【解決手段】本体20は、基体21と、対象物1との間に吸着力を発揮する吸着手段22と、を有し、吸着状態において密閉空間をなす凹部24が形成される。逆止弁40は、圧力制御装置60と凹部24とを連通する流路52上に設けられ、圧力制御装置60による減圧状態において凹部24から圧力制御装置60に向かう流れを許し、圧力制御装置60による加圧状態において反対の流れを阻止する。バルーン30は凹部24内に設けられ、圧力制御装置60と接続され、圧力制御装置60による加圧状態において膨張する。
前記逆止弁は、前記バルーンの内壁に沿って前記開口部とオーバーラップして設けられ、その一部が前記開口部の近傍において前記内壁と接合されているチェック弁層を含むことを特徴とする請求項2に記載の吸着装置。
前記吸着手段は、粘着性および弾性を有する粘着部材を含み、前記基体の前記対象物との接触面側に取り付けられることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の吸着装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
こうした従来の真空吸着パッドは、平坦な対象物に対しては有効であるが、凹凸を有する対象物に対する吸着力が弱いという問題がある。
【0006】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、さまざまな対象物に対しても吸着可能な吸着装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、吸着装置に関する。吸着装置は、本体と、逆止弁と、バルーンと、を備える。本体は、基体と、対象物との間に吸着力を発揮する吸着手段と、を有し、さらに吸着状態において密閉空間をなす凹部が形成されている。逆止弁は、圧力制御装置と凹部とを連通する流路上に設けられ、圧力制御装置による減圧状態において凹部から圧力制御装置に向かう流れを許し、圧力制御装置による加圧状態において反対の流れを阻止する。バルーンは圧力制御装置と接続されており、凹部内に設けられ、圧力制御装置による加圧状態において膨張する。
【0008】
圧力制御装置によって減圧状態を発生すると、凹部が形成する密閉空間が減圧されて負圧状態が形成され、吸盤として機能する。この吸盤の吸着力と吸着手段の吸着力が発揮されることにより、さまざまな対象物に吸着することができる。また、バルーンを加圧して膨張させると、吸盤としての機能が失われ、さらにバルーンが対象物を押すことにより、吸着手段による吸着を解除でき、吸着装置のヘッド部分を対象物から離脱させることができる。
【0009】
バルーンには開口部が設けられ、逆止弁は開口部に設けられてもよい。この場合、バルーンの内部が、密閉空間と圧力制御装置とを連通する流路として機能し、構造を簡素化できる。
【0010】
逆止弁は、バルーンの内壁に沿って開口部とオーバーラップして設けられ、その一部が開口部の近傍において内壁と接合されているチェック弁層を含んでもよい。チェック弁層は、バルーン内部を加圧すると開口部を塞ぎ、バルーン内部を減圧すると、チェック弁層から離れるように変形する。これにより逆止弁の機能を実現できる。
【0011】
吸着手段の吸着力は、粘着力、磁力、静電気力、ファンデルワールス力のいずれかであってもよい。
【0012】
吸着手段は、粘着性および弾性を有する粘着部材を含み、基体の対象物との接触面側に取り付けられてもよい。粘着部材は、ウレタンゲル、TPE(熱可塑性エラストマー)であってもよい。この場合の吸着手段は、密閉空間の密閉性を高める機能も発揮することとなり、吸盤としての吸着力をさらに高めることができる。
【0013】
本発明の別の態様も、吸着装置に関する。吸着装置は、凹部を有する本体と、粘着性および弾性を有し、本体の接触面側に凹部を囲む態様にて取り付けられる環状の粘着部材と、本体の凹部および粘着部材によって囲まれる密閉空間に収容され、開口部を有するバルーンと、バルーンの開口部に設けられ、バルーンの内部から外部へ向かう流れを阻止し、バルーンの外部から内部へ向かう流れを許す逆止弁と、バルーンの内部の圧力を制御する圧力制御装置と、を備える。
