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特開2017-222546亜鉛フェライト膜の製造方法及び亜鉛フェライト膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-222546(P2017-222546A)
(43)【公開日】2017年12月21日
(54)【発明の名称】亜鉛フェライト膜の製造方法及び亜鉛フェライト膜
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/00 20060101AFI20171124BHJP
   H01F 10/20 20060101ALI20171124BHJP
【FI】
   C01G49/00 A
   H01F10/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-120035(P2016-120035)
(22)【出願日】2016年6月16日
(71)【出願人】
【識別番号】000190688
【氏名又は名称】新光電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】松下 伸広
(72)【発明者】
【氏名】田中 優志
(72)【発明者】
【氏名】小林 智樹
【テーマコード(参考)】
4G002
5E049
【Fターム(参考)】
4G002AA06
4G002AB04
4G002AD04
4G002AE02
5E049AB03
5E049AB09
5E049BA11
5E049BA27
5E049FC10
5E049KC10
(57)【要約】
【課題】良好な磁気特性又は磁気特性を発揮する亜鉛フェライト膜の製造方法を提供する。
【解決手段】亜鉛フェライト膜10の製造方法は、二価の鉄イオン及び二価の亜鉛イオンのみからなる金属イオンを含有する反応液と、金属イオンを酸化させる酸化剤を含有する酸化液とをpH調整剤の存在下で接触させることにより、基材B上に亜鉛フェライト膜10を生成させる生成工程を備えている。生成工程で用いるpH調整剤は、アンモニウムの炭酸塩とモノカルボン酸のアルカリ金属塩とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛フェライト膜の製造方法であって、
二価の鉄イオン及び二価の亜鉛イオンのみからなる金属イオンを含有する反応液と、前記金属イオンを酸化させる酸化剤を含有する酸化液とをpH調整剤の存在下で接触させることにより、基材上に亜鉛フェライト膜を生成させる生成工程を備え、
前記pH調整剤は、アンモニウムの炭酸塩とモノカルボン酸のアルカリ金属塩とを含むことを特徴とする亜鉛フェライト膜の製造方法。
【請求項2】
前記pH調整剤は、炭酸アンモニウムと、酢酸カリウム及び酢酸ナトリウムの少なくとも一方と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の亜鉛フェライト膜の製造方法。
【請求項3】
後方散乱電子回折法にて方位差5°以上の境界を結晶粒界と規定した場合、厚さ1.5μm×幅10μmの範囲の膜断面で観察される結晶粒のうち、円相当径で表される結晶粒径が0.3μm未満の結晶粒の占める個数割合は、50%以上であることを特徴とする亜鉛フェライト膜。
【請求項4】
前記膜断面で観察される結晶粒のうち、アスペクト比が0.2未満の結晶粒の占める個数割合が、10%以下であることを特徴とする請求項3に記載の亜鉛フェライト膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛フェライト膜の製造方法及び亜鉛フェライト膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子回路に対する不要輻射電磁界ノイズを抑制するノイズ抑制材料や、基板内蔵コイル(インダクタ)のインダクタンス増加安定のためのコア材料として、フェライト膜が知られている。フェライト膜は、MFe3−xの組成式で表され、Mとしては、例えば、Ni,Zn,Co等が用いられている(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2004/099464号
