令和7(行ケ)10100審決取消請求事件
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| 裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
|
| 裁判年月日 |
令和8年7月1日 |
| 事件種別 |
民事 |
| 当事者 |
原告GROOVEX株式会社 被告特許庁長官
|
| 対象物 |
ロボット、プログラム及び方法 |
| 法令 |
特許権
特許法29条2項1回
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| キーワード |
審決21回 拒絶査定不服審判2回 優先権2回 進歩性1回 実施1回
|
| 主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
| 事件の概要 |
本件は、原告が被告に対し、拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取
消しを求める事案である。争点は進歩性の有無である。 |
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判決文
令和8年7月1日判決言渡
令和7年(行ケ)第10100号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和8年5月13日
判 決
原 告 GROOVE X株式会社
同訴訟代理人弁理士 塩 田 国 之
10 被 告 特 許 庁 長 官
同 指 定 代 理 人 殿 川 雅 也
川 俣 洋 史
門 良 成
小 川 将 之
15 北 村 英 隆
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
20 第1 請求
特許庁が不服2024-7356号事件について令和7年9月16日にした
審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は、原告が被告に対し、拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取
25 消しを求める事案である。争点は進歩性の有無である。
1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがないか、又は当裁判所に顕
著な事実)
⑴ 原告は、令和4年11月4日、発明の名称を「ロボット、プログラム及び
方法」とする発明について、特許出願(特願2022-177451。優先
権主張日:平成29年9月11日(以下「本願優先日」という。)、優先権主
5 張国:日本国。以下「本願」という。)をしたが、令和6年1月26日付けで
拒絶査定を受けた。
⑵ 原告は、同年4月30日、上記拒絶査定に対し拒絶査定不服審判請求(不
服2024-7356号)をしたが、令和7年1月31日付けで拒絶理由が
通知され、原告は、同年4月7日に手続補正書を提出した(以下、この手続
10 補正を「本件補正」という。)。
⑶ 特許庁は、同年9月16日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審
決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月30日、原告に送達
された。
⑷ 原告は、同年10月29日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起し
15 た。
2 特許請求の範囲の記載
本件補正後の本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおりであ
る(以下、この発明を「本願発明」という。甲7)。
「【請求項1】
20 ロボットのモーションを選択する動作制御部と、
前記動作制御部により選択されたモーションを実行する駆動機構と、
前記ロボットの表示装置に眼画像を表示させる眼制御部とを備え、
前記眼制御部は、前記眼画像において軸点を中心として瞳領域を振動させつ
つ、前記眼画像において前記軸点を波状に移動させることを特徴とするロボッ
25 ト。」
3 本件審決の理由の要旨
本願発明は、以下のとおり、当業者が容易に発明をすることができたもので
あるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
⑴ 引用発明並びに本願発明との一致点及び相違点(当事者間に争いがない。)
ア 本願優先日前に頒布された特開2003-205489号公報(甲1。
