特開2017-80828(P2017-80828A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-80828(P2017-80828A)
(43)【公開日】2017年5月18日
(54)【発明の名称】回転切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/08 20060101AFI20170414BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20170414BHJP
   B23B 27/16 20060101ALI20170414BHJP
   B23B 27/22 20060101ALI20170414BHJP
【FI】
   B23B27/08 A
   B23B27/14 C
   B23B27/16 Z
   B23B27/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-209133(P2015-209133)
(22)【出願日】2015年10月23日
(71)【出願人】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池永 晋哉
(72)【発明者】
【氏名】沖田 淳也
(72)【発明者】
【氏名】秀田 守弘
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046AA13
3C046CC06
3C046JJ06
3C046JJ13
(57)【要約】
【課題】切りくずを短く分断することができるとともに、切削加工に伴う加工面の荒れ及び振動を防止することができる回転切削工具用インサート及びそれを用いた回転切削工具を提供する。
【解決手段】この回転切削工具用インサートは、少なくとも1つの凹み部を有する環状のすくい面と、前記すくい面の外周に形成される切れ刃を備え、前記凹み部は、前記すくい面の周方向に対して1.2mm以上3.0mm以下の幅を有しており、前記凹み部における前記すくい面の外周側の端と前記切れ刃の距離が0.1mm以上0.5mm以下である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの凹み部を有する環状のすくい面と、
前記すくい面の外周に形成される切れ刃を備え、
前記凹み部は、前記すくい面の周方向に対して1.2mm以上3.0mm以下の幅を有しており、
前記凹み部における前記すくい面の外周側の端と前記切れ刃の距離が0.1mm以上0.5mm以下である、
回転切削工具用インサート。
【請求項2】
前記凹み部の最大深さが0.15mm以上0.25mm以下である、請求項1記載の回転切削工具用インサート。
【請求項3】
前記凹み部の形状は円形である、請求項1記載の回転切削工具用インサート。
【請求項4】
前記凹み部の数は8以上15以下である、請求項1記載の回転切削工具用インサート。
【請求項5】
前記すくい面は半径方向に1.5mm以上3.0mm以下の幅を有しており、
前記すくい面の内周側に段差を有しており、
前記凹み部は前記段差に切り抜けている、請求項1記載の回転切削工具用インサート。
【請求項6】
前記すくい面は環状のブレーカ溝を有しており、前記ブレーカ溝の周方向に垂直な断面における曲率半径は10mm以上30mm以下であり、前記ブレーカ溝における前記すくい面の外周側の端と前記切れ刃の距離は0.1mm以上0.3mm以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の回転切削工具用インサート。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の回転切削工具用インサートと、前記回転切削工具用インサートを支持するホルダを備える、回転切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具用インサート及びそれを用いた切削工具に関し、特に回転切削工具用インサート及びそれを用いた回転切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の切削加工においては、回転するワーク(被加工物)に対して切削工具用インサートを備える切削工具を付勢することにより、切削加工を行っていた。しかしながら、このような加工方法では、切削加工中の切削工具用インサートの切削点が一定であるため、切削に伴う切削熱及び切削負荷が切削点に集中してしまう。
