特開2017-186961(P2017-186961A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特開2017-186961油煙デポジットの発生を防止する方法及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-186961(P2017-186961A)
(43)【公開日】2017年10月12日
(54)【発明の名称】油煙デポジットの発生を防止する方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   F02B 23/00 20060101AFI20170919BHJP
   F01N 13/16 20100101ALI20170919BHJP
   C01G 49/08 20060101ALI20170919BHJP
   B01J 23/745 20060101ALI20170919BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20170919BHJP
   B01J 37/14 20060101ALI20170919BHJP
   F02F 1/00 20060101ALI20170919BHJP
【FI】
   F02B23/00 D
   F01N13/16
   C01G49/08 Z
   B01J23/745 A
   B01D53/94 280
   B01J37/14
   F02F1/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-76389(P2016-76389)
(22)【出願日】2016年4月6日
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
【住所又は居所】長野県松本市旭三丁目1番1号
(72)【発明者】
【氏名】水口 仁
【住所又は居所】長野県上田市常田3丁目15番1号 国立大学法人信州大学繊維学部内
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏雄
【住所又は居所】長野県上田市常田3丁目15番1号 国立大学法人信州大学繊維学部内
(72)【発明者】
【氏名】金子 正彦
【住所又は居所】長野県上田市常田3丁目15番1号 国立大学法人信州大学繊維学部内
【テーマコード(参考)】
3G004
3G023
3G024
4D148
4G002
4G169
【Fターム(参考)】
3G004BA03
3G004BA06
3G004DA01
3G004GA07
3G023AE06
3G024AA11
3G024GA16
3G024HA04
4D148AA21
4D148AB03
4D148BA36X
4D148BA41X
4G002AA04
4G002AB01
4G002AD02
4G002AE05
4G169AA02
4G169AA08
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169CA03
4G169CA10
4G169CA11
4G169EA08
4G169EB14Y
4G169EB15Y
4G169FA01
4G169FB40
(57)【要約】      (修正有)
【課題】内燃機関に代表される燃焼室およびその排気通路の内壁に油煙またはその炭化物が付着してデポジットが発生することを、剥離などの問題を生ずることなく、安価な方法で防止する方法およびシステムを提供する。
【解決手段】内燃機関の燃焼室または排気通路の内壁がFeまたはFeを含む合金で構成されている場合に、内壁の表面に酸化処理を施すことにより内壁表面に酸化鉄被膜を形成しておけば、酸化鉄のバンド間遷移により大量の正孔と電子とが生成する温度領域で、正孔の酸化力を利用して内壁に接触する油煙は分解除去され、油煙またはその炭化物が酸化物被膜に付着してデポジットを発生することが防止される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FeまたはFeを含む合金の表面に酸化処理を施すことにより前記Feまたは前記合金表面に酸化物被膜を形成し、前記酸化物のバンド間遷移により大量の正孔と電子とが生成する温度領域で、前記酸化物被膜に接触する油煙を正孔の酸化力を利用して前記油煙を分解除去することにより、前記油煙またはその炭化物が前記酸化物被膜に付着してデポジットが発生することを防止することを特徴とする油煙デポジットの発生を防止する方法。
【請求項2】
前記酸化物はFeであることを特徴とする請求項1に記載の油煙デポジットの発生を防止する方法。
【請求項3】