5 以下「引用文献1」という。)には、次の発明が記載されている(以下「甲
1発明」という。)。
「透明凸状体の背面に液晶または有機ELを用いた三次元曲面型の電子表
示素子を設けて構成され、感情に対応した電気信号によりその表示パタン
を変化させる人工目が設けられており、
10 電子表示素子は、角膜、虹彩、瞳孔など目の感情表現にかかわる要素を
組み合わせて感情表現のパタンの種類を増やし、現実感の高い感情表現を
実現することができ、
光、音、温度刺激から刺激発生方向や距離を判断し、少なくとも視線を
その方向に向ける機能を設けることにより、外界の刺激に対して迅速、適
15 切に感情対応して、より生物に近づき、親近感を高められ、
多彩な感情表現を行うことができ、動作のバリエーションを増やした、
親しみの持てる相棒、ペット、先生、仲間、補助者、スターなどのロボッ
ト」
イ 対比
20 (一致点)
ロボットのモーションを制御する動作制御部と、前記動作制御部により
制御されたモーションを実行する駆動機構と、前記ロボットの表示装置に
眼画像を表示させる眼制御部とを備える、ロボット。
(相違点1)
25 本願発明は、「眼制御部」が、「前記眼画像において軸点を中心として瞳
領域を振動させつつ、前記眼画像において前記軸点を波状に移動させる」
ものであるのに対し、甲1発明の「眼制御部」が、人工目に表示される要
素にこのような動きをさせる制御をすることが明らかでない点。
(相違点2)
本願発明は、
「動作制御部」が「モーションを選択」して「駆動機構」が
5 「選択されたモーションを実行する」ものであるのに対し、甲1発明は、
「多彩な感情表現を行うことができ、動作のバリエーションを増やし」た
「ロボット」ではあるものの、動作(「モーション」)を制御するものでは
あるものの、
「モーション」が「選択」されているとまで特定されていない
点。
10 ⑵ 文献に記載された発明等
本願優先日前に発行された後記文献一覧記載の各文献には、以下の発明等
が記載されていると認められる。
ア 引用文献2(甲2)に記載された発明(以下「甲2発明」という。)
「対面コミュニケーションにおける話し手の音声と聞き手の頷きとの間の
15 同調を分析し、同調分析に基づく音声入力を使用することによって頷きお
よび身体の動きなどの様々なコミュニケーション動作および動きを生成
するために開発されるiRT(インタロボット技術)を構成し、半球ディス
プレイを使用して、人間とロボットとの間の具現化された相互作用が強化
された表現可能な瞳孔応答インターフェースであって、
20 瞳孔の法線方向がZ軸、上下方向がY軸であり、
瞳孔の3Dモデルは、瞳孔及び虹彩からなり、眼球には白色の部分が
あり、
瞳孔応答は、違和感を生じないように、フレームレート30fps、瞳孔
のZ軸上の前後移動を 5.2 mm/フレームで発生させ、頷き運動は、0.2
25 5rad/フレームでのY軸上の上下運動によって実現される、
瞳孔応答インターフェース。」
イ 引用文献3(甲3)に記載された発明(以下「甲3発明」という。)
「人間のような高速な眼球運動(サッケードや固視微動)を表現するため
に、目をプロジェクタで投影することで高速な眼球運動を可能にして親し
みやすさを兼ね備えた目を表現する、駆動機構を持たないロボットの目。」
5 ウ 周知事項文献(甲5)に記載された周知事項(以下「周知事項」という。)
「比較的大きく速い直線的な動きであるマイクロサッカードと、大きくて
ゆっくりとした蛇行を含む曲線的な動きであるドリフトと、小さくて高周
波数のノイズのような細かい動きであるトレモアに分類され、固視微動と
呼ばれる眼球運動。」
10 (文献一覧)
引用文献2:Y. SEJIMA、 et al.、 “Development of an Expressible
Pupil Response Interface Using Hemispherical
Displays”、 Proceedings of the 24th IEEE International
Symposium on Robot and Human Interactive
15 Communication、 Kobe、 Japan、 Aug 31 - Sept 4、 2015、
pp. 285-290。(甲2)
引用文献3:小林貴訓、
“実世界誘目性の解明に基づく駆動機構を持たな
いロボットの目の実現”、研究機構プロジェクト研究成果報
告書、埼玉大学大学院理工学研究科、2014年2月3日。
20 (甲3)
周知事項文献:金子寛彦、“知っておきたいキーワード 固視微動”、映
像情報メディア学会誌、63巻11号、1538頁~1
