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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-211713(P2016-211713A)
(43)【公開日】2016年12月15日
(54)【発明の名称】電磁式摩擦係合装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/62 20060101AFI20161118BHJP
   F16D 27/115 20060101ALI20161118BHJP
   F16D 13/52 20060101ALI20161118BHJP
【FI】
   F16D13/62 A
   F16D27/10 351B
   F16D13/52 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-98420(P2015-98420)
(22)【出願日】2015年5月13日
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128211
【弁理士】
【氏名又は名称】野見山 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100145171
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】竹内 義揮
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 邦彦
【テーマコード(参考)】
3J056
【Fターム(参考)】
3J056AA62
3J056BA02
3J056BB12
3J056CA04
3J056CA12
3J056GA03
3J056GA12
(57)【要約】
【課題】電磁コイルの磁力によって発生し得る摩擦力の低下を抑制しながら引き摺りトルクの低減を図ることが可能な電磁式摩擦係合装置を提供する。
【解決手段】内部に収容空間2aが形成されたハウジング部材2と、ハウジング部材2に対して相対回転可能に配置されたシャフト3とハウジング部材2とを係脱可能に連結するクラッチ部10と、クラッチ部10を作動させる磁力を発生する電磁コイル11とを備えたクラッチ装置1において、クラッチ部10は、電磁コイル11への通電により発生する磁束の磁路Gを構成するアウタクラッチプレート5及びインナクラッチプレート6を有し、インナクラッチプレート6には潤滑油を流動させる油溝64を形成し、油溝64のうち磁路Gに含まれる部分の溝面積の総和を、磁路Gにおける磁束が飽和したときの磁束密度を低下させない最大油溝面積の90〜110%とする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に収容空間が形成されたハウジング部材と、
前記収容空間に収容され、前記ハウジング部材に対して相対回転可能に配置された回転部材と前記ハウジング部材とを係脱可能に連結するクラッチ部と、
前記クラッチ部を作動させる磁力を発生する電磁コイルとを備え、
前記クラッチ部は、前記電磁コイルへの通電により発生する磁束の磁路を構成する複数の軟磁性体を有し、前記複数の軟磁性体のうち、一部の軟磁性体は前記ハウジングとの相対回転が規制されると共に、他の一部の軟磁性体は前記回転部材との相対回転が規制され、前記磁力による前記一部の軟磁性体と前記他の一部の軟磁性体との摩擦接触により前記ハウジング部材と前記回転部材との相対回転を抑制し、
前記複数の軟磁性体同士の接触面のうち、少なくとも一部の接触面には潤滑油を流動させる油溝が形成され、
前記複数の軟磁性体同士の接触面に形成された前記油溝のうち前記磁路に含まれる部分の溝面積の総和が、前記磁路における磁束が飽和したときの磁束密度を低下させない最大油溝面積の90〜110%である、
電磁式摩擦係合装置。
【請求項2】
前記溝面積の総和が、前記最大油溝面積以下である、
請求項1に記載の電磁式摩擦係合装置。
【請求項3】
前記磁路に磁束が発生して前記複数の軟磁性体同士が互いに接触したとき、前記磁路が空隙を含まない、
