特開2018-157786(P2018-157786A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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  • 特開2018157786-脳血管障害の遺伝的リスク検出法 図000015
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-157786(P2018-157786A)
(43)【公開日】2018年10月11日
(54)【発明の名称】脳血管障害の遺伝的リスク検出法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20180914BHJP
【FI】
   C12Q1/68 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-56911(P2017-56911)
(22)【出願日】2017年3月23日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「エクソン全領域関連解析による心筋梗塞発症に関連する機能的遺伝子多型の同定」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
【住所又は居所】三重県津市栗真町屋町1577
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
【住所又は居所】茨城県つくば市天王台一丁目1番1
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
【住所又は居所】愛知県名古屋市昭和区御器所町字木市29番
(71)【出願人】
【識別番号】509111744
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター
【住所又は居所】東京都板橋区栄町35番2号
(74)【代理人】
【識別番号】100108280
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 洋平
(72)【発明者】
【氏名】山田 芳司
【住所又は居所】三重県津市栗真町屋町1577番地 国立大学法人三重大学内
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 淳
【住所又は居所】茨城県つくば市天王台一丁目1番1 国立大学法人筑波大学内
(72)【発明者】
【氏名】竹内 一郎
【住所又は居所】愛知県名古屋市昭和区御器所町字木市29番 国立大学法人名古屋工業大学内
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅嗣
【住所又は居所】東京都板橋区栄町35番2号 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター内
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR72
4B063QR77
4B063QX01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】脳血管障害(例えば、脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血など)の遺伝的リスクを判断するための一材料を得るための遺伝子検出法の提供。
【解決手段】rs2833270、rs605066、TTLL5のrs146036604、TTLL5のrs12615742、TCEB3Bのrs2010834、TCF19のrs3130933、GABRB3のrs3212335、NRXN3のrs6574433、UBASH3Aのrs11203203、TBC1D32のrs79221470、DBTのrs140308307、IL20RAのrs191996643、MMP28のrs117651561等のうちの少なくとも1個の遺伝子多型(SNP)を決定する日本人における脳血管障害の遺伝的リスク検出法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)rs2833270、rs605066、TTLL5のrs146036604、TTLL5のrs12615742、TCEB3Bのrs2010834、TCF19のrs3130933、GABRB3のrs3212335、NRXN3のrs6574433、UBASH3Aのrs11203203、TBC1D32のrs79221470、DBTのrs140308307、IL20RAのrs191996643、MMP28のrs117651561、C15orf57のrs3803354、TMPRSS7のrs147783135、TMPRSS7のrs7752978、HMGCS2のrs181428774、DPF3のrs757572、SLC6A4のrs56316081、OSGEPL1のrs75321854、S100A3のrs36022742、ALMS1のrs3820700、OR2D2のrs1965209、OR2D2のrs9494145、AXDND1のrs41267592、SCMH1のrs182666831、ELMO1のrs11984075、OTOL1のrs12633334、OTOL1のrs5026743、MUC16のrs12459532、TMPRSS6のrs2235321、TMPRSS6のrs11624336、KIAA1324のrs1052878、MMP28のrs79742527、SERINC1のrs11964202、KANK4のrs2258470、PRR22のrs201451364、PLCB1のrs6140742、AHNAK2のrs150385420、FBXO16のrs3735726、CALR3のrs3810198、PDGFDのrs10895547、LOC101928877のrs6844558、MBD2のrs1145315、LRTM1のrs182902370、SEC16Bのrs202187751、NEURL4のrs117553236、PPFIA1のrs546502、SLC18A1のrs1390938、DDOSTのrs74526704、ZNF16のrs139521477、TTC16のrs142193455、SEMA4Dのrs13295305、TRHのrs13306057、MAST4のrs56337909、PTPRRのrs10784867、PREX1のrs6095241、PREX1のrs12402711、PREX1のrs10277516、ROR2のrs200805854、DUS4Lのrs4730250、DUS4Lのrs11185362、IL7Rのrs3194051、FAM200Aのrs75129401、PLXNC1のrs75674989、PLXNC1のrs7131744、PDIA5のrs2292661、GOLGB1のrs3732407、ARPC1Bのrs1045012、ALMS1のrs138921247、TRIM67のrs1998027、C16orf95のrs3748393、CES5Aのrs145397395、ACTR5のrs3752289、ACTR5のrs3095354、CYP4F12のrs191885206、CELSR2のrs117684956、
(2)RECQLのrs146924988、ATF7IP2のrs13335336、SHCBP1のrs11545690、SHCBP1のrs1405262、CATのrs7943316、EXOC6Bのrs1517182、RNASE10のrs202109789、GKN2のrs146849599、IGSF10のrs78090556、GFM2のrs77099085、ADRB2のrs1042713、SPNのrs3764276、SPNのrs3135365、NAA25のrs12231744、DNAH11のrs78763603、C15orf57のrs3803354、BDP1のrs34529158、FLGのrs2184953、FLGのrs563694、LOC100996813のrs2453589、DPF3のrs757572、CCDC18のrs3820059、CCDC18のrs11624336、AXDND1のrs41267592、AXDND1のrs13234712、MAPTのrs3785879、NLRP13のrs17711239、AIF1のrs2857697、STYK1のrs138533962、CCDC169のrs9546897、HMHA1のrs150294461、TJP3のrs1046268、PAX5のrs2297105、PAX5のrs4996815、HLA-DPB1のrs9277471、SSC4Dのrs10227141、ZCCHC11のrs138145860、MOGAT1のrs35959734、MOGAT1のrs6534076、SPATC1Lのrs113710653、LRRC17のrs3800939、PATE1のrs2114084、LY6G6Cのrs117894946、VWA5B1のrs139281890、PABPC4のrs4660293、ELMO1のrs11984075、C2のrs511294、C2のrs2823962、