539頁。(甲5)
⑶ 相違点1に係る容易想到性の判断
25 本願発明は、甲1発明に、周知事項を考慮した上で、①甲2発明を適用す
ることにより、又は、②甲3発明を適用することにより、相違点1に係る本
願発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得るものである。
⑷ 相違点2についても、関係証拠によると容易想到であると認められる(な
お、原告はこの点の判断について争っていない。)。
第3 原告主張の審決取消事由
5 1 取消事由1(甲3発明の認定の誤り)
本件審決は、引用文献3に甲3発明が記載されていると認定した。
しかし、引用文献3は、全体として、人間とロボットのコミュニケーション
を円滑にすることが主目的であり、ロボットの目の評価にあたっては、人間か
らの見え方が重要である点で一貫しており、
「人間のような高速な眼球運動(サ
10 ッケードや固視微動)を表現する」ことを目的としていない。よって、本件審
決が、甲3発明を「人間のような高速な眼球運動(サッケードや固視微動)を
表現するために、」と認定したことは誤りである。
2 取消事由2(甲2発明の認定の誤り)
本件審決は、引用文献2に甲2発明が記載されていると認定した。
15 しかし、甲2発明の移動は3次元上の移動であり、引用文献2には「瞳孔応
答」及び「頷き運動」が中心点を有する運動であるかどうかについても触れら
れていない。よって、甲2発明は、3次元上で前後移動等を行うものであって、
本願発明のように2次元の表示画面である「前記眼画像において軸点を中心と
して瞳領域を振動させ」る構成ではないから、甲2発明が本願発明の「軸点を
20 中心として瞳領域を振動」させることに相当するとした本件審決の認定は誤り
である。
3 取消事由3(周知事項に基づく相違点1の判断の誤り)
⑴ 本件審決は、周知事項文献(甲5)により周知事項を認定し、甲1発明に、
周知事項を考慮した上で、甲2発明又は甲3発明を適用することにより、相
25 違点1に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得るもので
あると判断した。
⑵ しかし、周知事項は、人間の眼球に関する事項であって、ロボットの眼は
人間の眼球とは異なる構成を持っているから、これらを同視して論ずること
はできない。
仮に、ロボットの眼と人間の眼球とを同視した場合であっても、人間の眼
5 球の特徴をロボットの眼に適用することが人間とロボットの間のコミュニケ
ーションを高めることには必ずしもつながらない。すなわち、ロボットにお
いて人間の模倣をする場合、一定の基準をもって人間の持っている特徴を取
捨選択していることや、ロボットを人間に近づけすぎるとかえって不気味さ
を覚えるという「不気味の谷」という現象がよく知られていることは、本願
10 優先日当時の技術常識である。
さらに、通常の人間にとっては、
「固視微動」は「眼が止まってるように見
える」ものであるから、当業者にとっては、固視微動をロボットの眼に適用
することとロボットと人間との間のコミュニケーションを高めることとの関
連性をにわかに理解することはできない。そして、
「眼が止まっているように
15 見える」固視微動をロボットの眼に適用することがロボットと人間のコミュ
ニケーションを高めることについて、いずれの文献にも記載も示唆もされて
いない。そうすると、本件審決は、本願発明の特徴点に到達できる試みをし
たであろうという推測をしているにすぎず、周知事項に基づく相違点1の判
断には誤りがある。
20 ⑶ これに対し、被告は、甲1発明及び甲2発明は、ともに感情表現を実現す
るロボットの目に、ロボットに親近感を持たせ、ロボットとのコミュニケー
ションを高めるとの課題を解決するために、人間らしい目の動作をさせると
の技術思想に基づくものと主張するが、事後分析的かつ非論理的思考による
認定であり、失当である。
25 また、被告は、甲3発明を、人間の眼球をそのままの形状、見た目で実世
界に出現させたりするものと主張するが、これも事後分析的かつ非論理的思
考による認定であり、失当である。
第4 被告の反論
1 取消事由1(甲3発明の認定の誤り)について
引用文献3は、「駆動機構を持たないロボットの目の実現」を目的としたも
5 のであって、従来技術として、「これまでのロボットはカメラをロボットの顔
に埋め込むことで目としてきた」ところ、「このような機械的にカメラを動か
す機構では、人間のような高速な眼球運動(サッケードや固視微動)を表現す
ることは難しい」との課題があり、かかる課題を解決するために、「目をプロ
ジェクタで投影する」との構成を採用することにより、「高速な眼球運動を可
