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令和6(ワ)6912損害賠償請求事件

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裁判所 一部認容 大阪地方裁判所
裁判年月日 令和8年7月28日
事件種別 民事
当事者 原告ランドスケープ・ソフトウェア株式会社
法令 不正競争
民法719条1項1回
キーワード 許諾3回
損害賠償3回
実施3回
分割1回
侵害1回
主文 1 被告は、原告に対し、141万円及びこれに対する令和8年5月28日から支
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを12分し、その1を被告の負担とし、その余は原告の負担
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事件の概要 本件は、「ランドリーパック」及び「ランドリーオン」という、マンションの 入口等に設置されている宅配ボックス等のロッカーを利用してクリーニングを 出すことができるサービスを提供している会社である原告が、原告の元従業員で ある被告に対し、被告が原告の使用していたサーバーのアカウント情報を書き換 えて営業秘密 (ランドリーパック等のソースコードやデータベース内の顧客情報 等のデータ)を不正に取得したものであり、かかる行為が、不正競争防止法(以 下「不競法」という。)2条1項7号の不正競争に該当し、就業規則に基づく秘 密保持義務にも違反するとして、不法行為又は債務不履行に基づき、損害賠償金

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判決文

令和8年7月28日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

令和6年(ワ)第6912号 損害賠償請求事件

口頭弁論終結日 令和8年6月8日

判 決

原告 ランドスケープ・ソフトウェア株式会社

代表者代表取締役 C

訴訟代理人弁護士 山 縣 史 也

被告

訴訟代理人弁護士 木 薮 智 幸

主 文

1 被告は、原告に対し、141万円及びこれに対する令和8年5月28日から支

払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は、これを12分し、その1を被告の負担とし、その余は原告の負担

とする。

4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

被告は、原告に対し、1711万7968円及びこれに対する令和8年5月28日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は、「ランドリーパック」及び「ランドリーオン」という、マンションの入口等に設置されている宅配ボックス等のロッカーを利用してクリーニングを出すことができるサービスを提供している会社である原告が、原告の元従業員である被告に対し、被告が原告の使用していたサーバーのアカウント情報を書き換えて営業秘密(ランドリーパック等のソースコードやデータベース内の顧客情報等のデータ)を不正に取得したものであり、かかる行為が、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項7号の不正競争に該当し、就業規則に基づく秘

5 密保持義務にも違反するとして、不法行為又は債務不履行に基づき、損害賠償金1711万7968円及びこれに対する訴えの変更申立書の送達の日の翌日(令和8年5月28日)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。1 本判決で用いる呼称(略語)・ ランドリーパック等:ランドリーパック及びランドリーオン・ S社:・ T社:・ A:・ B:・ C:・ D:・ 本件サーバー:Amazon Web Service が提供するレンタルサーバー・ 本件情報:別紙営業秘密目録記載1ないし3の各情報(目録記載の番号ごとに「本件情報1」などという。)2 前提事実(争いのない事実、掲記の証拠(枝番を含む。以下同様。)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)

(1) 当事者等原告は、情報処理システム開発の計画作成、コンピュータおよび付属品の販売等を目的とする株式会社であり(甲1)、ランドリーパック等のサービスを提供していた。Aは、原告の代表取締役を務めていたが、令和4年4月14日に原告の代表取締役を退任し、取締役を辞任した(甲1)。Cは、原告の取締役であり、令和4年5月6日から原告の代表取締役を務めている(弁論の全趣旨)。被告は、令和4年4月30日まで原告に勤務していた元従業員である(甲2)。

5 S社及びT社は、いずれもBが代表取締役を務める株式会社である(甲14、15)。

(2) 原告の就業規則原告の就業規則には、(顧客の機密保持)第15条として、「従業員は、顧客との取引や提携などによって知り得た機密や顧客のトレードシークレットなどを他に漏らしたり、他の目的に使用してはならない。」と規定されていた(甲3)。