(3)rs2972146、rs3135365、CDL6のrs2282978、CDL6のrs2639889、ANKFN1のrs12449568、CHRDL2のrs79893604、CTNNA3のrs12256826、SLC4A5のrs10177833、TEX41のrs2381683、PYGMのrs589691、PYGMのrs34429154、COL17A1のrs117564807のうちの少なくとも1個の遺伝子多型(SNP)を決定することを特徴とする日本人における脳血管障害の遺伝的リスク検出法。
【請求項2】
SNPが前記(1)に記載のものの少なくとも1個であり、脳血管障害が脳梗塞である請求項1に記載の日本人における脳血管障害の遺伝的リスク検出法。
【請求項3】
SNPが前記(2)に記載のものの少なくとも1個であり、脳血管障害が脳出血である請求項1に記載の日本人における脳血管障害の遺伝的リスク検出法。
【請求項4】
SNPが前記(3)に記載のものの少なくとも1個であり、脳血管障害がクモ膜下出血である請求項1に記載の日本人における脳血管障害の遺伝的リスク検出法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳血管障害の遺伝的リスク検出法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトゲノムプロジェクトの成功によって、一般的な疾患に影響を与える遺伝子の同定を含め、臨床医学に対して大きな利益がもたらされつつある。そのような遺伝子を同定するための方法の一つとして、特定の疾患に注目しつつ、適切に選択された遺伝子多型を探るという方法(ゲノムワイド関連解析:GWAS)や、エクソン全領域の遺伝子多型を探るという方法(エキソーム・ワイド関連解析またはエキソーム・ワイド関連解析:EWAS)がある。
脳血管障害は、一般的かつ重篤な疾患である。2013年に米国では、約795000人の患者が初回又は二回目以上の発作によって苦しんでおり、約13万人がこの疾患によって亡くなっている。2012年には、米国における脳血管障害の罹患者は約660万人にのぼっている。
【0003】
全ての脳血管障害のうち、87%は脳梗塞、10%は脳出血、3%はクモ膜下出血である。日本では、脳血管障害の罹患者は、140万人程度であり(62%は脳梗塞、23%は脳出血、11%はクモ膜下出血である)、毎年13万2千人近くが、この病気によって亡くなっている。近年、脳血管障害の治療に対して急速な進歩が認められるものの、西洋および日本において、依然として脳血管障害は重篤な影響を与える疾患であるとともに、心臓病とガンに続き第3位の死因となっている。脳血管障害の脅威を減少させるための重要な戦略の一つは、脳血管障害に関する危険因子を同定することである。
遺伝的連鎖解析と候補遺伝子解析によって、遺伝子座(5q12)(非特許文献1)。関連文献については、明細書の末尾にまとめて示す。))といくつかの候補遺伝子(フォスフォジエステラーゼ4D(非特許文献2)、5リポキシゲナーゼ活性化タンパク質(非特許文献3)、およびシクロオキシゲナーゼ2(非特許文献4))と、脳血管障害との関与が示唆されている。また、本願発明者も脳血管障害の遺伝的リスク検出法に関する研究報告を行ってきている(特許文献1)。
しかしながら、依然として脳血管障害と遺伝的要因との関係については、十分に解明されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、虚血性および出血性の脳血管障害について、遺伝的因子および従来の危険因子を組み合わせることにより、リスクを判断するための一材料を得るための検出法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための発明に係る日本人における脳血管障害の遺伝的リスク検出法は、(1)rs2833270、rs605066、TTLL5のrs146036604、TTLL5のrs12615742、TCEB3Bのrs2010834、TCF19のrs3130933、GABRB3のrs3212335、NRXN3のrs6574433、UBASH3Aのrs11203203、TBC1D32のrs79221470、DBTのrs140308307、IL20RAのrs191996643、MMP28のrs117651561、C15orf57のrs3803354、TMPRSS7のrs147783135、TMPRSS7のrs7752978、HMGCS2のrs181428774、DPF3のrs757572、SLC6A4のrs56316081、OSGEPL1のrs75321854、S100A3のrs36022742、ALMS1のrs3820700、OR2D2のrs1965209、OR2D2