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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-196919(P2016-196919A)
(43)【公開日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】電磁式摩擦係合装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 27/112 20060101AFI20161028BHJP
【FI】
   F16D27/10 341R
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-76797(P2015-76797)
(22)【出願日】2015年4月3日
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128211
【弁理士】
【氏名又は名称】野見山 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100145171
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕
(72)【発明者】
【氏名】小久保 直之
(57)【要約】
【課題】インナクラッチプレートとアウタクラッチプレートの非締結状態では両プレートを離隔させて引き摺りトルクの低減を図りつつ、両プレートの締結状態では両プレートの締結力を弱めることなく、両プレート間で十分な駆動力伝達を果たすことができる電磁式摩擦係合装置を提供する。
【解決手段】電磁クラッチ装置1は、ハウジング2と、ハウジング2に対して相対回転可能なシャフト3と、ハウジング2側に連結されたアウタクラッチプレート4と、シャフト3側に連結されたインナクラッチプレート5と、アウタクラッチプレート4とインナクラッチプレート5とを摩擦接触させる押圧力を発生する押圧機構6と、アウタクラッチプレート4とインナクラッチプレート5とを離隔する弾性部材7とを備え、弾性部材7は締結状態が解除されたときにアウタクラッチプレート4のスリット400を介してインナクラッチプレート5の介在部510を弾性的に押圧する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に収容空間が形成されたハウジング部材と、
前記収容空間に少なくとも一部が収容され、前記ハウジング部材に対して相対回転可能な回転部材と、
前記ハウジング部材に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結された第1のクラッチプレートと、
前記回転部材に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結された第2のクラッチプレートと、
前記第1クラッチプレートと前記第2クラッチプレートとを摩擦係合させる電磁力を発生する電磁コイルと、
前記電磁コイルを収容する軟磁性体からなる収容部材と、
前記電磁力によって前記収容部材側へ移動するアーマチャと、
前記収容部材と前記アーマチャとの間に配置された環状の弾性部材とを備え、
前記第1及び第2のクラッチプレートのうち少なくとも何れか一方のクラッチプレートには、周方向に所定の間隔で配置されて周方向に延びた複数のスリットと、周方向に隣り合う前記スリットの間に介在する複数の介在部とが形成され、
前記弾性部材は、少なくとも1つの山部を有し、前記山部が前記一方のクラッチプレートの前記スリットを通って前記第1及び第2のクラッチプレートのうち他方のクラッチプレートを押圧して、前記第1のクラッチプレートと前記第2のクラッチプレートとを離間させる、
電磁式摩擦係合装置。
【請求項2】
前記一方のクラッチプレートは前記第1のクラッチプレートであり、
前記弾性部材が前記収容部材と前記第2のクラッチプレートとの間で前記弾性力を発生させる、
請求項1に記載の電磁式摩擦係合装置。
【請求項3】
前記弾性部材は、周方向に前記山部と谷部とを形成したウェーブ状に湾曲して形成された、
請求項1又は2に記載の電磁式摩擦係合装置。
【請求項4】
前記第1及び第2のクラッチプレートの締結状態が解除された際において、
