甲2に記
5 載のトリアジン系紫外線吸収剤」を含有するとの構成を、積極的、優先的に選択すべきであるとまでは認められない。そして、上記のとおり、紫外線吸収剤を含む樹脂組成物から形成される「フィルムによって奏される効果」でもある要件aないしcを、フィルムを形成する樹脂組成物である甲1に記載された発明の構成の一部として認定した上で、樹脂組成物に含まれる紫外線吸収剤について、本件審決のように単に「紫外線吸収剤」と認定しても、そのような認定に基づいて本件発明1との対比及び判断を誤りなくすることは可能であり、進歩性を判断する上での過不足があるとも認められない。そうすると、本件審決が、甲1に記載された発明に係る樹脂組成物に含まれる紫外線吸収剤について、「甲2に記載のトリアジン系紫外線吸収剤」と認定しなかったことに、誤りはない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。
⑷ 本件無効審判請求に係る審判手続に審理不尽の違法があるかア 上記⑵及び⑶のとおり、甲1に記載された発明の認定について、本件審決に誤りがあるとは認められない。したがって、本件審決における甲1記載の発明の認定に誤りがあることを根拠として、本件無効審判請求に係る審判手続に審理不尽の違法があったと認める余地はない。イ 原告は、取消事由1に関し、甲1に記載された発明に、甲2に記載の紫外線吸収剤を適用することの動機付けについての本件審決の判断が誤りであることも主張しているが、この点は、容易想到性の判断に関連する事項であるから、取消事由2において判断する。なお、仮に上記動機付けについての本件審決の判断に誤りがあったとしても、そのことをもって、本件無効審判請求に係る審判手続に審理不尽の違法があると直ちに認められることにはならず、他に上記審判手続に審理不尽の違法があることを根拠付ける事情は認められない。
5 ⑸ 取消事由1に関する結論以上によれば、本件無効審判請求に係る審判手続に審理不尽の違法があるとは認められず、取消事由1には理由がない。
3 取消事由2(本件審決の認定した引用発明に基づく進歩性判断(相違点に関する判断)の誤り)について⑴ 本件発明1と甲1発明Aとの一致点及び相違点について甲1発明Aを前記第2の4⑴のとおり認定すれば、本件発明1と甲1発明Aとの一致点及び相違点は、本件審決が認定した第2の4⑵アのとおりであると認められる。⑵ 甲2について甲2は、特表2002-543265号公報であり、甲1の段落[0027]において甲2が挙げられている。甲2には、別紙4「甲2の記載」のとおりの記載がある。この記載によれば、甲2には以下の事項が記載されていると認められる。ア 甲2は、積層品または多層構造物における接着剤層として使用するのに適当な安定化された接着剤組成物に関する発明(段落【0021】)について開示する特許出願に係る文献であり、特許請求の範囲における請求項1には、接着剤組成物に含まれるs-トリアジン紫外線吸収剤は、請求項1に記載の式I~式VIで表されるもの又はそれらの混合物であることが記載され、請求項1を引用する請求項8には、s-トリアジン紫外線吸収剤として、化合物Kに相当する「(7) 2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-イソオクチルオキシカルボニルイソプロピリデンオキシフェニル)-s-トリアジン」、化合物Oに相当する「(11) 2,4,6-トリス[2-ヒドロキシ-4-(3-第二ブチルオキシー2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]-s-トリアジン」、及び、化合物Pに相当する「(12) 2,4,6-トリス(2,4-ジヒドロキシフェニル)-s
5 -トリアジンとイソオクチルα-ブロモプロピオネートとの反応により製造される混合物」を含む、12種類の化合物が記載されている。イ 甲2には、明細書の発明の詳細な説明において、上記12種類の化合物のうち、化合物K及び化合物Pを含む4種類の化合物が好ましいものであること(段落【0029】)が記載されており、また、トリアジン系紫外線吸収剤は、製品の接着剤層中だけでなく、ポリマーフィルムなどの製品の他の層に直接混入される場合にも、同様に利点がある紫外線吸収保護が前記製品に行われること(段落【0059】)についても記載されている。ウ 甲2には、化合物K、O、Pを含む上記12種類の化合物の化学構造式も記載されているところ(段落【0028】)、それらの化学構造式によると、本件審決第6の2⑴イ(イ)に認定されているとおり、化合物K、O、Pはいずれも、本件ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有するものであり、かつ、その分子量は700以上のものである。エ 甲2には、実施例1において、複数の紫外線吸収剤の紫外線吸収能が示されており(段落【0067】、【0068】、【表1】)、トリアジン系紫外線吸収剤に対するモル吸収値は、比較のために示された典型的なベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤及びベンゾフェノン系紫外線吸収剤のいずれの値よりも非常に大きいと記載されている(段落【0067】)。オ 甲2には、理想的な紫外線吸収剤は、特に350nmないし400nmの紫外線範囲に渡って、非常に光安定で且つ強い吸収を有するべきであると記載されている(段落【0004】)ところ、【表1】によれば、λmax(最大吸収波長)は、化合物Kが波長359nmに、化合物Oが波長358nmに、それぞれ有するものとされている。また、ある物質が光を吸収する度合いを定量的に表す指標であるモル吸光係数は、その値が大きいほど光の吸収能が高いことを示すところ、甲2の【表1】によれば、トリアジン系紫外線吸収剤である化合物F、K、N、
5 Oの4種類の化合物は「350nmないし400nmの紫外線範囲」にλmaxを有しており、このうち化合物K及び化合物Oは、化合物F及び化合物Nよりも、モル吸光係数が大きい数値となっていることから、化合物K及び化合物Oは紫外線の吸収能が高いことが理解できる。なお、【表1】には、化合物Pについてのλmax、モル吸光係数の値は示されていない。⑶ 甲1発明Aに甲2の紫外線吸収剤を適用することの動機付けの有無についてア(ア) 前記⑵のとおり、甲1の段落[0027]に甲2の公表特許公報が挙げられている。そして、その記載は、「上記紫外線吸収剤としては、例えば、本発明に適した任意の紫外線吸収剤を選択できる。例えば、特開2001-72782号公報や特表2002-543265号公報に記載の紫外線吸収剤が挙げられる。」というものである。この記載によれば、甲1には、甲2に記載されている紫外線吸収剤を甲1の偏光子保護フィルムに用いることの示唆があり、かつ、甲2に記載されている紫外線吸収剤を「本発明に適した・・・紫外線吸収剤」と記載しているということができる。(イ) 甲2は、接着剤組成物に関する発明(段落【0021】)について開示する特許出願に係る文献であり、接着剤組成物は、接着剤と、高溶解性、高モル吸光性および光安定の、【請求項1】に挙げられた式I、II、III、IV、VまたはVIで表されるs-トリアジン紫外線吸収剤又はそれらの混合物とからなるものであるとされており、甲2にはトリアジン系紫外線吸収剤について記載が存在する。そして、当該請求項1を引用する請求項8には、トリアジン系紫外線吸収剤として、化合物K、O、Pを含む12種類の化合物が記載され、段落【0029】には、上記12種類の化合物のうち、化合物K及び化合物Pを含む4種類の化合物が好ましいものであることが記載されている。甲2には、化合物K、O、
5 Pを含む上記12種類の化合物の化学構造式も記載されており、当業者であれば、化合物K、O、Pが、いずれも本件ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有するものであり、かつ、その分子量は700以上のものであることを理解するといえる。また、甲1発明Aは、該樹脂組成物を厚さ80μmの偏光子保護フィルムに成形した場合に、該偏光子保護フィルムの厚み80μmにおける380nmでの光線透過率が30%以下となる(要件a)樹脂組成物であるが、甲2の【表1】によれば、甲2で開示されている化合物K、Oは、350nmないし400nmの紫外線範囲にλmax(最大吸収波長)を有し、かつ、モル吸光係数が大きい数値となっていて、紫外線の吸収能が高いことが理解できるものである。(ウ) 前記2⑵エ及び前記第2の4⑴のとおり、甲1発明Aは、該樹脂組成物を厚さ80μmの偏光子保護フィルムに成形した場合に、この偏光子保護フィルムが要件aないしcを満たすものとなる、すなわち、該偏光子保護フィルムの厚み80μmにおける380nmでの光線透過率が30%以下であり、該偏光子保護フィルムのTgと該紫外線吸収剤を含まない以外は該偏光子保護フィルムと同じフィルムのTgの差が3℃以内、厚み80μmにおけるYIが1.3以下となる、樹脂組成物である。そうすると、仮に、ある紫外線吸収剤について、これを用いて樹脂組成物を製造し、この樹脂組成物から偏光子保護フィルムを作製した場合に、当該偏光子保護フィルムが要件aないしcの全てを同時に満たすことがないと当業者が認識するものであれば、当業者はこの紫外線吸収剤を甲1発明Aに適用することの動機付けを持たないということができる。しかし、上記のとおり、甲1において、甲2に記載されている紫外線吸収剤を「本発明に適した・・・紫外線吸収剤」とする記載があり、か
5 つ、甲2において、化合物K、O、Pを含む12種類のトリアジン系紫外線吸収剤が具体的に開示され、その中でも化合物K、Pを含む4種類が好ましいとされ、化合物K、Oについて紫外線の吸収能が高いことが理解されるとの事情の下においては、当業者は、甲2に記載されたトリアジン系紫外線吸収剤である化合物K、O、Pについて、これらの紫外線吸収剤のいずれかを甲1発明Aに適用した場合、要件aないしcの全てを満たす可能性があると認識し、当業者がこれらの紫外線吸収剤を甲1発明Aに適用する動機付けがあると認められる。(エ) なお、甲1には、「本発明においては、紫外線吸収剤は1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。」(段落[0027])と記載されており、また、甲1の段落[0129]、[表1]において、実施例1ないし4がいずれもトリアジン系紫外線吸収剤とトリアゾール系紫外線吸収剤とを併用するものであることを踏まえると、甲1発明Aの紫外線吸収剤として化合物K、O、Pを適用することについては、そのいずれかの紫外線吸収剤を単独で適用すること、及び他の紫外線吸収剤との併用で適用することの、いずれも動機付けられるということができる。そして、本件明細書において、「UVA(B)は2種以上の化合物の混合物であってもよく、この場合、主成分である化合物の分子量が700以上であればよい。なお、本件明細書における主成分とは、最も含有量(含有率)が多い成分を意味し、その含有率は典型的には50%以上である。」(段落【0063】)と記載されているとおり、本件発明1の樹脂組成物も、そこに含まれる「本件ヒドロキシフェニル骨格を有し、分子量700以上である紫外線吸収剤」は、1種類を単独で含む場合に限られず、主成分(50%以上)であれば他の紫外線吸収剤との併用で含むことも妨げられない。したがって、甲1発明Aに、化合物K、Oのいずれかの紫外線吸収剤と、他の紫外線吸収剤を併用して適用した場合でも、
5 化合物K、Oが主成分(50%以上)であれば、本件発明1の構成を優に満たすものとなり得る。また、化合物Pは混合物であるが(甲2の段落【0068】)、化合物Pと、他の紫外線吸収剤を併用して適用した場合でも、分子量700以上の本件ヒドロキシフェニル骨格を有する化合物が主成分(50%以上)であれば、本件発明1の構成を優に満たすものとなり得る。(オ) 以上によれば、甲1発明Aに甲2の紫外線吸収剤を適用することについては動機付けがあるものと認められる。イ 本件審決は、前記第2の4⑵イのとおり、①甲2に記載されるいずれの紫外線吸収剤が甲1の偏光子保護フィルムに「適した」ものであるかを、当業者が直ちに認識し得るとは認められないから、甲1には、甲2に記載される紫外線吸収剤のいずれかを選択して甲1発明Aに適用する動機付けがない(前記第2の4⑵イ(ア))、②甲2には、甲2に記載される紫外線吸収剤が甲1に「適した」ものであることや、甲2に記載される紫外線吸収剤が甲1の要件a~cを同時に満たすものであることを当業者が認識するような記載や示唆はなく、甲2には、甲2に記載されている紫外線吸収剤のいずれかを選択して甲1発明Aに適用する動機付けがない(同(イ))、③甲1発明Aの要件a、要件b及び要件cの関係性について確認すると、フィルムの紫外線吸収性能に関する要件aと黄変度に関する要件cとは、一方の性能を高めようとすると他方の性能が連動して劣るようになる、トレードオフの関係であることがうかがえ、また、フィルムの紫外線吸収性能に関する要件aとTgに関する要件bも、一方の性能を高めようとすると他方の性能が紫外線吸収剤の種類や量により連動して劣るようになる、トレードオフの関係であることがうかがえるものであり、甲1、甲2その他の証拠には、甲2に記載される化合物K、O、Pが、甲1の要件a~cを同時に満足することは記載も示唆もされていないといえるから、甲2に