【0003】
このような従来の切削加工の問題点を解決するために、スピニング加工が導入されている(たとえば特許文献1)。スピニング加工においては、回転するワークに、軸線まわりの回転を付与した回転切削工具用インサートを備える回転切削工具を付勢することにより、工具回転方向に連続した切れ刃で切削加工を行う。このようなスピニング加工においては、切削加工中に回転切削工具用インサートの切削点が時々刻々と変化する。そのため、発生した切削熱により加熱された回転切削工具用インサートが回転切削工具の回転中に冷却される。また、その回転中、回転切削工具用インサートに対する切削負荷は、切削工具用インサートの全周にわたって分散されることになる。
【0004】
ワークを切削工具用インサートで切削することに伴い、切りくずが不可避的に削り出されることになる。この切りくずが長くつながって削り出された場合、ワークに巻きついてワークの仕上げ面を傷つけたりするなどの問題が生じることになる。そのため、切りくずが長くつながってしまわないように適切に処理する必要がある。
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の切削工具用インサートにおいては削り出された切りくずを短く切断するためのブレーカが設けられていないため、削り出された切りくずを適切に処理できないという問題がある。
【0006】
このような問題に対処するため、切れ刃の上部に突起を設けた回転切削工具用インサートが提案されている。また、同様に、切れ刃の一部に溝を設けた回転切削工具用インサートも提案されている(たとえば特許文献2及び特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4178818号公報
【特許文献2】特開平06−170607号公報
【特許文献3】特表2007−504011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
切れ刃の上部に突起を設けた回転切削工具用インサートにおいては、切りくずが切れ刃の上部に設けられた突起に接触して折り曲げられることにより、切りくずが分断されるため、切りくずを短く分断することはできる。
【0009】
しかし、かかる回転切削工具用インサートにおいては、切りくずを切れ刃の上部に設けられた突起に接触させて無理矢理折り曲げることになる。スピニング加工を行う場合、通常の旋削加工と比較して切削温度が上昇しにくいため、高い加工条件が設定されることが多い。また、かかる突起は、切りくずを回転切削工具用インサートの周方向に拘束することになる。そのため、スピニング加工を行っている際に、切りくずをかかる突起に接触させれば、切削に伴う抵抗及び振動が大きくなり、インサート破損の危険性がある。
【0010】
切れ刃の一部に溝を設けた回転切削工具用インサートにおいては、ワークと回転切削工具用インサートの回転が相まって、回転切削工具用インサートの切れ刃の一部に設けられた溝の両端が切削点をらせん状に通過することになる。そのため、回転切削工具用インサートの切れ刃の一部に設けられた溝が、ワークを通過するごとに切りくずがらせん状に分断され、切りくずを短く分断することができる。
【0011】
しかし、切れ刃の一部に溝を設けた回転切削工具用インサートにおいては、切れ刃の一部に溝が設けられていることにより、切れ刃に不連続な箇所が生じていることになる。そのため、切れ刃の一部に溝を設けた回転工切削工具用インサートにおいては、切削に伴う振動が大きくなってしまうという問題及び切削に伴い切削面が荒れてしまうという問題が生じてしまう。
【0012】
かかる課題に鑑み、切りくずを短く分断することができるとともに、切削加工に伴う切削面の荒れ及び振動を防止することができる回転切削工具用インサート及びそれを用いた回転切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様に係る回転切削工具用インサートは、少なくとも1つの凹み部を有する環状のすくい面と、前記すくい面の外周に形成される切れ刃を備え、前記凹み部は、前記すくい面の周方向に対して1.2mm以上3.0mm以下の幅を有しており、前記凹み部における前記すくい面の外周側の端と前記切れ刃の距離が0.1mm以上0.5mm以下である。
【発明の効果】
【0014】