(3) ランドリーパック等ア ランドリーパックは、マンションの入口等に設置されている宅配ボックス等のロッカーを利用してクリーニングを出すことができるサービスであり、具体的には、利用者がスマートフォンのアプリを利用して会員登録を行った上で、アプリ上で衣料品の預け入れの申込みを行い、所定のロッカーに衣料品を預け入れると数日後に当該ロッカーにクリーニングが完了した衣料品が届けられ、これを受け取ることができるというサービスである(甲6、31)。イ ランドリーオンも、ランドリーパックと同様のサービスであり(甲8)、顧客がランドリーオンのアプリを利用してサービスの提供を受ける場合であっても、接続されているのはランドリーパックのプログラムであり、売上の集計もランドリーパックのシステム上で行われている(甲7、8、弁論の全趣旨)。ウ 原告が契約をし、かつ顧客に対するサービスの提供のために使用していた本件サーバーの原告アカウント内には、ランドリーパック等を含む、原告が顧客に提供していたクリーニングレジのシステムや、これに付随するスマートフォンのアプリケーションのプログラムが保存されており(甲5)、ランドリーパック等に関する本件情報(本件情報1のうちのID、パスワード等を除く。)が保存されていた。本件サーバーの原告アカウントは、本件情報1

5 のうちのID及びパスワードにより管理されていた。

(4) Aによる行為Aは、令和4年3月頃、本件サーバー上の原告のアカウントIDを原告のメールアドレスからS社のメールアドレスに変更し、変更後のアカウントIDとパスワードをS社に提供するという方法により、本件情報を、原告ではなくS社が利用できるようにした(甲18、争いなし)。

(5) T社及びS社によるサービスの提供ランドリーパックのアプリは、App Store においては遅くとも令和4年11月29日の時点からT社の保有となっており(甲10の2)、Google Play においては遅くとも同年6月12日の時点からS社の保有となっている(甲12の3)。また、S社は、現在「サスプロ」というサービスを提供しているところ、ランドリーオンとサスプロは同一のサービスである(甲8、9)。

(6) 本件訴訟の経過原告は、本件訴え提起の当初から、本判決書被告欄記載の人物のみを被告とし、T社及びS社やAを被告とはしていなかった。原告と被告は、令和7年4月24日の弁論準備手続期日において、和解について検討するとして以降、継続的に和解に向けての協議を重ね、同年7月に被告に代理人弁護士が就いて以降もこれが継続されたが、最終的には合意に至らず、令和8年3月10日の弁論準備手続期日で和解の試みは打ち切られた。3 争点

(1) 被告の行為、不法行為該当性、共同不法行為該当性及び債務不履行該当性(争点1)

(2) 損害の発生及び額(争点2)

第3 争点に関する当事者の主張

1 争点1(被告の行為、不法行為該当性、共同不法行為該当性及び債務不履行該

5 当性)について

(原告の主張)

(1) 本件情報の営業秘密該当性

原告においては、就業規則(甲3)で従業員に対して在職中知り得た業務上の秘密を漏らしてはならないことを定めており(14条(9)、53条(2))、被告に対して秘密管理の規範が示されていた。また、本件サーバーについてはID及びパスワードによって社外の第三者がアクセスできないように管理されており、本件サーバー内の情報は他の情報と区別されたうえで営業秘密であることが明確にされていた。したがって、本件情報は秘密管理性を充足する。また、本件情報は、原告が顧客に対してサービスを提供するために必要なプログラムを含んでおり、当該プログラムを提供することで原告は対価を得ていたのであるから、有用なものである。そして、本件サーバーはIDとパスワードで管理されているのであり、本件サーバー内に保存されている情報の内容は一般的に知られておらず、かつ容易に知ることもできないのであるから、非公知性を充足する。よって、本件情報は、不競法上の営業秘密に該当する。

(2) Aによる行為

Aは、令和4年4月頃、本件サーバーについて、アカウントIDとして登録されていたメールアドレスを第三者(S社)のメールアドレスに変更し、当該アカウントIDとパスワードを当該第三者に提供し、本件サーバー内の本件情報を当該第三者に開示した(甲4、甲18)。Aは、前記情報奪取行為を行った当時は原告の代表者として本件サーバーに正当にアクセスできる立場にあったのであるから、「示された」営業秘密に該当し、また、第三者であるS社に不正な利益を得させる目的や原告に対して不当な損害を加える目的があったといえることから、図利加害目的で行われたといえる。

