【課題】パッシベーション効果に優れたパッシベーション層を簡便な手法で形成することが可能なパッシベーション層形成用組成物を用いて得られ、優れたパッシベーション効果を有するパッシベーション層を備える、優れた変換効率を有する太陽電池素子、その製造方法、及び太陽電池モジュールを提供する。
【解決手段】受光面、受光面とは反対側の裏面、及び側面を有する半導体基板1と、受光面上に配置される受光面電極8と、裏面上に配置される裏面電極7と、受光面、裏面及び側面の少なくとも一つの面上に配置され、パッシベーション層形成用組成物の熱処理物であるパッシベーション層5と、窒化珪素、酸化珪素からなる群より選択される少なくとも1種類の珪素化合物を含む保護層と、を有する太陽電池素子。
前記パッシベーション層形成用組成物が、前記一般式(I)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含み、前記パッシベーション層形成用組成物中の前記一般式(I)で表される化合物の含有率が、0.1〜50質量%である請求項1〜3のいずれか一項に記載の太陽電池素子。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。更に、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。また、本明細書において「層」との語は、平面図として観察したときに、全面に形成されている形状の構成に加え、一部に形成されている形状の構成も包含される。
パッシベーション層上に電極形成用組成物を付与し熱処理によって電極形成を行う場合、電極形成用組成物内の成分がパッシベーション層と化学反応して、パッシベーション効果を低下させてしまうことがある。また、電極が放冷時に収縮しパッシベーション層に強い応力が発生して、パッシベーション効果を低下させることがある。そこで、本発明のように、パッシベーション層の上に窒化珪素、酸化珪素からなる群より選択される少なくとも1種類の珪素化合物を含む保護層があると、パッシベーション効果が電極形成前後で維持されて、優れた変換効率を有する太陽電池素子を作製することができる。
本明細書において、半導体基板のパッシベーション効果は、パッシベーション層が形成された半導体基板内の少数キャリアの実効ライフタイムを、日本セミラボ株式会社、WT−2000PVN等の装置を用いて、反射マイクロ波光伝導減衰法によって測定することで評価することができる。また、Sinton社、WT−120を用いて、擬定常状態光伝導度法によって測定することで評価することもできる。
【0015】
ここで、実効ライフタイムτは、半導体基板内部のバルクライフタイムτ
bと、半導体基板表面の表面ライフタイムτ
sとによって下記式(A)のように表される。半導体基板表面の表面準位密度が小さい場合にはτ
sが長くなる結果、実効ライフタイムτが長くなる。また、半導体基板内部のダングリングボンド等の欠陥が少なくなっても、バルクライフタイムτ
bが長くなって実効ライフタイムτが長くなる。すなわち、実効ライフタイムτの測定によってパッシベーション層と半導体基板との界面特性、及び、ダングリングボンド等の半導体基板の内部特性を評価することができる。
1/τ=1/τ
b+1/τ
s ・・・(A)
【0016】
尚、実効ライフタイムτが長いほど少数キャリアの再結合速度が小さいことを示す。また実効ライフタイムが長い半導体基板を用いて太陽電池素子を構成することで、変換効率が向上する。
しかし、ライフタイムは半導体基板の比抵抗、厚さ、表面状態に依存するため、必ずしもパッシベーション層がもつパッシベーション効果を正しく測定できない場合ある。そこで、半導体基板のパッシベーション効果を調べる別の方法として、パッシベーション層がもつ固定電荷をCV法(Capacitance Voltage measurement)を用いて評価する方法がある。大きな固定電荷がパッシベーション層に存在すると、表面での少数キャリアの再結合が抑制されるため、少数キャリアの再結合速度は小さくなる。
【0017】
(一般式(I)で表される化合物)
本実施形態の製造方法では、一般式(I)で表される化合物の少なくとも1種が用いられる。パッシベーション層形成用組成物が一般式(I)で表される化合物の少なくとも1種を含むことで、優れたパッシベーション効果を有するパッシベーション層を形成することができる、この理由は以下のように考えることができる。
【0018】
一般式(I)で表される化合物を用いて製造されるパッシベーション層形成用組成物を熱処理(焼成)することにより形成される金属酸化物では、アモルファス状態で金属原子又は酸素原子の欠陥を有し、固定電荷を生じやすくなると考えられる。この固定電荷が半導体基板との界面付近で電荷を発生させることで少数キャリアの濃度を低下させることができ、結果的に界面でのキャリア再結合速度が抑制され、優れたパッシベーション効果が奏されると考えられる。
【0019】
ここで、半導体基板上で固定電荷を発生させるパッシベーション層の状態については、半導体基板の断面を走査型透過電子顕微鏡(STEM、Scanning Transmission Electron Microscope)による電子エネルギー損失分光法(EELS、Electron Energy Loss Spectroscopy)の分析で結合様式を調べることにより評価できる。また、X線回折スペクトル(XRD、X−ray diffraction)を測定することにより、パッシベーション層の界面付近の結晶相を確認することができる。
【0020】
本実施形態の製造方法では、下記一般式(I)で表される化合物(以下、「有機アルミニウム化合物」ともいう)の少なくとも1種を用いる。
【0022】
一般式(I)中、R
1はそれぞれ独立してアルキル基を表す。nは0〜3の整数を表す。X
1及びX
2はそれぞれ独立して酸素原子又はメチレン基を表す。R
2、R
3及びR
4はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基を表す。
【0023】
パッシベーション層形成用組成物が上記有機アルミニウム化合物を含むことで、パッシベーション効果を更に向上させることができる。これは、以下のようにして考えることができる。
【0024】
有機アルミニウム化合物は、アルミニウムアルコキシド、アルミニウムキレート等と呼ばれる化合物を包含している。また、Nippon Seramikkusu Kyokai Gakujutsu Ronbunshi, vol.97, pp.369−399(1989)にも記載されているように、有機アルミニウム化合物は熱処理(焼成)により酸化アルミニウム(Al
2O
3)となる。このとき、形成された酸化アルミニウムはアモルファス状態となりやすいため、4配位酸化アルミニウム層が半導体基板との界面付近に形成されやすく、4配位酸化アルミニウムに起因する大きな負の固定電荷をもつことができると考えられる。このとき、固定電荷を持つ一般式(I)で表される化合物由来の酸化物と複合化することで、結果として優れたパッシベーション効果を有するパッシベーション層を形成することができるものと考えられる。
【0025】
一般式(I)において、R
1はそれぞれ独立してアルキル基を表し、炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜4のアルキル基であることがより好ましい。R
1で表されるアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。R
1で表されるアルキル基として具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基等を挙げることができる。中でもR
1で表されるアルキル基は、保存安定性とパッシベーション効果の観点から、炭素数1〜8の無置換のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜4の無置換のアルキル基であることがより好ましい。
【0026】
一般式(I)において、nは0〜3の整数を表わす。nは保存安定性の観点から、1又は3であることが好ましく、溶解度の観点から、1であることがより好ましい。
またX
1及びX
2はそれぞれ独立して酸素原子又はメチレン基を表す。保存安定性の観点から、X
1及びX
2の少なくとも一方は酸素原子であることが好ましい。
【0027】
一般式(I)におけるR
2、R
3及びR
4はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基を表す。R
2、R
3及びR
4で表されるアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。R
2、R
3及びR
4で表されるアルキル基としては、炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜4のアルキル基であることがより好ましい。R
2、R
3及びR
4で表されるアルキル基として具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、エチルヘキシル基等を挙げることができる。R
2、R
3及びR
4で表されるアルキル基は、置換基を有していても、無置換であってもよく、無置換であることが好ましい。
【0028】
