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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-68883(P2016-68883A)
(43)【公開日】2016年5月9日
(54)【発明の名称】車両の制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20160404BHJP
   B60T 8/1761 20060101ALI20160404BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20160404BHJP
【FI】
   B60T8/17 B
   B60T8/1761
   B60T13/74 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-202815(P2014-202815)
(22)【出願日】2014年10月1日
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】特許業務法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安井 由行
【テーマコード(参考)】
3D048
3D246
【Fターム(参考)】
3D048BB27
3D048CC41
3D048GG05
3D048GG31
3D048GG33
3D048HH13
3D048HH26
3D048HH38
3D048HH42
3D048HH50
3D048HH51
3D048HH53
3D048HH59
3D048HH66
3D048HH68
3D048RR01
3D048RR06
3D048RR11
3D048RR35
3D246BA02
3D246DA01
3D246GB01
3D246GB37
3D246GC14
3D246HA03A
3D246HA04A
3D246HA43A
3D246HA64A
3D246JA12
3D246LA10Z
3D246LA15Z
3D246LA67Z
3D246LA73Z
(57)【要約】      (修正有)
【課題】「電気モータによって駆動される加圧機構」と「排出型の調圧手段(液圧モジュレータ)」とを備えた車両の制動制御装置において、アンチスキッド制御を比較的長い時間に亘って実行しても、加圧機構のピストンのボトミングが発生する可能性を低くすること。
【解決手段】加圧機構KAKには、ピストンKPSと、シール部材とが設けられる。ピストンは、調圧手段MJRに通ずる流体経路に接続された第1流体室と、リザーバRSVに通ずる流体経路に接続された第2流体室とを区画する。シール部材は、ピストンが第1流体室側(第1方向)に移動するときには第1流体室から第2流体室への制動液の移動を許容せず、ピストンが第2流体室側(第2方向)に移動するときには第2流体室から第1流体室への制動液の移動を許容する。アンチスキッド制御の実行中において減圧モードが選択されている間に、ピストンが第2方向へ移動される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気モータによって駆動されるとともに、車両のホイールシリンダ内の制動液を加圧する加圧機構と、
前記加圧機構と前記ホイールシリンダとを接続する第1流体経路の途中に介装されるとともに、前記ホイールシリンダ内の制動液の圧力である制動液圧を調整する調圧手段と、
前記車両の制動操作部材の操作量を取得する操作量取得手段と、
前記車両の車輪の速度を取得する車輪速度取得手段と、
前記操作量、及び、前記車輪の速度に基づいて、前記加圧機構、及び、前記調圧手段を制御する制御手段と、
を備えた、車両の制動制御装置であって、
前記加圧機構は、
前記加圧機構の内部に形成され且つ前記第1流体経路に接続された第1流体室と、前記加圧機構の内部に形成され且つ制動液を貯留するリザーバに通ずる流体経路に接続された第2流体室と、を区画するとともに、前記電気モータによってその軸方向に駆動されるピストンと、
前記ピストンが前記軸方向における前記第1流体室側の第1方向に移動するときには前記第1流体室から前記第2流体室への制動液の移動を許容せず、且つ、前記ピストンが前記軸方向における前記第2流体室側の第2方向に移動するときには前記第2流体室から前記第1流体室への制動液の移動を許容するシール部材と、
を備え、前記ピストンの前記第1方向への移動によって、前記第1流体経路における前記加圧機構と前記調圧手段との間の制動液の圧力である前記加圧機構の出力圧を増加し、前記ピストンの前記第2方向への移動によって、前記加圧機構の出力圧を減少するように構成され、
前記制御手段は、
前記操作量に基づいて、前記電気モータを制御して前記ピストンの軸方向の位置を調整することによって前記加圧機構の出力圧を制御するように構成され、
前記制御手段は、
前記車輪の速度に基づいて、前記車輪のロックを抑制するアンチスキッド制御を実行するとともに、前記アンチスキッド制御の実行中において、前記制動液圧の増圧モードが選択されている間は、前記調圧手段を制御して前記加圧機構から前記ホイールシリンダへ制動液を供給することによって前記制動液圧を増加し、前記制動液圧の減圧モードが選択されている間は、前記調圧手段を制御して前記ホイールシリンダから前記リザーバへ制動液を排出することによって前記制動液圧を減少するように構成され、
前記制御手段は、
前記アンチスキッド制御の実行中において前記減圧モードが選択されている間に、前記電気モータを制御して前記ピストンを前記第2方向へ移動するように構成された、車両の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「電気モータによって駆動されるとともに、車両のホイールシリンダ内の制動液を加圧する加圧機構」と、「前記加圧機構と前記ホイールシリンダとを接続する第1流体経路の途中に介装されるとともに、前記ホイールシリンダ内の制動液の圧力(制動液圧)を調整する調圧手段(液圧モジュレータ)」と、「制動操作部材の操作量、及び、車両の車輪速度に基づいて、加圧機構、及び、調圧手段を制御する制御手段」と、を備えた、を備えた車両の制動制御装置が知られている。
【0003】
この装置では、上記「加圧機構」は、「電気モータによってその軸方向に駆動されるピストン」を備える。このピストンは、「加圧機構の内部に形成され且つ第1流体経路に接続された第1流体室」と、「加圧機構の内部に形成され且つ制動液を貯留するリザーバに通ずる流体経路に接続された第2流体室」と、を区画する。このピストンがその軸方向における第1方向(第1流体室側の方向)に移動すると、加圧機構の出力圧(第1流体経路における加圧機構と調圧手段との間の制動液の圧力)が増加し、このピストンが第2方向(第2流体室側の方向)に移動すると、加圧機構の出力圧が減少する。制動操作部材の操作量に基づいて、電気モータを制御してピストンの軸方向の位置を調整することによって、加圧機構の出力圧が制御される。
【0004】
また、この装置では、車輪速度に基づいて調圧手段を制御することによって、車輪のロックを抑制するアンチスキッド制御が実行される。アンチスキッド制御の実行中において、制動液圧の増圧モードが選択されている間は、調圧手段を制御して加圧機構からホイールシリンダへ制動液を供給することによって制動液圧が増加する。制動液圧の減圧モードが選択されている間は、調圧手段を制御してホイールシリンダからリザーバへ制動液を排出することによって制動液圧が減少する。調圧手段に関し、このように、「減圧モード時に制動液がリザーバへ排出されるタイプ」は、「排出型」とも呼ばれる。「排出型」の調圧手段は、ポンプ/モータが不要なので、小型化が容易である。
【0005】