【0014】
吸着装置は、密閉空間の圧力を測定する圧力センサをさらに備えてもよい。これにより、吸着状態と非吸着状態を判別でき、あるいは吸着状態における吸着力を推定することができる。
【0015】
吸着装置は、バルーンの圧力を制御する圧力制御装置と、バルーンと圧力制御装置を接続するチューブと、をさらに備えてもよい。
【0016】
吸着装置は、チューブ内に設けられたフィルタをさらに備えてもよい。これにより、ほこりやごみを除去できる。
【0017】
圧力制御装置は、ポンプと、第1状態においてポンプの第1端をバルーンと接続し、第2状態において、ポンプの第1端を排気側と接続する第1電磁弁と、第1状態において、ポンプの第2端を吸気側と接続し、第2状態においてポンプの第2端をバルーンと接続する第2電磁弁と、を含んでもよい。これによりひとつのポンプで、加圧状態と減圧状態を生成できる。
【0018】
本発明の別の態様は飛行ロボットに関する。飛行ロボットは、マルチコプターと、マルチコプターに取り付けられた上述のいずれかの吸着装置と、を備えてもよい。
吸着装置は、マルチコプターの上側に取り付けられてもよい。これにより、飛行ロボットは、天井に張り付くことが可能となる。吸着装置は、マルチコプターの前方に取り付けられてもよい。これにより、飛行ロボットは、壁面に張り付くことが可能となる。吸着装置は、マルチコプターの下方に取り付けられてもよい。これにより、飛行ロボットは、対象物を搬送することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のある態様に係る吸着装置によれば、さまざまな対象物に吸着可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0022】
(第1の実施の形態)
図1(a)は、第1の実施の形態に係る吸着装置の断面図であり、
図1(b)はその底面側からみた平面図である。吸着装置10は、対象物1に吸着する。対象物1は特に限定されず、建物や橋梁の壁面、天井、柱などであってもよい。あるいは、対象物1は、工業製品、電子部品、食品、半導体ウェハなどであってもよい。
【0023】
吸着装置10は、本体20、バルーン30、逆止弁40、チューブ50、圧力制御装置60を備える。本体20、バルーン30、逆止弁40を、吸着ヘッド12とも称する。吸着ヘッド12は、圧力制御装置60と着脱可能であってもよい。
【0024】
本体20は、基体21および吸着手段22を備える。吸着手段22は、対象物1との間に吸着力を発揮する。本体20には、吸着状態において対象物1との間に密閉空間をなす凹部24が形成されている。
【0025】
基体21の材質は特に限定されないが、ゴム、エラストマー、プラスチックなどを用いることができる。一例としてニトリルを用いてもよい。また基体21の形状は底面側からみたときに円形であることが好ましいが、矩形や楕円、多角形等であってもよい。
【0026】
吸着手段22の吸着力は、粘着力、磁力、静電気力のいずれかを利用することができる。本実施の形態において吸着力は粘着力であり、吸着手段22は、基体21の対象物との接触面側に、凹部24を囲む態様にて取り付けられる環状の粘着部材である。別の観点からみると、吸着手段22が、凹部24の外形をなしているとも言える。粘着部材は、ウレタンゲルなどの粘着性および弾性を有する材料が好適である。
【0027】
逆止弁40は、圧力制御装置60と凹部24とを連通する流路52上に設けられ、(i)圧力制御装置60による減圧状態において、凹部24から圧力制御装置60に向かう流れを許し、(ii)圧力制御装置60による加圧状態において反対の流れを阻止する。逆止弁40の構造、形式は特に限定されず、ボール式、ポペット式、スイング式、ウエハー式、リフト式、フート式などを用いることができる。
【0028】