中でも保存安定性とパッシベーション効果の観点から、一般式(I)におけるR
2及びR
3はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜8の無置換のアルキル基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1〜4の無置換のアルキル基であることがより好ましい。
また、一般式(I)におけるR
4は、保存安定性及びパッシベーション効果の観点から、水素原子又は炭素数1〜8の無置換のアルキル基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1〜4の無置換のアルキル基であることがより好ましい。
【0029】
有機アルミニウム化合物は、保存安定性の観点から、nが1〜3の整数であり、R
4がそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である化合物であることが好ましい。
【0030】
有機アルミニウム化合物は、保存安定性とパッシベーション効果の観点から、nが1〜3の整数であり、R
1がそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基であり、X
1及びX
2の少なくとも一方が酸素原子であり、R
2及びR
3がそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R
4がそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である化合物であることが好ましい。
より好ましくは、有機アルミニウム化合物は、nが1〜3の整数であり、R
1がそれぞれ独立して炭素数1〜4の無置換のアルキル基であり、X
1及びX
2の少なくとも一方が酸素原子であり、この酸素原子に結合するR
2又はR
3が炭素数1〜4のアルキル基であり、X
1又はX
2がメチレン基の場合、このメチレン基に結合するR
2又はR
3が水素原子であり、R
4が水素原子である化合物である。
【0031】
また一般式(I)で表される有機アルミニウム化合物として具体的には、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム等を挙げることができる。
【0032】
また一般式(I)で表される有機アルミニウム化合物は、調製したものを用いても、市販品を用いてもよい。市販品としては、川研ファインケミカル株式会社の商品名、ALCH、ALCH−50F、ALCH−75、ALCH−TR、ALCH−TR−20等を挙げることができる。
【0033】
また一般式(I)で表される有機アルミニウム化合物は、アルミニウムトリアルコキシドと、後述の2つのカルボニル基を有する特定構造の化合物とを混合することで調製することができる。また市販されているアルミニウムキレート化合物を用いてもよい。
【0034】
前記アルミニウムトリアルコキシドと、2つのカルボニル基を有する特定構造の化合物とを混合すると、アルミニウムトリアルコキシドのアルコキシド基の少なくとも一部が特定構造の化合物と置換して、アルミニウムキレート構造を形成する。このとき必要に応じて、液状媒体が存在してもよく、加熱処理、触媒等の添加などを行ってもよい。アルミニウムアルコキシド構造の少なくとも一部がアルミニウムキレート構造に置換されることで、有機アルミニウム化合物の加水分解及び重合反応に対する安定性が向上し、これを含むパッシベーション層形成用組成物の保存安定性がより向上する。
【0035】
前記2つのカルボニル基を有する特定構造の化合物としては、反応性と保存安定性の観点から、β−ジケトン化合物、β−ケトエステル化合物及びマロン酸ジエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0036】
β−ジケトン化合物として具体的には、アセチルアセトン、3−メチル−2,4−ペンタンジオン、2,3−ペンタンジオン、3−エチル−2,4−ペンタンジオン、3−ブチル−2,4−ペンタンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、2,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオン、6−メチル−2,4−ヘプタンジオン等を挙げることができる。
【0037】
β−ケトエステル化合物として具体的には、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸n−プロピル、アセト酢酸i−プロピル、アセト酢酸i−ブチル、アセト酢酸n−ブチル、アセト酢酸t−ブチル、アセト酢酸n−ペンチル、アセト酢酸i−ペンチル、アセト酢酸n−ヘキシル、アセト酢酸n−オクチル、アセト酢酸n−ヘプチル、アセト酢酸3−ペンチル、2−アセチルヘプタン酸エチル、2−メチルアセト酢酸エチル、2−ブチルアセト酢酸エチル、ヘキシルアセト酢酸エチル、4,4−ジメチル−3−オキソ吉草酸エチル、4−メチル−3−オキソ吉草酸エチル、2−エチルアセト酢酸エチル、4−メチル−3−オキソ吉草酸メチル、3−オキソヘキサン酸エチル、3−オキソ吉草酸エチル、3−オキソ吉草酸メチル、3−オキソヘキサン酸メチル、3−オキソヘプタン酸エチル、3−オキソヘプタン酸メチル、4,4−ジメチル−3−オキソ吉草酸メチル等を挙げることができる。
【0038】
マロン酸ジエステルとして具体的には、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジ−n−プロピル、マロン酸ジ−i−プロピル、マロン酸ジ−n−ブチル、マロン酸ジ−t−ブチル、マロン酸ジヘキシル、マロン酸t−ブチルエチル、メチルマロン酸ジエチル、エチルマロン酸ジエチル、i−プロピルマロン酸ジエチル、n−ブチルマロン酸ジエチル、sec−ブチルマロン酸ジエチル、i−ブチルマロン酸ジエチル、1−メチルブチルマロン酸ジエチル等を挙げることができる。
【0039】
アルミニウムキレート構造の数は、例えば前記アルミニウムトリアルコキシドと、2つのカルボニル基を有する特定構造の化合物とを混合する比率を適宜調整することで制御することができる。また市販のアルミニウムキレート化合物から所望の構造を有する化合物を適宜選択してもよい。
【0040】
有機アルミニウム化合物のうち、パッシベーション効果及び必要に応じて含有される溶剤との相溶性の観点から、具体的にはアルミニウムエチルアセトアセテートジ−i−プロピレート及びトリ−i−プロポキシアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、アルミニウムエチルアセトアセテートジ−i−プロピレートを用いることがより好ましい。
【0041】
有機アルミニウム化合物におけるアルミニウムキレート構造の存在は、通常用いられる分析方法で確認することができる。例えば、赤外分光スペクトル、核磁気共鳴スペクトル及び融点に基づいて確認することができる。
【0042】
有機アルミニウム化合物は、液状であっても固体であってもよく、特に制限はない。パッシベーション効果と保存安定性の観点から、常温(25℃)での安定性、及び溶解性又は分散性が良好な有機アルミニウム化合物を用いることで、形成されるパッシベーション層の均質性がより向上し、所望のパッシベーション効果を安定的に得ることができる。
【0043】
本実施形態の製造方法により製造される太陽電池素子に用いるパッシベーション層形成用組成物に含まれる一般式(I)で表される化合物の含有率は、必要に応じて適宜選択することができる。一般式(I)で表される化合物の含有率は、パッシベーション効果の観点から、パッシベーション層形成用組成物中に0.1〜80質量%とすることができ、0.5〜70質量%であることが好ましく、1〜60質量%であることがより好ましく、1〜50質量%であることが更に好ましい。
【0044】
(一般式(II)で表される化合物)
上記に加え、一般式(I)で表される化合物と下記一般式(II)で表される化合物とを組み合わせることで、パッシベーション層内でそれぞれの効果により、パッシベーション効果がより高くなると考えられる。更に、一般式(I)で表される化合物と一般式(II)で表される化合物が混合された状態で熱処理(焼成)されることで、一般式(I)で表される化合物に含まれるアルミニウム(Al)と金属(M)との複合金属アルコキシドが生成し、反応性、蒸気圧等の物理特性が改善され、熱処理物(焼成物)としてのパッシベーション層の緻密性が向上し、結果としてパッシベーション効果がより高くなると考えられる。
【0045】
M(OR
5)
m ・・・(II)
一般式(II)において、MはNb(ニオブ)、Ta(タンタル)、V(バナジウム)、Y(イットリウム)、Ti(チタン)及びHf(ハフニウム)からなる群より選択される少なくとも1種を表す。これらは併用してもよい。
一般式(II)において、R
5はそれぞれ独立に、アルキル基又はアリール基を表し、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜4のアルキル基が更に好ましい。R
5で表されるアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0046】
R
