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寄稿コラム「動きはじめた知財金融」
第4回:知財金融アナリスト、はじめが肝心

2月19日(木)配信

 2026年5月25日、金融業界において新しい世界がスタートします。

 「事業性融資推進法」(事業性融資の推進等に関する法律)の施行です。

 ここで生まれる企業価値担保権制度。それはこれまでの不動産担保や経営者保証に加えて、企業が持つノウハウや顧客基盤などの無形資産を含む事業全体を担保とできる制度で、事業の将来性に着目した融資を促し、スタートアップや事業の再生を必要とする企業による資金調達を行いやすくするものです。

 その施行に向け、金融庁はもちろん、ほか多くの金融関係機関から数々の情報が発信されています。

金融機関の目は「事業」に届いていない? 不足するコミュニケーション

 先ず「金融仲介機能の発揮に向けたプログレスレポート(2025年6月)」。

 金融庁・財務局等の取組は、ここによくまとまっていて、金融機関が企業価値担保権を活用して事業性融資を深化させるためのポイントが以下の通り示されています。

出典:「金融仲介機能の発揮に向けたプログレスレポート」*1 出典:「金融仲介機能の発揮に向けたプログレスレポート」*1

 更にここには地域銀行における事業性融資の取組状況の調査結果が示され、それによると「融資審査」に関し約6割の事業者が事業の将来性を把握するうえで重要な資料である事業計画を作成していると回答しています。しかしメインバンクと事業者の間での事業計画を基にした対話やメインバンクによる事業計画作成支援の取組みは限定的であったとされ、一方、金融機関では事業者から事業に関する資料・データが十分に共有されないことを課題として認識しているようです。

 つまり事業性融資において肝心の「事業」に対して、金融機関からの目は必ずしも向けられていないようです。

出典:同上 出典:同上

統一マニュアルはなし、金融機関の裁量にゆだねられる融資戦略

 こうした状況のなか、並行して金融庁から4月28日に「企業価値担保権付き融資の評価や引当の方法等に係る基本的な考え方について(案)」が示され、約2ヵ月のパブリックコメントを経て7月2日にその結果とともに改めて基本的な考え方が示されました。

 この基本的な考え方において「金融庁は、金融検査マニュアルを廃止した際に、融資の評価(債務者区分・格付、 債権分類)や引当の方法等については、金融機関が会計基準に従う中で、自らの経営方針に即した融資戦略、すなわち融資商品の設計から、その管理、モニタリングの方法、評価、引当の算定等まで、それら全体を一貫性をもって戦略的に考え、適切な方法を検討し実施していくべき旨を明らかにしている。」とした上で「融資の評価や引当等の方法について、金融検査マニュアルのような統一的あるいは画一的な指針なり取扱いを示す性質のものでなく、あくまでも金融機関が自ら適切な対応を考えることを前提とした上で、 その際の参考として示すものである。」としています。

 そのいくつかの項のうち「1.基本的な考え方」で気になった下りは以下のとおりです。

〇企業価値は、当然のことながら、不動産等と異なり、事業の推移等により大きく価値そのものが変動するものであり、また、不動産等と異なり、換価した場合の金額を前もって予測することが困難なものである。そのため、企業価値担保と不動産担保は基本的に大きく性格が異なる。したがって、企業価値について、不動産担保と同じ、いわゆる「一般担保」として取り扱うことは、一般的に非常に難しいと考えざるを得ない。米国でも不動産担保とは異なる性格のものとして扱われている。

〇企業価値について、不動産担保のような「一般担保」として取り扱えないとなると、「貸倒引当金の算定においても、企業価値担保を使った融資は、要するに無担保融資と同じ扱いをするしかないのか」といった質問が示されることがある。

〇しかしながら、融資の損失可能性を適切に評価するという貸倒引当金の趣旨に鑑みれば、企業価値担保権付きの融資を、無担保融資と同じ扱いとすることは、およそ合理的でないと考えざるを得ない。

