【解決手段】本発明のボールジョイント13は、一端が懸架装置15・スタビライザ17に締結され他端にボール部21bを有するボールスタッド21と、ボールスタッド21に係るボール部21bを回動自在に支持する樹脂製のハウジング23と、を備えるボールジョイント13である。ハウジング23には、ボール部21bにおける赤道部21cを囲んで位置するように、ハウジング23の成形収縮を規制するための規制部材51が、ボール部21bの赤道部21cに対し所定の間隔をおいて埋め込まれている。
一端が構造体に締結され他端にボール部を有する金属製のボールスタッドと、該ボールスタッドに係る前記ボール部を回動自在に支持する樹脂製のハウジングと、を備えるボールジョイントであって、
前記ハウジングには、前記ボール部における少なくとも赤道部を実質的に囲んで位置するように、当該ハウジングの成形収縮を規制するための規制部材が、前記ボール部の赤道部に対し所定の間隔をおいて埋め込まれている
ことを特徴とするボールジョイント。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の複数の実施形態に係るボールジョイント、及びこれを用いたスタビリンクについて、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、以下に示す図面において、同一の部材又は対応する部材間には同一の参照符号を付するものとする。また、部材のサイズ及び形状は、説明の便宜のため、変形又は誇張して模式的に表す場合がある。
【0015】
〔本発明の実施形態に係るスタビリンク11〕
はじめに、本発明の実施形態に係るボールジョイント13を用いたスタビリンク11について、車両に取り付けた例をあげて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るスタビリンク11の車両への取り付け状態を表す斜視図である。
なお、以下の説明において、本発明の第1実施形態に係るボールジョイントに符号「13−1」を、第1実施形態の変形例に係るボールジョイントに符号「13−11」を、第2実施形態に係るボールジョイントに符号「13−2」を、第3実施形態に係るボールジョイントに符号「13−3」を、それぞれ付すものとする。また、本発明に係る明細書において、第1〜第3実施形態に係るボールジョイントを総称する際には、ボールジョイントに符号「13」を付すものとする。
【0016】
車両の車体(いずれも不図示)には、
図1に示すように、懸架装置15を介して、車輪Wが取り付けられている。路面から車輪Wを介して車体に伝わる衝撃や振動を吸収し軽減するために、懸架装置15は、コイルスプリング15aとショックアブソーバ15bとを有する。
【0017】
左右の懸架装置15の間は、
図1に示すように、略コ字形状のばね鋼棒等からなるスタビライザ17を介して連結されている。車体のロール剛性(捩り変形に対する抵抗力)を高めて車両のローリングを抑制するために、スタビライザ17は、左右の車輪W間に延在するトーションバー17aと、トーションバー17aの両端部から屈曲して延びる一対のアーム部17bとを有する。懸架装置15及びスタビライザ17は、本発明の「構造体」に相当する。
【0018】
スタビライザ17と車輪Wを支持するショックアブソーバ15bとは、スタビリンク11を介して連結されている。当該連結は、左右の車輪W側において同じである。スタビリンク11は、
図1に示すように、例えば鋼管からなる棒状のサポートバー11aの両端部に、ボールジョイント13をそれぞれ設けて構成されている。サポートバー11aの先端部1a1は、プレス加工により平板状に塑性変形されている。
【0019】
ここで、本発明に係るスタビリンク11は、少なくともサポートバー11a及びボールスタッド21を金型内の所定位置にインサートした状態で、ハウジング23となる樹脂を前記金型内に注入するインサート射出成形工程によって製造される。以下の説明において「インサート射出成形工程」という用語を用いる場合には、前記の工程を意味するものとする。
【0020】
一対のボールジョイント13のうち、一方のボールジョイント13はスタビライザ17のアーム部17bの先端部に締結固定され、他方のボールジョイント13はショックアブソーバ15bのブラケット15cに締結固定されている。なお、一対のボールジョイント13の構成は同じである。
【0021】
〔本発明の第1実施形態に係るボールジョイント13−1〕
次に、本発明の第1実施形態に係るボールジョイント13−1について、
図2Aを参照して説明する。
図2Aは、本発明の第1実施形態に係るボールジョイント13−1を表す縦断面図である。
以下の説明において、特に断らない限り、「軸方向」とはボールスタッド21の軸線C(
