【課題】サンプリングが行われる被対象物に対して極めて低侵襲であるとともに、位置分解能に優れ、サンプルの性質に依存せずに容易にサンプリングが可能なサンプリング方法およびサンプリングシステムを提供すること。
【解決手段】分析に供するサンプルを被対象物Wから得るためのサンプリング方法において、前記被対象物Wの表面に対して、第1の大気圧プラズマ3aを接触させるとともに、前記被対象物Wに損傷を与えない強度の第1のレーザー光4aを照射して、前記被対象物Wの表面からサンプルを脱離させてサンプリングを行うことを特徴とするサンプリング方法およびサンプリングシステム。
前記被対象物の表面近傍の空間を通過しながら分析部方向に向かう第2のレーザー光が照射されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のサンプリング方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、プラズマ照射法を用いたサンプリング方法は、低侵襲である反面、サンプルの性質に依存してサンプリングの難易性があり、例えば、分子量が大きい物質、極性が大きい物質および化学的な反応性に乏しい物質などは被対象物から離脱させることが困難であった。
【0008】
また、プラズマ照射法を用いたサンプリング方法は、ガス状のプラズマを照射しているため、ガスが接触した部分全体からサンプリングが行われるので位置分解能の高いサンプリングを行うことが困難であった。
【0009】
一方、レーザーアブレーション法を用いたサンプリング方法は、サンプリングの難易性がサンプルの性質に依存しておらず、上記の分子量が大きい物質、極性が大きい物質および化学的な反応性に乏しい物質などであっても被対象物から脱離させることは容易である反面、高い出力のレーザー光を照射して強制的にサンプリングを行うため、被対象物上の当該レーザー光が照射された部分にクレーター状の穴が形成されてしまうという問題点を有している。そして、このようなレーザーアブレーション法を用いたサンプリング方法においては、人体などの生体からサンプリングを行う場合には、強烈な痛みと熱傷を伴う可能性があった。
【0010】
そこで、本発明は、サンプリングが行われる被対象物に対して極めて低侵襲であるとともに、位置分解能に優れ、サンプルの性質に依存せずに容易にサンプリングが可能なサンプリング方法およびサンプリングシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するべく、第1の態様の本発明のサンプリング方法は、分析に供するサンプルを被対象物から得るためのサンプリング方法において、前記被対象物の表面に対して、大気圧プラズマを接触させるとともに第1のレーザー光を照射して、前記被対象物の表面からサンプルを脱離させてサンプリングを行うことを特徴とする分析に供するサンプルを被対象物から得るためのサンプリング方法において、前記被対象物の表面に対して、大気圧プラズマを接触させるとともに、前記被対象物に損傷を与えない強度の第1のレーザー光を照射して、前記被対象物の表面からサンプルを脱離させてサンプリングを行うことを特徴とする。
【0012】
このような、第1の態様の本発明のサンプリング方法によれば、被対象物に損傷を与えることなく極めて低侵襲であり、大気圧プラズマに加えて第1のレーザー光を照射することによって、位置分解能に優れ、サンプルの性質に依存せずに容易にサンプリングを行うことを可能とする。
【0013】
第2の態様の本発明のサンプリング方法は、前記被対象物の表面に対して、前記大気圧プラズマを間欠的に照射して接触させることを特徴とする。
【0014】
このような、第2の態様の本発明のサンプリング方法によれば、大気圧プラズマを所定のインターバルをもうけて間欠的に照射するため、連続的に照射した場合と比較して、被対象物に大気圧プラズマが接触することによって生じる熱などの影響が蓄積されることを抑制することができるので、例えば、サンプルの性質に応じて高密度なプラズマの照射を必要とする場合であっても、被対象物に損傷を与えることなく容易にサンプリングを行うことを可能とする。
【0015】
第3の態様の本発明のサンプリング方法は、前記被対象物の表面に対して、前記第1のレーザー光を間欠的に照射することを特徴とする。
【0016】
このような、第3の態様の本発明のサンプリング方法によれば、第1のレーザー光を所定のインターバルをもうけて間欠的に照射するため、例えば、サンプルの性質に応じてレーザー光の強度を高くする必要がある場合においても、インターバルによって被対象物を回復させることができるので、被対象物に損傷を与えることなくサンプリングを行うことができる。また、第1のレーザー光を照射した時にサンプリング量を増大することとなるので、得られたサンプルを分析に供する際に、ロックイン増幅などを行うことでノイズ信号の低減化を図ることが可能となりS/N(信号/ノイズ)比に優れた分析を行うことができる。
【0017】
第4の態様の本発明のサンプリング方法は、前記被対象物の表面上において前記第1のレーザー光を走査させながら照射することを特徴とする。
【0018】
