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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-205435(P2016-205435A)
(43)【公開日】2016年12月8日
(54)【発明の名称】複列玉軸受及び軸支持装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/66 20060101AFI20161111BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20161111BHJP
   F16C 33/80 20060101ALI20161111BHJP
   F16H 57/023 20120101ALI20161111BHJP
【FI】
   F16C33/66 Z
   F16C19/18
   F16C33/80
   F16H57/023
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-84213(P2015-84213)
(22)【出願日】2015年4月16日
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長井 敦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 章之
【テーマコード(参考)】
3J016
3J063
3J701
【Fターム(参考)】
3J016AA02
3J016BB17
3J016CA02
3J016CA03
3J063AA02
3J063AB04
3J063AC01
3J063BA04
3J063BB11
3J063CA01
3J063CD02
3J063CD06
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA53
3J701BA57
3J701BA73
3J701CA17
3J701EA67
3J701FA32
3J701GA11
(57)【要約】
【課題】複列玉軸受において、コストアップを抑えつつ、潤滑油に含まれる異物が玉と軌道溝との間に侵入し難くなり、軸受寿命を延ばす。
【解決手段】外輪16と、内輪15と、軸方向一方側に設けられ第1の列を構成する複数の第1の玉11と、軸方向他方側に設けられピッチ円直径が前記第1の列よりも小さい第2の列を構成する複数の第2の玉12と、第1の玉11を保持するポケット23を複数有する環状の第1保持器21と、第2の玉12を保持するポケット24を複数有する環状の第2保持器22と、内輪15の軸方向一方側の大径の肩部20に設けられ軸受外部から異物を含む潤滑油が第1保持器21と内輪15との間に侵入するのを防ぐ円環状の鍔部30とを備えている。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、
内輪と、
前記外輪と前記内輪との間であって軸方向一方側に設けられ第1の列を構成する複数の第1の玉と、
前記外輪と前記内輪との間であって軸方向他方側に設けられピッチ円直径が前記第1の列よりも小さい第2の列を構成する複数の第2の玉と、
前記第1の玉を保持するポケットを複数有する環状の第1保持器と、
前記第2の玉を保持するポケットを複数有する環状の第2保持器と、
前記内輪の軸方向一方側の大径の肩部に設けられ軸受外部から異物を含む潤滑油が前記第1保持器と前記内輪との間に侵入するのを防ぐ円環状の鍔部と、
を備えている、複列玉軸受。
【請求項2】
前記第1保持器は、前記第1の玉の軸方向一方側に設けられている環状部と、当該環状部から軸方向他方側に延在している柱部と、を有し、
前記鍔部は前記環状部と軸方向に隙間を有して対向して設けられ、当該鍔部と当該環状部との間にラビリンスが構成されている、請求項1に記載の複列玉軸受。
【請求項3】
前記鍔部は、前記内輪と別体であり当該内輪に取り付けられているリング部材からなる、請求項1又は2に記載の複列玉軸受。
【請求項4】