図2A参照)に沿う方向、「周方向」とはボール部21bの赤道部21c(
図2A参照)を周回する方向、「径方向」とはボール部21bの半径方向を、それぞれ意味するものとする。なお、ボール部21bの赤道部21cとは、ボールスタッド21の軸線C周りでボール部21bが最大径をなす周回状の部分をいう。
【0022】
第1実施形態に係るボールジョイント13−1は、
図2Aに示すように、鋼等の金属製のボールスタッド21と、樹脂製のハウジング23とから構成される。ボールスタッド21は、一方の端部にスタッド部21aを有すると共に、他方の端部に球体状のボール部21bを有して構成されている。スタッド部21aとボール部21bとは溶接接合されている。スタッド部21aとボール部21bとを一体に形成してもよい。ハウジング23は、サポートバー11aの両端に設けられている。ハウジング23は、ボールスタッド21に係るボール部21bを回動自在に支持する役割を果たす。
【0023】
ボールスタッド21のスタッド部21aには、大鍔部21a1と小鍔部21a2とが、軸方向に相互に離間して形成されている。大鍔部21a1と小鍔部21a2との間には、周回凹部21a3が形成されている。大鍔部21a1よりも先端側、つまり、ボールスタッド21のうちボール部21bの側とは異なる側のスタッド部21aには、雄ねじ部21a4が螺設されている。
【0024】
ボールスタッド21に係るボール部21bを回動自在に支持するために、ハウジング23のうちボール部21bを収容する部分には、
図2Aに示すように、半球凹部23aが形成されている。ハウジング23の上部には、円環状の凸形フランジ23bが形成されている。凸形フランジ23bは、半球凹部23aの開口周縁部23a1に接して径方向に傾斜して延びる円錐面形状のテーパ部23b1を有する。テーパ部23b1の軸線Cに対する傾斜角は、ボールスタッド21の揺動角、軸径等に応じて適宜の値に設定される。
【0025】
ハウジング23の凸形フランジ23bと、スタッド部21aの周回凹部21a3との間には、これらの隙間を覆うように、ゴム等の弾性体からなる周回状のダストカバー27が装着される。ダストカバー27は、雨水、塵埃等のボールジョイント13−1への侵入を阻止する役割を果たす。
【0026】
ハウジング23の樹脂素材としては、熱可塑性を有すること(インサート射出成形により形成されるため)、所定の強度要件を満たすこと等を考慮して、例えばPA66−GF30(PA66に重量比30〜50%のガラス繊維を入れたもの/融点:摂氏270度程度)が好適に用いられる。ただし、ハウジング23の樹脂素材としては、PA66−GF30の他、PEEK(polyetheretherketone)、PA66(Polyamide 66)、PPS(Poly Phenylene Sulfide Resin)、POM(polyoxymethylene)等のエンジニアリングプラスティック、スーパーエンジニアリングプラスティック、FRP(Fiber Reinforced Plastics:繊維強化プラスティックス)、GRP(glass reinforced plastic:ガラス繊維強化プラスティック)、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics:炭素繊維強化プラスティックス)等の素材を適宜用いてもよい。なお、ハウジング23の成形に用いられる樹脂を、説明の便宜上、第2の樹脂と呼ぶ。
【0027】
第1実施形態に係るボールジョイント13−1では、ハウジング23の半球凹部23aに収容されたボール部21bの外周面が、半球凹部23aの内周面に接触しつつ摺動することによって、ハウジング23に対してボールスタッド21が揺動(
図2Aの矢印α1参照)及び回転(
図2Aの矢印α2参照)自在に支持されている。このように、スタビリンク11に備わるボールジョイント13−1によって、懸架装置15及びスタビライザ17が円滑に連結されている。
【0028】
第1実施形態では、スタビリンク11を製造する際に用いられる前記インサート射出成形工程は、ボールスタッド21に係るボール部21bを有するボールジョイント13−1を、金型内の所定位置にインサートした状態で行われる。インサート射出成形後には、ハウジング23が成形収縮を起こす。
【0029】
そこで、第1実施形態に係るボールジョイント13−1では、ハウジング23には、例えば
図2Aに示すように、ボール部21bにおける少なくとも赤道部21cを実質的に囲んで位置するように、ボール部21bに対向する部分に係るハウジング23の成形収縮を規制するための第1実施形態に係る規制部材51−1が、ボール部21bの赤道部21cに対し所定の間隔をおいて埋め込まれている。