請求項1又は2に記載の電磁式摩擦係合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁力によって複数の軟磁性体間に摩擦力を発生させる電磁式摩擦係合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁力によって複数の軟磁性体間に摩擦力を発生させるクラッチ装置が例えば車両に用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の駆動力伝達装置は、電磁式のパイロットクラッチと、パイロットクラッチによって伝達されるトルクを軸方向の推力に変換するカム機構と、カム機構からの推力によって押圧されるメインアウタクラッチプレート及びメインインナクラッチプレートを有するメインクラッチとを備えている。パイロットクラッチ及びメインクラッチは、有底円筒状のハウジングの収容空間に配置されている。また、この収容空間内には潤滑油が封入されている。
【0004】
パイロットクラッチは、軟磁性体であるパイロットアウタクラッチプレート及びパイロットインナクラッチプレートからなり、磁路形成部材であるリヤハウジングとアーマチャとの間に配置されている。リヤハウジングに形成された凹部には、電磁コイル及びヨークが配置され、電磁コイルの磁力によってアーマチャがリヤハウジング側に引き寄せられると、パイロットアウタクラッチプレートとパイロットインナクラッチプレートとが摩擦接触する。電磁コイルへの通電によって発生する磁束は、ヨーク、リヤハウジング、パイロットアウタクラッチプレート、パイロットインナクラッチプレート、及びアーマチャを通過する。ヨークとリヤハウジングとの間には空隙が形成され、電磁コイルへの通電によって発生する磁束の磁路には、この空隙が含まれる。
【0005】
パイロットアウタクラッチプレートには、潤滑油を流動させるための油溝が形成されている。この油溝を流動する潤滑油によって、パイロットアウタクラッチプレートとパイロットインナクラッチプレートとが摩擦しながら相対回転する際の摩耗が抑制されると共に、パイロットクラッチの焼き付きが抑止されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−3167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように構成された電磁式のクラッチ(パイロットクラッチ)では、電磁コイルへの通電が遮断された非作動時における所謂引き摺りトルクが問題となる場合がある。この引き摺りトルクは、相対回転する部材同士の間隔が狭い場合に、潤滑油の粘性によって発生するトルクである。
【0008】
本願の発明者らは、この引き摺りトルクの低減を図るべく鋭意検討し、油溝の幅もしくは本数を増大させて油溝の溝面積を大きくすれば、相対回転する部材間に十分な量の潤滑油が供給され、引き摺りトルクを低減できることを見出した。しかし、この溝面積を大きくすると、磁気回路の抵抗が増加してしまい、これらの部材間に発生させることができる摩擦力が小さくなってしまう場合があるという新たな問題があった。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、電磁コイルの磁力によって発生し得る摩擦力の低下を抑制しながら引き摺りトルクの低減を図ることが可能な電磁式摩擦係合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するため、内部に収容空間が形成されたハウジング部材と、前記収容空間に収容され、前記ハウジング部材に対して相対回転可能に配置された回転部材と前記ハウジング部材とを係脱可能に連結するクラッチ部と、前記クラッチ部を作動させる磁力を発生する電磁コイルとを備え、前記クラッチ部は、前記電磁コイルへの通電により発生する磁束の磁路を構成する複数の軟磁性体を有し、前記複数の軟磁性体のうち、一部の軟磁性体は前記ハウジングとの相対回転が規制されると共に、他の一部の軟磁性体は前記回転部材との相対回転が規制され、前記磁力による前記一部の軟磁性体と前記他の一部の軟磁性体との摩擦接触により前記ハウジング部材と前記回転部材との相対回転を抑制し、前記複数の軟磁性体同士の接触面のうち、少なくとも一部の接触面には潤滑油を流動させる油溝が形成され、前記複数の軟磁性体同士の接触面に形成された前記油溝のうち前記磁路に含まれる部分の溝面積の総和が、前記磁路における磁束が飽和したときの磁束密度を低下させない最大油溝面積の90〜110%である、電磁式摩擦係合装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る電磁式摩擦係合装置によれば、電磁コイルの磁力によって発生し得る摩擦力の低下を抑制しながら引き摺りトルクの低減を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施の形態に係るクラッチ装置を示し、(a)は軸方向から見た側面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