10 能にするとともに、目の形状や虹彩(黒目)の大きさを様々に変えて、ロボッ
トらしい親しみやすさを兼ね備えた目を表現する」ことを可能としたものであ
る。これにより、「実世界での誘目性を考慮した眼球運動を実現」して、「人間
のような高速な眼球運動を含む見せる機能と、見る機能を両立した駆動機構を
持たないロボットの目を開発」したものである。そして、引用文献3が、全体
15 として、人間とロボットのコミュニケーションを円滑にすることが主目的であ
り、ロボットの目の評価にあたっては、人間からの見え方が重要であるとして
いることは、甲3発明の認定と矛盾ないし当該認定を否定するものではない。
したがって、本件審決の甲3発明の認定に誤りはない。
2 取消事由2(甲2発明の認定の誤り)について
20 本願発明の「前記眼画像において軸点を中心として瞳領域を振動させ」るこ
とは、「ロボットの表示装置」に表示される「眼画像」において、「瞳領域」が
「軸点」を中心点として「振動」運動を行うように表示されることを意味する
ものであって、「軸点」を中心とする「瞳領域」の「振動」運動は、「軸点」を
中心にして「瞳領域」が振動しているように見えるものであれば、その「振動」
25 の態様は、いかなるものであっても構わないものと解される。
そして、甲2発明は、
「半球ディスプレイ」を使用した「瞳孔応答インターフ
ェース」であって、「瞳孔の法線方向がZ軸、上下方向がY軸であ」って、「瞳
孔応答は、違和感が生じないように」、「瞳孔のZ軸上の前後移動」を「発生」
させるものであるから、かかる「Z軸上の前後移動」により、
「半球ディスプレ
イ」に表示される「瞳孔」の大きさがZ軸の通る点を中心にして大きくなった
5 り、小さくなったりを繰り返すことにより、Z軸の通る点を中心にして「瞳孔」
が振動しているように見えるものである。同様に、
「頷き運動」の「Y軸上の上
下運動」についても、かかる「上下運動」の中点を中心として、
「瞳孔」が「上
下」方向に振動しているように見えるものである。
したがって、本件審決の甲2発明の認定に誤りはない。
10 3 取消事由3(周知事項に基づく相違点1の判断の誤り)について
⑴ 甲1発明に甲2発明を適用する際に周知事項を考慮することにより、相違
点1に係る構成に至ること
甲1発明は、ロボットに親近感を持たせ、ひいては、ロボットとのコミュ
ニケーションを高めるとの課題を解決するために、ロボットに生物の目にで
15 きるだけ類似した人工目を持たせたり、その人工目に感情表現のパタン表示
をさせたりするものである。
そして、甲2発明は、
「様々なコミュニケーション動作および動きを生成す
るために開発」された、
「人間とロボットとの間の具現化された相互作用が強
化された表現可能な瞳孔応答インターフェース」に係る発明である。
20 そうすると、甲1発明及び甲2発明は、ともに感情表現を実現するロボッ
トの目に、ロボットに親近感を持たせ、ロボットとのコミュニケーションを
高めるとの課題を解決するために、人間らしい目の動作をさせるとの技術思
想に基づくものといえる。よって、甲1発明の「人工目」に、課題が共通し、
同様の技術思想に基づく甲2発明の「瞳孔応答」の表示技術を適用する動機
25 付けがある。
この適用に際して、
「人間とロボットとの間の具現化された相互作用」を強
化するために、人間の目が行う動作である「瞳孔反応」や「頷き運動」に加
えて、周知事項を考慮して、同じく人間の目が行う動作である「固視微動」
を再現するように、「比較的大きく速い直線的な動きであるマイクロサッカ
ード」、「大きくてゆっくりとした蛇行を含む曲線的な動きであるドリフト」
5 及び「小さくて高周波数のノイズのような細かい動きであるトレモア」の動
作を表現可能とすることは、当業者が適宜なし得た設計的事項の範疇である。
したがって、甲1発明に甲2発明を適用する際に周知事項を考慮すること
により、相違点1に係る構成に至ることは当業者が容易になし得ることであ
り、本件審決の判断に誤りはない。
10 ⑵ 甲1発明に甲3発明を適用する際に周知事項を考慮することにより、相違
点1に係る構成に至ること
甲1発明は、上記⑴のとおり、ロボットに親近感を持たせ、ひいては、ロ
ボットとのコミュニケーションを高めるとの課題を解決するために、ロボッ
トに生物の目にできるだけ類似した人工目を持たせたり、その人工目に感情
15 表現のパタン表示させたりするものである。
そして、甲3発明は、ロボットに親しみやすさを持たせ、ひいては、ロボ
ットとのコミュニケーションを高めるとの課題を解決するために、ロボット
に人間のような高速な眼球運動を表現させたり、人間の眼球をそのままの形