5で表されるアルキル基として具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基等を挙げることができる。
R
5で表されるアリール基として具体的には、フェニル基を挙げることができる。
R
5で表されるアルキル基及びアリール基は、置換基を有していてもよく、アルキル基の置換基としては、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基等が挙げられる。アリール基の置換基としては、メチル基、エチル基、i−プロピル基、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基等が挙げられる。
中でもR
5は、水との反応性及びパッシベーション効果の観点から、炭素数1〜8の無置換のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜4の無置換のアルキル基であることがより好ましい。
【0047】
一般式(II)において、mは1〜5の整数を表す。ここで、水との反応性の観点から、MがNbである場合にはmが5であることが好ましく、MがTaである場合にはmが5であることが好ましく、MがVである場合にはmが3であることが好ましく、MがYである場合にはmが3であることが好ましく、MがTiである場合にはmが4であることが好ましく、MがHfである場合にはmが4であることが好ましい。
【0048】
一般式(II)で表される化合物の状態は、25℃において固体であっても液体であってもよい。パッシベーション層形成用組成物の保存安定性、一般式(I)で表わされる化合物を併用する場合における混合性の観点から、一般式(II)で表される化合物は、25℃において液体であることが好ましい。
【0049】
一般式(II)で表される化合物は、具体的には、ニオブメトキシド、ニオブエトキシド、ニオブi−プロポキシド、ニオブn−プロポキシド、ニオブn−ブトキシド、ニオブt−ブトキシド、ニオブi−ブトキシド、タンタルメトキシド、タンタルエトキシド、タンタルi−プロポキシド、タンタルn−プロポキシド、タンタルn−ブトキシド、タンタルt−ブトキシド、タンタルi−ブトキシド、イットリウムメトキシド、イットリウムエトキシド、イットリウムi−プロポキシド、イットリウムn−プロポキシド、イットリウムn−ブトキシド、イットリウムt−ブトキシド、イットリウムi−ブトキシド、チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンi−プロポキシド、チタンn−プロポキシド、チタンn−ブトキシド、チタンt−ブトキシド、チタンi−ブトキシド、チタン2−エチルヘキシルオキシド、バナジウムオキシメトキシド、バナジウムオキシエトキシド、バナジウムオキシi−プロポキシド、バナジウムオキシn−プロポキシド、バナジウムオキシn−ブトキシド、バナジウムオキシt−ブトキシド、バナジウムオキシi−ブトキシド、ハフニウムメトキシド、ハフニウムエトキシド、ハフニウムi−プロポキシド、ハフニウムn−プロポキシド、ハフニウムn−ブトキシド、ハフニウムt−ブトキシド、ハフニウムi−ブトキシド等を挙げることができ、中でもニオブエトキシド、ニオブn−プロポキシド、ニオブn−ブトキシド、タンタルエトキシド、タンタルn−プロポキシド、タンタルn−ブトキシド、イットリウムi−プロポキシド、チタンi−プロポキシド、チタンn−ブトキシド、チタン2−エチルヘキシルオキシド及びイットリウムn−ブトキシドが好ましい。
【0050】
また一般式(II)で表される化合物は、調製したものを用いても、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、高純度化学研究所株式会社製のペンタメトキシニオブ、ペンタエトキシニオブ、ペンタ−i−プロポキシニオブ、ペンタ−n−プロポキシニオブ、ペンタ−i−ブトキシニオブ、ペンタ−n−ブトキシニオブ、ペンタ−sec−ブトキシニオブ、ペンタメトキシタンタル、ペンタエトキシタンタル、ペンタ−i−プロポキシタンタル、ペンタ−n−プロポキシタンタル、ペンタ−i−ブトキシタンタル、ペンタ−n−ブトキシタンタル、ペンタ−sec−ブトキシタンタル、ペンタ−t−ブトキシタンタル、バナジウム(V)トリメトキシドオキシド、バナジウム(V)トリエトキシドオキシド、バナジウム(V)トリ−i−プロポキシドオキシド、バナジウム(V)トリ−n−プロポキシドオキシド、バナジウム(V)トリ−i−ブトキシドオキシド、バナジウム(V)トリ−n−ブトキシドオキシド、バナジウム(V)トリ−sec−ブトキシドオキシド、バナジウム(V)トリ−t−ブトキシドオキシド、トリ−i−プロポキシイットリウム、トリ−n−ブトキシイットリウム、テトラメトキシハフニウム、テトラエトキシハフニウム、テトラ−i−プロポキシハフニウム、テトラ−t−ブトキシハフニウム、北興化学工業株式会社製のペンタエトキシニオブ、ペンタエトキシタンタル、ペンタブトキシタンタル、イットリウム−n−ブトキシド、ハフニウム−tert−ブトキシド、日本曹達株式会社製、マツモトファインケミカル株式会社製、三菱瓦斯化学株式会社製のチタンi−プロポキシド、チタンn−ブトキシド、チタン2−エチルヘキシルオキシド、日亜化学工業株式会社製のバナジウムオキシトリエトキシド、バナジウムオキシトリノルマルプロポキシド、バナジウムオキシトリノルマルブトキシド、バナジウムオキシトリイソブトキシド、バナジウムオキシトリセカンダリーブトキシドを挙げることができる。
【0051】
一般式(II)で表される化合物の調製には、特定の金属(M)のハロゲン化物とアルコールとを不活性有機溶媒の存在下で反応させ、更にハロゲンを引き抜くためにアンモニア又はアミン化合物を添加する方法(特開昭63−227593号公報及び特開平3−291247号公報に記載される方法)等、既知の製法を用いることができる。
【0052】
一般式(II)で表される化合物の少なくとも一部は、後述する2つのカルボニル基を有する特定構造の化合物と混合することでキレート構造を形成した化合物としてパッシベーション層形成用組成物に含まれていてもよい。キレート化するカルボニル基数には特に制限はないが、MがAlである場合にはキレート化するカルボニル基数が1〜3であることが好ましく、Nbである場合にはキレート化するカルボニル基数が1〜5であることが好ましく、MがTaである場合にはキレート化するカルボニル基数が1〜5であることが好ましく、MがVOである場合にはキレート化するカルボニル基数が1〜3であることが好ましく、MがYである場合にはキレート化するカルボニル基数が1〜3であることが好ましく、MがHfである場合にはキレート化するカルボニル基数が1〜4であることが好ましい。
【0053】
一般式(II)で表される化合物におけるキレート構造の存在は、通常用いられる分析方法で確認することができる。例えば、赤外分光スペクトル、核磁気共鳴スペクトル、融点等を用いて確認することができる。
一般式(II)で表される化合物のキレート化物は、具体的には、チタンアセトアセテート、チタンアセチルアセトネート、オクチレングリコールチタネート、チタンテトラアセチルアセトネ−ト等を挙げることができる。
【0054】
本実施形態の製造方法により製造される太陽電池素子に用いるパッシベーション層形成用組成物が一般式(II)で表される化合物を含む場合、一般式(II)で表される化合物の含有率は特に制限されない。中でも、一般式(I)で表される化合物と一般式(II)で表される化合物の総含有率を100質量%としたときの一般式(II)で表される化合物の含有率が、0.1〜80質量%であることが好ましく、0.5〜80質量%であることがより好ましく、1〜75質量%であることが更に好ましく、2〜70質量%であることが特に好ましく、3〜70質量%であることが極めて好ましい。
一般式(II)で表される化合物の含有率を0.1質量%以上とすることで、パッシベーション層形成用組成物の保存安定性が向上する傾向にある。また一般式(II)で表される化合物を80質量%以下とすることで、パッシベーション効果が向上する傾向にある。
【0055】
本実施形態の製造方法により製造される太陽電池素子に用いるパッシベーション層形成用組成物が一般式(II)で表される化合物を含む場合、パッシベーション層形成用組成物中の一般式(II)で表される化合物の含有率は、必要に応じて適宜選択することができる。一般式(II)で表される化合物の含有率は、保存安定性とパッシベーション効果の観点から、パッシベーション層形成用組成物中に0.1〜60質量%とすることができ、0.5〜55質量%であることが好ましく、1〜50質量%であることがより好ましく、1〜45質量%であることが更に好ましい。
【0056】
(液状媒体)
本実施形態の製造方法において使用される液状媒体は、25.0℃におけるせん断粘度が0.1Pa・s以上の液状の媒体であれば特に限定されるものではない。本発明において使用可能な液状媒体としては、加熱時に容易に飛散(気化)して脱脂する必要のない高沸点の材料(高沸点材料)を用いてもよい。
液状媒体のせん断粘度は、コーンプレート(直径50mm、コーン角1°)を装着した回転式のせん断粘度計を用いて、温度25℃、せん断速度10s
-1の条件で測定される。
尚、後述する水との混合工程において混合組成物のせん断粘度が低い場合、当該混合組成物と水とを混合する際に一般式(I)で表される化合物もしくは一般式(II)で表される化合物の凝集物が含水組成物中に生じてしまうことがある。
