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寄稿コラム「アニメ×知財教育!? 小さな研究室の挑戦」
第5回:卒業研究から生まれた「著作権のうた」 -原作MVからカバーMVへの展開-

1月8日(木)配信

 これまで4回にわたり、私たちの研究室が取り組んできたアニメーション教材の制作プロセスと、それを届けるプロモーション活動についてお伝えしてきました。活動の中心はアニメーション教材でしたが、これらの活動が大きなきっかけとなり、学生たちの「やってみたい!」という情熱はそれ以外の形でも表現されています。

 今回は、初めてミュージックビデオ(MV)の制作を行った例についてご紹介します。これは、一人の学生の主体的な発案がチーム制作へと発展し、結果的に社会に届くコンテンツへと成長していった事例です。

始まりは卒業研究から

 第3回コラムでご紹介した産業財産権のアニメーション教材制作プロジェクトは、参加学生や後輩たちの創作意欲を刺激する大事なきっかけとなりました。そして、この頃から創作への熱意を「卒業研究」に向ける学生たちが毎年出てくるようになりました。その大きな流れの中で生まれたコンテンツが「著作権のうた」です。

 発案は一人の学生からでした。ゼミ配属の面談のとき、考えている卒業研究のテーマについて聞いたところ、「著作権という難しいテーマを、若い世代にもっと身近に感じてもらえる楽曲を作りたい」と言い出したので驚きました。こんなことを言う学生は初めてでした。

 卒業研究は1年かけて取り組みます。思いに共感する仲間を集め、学生チームでのコンテンツ制作がスタートしました。作詞・作曲・イラスト制作・映像編集まで、すべて学生たちが分担して手掛け、VOCALOID(ボーカロイド)を用いたオリジナル楽曲「著作権のうた」のMVを作り上げていきました。

image1_2 作詞・作曲・イラスト制作・映像編集まで、すべて学生たちが分担して作っていった。

 そして、2024年1月、研究室のYouTubeチャンネルで公開されました。著作権の複雑な名称を、軽快なメロディと若者の視点で表現しようとした挑戦は、非常に価値のあるものだったと思います。2025年12月時点で2.3万回以上再生されており、デジタルでもリアルでも多くの方から反応をいただきます。ぜひ聴いていただきたいです。支分権が頭から離れなくなります(笑)

著作権のうた

カバーMVプロジェクトへ

 YouTubeのコメントやTVニュースなどの反響を見て、このMVは卒業研究だけでなく、もっと社会に大きなインパクトを与えられる可能性があると私たちは考えました。また、ガイドラインに従って初音ミクが登場するMVコンテンツをYouTube上に掲載することは問題ないものの、より多くの人に自由に上映などの形で活用していただくにあたっては、権利関係などをクリアにしておく必要もあると考えました。

 そこで、この楽曲をより多くの人に届けるため、また、学生たちが原作を尊重した新たな創作を実践する貴重な機会として、正式なプロジェクトとして「カバーMV」を制作することを決定しました。

 幸いにも、この企画は一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)の共通目的基金の助成事業として採択され、私たちは新たな挑戦を行うことができました。

image4 「カバーMV」の制作は、学生たちにとって原作を尊重し、新たな創作を実践する貴重な機会となった。

学生が描く世界観

 このプロジェクトも主役は学生たちです。原作の楽曲をベースに、より伝わる作品にするため、動画制作会社に委託するにあたって企画の中心部分を学生たちが担いました。

 原作のMVには星野夜めまちゃんが登場しています。「『星野夜めま』ちゃんは顔を出さない歌い手『めんみ』として活動している」という設定がここで活かされ、めまちゃんのCVを担当してくださっている声優の首藤志奈さんに「めんみ」として歌唱していただくことが実現しました。