内燃機関の燃焼によって生ずる油煙またはその炭化物が燃焼室及び排気通路の内壁に付着してデポジットが発生することを防止するシステムであって、前記燃焼室及び前記排気通路の少なくとも一か所にFeまたはFeを含む合金が配置され、前記Feまたは前記合金の表面には酸化処理により酸化物被膜が形成されており、前記酸化物のバンド間遷移により大量の正孔と電子とが生成する温度領域で、前記酸化物被膜に接触する前記油煙を前記正孔の酸化力を利用して分解除去することにより、前記油煙またはその前記炭化物が前記内壁に付着して油煙デポジットが発生することを防止するシステム。
【請求項4】
前記酸化物はFeであることを特徴とする請求項3に記載の油煙デポジットが発生することを防止するシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に代表される燃焼室およびその排気通路の内壁に油煙またはその炭化物が付着してデポジットが発生することを防止する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料等の不完全燃焼等により燃焼室内の部品の表面に油煙またはその炭化物が付着してデポジットが発生すると、種々の問題を引き起こすのでデポジットの発生を抑制、防止する技術が求められている。燃焼室からの排気ガスを導く排気通路においても、同様に排気通路の内部壁面に油煙またはその炭化物が付着してデポジットが発生するのは好ましくなく、デポジットの発生を防止する技術が求められている。ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関においては特に、デポジットは深刻であり、その抑制、防止技術が強く望まれている。
【0003】
エンジン・デポジットの発生箇所は、燃焼室、排気系、ならびに吸気系にもおよび、摺動部の作動不良や固着、目詰りを誘起する。そのデポジットの発生源は、不明な点も多いが、燃料、エンジン・オイル等に起因すると考えられている。特に、昨今の過給器付エンジンにおいて高過給化が進む中、コンプレッサ―内でブローバイ・ガスのオイルミストに起因するデポジットが原因となり、過給圧(ブースト圧)が低下することが問題となっている。この理由からデポジットを分解し、過給圧低下を抑制することが求められている。
こうしたデポジットの付着、堆積を抑制するために、特許文献1には、ターボチャージャの内壁に遷移金属の酸化物を溶射法によりコーティングし、触媒として作用させる技術が開示されている。また、特許文献2にはスパッタリング法によりLiNbOを形成するなど、リチウム元素を含むセラミックス被覆層を形成してデポジットの付着、堆積を抑制する技術が開示されている。他には光触媒を用いる方法も開示されている(特許文献3)。しかしながら、これらの技術のデポジット抑制効果は限定的であり、膜の剥離の問題に対しても万全ではない。
【0004】
本発明者の一人は有機物、ポリマー、ガス体等の被処理物を分解する方法として、半導体を真性電気伝導領域となる温度に加熱して電子・正孔キャリアーを大量に発生させ、被処理物を加熱処理により発現した強力な酸化力を持つ正孔に接触させ、酸素の存在下において被処理物を(炭酸ガスと水に)完全分解する処理方法(半導体の熱活性法,Thermal Activation of Semi−Conductors,以後TASCと略称する)について提案した(特許文献4、非特許文献1)。TASC分解の素過程は、次の3つの素過程から構成される:1. 強力な酸化力により、被分解物(例えば、ポリマーのような巨大分子)から結合電子を引き抜き、被分解物の中に不安定なラジカルを生成する、2. この不安定なラジカルが巨大分子内を伝播し、巨大分子を不安定化し、巨大分子は自滅するような形で小さな分子に裁断化される、3. 裁断化された分子は空気中の酸素と反応して、水と二酸化炭素に完全分解される。TASC法で用いる半導体を触媒と呼ぶことがあるが、通常の化学触媒とは根本的に機能が異なっている。つまり、化学触媒は、ある化学反応種に作用して、活性錯合体(遷移状態における活性物)を生成し、見かけ上の反応障壁を低下させて反応を進行させるものである。これに対して、TASC法では被分解物を不安定化させ、小分子化を誘起して、完全燃焼を行なうものである。
TASC法で使用できる半導体は高温、酸素雰囲気で安定な半導体であれば良い。従って、酸化物半導体が好んで用いられる。酸化物半導体の例として、BeO、CaO、CuO、CuO、SrO、BaO、MgO、NiO、CeO、MnO、GeO、PbO、TiO、VO、ZnO、FeO、PdO、AgO、TiO、MoO、PbO、IrO、RuO、Ti、ZrO、Y、Cr、ZrO、WO、MoO、WO、SnO、Co、Sb、Mn、Ta、V、Nb、MnO、Fe、Fe、YS、MgFe、NiFe、ZnFe、ZnCo、MgCr、FeCrO、CoCrO、CoCrO、ZnCr、CoAl、NiAl等がある。この中で、酸化クロム(Cr)は高温安定性(融点:約2200℃)に優れ、さらに飲料用のガラス瓶の染色にも使われる安全な材料である。また、酸化鉄(α−Fe:ヘマタイト)は安全で廉価な材料であるので実用性が高い。