ところで、上述のように、「排出型」の調圧手段が採用される構成では、アンチスキッド制御の実行中において、減圧モードにて制動液がホイールシリンダからリザーバに排出され、その減圧モードの後に続けて選択される増圧モードにて、加圧機構のピストンが第1方向に移動することによって加圧機構からホイールシリンダに制動液が補充される。換言すれば、増圧モードが実行される毎に加圧機構のピストンが第1方向に前進する。従って、アンチスキッド制御が比較的長い時間に亘って継続される場合(例えば、路面摩擦係数が低い路面にて、比較的高い車速にてアンチスキッド制御が開始される場合)、減圧モードと増圧モードとが交互に何度も繰り返し実行される(従って、増圧モードが何度も実行される)ことによって、ピストンの位置が第1方向の可動限界に達する事態(所謂、ピストンのボトミング)が発生する恐れがある。アンチスキッド制御を比較的長い時間に亘って適切に実行する上で、このようなピストンのボトミングが発生する可能性を低減することが切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−131263号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明は、上記問題に対処するためになされたものであり、その目的は、「電気モータによって駆動される加圧機構」と「排出型の調圧手段(液圧モジュレータ)」とを備えた車両の制動制御装置であって、アンチスキッド制御を比較的長い時間に亘って実行しても、加圧機構のピストンのボトミングが発生する可能性が低いものを提供することにある。
【0008】
本発明に係る制動制御装置は、上述と同様の「前記ピストン(KPS)を備えた前記加圧機構(KAK)」、「排出型の前記調圧手段(液圧モジュレータ)(MJR)」、及び、「前記制御手段(CTL)」、を備えている。前記電気モータ(MTR)によって駆動される前記ピストン(KPS)は、前記第1流体室(Rkc)と前記第2流体室(Rrs)とを区画する。
【0009】
本発明に係る制動制御装置の特徴は、前記加圧機構(KAK)が、「前記ピストン(KPS)が前記軸方向における前記第1流体室(Rkc)側の第1方向に移動するときには前記第1流体室(Rkc)から前記第2流体室(Rrs)への制動液の移動を許容せず、且つ、前記ピストン(KPS)が前記軸方向における前記第2流体室(Rrs)側の第2方向に移動するときには前記第2流体室(Rrs)から前記第1流体室(Rkc)への制動液の移動を許容するシール部材(GCP)」を備えた点、並びに、前記制御手段(CTL)が、前記アンチスキッド制御の実行中において前記減圧モードが選択されている間に、前記電気モータ(MTR)を制御して前記ピストン(KPS)を前記第2方向へ移動するように構成された点、にある。
【0010】
一般に、減圧モードでは、調圧手段が、「加圧機構(KAK)とホイールシリンダ(WC)とが遮断され且つホイールシリンダ(WC)とリザーバ(RSV)とが連通する状態」に制御される。従って、減圧モードにてピストン(KPS)を第2方向に移動しても、制動液圧(ホイールシリンダ(WC)の液圧)には何ら影響を与えない。加えて、上記シール部材(GCP)が上記構成を有することによって、ピストン(KPS)が第2方向に移動すると、第2流体室(Rrs)から第1流体室(Rkc)(従って、リザーバ(RSV)から前記第1流体経路)に制動液が補充され得る。従って、減圧モード時(即ち、加圧機構(KAK)とホイールシリンダ(WC)とが遮断された状態)であっても、上記シール部材(GCP)の作動によって、ピストン(KPS)が第2方向へ移動し得る。
【0011】
上記特徴は係る知見に基づく。上記特徴によれば、減圧モード時、ピストン(KPS)が第2方向(即ち、初期位置に向かう方向)に戻される。即ち、増圧モードが実行される毎にピストン(KPS)が第1方向に前進する一方で、減圧モードが実行される場合にピストン(KPS)が初期位置に向かう方向に戻される。従って、アンチスキッド制御が比較的長い時間に亘って継続されても(従って、減圧モードと増圧モードとが交互に何度も繰り返し実行されても)、ピストン(KPS)のボトミングが抑制され得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る制動制御装置の実施形態を備えた車両の全体構成図である。
図2図1に示した制御手段CTLによる処理を説明するための機能ブロック図である。
図3図1に示した加圧機構KAKの部分断面図である。
図4図1に示した調圧手段MJRの構成を示した図である。
図5図2に示した加圧制御ブロックKACでの処理を説明するための機能ブロック図である。
図6図1に示した実施形態による作動の一例を示した第1のタイムチャートである。
図7図1に示した実施形態による作動の一例を示した第2のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<構成>
図1を参照しながら、本発明に係る制動制御装置の実施形態を備えた車両の全体構成について説明する。以下、各図の説明において、同一記号をもつ部材・機構は、同一のものであるため、重複の説明が省略される場合がある。
【0014】
車両には、制動操作部材BP、操作量取得手段BPA、緊急状態取得手段JQA、ホイールシリンダWC、マスタシリンダMCL、ストロークシミュレータSSM、加圧機構KAK、調圧手段MJR、電子制御ユニットECU、流体経路HKJ,HJW,HMW,HRK、及び、電磁弁VMC,VSS,VKCが備えられる。
【0015】
制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。制動操作部材BPが操作されることによって、車輪WHの制動トルクが調整され、各車輪に制動力が発生される。車輪WHには、回転部材(例えば、ブレーキディスク)KTBが固定される。また、車輪WHには、ホイールシリンダWCが設けられる。ホイールシリンダWC内の制動液圧が増加されることによって、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)MSBが、回転部材KTBに押し付けられる。このときに生じる摩擦力によって、車輪WHに制動トルクが発生される。
【0016】
ホイールシリンダWCには、ホイールシリンダ圧力取得手段PWAが設けられ、ホイールシリンダ圧Pwaが取得(検出)される。車輪WHには、車輪速度取得手段VWAが設けられ、車輪速度Vwaが取得される。ホイールシリンダ圧Pwa、及び、車輪速度Vwaは、電子制御ユニットECUに送信される。
【0017】
制動操作部材BPには、操作量取得手段BPAが設けられる。操作量取得手段BPAによって、運転者による制動操作部材BPの操作量(制動操作量)Bpaが取得(検出)される。操作量取得手段BPAとして、マスタシリンダMCLの圧力を検出するセンサ(マスタシリンダ圧取得手段)PMC、制動操作部材BPの操作力、及び/又は、変位量を検出するセンサ(ブレーキペダル踏力センサ、ブレーキペダル変位センサ)が採用される。従って、制動操作量Bpaは、マスタシリンダ圧Pmc、ブレーキペダル踏力、及び、ブレーキペダル変位のうちの少なくとも何れか1つに基づいて演算される。制動操作量Bpaは、電子制御ユニットECUに入力される。
【0018】
加圧機構KAKは、加圧ピストンKPS、加圧シリンダKCL、動力伝達機構DDB、及び、電気モータMTRにて構成される。加圧機構KAKは、電気モータMTRの動力によって駆動され、ホイールシリンダWCの圧力を増加する。
【0019】
加圧ピストンKPSと加圧シリンダKCLとが組み合わされて、1つのピストン/シリンダが形成される。具体的には、加圧ピストンKPS、及び、加圧シリンダKCLによって、流体室Rkc(後述する図3を参照)が形成(区画)される。電気モータMTRの回転動力から変換された直線動力によって、加圧ピストンKPSは移動される(KCLの中心軸方向に往復運動される)。流体室Rkc内には制動液BFLが充填されており、この往復運動によって、加圧シリンダKCLとホイールシリンダWCとの間で制動液BFLの移動が行なわれる。結果、ホイールシリンダWC内の制動液BFLの圧力が調整(増減)される。
【0020】
加圧機構KAKは、電磁弁VKCを介して、ホイールシリンダWCに接続される。加圧機構KAKによって発生される圧力(出力圧)Pcaを検出するために、出力圧取得手段(圧力センサ)PCAが、加圧機構KAKから調圧手段MJRに到る流体経路の途中に設けられる。
【0021】
加圧機構KAKには、加圧ピストンKPSの位置Ppsを取得(検出)するために、ピストン位置取得手段(位置センサ)PPSが設けられる。ピストン位置取得手段PPSとして、回転角取得手段MKAによって取得される、電気モータMTRの回転角Mkaが採用され得る。
【0022】
加圧機構KAKでは、電気モータMTRの回転動力(出力トルク)が、動力伝達機構DDBを介して、加圧ピストンKPSに伝達される。具体的には、動力伝達機構DDBは、減速機GSK、及び、回転・直動変換機構(ねじ部材)NJBにて構成される。電気モータMTRの回転動力は、減速機GSKに入力され、この回転動力が減速されて、減速機GSKから出力される。そして、ねじ部材NJBにて、減速機GSKからの回転動力が直線動力に変換され、加圧ピストンKPSに伝達される。