図2A】非作動時におけるクラッチ装置の一部を軸方向に沿った断面で示す拡大図である。
図2B】作動時におけるクラッチ装置の一部を軸方向に沿った断面で示す拡大図である。
図3】(a)はインナクラッチプレートを示す平面図、(b)は(a)のB部を示す拡大図、(c)はインナクラッチプレートの断面形状を示す(b)のC−C線断面図である。
図4】トータル溝面積と磁束密度及び引き摺りトルクとの関係を示すグラフである。
図5】本発明の第2の実施の形態に係るクラッチ装置の一部を軸方向に沿った断面で示す拡大図であり、(a)は非作動時の状態を、(b)は作動時の状態を、それぞれ示す。
図6】(a)はアーマチャを示す平面図、(b)は(a)のD部を示す拡大図、(c)はアーマチャの断面形状を示す(b)のE−E線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態について、図1乃至図4を参照して説明する。
【0014】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るクラッチ装置を示し、(a)は軸方向から見た側面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。図2Aは、非作動時におけるクラッチ装置の一部を軸方向に沿った断面で示す拡大図である。図2Bは、作動時におけるクラッチ装置の一部を軸方向に沿った断面で示す拡大図である。
【0015】
クラッチ装置1は、本発明の摩擦係合装置の一態様であり、内部に収容空間2aが形成されたハウジング部材2と、ハウジング部材2に対して相対回転可能に配置された回転部材としてのシャフト3と、ハウジング部材2とシャフト3とを係脱可能に連結するクラッチ部10と、クラッチ部10を作動させる磁力を発生する電磁コイル11とを備えている。このクラッチ装置1は、例えば車両の自動変速機等の潤滑油が介在する潤滑環境下で用いられる湿式のクラッチ装置であり、ハウジング部材2の収容空間2aには所定の割合で潤滑油が導入される。
【0016】
本実施の形態では、ハウジング部材2が図略の支持部材に固定された非回転部材であり、クラッチ装置1の作動時にシャフト3の回転が制動される。以下の説明では、シャフト3の回転軸線Oに平行な方向を単に軸方向といい、この軸方向に直交するシャフト3の径方向を単に径方向という。
【0017】
ハウジング部材2は、シャフト3の回転軸線Oを中心軸として円筒状に形成された円筒部21と、円筒部21の軸方向の一端部における外周面に立設されたフランジ部22と、円筒部21の軸方向の他端部から内方に突出して形成された環状の底壁部23と、底壁部23の内周側の端部から円筒部21とは反対側に延在する円筒状の延在部24と、延在部24における軸方向中央部の内周面から内方に突出する突壁部25とを一体に有している。円筒部21の内周面における収容空間2aの開口側(底壁部23側とは反対側)の一部には、複数のスプライン突起が軸方向に延在して形成されたスプライン係合部210が形成されている。フランジ部22には、ハウジング部材2の支持部材への固定のためのボルトを挿通させる複数のボルト挿通孔221が形成されている。
【0018】
シャフト3は、外径が互いに異なる大径部31、中径部32、及び小径部33を一体に有している。大径部31の外周面には、複数のスプライン突起が軸方向に延在して形成されたスプライン係合部310が形成されている。また、シャフト3は、外輪801、内輪802、及び複数の転動体803を有する軸受80によってハウジング部材2に回転可能に支持されている。外輪801は、ハウジング部材2の延在部24の内側に嵌着され、外輪801の側面は突壁部25に当接している。シャフト3の小径部33は、内輪802の内側に嵌挿されている。
【0019】
クラッチ部10は、電磁コイル11への通電により発生する磁束の磁路を構成する複数の軟磁性体を有し、これら複数の軟磁性体のうち、一部の軟磁性体はハウジング部材2との相対回転が規制されると共に、他の一部の軟磁性体はシャフト3との相対回転が規制されている。本実施の形態では、クラッチ部10が、複数の軟磁性体として、ヨーク4、アウタクラッチプレート5、インナクラッチプレート6、及びアーマチャ7を有している。
【0020】