上記によれば、切りくずを短く分断することができるとともに、切削加工に伴う切削面の荒れ及び振動を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】回転切削工具を用いたスピニング加工の概略を示す斜視図である。
図2】回転切削工具を用いたスピニング加工の概略を示す模式図である。
図3】第1の実施形態に係る回転切削工具用インサートの平面図である。
図4図3とは別の回転切削工具用インサートの例の平面図である。
図5図3のV−V断面の断面図である。
図6】凹み部を有しない回転切削工具用インサートを用いた切削加工の模式図である。
図7】第1の実施形態に係る回転切削工具用インサートを用いた切削加工の模式図である。
図8】凹み部のすくい面周方向幅と切りくず分断性及び切削振動の関係を評価するテスト加工の模式図である。
図9】第2の実施形態に係る回転切削工具用インサートの平面図である。
図10図9のX−X断面の断面図である。
図11図9とは別の回転切削工具用インサートの例の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0017】
(1)本発明の一態様に係る回転切削工具用インサートは、少なくとも1つの凹み部を有する環状のすくい面と、前記すくい面の外周に形成される切れ刃を備え、前記凹み部は、前記すくい面の周方向に対して1.2mm以上3.0mm以下の幅を有しており、前記凹み部における前記すくい面の外周側の端と前記切れ刃の距離が0.1mm以上0.5mm以下である。
【0018】
スピニング加工を行う場合、切削点が随時変化するため、切りくずの温度上昇は小さい。そのため、凹み部が切削点を通過する際に、切りくずが軟化して凹み部に入り込むことが起こりにくい。その結果、切りくずは凹み部の内周面とはほとんど接触しないので、すくい面と切りくずの間の摩擦が低下する。これにより、すくい面と接するように払い出されていた切りくずの移動速度が瞬間的に速くなる。その結果、切りくずが湾曲し、短く分断されることになる。また、凹み部を切れ刃と離間して設けることにより切れ刃に不連続な箇所が無くなり、切削に伴う振動の発生及び切削面の荒れを抑制することができる。
【0019】
(2)上記(1)の回転切削工具用インサートにおいて、前記凹み部の最大深さが0.15mm以上0.25mm以下であってもよい。
【0020】
凹み部の最大深さが0.15mm未満であると、切りくずが凹み部と接触してしまい、切りくずを分断する効果が減少する。他方、凹み部の最大深さが2.5mmを超えると、凹み部が設けられる箇所の強度が低下してしまう。また、0.15mm以上0.25mm以下の最大深さを有する凹み部は、ウエット加工を行う際には油だまりとなる。そのため、このような最大深さを有する凹み部を設けることにより、凹み部が設けられる箇所の強度を維持しつつ、切りくずを短く分断し、切削に伴う振動の発生をより抑制することができる。
【0021】
(3)上記(1)の回転切削工具用インサートにおいて、前記凹み部の形状は円形であってもよい。
【0022】
このような凹み部の形状を有することにより、切りくずが凹み部に入り込みにくくすることができる。また。このような凹み部の形状を有することにより、凹み部に角が無くなるため、切りくずが凹み部に溶着しにくくすることができる。
【0023】
(4)上記(1)の回転切削工具用インサートにおいて、前記凹み部の数は8個以上15個以下であってもよい。
【0024】
凹み部の個数が1個であると、切りくずが十分に湾曲する前に凹み部が切削点を通過してしまう。そのため、凹み部の個数を増やし、凹み部の間の間隔を狭くすることが、切りくずを大きく湾曲させて切りくずの分断効果を向上させる観点からは望ましい。他方、凹み部の個数が多いと凹み部が設けられる箇所の強度が低下してしまう。そのため、このような凹み部の個数により、凹み部が設けられる箇所の強度を維持しつつ、切りくずを短く分断することができる。
【0025】
(5)上記(1)の回転切削工具用インサートにおいて、前記すくい面は半径方向に1.5mm以上3.0mm以下の幅を有していてもよく、前記すくい面の内周側に段差を有し、前記凹み部は前記段差に切り抜けていてもよい。
【0026】
すくい面内周側の段差に凹み部が切り抜けているため、切りくずが切削加工中に凹み部の内周側に入り込むことがあっても、切りくずが回転切削工具用インサートに接触しがたい。そのため、このような凹み部を設けることにより、切削に伴う振動の発生をより抑制することができる。
【0027】