このような、第4の態様の本発明のサンプリング方法によれば、被対象物上の位置情報を含むサンプリング(マッピング)や被対象物上に存在する複数のポイントについて連続したサンプリングなどを行うことができる。さらに、本発明のサンプリング方法によれば、位置分解能に優れたサンプリングを行うことを可能とするので、例えば、サンプリング室内に載置された被対象物と標準試料とから交互にサンプリングを行うなどの応用が可能となり、標準試料を一定量サンプリングして当該標準試料の分析結果と比較することにより被対象物の定量を容易に行うことができる内部標準法を用いた分析を実現することができる。また、サンプリング室内に複数の被対象物を載置したサンプリング態様を採用した場合においても、確実に各被対象物および標準試料からサンプリングを行うことができるので、複数の被対象物の分析を短時間で行うことを可能とする。
【0019】
第5の態様のサンプリング方法は、前記被対象物の表面近傍の空間を通過しながら分析部方向に向かう第2のレーザー光が照射されていることを特徴とする。
【0020】
このような、第5の態様の本発明のサンプリング方法によれば、得られたサンプルが分析部に搬送されるまでの間、当該サンプルに対して第2のレーザー光が有するエネルギーを与えて被対象物に再付着することを抑制することができるので、分析部まで効率的に当該サンプルを搬送し、効率的にサンプリングを行うことを可能とする。
【0021】
第1の態様のサンプリングシステムは、被対象物の表面からサンプリングを行う閉鎖系とされた脱離室を備えたサンプリングシステムであって、前記脱離室には、大気圧プラズマを生成するための第1のプラズマ源と、前記被対象物を侵襲しない強度の第1のレーザー光を発生させる第1のレーザー光源とが備えられていることを特徴とする。
【0022】
このような、第1の態様の本発明のサンプリングシステムによれば、被対象物に損傷を与えることなく極めて低侵襲であり、位置分解能に優れ、サンプルの性質に依存せずに容易にサンプリングを行うことが可能なサンプリングシステムを提供することができる。
【0023】
第2の態様の本発明のサンプリングシステムは、前記脱離室の下流側には、前記脱離室においてサンプリングされたサンプルを分析するための分析部が設けられており、前記脱離室には、内部に載置される被対象物の表面近傍の空間を通過しながら前記分析部方向に向かって照射される第2のレーザー光を発生させる第2のレーザー光源が備えられていることを特徴とする。
【0024】
このような、第2の態様の本発明のサンプリングシステムによれば、得られたサンプルが被対象物に再付着することを抑制して、効率的にサンプリングを行うことを可能とするサンプリングシステムを提供することができる。
【0025】
第3の態様の本発明のサンプリングシステムは、前記脱離室と前記分析部との間には、前記サンプルをイオン化させるためのイオン化室が設けられており、前記イオン化室には、イオン化のための大気圧プラズマを発生させる第2のプラズマ源と、前記サンプルに対して照射される第3のレーザー光を発生させる第3のレーザー光源が備えられていることを特徴とする。
【0026】
このような、第3の態様の本発明のサンプリングシステムによれば、第3のレーザー光によって、サンプルに結合した水分子、H
3OおよびOHなどを分離することができるので、分析に適したサンプルを容易に得ることが可能なサンプリングシステムを提供することができる。
【0027】
第4の態様の本発明のサンプリングシステムは、前記脱離室と前記イオン化室とは、導入管を介して所定の距離を設けて接続されており、前記導入管の内部には大気圧プラズマが生成されていることを特徴とする。
【0028】
このような、第4の態様の本発明のサンプリングシステムによれば、脱離部からイオン化室までの間を接続する導入管内においても、サンプルに対してエネルギーを与える構成とされているので、例えば、分子量が大きい物質や極性が大きい物質などのように再付着しやすい物質からなるサンプルであっても、失活することなくイオン化部まで当該サンプルを搬送することが可能なサンプリングシステムを提供することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明のサンプリング方法によれば、サンプリングが行われる被対象物に対して極めて低侵襲であるとともに、位置分解能に優れ、サンプルの性質に依存せずに容易にサンプリングを行うことを可能とする。
【0030】
そして、本発明のサンプリングシステムにおいては、本発明の前記サンプリング方法を容易に実施可能なサンプリングシステムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明のサンプリング方法は、プラズマの接触と被対象物に損傷を与えない強度のレーザー光の照射とを組み合わせることにより、サンプリングが行われる被対象物に対して極めて低侵襲であるとともに、位置分解能に優れ、サンプルの性質に依存せずにサンプリングを行うことを可能としている。
【0033】
本発明のサンプリング方法における被対象物に損傷を与えない強度のレーザー光とは、被対象物上にサンプリング痕が形成されない強度のレーザー光であり、また、被対象物が生体などである場合には刺激や侵襲が生じない強度のレーザー光を意味する。より具体的には、レーザー光は、特別に損傷防止措置を行わない場合においては、レーザーの安全性基準(JISC6802)におけるクラス3R以下の強度、すなわち、連続照射に相当するCW相当値にて5mW以下の出力のレーザー光を用いることができる。特に、人体などの生体を被対象物とする場合には、連続波レーザーの条件下で0.4μW以下の出力のレーザー光とされていることが好ましい。エネルギー密度で示すと、10
−8〜10
−2J/cm
2の範囲内のレーザー光が最適である。なお、レーザー光の波長領域は、特に限定するものではなく、赤外光、可視光、紫外光などさまざまな波長の光を用いることができる。
