特開2016-96116(P2016-96116A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-96116(P2016-96116A)
(43)【公開日】2016年5月26日
(54)【発明の名称】大気圧プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/24 20060101AFI20160422BHJP
   B01J 19/08 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   H05H1/24
   B01J19/08 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-232973(P2014-232973)
(22)【出願日】2014年11月17日
(71)【出願人】
【識別番号】000126115
【氏名又は名称】エア・ウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 一樹
(72)【発明者】
【氏名】嶋谷 秀諭
(72)【発明者】
【氏名】平井 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】堀江 達郎
【テーマコード(参考)】
4G075
【Fターム(参考)】
4G075AA30
4G075BA05
4G075CA47
4G075DA02
4G075EB41
4G075EC21
4G075FA01
4G075FB04
4G075FB06
4G075FB12
4G075FC15
(57)【要約】
【課題】安定してプラズマ処理を行なうことができ、被処理物の裏面などへのプラズマ処理も行なうことができる大気圧プラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】大気圧プラズマ処理装置101は、流体通路11および流体通路11のスリット状出口12をなすように互いに対向する電極対2と、電極対2の間に電圧を印加する電源5と、被処理物50に対するプラズマ処理が行なわれるための処理室6と、流体通路11に処理ガス31を供給することによって電極対2の間でプラズマを発生させ、このプラズマを含むガスを、スリット状出口12を経由して処理室6の内部空間へと噴射させる処理ガス供給部9とを備える。処理室6は、スリット状出口12がある側を上方として見たときに、側方を覆う側面規定部分7と下方を覆う底面規定部分8とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体通路および前記流体通路のスリット状出口をなすように互いに対向する電極対と、
前記電極対の間に電圧を印加する電源と、
被処理物に対するプラズマ処理が行なわれるための処理室と、
前記流体通路に処理ガスを供給することによって前記電極対の間でプラズマを発生させ、前記プラズマを含むガスを、前記スリット状出口を経由して前記処理室の内部空間へと噴射させる処理ガス供給部とを備え、
前記処理室は、前記スリット状出口がある側を上方として見たときに、側方を覆う側面規定部分と下方を覆う底面規定部分とを有する、大気圧プラズマ処理装置。
【請求項2】
前記電極対のうち前記流体通路に面する側の面を覆うように誘電体が配置されている、請求項1に記載の大気圧プラズマ処理装置。
【請求項3】
前記被処理物は、前記処理室内で前記底面規定部分から離隔して配置される、請求項1または2に記載の大気圧プラズマ処理装置。
【請求項4】
前記処理室は、前記電極対との間を隔てるように絶縁性の遮蔽部材を備え、前記遮蔽部材は、前記処理室の内部空間と前記スリット状出口とを連通するスリット状流路を有する、請求項1から3のいずれかに記載の大気圧プラズマ処理装置。
【請求項5】
前記処理室は一端に前記被処理物を搬入するための被処理物入口を有し、他端に前記被処理物を搬出するための被処理物出口を有し、
前記被処理物は、前記被処理物入口から前記被処理物出口へと前記処理室内を通過する、請求項1から4のいずれかに記載の大気圧プラズマ処理装置。
【請求項6】