状、見た目で実世界に出現させたりするものである。
20 そうすると、甲1発明に、課題、機能において共通し、同様の技術思想に
基づく甲3発明を適用することには、動機付けがある。
そして、甲3発明の「高速な眼球運動」は「固視微動」を含む運動である
から、上記適用の際に、周知事項の固視微動を考慮して、前記の「マイクロ
サッカード」、
「ドリフト」及び「トレモア」の動作を表現可能とすることは、
25 当業者が適宜なし得た設計的事項の範疇である。
したがって、甲1発明に甲3発明を適用する際に周知事項を考慮すること
により、相違点1に係る構成に至ることは当業者が容易になし得ることであ
り、本件審決の判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 本願発明の概要
5 本願に係る特許請求の範囲(前記第2の2)並びに本願に係る明細書及び図
面(以下、併せて「本願明細書等」という。)の記載(甲6。以下、その段落番
号等を【】で示す。)によると、本願発明の概要は以下のとおりであると認めら
れる。
⑴ 【技術分野】本願発明は、内部状態又は外部環境に応じて自律的に行動選
10 択するロボットに関する発明である(【0001】)。
⑵ 【発明が解決しようとする課題】近年、ロボット技術は急速に進歩しつつ
あるが、ペットのような伴侶としての存在感を実現するには至っていない。
ロボットに「生物としての存在感」を発揮させるためには、ロボットにおけ
る眼の表現力、特に「見つめる」制御が重要であると考えられる。本願発明
15 の主たる目的は、ロボットがユーザを見つめる際の好適な制御方法を提案す
ることにある。(【0004】~【0006】)
⑶ 【課題を解決するための手段】そこで、本願発明のある態様におけるロボ
ットは、ロボットのモーションを選択する動作制御部と、動作制御部により
選択されたモーションを実行する駆動機構と、ロボットの表示装置に眼画像
20 を表示させる眼制御部とを有し、眼制御部は、眼画像において瞳領域を振動
させる(【0007】)。
⑷ 【発明の効果】本願発明によると、ロボットから見つめられている感覚を
ロボットの観察者にもたせやすくなる【0011】。
⑸ 【発明を実施するための形態】
【眼画像制御】人間の瞳は、眼から取り入れ
25 た光が網膜に焼き付くのを防ぐため、また、視神経の疲れを防止するため絶
えず微動している。これを「固視微動」という。固視微動は、ドリフト(drift)、
トレマ(tremor)、マイクロサッケード(micro-saccade)といった動きに分
解される。ドリフトは瞳の中心点の波状の動き、トレマはドリフトに重なっ
たジグザグの動き、マイクロサッケードは瞳の直線状の動きを表す。固視微
動は、人間の心理状態を表すともいわれている。本願発明のロボットの眼制
5 御は、この固視微動をシミュレートする。具体的には、瞳画像の軸点を波状
にゆっくり動かしつつ、瞳画像を、軸点を中心として振動させることにより
トレマとドリフトを表現する。また、定期的、あるいは、ランダムに瞳画像
の軸点を跳躍的に移動させることでマイクロサッケードを表現する。瞳画像
を振動させることにより、特に、固視微動に似た動きをさせることにより、
10 ロボットの生物感をいっそう高めることができる。(【0124】~【012
6】)
2 取消事由1(甲3発明の認定の誤り)について
原告は、本件審決が、甲3発明を「人間のような高速な眼球運動(サッケー
ドや固視微動)を表現するために、」と認定したことは誤りであると主張する。
15 しかし、引用文献3は、
「実世界誘目性の解明に基づく駆動機構を持たないロ
ボットの目の実現」を主題とした研究報告である(甲3)。そして、この研究報
告は、
「人間の目は見る機能と共に見せる機能が大切」であり、このことは、
「将
来、人と共に活動することが求められるロボットにおいても重要である」との
発想を基礎とし、「これまでのロボットはカメラをロボットの顔に埋め込むこ
20 とで目としてきた」こと及び「実際に、ヒューマノイドロボットの多くは、上
下左右に動く眼球のような形状のカメラを顔に埋め込んでいる」ことを背景技
術として、
「このような機械的にカメラを動かす機構では、人間のような高速な
眼球運動(サッケードや固視微動)を表現することは難しい」との認識の下、
「目をプロジェクタで投影することで高速な眼球運動を可能にするとともに、
25 目の形状や虹彩(黒目)の大きさを様々に変えて、ロボットらしい親しみやすさ
を兼ね備えた目を表現する」ことを研究の目的(解決すべき課題)とした。そ
して、その目的を達成(課題を解決)する手段として、