ヨーク4、アウタクラッチプレート5、インナクラッチプレート6、及びアーマチャ7は、例えば低炭素鋼からなり、ハウジング部材2の収容空間2aに収容されている。このうち、ヨーク4及びアウタクラッチプレート5は、ハウジング部材2との相対回転が規制されている。インナクラッチプレート6及びアーマチャ7は、シャフト3との相対回転が規制されている。アウタクラッチプレート5及びインナクラッチプレート6は、ヨーク4とアーマチャ7との間に配置され、アウタクラッチプレート5がヨーク4側に、またインナクラッチプレート6がアーマチャ7側に、それぞれ配置されている。
【0021】
クラッチ部10は、電磁コイル11の磁力によるアウタクラッチプレート5とインナクラッチプレート6との摩擦接触により、ハウジング部材2とシャフト3との相対回転を抑制する。
【0022】
ヨーク4は、ハウジング部材2の円筒部21内に嵌挿されている。ヨーク4は、シャフト3の外周囲に配置された環状の部材であり、ハウジング部材2の底壁部23に形成されたボルト挿通孔231に挿通されたボルト81によってハウジング部材2に固定されている。
【0023】
アウタクラッチプレート5は、図2A及び図2Bに示すように、ヨーク4とインナクラッチプレート6との間に介在する本体部50と、本体部50の外周側に設けられ、ハウジング部材2の円筒部21に形成されたスプライン係合部210に係合する複数の係合突起51とを一体に有している。アウタクラッチプレート5の本体部50におけるヨーク4との第1接触面50a及びインナクラッチプレート6との第2接触面50bには、微量の潤滑油を保持するための面粗し加工が施されている。この第1及び第2接触面50a,50bの面粗度は、電磁コイル11への通電により発生する磁束の磁路における磁気抵抗に影響を与えない所定の面粗度に設定されている。
【0024】
インナクラッチプレート6は、アウタクラッチプレート5とアーマチャ7との間に介在する本体部60と、本体部60の内周側に設けられ、シャフト3の大径部31に形成されたスプライン係合部310に係合する複数の係合突起61とを一体に有している。インナクラッチプレート6の本体部60におけるアウタクラッチプレート5との第1接触面60a及びアーマチャ7との第2接触面60bには、潤滑油を流動させるための油溝が形成されている。この油溝の詳細については後述する。
【0025】
アーマチャ7は、シャフト3の大径部31を中心部に挿通させる環状に形成された本体部70と、本体部70の内側に突設され、シャフト3の大径部31に形成されたスプライン係合部310に係合する複数の係合突起71とを一体に有している。また、アーマチャ7は、ハウジング部材2の円筒部21の内周に嵌着されたスナップリング83によって、ヨーク4から離間する方向へのハウジング部材2に対する軸方向移動が規制されている。アーマチャ7におけるインナクラッチプレート6との接触面70aは、溝のない平面状に形成されている。
【0026】
アウタクラッチプレート5は、係合突起51がハウジング部材2の円筒部21に形成されたスプライン係合部210に係合することで、ハウジング部材2に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結されている。また、インナクラッチプレート6及びアーマチャ7は、係合突起61,71がシャフト3の大径部31に形成されたスプライン係合部310に係合することで、シャフト3に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結されている。
【0027】
電磁コイル11は、例えば導線をエナメルによって被覆したエナメル線を環状に巻き回して構成されている。電磁コイル11は、樹脂部材12によって封止されている。また、電磁コイル11は、樹脂部材12から導出されたリード線13に電気的に接続され、リード線13から励磁電流の供給を受ける。リード線13は、樹脂部材12における底壁部23側の側面から導出され、図略の制御装置に接続されている。制御装置は、リード線13を介して電磁コイル11に供給する電流量を増減することにより、クラッチ装置1を制御する。
【0028】
ヨーク4には、電磁コイル11及び樹脂部材12を収容する環状の凹部40が形成されている。凹部40は、ヨーク4における底壁部23側とは反対側の側面に開口40aを有している。本実施の形態では、この側面がヨーク4におけるアウタクラッチプレート5との接触面40bとして形成されている。この接触面40bは、溝のない平面状に形成されている。
【0029】
また、ヨーク4には、ハウジング部材2の底壁部23に形成された貫通孔232を介してリード線13をハウジング部材2の外部に導出させる導出孔41が形成されている(図1(b)参照)。貫通孔232は、底壁部23を軸方向に貫通している。底壁部23の貫通孔232及びヨーク4の導出孔41の内部には、合成ゴムからなるキャップ82が配置されている。リード線13は、このキャップ82を軸方向に貫通している。