5 よって、Aの行為は、開示された営業秘密の図利加害目的での利用(不競法

2条1項7号)に該当する。

(3) T社及びS社による行為

ア 被告によって奪取された本件サーバー内の情報は、現在S社又はT社によって利用されている。顧客に対してランドリーパック等のサービスを提供するに当たってはスマートフォンのアプリケーションが必要であるところ、これらアプリケーションの開発者が、被告の退職後に突然原告からS社又はT社に変更されたことから、ランドリーパック等が同社らにおいて利用されていることは明らかである(甲10の1ないし甲12の3)。ランドリーパックのサービスは、現在T社によって運営されている(甲7)。また、S社は、現在「サスプロ」というサービスを提供しているところ(甲9)、ランドリーオンとサスプロは同一のサービスである。イ T社は、原告の長年の取引先であり、同社が令和2年8月にランドリーパックを新規に導入することを理由としてIT導入補助金の申請を行っていることからも(甲28)、同社の代表者であるBが、ランドリーパックが原告の提供するサービスであったことを認識していたことを示すものであり、T社とS社において、Aによる情報奪取行為が営業秘密の不正開示行為であることについて悪意又は重過失があったといえる。また、Aによって同時に提供されたランドリーオンに関する情報についても原告の営業秘密に該当することは容易に認識し得るのであるから、ランドリーオンについても、T社及びS社は営業秘密についての不正開示行為であることについて悪意または重過失があったといえる。よって、T社とS社の行為は、不正開示行為の悪意者の利用(不競法2条1項8号)に該当する。

(4) 被告による行為

5 ア 客観的関連共同性

被告は、以下のとおりの各行為を行ったところ、これらの各行為は、情報奪取行為と関連する重要な行為であり、情報奪取行為に深く関与していることを裏付ける事情と評価できる。

① 被告は、ダミー用アカウントにログインできることを確認し、ダミー用

アカウントと第三者に提供するアカウントの選別に関する打合せに参加し、ダミー用アカウントへの情報の移行を行った。

② 被告は、原告が事業を行う上で必要な情報が記録されている

「Confluence」内の情報を、新たに使用を開始した同種のサービスである「Notion」内にコピーした。

③ 被告は、ランドリーオン、ランドリーパック以外のサービスについて、

SSL サーバー証明書の発行サービスの登録メールアドレスをS社のメールアドレスに変更した。

④ 被告は、退職後である令和4年5月16日に、ドメイン運営サービスで

ある「ムームードメイン」において原告のアカウントにログインし、何らかの操作を行った。

⑤ 被告は、令和4年4月21日頃、Dと共同で、「Discord」というチャッ

トツールを試用し、Aに対して導入を提案した。イ 主観的関連共同性Aと被告は、チャットツールで適宜協議を行いながら情報奪取行為の準備や実行をしており、情報奪取行為全体の中で重要な役割を担っていたことからすれば、Aと被告には主観的関連共同性があったといえる。また、S社及びT社の代表であるBとAが以前より懇意の関係にあり、かつ取引関係もあったこと、本件計画の内容に鑑みれば、Bの協力なくしては同計画の実現は不可能であること、現にS社やT社において本件情報の利用が継続されていることに鑑みれば、S社とT社との間でも客観的、主観的関

5 連共同性が認められる。

(5) 小括

以上によれば、被告は、本件情報奪取行為との関係では幇助者にとどまるものではなく、いわば主犯の一人として、本件情報奪取行為について共同不法行為責任を負うものというべきである。

(6) 秘密保持義務違反

原告の就業規則では、従業員に対して在職中知り得た業務上の秘密を漏らしてはならないことを義務付けており(甲3)、被告は原告に対して秘密保持義務を負っていた。しかるに、被告は、業務上の秘密である本件情報を、本件サーバーのアカウントを第三者であるS社のドメインで作成されたメールアドレスに書き換えることにより同社に漏らしたのであって、上記秘密保持義務に違反したといえる。【

(被告の主張)

(1) 本件情報の営業秘密該当性

以下のとおり、本件情報は、不競法上の営業秘密に該当しない。ア 有用性について本件情報1は、Aが原告を退職した後に自らが管理していたアカウントにログインするために必要な情報であり、当該情報によってランドリーパック等の運営が可能になることを意味しないため、原告の事業活動において何ら価値を有さない。本件情報3も、ランドリーパック等と同様の事業を行うに当たって具体的な価値を持たない。イ 秘密管理性について本件情報は、原告だけでなく、Bも見ることが可能であった。ランドリーパックに関するソースコード等は、いずれもAら原告を退職した者のみによって作成された情報であり、これらの者が退職するにあたって、

