特開2018-162237(P2018-162237A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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  • 特開2018162237-チロシナーゼ阻害剤 図000015
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-162237(P2018-162237A)
(43)【公開日】2018年10月18日
(54)【発明の名称】チロシナーゼ阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/49 20060101AFI20180921BHJP
   A61K 8/9728 20170101ALI20180921BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20180921BHJP
   A61K 31/343 20060101ALI20180921BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20180921BHJP
   A61K 36/07 20060101ALI20180921BHJP
【FI】
   A61K8/49
   A61K8/9728
   A61Q19/02
   A61K31/343
   A61P17/16
   A61K36/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-61552(P2017-61552)
(22)【出願日】2017年3月27日
(71)【出願人】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】石原 亨
(72)【発明者】
【氏名】井手 ゆり
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083AB032
4C083AC022
4C083AC072
4C083AC082
4C083AC102
4C083AC122
4C083AC242
4C083AC352
4C083AC422
4C083AC442
4C083AC841
4C083AC842
4C083AD042
4C083CC04
4C083CC05
4C083DD33
4C083EE16
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA05
4C086GA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA89
4C088AA02
4C088AC16
4C088BA11
4C088BA21
4C088CA03
4C088NA14
4C088ZA89
(57)【要約】
【課題】チロシナーゼ阻害活性を有する新規化合物を得る。
【解決手段】式(I)で示される化合物またはその塩もしくは溶媒和物、式(I)で示される化合物またはその塩もしくは溶媒和物を含むチロシナーゼ阻害剤、ならびにきのこを培養することを特徴とする式(I)の化合物またはその塩もしくは溶媒和物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

[式中、X、X、XおよびXはそれぞれ(O)R、(O)R、(O)Rおよび(O)Rであり、ここに(O)は酸素原子が存在してもよく、存在しなくてもよいことを意味し、
〜Rはそれぞれ独立して、
・水素、
・ハロゲン、
・OR
・COR
・COOR
・NR
・ハロゲン、OH、COOHまたはNHにて置換されていてもよいC1−6アルキル、
・ハロゲン、OH、COOHまたはNHにて置換されていてもよいC2−6アルケニル、または
・ハロゲン、OH、COOHまたはNHにて置換されていてもよいC2−6アルキニル、
であり、
〜Rはそれぞれ独立して、
・水素、
・ハロゲン、OH、COOHまたはNHにて置換されていてもよいC1−6アルキル、
・ハロゲン、OH、COOHまたはNHにて置換されていてもよいC2−6アルケニル、または
・ハロゲン、OH、COOHまたはNHにて置換されていてもよいC2−6アルキニル、
である]
で示される化合物またはその塩もしくは溶媒和物。
【請求項2】
、XおよびXがそれぞれ独立してOHまたはOC1−3アルキルであり、Xが水素、OHまたはOC1−3アルキルである請求項1記載の化合物またはその塩もしくは溶媒和物(ここにC1−3アルキルはハロゲン、OH、COOHまたはNHにて置換されていてもよい)。
【請求項3】
1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−4,5,7−トリオールあるいは5−メトキシ−1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−4,7−ジオール、またはその塩もしくは溶媒和物である、請求項1記載の化合物またはその塩もしくは溶媒和物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の化合物またはその塩もしくは溶媒和物を含むチロシナーゼ阻害用組成物。