前記処理室は長手形状であって、前記スリット状出口は前記処理室の長手方向に平行に配置されており、前記被処理物入口は前記処理室の長手方向の一端に配置され、前記被処理物出口は前記処理室の長手方向の他端に配置されている、請求項5に記載の大気圧プラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧プラズマ処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大気圧下でプラズマを発生させ、ガス噴射の勢いで被処理物にプラズマを照射するというリモート方式のプラズマ処理装置が知られている。リモート方式のプラズマ処理装置では被処理物までの照射可能な距離が限られている。また、被処理物の被照射面が平面でなければプラズマによる表面処理が十分均一に行なえない。特開2009−18260号公報(特許文献1)には、プラズマ照射ノズルの照射口の周りを取り囲む円環状となるようにガス噴射ノズルの噴射口を設けた構成が記載されている。特許文献1によれば、この構成を用いることにより、プラズマ励起ガスを取り囲むようにガスカーテンが形成され、プラズマ励起ガスの到達距離が延びるとされている。また、特許文献1によれば、この構成を採用することにより、被処理物に凹みがある場合であっても、好適に処理することができるとされている。
【0003】
特開2009−238519号公報(特許文献2)には、処理ガスのラジカルから変質した有害物質が周辺に拡散することを防止するために、処理ガスが噴出する開口の周囲にシールド部材が設けられた構成が記載されている。シールド部材の内側に紫外光源が配置され、プラズマに対して紫外線を照射する。特許文献2によれば、プラズマに対して紫外線を照射することにより、プラズマの持続時間が長くなり、到達距離も長くなるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−18260号公報
【特許文献2】特開2009−238519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1または2に記載された方法によれば、プラズマの照射可能な距離を延ばすことが可能で、多少の凹凸面にも対応可能かもしれないが、被処理物の裏面または側面へのプラズマ処理は難しい。また、複雑な立体形状表面へのプラズマ処理も難しい。
【0006】
ガスカーテンによる外気の遮断は不安定であり、プラズマ照射環境を一定に維持することが難しい。
【0007】
そこで、本発明は、安定してプラズマ処理を行なうことができ、被処理物の側面や裏面などへのプラズマ処理も行なうことができる大気圧プラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に基づく大気圧プラズマ処理装置は、流体通路および上記流体通路のスリット状出口をなすように互いに対向する電極対と、上記電極対の間に電圧を印加する電源と、被処理物に対するプラズマ処理が行なわれるための処理室と、上記流体通路に処理ガスを供給することによって上記電極対の間でプラズマを発生させ、上記プラズマを含むガスを、上記スリット状出口を経由して上記処理室の内部空間へと噴射させる処理ガス供給部とを備え、上記処理室は、上記スリット状出口がある側を上方として見たときに、側方を覆う側面規定部分と下方を覆う底面規定部分とを有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、大気圧プラズマ処理装置に処理室が設けられており、処理室内は処理ガスを高濃度に含む空間となるので、安定してプラズマ処理を行なうことができ、被処理物の裏面などへのプラズマ処理も行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に基づく実施の形態1における大気圧プラズマ処理装置によって行なわれるプラズマ処理の第1の説明図である。
図2】本発明に基づく実施の形態1における大気圧プラズマ処理装置によって行なわれるプラズマ処理の第2の説明図である。
図3】本発明に基づく実施の形態1における大気圧プラズマ処理装置における電極対と被処理物との位置関係を示す説明図である。
図4】本発明に基づく実施の形態2における大気圧プラズマ処理装置によって行なわれるプラズマ処理の説明図である。
図5】本発明に基づく実施の形態3における大気圧プラズマ処理装置によって行なわれるプラズマ処理の説明図である。
図6】本発明に基づく実施の形態4における大気圧プラズマ処理装置によって行なわれるプラズマ処理の説明図である。
図7】本発明に基づく実施の形態4における大気圧プラズマ処理装置によってエンドレス状の被処理物を連続的に処理する様子の第1の説明図である。
図8】本発明に基づく実施の形態4における大気圧プラズマ処理装置によってエンドレス状の被処理物を連続的に処理する様子の第2の説明図である。