5 記載される化合物K、O、Pが、甲1の要件a~cを満足することを、本件優先日前に当業者が技術常識に基づいて認識し得たとはいえず、甲2に記載される化合物K、O、Pを選択して甲1発明Aに適用する動機付けはない(同(ウ))、④甲1発明Aの紫外線吸収剤の選択にあたり、フィルム製造時のロール汚れを発生しにくくする観点から、融点が110℃以上の紫外線吸収剤を選択することが好ましいものであるところ(甲1の段落[0027])、甲2の化合物Kの融点は55~56℃、化合物Pの融点は-20℃であるから、甲2に記載される化合物K、Pを甲1発明Aに適用する動機付けはない(同(エ))と判断している。しかし、①については、前記ア(ア)のとおり、甲1の段落[0027]の記載は、甲2に記載された紫外線吸収剤を甲1に記載された発明に適したものとして挙げているといえる。その上で、前記ア(イ)のとおりの内容が甲2において開示されていることを考慮すれば、少なくとも甲2に記載された化合物K、O、Pを甲1発明Aに適用することについて、①で本件審決が述べる事情があるために当業者が動機付けを有しないことになるとは解されない。②については、甲2において甲2に記載された紫外線吸収剤が甲1に記載された発明に適したものであるとの記載がないとしても、甲1の段落[0027]に上記趣旨の記載が存在することは前記ア(ア)のとおりである。また、前記ア(イ)のとおりの内容が甲2において開示されていることからすれば、当業者は、甲2に記載された紫外線吸収剤である化合物K、O、Pについて、これを用いて樹脂組成物を製造し、この樹脂組成物から偏光子保護フィルムを作製した場合に、当該偏光子保護フィルムが要件aないしcの全てを同時に満たす可能性があると認識し、これらの紫外線吸収剤を甲1発明Aにおける紫外線吸収剤として適用し、その場合に得られる樹脂組成物を用いて作製されるフィルムが実際に要件aないしcを満たす
5 ものとなるか否かという、フィルムによって奏される効果について確認・検討することが動機付けられるといえるのであって、要件aないしcを確実に同時に満たすものであると認識して初めて動機付けがあることになるとは解されない。③についても、甲2に記載された化合物K、O、Pについて、これを用いて樹脂組成物を製造し、この樹脂組成物から偏光子保護フィルムを作製した場合に、作製されるフィルムが要件aないしcを同時に満たすものと当業者が認識することができて初めて動機付けがあることになるものではない。なお、要件aと要件cとの関係については後記⑷アのとおり、要件aと要件bとの関係については後記⑷イのとおりである。④については、本件審決が言及する「フィルム製造時のロール汚れの発生防止」は、甲1に記載されている発明が解決しようとする課題(段落[0006])に挙げられていないから、甲1において、フィルム製造時のロール汚れの防止の観点から融点が110℃以上の紫外線吸収剤を選択することが好ましいとの記載が存在するとしても、そのことをもって、融点が110℃未満の紫外線吸収剤を甲1発明Aに適用することの動機付けがないとか、これを適用することについて阻害要因があると認められることには直ちにならない。甲1の段落[0029]において、甲1に記載された発明に用いることのできるトリアゾール系紫外線吸収剤として挙げられたもののうち、「2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール」、「メチル3-(3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート/ポリエチレングリコール300の反応生成物」、及び「2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(直鎖および側鎖ドデシル)-4-メチルフェノール」は、いずれも融点が110℃未満である(甲6~8)。
5 したがって、本件審決が上記①ないし④のとおり判断した内容は、いずれも、当業者が、甲2に記載されたトリアジン系紫外線吸収剤である化合物K、O、Pを甲1発明Aに適用する動機付けがないことの根拠とはならない。⑷ 被告の主張についてア(ア) 被告は、前記第3の2〔被告の主張〕⑴アないしカのとおり、甲1発明Aが要件a及び要件cを満たすものであることとの関係で、当業者が甲1発明Aに化合物K、O、Pを採用する動機付けはなく、むしろ阻害要因があると主張する。(イ) しかし、甲1の要件a及びcはいずれも、紫外線吸収剤自体の特性ではなく、紫外線吸収剤を含む樹脂組成物から形成されるフィルムについての特性であるから、甲2に記載の化合物Pなどの紫外線吸収剤それ自体が、380nmを超える波長域においても紫外線吸収の効力があることや、350ないし400nmの紫外線範囲に渡って強い吸収を有することは、そのような紫外線吸収剤を含む樹脂組成物から形成されるフィルムが直ちに、要件aと要件cを同時に満たすことはあり得ないことまで意味するものではない。(ウ) 被告が前記第3の2〔被告の主張〕⑴エにおいて挙げる甲37は、本件優先日前に公知となった文献ではない。また、この点を措くとしても、可視光に近い波長の紫外線吸収と可視光吸収とを独立して調節することはできないからといって、甲1発明Aの紫外線吸収剤として化合物K、O、Pを適用すると、要件aと要件cを両立できないことが、本件優先日当時の当業者に理解されていたことを意味することにはならない。(エ) 乙1実験報告書の結果は、紫外線吸収剤を含まない樹脂組成物から形成される厚み80μmフィルムのYI値が0.99を示すという、特定の樹脂組成物を用いて、これに甲2の化合物Pに相当するCGL777
5 MPAという特定の紫外線吸収剤(CGL777MPAが化合物Pに相当するものであることは、当事者間に争いがない。)を単独で添加するという、限られた条件の下において、添加量を調整しても要件aと要件cは両立しないことを示すものにすぎない。紫外線吸収剤を含む樹脂組成物から作製されるフィルムの透明性やYI値は、樹脂組成物に含まれる紫外線吸収剤の種類だけが影響するものではなく、紫外線吸収剤の添加量や、使用する樹脂の種類、紫外線吸収剤以外の添加剤の種類や添加量などによっても左右されるものである。このことは、甲1において、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂の全光線透過率(透明性)が一様ではないことの記載(段落[0025])、フィルムを形成する樹脂組成物中に含まれる位相差低減剤の添加量が多い場合には透明性が損なわれることの記載(段落[0055])が存在するとおり、当業者の技術常識であると認められる。甲1の段落[表1]に記載された実施例1ないし3及び比較例1ないし3の偏光子保護フィルムに用いられたアクリル樹脂は、紫外線吸収剤を添加せずに偏光子保護フィルムを作製した場合のYI値が0.95であり(比較例3)、乙1実験報告書で用いられたアクリル樹脂に紫外線吸収剤を添加せずに偏光子保護フィルムを作成した場合のYI値0.99に近接しているものの、甲1において、アクリル樹脂として実施例1ないし3及び比較例1ないし3で用いた特定のもののみしか使用できないとはされていない。そうすると、特定の条件の下で実施した実験に関する乙1実験報告書に、当該実験の結果としては紫外線吸収剤の添加量を調整しても要件aと要件cは両立できないことが示された旨の記載があるからといって、甲1発明Aの樹脂組成物に甲2に記載の紫外線吸収剤である化合物Kや化合物Oをどのように適用しても要件aと要件cが両立しないことを意味するものではない。この点、前記第3の2〔被告の
5 主張〕⑴カの主張は、甲1で用いるアクリル樹脂が、実施例1ないし3及び比較例1ないし3で用いた特定のアクリル樹脂に限られることを前提とする主張であるといえるが、甲1にはこの前提とされた事情を認める根拠となる記載はなく、採用することができない。また、前記⑶ア(エ)のとおり、甲1発明Aにおける紫外線吸収剤の適用は、「他の紫外線吸収剤との併用で」行うことも妨げられないところ、乙1実験報告書において、それ単独では添加量を調整しても要件a及び要件cを同時に満たさなかったとされる化合物Pを甲1発明Aに適用する場合についても、甲1の実施例のように、混合物である化合物Pに含まれる、分子量700以上の本件ヒドロキシフェニル骨格を有する化合物が主成分(50%以上)となるように、YI値への影響が小さい他の紫外線吸収剤と併用すれば、化合物Pと他の紫外線吸収剤の紫外線吸収能によって要件aが満たされ、同時に、YI値への影響が小さい他の紫外線吸収剤によって化合物Pの添加量を単独で適用する場合よりも減らすことができるために要件cも満たされ、その結果、要件aと要件cが両立できる可能性があることについて、当業者は理解することができるといえる。そして、化合物Pに含まれる、分子量700以上の本件ヒドロキシフェニル骨格を有する化合物が主成分(50%以上)であれば、他の紫外線吸収剤との併用であっても、本件発明1の構成を優に満たすものとなり得る(前記⑶ア(エ))。(オ) そして、甲1に、甲2に記載されている紫外線吸収剤を「本発明に適した・・・紫外線吸収剤」であるとする記載が存在すること(前記⑶ア(ア))、甲2には、化合物K、Pを含む4種類の化合物が好ましいものであるとする記載があり、甲2の【表1】によれば、化合物K、Oは、350nmないし400nmの紫外線範囲にλmaxを有し、かつ、モル吸光係数の値が大きいことから、紫外線の吸収能が高いことが理解でき
5 るものであること(同(イ))といった事情の下では、当業者は、甲2に記載された化合物K、O、Pについて、これらのうちいずれかの紫外線吸収剤を用いて樹脂組成物を製造し、この樹脂組成物から偏光子保護フィルムを作製した場合に、作製されるフィルムが要件aないしcを満たす可能性があると認識し、これら三つの化合物を甲1発明Aにおける紫外線吸収剤として適用し、作製されるフィルムが要件aないしcを満たすか否かを確認・検討する動機付けがあるといえるのであって、作製されるフィルムが要件aないしcを同時に満たすものと当業者が認識しなければ、これらの紫外線吸収剤を甲1発明Aに適用する動機付けがないというものではない。(カ) 化合物Pがオレンジ色を呈しており、これを単独で紫外線吸収剤として樹脂組成物に添加して作製されるフィルムは、化合物Pを添加しない場合と比べれば、甲1における比較例1ないし3により示されるように、そのYI値は上昇し得るとしても、化合物Pは、その化学構造や分子量から化合物K、Oと同様に紫外線吸収能が高いと解されるため、その使用量を抑えることができる。また、前記⑶ア(エ)のとおり、甲1発明Aにおける紫外線吸収剤の適用は、他の紫外線吸収剤との併用で行うことも妨げられないところ、化合物PをYI値への影響が小さい他の紫外線吸収剤と併用することで、化合物Pの使用量をさらに抑えることができ、化合物Pを単独で使用する場合よりもYI値の上昇は少なくなると理解される。さらに、前記(エ)のとおり、紫外線吸収剤を含む樹脂組成物から作製されるフィルムの透明性やYI値は、樹脂組成物に含まれる紫外線吸収剤の種類だけが影響するものではなく、紫外線吸収剤の添加量や、使用する樹脂の種類、紫外線吸収剤以外の添加剤の種類や添加量などによっても左右されるものである。以上を勘案すると、化合物Pを甲1発明Aの紫外線吸収剤として適用
5 すると、YI値が上昇することによって、甲1発明Aの樹脂組成物を用いて作製されるフィルムが要件aと要件cを同時に満たすことがないと認めるに足りず、当業者が、上記適用をすると要件aと要件cを同時に満たすことがないと理解するとも認められず、化合物Pがオレンジ色を呈していることをもって、当業者が化合物Pを甲1発明Aに適用する動機付けがないことにはならない。仮に、化合物K、Oが同じくオレンジ色を呈しているとしても、同様の結論となる。(キ) 以上によれば、前記第3の2〔被告の主張〕⑴アないしカの各主張を検討しても、甲1発明Aが要件a及び要件cを満たすものであることとの関係で、当業者が甲1発明Aに化合物K、O、Pを採用することについて動機付けがあることは否定されず、また、これについて阻害要因があると認めることもできない。イ(ア) 被告は、前記第3の2〔被告の主張〕⑵アのとおり、甲1の段落[0027]の「本発明において特に好ましくは、トリアジン系紫外線吸収剤とトリアゾール系紫外線吸収剤を併用することである。」との記載と、表1における実施例と比較例の対比から、トリアジン系紫外線吸収剤とトリアゾール系紫外線吸収剤を併用することが優れており、併用しない場合、トリアジン系紫外線吸収剤のみを用いる場合(比較例1)は、トリアゾール系紫外線吸収剤のみを用いる場合(比較例2)よりも、Tgの差が大きく、YI値、b値のいずれも高く光学的透明性に劣ると理解できるから、耐熱性や光学的透明性の点で劣るトリアジン系紫外線吸収剤のみに着目して、これを甲2に示される別のトリアジン系紫外線吸収剤に置き換えてみようとする動機付けはない、と主張する。しかし、甲1の段落[0027]には、「本発明においては、紫外線吸収剤は1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。本発明において好ましく用いられ得る紫外線吸収剤として、トリアジン系紫外線