5 当該情報をこれらの者に権利を留保することについての合意があったと認

められるため、原告にて秘密管理意思を当時から有していたとは認められない上、管理措置が具体的に取られていたとも認められない。

(2) Aの行為について

Aが前記前提事実(4)の行為をしたことは認めるが、かかる行為が情報奪取行為に該当するとの

(原告の主張)

は争う。Aは、持つべき人が持ち続けることができるように情報を分割したに過ぎない。ランドリーパックは、Bを中心に、AがDとともに開発したものであり、これをもとに事業を営んできたのはBであって、原告はアプリを開発したに過ぎない。また、Aらが原告から離れた経緯や、同種のサービスが第三者によって継続されているとの点に照らせば、当該開発物を原告に留保しない合意が原告との間で形成されていたことが推察されることから、何らかの営業秘密が原告から移動されていたとしても、原告が損害賠償請求を行うことができない。

(3) 被告の行為について

前記

(原告の主張)

(4)の①ないし⑤の被告の各行為に対する認否は、以下のと

おりである。

① 情報移行先の新アカウントはダミーではなく、継続的な売上げを見込める

ポインランドリーを原告に残すための作業を行ったものである。被告は、原告において開発と運用管理を被告が担当していたポインランドリーのシステムを原告に引き継ぐ作業を行ったのであり、Dとのやりとり(甲4、乙7)はその作業工程を確認するためのものであった。ポインランドリー以外のシステムについては、被告は関わっていない。

② 被告が「Confluence」内の情報を「Notion」内にコピーしたことは認める。

③ 被告が SSL サーバー証明書の発行サービスの登録メールアドレスを原告か

らS社のメールアドレスに変更したことは認めるが、ランドリーパックとは無関係のプログラムが原告からS社に移行されたのに伴い、これらに関する

5 通知が原告にメール送信されないようにするための措置にすぎない。

④ 被告が、令和4年5月16日にムームードメインの原告のアカウントにロ

グインしたことは認めるが、これは「●●●●●」のドメインを第三者に移すことができるかどうかの確認のために行ったものであり、実際の移す行為自体はAが行ったものである。

⑤ 被告は、Aから slack に代わるチャットツールを探すよう依頼を受けて

「Discord」を提案したに過ぎない。

(4) 小括

被告は、原告在職中はランドリーパック等の開発に関与していないし、原告を退職した後は、AやBらと事業や私的な関係を有していない。被告の行為は、ランドリーパック等とは別のポインランドリーの移管に係る手続であって、ランドリーパック等とは何ら関係もない行為である。したがって、被告は、原告に対する共同不法行為責任を負わない。

(5) 秘密保持義務違反について

否認する。被告は情報奪取行為をしておらず、機密保持義務に違反していない。

2 争点2(損害の発生及び額)について

(原告の主張)

(1) 不競法5条2項に基づく算定

被告による情報奪取行為により、原告はランドリーパックのサービスを提供することが不可能となった。ランドリーパックのサービスは、現在S社又はT社によって提供されており、同社らが同サービスを提供していることにより得た利益が、原告の損害に該当すると評価できる(不競法5条2項)。そして、S社とT社と被告とが共同不法行為責任を負うことから、原告に生じたすべての損害を連帯して賠償する責任がある。S社と契約したクリーニング店がランドリーパック等で得ている売上げに

5 ついては、システムで自動的に集計される仕組みになっており、原告において

も当該売上の集計ページにアクセスできる状態にあるところ、当該集計ページによると、令和4年5月1日から令和8年3月31日までの売上総額は、8558万9844円である(甲13、34)。S社が各クリーニング店から得ている利用料を売上の20%と仮定すると、S社が得ている利益は1711万7968円を下らない。そして、ランドリーパックやランドリーオンのサービスの提供について仕入れは存在せず、サービス提供にかかる売上がそのまま売上総利益になるのであるから、1711万7968円が、S社らが得た利益の金額であり、原告の損害と推定される。