ケースと、前記ケース内に設けられている大径ギヤ及び小径ギヤを有するギヤ機構と、前記小径ギヤと一体回転する軸と、前記軸を回転自在に支持する請求項1〜3のいずれか一項に記載の複列玉軸受と、を備えている、軸支持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複列玉軸受に関する。例えば、自動車等に搭載されるデファレンシャルギヤ装置やトランスアクスル装置の軸支持用の軸受として使用される複列玉軸受に関する。また、本発明は、複列玉軸受を備えている軸支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デファレンシャルギヤ装置のピニオン軸を支持するための転がり軸受として、従来、高負荷容量を有し高剛性である円すいころ軸受が採用されてきたが、近年、低トルク化(低損失化)のために複列玉軸受が採用されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
図4は、デファレンシャルギヤ装置の一部を断面で示す説明図である。デファレンシャルギヤ装置は、ケース80と、このケース80内に設けられリングギヤ82及びピニオンギヤ83を有する差動機構81と、ピニオンギヤ83と一体回転するピニオン軸84と、このピニオン軸84を回転自在に支持する複列玉軸受90とを備えている。
【0004】
複列玉軸受90は、外輪91と、内輪92と、これら外輪91と内輪92との間に設けられ第1の列を構成する複数の第1の玉93及び第2の列を構成する複数の第2の玉94とを備えている。第1の玉93及び第2の玉94は、外輪91及び内輪92の軌道溝にアンギュラ接触しており、第1の玉93による第1の列のピッチ円直径は、第2の玉94による第2の列のピッチ円直径よりも大きい。そして、環状の第1保持器95が、複数の第1の玉93を周方向に沿って等間隔に保持し、環状の第2保持器96が、複数の第2の玉94を周方向に沿って等間隔に保持している。
【0005】
複列玉軸受90は、ピニオンギヤ83の近傍に設置されてピニオン軸84を支持している。また、ケース80内に溜められている潤滑油(オイル)P1によって、リングギヤ82とピニオンギヤ83との潤滑が行われ、また、この潤滑油P1は、複列玉軸受90の潤滑にも用いられる。なお、図4の仮想線L1は、潤滑油P1の油面を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−234100号公報
【特許文献2】特開2004−211861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図4に示すデファレンシャルギヤ装置では、ケース80内に溜められている潤滑油P1に、ケース80、リングギヤ82及びピニオンギヤ83の製造時に生じた加工屑や、差動機構81の動作の際にギヤ82,83間で生じた摩耗屑等の異物が含まれることがある。
【0008】
そして、デファレンシャルギヤ装置は、回転するリングギヤ82によりケース80内の潤滑油P1が掻き上げられるように構成されており、掻き上げられた潤滑油P1は、複列玉軸受90の内輪92の大径側の部分に降りかかる(図4の矢印X1参照)。この場合、この潤滑油P1に含まれる異物は、例えば、内輪92の軌道溝と大径側に位置する第1の玉93との間に噛み込むおそれがあり、これにより、玉93の表面や軌道溝が剥離等して軸受寿命が低下してしまう。
【0009】
なお、前記特許文献2では、内輪と外輪との間に形成される環状空間の軸方向両側にシール部材が設けられており、異物を含む潤滑油が軸受内部に侵入するのを防ぐことが可能となっている。各シール部材は、環状の芯金及びゴム等の弾性体を含むものであり、このようなシール部材が2つ追加的に必要となることで、軸受のコストアップに繋がってしまう。
【0010】
そこで、本発明の目的は、複列玉軸受において、コストアップを抑えつつ、潤滑油に含まれる異物が玉と軌道溝との間に侵入し難くなり、軸受寿命を延ばすことにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の複列玉軸受は、外輪と、内輪と、前記外輪と前記内輪との間であって軸方向一方側に設けられ第1の列を構成する複数の第1の玉と、前記外輪と前記内輪との間であって軸方向他方側に設けられピッチ円直径が前記第1の列よりも小さい第2の列を構成する複数の第2の玉と、前記第1の玉を保持するポケットを複数有する環状の第1保持器と、前記第2の玉を保持するポケットを複数有する環状の第2保持器と、前記内輪の軸方向一方側の大径の肩部に設けられ軸受外部から異物を含む潤滑油が前記第1保持器と前記内輪との間に侵入するのを防ぐ円環状の鍔部と、を備えている。
【0012】