【0005】
ミスト状の油煙を小分子化し、分子状のガスとする能力のある触媒で、かつ、剥離しにくいものが求められている。これらの機能を備えたTASC触媒を用いることを考えた。
【0006】
本発明者の一人は非特許文献2において、発熱体であるニクロム線(Ni−Cr)を湿潤水素で選択酸化(Ni−Cr/Cr)し、この上に酸化チタンを約3μm電着した触媒素子を用いたVOC分解装置を試作し、トルエン濃度7,500ppm、空気流量50ml/minの条件でTASC法を適用したところ、トルエンが完全に分解することを報告している。ここで酸化チタン(TiO)はTASC法で使用できる酸化物半導体として用いていた。Ni−Crに直接TiOを付けると両者の熱膨張係数が大きく異なることからTiOが剥離し易くなるため、TiOとの熱膨張係数の差が小さいCrを介してTiOを付けたのであり、膜厚が約0.5ミクロン程度と薄いCr層にはTASCの働きを想定していなかった。
【0007】
しかし、デポジットの発生を防止するためであれば、燃焼室または排気通路を通過する有機物のすべてを分解する必要はないので、TiOのないNi−Cr/Crだけでも使える可能性がある。しかしながら、内燃機関の燃焼室に今なお多く使われているのは鉄であり、鉄の酸化物はバンドギャップが小さいために比較的低温でTASC効果を期待できる。また鉄の表面に形成される酸化鉄被膜は非常に強固な被膜であり、剥離の恐れが全くないという利点がある。このような考えの元に、鉄/酸化鉄被膜のTASC効果によるデポジットの付着防止を検討することにした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2009−543977号公報
【特許文献2】特開平8−105352号公報
【特許文献3】特開2007−177762号公報
【特許文献4】特許第4517146号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】T. Shinbara, T. Makino, K. Matsumoto, and J. Mizuguchi: Complete decomposition of polymers by means of thermally generated holes at high temperatures in titanium dioxide and its decomposition mechanism, J. Appl. Phys. 98, 044909 1−5 (2005)
【非特許文献2】水口 仁:半導体の高温領域の特性を利用したVOC分解システム、コンバーテック 2009年1月号 P.128−133
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
内燃機関に代表される燃焼室およびその排気通路の内壁に油煙またはその炭化物が付着してデポジットが発生するのを、剥離などの問題を生ずることなく、安価な方法で防止する方法およびシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
燃料のガソリンは通常炭素数が4−10程度の混合物で、分子量が小さいため揮発性があり、かつ発火しやすい物質である。これに対し、潤滑性を求められるエンジン・オイルの場合には基油ベースでも分子量が300−700位であり、粘度が高く、発火しにくいことが求められる。シリンダーとピストンの隙間から漏洩したオイルは、ブローバイ・ガスのシステム中でオイル・ミストを形成する。オイル・ミストはガソリンに比べ分子量が格段に大きく、燃えにくいため、不完全燃焼となる場合が多いと考えることは合理的である。つまり、デポジットの大半は分子量の大きなオイルの不完全燃焼に起因すると考えられる。それでは、分子量の大きなオイル・ミスト、あるいはオイル・ミストの部分分解物が、触媒の作用により、ガソリンに相当する小分子に分解することが出来れば、これらの小分子はガソリンと同様に酸素と反応して水と二酸化炭素になり、デポジットは発生しないと想定される。