【0030】
アウタクラッチプレート5及びインナクラッチプレート6には、ヨーク4に形成された凹部40の開口40aに対応する位置に、複数の円弧状のスリット52,62が形成されている。円弧状のスリット52,62は、電磁コイル11への通電により発生する磁束の短絡を抑止している。アウタクラッチプレート5に形成された複数のスリット52は、アウタクラッチプレート5の本体部50を外周本体部501と内周本体部502とに隔成する。同様に、インナクラッチプレート6に形成された複数のスリット62は、インナクラッチプレート6の本体部60を外周本体部601と内周本体部602とに隔成する。
【0031】
図3(a)は、インナクラッチプレート6の全体を示す平面図である。図3(a)では、アウタクラッチプレート5に対向する第1接触面60a側を図示している。図3(b)は、図3(a)のB部を示す拡大図であり、図3(c)は、インナクラッチプレート6の断面形状を示す図3(b)のC−C線断面図である。
【0032】
インナクラッチプレート6の本体部60には、6つの円弧状のスリット62が形成されている。これらのスリット62は、インナクラッチプレート6の周方向に並んで形成され、インナクラッチプレート6を厚さ方向に貫通している。隣り合う2つのスリット62の間には、それぞれ連結部63が設けられている。連結部63は、複数のスリット62よりも外周側の外周本体部601と、複数のスリット62よりも内周側の内周本体部602とを、径方向に連結している。なお、図示は省略しているが、アウタクラッチプレート5にも、インナクラッチプレート6の連結部63と同様の複数の連結部が設けられている。
【0033】
本実施の形態では、インナクラッチプレート6の全面に、複数の油溝64が形成されている。これらの油溝64は、インナクラッチプレート6の径方向に対して一方に傾斜した複数の第1油溝641と、インナクラッチプレート6の径方向に対して他方に傾斜した複数の第2油溝642とからなる。複数の第1油溝641及び第2油溝642は互いに等しい溝幅及び溝深さを有している。また、複数の第1油溝641及び複数の第2油溝642は格子状に交差し、隣り合う一対の第1油溝641と、隣り合う一対の第2油溝642との間には、四角形状のランド部65が形成されている。各ランド部65の頂面65aは平面状である。また、第2接触面60bにも、同様の油溝64及びランド部65が形成されている。
【0034】
油溝64の溝幅wは、例えば0.3mmである。油溝64の溝深さdは、例えば0.16mmである。また、インナクラッチプレート6の厚さtは、例えば0.8mmである。
【0035】
なお、係合突起61には、油溝64が形成されていなくともよい。また、連結部63には、油溝64が形成されていなくともよい。またさらに、油溝64は、必ずしも第1接触面60aの全体に形成されていなくともよく、少なくとも一部に形成されていればよい。第2接触面60bにおける油溝64についても同様である。
【0036】
電磁コイル11に通電されると、図2Bに示すように、ヨーク4、アウタクラッチプレート5の外周本体部501、インナクラッチプレート6の外周本体部601、アーマチャ7、インナクラッチプレート6の内周本体部602、及びアウタクラッチプレート5の内周本体部502を通過する磁路Gに磁束が発生する。図2Bでは、この磁路Gを破線で図示している。
【0037】
この磁路Gに発生する磁束によってアーマチャ7がヨーク4側に引き寄せられ、アウタクラッチプレート5及びインナクラッチプレート6をヨーク4に向かって押圧する。これにより、ヨーク4の接触面40bとアウタクラッチプレート5の第1接触面50a、アウタクラッチプレート5の第2接触面50bとインナクラッチプレート6の第1接触面60a、及びインナクラッチプレート6の第2接触面60bとアーマチャ7の接触面70aが、それぞれ接触する。そして、アウタクラッチプレート5の第2接触面50bとインナクラッチプレート6の第1接触面60aとの接触によって発生する摩擦力により、ハウジング部材2とシャフト3との相対回転が抑制される。
【0038】
一方、電磁コイル11への電流供給が遮断されると、アーマチャ7がアウタクラッチプレート5及びインナクラッチプレート6を押圧しなくなり、アウタクラッチプレート5とインナクラッチプレート6との間の摩擦力が消滅して、シャフト3がハウジング部材2に対して自由に回転できるようになる。ただし、アウタクラッチプレート5とインナクラッチプレート6との間には潤滑油が介在するので、この潤滑油の粘性によって引き摺りトルクが発生する。この引き摺りトルクは、シャフト3がハウジング部材2に対して回転する際の回転抵抗となる。