【請求項5】
化粧品である請求項4記載の組成物。
【請求項6】
医薬組成物である請求項4記載の組成物。
【請求項7】
きのこを培養し、請求項1〜3のいずれか1項記載の式(I)の化合物またはその塩もしくは溶媒和物を含む培養物を得ることを含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の式(I)の化合物またはその塩もしくは溶媒和物の製造方法。
【請求項8】
きのこがマツオウジである請求項7記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物に関する。詳細には、本発明は、チロシナーゼ阻害活性を有する新規化合物、該化合物を含むチロシナーゼ阻害剤、および該化合物の製造方法に関する
【背景技術】
【0002】
近年の美容における主な関心事の1つに「美白」が挙げられる。メラニンは、シミやそばかすに沈着している色素である。シミやそばかすは、日焼けなどを引き金に生体内でメラニンが過剰に生成されることによって生じる。したがって、メラニンの生成を抑制することにより美白効果を得ることができる。メラニン生成の過程で重要な働きをするのがチロシナーゼである。チロシナーゼはL−チロシンから、L−DOPA、およびL−DOPAからL−DOPAキノンへの2段階の反応を触媒するメラニン生合成の律速酵素である。したがって、チロシナーゼの阻害剤はメラニンの生成を抑制し、肌を白く保ついわゆる美白作用を有する。
【0003】
チロシナーゼ阻害剤は、実際に様々な美白化粧品に使用されている。実用化されているチロシナーゼ阻害剤には、ヒドロキノン、コウジ酸、アルブチン、グルタチオンなどがある(非特許文献1)。しかし、これらのチロシナーゼ阻害剤の中には、水の存在下で酸化が起こり、急激な品質の低下が問題になるものもある(非特許文献1)。また、中には細胞毒性を示すものがあることも報告されている。ロドデノールを有効成分とする美白化粧品の使用によって肌に白い斑点が現れ、大きな問題となったのは記憶に新しい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】谷口正之 (2013) 米タンパク質由来チロシナーゼ阻害ペプチドの精製と同定およびその美白効果. コスメとロジー研究報告21, 24-30.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような背景から、効果的かつ安全なチロシナーゼ阻害剤が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、上述の式(I)で示される化合物またはその塩もしくは溶媒和物が強力なチロシナーゼ阻害活性を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は以下のものを提供する。
(1)式(I):
【化1】

[式中、X、X、XおよびXはそれぞれ(O)R、(O)R、(O)Rおよび(O)Rであり、ここに(O)は酸素原子が存在してもよく、存在しなくてもよいことを意味し、
〜Rはそれぞれ独立して、
・水素、
・ハロゲン、
・OR
・COR
・COOR
・NR
・ハロゲン、OH、COOHまたはNHにて置換されていてもよいC1−6アルキル、
・ハロゲン、OH、COOHまたはNHにて置換されていてもよいC2−6アルケニル、または
・ハロゲン、OH、COOHまたはNHにて置換されていてもよいC2−6アルキニル、
であり、
〜Rはそれぞれ独立して、
・水素、
・ハロゲン、OH、COOHまたはNHにて置換されていてもよいC1−6アルキル、
・ハロゲン、OH、COOHまたはNHにて置換されていてもよいC2−6アルケニル、または
・ハロゲン、OH、COOHまたはNHにて置換されていてもよいC2−6アルキニル、
である]
で示される化合物またはその塩もしくは溶媒和物。
(2)X、XおよびXがそれぞれ独立してOHまたはOC1−3アルキルであり、Xが水素、OHまたはOC1−3アルキルである(1)記載の化合物またはその塩もしくは溶媒和物(ここにC1−3アルキルはハロゲン、OH、COOHまたはNHにて置換されていてもよい)。
(3)1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−4,5,7−トリオールあるいは5−メトキシ−1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−4,7−ジオール、またはその塩もしくは溶媒和物である、(1)記載の化合物またはその塩もしくは溶媒和物。
(4)(1)〜(3)のいずれか記載の化合物またはその塩もしくは溶媒和物を含むチロシナーゼ阻害用組成物。
(5)化粧品である(4)記載の組成物。
(6)医薬組成物である(4)記載の組成物。