【特許文献2】特開2006−108557号公報
【特許文献3】特開2004−107696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉄以外の金属としてニッケル、亜鉛等の複数の金属を含むフェライト膜では、所望の電気特性及び磁気特性が得られ易くなるものの、フェライト膜を生成する際の反応制御が煩雑になりやすい。この点、鉄以外の金属として、亜鉛のみを含む亜鉛フェライト膜では、フェライト膜を生成する際の反応制御が簡素化されるため、量産に適している。ところが、従来の亜鉛フェライト膜では、例えば、ノイズ抑制材料やコア材料として求められる電気特性又は磁気特性を発揮させることが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一観点によれば、亜鉛フェライト膜の製造方法であって、二価の鉄イオン及び二価の亜鉛イオンのみからなる金属イオンを含有する反応液と、前記金属イオンを酸化させる酸化剤を含有する酸化液とをpH調整剤の存在下で接触させることにより、基材上に亜鉛フェライト膜を生成させる生成工程を備え、前記pH調整剤は、アンモニウムの炭酸塩とモノカルボン酸のアルカリ金属塩とを含む。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一観点によれば、良好な電気特性又は磁気特性を発揮することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態の亜鉛フェライト膜及び基材を示す概略断面図。
図2】従来の亜鉛フェライト膜及び基材を示す概略断面図。
図3】亜鉛フェライト膜を製造する装置の一例を示す概略断面図。
図4】亜鉛フェライト膜の周波数と透磁率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して一実施形態を説明する。なお、添付図面は、特徴を分かりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、断面図では、各部材の断面構造を分かりやすくするために、一部のハッチングを省略している。
【0009】
図1に示すように、本実施形態の亜鉛フェライト膜10は、基材B上に形成されている。亜鉛フェライト膜10は、ZnFe3−xの組成式で表され、鉄及び亜鉛以外の金属元素を実質的に含有しない。ZnFe3−x中のXは、例えば、0.2〜1の範囲である。亜鉛フェライト膜10は、スピネル型結晶構造を有する。また、亜鉛フェライト膜10は、図2に示す従来の亜鉛フェライト膜20よりも(111)面の結晶方位が弱い。
【0010】
本実施形態の亜鉛フェライト膜10は、微小粒結晶を主体としている。すなわち、図2に示す従来の亜鉛フェライト膜20よりも微小粒結晶の占める割合が高い。
本実施形態の亜鉛フェライト膜10では、厚さ1.5μm×幅10μmの範囲の膜断面で観察される結晶粒のうち、円相当径で表される結晶粒径が0.3μm未満の結晶粒の占める個数割合は、50%以上である。亜鉛フェライト膜10の結晶粒は、後方散乱電子回折(Electron BackScatter Diffraction:EBSD)法にて方位差5°以上の境界を結晶粒界と規定して観察される。円相当径とは、結晶粒の面積と同じ面積を有する円の直径をいう。すなわち、円相当径は、個々の結晶粒の大きさを円の直径に置き換えて表したものである。
【0011】
上記結晶粒径が0.3μm未満の結晶粒の占める個数割合は、例えば、60%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上である。