本発明によれば、例えば、複列玉軸受の軸方向一方側の近傍に存在するギヤ(軸受外部)から、この複列玉軸受に向かって潤滑油が降りかかっても、この潤滑油を円環状の鍔部によって遮断することができる。このため、潤滑油に含まれる異物が、特に内輪の軌道溝と第1の玉との間に侵入し難くなり、この結果、軸受寿命を延ばすことが可能となる。そして、このように異物の侵入を抑制するために、内輪の軸方向一方側に円環状の鍔部を設ければ済むことから、複列玉軸受のコストアップを抑えることができる。
【0013】
また、前記第1保持器は、前記第1の玉の軸方向一方側に設けられている環状部と、当該環状部から軸方向他方側に延在している柱部と、を有し、前記鍔部は前記環状部と軸方向に隙間を有して対向して設けられ、当該鍔部と当該環状部との間にラビリンスが構成されているのが好ましい。
この場合、鍔部と、第1保持器が有する環状部との間にラビリンスが構成され、内輪と第1保持器との間への異物(潤滑油)の侵入をより効果的に抑えることが可能となる。
【0014】
また、前記鍔部は、内輪と共に形成されて内輪と一体であってもよいが、前記鍔部は、前記内輪と別体であり当該内輪に取り付けられているリング部材からなるのが好ましい。別体とすることで内輪及び鍔部の形成が容易となる。
【0015】
また、本発明の軸支持装置は、ケースと、前記ケース内に設けられている大径ギヤ及び小径ギヤを有するギヤ機構と、前記小径ギヤと一体回転する軸と、前記軸を回転自在に支持する前記複列玉軸受と、を備えている。
本発明によれば、潤滑油に含まれる異物が、複列玉軸受の特に内輪の軌道溝と第1の玉との間に侵入し難くなり、軸受寿命を延ばすことが可能となる。この結果、軸支持装置の寿命を延ばすことが可能となる。そして、このように異物の侵入を抑制するために、内輪の軸方向一方側に円環状の鍔部を設ければ済むことから、コストアップを抑えることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の複列玉軸受によれば、潤滑油に含まれる異物が軸受内部に侵入し難くなり、軸受寿命を延ばすことが可能となる。
また、本発明の軸支持装置によれば、軸支持装置の寿命を延ばすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】複列玉軸受を備えているデファレンシャルギヤ装置の断面図である。
図2】複列玉軸受の断面図である。
図3】鍔部及びその周囲を拡大して示す説明図である。
図4】従来のデファレンシャルギヤ装置の一部を断面で示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔軸支持装置について〕
以下において説明する軸支持装置は、自動車等に搭載されるデファレンシャルギヤ装置であり、図1に示すように、ケース50と、差動機構(ギヤ機構)51と、ピニオン軸55と、このピニオン軸55を回転自在に支持する複列玉軸受5,7とを備えている。
【0019】
差動機構51は、ケース50内に設けられている大径ギヤであるリングギヤ52及び小径ギヤであるピニオンギヤ53を有している。ピニオンギヤ53とピニオン軸55とは一体として形成されており、これらは一体回転する。
ピニオンギヤ53は、ピニオン軸55の一端部に設けられており、リングギヤ52と噛み合っている。ピニオン軸55の他端部にはフランジ54が取り付けられており、このフランジ54には、図外のドライブシャフトが連結される。
【0020】
ケース50は、差動機構51、ピニオン軸55、及び複列玉軸受5,7を収容している。ケース50の内部には環状壁50a,50bが設けられている。環状壁50aの内周面に一方の複列玉軸受5の外輪16が装着されており、環状壁50bの内周面に他方の複列玉軸受7の外輪26が装着されている。ピニオンギヤ53側の複列玉軸受5の内輪15と、フランジ54側の複列玉軸受7の内輪25との間には円筒状の間座6が設けられている。
【0021】
ケース50内には潤滑油(オイル)P1が溜められており、この潤滑油P1によって、リングギヤ52とピニオンギヤ53との潤滑が行われ、また、複列玉軸受5,7の潤滑に、この潤滑油P1が用いられる。なお、図1の仮想線L1は、潤滑油P1の油面を示している。
【0022】
このデファレンシャルギヤ装置では、図外の前記ドライブシャフトの動力がピニオン軸55を介して差動機構51に伝達され、差動機構51が駆動する。この差動機構51の両側には図外の継手を介して車輪軸が連結されており、デファレンシャルギヤ装置は、これら車輪軸の回転速度差を適宜調整することができる。