5 吸収剤とトリアゾール系紫外線吸収剤が挙げられる。」と記載されており、甲1に記載された発明における紫外線吸収剤として、トリアジン系紫外線吸収剤を単独で適用できることが記載されている。比較例1が比較例2よりもTgの差が大きく、YI値等が高い結果が出ているとしても、トリアジン系紫外線吸収剤のみを添加した場合の方が常にトリアゾール系紫外線吸収剤を添加した場合よりも作製される偏光子保護フィルムの耐熱性や透明性が低い結果となるとはいえず、そのような趣旨の記載が甲1に存在するとも認められない。これらのことからすれば、被告が挙げる事情をもって、甲1発明Aの紫外線吸収剤としてトリアジン系の化合物K、O、Pを単独で適用する動機付けがないとは認められない。また、上記のとおり、甲1の段落[0027]には、甲1に記載された発明における紫外線吸収剤は、2種類以上を併用できることも記載されており、かつ、甲1の実施例において、トリアジン系紫外線吸収剤を50%以上でトリアゾール系紫外線吸収剤と併用して(実施例1、2及び4)、甲1の要件a~要件cを同時に満たすことを検討し、確認した結果も示されていることを踏まえれば、甲1発明Aにおける紫外線吸収剤として、甲2において紫外線吸収能が高いことが示されているトリアジン系紫外線吸収剤である化合物Kや化合物Oを主成分(50%以上)とし、トリアゾール系紫外線吸収剤と併用して、要件aないしcを満たすか否か検討し、確認することは、より一層、当業者に動機付けられるといえる。そして、前記⑶ア(エ)のとおり、本件発明1の樹脂組成物も、そこに含まれる「本件ヒドロキシフェニル骨格を有し、分子量700以上である紫外線吸収剤」は、1種類を単独で含む場合に限られず、主成分(50%以上)であれば他の紫外線吸収剤との併用で含むことも妨げられないから、甲1発明Aに、化合物K、O、Pのいずれかの紫外線吸収剤と、他の紫外線吸収剤を併用して適用した場合でも、化合物K、Oが
5 主成分(50%以上)であれば、あるいは混合物である化合物Pに含まれる分子量700以上の本件ヒドロキシフェニル骨格を有する化合物が主成分(50%以上)であれば、本件発明1の構成を優に満たすものとなり得る。したがって、被告の上記主張は採用することができない。(イ) 被告は、前記第3の2〔被告の主張〕⑵イのとおり、紫外線吸収剤を多量に添加すれば紫外線吸収機能は向上するものの、ガラス転移温度(Tg)が大きく低下してしまい(甲55~58)、また、甲1によれば、紫外線吸収剤の違いによりTgの低下の度合いに差があることが明らかであるから、要件aと要件bを両立するには、適切な紫外線吸収剤を用いる必要があるといえ、要件aと要件bを両立できるか否かが不明な化合物K等を甲1発明Aに適用する動機付けがないと主張する。しかし、前記ア(オ)のとおり、本件の具体的事情の下においては、当業者は、甲2に記載された化合物K、O、Pについて、これらのうちいずれかの紫外線吸収剤を用いて樹脂組成物を製造し、この樹脂組成物から偏光子保護フィルムを作製した場合に、作製されるフィルムが要件aないしcを満たす可能性があるとするのであれば、これらの化合物を甲1発明Aにおける紫外線吸収剤として適用し、作製されるフィルムが要件aないしcを満たすか否かを確認・検討する動機付けがあるといえるから、化合物K、O、Pが要件aと要件bを両立できるか不明であることをもって、これらの紫外線吸収剤を甲1発明Aに適用する動機付けがないことにはならない。したがって、被告の上記主張は採用することができない。ウ 被告は、前記第3の2〔被告の主張〕⑶のとおり、甲1の記載に接した当業者は、甲1におけるトリアジン系紫外線吸収剤としては、単に「優れた紫外線吸収能力」を有するというだけではなく、甲1の目的を達成する
5 ため「優れた耐熱性、優れた光学的透明性」を有し、さらに、「加熱溶融加工時の揮発が少なくフィルム製造時のロール汚れも発生しにくい」という性質を有していなければならないと理解するところ、融点が130℃を大幅に下回る化合物K、O、Pを積極的に用いる動機付けは存在せず、むしろ、これらの化合物を用いた場合には、「加熱溶融加工時の揮発が少なくフィルム製造時のロール汚れも発生しにくい」という甲1発明Aの目的が達成できなくなるため、阻害要因が存在すると主張する。しかし、前記⑶イのとおり、フィルム製造時のロール汚れの発生防止は、甲1に記載されている発明が解決しようとする課題(段落[0006])に挙げられておらず、甲1において、フィルム製造時のロール汚れの防止の観点から融点が110℃以上の紫外線吸収剤を選択することが好ましいとの記載が存在するとしても、そのことをもって、融点が110℃未満の紫外線吸収剤を甲1発明Aに適用することの動機付けがないとか、これを適用することについて阻害要因があると認められることには直ちにならない。そして、甲1の段落[0029]には、甲1に記載された発明に用いることのできるトリアゾール系紫外線吸収剤として、融点が110℃未満であるものも挙げられている(甲6~8)。そうすると、甲2の化合物K、O、Pの融点が130℃未満であることをもって、これらの紫外線吸収剤を甲1発明Aに適用することの動機付けがないとか、これを適用することについて阻害要因があると認められることにはならない。したがって、被告の主張は採用することができない。
⑸ 取消事由2に関する結論以上によれば、甲1発明Aにおいて、熱可塑性樹脂組成物に含まれる紫外線吸収剤について、本件ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有する、分子量が700以上の紫外線吸収剤を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであると認められ、これを容易に想到し得ないから、相違点に係る本
5 件発明1の構成を採用することは当業者が容易に想到し得たものではないとした本件審決の判断(前記第2の4⑵イ)には誤りがあると認められ、取消事由2は理由がある。
4 取消事由3(本件発明の効果に関する判断の誤り)について⑴ 本件審決は、本件発明1が甲1発明A及び甲2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないとの判断の中で、本件発明1が奏する効果が、当業者が甲1及び甲2から予測し得たものといえないとの判断をしている(前記第2の4⑵ウ)。本件発明1の効果が予測できないものであるかについては、本件優先日当時、本件発明1の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかったものか否か、当該構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点から検討すべきである(最高裁平成30年(行ヒ)第69号令和元年8月27日第三小法廷判決・裁判集民事262号51頁参照)。⑵ 濁度変化量についてア 本件審決は、本件発明1の効果の中でも特に、フィルムからブリードアウトした紫外線吸収剤の量の程度を示す濁度変化量が「0」(零)であることは、甲1及び甲2の記載事項から、当業者が予測し得たものではなく、甲4の記載からも予測し得ないものであると判断した(前記第2の4⑵ウ)。また、被告は、前記第3の3〔被告の主張〕において、本件発明が奏する効果である「ブリードアウト」の抑制は、当業者が本件発明の構成が奏するものとして予測することができない効果であると主張する。そこで、以下、濁度変化量に関し、本件優先日当時において、本件発明1の効果が予測できないものであったか否かについて検討する。イ 本件明細書において、実施例1ないし5及び比較例1ないし4の各樹脂
5 組成物から成形したフィルムの濁度変化量を測定している(前記1⑶カ)。実施例1ないし5は、いずれも紫外線吸収剤とし、「本件明細書において式(8)として示された、本件ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有するUVA(分子量958)を主成分とし、分子量773及び分子量1142のUVAを副成分とするCGL777MPA」を含むものである(前記1⑶カ)。比較例1ないし4は、紫外線吸収剤として、「ベンゾトリアゾール骨格を有するUVA(アデカスタブLA-31、分子量659)」(比較例1及び比較例2)、「ベンゾトリアゾール骨格を有するUVA(Sumisorb300、分子量315)」(比較例3)、又は、「トリアジンにヒドロキシフェニル基が1つ結合した骨格を有するUVA(CGL479(TINUVIN479)、分子量676)」(比較例4)を含む樹脂組成物である(前記1⑶カ)。これらの実施例及び比較例を用いた濁度変化量の試験は、樹脂組成物自体ではなく、樹脂組成物を成形して得られたフィルムについて行われている。具体的には、樹脂組成物から形成したフィルムの一部を切り出し、切り出したフィルムの濁度を濁度計により測定して、これを初期値とし、次に、切り出したフィルムを、100℃に保持した熱風乾燥機内に200時間放置した後、放置後のフィルムの濁度を再度測定して、上記初期値からの変化量を求めている(段落【0169】)。100℃という温度は、各実施例及び比較例の樹脂組成物のガラス転移温度(122~128℃。【表1】)よりも低い温度である。上記方法による濁度変化量の試験の結果、実施例1ないし5はいずれも濁度変化量がゼロであり、比較例については、比較例1がゼロ、比較例2が0.1、比較例3が0.2、比較例4が0.3であったとされている(【表1】)。ウ 本件審決は、濁度変化量がゼロであることを含め、本件明細書の実施例
5 における紫外線吸収剤CGL777MPAによって示される効果は、比較例との対比から、前記相違点に係る本件発明1の紫外線吸収剤を採用したことによって奏されたものといえるとした(第2の4⑵ウ(ア))。しかし、上記イのとおり、実施例1ないし5は、紫外線吸収剤としてCGL777MPAという同一・特定のものを用いている。本件発明1は、前記第2の2⑴のとおりであり、紫外線吸収剤として、ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有する、分子量が700以上の紫外線吸収剤を含むものとされ、上記ヒドロキシフェニルトリアジン骨格が本件ヒドロキシフェニルトリアジン骨格であるものである。この本件発明1における紫外線吸収剤の記載は、CGL777MPAに限られるものではなく、様々な種類のものを含み得るものである。そして、実施例1ないし5で用いられたCGL777MPAは、その主成分の分子量が958と、本件発明1で用い得る紫外線吸収剤の分子量の下限値700と大きく乖離したものとなっている。この下限値は、むしろ、比較例1及び2の紫外線吸収剤の分子量659並びに比較例4の紫外線吸収剤の分子量676に近接している。以上の事情によれば、本件発明1において使用する紫外線吸収剤が「ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有する、分子量が700以上の紫外線吸収剤であって、上記ヒドロキシフェニルトリアジン骨格が本件ヒドロキシフェニルトリアジン骨格であるもの」であればどのようなものであっても、この紫外線吸収剤を含む本件発明1の樹脂組成物を成形して得られたフィルムの濁度変化量が実施例1ないし5と同じくゼロになるか否かは、実施例1ないし5及び比較例1ないし5に係る濁度変化量の試験結果からは明らかでないということができる。そして、本件明細書の他の記載及び本件の全証拠によっても、本件発明1の樹脂組成物を成形して得られたフィルムの濁度変化量が常にゼロに
5 なると認定することはできず、本件発明1の樹脂組成物又はこれを成形して得られたフィルムが、本件発明1に該当しない樹脂組成物又はこれを成形して得られたフィルムと比較して、濁度変化量が常に低いものとなるとか、ブリードアウトの抑制について常に良好な結果が得られるなどと認めることもできない。エ 上記ウの説示に照らせば、濁度変化量に関し、本件発明1が、本件優先日当時、本件発明1の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかった効果を奏しているとは認められない。オ 被告は、濁度変化量ないしブリードアウトの抑制効果に関し、前記第3の3〔被告の主張〕⑴ないし⑷のとおり主張するが、上記ウの説示に照らせば、被告の主張を考慮しても、濁度変化量に関し、本件発明1が、本件優先日当時、本件発明1の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかった効果を奏しているとは認められない。⑶ 濁度変化量以外の効果について本件審決は、本件発明1における濁度変化量以外の効果として、実施例1ないし5が、全てガラス転移温度が110℃以上で、高温での成形時の発泡が「なし」で、吸光度(昇華性)「0」、吸光度(飛散性)「0.01以下」となっており、本件発明1がこれらの効果を奏するものであって、これらの効果は、相違点に係る本件発明1の紫外線吸収剤を採用したことによって奏されたものであるとした(前記第2の4⑵ウ(ア))。しかし、本件審決は、上記効果が、当業者が甲1及び甲2から予測し得たものといえないことの根拠として、甲2に記載される他の化合物から区別して化合物K、O、Pを選択して甲1発明Aに適用することを当業者は容易に想到し得ないから、本件発明1が奏する上記効果も、当業者が甲1及び甲2から予測し得ないと述べるにとどまっており、これは結局、化合物K、O、Pを甲1発明Aに適用することに係る容易想到性の判断を繰り返したにすぎ
5 ないものといえる。そして、上記判断が誤りであることは前記3⑸のとおりである。また、実施例1ないし5が、全て紫外線吸収剤としてCGL777MPAという同一・特定のものを用いており、実施例1ないし5の試験結果をもって、本件発明1全体として、高温成形時の発泡、吸光度(昇華性)及び吸光度(飛散性)に関して実施例1ないし5と同様の効果を有すると認めることができないのは、濁度変化量の場合(前記⑵ウ)と同様である。そして、被告は、濁度変化量以外について、本件優先日当時、本件発明1の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかった効果であるとする具体的な主張立証をしていない。したがって、濁度変化量以外に関しても、本件発明1が、本件優先日当時、本件発明1の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかった効果を奏しているとは認められない。⑷ 取消事由3に関する結論上記⑵及び⑶の説示によれば、甲1発明Aが、当業者が予測し得ない効果を奏しているとした本件審決の判断(前記第2の4⑵ウ)には誤りがあると認められ、取消事由3は理由がある。
