(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-213772(P2017-213772A)
(43)【公開日】2017年12月7日
(54)【発明の名称】表面改質装置
(51)【国際特許分類】
B29C 71/04 20060101AFI20171110BHJP
【FI】
B29C71/04
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-109115(P2016-109115)
(22)【出願日】2016年5月31日
(11)【特許番号】特許第6183870号(P6183870)
(45)【特許公報発行日】2017年8月23日
(71)【出願人】
【識別番号】000183738
【氏名又は名称】春日電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076163
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋 宣之
(72)【発明者】
【氏名】小木曽 智
(72)【発明者】
【氏名】森下 貴生
(72)【発明者】
【氏名】稲村 達也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 純也
(72)【発明者】
【氏名】杉村 智
【テーマコード(参考)】
4F073
【Fターム(参考)】
4F073BB01
4F073CA22
4F073CA27
4F073HA01
4F073HA08
4F073HA10
4F073HA12
(57)【要約】
【課題】放電電極からガスを直接放出させるとともに、それを簡単に構成できるようにする。
【解決手段】 電極チャンバーC内の放電電極Eは、フィルムFの幅以上の長さを有する一対の電極部8,9からなる。そして、これら一対の電極部材8,9は、当該電極部材とほぼ同じ長さを有する支持部材4を挟持して対向配置されるとともに、これら一対の電極部材8,9の対向部分にすき間が形成され、このすき間をガス通路15として放電電極の先端に開放している。一方、上記支持部材4には、その長手方向に複数のガス誘導孔5を形成するとともに、このガス誘導孔をガス供給系統に連通させている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極チャンバーに、フィルム等の処理基材の幅以上の長さを有する放電電極を備えるとともに、
この放電電極が、処理基材を搬送する処理ローラに対向し、
これら放電電極と処理ローラとの間で放電させる表面改質装置であって、
上記放電電極は、上記処理基材の幅にほぼ一致する長さを有する一対の電極部材からなり、
これら一対の電極部材は、当該電極部材とほぼ同じ長さを有する支持部材を挟持して対向し、
上記電極部材の上記対向部分に形成されるすき間をガス通路とするとともに、
このガス通路の先端が、放電電極と処理ローラとの対向部分に開放される一方、
支持部材には、置換ガス供給系統に連通するガス誘導孔が、当該支持部材の長手方向に複数形成され、
このガス誘導孔が上記ガス通路に連通する表面改質装置。
【請求項2】
上記支持部材とほぼ平行にしたマニホールドパイプが設けられ、このマニホールドパイプの長手方向に複数の小孔もしくはスリットが形成され、これら小孔もしくはスリットが上記ガス誘導孔に連通する請求項1記載の表面改質装置。
【請求項3】
上記一対の電極部材のそれぞれの先端が円弧状に形成された請求項1又は2記載に記載の表面改質装置。
【請求項4】
上記一対の電極部材のそれぞれの先端に、上記処理基材の搬送方向にほぼ直交する方向に長さを有する渦流生成溝が形成された請求項1〜3のいずれか1に記載の表面改質装置。
【請求項5】
コロナ放電のエネルギー源である高電圧源の出力及び処理ローラの回転速度を制御するコントローラが備えられた請求項1〜4のいずれか1に記載の表面改質装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、フィルム等の処理基材の表面に放電エネルギーを作用させて、その基材表面を改質する表面改質装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の表面改質装置は、電極チャンバー内に、放電電極を設けるとともに、この放電電極に対向して処理ローラを設けている。そして、電極チャンバー内に、表面改質の目的応じた置換ガスを供給して、電極チャンバー内を置換ガスの雰囲気に保って、放電電極に高周波電圧を印加し、放電電極と処理ローラとの間でコロナ放電をさせる。