〇そもそも、企業価値担保権付きの融資は、これまでの不動産担保を使った多くの融資や、無担保融資とは、融資の性格そのものが大きく異なることに留意する必要がある。融資の評価や引当の検討に当たっては、この融資の特性を十分考慮し合理的な取り扱いを考える必要がある。

〇企業価値担保権は、借り手が総財産に一体として担保設定することにより、貸し手との間において特別に緊密な関係を構築することを、法的な裏付けをもって、可能とする制度である。この点が不動産担保などの融資と大きく異なると考えられる。このような法的な裏付けのある緊密な関係を前提として、貸し手が、借り手の経営実態等を適切に把握し、両者間の「情報の非対称性」を軽減することで、事業性に着目した融資等により一層取り組みやすくなることが期待される。

〇具体的には、企業価値担保権付きの融資の貸し手は、融資時、借り手との間で、 事業の実態を共有し、融資後も、より綿密なモニタリング・支援を通じ、将来において経営困難に至るリスクを減らし、また、将来、リスクが顕在化した場合でも早めの支援により最終的に発生しうる損失を極力小さくすることが期待される。 従来の運用に近似して説明すれば、不動産担保などを利用した既存の融資よりも、債務者区分を落とさずに維持できる可能性を高める効果、倒産確率(PD)や倒産時 の損失額(LGD)の低下を通じて予想損失率を低減する効果が、その特性として考えられる。融資の評価や引当の算定方法においては、こうした点を適切に反映させる必要がある。

出典:「企業価値担保権付き融資の評価や引当の方法等に係る基本的な考え方について(2025年7月)」(事業性融資推進プロジェクトチーム 検討ペーパー)*2

 そして「5.適切性の確保」の項には、以下のとおり考え方が示されています。

〇他方、こうした考慮は、その時々で大きな変更が生ずるような恣意的なものとならないよう、合理性のある一貫した方針の下で行われる必要がある。そのため、各金融機関において、例えば、データの蓄積が無い中でも、次のようなルールを、自己査定基準等において明確化することが考えられる。なお、方針等の策定にあたっては、自金融機関の経営戦略等との整合性に留意する必要がある。

  1. (1) 企業価値担保権付きの融資は、不動産担保や無担保の融資とは、リスク・リターン等の特性が大きく異なり、特に企業価値担保権付きの融資の貸し手には、借り手との緊密な関係を前提に、借り手の予兆や変調に対する適切な支援が期待されるため、(業況悪化の兆候がみられた場合の経営改善支援や担 保実行等の方針等)企業価値担保権付きの融資に適した融資方針等を策定・特定した上で、関係部署間(営業部門、信用リスク管理部門、内部監査部門 等)で共有・実施する必要があると考えられる
  2. (2) 企業価値担保権の設定等を通じて、他の貸し手とは質的に異なる緊密な関係を構築し、借り手の事業の将来見通しを的確に把握する態勢を整備する必要があると考えられる
  3. (3) 的確な融資の評価(債務者区分・格付の判定)を行うにあたり、事業の継続性や将来の返済可能性があると考える根拠として、事業の見通し(キャッシュ・フロー創出能力)が想定の範囲内で推移していること等を疎明できる必要があると考えられる

〇金融庁としては、各金融機関が自らの経営方針や融資戦略にのっとって定めた融資の管理や評価等のルールを尊重しつつ、

  • ◼ 借り手の経営状況等の適時的確な把握等、期中管理も含め、どのように事業の支援を行っているか・モニタリング態勢の整備状況と運用実態はどのようなものか、
  • ◼ 債務者区分・格付の判定や貸倒引当金の算定については、自ら定めたルールに従って一貫性のある形で適切に行われているか、
  • ◼ 事後的な検証の結果に照らして、不合理なルールとなっていないか、ルールやモニタリングのあり方の見直しの要否について検討しているか、などについて、継続的に対話を行う。