5 本件発明6について本件発明6は、前記第2の2⑵のとおりである。甲1には、樹脂組成物の製造方法の発明である甲1発明B(前記第2の4⑴)が記載されていると認められ(前記2⑵エ)、本件発明6と甲1発明Bとの一致点及び相違点は、本件審決が認定した一致点、相違点6-1、相違点6-2(前記第2の4⑶ア)のとおりであると認められる。本件審決は、相違点6-1が、本件発明1と甲1発明Aとの相違点と同じであるから、本件発明1と甲1発明Aとの相違点の場合と同様に、相違点6-1に係る甲1発明Bの紫外線吸収剤に代えて、相違点6-1に係る本件発明6の
5 紫外線吸収剤(甲2に記載される化合物K、O、P)を採用することを、当業者は容易に想到し得ないから、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明6は、甲1発明B及び甲2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないと判断した(第2の4⑶イ)。しかし、本件発明1と甲1発明Aとの相違点に係る容易想到性に関する本件審決の判断が誤りであることは、前記3及び4のとおりであるから、本件発明6と甲1発明Bとの相違点に係る容易想到性に関する本件審決の判断も、同様に誤りである。
6 結論以上のとおりであり、取消事由1は理由がないが、取消事由2及び3は理由があり、本件発明6と甲1発明Bとの相違点に係る容易想到性に関する本件審決の判断にも誤りがあるから、本件審決は取り消されるべきものであって、原告の請求は認容されるべきである。よって、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
中 平 健
裁判官
今 井 弘 晃
裁判官
水 野 正 則
別紙1
当 事 者 目 録
5 原 告 株 式 会 社 カ ネ カ同訴訟代理人弁護士 飯 島 歩同 井 窪 保 彦同 黒 田 薫同 藤 田 知 美同 神 田 雄同 町 野 静同 真 鍋 怜 子同 秦 野 真 衣同 金 村 玲 奈同 三 品 明 生同 川 崎 眞 実同 吉 田 伊 知 朗同訴訟復代理人弁護士 濱 田 茉 莉 花同訴訟代理人弁理士 横 井 知 理同 川 上 桂 子同 前 田 幸 嗣同 小 林 由 佳同 梶 谷 美 道同 田 端 豊同 吉 田 昌 司被 告 株 式 会 社 日 本 触 媒同訴訟代理人弁護士 設 樂 隆 一5 同 河 合 哲 志同 生 駒 阿 門同訴訟代理人弁理士 今 村 玲 英 子同訴訟代理人弁護士 清 水 節同 渡 邉 佳 行同 関 卓 人同 藤 野 睦 子同 千 葉 あ す か同 中 田 健 一同 福 永 聡同 本 田 輝 人同訴訟代理人弁理士 森 下 夏 樹同 駒 谷 剛 志以 上
別紙2
本件明細書の記載以下、段落番号は【】内に示し、「段落」の表記は省略する。5 1 技術分野「本発明は、耐熱性透明材料として好適な熱可塑性樹脂組成物と、当該組成物からなる樹脂成形品ならびに樹脂成形品の具体的な一例である偏光子保護フィルムとに関する。」(【0001】)2 背景技術「ポリメタクリル酸メチル(PMMA)に代表される熱可塑性アクリル樹脂・・・は、高い光線透過率を有するなど、その光学特性に優れるとともに、機械的強度、成形加工性および表面硬度のバランスに優れることから、自動車および家電製品をはじめとする各種の工業製品における透明材料として幅広く使用されている。」(【0002】)「アクリル樹脂は、紫外線を含む光に曝されると黄変して透明度が低下することがあり、これを防ぐ方法として、紫外線吸収剤(UVA)を添加する方法が知られている。しかし一般的なUVAでは、UVAを添加したアクリル樹脂組成物を成形する際に発泡が生じたり、UVAがブリードアウトしたりすることがある。また、成形時に加えられる熱によりUVAが蒸散して、得られた樹脂成形品の紫外線吸収能が低下したり、蒸散したUVAにより成形装置が汚染されるなどの問題が生じることがある。」(【0003】)「ところで、透明性と耐熱性とを兼ね備えたアクリル樹脂として、主鎖に環構造を有する樹脂が知られている。主鎖に環構造を有する樹脂は、主鎖に環構造を有さない樹脂に比べてガラス転移温度(Tg)が高く、例えば、画像表示装置において光源などの発熱部に近接した配置が容易となるなど、実用上の様々な利点を有する。」(【0004】)「樹脂あるいは樹脂組成物のTgが高くなると、より高い成形温度が必要となる。このため、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂にUVAを添加すると、得られた樹脂成形品に発泡やUVAのブリードアウトが生じやすい。また、成形時におけるUVAの蒸散が強くなることによる紫外線吸収能の低下、成形装置の汚染が生5 じやすくなる。」(【0005】)「これらの問題を考慮し、これまで、少量の添加により高い紫外線吸収効果が得られるとされるトリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物およびベンゾフェノン系化合物が、UVAとして、アクリル樹脂と組み合わせて用いられている。」(【0006】)3 発明が解決しようとする課題「しかし、これらの化合物は、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂との相溶性に課題が残る。高温での成形時における発泡、ブリードアウトの発生の抑制も必ずしも十分であるといえない。また、アクリル樹脂とUVAとを含む樹脂組成物から光学部材を形成する際に、得られた部材の外観上の欠点を減らすことを目的として、ポリマーフィルタによる樹脂組成物の濾過を行うことがあるが、この場合、樹脂組成物の成形温度をさらに高くする必要がある。成形温度が高くなると、発泡およびブリードアウトが発生しやすくなるとともに、UVAの蒸散に伴う問題(得られた樹脂成形品における紫外線吸収能の低下、蒸散したUVAによる成形装置の汚染)が生じやすくなる。」(【0007】)「本発明は、アクリル樹脂とUVAとを含む樹脂組成物であって、ガラス転移温度の高さに基づく優れた耐熱性を有しながら、高温での成形時においても、発泡、ブリードアウトなどの発生が抑制され、UVAの蒸散による問題の発生を低減できる樹脂組成物を提供することを目的とする。」(【0008】)4 課題を解決するための手段「本発明の樹脂組成物は、熱可塑性アクリル樹脂(樹脂(A))と、分子量が700以上の紫外線吸収剤(UVA(B))とを含み、110℃以上のガラス転移温度(Tg)を有する。樹脂(A)は、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N-置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種の環構造を主鎖に有する。UVA(B)は、ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有する。ここで、前記ヒドロキシフェニルトリアジン骨格は、5 トリアジンと、トリアジンに結合した3つのヒドロキシフェニル基とからなる骨格((2-ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン骨格)である。」(【0009】)「本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法では、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N-置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種の環構造を主鎖に有する熱可塑性アクリル樹脂を重合した後、ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有する、分子量が700以上の紫外線吸収剤と、前記熱可塑性アクリル樹脂とを溶融混合して、110℃以上のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂組成物を得る。」(【0010】)5 発明の効果「本発明の樹脂組成物は、110℃以上という高いTgに基づく優れた耐熱性を示すとともに、高温での成形時においても発泡、ブリードアウトの発生が抑制され、UVAの蒸散による問題の発生が少ない。」(【0015】)
6 発明を実施するための最良の形態「以下の説明において特に記載がない限り、「%」は「重量%」を、「部」は「重量部」をそれぞれ意味する。」(【0017】)「[樹脂(A)]樹脂(A)は、熱可塑性アクリル樹脂である限り特に限定されない。ただし、樹脂(A)は、樹脂組成物としてのTgが110℃以上となるアクリル樹脂である必要がある。」(【0019】)「アクリル樹脂とは、(メタ)アクリル酸エステル単位および/または(メタ)アクリル酸単位を構成単位として有する樹脂のことであり、(メタ)アクリル酸エステルまたは(メタ)アクリル酸の誘導体に由来する構成単位を有していてもよい。」(【0020】)「樹脂(A)は主鎖に環構造を有していてもよい。この場合、樹脂(A)および樹脂組成物のTgが高くなり、当該組成物から得た樹脂成形品の耐熱性が向上す5 る。」(【0023】)「環構造の種類は特に限定されないが、例えば、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N-置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種である。」(【0025】)「樹脂(A)および樹脂組成物のTgがより向上することから、環構造は、グルタルイミド構造、無水グルタル酸構造及びラクトン環構造から選ばれる少なくとも1種が望ましい。また、構造内に窒素原子を含まないために着色(黄変)が生じにくく、樹脂成形品としたときの光学特性に優れることから、環構造がラクトン環構造であることが望ましい。即ち、樹脂(A)は、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂であることが望ましい。」(【0026】)「[UVA(B)]UVA(B)の分子量は700以上である。当該分子量は800以上が好ましく、900以上がより好ましい。一方、当該分子量が10000を超えると、樹脂(A)との相溶性が低下することで、最終的に得られる樹脂成形品の色相、濁度などの光学的特性が低下する。」(【0061】)「UVA(B)は2種以上の化合物の混合物であってもよく、この場合、主成分である化合物の分子量が700以上であればよい。なお、本明細書における主成分とは、最も含有量(含有率)が多い成分を意味し、その含有率は典型的には50%以上である。」(【0063】)「UVA(B)の構造は分子量が700以上である限り特に限定されないが、UVA(B)がヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有することが好ましい。ヒドロキシフェニルトリアジン骨格は、トリアジンと、トリアジンに結合した3つのヒドロキシフェニル基とからなる骨格((2-ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン骨格)である。ヒドロキシフェニル基における水酸基の水素原子は、トリアジンの窒素原子とともに水素結合を形成し、形成された水素結合は、フェニルトリアジンの発色団としての作用を増大させる。UVA(B)では上記水素5 結合が3つ形成されるため、フェニルトリアジンが有する発色団としての作用をより増大でき、少ない添加量で高い紫外線吸収能を得ることができる。なお、UVA(B)が2種以上の化合物の混合物からなる場合、少なくとも主成分である化合物がヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有することが好ましい。」(【0066】)「UVA(B)は、例えば、以下の式(8)により示される構造を有する。上記式(8)により示されるUVA(B)を主成分として含む市販の紫外線吸収剤には、例えば、CGL777MPA・・・あるいはCGL777MPAD・・・がある。」(【0072】~【0074】)「本発明の樹脂組成物は、110℃以上の高いガラス転移温度(Tg)を有する。樹脂(A)の構成(例えば、樹脂(A)が主鎖に環構造を有するか否か、あるいは樹脂(A)が主鎖に環構造を有する場合における当該環構造の含有率など)によっては、本発明の樹脂組成物のTgは115℃以上、120℃以上、さらには130℃以上となる。」(【0080】)「本発明の樹脂組成物は、UVA(B)に基づく紫外線吸収能を有し、例えば、厚さ100μmのフィルムとしたときに、波長380nmの光の透過率を30%未満、場合によっては20%未満、さらには10%未満、1%未満とすることができる。」(【0081】)5 「本発明の樹脂組成物は、樹脂(A)とUVA(B)との相溶性に基づく高い可視光透過率を有し、例えば、厚さ100μmのフィルムとしたときに、波長500nmの光の透過率を80%以上、場合によっては85%以上、さらには90%以上とすることができる。」(【0082】)「[樹脂組成物の製造方法]本発明の樹脂組成物は、樹脂(A)を主成分とする熱可塑性樹脂とUVA(B)とを公知の方法により混合して製造できる。」(【0100】)「熱可塑性樹脂とUVA(B)とを混合するタイミングは、樹脂組成物としての上述した諸特性が阻害されない限り、特に限定されない。熱可塑性樹脂(例えば樹脂(A))を重合中にUVA(B)を添加してもよいし、熱可塑性樹脂を重合した後、得られた熱可塑性樹脂とUVA(B)とを混合(例えば溶融混練)してもよい。」(【0101】)「[樹脂成形品]「本発明の樹脂成形品は、上記本発明の樹脂組成物からなる。本発明の樹脂成形品は、上述した本発明の樹脂組成物が有する特性に基づく、各種の特性を有する。例えば、本発明の樹脂成形品は、高い紫外線吸収能、耐熱性および透明性を有する。また例えば、本発明の樹脂成形品は、発泡やブリードアウトなどの欠点が少ない。」(【0102】)「[樹脂成形品の製造方法]上述したように、本発明の樹脂成形品の製造方法は特に限定されないが、以下、樹脂成形品として樹脂フィルムの製造方法の一例を示す。この製造方法は、樹脂シートの製造方法にも適用できる。」(【0135】)「本発明の樹脂組成物から樹脂フィルムを製造する方法として、押出成形法がある。具体的な例としては、樹脂組成物を構成する各成分をオムニミキサーなどの混合機でプレブレンドした後、得られた混合物を混練機から押出混練してもよい。押出混練に用いる混練機は特に限定されず、例えば、単軸押出機、二軸押出機な5 どの押出機、あるいは加圧ニーダーなどの公知の混練機を用いることができる。」(【0136】)「また、別途形成した樹脂組成物を溶融押出成形してもよい。溶融押出法には、例えば、Tダイ法、インフレーション法などがあり、その際の成形温度は、好ましくは200~350℃、より好ましくは250~300℃、さらに好ましくは255℃~300℃、特に好ましくは260℃~300℃である。」(【0137】)