バルーン30は、本体20の凹部24内に収容されており、チューブ50を介して圧力制御装置60と接続され、バルーン30の内部32に収容される空気や窒素などの気体の圧力が、圧力制御装置60によって制御可能となっている。バルーン30は内部32の加圧状態において、凹部24からはみ出るように膨張する。チューブ50の内部には、フィルタ54を設けてもよい。これにより、動作中に吸い込んだほこりやごみを除去できる。
【0029】
より詳しくは、本実施の形態において、バルーン30には開口部34が設けられ、この開口部34は、圧力制御装置60と凹部24とを連通する流路52を形成する。そして逆止弁40は、開口部34に設けられる。逆止弁40は、バルーン30を加圧したとき、言い換えればバルーン30の内部32の圧力の方が凹部24の圧力より高いときに閉状態となり、したがってバルーン30は膨張する。バルーン30を減圧したとき、言い換えればバルーン30の内部32の圧力の方が凹部24の圧力より低いときには逆止弁40は開状態となり、したがって凹部24が減圧される。
【0030】
図1(a)では、開口部44がバルーン30の底面側に形成されるが、バルーン30の上面側に形成してもよい。
【0031】
以上が吸着装置10の構成である。続いてその動作を説明する。
図2(a)は、
図1の吸着ヘッド12と対象物1との吸着動作を、
図2(a)は、吸着ヘッド12の対象物1からの離脱動作を示す。
【0032】
図2(a)を参照し、吸着動作を説明する。吸着ヘッド12と対象物1が接触すると、吸着手段22の粘着力によって、対象物1との間に吸着力が発生する。そして対象物1と本体20によって密閉空間が形成される。吸着手段22は粘弾性を有するため、吸着手段22と対象物1は密着することとなり、密閉空間の空気の漏れを非常に小さくできる。これは吸盤としての吸着力を高めることに寄与する。
【0033】
圧力制御装置60によってバルーン30の内部32を減圧すると、逆止弁40が開状態となり、開口部34を介して内部32と凹部24が連通する。この状態では、バルーン30の内部32の内部圧と本体20の密閉空間の圧力は実質的に等しくなる。バルーン30の内部32を減圧すると、それにともなって凹部24が対象物1とともに形成する密閉空間の圧力pが低下する。密閉空間に負圧p<p
EXT(p
EXTは大気圧)が形成されると、本体20および吸着手段22が吸盤として機能し、吸着力が発生する。以上が吸着動作である。
【0034】
続いて
図2(b)を参照し、離脱動作を説明する。圧力制御装置60によってバルーン30の内部32を加圧すると、逆止弁40が閉状態となり、開口部34が塞がれる。この状態でバルーン30の内部32を加圧すると、バルーン30が膨張する。バルーン30の膨張によって凹部24の負圧状態が解除され、吸盤としての機能が失われる。さらにバルーン30を膨張させると、バルーン30が対象物1を押す力が発生する。この力が、吸着手段22と対象物1の間の吸着力(粘着力)を上回ると、吸着手段22が対象物1から剥がされ、吸着ヘッド12が対象物1から完全に離脱する。
【0035】
以上が吸着装置10の動作である。吸着装置10の利点を説明する。吸着装置10は、吸盤による吸着力と吸着手段22による粘着力の合力によって、対象物1に吸着する。すなわち吸着手段22の粘着性によって、表面に凹凸形状を有する対象物1に対して、確実に吸着することができる。また吸着手段22が対象物1に対して密着することで、吸着装置10と対象物1の間に形成される密閉空間の気密性を高めることができるため、吸盤としての吸着力を高めることができる。つまり吸着手段22による吸着力(粘着力)と、吸盤としての吸着力が相乗効果を発揮する。
【0036】
対象物1が棒状等であり、密閉空間を形成できない場合には、吸盤としての機能が発揮されないが、この場合にも、吸着手段22の粘着力によって、吸着ヘッド12は対象物1に吸着することができる。
【0037】
また圧力制御装置60に故障や異常が発生して吸盤の吸着力が低下した場合に、吸着手段22の粘着力によって吸着状態を維持できる。
【0038】
続いて吸着装置10の具体的な構成例を説明する。