このような凝集が起きない混合組成物のせん断粘度は25.0℃、せん断速度10s
-1の条件下で0.1Pa・s以上が好ましい。より好ましくは、0.2Pa・sである。混合組成物のせん断粘度は液状媒体のせん断粘度と同様にして測定された値をいう。
本発明で用いられる液状媒体は、このような条件を満たし、一般式(I)で表される化合物を均一に分散できるものであれば特に制限はない。具体的な例としては、下記一般式(III)で表されるイソボルニルシクロヘキサノールが挙げられる。
(一般式(III)で表される化合物)
【0058】
一般式(III)で表されるイソボルニルシクロヘキサノールは、加熱したときに容易に飛散(気化)して脱脂処理する必要がなく、印刷又は塗布後にパッシベーション層形成用組成物の形状が維持できる高粘度の高沸点材料である。
【0059】
イソボルニルシクロヘキサノールは、「テルソルブ MTPH」(日本テルペン化学株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である。イソボルニルシクロヘキサノールは沸点が308〜318℃と高く、また組成物層から除去する際には、樹脂のように熱処理(焼成)による脱脂処理を行うまでもなく、加熱により飛散(気化)させることによって消失させることができる。このため、半導体基板上に本発明の製法により製造されるパッシベーション層形成用組成物を付与した後の乾燥工程で、パッシベーション層形成用組成物中に含まれるイソボルニルシクロヘキサノールの大部分を取り除くことができる。
【0060】
本実施形態の製造方法により製造される太陽電池素子に用いるパッシベーション層形成用組成物における液状媒体の含有率は、パッシベーション層形成用組成物の総質量中に3〜95質量%であることが好ましく、5〜90質量%であることがより好ましく、7〜80質量%であることが更に好ましい。
【0061】
(有機溶剤)
また、本実施形態の製造方法により製造される太陽電池素子に用いるパッシベーション層形成用組成物は、有機溶剤を含んでいてもよい。パッシベーション層形成用組成物が有機溶剤を含有することで、粘度の調整がより容易になり、パッシベーション層形成用組成物の半導体基板への付与性がより向上すると共に、より均一なパッシベーション層を形成することができる。
有機溶剤としては特に制限されず、必要に応じて適宜選択することができる。中でも一般式(I)で表される化合物及び必要に応じて添加される有機アルミニウム化合物を溶解して均一な溶液を与えることができる有機溶剤が好ましく、有機溶剤の少なくとも1種を含むことがより好ましい。
本実施形態において有機溶剤とは、25.0℃におけるせん断粘度が0.1Pa・s未満の有機物をいう。有機溶剤のせん断粘度は液状媒体のせん断粘度と同様にして測定された値をいう。
【0062】
有機溶剤として具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチル−i−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチル−i−ブチルケトン、メチル−n−ペンチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、ジエチルケトン、ジn−プロピルケトン、ジi−ブチルケトン、トリメチルノナノン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、メチルシクロヘキサノン、2,4−ペンタンジオン、アセトニルアセトン等のケトン溶剤、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、メチル−n−プロピルエーテル、ジi−プロピルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールジn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールメチル−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールメチル−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジ−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールメチル−n−ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールメチル−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールメチル−n−ヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラエチレングリコールメチル−n−ブチルエーテル、テトラエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、テトラエチレングリコールメチル−n−ヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエチルエーテル、ジプロピレングリコールメチル−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチル−n−ヘキシルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエチルエーテル、トリプロピレングリコールメチル−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールジ−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチル−n−ヘキシルエーテル、テトラプロピレングリコールジメチルエーテル、テトラプロピレングリコールジエチルエーテル、テトラプロピレングリコールメチルエチルエーテル、テトラプロピレングリコールメチル−n−ブチルエーテル、テトラプロピレングリコールジ−n−ブチルエーテル、テトラプロピレングリコールメチル−n−ヘキシルエーテル等のエーテル溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸n−ペンチル、酢酸sec−ペンチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸メチルペンチル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸2−(2−ブトキシエトキシ)エチル、酢酸ベンジル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、酢酸ノニル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、酢酸ジエチレングリコールメチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールメチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジ酢酸グリコール、酢酸メトキシトリエチレングリコール、酢酸i−アミル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−ブチル、プロピオン酸i−アミル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジ−n−ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル、乳酸n−アミル、エチレングリコールメチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールエチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールプロピルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のエステル溶剤、アセトニトリル、N−メチルピロリジノン、N−エチルピロリジノン、N−n−プロピルピロリジノン、N−n−ブチルピロリジノン、N−n−ヘキシルピロリジノン、N−シクロヘキシルピロリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶剤、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、オクタン、エチルベンゼン、2−エチルヘキサン酸等の疎水性有機溶剤、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、i−ペンタノール、2−メチルブタノール、sec−ペンタノール、t−ペンタノール、3−メトキシブタノール、n−ヘキサノール、2−メチルペンタノール、sec−ヘキサノール、2−エチルブタノール、sec−ヘプタノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、sec−オクタノール、n−ノニルアルコール、n−デカノール、sec−ウンデシルアルコール、トリメチルノニルアルコール、sec−テトラデシルアルコール、sec−ヘプタデシルアルコール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のアルコール溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ヘキシルエーテル、エトキシトリグリコール、テトラエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールモノエーテル溶剤、テルピネン、テルピネオール、ミルセン、アロオシメン、リモネン、ジペンテン、ピネン、カルボン、オシメン、フェランドレン等のテルペン溶剤などが挙げられる。これらの有機溶剤は1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。