【0023】
〔複列玉軸受について〕
ピニオンギヤ53側の複列玉軸受5について説明する。図2は、複列玉軸受5の断面図である。なお、図2は、図1に示す複列玉軸受5の下側半分の断面図である。複列玉軸受5は、外輪16と、内輪15と、複数の第1の玉11と、複数の第2の玉12と、環状の第1保持器21と、環状の第2保持器22とを備えている。更に、この複列玉軸受5は、円環状の鍔部30を備えている。鍔部30については、後にも説明するが、本実施形態の鍔部30は、内輪15に取り付けられており、内輪15と別体のリング部材である。
【0024】
外輪16及び内輪15は、それぞれ円筒状の部材からなり、玉11,12を間に介在させて同心状に配置されている。
周方向に沿って配置されている複数の第1の玉11によって第1の列(第1の転動体列)が構成されている。また、周方向に沿って配置されている複数の第2の玉12によって第2の列(第2の転動体列)が構成されている。
本実施形態では、第1の玉11と第2の玉12とは同径である。外輪16、内輪15、及び玉11,12は、軸受鋼からなる。また、第1保持器21及び第2保持器22は、合成樹脂製である。なお、各部の材質はこれら以外であってもよい。
【0025】
外輪16の内周面には、第1外輪軌道溝35と第2外輪軌道溝36とが形成されている。第1外輪軌道溝35は第2外輪軌道溝36よりも直径が大きい。内輪15の外周面には、第1内輪軌道溝38と第2内輪軌道溝39とが形成されている。第1内輪軌道溝38は第2内輪軌道溝39よりも直径が大きい。第1の玉11は、第1外輪軌道溝35及び第1内輪軌道溝38に接触角を有して接触し、これら軌道溝35,38を転動する。第2の玉12は、第2外輪軌道溝36及び第2内輪軌道溝39に接触角を有して接触し、これら軌道溝36,39を転動する。以上より、複数の第1の玉11によって構成されている第2の列のピッチ円直径D1は、複数の第2の玉12によって構成されている第2の列のピッチ円直径D2よりも大きくなっている(D1>D2)。
【0026】
第1保持器21は、全体形状が環状であり、第1の玉11の軸方向一方側に位置する円環状である外環状部42と、この外環状部42から軸方向他方側に向かって延在している複数の柱部44と、第1の玉11の軸方向他方側に位置する円環状である内環状部43とを有している。複数の柱部44は、周方向に沿って等間隔に設けられており、外環状部42と内環状部43とを連結している。
第2保持器22は、全体形状が環状であり、第2の玉12の軸方向他方側に位置する円環状である外環状部45と、この外環状部45から軸方向一方側に向かって延在している複数の柱部47と、第2の玉12の軸方向一方側に位置する円環状である内環状部46とを有している。複数の柱部47は、周方向に沿って等間隔に設けられており、外環状部45と内環状部46とを連結している。
【0027】
図2の左側に示す第1保持器21において、外環状部42と内環状部43と周方向で隣り合う柱部44とにより囲まれている領域が、玉11を保持するポケット23となり、各ポケット23に一つの玉11が設けられる。ポケット23は、周方向に沿って複数形成されており、これにより、第1保持器21は、複数の第1の玉11を周方向に沿って等間隔で保持することができる。
図2の右側に示す第2保持器22において、外環状部45と内環状部46と周方向で隣り合う柱部47とにより囲まれている領域が、玉12を保持するポケット24となり、各ポケット24に一つの玉12が設けられる。ポケット24は、周方向に沿って複数形成されており、これにより、第2保持器22は、複数の第2の玉12を周方向に沿って等間隔で保持することができる。
【0028】
以上より、第1の列を構成する複数の第1の玉11は、外輪16と内輪15との間であって軸方向一方側(図2では、左側)に設けられ、第2の列を構成する複数の第2の玉は、外輪16と内輪15との間であって軸方向他方側(図2では、右側)に設けられ、これら玉11,12はそれぞれ保持器21,22によって保持されており、内輪15と外輪16とは相対回転自在となる。
【0029】
〔鍔部30について〕