【0023】
電気モータMTRには、回転角取得手段MKAが設けられ、MTRの回転角Mka(例えば、ロータ位置)が取得(検出)される。モータ回転角Mka、及び、動力伝達機構DDBの諸元に基づいて、加圧ピストンKPSの位置(変位)Ppsが取得(演算)され得る。
【0024】
電子制御ユニットECUによって、加圧機構KAK(具体的には、電気モータMTR)、電磁弁VMC,VSS,VKC、及び、調圧手段MJRが制御される。電子制御ユニットECUには、加圧機構KAK等を制御するための制御手段CTLが設けられる。制御手段CTLは制御アルゴリズムであって、電子制御ユニットECU内のマイクロコンピュータにプログラムされている。
【0025】
マスタシリンダ(ブレーキマスタシリンダともいう)MCLは、プッシュロッドPRDを介して伝達される、制動操作部材BPの操作力(ブレーキペダル踏力)を液圧に変換し、車輪ホイールシリンダWCに制動液BFLを圧送する。制動液BFLは、リザーバ(マスタリザーバともいう)RSVから、配管HRKを介して、マスタシリンダMCLに補充される。即ち、制動操作部材BPの非操作時には、マスタシリンダMCLは、流体配管HRKを介して、マスタリザーバRSVに連通されている。マスタシリンダMCLは、ホイールシリンダWCに流体配管HMWにて接続される。換言すれば、配管HMWは、マスタシリンダMCLと、ホイールシリンダWCとを接続する流体配管である。
【0026】
制動操作部材BPに操作力を発生させるため、シミュレータ(ストロークシミュレータともいう)SSMが設けられる。例えば、シミュレータSSMの内部には、ピストン、及び、弾性体(例えば、圧縮ばね)が備えられる。マスタシリンダMCLから制動液BFLがシミュレータSSM内に移動され、流入する制動液BFLによりピストンが押される。ピストンには、弾性体によって制動液の流入を阻止する方向に力が加えられる。弾性体によって、制動操作部材BPが操作される場合の操作力(例えば、ブレーキペダル踏力)が形成される。
【0027】
流体経路HKJ,HJWは、加圧機構KAK(特に、加圧シリンダKCL)と、ホイールシリンダWCとを、調圧手段(液圧モジュレータ)MJRを介して、接続する流体経路である。配管HKJは、加圧機構KAK(特に、加圧シリンダKCL)と、調圧手段MJRとを接続する流体配管である。配管HJWは調圧手段MJRと、ホイールシリンダWCとを接続する流体配管である。
【0028】
電磁弁VKCは、配管HKJの途中に設けられ、HKJの連通/悲連通の状態を切り替える。電磁弁VKCは、2ポート2位置の電磁弁であり、「加圧機構遮断弁」とも称呼される。加圧機構遮断弁VKCは、制御手段CTLにて形成される信号Skcによって駆動される。具体的には、VKCは、CTL内の診断処理ブロックSNDによって、装置の適正状態が肯定される場合(適正診断時)に、連通状態(開位置)にされ、装置の適正状態が否定される場合(不適診断時)に、非連通状態(閉位置)にされる。
【0029】
電磁弁VMCは、配管HMWの途中に設けられ、HMWの連通/悲連通の状態を切り替える。電磁弁VMCは、2ポート2位置の電磁弁であり、「マスタシリンダ遮断弁」とも称呼される。マスタシリンダ遮断弁VMCは、制御手段CTLにて形成される信号Smcによって駆動される。具体的には、VMCは、CTL内の診断処理ブロックSNDによって、装置の適正状態が肯定される場合(適正診断時)に、非連通状態(閉位置)にされ、装置の適正状態が否定される場合(不適診断時)に、連通状態(開位置)にされる。従って、ホイールシリンダWCは、適正時には加圧機構KAK(加圧シリンダKCL)に限って接続され、不適時にはマスタシリンダMCLに限って接続される。
【0030】
電磁弁VSSは、マスタシリンダMCLとシミュレータSSMとを接続する経路内に設けられる。電磁弁VSSは、2ポート2位置の電磁弁であり、「シミュレータ遮断弁」とも称呼される。シミュレータ遮断弁VSSは、制御手段CTLにて形成される信号Sssによって駆動される。具体的には、VSSは、CTL内の診断処理ブロックSNDによって、装置の適正状態が肯定される場合(適正診断時)に、連通状態(開位置)にされ、装置の適正状態が否定される場合(不適診断時)に、非連通状態(閉位置)にされる。従って、適正時には、シミュレータSSMは、制動操作部材BPの反力発生機構として機能する。しかし、不適診断時には、シミュレータSSMは制動液BFLを消費せず、マスタシリンダMCLからの制動液量は、全てホイールシリンダWCに移動される。
【0031】
調圧手段(液圧モジュレータ)MJRは、各車輪のホイールシリンダWC内の圧力を、運転者による制動操作部材BPの操作とは独立して、調整する。MJRは、アンチスキッド制御等の、所謂、ブレーキ制御を実行するためのアクチュエータである。調圧手段MJRは、電磁弁(ソレノイド)SOLによって構成される。
【0032】
電磁弁SOLは、増圧弁ZAB、及び、減圧弁GABの組み合わせで構成される。ホイールシリンダWCの圧力が減少される場合には、増圧弁ZABが閉位置にされ、減圧弁GABが開位置にされる。これにより、加圧機構KAKから調圧手段MJR内への制動液BFLの流入が阻止され、ホイールシリンダWC内の制動液BFLが、配管HMRを介して、リザーバRSVに移動される。即ち、調圧手段(液圧モジュレータ)MJRは、所謂、排出型である。
【0033】
ホイールシリンダWCの圧力が増加される場合には、増圧弁ZABが開位置にされ、減圧弁GABが閉位置にされる。そして、加圧機構KAKから、制動液BFLがWC内に移動される。
【0034】
緊急状態量取得手段JQAにて、緊急状態量Jqaが取得される。緊急状態量取得手段JQAには、衝突回避ブロックVXS、及び、逸脱回避ブロックVXRが含まれる。緊急状態量Jqaは、車両の緊急状態を表す状態量である。緊急状態量Jqaは、その値の大きさ(絶対値)が大きい程、車両の緊急状態が高い状態にある。例えば、緊急状態量Jqaは、通信バスCANを介して、取得され得る。
【0035】
車両の緊急状態が、車両前方の障害物との衝突の可能性である場合には、衝突回避ブロックVXSにおいて、緊急状態量Jqaとして、衝突回避車速(目標値)Vxsと、自車両の速度(実際値)Vxaとの偏差ΔVxsが演算される。ここで、目標値Vxsは、障害物との衝突を回避するための目標車速である。衝突回避車速Vxsは、障害物と自車両との距離、及び、相対速度に基づいて演算される。なお、障害物と自車両との距離、及び、相対速度は、公知の方法(レーザセンサ、カメラ映像、等)によって取得される。前方障害物との衝突の可能性が高い場合には、緊急状態量Jqa(偏差ΔVxs)が、相対的に大きい値とされる。
【0036】
車両の緊急状態が車両前方の走行路(例えば、カーブ)を逸脱する可能性である場合には、逸脱回避ブロックVXRにおいて、緊急状態量Jqaとして、適正車速(目標値)Vxrと、実際の車両速度Vxaとの偏差ΔVxrが演算される。例えば、目標値Vxrは、カーブを逸脱せずに安定して通過するための目標車速である。適正車速Vxrは、カーブ半径Rに基づいて演算される。なお、カーブ半径Rは、公知の方法(ナビゲーション装置、カメラ映像、等)によって取得される。車両が前方カーブを逸脱する可能性が高い場合には、緊急状態量Jqa(偏差ΔVxr)が、相対的に大きい値とされる。
【0037】
<制御手段の処理>
次に、図2の機能ブロック図を参照して、制御手段CTLでの処理について説明する。制御手段CTLは、診断処理ブロックSND、加圧制御ブロックKAC、及び、アンチスキッド制御ブロックASCにて構成される。制御手段CTLは、制御アルゴリズムであって、電子制御ユニットECU内のマイクロコンピュータにプログラムされている。
【0038】
診断処理ブロックSNDは、装置全体の作動状態の適否を診断する。例えば、電気モータMTRの作動状態の適否は、電気モータMTRへの電力供給状態(例えば、供給電圧)、電気モータMTRを駆動する電子制御ユニットECUの作動状態、及び、電気モータMTRの制御に利用される状態量を取得する取得手段(MKA等)の作動状態のうちの少なくとも1つに基づいて診断される。
【0039】
診断処理ブロックSNDは、初期診断ブロックSHK、及び、作動監視ブロックKNCにて構成される。診断処理ブロックSNDは、制御アルゴリズムであって、電子制御ユニットECU内のマイクロコンピュータにプログラムされている。初期診断ブロックSHKでは、制動装置の作動が開始される前の初期診断(所謂、イニシャルチェック)が実行される。また、作動監視ブロックKNCでは、システム全体の作動が常時、監視され、診断される。