(2) 不競法5条3項に基づく算定

仮に本件に不競法5条2項によって原告の損害額を推定できない場合でも、少なくとも同法5条3項により損害額を算定することは可能である。本件では、Aが原告の取締役在任中に、毎月売上の5%の金額にアプリ利用料1万円を加えた金額をT社に対して請求していたことが確認できている(甲16)。T社の代表者であるBとAは懇意の関係にあることから、上記の料率は相応に低廉に設定されたものであると思われることも踏まえると、本件において適用されるべき料率は、上記の3倍である15%を下らないと解される。したがって、令和4年5月1日から令和8年3月までの損害は、前記8558万9844円に対する15%の金額である1283万8476円に、アプリ利用料47万円(=月額1万円×47か月)を加えた1330万8476円となる。【

(被告の主張)

】損害の発生について、否認する。情報の奪取行為が仮にあったとしても、当該行為と原告がランドリーパック等の運営ができないこととの間には因果関係が認められず、原告に損害が発生した

5 とはいえない。

第4 当裁判所の判断

1 認定事実前記前提事実に加え、後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(1) 原告は、もともとAが立ち上げた会社であり、被告が原告に入社した後、A、D及び被告の3人で、ランドリーパック等を含むクリーニング業者向けのシステム開発等を行っていた。その後、原告が、コインランドリーの売上金管理システムの開発を受注し、コインランドリーの利用でポイントが貯まる「ポインランドリー」のシステムを開発したことをきっかけに、Cが原告の取締役になった。しかし、その後、CとAの間で、原告の経営方針について意見の相違が生じることとなった。(以上につき、弁論の全趣旨、乙8)

(2) 原告は、令和3年9月の時点で、T社に対して、ランドリーパックのシステムを利用したサービス提供を許諾していた。同月30日付けの原告からT社への請求書によれば、上記利用許諾に伴って、T社に対して支払われていた金額は、サーバー代等のほか、ランドリーパックアプリ名目での月額1万円、ランドリーパックによる売上げの5%に当たる3万3669円(いずれも税別)であった。(以上につき、甲16)

(3) 令和4年3月から同年4月頃の事情ア 被告は、同年3月14日、原告の事業に関する情報が格納された「Confluence」という情報管理ツールにおける原告の情報を、別の情報管理ツールのS社のアカウントに移行した(甲18の2)。イ 被告は、同月22日にAと打合せを実施し、同日、Aとの間の原告の社内

5 チャットにおいて、自らが原告に退職願を提出するタイミング、Aが代表取締役を退任するタイミングや、退職までに発生する原告の作業として「AWSの移設」などと記載した(甲19)。ウ Aは、同年3月25日頃、本件サーバーに、原告名義のアルファベット文字列を含むメールアドレスをIDに設定した新アカウント(以下、単に「新アカウント」という。)を作成した上で、パスワードを設定し、さらに、本件サーバーの原告の従前のアカウント(以下「旧アカウント」という。)のIDを原告のメールアドレスからS社のメールアドレスに変更し、同日、その旨を、原告の社内チャットを通じて被告に連絡した(甲18の1)。エ 被告は、同年4月6日、旧アカウントと新アカウントの双方にログインできることを確認した上で、その旨と、新アカウントへの移行作業を翌日夜に実行する旨を、社内チャットを通じてAに連絡し、どの情報が移行の対象かについてAとの間でやりとりをした(甲18の1)。オ 被告は、同月7日、社内チャットを通じて、Dに対し、ポインランドリーの移設の件で教えて欲しいことがある旨の連絡をした上で、旧アカウントから新アカウントの移行手順について記載し、その中で、旧アカウントのIDが、変更前は原告のメールアドレス、変更後がS社のメールアドレスであり、パスワードには変更がないことや、新アカウントのIDである原告のメールアドレス及びパスワードを記載するなどした(甲4)。その上で、被告はDと打合せを実施し、同日、その結果をAに社内チャットで報告し(甲18の1)、旧アカウント内のポインランドリー等のサービスに関する情報の新アカウントへの移行を行った(弁論の全趣旨)。カ 被告は、同月21日頃、Dと共同でチャットツールを試用した上でAに対して導入を提案し、また、原告を退職した後である同年5月16日頃、ドメイン運営サービスである「ムームードメイン」において原告のアカウントにログインした。