上記のようにしたコロナ放電による放電エネルギーで、処理ローラに沿って搬送されるフィルム等の表面を改質している。
【0003】
そして、電極チャンバー内の置換ガスの種類や濃度に応じて、上記コロナ放電中に生成されるプラズマの量や質が異なってしまう。もし、プラズマの量や質が異なると、フィルム等の表面改質にも悪影響を及ぼす。
したがって、置換ガスの種類や濃度の管理は重要になるが、置換ガスの種類はあらかじめ決められるので、選択の適正さえ確保されていれば、それほど問題にならない。
【0004】
しかし、ガス濃度は、表面改質処理中においても、電極チャンバー内に流入するエアなどの影響を受けやすい。もし、ガス濃度が変化すれば、上記したようにプラズマの量や質が異なってしまい、目的の表面改質ができなくなる。
【0005】
また、電極チャンバーの大きさは、処理ローラで搬送されるフィルムの大きさに対応しなければならない。例えば、フィルムの幅は10mに達するものもあるので、この幅に対応する電極チャンバーの容積はかなり大きなものになる。
このように大きな容積の電極チャンバーで、その中のガス濃度を一定に保つためには、置換ガスの供給量を多くせざるを得ず、生産効率が悪くなってしまう。
【0006】
そこで、放電電極と処理ローラとの間の放電部分という局所に、置換ガスを直接供給する方法が、特許文献1及び2に開示されている。
例えば、特許文献1に開示された装置は、放電電極から置換ガスを直接供給するようにしている。このようにすれば、放電電極と処理ローラとの間の放電部分という局所に、置換ガスを直接供給できるので、その局所における置換ガスの濃度を一定に保ちやすくなる。しかも、電極チャンバー全体に置換ガスを充満させなくてもすむので、その分、置換ガスの使用量も抑制できる。
【0007】
そして、特許文献1の装置の放電電極は、フィルム幅にほぼ対応する長さを有するブロックからなるとともに、そのブロックの長さ方向にスリットを形成し、このスリットを、置換ガスを供給するパイプに連結している。
したがって、パイプに置換ガスを供給すれば、そのガスはスリットから、放電部分に直接供給されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平06−002830号公報
【特許文献2】特開2001−131313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のようにした特許文献1に記載された表面改質装置では、もし、フィルム幅に合わせて放電電極の長さを長くしたとき、その長さに対応するスリットを形成しなければならない。
しかし、スリットを長くすればするほど、その幅や深さを一定に保つのが難しくなる。もし、スリットの幅や深さが一定しないと、置換ガスの噴出圧が変化して、プラズマの量や質も変化してしまい、表面改質の安定性が損なわれるという問題が発生する。
【0010】
また、表面改質の安定性を保つために、スリットの幅や深さを正確に形成しようとすると、加工精度が求められるので、その分、ブロックからなる放電電極の生産性が悪くなる。
さらに、放電電極をブロックで形成しているので、そのブロックの端部に角部ができてしまう。このように角部があると、その角の部分に放電が集中してしまうので、その角部が他の部分よりも劣化度が大きくなり、ガスを供給する通路系統を含めた放電電極の寿命を短くするという問題もあった。
この発明の目的は、生産性を向上させる表面改質装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明は、電極チャンバー内の放電電極は、フィルム等の処理基材の幅以上の長さを有する一対の電極部材からなる。そして、これら一対の電極部材は、当該電極部材とほぼ同じ長さを有する支持部材を挟持して対向配置されるとともに、これら一対の電極部材の対向部分にすき間が形成され、このすき間をガス通路として放電電極の先端に開放している。
【0012】
一方、上記支持部材には、その長手方向に複数のガス誘導孔を形成するとともに、このガス誘導孔をガス供給系統に連通させている。
したがって、ガス供給系統から導かれた置換ガスは、支持部材のガス誘導孔からガス通路を通って、放電電極の先端から放出される。
このように支持部材のガス誘導孔から置換ガスがガス通路に導かれるので、その置換ガスの供給量は、ガス誘導孔の長さと直径でほぼ決まることになる。
【0013】