【0040】
初期診断ブロックSHKでは、制動制御装置への電力供給状態、電子制御ユニットECU自身の診断(例えば、メモリ診断)、電気モータMTR、ブリッジ回路、通電量取得手段IMA、回転角取得手段MKA、電磁弁(VMC等)、及び、液圧取得手段(PMC等)のうちの少なくとも1つの診断(作動確認)が実行される。ここで、ブリッジ回路は、電気モータMTRを駆動するための電気回路である。ブリッジ回路には、電気モータMTRへの通電量(実際値)Imaを取得するための通電量取得手段IMA(例えば、電流センサ)が設けられる。
【0041】
初期診断ブロックSHKでは、具体的には、電子制御ユニットECUに供給される電圧が、所定電圧vl0未満の状態から、所定電圧vl0以上の状態に遷移した時点(制御装置の起動時)において、初期診断のトリガ信号に基づいて、上記の各機能のうちの少なくとも1つのイニシャルチェックが実行される。例えば、トリガ信号は、通信バスCANから受信される信号に基づいて決定される。
【0042】
初期診断(イニシャルチェック)においては、初期診断ブロックSHKからブリッジ回路、及び、各電磁弁に向けて、診断用の駆動信号が送信される。そして、その結果として、通電量取得手段IMA、回転角取得手段MKA、及び、液圧取得手段(PMC等)の取得結果(各センサの検出結果)のうちの少なくとも1つの変化が、初期診断ブロックSHKにて受信される。この受信結果に基づいて、ブリッジ回路(即ち、スイッチング素子)、電気モータMTR、電磁弁、通電量取得手段IMA、回転角取得手段MKA、及び、液圧取得手段PMC,PCA,PWAのうちの少なくとも1つの機能が、正常に作動し得る状態であるか、否かが診断される。万一、機能(作動)に不都合が存在する場合には、不適状態を表す信号が出力されるとともに、予め設定される処置(例えば、運転者への報知と作動の制限又は停止)が行われる。
【0043】
同様に、作動監視ブロックKNCでも、制動制御装置への電力供給状態、ブリッジ回路(即ち、スイッチング素子)、電気モータMTR、電磁弁、通電量取得手段IMA、回転角取得手段MKA、及び、液圧取得手段のうちの少なくとも1つの機能が、正常に作動し得る状態であるか、否かが診断される。これらの構成要素の診断は、電気モータMTR、及び、電磁弁の目標値と、その結果(実際値)との比較に基づいて、適否の決定が行われる。具体的には、目標値と実際値との偏差が予め設定された所定値未満の場合には適正状態が判定され、該偏差が所定値以上の場合に不適状態が判定される。各構成要素(MTR等)の機能に不適状態が存在する場合には、SHKでの演算処理と同様に、不適状態を表す信号が出力されるとともに、予め設定される処置(例えば、運転者への報知と作動の制限又は停止)が行われる。
【0044】
初期診断ブロックSHK、及び、作動監視ブロックKNCの全てが、「適正」を判定している場合に、診断処理ブロックSNDは、「適正状態」を決定する。適正状態が決定されている場合が、「適正診断時」と称呼される。一方、初期診断ブロックSHK、及び、作動監視ブロックKNCのうちの少なくとも1つが、「不適(適正状態を否定)」を判定している場合に、診断処理ブロックSNDは、「不適状態」を決定する。不適状態が決定されている場合が、「不適診断時」と称呼される。
【0045】
診断処理ブロックSNDからは、電磁弁VMC,VSS,VKCを駆動するための信号(駆動信号)が、駆動手段DRVに送信される。具体的には、電磁弁VMCの駆動信号Smcとして、適正判断時には、VMCが非連通状態(閉位置)にされ、不適状態時には、VMCが連通状態(開位置)にされるものが、診断処理ブロックSNDから駆動手段DRVに向けて送信される。
【0046】
また、電磁弁VSSの駆動信号Sssとして、適正判断時には、連通状態(開位置)にされ、不適判断時には、非連通状態(閉位置)にされるものが、診断処理ブロックSNDから駆動手段DRVに向けて送信される。同様に、電磁弁VKCの駆動信号Skcとして、適正判断時には、連通状態(開位置)にされ、不適判断時には、非連通状態(閉位置)にされるものが、診断処理ブロックSNDから駆動手段DRVに向けて送信される。
【0047】
加圧制御ブロックKACには、制動操作量Bpa、緊急状態量Jqa、アンチスキッド制御の駆動信号(MJR用の信号等)Sas、ピストン位置Pps、出力圧(KAKの発生圧力)Pca、及び、WC圧(ホイールシリンダ圧力)Pwaが入力される。加圧制御ブロックKACでは、これらの信号に基づいて、加圧機構KAKを駆動する電気モータMTRの目標通電量Imtが演算される。ここで、目標通電量Imtは、電気モータMTRを制御するための通電量の目標値である。Imtは、駆動手段DRVに送信され、電気モータMTRが制御される。Imtの演算方法については後述する。
【0048】
アンチスキッド制御ブロックASCでは、車輪速度Vwaに基づいて、公知のアンチスキッド制御が実行される。具体的には、アンチスキッド制御ブロックASCにて、車輪のスリップ量Slpが演算される。スリップ量Slpは、車輪スリップ速度Vsl、及び、車輪減速度dVwのうちの少なくとも1つに基づいて演算される。ここで、車輪スリップ速度Vslは、車両速度(車体速度)Vxaと車輪速度Vwaとの偏差に基づいて演算される。また、車輪減速度dVwは、車輪速度Vwaが微分されて演算される。スリップ量Slpが所定量sp0未満の場合には、アンチスキッド制御は開始されず、スリップ量Slpが所定量sp0以上の場合に、アンチスキッド制御の実行が開始される。アンチスキッド制御は、ホイールシリンダWCの圧力(WC圧)を増加させる「増圧モード」、及び、WC圧を減少させる「減圧モード」の2つの制御モードにて構成される。
【0049】
アンチスキッド制御ブロックASCでは、車輪スリップ量Slpに基づいて、調圧手段MJR内の、電磁弁SOLを制御するための駆動信号(アンチスキッド制御信号)Sasが演算される。ここで、電磁弁SOLは、増圧弁ZAB、及び、減圧弁GABの組み合わせで構成される。車輪スリップ量Slpが増加する場合には、WC圧を減少させるよう、アンチスキッド制御信号Sasが決定される。即ち、減圧モードでは、電磁弁SOLの増圧弁ZABを閉位置とし、SOLの減圧弁GABを開位置とする信号Sasが演算される。一方、車輪スリップ量Slpが減少(回復)する場合には、WC圧を増加させるよう、アンチスキッド制御信号Sasが決定される。増圧モードでは、電磁弁SOLの減圧弁GABを閉位置とし、SOLの増圧弁ZABをデューティ制御する信号Sasが演算される。具体的には、増圧モードのデューティ制御では、WC圧が急激に増加されないよう、増圧弁ZABの開位置と閉位置とが繰り返し指示される。車輪スリップ量Slpが所定値を維持している場合には、増圧モードのデューティ制御において、増圧弁ZABが開位置にある時間が短縮されるため、WC圧は概ね一定に維持される。
【0050】
アンチスキッド制御信号Sasは、駆動手段DRV、及び、加圧制御ブロックKACに送信される。加圧制御ブロックKACに送信される信号Sasは、制御フラグFLaにて代替され得る。制御フラグFLaには、アンチスキッド制御が実行されていること、及び、アンチスキッド制御における調圧指示状態(増圧モード指示、及び、減圧モード指示のうちの何れであるか)の情報が含まれている。
【0051】
アンチスキッド制御の制御モードにおいて、WC圧を一定に維持する「保持モード」が設けられ得る。具体的には、減圧モードの後に、保持モードが形成され、車輪スリップ量Slpが回復するのを待って、増圧モードが開始される。アンチスキッド制御の保持モードでは、電磁弁SOLの増圧弁ZAB、及び、減圧弁GABを閉位置とする信号Sasが演算される。
【0052】
電磁弁VKCは、配管HKJの途中に設けられ、駆動信号Skcに基づいて、HKJの連通/悲連通の状態を切り替える。具体的には、VKCは、CTL内の診断処理ブロックSNDによって、装置の適正状態が肯定される場合(適正時)に、連通状態(開位置)にされ、装置の適正状態が否定される場合(不適時)に、非連通状態(閉位置)にされる。
【0053】
電磁弁VMCは、配管HMWの途中に設けられ、駆動信号Smcに基づいて、HMWの連通/悲連通の状態を切り替える。具体的には、VMCは、CTL内の診断処理ブロックSNDによって、装置の適正状態が肯定される場合(適正状態時)に、非連通状態(閉位置)にされ、装置の適正状態が否定される場合(不適状態時)に、連通状態(開位置)にされる。従って、ホイールシリンダWCは、適正時には加圧機構KAK(加圧シリンダKCL)に限って接続され、不適時にはマスタシリンダMCLに限って接続される。