なお、亜鉛フェライト膜10の厚さは、1.5μmに限定されず、例えば、1.5μmを超えてもよい。亜鉛フェライト膜10の厚さが1.5μmを超える場合、亜鉛フェライト膜10の結晶粒を観察する膜断面は、基材Bの主面(亜鉛フェライト膜10が積層された面)からの厚さ寸法が1.5μmであり、基材Bの主面に沿った幅寸法が10μmの範囲に設定することができる。亜鉛フェライト膜10の厚さは、例えば、5μm以下であることが好ましく、より好ましくは3μm以下である。
【0012】
亜鉛フェライト膜10の上記膜断面で観察される結晶粒のうち、アスペクト比0.2未満の結晶粒の占める個数割合は、例えば10%以下であることが好ましい。この個数割合は、例えば、8%以下であることがより好ましい。
【0013】
図1に簡略化して示す基材Bは、用途に応じて選択することができる。亜鉛フェライト膜10の用途としては、例えば、電子機器の電磁界ノイズ抑制材料が挙げられる。電磁界ノイズ抑制材料は、電子回路を形成した基板や電子部品の筐体に用いられる。基板の材質としては、例えば、ガラスエポキシ樹脂等の絶縁性樹脂、セラミックス、シリコン、プリプレグ等が挙げられる。本実施形態の亜鉛フェライト膜10は、基板内蔵トランス又は基板内蔵インダクタにおけるコア材料としても用いることができる。電子回路を形成した基板及びコア材料は、マザーボードに二次実装されるものであってもよい。なお、亜鉛フェライト膜10は、他のフェライト膜と積層することもできる。
【0014】
以上詳述した亜鉛フェライト膜10は、微小粒結晶を主体に構成されている。こうした亜鉛フェライト膜10によれば、例えば、図2に示す従来の亜鉛フェライト膜20よりも好適な電気特性又は磁気特性が発揮される。
【0015】
次に、亜鉛フェライト膜10の製造方法について説明する。
本実施形態の亜鉛フェライト膜10の製造方法は、基材B上に亜鉛フェライト膜10を生成させる生成工程を備えている。生成工程では、二価の鉄イオン及び二価の亜鉛イオンからなる金属イオンを含有する反応液と、金属イオンを酸化させる酸化剤を含有する酸化液とをpH調整剤の存在下で接触させる。
【0016】
反応液中の二価の鉄イオンの濃度は、反応液中の二価の亜鉛イオンの濃度を固定した条件下において、10mmol/L以上、50mmol/L以下であることが好ましく、20mmol/L以上、50mmol/L以下であることがより好ましい。反応液中の二価の鉄イオンの濃度が10mmol/L以上の場合、亜鉛フェライト膜10の生成時における反応速度が増し、成膜速度が高まる。反応液中の二価の鉄イオンの濃度が50mmol/L以下の場合、亜鉛に対する鉄のイオン濃度が相対的に低くなり、ホッピング伝導が発生し難くなる。これにより、導電性が低下するため、亜鉛フェライト膜10の抵抗値が高まり易くなる。
【0017】
反応液中の二価の亜鉛イオンの濃度は、0.2mmol/L以上、1.0mmol/L以下であることが好ましい。反応液中の二価の亜鉛イオンの濃度が0.2mmol/L以上の場合、亜鉛フェライト膜10の透磁率が高まり易くなる。反応液中の二価の亜鉛イオンの濃度が1.0mmol/L以下の場合、亜鉛フェライト膜10の飽和磁化(Ms)が高まり易くなる。
【0018】
反応液は、水溶液であり、例えば、塩化鉄(II)及び塩化亜鉛を水に溶解することで調整することができる。
酸化液は、水溶液であり、例えば、亜硝酸塩を水に溶解することで調整することができる。亜硝酸塩としては、例えば、亜硝酸のアルカリ金属塩、及び亜硝酸のアンモニウム塩が挙げられる。酸化剤として亜硝酸塩を用いる場合、酸化液中の亜硝酸イオンの濃度は、1mmoL以上、10mmoL以下であることが好ましい。
【0019】
pH調整剤は、アンモニウムの炭酸塩とモノカルボン酸のアルカリ金属塩とを含む。pH調整剤のアンモニウムの炭酸塩としては、例えば、炭酸アンモニウム、及び炭酸水素アンモニウムの少なくとも一方を好適に用いることができる。pH調整剤のモノカルボン酸のアルカリ金属塩としては、例えば、酢酸カリウム、及び酢酸ナトリウムの少なくとも一種を好適に用いることができる。pH調整剤は、炭酸アンモニウムと、酢酸カリウム及び酢酸ナトリウムの少なくとも一方とを含むことが好ましい。
【0020】
pH調整剤は、反応液や酸化液とは異なるpH調整液として用いてもよいし、酸化液に含有させてもよい。