【0034】
また、レーザー光の照射前または照射時において、被対象物に対して損傷防止措置を施した場合には、連続照射に相当するCW相当値にて5mW以上の出力のレーザー光を用いることができる。損傷防止措置としては、例えば、周知の冷却手段によって被対象物を冷却する、プラズマの温度を低温として被対象物を冷却するなどの方法が挙げられる。特に、周知の冷却手段としては、被対象物を載置するステージおよび/または空間内を冷却する冷却装置、冷却ガス・液をレーザーの照射前後に吹き付ける冷却装置などが挙げられる。
【0035】
この他にも、サーモカメラなどの損傷監視手段を設けて、被対象物の温度上昇をモニタしながらレーザー光の出力を調整することにより、被対象物に対して損傷を与えない強度のレーザー光を得るようにしてもよい。
【0036】
また、カメラや顕微鏡などの位置監視手段を設けて、被対象物上におけるサンプリング位置をモニタしながらレーザー光の照射位置を調整することにより、極めて位置分解能の高いサンプリングを行うことを可能とする。
【0037】
なお、本明細書おいて被対象物とは、サンプルとして得たい目的物を指すものである。当該目的物は、単一または複数の物質からなり、物体、物体の表面に付着している付着物(物体の表面を覆う膜状物を含む)のような形態を有している。なお、被対象物は、物体自体および付着物(膜状物)の両方であってもよい。
【0038】
また、本明細書において、被対象物に損傷を与えないとは、被対象物の表面にサンプリング痕と呼ばれる痕跡が形成されないことを意味する。このため、本発明のサンプリング方法においては、被対象物の表面から原子〜数個単位の分子を脱離させることによって行われる。さらに、被対象物が人体などの生体である場合の被対象物に損傷を与えないとは、生体を侵襲しないだけでなく、痛みなどの刺激も与えないことを意味する。
【0039】
そして、本発明のサンプリング方法においては、プラズマの接触に加えて、被対象物に損傷を与えない強度のレーザー光の照射を組み合わせることによって、一般的にサンプリング可能な物質だけでなく、分子量が大きい物質、極性が大きい物質および化学的な反応性に乏しい物質などの様にプラズマの接触だけではサンプリングを行うことが困難であった物質からなる被対象物についても、容易にサンプルを得ることができる。特に、本発明のサンプリング方法を用いることにより、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、タンパク質、ベンゼン、ハイドロキノンモノベンジルエーテル、4−ベンジロキシフェノール、フェノール、イオン化が困難な糖類などのプラズマの接触だけではサンプリングが困難であった物質から容易にサンプリングを行うことができる。
【0040】
また、被対象物から脱離された当該サンプルは、被対象物の性質や脱離量などに応じて様々な状態とされており、例えば、微粒子状、気体状、微細な液滴(ミスト)状を有している。
【0041】
以下に、本発明のサンプリング方法およびこの方法を実施するためのサンプリングシステムの具体的な実施形態について説明する。
【0042】
第1実施形態における本発明のサンプリング方法は、分析に供するサンプルを被対象物からサンプリングする方法であって、被対象物の表面に対して、大気圧プラズマを接触させるとともに、被対象物に損傷を与えない強度の第1のレーザー光を照射して、当該被対象物からサンプルを脱離させてサンプリングを行うものである。なお、本実施形態においては、本発明のサンプリング方法によって微粒子状のサンプルを得たものとして説明を行う。
【0043】
大気圧プラズマは、大気圧下において既知のプラズマ源を用いて生成される。そして、被対象物の表面との接触は、(イ)当該被対象物に向けて大気圧プラズマを照射することにより接触させる方法、(ロ)分析部方向に形成された大気圧プラズマの流れ中に当該被対象物を載置することにより接触させる方法、または(ハ)サンプリングを行う空間内を大気圧プラズマで満たす(大気圧プラズマ雰囲気とする)ことにより接触させる方法から選択して行う。
【0044】
また、上記の(イ)または(ロ)の方法のように、所定方向に流れる大気圧プラズマを被対象物に接触させる方法においては、当該大気圧プラズマの流れを連続的方式もしくは間欠的方式、すなわち、プラズマ源からのプラズマの噴射を連続的に行うもしくは間欠的に行うようにして、プラズマの噴射のタイミングを設定してもよい。
【0045】
大気圧プラズマを連続的に噴射し続ける方式(連続的方式)を採用した場合には、被対象物から脱離した微粒子に対して常にエネルギーを供給し続けることができるので、当該微粒子が被対象物に対して再付着することを防止することができる。
【0046】
また、大気圧プラズマを間欠的に噴射する方式(間欠的方式)を採用した場合には、大気圧プラズマを所定のインターバルをもうけて間欠的に照射するため、連続的に照射した場合と比較して、被対象物に大気圧プラズマが接触することによって生じる熱などの影響が蓄積されることを抑制することができるので、例えば、サンプリングが困難な物質からなる被対象物であり高密度なプラズマの照射を必要とする場合であっても、被対象物に損傷を与えることなく容易にサンプリングを行うことを可能とする。
【0047】
第1のレーザー光は、既知のレーザー光源を用いて発生させることが可能であり、被対象物に対して大きな侵襲を与えない出力に設定されていることが重要である。
【0048】