のrs9494145、AXDND1のrs41267592、SCMH1のrs182666831、ELMO1のrs11984075、OTOL1のrs12633334、OTOL1のrs5026743、MUC16のrs12459532、TMPRSS6のrs2235321、TMPRSS6のrs11624336、KIAA1324のrs1052878、MMP28のrs79742527、SERINC1のrs11964202、KANK4のrs2258470、PRR22のrs201451364、PLCB1のrs6140742、AHNAK2のrs150385420、FBXO16のrs3735726、CALR3のrs3810198、PDGFDのrs10895547、LOC101928877のrs6844558、MBD2のrs1145315、LRTM1のrs182902370、SEC16Bのrs202187751、NEURL4のrs117553236、PPFIA1のrs546502、SLC18A1のrs1390938、DDOSTのrs74526704、ZNF16のrs139521477、TTC16のrs142193455、SEMA4Dのrs13295305、TRHのrs13306057、MAST4のrs56337909、PTPRRのrs10784867、PREX1のrs6095241、PREX1のrs12402711、PREX1のrs10277516、ROR2のrs200805854、DUS4Lのrs4730250、DUS4Lのrs11185362、IL7Rのrs3194051、FAM200Aのrs75129401、PLXNC1のrs75674989、PLXNC1のrs7131744、PDIA5のrs2292661、GOLGB1のrs3732407、ARPC1Bのrs1045012、ALMS1のrs138921247、TRIM67のrs1998027、C16orf95のrs3748393、CES5Aのrs145397395、ACTR5のrs3752289、ACTR5のrs3095354、CYP4F12のrs191885206、CELSR2のrs117684956、(2)RECQLのrs146924988、ATF7IP2のrs13335336、SHCBP1のrs11545690、SHCBP1のrs1405262、CATのrs7943316、EXOC6Bのrs1517182、RNASE10のrs202109789、GKN2のrs146849599、IGSF10のrs78090556、GFM2のrs77099085、ADRB2のrs1042713、SPNのrs3764276、SPNのrs3135365、NAA25のrs12231744、DNAH11のrs78763603、C15orf57のrs3803354、BDP1のrs34529158、FLGのrs2184953、FLGのrs563694、LOC100996813のrs2453589、DPF3のrs757572、CCDC18のrs3820059、CCDC18のrs11624336、AXDND1のrs41267592、AXDND1のrs13234712、MAPTのrs3785879、NLRP13のrs17711239、AIF1のrs2857697、STYK1のrs138533962、CCDC169のrs9546897、HMHA1のrs150294461、TJP3のrs1046268、PAX5のrs2297105、PAX5のrs4996815、HLA-DPB1のrs9277471、SSC4Dのrs10227141、ZCCHC11のrs138145860、MOGAT1のrs35959734、MOGAT1のrs6534076、SPATC1Lのrs113710653、LRRC17のrs3800939、PATE1のrs2114084、LY6G6Cのrs117894946、VWA5B1のrs139281890、PABPC4のrs4660293、ELMO1のrs11984075、C2のrs511294、C2のrs2823962、(3)rs2972146、rs3135365、CDL6のrs2282978、CDL6のrs2639889、ANKFN1のrs12449568、CHRDL2のrs79893604、CTNNA3のrs12256826、SLC4A5のrs10177833、TEX41のrs2381683、PYGMのrs589691、PYGMのrs34429154、COL17A1のrs117564807のうちの少なくとも1個の遺伝子多型(SNP)を決定することを特徴とする。
【0006】