(7)きのこを培養し、(1)〜(3)のいずれか記載の式(I)の化合物またはその塩もしくは溶媒和物を含む培養物を得ることを含む、(1)〜(3)のいずれか記載の式(I)の化合物またはその塩もしくは溶媒和物の製造方法。
(8)きのこがマツオウジである(7)記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、強力なチロシナーゼ阻害活性を有する化合物を提供する。本発明の化合物は、食用キノコ中に含まれているものなので、安全性が高い。したがって、本発明の化合物を含む化粧品や医薬組成物は強力な美白効果を有し、シミやそばかすを効果的に抑制するものであり、安全性も高いものである。さらに、本発明は、きのこを培養することを特徴とする、上記化合物の製造方法も提供する。本発明の製造方法に食用きのこを用いることにより、安全に上記化合物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の化合物のチロシナーゼ阻害活性をキチのチロシナーゼ阻害剤アルブチンおよびヒドロキノンと比較した結果を示すグラフである。化合物1は1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−4,5,7−トリオール、化合物2は5−メトキシ−1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−4,7−ジオールである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、1の態様において、式(I):
【化2】

[式中、X、X、XおよびXはそれぞれ(O)R、(O)R、(O)Rおよび(O)Rであり、ここに(O)は酸素原子が存在してもよく、存在しなくてもよいことを意味し、
〜Rはそれぞれ独立して、
・水素、
・ハロゲン、
・OR
・COR
・COOR
・NR
・ハロゲン、OH、COOHまたはNHにて置換されていてもよいC1−6アルキル、
・ハロゲン、OH、COOHまたはNHにて置換されていてもよいC2−6アルケニル、または
・ハロゲン、OH、COOHまたはNHにて置換されていてもよいC2−6アルキニル、
であり、
〜Rはそれぞれ独立して、
・水素、
・ハロゲン、OH、COOHまたはNHにて置換されていてもよいC1−6アルキル、
・ハロゲン、OH、COOHまたはNHにて置換されていてもよいC2−6アルケニル、または
・ハロゲン、OH、COOHまたはNHにて置換されていてもよいC2−6アルキニル、
である]
で示される化合物またはその塩もしくは溶媒和物を提供する。
【0011】
式(I)の化合物はチロシナーゼ阻害活性を有する。チロシナーゼ阻害活性は、公知のチロシナーゼ活性測定系において、被験物質を添加した場合と、被験物質を添加しない場合とのチロシナーゼ活性の比較により測定してもよい。チロシナーゼ阻害活性の測定法の一例としては、緩衝溶液中のL−DOPAに被験物質を添加して、あるいは被験物質を添加せずに一定時間インキュベートし、その後チロシナーゼを添加して一定時間インキュベートし、反応液の吸光度を例えば475nmにて測定することが挙げられる。本明細書において、チロシナーゼの阻害とは、チロシナーゼ活性を低下させることおよび消失させることの両方を意味する。
【0012】
式(I)の化合物は、特に断らない限り、構造異性体、立体異性体を問わず、すべての種類の異性体、および異性体の混合物を包含する。
【0013】
好ましい式(I)の化合物の例としては、X、XおよびXがそれぞれ独立してOHまたはOC1−3アルキルであり、Xが水素、OHまたはOC1−3アルキルである化合物が挙げられるが、これらに限らない。上記の好ましい化合物において、C1−3アルキルはハロゲン、OH、COOHまたはNHにて置換されていてもよい。
【0014】
より好ましい式(I)の化合物の例としては、1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−4,5,7−トリオールまたは5−メトキシ−1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−4,7−ジオールが挙げられるが、これらに限らない。
【0015】
本明細書において、ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素を意味する。
【0016】
本明細書において、C1−6アルキルは炭素数1〜6個のアルキル基を意味する。C1−6アルキルは直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。C1−6アルキルの例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘプチルおよびこれらの構造異性体が挙げられる。C1−6アルキルにおけるハロゲン、OH、COOHまたはNHでの置換位置はいずれの位置であってもよい。したがって、ハロゲンまたはOHにて置換されていてもよいC1−6アルキルは、そのすべての構造異性体および立体異性体を包含する。