また、第1のレーザー光は、被対象物に対する照射を連続的方式もしくは間欠的方式に調整するなど、照射のタイミングを設定することができる。特に、第1のレーザー光を間欠的に照射する方式(間欠的方式)を採用した場合には、第1のレーザー光を所定のインターバルをもうけて間欠的に照射するため、例えば、サンプルの性質に応じてレーザー光の強度を高くする必要がある場合においても、インターバルによって被対象物を回復させることができるので、被対象物に損傷を与えることなくサンプリングを行うことができる。また、第1のレーザー光を照射した時にサンプリング量を増大することとなるので、得られたサンプルを分析に供する際に、ロックイン増幅などを行うことでノイズ信号の低減化を図ることが可能となりS/N(信号/ノイズ)比に優れた分析を行うことができる。
【0049】
また、第1のレーザー光においては、レーザー光の焦点を絞るもしくは拡散させる制御を行うことで、被対象物上におけるサンプリングの位置分解能を調整することができる。
【0050】
この他にも、第1のレーザー光を被対象物上において走査させながら照射を行うことにより、被対象物上の位置情報を含むサンプリング(マッピング)や被対象物上に存在する複数のポイントについて連続したサンプリングなどを行うことができる。さらに、被対象物と標準試料とから交互にサンプリングを行うなどの応用が可能となり、内部標準法による分析や各サンプリング毎に標準試料と比較を行う分析などを行うことができる。
【0051】
このような、第1実施形態の本発明のサンプリング方法においては、大気圧プラズマを被対象物に接触させるとともに、エネルギー密度が10
−8〜10
−2J/cm
2程度の第1のレーザー光の照射を行うので、第1のレーザー光が被対象物の表面に照射されることによって照射位置に生じる熱、光子(フォトン)によるエネルギー作用および光化学反応と、第1のレーザー光が通過した部分に存在し当該第1のレーザー光の有するエネルギーを受けることにより追加励起された大気圧プラズマ中の活性種とによって、例えば、プラズマの照射だけではサンプリングが困難な物質からなる被対象物からも容易にサンプリングを行うことを可能とする。
【0052】
この時、人体などの生体に対しても侵襲することがない極めて出力の弱いエネルギー密度の第1のレーザー光とされているので、被対象物を損傷することなくサンプリングを行うことを可能とする。
【0053】
また、第1のレーザー光の焦点を絞るもしくは拡散させる調整を行うことにより、サンプリングを行う被対象物上の位置分解能を精密に調整することを可能とする。
【0054】
上述の第1実施形態のサンプリング方法を実施するためのサンプリングシステムを
図1および
図2を用いて説明する。
【0055】
第1実施形態の前記サンプリング方法を実施するためのサンプリングシステム1は、
図1に示すように、被対象物Wを内部に載置可能な閉鎖系とされた脱離室2を備え、脱離室2には被対象物Wから脱離した微粒子Pを検出部Sへ搬送するためのキャリアーガスを導入するキャリアーガス導入口Gが設けられている。キャリアーガスとしては、ヘリウムガス、アルゴンガスなど下流側の分析を妨害しない成分のガスであればよく、必要に応じて、得られた微粒子Pを安定化させるための、例えば、塩素などを添加したガスなどを用いてもよい。
【0056】
検出部Sとしては、特に限定するものではないが、例えば、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)、誘導結合プラズマ発光装置(ICP−AES)、マイクロ波誘導プラズマ質量分析装置(MIP−MS)、マイクロ波誘導プラズマ発光分析装置(MIP−AES)、イオントラップ質量分析装置(IT−MS)、エレクトロスプレーイオン化質量分析装置(ESI−MS)などを用いることができる。
【0057】
脱離室2は、
図1に示すように、第1の大気圧プラズマ3aを生成するための第1のプラズマ源3と、第1のレーザー光4aを発生させるための第1のレーザー光源4とを備えている。
【0058】
また、脱離室2には、被対象物W上における第1のレーザー光4aが照射される位置を確認するための照準確認用レーザー光を発生させる確認用レーザー光源が設けられている(図示省略)。照準確認用レーザー光は、目視だけでなくカメラなどによって検出することができればよいので、可視光、赤外光、紫外光などいかなる波長のレーザー光でもよい。ただし、不用意にサンプリングが行われることを防ぐために、第1のレーザー光4aよりも弱い強度のレーザー光とされていることが重要である。
【0059】
第1のプラズマ源3としては、大気圧下においてプラズマを生成するプラズマ源であれば特に限定するものではないが、被対象物Wに対して熱や電流などによる損傷を与えないために、プラズマ温度およびプラズマに含まれる電流を適切に制御可能な構成を備えていることが好ましい。具体的には、ダメージフリーマルチガスプラズマジェット源(プラズマコンセプト社製)、誘電体バリア放電法によるバレット型プラズマジェット源、マイクロホロカソード放電法によるマイクロプラズマ源などを用いることができる。このような、第1のプラズマ源3からは、
図1に示すように、被対象物Wの表面に向けて第1の大気圧プラズマ3aの照射が行われる。
【0060】
第1のレーザー光源4としては、1秒間で5mW以下の出力(エネルギー密度は、10
−8〜10
−2J/cm
2)の連続波レーザー光を発生可能なレーザー光源を用いることができる。レーザー光源は特に限定するものではなく、1秒間の連続照射で5mW以下の出力とされるものであれば、ダイオードレーザー光源、ルビーレーザー光源など既知のレーザー光源を用いることができる。当該第1のレーザー光源4からは、