図3(a)は、バルーン30および逆止弁40の組立斜視図である。バルーン30は、第1シート70および第2シート72を含む。第1シート70、第2シート72は、たとえばウレタンシートであってもよい。第1シート70、第2シート72は、実質的に同一径を有し、それらの縁部74において接合されている。接合は、溶着が好ましいが接着剤を用いてもよい。第1シート70には開口76が設けられ、チューブ50が開口76と接合される。また第2シート72には、
図1の開口部34に相当する開口78が設けられる。
【0039】
チェック弁層80は、バルーンの内壁をなす第2シート72の表面側に開口部34(78)とオーバーラップして設けられる。チェック弁層80は、そのハッチングを付した一部82が開口部34の近傍において内壁(第2シート72の表面)と接合されている。
【0040】
図3(b)、(c)は、逆止弁40の動作を説明する図である。
図3(b)は加圧状態を示す。バルーン30の内部32を加圧すると、チェック弁層80が第2シート72に抑え付けられて開口78が塞がり、逆止弁40が閉状態となる。
図3(c)は減圧状態を示す。バルーン30の内部32を減圧すると、チェック弁層80の非接合箇所が、第2シート72から離間するように変形し、逆止弁40が開状態となり、開口78を介した流路84(
図1(a)の流路52)が形成される。
【0041】
なお
図3では、チェック弁層80は、その二辺において第2シート72と接合されるが、1辺のみ、あるいは3辺において第2シート72と接合されてもよい。またチェック弁層80の形状は矩形に限定されるものでもない。
【0042】
また逆止弁40をバルーン30の上側に設ける場合、第1シート70側に開口78を形成し、開口78とオーバーラップしてチェック弁層80を接合すればよい。
【0043】
本発明者らは、吸着装置10を作製し、その特性を測定した。作製した吸着装置10は、バルーン30および逆止弁40については、
図3の構造を有しており、第1シート70、第2シート72は、エクシールコーポレーション社製の人肌ゲル(ウレタンゲル)を厚さ0.2mmに成形したものを用いている。第1シート70、第2シート72の厚みは0.2mmである。また第1シート70、第2シート72の直径は44mm、第1シート70、第2シート72の縁部幅は2mmである。開口78の直径は1mmである。逆止弁40付きのバルーン30の重量は0.8gであり、耐圧は0.3MPa以上である。また加圧前のバルーン30の厚みは0.7mmであり、加圧状態の厚みは25mmとなった。本体20は、PISCO社製の真空パッド(品番VPA50RN6J)を用いた。
【0044】
図4(a)、(b)は、作製した吸着装置10の吸着力の測定結果を示す図である。
図4(a)には、アルリル板に対する吸着力が、
図4(b)には、凹凸を有する石膏ボードに対する吸着力が示される。
図4(a)、(b)には、測定結果(Experiment)とともに、理論計算値(Theoretical)が示される。縦軸は力Fを、横軸は圧力pを表している。
【0045】
吸着装置10が発生する吸引力Fは、式(1)で与えられる。
F=F
SUCKER+F
GEL …(1)
F
SUCKERは、吸盤としての吸引力であり、式(2)で表され、密閉空間の圧力p[Pa]に比例する。
F
SUCKER=S1×p …(2)
ただしS1は、
図1(a)において吸着手段22に囲まれる面積[m
2]である。
【0046】
またF
GELは、吸着手段22の粘着力であり、式(3)で表される。
F
GEL=S2×p
GEL …(3)
S2は吸着手段22と対象物1の接触面積[m
2]であり、p
GELは吸着手段22の単位面積あたりの粘着力[Pa]である。p
GELは、対象物1に依存する定数である。
図4(a)、(b)に示すように、理論計算値と実測値はよく一致してる。
図4(a)、(b)において、圧力pをゼロとしたときの力Fは、粘着力F
GELに相当し、また力Fの傾きは、面積S1に応じている。
【0047】