【0063】
中でも有機溶剤は、パッシベーション層形成用組成物の半導体基板への付与性及びパターン形成性の観点から、テルペン溶剤、エステル溶剤及びアルコール溶剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、テルペン溶剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0064】
パッシベーション層形成用組成物が有機溶剤を含む場合、有機溶剤の含有率は、パッシベーション層形成用組成物の半導体基板への付与性、パターン形成性及び保存安定性を考慮して決定される。例えば、有機溶剤の含有率は、パッシベーション層形成用組成物の総質量中に5〜98質量%であることが好ましく、10〜95質量%であることがより好ましい。
【0065】
(樹脂)
本実施形態の製造方法により製造される太陽電池素子に用いるパッシベーション層形成用組成物は、樹脂の少なくとも1種を更に含有してもよい。樹脂を含むことで、前記パッシベーション層形成用組成物が半導体基板上に付与されて形成される組成物層の形状安定性がより向上し、パッシベーション層を前記組成物層が形成された領域に、所望の形状で形成することができる。
【0066】
樹脂の種類は特に制限されない。樹脂は、パッシベーション層形成用組成物を半導体基板上に付与する際に、良好なパターン形成ができる範囲に粘度調整が可能な樹脂であることが好ましい。樹脂として具体的には、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリルアミド誘導体、ポリビニルアミド、ポリビニルアミド誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイド誘導体、ポリスルホン酸、ポリアクリルアミドアルキルスルホン酸、セルロース、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース等のセルロースエーテルなど)、ゼラチン、ゼラチン誘導体、澱粉、澱粉誘導体、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム誘導体、キサンタン、キサンタン誘導体、グアーガム、グアーガム誘導体、スクレログルカン、スクレログルカン誘導体、トラガカント、トラガカント誘導体、デキストリン、デキストリン誘導体、(メタ)アクリル酸樹脂、(メタ)アクリル酸エステル樹脂(アルキル(メタ)アクリレート樹脂、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート樹脂等)、ブタジエン樹脂、スチレン樹脂、シロキサン樹脂、これらの共重合体などを挙げることができる。これら樹脂は、1種単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。
尚、本実施形態において(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを表し、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを表す。
【0067】
これらの樹脂のなかでも、保存安定性及びパターン形成性の観点から、酸性及び塩基性の官能基を有さない中性樹脂を用いることが好ましく、含有量が少量の場合においても容易に粘度及びチキソ性を調節できる観点から、セルロース誘導体を用いることがより好ましい。
またこれら樹脂の分子量は特に制限されず、パッシベーション層形成用組成物としての所望の粘度を鑑みて適宜調整することが好ましい。前記樹脂の重量平均分子量は、保存安定性及びパターン形成性の観点から、1000〜10,000,000であることが好ましく、1,000〜5,000,000であることがより好ましい。尚、樹脂の重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて測定される分子量分布から標準ポリスチレンの検量線を使用して換算して求められる。
【0068】
パッシベーション層形成用組成物が樹脂を含有する場合、パッシベーション層形成用組成物中の樹脂の含有率は、必要に応じて適宜選択することができる。例えば、樹脂の含有率は、パッシベーション層形成用組成物の総質量中0.1〜20質量%であることが好ましい。パターン形成をより容易にするようなチキソ性を発現させる観点から、樹脂の含有率は0.2〜15質量%であることがより好ましく、0.5〜10質量%であることが更に好ましく、0.5〜5質量%であることが特に好ましい。
【0069】
(水)
本実施形態の太陽電池素子に用いるパッシベーション層形成用組成物は水と混合して作製しても良い。水の状態は、固体であっても液体であってもよい。混合組成物との混合性の観点から、水は、液体であることが好ましい。
水との工程において、パッシベーション層形成用組成物への水の添加率としては、一般式(I)で表される化合物と必要に応じて用いられる一般式(II)で表される化合物の合計を100モル%としたときに、50〜2000モル%であることが好ましく、100〜1800モル%であることがより好ましく、150〜1500モル%であることが更に好ましい。
【0070】
(その他の成分)
本実施形態の製造方法により製造される太陽電池素子に用いるパッシベーション層形成用組成物は、上述した成分に加え、必要に応じて当該分野で通常用いられるその他の成分を更に含むことができる。
その他の成分としては、例えば、可塑剤、分散剤、界面活性剤、チキソ剤、一般式(I)で表される化合物以外の他の金属アルコキシド化合物及び高沸点材料を挙げることができる。中でも、チキソ剤から選択される少なくとも1種を含んでもよい。チキソ剤から選択される少なくとも1種を含むことで、前記パッシベーション層形成用組成物が半導体基板上に付与されて形成される組成物層の形状安定性がより向上し、パッシベーション層を前記組成物層が形成された領域に、所望の形状で形成することができる。但し、チキソ剤の含有率は3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、実質的に含有しないことが更に好ましい。
【0071】
前記チキソ剤としては、脂肪酸アミド、ポリアルキレングリコール化合物、有機フィラー、無機フィラー等が挙げられる。前記ポリアルキレングリコール化合物としては、下記一般式(IV)で表される化合物等が挙げられる。
R
6−(O−R
8)
n−O−R
7 ・・・(IV)
【0072】
一般式(IV)中、R
6及びR
7はそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示し、R
8はアルキレン基を示す。nは3以上の任意の整数である。尚、複数存在する(O−R
8)におけるR
8は同一であっても異なっていてもよい。
【0073】
前記脂肪酸アミドとしては、例えば、下記一般式(V)、(VI)、(VII)及び(VIII)で表される化合物が挙げられる。
R
9CONH
2 ・・・(V)
R
9CONH−R
10−NHCOR
9 ・・・(VI)
R
9NHCO−R
10−CONHR
9 ・・・(VII)
R
9CONH−R
10−N(R
11)
2 ・・・(VIII)
【0074】
一般式(V)、(VI)、(VII)及び(VIII)中、R
9及びR
11は各々独立に炭素数1〜30のアルキル基又はアルケニル基を示し、R
10は炭素数1〜10のアルキレン基を示す。R
9及びR
11は同一であっても異なっていてもよい。
【0075】
前記有機フィラーとしては、アクリル樹脂、セルロース樹脂、ポリスチレン樹脂等が挙げられる。
【0076】
前記無機フィラーとしては、二酸化珪素、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭化珪素、ガラス等の粒子などが挙げられる。
【0077】
有機フィラー又は無機フィラーの体積平均粒子径は、0.10〜50μmであることが好ましい。
本発明において、フィラーの体積平均粒子径は、レーザー回折散乱法で測定することができる。
【0078】
他の金属アルコキシド化合物としては、ジルコニウムアルコキシド、シリコンアルコキシド等が挙げられる。
【0079】
本実施形態の製造方法により製造される太陽電池素子に用いるパッシベーション層形成用組成物の粘度は特に制限されず、半導体基板への付与方法等に応じて適宜選択することができる。例えば、パッシベーション層形成用組成物の粘度は0.01〜100000Pa・sとすることができる。中でもパターン形成性の観点から、パッシベーション層形成用組成物の粘度は0.1〜10000Pa・sであることが好ましい。尚、前記粘度は回転式せん断粘度計を用いて、25℃、せん断速度1.0s