図1に示すように、被対象物Wの表面に向かって当該第1のレーザー光4aの照射が行われる。
【0061】
このような第1実施形態のサンプリングシステム1においては、被対象物Wの表面から原子または数個単位の分子を分析に供するサンプルとして脱離させることを目的としている。そして、当該被対象物Wの一部分に対して、下記の1〜3のエネルギーおよび化学反応により容易に当該被対象物Wからなる微粒子Pを脱離させてサンプリングを行うことを可能とする。
1.第1の大気圧プラズマ3a中の活性種が有するエネルギー
2.第1のレーザー光4aの照射により生じる熱エネルギー、光子(フォトン)のエネルギーまたは光化学反応
3.第1のレーザー光4aが第1の大気圧プラズマ3a中を通過することにより追加励起された活性種が有するエネルギー
【0062】
第1実施形態の本発明のサンプリングシステム1においては、例えば、
図2に示すような応用例を必要に応じて選択することができる。
【0063】
上記の本発明のサンプリングシステム1の第1実施形態の第1の応用例としては、
図2(a)に示すように、脱離室2内を第1の大気圧プラズマ3aによって満たす(大気圧プラズマ雰囲気とする)態様であり、具体的には、第1の大気圧プラズマ源3を脱離室2のキャリアーガス導入口Gの近傍に設けられた一対の電極3b,3cから形成し、当該一対の電極3b,3c間に電圧を印加することによって、キャリアーガス導入口Gから導入されるキャリアーガスを励起して第1の大気圧プラズマ3aとするものである。そして、第1のレーザー光源4は、被対象物Wに対して第1のレーザー光4aを照射可能に、脱離室2の天井部などに設けられる。本第1の応用例においても、必要に応じて確認用レーザー光源Mが設けられている。
【0064】
第1の応用例のサンプリングシステム1においては、キャリアーガスを励起することによって生成された第1の大気圧プラズマ3aによって内部が満たされた脱離室2の内部に被対象物Wを載置し、当該被対象物Wに対して、第1のレーザー光4aを照射して、当該被対象物Wからなる微粒子Pを脱離させてサンプリングを行う。脱離した微粒子Pは、脱離室2内が第1の大気圧プラズマ3aによって満たされているので、第1のレーザー光4aを照射することによって脱離した微粒子Pは、サンプリングガスの流れによって分析部S内へ導入される。
【0065】
このような、第1の応用例のサンプリングシステム1によれば、脱離室2の内部が第1の大気圧プラズマ3aによって満たされているので、被対象物Wから脱離した微粒子Pにエネルギーを与え続けて当該微粒子Pが被対象物Wに再付着することを抑制し、効率よくサンプリングを行うことが可能なサンプリングシステムを提供することを可能とする。
【0066】
また、上記の本発明のサンプリングシステム1の第1実施形態の第2の応用例としては、
図2(b)に示すように、第1の大気圧プラズマ源3から噴出される第1の大気圧プラズマ3aをキャリアーガスの代わりに用いる態様であり、具体的には、分析部S方向へ向かって第1の大気圧プラズマ3aを噴出可能に脱離室2の側壁に設けるものである。そして、第1のレーザー光源4は、当該第1の大気圧プラズマ3aの流れを通過して被対象物Wに対して第1のレーザー光4aが照射されるように、脱離室2の天井部に設けられる。本第2の応用例においても、必要に応じて確認用レーザー光源Mが設けられている。
【0067】
第2の応用例のサンプリングシステム1においては、分析部S方向に形成された第1の大気圧プラズマ3aの流れ中に被対象物Wを載置し、当該被対象物Wに対して、第1のレーザー光4aを照射し、微粒子Pを脱離させてサンプリングを行う。そして、脱離した微粒子Pは、第1の大気圧プラズマ4aの流れによって分析部S内へ導入される。
【0068】
このような、第2の応用例のサンプリングシステム1によれば、第1の大気圧プラズマ3aからなる気流により微粒子Pを搬送するので、分析部Sまで搬送する間、当該微粒子Pに対して第1の大気圧プラズマ3a中のエネルギーを与え続けて当該微粒子Pが被対象物Wに再付着することを抑制し、効率よくサンプリングを行うことが可能なサンプリングシステムを提供することを可能とする。
【0069】
また、第1実施形態の本発明のサンプリングシステム1および第1,2の応用例のサンプリングシステム1においては、第1のレーザー光源4は固定した構成とされているが、例えば、当該第1のレーザー光源4を幅方向、奥行き方向および高さ方向に自由に駆動可能な構成とし、被対象物Wの表面上において第1のレーザー光4aを走査させながらサンプリング可能に形成してもよい。このように、自由駆動可能な第1のレーザー光源4とすることにより、被対象物W上の位置情報を含むサンプリング(マッピング)や被対象物W上に存在する複数のポイントについて連続したサンプリングなどを行うことが可能なサンプリングシステム1を提供することができる。なお、走査しながらのサンプリングが実現可能なサンプリングシステム1は、被対象物Wを載置するステージを自由駆動可能な構成を採用して形成してもよい。
【0070】
第2実施形態における本発明のサンプリング方法は、分析に供するサンプルを被対象物からサンプリングするための方法であって、サンプリングを行う被対象物の表面近傍の空間を通過しながら分析部方向へ向かって第2のレーザー光が照射されている空間内において、被対象物の表面に対して、大気圧プラズマを接触させるとともに、第1のレーザー光を照射して、当該被対象物からなるサンプルを脱離させてサンプリングを行うものである。なお、本実施形態においては、本発明のサンプリング方法によって微粒子状のサンプルを得たものとして説明を行う。