【0030】
第1実施形態に係るボールジョイント13−1によれば、ボールスタッド21に係るボール部21bを金型内にインサートした状態で金型内に樹脂を注入するインサート射出成形によってハウジング23を形成する場合であっても、ハウジング23に対するボール部21bの摺動に係るトルクを適切に管理することができる。
【0031】
〔規制部材51の構成〕
本発明の実施形態に係るスタビリンク11において主要な構成要素である規制部材51の構成について、
図3A〜
図3Dを適宜参照して説明する。
図3Aは、第1〜第3実施例に係る規制部材51a〜51cにおいて共通の平面図である。
図3B〜
図3Dは、第1〜第3実施例に係る規制部材51a〜51cの正面図である。
なお、本発明に係る明細書において、第1〜第5実施例に係る規制部材51a〜51eを総称する際には、規制部材に符号「51」を付すものとする。
【0032】
第1実施例に係る規制部材51aは、
図3Aに示すように、平面視で略円形状に形成されている。このことは、後記する第2〜第5実施例に係る規制部材51b〜51eも同じである。
【0033】
また、第1実施例に係る規制部材51aは、
図3Bに示すように、正面視で略矩形状に形成されている。要するに、第1実施例に係る規制部材51aは、
図3A、
図3Bに示すように、略円筒形状に形成されている。
【0034】
略円筒形状に形成された第1実施例に係る規制部材51aを得るに際しては、円筒形状の素材を適宜の長さに輪切りして用いればよい。また、矩形平板状の素材を円筒形状に巻回すことで第1実施例に係る規制部材51aを得るようにしてもよい。
【0035】
第1実施例に係る規制部材51aの材質は、例えば、鉄、銅、アルミ等の金属類が好適に用いられる。ただし、第1実施例に係る規制部材51aの材質として、耐熱性、高温特性が良好で高い機械的強度を有する前記PEEK等の樹脂を用いてもよい。このことは、後記する第2〜第5実施例に係る規制部材51b〜51eも同じである。
【0036】
第1実施例に係る規制部材51aの厚さは、インサート射出成形工程において、樹脂の注入圧が加えられた際に塑性変形しないこと、できるだけ薄いことを考慮して、適宜変更可能に設定すればよい。このことは、後記する第2〜第5実施例に係る規制部材51b〜51eも同じである。
【0037】
第1実施形態に係る規制部材51−1としては、第1〜第3実施例に係る規制部材51a〜51cのうちいずれかを適宜用いることができる。ここで、第1実施形態に係る規制部材51−1とは、第1実施形態に係るボールジョイント13−1に用いられる規制部材を意味する。これに準じて、後記する第2及び第3実施形態に係る規制部材51−2、51−3とは、後記する第2及び第3実施形態に係るボールジョイント13−2、13−3に用いられる規制部材を意味する。また、第1〜第3実施例に係る規制部材51a〜51cとは、第1実施形態に係る規制部材51−1、及び、第2及び第3実施形態に係る規制部材51−2、51−3として適用可能な規制部材の態様を表す。
【0038】
第1実施形態に係る規制部材51−1は、
図2Aに示すように、ハウジング23を軸方向にわたって貫通するように設けられている。インサート射出成形工程において、ボールスタッド21に係るボール部21bを囲むように設けられる規制部材51−1は、軸方向の両端部が金型の所定位置に固定され位置決めされた状態で、樹脂の注入が行われる。
【0039】
ボールスタッド21に係るボール部21bを囲むように規制部材51−1を設けると、インサート射出成形工程において、規制部材51−1の周側壁52(
図3A〜
図3D参照)がその内外を隔てるため、規制部材51−1の内外間における樹脂の流れが阻害される。
【0040】
そこで、第1実施形態に係る規制部材51−1として適用される第1実施例に係る規制部材51aには、
図3Bに示すように、その周側壁52の全面にわたり複数の通孔53が開設されている。通孔53の形状・サイズ・数量は、規制部材51−1(
図2A参照)の内側と外側との間における樹脂の流れが良好になることを考慮して、適宜変更可能に設定すればよい。通孔53の形状・サイズ・数量が、適宜変更可能に設定されることは、後記する第2〜第5実施例に係る規制部材51b〜51eも同じである。
【0041】
第1実施例に係る規制部材51aによれば、その周側壁52の全面にわたり複数の通孔53を設けたため、ハウジング23に対するボール部21bの摺動に係るトルクを適切に調整することができる。
【0042】
第2実施例に係る規制部材51bでは、
図3Cに示すように、第1実施例に係る規制部材51aと比べて、その周側壁52の全面にわたり設けられる複数の通孔53のサイズが、軸方向における位置の変化に応じて異なっている。