【0017】
本明細書において、C1−3アルキルは炭素数1〜3個のアルキル基を意味する。C1−3アルキルは直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。C1−3アルキルの例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシルおよびこれらの構造異性体が挙げられる。C1−3アルキルにおけるOHまたはハロゲンでの置換位置はいずれの位置であってもよい。したがって、ハロゲン、OH、COOHまたはNHにて置換されていてもよいC1−3アルキルは、そのすべての構造異性体および立体異性体を包含する。
【0018】
本明細書において、C2−6アルケニルは、二重結合を1つ含む炭素数2〜6個のアルキル基を意味する。C2−6アルケニルは直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。C2−6アルケニルの例としては、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニルおよびこれらの構造異性体が挙げられる。C2−6アルケニルにおけるOHまたはハロゲンでの置換位置はいずれの位置であってもよい。したがって、ハロゲンまたはOHにて置換されていてもよいC2−6アルケニルは、そのすべての構造異性体および立体異性体を包含する。
【0019】
本明細書において、C2−6アルキニルは、三重結合を1つ含む炭素数2〜6個のアルキル基を意味する。C2−6アルキニルは直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。C2−6アルキニルの例としては、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘプチニルおよびこれらの構造異性体が挙げられる。C2−6アルキニルにおけるOHまたはハロゲンでの置換位置はいずれの位置であってもよい。したがって、ハロゲンまたはOHにて置換されていてもよいC2−6アルキニルは、そのすべての構造異性体および立体異性体を包含する。
【0020】
本明細書中のその他の用語は、特に断らないかぎり、当該分野において通常使用されている意味を有するもの
とする。
【0021】
式(I)の化合物は遊離形態で存在してもよく、塩の形態で存在してもよい。式(I)の化合物の塩はチロシナーゼ阻害活性を有する。式(I)の化合物の塩は、式(I)の化合物を用いて、常法にしたがって製造することができる。
【0022】
式(I)の化合物が塩基性基を有している場合には、式(I)の化合物を酸で処理することにより、酸付加塩に変換することができる。式(I)の化合物の酸付加塩としては、例えば塩酸塩、フッ化水素酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩等のハロゲン化水素酸塩;硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、燐酸塩、炭酸塩等の無機酸塩;メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩等の低級アルキルスルホン酸塩;ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩等のアリ−ルスルホン酸塩;フマル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩等の有機酸塩を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0023】
式(I)の化合物が酸性基を有している場合には、式(I)の化合物を塩基で処理することにより、塩基付加塩に変換することができる。そのような塩基付加塩としては、例えばナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、グアニジン、トリエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の有機塩基による塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
式(I)の化合物がOH基を有する場合には、その水素をアルカリ金属にて置換した化合物も、式(I)の塩に包含される。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウムなどが例示される。
【0025】
式(I)の化合物は遊離形態で存在してもよく、溶媒和物として存在してもよい。式(I)の化合物の溶媒和物はチロシナーゼ阻害活性を有する。式(I)の化合物の溶媒和物の典型例は水和物である。
【0026】