5 2 争点1(被告の行為、不法行為該当性、共同不法行為該当性)について(1) 本件情報の営業秘密該当性本件情報の内容は、原告の提供していたランドリーパック等のシステムを実現するためのプログラム及び設定ファイル(本件情報2)、ランドリーパック等を利用している会社や同会社からサービスの提供を受けている顧客に関する情報や売上げに関する情報(本件情報3)、ランドリーパック等のシステムが稼働するために必要なクラウド環境設定情報及び同クラウドに環境にアクセスするためのパスワード等の接続情報(本件情報1)というものであり、これらの情報は、原告がランドリーパック等のサービスを顧客に提供するに当たって必要不可欠なものとして一体として機能する情報であるということができ、全体として、事業活動に有用な技術上又は営業上の情報ということができる。また、本件情報2、3、及び、本件情報1の接続情報以外のものは、IDとパスワード等によって管理された本件サーバー上に保管され、他者が容易にアクセスできないように管理されており、本件情報1の接続情報も、他者に開示を予定されていない性質のものであることが明らかであるから、いずれの情報も秘密として管理されている情報ということができる。そして、本件情報の内容は一般的に知られておらず、容易に知ることもできないものであるから、公然と知られていない情報ということができ、したがって、本件情報は不競法上の営業秘密に該当する。本件情報の営業秘密該当性に関する被告の主張は、いずれも上記のとおり説示したところに照らし、採用することができない。(2) A、S社及びT社の行為ア 前記前提事実(4)及び認定事実(3)ウによれば、Aは、本件サーバー上の原告の旧アカウントのIDを原告のメールアドレスからS社のメールアドレスに変更し、変更後のIDとパスワードをS社に提供し、これにより、S社

5 において、本件サーバーにアクセスし、本件情報を使用することが可能な状態にしたものといえる。Aは、当時原告の代表取締役として本件情報にアクセス可能な立場にあったところ、上記行為により本件情報をS社に開示したということができ(以下、Aの行為を「本件開示行為」という。)、その後に、前記前提事実(5)のとおり、S社や同社と代表者を同じくするT社がランドリーパック等の事業に関与している事実がある一方、これによって原告がその事業上利せられることは一切うかがわれないのであるから、Aにおいて、本件開示行為当時、S社及びT社が不正の利益を得る目的を有していたということができる。したがって、Aによる本件開示行為は、不競法2条1項7号の不正競争に該当する。この点につき、被告は、要するに、Aによる本件開示行為が原告との合意に基づいて行われた正当な行為である、そもそもランドリーパック等に係る本件情報は、原告ではなく、A及びDに帰属するものであった旨主張する。しかしながら、仮にランドリーパック等の事業がAやDらを中心に立ち上げられたものだとしても、前記認定事実(2)のとおり、あくまで法人である原告の事業として実施されてきたものと認められるところ、本件情報が原告ではなく、Aなどに帰属するということはできないし、Aが原告の代表取締役を退任して取締役を辞任する際に、Aが本件情報を持ち出してS社やT社に提供することについて、原告とAと間で何らかの合意がされたり、当該意思決定について原告の内部で正当な意思決定手続が採られたりしたことを認めるに足りる証拠は存在しないから、被告の主張は採用できない。イ そして、前記前提事実(5)のとおり、S社とT社がランドリーパック等のサービスを運用していることが認められるところ、T社は、従前原告からランドリーパックのサービスの提供を受けて、原告に利用料を支払う関係にあったのであるから(認定事実(2))、T社はランドリーパックに関する本件情