 そして、楽曲の世界観を視覚化するため、メンバー全員でテイストの参考となる動画を調査してイメージを固めていきました。歌詞のどの部分で、どんな映像を見せればメッセージが響くか、活発な議論の中から、たくさんのアイデアが生まれ、絵コンテを作成していきました。これまでのコンテンツやキャラクターに対する思い入れも強く、ときに激しく意見がぶつかり合うこともありました。しかし、原作のコンセプトを踏まえ、原作を尊重した作品づくりをするという良い経験になったと思います。

image10 歌詞のどの部分でどんな映像を見せればメッセージが響くか、活発な議論の中からたくさんのアイデアが生まれ、絵コンテを作成していった。

 また、登場するキャラクターの衣装デザインも学生が担当しました。数人が衣装案を提案し、全員で評価することでまた新たな衣装案が生み出され、最終的に、学生ならではの柔軟な発想が盛り込まれた衣装デザインが完成しました。

image7 キャラクターの衣装デザインも学生が手がけた。

大分駅ビジョンへ

 こうして完成した「著作権のうた」カバーMVは、プロによる歌唱・イラスト・編集等の技術によって、学生たちのアイデアが何倍にも増幅された素晴らしい作品となりました。

 そして、このMVは、第4回コラムでご紹介した「届ける」活動に大きく繋がっていきました。完成したMVは、YouTubeでの公開はもちろんのこと、大分駅にあるJRおおいたシティの大型ビジョンや、映画館の上映広告(シネアド)でも上映されました。学生チームの卒業研究から始まった小さな種が、研究室のプロジェクトとなり、最終的には大分の玄関口で多くの人々の目に触れるコンテンツへと成長したことは感慨深いです。

 自分たちの企画した作品が、街中の大型ビジョンで流れるという経験も、学生たちにとって大きな達成感と、さらなる創作への意欲をもたらしてくれたと思います。

 学生の主体的な「やってみたい」という思いをいかに社会に届くコンテンツへと実装させていくか、このプロジェクトはその一つの成功例となりました。

著作権のうた(COVER)/ めんみ

近況(イベントの報告)

 前回のコラムでお知らせしたイベント「ポップカルチャー×情報教育2025」は無事に成功しました。寒い中でしたが、1000人以上の方にご来場いただき、大分県警察音楽隊の演奏や本学WHDanceサークルのステージ、声優お二人のトークや生アフレコなどで会場は大いに盛り上がりました。学生たちが準備してきた啓発アニメや情報教育用アニメーション教材の紹介・上映、知財に関するクイズ大会なども実施でき、学生主体の企画が形になったことをとても嬉しく思います。

 そして、なんとその中で、首藤志奈さんが「著作権のうた」を歌唱してくださいました! 卒業研究から生まれた作品が、こうして会場で共有され、さらに多くの人に届いていくことを実感する出来事でした。詳細は以下の記事をご覧ください。

■参考記事

■筆者プロフィール
著者:野田 佳邦
大分県立芸術文化短期大学 情報コミュニケーション学科 准教授
知的財産支援室 次長/情報メディア教育センター 次長
一般社団法人知財教育デザイン協議会 代表理事
弁理士(特定侵害訴訟代理業務付記)/ビジネス著作権検定上級

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大分県生まれ。大阪大学大学院情報科学研究科修士課程修了(修士(情報科学))。その後、特許庁でIT分野の特許審査業務などの知財行政に従事。在職中、弁理士試験やビジネス著作権検定上級に合格するとともに、経営学修士課程を修了(修士(経営学))。故郷である大分県に貢献したいという強い思いがあり、2015年より大分県立芸術文化短期大学に着任。大分県知財戦略推進会議副議長、一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)「10代のデジタルエチケット」教育コンテンツ検討委員、一般財団法人工業所有権協力センター(IPCC)特許検索競技大会実行委員、大分市DX推進アドバイザー、公益財団法⼈ハイパーネットワーク社会研究所共同研究員などを務める。近年は、学生参加型のアニメ教材制作プロジェクトなど、ポップカルチャーやデジタルコンテンツを取り入れた教育活動を展開している。

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