pH調整剤は、酸化液に含有され、酸化液のpHは25℃において5以上、16以下の範囲に調整されていることが好ましい。また、pH調整剤は、酸化液に含有され、酸化液中におけるアンモニウムの炭酸塩の濃度が、1mmoL以上、5mmoL以下であり、酸化液中におけるモノカルボン酸のアルカリ金属塩の濃度が、10mmoL以上、100mmoL以下であることが好ましい。
【0021】
生成工程では、例えば、反応液等の各液に基材Bを浸漬したり、基材B上に反応液等の各液を供給したりすることで、反応液と酸化液とをpH調整剤の存在下で接触させる。こうした生成工程において、反応液、酸化液、又はpH調整液は、アンモニウムの炭酸塩が分解しない範囲で加温してもよい。
【0022】
生成工程の一例として、スピンスプレー法を用いた生成工程を以下に説明する。
図3は、スピンスプレー法による生成工程を行うためのスピンスプレー装置30を示している。スピンスプレー装置30は、回転軸31を中心に回転駆動される回転台32と、反応液を回転台32上に固定された基材Bに向けて噴霧する第1スプレーS1と、酸化液を回転台32上に固定された基材Bに向けて噴霧する第2スプレーS2とを備えている。
【0023】
回転台32は、これに内蔵されたヒーター33により加熱されるとともに温度制御可能に構成されている。すなわち、回転台32上に固定された基材Bは、ヒーター33により加熱される。回転台32の回転速度は、例えば、50〜300rpmの範囲に設定される。ヒーター33の加熱温度は、例えば、40℃以上、100℃未満の範囲に設定される。
【0024】
スピンスプレー装置30は、内部に回転台32が配置される容器34を備えている。容器内は、窒素ガスの雰囲気下とされ、この容器内で、反応液と酸化液との反応が行われる。窒素ガスは、第1スプレーS1から反応液とともに容器内に供給されるとともに、第2スプレーS2から酸化液とともに容器内に供給される。なお、本実施形態では、不活性ガスとして窒素ガスを用いているが、例えば、アルゴンガス等の不活性ガスを用いることができる。容器34の底部には、回転台32の回転による遠心力で基材B上から排除された液体を容器34外に廃液として排出する排出管35が設けられている。
【0025】
生成工程では、基材Bの表面に吸着した金属イオンの酸化が繰り返されることで、基材B上にスピネル型結晶構造を有する亜鉛フェライト膜10が生成される。なお、基材Bの表面の親水性が低い場合は、金属イオンの吸着を促進させるという観点から、基材Bの表面にプラズマ処理等の親水化処理を施すことが好ましい。例えば、基材Bの表面が水酸基等の親水基を有する場合、親水化処理を省略することができる。
【0026】
亜鉛フェライト膜10の製造方法では、生成工程の後に必要に応じて亜鉛フェライト膜10を洗浄する洗浄工程を行ってもよい。
以上詳述した亜鉛フェライト膜10の製造方法では、アンモニウムの炭酸塩とモノカルボン酸のアルカリ金属塩とを含むpH調整剤を用いている。こうしたpH調整剤は、二価の鉄イオン及び二価の亜鉛イオンの酸化が繰り返されることで亜鉛フェライトの結晶が成長する過程において、柱状結晶の生成を抑制する。これにより、微小粒結晶が占める割合が高い亜鉛フェライト膜10が得られる(図1参照)。これに対して、pH調整剤として、モノカルボン酸のアルカリ金属塩のみを用いた場合、柱状の結晶粒が占める割合が高い亜鉛フェライト膜20が得られる(図2参照)。
【0027】
次に、試験例を挙げてさらに説明する。
試験例1で得られる亜鉛フェライト膜は、図1に示す本実施形態の亜鉛フェライト膜10に相当し、試験例2で得られる亜鉛フェライト膜は図2に示す従来の亜鉛フェライト膜20に相当する。以下の各試験例の説明では、構成要素を示す符号を省略している。
【0028】
(試験例1)
<反応液の調製>
塩化鉄(II)四水和物及び塩化亜鉛を純水に溶解することにより、鉄(II)イオンの濃度が20mmol/Lであり、亜鉛イオンの濃度が0.5mmol/Lである反応液を調製した。
【0029】
<酸化液の調製>