5 報が原告の営業秘密に該当することを認識していたというべきであり、また、T社と代表者を同じくするS社もこのことを認識していたというべきである。したがって、S社及びT社がランドリーパック等のサービスを運用している行為は、不競法2条1項8号の不正競争に該当する。ウ 以上検討したところに加え、前記前提事実(3)のとおり、ランドリーパックのアプリがS社の保有とされたのが、遅くとも令和4年6月頃と、本件開示行為と近接した時期であることにも照らせば、本件開示行為の時点で、Aと、S社及びT社との間で、Aによる本件開示行為により取得した本件情報を利用してS社とT社がランドリーパック等のサービスを運用することについて意思を通じていたものと認めることができる。したがって、本件開示行為及びその後のS社及びT社による本件情報の使用行為に関し、A、S社及びT社との間に、共同不法行為が成立する(民法719条1項)。エ なお、当然ながら、以上の認定・説示は、A、S社及びT社が当事者等として関与していない本訴訟手続でのものであり、これ自体が、原告とこれらの者との法律関係に直接の影響を及ぼすものではない。(3) 被告の行為及び共同不法行為責任の成否本件に関して証拠上認定できる被告の行為は前記認定事実(3)のとおりであり、本件開示行為の主体はAであって被告ではなく、また、被告が、S社及びT社による本件情報を使用したランドリーパック等の運用行為に関与していることをうかがわせる証拠も存在しない。もっとも、前記認定事実(3)の各行為を見ると、被告は、原告の事業に関する情報が格納された情報管理ツールに関する情報をS社のアカウントに移行したり(ア)、本件サーバー上の旧アカウントにおける情報について、新アカウントに移行しないものについてはS社に引き継がれることを前提に、新アカウントに移行する情報の選別、関係者間の情報共有、新アカウントへの情報の移行に関与したり(エ、オ)しているのであって、これらの行為は、原告に対す

5 る直接の侵害行為とまでは評価し難いものの、客観的に見て、Aによる本件開示行為やS社及びT社による本件情報の使用行為を補助して容易にするものであったということができる。そして、前記認定事実に照らせば、被告は、Aが原告の代表取締役を退任することや、それに伴ってAが原告から原告の事業に関する情報をS社に開示して持ち出すことを十分に認識した上で、前述の各行為を行ったと認めることができ、したがって、被告には、自らの各行為が、AやS社、T社による原告に対する不法行為を補助して容易にするものであることの認識があったというべきである。以上によれば、被告は、A、S社及びT社の原告に対する不法行為を故意により幇助したものと認められる。

(4) 機密保持義務違反について原告は、被告が本件情報をS社に開示したことを前提に機密保持義務違反に関する主張をしているが、前記前提事実(4)のとおり、本件情報の開示行為の主体はAであって被告ではないから、原告の主張は採用することができない。

3 争点2(損害の発生及び額)について(1) 前記2のとおり、被告は、Aによる本件開示行為やS社及びT社による本件情報の使用行為を幇助したものであるから、被告には、これにより原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。この点、被告は、Aによる本件開示行為並びにS社及びT社による本件情報の使用行為による損害発生を否定するが、これらAの行為によってS社及びT社が原告のランドリーパック等と同一のサービスを提供できるようになったと認められ、それにより原告に事業上の損害が生じたと認めることができるのであって、被告の主張は採用できない。以上を前提に、原告に発生した損害の額について検討する。(2) 不競法5条2項に基づく推定について原告は、S社と契約したクリーニング店がランドリーパック等で得ている売

5 上げは原告において確認でき、令和4年5月1日から令和8年3月31日までの売上額は8558万9844円であり、S社が得ている利用料が売上の20%と仮定すると1711万7968円となり、同金額がそのまま売上総利益となるから、同金額が、S社が得た利益の金額である旨主張する。しかし、本件においては、原告において確認できたS社の売上げに関するデータであるとする証拠(甲13、34)を除き、実際のS社やT社の事業に関する証拠が何ら提出されておらず、前記証拠が実際のS社の売上げを表しているのかの裏付けもなく、本件で被告とはされていないS社自身による認否等も明らかでない上、S社やT社における事業の実態、利益率、控除すべき経費の額等も何ら明らかではないのであって、これからすれば、本件においてS社が得た利益の額を認定することはできないというほかない。よって、本件において、不競法5条2項に基づき原告の損害額を推定することはできない。(3) 不競法5条3項に基づく損害額原告は、原告が受けるべきであった利用料は、令和4年5月1日から令和8年3月31日までの間のS社の売上金の合計額8558万9844円の15%の金額である1283万8476円に、アプリ利用料47万円(=月額1万円×47か月)を加えた1330万8476円となり、同額が原告の損害である旨主張する。この点、本件において、S社及びT社の営業秘密の使用により原告が受けるべき金銭の額につき、本来的には、T社やS社によるランドリーパック等によるサービスの売上額を基礎に算定するのが相当ではある。しかしながら、前記(2)で述べたとおり、原告の提出する証拠(甲13、34)が実際のS社の売上げを表しているのかの裏付けはなく、同証拠に現れた数字を前提に原告の受けるべき金銭の額を認定することは困難であり、本件において、他にS社やT社の売上げを的確に認定する証拠は存在しない。