7 実施例「[ガラス転移温度]各サンプルのガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計・・・を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。」(【0156】)「[光線透過率]各サンプルの光線透過率は、押出成形により厚さ100μmのフィルムとした後、分光光度計・・・を用いて、波長380nmおよび500nmの光 に対する当該フィルムの透過率を測定することで評価した。各サンプルから、厚さ100μmのフィルムを形成する具体的な方法は後述する。」(【0157】)「[発泡性]各サンプルの発泡性を以下のように評価した。最初に、ペレット状の樹脂組成物を循環型熱風乾燥機により乾燥し(80℃、5時間)、乾燥したペレット6gを、280℃に温度を制御したJIS K7210に規定のメルトインデクサーに投入した。投入後、メルトインデクサーを280℃で20分間保持した後、溶融した樹脂組成物を荷重4.85kgでストランド状に押出し、形成されたストランドの発泡状態を目視により観察した。ストランドにおける、メルトインデクサーのピストンの下部標線から10cm以内に直径0.5mm以上の気泡が20個以上存在する場合を『発泡有り』、当該気泡が20個未満の場合を『発泡なし』と5 した。」(【0159】)「[昇華性]各サンプルにおけるUVAの昇華性を以下のように評価した。最初に、押出成形により、各サンプルを厚さ100μmのフィルムとし、その一部(サイズにして1cm×3cm)を切り出した。次に、切り出したフィルムを試験管内に封入した後、メタルバス中において、150℃で10時間加熱した。次に、試験管からフィルムを取り出した後、当該試験管にクロロホルム1mLを入れ、フィルムから昇華して試験管の内壁に付着したUVAをクロロホルムに溶解させた。次に、UVAを溶解させたクロロホルムを光路長1cmの石英セルに収容し、吸光度計・・・を用いて、波長350nmの光に対する吸光度を測定した。UVAの昇華量が大きいほど、測定される吸光度は大きくなる。」(【0160】)「[飛散性]各サンプルを成形する際の成形装置の汚染度を、キャストロール(Tダイから押し出された溶融状態の樹脂フィルムが、最初に接触する金属ロール)に対するUVAの付着量を測定することにより評価した。付着量は、以下のように評価した。最初に、キャストロールを備える成形装置により、樹脂フィルムを1時間連続して押出成形した後に、ロール中央部の10㎝×10㎝の範囲を、クロロホルムを浸したセルロース製ワイパーで拭き取った。次に、拭き取りに使用したワイパーを、30mLのクロロホルムに浸漬させて、キャストロールから拭き取ったUVAをクロロホルムに溶解させた。次に、UVAを溶解させたクロロホルムを光路長1㎝の石英セルに収容し、吸光度計・・・を用いて、波長350nmの光に対する吸光度を測定した。キャストロールへのUVAの付着量が大きい(即ち、UVAの飛散性が高い)ほど、測定される吸光度は大きくなる。」(【0161】)「[フィルムの濁度変化量]各サンプルから形成したフィルムの濁度の変化量を、以下のように評価した。5 最初に、押出成形により、各サンプルを厚さ100μmのフィルムとし、その一部(サイズにして5㎝×5㎝)を切り出した。次に、切り出したフィルムの濁度を、濁度計(日本電色工業社製、NDH-1001DP)を用いて測定し、測定した値を初期値とした。次に、切り出したフィルムを、100℃に保持した熱風乾燥機(タバイ社製)内に200時間放置した後、放置後のフィルムの濁度を再度測定して、上記初期値からの変化量を求めた。成形後のフィルムの濁度が変化する要因として、熱による、UVAのブリードアウトが考えられる。」(【0169】)「(実施例1)攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた内容積30Lの反応釜に、40部のメタクリル酸メチル(MMA)、10部の2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、重合溶媒として50部のトルエン、および0.025部の酸化防止剤(旭電化工業製、アデカスタブ2112)を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.05部のt-アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、0.10部のt-アミルパーオキシイソノナノエートを3時間かけて滴下しながら、約105~110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。」(【0171】)「次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として0.05部のリン酸2-エチルヘキシル(堺化学工業製、Phoslex A-8)を加え、約90~110℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた後、240℃のオートクレーブにより重合溶液を30分間加熱し、環化縮合反応をさらに進行させた。」(【0172】)「次に、得られた重合溶液を、バレル温度240℃、回転速度100rpm、減圧度13.3~400hPa(10~300mmHg)、リアベント数1個および5 フォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)のベントタイプスクリュー二軸押出機(Φ=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で2.0kg/時の処理速度で導入し、脱揮を行った。その際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を0.03kg/時の投入速度で第1ベントの後ろから、別途準備しておいたUVA溶液を0.05kg/時の投入速度で第2ベントの後ろから、イオン交換水を0.01kg/時の投入速度で第3ベントの後ろから、それぞれ投入した。」(【0173】)「酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液には、50部の酸化防止剤(住友化学製スミライザーGS)と、失活剤として35部のオクチル酸亜鉛(日本化学産業製、ニッカオクチクス亜鉛3.6%)とを、トルエン200部に溶解させた溶液を用いた。」(【0174】)「UVA溶液には、上記式(8)に示す紫外線吸収剤(分子量958)を主成分とし、分子量773および分子量1142の紫外線吸収剤を副成分とするCGL777MPA(チバスペシャリティケミカルズ製、有効成分80%)37.5部をトルエン12.5部に溶解させた溶液を用いた。」(【0175】)「次に、脱揮完了後、押出機内に残された熱溶融状態にある樹脂を押出機の先端から排出し、ペレタイザーによりペレット化して、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂(A-1)と分子量700以上のUVA(B)とを含む透明な樹脂組成物のペレットを得た。樹脂(A-1)の重量平均分子量は148000、樹脂(A-1)および樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は128℃であった。」(【0176】)「(比較例1)攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた内容積30Lの反応釜に、40部のメタクリル酸メチル(MMA)、10部の2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、重合溶媒として50部のトルエン、および0.025部の酸化防止剤(旭電化工業製、アデカスタブ2112)を仕込み、これ5 に窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.05部のt-アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、0.10部のt-アミルパーオキシイソノナノエートを3時間かけて滴下しながら、約105~110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。」(【0190】)「次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として0.05部のリン酸2-エチルヘキシル(堺化学工業製、Phoslex A-8)を加え、約90~110℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた後、240℃のオートクレーブにより重合溶液を30分間加熱し、環化縮合反応をさらに進行させた。次に、反応進行後の重合溶液に、UVA(B)として上記CGL777MPAを0.94部混合した。」(【0191】)「次に、得られた重合溶液を、バレル温度240℃、回転速度100rpm、減圧度13.3~400hPa(10~300mmHg)、リアベント数1個およびフォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)のベントタイプスクリュー二軸押出機(Φ=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で2.0kg/時の処理速度で導入し、脱揮を行った。その際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を0.03kg/時の投入速度で第1ベントの後ろから、イオン交換水を0.01kg/時の投入速度で第3ベントの後ろから、それぞれ投入した。酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液は、実施例1と同じものを用いた。」(【0192】)「次に、脱揮完了後、押出機内に残された熱溶融状態にある樹脂を押出機の先端から排出し、ペレタイザーによりペレット化して、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂(A-5)を得た。樹脂(A-5)の重量平均分子量は148000であった。」(【0193】)5 「このようにして得た樹脂(A-5)100部に、ベンゾトリアゾール骨格を有するUVA(ADEKA製、アデカスタブLA-31、分子量659)1.5部をドライブレンドして、樹脂(A-5)とUVAとの樹脂組成物を得た。樹脂(A-5)および樹脂組成物のTgは128℃であった。」(【0194】)「(比較例2)「樹脂(A-5)とドライブレンドするUVAの量を3.0部に変更した以外は実施例1と同様にして 、樹脂(A-5)とUVAとの樹脂組成物を得た。樹脂組成物のTgは127℃であった。」(【0195】)「(比較例3)比較例1で得た樹脂(A-5)100部に、ベンゾトリアゾール骨格を有するUVA(住友化学製、Sumisorb300、分子量315)1.5部をドライブレンドして、樹脂(A-5)とUVAとの樹脂組成物を得た。樹脂組成物のTgは128℃であった。」(【0196】)「(比較例4)比較例1で得た樹脂(A-5)100部に、トリアジンにヒドロキシフェニル基が1つ結合した骨格を有するUVA(チバスペシャリティケミカルズ製、CGL479(TINUVIN479)、分子量676)1.5部をドライブレンドして、樹脂(A-5)とUVAとの樹脂組成物を得た。樹脂組成物のTgは128℃であった。」(【0197】)「実施例1~5および比較例1~4で得られた樹脂組成物に対して、上記特性を評価した結果を以下の表1に示す。」(【0198】)「特性の評価に用いた厚さ100μmの樹脂フィルムは、各実施例および比較例で得られた樹脂組成物を押出成形して作製した。」(【0199】)表1(【0202】)5 「表1に示すように、実施例の樹脂組成物では、高いガラス転移温度、紫外線吸収能および可視光透過性を実現しながら、成形時におけるUVAの昇華性および飛散性を比較例に比べて抑制できた。また、実施例の樹脂組成物では、成形時の発泡の発生が抑制された。」(【0203】)「実施例の樹脂組成物から作製した樹脂フィルムの濁度変化量は、比較例(比較例1を除く)の樹脂組成物から作製した樹脂フィルムに比べて小さかった。実施例の樹脂組成物から作製した樹脂フィルムでは、比較例に比べて、フィルム成形後の熱によるUVAのブリードアウトが抑制されたと考えられる。」(【0204】)以 上