出典:同上

ガイドラインを欲する金融機関

 こうして金融庁から示された「基本的考え方」に対しては多くのコメントが寄せられております。そのうち、金融庁からの回答も合わせて、2つピックアップしました。

 ここにピックアップしたコメントは私が金融機関関係者から直接伺った声でもあります。

コメントの概要:
企業価値担保権付き融資に取り組む際は、金融機関毎に、経営実態等の把握方法、キャッシュ・フロー創出能力 の定義、モニタリング手法、債務者区分・格付の判定基準、 引当の方法等が異なることが想定されるため、金融庁には参考となる好事例を共有いただきたい。

金融庁の考え方:
好事例の把握には努めてまいりたいと考えております。もっとも、各金融機関で企業価値担保権付き融資の取扱方針は異なり、融資戦略等も様々です。借り手の経営状況等を把握する方法や頻度、モニタリング手法等は、こうした方針や融資戦略等と整合性をもって取り組むことが必要です。したがって、他行の取組事例は必ずしも参考にならない点には、ご留意ください。

コメントの概要:
企業価値担保権については、担保の位置付け、担保評価、引当の方法など、従来の融資実務とは異なる点が多いと認識している。これらは、本検討ペーパーを基に、各金融機関において創意工夫で行っていく部分であることは認識しているが、企業価値担保権の普及に資するよう、金融機関向けのガイドライン(企業価値担保権付き融資の評価・引当の具体的な方法、債務者区分の基準等)の策定を検討いただきたい。

金融庁の考え方:
各金融機関で企業価値担保権付き融資の取扱方針は異なり、融資戦略等も様々です。借り手の経営状況等を把握する方法や頻度、モニタリング手法等は、こうした方針や 融資戦略等と整合性をもって取り組むことが必要です。したがって、ご指摘のような、企業価値担保権付き融資の評価・引当の具体的な方法や債務者区分の基準等を定めたガイドラインの策定は予定しておりません。

出典:「『企業価値担保権付き融資の評価や引当の方法等に係る基本的な考え方について(案)』に対するコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」*3

自由に融資戦略を練る好機、金融機関内部に求められる推進者

 他行の取組事例は参考にならない。金融庁からガイドラインも示されない。

 示されたのは基本的考え方だけで、それを見れば見るほど、ではどうすればいいんだ? という気持ちになるのが自然です。しかし見方を変えれば、自分たちで好きにやればいいんだ、ということであって、これを好機と捉え新しい世界を創っていく者に道は開ける気がいたします。

 ますます金融機関のなかに、この新しい制度を推進する者が必要であると感じました。

 ところで金融庁から発信される事業性融資推進法や企業価値担保権制度に関する資料や説明の内容について、気になっていることがあります。

 それは、説明資料に「ノウハウ、顧客基盤等の無形資産も担保として認識可能」と多くあるように「無形資産」という言葉は多く使われているものの、「特許」や「知的財産」という言葉はあまり使われていないことです。

 そんななか一般社団法人全国銀行協会の事務局の勉強会でまとめられた「企業価値担保権の活用に向けた報告書」には「知的財産」という言葉が分かりやすく使われていました。

出典:「企業価値担保権の活用に向けた報告書(2024年度)」企業価値担保権の活用に向けた勉強会(事務局:一般社団法人全国銀行協会)*4" 出典:「企業価値担保権の活用に向けた報告書(2024年度)」企業価値担保権の活用に向けた勉強会(事務局:一般社団法人全国銀行協会)*4

 そして思い出されるのが5年前、2021年1月29日「知的財産戦略本部構想委員会」での金融庁監督局総務課長からのご発言。私を痺れさせた「金融機関が知的財産を含む企業の強みという観点から、特に中小企業の事業内容や成長可能性を適切に評価して、知的財産の適切な利活用を含めて企業価値の向上に資するアドバイスやファイナンスを行う」との言葉です。

 「企業価値担保権」とあるものの個人的には「企業価値」は分かりにくく評価しづらく、これまで担保として認識してきた有形資産に加えて、無形資産も担保として認識可能と言われてもなかなか捉えにくいところ、工場や土地のように目には見えないものの「知的財産(技術・ノウハウ等)」は事業の種であって、それを強みとしているのであればなお、それらを価値あるものとして捉えることができるのではないかと考えております。