【0054】
電磁弁VSSは、マスタシリンダMCLとシミュレータSSMとを接続する経路内に設けられ、駆動信号Sssに基づいて、MCLとSSMとの連通/悲連通の状態を切り替える。具体的には、VSSは、CTL内の診断処理ブロックSNDによって、装置の適正状態が肯定される場合(適正状態時)に、連通状態(開位置)にされ、装置の適正状態が否定される場合(不適状態時)に、非連通状態(閉位置)にされる。従って、適正時には、シミュレータSSMは機能する。しかし、不適状態時には、シミュレータSSMは制動液BFLを消費せず、マスタシリンダMCLからの制動液BFLは、全量がホイールシリンダWCに移動される。
【0055】
駆動手段(駆動回路)DRVにより、制御手段CTLからの信号(Imt等)に基づいて、電気モータ(MTR等)、及び、電磁弁(VKC等)が駆動される。駆動手段DRVは、電子制御ユニットECU内に構成される。また、駆動手段DRVは、各要素(MTR、VKC、等)に内蔵され得る。
【0056】
駆動手段(駆動回路)DRVは、加圧制御ブロックKAC(特に、目標通電量演算ブロックIMT)からの目標通電量Imtに基づいて、電気モータMTRを駆動する。具体的には、DRV内には、MTRを駆動するため、複数のスイッチング素子(例えば、MOS−FET)によって、ブリッジ回路(モータドライバ回路)が形成されている。目標通電量Imtに基づいて、これらのスイッチング素子の通電/非通電が切り替えられて、MTRが回転駆動される。駆動手段DRVのブリッジ回路には、MTRへの通電量Imaを検出する通電量取得手段IMAが設けられる。
【0057】
駆動手段(駆動回路)DRVは、診断処理ブロックSNDからの信号Skc,Smc,Sssに基づいて、電磁弁VKC,VMC,VSSを駆動する。具体的には、駆動手段DRV内には、電磁弁(VKC等)を駆動するためのソレノイドドライバが設けられ、この通電/非通電が切り替えられて、電磁弁が駆動される。
【0058】
上記と同様に、駆動手段DRVは、アンチスキッド制御ブロックASCからの駆動信号Sasに基づいて、調圧手段MJR内の電磁弁(増圧弁ZAB、及び、減圧弁GAB)SOLを駆動する。
【0059】
<加圧機構KAK>
次に、図3の部分断面図を参照して、加圧機構KAKについて説明する。加圧機構KAKは、制動操作量Bpaに基づいて、ホイールシリンダWCの液圧を調整する。加圧機構KAKは、電気モータMTR、動力伝達機構DDB、加圧シリンダKCL、加圧ピストンKPS、及び、戻しばねDSBにて構成される。
【0060】
電気モータMTRは、電子制御ユニットECUによって制御され、4輪の各ホイールシリンダWCの液圧を調整するための動力を発生する。電気モータMTRとして、ブラシ付モータ、又は、ブラシレスモータが採用され得る。電気モータMTRには、ステータ(固定子)に対するロータ(回転子)の位置(回転角)Mkaを取得する回転角取得手段MKAが設けられる。なお、電気モータMTRの回転方向において、正転方向Fwdが、ホイールシリンダWCの液圧(WC圧)が増加する方向(即ち、制動トルクが増加する方向)に相当し、逆転方向Rvsが、ホイールシリンダWCの液圧が減少する方向(即ち、制動トルクが減少する方向)に相当する。
【0061】
動力伝達機構DDBは、電気モータMTRの出力(回転動力)を加圧ピストンKPSの直線動力に変換して伝達する。動力伝達機構DDBは、減速機GSK、及び、ねじ部材NJBにて構成される。
【0062】
減速機GSKは、電気モータMTRの動力において、回転速度を減じて、ねじ部材NJBに出力する。即ち、電気モータMTRの回転出力(トルク)が、減速機GSKの減速比に応じて増加され、ねじ部材NJBに回転力(トルク)として伝達される。例えば、減速機GSKは、小径歯車SKH、及び、大径歯車DKHにて構成される。
【0063】
減速機GSKとして、歯車伝達機構に代えて、ベルトを用いた巻き掛け伝達機構が採用され得る。この場合、大径歯車DKH、小径歯車SKHに代えて、大径プーリ、小径プーリの組が採用される。ベルト伝達機構の採用によって、2つの軸間の距離が拡大されるとともに、減速比が大きく設定され得る。この結果、電気モータMTRとして、高回転・小トルク型の電気モータが採用され、装置が小型化され得る。加えて、歯車の歯打ち音等が回避され、装置の静粛性が向上され得る。
【0064】
動力伝達機構DDBのねじ部材NJBは、回転動力を、直線動力に変換する部材(回転・直動変換機構)である。ねじ部材NJBは、ナット部材NUT、及び、ボルト部材BLTにて構成される。ボルト部材BLTは、大径歯車DKHに同軸(軸Jkc)で固定されている。ナット部材NUTの外周部、及び、加圧シリンダKCLの内周部には、キー溝が形成される。キー部材KYBが、キー溝に嵌合されることによって、ナット部材NUTは、中心軸Jkcまわりの回転運動は制限されるが、中心軸Jkcの方向(キー溝の長手方向)の直線運動は許容される。ナット部材NUTの直線運動によって、加圧ピストンKPSが、加圧シリンダKCLに対して移動される。
【0065】
ねじ部材NJBには、可逆性があり(逆効率をもつ)、双方向に動力伝達が可能である。即ち、ホイールシリンダWC内の圧力が増加される場合(制動トルクが増加される場合)、ねじ部材NJBを通して、電気モータMTRから加圧ピストンKPSへ動力が伝達される。逆に、ホイールシリンダWC内の圧力が減少される場合(制動トルクが減少される場合)、ねじ部材NJBを介して、加圧ピストンKPSから電気モータMTRへ動力が伝達される(このとき、逆効率が「0」よりも大きい)。
【0066】
ねじ部材NJBは、「滑り」によって動力伝達が行われる滑りねじ(台形ねじ等)によって構成される。この場合には、ナット部材NUTには、めねじ(内側ねじ)MNJが設けられる。ボルト部材BLTには、おねじ(外側ねじ)ONJが設けられ、NUTのMNJと螺合される。減速機GSKから出力される回転動力(トルク)は、ねじ部材NJB(ONJとMNJ)を介して、加圧ピストンKPSの直線動力(推力)として伝達される。
【0067】
滑りねじに代えて、ねじ部材NJBには、「転がり」によって動力伝達が行われる転がりねじ(ボールねじ等)が採用され得る。この場合、ナット部材、及び、ボルト部材には、ボール溝が設けられる。このボール溝にはめ合わされるボール(鋼球)を介して、動力伝達が行われる。動力伝達機構DDBの回転・直動変換機構として、ねじ部材NJBに代えて、ボールランプ部材、回転クサビ部材、ラック&ピニオン部材等の変換機構が採用され得る。
【0068】
マスタシリンダMCLの構造と同様に、加圧シリンダKCLの内部は、加圧ピストンKPSよって、流体室Rkc(第1流体室に相当)に区画されている。流体室Rkcは、制動トルクの発生が不要である場合(例えば、制動操作部材BPの非操作時)には、リリーフポートPRK、及び、流体配管HRKを通して、マスタリザーバRSVに連通されている。
【0069】
車輪の制動トルクが増加される場合には、電気モータMTRが正転方向Fwdに駆動されることによって、ナット部材NUTが、加圧ピストンKPSを押し、KPSが移動される。加圧ピストンKPSの外周部にはプライマリシール(加圧シリンダKCLの内周部と接触して、液圧を保持するためのカップ状のゴムシール)GCPが設けられる。加圧シリンダKCL内にて加圧ピストンKPSが前進方向(図3で左方向)に移動されるに伴って、プライマリシール(カップシール)GCPによってリリーフポートPRKが塞がれて、流体室RkcとリザーバRSVとの連通状態が妨げられる(非連通状態となる)。
【0070】
さらに、加圧ピストンKPSが前進方向に移動されると、流体室Rkcの体積が減少され、制動液(ブレーキフルイド)BFLが、流体室Rkcから、4輪のホイールシリンダWCに向けて排出され、ホイールシリンダWCの液圧が増加される。即ち、流体室Rkcの出力ポートPKJから、流体配管HKJに、制動液BFLが圧送される。ここで、加圧ピストンKPSの前進方向は、流体室Rkcの体積を減少させる方向であり、電気モータMTRの正転方向Fwdに対応する。
【0071】