比較のために、直径50mmの市販の吸盤を石膏ボードに貼付けを試みたが、吸着力は発揮されず、貼り付くことはできなかった。実施の形態に係る吸着装置10によれば、従来の吸盤が貼り付くことができない凹凸面に対しても、強い吸着力が発揮されることが示されている。
【0048】
続いて、圧力制御装置60の構成例を説明する。
図5(a)、(b)は、圧力制御装置60の構成例を示す図である。
図5(a)は加圧状態を、
図5(b)は減圧状態を示す。
圧力制御装置60は、ポンプ62、第1電磁弁64、第2電磁弁66を備える。
【0049】
ポンプ62は、吸気側の第1端、排気側の第2端を有する。第1電磁弁64は、第1状態φ1においてポンプ62の第1端をバルーン30と接続し、第2状態φ2において、ポンプ62の第1端を排気弁68と接続する。第2電磁弁66は、第1状態φ1において、ポンプ62の第2端を吸気弁69と接続し、第2状態φ2においてポンプ62の第2端をバルーン30と接続する。
【0050】
この圧力制御装置60によればひとつのポンプ62で、
図5(a)の加圧状態と
図5(b)の減圧状態を生成できる。圧力制御装置60(あるいは吸着装置10)は、密閉空間の圧力を測定する圧力センサ90をさらに備えてもよい。吸着状態において、チューブ50、バルーン30の内部32、密閉空間の圧力は実質的に等しい。そこで圧力センサ90は、本体20に取り付けられて、密閉空間の圧力を直接的に測定してもよいし、チューブ50あるいは圧力制御装置60に取り付けられて、密閉空間の圧力を間接的に測定してもよい。
【0051】
密閉空間の圧力pを測定することにより、吸着装置10が吸着状態にあるか、離脱状態にあるかを検出できる。また吸着状態において、どれほどの吸着力が発生しているかを推定することができる。
【0052】
さらに圧力センサ90の出力にもとづいて推定される吸着力が所定のしきい値より高い場合にはポンプ62を動作させ、推定される吸着力がしきい値より小さい場合には、ポンプ62を再始動してもよい。このようにポンプ62を圧力センサ90の出力に応じて間欠動作させることにより、エネルギー効率を高めることができる。
【0053】
(第2の実施の形態)
図6は、第2の実施の形態に係る吸着ヘッド12a(吸着装置10a)の断面図である。第1の実施の形態では、バルーン30に流路52をなす開口部34が設けられたが、第2の実施の形態では、基体21に、凹部24と圧力制御装置60とを連通する流路52が設けられ、逆止弁40は、流路52上に設けられている。
図6では逆止弁40をボール弁として示すが、その限りではない。
【0054】
第2の実施の形態によれば、バルーン30上に逆止弁40を形成する場合に比べて、逆止弁40の形状、構造、大きさに対する制約を緩和できる。なおこの場合も、圧力制御装置60に
図5(a)、(b)と同様に構成を適用してもよく、この場合、吸着装置10全体は、
図7(a)、(b)に示す回路で表せる。
【0055】
(第3の実施の形態)
図8は、第3の実施の形態に係る吸着ヘッド12b(吸着装置10b)の断面図である。これまでの吸着装置10では、吸着手段22が対象物1と密着することで、吸盤の密閉空間の気密性が確保されていた。第3の実施の形態では、密閉空間の気密性を高めるための弾性部材26が、吸着手段22bとは別に設けられている。弾性部材26には粘着性は不要であり、対象物1に対して密着可能な粘弾性を有していればよい。この場合、吸着手段22には密閉空間の気密性を高める機能は不要であるため、吸着手段22は必ずしも凹部24を囲む環状である必要は無い。
【0056】
以上、吸着装置10について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0057】
(バルーンについて)
図9(a)〜(c)は、バルーン30の変形例を示す図である。
図9(a)のバルーン30aはドーナツ型である。すでに説明したバルーン30の場合、
図2(b)に示したように、膨張による離脱時に、対象物1に対して底面側の狭い領域のみで接することとなる。したがって吸着ヘッド12の上に、質量の大きな物体が取り付けられている場合、物体が接地領域を支点として傾き、バランスが損なわれる場合がある。