酸化剤、アンモニウムの炭酸塩、及びモノカルボン酸のアルカリ金属塩を純水に溶解することにより、亜硝酸カリウムの濃度が5.0mmol/Lであり、アンモニウムの炭酸塩の濃度が1.5mmol/Lであり、モノカルボン酸のアルカリ金属塩の濃度が65mmol/Lである酸化液を調製した。なお、酸化剤としては、亜硝酸ナトリウムを用いた。アンモニウムの炭酸塩としては、炭酸アンモニウムを用いた。モノカルボン酸のアルカリ金属塩としては、酢酸ナトリウムを用いた。調製した酸化液のpHは、9(25℃)である。
【0030】
<亜鉛フェライト膜の生成>
基材上に上記スピンスプレー装置を用いて亜鉛フェライト膜を生成した。ここで用いる基材としては、試験用の基材としてソルダーレジスト付きガラスエポキシ基板を用いた。スピンスプレー装置の回転台の回転速度は、150rpm、ヒーターの加熱温度は90℃に設定した。反応液及び酸化液の温度は、室温(20〜25℃)であり、第1スプレー及び第2スプレーからそれぞれ反応液と酸化液を噴霧した。なお、反応液及び酸化液の噴霧量は、それぞれ第1スプレー及び第2スプレーに供給する窒素ガスの流量により設定した。具体的には、第1スプレー及び第2スプレーに供給する窒素ガスの流量を7.5L/分に設定した。
【0031】
得られた亜鉛フェライト膜について、湿式ICP分析法により鉄と亜鉛の含有モル比を測定した結果、この亜鉛フェライト膜の組成は、Zn0.48Fe2.52であった。
【0032】
(試験例2)
試験例2では、pH調整剤を変更した以外は、試験例1と同様に亜鉛フェライト膜を生成した。試験例2では、アンモニウムの炭酸塩を含有せず、酸化剤の濃度が5.0mmol/L、モノカルボン酸のアルカリ金属塩の濃度が65mmol/Lの酸化液を用いた。なお、酸化剤としては、亜硝酸ナトリウムを用いた。モノカルボン酸のアルカリ金属塩としては、酢酸カリウムを用いた。
【0033】
得られた亜鉛フェライト膜について、湿式ICP分析法により鉄と亜鉛の含有モル比を測定した結果、この亜鉛フェライト膜の組成は、Zn0.18Fe2.82であった。
【0034】
(試験例1と試験例2の対比)
表1に示す各項目について試験例1と試験例2の対比を行った。
【0035】
【表1】
表1中の「生成速度」欄は、各例で得られた亜鉛フェライト膜の生成速度を示している。試験例1で得られた亜鉛フェライト膜の生成速度は、試験例2で得られた亜鉛フェライト膜の生成速度よりも速いことが分かる。
【0036】
表1中の「結晶粒」欄は、各例で得られた亜鉛フェライト膜の結晶粒を後方散乱電子回折法において方位差5°以上の境界を結晶粒界と規定して観察した結果を示している。試験例1で得られた亜鉛フェライト膜では、結晶粒径0.3μm未満の結晶粒の個数割合が試験例2で得られた亜鉛フェライト膜よりも高いことが分かる。また、試験例1で得られた亜鉛フェライト膜では、アスペクト比0.2未満の結晶粒の個数割合が試験例2で得られた亜鉛フェライト膜よりも低いことが分かる。
【0037】
図4は、試験例1及び試験例2の亜鉛フェライト膜における周波数と透磁率との関係を示すグラフである。表1中の「透磁率」欄には、図4のグラフの複素透磁率の実数成分μ’及び虚数部分μ”について対比した結果を示している。
【0038】
試験例1で得られた亜鉛フェライト膜の実数成分μ’は、試験例2で得られた亜鉛フェライト膜よりも高い。この結果から、試験例1で得られた亜鉛フェライト膜のノイズ抑制効果は、試験例2で得られた亜鉛フェライト膜よりも高いことが分かる。また、こうした特性を有する試験例1の亜鉛フェライト膜をコア材料として用いる場合、性能の向上やデバイスサイズの小型化の観点で有利である。
【0039】
試験例1で得られた亜鉛フェライト膜の虚数成分μ”のピーク値は、試験例2で得られた亜鉛フェライト膜よりも高い。この結果から、試験例1で得られた亜鉛フェライト膜の伝送ノイズや放射ノイズ抑制の効果は、試験例2で得られた亜鉛フェライト膜よりも高いことが分かる。
【0040】
試験例1で得られた亜鉛フェライト膜の虚数成分μ”の立ち上がりの傾きΔμ”/ΔMHzは、試験例2で得られた亜鉛フェライト膜よりも大きい。この結果から、試験例1で得られた亜鉛フェライト膜のノイズ減衰効果は、試験例2で得られた亜鉛フェライト膜よりも高いことが分かる。