-1で測定される。
【0080】
またパッシベーション層形成用組成物は、パターン形成性の観点から、せん断速度0.1s
-1におけるせん断粘度η1をせん断速度10s
-1におけるせん断粘度η2で除して算出されるチキソ比(η1/η2)が1.05〜100であることが好ましく、1.1〜50であることがより好ましい。尚、せん断粘度は、コーンプレート(直径50mm、コーン角1°)を装着した回転式のせん断粘度計を用いて、温度25℃で測定される。
【0081】
一方、パッシベーション層形成用組成物が樹脂の代わりに高沸点材料を含む場合、パターン形成性の観点から、せん断速度1.0s
-1におけるせん断粘度η1をせん断速度1000s
-1におけるせん断粘度η3で除して算出されるチキソ比(η1/η3)が1.05〜100であることが好ましく、1.1〜50であることがより好ましい。
【0082】
尚、パッシベーション層形成用組成物中に含まれる成分の種類、及び各成分の含有量はTG/DTA等の熱分析、NMR、IR等のスペクトル分析、HPLC、GPC等のクロマトグラフ分析などを用いて確認することができる。
【0083】
<パッシベーション層付半導体基板>
本実施形態の太陽電池素子に用いるパッシベーション層付半導体基板は、半導体基板と、前記半導体基板の少なくとも一方の面の少なくとも一部に設けられる、パッシベーション層形成用組成物の熱処理物であるパッシベーション層と、から本実施形態の製造方法により製造される。パッシベーション層付半導体基板は、前記パッシベーション層形成用組成物の熱処理物であるパッシベーション層を有することで優れたパッシベーション効果を示す。
【0084】
半導体基板は特に制限されず、目的に応じて通常用いられるものから適宜選択することができる。前記半導体基板としては、シリコン、ゲルマニウム等にp型不純物又はn型不純物をドープ(拡散)したものが挙げられる。中でもシリコン基板であることが好ましい。また半導体基板は、p型半導体基板であっても、n型半導体基板であってもよい。中でもパッシベーション効果の観点から、パッシベーション層が形成される面がp型層である半導体基板であることが好ましい。前記半導体基板上のp型層は、p型半導体基板に由来するp型層であっても、p型拡散層又はp
+型拡散層として、n型半導体基板又はp型半導体基板上に形成されたものであってもよい。
【0085】
また前記半導体基板の厚さは特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、半導体基板の厚さは50〜1000μmとすることができ、75〜750μmであることが好ましい。
【0086】
半導体基板上に形成されたパッシベーション層の厚さは特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、5nm〜50μmであることが好ましく、10nm〜30μmであることがより好ましく、15nm〜20μmであることが更に好ましい。
尚、形成されたパッシベーション層の平均厚さは、干渉式膜厚計(例えば、フィルメトリクス株式会社製、商品名:F20膜厚測定システム)を用いて常法により、3点の厚さを測定し、その算術平均値として算出される。
【0087】
本実施形態において用いるパッシベーション層付半導体基板は、太陽電池素子、発光ダイオード素子等に適用することができる。例えば、太陽電池素子に適用することで変換効率に優れた太陽電池素子を得ることができる。
【0088】
本実施形態において用いる珪素化合物を含む保護層は窒化珪素、酸化珪素からなる群より選択される少なくとも1種類の珪素化合物を含む。保護層を付与する方法に特に制限はない。具体的には、化学気相蒸着法を挙げることができる。成膜する条件についても特に制限はないが、成膜温度は300〜600℃が好ましく、400〜580℃がより好ましい。
原料のガスについて、特に制限はない。具体的には、モノシラン、シランアルコキシド、アンモニアを挙げることができる。
保護層の厚さは、電極形成時のパッシベーション効果低下を抑制する観点から、5〜300nmが好ましい。
【0089】
<太陽電池素子の製造方法>
本実施形態の太陽電池素子の製造方法は、半導体基板の少なくとも一方の面の少なくとも一部に、100〜300℃で熱処理する工程と、前記組成物層を300〜600℃で熱処理する工程と、600〜1000℃で15秒以内の熱処理する工程、とを有する。本実施形態の太陽電池素子の製造方法は必要に応じてその他の工程を更に含んでいてもよい。
本実施形態の太陽電池素子の製造方法により変換効率に優れる太陽電池素子が得られる。
【0090】
本発明のパッシベーション層付太陽電池素子の製造方法は、前記組成物層を形成する工程の前に、半導体基板上にアルカリ水溶液を付与する工程を更に有することが好ましい。すなわち、半導体基板上にパッシベーション層形成用組成物を付与する前に、半導体基板の表面をアルカリ水溶液で洗浄することが好ましい。アルカリ水溶液で洗浄することで、半導体基板表面に存在する有機物、パーティクル等を除去することができ、パッシベーション効果がより向上する。アルカリ水溶液による洗浄の方法としては、一般的に知られているRCA洗浄等を用いた洗浄方法を例示することができる。例えば、アンモニア水−過酸化水素水の混合溶液に半導体基板を浸し、60〜80℃で処理することで、有機物、パーティクル等を除去して洗浄することができる。洗浄時間は、10秒間〜10分間であることが好ましく、30秒間〜5分間であることがより好ましい。
【0091】
半導体基板上に、パッシベーション層形成用組成物を付与して組成物層を形成する方法には特に制限はない。例えば、公知の塗布方法等を用いて、半導体基板上に前記パッシベーション層形成用組成物を付与する方法を挙げることができる。具体的には、浸漬法、スクリーン印刷、インクジェット法、ディスペンサー法、スピンコート法、刷毛塗り、スプレー法、ドクターブレード法、ロールコート法等を挙げることができる。これらの中でもパターン形成性及び生産性の観点から、スクリーン印刷法及びインクジェット法等が好ましい。
【0092】
パッシベーション層形成用組成物の付与量は、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、形成されるパッシベーション層の厚さが、後述する所望の厚さとなるように適宜調整することができる。
【0093】
パッシベーション層形成用組成物によって形成された組成物層を熱処理して、前記組成物層に由来する熱処理物層(焼成物層)を形成することで、半導体基板上にパッシベーション層を形成することができる。
【0094】
<太陽電池素子>
本発明の太陽電池素子は、p型層及びn型層がpn接合されてなるpn接合部を有する半導体基板と、前記半導体基板の少なくとも一方の面の少なくとも一部に設けられる、前記パッシベーション層形成用組成物の熱処理物であるパッシベーション層と、前記p型層及びn型層の少なくとも一方の層上に配置される電極とを有する。前記太陽電池素子は、必要に応じてその他の構成要素を更に有していてもよい。
本発明の太陽電池素子は、本発明の製法により製造されることで、変換効率に優れる。
【0095】
パッシベーション層形成用組成物を付与する半導体基板としては特に制限されず、目的に応じて通常用いられるものから適宜選択することができる。前記半導体基板としては、本発明のパッシベーション層付半導体基板の項で説明したものを使用することができ、好適に使用できるものも同様である。パッシベーション層が設けられる半導体基板の面は、太陽電池素子における裏面であることが好ましい。
【0096】
また前記半導体基板上に設けられるパッシベーション層の厚さは特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えばパッシベーション層の平均厚さは、5nm〜50μmであることが好ましく、10nm〜30μmであることがより好ましく、15nm〜20μmであることが更に好ましい。
本発明の太陽電池素子の形状及び大きさに制限はない。例えば、一辺が125〜156mmの略正方形であることが好ましい。
【0097】
<太陽電池素子の製造方法>
本発明の太陽電池素子の製造方法は、p型層及びn型層がpn接合されてなるpn接合部を有する半導体基板の少なくとも一方の面の少なくとも一部に、本発明の製法により製造されるパッシベーション層形成用組成物を付与して組成物層を形成する工程と、前記組成物層を熱処理(焼成)して、パッシベーション層を形成する工程と、前記p型層及びn型層の少なくとも一方の層上に、電極を形成する工程と、を有する。前記太陽電池素子の製造方法は、必要に応じてその他の工程を更に有していてもよい。
【0098】
本発明の太陽電池素子の製造方法においては、本発明の製法により製造されるパッシベーション層形成用組成物を用いることで、変換効率に優れる太陽電池素子を簡便な方法で製造することができる。
【0099】
半導体基板におけるp型層及びn型層の少なくとも一方の層上に電極を配置する方法としては、通常用いられる方法を採用することができる。例えば、半導体基板の所望の領域に、銀ペースト、アルミニウムペースト等の電極形成用ペーストを付与し、必要に応じて熱処理(焼成)することで電極を製造することができる。