(6)上記(1)から(5)の回転切削工具用インサートにおいて、前記すくい面は環状のブレーカ溝を有しており、前記ブレーカ溝の周方向に垂直な断面における曲率半径は10mm以上30mm以下であり、前記ブレーカ溝における前記すくい面の外周側の端と前記切れ刃の距離は0.1mm以上0.3mm以下とすることができる。
【0028】
このようなブレーカ溝を有することにより、切りくずをより短く分断し、なおかつ切りくず分断に伴う切削振動増大をさらに抑制することができる。
【0029】
(7)本発明の一態様に係る回転切削工具は、上記(1)から(6)のいずれかに記載の回転切削工具用インサートを備える。
【0030】
このような回転切削工具用インサートを備えることにより、切りくずを短く分断することができるとともに、切削加工に伴う切削面の荒れ及び振動を防止することができる。
【0031】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の第1の実施形態について図面を用いて説明する。なお、各図中同一または相当部分には同一符号を付している。また、以下に記載する実施の形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0032】
[回転切削工具の構成及び動作]
図1は、回転切削工具用インサート及びそれを備える回転切削工具を用いたスピニング加工の概要を示す図である。図1に示すとおり、スピニング加工は、ワークWをワーク回転速度nで回転させながら、工具回転速度nで軸線まわりに回転させた回転切削工具1を付勢するとともに送り速度fで移動させることにより行われる。回転切削工具1は、回転切削工具1の先端部分に装着された回転切削工具用インサート2と、ホルダ3により構成されている。回転切削工具用インサート2は、ホルダ3に対して回転しないように、ホルダ3に固定されている。
【0033】
なお、回転切削工具用インサート2の構成については、後述するものとする。
図2は、切削工具用インサート及びそれを備える回転切削工具を用いた切削動作の詳細を示す模式図である。図2に示すとおり、回転切削工具用インサート2は、ワークWと切削点cpにおいて接触することになる。そして、ワークWが回転切削工具用インサート2に対してワーク回転速度nで回転することにより、切削点cpにおいてワークWが工具回転方向に連続した切れ刃で切削されることになる。
【0034】
なお、この切削に伴い、切削点cpから切りくずch(図6参照)が発生するが、この切りくずchの挙動については後述するものとする。
【0035】
図2に示すとおり、回転切削工具用インサート2の切削点cp近傍において、切削に伴う切削熱Hが生じる。しかしながら、回転切削工具用インサート2は、図2に示すとおり、工具回転速度nで回転しているため、切削熱Hが発生した点が再度切削点cpとなるまで回転する間に、発生した切削熱Hは放熱される。このように、回転切削工具用インサート2が回転することにより、切削点cpが回転切削工具用インサート2上で時々刻々と変化し、切削熱H及び切削負荷が回転切削工具用インサート2の全周にわたって分散されることになる。
【0036】
[回転切削工具用インサートの構成]
次に、回転切削工具用インサート2の構成の詳細を説明する。
【0037】
図3は、回転切削工具用インサート2の上面図である。図3に示すとおり、回転切削工具用インサート2は、環状のすくい面21を備えている。
【0038】
すくい面21の外周端には、切れ刃22が設けられている。すくい面21上には、凹み部23が設けられている。凹み部23におけるすくい面21の外周側の端は、切れ刃22と距離L1(図5参照)離間されて形成されている。なお、好ましくは、距離L1は0.1mm以上0.5mm以下である。凹み部23の平面形状は、好ましくは円形であるが、その形状は特に制限されない。凹み部23の個数は好ましくは1個であり、より好ましくは8個以上15個以上である。凹み部23のすくい面21の周方向の幅Bは限定されるものではないものの、1.2mm以上3.0mm以下とすることが好ましい。さらに、すくい面21の内側には段差24が設けられている。
【0039】
図4は、回転切削工具用インサート2の別の例についての上面図である。図4の回転切削工具用インサート2は、基本的には図3の回転切削工具用インサートと同様の構成を備えるが、図3の回転切削工具用インサート2と異なり、凹み部23が段差24を切り抜けるように形成されている。このように凹み部23を形成することにより、切りくずが凹み部の内周側に入り込んでもすくい面の内周側で切りくずが回転切削工具用インサートに衝突しがたく、かかる衝突に起因する振動の発生をより抑制することができる。