前記第1のクラッチプレートの前記介在部が前記第2のクラッチプレートの前記スリットの周方向における中間部に位置したとき、前記弾性部材は、前記山部が前記第1のクラッチプレートの前記スリットを介して前記第2のクラッチプレートの前記介在部に接触すると共に、前記谷部が前記収容部材に形成された凹部の底面に接触して、前記第2のクラッチプレートを前記第1のクラッチプレートから離間させる、
請求項2又は3に記載の電磁式摩擦係合装置。
【請求項5】
前記弾性部材は、前記第1及び第2のクラッチプレートが締結されていない非締結状態での軸方向における長さが、少なくとも、前記収容部材の前記凹部の深さと前記第1のクラッチプレートの板厚とを加算した長さよりも大きい、
請求項2乃至4の何れか1項に記載の電磁式摩擦係合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁コイルへの通電により発生する電磁力によって動作する電磁式摩擦係合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の摩擦板間に摩擦力を発生させる摩擦係合装置が、例えば車両の駆動源の駆動力を伝達するための電磁クラッチ装置として用いられている。この種の電磁クラッチ装置には、非動作状態において生じるクラッチプレート間の引き摺りトルクを低減させるための構成を備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の電磁クラッチ装置は、同軸上で相対回転するハウジング及びシャフトと、ハウジングに軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結された3枚のアウタクラッチプレートと、シャフトに軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結された2枚のインナクラッチプレートと、インナクラッチプレートとアウタクラッチプレートとを摩擦接触させる押圧力を発生させる押圧機構とを備えている。
【0004】
また、インナクラッチプレートの間であって、その間に挟まれる前記3枚中の1枚のアウタクラッチプレートに対応する位置には、前記1枚のアウタクラッチプレートと前記2枚のインナクラッチプレートを離隔させて潤滑油の粘性及び残留磁気による引き摺りトルクを低減させるための離隔部材として、環状で周方向に山部と谷部を形成したウェーブ状のスプリングが配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−38958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載された電磁クラッチ装置では、離隔部材としてのスプリングのウェーブ形状に基づく弾性力が、電磁コイルへの非通電中に前記2枚のインナクラッチプレートを前記1枚のクラッチプレートから離隔させることには寄与するが、前記ウェーブ形状の調整及び変更が適切でないと、クラッチプレートは摩擦力を伝達させるために強度上必要な板厚を有すると共に、磁気吸引力を十分に発生させるために必要な面積を有するため、前記2枚のクラッチプレートを離間させるための弾性力が強すぎる場合がある。この場合には、電磁コイルへの通電中は、前記2枚のインナクラッチプレートと前記1枚のアウタクラッチプレートの間の締結力を弱めるように作用するため、十分な駆動力伝達を果たすことができない恐れがある。
【0007】
そこで、本発明では、インナクラッチプレートとアウタクラッチプレートの非締結状態では両プレートを離隔させて引き摺りトルクの低減を図りつつ、両プレートの締結状態では両プレートの締結力を弱めることなく、両プレート間で十分な駆動力伝達を果たすことができる電磁式摩擦係合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、内部に収容空間が形成されたハウジング部材と、前記ハウジング部材に対して相対回転可能な回転部材と、前記ハウジングに対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結された第1のクラッチプレートと、前記シャフトに対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結された第2のクラッチプレートと、前記第1クラッチプレートと前記第2クラッチプレートとを摩擦係合させる電磁力を発生する電磁コイルと、前記電磁コイルを収容する収容部材と、前記電磁力によって前記収容部材側へ移動するアーマチャと、前記収容部材と前記アーマチャとを離間させる弾性力を発生する環状の弾性部材とを備え、前記第1及び第