【0039】
ここで、クラッチ部10における複数の軟磁性体(ヨーク4、アウタクラッチプレート5、インナクラッチプレート6、及びアーマチャ7)同士の接触面(ヨーク4の接触面40b、アウタクラッチプレート5の第1及び第2接触面50a,50b、インナクラッチプレート6の第1及び第2接触面60a,60b、及びアーマチャ7の接触面70a)に形成された油溝(インナクラッチプレート6の油溝64)のうち、磁路Gに含まれる部分の溝面積の総和を「トータル溝面積」と定義する。本実施の形態では、油溝がインナクラッチプレート6の第1及び第2接触面60a,60bのみに形成されているので、このトータル溝面積が、インナクラッチプレート6の外周本体部601及び内周本体部602の第1及び第2接触面60a,60bにおける油溝64の総溝面積となる。
【0040】
この外周本体部601及び内周本体部602の第1及び第2接触面60a,60bにおける油溝64の総溝面積Sは、油溝64の溝幅をwとし、外周本体部601及び内周本体部602の第1及び第2接触面60a,60bにおける複数の油溝64の全体の長さをLとしたとき、S=w×Lの演算式によって求めることができる。
【0041】
磁路Gにおける磁束密度は、電磁コイル11に流れる電流が大きくなるほど高くなり、アウタクラッチプレート5とインナクラッチプレート6との間の摩擦力が増大する。また、制御装置から電磁コイル11に供給される電流が所定値以上となると、磁束が飽和して、それ以上の電流を流しても磁束密度が一定の値となる。
【0042】
図4は、制御装置から電磁コイル11に最大の電流が供給された場合のトータル溝面積と磁束密度との関係を示すグラフである。このグラフでは、横軸をトータル溝面積とし、第1の縦軸(左軸)を磁束密度として、両者の関係を実線で示している。また、このグラフでは、第2の縦軸(右軸)を引き摺りトルクとして、トータル溝面積と引き摺りトルクとの関係を破線で示している。
【0043】
図4に示すように、トータル溝面積がS以下の場合には磁束密度が一定であり、トータル溝面積が所定値Sを超えると、磁束密度が徐々に低下する。この所定値Sは、磁路Gにおける磁束が飽和したときの磁束密度を低下させない範囲でのトータル溝面積の最大値である。このトータル溝面積の最大値(所定値S)を「最大油溝面積」と定義する。
【0044】
一方、引き摺りトルクは、トータル溝面積が大きくなるほど徐々に小さくなる。図4に示す例では、トータル溝面積が大きくなるほど、引き摺りトルクが略直線的に小さくなっている。これは、トータル溝面積が大きくなるほどアウタクラッチプレート5とインナクラッチプレート6との間に多くの量の潤滑油が供給され、これらクラッチプレート間の軸方向の間隔が広がるためであると考えられる。
【0045】
クラッチ装置1は、電磁コイル11に供給される電流に対する磁束密度が高いほど好ましい。磁束密度が高ければ、より大きな摩擦力(制動力)をアウタクラッチプレート5とインナクラッチプレート6との間に発生させることができるためである。また、クラッチ装置1は、引き摺りトルクが小さいほど好ましい。引き摺りトルクは、クラッチ装置1が非作動状態である場合のシャフト3の回転抵抗となるためである。
【0046】
本実施の形態では、クラッチ部10において発生させることができる摩擦力の低下の抑制と、引き摺りトルクの低減との両立を図るため、トータル溝面積を、最大油溝面積(所定値S)の90〜110%(90%以上かつ110%以下)としている。図4では、この範囲を好適範囲として示している。トータル溝面積が最大油溝面積の90%未満であると、引き摺りトルクが大きくなってしまう。一方、トータル溝面積が最大油溝面積の110%を超えると、磁束密度が低下してしまう。
【0047】
また、クラッチ部10において発生させることができる摩擦力を低下させない範囲で引き摺りトルクの低下を図るためには、トータル溝面積が最大油溝面積以下であることが望ましい。すなわち、トータル溝面積のより好適な範囲は、最大油溝面積の90〜100%である。
【0048】
また、本実施の形態では、できるだけ小さな励磁電流で磁路Gに高い磁束密度の磁束を発生させるべく、電磁コイル11に電流が供給されてヨーク4、アウタクラッチプレート5、インナクラッチプレート6、及びアーマチャ7が互いに接触したとき、磁路Gが空隙を含まないようにクラッチ部10が構成されている。つまり、例えば特許文献1に記載されたもののようにヨークとリヤハウジングとの間に空隙が形成されていると、この空隙の磁気抵抗が大きいため、より大きな電流を電磁コイル11に供給しなければ磁束を飽和させることができないが、本実施の形態では、上記のように磁路Gが空隙を含まないようにクラッチ部10が構成されているので、より小さな励磁電流で磁路Gにおける磁束を飽和させることが可能となる。