上記(1)に記載のSNPは、脳梗塞に関するEWASで特定されたものであり、日本人集団において、脳血管障害との関連が明らかとなった。このため、上記(1)に記載のものの少なくとも1個のSNPを決定することにより、脳梗塞に関する遺伝的リスク検出法となる。
また、上記(2)に記載のSNPは、脳出血に関するEWASで特定されたものであり、日本人集団において、脳血管障害との関連が明らかとなった。このため、上記(2)に記載のものの少なくとも1個のSNPを決定することにより、脳出血に関する遺伝的リスク検出法となる。
また、上記(3)に記載のSNPは、クモ膜下出血に関するEWASで特定されたものであり、日本人集団において、脳血管障害との関連が明らかとなった。このため、上記(3)に記載のものの少なくとも1個のSNPを決定することにより、クモ膜下出血に関する遺伝的リスク検出法となる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、脳血管障害の遺伝的リスクを判断するための一材料を得るための遺伝子検出法を提供できる。この発明を用いることにより、脳血管障害に対する予防が可能となり、高齢者の健康寿命の延長、生活の質の向上、寝たきりの防止ならびに今後の医療費削減など、医学的・社会的に大きく貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】脳梗塞(A)、脳出血(B)、クモ膜下出血(C)のEWASにおけるアレル頻度のP値のQ-Qプロットである。測定されたP値(y軸)と、帰無仮説の下で予測されたP値(x軸)とを比較し、値は-log10(P)としてプロットした。
図2】脳梗塞のEWASにおけるアレル頻度のP値を示すマンハッタンプロットである。P値(y軸)を-log10(P)とし、対応するSNP(x軸)の物理的な染色体位置に対してプロットした。最終的に脳梗塞との関連が確認された4個のSNP(GABRB3, TMPRSS7, PDIA5, CYP4F12)を図中に示した。
図3】脳梗塞(A)、脳出血(B)のEWASにおけるアレル頻度のP値を示すマンハッタンプロットである。P値(y軸)を-log10(P)とし、対応するSNP(x軸)の物理的な染色体位置に対してプロットした。最終的に脳出血、クモ膜下出血との関連が有意に確認されたSNP(STYK1、COL17A1)を図中に示した。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明する。本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく、様々な形態で実施できる。
<試験方法>
1.被験者集団
(a)1575人の脳梗塞患者と9210人の対照者及び(b)938人の出血性脳血管障害患者(673人の脳出血患者及び265人のクモ膜下出血患者を含む)と9158人の対照者のそれぞれについて、エキソン・ワイド関連解析(EWAS)を実施した。両EWASについて、対照者の多くは共通であった。これらの被験者集団は、(i)岐阜県立多治見病院、岐阜県総合医療センター、名古屋第一赤十字病院、いなべ総合病院及び弘前脳卒中・リハビリテーションセンターの5ヶ所の病院に2002年〜2014年の間に種々の症状を訴えて来院し、本試験の参加に同意したか、健康診断に訪れ、本試験の参加に同意した者、(ii)2010年〜2014年の間にいなべ市において、2011年〜2015年の間に東京若しくは草津において、集団ベース・コホート研究に参加した者、または(iii)1995年〜2012年の間に、東京都老人病院において部検を実施された者であった。
【0010】
脳梗塞、脳出血又はクモ膜下出血の診断は、新しくかつ突発的な神経学的な病態の発生と24時間以上継続する神経学的な症状とに基づいた。更に、頭部のCTスキャン或いはMRI(場合により両方)によって診断を確認した。脳血管障害の型は、脳血管障害IIIの分類に従った。脳梗塞の感受性遺伝子座がサブタイプ特異的であることを考慮し、アテローム血栓性脳梗塞(大血管疾患)を有する患者を調べた。
脳梗塞のEWASに関しては、心原性脳塞栓、ラクナー梗塞、一過性脳虚血発作、脳血管奇形、脳腫瘍、および外傷性脳血管障害の患者については、対象から除外した。出血性脳血管障害のEWASに関しては、脳梗塞、頸動脈梗塞、一過性脳虚血発作、脳血管奇形による頭蓋内出血、モヤモヤ病、脳静脈洞血栓症、脳腫瘍、外傷性脳血管疾患、硬膜下血腫の患者については、対象から除外した。対照者群は、虚血性脳卒中、出血性脳卒中、大動脈疾患、冠動脈疾患、末梢動脈疾患、他の血栓性・塞栓性・出血性障害の既往歴がなかった。また、頭蓋内動脈瘤の治療を受けている者は対照者群から除外した。脳卒中歴の有無は、詳細なアンケートで評価し、神経学的欠損の病歴がないことで確認した。また、部検サンプルは対照者群から除外した。
