【課題】蓄電量−電圧値特性がヒステリシスを示す活物質を含む蓄電素子の蓄電量を推定できる蓄電量推定装置、該蓄電量推定装置を備える蓄電モジュール、蓄電量推定方法、及びコンピュータプログラムを提供する。
【解決手段】蓄電量推定装置6は、充放電の推移に応じて2以上の電気化学反応を生じ、一の電気化学反応が生じる場合の蓄電量−電圧値特性のヒステリシスが、他の電気化学反応が生じる場合の前記ヒステリシスより小さい、活物質を含む蓄電素子3の蓄電量を推定する。蓄電量推定装置6は前記一の電気化学反応が前記他の電気化学反応より多く生じる場合に、蓄電量−電圧値特性に基づいて蓄電量を推定する推定部62を備える。
充放電の推移に応じて2以上の電気化学反応を生じ、一の電気化学反応が生じる場合に示す蓄電量−電圧値特性のヒステリシスが、他の電気化学反応が生じる場合の前記ヒステリシスより小さい、活物質を正極及び負極の少なくとも一方に含む蓄電素子の蓄電量を推定する蓄電量推定装置であって、
前記一の電気化学反応が前記他の電気化学反応より多く生じる場合に、前記蓄電量−電圧値特性に基づいて蓄電量を推定する推定部を備える、蓄電量推定装置。
【背景技術】
【0002】
電気自動車、ハイブリッド車等に用いられる車両用の二次電池や、電力貯蔵装置、太陽光発電システム等に用いられる産業用の二次電池においては、高容量化が求められている。これまで様々な検討と改良が行われてきて、電極構造等の改良のみで更なる高容量化を実現することは困難な傾向にある。その為、現行の材料より高容量である正極材料の開発が進められている。
【0003】
従来、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池用の正極活物質として、α−NaFeO
2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が検討され、LiCoO
2を用いた非水電解質二次電池が広く実用化されていた。LiCoO
2の放電容量は120〜160mAh/g程度であった。
リチウム遷移金属複合酸化物をLiMeO
2(Meは遷移金属)で表したとき、MeとしてMnを用いることが望まれてきた。MeとしてMnを含有させた場合、Me中のMnのモル比Mn/Meが0.5を超える場合には、充電をするとスピネル型へと構造変化が起こり、結晶構造が維持できない為、充放電サイクル性能が著しく劣る。
Me中のMnのモル比Mn/Meが0.5以下であり、Meに対するLiのモル比Li/Meが略1であるLiMeO
2型活物質が種々提案され、実用化されている。リチウム遷移金属複合酸化物であるLiNi
1/2Mn
1/2O
2及びLiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2等を含有する正極活物質は150〜180mAh/gの放電容量を有する。
【0004】
LiMeO
2型活物質に対し、Me中のMnのモル比Mn/Meが0.5を超え、遷移金属(Me)の比率に対するLiの組成比率Li/Meが1より大きいリチウム遷移金属複合酸化物を含む、いわゆるリチウム過剰型活物質も知られている。
【0005】
上述の高容量の正極材料として、リチウム過剰型であるLi
2 MnO
3 系の活物質が検討されている。この材料は、充電履歴及び放電履歴に依存して、同一のSOC(State Of
Charge)に対する電圧値や電気化学的特性が変化する、ヒステリシスという性質を有す
る。
【0006】
二次電池におけるSOCを推定する方法として、二次電池のOCV(Open Circuit Voltage)とSOCとが一対一対応する相関関係(SOC−OCV曲線)に基づいてSOCを決定するOCV法(電圧参照)と、二次電池の充放電電流値を積算してSOCを決定する電流積算法とがある。
【0007】