【0100】
パッシベーション層が設けられる半導体基板の面は、p型層であっても、n型層であってもよい。中でも変換効率の観点からp型層であることが好ましい。
パッシベーション層形成用組成物を用いてパッシベーション層を形成する方法の詳細は、既述のパッシベーション層付半導体基板の製造方法と同様であり、好ましい態様も同様である。
【0101】
次に図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係るパッシベーション層を有する太陽電池素子の製造方法の一例を模式的に示す工程図を断面図として示したものである。但し、この工程図は、本発明をなんら制限するものではない。
【0102】
図1(1)では、p型半導体基板1をアルカリ水溶液で洗浄し、p型半導体基板1の表面の有機物、パーティクル等を除去する。これにより、パッシベーション効果がより向上する。アルカリ水溶液による洗浄方法としては、一般的に知られるRCA洗浄等を用いる方法が挙げられる。
【0103】
その後、
図1(2)に示すように、p型半導体基板1の表面を、アルカリエッチング等を施し、表面に凹凸(テクスチャともいう)を形成する。これにより、受光面側では太陽光の反射を抑制することができる。尚、アルカリエッチングには、NaOHとIPA(i−プロパノール)とからなるエッチング溶液を使用することができる。
【0104】
次いで、
図1(3)に示すように、p型半導体基板1の表面にリン等を熱的に拡散させることにより、n
+型拡散層2がサブミクロンオーダーの厚さで形成されるとともに、p型バルク部分との境界にpn接合部が形成される。
【0105】
リンを拡散させるための手法としては、例えば、オキシ塩化リン(POCl
3)、窒素及び酸素の混合ガス雰囲気において、800〜1000℃で数十分の処理を行う方法が挙げられる。この方法では、混合ガスを用いてリンの拡散を行うため、
図1(3)に示すように、受光面(表面)以外に、裏面及び側面(図示せず)にもn
+型拡散層2が形成される。またn
+型拡散層2の上には、PSG(リンシリケートガラス)層3が形成される。そこで、サイドエッチングを行い、側面のPSG層3及びn
+型拡散層2を除去する。
【0106】
その後、
図1(4)に示すように、受光面及び裏面のPSG層3をフッ酸等のエッチング溶液を用いて除去する。更に裏面については、
図1(5)に示すように、別途エッチング処理を行い、裏面のn
+型拡散層2を除去する。
【0107】
そして、
図1(6)に示すように、受光面のn
+型拡散層2上に、PECVD(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition)法等によって、窒化ケイ素等の反射防止膜4を厚さ90nm前後で設ける。
【0108】
次いで、
図1(7)に示すように、裏面の一部にパッシベーション層形成用組成物をスクリーン印刷等にて塗布した後、本実施形態の製造方法で熱処理(焼成)を行い、パッシベーション層5を形成する。このとき、パターンをスクリーン印刷等で形成してもよいし、レーザー加工で形成してもよい。
【0109】
図5に、裏面におけるパッシベーション層の形成パターンの一例を概略平面図として示す。
図7は、
図5のA部を拡大した概略平面図である。
図8は、
図5のB部を拡大した概略平面図である。
図5に示すパッシベーション層の形成パターンの場合、
図7及び
図8からも分かるように、裏面のパッシベーション層5は後の工程で裏面出力取出し電極7が形成される部分を除き、ライン状にp型半導体基板1が露出したパターンで形成される。このライン状開口部のパターンは、ライン幅(L
a)及びライン間隔(L
b)で規定され、規則正しく配列していることが好ましい。ライン径(L
a)及びライン間隔(L
b)は任意に設定できるが、パッシベーション効果及び少数キャリアの再結合抑制の観点から、L
aが25μm〜1mmでL
bが50μm〜3mmであることが好ましく、L
aが30μm〜0.5mmでL
bが100μm〜2.5mmであることがより好ましく、L
aが35μm〜0.3mmでL
bが300μm〜2mmであることが更に好ましい。
【0110】
パッシベーション層形成用組成物が優れたパターン形成性を有している場合、このライン状開口部のパターンは、ライン径(L
a)及びライン間隔(L
b)が、より規則正しく配列する。このことから、少数キャリアの再結合の抑制のために有効な、より好ましいライン状開口部のパターンが形成でき、太陽電池素子の発電効率が向上する。
【0111】
ここで、上記ではパッシベーション層を形成したい部位(ライン状開口部以外の部分)にパッシベーション層形成用組成物を塗布し、熱処理(焼成)することで、所望の形状のパッシベーション層を形成している。これに対し、ライン状開口部を含む全面にパッシベーション層形成用組成物を塗布し、熱処理(焼成)後にレーザー、フォトリソグラフィー等により、ライン状開口部のパッシベーション層を選択的に除去することもできる。また、ライン状開口部のようにパッシベーション層形成用組成物を塗布したくない部分に予めマスク材によりマスクすることで、パッシベーション層形成用組成物を選択的に塗布することもできる。
【0112】
次いで、
図1(8)に示すように、受光面に、ガラス粒子を含む銀電極ペースト8,9をスクリーン印刷等にて塗布する。
図4は、太陽電池素子の受光面の一例を示す概略平面図である。
図4に示すように、受光面電極は、受光面集電用電極8と受光面出力取出し電極9からなる。受光面積を確保するため、これら受光面電極の形成面積は少なく抑える必要がある。その他、受光面電極の抵抗率及び生産性の観点から、受光面集電用電極8の幅は10〜250μmで、受光面出力取出し電極9の幅は100μm〜2mmであることが好ましい。また、
図4では受光面出力取出し電極9を2本設けているが、少数キャリアの取出し効率(発電効率)の観点から、受光面出力取出し電極9の本数を3本又は4本とすることもできる。
【0113】
一方、
図1(8)に示すように、裏面には、ガラス粉末を含むアルミニウム電極ペースト6及びガラス粒子を含む銀電極ペースト7を、スクリーン印刷等にて塗布する。
図9は、太陽電池素子の裏面の一例を示す概略平面図である。裏面出力取出し電極7の幅は特に制限されないが、後の太陽電池モジュールの製造工程での配線材料の接続性等の観点から、裏面出力取出し電極7の幅は、100μm〜10mmであることが好ましい。
【0114】
受光面及び裏面にそれぞれ電極ペーストを塗布した後は、乾燥後に大気中において450〜900℃程度の温度で、受光面及び裏面ともに熱処理(焼成)して、受光面に受光面集電用電極8及び受光面出力取出し電極9を、裏面に裏面集電用アルミニウム電極6及び裏面出力取出し電極7を、それぞれ形成する。
【0115】
熱処理(焼成)後、
図1(9)に示すように、受光面では、受光面電極を形成する銀電極ペーストに含まれるガラス粒子と、反射防止膜4とが反応(ファイアースルー)して、受光面電極(受光面集電用電極8、受光面出力取出し電極9)とn
+型拡散層2とが電気的に接続(オーミックコンタクト)される。一方、裏面では、ライン状にp型半導体基板1が露出した部分(パッシベーション層5が形成されなかった部分)では、熱処理(焼成)により、アルミニウム電極ペースト中のアルミニウムがp型半導体基板1中に拡散することで、p
+型拡散層10が形成される。本実施形態においては、パターン形成性に優れるパッシベーション層形成用組成物を用いることで、パッシベーション効果に優れたパッシベーション層を簡便な手法で形成でき、発電性能に優れた太陽電池素子を製造することができる。
【0116】
図2は、本実施形態に係るパッシベーション層を有する太陽電池素子の製造方法の他の一例を模式的に示す工程図を断面図として示したものであり、裏面のn
+型拡散層2がエッチング処理によって除去された後に、更に裏面が平坦化されること以外は、
図1と同様にして太陽電池素子を製造することができる。平坦化する際は、硝酸、フッ酸及び酢酸の混合溶液又は水酸化カリウム溶液に、半導体基板の裏面を浸す等の手法を用いることができる。
【0117】
図3は、本実施形態に係るパッシベーション層を有する太陽電池素子の製造方法の他の一例を模式的に示す工程図を断面図として示したものである。この方法では、p型半導体基板1にテクスチャー構造、n
+型拡散層2及び反射防止膜4を形成する工程(
図3(19)〜(24))までは、
図1の方法と同様である。
【0118】
反射防止膜4を形成した後、
図3(25)に示すように、パッシベーション層形成用組成物を塗布する。
図6に、裏面におけるパッシベーション層5の形成パターンの他の一例を概略平面図として示す。
図6に示すパッシベーション層5の形成パターンでは、裏面の全面に、ドット状開口部が配列し、後の工程で裏面出力取出し電極7が形成される部分にもドット状開口部が配列されている。
【0119】
その後、
図3(26)に示すように、裏面においてライン状にp型半導体基板1が露出した部分(パッシベーション層5が形成されなかった部分)から、ホウ素又はアルミニウムを拡散させ、p
+型拡散層10を形成する。p
+型拡散層10を形成する際に、ホウ素を拡散させる場合は、三塩化ホウ素(BCl
3)を含むガス中で、1000℃付近の温度で処理する方法を用いることができる。但し、オキシ塩化リンを用いる場合と同様にガス拡散の手法であることから、p型半導体基板1の受光面、裏面及び側面にp