車輪の制動トルクが減少される場合には、電気モータMTRが逆転方向Rvsに駆動され、加圧ピストンKPSが、後退方向(前進方向とは逆方向であり、図3で右方向)に移動され、元の位置(流体室RkcがリザーバRSVと連通される初期位置)に向けて戻される。加圧ピストンKPSの移動によって、流体室Rkcの体積が増加され、制動液BFLがホイールシリンダWCから加圧シリンダKCL内に戻され、ホイールシリンダWCの液圧が減少される。ここで、加圧ピストンKPSの後退方向は、流体室Rkcの体積を増加させる方向であり、電気モータMTRの逆転方向Rvsに対応する。
【0072】
加圧機構KAKには、加圧ピストンKPSを初期位置(流体室RkcとリザーバRSVとが連通する位置)に戻すよう、戻しばねDSBが設けられる。戻しばねDSBによって、電気モータMTRへの通電が停止される場合であっても、加圧ピストンKPSは初期位置(ゼロ点)まで戻され得る。
【0073】
また、加圧シリンダKCLの内部には、加圧ピストンKPS、プライマリシールGCP、及び、セカンダリシールGCSによって区画された、リザーバ接続室Rrs(第2流体室に相当)が形成される。ここで、プライマリシールGCP、及び、セカンダリシールGCSは、カップ形状をもつシール部材である。リザーバ接続室Rrsは、リザーバポートPRR、及び、配管HRKを介して、リザーバRSVに接続されている。従って、リザーバ接続室Rrsの内部は、常に大気圧となっている。
【0074】
プライマリシールGCPのシール性は、加圧ピストンKPSの移動方向に依存する。加圧ピストンKPSが前進方向(図3の左方向)に移動される場合には、カップシールGCPはシール機能(液体が漏れないようにする機能)をもち、ホイールシリンダWCの液圧を上昇させる。一方、加圧ピストンKPSが後退方向(図3の右方向、KPSの中心軸方向において前進方向とは反対の方向)に移動される場合には、リザーバ接続室Rrs(即ち、リザーバRSV)から流体室Rkcの内部にプライマリシールGCPのリップ部を介して、制動液BFLの移動が許容され得る。
【0075】
一方、セカンダリシールGCSのシール機能は、加圧ピストンKPSの移動方向に依存することなく発揮される。従って、流体室Rkc、及び、リザーバ接続室Rrsから、制動液BFLがねじ部材NJBの側に漏れることはない。
【0076】
<調圧手段MJR>
次に、図4を参照して、調圧手段MJRの実施形態について説明する。図4の構成は、ホイールシリンダ圧力の減圧がマスタリザーバRSVに開放されて行われ、再増圧が加圧機構KAKよって行われる構成であり、所謂、排出型アクチュエータの液圧回路図を示している。
【0077】
調圧手段(液圧モジュレータ)MJRは、各車輪のホイールシリンダWC内の圧力(WC圧)を、運転者による制動操作部材BPの操作とは独立して、調整する。調圧手段MJRは、アンチスキッド制御等の、所謂、ブレーキ制御を実行するためのアクチュエータである。
【0078】
車輪のスリップ量Slpが増大し、しきい値を超過した場合に、アンチスキッド制御の減圧モードが実行される。具体的には、増圧弁ZABが非連通状態にされ、減圧弁GABが連通状態にされ、ホイールシリンダWC内の制動液BFLが、配管HMRを介してマスタリザーバRSVに移動されることによって、ホイールシリンダWCの圧力(WC圧)が減少される。一方、スリップ量Slpが減少し、しきい値よりも小さくなった場合に、アンチスキッド制御の増圧モードが実行される。具体的には、増圧弁ZABが連通状態にされ、減圧弁GABが非連通状態にされ、加圧機構KAKから、制動液BFLがホイールシリンダWC内に移動されることによって、WC圧が増加される。
【0079】
ホイールシリンダWCの圧力(WC圧)が増加される場合(アンチスキッド制御の増圧モードの実行時)には、増圧弁ZABがデューティ制御される。具体的には、増圧弁ZABの連通状態、及び、非連通状態が周期的に繰り返されることによって、WC圧の時間変化量が緩やかにされる。増圧弁ZABのデューティ制御によって、WC圧の急激な増加が抑制されるため、車輪WHのロック傾向の増大が防止され得る。
【0080】
<加圧制御ブロックKACでの処理>
次に、図5の機能ブロック図、及び、図6,7のタイムチャートを参照して、加圧制御ブロックKACでの処理について説明する。加圧制御ブロックKACは、指示圧力演算ブロックPCS、目標圧力演算ブロックPCT、及び、目標通電量演算ブロックIMTにて構成される。
【0081】
指示液圧演算ブロックPCSでは、制動操作量Bpa、及び、演算特性(演算マップ)CHpcに基づいて、指示圧力Pcsが演算される。ここで、指示圧力Pcsは、加圧機構KAKによって発生される制動液圧(出力圧)の目標値である。具体的には、演算特性CHpcにおいて、操作量Bpaが「0(ゼロ)」(制動操作が行われていない場合に相当)以上から所定値bp0未満の範囲では指示圧力Pcsが「0」に演算され、操作量Bpaが所定値bp0以上では指示圧力Pcsが「0」から単純増加するように演算される。
【0082】
また、運転者が車両の緊急状態を認知していない場合に、車両を自動的に減速させるため、指示圧力Pcsは、緊急状態量Jqa(車両の緊急状態を表現する状態変数)に基づいて演算され得る。この場合においても、制動操作量Bpaの場合と同様に、緊急状態量Jqaが「0(ゼロ)」以上から所定値bp0未満の範囲では指示圧力Pcsが「0」に演算され、Jqaが所定値bp0以上では指示圧力Pcsが「0」から単純増加するように演算される。
【0083】
目標圧力演算ブロックPCTでは、指示圧力Pcsに各種の調整が行われて、最終的な加圧機構KAKの出力圧の目標値である目標圧力Pctが演算される。目標圧力演算ブロックPCTは、圧力フィードバック演算ブロックAFB、圧力制限制御ブロックASG、及び、引き戻し制御ブロックHMCにて構成される。なお、圧力制限制御ブロックASG、及び、引き戻し制御ブロックHMCは、アンチスキッド制御の実行中に限って機能する。
【0084】
圧力フィードバック演算ブロックAFBでは、加圧機構KAKにおける、指示圧力(目標値)Pcsと出力圧(実施値)Pcaとの偏差ΔPcに基づいて、所謂、フィードバック制御が実行され、目標圧力Pctが演算される。ここで、実際値Pcaは、圧力取得手段PCAによって取得(検出)される。アンチスキッド制御が実行されていない場合には、指示圧力Pcsが、偏差ΔPcによって調整されて、最終的な目標圧力Pctが決定される。
【0085】
圧力制限制御ブロックASGでは、加圧手段KAKの出力圧Pca(即ち、MJRに対する供給圧)が、アンチスキッド制御の実行において、必要、且つ、十分となるよう、KAKの出力圧Pcaの増加を制限する「圧力制限制御」が実行される。図6のタイムチャートを参照して、圧力制限制御について説明する。
【0086】
図6に示した例では、時点t0にて、運転者による制動操作が開始され、WC圧力が徐々に増加される。そして、時点t1で、車輪のスリップ量Slpがアンチスキッド制御のしきい値sp0を超過し、アンチスキッド制御が開始される。即ち、時点t1にて、アンチスキッド制御の減圧モードが実行される。圧力制限制御ブロックASGでは、アンチスキッド制御が開始された時点(即ち、t1)における液圧(出力圧の実際値)Pcaが、値pab(基準圧)として記憶される。さらに、圧力制限制御ブロックASGでは、基準圧pabに基づいて、制限圧pacが決定される。具体的には、基準圧pabに、所定圧(予め設定される所定値)pm1が加算されて、制限圧pacが決定される(即ち、pac=pab+pm1)。
【0087】
時点t1以降も、運転者の操作によって、制動操作量Bpaは増加されるが、目標圧力Pctは、値pac(制限圧)に制限される。具体的には、時点t2にて、目標圧力Pct(結果として、実際の圧力Pca)が制限圧pacに達し、加圧機構KAKの圧力制限制御(出力圧の制限制御)が始まる。これは、WC圧が、車輪と路面との最大摩擦に相当する状態に到達して、アンチスキッド制御は開始されるため、これ以上に目標圧力Pctが増加されてもWC圧は増加しないことに因る。
【0088】
ホイールシリンダ圧力(WC圧)が、路面の最大摩擦状態に到達すると、車輪はロック傾向を生じ始める。このときのWC圧が、「ロック圧」と称呼される。加圧機構KAKの出力圧(目標値)Pctが、制動操作部材BPの操作量Bpaに応じて上記ロック圧よりも大きく指示されても、WC圧はアンチスキッド制御によって制限される。加圧機構の出力圧が、必要以上に増大されると、出力圧とロック圧との差(「差圧」と称呼される)が増加し、安定したアンチスキッド制御の実行が阻害される場合が生じ得る。圧力制限制御によって、加圧機構KAKの出力圧が、ロック圧に対して必要最低限に制限され、差圧が適切に維持されるため、安定したアンチスキッド制御が実行され得る。
【0089】