【0071】
大気圧プラズマおよび第1のレーザー光については、第1実施形態において説明した態様を採用することができるので、説明を省略する。
【0072】
第2のレーザー光は、第1のレーザー光と同様に、既知のレーザー光源を用いて発生させることが可能であり、当該第2のレーザー光は被対象物に対して照射するものではないので、出力強度についても特に限定しない。
【0073】
また、第2のレーザー光は、その照射のタイミングを連続的方式もしくは間欠的方式に調節するなどの設定を行うことができる。このように、第2のレーザー光を照射した時にサンプリング量を増大することとなるので、得られたサンプルを分析に供する際に、ロックイン増幅などを行うことでノイズ信号の低減化を図ることが可能となりS/N(信号/ノイズ)比に優れた分析を行うことができる。
【0074】
このような、第2実施形態の本発明のサンプリング方法においては、被対象物に対して大気圧プラズマを接触させるとともに、第1のレーザー光を照射していることにより、当該被対象物から微粒子を脱離させてサンプルを得ることができる。さらに、被対象物の表面近傍に分析部方向へ向かう第2のレーザー光を照射していることにより、分析部に到達するまでの間、当該微粒子に対してエネルギーを与えることができるので、被対象物に対して当該微粒子が再付着することを防止して効率よくサンプリングを行うことを可能とする。
【0075】
上述の第2実施形態のサンプリング方法を実施するためのサンプリングシステムを
図3および
図4を用いて説明する。
【0076】
第2実施形態の前記サンプリング方法を実施するためのサンプリングシステム1は、
図3に示すように、被対象物Wを内部に載置可能な閉鎖系とされた脱離室2を備え、脱離室2には被対象物Wから脱離した微粒子Pを検出部Sへ搬送するためのキャリアーガスを導入するキャリアーガス導入口Gが備えられている。
【0077】
検出部Sとしては、第1実施形態のサンプリングシステム1と同様の装置を用いることができる。検出部Sの詳しい説明は、省略する。
【0078】
脱離室2は、
図3に示すように、第1の大気圧プラズマ3aを生成するための第1のプラズマ源3と、第1のレーザー光4aを発生させるための第1のレーザー光源4と、第2のレーザー光5aを発生させるための第2にレーザー光源5とを備えている。また、必要に応じて、被対象物W上において第1のレーザー光4aが照射される位置を確認するための照準確認用レーザー光を発生させる確認用レーザー光源を設けてもよい。
【0079】
第1のプラズマ源3および第1のレーザー光源4の構成は、第1実施形態のサンプリングシステム1と同様の態様のものを用いている。
【0080】
第2のレーザー光源5としては、特に出力強度を限定するものではないが、得られた微粒子Pの分子構造を分解しない強度のレーザー光を発生可能なレーザー光源であれば、ダイオードレーザー光源、YAGレーザー光源、CO
2レーザー光源などを用いることができる。第2のレーザー光源5は、
図3に示すように、脱離室2の内部に載置される被対象物Wのサンプリングを行う表面近傍の空間を通過しながら分析部S方向へ向かって第2のレーザー光5aを照射可能に脱離室2の側壁に設けられている。当該第2のレーザー光源5は、脱離室2内に載置される被対象物Wの高さに応じて上下移動可能に配置されており、照射時においては、当該被対象物Wに対して第2のレーザー光5aが当たらない位置に固定して用いる。
【0081】
このような、第2実施形態のサンプリングシステム1においては、被対象物Wの一部を微粒子化して分析に供するサンプルとして脱離させるとともに、当該微粒子Pが被対象物Wに対して再付着することを抑制することを目的としている。そして、第1実施形態のサンプリングシステム1において説明した下記の1〜3のエネルギーおよび化学反応によって容易に微粒子Pを脱離させるとともに、さらに、下記の4のエネルギーを与えることにより当該微粒子Pが被対象物Wに対して再付着することを抑制して、効率よくサンプリングを行うことを可能とする。
1.第1の大気圧プラズマ3a中の活性種が有するエネルギー
2.第1のレーザー光4aの照射により生じる熱エネルギー、光子(フォトン)のエネルギーまたは光化学反応
3.第1のレーザー光4aが第1の大気圧プラズマ3a中を通過することにより追加励起された活性種が有するエネルギー
4.被対象物Wの表面近傍の空間を通過しながら分析部S方向への空間を通る第2のレーザー光5aが有するエネルギー
【0082】
第2実施形態の本発明のサンプリングシステム1においては、
図4に示すように、第1実施形態のサンプリングシステム1における第1の応用例および第2応用例の態様を必要に応じて適用することができる。
【0083】
上記の本発明のサンプリングシステム1の第2実施形態の第1の応用例としては、
図4(a)に示すように、脱離室2内を第1の大気圧プラズマ3aによって満たす(大気圧プラズマ雰囲気とする)ことにより被対象物Wに対して第1の大気圧プラズマ3aを接触させる態様である。具体的には、脱離室2のキャリアーガス導入口Gの近傍に設けられた一対の電極3b,3cからなり当該一対の電極3b,3c間に電圧を印加することによってキャリアーガス導入口Gから導入されるキャリアーガスを励起して第1の大気圧プラズマ3aを生成する第1の大気圧プラズマ源3と、被対象物Wに対して第1のレーザー光4aを照射可能に脱離室2の天井部に設けられた第1のレーザー光源4と、脱離室2内に載置される被対象物Wのサンプリングを行う表面近傍の空間を通って分析部S方向へ向かう第2のレーザー光5aを照射する第2のレーザー光源5とを備えている。本第1の応用例においても、必要に応じて確認用レーザー光源Mが設けられている。