図9(a)のドーナツ型のバルーン30aでは、対象物1に対して、広い面積で接することができるため、離脱時のバランスを保つことができる。
【0058】
またバルーン30aと吸着手段22は、同心のドーナツ形状であるため、バルーン30aによる離脱力は、吸着手段22が発生する吸着力に沿って発生する。したがって吸着手段22の全周を均一に、対象物1から引きはがすことができる。
【0059】
図9(b)のバルーン30bは、加圧により高さ方向に伸延する円柱形状であり、たとえばベローズであってもよい。バルーン30bを円柱状とすることで、離脱時の対象物1との接地面積を大きくでき、点接地に比べてバランスを改善できる。またドーナツ状の場合と同様に、吸着手段22の全周を均一に対象物1から引きはがすことができる。
【0060】
図9(c)のバルーン30cは、らせん状のチューブであり、加圧により高さ方向に伸延する。
【0061】
(吸着手段について)
これまでの実施の形態では、吸着手段22として、粘着力を有する粘着部剤を用いたが、それには限定されない。吸着手段22は磁力、静電気力あるいはファンデルワールス力を利用してもよい。たとえば対象物1が金属である場合には、吸着手段22として永久磁石を用いてもよい。
【0062】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【0063】
(用途)
最後に、吸着装置10の用途の一例を説明する。
図10(a)、(b)は、吸着装置10を備える飛行ロボット100の斜視図である。飛行ロボット100は、マルチコプター102と、少なくともひとつの吸着装置10を備える。飛行ロボット100は、危険建物内や橋梁検査、放射線濃度が高い現場など、人間の進入が困難な作業環境において、人間に代わり情報収集やメンテナンス作業を行う無人飛行ロボット(Unmanned Aerial Vehicle :UAV)であってもよい。
【0064】
図10(a)のマルチコプター102は、マルチコプター102の上側に設けられた吸着装置10_1と、マルチコプター102の前方に設けられた吸着装置10_2と、を備える。吸着装置10_1によって天井への吸着が可能となり、吸着装置10_2によって壁面への吸着が可能となる。
【0065】
マルチコプター102は1kg以下のものが多く市販されており、
図4に示すように、吸着装置10によれば数十Nの吸着力を発揮できるため、1kgの機体を壁面や天井に固定しておくことは容易である。
【0066】
飛行ロボット100はバッテリで飛行するため、飛行時間には限りがあり、従来の飛行ロボットの作業時間は、バッテリ容量によって制約を受けていた。これに対して
図10(a)の飛行ロボット100では、壁面や天井に吸着して静止することができる。静止状態においては、プロペラの回転を停止することにより、飛行ロボット100の作業時間を飛躍的に延ばすことが可能となる。上述のように吸着装置10は、凹凸を有する対象物1に対して大きな吸着力を発揮できるため、機体を、コンクリート、石膏ボード、塗装された鉄骨などさまざまな構造体に固定することができる。
【0067】
図10(b)の飛行ロボット100はマルチコプター102の下側に吸着装置10_3を備える。吸着装置10_3によって、さまざまな形状、構造を有する対象物1を把持し、それを搬送することが可能となる。
【0068】
吸着装置10_1〜10_3において、吸着手段22にウレタンゲルなどの粘着部材を用いると、機体の着脱を繰り返すうちに粘着力が低下していく。そこで、飛行ロボット100には、吸着手段22を清掃する清掃手段を設けてもよい。清掃手段は、アルコールなどの洗浄液を染みこませた刷毛と、刷毛と吸着手段を接触させながら相対的に移動せしめるアクチュエータで構成してもよい。
【0069】
そのほか、吸着装置10は、産業用ロボット、工場の生産ラインのマニピュレータなどにも利用可能である。
【0070】
実施の形態にもとづき、具体的な用語を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。