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4月12日
3月12日(木)配信
これまでの回では、学生が企画・制作した啓発アニメーションや教材づくりのプロセス、そしてそれを届けるための工夫について紹介してきました。今回はその流れの中でも、「著作権」をテーマにした高校「情報Ⅰ」向けアニメーション教材の制作について紹介します。
この教材は、研究室の公式キャラクター「星野夜めま」ちゃんと、著作権に詳しい犬「ちょさく犬」を中心にストーリーを展開する構成です。動画は2025年1月にYouTubeで公開されました。
「著作権」をテーマにした高校生向けのアニメーション教材を制作した本プロジェクトは、2023年度に取り組んだ「産業財産権」のアニメーション教材制作に続く実践として、2024年度に実施しました。研究室の2年生12名と1年生9名が参加し、「著作権」に焦点を当てた13分弱(12分42秒)のアニメーション教材を開発しました。目的は、著作権の基本概念について、高校生が理解しやすいよう手助けすること、そして大学生自身の学びを深めることです。本プロジェクトについても、学生がシナリオやキャラクターデザインといった制作の前工程(プリプロダクション)を担い、作画やCVなどの制作は専門の動画制作会社に委託する形を取りました。教材として広く公開する以上、プロの技術による高いクオリティが不可欠です。
工夫したのは、制作の前提となる「情報Ⅰ」の教科書分析を、学生主体の形式に切り替えた点です。学生たちは教科書を読み比べ、共通する内容や教科書ごとの違いを整理したうえで、「高校生にどの内容を伝えるべきか」を議論していきました。分析では、記載内容を横断的に確認し、「何が書かれ、何が書かれていないか」「どの程度の分量で扱われているか」といった観点から整理し、動画に盛り込む内容を検討しました。
さらに、YouTubeなどで公開されている既存の著作権解説動画も調査し、既存の動画に不足する要素や差別化のポイントを洗い出しました。そして、教科書の内容を踏まえつつ、身近な事例を交えたストーリー仕立ての動画が必要だという結論に至りました。
著作権は日常のあらゆる場面に関わるため、扱う範囲がとても広い著作権は、日常のあらゆる場面に関わるため、扱う範囲がとても広い分野ですし、産業財産権と比較すると、教科書における掲載ページ数も多いです。だからこそ、高校生に伝える際には「大事なことをまとめる」だけでも至難の業になります。
一方で、学ぶべきことを詰め込みすぎると、今度は動画として真面目すぎて面白くなくなり、視聴者が途中で飽きてしまいます。今回の制作で私たちが直面したのはこのジレンマでした。伝えるべきことは多いけれど、どこかに面白さもなければ観てもらえない、というそれぞれ矛盾するように思えるものをどう両立させるかが、今回のシナリオ制作の最大の難所でした。
2023年度に手がけた産業財産権については、教科書の中でもごく簡単な説明にとどまっているため、そこをカバーした上で肉付けをし、ストーリーで制度の本質を理解してもらう、というコンセプトで制作することができました。つまり、教科書の内容に対してプラスアルファを考えて制作しました。しかし、著作権はそもそも伝えるべきことが多すぎて、どこまで手を付けるか悩みましたし、一つ説明するために、その前提となる知識も解説しなければなりません。さらに、動画の尺や予算の制約もあります。著作権という難しいイメージのあるテーマを、楽しんで学んでもらえる内容にすることがとにかく難しかったです。何度も壁にぶつかって煮詰まりましたが、私はあまり口出しせずに、「高校生が飽きずに見てくれるかな?」「本当に面白い?」と度々投げかけました。
最後には学生たちの粘りが効いたと思います。かなり疲弊した議論の中でも、学生たちはゼミの後に自主的に残ってアイデアを出し続けてくれました。半年ほどかけてみんなでシナリオを考えることで、どこを削るかも明確になりましたし、注目してもらうための良いアイデアもいくつか生まれました。
著作権という難しいイメージのあるテーマを高校生に楽しんで学んでもらうため、議論に議論を重ねた教えるだけではなく、観たくなる仕掛けも入れたい。著作権の入口を堅い説明ではなく、引き込まれるようなストーリーを設計したい……。今回も打開策となったのはやはりキャラクターの存在でした。