 5年前に金融庁監督局総務課長が「金融機関」を主語として言われた、

(1)中小企業の事業内容や成長可能性を適切に評価して、

(2)知的財産の適切な利活用を含めて企業価値の向上に資するアドバイスやファイナンスを行う

にあるように、企業価値担保権はもともと仮称「事業成長担保権」として議論されていたものです。法律の枠組みが拡がり企業価値担保権となったものの、より高い価値に成長する可能性のある事業の種に目を付け、それらを評価し、企業価値の向上に向けて取組むことが、この新しい融資制度の活用に慣れ親しみ、金融業界に新しい世界を切り開くキッカケになる気がしてなりません。

 しかしながら、金融機関にとっては、技術やノウハウといった知的財産を捉えることも難しいのが現実です。

 他方、事業の種の可能性を見極め、知的財産やノウハウを絡めて、ビジネスのプロデュースや成長を促していく専門的な知財の専門調査会社のほうには、事業性融資推進法に係る来年の大きな動きが今後、金融業界に新しく始まることはほとんど知られていません。

知財と金融を橋渡しする「知財金融アナリスト」

 ここで改めて、知財金融とは知財と金融を橋渡しすることではないかと気づかされます。

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 その橋渡し役が「知財金融アナリスト」です。

 中小企業が持っている事業の種を見出し、その企業の目指す方向を当該企業とのコミュニケーションのなかで見定め、どのように種を成長させていけばいいのか、については、知財の専門機関と相談し、あらゆる可能性を探っていくことになります。

 知財金融アナリストは金融機関の内部にいるからこそ、力を発揮できるのです。

 地元でアンテナを張り、地元企業に目を光らせ、有望な事業の種を見出してくる。言うなれば事業の種を見出す人「ビジネスシーズ・スカウトマン(以下、BSスカウトマン)」という大きな役割を果たすことになります。これまでの担保であった土地や工場は基本、成長を想定したものではありませんが、事業の種は成長していくものです。

 金融機関にとってお客様である、企業側の要望やニーズや、両者のコミュニケーションのなかで、その種は成長していくことになります。

 知財金融アナリストには、技術を捌く力やニーズを把握する力が必要であることは言うまでもありませんが、長い付き合いに基づく、お客様に対する深い理解、深い信頼があるからこそ、企業と知財の専門機関との間に入り、見出し育んでいけるポジションにいることが一番の強みです。

 日本の中小企業の数は全企業数の99.7%を占め、330万社以上(2021年)。優れた技術や巧みなサービス、いわばビジネス資源がまだまだたくさん埋蔵されているはずです。

 新ビジネスに成長させていこうとする志向と創造力をもって事業の種をスカウトするBSスカウトマン、こと知財金融アナリストによる、このはじめのアクションが肝心です。

 知財金融促進事業の取組事例のなか、「金融機関の方から知的財産の話が出てきたのは驚きでしたが、金融機関が知的財産の観点から話をしてくれると、こちらも話をしやすく、非常に助かりました。」という中小企業からの声がありました。

 この新しい制度の下、金融機関が主体となって活動を始め、各都道府県に設置されているINPIT知財総合支援窓口に相談を寄せるなど活動が活発化され、こうした声が日本全国に拡がり、至るところでビジネスが花開き日本経済を活性化していくことを期待して止みません。

■参考資料

■著者プロフィール
著者:奥 直也
一般社団法人 知財金融協会代表理事
株式会社パソナグループ 執行役員

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1986年特許庁入庁。元特許庁審査・審判官。入庁後、経済産業省(当時通商産業省)機械情報産業局企業係長、国際連合専門機関 世界知的所有権機関(WIPO)カウンセラー、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)知財活用支援センター長等を経て、退官後2019年10月よりパソナグループナレッジバンク事業部統括部門長に着任。2022年2月に知財金融協会を設立。特許庁の調査事業にて特許保護のサポートをしつつ、知財活用の側面から中小企業を支援。大阪市出身。