2のクラッチプレートのうち少なくとも何れか一方のクラッチプレートには、周方向に所定の間隔で配置されて周方向に延びた複数のスリットと、周方向に隣り合う前記スリットの間に介在する複数の介在部とが形成され、前記弾性部材は、少なくとも1つの山部を有し、前記山部が前記一方のクラッチプレートの前記スリットを通って、前記第1及び第2のクラッチプレートのうち他方のクラッチプレートを押圧して、前記第1のクラッチプレートと前記第2のクラッチプレートとを離間させる、電磁式摩擦係合装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る電磁式摩擦係合装置によれば、第1のクラッチプレートと第2のクラッチプレートを離間させる弾性部材が少なくとも1つの山部を有して最適な線形状にすることができ、かつ、弾性部材の山部が第2のクラッチプレートに形成されたスリットを通って第1のクラッチプレートと収容部材とを離間させる弾性力を発生させるので、第1のクラッチプレートと第2のクラッチプレートの非締結状態では両プレートを離隔させて引き摺りトルクの低減を図りつつ、両プレートの締結状態では両プレートの締結力を弱めることなく、両プレート間で十分な駆動力伝達を果たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施の形態に係る電磁クラッチ装置の構成例を示す断面図である。
図2】(a)はアウタクラッチプレートを示す平面図であり、(b)はインナクラッチプレートを示す平面図である。
図3】(a)は、弾性部材の構成を示す斜視図であり、(b)は弾性部材の側面構造の一部を示す側面図である。
図4】アーマチャ、インナクラッチプレート、磁路形成部材、及び弾性部材を含めた、図2(a)におけるA−A線断面図である。
図5】電磁クラッチ装置の動作状態における断面図である。
図6】電磁クラッチ装置の動作時における弾性部材の動作を模式的に説明するための説明図であり、(a)は締結状態を示し、(b)は非締結状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態に係る電磁式摩擦係合装置について、図1乃至図6を参照して説明する。本実施の形態では、摩擦係合装置が電磁コイルへの通電により発生する磁力によってクラッチプレート間に摩擦力を発生させる電磁クラッチ装置として構成され、電磁コイルへの通電時にシャフトに制動力を発生させるように機能する場合について説明する。
【0012】
図1は、本実施の形態に係る電磁クラッチ装置1の構成例を示す断面図である。なお、以下の説明では、電磁クラッチ装置1が有するシャフトの回転軸線Oに対して平行な方向を単に軸方向ということがある。
【0013】
電磁クラッチ装置1は、内部に収容空間2aが形成されたハウジング2と、ハウジング2に対して回転軸線Oを中心として相対回転可能なシャフト3と、ハウジング2に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結された第1のクラッチプレートとしてのアウタクラッチプレート4と、シャフト3に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結された第2のクラッチプレートとしてのインナクラッチプレート5と、アウタクラッチプレート4とインナクラッチプレート5とを摩擦接触させる押圧力を発生する押圧機構6と、押圧機構6の非動作時においてアウタクラッチプレート4とインナクラッチプレート5とを離隔する弾性力を発生する弾性部材7とを備えている。
【0014】
押圧機構6は、電磁力を発生する電磁コイル60と、電磁コイル60への通電により発生する磁束の磁路を形成する磁路形成部材61と、電磁コイル60の磁力によって磁路形成部材61側に引き寄せられて軸方向に移動するアーマチャ62とを有している。
【0015】
電磁クラッチ装置1は、アウタクラッチプレート4とインナクラッチプレート5とを電磁コイル60が発生した電磁力によって非締結状態から締結状態にすることにより、ハウジング2とシャフト3との間に摩擦力を発生させるものである。
【0016】
ハウジング2は、例えばアルミニウム等の非磁性金属からなり、円筒状の円筒部20と、円筒部20の外周面から外方に向かって立設されたフランジ部21とを一体に有している。フランジ部21には、例えば車体に搭載された回転体に電磁クラッチ装置1を取り付けるためのボルト挿通孔21aが形成されている。円筒部20は、内径が異なる大径筒部201及び小径筒部202を有し、これらの大径筒部201及び小径筒部202が軸方向に並列している。大径筒部201の内周部には、軸方向に延在する複数のスプライン突起からなるスプライン係合部201aが形成されている。小径筒部202の内側には、後述する磁路形成部材61が例えば圧入によって固定されている。