【0040】
図5は、回転切削工具用インサート2の図3のV−V断面における断面図である。図5に示すとおり、凹み部23におけるすくい面21の外周側の端は、切れ刃22と距離L1離間されて形成されている。また、図5に示すとおり、凹み部23は、すくい面21に対して、0.15mm以上0.25mm以下の最大深さDmaxを有している。凹み部23が設けられることにより、凹み部23が設けられる部分の回転切削工具用インサート2の肉厚が低下することになるが、このような最大深さDmaxを有することにより、回転切削工具用インサート2の強度が不足することを防止することができる。
【0041】
凹み部23の表面粗さは、0.5μm以下の算術平均粗さであることが好ましい。凹み部23の表面粗さは、JIS B 601−2001規格に従って測定されるものとする。このような凹み部の表面粗さを有することにより、さらに振動を抑制することができる。
【0042】
なお、回転切削工具用インサート2は、金属加工用工具として一般的に利用されている材料であれば、いずれの材料が用いられてもよい。たとえば、工具鋼、超硬合金、サーメット、セラミック、CBN(窒化ホウ素)が挙げられる。これらの材料にはそれぞれ性能を高めるためのコーティングを施してもよい。
【0043】
回転切削工具用インサート2の材料及びコーティングは、ワークの材料や切削条件に応じて適宜選択される。
【0044】
[回転切削工具用インサートを用いることによる切りくずの挙動]
次に、回転切削工具用インサート2を用いたスピニング加工により生じる切りくずの挙動について説明する。
【0045】
図6は、比較例である凹み部23を有しない回転切削工具用インサート2を用いたスピニング加工により生じる切りくずchの挙動を示す模式図である。凹み部23を有しない回転切削工具用インサート2を用いた場合、図6に示すように、すくい面21は平坦であるため、切削点cpから切り出された切りくずは、すくい面21上から大きく湾曲することなく流れることになる。その結果、切りくずchは分断され難く、切りくずchが長くなってしまう。
【0046】
図7は、凹み部23を有する回転切削工具用インサート2を用いたスピニング加工により生じる切りくずchの挙動を示す模式図である。図7(A)は、すくい面21上の凹み部23が切削点cpに到達する前の切りくずchの挙動を示している。図7(A)に示すように、すくい面21は平坦であるため、切削点cpから切り出された切りくずは、凹み部23を有しない回転切削工具用インサート2を用いた場合と同様、すくい面21上から大きく湾曲することなく流れることになる。
【0047】
図7(B)は、図7(A)の状態の後、すくい面21上の凹み部23が切削点cpに到達した場合の切りくずchの挙動を示している。図7(B)に示すとおり、この場合には、すくい面21上に凹み部23があるため、切りくずchは凹み部23においてすくい面21と接触しない。そのため、切りくずchの外側(すなわち、切りくずchのすくい面21側の面)とすくい面21との間の摩擦が減少し、切りくずchの外側は、切りくずchの内側(すなわち、切りくずchの外側の反対側の面)と比較してより速い速度で流れることになる。その結果、切りくずchは大きく湾曲し、短く分断されることになる。
【0048】
また、凹み部23におけるすくい面21外周側の端は、切れ刃22から0.1mm以上0.5mm以下離れているので、凹み部23は切削点cpとは接触しない。そのため、凹み部23をすくい面21上に設け、凹み部23におけるすくい面21外周側の端を、切れ刃22から所定の距離離間させることにより、切りくずchを短く分断しつつ、切削面が荒れることを抑制することができる。
【0049】
[凹み部の幅]
次に、すくい面21上に設けられる凹み部23のすくい面21の周方向の幅Bについて説明する。
【0050】
図8は、すくい面21の周方向での凹み部23の幅と、切りくず分断性及び切削に伴う振動の関係の影響を検討するためのテスト加工の概要を示す模式図である。図8に示すとおり、ワークWは、加工機51のチャッキング52に固定されている。ワークWは、加工機51に取り付けられた回転切削工具用インサート2を備える回転切削工具1によりスピニング加工される。ここで、ワークWの全長は300mm、ワーク回転速度nを200m/min、工具回転速度nを50m/min、送り速度fを2.0mm/rev、切り込みapを1.0mmとした。