図9】本発明に基づく実施の形態5における大気圧プラズマ処理装置によって行なわれるプラズマ処理の説明図である。
図10】実験1に用いた装置構成の斜視図である。
図11】実験1に用いた装置構成の断面図である。
図12】実験1の結果を示すグラフである。
図13】実験2に用いた装置構成の断面図である。
図14】実験2におけるプラズマ処理の様子の写真である。
図15】実験2の結果を示すグラフである。
図16】実験3に用いた装置構成の断面図である。
図17】実験3におけるプラズマ処理の様子の写真である。
図18】実験3の結果を示すグラフである。
図19】実験4で用いた比較例の構成の斜視図である。
図20】実験4で用いた比較例の構成でプラズマ処理を行なう様子の説明図である。
図21】実験4で用いた実施例の構成の斜視図である。
図22】実験4で用いた実施例の構成でプラズマ処理を行なう様子の説明図である。
図23】実験5で用いた構成でプラズマ処理を行なう様子の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施の形態1)
(構成)
図1図3を参照して、本発明に基づく実施の形態1における大気圧プラズマ処理装置について説明する。図1は、本実施の形態における大気圧プラズマ処理装置101において被処理物50に対するプラズマ処理を行なっている様子の説明図である。ここでは、大気圧プラズマ処理装置101の断面が示されている。図2は、図1とは90°異なる向きから見た断面図である。図2においては、一部の構成要素は図示省略している。
【0012】
本実施の形態における大気圧プラズマ処理装置101は、流体通路11およびスリット状出口12をなすように互いに対向する電極対2と、電極対2の間に電圧を印加する電源5と、被処理物50に対するプラズマ処理が行なわれるための処理室6と、流体通路11に処理ガス31を供給することによって電極対2の間でプラズマを発生させ、プラズマを含むガスを、スリット状出口12を経由して処理室6の内部空間へと噴射させる処理ガス供給部9とを備える。電極対2は電極2aおよび電極2bを含む。電極2a,2bはそれぞれ誘電体膜21に覆われている。電極対2は電極筐体10に収納されている。電源5は高周波電源であってよい。処理ガス31は窒素ガスであってよいが、窒素ガスに代えて、たとえばアルゴン、ヘリウムなどの希ガスであってもよい。処理ガス供給部9はたとえばガスノズルを含む。処理ガス31は、処理ガス供給部9自体が必要量を予め貯留していてもよいが、処理ガス供給部9に対して外部から供給されていてよい。
【0013】
処理室6は、スリット状出口12がある側を上方として見たときに、側方を覆う側面規定部分7と下方を覆う底面規定部分8とを有する。側面規定部分7と底面規定部分8とは別部材であってもよく、一体的に形成されたものであってもよい。側面規定部分7および底面規定部分8は、導電体であっても絶縁体であってもよい。治具15は、側面規定部分7と底面規定部分8とを含む。
【0014】
大気圧プラズマ処理装置101における電極対2と被処理物2との位置関係を図3に示す。図3においては、電極対2、被処理物50、電源5以外の構成要素は図示省略している。この例では、被処理物50は長手形状の物体である。被処理物50は、処理室6内において、側面からも底面からも離隔した状態で、図示しない構造によって支持されている。
【0015】
(作用・効果)
本実施の形態では、図1および図2に示したように、被処理物50に対するプラズマ処理が行なわれるための処理室6が設けられており、処理ガス供給部9によって処理ガス31が処理室6へと送り込まれるので、処理室6は処理ガス31を高濃度に含む空間となる。たとえば処理ガス31が窒素ガスである場合には、処理室6は窒素リッチの環境となる。処理ガス31を基に電極対2の間で発生したプラズマは流れ32に沿って処理室6に送り込まれるが、処理室6は外気が混入しにくい空間であり、処理ガス31を高濃度に含む空間であるので、スリット状出口12の直下のみならず処理室6全体にわたってプラズマが存在することができ、処理室6全体においてプラズマ処理が可能となる。したがって、被処理物50の処理室6内で露出する全ての表面に対してプラズマ処理が可能となる。被処理物50の立体的な表面に対してもプラズマ処理が可能となる。被処理物50が処理室6内において側面からも底面からも離隔した状態で支持されている場合、被処理物50は、裏面も側面も含めて全表面がプラズマ処理されることとなる。
【0016】