【0017】
シャフト3は、ハウジング2の大径筒部201に対向する大径部31と、ハウジング2の小径筒部202に対向する小径部32と、大径部31と小径部32との間に介在する中径部33とを一体に有している。つまり、シャフト3の外周面は、それぞれ外径が異なる大径部31,中径部33,及び小径部32によって軸方向に段差を有する段差状に形成されている。大径部31の外周部には、軸方向に延在する複数のスプライン突起からなるスプライン係合部31aが形成されている。小径部32の外周部には、軸受11及びシール部材12が配置されている。
【0018】
アウタクラッチプレート4とインナクラッチプレート5とは、ハウジング2の大径筒部201とシャフト3の大径部31との間に配置され、軸方向に沿って配列している。また、アウタクラッチプレート4とインナクラッチプレート5とは、ハウジング2の収容空間2aに封入された潤滑油によって摩擦摺動が潤滑される。
【0019】
アウタクラッチプレート4の外周側の端部には、ハウジング2における大径筒部201のスプライン係合部201aと係合する複数の係合突起40が形成されている。複数の係合突起40がハウジング2のスプライン係合部201aに係合することにより、アウタクラッチプレート4は、ハウジング2に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結されている。
【0020】
インナクラッチプレート5の内周側の端部には、シャフト3における大径部31のスプライン係合部31aと係合する複数の係合突起50が形成されている。複数の係合突起50がシャフト3のスプライン係合部31aに係合することにより、インナクラッチプレート5は、シャフト3に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結されている。
【0021】
磁路形成部材61は、第1環状部材611、第2環状部材612、及び第3環状部材613を備え、第1環状部材611は第2環状部材612の外側に、また第3環状部材613は第2環状部材612の内側に、それぞれ配置されている。第1環状部材611は、小径筒部202に嵌着され、小径筒部202の内周面と第1環状部材611の外周面との間には、Oリング13が配置されている。
【0022】
第1環状部材611及び第3環状部材613は、例えば鉄系金属からなる磁性体であり、第2環状部材612は、例えばオーステナイト系ステンレス等からなる非磁性体である。第2環状部材612と第1環状部材611及び第3環状部材613とは、磁路形成部材61の軸方向の一端部において、溶接によって結合されている。また、第2環状部材612におけるアウタクラッチプレート4を指向する軸方向端面612aには、弾性部材7の一部を収容するための軸方向に窪んで形成された収容凹部614が環状溝をなして形成されている。
【0023】
電磁コイル60は、エナメル線からなる巻線600と、この巻線600を収容する樹脂からなる保持部601と、保持部601の周方向の一箇所に軸方向に突出する突部602とを有している。突部602の軸方向端面からは、シース700及びこのシース700に収容された電線701が導出され、図略の制御装置から出力される電流が電線701を介して巻線600に供給される。
【0024】
電磁コイル60の巻線600は、第1環状部材611と第3環状部材613との間に形成された環状空間61aに収容されている。この環状空間61aは、軸方向に開口し、この開口が鉄系金属等の軟磁性体からなる蓋部材14によって閉塞されている。蓋部材14には、電磁コイル60の突部602を挿通させる挿通孔14aが形成されている。突部602の外周には環状溝が形成されて、この環状溝にOリング15が嵌着されている。なお、磁路形成部材61は、本発明における「収容部材」を構成する。
【0025】
アーマチャ62は、鉄系金属等の磁性体からなる環板状の部材であり、磁路形成部材61との間にアウタクラッチプレート4及びインナクラッチプレート5を挟む位置に配置されている。アーマチャ62の内周側の端部には、シャフト3の大径部31におけるスプライン係合部31aに係合する複数の係合突起62aが形成されている。複数の係合突起62aがシャフト3のスプライン係合部31aに係合することにより、アーマチャ62は、シャフト3に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結されている。