【0084】
このような、第1の応用例のサンプリングシステム1によれば、脱離室2の内部が第1の大気圧プラズマ3aによって満たされているとともに、被対象物Wのサンプリングを行う表面近傍の空間を通って分析部Sへ向かう第2のレーザー光5aが照射されていることにより、被対象物Wから脱離した微粒子Pに対して、分析部Sに到達するまでの間、第1の大気圧プラズマ3aと第2のレーザー光5aとからエネルギーを与え続けて当該微粒子Pが被対象物Wに再付着することを抑制し、効率よくサンプリングを行うことが可能なサンプリングシステムを提供することを可能とする。
【0085】
上記の本発明のサンプリングシステム1の第2実施形態の第2の応用例としては、
図4(b)に示すように、第1の大気圧プラズマ源3から噴出される第1の大気圧プラズマ3aをサンプリングに用いるとともに、キャリアーガスの代わりとしても用いる態様である。具体的には、脱離室2の側壁に設けられ分析部S方向に向かって第1の大気圧プラズマ3aを噴射する第1の大気圧プラズマ源3と、当該第1の大気圧プラズマ3aを通過して被対象物Wに対して第1のレーザー光4aを照射可能に脱離室2の天井に設けられた第1のレーザー光源4と、脱離室2内に載置される被対象物Wのサンプリングを行う表面近傍の空間を通って分析部S方向へ向かう第2のレーザー光5aを照射する第2のレーザー光源5とを備えている。本第2の応用例においても、必要に応じて確認用レーザー光源Mが設けられている。
【0086】
このような、第2の応用例のサンプリングシステム1によれば、第1の大気圧プラズマ3aからなる気流によって微粒子Pを分析部Sまで搬送することにより、当該第1の大気圧プラズマ3a中のエネルギーを与え続けるとともに、第2のレーザー光5aからエネルギーをも与え続けるので、当該微粒子Pが被対象物Wに再付着することを抑制し、効率よくサンプリングを行うことが可能なサンプリングシステムを提供することを可能とする。
【0087】
また、第2実施形態の本発明のサンプリングシステム1および第1,2の応用例のサンプリングシステム1においては、第1のレーザー光源4は固定配置された態様を用いて説明を行ったが、当該第1のレーザー光源4は、脱離室2内において、幅方向、奥行き方向および高さ方向に自在に駆動可能な構成もしくは駆動可能に配置されてもよい。当該第1のレーザー光源4を自在に駆動可能とすることにより、例えば、被対象物Wの表面上において第1のレーザー光4aを走査させながらサンプリングを行うことで、被対象物W上の位置情報を含むサンプリング(マッピング)や被対象物W上に存在する複数のポイントについて連続したサンプリングなどを行うことが可能なサンプリングシステム1を提供することができる。なお、被対象物W上を走査しながらのサンプリングは、例えば、被対象物Wを載置するステージを自在に駆動可能に形成することにより行ってもよい。
【0088】
第3実施形態における本発明のサンプリング方法は、分析に供するサンプルを被対象物からサンプリングをする方法であって、前述の第1実施形態および第2実施形態のサンプリング方法に加えて、分析部に導入される前のサンプルをイオン化してイオンサンプルとし分析部に導入するものである。なお、本実施形態においては、本発明のサンプリング方法によって微粒子状のサンプルを得たものとして説明を行う。
【0089】
脱離室2における、被対象物Wから微粒子Pを脱離させる方法は、第1実施形態および第2実施形態に記載に方法を採用することができる。
【0090】
脱離室2において得られた微粒子Pは、導入管9を介してキャリアガスの流れによってイオン化室に導入される。イオン化室においては、導入されたキャリアガスおよび微粒子Pに対して、第3のレーザー光を照射して微粒子Pに結合した水分子、H
3OおよびOHなどを分離して単純な分子構造とするとともに、第2の大気圧プラズマを接触させて微粒子Pを励起して微粒子イオンIの生成を行う。生成された微粒子イオンIは、キャリアガスの流れによって分析部Sへ導入される。
【0091】
さらに、キャリアガスに所定量の水蒸気を含ませることにより、イオン化室に導入されるキャリアガスおよび微粒子Pが有する水分量を適正にコントロールするようにしてもよい。これにより、予め、微粒子Pに付着している水分子の量が特定されているので、水分子の存在に影響されることがなく、さらに、水分があることで微粒子Pのイオン化効率を向上させることができるので、高感度での分析を行うことが可能なサンプルを得ることができる。
【0092】
上述の第3実施形態のサンプリング方法を実施するためのサンプリングシステムを
図5および
図6を用いて説明する。なお、脱離室2については、第1実施形態のサンプリングシステム1の態様を用いて説明する。
【0093】
第3実施形態の前記サンプリング方法を実施するためのサンプリングシステム1は、
図5に示すように、被対象物Wを内部に載置可能な閉鎖系とされた脱離室2を備え、脱離室2には被対象物Wから脱離した微粒子Pを検出部Sへ搬送するためのキャリアーガスを導入するキャリアーガス導入口Gが設けられている。当該脱離室2には、第1の大気圧プラズマ3aを噴出する第1のプラズマ源3と、第1のレーザー光4aを照射する第1のレーザー光源4とを備えている。また、第3実施形態の本発明のサンプリングシステム1においては、脱離室2と分析部Sとの間における分析部Sの近傍に、脱離室2から導入される微粒子Pをイオン化するためのイオン化室6を備えており、脱離室2とイオン化室6とは所定長さの導入管9を介して当該脱離室2からイオン化室6へキャリアーガスおよび微粒子Pを導入可能に接続されている。