別紙3
甲1の記載以下、段落番号は[]内に示し、「段落」の表記は省略する。明細書偏光子保護フィルム、偏光板、および画像表示装置1 技術分野「本発明は、偏光子保護フィルム、それを用いた偏光板、および、その偏光板を少なくとも1枚含む、液晶表示装置、有機EL表示装置、PDP等の画像表示装置に関する。」([0001])2 背景技術「液晶表示装置には、その画像形成方式から液晶パネル表面を形成するガラス基板の両側に偏光板を配置することが必要不可欠である。偏光板は、一般的には、ポリビニルアルコール系フィルムとヨウ素などの二色性材料からなる偏光子の両面に、トリアセチルセルロースなどを用いた偏光子保護フィルムをポリビニルアルコール系接着剤により貼り合せたものが用いられている。」([0002])「偏光子保護フィルムには、液晶や偏光子を紫外線劣化から防ぐ目的で、紫外線吸収性能が必要とされることがある。現在は、偏光子保護フィルムとしてのトリアセチルセルロースフィルム中に紫外線吸収剤を添加し、紫外線吸収性能を持たせている。」([0003])「しかしながら、トリアセチルセルロースは耐湿熱性が十分でなく、トリアセチルセルロースフィルムを偏光子保護フィルムとして用いた偏光板を高温または高湿下において使用すると、偏光度や色相等の偏光板の性能が低下するという欠点がある。またトリアセチルセルロースフィルムは斜め方向の入射光に対して位相差を生じる。かかる位相差は、近年、液晶ディスプレイの大型化が進むにしたがって、顕著に視野角特性に影響を及ぼすようになっている。」([0004])「そこで、従来からのトリアセチルセルロースに代わる偏光子保護フィルムの材料として、透明性の熱可塑性樹脂が検討されており、透明性の熱可塑性樹脂に紫5 外線吸収剤を添加して紫外線吸収性能を持たせた偏光子保護フィルムも報告されている(特許文献1~2参照)。しかし、このような偏光子保護フィルムにおいては、紫外線吸収剤を添加する前の材料樹脂のTg(ガラス転移温度)に比較して添加した後のTgが大きく低下してしまうという問題(耐熱性低下の問題)や、樹脂が着色(黄変)してしまうという問題がある。したがって、優れた紫外線吸収能力を有するとともに、優れた耐熱性、優れた光学的透明性を有する偏光子保護フィルムの開発が強く望まれている。特許文献1: 特開平9-166711号公報特許文献2: 特開2004-45893号公報」([0005])3 発明が解決しようとする課題「本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、(1)優れた紫外線吸収能力を有するとともに、優れた耐熱性、優れた光学的透明性を有する偏光子保護フィルムを提供すること、(2)そのような偏光子保護フィルムと偏光子とを用いた、外観欠点が少ない偏光板を提供すること、(3)そのような偏光板を用いた高品位の画像表示装置を提供すること、にある。」([0006])4 課題を解決するための手段「本発明の偏光子保護フィルムは、(メタ)アクリル系樹脂を主成分として含み紫外線吸収剤をも含む偏光子保護フィルムであって、該偏光子保護フィルムの厚み80μmにおける380nmでの光線透過率が30%以下であり、該偏光子保護フィルムのTgと該紫外線吸収剤を含まない以外は該偏光子保護フィルムと同じフィルムのTgの差が3℃以内、厚み80μmにおけるYIが1.3以下である。好ましい実施形態においては、上記(メタ)アクリル系樹脂が、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂である。好ましい実施形態においては、上記偏光子保護フィルムの厚み80μmにおけるb値が1.5未満である。」([0007])5 「本発明の別の偏光子保護フィルムは、(メタ)アクリル系樹脂を主成分として含み紫外線吸収剤をも含む偏光子保護フィルムであって、該(メタ)アクリル系樹脂100重量部に対して、0.01~3重量部のトリアジン系紫外線吸収剤と0.01~3重量部のトリアゾール系紫外線吸収剤とを含む。」([0008])5 発明の効果「本発明によれば、優れた紫外線吸収能力を有するとともに、優れた耐熱性、優れた光学的透明性を有する偏光子保護フィルムを提供することができる。また、そのような偏光子保護フィルムとポリビニルアルコール系樹脂から形成される偏光子とを用いた、外観欠点が少ない偏光板を提供することができる。さらに、そのような偏光板を用いた高品位の画像表示装置を提供することができる。従来の偏光子保護フィルムにおいては、優れた紫外線吸収能力を発揮させることを目的として透明性樹脂に紫外線吸収剤を添加すると、耐熱性と光学的透明性が低下してしまうという問題があるが、本発明のごとく、主たる透明性樹脂成分として(メタ)アクリル系樹脂を用い、さらに例えば、特定の2種類の紫外線吸収剤を併用することによって、優れた紫外線吸収能力、優れた耐熱性、優れた透明性を全て兼ね備えた偏光子保護フィルムを提供することができる。」([0011])6 発明を実施するための最良の形態「本発明の偏光子保護フィルムは、(メタ)アクリル系樹脂を主成分として含み紫外線吸収剤をも含む。」([0015])「上記(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば、Tg(ガラス転移温度)が115℃以上のものが好ましく、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは125℃以上、特に好ましくは130℃以上である。Tg(ガラス転移温度)が115℃以上である(メタ)アクリル系樹脂を主成分として含むことにより、例えば、最終的に偏光板に組み入れた場合に、耐久性に優れたものとなり易い。上記(メタ)アクリル系樹脂のTgの上限値は特に限定されないが、成形性等の観5 点から、好ましくは170℃以下である。」([0016])「本発明においては、高い耐熱性、高い透明性、高い機械的強度を有する点で、上記(メタ)アクリル系樹脂としては、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂が特に好ましい。」([0019])「ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、好ましくは、下記一般式(1)で表されるラクトン環構造を有する。[化1](一般式(1)中、R 1、R2 およびR 3は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいても良い。)」([0021])「ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、射出成形により得られる成形品の、ASTM-D-1003に準じた方法で測定される全光線透過率が、高ければ高いほど好ましく、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上である。全光線透過率は透明性の目安であり、全光線透過率が85%未満であると、透明性が低下し、本来目的とする用途に使用できないおそれがある。」([0025])「上記紫外線吸収剤としては、例えば、本発明に適した任意の紫外線吸収剤を選択できる。例えば、特開2001-72782号公報や特表2002-543265号公報に記載の紫外線吸収剤が挙げられる。また、上記紫外線吸収剤の融点は、110℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。紫外線吸収剤の融5 点が130℃以上であれば、加熱溶融加工時の揮発が少なく、フィルム製造時のロール汚れを発生し難い。本発明においては、紫外線吸収剤は1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。本発明において好ましく用いられ得る紫外線吸収剤として、トリアジン系紫外線吸収剤とトリアゾール系紫外線吸収剤が挙げられる。本発明において特に好ましくは、トリアジン系紫外線吸収剤とトリアゾール系紫外線吸収剤を併用することである。トリアジン系紫外線吸収剤は分子量400以上のものが好ましい。トリアゾール系紫外線吸収剤は分子量400以上のものが好ましい。」([0027])「トリアジン系紫外線吸収剤としては、例えば、1,3,5-トリアジン環を有する化合物を好ましく用いることができる。具体的には、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(へキシル)オキシ]-フェノール等が挙げられる。」([0028])「市販品としては、例えば、トリアジン系紫外線吸収剤として「チヌビン1577」(チバスペシシャリティーケミカルズ社製)、トリアゾール系紫外線吸収剤として「アデカスタブLA-31」(旭電化工業社製)等が挙げられる。」([0030])「本発明の偏光子保護フィルムの一つは、(メタ)アクリル系樹脂を主成分として含み紫外線吸収剤をも含む偏光子保護フィルムであって、該偏光子保護フィルムの厚み80μmにおける380nmでの光線透過率が30%以下であり、該偏光子保護フィルムのTgと該紫外線吸収剤を含まない以外は該偏光子保護フィルムと同じフィルムのTgの差が3℃以内、厚み80μmにおけるYIが1.3以下である。上記偏光子保護フィルムの厚み80μmにおける380nmでの光線透過率が30%以下であって、上記偏光子保護フィルムのTgと上記(メタ)アクリル系樹脂のTgの差と厚み80μmにおけるYIとの2つの特性が上記範囲をともに兼ね備えていることによって、優れた紫外線吸収能力、優れた耐熱性、優れた光学的透明性を全て兼ね備えた偏光子保護フィルムを提供することがで5 きる。」([0032])「上記偏光子保護フィルムの厚み80μmにおける380nmでの光線透過率は、好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは15%以下、特に好ましくは10%以下、最も好ましくは6%以下である。上記偏光子保護フィルムの厚み80μmにおける380nmでの光線透過率が30%を超えると、十分な紫外線吸収能力を発揮できないおそれがある。」([0033])「上記偏光子保護フィルムのTgと上記紫外線吸収剤を含まない以外は上記偏光子保護フィルムと同じフィルムのTgの差は、好ましくは2.5℃以内、より好ましくは2.3℃以内、さらに好ましくは2.0℃以内である。上記差が3℃を超えると、優れた耐熱性が発揮できないおそれがある。」([0034])「上記厚み80μmにおけるYIは、好ましくは1.27以下、より好ましくは1.25以下、さらに好ましくは1.23以下、特に好ましくは1.20以下である。上記YIが1.3を超えると、優れた光学的透明性が発揮されないおそれがある。なお、YIは、例えば、高速積分球式分光透過率測定機(商品名DOT-3C:村上色彩技術研究所製)を用い、測定で得られる色の三刺激値(X、Y、Z)より、次式によって求めることができる。YI=[(1.28X-1.06Z)/Y]×100」([0035])「本発明の偏光子保護フィルムの一つは、上記のように、(メタ)アクリル系樹脂を主成分として含み紫外線吸収剤をも含む偏光子保護フィルムであって、該偏光子保護フィルムの厚み80μmにおける380nmでの光線透過率が30%以下であり、該偏光子保護フィルムのTgと該紫外線吸収剤を含まない以外は該偏光子保護フィルムと同じフィルムのTgの差が3℃以内、厚み80μmにおけるYIが1.3以下であり、このような特性を有する限り、偏光子保護フィルム中の他の成分はどのようなものであっても良いが、該(メタ)アクリル系樹脂100重量部に対して、0.01~3重量部のトリアジン系紫外線吸収剤と0.01~3重量部のトリアゾール系紫外線吸収剤とを含むような組成であれば、上記の5 特性を容易に発現させることができる。」([0041])「上記(メタ)アクリル系樹脂100重量部に対する上記トリアジン系紫外線吸収剤の含有量は、好ましくは0.05~3重量部、より好ましくは0.1~2.5重量部、さらに好ましくは0.3~2重量部、特に好ましくは0.5~1.5重量部である。上記(メタ)アクリル系樹脂100重量部に対する上記トリアジン系紫外線吸収剤の含有量が0.01重量部未満の場合、あるいは、3重量部を超える場合、本発明の効果が発揮できなくなるおそれがある。」([0043])「上記フィルムを形成する樹脂組成物中には、主成分として含まれる(メタ)アクリル系樹脂、および紫外線吸収剤の他に、一般的な配合剤、例えば、安定剤、滑剤、加工助剤、可塑剤、耐衝撃助剤、位相差低減剤、艶消し剤、抗菌剤、防かび等が含まれていても良い。」([0054])「偏光子保護フィルムの光学特性として、正面および厚み方向の位相差の大きさが問題となる。そのため、上記フィルムを形成する樹脂組成物中には、位相差低減剤が含まれていることが好ましい。位相差低減剤としては、例えば、アクリロニトリル-スチレン系共重合体など、スチレン含有ポリマーが好ましい。位相差低減剤の添加量としては、(メタ)アクリル系樹脂に対し、30重量%以下であることが好ましく、より好ましくは25重量%以下、さらに好ましくは20重量%以下である。この範囲を超えて添加した場合、可視光線を散乱させたり、透明性を損なったりするため、偏光子保護フィルムとしての特性に欠けてしまうおそれがある。」([0055])「以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例には限定されない。なお、特に示さない限り、実施例中の部およびパーセントは重量基準である。評価は以下のようにして行った。」([0102])「〈YI値〉5 高速積分球式分光透過率測定機(商品名DOT-3C:村上色彩技術研究所製)を用い、測定で得られる色の三刺激値(X、Y、Z)より、次式によって求めた。YI=[(1.28X-1.06Z)/Y]×100」([0108])「〈偏光子保護フィルムの評価〉得られた偏光子保護フィルムについて、Tg、全光線透過率、380nmでの光線透過率、YI値、b値を測定した。結果を表1に示す。」([0121])「[表1]」([0129])請求の範囲[1] (メタ)アクリル系樹脂を主成分として含み紫外線吸収剤をも含む偏光子保護フィルムであって、該偏光子保護フィルムの厚み80μmにおける380nmでの光線透過率が30%以下であり、該偏光子保護フィルムのTgと該紫外線吸収剤を含まない以外は該偏光子保護フィルムと同じフィルムのTgの差が3℃以内、厚み80μmにおけるYIが1.3以下である、偏光子保護フィルム。[2] 前記(メタ)アクリル系樹脂が、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂である、請求項1に記載の偏光子保護フィルム。以 上