本実施形態の鍔部30は、円環状のリング部材からなり、鋼製であるが、樹脂製であってもよい。そして、前記のとおり、内輪15と別体であり内輪15に取り付けられている。鍔部30は、内輪15の軸方向一方側に位置する大径の肩部20に設けられている。鍔部30の内周面が肩部20の外周面に密着して嵌合した状態となって、鍔部30は肩部20に取り付けられている。鍔部30は、例えば軸方向一方側の軸受外部から異物を含む潤滑油が第1保持器21と内輪15との間に侵入するのを防ぐ。
【0030】
このために、鍔部30は次のような具体的構成を備えている。
ここで、第1保持器21は、第1の玉11の軸方向一方側に設けられている外環状部42を有していることから、鍔部30はこの外環状部42と軸方向に隙間e(図3参照)を有して対向して設けられている。図3は、図2に示す鍔部30及びその周囲を拡大して示す説明図である。円環状である鍔部30の外周面30aは、外環状部42の内周面42bよりも径方向外側に位置しており、鍔部30の内側側面30cと、外環状部42の外側側面42cとが隙間eを有して対向している。これにより、鍔部30の内側側面30cと外環状部42の外側側面42cとの間にラビリンスが構成される。このラビリンスにより、軸受外部から内輪15と第1保持器21との間への異物(潤滑油)の侵入を、効果的に抑えることが可能となる。
【0031】
前記隙間eの軸方向寸法Aは、例えば2mm以下に設定されている。これにより、潤滑油P1の侵入が効果的に抑制される。
また、鍔部30の内側側面30cと外環状部42の外側側面42cとが径方向について重なる領域(内側側面30cと外側側面42cとが対面する領域)、つまり、ラビリンスの長さB(半径方向の寸法)を、1mm以上に設定することができる。これにより、潤滑油P1の侵入が効果的に抑制される。
【0032】
以上のように、本実施形態の複列玉軸受5(図1参照)によれば、この複列玉軸受5の軸方向一方側(図1では左側)の近傍に存在するギヤ52,53から、この複列玉軸受5に向かって(矢印X1参照)潤滑油P1が降りかかっても、この潤滑油P1を円環状の鍔部30によって遮断することができる。このため、潤滑油P1に含まれる異物が、内輪15の第1内輪軌道溝38(図2参照)と第1の玉11との間に侵入し難くなり、さらには、第2内輪軌道溝39と第2の玉12との間に侵入し難くなり、そして、外輪16の軌道溝35,36と玉11,12との間にも異物が侵入し難くなる。この結果、軸受寿命を延ばすことが可能となる。
【0033】
そして、このように異物の侵入を抑制するために、本実施形態では、内輪15の軸方向一方側に、単純な構成であり一部材からなる円環状の鍔部30を設ければ済むことから、複列玉軸受5のコストアップを抑えることができる。
なお、鍔部30は、内輪15と共に形成されて内輪15と一体であってもよいが、本実施形態では、鍔部30は内輪15と別体であり内輪15に取り付けられているリング部材からなるため、内輪15及び鍔部30の形成が容易となる。
【0034】
また、本実施形態では、鍔部30によって、外輪16と内輪15との間を通過する潤滑油P1の油量を低減することができ、これにより、軸受内部における異物の侵入の確率を低下させることも可能となる。以下、この機能に関して説明する。
【0035】
図2において、前記のとおり、第1の玉11による第1の列のピッチ円直径D1が第2の玉12による第2の列のピッチ円直径D2よりも大きいために、第1の玉11が転動する外輪16の第1外輪軌道溝35の直径が、第2の玉12が転動する外輪16の第2外輪軌道溝36の直径よりも大きくなっており、外輪16の内周面は全体として軸方向一方側(図1では、ピニオンギヤ53側)に向かって拡径する形状となっている。
このため、複列玉軸受5が回転すると、外輪16と内輪15との間(複列玉軸受5の内部)には、ケース50内に溜められている潤滑油P1がピニオンギヤ53の反対側(図1の右側)から複列玉軸受5の内部を通過しピニオンギヤ53側(図1の左側)から排出されるような、潤滑油P1の流れ(図1の矢印X2)が発生する。
【0036】
従来の複列玉軸受90(図4参照)の場合、外輪91と内輪92との間であって潤滑油P1の流入側となる開口部K1は広く、また、流出側となる開口部K2も広い。この場合、複列玉軸受90の内部を潤滑油P1が多量に流れることができ、多量の潤滑油P1が軸受内部を通過すると、この潤滑油P1に含まれている異物が玉93,94と外輪91及び内輪92の軌道溝との間に噛み込む確率が高くなる。これにより、玉94(93)の表面や軌道溝が剥離等して軸受寿命が低下してしまう。
【0037】