図3Cの例では、規制部材51bの周側壁52のうちボール部21bの赤道部21cに対応する部分に存する通孔53のサイズが、軸方向で最小のサイズに設定されている。
また、第2実施例に係る規制部材51bでは、その周側壁52の全面にわたり設けられる通孔53のサイズが、
図3Cに示すように、ボール部21bの赤道部21cに対応する部分から離れるほど大きいサイズとなるように設定されている。
【0043】
第3実施例に係る規制部材51cでは、
図3Dに示すように、第2実施例に係る規制部材51bと同様に、その周側壁52の全面にわたり設けられる複数の通孔53のサイズが、軸方向における位置の変化に応じて異なっている。
図3Dの例では、規制部材51cの周側壁52のうちボール部21bの赤道部21cに対応する部分に存する通孔53のサイズが、第2実施例に係る規制部材51bとは逆に、軸方向で最大のサイズに設定されている。
また、第3実施例に係る規制部材51cでは、その周側壁52の全面にわたり設けられる通孔53のサイズが、
図3Dに示すように、ボール部21bの赤道部21cに対応する部分から離れるほど小さいサイズとなるように設定されている。
【0044】
第2及び第3実施例に係る規制部材51b、51cによれば、その周側壁52の全面にわたり設けられる複数の通孔53のサイズを、軸方向における位置の変化に応じて異なるように設定したため、ハウジング23に対するボール部21bの摺動に係るトルクを、軸方向における位置に対応づけて微調整することができる。
【0045】
第1実施形態の変形例に係るボールジョイント13−11では、
図2A、
図2Bを対比して示すように、第1実施形態の変形例に係る規制部材51−11は、第1実施形態に係る規制部材51−1と比べて、ボール部21bの赤道部21cとの間の間隔が拡がっている。このように、ボール部21bの赤道部21cに対する規制部材51の相対位置関係を適宜調整することにより、ハウジング23に係る成形収縮の規制度合いを任意に微調整することができる。
【0046】
〔本発明の第2実施形態に係るボールジョイント13−2〕
次に、本発明の第2実施形態に係るボールジョイント13−2について、
図4を参照して説明する。
図4は、本発明の第2実施形態に係るボールジョイント13−2を表す縦断面図である。
【0047】
本発明の第1実施形態に係るボールジョイント13−1と、本発明の第2実施形態に係るボールジョイント13−2とでは、相互に共通する構成の方が、相互に異なる構成よりも多い。そこで、前記両者間の構成上の相違点に注目して説明することで、本発明の第2実施形態に係るボールジョイント13−2の説明に代えることとする。
【0048】
本発明の第1実施形態に係るボールジョイント13−1では、
図2Aに示すように、ボールスタッド21に係るボール部21bの外周面が、ハウジング23の半球凹部23aの内周面に対して直に接触することで、連結機構を構成している。
【0049】
これに対し、本発明の第2実施形態に係るボールジョイント13−2では、
図4に示すように、ボールスタッド21に係るボール部21bの外周面と、ハウジング23の半球凹部23aの内周面との間に、樹脂製のボールシート24が介在することで、連結機構を構成している。ボールシート24は、ボール部21bの過半領域を覆うように樹脂により一体形成されている。ボールシート24は、単独の射出成形工程により製造される。
【0050】
ハウジング23の半球凹部23aに収容されたボール部21bの外周面が、ボールシート24の内周面に接触しつつ摺動することによって、ハウジング23に対してボールスタッド21が揺動(
図4の矢印α1参照)及び回転(
図4の矢印α2参照)自在に支持されている。このように、スタビリンク11に備わるボールジョイント13によって、懸架装置15及びスタビライザ17が円滑に連結されている。
【0051】
前記のように構成された第2実施形態に係るボールジョイント13−2では、第2実施形態に係るボールジョイント13と同様に、ハウジング23には、
図4に示すように、ボール部21bにおける少なくとも赤道部21cを実質的に囲んで位置するように、第2実施形態に係る規制部材51−2が、ボール部21bの赤道部21cに対し所定の間隔をおいて埋め込まれている。
【0052】
第2実施形態に係る規制部材51−2としては、前記第1〜第3実施例に係る規制部材51a〜51cのうち、任意のいずれかを適用すればよい。
【0053】
第2実施形態に係るボールジョイント13−2によれば、ボールスタッド21に係るボール部21bが収容されたボールシート24を金型内にインサートした状態で金型内に樹脂を注入するインサート射出成形によってハウジング23を形成する場合であっても、ハウジング23に対するボール部21bの摺動に係るトルクを適切に管理することができる。