式(I)の化合物またはその塩もしくは溶媒和物を、公知の方法を用いて化学合成することができる。あるいは式(I)の化合物またはその塩もしくは溶媒和物を、きのこを培養することによって製造することもできる。したがって、本発明は、さらなる態様において、きのこを培養し、式(I)の化合物またはその塩もしくは溶媒和物を含む培養物を得ることを含む製造方法を提供する。本発明の製造方法においてはマツオウジなどの可食性きのこあるいは食用きのこを用いることが好ましい。
【0027】
きのこの培養は公知の方法にて行うことができる。液体培地にて菌糸を培養してもよく、固体培地にて子実体を形成させてもよい。式(I)の化合物またはその塩もしくは溶媒和物を含む培養物としては、菌糸体、菌糸体の培養濾液、あるいは子実体が挙げられる。菌糸体、菌糸体の培養濾液、あるいは子実体を水または有機溶媒、あるいはこれらの混合物にて抽出してもよい。さらにシリカゲルクロマトグラフィー等の公知の方法を用いて、式(I)の化合物またはその塩もしくは溶媒和物を精製してもよい。
【0028】
式(I)の化合物またはその塩もしくは溶媒和物の製造に用いられるきのこは、式(I)の化合物またはその塩もしくは溶媒和物を生成するものであればいずれのきのこであってもよい。マツオウジなどの食用きのこを用いて式(I)の化合物またはその塩もしくは溶媒和物を製造する場合、その製造方法はきわめて安全性の高いものとなる。
【0029】
本発明は、さらなる態様において、式(I)の化合物またはその塩もしくは溶媒和物を含むチロシナーゼ阻害用組成物を提供する。本発明の組成物中の式(I)の化合物またはその塩もしくは溶媒和物としては、単離または精製されたものを用いてもよく、きのこの培養物またはその抽出物、あるいはその部分精製品を用いてもよい。
【0030】
本発明の組成物はチロシナーゼ活性を阻害するために用いられる。チロシナーゼ活性を阻害することによって様々な効果が得られる。例えば、皮膚においてシミやそばかすの生成が抑制され、美白効果が得られる。
【0031】
本発明の組成物の形状は乳液、ローション等の液体;クリーム、ペースト、ゲル等の半固体;粉末、顆粒、ブロック等の固体のいずれであってもよい。公知の担体または賦形剤を用いて、本発明の組成物を製造し、所望の形状とすることができる。本発明の組成物は所望により着色料や香料を含んでいてもよい。
【0032】
本発明の組成物を、ヒトをはじめとする動物に適用することができる。本発明の組成物の適用方法は特に限定されないが、典型的には皮膚に適用される。本発明の組成物をヒトの皮膚に適用する場合、1回あたりの式(I)の化合物の用量は特に制限されないが、例えば、1回に1mg〜200mgとしてもよい。
【0033】
本発明の組成物の典型例として化粧品が挙げられる。本発明の化粧品の形態としては、ローション、乳液、スプレイ、クリーム、ゲル、ペースト、固形石けん、液体石けん、ウェットティッシュ、パックなどが例示されるが、これらに限定されない。これらの形態の化粧品の製造方法は公知である。
【0034】
本発明の組成物のさらなる典型例として医薬組成物が挙げられる。本発明の医薬組成物の投与経路は特に限定されないが、典型的には経皮投与である。経皮投与用の医薬組成物の形態としては、ローション、乳液、スプレイ、クリーム、ゲル、ペースト、軟膏、固形石けん、液体石けん、ウェットティッシュなどが例示されるが、これらに限定されない。これらの形態の医薬組成物の製造方法は公知であり、式(I)の化合物またはその塩もしくは溶媒和物および医薬上許容される担体または賦形剤を用いて、混合、撹拌、粉砕、型による成形、充填等の公知のプロセスにより行うことができる。
【0035】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0036】
(1)きのこ抽出物のスクリーニング
鳥取大学農学部附属菌類きのこ遺伝資源研究センターから分譲された95株のきのこを麦芽液体培地、LB培地またはYM培地にて培養し、菌糸体または培養濾液を得た。また、これらのきのこの一部については子実体を形成させた。菌糸体、培養濾液、または子実体をメタノール、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジクロロメタンまたは水にて抽出し、得られた抽出物をチロシナーゼ阻害活性試験に供した。試供きのこを表1〜表4に示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0037】
96穴プレートに、0.1Mリン酸緩衝液(pH6.5)、2.5mM L−DOPA溶液、きのこ抽出物サンプルを加え、25℃で15分間、インキュベートした。その後、チロシナーゼ加え25℃で5分間インキュベートし、マイクロプレートリーダーで475nmでの吸光度を測定した。各反応液の組成を表5に示す。阻害率は以下の計算式によって求めた。

阻害率(%)=1−{(C吸光度−D吸光度)/(A吸光度−B吸光度)×100}

【表5】
【0038】
95サンプルのきのこ抽出物のスクリーニングの結果、菌体抽出物ではD−TUEX No.(鳥取大学農学部附属菌類きのこ遺伝子資源研究センターにおける抽出物の番号)2317(マツオウジ)がチロシナーゼ活性を60%以上阻害した。培養ろ液抽出物ではD−TUEX No.2172(マツオウジ)が60%以上の阻害活性を示した。子実体抽出物では60%以上の阻害活性を示したものはなかった。