ヒステリシスを有する電極材料を用いた場合、SOCに対して電圧値が一義的に決まらない為、OCV法によるSOCの推定が困難である。SOC−OCV曲線が一義的に決まらない為、ある時点での放電可能エネルギーを予測することも困難である。
【0008】
電流積算法によってSOCを算出する場合、下記の式(1)を用いる。
SOC
i =SOC
i-1 +I
i ×Δt
i / Q×100…(1)
SOC
i :今回のSOC
SOC
i-1 :前回のSOC
I:電流値
Δt:時間間隔
Q:電池容量(available capacity)
【0009】
電流積算が長期継続されると、電流センサの計測誤差が蓄積する。また、電池容量は経時的に小さくなる為、電流積算法によって推定されるSOCは、その推定誤差が経時的に大きくなる。従来、電流積算を長期継続した場合にOCV法によりSOCを推定して、誤差の蓄積をリセットするOCVリセットが行われている。
【0010】
ヒステリシスを有する電極材料を用いた蓄電素子においても、電流積算を継続すると誤差が蓄積する。しかし、SOCに対して電圧値が一義的に決まらない為、OCV法によるSOCの推定を行うこと(OCVリセットを行うこと)は困難である。
従って、現行のSOC推定技術ではこのような蓄電素子におけるSOCを精度良く推定することが困難である。
【0011】
特許文献1に開示の二次電池制御装置においては、充電から放電に切替えた際のSOCである切替時SOCごとに、放電過程におけるSOCとOCVとの関係を放電時OCV情報として記憶する。実際に充電から放電に切替えた際の切替時SOCと、放電時OCV情報とに基づいて、二次電池の放電過程におけるSOCを算出するように、二次電池制御装置は構成されている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
(本実施形態の概要)
本実施形態に係る蓄電素子の電極体は、蓄電量−電圧値特性がヒステリシスを有する活物質を含む。
以下、蓄電素子の活物質がNiを含むLi過剰型のLiMeO
2-Li
2MnO
3固溶体であり、蓄電量がSOCである場合を例として説明する。
図1は、このLi過剰型活物質につき、対極Liのリチウムセルを用い、電気量と充放電電圧値との関係を求めた結果を示すグラフである。横軸は電気量(mAh/g)、縦軸は充放電電圧値(VvsLi/Li
+ :Li/Li
+平衡電位を基準にしたときの電位差)である。ここで、電気量はSOCに対応する。
図1に示すように、SOCの増加(充電)と、減少(放電)とで電圧値が異なる。即ち同一SOCに対する電圧値が異なり、ヒステリシスを有する。この活物質の場合、同一SOCに対する電位差は、高SOC領域では低SOC領域より小さく、ヒステリシスが小さい。
【0019】
本実施形態においては、ヒステリシスが小さく、SOC−OCV曲線を用いて電圧値からSOCを推定することができる領域を判断し、該領域においてSOCを推定する。
図2は、電気量に対する、X線吸収分光測定(XAFS測定)によって算出したLi過剰型活物質のNiのK吸収端エネルギーの推移を示すグラフである。横軸は電気量(mAh/g)、縦軸はNiのK吸収端エネルギーE
0 (eV)である。
図3は、充放電時におけるNiのK吸収端エネルギーの推移を示すグラフである。横軸は充放電電圧値(VvsLi/Li
+ )、縦軸はNiのK吸収端エネルギーE
0 (eV)である。
【0020】
図2に示すように、高SOC領域において、充電反応のNiのK吸収端エネルギー推移が放電反応のエネルギー推移と一致しない。低SOC領域において、放電反応のエネルギー推移が充電反応のエネルギー推移と一致しない。即ちヒステリシスを有する、Ni以外のレドックス反応が主として生じていることが分かる(これをAの反応とする)。Aの反応は、高SOC領域においては酸化反応であり、低SOC領域においては還元反応である。
