ホーム > 特別企画 シリーズ「特許庁に突撃!!」 > 広報の人に聞いてみた(後編)
ここ数年、特許庁の対外的な活動が活発になってきていると感じませんか?
知財業界の中ではちょっとお堅いイメージのある特許庁。
なにか変わってきているような……。
そんな気になる特許庁の対外活動について、特許庁の人に聞いてきました。
前編に続き、後編をお届けします。
インタビュアー:知財ポータルサイト IP Force 成田浩司
成田先ほど、近年の広報室の取り組みでは「デザイン経営」の考え方もヒントになったというお話がありました。特許庁の広報室の活動に対して、デザイン経営が与えた影響について、教えてください。
清水さん特許庁が2018年5月に「デザイン経営宣言」を発表し、その後「デザイン経営プロジェクト」の開始につながっていくのですが、それ以前からデザイン思考を活用する取り組みは始まっていました。2018年2月頃からデザイン思考を取り入れた若手向けの研修やプロジェクトなどを行い、6月頃には管理職向けの研修を開催しました。広報室がウェブサイト改善の検討を進めていたときは、ちょうどこうした取り組みが進んでいた時期でした。ウェブサイトにもデザイン思考を取り入れるよう宗像長官からも指示が出ていました。そうした経緯から、デザイン思考の専門家の支援を得ながら「多様な職員からなるプロジェクトチームによって新しいコンテンツを作る」という取り組みを、早い段階から始めていました。
成田デザイン経営プロジェクトでは、各チームごとにテーマを設定し、それに取り組んだと聞きましたが、それとは別に、広報室では日頃の活動でもデザイン経営のマインドを生かした姿勢で臨んでいたということでしょうか?
清水さんそうですね。デザイン経営プロジェクトでは、広報チームは広報室の主要な課題とは少し異なる子ども向けの広報に取り組みました。その取り組みの成果も、子供向けのイベントやウェブコンテンツとして実現するのですが、デザイン経営プロジェクトの成果はそれだけではなくて、広報室の主要な課題の解決に役立つ様々な気づきをデザイン経営の考え方から得ることができました。これが大きな成果でして、日ごろのコンテンツ作成に大きな影響を与えていると思います。
成田具体的にどんな気づきがあったのでしょうか?
清水さんこれまで言及してきた「ユーザー目線を徹底する」ということの他に、2つほどありました。1つは、「豊富なアイディアの生み出し方」です。デザイン思考を用いて議論する際には、人の発言を否定しないというルールを課します。また、発言だけでなく、付箋やホワイトボードなどの多様な発表方法を組み合わせます。こうすることで、その場にいる人が自分の得意な手段で自由にアイディアを出せる環境を確保します。
内輪だけで議論すると、多くの場合、多様性がなくなってしまうものです。落とし所がなんとなく見えて、もっといい解があるかもしれないのに、それについて誰も発言しないままに、結論やゴールが近そうなソリューションに向かって進んでいくという傾向になりがちです。しかし、デザイン経営を取り入れると、みんなが自由に発言するようになるので、より広いサーチ範囲からソリューションを見つけることができ、よりいい解にたどりつく可能性が高まっていくように思います。
成田もう1つの気づきは?
清水さんもう1つは、「チームの潜在能力の生かし方」です。通常の業務は効率を高めるために担当分野が決まっていることが多いですが、プロジェクトとして業務を進める際には、担当業務を柔軟にできます。デザイン経営プロジェクトを通じて未経験の課題に取り組む中で、アイディアをイラストで表現する、資料の見た目を美しくする、人脈が豊富など、チームメンバーの意外な能力が顕在化しました。
このような効果を通常の業務でも発揮できないかと考え、広報室のメンバーに「自分の所掌に関係しないことでも自由に意見を出してほしい、得意な能力があればどんどん発揮してほしい」と伝えてみました。すると、デザイン経営プロジェクトの時と同じように、各メンバーが担当業務とは直接関係がないこと、例えば、プログラム、ツイッター、イラストなどの様々な能力を持っていることがわかってきました。その結果、広報室内で各メンバーの能力の共有が進み、情報交換や助け合いが活発になりました。組織としては、足りない能力を補い合える環境ができますし、チーム全体もうまくいくことがわかりました。
佐藤さん「え、そんなこともできるんですか!?」という話が本当にたくさん出てきます。「このソフトを使ってそんなことができるんですか!?」「ツイッターって、こんな機能があったんですか!?」といった知識がチーム全体で共有されるようになります。
成田なるほど。逆に、デメリットはないのでしょうか?
佐藤さん議論を尽くすので、時間がけっこうかかる場合が多いです。
清水さん議論が発散してしまうことも多いので、期限がタイトな業務には向かないかもしれません。
成田物事にはトレードオフがあるということでしょうか。論点にフォーカスしていかに効率よく片付けるか、それとも新しいアイディアや視点を求めて色々なところをさまよう戦略をとるのか。デザイン経営というものは、何かを効率的にやるよりは、いろいろな視点を表舞台に取り上げるのが強みの戦略、ということなのかもしれませんね。
清水さんそうですね。ただ、そのようなデメリットはノウハウの蓄積によって緩和できる気もします。議論が発散しがちという点は、結局のところ、プロジェクトチームの大きさをどうするかである程度調整できると思います。人をたくさん投入すれば物事が早く進むわけでも、よくなるわけでもありません。どうやって最適なメンバー数を確保するのか、どういう人をチームに入れるのかとなどを模索しながらノウハウを蓄積していく必要があるのかもしれません。
成田人数のほかにポイントは?
清水さん多様性がポイントではないでしょうか。似た人よりも、いろいろな人を入れることに意味があると思います。