ホーム > 特別企画 シリーズ「特許庁に突撃!!」 > 「デザイン経営」について、聞いてみた(後編)
シリーズ「特許庁に突撃!!」の第1回目は広報室にインタビューし、最近の特許庁の取り組みには、「デザイン経営」という考え方が大きな影響力を及ぼしており、それが職員の意識を変えるヒントになったという話を聞いた。
第2回目となる今回のインタビューでは、特許庁のデザイン経営プロジェクトで最前線にいたお二人に実際のデザイン経営の取り組みについて聞く。(前編はこちら)
インタビュアー:知財ポータルサイト IP Force 成田浩司
インタビューに協力してくれた、特許庁デザイン経営プロジェクトチームの外山雅暁(とやま まさとき)さん。デザイン経営では、対象ユーザーへのヒアリングがとても重要で、前提条件を取り払って相手の話を聞くことで、答えている本人も気づいていないような課題が見えてくることがある。
成田デザイン経営では、対象ユーザーへのヒアリングがとても重要だと言われていますが、ヒアリングの際に意識したことなどはあるのでしょうか。
今村さんこれまではヒアリングする場合も、ある程度の落とし所を意識しながらやっている場合が多かったと思います。落としどころに誘導するようなヒアリングになっていたり。
成田the 霞ヶ関対応ですね。
今村さんそう言われても仕方ないかもしれません(苦笑)。それに対してデザイン経営の取り組みでは、そうした前提条件のようなものを取り払い、まっさらな気持ちでヒアリングします。今思えば、これまでのヒアリングでは「わかったつもり」で聞いている部分があったように思います。しかし、相手のことをよく観察しながら相手になったつもりで話に耳を傾けてみると、ふと何かに引っかかる瞬間があることに気付かされます。
そこからさらに続けて、あらゆる方向からの角度を変えた質問をしたり、深掘りした質問をしたりして返ってくる言葉をよく分析してみると、「あれ? これはこういうことを言っているんじゃないか?」というまったく違った発想にたどり着き、相手が抱えている課題なりニーズなりが見えてくることがあります。
外山さんそしてそれは、答えている本人も気づいていないような、過去から抱えている内在的な課題であることが往々にしてあります。
今村さんヒアリングの相手もまったく気づいていなかったのだけど、こちらが「あれ? それはこういうことじゃないですか?」と聞くと、「ああ、そういうことなんですよ!(言われてみれば)」という感じです。
外山さんデザイン経営では、課題の発見と解決策の発案を「ダブルダイヤモンド・モデル」というプロセスに沿って行います。最初に課題を発見するためのフェーズがあり、ここではヒアリングする相手の話をまずは理解し、観察する試みを幅広い形で進めていきます。ダブルダイヤモンドの図では「発散」の方向に向かうプロセスにあたり、制限せずにいろいろな情報を吸収していきます。
特許庁が実践したダブルダイヤモンド・モデルに基づくデザイン思考のプロセス(提供:特許庁)
今村さんいろいろな話を聞いて理解していった先で、今度は、それらの中でユーザーにとって本当の課題は何なのかを見極めるフェーズに向かっていくのですが、それは真の課題の発見に向かう「収束」のプロセスにあたります。ここで発見する課題は、それまでに気付かれていたものもあれば、まったく気付かれていなかったものもあるという感じです。
実は、従来の取り組みでは、最初に「課題ありき」で検討に入っていたことが多かったように思います。ここを目指す上ではこの課題があるので、この課題をはっきりと特定するためにヒアリングをしよう、というのが通常の流れでした。この場合、課題に対して想定される解決手段も一つです。
成田役所が行うパブリックコメントなどにはそんなイメージがあります。デザイン経営では違うアプローチをするということですね。
今村さん課題を広い範囲から絞っていった上で、それをどう解決するかについては、ひとつの山にも複数の登山ルートがあるように、幅広い解決手段を挙げていきます。その中からどれを実践するかを絞っていくのですが、絞った解決手段が成功するかどうかはわからないため、やってみてダメだったならば見直すというアジャイル型の手法をとることになります。失敗しても次を試すことができる、失敗を受け入れるという考え方も重要です。失敗を恐れて立ちすくんでしまうのが一番良くないですから。
これが、デザイン経営で私たちが実践しているプロセスです。これをやると、発想の仕方が変わってくるので、その主体である人間自体も変わってきます。
成田そこの発想の仕方を変える工程が非常に重要なのですね。
今村さんそうです。従来は、課題がだいたい見えているというスタンスでやっていたので、これらの工程は確認作業でしかありませんでした。
外山さんデザインの取り組みで、正しい課題を発見するまでのプロセスはけっこう大変でした。たとえば海外チームは翻訳コストをめぐる課題の中にあるユーザーの真の要望を発見するまで、非常に苦労したようです。このままではプロジェクトが終わってしまうと危機感を募らせていた矢先、最後の最後にユーザーの真の要望が見つかったことで、有用な解決策を示すことができました。