【0026】
また、アーマチャ62は、シャフト3のスプライン係合部31aの端部に嵌着された止め部材としてのスナップリング18によって磁路形成部材61から離れる方向への軸方向移動が規制されている。アーマチャ62の内周部には、軸方向に窪んだ窪部620が形成され、アーマチャ62がスナップリング18に接触したとき、スナップリング18は、この窪部620に収容される。これにより、電磁クラッチ装置1の軸方向の薄型化が図られている。
【0027】
シャフト3は、小径部32の外周と磁路形成部材61の第3環状部材613との間に挟まれて配置された軸受11を介してハウジング2に対して相対回転可能に配置されている。軸受11は、第3環状部材613の内側に嵌着された外輪111と、シャフト3の小径部32の外側に嵌着された内輪112と、外輪111と内輪112との間に転動可能に配置された複数の転動体113とを有している。内輪112には、シャフト3の中径部33の軸方向端面が突き当てられている。本実施の形態では、転動体113が球状であり、複数の転動体113が図略の保持器によって等間隔に保持されているが、これに限らず、転動体113が例えば円筒状であってもよい。
【0028】
弾性部材7は、アーマチャ62と磁路形成部材61との間に配置され、インナクラッチプレート5と磁路形成部材61の第2環状部材612との間で弾性力を発生させる。より詳細には、弾性部材7は、その一部が磁路形成部材61の第2環状部材612に形成された環状の収容凹部614に収容されると共に、収容凹部614から露出した部位がアウタクラッチプレート4に形成されたスリット400を通じてインナクラッチプレート5に接触して弾性的に押圧する。
【0029】
図2(a)は、アウタクラッチプレート4を示す平面図である。このアウタクラッチプレート4は、鉄系金属等の磁性体からなる平坦な環板状である。アウタクラッチプレート4には、周方向に沿って延びる複数(本実施の形態では6つ)の円弧状のスリット400と、周方向に隣り合う一対のスリット400の間に介在する複数の介在部410(本実施の形態では6つ)とが周方向に交互に並んで形成されている。
【0030】
また、アウタクラッチプレート4のインナクラッチプレート5と摺動する摺動面4aには、図1に示した回転軸線Oを中心とする複数の微細溝4bが同心円状に形成されている。隣り合う微細溝4b間の間隔は例えば15〜45μmであり、微細溝4bの深さは例えば10〜30μmである。また、アウタクラッチプレート4の外周端部における複数の係合突起40は、ハウジング2の大径筒部201におけるスプライン係合部201a(図1に示す)に係合する。
【0031】
また、図2(a)では、弾性部材7を二点鎖線で示している。この弾性部材7は、例えば環状に形成された線ばねであり、アウタクラッチプレート4における円弧状のスリット400及び介在部410に沿うように、アウタクラッチプレート4と同軸上に配置されている。
【0032】
図2(b)は、インナクラッチプレート5を示す平面図である。図2(b)においても、図2(a)と同様に、弾性部材7を二点鎖線で示している。
【0033】
インナクラッチプレート5は、アウタクラッチプレート4と同じく鉄系金属等の軟磁性体からなる環板状である。インナクラッチプレート5の内周側の端部には、複数の係合突起50が形成されている。複数の係合突起50は、シャフト3の大径部31におけるスプライン係合部31a(図1に示す)に係合する。
【0034】
また、インナクラッチプレート5には、周方向に沿って延びる複数(本実施の形態では6つ)の円弧状のスリット500と、周方向に隣り合う一対のスリット500の間に介在する複数の介在部510(本実施の形態では6つ)とが周方向に交互に並んで形成されている。複数のスリット500は、アウタクラッチプレート4の複数のスリット400と相俟って、電磁コイル60への通電により発生する磁束の短絡を抑制している。
【0035】
インナクラッチプレート5の摺動面5aには、潤滑油を流動させる複数の油溝5bが格子状に形成されている。油溝5bは、アウタクラッチプレート4の微細溝4bよりも深く、隣り合う油溝5b間の間隔も、微細溝4b間の間隔よりも広く形成されている。これにより、インナクラッチプレート5がアウタクラッチプレート4に摺動しても、摺動面5aの摩耗に起因した油溝5bの消失が抑制される。