+型拡散層10が形成されてしまうため、これを抑制するためにライン状開口部以外の部分をマスキング処理して、ホウ素がp型半導体基板1の不要な部分に拡散するのを防止する等の措置が必要である。
【0120】
また、p
+型拡散層10を形成する際にアルミニウムを拡散させる場合は、前記アルミニウムペーストをドット状開口部に塗布し、これを450〜900℃の温度で熱処理(焼成)し、ドット状開口部からアルミニウムを拡散させてp
+型拡散層10を形成し、その後p
+型拡散層10上のアルミニウムペーストからなる熱処理物層(焼成物層)を塩酸等によりエッチングする手法を用いることができる。
【0121】
次いで、
図3(27)に示すように、裏面の全面にアルミニウムを物理的に蒸着することで、裏面集電用アルミニウム電極11を形成する。
【0122】
その後、
図3(28)に示すように、受光面にはガラス粒子を含む銀電極ペースト8,9をスクリーン印刷等にて塗布し、裏面にはガラス粒子を含む銀電極ペースト7をスクリーン印刷等にて塗布する。受光面の銀電極ペースト8,9は
図4に示す受光面電極の形状に合わせて、裏面の銀電極ペースト7は
図9に示す裏面電極の形状に合わせて、パターン状に付与する。
【0123】
受光面及び裏面にそれぞれ電極ペーストを塗布した後は、乾燥後に大気中450〜900℃程度の温度で、受光面及び裏面ともに熱処理(焼成)して、
図3(29)に示すように、受光面に受光面集電用電極8及び受光面出力取出し電極9を、裏面に裏面出力取出し電極7を、それぞれ形成する。このとき、受光面では受光面電極とn
+型拡散層2が電気的に接続され、裏面では、蒸着により形成された裏面集電用アルミニウム電極11と裏面出力取出し電極7とが電気的に接続される。
【0124】
<太陽電池モジュール>
本実施形態の太陽電池モジュールは、本実施形態の太陽電池素子の少なくとも1つを含み、前記太陽電池素子の電極上に配線材料が配置されて構成される。つまり、本実施形態の太陽電池モジュールは、前記太陽電池素子と、前記太陽電池素子の前記電極上に配置される配線材料と、を有する。
本実施形態の太陽電池モジュールは更に必要に応じて、配線材料を介して複数の太陽電池素子が連結され、更に封止材で封止されて構成される。前記配線材料及び封止材としては特に制限されず、当該技術分野で通常用いられているものから適宜選択することができる。
【実施例】
【0125】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
【0126】
<実施例1>
(パッシベーション層形成用組成物1の調製)
ペンタエトキシニオブ(北興化学工業株式会社製、構造式:Nb(OC
2H
5)
5、分子量:318.21)を4.83g、チタンイソプロポキシド(和光純薬工業株式会社製)を9.92g、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート(川研ファインケミカル株式会社製、商品名:ALCH)を7.61g、イソボルニルシクロヘキサノール(日本テルペン化学株式会社製)を100.95g、テルピネオール(日本テルペン化学株式会社製)を40.76g、精製水4.68gを加え混練してパッシベーション層形成用組成物を調製した。
【0127】
(SiNx膜付きシリコン基板作製)
単結晶p型半導体基板(縦125mm、横125mm、厚さ200μm)を用意し、アルカリエッチングにより、受光面及び裏面にテクスチャー構造を形成した。次いでオキシ塩化リン(POCl
3)、窒素及び酸素の混合ガス雰囲気において、900℃の温度で20分間処理し、受光面、裏面及び側面にn
+型拡散層を形成した。その後、サイドエッチングを行い、側面のPSG層及びn
+型拡散層を除去し、そしてフッ酸を含むエッチング溶液を用いて受光面及び裏面のPSG層を除去した。更に裏面については別途エッチング処理を行い、裏面のn
+型拡散層を除去して平坦化した。その後、受光面のn
+型拡散層上に窒化ケイ素からなる反射防止膜をPECVDにより約90nmの厚さで形成した。
【0128】
(実効ライフタイムの測定)
調製したパッシベーション層形成用組成物を、このSiNx膜付きのシリコン基板に、スクリーン印刷法を用いて全面に印刷した。その後、パッシベーション層形成用組成物を付与したシリコン基板を120℃で2分間加熱した。次いで、シリコン基板を700℃の温度で10分間熱処理した後、室温(25℃)で放冷した。熱処理は、拡散炉(光洋サーモシステム株式会社製)を用いて、大気中雰囲気下、最高温度700℃、保持時間10分間の条件で行った。
【0129】
上記で得られた評価用基板の実効ライフタイムを、ライフタイム測定装置(Sinton Instruments社製、商品名:WT−120)を用いて、25℃で擬定常状態光伝導度法により測定した。得られた評価用基板において、パッシベーション層形成用組成物を付与した領域の実効ライフタイムは、89μsであった。
【0130】
上記で得られたパッシベーション層上に、窒化ケイ素からなる反射防止膜をPECVDにより約130nmの厚さで形成した。
【0131】
(太陽電池素子の作製)
パッシベーション層と窒化珪素保護層が形成された面について、パッシベーション層と保護層をレーザーで除去し、後述するアルミニウム電極とシリコン基板とのコンタクト部を形成した。面のパッシベーション層1は後の工程で裏面出力取出し電極が形成される部分を除き、ライン状にp型半導体基板が露出したパターンで形成した。ライン幅(L
a)は40μm、ドット間隔(L
b)は0.77mmとした。
【0132】
次いで、受光面には市販の銀電極ペースト(商品名:PV−17F、デュポン株式会社製)をスクリーン印刷法にて
図4に示すパターンで印刷した。電極パターンは、幅120μmの受光面集電用電極と、幅1.5mmの受光面出力取出し電極で構成され、熱処理(焼成)後の厚さが20μmとなるように、印刷条件(スクリーン版のメッシュ、印刷速度及び印圧)を適宜調整した。これを150℃の温度で5分間加熱し、液状媒体を飛散させることで乾燥処理を行った。
【0133】
一方、裏面には、市販のアルミニウム電極ペースト(商品名:PASE−1203、Monocrystal社製)及び市販の銀電極ペースト(商品名:PV−505、デュポン株式会社製)をスクリーン印刷法にて
図9のパターンで印刷した。銀電極ペーストからなる裏面出力取出し電極のパターンは、縦123mm×横4mmで構成した。
【0134】
尚、熱処理後の裏面出力取出し電極及び裏面集電用電極の厚さが20μmとなるように、銀電極ペースト及びアルミニウム電極ペーストの印刷条件(スクリーン版のメッシュ、印刷速度及び印圧)を適宜調整した。
各電極ペーストを印刷した後、150℃の温度で5分間加熱し、液状媒体を飛散させることで乾燥処理を行った。
【0135】
続いて、トンネル炉を用いて大気中雰囲気下、600℃以上15秒間以内、最高温度780℃の条件で熱処理を行って、所望の電極が形成された太陽電池素子を作製した。
【0136】
(太陽電池モジュールの作製)
上記で得られた太陽電池素子の受光面出力取出し電極及び裏面出力取出し電極の上に、配線材料(太陽電池用はんだめっき平角線、製品名:SSA−TPS 0.2×1.5(20)、厚さ0.2mm×幅1.5mmの銅線にSn−Ag−Cu系鉛フリーはんだを片面あたり最大20μmの厚さでめっきした仕様、日立金属株式会社製)を配置し、タブ線接続装置(商品名:NTS−150−M、Tabbing & Stringing Machine、株式会社エヌピーシー製)を用い、最高温度250℃、保持時間10秒間の条件ではんだを溶融させることで、上記配線材料と受光面出力取出し電極及び裏面出力取出し電極とを接続した。
【0137】
その後、ガラス板(商品名:白板強化ガラス3KWE33、旭硝子株式会社製)、封止材(エチレンビニルアセテート;EVA)、バックシートを用いて、
図10に示すように、ガラス板16/封止材14/配線材料13を接続した太陽電池素子12/封止材14/バックシート15の順で積層し、この積層体を真空ラミネータ(商品名:LM−50×50、株式会社エヌピーシー製)を用いて、配線材料の一部が露出するように、140℃の温度で5分間真空ラミネートし、太陽電池モジュールを作製した。
【0138】
作製した太陽電池モジュールの発電性能の評価は、擬似太陽光(商品名:WXS−155S−10、株式会社ワコム電創製)と、電圧−電流(I−V)評価測定器(商品名:I−V CURVE TRACER MP−180、英弘精機株式会社製)の測定装置を組み合わせて行った。太陽電池としての発電性能を示すJsc(短絡電流)、Voc(開放電圧)、F.F.(形状因子)、Eff(変換効率)は、それぞれJIS−C−8913(2005年度)及びJIS−C−8914(2005年度)に準拠して測定を行い得られたものである。
【0139】
<実施例2>
保護層を酸化ケイ素としたこと以外、実施例1と同様にして太陽電池モジュールを作製した。
【0140】
<比較例1>
保護層を形成しなかったこと以外、実施例1と同様にして太陽電池モジュールを作製した。
【0141】
表1に、作製された太陽電池モジュールの評価結果をまとめて示す。
【0142】
【表1】
【0143】
表1に示すように、本発明の太陽電池モジュールは、優れた変換効率を有することが確認された。