以上のように、本実施の形態では、安定してプラズマ処理を行なうことができ、被処理物の裏面などへのプラズマ処理も行なうことができる。
【0017】
図1に示すように、被処理物50と側面規定部分7との間の距離をAとすると、距離Aは、0.5mm以上50mm以下であることが好ましい。距離Aは、1mm以上30mm以下であることがさらに好ましい。
【0018】
本実施の形態では、電極2a,2bはそれぞれ誘電体膜21に覆われているものとして説明したが、誘電体膜21に覆われていること自体は必須ではない。また、電極2a,2bの必ずしも全面が誘電体膜21に覆われていなくてもよい。ただし、図1に示したように、電極対2のうち流体通路11に面する側の面は誘電体膜21に覆われていることが好ましい。電極対2の表面に付着するように誘電体膜が形成されている構成に限らず、別体としての誘電体を電極対2の表面に沿わせて配置した構成であってもよい。誘電体膜は誘電体の一形態である。したがって、言い換えれば、電極対2のうち流体通路11に面する側の面を覆うように誘電体が配置されていることが好ましい。この構成を採用することにより、電極対2に含まれる電極2a,2bは、誘電体膜21を介して互いに対向することとなり、プラズマが均一に発生しやすくなるからである。
【0019】
被処理物50は、処理室6内で底面規定部分8から離隔して配置されることが好ましい。この構成を採用することにより、被処理物50の姿勢を一定に保ったままであっても被処理物50の裏面を含めて円滑にプラズマ処理を行なうことができる。
【0020】
本実施の形態で示したように、処理室6は、電極対2との間を隔てるように絶縁性の遮蔽部材3を備え、遮蔽部材3は、処理室6の内部空間とスリット状出口12とを連通するスリット状流路13を有することが好ましい。この構成を採用することにより、処理室6を電極対2から隔離したものとすることができ、その結果、被処理物50と電極対2との間の接触ないし通電を防ぐことができる。
【0021】
なお、遮蔽部材3のスリット状流路13の幅は、0.5mm以上1.5mm以下が好ましい。この幅を0.5mmとすることは現実には難しいが、できるだけ0.5mmが好ましい。スリット状流路13の幅は、スリット状出口12の幅と同じであってもよく、異なっていてもよい。スリット状流路13の幅は、流体通路11の幅と同じであってもよく、異なっていてもよい。流体通路11の幅はあまり大きくなると十分な処理が行なえる程度のプラズマを発生させるために高電圧が必要になるので、1.5mm以下が好ましい。
【0022】
遮蔽部材3は、絶縁性であって耐熱性を備える材料によって形成されていればよい。遮蔽部材3の材料として採用可能なものは、たとえば石英、セラミック、耐熱樹脂などである。
【0023】
(実施の形態2)
(構成)
図4を参照して、本発明に基づく実施の形態2における大気圧プラズマ処理装置について説明する。本実施の形態における大気圧プラズマ処理装置102は、実施の形態1で説明した大気圧プラズマ処理装置101から遮蔽部材3を取り除いた構成に相当する。
【0024】
(作用・効果)
本実施の形態における大気圧プラズマ処理装置102のように、遮蔽部材3がなく電極対2が処理室6に対して露出した構成であっても、外気が混入しにくい処理室6が構成されているので、実施の形態1と同様に、処理ガス31を高濃度に含む処理室6にプラズマを充満させて安定してプラズマ処理を行なうことができ、被処理物の裏面などへのプラズマ処理も行なうことができる。
【0025】
本実施の形態では、遮蔽部材3がないことにより、電極対2と処理室6とを近づけることができるので、流体通路11で発生したプラズマが迅速に処理室6に達することができ、効率良くプラズマ処理を行なうことができる。また、遮蔽部材3がないことにより、装置全体をコンパクトに実現することができる。
【0026】
しかし、被処理物50がたとえば炭素繊維である場合には、炭素繊維は導電性物質であるので、被処理物50としての炭素繊維が、電極2a,2b間の電界の中に侵入したり、電極2a,2bに接触したりすると、炭素繊維に対する放電が起こり、その結果、炭素繊維が発火して装置を損傷するおそれがある。そのようなおそれがある被処理物50の場合にも発火を引き起こすことなく確実にプラズマ処理を行なえるようにするためには、大気圧プラズマ処理装置102よりも大気圧プラズマ処理装置101のように、遮蔽部材3が配置されている構成を採用することが好ましい。
【0027】
(実施の形態3)
(構成)