第2の発明は、上記支持部材とほぼ平行にしたマニホールドパイプが設けられ、このマニホールドパイプの長手方向に複数の小孔もしくはスリットが形成されている。そして、上記マニホールドパイプに導かれた置換ガスは、上記ガス誘導孔に導かれる。このとき、ガス誘導孔が、置換ガスの流れに対して絞り抵抗を付与する機能を果たす。
【0014】
上記のようにガス誘導孔が、置換ガスの流れに対して絞り抵抗を付与する機能を果たすので、マニホールドパイプ内の圧力を一定に保つことができ、その分、複数のガス誘導孔から放出される置換ガスの量も一定に保つことができる。
【0015】
第3の発明は、上記一対の放電電極のそれぞれの先端が円弧状に形成されている。
電極部材の先端を円弧状にして、角部を取り除いたので、放電電極の先端の一部に放電が集中したりしない。
【0016】
第4の発明は、上記一対の放電電極のそれぞれの先端に、上記処理基材の搬送方向にほぼ直交する方向に長さを有する渦流生成溝が形成されている。
このようにした渦流生成溝で渦流が形成されれば、フィルム等の処理基材に同伴する同伴流が、放電部分に流入するのを阻止できる一方、放電部分から置換ガスが流出するのを阻止できる。
【0017】
第5の発明は、コロナ放電のエネルギー源である高周波電源の出力及び処理ローラの回転速度を制御するコントローラが備えられている。
したがって、処理基材の搬送速度と放電電流とを相対的に制御できる。特に、この発明は、放電部分という局所に直接置換ガスを供給するので、置換ガスの量を少なくできる。このように量の少ない置換ガスを有効に作用させるためには、放電電流の大きさと処理基材の搬送速度とに依存する。上記コントローラは処理基材の搬送速度と放電電流とを相対的に制御して、少量の置換ガスでも安定した効果を発揮させることができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明の表面改質装置によれば、ガスを放電電極の先端に導くためには、支持部材にガス誘導孔を形成すればよく、それは孔開け加工だけ足りる。したがって、従来のように長い範囲でスリットを形成する必要がまったくない。
そして、孔開け加工は工具を選択するだけで、一定の大きさの孔を形成できるので、孔径のバラツキがない。孔径にバラツキがないので、そこから供給される置換ガスの量や勢いを安定させることができる。
したがって、放電電極の生産性が向上することになる。
しかも、放電電極が劣化したとしても、電極部材だけを交換すればよいので、交換が簡単であるとともに、例えば支持部材まで交換する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は電極チャンバー内を示す拡大図である。
【
図2】
図2は放電電極の長手方向の図で、その一部をカットしたものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図示の実施形態は、フィルムFを矢印a1方向に搬送する図示していない処理ローラに電極チャンバーCの開口を対向させている。
上記電極チャンバーCの開口とは反対側に固定したガイシ1及び連結部材2を介して、図示していないガス供給源に接続したマニホールドパイプ3を固定している。そして、このマニホールドパイプ3は、フィルムFの幅以上の長さを保持している。
また、このマニホールドパイプ3であって、上記連結部材2とは反対側面には、マニホールドパイプ3とほぼ同じ長さを有する支持部材4を図示していないビス等で固定している。
【0021】
このようにした支持部材4には、その長手方向に一定の間隔を保った複数のガス誘導孔5を形成し、これらガス誘導孔5を、マニホールドパイプ3に形成した小孔6に連通させている。
したがって、マニホールドパイプ3に導入された置換ガスは、上記小孔6からガス誘導孔5に導かれる。
なお、上記ガス誘導孔5は、必ずしも、孔に限定されるものではなく、例えば、多孔焼結セラミックフィルタや、ハニカムフィルタ等でもよく、要するに、そこを通過するガス流に絞り抵抗を付与し、マニホールドパイプ内の圧力が均一に保たれれば、その形態は、問わない。
さらに、上記支持部材4の先端部分には、外側に張り出した掛止め突部7を形成し、この掛止め突部7に、次に説明する放電電極Eを掛け止めるようにしている。
【0022】
上記放電電極Eは、処理基材であるフィルムFの幅以上の長さを有する板状の一対の電極部材8,9からなる。
これら一対の電極部材8,9は互いに対向させるが、それら対向面には、当該電極部材8,9の長さ方向に連続する掛止め凹部10,11を形成している。
【0023】