本教材の大事な存在となるのが「ちょさく犬」です。ちょさく犬は、実は2021年から存在しているキャラクターなのですが、今回のアニメーション教材の制作を機にキャラクター設定を掘り下げていきました。ちょさく犬は、「星野夜めま」ちゃんの部屋にいる「著作権に詳しい犬」で、都合の悪いことはすぐに忘れるところがあります。
アニメーション教材の制作を機に、「ちょさく犬」のキャラクター設定を掘り下げていったこの「ちょさく犬」のキャラクターを活かし、具体的には、
◆ちょさく犬がクイズを出題するパートを取り入れる
◆ちょさく犬がめまちゃんとの約束を忘れていちごクッキーを食べてしまう
といったシーンを盛り込み、解説のみが連続するのを避けることができました。
そして、面白さを成立させる最後の支えになったのが、声優の方々の演技でした。ちょさく犬役は「星野夜るな」役の真野美月さんにご担当いただくことができ、演技の幅広さで作品の面白さを大きく支えてくださいました。特に、ちょさく犬が「めまちゃん!!!」と言いながらカバンから飛び出してくるシーンや、めまちゃんとの約束を忘れていちごクッキーを食べてしまうシーンは必見です(笑)。
また、「星野夜めま」役の首藤志奈さんも、友人やお姉ちゃん相手との会話とはまた違った「ちょさく犬」との親近感のあるやり取りを演じてくださり、本作は本当に声の力に助けられたと感じています。
著作権は一度聞いて終わりの知識ではなく、日々の創作や情報発信の中で何度も立ち返るテーマです。だからこそ、最初の入口でつまずかないこと、そして、知ることだけでなく考えたくなる形で出会うことが大切だと、今回の制作を通じて改めて実感しました。また、シナリオ制作を通じて「自宅でも復習をしまくった」と話す学生もおり、つくる過程そのものが学びを深める時間になっていたことが印象的でした。
2025年5月には、大分県立宇佐高等学校の「情報Ⅰ」の授業を見学し、実際に自分たちの教材が使われている場面を拝見しました。教室で生徒たちが反応する様子を見て、制作の苦労が報われる思いでした。
制作した教材が、大分県立宇佐高等学校の「情報Ⅰ」の授業で使われている様子成果物のみならず、学生たちが疲弊するほど悩みながらも、面白さを諦めず、工夫を形にしていったことも、知財教育の実践として大きな意味を持つと感じています。完成した教材が、教育現場や啓発活動の中で活用され、若年層にとっての「著作権の入口」として機能していくことを期待しています。どんなストーリーになったのか、どんなキャラクターたちが登場するのか、ぜひ本編をご覧ください。
【情報Ⅰ】ちょさく犬教えて!著作権ってなに!?【【星野夜めま🌃🌙】】
※本動画は三菱みらい育成財団の助成を受けて制作しました
■筆者プロフィール
著者:野田 佳邦
大分県立芸術文化短期大学 情報コミュニケーション学科 准教授
知的財産支援室 次長/情報メディア教育センター 次長
一般社団法人知財教育デザイン協議会 代表理事
弁理士(特定侵害訴訟代理業務付記)/ビジネス著作権検定上級
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大分県生まれ。大阪大学大学院情報科学研究科修士課程修了(修士(情報科学))。その後、特許庁でIT分野の特許審査業務などの知財行政に従事。在職中、弁理士試験やビジネス著作権検定上級に合格するとともに、経営学修士課程を修了(修士(経営学))。故郷である大分県に貢献したいという強い思いがあり、2015年より大分県立芸術文化短期大学に着任。大分県知財戦略推進会議副議長、一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)「10代のデジタルエチケット」教育コンテンツ検討委員、一般財団法人工業所有権協力センター(IPCC)特許検索競技大会実行委員、大分市DX推進アドバイザー、公益財団法⼈ハイパーネットワーク社会研究所共同研究員などを務める。近年は、学生参加型のアニメ教材制作プロジェクトなど、ポップカルチャーやデジタルコンテンツを取り入れた教育活動を展開している。
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