中間のSOC領域では、充電反応及び放電反応のNiのK吸収端エネルギーがSOCに対して略直線的に変化している。
【0021】
図3に示すように、充放電電圧値が略3.7〜4.5Vである高SOC領域において、NiのK吸収端エネルギーは、充電と放電とで略一致している。NiのK吸収端エネルギーが一致している場合、即ちNiの価数等が等しく、この電圧範囲において、Niの価数変化と電圧値とが概ね1:1に対応しており、Niは可逆的に反応していると考えられる。即ち、該SOC領域において、SOC−OCP特性が示すヒステリシスが小さいレドックス反応が主として生じている(これをBの反応とする)。OCPは開放電位を意味する。
該SOC領域においてBの反応量はAの反応量より多く、結果として、低SOC領域よりヒステリシスが小さい。
【0022】
本実施形態においては、主としてBの反応が生じる領域の低い方の電圧値(下限電圧値)を実験により求める。下限電圧値において、ヒステリシスの有無が実質的に切り替わる。Bの反応の酸化量及び還元量は小さいと考えられる。
そして、電圧値の昇降に基づいて、充電状態又は放電状態が下限電圧値以上の電圧領域に相当する領域にあると判定した場合、到達電圧値に基づいて電圧参照によりSOCを推定する。
なお、ここではNiの酸化還元反応だけに注目して説明しているが、Bの反応はNiの酸化還元反応に限定されるものではない。Bの反応は、充放電の推移に応じて活物質により生じる一又は一群の反応のうち、蓄電量−電圧値特性のヒステリシスが小さい反応をいう。
【0023】
次に、蓄電素子の負極がヒステリシスが大きい活物質を含む場合につき説明する。一例として、負極が活物質としてSiO及びグラファイトを含む場合を挙げる。SiOの電気化学反応が生じるときのヒステリシスは、グラファイトの電気化学反応が生じるときのヒステリシスより大きい。
図4は、この蓄電素子につき、対極Liのリチウムセルを用い、電気量と充放電電圧値との関係を求めた結果を示すグラフである。横軸は電気量(mAh/g)、縦軸は充放電電圧値(VvsLi/Li
+ :Li/Li
+平衡電位を基準にしたときの電位差)である。ここで、電気量はSOCに対応する。
図4に示すように、充電曲線と、放電曲線とで電圧値が異なる。即ち同一SOCに対する電圧値が異なり、ヒステリシスを有する。この活物質の場合、同一SOCに対する電位差は、高SOC領域では低SOC領域より小さく、ヒステリシスが小さい。
【0024】
図5は、SOC(又は電圧値)が高くなるのに従い、ヒステリシスが大きい領域と小さい領域とが交互に表れる場合の充放電曲線である。横軸はSOC(%)、縦軸は電圧値(V)である。
正極が組成の異なるLi過剰型の活物質を複数含む場合、負極がヒステリシスが大きい活物質を複数含む場合、並びに正極及び負極夫々がヒステリシスが大きい活物質を含む場合、ヒステリシスが大きい領域と小さい領域とが交互に表れる、又は、重なって表れることがある。
【0025】
図5の電圧値がa〜bである領域(2)においては、電圧値がa以下である領域(1)よりヒステリシスが小さい。領域(2)においては、ヒステリシスが大きいCの反応とヒステリシスが小さいDの反応とが生じている。領域(2)においてDの反応量が多いので、結果として領域(1)よりヒステリシスが小さい。
図5の電圧値がc以上である領域(4)においては、電圧値がb〜cである領域(3)よりヒステリシスが小さい。領域(4)においては、ヒステリシスが大きいEの反応とヒステリシスが小さいFの反応とが生じている。領域(4)においてEの反応量が多いので、結果として領域(3)よりヒステリシスが小さい。
【0026】
領域(2)の下限電圧値a、及び領域(4)の下限電圧値cを実験により求める。電圧値の昇降に基づいて、充電状態又は放電状態が、下限電圧値a以上の電圧領域に相当する領域(2)にあると判定した場合、及び下限電圧値c以上の電圧領域に相当する領域(4)にあると判定した場合、夫々、後述する到達電圧値に基づき、電圧参照によりSOCを推定する。