【0039】
(2)マツオウジ(D−TUEX No.2172)からのチロシナーゼ活性阻害物質の単離および同定
(2−1)マツオウジの培養および培養ろ液の分画
マツオウジ(D−TUEX No.2172)のスラントから麦芽液体培地へ植菌したものを用いて大量培養を行った。麦芽液体培地5Lを500ml容三角フラスコに200mlずつ分注し、オートクレーブで滅菌した後、植菌を行い、25℃で47日間培養した。マツオウジの培養物を吸引ろ過し、ろ液を3分の1量酢酸エチルで3回分配抽出した。得られた酢酸エチル層を無水硫酸ナトリウムで一晩脱水した後、エバポレーターで減圧濃縮した。デシケーターで完全に乾燥し抽出物(1.14g)を得た。これをシリカゲルカラム(Daisogel、100g、ダイソー株式会社、大阪)に重層した。溶出には、アセトン−ヘキサン混合溶媒を用いた。ヘキサン中のアセトン濃度を0%から100%まで10%ずつ、段階的に増加させた後、メタノールで溶出した。1つのフラクションあたり1Lの溶媒を用いた。12のフラクション0%(4.8mg)、10%(97.8mg)、20%(157.5mg)、30%(151.7mg)、40%(72.7mg)、50%(42.0mg)、60%(65.5mg)、70%(21.3mg)、80%(31.9mg)、90%(13.9mg)、100%(43.6mg)を得た。アセトン30%画分およびアセトン40%画分に強いチロシナーゼ阻害活性が見られた。
【0040】
(2−3)チロシナーゼ阻害活性を有する化合物1の単離、同定
アセトン40%画分(60mg)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Daisogel、6g)によって分画した。溶媒には、酢酸エチル−ヘキサン(酢酸エチル濃度40%、50%、60%、70%、100%)を60mlずつ用いた。同一の酢酸エチル濃度の溶媒によって溶出されるフラクションを3つに分けて回収した。合計15のフラクション、40%−1(0.9mg)、40%−2(0.1mg)、40%−3(2.7mg)、50%−1(9.1mg)、50%−2(12.0mg)、50%−3(1.2mg)、60%−1(1.8mg)、60%−2(7.5mg)、60%−3(0.6mg)、70%−1(1.6mg)、70%−2(3.0mg)、70%−3(1.5mg)、100%−1(4.2mg)、100%−2(4.9mg)、100%−3(3.8mg)を得た。これらをTLC(SiOアルミシート Silica gel 60 F254、Merck社、酢酸エチル−ヘキサン(1:1))で分析した。
このうち、アセトン40%酢酸エチル50%−1に活性が見られたため、この画分に含まれていた活性物質を化合物1とした。
【0041】
化合物1の質量分析結果は以下のとおりであった:化合物1(9.1mg):Negative ESI MS m/z:167[M−H];HR ESIMS m/z:169.0495[M+H](Cとして計算値:169.0495),191.0316[M+Na](CNaとして計算値:191.0315),167.0345[M−H](Cとして計算値:167.0344)。
【0042】
化合物1のNMRスペクトルデータを表6にまとめた。
【表6】
【0043】
SI−MSおよび高分解能MSから、化合物1は、分子量168、分子式C、不飽和度5の化合物であることがわかった。H NMRスペクトルにおいて、ケミカルシフト5.0付近に積分値が2であるシグナルが2つあることから、酸素原子に結合したメチレンが2つあると考えた。また、H−H COSYスペクトルでこの2つのメチレン基の間に相関が見られたことから、このふたつのメチレン基は酸素原子を介して結合していると推定した。さらに、13C NMRよりベンゼン環の存在が推定された。分子式とベンゼン環の13C NMRスペクトルのシグナルのケミカルシフトを考慮し、ベンゼン環には、3つの水酸基が結合していると考えた。HMBCスペクトルで検出された相関から、4位、5位、7位に水酸基が結合している構造と決定した。以上より、化合物1を1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−4,5,7−トリオールと同定した。
【0044】
(2−4)チロシナーゼ阻害活性を有する化合物2の単離、同定
アセトン30%画分(140mg)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Daisogel、14g)によって分画した。溶媒には、酢酸エチル−ヘキサン(酢酸エチル濃度40%、50%、60%、70%、100%)を140mlずつ用いた。同一の酢酸エチル濃度の溶媒によって溶出されるフラクションをさらに3つに分けた。合計15のフラクション、40%−1(1.7mg)、40%−2(29.3mg)、40%−3(29.3mg)、50%−1(42.9mg)、50%−2(14.3mg)、50%−3(4.3mg)、60%−1(3.0mg)、60%−2(5.8mg)、60%−3(2.4mg)、70%−1(2.5mg)、70%−2(2.4mg)、70%−3(2.3mg)、100%−1(2.3mg)、100%−2(0.7mg)、100%−3(1.3mg)を得た。これらをTLC(SiOアルミシート Silica gel 60 F254、Merck社、展開溶媒 酢酸エチル−ヘキサン(1:1))で分析した。