【0054】
〔本発明の第3実施形態に係るボールジョイント13−3〕
次に、本発明の第3実施形態に係るボールジョイント13−3について、
図5を参照して説明する。
図5は、本発明の第3実施形態に係るボールジョイント13−3を表す縦断面図である。なお、
図5は、
図6Bに示すV−V線に沿う縦断面を表す。
【0055】
本発明の第1実施形態に係るボールジョイント13−1と、本発明の第3実施形態に係るボールジョイント13−3とでは、相互に共通する構成の方が、相互に異なる構成よりも多い。そこで、前記両者間の構成上の相違点に注目して説明することで、本発明の第3実施形態に係るボールジョイント13−3の説明に代えることとする。
【0056】
本発明の第1実施形態に係るボールジョイント13−1では、
図2Aに示すように、ボールスタッド21に係るボール部21bの外周面が、ハウジング23の半球凹部23aの内周面に対して直に接触することで、連結機構を構成している。
【0057】
これに対し、本発明の第3実施形態に係るボールジョイント13−3では、
図5に示すように、ボールスタッド21に係るボール部21bの外周面と、ハウジング23の半球凹部23aの内周面との間に、樹脂製のボールシート25が介在することで、連結機構を構成している。ボールシート25は、ボール部21bの過半領域を覆うように第1の樹脂により一体形成されている。ボールシート25は、第1の樹脂を用いた単独の射出成形工程により製造される。
【0058】
〔ボールシート25〕
次に、ボールシート25の詳細構造について、
図6A、
図6Bを参照して説明する。
図6Aは、第3実施形態に係るボールジョイント13−3に用いられるボールシート25において、フランジ部25eに切欠き部が設けられている状態を表す正面図である。
図6Bは、
図6Aに示すボールシート25を底部25bの側から観た底面図である。
【0059】
ボールシート25は、
図6Aに示すように、ボールスタッド21に係るボール部21bの球状外周面のうち過半領域を覆う球状内周面により形成される収容部25cを有して構成されている。収容部25cは、ボール部21bの収容部を構成する。
【0060】
ここで、スタビリンク11を製造する際に用いられる前記インサート射出成形工程は、ボール部21bにボールシート25を装着した状態のボールスタッド21を有するボールジョイント13を、金型内にインサートした状態で第2の樹脂を注入することで行われる。つまり、インサート射出成形工程に用いるハウジング23となる第2の樹脂の射出温度・射出圧力に、第1の樹脂により形成されたボールシート25も曝されることになる。この場合において、第2の樹脂の射出温度・射出圧力に曝されることでボールシート25の軟化が生じ、この軟化に伴うボールシート25の変形・潰れによって、ハウジング23に対するボール部21bの摺動に係るトルクを適切に管理することができない事態が懸念される。
【0061】
そこで、本発明の第3実施形態に係るボールジョイント13−3では、ボールシート25の収容部25cに係る内径寸法は、射出成形後のボールシート25となる第1の樹脂の成形収縮代、及びインサート射出成形時においてハウジング23となる第2の樹脂の射出温度・射出圧力によるインサート射出成形後の第2の樹脂の成形収縮代を見越した分だけ大きい寸法に設定される構成を採用することとした。
これにより、仮に、射出成形後の第1の樹脂の成形収縮、及び第2の樹脂の射出温度・射出圧力によるインサート射出成形後の第2の樹脂の成形収縮によってボールシート25の収容部25cに係る内球径が収縮したとしても、収容部25cの内周面とボール部21bの外周面との間に生じるトルクを適正に維持することができる。
【0062】
ボールシート25の収容部25cには、
図6A、
図6Bに示すように、経度線に沿って延びる複数の溝部25c1が刻設されている。複数の溝部25c1には、ボール部21bの外周面と、ボールシート25の収容部25cとの間に生じる摩擦力を低減するために、グリース等の潤滑剤が充填される。
【0063】
複数の溝部25c1は、ボール部21bに係る赤道部21cにおいてそれぞれが相互に等しい間隔をおいて設けられている。
図6Aに示す例では、都合8本の溝部25c1が設けられている。溝部25c1の寸法は、特に限定されないが、圧壊の程度を軽減することを考慮して、例えば、幅0.3mm以下、深さ0.3mm以下とするのが好ましい。
【0064】
ボールシート25における底部25b側の収容部25cのうち、ボール部21bに係る頂部21b1に対向する内底部には、
図6A、
