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「商標拳~ビジネスを守る奥義~」動画の1シーン
カンフーアクションとコミカルなストーリー展開が話題となった、特許庁のPR動画「商標拳」。商標制度の普及をめざしてつくられたこの動画は、ことし1月の公開から各メディアとSNS上を騒がせ、「商標権」のイメージを人々の間に浸透させることに成功しました。
公開から半年以上をへて、一連のコンテンツを作った担当者たちに当時の舞台裏について振り返ってもらい、あわせて、その成果と効果について話してもらいました。(前編はこちら)
※新型コロナウイルス感染症の感染予防のため、インタビューはオンラインで行いました。
インタビュアー:知財ポータルサイト IP Force 成田浩司
成田公開後の反響について教えてください。
須崎さんこれまでのところ、YouTubeの再生回数だけで167万回、ツイッターを介して再生された分なども含めると約500万回に達しています。100万回再生を成し遂げるのは、官庁のYouTubeチャンネルとしてはすごいことのようです。各官庁がYouTubeチャンネルを運営していますが、再生回数100万回を達成した動画は全体の動画のうち0.4%ほどしかありません。
須崎慎平さん=特許庁 事務官。デザイン経営プロジェクトチームの一員として「商標拳」プロジェクトに参加。コンテンツの拡散などを担当。(写真提供:特許庁)
成田YouTubeの再生回数167万回はすごいですね。ツイッター上でも反響が大きかったようですが。
須崎さん特許庁のツイッター・アカウントのフォロワー数も追っていたのですが、今年1月の動画公開後、新規フォロワーの増加数は、前月比5倍くらいでした。その後も5月末ころまでフォロワー数を追いかけていたのですが、右肩上がりで増えていました。
成田特許庁のアカウントのフォロワー数は、現段階で6万人ほどですね。
須崎さん一度ついてくれたファンの人たちが離れず、しっかりとついてきてくれているようです。チーム内では、動画がおもしろかったからという「ノリ」でフォローしてくれた人がいた場合、数か月後には離れてしまうかもしれないという話をしていました。しかし、興味を持ってくれた人からしっかりと認知され、フォロワーになってもらえたということなのでしょう。拡散能力が底上げされており、しっかりと成果が表れてきたと言えるのではないでしょうか。
成田動画をみたユーザーの反応はどうでしたか?
須崎さんツイッターのコメントを分析してみると、「まったく興味がなかったが、この動画で商標について初めて知った」とか「商標って、本当に自分に必要ないものなのだろうか」といったものがみられ、知財の「無関心層」にしっかりとメッセージが届いてるなと感じました。
成田狙い通りですね。
須崎さんはい。ほかに、「これを機に知財について勉強してみようかな」といった学生さんのものとみられるコメントもあり、未来の知財ユーザーの意識を育てることにもつながったのかなと、うれしく思っています。
成田コメントを見ると、しっかりと届いているのがわかりますね。
須崎さんそうですね。コメントを見ていると、ネットから拡散していく情報の伝わり方って、すごく強いなと思います。通常、特許庁の広報は、専門的な情報を硬めに発信することが多いのですが、今回のようなツイッターでのコミュニケーションでは、「この動画、おもしろいから見てごらん」「商標って重要なんだね」といったメッセージが、身近な人を通じて最終的にターゲットに伝わっていくという現象が見受けられます。もしかしたら、伝わり方のルートが違うことで説得力を持ってメッセージが受け止められる、という面があるのかもしれません。
成田「商標拳」は、テレビなどの各メディアでも取り上げられましたね。
鹿戸さん何回か地上波の報道・情報番組で取り上げていただきました。クイズ番組でクイズとして出題された際にはとてもうれしかったのを覚えています。そのほか、全国紙でも大きく記事にしていただきました。
成田特許庁からアプローチしたのですか?
鹿戸さんこちらからメディアに対して直接アプローチはしていないです。「商標拳」は公開してからすぐに大きな反響があり、様々な媒体から取材の申し込みをいただきました。
成田完全な「勝ちパターン」ですね。私も弁理士会の広報をした経験があるのですが、地上波から取材申し込みを受けるというのは、なかなかハードルが高いと思います。
鹿戸さんそうかもしれませんね。いろいろな方面から反響があり、非常にありがたく思っています。
成田タイミングもよかったのかもしれませんね。社会全体で知財についての認知が進んできて、多くの人がなんとなくその重要性を意識し始めていたときに、「商標拳」のようなわかりやすいコンテンツがポンッと出てきたことで、メディアも取り上げやすかったのではないでしょうか。
「商標拳~ビジネスを守る奥義~」動画の1シーン
鹿戸さん確かに、そういう面はありそうですね。動画を公開してから、「特許庁でこの商標が登録されました」とツイートする人が増えたように思います。
成田なるほど。総括すると、一連の「商標拳」プロジェクトは、狙い通りの結果を得られたということでしょうか。
石井さんそう評価しています。「商標権はビジネスの基本」「商標権を知らずにビジネスをするのは経営上リスクがある」という2つのメッセージをターゲットの中小企業の人たちに届けることができたと思います。動画はYouTubeの再生回数が167万回と反響が大きかった上、様々なメディアに取り上げてもらったことで、結果として非常に多くの人の目にとまる形になりました。商標権について説明した特設サイトへの流入にも成功し、企画全体として大きな成果が得られたと総括しています。
石井亮さん=特許庁 商標審査官。デザイン経営プロジェクトチームの一員として「商標拳」プロジェクトに参加。商標面での内容確認などを担当。ことし4月から九州経済産業局に出向。(写真提供:特許庁)