【0045】
40%−3画分(25mg)を更にシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Daisogel、2.5g)によって分画した。溶媒には、メタノール−クロロホルム(メタノール濃度0%、2%、5%、10%、100%)を25mlずつ用いた。同一のメタノール濃度の溶媒によって溶出されるフラクションをさらに3つに分けた。15のフラクション0%−1(1.7mg)、0%−2(0.4mg)、0%−3(1.3mg)、2%−1(1.1mg)、2%−2(3.5mg)、2%−3(3.7mg)、5%−1(9.1mg)、5%−2(0.4mg)、5%−3(1.0mg)、10%−1(0.3mg)、10%−2(0.4mg)、10%−3(0mg)、100%−1(0.6mg)、100%−2(0.5mg)、100%−3(0.2mg)を得た。
【0046】
メタノール2%−2のフラクションから活性化合物2を分取HPLCによって精製した。分取HPLCの条件を表7に示す。最終的に、分取HPLCによって2つのピーク(保持時間4.95分および8.2分のピーク)を分取した。このうち、保持時間8.2分のピークに活性が検出されたのでこのピークに対応する化合物を2とした。
【表7】
【0047】
化合物2の質量分析結果は以下のとおりであった:化合物2(3.5mg)Negative ESI MS m/z:181[M−H];HR ESI MS m/z:183.0629[M+H](C11として計算値:183.0652),205.0473[M+Na](C10Naとして計算値:205.0471),181.0500[M−H](Cとして計算値:181.0501)。
【0048】
化合物2のNMRスペクトルデータを表8にまとめた。
【表8】
【0049】
化合物2について、ESI MS、および高分解能MSより分子量182、分子式C10、不飽和度は5であるとわかった。H NMRでケミカルシフト4.99および4.94の積分値2のシグナルがあること、13C NMRよりベンゼン環があると考えられることから、化合物1と似た化合物であると推定した。また、H NMRと13C NMRから、メトキシ基(δH 3.8およびδC 56.8)の存在が確認できた。HMBCスペクトルにおいて、1位と3位の水素と3a、4、7a、7位の炭素との相関が見られた。しかし、1位と3位の水素とメトキシ基の付け根の炭素との相関は見られなかった。よって、メトキシ基が5位に結合している構造であると決定した。以上より、化合物2を5−メトキシ−1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−4,7−ジオールと同定した。
【0050】
(2−5)化合物1および2によるチロシナーゼの阻害
化合物1、化合物2、アルブチンおよびヒドロキノンのIC50を求めた。マッシュルーム由来のチロシナーゼを実験に用いた。IC50は、それぞれ173ppm(1.0mM)、263ppm(1.4mM)、1965ppm(17.8mM)、19034ppm(69.9mM)であった。したがって、化合物1および2は、アルブチンやヒドロキノンより効果的な阻害剤であると言える。
【0051】
化合物1を用いて酵素反応を行い、Lineweaver−Burkプロットを行なったところ、化合物1の阻害様式は拮抗阻害であることがわかった
【0052】
さらに、化合物1、2アルブチンおよびヒドロキノンのヒト由来チロシナーゼに対する阻害率を求めた。阻害率はそれぞれ、89.0%、76.6%、35.9%、77.5%であり(図1)、化合物1および2は、ヒト由来のチロシナーゼに対してもアルブチンやヒロドキノンと同程度、もしくは、より強い阻害活性を示すことが判明した。
【0053】
(3)化粧品配合例
(3−1)化粧水の配合例を表9に示す。
【表9】

保湿剤および緩衝剤を室温にて精製水に溶解し、水相とする。化合物1または化合物2および残りの原料をエタノールに溶解し、水相と混合し、可溶化させる。その後、所望により香料、色剤を添加し、得られた溶液を濾過後、容器に充填する。
【0054】
(3−2)クリーム(O/W型)の配合例を表10に示す。
【表10】

保湿剤、アルカリを精製水に加え、70℃に加熱する。油分を加熱溶解後、化合物1または化合物2、界面活性剤、防腐剤、酸化防止剤、所望により香料を加えて予備乳化を行う。ホモミキサーにて乳化粒子を均一にした後、脱気、濾過、冷却し、容器に充填する。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、化粧品、医薬品、研究用試薬などの分野において利用可能である。
図1