図5を参照して、本発明に基づく実施の形態3における大気圧プラズマ処理装置について説明する。本実施の形態における大気圧プラズマ処理装置103は、基本的構成は実施の形態1で説明したものと同様であるが、以下の点で異なる。
【0028】
処理室6は一端に被処理物50を搬入するための被処理物入口17を有し、他端に被処理物50を搬出するための被処理物出口18を有する。被処理物50は、被処理物入口17から被処理物出口18へと処理室6内を通過する。
【0029】
(作用・効果)
本実施の形態では、被処理物50を次々と処理室6に送り込んで、矢印91に示すように一方通行で処理することができるので、多数の被処理物50を効率良く処理することができる。被処理物50の進行は、連続的であっても断続的であってもよい。
【0030】
被処理物50が処理室6よりも長い場合、被処理物50が絶えず進行していて、被処理物50の全長のうちある時点で処理室6内にある区間がプラズマ処理されるというものであってもよい。この場合、被処理物50の進行につれて1つの被処理物50の中でプラズマ処理される部位は移動していく。
【0031】
被処理物50が処理室6よりも長い場合においても、被処理物50の移動は断続的であってもよい。たとえば被処理物50が一定距離だけ進行したところで被処理物50の進行は停止し、その状態でプラズマ処理が行なわれ、プラズマ処理が完了したら、被処理物50は再び一定距離だけ進行する。その後、被処理物50の進行は停止し、その状態で再びプラズマ処理が行なわれる。このような動作の繰り返しによって被処理物50の各部位に対するプラズマ処理が行なわれていくというものであってもよい。
【0032】
図5では、被処理物50の長さが、処理室6の長さより長いものとして図示したが、このような大小関係であるとは限らない。被処理物50の長さは、処理室6の長さより短いものであってもよい。また、複数の被処理物50が同時に処理室6内に収まってもよい。複数の被処理物50に対して処理を行なう場合にも、複数の被処理物50が被処理物入口17から被処理物出口18へと一方通行で処理室6内を通過できるようにしておけば、効率良く処理を進めることができる。
【0033】
本実施の形態では好ましいことに、処理室6は長手形状であって、スリット状出口は処理室6の長手方向に平行に配置されており、被処理物入口17は処理室6の長手方向の一端に配置され、被処理物出口18は処理室6の長手方向の他端に配置されている。この構成を採用することにより、処理室6は被処理物の進行方向に沿った長手形状であってこの処理室6内をプラズマでほぼ満たすことができるので、長手形状の被処理物を効率良く処理室6に送り込んで処理することができる。被処理物50を連続的に送り込む場合、処理室6の形状を進行方向に沿って必要に応じて長くすることにより、被処理物50がプラズマ雰囲気中に滞留する時間を十分に長くすることもできるので、十分な程度のプラズマ処理を行なうことができる。
【0034】
(実施の形態4)
(構成)
図6図8を参照して、本発明に基づく実施の形態4における大気圧プラズマ処理装置について説明する。本実施の形態における大気圧プラズマ処理装置104は、基本的構成は実施の形態3で説明したものと同様であるが、以下の点で異なる。
【0035】
大気圧プラズマ処理装置104は、被処理物51を処理するためのものである。被処理物51は、円柱形状の長い部材である。被処理物51は、円柱形状の代わりに中空円筒形状であってもよい。被処理物51は、エンドレスで送り出されるものであってもよい。大気圧プラズマ処理装置104の断面を図6に示す。大気圧プラズマ処理装置104によってエンドレス状の被処理物51を連続的に処理する様子を図7および図8に示す。被処理物51は矢印91の向きに進行する。
【0036】
本実施の形態においても好ましいことに、処理室6は長手形状であって、スリット状出口12は処理室6の長手方向に平行に配置されており、被処理物入口17は処理室6の長手方向の一端に配置され、被処理物出口18は処理室6の長手方向の他端に配置されている。
【0037】
部材23a,23bの組合せによって治具15が構成されている。部材23a,23bはそれぞれ半円形の凹部を有するものであり、部材23a,23bが組み合わさることにより、被処理物51の外形に合うような空洞が形成される。部材23a,23bのうち被加工物51の下方に位置する部分が底面規定部分8に相当する。部材23a,23bのうち被加工物51の側方に位置する部分が側面規定部分7に相当する。この場合も治具15は側面規定部分7と底面規定部分8とを含むといえる。
【0038】