5 以上のような本件の証拠関係に照らせば、原告の従前の運用実態等も含めた諸般の事情に照らして、原告の受けるべき金銭の額を算定するほかないところ、前記認定事実(2)のとおり、令和3年9月におけるランドリーパックの利用許諾に伴って、T社から原告に支払われた金銭がランドリーパックアプリ名目での月額1万円と、ランドリーパックによる売上げに連動する3万3669円であったこと、他方で、上記のとおり、S社やT社の売上げ等の経過は、証拠関係上、これら会社が当事者等として関与しない本訴訟手続において、確定的に認定することは困難であることなどからすると、S社やT社がランドリーパック等を利用している時期を通じて、アプリ利用代と売上額をベースとした利用料の合計に相当する額として、月額3万円を、原告が受けるべき金銭の額と認めるのが相当である。以上によれば、令和4年5月1日から令和8年3月31日までの間の原告が受けるべき金銭の額は、合計141万円(=3万円×47か月)となる。(4) 補足本件の被告との関係において、このような損害算定にとどまることについては、上記認定・説示にも表れているとおり、本訴訟で被告を誰とするかの選択に伴うものとして、原告に甘受を求めるほかないといえる。なお、以上の損害算定についても、A、S社及びT社が当事者等として関与していない本訴訟手続でのものであり、これ自体が、原告とこれらの者との法律関係に直接の影響を及ぼすものではない。

第5 結論

以上によれば、原告の請求は、141万円及び遅延損害金を求める限度で理由があるからその限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部

裁判長裁判官

松 川 充 康

裁判官

小 野 健

裁判官

横 井 真 由 美

(別紙) 営 業 秘 密 目 録

1 クラウド環境設定情報及び接続情報(1) クラウドサービス(AWS)における環境設定情報5 ア ランドリーオン及びランドリーパックが運用されていた AWS 環境の詳細設定情報、VPC 設定、サブネット構成、セキュリティグループ設定、IAM ロール及びポリシー設定等)イ サーバーインスタンス「●●●●●」のスペック、起動設定、スケーリングポリシー(2) クラウドサービスの接続情報ア AWS の管理コンソール及び CLI のアクセス情報(管理アカウントの ID 及びパスワード)イ API アクセスキー及びシークレットキーウ SSH 接続用の鍵情報(公開鍵及び秘密鍵)エ データベース接続情報(エンドポイント、ユーザー名、パスワード、認証方式)

2 ランドリーオン及びランドリーパックのプログラム及び設定ファイル等(1) ソースコードア ランドリーオン及びランドリーパックのアプリケーションソースコード(バックエンド、フロントエンド、API コードを含む)イ システム制御用スクリプト(データ処理バッチ、監視スクリプト、ログ管理スクリプト等)(2) 設定ファイルア 環境変数ファイル(.env ファイル等)イ アプリケーション設定ファイル(config ファイル、プロパティファイル)ウ 外部サービスとの連携設定情報(API キー、Webhook URL 等)(3) 画像ファイルランドリーオン及びランドリーパックの UI/UX に関わるデザインデータ、アイコン、ロゴ等5 (4) データベース設定情報ア データベースのスキーマ情報(テーブル定義、インデックス、リレーション)イ データベースのチューニング設定(キャッシュ設定、クエリ最適化設定)

3 ランドリーオン及びランドリーパックのデータベース内のデータ(1) 利用会社の情報ア 会社名、所在地、担当者情報、契約情報イ 被害システムの利用履歴(2) 利用会社の商品情報商品名、カテゴリ、在庫情報、価格情報(3) 利用場所の情報施設名、所在地、営業情報、管理担当者情報(4) 売上情報ア 取引履歴(注文日時、注文内容、決済情報)イ 売上集計データ(売上額、販売数量、顧客分析情報)(5) 利用顧客の情報(個人情報を含む)ア 顧客の氏名、連絡先(電話番号、メールアドレス)イ 会員登録情報(アカウント ID、登録日時、ログイン履歴)(6) 利用顧客の注文情報ア 注文内容(商品名、数量、支払方法)イ 配送先情報(住所、受取日時指定)

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