【0049】
(第1の実施の形態の効果)
以上説明した第1の実施の形態によれば、電磁コイル11の磁力によって発生し得る摩擦力の低下を抑制しながら引き摺りトルクの低減を図ることが可能となる。
【0050】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について、図5及び図6を参照して説明する。
【0051】
本実施の形態に係るクラッチ装置1Aは、クラッチ部10Aの構成が第1の実施の形態と異なる。すなわち、第1の実施の形態では、クラッチ部10が複数の軟磁性体として、ヨーク4、アウタクラッチプレート5、インナクラッチプレート6、及びアーマチャ7を有している場合について説明したが、本実施の形態のクラッチ部10Aは、アウタクラッチプレート5及びインナクラッチプレート6を有しておらず、ヨーク4とアーマチャ7との摩擦接触によりハウジング部材2とシャフト3との相対回転を抑制する。
【0052】
また、本実施の形態に係るクラッチ装置1Aは、上記以外の構成については第1の実施の形態に係るクラッチ装置1と同様に構成されているので、図5及び図6において、第1の実施の形態で説明したものと同様の機能を有する部材等については、共通する符号を付してその重複した説明を省略する。
【0053】
図5は、本実施の形態に係るクラッチ装置1Aの一部を軸方向に沿った断面で示す拡大図であり、(a)は非作動時の状態を、(b)は作動時の状態を、それぞれ示している。
【0054】
アーマチャ7は、ヨーク4と軸方向に対向する対向面が、クラッチ装置1Aの作動時においてヨーク4の接触面40bに摩擦接触する接触面70aとして形成されている。また、アーマチャ7は、係合突起71がシャフト3のスプライン係合部310に係合することで、シャフト3に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結されている。一方、ヨーク4は、第1の実施の形態と同様に、ボルト81(図1に示す)によってハウジング部材2に固定され、その接触面40bは溝のない平面状に形成されている。
【0055】
図6(a)は、接触面70a側から見たアーマチャ7の全体を示す平面図である。図6(b)は、図6(a)のD部を示す拡大図であり、図6(c)は、アーマチャ7の断面形状を示す図6(b)のE−E線断面図である。
【0056】
アーマチャ7の接触面70aには、潤滑油を流動させるための複数の油溝72が形成されている。複数の油溝72は、アーマチャ7の径方向に対して一方に傾斜した複数の第1油溝721と、アーマチャ7の径方向に対して他方に傾斜した複数の第2油溝722とからなる。複数の第1油溝721及び第2油溝722は互いに等しい溝幅及び溝深さを有している。また、複数の第1油溝721及び複数の第2油溝722は格子状に交差し、隣り合う一対の第1油溝721と、隣り合う一対の第2油溝722との間には、四角形状のランド部73が形成されている。各ランド部73の頂面73aは平面状である。油溝72の溝幅wは例えば0.3mmであり、油溝72の溝深さdは例えば0.16mmである。
【0057】
アーマチャ7の本体部70は、ヨーク4における凹部40の開口40aに向かい合う環状の中間部700と、中間部700よりも外周側の外周部701と、中間部700よりも内周側の内周部702とを一体に有している。電磁コイル11に通電され、その磁力によってアーマチャ7がヨーク4側に引き寄せられると、アーマチャ7の本体部70における外周部701が凹部40よりも外側におけるヨーク4の接触面40bに接触すると共に、アーマチャ7の本体部70における内周部702が凹部40よりも内側におけるヨーク4の接触面40bに接触する。
【0058】
本実施の形態では、潤滑油を流動させる油溝72がアーマチャ7の接触面70aのみに形成され、本体部70の外周部701及び内周部702が磁束の磁路Gに含まれるので、この外周部701及び内周部702における接触面70aに形成された油溝72の総溝面積が、上記の定義に基づくトータル溝面積となる。
【0059】
本実施の形態に係るクラッチ装置1Aでは、第1の実施の形態に係るクラッチ装置1と同様に、トータル溝面積が大きいほど引き摺りトルクが小さくなると共に、磁束密度が高くなる傾向にある。ただし、電磁コイル11に最大値の電流が供給されたときの磁束密度は、トータル溝面積が所定値以下の場合には一定であり、この所定値を超えると徐々に低下する。この所定値は、第1の実施の形態において定義された最大油溝面積に相当する。