(作用・効果)
本実施の形態では、エンドレス形状の被処理物51を次々と処理室6に送り込んで、一方通行で処理することができるので、効率良く処理することができる。被処理物51の送りは連続的であっても断続的であってもよい。図8に示すように、処理室6を通過し終えた処理ガス31は被処理物入口17または被処理物出口18から排出される。処理室6は細長い空間であるが、処理室6全体に処理ガス31を高濃度に含む空間であるので、スリット状出口12の直下のみならず処理室6全体にわたってプラズマが存在することができ、処理室6全体においてプラズマ処理が可能となる。処理室6の長さを長くすれば、被処理物51の単位長さ当たりの表面に対してプラズマ処理が行なわれる時間を長くすることができる。
【0039】
ここでは被処理物51の外形断面が円形であるものとして例示したが、外形断面は円形に限らず他の形状であってもよい。被処理物51の外形断面が円形以外である場合、治具15の内部に設けられる処理室6としての空洞の断面形状は、被処理物51の外形断面に対応したものであることが好ましい。処理室6としての空洞の断面形状は、被処理物51の外形断面とほぼ相似形で被処理物51の外形よりひとまわり大きくした形状であることがさらに好ましい。
【0040】
(実施の形態5)
(構成)
図9を参照して、本発明に基づく実施の形態5における大気圧プラズマ処理装置について説明する。本実施の形態における大気圧プラズマ処理装置105は、基本的構成は実施の形態4で説明したものと同様であるが、以下の点で異なる。
【0041】
大気圧プラズマ処理装置105においては、処理室6は長手形状であって、電極2a,2bは処理室6の長手方向に垂直に配置されている。すなわち、電極2a,2bの配置によって決定されるスリット状出口も、処理室6の長手方向に垂直に配置されている。被処理物入口17は処理室6の一端に配置され、被処理物出口18は処理室6の長手方向の他端に配置されている。処理室6が平面的に見て長方形であるとすると、被処理物入口17は処理室6の一方の長辺に設けられ、被処理物出口18は他方の長辺に設けられている。1つの処理室6に対して、複数本の被処理物50が同時に並行して搬入され、矢印92の向きに搬出されている。複数本の被処理物50は互いに平行に配置されている。ここでは、4本の被処理物50を示しているが、本数は4本に限らず他の本数であってもよい。被処理物50は有限の長さのものであってもよく、エンドレスなものであってもよい。
【0042】
被処理物入口17は、複数本の被処理物50に対して一括して1つの開口部として設けられていてもよいが、複数本の被処理物50に対して個別に対応するように複数の開口部として設けられていてもよい。被処理物出口18についても同様である。
【0043】
(作用・効果)
本実施の形態では、1台の大気圧プラズマ処理装置105によって同時に複数の被処理物50をプラズマ処理することができる。被処理物50が通過する方向が処理室の長手方向に対して垂直であるので、個々の被処理物50がプラズマの中に滞留する時間が短いが、複数の被処理物を同時に並行して処理することができるという点で作業効率を上げることができる。
【0044】
(実験結果)
発明者らは、本発明の効果を確認するために、いくつかの実験を行なった。以下にその結果を説明する。
【0045】
(実験1)
処理室内の酸素濃度がプラズマの伸びに大きく影響を与える。そこで、処理室内における酸素濃度の分布を知るための実験として、実験1を行なった。実験1のためには、図10に示すように、治具15と遮蔽部材3との組合せを用意した。奥行きL=400mm、高さH=30mm、幅W=50mmとし、手前の端から測定位置P1までの長さをL1とすると、L1=200mmである。
【0046】
処理ガスとしては窒素のみを使用した。図11に示すように、遮蔽部材3のスリット状流路13を通してプラズマが噴射される状態で、測定位置P1における位置B,C,Dにおいてそれぞれ酸素濃度を測定した。位置B,C,Dの各所における測定は、プラズマ噴射開始後10秒後から180秒後まで10秒間隔で行なった。
【0047】
この実験により、図12に示す結果が得られた。この結果から、処理室6内において位置による酸素濃度の差がないことがわかった。
【0048】
(実験2)
処理室内に流入する酸素濃度を変化させ、酸素濃度とプラズマ処理効果との関係を調査するための第1の実験として、実験2を行なった。実験2のためには、図13に示すように、治具15と遮蔽部材3との組合せを用意した。高さH=30mm、幅W=50mmとした。治具15によって囲まれた処理室6の底面に厚み100μmのPETフィルム56を置き、PETフィルム56の上面にどのようなプラズマ処理がなされるかを調べた。