【0094】
イオン化室6は、イオン化された微粒子イオンIがイオン化室6の内壁に捕集されないように絶縁性の部材で内張がなされている。イオン化室6には、第2の大気圧プラズマ7aを噴射するための第2のプラズマ源7と、第3のレーザー光8aを照射する第3のレーザー光源8とが設けられており、導入管9を介して脱離室2から導入されたキャリアーガスおよび微粒子Pに対して、第2の大気圧プラズマ7aを接触させるとともに、第3のレーザー光8aを照射して、第3のレーザー光8aによってキャリアーガスおよび微粒子Pに含まれる水などの分離を行うとともに、当該微粒子Pを励起して微粒子イオンIを生成する。
【0095】
第2のプラズマ源7は、特に限定するものではないが、例えば、導入された微粒子Pに対して第2の大気圧プラズマ7aを照射可能にイオン化室6の壁面に設けられた態様、イオン化室6内において第2の大気圧プラズマ7aを生成可能に一対の電極が設けられた態様などを採用することができる。
【0096】
第3のレーザー光源8については、特に出力強度を限定するものではないが、得られた微粒子Pの分子構造を分解しない強度のレーザー光を発生可能なレーザー光源を用いることが好ましい。
【0097】
なお、第2の大気圧プラズマ7aおよび第3のレーザー光8aは、微粒子Pに対する照射を連続的方式もしくは間欠的方式に調整するなど、照射のタイミングを設定することができる。
【0098】
また、イオン化室6には、図示を省略した、キャリアガスおよび微粒子Pとの混合物に対して水蒸気、アルコール類やエーテル類などの揮発性物質などからなるイオン化促進物質を導入して当該混合物に含まれる当該イオン化促進物質の量を制御するとともに、イオン化を促進させるためのイオン化促進手段を設けてもよい。これによって、微粒子Pのイオン化効率を向上させて、高感度な分析が可能なサンプルを得ることができる。
【0099】
このような第3実施形態のサンプリングシステム1においては、脱離室2において被対象物Wの一部を微粒子Pとして採取するとともに、当該微粒子Pを微粒子イオンIとしてイオン化させて分析部Sへ導入することを目的としている。そして、脱離部2においては、第1の大気圧プラズマ3aを接触させるとともに、第1のレーザー光4aを照射することにより、例えば、プラズマの照射だけではサンプリングが困難な物質からなる被対象物Wにおいても容易にサンプルとしての微粒子Pをサンプリングすることを可能とする。さらに、イオン化室6においては、キャリアーガスおよび微粒子Pに対して第3のレーザー光8aを照射することにより、微粒子Pから水分子、H
3OおよびOHなどを分離して単純な分子構造とするとともに、第2の大気圧プラズマ7aを接触させて微粒子Pから微粒子イオンIを生成するように構成されているので、イオンサンプルを分析部Sへ導入することを可能とする。このため、プラズマを接触させただけではイオン化が困難な物質からなる被対象物の場合においても、容易にイオン化して分析精度を向上させることをも可能とする。
【0100】
さらに、第3実施形態のサンプリングシステム1においては、イオン化室6内において微粒子Pをイオン化させる際に生じる発光を検出するための発光検出器を設けてもよい。イオン化室6内に発光検出器を設けることにより、脱離室2におけるサンプリングが適正に行われているか、イオン化室6におけるイオン化が適正に行われているかなどを確認することができる。また、分析に供するための微粒子イオンIを生成すると同時に、元素分析などを行うことをも可能とする。
【0101】
また、第3実施形態のその他の態様のサンプリングシステム1は、
図6に示すように、脱離室2とイオン化室6とを接続する導入管9に少なくとも2つ以上のリング状電極9aが設けられており、当該2つ以上のリング状電極9aに対して図示を省略した電源装置から電圧を印加することにより、導入管9内に第3の大気圧プラズマ10が生成されているものである。
【0102】
このような、第3実施形態のその他の態様のサンプリングシステム1においては、脱離室2からイオン化室6へ搬送中の微粒子Pに対して第3の大気圧プラズマ10を接触させているので、例えば、分子量が大きい物質や極性が大きい物質などのように再付着しやすい物質からなる微粒子Pであっても、失活させるることなく効率的にイオン化室6へ導入することを可能とする。
【0103】
上述のように、第1〜第3実施形態の本発明のサンプリング方法およびサンプリングシステム1によれば、サンプリングが行われる被対象物Wに対して極めて低侵襲であるとともに、位置分解能に優れ、プラズマの接触だけではサンプリングが困難な物質からなる被対象物Wにおいても当該対象物Wの性質に依存せずに容易にサンプリングを行うことを可能とする。
【0104】
また、第3実施形態の本発明のサンプリング方法およびサンプリングシステム1によれば、イオン化が困難な物質からなる微粒子Pについても、容易にイオン化させて微粒子イオンIとして分析を行うことができ、その結果、微粒子Pの分析精度を向上させることを可能とする。
【0105】
本発明のサンプリング方法およびサンプリングシステム1の実施の態様は、上述の第1〜第3実施形態に限定するものではなく、発明の特徴を損なわない範囲において、種々の変更が可能である。