[0003]で述べたデポジットを分解する従来の試みは総て、デポジットの発生が回避できないことを前提とし、デポジットを触媒等の後処理で分解除去しようとする方法である。これに対して、我々が本願で提案する技術は、デポジットを発生させない手法である。エンジン・オイルは(基本的にはオリゴマーに近い液状ポリマーで)燃料に比べ、分子量も格段に大きく、基本的にはミストの状態で燃焼室、排気系、ならびに吸気系内を飛び回っている。我々のTASC法の特徴は[0004]で述べたように巨大分子をTASC効果で小分子化し、ガス化、空気中の酸素と反応させて水と二酸化炭素に完全分解する技術である。つまり、オイルのミストが分子状のガスになれば、ガス分子は燃焼室、排気系、ならびに吸気系内の壁には沈着することなく、ガソリンと同様に燃焼されるか、あるいは、排気ガスと一緒に系外に運び去られると考えられる。
ここで重要な点は、TASC法により高濃度、高風量のVOCガスなどを処理する場合には、高いTASC処理温度(例えば350−500℃)を必要とされる。しかし、極めて低濃度のオイル・ミストを単にガス化(すなわち分子状態)にするだけの作業であれば、200℃程度の温度でも十分だと考えられる。
触媒の支持体からの剥離を回避する手段について述べる。TASC法で使用される酸化物半導体を例えば金属製のコンプレッサー内壁に塗布しても、金属と酸化物の熱膨張係数は1桁以上も異なるので、熱履歴により酸化物は剥離する。これを避ける方法として、[0006]で述べたように、金属を酸化して金属支持体の上に酸化物を形成する場合には剥離を避けることができる。この例として、Ni−Cr線を湿潤水素で酸化して、Ni−Cr/CrとするとCrは剥離することもない。しかし、この酸化膜の比表面積は極めて小さい(実測では3.7 m/g)ため、大量のVOCガスを処理することは出来ない。このような場合には、Ni−Cr/Crの支持体の上に比表面積の大きいTiO粉体[278 m/g: ST−01 石原産業株式会社]を塗布してもCrとTiOの熱膨張係数は近いので剥離することはなく、大量のVOCガスを処理することができる。一方、オイルミストを単にガス化すれば良い本願の課題は、比表面積の極めて小さいNi−Cr/Crによっても解決できる。
しかし、過給器の付いたターボ・システムのようなエンジンにはNiやCr合金は使われることはなく、また、酸化処理を技術的には可能であっても、経済的には好ましくない。この意味で、エンジン等で最もポピュラーが材料であるFeの酸化を考えるに至った。Feの酸化処理として、黒錆は広く知られ、防錆処理として広く使われている。卑近な例としては、中華鍋の黒錆処理であり、空気中で、ガス・レンジ等で数時間焼くことで容易に形成される。また、形成された黒錆は機械的にも強く、長期の使用に対しても剥離することも劣化することもない。さらに、黒錆は化学的な手法でも簡単に形成される。
以上のように、Fe含むコンプレッサーに乾式、あるいは湿式法で酸化鉄を形成すれば、極少量のオイル・ミストは200℃程度の低温度でも小分子化(即ち、ガス化)され、ミストの中に放置しても、酸化鉄被膜上にデポジットが形成されることはない。酸化鉄としては黒錆(Fe)がFe基板から剥離されにくい点で特に優れているので好ましい。
【0012】
本発明に係る油煙デポジットの発生を防止する方法は、FeまたはFeを含む合金の表面に酸化処理により酸化物被膜を形成し、前記酸化物のバンド間遷移により大量の正孔と電子とが生成する温度領域で、前記酸化物被膜に接触する油煙を正孔の酸化力を利用して前記油煙を分解除去することにより、前記油煙またはその炭化物が前記酸化物被膜に付着してデポジットが発生することを防止することを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかる油煙デポジットが発生することを防止するシステムは、内燃機関の燃焼によって生ずる油煙またはその炭化物が燃焼室及び排気通路の内壁に付着してデポジットが発生することを防止するシステムであって、前記燃焼室および前記排気通路の少なくとも一か所にFeまたはFeを含む合金が配置され、前記Feまたは前記合金の表面には酸化処理により酸化物被膜が形成されており、前記酸化物のバンド間遷移により大量の正孔と電子とが生成する温度領域で、前記酸化物被膜に接触する前記油煙を前記正孔の酸化力を利用して分解除去することにより、前記油煙またはその前記炭化物が前記内壁に付着して油煙デポジットが発生することを防止することを特徴とする。
【0014】
本発明に係るFeまたはFeを含む合金の表面に酸化処理により形成される酸化物はFeであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、FeまたはFeを含む合金の表面に酸化処理を施すだけで、油煙が内燃機関に代表される燃焼室およびその排気通路の内壁に油煙またはその炭化物が付着してデポジットが発生するのを防止することができる。酸化物被膜は、酸化物粉などを塗布するのとは異なり、剥離などの問題を生ずることなく、安価な方法で油煙デポジットの発生を防止する方法およびシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】内燃機関構成図