研究計画は、ヘルシンキ宣言を遵守し、三重大学医学研究科、弘前大学大学院医学研究科、東京都老人医学研究所および参加病院の人間倫理委員会の承認を得た。死亡した被験者のすべての被験者または家族から、インフォームド・コンセントを得た。
【0011】
2.EWAS
50mmol/Lのエチレンジアミン四酢酸(2ナトリウム塩)を含有するチューブに静脈血(5mlまたは7mL)を採取し、末梢血白血球を単離した後、ゲノムDNAをDNA抽出キット(ゲノミックス(タレント社、イタリア)、SMITEST EX-R&D(医学生物学研究社))または標準的なフェノール・クロロホルム抽出法とスピンカラムを用いて、精製した。部検サンプルの場合には、腎臓からゲノムDNAを抽出した。EWASは、ヒト・エクソーム12 v1.2 若しくはv1.2 DNA解析ビーズチップ、またはインフィニウム・エクソーム24 v1.0ビーズチップ(イルミナ社、アメリカ)を用いて行った。これらのエクソーム・アレイは、個々のエクソームと全ゲノム配列から選択された12000を超える推定上の機能的エクソン変異体を含んでいる。エキソンの内容には、欧州人種、アフリカ人種、中国人及びヒスパニック人種を含む広範囲な集団を代表する約244000個のSNPが含まれる。一種類のみのエクソーム・アレイに含まれるSNP(全SNPの3.6%程度)は、解析から除いた。
【0012】
解析のクオリティ・コントロールとして、次の方法を用いた:(i)97%未満のコール率を示した遺伝子型のデータは廃棄した。残りのデータの平均コール率は99.9%であった。(ii)各サンプルについて、性別の特性を確認し、臨床記録の性表現と遺伝子型が矛盾するものデータは廃棄した。(iii)重複したサンプル及び潜在的な関連性については、IBD(identity by descent)による計算で確認した。IBD数が0.1875よりも大きいDNAサンプルの全対について検査を行い、各対から一つのサンプルを除いた。(iv)全サンプルについて、SNPのヘテロ接合性の頻度を計算し、ヘテロ接合性が非常に低いものまたは非常に高いもの(平均から3よりも大きな標準偏差を示すもの)については廃棄した。(v)性染色体またはミトコンドリアDNAのSNP、非多核性SNP及びマイナーアレル頻度(MAF)が0.1%未満のSNPについては、解析から除いた。(vi)対照群と比較して、遺伝子型分布がハーディ・ワインバーグ平衡から有意に(P<0.001)外れたSNPは除外した。(vii)各EWASの遺伝子型データを主成分分析を用いて階層化し、異常値を示す集団は解析から除いた。
上記クオリティコントロールを評価し、脳梗塞に関しては41339個のSNPについて、出血性脳血管障害患者に関しては41332個のSNPについて、それぞれ解析を行った。
【0013】
3.統計解析
脳梗塞患者・脳出血患者・クモ膜下出血患者と、対照者との間で定量的なデータは、対応のないスチューデントt検定によって比較した。カテゴリーデータはフィッシャーの正確確率検定(Fisher's exact test)によって比較した。対立遺伝子頻度は、遺伝子計数法により推定し、フィッシャーの正確確率検定により、ハーディー・ワインバーグ平衡からのずれを同定した。脳梗塞患者・脳出血患者・クモ膜下出血患者と対照者との間で、SNPのアレル頻度をフィッシャーの正確確率検定によって比較した。脳梗塞、脳出血またはクモ膜下出血について、複数の遺伝子型の比較を行うために、ボンフェローニ補正を加えて、関連性の統計的有意性を調べた。
【0014】
脳梗塞または出血性脳血管障害のEWASについて、41339個または41332個のSNPを分析し、有意水準をP<1.21×10-6(0.05/41339または0.05/41332)とした。脳梗塞、脳出血またはクモ膜下出血のEWASにおける遺伝子型のP値に関するQ-Qプロット(quantile-quantileプロット)を図1に示した。インフレーション・ファクター(λ)は、脳梗塞では1.30、脳出血では1.52、クモ膜下出血では1.72であった。