【0049】
処理ガスは基本的に窒素としたが、処理ガス中に酸素を混入させた。処理ガス中の酸素濃度は、0%、0.1%、0.2%の3通りで試した。ガスパージ1分後にプラズマを発生させ、5秒間プラズマ処理を行なった。実際に、プラズマ処理をしている最中の写真を図14に示す。プラズマを含むガスは、処理室の底面で反射している。
【0050】
処理が終わった後のPETフィルム56の上面において、図13に示したようにスリット状流路13の真下を0mmとし、この位置から左右に5mmおよび10mmずれた位置を測定箇所とした。PETフィルム56上面の測定箇所の各々において、水の接触角を調べた。水の接触角を調べる際には、1つの測定箇所につき各3回の測定を行なった。
【0051】
この実験により、図15に示す結果が得られた。比較のため、プラズマ処理を行なっていないPETフィルム56における水接触角も「未処理」と称してグラフに載せている。プラズマ処理後のPETフィルム56においては、いずれの位置においても未処理の場合に比べて接触角は小さくなっている。この結果から、処理室の全域において十分なプラズマ処理が行なわれていることが確認できた。
【0052】
(実験3)
処理室内に流入する酸素濃度を変化させ、酸素濃度とプラズマ処理効果との関係を調査するための第2の実験として、実験3を行なった。実験3のためには、図16に示すように、治具15と遮蔽部材3との組合せを用意した。高さH、幅Wは実験2と同じである。治具15によって囲まれた処理室6の側壁に厚み100μmのPETフィルム57を置き、PETフィルム57の表面にどのようなプラズマ処理がなされるかを調べた。
【0053】
実験2と同様に、処理ガスは基本的に窒素とし、処理ガス中の酸素濃度を3通りに変化させ、それぞれプラズマ処理を行なった。ガスパージ1分後にプラズマを発生させ、5秒間プラズマ処理を行なった点も、実験2と同じである。実際に、プラズマ処理をしている最中の写真を図17に示す。プラズマを含むガスは、処理室の底面で反射している。
【0054】
処理が終わった後のPETフィルム57の表面において、図16に示したように下端を0mmとし、この位置から上に向かって5mm間隔で高さ25mmの位置までの各点を測定箇所とした。PETフィルム57表面の測定箇所の各々において、水の接触角を調べた。水の接触角を調べる際には、1つの測定箇所につき各3回の測定を行なった。
【0055】
この実験により、図18に示す結果が得られた。比較のため、プラズマ処理を行なっていないPETフィルム57における水接触角も「未処理」と称してグラフに載せている。プラズマ処理後のPETフィルム57においては、いずれの位置においても未処理の場合に比べて水接触角は小さくなっている。この結果から、処理室の全域において十分なプラズマ処理が行なわれていることが確認できた。
【0056】
(実験4)
処理室の側壁がある場合とない場合とでプラズマ処理の効果の程度を比較するための実験として、実験4を行なった。実験4のためには、図19および図20に示すように、ステージ60の上方に遮蔽部材3が配置され、側壁はない構成(以下、「比較例」という。)の装置と、図21および図22に示すように、遮蔽部材3の下側の空間を囲むように治具15が配置された構成(以下、「実施例」という。)の装置とを用意した。実験1と同じく、奥行きL=400mm、高さH=30mm、幅W=50mmとした。手前の端から測定位置P2までの長さをL1とすると、L1=200mmである。実験1と同じく、実験4においても、印加電圧は9kVであり、印加電力は3kWである。比較例の装置では、側壁がなく側方が開放されているのに対して、実施例の装置では、側壁があることによって処理室6の空間の範囲が明確に規定されているという点で異なる。
【0057】
外形の断面形状が1辺10mmの正方形となっており、内側に空洞を有する棒状の物体であるディスポーザブルセル58に挿入棒61を挿入して固定し、挿入棒61の操作によりディスポーザブルセル58を所望の位置に配置できるようにした。ディスポーザブルセル58は測定位置P2に配置した。
【0058】
この状態で、比較例と実施例とのそれぞれの構成において、遮蔽部材3のスリット状流路13を通じてプラズマを送り込み、プラズマ処理を行なった。プラズマ処理により、ディスポーザブルセル58の表面が親水化される。この親水化の効果を確認するために、プラズマ処理後のディスポーザブルセル58の左右の側面において水接触角を測定した。水接触角を測定する際には、1つの側面につき5点で測定を行ない、その平均値を採用した。