【0041】
表1中の「表面抵抗」欄には、各例で得られた亜鉛フェライト膜におけるリフロー前後の表面抵抗を示している。表面抵抗は、亜鉛フェライト膜付きの基材を鉛フリーはんだ用の温度プロファイルが設定されたリフロー炉(最高温度260℃)を通過前後に測定した。表面抵抗を測定する亜鉛フェライト膜付きの基材の寸法は、幅1.5mm、長さ20mm、亜鉛フェライト膜の厚さ1.56μm(基材の厚さ0.2mm)である。表面抵抗は、各亜鉛フェライト膜付きの基材の複数枚について長さ方向の両端で測定した抵抗値から計算し、その平均値を求めた。
【0042】
試験例2で得られた亜鉛フェライト膜の表面抵抗は、リフローにより10Ω/sqrオーダーまで低下した。これに対して、試験例1で得られた亜鉛フェライト膜の表面抵抗は、リフロー後であっても10Ω/sqrのオーダーを維持している。このように試験例1で得られた亜鉛フェライト膜は、リフロー後でも実用的な絶縁性を維持することから、二次実装用の回路基板においても、回路の電気的短絡や電流漏洩発生を回避することが可能となる。
【0043】
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)亜鉛フェライト膜10の製造方法は、二価の鉄イオン及び二価の亜鉛イオンのみからなる金属イオンを含有する反応液と、金属イオンを酸化させる酸化剤を含有する酸化液とをpH調整剤の存在下で接触させることにより、基材B上に亜鉛フェライト膜10を生成させる生成工程を備えている。生成工程で用いるpH調整剤は、アンモニウムの炭酸塩とモノカルボン酸のアルカリ金属塩とを含む。この方法によれば、亜鉛フェライト膜10の結晶粒が微細化されることで、良好な磁気特性又は磁気特性を発揮する亜鉛フェライト膜10を得ることができる。また、亜鉛フェライト膜10の生成速度は、従来の亜鉛フェライト膜20よりも速いため、亜鉛フェライト膜10を有する製品を製造する際のタクトタイムを短縮することができる。このように亜鉛フェライト膜10を有する製品の生産性は高く、量産に適している。
【0044】
(2)亜鉛フェライト膜10では、厚さ1.5μm×幅10μmの範囲の膜断面で観察される結晶粒のうち、円相当径で表される結晶粒径が0.3μm未満の結晶粒の占める個数割合は、50%以上である。この構成によれば、良好な磁気特性又は磁気特性を発揮することができる。また、亜鉛フェライト膜10の表面抵抗は、リフロー後であっても維持されやすいため、二次実装される用途(回路基板用の絶縁膜やコア材料)に好適に用いることができる。
【0045】
以上の様々な実施の形態をまとめると、以下のようになる。
(付記1)
亜鉛フェライト膜の製造方法であって、二価の鉄イオン及び二価の亜鉛イオンのみからなる金属イオンを含有する反応液と、前記金属イオンを酸化させる酸化剤を含有する酸化液とをpH調整剤の存在下で接触させることにより、基材上に亜鉛フェライト膜を生成させる生成工程を備え、前記pH調整剤は、アンモニウムの炭酸塩とモノカルボン酸のアルカリ金属塩とを含む亜鉛フェライト膜の製造方法。
(付記2)
前記反応液中における前記二価の鉄イオンの濃度が、10mmol/L以上、50mmol/L以下であり、前記反応液中における前記二価の亜鉛イオンの濃度が、0.2mmol/L以上、1.0mmol/L以下である付記1に記載の亜鉛フェライト膜の製造方法。
(付記3)
前記pH調整剤は、前記酸化液に含有され、前記酸化液のpHは25℃において5以上、16以下の範囲に調整されている付記1又2に記載の亜鉛フェライト膜の製造方法。
(付記4)
前記pH調整剤は、前記酸化液に含有され、前記酸化液中における前記アンモニウムの炭酸塩の濃度が、1mmol/L以上、5mmol/L以下であり、前記酸化液中におけるモノカルボン酸のアルカリ金属塩の濃度が、10mmol/L以上、100mmol/L以下である付記1〜3のいずれか一項に記載の亜鉛フェライト膜の製造方法。
【符号の説明】
【0046】
B 基材
10 亜鉛フェライト膜
図1
図2
図3
図4