図2】油煙デポジットの発生を防止する実験装置図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は油煙デポジットが発生するのを防止する方法及びシステムであるので、その対象は広く、油煙が存在し、油煙またはその炭化物が付着してデポジットが発生することを防止したいところにはすべて有効である。ただし、200℃程度以上の温度になることが期待できる個所が望ましい。温度上昇が望めない場合に加温装置を併用できればそれでも良い。具体的には、内燃機関の他に排気ダクトなどの煙や油の発生する場所に適用することができる。以下では内燃機関で代表して、発明の実施形態を説明する。
図1は内燃機関の構成図である。ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関には、シリンダー2やピストン1または排気通路8などには内壁が存在し、燃焼室3で発生し、排気通路8に送られる燃焼ガスは内壁と接する。吸気バルブ4、吸気通路7、排気バルブ5、点火プラグ6においても燃焼ガスと接する内壁がある。内壁に処理を行うことなく内燃機関として作動させると、燃焼ガスによる油煙またはその炭化物が、接触する内壁に付着してデポジットが発生する。本発明においては内壁がFeまたはFeを含む合金からなる場合に、その表面を酸化処理することにより酸化鉄被膜9を形成しておく。酸化鉄被膜を形成するにはいくつかの方法が既知であり、そのいずれの方法でも良い。内壁表面に酸化被膜処理9を施す以外は従来通りの内燃機関として作動させれば、燃焼ガスに含まれる油煙は酸化鉄被膜9に接することとなる。内燃機関内は燃焼により200℃程度に昇温されることが期待されるから、酸化鉄被膜には大量の正孔と電子を生成し、正孔の強い酸化力により酸化鉄被膜に接する油煙は分解されて、酸化鉄被膜に油煙またはその炭化物が付着してデポジットが発生することがない。燃焼室内の油煙がすべて分解されるということはなく、酸化鉄被膜に接しない油煙は分解されることなく排気通路8を通って排気される。酸化鉄被膜はこれに接する油煙のみを分解すれば良いので、その量は微量であり、高い分解速度は必要ない。排気通路8の内壁にも酸化皮膜処理を施しておけば、内壁の上昇温度にも依存するが、油煙またはその炭化物が付着してデポジットが発生することを防止する効果がある。
【実施例】
【0018】
長さ30mm,幅5mm、厚み2mmの鉄板、及び長さ20mm,幅4mm、厚み2mmの鉄板を空気中350℃において1時間酸化処理を行い、鉄板表面に膜厚約1μmの酸化被膜を形成した。形成された酸化皮膜は黒色を呈しており、X線測定によりFeと同定された。以下では酸化処理を行った鉄板をFe/Fe板と、酸化処理を行っていない鉄板をFe板と称する。幅5mmのFe板11とFe/Fe板12、及び幅4mmのFe板11とFe/Fe板12の計4枚を図2のようにホットプレート10上に置いた。ステンレス容器13に潤滑剤14であるベニサンオールマイティ油(株式会社紅椿化学工業所製)を15滴入れてホットプレート10上に置いた。次に1リットル容量のビーカー15を4枚の板とステンレス容器を覆うように上からかぶせてホットプレート10に通電した。定常状態になった時に、4枚の板の位置での温度は200℃、ステンレス容器13の底の位置での温度は150℃とした。通電によりステンレス容器13内の潤滑材14は蒸発し、ビーカー15内は潤滑材14の油煙で充満する。15時間連続通電して様子を観測したところ、5mm幅及び4mm幅のFe板11は共に2時間経過後には油煙が凝集し、薄い褐色物が認められた。15時間経過後には膜厚が増加して黒色を呈する付着物となった。これらは潤滑材成分である有機物及び部分的にはその炭化物と考えられる。一方5mm幅および4mm幅のFe/Fe板12は共に、2時間経過後及び15時間経過後においても何ら変化は認められず、15時間経過後に取りだして顕微鏡で観測した結果においても何らの付着物も観測されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明によれば、簡単な処理方法により内燃機関の内壁に燃焼の結果生ずる油煙またはその炭化物が付着してデポジットが発生することを防止することができるので、従来の内燃機関の課題を解決することができ、産業上の利用可能性は大きい。
【符号の説明】
【0020】
1 ピストン
2 シリンダブロック
3 燃焼室
4 吸気バルブ
5 排気バルブ
6 点火プラグ
7 吸気通路
8 排気通路
9 酸化鉄被膜
10 ホットプレート
11 Fe板
12 Fe/Fe
13 ステンレス容器
14 潤滑材
15 ビーカー



図1
図2