別紙4
甲2の記載以下、段落番号は【】内に示し、「段落」の表記は省略する。【特許請求の範囲】【請求項1】積層品または多層構造物における接着層として使用するのに適当な安定化された接着剤組成物であって、(a) 接着剤;および(b) 高溶解性、高モル吸光性および光安定の、下記式I、II、III、IV、VまたはVIで表されるs-トリアジン紫外線吸収剤またはそれらの混合物:【化1】【化2】[式中、XおよびYは独立して、フェニル基、ナフチル基、または、1ないし3個の炭素原子数1ないし6のアルキル基により、ハロゲン原子により、5 ヒドロキシ基により、または炭素原子数1ないし6のアルコキシ基によりもしくはこれら基の混合により置換された前記フェニル基または前記ナフチル基を表すか;或いはXおよびYは独立して、Z 1 またはZ 2 を表し;R1 は水素原子、直鎖もしくは枝分かれ鎖の炭素原子数1ないし24のアルキル基、炭素原子数5ないし12のシクロアルキル基、炭素原子数7ないし15のフェニルアルキル基、ハロゲン原子、-SR 3、-SOR 3 または-SO2R 3 を表すか;或いは1ないし3個のハロゲン原子、-R 4、-OR5、-N(R5)2,-COR 5,-COOR5,-OCOR 5,-CN,-NO2,-SR5,-SOR 5,-SO2R 5もしくは-P(O)(OR 5 )2 、モルホリニル基、ピペリジニル基、2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル基、ピペラジニル基、またはN-メチルピペリジニル基またはそれらの組合せにより置換された前記アルキル基または前記シクロアルキル基または前記フェニルアルキル基;或いは5 1ないし4個のフェニレン基、-O-,-NR 5-,-CONR 5-,-COO-,-OCO-もしくは-CO-基またはそれらの組合せにより中断された前記アルキル基または前記シクロアルキル基;或いは上述の基の組合せにより置換および中断の両方がなされている前記アルキル基または前記シクロアルキル基を表し;R3 は炭素原子数1ないし20のアルキル基、炭素原子数3ないし18のアルケニル基、炭素原子数5ないし12のシクロアルキル基、炭素原子数7ないし15のフェニルアルキル基、炭素原子数6ないし10のアリール基、または1または2個の炭素原子数1ないし4のアルキル基により置換された前記アリール基を表し;R4 は炭素原子数6ないし10のアリール基、または1ないし3個のハロゲン原子、炭素原子数1ないし8のアルキル基、炭素原子数1ないし8のアルコキシ基、もしくはそれらの組合せにより置換された前記アリール基;炭素原子数5ないし12のシクロアルキル基;炭素原子数7ないし15のフェニルアルキル基または、フェニル環上で1ないし3個のハロゲン原子、炭素原子数1ないし8のアルキル基、炭素原子数1ないし8のアルコキシ基もしくはそれらの組合せにより置換された前記フェニルアルキル基;或いは直鎖もしくは枝分かれ鎖の炭素原子数2ないし18のアルケニル基を表し;R5 はR4 で定義された基を表すか、またはR 5 はまた、水素原子または直鎖もしくは枝分かれ鎖の炭素原子数1ないし24のアルキル基、炭素原子数2ないし24のアルケニル基をも表し;或いはR 5 は式【化3】(式中、Tは水素原子、オキシル基、ヒドロキシル基、-OT 1、炭素原子数1ないし24のアルキル基、1ないし3個のヒドロキシ基により置換された前記アルキル基;ベンジル基または炭素原子数2ないし18のアルカノイル基を表し;T 1 は炭素5 原子数1ないし24のアルキル基、炭素原子数5ないし12のシクロアルキル基、炭素原子数2ないし24のアルケニル基、炭素原子数5ないし12のシクロアルケニル基、炭素原子数7ないし15のフェニルアルキル基、炭素原子数7ないし12の飽和または不飽和化二環式または三環式炭化水素の基、或いは炭素原子数6ないし10のアリール基または1ないし3個の炭素原子数1ないし4のアルキル基により置換された前記アリール基を表す。)で表される基を表し;R2 は水素原子、直鎖または枝分かれ鎖の炭素原子数1ないし24のアルキル基または炭素原子数5ないし12のシクロアルキル基;または、1ないし4個のハロゲン原子、エポキシ基、グリシジル基、フリルオキシ基、-R 4,-OR5,-N(R5)2 、-CON(R 5)2、-COR 5,-COOR5,-OCOR 5,-OCOC(R5)=C(R 5)2、-C(R 5)=CCOOR5,-CN,-NCO、もしくは【化4】またはこれらの組合せにより置換された前記アルキル基または前記シクロアルキル基;或いは1ないし4個のエポキシ基、-O-、-NR 5-、-CONR5-、-COO-、-OCO-、-CO-、-C(R 5)=C(R 5)COO-、-OCOC(R 5)=C(R5 )-、-C(R 5)=C(R5)-、フェニレン基もしくは基:フェニレン-G-フェニレン(式中、Gは-O-、-S-、-SO 2-、-CH 2-もしくは-C(CH 3)2 -またはそれらの組合せを表す。)で中断された前記アルキル基または前記シクロアルキル基;或いは5 上述された基の組合せにより置換および中断の両方がなされた前記アルキル基または前記シクロアルキル基を表すか;或いはR 2 は-SO 2R 3 または-COR 6 を表し;R6 は直鎖または枝分かれ鎖の炭素原子数1ないし18のアルキル基、直鎖または枝分かれ鎖の炭素原子数2ないし12のアルケニル基、フェノキシ基、炭素原子数1ないし12のアルキルアミノ基、炭素原子数6ないし12のアリールアミノ基、-R7COOHまたは-NH-R 8-NCOを表し;R7 は炭素原子数2ないし14のアルキレン基またはフェニレン基を表し;R8 は炭素原子数2ないし24のアルキレン基、フェニレン基、トリレン基、ジフェニルメタン基または基【化5】を表し;R1,R1’、およびR1”は同じかまたは異なり、そしてR 1 に対する定義と同じであり;R2、R2’,およびR2”は同じかまたは異なり、そしてR 2 に対する定義と同じであり;X、X’,YおよびY’は同じかまたは異なり、そしてXおよびYに対する定義と同じであり;tは0ないし9でありLは直鎖もしくは枝分かれ鎖の炭素原子数1ないし12のアルキレン基、炭素原子数5ないし12のシクロアルキレン基、またはシクロヘキシレン基またはフェニレン基により置換または中断されたアルキレン基を表すか;或いはLはベンジリデ5 ン基を表わすか;或いはLは-S-、-S-S-、-S-E-S-、-SO-、-SO2-、-SO-E-SO-、-SO 2-E-SO 2-、-CH 2-NH-E-NH-CH2-または【化6】を表し;Eは炭素原子数2ないし12のアルキレン基、炭素原子数5ないし12のシクロアルキレン基または炭素原子数5ないし12のシクロアルキレン基で中断または停止されたアルキレン基を表し;nは2,3または4を表し;nが2を表す場合には;Qは直鎖もしくは枝分かれ鎖の炭素原子数2ないし16のアルキレン基;または1ないし3個のヒドロキシ基により置換された前記アルキレン基;または1ないし3個の-CH=CH-または-O-により中断された前記アルキレン基;または上述した基の組合せにより置換および中断の両方がなされた前記アルキレン基を表し;或いはQはキシリレン基または基-CONH-R 8-NHCO-、-CH 2 CH(OH)CH 2O-R 9-OCH 2CH(OH)CH 2-、-CO-R 10-CO-または-(CH 2)m-COO-R11-OOC-(CH2)m -(式中、mは1ないし3を表す。)を表すか;或いはQは【化7】を表し5 R9 は炭素原子数2ないし50のアルキレン基;または1ないし10個の-O-、フェニレン基、または基:-フェニレン-G-フェニレン-(式中、Gは-O-、-S-、-SO 2-、-CH 2-または-C(CH 3)2-を表す。)により中断された前記アルキレン基を表し;R10 は炭素原子数2ないし10のアルキレン基、または1ないし4個の-O-、-S-または-CH=CH-で中断された前記アルキレン基を表すか;或いはR 10は炭素原子数6ないし12のアリーレン基を表し;R11 は炭素原子数2ないし20のアルキレン基または1ないし8個の-O-により中断された前記アルキレン基を表し;nが3を表す場合、Qは基-[(CH 2) m COO] 3-R 12(式中、mは1ないし3を表し、そしてR 12は炭素原子数3ないし12のアルカントリイル基を表す。)を表し;nが4を表す場合、Qは基-[(CH 2) m COO] 4-R 13(式中、mは1ないし3を表し、そしてR 13は炭素原子数4ないし12のアルカンテトライル基を表す。)を表し;Z1 は式【化8】で表される基を表し;Z2 は式【化9】で表される基を表し (式中、r1 およびr2 はそれぞれ互いに独立して0または1を表す。);R14、R15、R 16、R 17、R18、R 19、R 20、R21、R 22 およびR 23 は互いに独立して、水素原子、ヒドロキシ基、シアノ基、炭素原子数1ないし20のアルキル基、炭素原子数1ないし20のアルコキシ基、炭素原子数7ないし15のフェニルアルキル基、炭素原子数5ないし12のシクロアルキル基、炭素原子数5ないし12のシクロアルコキシ基、ハロゲン原子、炭素原子数1ないし5のハロアルキル基、スルホ基、カルボキシ基、炭素原子数2ないし12のアシルアミノ基、炭素原子数2ないし12のアシルオキシ基、炭素原子数2ないし12のアルコキシカルボニル基またはアミノカルボニル基を表すか;或いは、R17 およびR 18 またはR22 およびR 23 はそれらが結合しているフェニル基と一緒になって1ないし3個の-O-または-NR 5-によって中断された環状基を表す。]からなる安定化された接着剤組成物。【請求項8】成分(b)のs‐トリアジン紫外線吸収剤が(1) 2,4-ビス(4-ビフェニルイル)-6-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシカルボニルエチリデンオキシフェニル)-s-トリアジン;5 (2) 2-フェニル-4-[2-ヒドロキシ-4-(3-第二ブチルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]-6-[2-ヒドロキシ-4-(3-第二アミルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]-s-トリアジン;(3) 2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-[2-ヒドロキシ-4-(3-ベンジルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)-フェニル]-s-トリアジン;(4) 2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブチルオキシフェニル)-6-(2,4-ジ-ブチルオキシフェニル)-s-トリアジン;(5) 2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-[2-ヒドロキシ-4-(3-ノニルオキシ *-2-ヒドロキシプロピルオキシ)-5-α-クミルフェニル]-s-トリアジン;( *はオクチルオキシ基、ノニルオキシ基およびデシルオキシ基の混合物を表す。)