【0036】
図3(a)は弾性部材7の構成を示す斜視図であり、図3(b)は弾性部材7の側面構造の一部を示した側面図である。
【0037】
図3(a)に示すように、弾性部材7は、環状に形成された、例えば線ばね状の部材である。弾性部材7は、少なくとも1つの山部を有した環状体である。本実施の形態では、弾性部材7は、周方向に山部と谷部を形成したウェーブ状に湾曲しており、山部として軸方向の一方に突出した複数(本実施の形態では6つ)の第1突出部71と、谷部として軸方向の他方に突出した複数(本実施の形態では6つ)の第2突出部72とを有している。
【0038】
図3(b)は、第1突出部71及び第2突出部72がその径方向に沿って見た場合の形状がそれぞれ山形と谷形であることを示している。第1突出部71がなす谷形形状と、第2突出部72がなす山型形状とは一致している。つまり、複数の第1突出部71の頂部71aに交差する面を仮想面S(二点鎖線)とし、複数の第2突出部72の頂部72aに交差する面を仮想面S(二点鎖線)とし、仮想面S及び仮想面Sに平行でかつ仮想面S及び仮想面Sと等距離にある面を仮想面S(一点鎖線)とすると、第1突出部71の軸方向の突出高さ(仮想面Sと仮想面Sとの間の距離)と第2突出部72の軸方向の突出高さ(仮想面Sと仮想面Sとの間の距離)とは等しい。
【0039】
図4は、図1示す電磁クラッチ装置1を、図2(a)におけるA−A線断面(弾性部材7を含んで周方向に切った断面)で切ったときのアーマチャ62、インナクラッチプレート5、アウタクラッチプレート4、磁路形成部材61、及び弾性部材7を含めた線断面図である。図4では、アウタクラッチプレート4とインナクラッチプレート5との締結状態が解除された状態を示している。
【0040】
アウタクラッチプレート4及びインナクラッチプレート5は、互いの介在部410,510が周方向(図4における左右方向)に等しい間隔で交互に配列するように配置されている。すなわち、アウタクラッチプレート4及びインナクラッチプレート5を軸方向に沿って見た場合に、アウタクラッチプレート4のスリット400の間の周方向における中間部に、インナクラッチプレート5の介在部510が位置するように、それぞれ配置されている。
【0041】
弾性部材7は、アウタクラッチプレート4を介して、インナクラッチプレート5と磁路形成部材61の第2環状部材612と間に挟まれて配置されている。より詳細に述べると、弾性部材7は、アウタクラッチプレート4の介在部410がインナクラッチプレート5のスリット510の周方向における中間部に位置したとき、複数の第1突出部71の頂部71aが磁路形成部材61の収容凹部614の底面614aと接触し、複数の第2突出部72の頂部72aがアウタクラッチプレート4のスリット410を通ってインナクラッチプレート5側に露呈し、その頂部72aがインナクラッチプレート5の介在部510における軸方向のアウタクラッチプレート4側の端面510aと接触している。
【0042】
なお、図4では、第2突出部72の頂部72aがインナクラッチプレート5の介在部510の端面510aに接触した状態を示しているが、非接触の状態であってもよい。つまり、電磁クラッチ装置1の非動作状態では、アウタクラッチプレート4及びインナクラッチプレート5とは非締結状態なので、例えば弾性部材7の第2突出部72の頂部72aとインナクラッチプレート5の介在部510の端面510aとは、隙間を介して対向していてもよい。
【0043】
ここで、弾性部材7に軸方向の押圧力が作用していない自然状態での弾性部材7の軸方向の長さ(自由長さ)をlとし、第2環状部材612の収容凹部614における軸方向の深さをhとし、アウタクラッチプレート4の板厚をtとすると、弾性部材7の軸方向長さlは、少なくとも、収容凹部614の深さhと板厚tとを加算した値よりも大きい(l>h+t)。この寸法構成により、アウタクラッチプレート4とインナクラッチプレート5とが締結状態から非締結状態となったときに、インナクラッチプレート5の介在部510が弾性部材7の第2突出部72によって弾性的に押圧される。
【0044】
以上、図1乃至図4において説明した構成において、電磁クラッチ装置1は以下のように動作する。この電磁クラッチ装置1の動作について、図5及び図6を参照して説明する。図5は、図1に示した電磁クラッチ装置1の動作状態を示す断面図である。図6は、電磁クラッチ装置1の動作時における弾性部材7の動作を模式的に説明するための説明図であり、(a)は締結状態を示し、(b)は非締結状態を示している。