アンチスキッド制御が開始されると、アンチスキッド制御ブロックASCで駆動される調圧手段MJRによって、先ず、WC圧が減少される。その後、車輪のスリップ量Slpの変化に基づいて、WC圧の増加と減少が繰り返される。
【0090】
運転者によって、時点t3からt4までは、制動操作量Bpaが一定に維持されている。その後、運転者が制動操作部材BPを踏み増して、維持されていたBpa(値bac)が、所定量ba2を超えて増加した場合に、上記の圧力制限制御は終了され、目標圧力Pctは指示圧力Pcsにまで増加される。具体的には、圧力制限制御ブロックASGにて、制動操作部材BPの保持状態(値bac)が記憶され、値bacに所定値ba2を加算した値が、解除値bap(しきい値)として設定される。そして、制動操作量Bpaが解除値bapを超過した時点t5にて、圧力制限制御は解除(終了)される。制御終了においては、目標圧力Pct(即ち、Pca)の急変を抑制するため、Pctの増加勾配(時間に対する変化量)に制限が設けられ得る。即ち、目標圧力Pctは、指示圧力Pcsに向けて徐々に増加される。
【0091】
引き戻し制御ブロックHMCでは、加圧ピストンKPSの引き戻し制御が実行される。排出型の調圧手段MJRが採用される場合、アンチスキッド制御の減圧状態において、制動液BFLはマスタリザーバRSVに排出される。アンチスキッド制御における再増圧状態は、加圧機構KAKからの制動液BFLの補充によって行われる。このため、アンチスキッド制御が比較的長い時間に亘って継続される場合(例えば、路面摩擦係数が低い路面において、比較的高い車速にてアンチスキッド制御が開始される場合)、加圧機構KAKのピストンKPSは、徐々に前進する(中心軸方向に移動される)ため、加圧ピストンKPSのボトミング(KPSのストローク限界に達すること)が懸念され得る。
【0092】
引き戻し制御ブロックHMCでは、上記のボトミングを回避するために、アンチスキッド制御に性能上に影響を及ぼさない状態で、加圧ピストンKPSが非制動時に対応する初期位置(ゼロ点位置)に向けて引き戻される。即ち、アンチスキッド制御の実行中に、加圧ピストンKPSが後退方向に移動させるものが、「引き戻し制御」と称呼される。図7のタイムチャートを参照して、引き戻し制御について説明する。
【0093】
図7に示した例では、アンチスキッド制御の実行途中であり、調圧手段MJRによってホイールシリンダWC内の圧力Pwaの増加・減少が繰り返されている。具体的には、アンチスキッド制御が減圧モードにある場合に、引き戻し制御の実行が開始される。この点において、特開2003−312463号公報に記載の構成(アンチスキッド制御が増圧モード中の液圧保持期間(開・閉が交互に繰り返される増圧弁の閉期間)に引き戻し制御が実行される構成)とは大きく異なる。
【0094】
アンチスキッド制御が、増圧モード状態にある場合には、引き戻し制御は実行されず、目標圧力Pctは値phb(例えば、制限圧)に維持されている。そして、時点u1にて、アンチスキッド制御の増圧モードから減圧モードに変更される。このモード変更時点u1で(又は、直後に)、引き戻し制御が開始され、目標圧力Pctが、値phbよりも小さい値phcに変更される。ここで、値phcは、アンチスキッド制御による最大圧phaよりも所定値ph1だけ大きい値である。従って、アンチスキッド制御の実行中の最大圧pha、加圧ピストンKPSの引き戻し制御の実行中の圧力phc、及び、KPSの引き戻し制御の非実行中の圧力phbの関係は、「pha<phc<phb」である。
【0095】
引き戻し制御によって、加圧ピストンKPSが初期位置(ゼロ点位置であり、Pct=0に対応)に向けて引き戻される。これにより、減圧モードでは増圧弁ZABが閉位置にあるため、制動液BFLが、リザーバ接続室Rrs(第2流体室)から流体室Rkc(第1流体室)に、プライマリシールGCPと加圧シリンダKCLの内壁の隙間(リップ部の先端)を介して補充される。排出型の調圧手段MJRでは、WC圧の減少時に、制動液BFLがリザーバRSVに移動される。この加圧ピストンKPSの引き戻し動作によって、リザーバRSVに移動(流出)した制動液BFLが、プライマリシールGCPを介して、第2流体室Rrsから第1流体室Rkc内に戻される。
【0096】
アンチスキッド制御の減圧モードから増圧モードに変更される時点u3にて、目標圧力Pctが増加され、引き戻された加圧ピストンKPSの前進方向への移動が開始される。このとき、目標圧力Pct(結果、Pca)の増加勾配(時間に対する増加量)dpcが、ホイールシリンダWCの圧力Pwaの増加勾配(時間変化量)dpwよりも大きく設定される(dpc>dpw)。この結果、アンチスキッド制御の増加モードにおける、WC圧の増加が確実に行われ得る。
【0097】
加圧ピストンKPSを引き戻した後の目標圧力Pctの増加が、アンチスキッド制御の増加モードが開始される前(減圧モードから増圧モードに切り替えられる前)に、開始され得る(例えば、時点u6)。一旦、加圧ピストンKPSの引き戻しが行われれば、制動液BFLが加圧シリンダKCL(即ち、Rkc)内に補充されることに因る。
【0098】
目標通電量演算ブロックIMTでは、目標液圧Pct等に基づいて、加圧機構KAKを駆動する電気モータMTRの目標通電量Imt(MTRを制御するための通電量の目標値)が演算される。ここで、「通電量」とは、電気モータMTRの出力トルクを制御するための状態量(変数)である。電気モータMTRは電流に概ね比例するトルクを出力するため、通電量の目標値(目標通電量)として電気モータMTRの電流目標値が用いられ得る。また、電気モータMTRへの供給電圧を増加すれば、結果として電流が増加されるため、目標通電量として供給電圧値が用いられ得る。さらに、パルス幅変調におけるデューティ比によって供給電圧値が調整され得るため、このデューティ比(一周期における通電時間の割合)が通電量として用いられ得る。
【0099】
目標通電量演算ブロックIMTでは、電気モータMTRの回転すべき方向(即ち、液圧の増減方向)に基づいて、目標通電量Imtの符号(値の正負)が決定され、電気モータMTRの出力すべき回転動力(即ち、液圧の増減量)に基づいて、目標通電量Imtの大きさが演算される。具体的には、制動液圧を増加する場合には、目標通電量Imtの符号が正符号(Imt>0)に演算され、電気モータMTRが正転方向Fwdに駆動される。一方、制動液圧を減少させる場合には、目標通電量Imtの符号が負符号(Imt<0)に決定され、電気モータMTRが逆転方向Rvsに駆動される。さらに、目標通電量Imtの絶対値が大きいほど電気モータMTRの出力トルク(回転動力)が大きくなるように制御され、Imtの絶対値が小さいほど出力トルクが小さくなるように制御される。
【0100】
目標通電量演算ブロックIMTでは、目標液圧Pct、及び、予め設定された演算マップに基づいて、電気モータMTRの目標通電量Imtが演算される。通電量の増加に従って、電気モータMTRの出力は増加するため、演算マップは、目標圧力Pctが増加するに従って、目標通電量Imtが単純増加するように設定される。目標通電量Imtは、駆動手段(駆動回路)DRVに送信される。
【0101】
図6を参照して、圧力制限制御において演算された目標通電量Imtの例を説明する。アンチスキッド制御中には、圧力制限制御によって、指示圧力(目標値)Pcsが目標圧力(目標値)Pctに制限される。この結果、目標通電量Imtも制限される(制限値iacに保持される)。即ち、指示圧力Pcsに基づいて演算される指示通電量(目標値)Imsよりも、小さい目標通電量(目標値)Imtに制限される。また、運転者の制動操作部材BPの操作増加によって、圧力制限制御は停止され、指示通電量Imsに向けて増加される。
【0102】
図7を参照して、引き戻し制御において演算された目標通電量Imtの例を説明する。アンチスキッド制御中には、引き戻し制御によって、アンチスキッド制御の減圧モード(即ち、増圧弁ZABが閉じられている場合)において、目標圧力Pctが減少される。この結果、図7において目標通電量Imtが、値ihbから値ihcに減少される。ここで、値ihcは、アンチスキッド制御の最大圧phaに所定値ph1を加算した値phcに対応するものである。増圧弁ZABが閉じられている状態で、加圧ピストンKPSが引き戻される(後退方向に移動される)と、流体室Rkc内が負圧となるため、プライマリシールGCPを介して、制動液BFLが、リザーバ接続室Rrs(即ち、リザーバRSV)から流体室Rkcの内部に移動される。これによって、加圧機構KAKにおいて、アンチスキッド制御中の制動液BFLの補充が行われ得る。なお、最大圧phaは、一連のアンチスキッド制御中(開始から終了まで)に増加、減少されるWC圧のうちで最大の値である。最大圧phaは、ECUのメモリ内に記憶される。