図6Bに示すように、潤滑剤を収容可能な凹部からなる潤滑剤室25c2が設けられている。
【0065】
ボールシート25には、
図5に示すように、開口周縁部25aを含む領域にわたり
周回状のフランジ部25eが形成されている。フランジ部25eの最大外径寸法は、ボール部21bの最大外径寸法と比べて大きい寸法に設定される。具体的には、例えば、フランジ部25eの最大外径寸法は、ボール部21bの最大外径寸法(球径)に所定の寸法(例えば2〜4mm程度)を加えた寸法に設定される。これにより、フランジ部25eは、射出成形工程による製造後のボールシート25におけるボール部21bの収容空間(オーバーハングした部分を有する)から雄型の球体部(不図示)を無理抜きする際に加えられる抜き力を受ける受け部としての役割を果たす。
【0066】
フランジ部25eのうちボール部21bに係る頂部21b1の側の周端縁25e1は、
図6Aに示すように、開口周縁部25aから少なくともボール部21bに係る赤道部21cを覆う位置まで垂下するように延出している。これにより、射出成形工程による製造後のボールシート25の収容部25cから雄型の球体部を無理抜きする際に生じるおそれのあるボールシート25の座屈変形を抑止することができる。
【0067】
ボールシート25の開口周縁部25aの内径寸法は、ボール部21bの最大外径寸法と比べて小さい寸法に設定される。具体的には、例えば、開口周縁部25aの内径寸法は、ボール部21bの最大外径寸法(球径)に所定の係数(0.90〜0.98)を乗じた値に設定される。要するに、ボールシート25の開口周縁部25aは、ボール部21bに対してオーバーハングするように構成されている。これにより、ボールシート25がボールスタッド21に係るボール部21bの周囲をしっかりと包み込んで保持することができる。
【0068】
ボールシート25の成形に用いられる第1の樹脂の素材としては、熱可塑性を有する(射出成形により形成されるため)こと、及び所定の摩耗耐久性要件を満たすこと、ハウジング23となる第2の樹脂の素材の融点(例えば摂氏270度程度)と同等又はそれ以上の融点を呈することを考慮して、例えばPBT(Poly Butylene Terephtalate/融点:摂氏230度程度)、PA46(Polyamide 46/融点:摂氏270度程度)、PEEK(polyetheretherketone/融点:摂氏340度程度)等が好適に用いられる。
ボールシート25となる第1の樹脂の素材として、ハウジング23となる第2の樹脂の素材の融点と同等又はそれ以上の融点を呈する樹脂素材を選定する理由は、ボールシート25の軟化に伴う変形・潰れを抑止することができるためである。
【0069】
第3実施形態に係るボールジョイント13−3では、ハウジング23の半球凹部23aに収容されたボール部21bの外周面が、ボールシート25の内周面に接触しつつ摺動することによって、ハウジング23に対してボールスタッド21が揺動(
図5の矢印α1参照)及び回転(
図5の矢印α2参照)自在に支持されている。このように、スタビリンク11に備わるボールジョイント13−3によって、懸架装置15及びスタビライザ17が円滑に連結されている。
【0070】
前記のように構成された第3実施形態に係るボールジョイント13−3では、第2実施形態に係るボールジョイント13と同様に、ハウジング23には、
図5に示すように、ボール部21bにおける少なくとも赤道部21cを実質的に囲んで位置するように、第3実施形態に係る規制部材51−3が、ボール部21bの赤道部21cに対し所定の間隔をおいて埋め込まれている。
【0071】
第3実施形態に係る規制部材51−3としては、前記第1〜第3実施例に係る規制部材51a〜51cのうち、任意のいずれかを適用すればよい。
【0072】
第3実施形態に係るボールジョイント13−3では、第1及び第2実施形態に係るボールジョイント13−1、13−2と比べて、規制部材51−3の取り付け方法が異なっている。
【0073】
すなわち、第1及び第2実施形態に係るボールジョイント13−1、13−2では、第1及び第2実施形態に係る規制部材51−1、51−2は、
図2A、
図4に示すように、ハウジング23を軸方向にわたって貫通するように設けられている。
【0074】
これに対し、第3実施形態に係るボールジョイント13−3では、第3実施形態に係る規制部材51−3は、
図5に示すように、ハウジング23に内包されるように設けられている。具体的には、第3実施形態に係る規制部材51−3は、ボールシート25のフランジ部25eの周りを抱き抱えるように設けられている。
【0075】
ボールシート25のフランジ部25eの周りを抱き抱えるように規制部材51−3を設けると、インサート射出成形工程において、規制部材51−3の周側壁52(