年齢、性別(女性が0、男性が1)、高血圧の有無・糖尿病の有無(既往歴なしが0、有りが1)及び各SNPの遺伝子型を独立変数とし、脳梗塞の有無を従属変数とする多重ロジスティック回帰分析を行った。脳出血及びクモ膜下出血については、年齢、性別、高血圧の有無及び各SNPの遺伝子型を独立変数として、同様の解析を行った。各SNPの遺伝子型は、Aをメジャーアレル、Bをマイナーアレルとし、優性モデル(0、AA; 1、AB + BB)、劣性モデル(0、AA + AB; 1、BB)、相加的遺伝子モデル、P値、オッズ比および95%信頼区間について計算した。相加的モデルは、相加1(0、AA; 1、AB; 0、BB)と相加2(0、AA; 0、AB; 1 BB)とを含み、両者は単一の統計モデルで同時に分析した。SNPの遺伝子型と中間表現型との関係をフィッシャーの正確確率検定(2×2)またはピアソンのカイ二乗検定(2×3)によって調べた。上述のように、他の解析については、ボンフェローニ補正を行った。統計解析には、JMPゲノミックス・バージョン6.0ソフトウエア(SAS Institute, Cary, NC, USA)を用いた。
【0015】
<試験結果>
1.脳梗塞に関するEWAS
脳梗塞のEWASの対象者の特徴を表1に示した。年齢、男性の割合、BMI、高血圧の割合、糖尿病の割合、慢性腎疾患の割合、収縮期血圧、拡張期血圧、空腹時血糖値、糖化ヘモグロビン(hemoglobin A1c)量、血中中性脂肪、クレアチニンについては、対照群に比べ、脳梗塞患者群の方が高く、血中HDLコレステロールおよび推定糸球体ろ過率(eGFR)については、冠動脈疾患または心筋梗塞者群の方が低かった。
【0016】
【表1】
【0017】
クオリティ・コントロールをクリアした41339個のSNPのアレル頻度と脳梗塞との関係について、フィッシャーの正確確率検定を用いて調べた。脳梗塞のEWASについてのマンハッタンプロットを図2に示した。ボンフェローニの補正後に、77個のSNPが脳梗塞に有意に(P<1.21×10-6)関連した(表2〜表4)。これらのSNPの遺伝子型分布は、脳梗塞患者群と対照者群とにおいて、ハーディワインバーグ平衡(P>0.001)にあった。
【0018】
【表2】
【0019】
【表3】
【0020】
【表4】
【0021】
3.脳梗塞に関連するSNPについての多重ロジスティック回帰分析
次に、上記77個のSNPと脳梗塞との関係を多重ロジスティック回帰分析にかけた。このとき、年齢、性別、高血圧の割合、糖尿病の割合について調節をした(表5)。その結果、4個のSNP(GABRBのrs3212335 (G/A)、TMPRSS7のrs147783135 [C/T (R692*)]、PDIA5のrs2292661 [C/T (T391M)]、CYP4F12のrs191885206 [T/C (C402R)])が脳梗塞と有意性(少なくともいずれかの遺伝型モデルにおいて、P<0.01)を示した。しかし、いずれのSNPも有意に(P<1.62×10-4(0.05/308))関連しなかった。rs3212335のマイナーAアレル及びrs191885206のマイナーCアレルは脳梗塞の危険因子であり、rs147783135のマイナーTアレル及びrs2292661のマイナーTアレルは脳梗塞の保護因子であった。
【0022】
【表5】
【0023】
4.脳出血のEWAS
脳出血のEWASの対象者の特徴を表6に示した。年齢、男性の割合、高血圧の割合、糖尿病の割合は、対照群に比べ、脳出血患者群の方が高かった。
【0024】
【表6】
【0025】
クオリティ・コントロールをクリアした41332個のSNPのアレル頻度と脳出血との関係について、フィッシャーの正確確率検定を用いて調べた。脳出血のEWASについてのマンハッタンプロットを図3(A)に示した。ボンフェローニの補正後に、48個のSNPが脳出血に有意に(P<1.21×10-6)関連した(表7,8)。これらのSNPの遺伝子型分布は、脳出血患者群と対照者群とにおいて、ハーディワインバーグ平衡(P>0.001)にあった。
【0026】
【表7】
【0027】
【表8】
【0028】
5.脳出血に関連するSNPについての多重ロジスティック回帰分析
次に、上記48個のSNPと脳出血との関係を多重ロジスティック回帰分析にかけた。このとき、年齢、性別、高血圧の割合について調節をした(表9)。その結果、6個のSNPが脳出血と有意性(少なくともいずれかの遺伝型モデルにおいて、P<0.05)を示した。これらのSNPのうち、STYK1のrs138533962 [G/A (R379C)]が、優性モデル及び付加1モデルにおいて、有意に(P<2.62×10-4(0.05/192))脳出血に関連した。このとき、マイナーAアレルは危険因子であった。
【0029】
【表9】
【0030】
6.クモ膜下出血のEWAS
クモ膜下出血のEWASの対象者の特徴を表6に示した。高血圧の割合は、対照群に比べ、クモ膜下出血群の方が高く、異常脂質代謝の割合はクモ膜下出血群の方が低かった。
