ホーム > 特別企画 シリーズ「特許庁に突撃!!」 > 「デザイン経営」について、聞いてみた(前編)
シリーズ「特許庁に突撃!!」の第1回目は広報室にインタビューし、最近の特許庁の取り組みには、「デザイン経営」という考え方が大きな影響力を及ぼしており、それが職員の意識を変えるヒントになったという話を聞いた。
第2回目となる今回のインタビューでは、特許庁のデザイン経営プロジェクトで最前線にいたお二人に実際のデザイン経営の取り組みについて聞く。
インタビュアー:知財ポータルサイト IP Force 成田浩司
インタビューに協力してくれた、特許庁の今村亘(いまむら わたる)デザイン経営プロジェクトチーム長。
成田今村さん、外山さん、よろしくお願いします。
今村さん 外山さんよろしくお願いします。
成田まず、デザイン経営の取り組みがどんな経緯で始まり、どんな取り組みをしてきたのかを聞かせてください。
今村さん 「デザイン経営」という発想は、意匠法の改正に向けて特許庁が立ち上げた研究会がきっかけで出てきたものです。
この研究会は「産業競争力とデザインを考える研究会」というタイトルで、特許庁が所管する意匠法を今後、デザイン政策と絡めてどのような形にしていくのかを検討するため、外部有識者を交えて2017年7月~2018年5月まで合計11回開催されました。この議論に参加していた有識者の方々は皆、デザインについて先鋭的な考えを持っており、議論開始直後から、デザインによって産業競争力を強化するためには、意匠法の改正だけにとどまらない議論が必要であるとの意見がほとんどでした。
世界的にみても、デザイン思考などをはじめ、デザインをめぐる取り組みが活発化しています。デザインする対象ひとつをとっても、プロダクトなどの「モノ」から、デジタルを含む幅広い領域まで対象は広がっています。そうした状況下では、「デザイン」の意味、それが持つ力や役割について、もっと幅広く考えて議論していったほうがいいのではないかという話になりました。
当初3月中には結論を出す予定でしたが、熱い議論が続き、イノベーション創出やブランド構築に資するデザインを活用する経営手法を「デザイン経営」と呼ぶこととし、意匠法改正案の方向性を含めた「デザイン経営」推進のための政策提言などをまとめた「『デザイン経営』宣言」が2018年5月にようやくまとまりました。
成田意匠法で扱うところの「デザイン」と、議論で取り上げられた幅広い領域で使われる「デザイン」とでは、意味に開きがあるように思われます。研究会が進む中で、デザインの意味をめぐって戸惑うようなことはなかったのでしょうか。
今村さん戸惑った面は、やはりありました。研究会がスタートした当初は、特許庁では意匠法の改正に向けた議論ということで、「デザイン」をいわゆる「プロダクトデザイン」として、意匠、装飾的なものとしてとらえていたのですが、委員の皆さんは、もっと広い概念でのデザインについて見解を述べるので、議論がかみ合っていない部分がありました。今思えば、特許庁側の捉える「デザイン」が狭義のデザインだったのだと実感します。
外山さんそこが一番難しかったですね。まず、「デザイン」の意味を定義する必要があることがわかり、その議論に時間をさきました。有識者として参加した委員には、研究者やコンサルタントのほかに、プロダクト系のデザイナーやUXデザイナーなど多様なジャンルの人がいて、それぞれのバックグランドからデザインとは何かについて議論するので、それぞれで相容れない部分があったのだろうと思います。
最終的に、「デザインとはブランド構築とイノベーションを生み出すためのものだ」という認識で全員が一致し、そこから議論が進むようになりました。
成田まず「デザイン」の定義が定まり、最終的には「デザイン経営」のコンセプトを打ち出すことができたわけですが、それができた大きな要因は何だったのでしょうか。抽象度が高い議論ですので、議論が発散したり、かみ合わなくなる可能性もあったのではと思います。議論の中で自然に共通認識が生まれていったのでしょうか。
外山さん会議だけではまとまらない部分もあったので、会議外でも議論を重ねていました。その中で、「デザイン経営」という言葉が出てきたのです。特に転機になったのは、ある書籍により、宗像直子前長官を含めた幹部が「デザインが組織を変えていく」という考えに強い興味を持ったときだと思います。そこから状況が大きく動いていったような感覚があります。
成田なるほど。それにしても、最初は意匠法改正のための研究会だったものが、予想外の成果につながっていったのですね。
今村さんそうですね。我々がこうした研究会を開催するときは、ある程度の方向性をもってスタートするのが一般的なのですが、「『デザイン経営』宣言」については、予め方向性を想定していたものではありません。ある意味、途中から、議論の内容を分解して再構築して出来上がったもの、と言えると思います。
外山さん 当初の目的だった意匠法の改正も無事に終えましたし、「実」の部分をしっかりとこなした上で、プラスアルファとしてデザイン経営も出すことができました。
成田議論が膨らみ、もっとやれることがあるのではないかということで出てきた成果物、ということですね。
ところで、端的に言って「デザイン経営」とはどのようなものなのでしょうか。デザイン経営について初めて耳にする読者にもわかるように説明してください。
今村さん研究会の内外での議論を経て、特許庁は2018年5月23日に「『デザイン経営』宣言」を公表するのですが、そこで言っているのは、「デザイン」はブランド価値を生むだけでなく、イノベーションを実現する機能もあるのだということです。そして、そうした機能を持つ「デザイン」を活用した経営手法を「デザイン経営」と呼び、社会を変え得るものとして推進しています。 デザインは、ブランドの構築に役立つだけでなく、顧客などの対象を観察することで気づいた潜在ニーズを事業に生かす営みでもあり、それがイノベーションをもたらすという考え方ですね。