【0051】
ワークWとして、JIS規格に規定されるSCM420からなる円柱状の鋼材を用いた。加工機51として森精機製NC旋盤NLX2500Yを用いた。さらに、回転切削工具用インサート2として、凹み部23が設けられていないもの(試料1)、凹み部23のすくい面21の周方向の幅Bが0.5mmのもの(試料2)、凹み部23のすくい面21の周方向の幅Bが2.0mmのもの(試料3)及び凹み部23のすくい面21の周方向の幅Bが4.0mmのもの(試料4)を用いた。
【0052】
回転切削工具用インサート2として、試料1を用いてテスト加工を行ったところ、湾曲が極めて小さい切りくずchが得られた。また、回転切削工具用インサート2として、試料1を用いたテスト加工における切削振動は、0.149m/sの平均振幅であった。
【0053】
回転切削工具用インサート2として、試料2から4を用いてテスト加工を行ったところ、試料1を用いてテスト加工を行った場合と比較して、分断された切りくずchが得られた。また、凹み部23のすくい面21の周方向の幅Bが広くなるに従って、より細かく分断された切りくずchが得られた。
【0054】
試料2及び4を用いたテスト加工においては、切削振動として、それぞれ0.260m/s及び0.298m/sの平均振幅を示した。他方で、試料3を用いた場合、切削振動として0.206m/sの平均振幅を示した。
【0055】
このように、試料2及び4を用いた場合、試料1を用いた場合と比較して相対的に切削振動が大きいが、試料3の場合は切削振動が十分に抑制されていた。このことから、凹み部23のすくい面21の周方向の幅Bは限定されるものではないものの、1.2mm以上3.0mm以下とすることが好ましい。
【0056】
[凹み部の個数]
次に、すくい面21上に設けられる凹み部23の個数について説明する。凹み部23の個数と、切りくず分断性及び切削に伴う振動の関係の影響を検討するため、図8に示されるテスト加工を行った。回転工具用インサートとしては、凹み部23の個数が0個のもの(試料5)、1個のもの(試料6)、2個のもの(試料7)、4個のもの(試料8)、8個のもの(試料9)及び12個のもの(試料10)を用いた。なお、その他のテスト加工の条件は、上記と同一である。
【0057】
試料5、6、7、8、9及び10を用いたテスト加工においては、切削振動として、それぞれ0.130m/s、0.226m/s、0.202m/s、0.244m/s、0.226m/s及び0.217m/sの平均振幅を示した。また、試料5を用いたテスト加工においては、極めて長くつながった切りくずchが得られた。試料6を用いたテスト加工においては、細かく分断された切りくずchが得られた。試料7及び試料8を用いたテスト加工においては、試料6を用いたテスト加工と同程度に細かく分断された切りくずchが得られた。試料9を用いたテスト加工においては、試料6を用いたテスト加工の場合よりもさらに湾曲が大きな細かい切りくずchが得られた。試料10を用いたテスト加工においては、試料9と同程度に湾曲が大きな細かい切りくずchが得られた。
【0058】
このように、凹み部23の個数が増えるに従い、切りくず分断性及び切削振動が改善する傾向にあることが理解される。しかしながら、凹み部23の個数が多すぎると(例えば17個以上)と凹み部23が設けられる箇所の強度低下が生じてしまう。そのため、このような観点から、凹み部の個数は、8個以上15個以下とすることが特に好ましい。
【0059】
[凹み部の最大深さ]
次に、すくい面21上に設けられる凹み部23の最大深さDmaxについて説明する。凹み部23の最大深さDmaxと、切りくず分断性の関係の影響を検討するため、図8に示されるテスト加工を行った。回転工具用インサートとしては、凹み部23の最大深さDmaxが0.1mmのもの(試料11)、0.2mmのもの(試料12)及び0.4mmのもの(試料13)を用いた。なお、その他のテスト加工の条件は、上記と同一である。
【0060】
試料11を用いたテスト加工においては、やや長くつながった切りくずchが得られた。試料12を用いたテスト加工においては、十分に細かく分断された切りくずchが得られた。試料13を用いたテスト加工においては、試料12を用いた場合よりもさらに細かく分断された切りくずchが得られた。
【0061】
このように、凹み部23の最大深さDmaxが大きくなるにつれ、切りくず分断性が向上する傾向にあることが理解される。しかしながら、凹み部23の最大深さDmaxが大きすぎると、凹み部23が設けられる箇所の強度低下が生じてしまう。そのため、このような観点から凹み部23の最大深さは0.15mm以上0.25mm以下とすることが好ましい。