【0059】
さらに、実験2と同様に、底面にPETフィルムを配置して、プラズマ処理後のPETフィルムの表面における水接触角を測定した。PETフィルム表面のうちスリット状流路13の真下の位置を0とし、この位置からW方向に少しずつずれた位置で水接触角を測定した。
【0060】
底面に配置したPETフィルムの各位置における水接触角の測定結果を表1に示す。ディスポーザブルセル58の側面における水接触角の測定結果を表2に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
表1の結果からは、PETフィルムの表面のうちスリット状流路13の真下に近い箇所では、処理前に比べて処理後は水接触角が減少していることがわかった。ただし、比較例に比べて実施例の場合に大きく減少していた。治具を使用することが良い効果をもたらしているといえる。PETフィルムの表面のうちスリット状流路13の真下からW方向に大きくずれた位置においては、比較例では処理前後で水接触角がほぼ変わらなかった。そのような位置においても、実施例の場合には処理前に比べて処置後には水接触角がある程度小さくなっていることが確認できた。治具を使用することによって、スリット状流路13の真下からW方向に大きくずれた位置においても、程度の差はあるものの、ある程度のプラズマ処理の効果を確保することができるといえる。
【0064】
表2の結果からは、処理前に比べて処理後は、ディスポーザブルセル58の左右両面のいずれにおいても水接触角が小さくなっていることが確認できた。特に、比較例の場合に比べて実施例の場合は、水接触角が大幅に減少していることが確認できた。実施例、すなわち側壁がある状態の方がプラズマ処理の効果が大きくなることが確認できた。
【0065】
(実験5)
処理室内で被処理物を底面規定部分から離隔して配置することによって、被処理物の裏面すなわち下面もプラズマ処理されることを確認するために、実験5を行なった。図23に示すように、遮蔽部材3の下側の空間を囲むように治具15が配置された構成の装置とを用意した。奥行きL、高さH、幅Wは実験1と同じである。噴射量、印加電圧、印加電力も実験1と同じである。
【0066】
実験4と同じ形状のディスポーザブルセル58を用い、このディスポーザブルセル58を、底面から高さEの位置で奥行L方向、幅W方向に関しては中心となる位置に配置した。すなわち、ディスポーザブルセル58を底面から離隔させて配置した。高さEは10mmとした。
【0067】
この状態で、遮蔽部材3のスリット状流路13を通じてプラズマを送り込み、プラズマ処理を行なった。プラズマ処理により、ディスポーザブルセル58の表面が親水化される。この親水化の効果を確認するために、プラズマ処理後のディスポーザブルセル58の上下左右の面において水接触角を測定した。ディスポーザブルセル58の各面における水接触角の測定結果を表3に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
処理前の水接触角については、ディスポーザブルセル58のいずれの面でも同じ条件であると考えられるので、上面でのみ測定した。表3の結果からは、処理前に比べて処理後は、ディスポーザブルセル58の各面において水接触角が小さくなっていることが確認できた。特に、スリット状流路13とは反対側を向いている下面においても、処理後には水接触角が小さくなっていることが確認できた。
【0070】
なお、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0071】
2 電極対、2a,2b 電極、3 遮蔽部材、5 電源、6 処理室、7 側面規定部分、8 底面規定部分、9 処理ガス供給部、10 電極筐体、11 流体通路、12 スリット状出口、13 スリット状流路、15 治具、17 被処理物入口、18 被処理物出口、19 被処理物搬送装置、21 誘電体膜、23a,23b 部材、31 処理ガス、32 流れ、50,51 被処理物、56,57 PETフィルム、58 ディスポーザブルセル、60 ステージ、61 挿入棒、91 矢印、101,102,103,104,105 大気圧プラズマ処理装置。
図1
図2
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