【0045】
図5に示すように、電磁コイル60の巻線600に通電されると磁束が発生し、この磁束が第1環状部材611、アウタクラッチプレート4ならびにインナクラッチプレート5の外周部、アーマチャ62、アウタクラッチプレート4及びインナクラッチプレート5の内周部、第3環状部材613、及び蓋部材14を経由する磁路Gを通過する。
【0046】
シャフト3の回転中に電磁コイル60に通電されると、アーマチャ62は磁路Gに形成される磁束の磁力によって磁路形成部材61側に吸引され、インナクラッチプレート5をアウタクラッチプレート4側へ押圧する。このとき、図6(a)に示すように、弾性部材7の第1突出部71及び第2突出部72が、インナクラッチプレート5の複数の介在部510の端面510aによって軸方向の第2環状部材612側に押圧され、第1突出部71及び第2突出部72の突出高さが小さくなるように弾性変形し、アウタクラッチプレート4の摺動面4aとインナクラッチプレート5の摺動面5aとが摩擦摺動する。これにより、アウタクラッチプレート4とインナクラッチプレート5との間に発生する摩擦力によってシャフト3の回転が制動される。
【0047】
一方、電磁コイル60への通電が遮断されると、図6(b)に示すように、弾性部材7の第1突出部71及び第2突出部72の弾性力(復元力)によって、インナクラッチプレート5がアウタクラッチプレート4から離隔される。このとき、弾性部材7の第1突出部71及び第2突出部72は、その突出高さが締結状態(図6(a)に示す状態)の際の突出高さより大きくなるように弾性変形する。つまり、インナクラッチプレート5の複数の介在部510は、複数の第2突出部72の頂部72aによってアウタクラッチプレート4から離れる方向の押圧力を受けて軸方向に移動する。この際、アウタクラッチプレート4は弾性部材7と非接触で復元力を受けないため移動しない。これにより、アウタクラッチプレート4とインナクラッチプレート5とが離隔して、アーマチャ62が初期の位置へ復帰してスナップリング18に接触し、アウタクラッチプレート4の摺動面4aとインナクラッチプレート5の摺動面5aとの間に隙間が生じて、シャフト3が、ハウジング2に対して自由に相対回転することが可能となる。
【0048】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した実施の形態に係る電磁クラッチ装置1によれば、以下に述べる作用及び効果を得ることができる。
【0049】
(1)弾性部材7は、アウタクラッチプレート4及びインナクラッチプレート5が締結状態から非締結状態になったときにアウタクラッチプレート4のスリット400を通じてインナクラッチプレート5の介在部510を弾性的に押圧してアウタクラッチプレート4とインナクラッチプレート5とを離隔させる。したがって、例えば、特許文献1に記載の電磁クラッチ装置のようにインナクラッチプレートとアウタクラッチプレートの間に挟まれた離隔部材が、締結状態において両クラッチプレートに対して復元力を作用させる場合に比較して、本実施の形態ではインナクラッチプレート5にのみ上記復元力を作用させるため、電磁コイルの通電中の締結力を弱める弾性力を小さくすることができて十分な駆動力を伝達しつつ、引き摺りトルクの低減を図ることができる。
【0050】
(2)弾性部材7は、第1突出部71及び第2突出部72を有しているので、例えば弾性部材が、第2突出部72のみを有している場合に比較して、弾性変形する部位が多いため、締結状態から非締結状態に作用する弾性力が増して、より確実にインナクラッチプレート5をアウタクラッチプレート4から離隔することができる。すなわち、上記(1)に記載した引き摺りトルクの低減効果をさらに高めることができる。
【0051】
(付記)
以上、本発明を本実施の形態に基づいて説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0052】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。本実施の形態では、電磁クラッチ装置1が電磁ブレーキとして機能する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えばハウジング2がシャフト3に対して同軸上で相対回転可能な回転体であり、ハウジング2の回転力をアウタクラッチプレート4及びインナクラッチプレート5を介してシャフト3へトルク伝達可能な駆動力伝達装置として機能させてもよい。