【0060】
本実施の形態でも、第1の実施の形態と同様に、クラッチ部10Aにおいて発生させることができる摩擦力の低下の抑制と、引き摺りトルクの低減との両立を図るため、トータル溝面積を、最大油溝面積の90〜110%(90%以上かつ110%以下)としている。また、クラッチ部10Aにおいて発生させることができる摩擦力を低下させない範囲で引き摺りトルクの低下を図るためには、トータル溝面積が最大油溝面積以下であることがより望ましい。
【0061】
また、本実施の形態では、できるだけ小さな励磁電流で磁路Gにおける磁束を飽和させるべく、電磁コイル11に電流が供給されてヨーク4とアーマチャ7とが接触したとき、磁路Gが空隙を含まないようにクラッチ部10Aが構成されている。
【0062】
(第2の実施の形態の効果)
以上説明した第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態について説明したものと同様の作用及び効果を得ることができる。また、第2の実施の形態に係るクラッチ部10Aは、アウタクラッチプレート5及びインナクラッチプレート6を有していないので、部品点数及び組み付け工数の削減が可能となる。
【0063】
(付記)
以上、本発明の摩擦係合装置を第1及び第2の実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【0064】
例えば、上記第1及び第2の実施の形態では、ハウジング部材2が支持部材に固定された非回転部材である場合について説明したが、これに限らず、ハウジング部材2が回転部材であってもよい。すなわち、アウタクラッチプレート5とインナクラッチプレート6、又はヨーク4とアーマチャ7との間に発生する摩擦力によって、ハウジング部材2とシャフト3との間で回転トルクが伝達されるものであってもよい。
【0065】
また、上記第1の実施の形態では、アウタクラッチプレート5及びインナクラッチプレート6がそれぞれ1枚ずつである場合について説明したが、これに限らず、複数のアウタクラッチプレート5と複数のインナクラッチプレート6とが交互に配置されていてもよい。この場合、トータル溝面積は、1枚のインナクラッチプレート6における総溝面積にインナクラッチプレート6の枚数を乗じた面積となる。
【0066】
また、上記第1の実施の形態では、アウタクラッチプレート5には油溝を設けず、インナクラッチプレート6のみに油溝64を設けた場合について説明したが、これとは逆に、インナクラッチプレート6には油溝を設けず、アウタクラッチプレート5のみに油溝を設けてもよい。またさらに、アウタクラッチプレート5及びインナクラッチプレート6の双方に油溝を設けてもよい。この場合、トータル溝面積は、アウタクラッチプレート5の外周本体部501及び内周本体部502における総溝面積と、インナクラッチプレート6の外周本体部601及び内周本体部602における総溝面積との和によって求められる。
【符号の説明】
【0067】
1,1A…クラッチ装置、10,10A…クラッチ部、11…電磁コイル、12…樹脂部材、13…リード線、2…ハウジング部材、21…円筒部、210…スプライン係合部、22…フランジ部、221,231…ボルト挿通孔、23…底壁部、232…貫通孔、24…延在部、25…突壁部、2a…収容空間、3…シャフト(回転部材)、31…大径部、310…スプライン係合部、32…中径部、33…小径部、4…ヨーク(軟磁性体)、40…凹部、40a…開口、40b…接触面、41…導出孔、5…アウタクラッチプレート(軟磁性体)、50…本体部、501…外周本体部、502…内周本体部、50a…第1接触面、50b…第2接触面、51…係合突起、52…スリット、6…インナクラッチプレート(軟磁性体)、60…本体部、601…外周本体部、602…内周本体部、60a…第1接触面、60b…第2接触面、61…係合突起、62…スリット、63…連結部、64…油溝、641…第1油溝、642…第2油溝、65…ランド部、65a…頂面、7…アーマチャ(軟磁性体)、70…本体部、700…中間部、701…外周部、702…内周部、70a…接触面、71…係合突起、72…油溝、721…第1油溝、722…第2油溝、73…ランド部、73a…頂面、80…軸受、801…外輪、802…内輪、803…転動体、81…ボルト、82…キャップ、83…スナップリング、G…磁路、O…回転軸線、S…総溝面積、S…所定値(最大油溝面積)
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6