クオリティ・コントロールをクリアした41332個のSNPのアレル頻度とクモ膜下出血との関係について、フィッシャーの正確確率検定を用いて調べた。クモ膜下出血のEWASについてのマンハッタンプロットを図3(B)に示した。ボンフェローニの補正後に、12個のSNPが脳出血に有意に(P<1.21×10-6)関連した(表10)。これらのSNPの遺伝子型分布は、クモ膜下出血者群と対照者群とにおいて、ハーディワインバーグ平衡(P>0.001)にあった。
【0031】
【表10】
【0032】
7.クモ膜下出血に関連するSNPについての多重ロジスティック回帰分析
次に、上記12個のSNPとクモ膜下出血との関係を多重ロジスティック回帰分析にかけた。このとき、年齢、性別、高血圧の割合について調節をした(表11)。その結果、3個のSNPがクモ膜下出血と有意性(P<0.05)を示した。これらのSNPのうち、COL17A1のrs117564807 [C/T (D919N)] が、優性モデル及び付加1モデルにおいて、有意に(P<0.0010(0.05/48)クモ膜下出血に関連した。このとき、マイナーTアレルは保護因子であった。
【0033】
【表11】
【0034】
8.中間表現型とSNPとの関係
6個のSNP(すなわち、GABRB3のrs3212335、TMPRSS7のrs147783135、PDIA5のrs2292661、CYP4F12のrs191885206、STYK1のrs138533962、COL17A1のrs117564807)について、脳梗塞または出血性脳血管障害の中間表現型(すなわち、高血圧、糖尿病、高トリグリセリド血症、低HDLコレステロール血症、高LDLコレステロール血症、慢性腎疾患、肥満及び高尿酸血症を含む)との関連を調べた。その結果、STYK1のrs138533962は、有意に(P<0.0010 (0.05/48))高血圧の割合、糖尿病の割合、高中性脂肪の割合及び低HDLコレステロール血症と関連した。しかし、残りの5個のSNPは、中間表現型との間に関連は認められなかった(表12)。
【0035】
【表12】
【0036】
9.今回特定された遺伝子及びSNPと、これまでのGWASで調べられた表現型との関係
今回の研究で特定された遺伝子及びSNPと、GWASによって特定されて来た公知の表現型(GWASカタログ(http://www.ebi.ac.uk/gwas)及びGWASセンター(http://www.gwascentral.org/browser))とを比較した。その結果、今回特定されたSNPについては、従来のGWASによって脳梗塞または出血性脳血管障害との関連を指摘されたものとは重複しなかった。
このように本実施形態によれば、脳血管障害について、遺伝的リスクを予測するための検出法を提供することができた。この実施形態を用いることにより、脳血管障害の予防が可能となり、高齢者の健康寿命延長・生活の質の向上・ねたきり防止ならびに今後の医療費削減など、医学的・社会的に大きく貢献できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0037】
【特許文献1】特願2006-244526号
【非特許文献】
【0038】
【非特許文献1】Gretarsdottir S, Sveinbjornsdottir S, Jonsson HH, et al. Localization of a susceptibility gene for common forms of stroke to 5q12. Am J Hum Genet 2002;70:593-603.
【非特許文献2】Gretarsdottir S, Thorleifsson G, Reynisdottir ST, et al. The gene encoding phosphodiesterase 4D confers risk of ischemic stroke. Nat Genet 2003;35:131-8.
【非特許文献3】Helgadottir A, Manolescu A, Thorleifsson G, et al. The gene encoding 5-lipoxygenase activating protein confers risk of myocardial infarction and stroke. Nat Genet 2004;36:233-9.
【非特許文献4】Cipollone F, Toniato E, Martinotti S, et al. A polymorphism in the cyclooxygenase 2 gene as an inherited protective factor against myocardial infarction and stroke. JAMA 2004;291:2221-8.
図1
図2
図3