【0062】
以下、本発明の第2の実施形態について図面を用いて説明する。なお、ここでは、上記の第1の実施形態に係る回転切削工具用インサートと異なる点について主に説明する。
【0063】
図9は、第2の実施形態に係る回転工具用インサートの上面図である。図10は、図9のX−X断面における断面図である。第2の実施形態に係る回転工具用インサートは、図9に示すように、すくい面21に環状のブレーカ溝25が形成されている。なお、凹み部23は、図9のX−X断面には含まれていないが、参考として図10に記載している。
【0064】
図9に示すように、ブレーカ溝25におけるすくい面21外周側の端は、切れ刃22と距離L2離間して形成されている。距離L2は、好ましくは0.1mm以上0.3mm以下である。また、図10に示すように、ブレーカ溝25は、周方向に垂直な断面において所定の曲率半径Rを有する。後述するように、曲率半径Rは、10mm以上30mm以下であることが好ましい。
【0065】
ブレーカ溝25の曲率半径Rと切りくず分断性及び切削に伴う振動の関係の影響を検討するため、図8に示されるテスト加工を行った。回転工具用インサートとしては、ブレーカ溝25を設けないもの(試料14)、ブレーカ溝の曲率半径Rが6mmのもの(試料15)、10mmのもの(試料16)及び15mmのもの(試料17)を用いた。なお、その他のテスト加工の条件は、ワークWとしてJIS規格に規定されるステンレス鋼材であるSUS630を用いたことを除き、上記と同一である。
【0066】
曲率半径Rの変化が切りくず分断結果に与える影響は以下のとおりである。試料14を用いたテスト加工においては、極めて長くつながった切りくずchが得られた。他方、試料15を用いたテスト加工においては、極めて細かく分断された切りくずchが得られた。また、試料16及び17を用いたテスト加工においては、試料15を用いたテスト加工を行った場合と比較すると長くつながっているものの、十分に細かく分断された切りくずchが得られた。
【0067】
次に、曲率半径Rの変化が切削振動に与える影響は以下のとおりである。試料14を用いたテスト加工においては、切削振動の平均振幅は6.89m/sであった。他方で、試料15を用いたテスト加工においては、切削振動の平均振幅は11.22m/sであった。試料16及び17を用いたテスト加工においては、切削振動の平均振幅はそれぞれ7.90m/s、7.41m/sと試料14を用いたテスト加工の場合と同程度の切削振動であった。
【0068】
このように、曲率半径Rが小さい場合は、ブレーカ溝25がブレーカとして作用することにより、切りくず分断性は改善されるものの、切削振動が増大してしまう。しかし、曲率半径Rが大きくなると、切りくず分断性の改善をなしつつ、切削振動の増大を抑制することができる。但し、曲率半径Rが大きすぎると、ブレーカ溝25が平面に近づき、ブレーカ溝25を設けない場合との差が無くなる。このような観点から、ブレーカ溝25の曲率半径Rは、10mm以上30mm以下とすることが好ましい。
【0069】
なお、上記のテスト加工は凹み部23の個数が1個であるものを用いて行ったが、図11に示すような凹み部23を複数有する(例えば12個)回転切削工具用インサートにブレーカ溝25を設けた場合であっても、良好な切りくず分断性及び切削振動を示す。
【0070】
上記の実施形態においては、回転切削工具1は、回転切削工具用インサート2とホルダ3から構成されるものとして説明したが、回転切削工具1は、上記の回転切削工具用インサート2と同様の特徴を持つソリッド工具として構成してもよい。
【0071】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0072】
1 回転切削工具
2 回転切削工具用インサート
3 ホルダ
21 すくい面
22 切れ刃
23 凹み部
24 段差
25 ブレーカ溝
51 加工機
52 チャッキング
ch 切りくず
cp 切削点
Dmax 凹み部の最大深さ
f 送り速度
回転切削工具の回転速度
ワークの回転速度
B 周方向の幅
L1 凹み部におけるすくい面外周側の端と切れ刃の距離
L2 ブレーカ溝におけるすくい面外周側の端と切れ刃の距離
R 曲率半径
W ワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11