図3A〜
図3D参照)がその内外を隔てるため、規制部材51−3の内外間における樹脂の流れが阻害される。
【0076】
そこで、ボールシート25のフランジ部25eにおける外周縁部には、
図6A及び
図6Bに示すように、軸方向に沿う溝状の切欠き部26が、相互に等しい間隔をおいて複数設けられている。切欠き部26の形状・数量は、規制部材51−3(
図5参照)の内側と外側との間における樹脂の流れが良好になることを考慮して、適宜変更可能に設定すればよい。
【0077】
第3実施形態に係るボールジョイント13−3によれば、ボールスタッド21に係るボール部21bが収容されたボールシート25を金型内にインサートした状態で金型内に樹脂を注入するインサート射出成形によってハウジング23を形成する場合であっても、ハウジング23に対するボール部21bの摺動に係るトルクを適切に管理することができる。
【0078】
〔第4、第5実施例に係る規制部材51d、51eの構成〕
次に、第4、第5実施例に係る規制部材51d、51eの構成について、
図7A、
図7B、
図8A、
図8Bを適宜参照して説明する。
図7Aは、第4実施例に係る規制部材51dの平面図である。
図7Bは、第4実施例に係る規制部材51dの正面図である。
図8Aは、第5実施例に係る規制部材51eの平面図である。
図8Bは、第5実施例に係る規制部材51eの正面図である。
【0079】
第1実施例に係る規制部材51a(
図3B参照)と、第4、第5実施例に係る規制部材51d、51e(
図7A、
図7B、
図8A、
図8B参照)とは、相互に共通する構成の方が、相互に異なる構成よりも多い。そこで、前記両者間の構成上の相違点に注目して説明することで、第4、第5実施例に係る規制部材51d、51eの説明に代えることとする。
【0080】
第1実施例に係る規制部材51a(
図3B参照)では、その周側壁52は円筒形状に形成されている。
【0081】
これに対し、第4実施例に係る規制部材51dでは、
図7A、
図7Bに示すように、その周側壁52は樽形状に形成されている。
図7Bに示す例では、ボール部21bの赤道部21cに対応する軸方向の部分が、外方に向けて最も膨出している。
【0082】
また、第5実施例に係る規制部材51eでは、
図8A、
図8Bに示すように、その周側壁52は軸方向における中央部分がくびれた逆樽形状に形成されている。
図8Bに示す例では、ボール部21bの赤道部21cに対応する軸方向の部分が、内方に向けて最もくびれている。
【0083】
なお、第4又は第5実施例に係る規制部材51d、51eのいずれかに対し、第2又は第3実施例に係る規制部材51b、51cの構成を組み合わせて適用してもよい。
【0084】
〔本発明の実施形態に係るボールジョイント13が奏する作用効果〕
次に、本発明の実施形態に係るボールジョイント13が奏する作用効果について説明する。
本発明(1)に係るボールジョイント13は、一端が懸架装置15・スタビライザ17(構造体)に締結され他端にボール部21bを有するボールスタッド21と、ボールスタッド21に係るボール部21bを回動自在に支持する樹脂製のハウジング23と、を備えるボールジョイント13であって、ハウジング23には、ボール部21bにおける少なくとも赤道部21cを実質的に囲んで位置するように、ハウジング23の成形収縮を規制するための規制部材51が、ボール部21bの赤道部21cに対し所定の間隔をおいて埋め込まれている。
【0085】
本発明(1)に係るボールジョイント13では、インサート射出成形工程において、ハウジング23に埋め込まれた規制部材51が、規制部材51の外方に存する部分に係るハウジング23となる第2の樹脂の成形収縮を規制するように作用する。
【0086】
本発明(1)に係るボールジョイント13によれば、ボールスタッド21に係るボール部21bを金型内にインサートした状態で金型内に樹脂を注入するインサート射出成形によってハウジング23を形成する場合であっても、ハウジング23に対するボール部21bの摺動に係るトルクを精密に管理することができる。
【0087】
また、本発明(2)に係るボールジョイント13は、(1)に記載のボールジョイント13であって、ハウジング23とボール部21bとの間に介在するように設けられ、ボール部21bの収容部を有する樹脂製のボールシート24、25をさらに備え、規制部材51は、ボールシート24、25を囲むように設けられている構成を採用してもよい。
【0088】
本発明(2)に係るボールジョイント13では、規制部材51がボールシート24、25を囲むように設けられているため、ボールシート24、25を備える態様のボールジョイント13において、本発明(1)に係るボールジョイント13と同様の作用効果を奏することができる。