【0053】
また、本実施の形態では、弾性部材7が第1突出部71及び第2突出部72とを有していたが、これに限定されるものではなく、例えば第1突出部71が平坦状に形成された平坦部であり、この平坦部と第2突出部72とが周方向に交互に形成されていてもよい。この場合、弾性部材7の平坦部は、収容凹部614の底面614aに接触し、第2突出部72がインナクラッチプレート5の介在部510に接触する。つまり、弾性部材7の突出部は、少なくとも、軸方向のインナクラッチプレート5側に突出する突出部のみ形成されていればよい。
【0054】
またさらに、本実施の形態では、弾性部材7の第1突出部71及び第2突出部72がそれぞれ6箇所ずつ形成されていたが、第1突出部71及び第2突出部72の個数は限定されるものではなく、例えば8箇所ずつ形成されていてもよい。
【0055】
また、本実施の形態では、弾性部材7が線ばね形状である場合について説明したが、形状についてはこれに限定されず、軸方向に突出した突出部が形成されていればよく、例えば板ばね状であってもよい。また、弾性部材7は、必須ではないが、非磁性体であることが望ましく、これによりアウタクラッチプレート4のスリット400及びインナクラッチプレート5のスリット500における磁束の短絡を抑制する効果を妨げることがない。
【0056】
また、上記実施の形態では、アウタクラッチプレート4及びインナクラッチプレート5を軸方向に沿って見た場合に、アウタクラッチプレート4の隣り合う一対のスリット400の間の中間部にインナクラッチプレート5の介在部510が位置するように、それぞれ配置されているが(図4参照)、これに限定されるものではない。つまり、アウタクラッチプレート4及びインナクラッチプレート5の締結状態において、インナクラッチプレート5の介在部510と弾性部材7の第2突出部72とが接触するように位置決めされていればよく、例えば介在部510がアウタクラッチプレート4の隣り合う一対のスリット400の間の中間位置より僅かにずれていてもよい。
【0057】
また、上記実施の形態では、1枚のアウタクラッチプレート4と1枚のインナクラッチプレート5とが摩擦する摩擦面が1面の場合についてのみ説明したが、これに限定されるものではなく、例えば摩擦面が2面の場合であっても、本発明を適用することができる。この場合は、2枚のアウタクラッチプレート4A,4B(アーマチャ62側のアウタクラッチプレートを4Aとし、電磁コイル60側のクラッチプレートを4Bとする)と、この2枚のアウタクラッチプレート4の間に1枚のインナクラッチプレート5が挟まれて配置された構成において、本実施の形態に係る弾性部材7(以下、第1の弾性部材7とする)と同様の形状の第2の弾性部材7Bをアーマチャ62とアウタクラッチプレート4との間に配置する。そして、第2の弾性部材7Bのアーマチャ62と接触する第1突出部71をアウタクラッチプレート4Aの介在部410に固定して、締結状態から非締結状態になったときに、第2の弾性部材の変形に追従してアウタクラッチプレート4Aがインナクラッチプレート4から離隔するように構成する。このような構成によれば、本実施の形態と同様の作用及び効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0058】
1…電磁クラッチ装置、2…ハウジング、3…シャフト、4…アウタクラッチプレート、4a…摺動面、4b…微細溝、5…インナクラッチプレート、5a…摺動面、5b…油溝、6…押圧機構、7…弾性部材、11…軸受、12…シール部材、13…Oリング、14…蓋部材、14a…挿通孔、15…Oリング、18…スナップリング、20…円筒部、21…フランジ部、21a…ボルト挿通孔、31…大径部、31a…スプライン係合部、32…小径部、33…中径部、40…係合突起、41…磁路形成部材、50…係合突起、60…電磁コイル、61…磁路形成部材、61a…環状空間、62…アーマチャ、62a 係合突起、71…第1突出部、71a…頂部、72…第2突出部、72a…頂部、111…外輪、112…内輪、113…転動体、201…大径筒部、201a…スプライン係合部、202…小径筒部、400…スリット、410…介在部、500…スリット、510…介在部、510a…端面、600…巻線、601…保持部、602…突部、611…第1環状部材、612…第2環状部材、612a…軸方向端面、613…第3環状部材、614…収容凹部、614a…底面、620…窪部、700…シース、701…電線
図1
図2
図3
図4
図5
図6