さらに、上記電極部材8,9の先端部分には、2つの円弧を連続させるとともに、それら円弧間に渦流生成溝12,13が形成されるようにしている。この渦流生成溝12,13は上記電極部材8,9の長さに相当する長さを備えている。
【0024】
上記のようにした電極部材8,9は、その掛止め凹部10,11を、支持部材4の掛止め突部7にはめ合わせることによって、支持部材4を挟んで対向するとともに、対向した一対の電極部材8,9をホルダ14で挟持している。
このようにホルダ14で挟持することによって、電極部材8,9の掛止め凹部10,11が掛止め突部7から外れなくなり、電極部材8,9は支持部材4にしっかりと支持される。
【0025】
また、支持部材4に支持された一対の電極部材8,9の対向部分には、電極部材8,9の長さに相当するすき間が連続するが、このすき間がガス通路15となる。そして、上記複数のガス誘導孔5のすべてが、このガス通路15に連通する。しかも、上記ガス通路15は、放電電極Eと上記処理ローラとの対向部分に開放される。
【0026】
なお、上記マニホールドパイプ3、支持部材4及び電極部材8,9のそれぞれは、導電体で構成されるとともに、マニホールドパイプ3を高圧電源16に接続することによって、放電電極Eと図示していない上記処理ローラとの間で、コロナ放電が発生する。
また、この実施形態には、コロナ放電のエネルギー源である高圧電源16の出力及び上記処理ローラの回転速度を制御する図示していないコントローラを備えている。
【0027】
上記のような構成のもとで、マニホールドパイプ3に置換ガスを供給すると、その置換ガスは、小孔6及びガス誘導孔5を通ってガス通路15から矢印a2方向に放出される。つまり、この置換ガスは、一対の電極部材8,9の間から放出されることになり、まさに、放電電極Eから直接放出されたことになる。
【0028】
しかも、ガス誘導孔5は、支持部材4の厚さ方向の分だけ長さを確保できるので、ガス誘導孔5を通るガス流に対して絞り抵抗を付与することになる。そのために、ガス誘導孔5の上流側であるマニホールドパイプ3内の圧力も均一に保たれ、複数のガス誘導孔5から放出されるガス圧も均等になる。また、ガス供給源側において多少の圧力変化があったとしても、マニホールドパイプ3がバッファーとして機能する。したがって、ガス供給源側の多少の圧力変動は、表面改質にほとんど影響しない。
【0029】
さらに、ガス誘導孔5の長さを上記のようにある程度長くできるので、マニホールドパイプ3内の圧力保持機能と相まって、ガス誘導孔5から放出されるガス流に指向性を持たせることができる。このようにガス流に指向性を持たせられるので、置換ガスの拡散を防止し、その濃度を一定に保つことができる。また、ガス流の指向性は、フィルムFにともなう同伴流によって電極チャンバーC内に運び込まれるエアなどの層を打ち破る機能も発揮する。
【0030】
さらに、上記コントローラによって、コロナ放電のエネルギー源である高電圧源16の出力及び上記処理ローラの回転速度を、相関性を持たせながら制御できる。特に、この実施形態では、放電部分という局所に直接置換ガスを供給するので、置換ガスの量を少なくできる。このように量の少ない置換ガスを有効に作用させるためには、放電電流の大きさとフィルムFの搬送速度とに依存する。上記コントローラはフィルムFの搬送速度と放電電流とを相対的に制御して、少量の置換ガスでも安定した効果を発揮させることができる。
また、一対の放電電極8,9のそれぞれの先端を円弧状にして、角部を取り除いたので、放電電極の先端の一部に放電が集中したりしない。
【0031】
上記のようにした実施形態によれば、一対の電極部材8,9の掛止め凹部10,11を支持部材4の掛止め突部7にはめ合わせれば、ガス通路15が必然的に形成されるとともに、このガス通路にはガス誘導孔5が連通する。そして、ガス誘導孔5は、孔加工で足りるが、その孔加工は、寸法が特定された切削工具を選択すれば、いつでも正確に加工できる。つまり、従来のように長いスリットを形成する難しさなどがない。
【産業上の利用可能性】
【0032】
フィルムなどの表面改質に最適である。
【符号の説明】
【0033】
C 電極チャンバー、3 マニホールドパイプ、4 支持部材、5 ガス誘導孔、
6 小孔、E 放電電極、8,9 電極部材、12,13 渦流生成溝、15 ガス通路、F フィルム、16 高圧電源
【手続補正書】
【提出日】2017年3月30日
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】