(6) メチレンビス-{2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-[2-ヒドロキシ-4-(3-ブチルオキシ-2-ヒドロキシプロポオキシ)フェニル]-s-トリアジン}の、3:5’、5:5’および3:3’位において5:4:1の比で架橋されているメチレン架橋されたダイマー混合物;(7) 2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-イソオクチルオキシカルボニルイソプロピリデンオキシフェニル)-s-トリアジン;(8) 2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシ-5-α-クミルフェニル]-s-トリアジン;(9) 2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-s-トリアジン、(CYASORB R 1164、Cytec社);(10)2-(2,4,6-トリメチルフェニル)-4,6-ビス[2-ヒドロキシ-4-(3-ブチルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]-s-トリアジン;5 (11)2,4,6-トリス[2-ヒドロキシ-4-(3-第二ブチルオキシー2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]-s-トリアジン;または(12)2,4,6-トリス(2,4-ジヒドロキシフェニル)-s-トリアジンとイソオクチルα-ブロモプロピオネートとの反応により製造される混合物である、請求項1記載の組成物。【発明の属する技術分野】本発明は、非常に高いモル吸光度値、高溶解性および優れた光安定のs-トリアジン紫外線吸収剤またはs-トリアジン紫外線吸収剤の混合物、例えば2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-[2-ヒドロキシ-4-(3-ノニルオキシ*-2-ヒドロキシプロピルオキシ)-5-α-クミルフェニル]-s-トリアジン(*はオクチルオキシ、ノニルオキシ、及びデシルオキシ基の混合物を表す。)、の有効量を含む安定化された接着剤組成物に関する。(【0001】)【従来の技術】発明の背景「接着剤は様々な成分、例えば高分子化合物、粘着付与剤、ワックスおよびオイルから造られる。これらの成分に基づく接着剤配合物は分解され易い。分解の結果は変色、伸びの喪失、引張強度の喪失、接着力の喪失および粘度、分子量および分子量分布の変化を与える。分解は日光への長期曝露により生じうる。日光は290nmないし400nmの間の波長をもつ非可視の紫外線を含む。この光線は光崩壊の開始の原因になる。」(【0002】)「接着剤の光安定化は、吸収されたエネルギーを無害な熱に転換する紫外線吸収剤を添加することにより、成し遂げられ得る。理想的な紫外線吸収剤は、290nmないし400nm、しかし特に350nmないし400nmの紫外線範囲に渡って、非常に光安定で且つ強い吸収を有するべきである。紫外線吸収剤の種類は、サリチ5 レート、シアノアクリレート、マロネート、オキサニリド、ベンゾフェノン、s-トリアジン及びベンゾトリアゾールを包含する。」(【0004】)サリチレート、シアノアクリレート、マロネート及びオキサニリドは、紫外線範囲の低波長側を主に吸収する。これらの化合物は350nmないし400nmの範囲内でほとんど吸収がないか、又は全く吸収を示さず、この事は、それらを本発明が意図する適用には不適当にする。ベンゾフェノンは紫外線範囲の低波長側半分に渡って吸収を示し、そしてそれらは、光分解に起因して、光曝露に応じて黄変する傾向を示す。最近、ベンゾフェノンは、エチレン-酢酸ビニル封入用樹脂中で早期に分解し、ポリエン性発色団を生ぜしめることが光化学的に示された。光による淡黄色ないし褐色の前記着色発生は、接着剤系において非常に望ましくなく且つ見目の悪いのみならず、接着性能の損失を起こし得る。これに対し、選択されたs-トリアジン紫外線吸収剤は、それらの向上された光安定であるが故に、有用である。(【0005】)詳細な説明「本発明の一般的な態様は、積層品または多層構造物における接着剤層として使用するのに適当な安定化された接着剤組成物に関するものであり、それは(a) 接着剤;および(b) 高溶解性、高モル吸光性および光安定の、下記式I、II、III、IV、VまたはVIで表されるs-トリアジン紫外線吸収剤またはそれらの混合物:・・・(省略)・・・からなる安定化された接着剤組成物よりなる。」(【0021】)「好ましくは、本発明のs-トリアジン紫外線吸収剤は【化27】【化28】【化29】【化30】【化31】【化32】である化合物である。」(【0028】)「上述した構造に示される本発明の化合物の名称は同様に下記に示すように列挙される。(1) 2,4-ビス(4-ビフェニルイル)-6-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシカルボニルエチリデンオキシフェニル)-s-トリアジン;(2) 2-フェニル-4-[2-ヒドロキシ-4-(3-第二ブチルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]-6-[2-ヒドロキシ-4-(3-第二アミルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]-s-トリアジン;5 (3) 2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-[2-ヒドロキシ-4-(3-ベンジルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)-フェニル]-s-トリアジン;(4) 2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-n-ブチルオキシフェニル)-6-(2,4-ジ-n-ブチルオキシフェニル)-s-トリアジン;(5) 2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-[2-ヒドロキシ-4-(3-ノニルオキシ *-2-ヒドロキシプロピルオキシ)-5-α-クミルフェニル]-s-トリアジン;( *はオクチルオキシ基、ノニルオキシ基およびデシルオキシ基の混合物を表す。)(6) メチレンビス-{2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-[2-ヒドロキシ-4-(3-ブチルオキシ-2-ヒドロキシプロポオキシ)フェニル]-s-トリアジン}であって、3:5’、5:5’および3:3’位において5:4:1の比で架橋されているメチレン架橋されたダイマー混合物;(7) 2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-イソオクチルオキシカルボニルイソプロピリデンオキシフェニル)-s-トリアジン;(8) 2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシ-5-α-クミルフェニル]-s-トリアジン;(9) 2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-s-トリアジン、(登録商標キヤソルブ(CYASORB)R1164、サイテック(Cytec)社);(10)2-(2,4,6-トリメチルフェニル)-4,6-ビス[2-ヒドロキシ-4-(3-ブチルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]-s-トリアジン;(11)2,4,6-トリス[2-ヒドロキシ-4-(3-第二ブチルオキシー2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]-s-トリアジン;または(12)2,4,6-トリス(2,4-ジヒドロキシフェニル)-s-トリアジン5 とイソオクチルα-ブロモプロピオネートとの反応により製造される混合物である。好ましくは、成分(b)のs-トリアジン紫外線吸収剤は(1) 2,4-ビス(4-ビフェニルイル)-6-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシカルボニルエチリデンオキシフェニル)-s-トリアジン;(5) 2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-[2-ヒドロキシ-4-(3-ノニルオキシ *-2-ヒドロキシプロピルオキシ)-5-α-クミルフェニル]-s-トリアジン;( *はオクチルオキシ基、ノニルオキシ基およびデシルオキシ基の混合物を表す。)(7) 2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-イソオクチルオキシカルボニルイソプロピリデンオキシフェニル)-s-トリアジン;(12)2,4,6-トリス(2,4-ジヒドロキシフェニル)-s-トリアジンとイソオクチルα-ブロモプロピオネートとの反応により製造される混合物である。」(【0029】)「本発明において、本発明のs-トリアジンは、接着剤中及び積層品又は多層品の接着剤層中で使用することが意図されているけれども、前記s-トリアジンが前記製品の他の層、例えば、何らかの染料または顔料が中に存在するポリマーフィルムに、直接混入、同時押出または前記接着剤層から前記他の層(群)への移行の何れかにより混入される場合にも、同様に利点がある紫外線吸収保護が前記製品に行われることは明らかである。」(【0059】)【実施例】「以下の実施例は本発明を説明する。実施例1選択されたs-トリアジン紫外線吸収剤の紫外線吸収下記表は種々のs-トリアジン紫外線吸収剤の紫外線吸収を示す。紫外線吸収スペクトルは約20mg/Lの濃度にて酢酸エチル溶液中で測定される。これらのデ5 ータはおのおのの化合物に関し最大波長において高いモル吸収値を示す。典型的なベンゾトリアゾールおよびベンゾフェノン紫外線吸収剤が比較のために示された。s-トリアジンに対するモル吸収値はベンゾトリアゾールまたはベンゾフェノンのいずれに対する値よりも非常により大きい。」(【0067】)「【表1】*Aは4-メトキシ-2,2’-ジヒドロキシベンゾフェノンである。Bは4,4’-ジメトキシ-2,2’-ジヒドロキシベンゾフェノンである。Cは5-クロロ-2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ第三ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、チヌビン(TINUVIN)R327,Ciba製である。Dは2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-α-クミルフェニル)2H-ベンゾトリアゾール、チヌビン(TINUVIN) R900,Ciba製である。5 Eは2,4-ビス(4-ビフェニルイル)-6-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシカルボニルエチリデンオキシフェニル)-s-トリアジンである。Fは2-フェニル-4-[2-ヒドロキシ-4-(3-第二ブチルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]-6-[2-ヒドロキシ-4-(3-第二アミルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]-s-トリアジンである。Gは2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-[2-ヒドロキシ-4-(3-ベンジルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)-フェニル]-s-トリアジンである。Hは2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブチルオキシフェニル)-6-(2,4-ジ-ブチルオキシフェニル)-s-トリアジンである。Iは2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-[2-ヒドロキシ-4-(3-ノニルオキシ*-2-ヒドロキシプロピルオキシ)-5-α-クミルフェニル]-s-トリアジン;( *はオクチルオキシ基、ノニルオキシ基およびデシルオキシ基の混合物を表す。)である。Jはメチレンビス-{2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-[2-ヒドロキシ-4-(3-ブチルオキシ-2-ヒドロキシプロポオキシ)フェニル]-s-トリアジン}、3:5’、5:5’および3:3’位において5:4:1の比で架橋されているメチレン架橋されたダイマー混合物である。Kは2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-イソオクチルオキシカルボニルイソプロピリデンオキシフェニル)-s-トリアジンである。Lは2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシ-5-α-クミルフェニル]-s-トリアジンである。Mは2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-s-トリアジン、(CYASORB R 1164、Cytec社)である。Nは2-(2,4,6-トリメチルフェニル)-4,6-ビス[2-ヒドロキシ-5 4-(3-ブチルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]-s-トリアジンである。Oは2,4,6-トリス[2-ヒドロキシ-4-(3-第二ブチルオキシー2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]-s-トリアジンである。Pは2,4,6-トリス(2,4-ジヒドロキシフェニル)-s-トリアジンとイソオクチルα-ブロモプロピオネートとの反応により製造される混合物である。」(【0068】)以 上
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