【0089】
また、本発明(3)に係るボールジョイント13は、(2)に記載のボールジョイント13であって、ボールシート25は、ボール部21bに係る底頂部から赤道部21cにわたる領域を少なくとも含む過半領域を覆っており、ボールシート25には、その開口周縁部25aを含む領域にフランジ部25eが形成されており、規制部材51−3は、ボールシート25のフランジ部25eに係る外周縁部を抱えるように設けられている構成を採用してもよい。
【0090】
本発明(3)に係るボールジョイント13によれば、規制部材51−3が、ボールシート25のフランジ部25eに係る外周縁部を抱えるように設けられているため、本発明(2)に係るボールジョイント13と同様の作用効果に加えて、インサート射出成形工程において、規制部材51−3を金型の所定位置に組み込む作業を簡易に行うことができる。
【0091】
また、本発明(4)に係るボールジョイント13は、(3)に記載のボールジョイント13であって、ボールシート25のフランジ部25eには、その外周縁部に切欠き部26が設けられている構成を採用してもよい。
【0092】
本発明(4)に係るボールジョイント13では、ボールシート25のフランジ部25eには、その外周縁部に切欠き部26が設けられているため、切欠き部26が規制部材51−3の内外間における樹脂の流れを促すように作用する。
【0093】
本発明(4)に係るボールジョイント13によれば、本発明(3)に係るボールジョイント13と同様の作用効果に加えて、ボールシート25周辺のハウジング23の成形品質を高めることができる。
【0094】
また、本発明(5)に係るボールジョイント13は、(1)〜(4)のいずれかに記載のボールジョイント13であって、規制部材51は、略円筒形状に形成されており、規制部材51の周側壁52には、複数の通孔53が開設されている構成を採用してもよい。
【0095】
本発明(5)に係るボールジョイント13では、略円筒形状に形成された規制部材51の周側壁52には、複数の通孔53が開設されているため、複数の通孔53が規制部材51の内外間における樹脂の流れを促すように作用する。
【0096】
本発明(5)に係るボールジョイント13によれば、本発明(1)〜(4)のいずれかにに係るボールジョイント13と同様の作用効果に加えて、規制部材51周辺のハウジング23の成形品質を高めることができる。
【0097】
また、本発明(6)に係るスタビリンク11は、懸架装置15及びスタビライザ17を備える車両に設けられ、懸架装置15及びスタビライザ17を連結するスタビリンク11であって、棒状のサポートバー11の長手方向の少なくともいずれかの端部に、(1)〜(5)のいずれかに記載のボールジョイント13を設ける構成を採用してもよい。
【0098】
本発明(6)に係るスタビリンク11によれば、(1)〜(5)のいずれかに記載のボールジョイント13による作用効果を奏するスタビリンク11を実現することができる。
【0099】
〔その他の実施形態〕
以上説明した複数の実施形態は、本発明の具現化の例を示したものである。したがって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されることがあってはならない。本発明はその要旨又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形態で実施することができるからである。
【0100】
例えば、本発明に係るボールジョイント13を、車両のスタビリンク11に適用する例をあげて説明したが、本発明はこの例に限定されない。本発明に係るボールジョイント13は、産業用ロボットが有するアームの関節部分、ショベルカー、クレーン車等の産業用車両が有するアームの関節部分の構造等に幅広く適用可能である。
【0101】
また、本発明に係る規制部材51を用いたトルク管理技術を、その他のトルク管理技術として、例えば、インサート射出成形後のハウジング23に対する高周波誘導加熱処理を組み合わせて適用しても構わない。
【0102】
また、本発明の実施形態に係る説明において、ハウジング23に対するボール部21bの摺動に係るトルクを、軸方向における位置に対応づけて微調整する態様(第2及び第3実施例に係る規制部材51b、51c)を例示して説明したが、本発明はこの例に限定されない。ハウジング23に対するボール部21bの摺動に係るトルクを、周方向における位置に対応づけて微調整する態様を採用してもよい。さらに、ハウジング23に対するボール部21bの摺動に係るトルクを、軸方向における位置に対応づけて微調整する態様と、周方向における位置に対応づけて微調整する態様とを組み合わせて適用しても構わない。