これに対して、本実施形態では(図2参照)、内輪15と外輪16との間の軸方向一方側は、潤滑油P1の流出側の開口部k2となるが、円環状の鍔部30がこの流出側の開口部k2の絞りとして機能し、内輪15と外輪16との間を通過する油量を低減させることができる。以上より、本実施形態では、軸受内部における異物の侵入の確率を低下させることが可能となる。
【0038】
また、本実施形態では、第1保持器21と内輪15との間については、潤滑油P1の流出を鍔部30によって制限しているのに対して、この第1保持器21と外輪16との間については、開放された状態となっている。つまり、潤滑油P1の流出側となる軸方向一方側において、内輪15と外輪16との間を外輪16側で開口させている。具体的に説明すると、径方向外側から玉11が見えるように外輪16と外環状部42との間を開口させている。
【0039】
ここで、仮に、潤滑油P1の流出側において、内輪15と外輪16との間を、内輪15側で鍔部30により塞ぐと共に、外輪16側でも(例えば外輪16、又は他の部材により)塞いだ場合、軸方向他方側から流入した潤滑油P1が軸受内部で滞留し、滞留する潤滑油P1に異物が含まれていると、その異物が玉11,12と内輪15及び外輪16との間等に入り易くなる。
したがって、潤滑油P1の流出側となる軸方向一方側では、潤滑油P1の流出口を設けるのが好ましく、本実施形態のように、内輪15と外輪16との間を外輪16側で開口させている。
【0040】
また、図3に示すように、鍔部30の内側側面30cと外環状部42の外側側面42cとの間に構成されるラビリンスの前記隙間eから潤滑油P1が流出するが、隙間eを小さくすることで、この流出の速度が高まり、軸受外部からの潤滑油P1の侵入が抑制される。
【0041】
なお、図3に示す実施形態では、鍔部30の外周面30aが、外環状部42の外周面42aよりも径方向内側に位置しているが、鍔部30の半径方向の寸法を大きくして、鍔部30の外周面30aが、外環状部42の外周面42aよりも径方向外側に位置していてもよい。これによりラビリンスの長さBを拡大することができる。
【0042】
また、図2に示す実施形態では、第1保持器21が外環状部42を備えている場合について説明したが、(図示しないが)外環状部42が省略されており、第1保持器21は、内環状部43と複数の柱部44とにより構成されている、いわゆる冠形の保持器であってもよい。この場合、鍔部30は、玉11の外周面との間にラビリンスを形成することとなり、この場合であっても、この鍔部30が、軸受外部から異物を含む潤滑油が第1保持器21と内輪15との間に侵入するのを防ぐことができる。
【0043】
以上の構成を備えている複列玉軸受5によれば、潤滑油P1に含まれる異物が、第1の玉11と外輪16及び内輪15の軌道溝35,38との間、及び、第2の玉12と外輪16及び内輪15の軌道溝36,39との間に侵入し難くなり、軸受寿命を延ばすことが可能となる。この結果、デファレンシャルギヤ装置の寿命を延ばすことが可能となる。
【0044】
〔その他について〕
以上、複列玉軸受の構成に関する前記説明は、図1に示すデファレンシャルギヤ装置のピニオンギヤ53側の複列玉軸受5についての説明であるが、フランジ54側の複列玉軸受7も、ピニオンギヤ53側の複列玉軸受5と同様の構成を有することができる。つまり、フランジ54側の複列玉軸受7においても、内輪25の軸方向一方側に位置する大径の肩部に、円環状の鍔部40が設けられており、この鍔部40によって、軸受外部から異物を含む潤滑油が保持器と内輪25との間に侵入するのを防ぐことができる。
【0045】
また、本発明の複列玉軸受及び軸支持装置は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態であってもよい。
例えば、前記実施形態では、複列玉軸受5(7)を、デファレンシャルギヤ装置に適用する場合について説明したが、その他の軸支持装置に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0046】
5:複列玉軸受 7:複列玉軸受 11:第1の玉
12:第2の玉 15:内輪 16:外輪
20:肩部 21:第1保持器 22:第2保持器
23:ポケット 24:ポケット 30:鍔部
40:鍔部 42:外環状部(環状部) 44:柱部
50:ケース 51:差動機構(ギヤ機構) 52:リングギヤ(大径ギヤ)
53:ピニオンギヤ(小径ギヤ) 55:ピニオン軸(軸) 隙間e
P1:潤滑油
図1
図2
図3
図4