「プロジェクタで投影し
た目」を用いて人間のような高速な眼球運動を含む見せる機能を備えた「ロボ
ットの目」により、
「実世界での誘目性を考慮した眼球運動を実現」し、上記目
的を達成する作用効果が得られることを内容としたものであると認められる
5 (甲3)。
そうすると、引用文献3は「人間のような高速な眼球運動(サッケードや固
視微動)を表現する」ことを目的としたものと認められるのであり、本件審決
が、甲3発明を「人間のような高速な眼球運動(サッケードや固視微動)を表
現するために、」と認定したことに誤りはない。
10 3 取消事由3(周知事項に基づく相違点1の判断の誤り)について
⑴ 引用文献1によると、甲1発明は、液晶又は有機ELを用いた電子表示素
子を用いて、角膜、虹彩、瞳孔など目の感情表現にかかわる要素を組み合わ
せて現実感の高い感情表現を実現することにより、より生物に近づき、親近
感を高められた人工目が設けられたロボットに係る発明であって(前記第2
15 の3⑴)、より意思疎通のできる、かわいく、親しみ易いロボットのため、リ
アリティーの高い感情表現を果たす人工目及びそれを用いたロボットを提供
することを課題とし、それを解決するために、ロボットに生物の目にできる
だけ類似した人工目を持たせたり、その人工目に感情表現のパタン表示をさ
せたりするものである(引用文献1の段落【0007】、【0011】~【0
20 014】)。
そして、上記2の判示のとおり、甲3発明は、人間のような高速な眼球運
動(サッケードや固視微動)を表現するために、目をプロジェクタで投影す
ることで高速な眼球運動を可能にして親しみやすさを兼ね備えた目を表現す
る、駆動機構を持たないロボットの目に係る発明であり、
「人間のような高速
25 な眼球運動」には周知事項である「固視微動」が含まれるものと認められる。
そうすると、甲1発明と甲3発明は、課題や技術思想が共通するから、甲
1発明に甲3発明を適用する動機づけがあり、甲3発明を適用する際に周知
事項である固視微動を考慮し、相違点1に係る本願発明の構成とすることは
当業者が容易に想到し得るものということができる。
⑵ これに対し、原告は、①周知事項は人間の眼球に関する事項であるから、
5 人間の眼球とロボットの眼とを同視して論ずることはできない、②人間の眼
球の特徴をロボットの眼に適用することが人間とロボットの間のコミュニケ
ーションを高めることには必ずしもつながらない、③当業者にとっては、固
視微動をロボットの眼に適用することとロボットと人間との間のコミュニケ
ーションを高めることとの関連性をにわかに理解することはできないなどと
10 主張する。
しかし、上記①及び②については、ロボットを親しみやすいものとするた
めに、その眼と人間ないし生物の眼を類似させることが好まれることは引用
文献1及び3に記載されたとおりであり、その際、具体的に人間の眼球の特
徴のうち、どのようなものをロボットの眼に適用するかは、当業者が適宜採
15 用し得る事項と解される。原告は「不気味の谷」についても主張するが、ロ
ボットの眼に固視微動を適用すると不気味に感じられるといったことも本件
の証拠上うかがわれず(かえって前記認定の本願明細書等の記載によると、
固視微動に似た動きをさせることによりロボットの生物感が一層高まり、本
願発明の主たる目的であるロボットがユーザを見つめる際の好適な制御方法
20 が達成されると解される。)、これを適用することに阻害事由があるとも認め
られない。また、上記③については、固視微動をロボットの眼に適用するこ
ととロボットと人間との間のコミュニケーションを高めることとの関連性は、
前記2に判示したとおり引用文献3に記載されているから、その関連性を理
解することができると解される。
25 したがって、原告の主張はいずれも採用することができない。
4 結論
以上によると、その余の点を判断するまでもなく、甲1発明に周知事項を考
慮した上で甲3発明を適用することにより、相違点1に係る本願発明の構成と
することは当業者が容易に想到し得るものであるから、本願発明は当業者が容
易に発明をすることができたものであるとした本件審決の判断は相当であり、
5 原告主張の取消事由には理由がない。
よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のと
おり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
長 谷 川 浩 二
裁判官
伊 藤 清 隆
裁判官
25 諸 岡 慎 介
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