【0103】
<圧力制限制御ブロックASGの実施形態>
圧力制限制御は、アンチスキッド制御の実行中において、加圧機構KAKの出力圧Pcaが、走行路面と車輪との間の摩擦状態に適した圧力に保持される。具体的には、車輪ロックを発生するために必要、且つ、十分な液圧値pacが、アンチスキッド制御が開始される時点(制御による初回の減圧が開始される時点)での液圧(基準圧)pabに基づいて決定される(pac=pab+pm1、ここで、値pm1は、予め設定された所定値))。そして、加圧機構KAK(即ち、加圧シリンダKCL)の出口液圧を制限圧pacよりも増加させないよう、目標圧力Pctが調整される。
【0104】
〔車両がμスプリット路を走行している場合についての対応〕
加圧機構KAKは、車両の左右車輪のホイールシリンダWCに対して圧力を増加させるため、車両の左右車輪が異なる摩擦係数の路面(所謂、μスプリット路)を走行している場合、上記の制限圧pacは、摩擦係数が高い側の車輪に基づいて決定される。具体的には、車両の左右車輪のうちで一方側車輪のホイールシリンダWCが液圧モジュレータMJRによって減圧された後に、他方側車輪のホイールシリンダWCがMJRによって減圧された時点の加圧機構KAKの液圧pabが基準圧として採用される。左右車輪のうちで一方側車輪のホイールシリンダWCにおいて、アンチスキッド制御の初回の減圧が行われたが、他方側車輪のホイールシリンダWCにおいては、初回の減圧が実行されていない場合には、圧力制限制御は実行(開始)されない。左右車輪の両方のホイールシリンダで減圧が実行された時点(即ち、アンチスキッド制御の初回の減圧モードが開始された時点)で、圧力制限制御が開始される。即ち、車両がμスプリット路を走行している場合には、路面摩擦が高い側の車輪において、アンチスキッド制御が開始された時点(制御による初回の減圧開始時点)における加圧機構KAKの出力(液圧値)が、液圧pabに設定される。
【0105】
例えば、4つの車輪のうちの少なくとも1つ車輪のホイールシリンダWCが液圧モジュレータMJRによって減圧されない場合には、圧力制限制御の実行が禁止され得る。即ち、4輪の全てにアンチスキッド制御が実行されている場合に限って、圧力制限制御が実行され得る。具体的には、各車輪において、アンチスキッド制御が開始された時点の圧力のうちで最大のものが基準圧pabに設定され、加圧機構KAKの圧力制限制御が実行される。
【0106】
〔路面摩擦が変化した場合についての対応〕
次に、圧力制限制御において、路面摩擦係数が変化した場合への対応について説明する。ここでは、特に、路面摩擦が低い状態から高い状態に変化した場合に言及する。調圧手段(液圧モジュレータ)MJRが増圧状態(増圧弁ZABが開位置にある状態)にあるにもかかわらず、車輪スリップSlpが増加しない場合には、圧力制限制御が終了され、保持されている目標通電量Imtが、指示通電量Imsに向けて、増加勾配(時間に対する変化量)が制限されて増加される。具体的には、MJRの増圧弁ZABが閉位置から開位置に変更された時点から所定時間ts1に亘って車輪スリップSlpが所定値sl1未満の状態を維持する場合に、圧力制限制御が停止される。これは、アンチスキッド制御の増圧状態(増圧モード)にあってもSlpが増加しないのは、車両の走行路面が低摩擦係数から高摩擦係数に変化したためと考えられることに因る。
【0107】
〔加圧制限制御の効果〕
運転者によって、制動操作部材BPが、路面摩擦に相当する操作量以上に操作される場合であっても、加圧機構KAKの出力液圧が制限されるため、安定したアンチスキッド制御が実行され得る。更に、制動操作部材BPの操作量に対する、液圧特性の依存度が低減されるため、調圧手段MJRに内蔵される絞り要素(オリフィス等)の開口面積が拡大され得るため、該要素の抵抗が低減され、装置全体の応答性が向上され得る。
【0108】
運転者によって制動操作部材BPが踏み増された場合、路面の摩擦状態が変化した場合には、加圧機構KAKの出力液圧の制限が解除されるため、適切なアンチスキッド制御が実行され得る。さらに、μスプリット路において、最も路面摩擦が高い車輪でのアンチスキッド制御が基準とされて制限が実行されるため、路面の摩擦状態が不均一である場合にも、適切な対応が行われ得る。
【0109】
<引き戻し制御ブロックHMCの実施形態>
排出型の液圧モジュレータMJRでは、アンチスキッド制御において、ホイールシリンダWCの液圧を減少する場合に、WC内部の制動液BFLがリザーバRSVに移動される。具体的には、液圧モジュレータMJRは、WCとRSVとの間に配置される開閉弁(減圧弁)GABを備え、WCの液圧を減少する場合には、減圧弁GABが閉位置から開位置に変更され、減圧弁GABを介して、制動液BFLがWCからRSVに移動される。このため、アンチスキッド制御の実行時間が長期に亘ると、加圧機構KAK内の制動液BFLが、徐々に減少してくる。
【0110】
アンチスキッド制御の実行中であって、液圧モジュレータMJRが減圧モードの状態にある場合(即ち、増圧弁ZABが閉位置にある場合)に、加圧ピストンKPSを後退させることによって、マスタリザーバRSVから制動液(ブレーキフルイド)BFLが、加圧機構KAKの内部(KCLとKPSによって区画される流体室Rkc)に補充される(流入される)。ここで、加圧機構KAKへの制動液補充のために、意図的に加圧ピストンKPSを後退させることが、「引き戻し制御」と称呼される。
【0111】
加圧ピストンKPSのカップシール(プライマリシール)GCPはシール機能において方向性を持っている。具体的には、加圧ピストンKPSの軸方向移動において、流体室Rkcから制動液BFLをホイールシリンダWCに向けて排出する方向である一方向(KPSの前進方向であり、Rkcの体積が減少する方向に相当)にはシール機能が発揮される。一方、増圧弁ZABが非連通の状態で、加圧ピストンKPSが、前記の一方向とは逆方向である他の方向(KPSの後退方向)に移動される場合には、制動液BFLが、流体室Rkcの外部(リザーバ接続室Rrs)から、そのリップ部を介してKCL(流体室Rkc)の内部に吸入され得る。具体的には、増圧弁ZABが閉位置とされた状態で、流体室Rkc(第1流体室)の体積が増加されると、流体室Rkc内は負圧となるため、大気圧状態にあるリザーバ接続室Rrs(第2流体室)から、プライマリシールGCPのリップ部を通して、制動液BFLが流入される。即ち、プライマリシールGCPのシール性は、加圧ピストンKPSの移動方向(前進、又は、後退方向)に依存する。そして、加圧機構KAKによって調圧される車輪(調圧対象車輪)の全てが、アンチスキッド制御において減圧状態にある場合(即ち、増圧弁ZABが閉じている場合)に、加圧ピストンKPSが後退方向に移動されて、リザーバRSVから加圧機構KAKの内部に制動液BFLが移動されて、補充される。
【0112】
上記の引き戻し制御によって、リザーバRSVから加圧機構KAKに制動液BFLが補充されるため、アンチスキッド制御用の液圧モジュレータ(調圧手段)MJRにおいて、戻しポンプHPJ、及び、該ポンプHPJを駆動するための電気モータMTJが省略され得る。
【0113】
加圧ピストンKPSの位置(ピストン位置)Ppsを取得する位置取得手段PPSが設けられ得る。ピストン位置Ppsが初期位置(ゼロ点)p0から所定距離pxの範囲内にある場合には、加圧ピストンKPSの引き戻し制御が実行されない(引き戻し制御が禁止される)。一方、ピストン位置Ppsが初期位置p0から所定距離pxよりも離れている場合に、引き戻し制御が許可状態(条件が満足されると、制御実行され得る状態)にされる。加圧ピストンKPSの位置Ppsに基づいて、引き戻し制御の禁止、又は、許可状態が決定されるため、制動液BFLの補充が必要となる場合(例えば、摩擦係数が低い路面での制御実行等において、ボトミングの蓋然性が高まった場合)に限って、引き戻し制御が行われ得る。
【符号の説明】
【0114】
MTR…電気モータ、KAK…加圧機構、MJR…調圧手段、BPA…操作量取得手段、VWA…車輪速度取得手段、CTL…制御手段、KPS…ピストン、Rkc…第1流体室、Rrs…第2流体室、GCP…シール部材、RSV…リザーバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7