【0027】
なお、電圧値の領域は上述したように2又は4の領域に分かれる場合には限定されない。正極又は負極の活物質に応じて、複数の電気化学反応が生じ、ヒステリシスが大きい領域と小さい領域とが交互に表れる場合に、SOCが相対的に高く、ヒステリシスが小さい領域において、電圧参照によりSOCを推定する。
【0028】
(実施形態1)
以下、実施形態1として、車両に搭載される蓄電モジュールを例に挙げて説明する。
図6は、蓄電モジュールの一例を示す。蓄電モジュール50は、複数の蓄電素子200と、監視装置100と、それらを収容する収容ケース300とを備えている。蓄電モジュール50は、電気自動車(EV)や、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)の動力源として使用されてもよい。
蓄電素子200は、角形セルに限定されず、円筒形セルやパウチセルであってもよい。
監視装置100は、複数の蓄電素子200と対向して配置される回路基板であってもよい。監視装置100は、蓄電素子200の状態を監視する。監視装置100が、蓄電量推定装置であってもよい。代替的に、監視装置100と有線接続または無線接続されるコンピュータやサーバが、監視装置100が出力する情報に基づいて蓄電量推定方法を実行してもよい。
【0029】
図7は、蓄電モジュールの他の例を示す。蓄電モジュール(以下、電池モジュールという)1は、エンジン車両に好適に搭載される、12ボルト電源や、48ボルト電源であってもよい。
図7は12V電源用の電池モジュール1の斜視図、
図8は電池モジュール1の分解斜視図、
図9は電池モジュール1のブロック図である。
電池モジュール1は直方体状のケース2を有する。ケース2に複数のリチウムイオン二次電池(以下、電池という)3、複数のバスバー4、BMU(Battery Management Unit
)6、電流センサ7が収容される。
【0030】
電池3は、直方体状のケース31と、ケース31の一側面に設けられた、極性が異なる一対の端子32,32とを備える。ケース31には、正極板、セパレータ、及び負極板を積層した電極体33が収容されている。
【0031】
電極体33の正極板が有する正極活物質及び負極板が有する負極活物質の少なくとも一方は、充放電の推移に応じて2以上の電気化学反応を生じる。一の電気化学反応が生じるときに示す蓄電量−電圧値特性のヒステリシスが、他の電気化学反応が生じるときの前記ヒステリシスより小さい。
正極活物質としては、上述のLiMeO
2-Li
2MnO
3固溶体、Li
2O−LiMeO
2固溶体、Li
3NbO
4 −LiMeO
2固溶体、Li
4 WO
5 −LiMeO
2固溶体、Li
4 TeO
5 −LiMeO
2固溶体、Li
3SbO
4 −LiFeO
2固溶体、Li
2RuO
3 −LiMeO
2固溶体、Li
2RuO
3 −Li
2 MeO
3 固溶体等のLi過剰型活物質が挙げられる。負極活物質としては、ハードカーボン、Si、Sn、Cd、Zn、Al、Bi、Pb、Ge、Ag等の金属若しくは合金、又はこれらを含むカルコゲン化物等が挙げられる。カルコゲン化物の一例として、SiOが挙げられる。本発明の技術は、これらの正極活物質及び負極活物質の少なくとも一方が含まれていれば適用可能である。
【0032】
ケース2は合成樹脂製である。ケース2は、ケース本体21と、ケース本体21の開口部を閉塞する蓋部22と、蓋部22の外面に設けられたBMU収容部23と、BMU収容部23を覆うカバー24と、中蓋25と、仕切り板26とを備える。中蓋25や仕切り板26は、設けられなくてもよい。
ケース本体21の各仕切り板26の間に、電池3が挿入されている。
【0033】
中蓋25には、複数の金属製のバスバー4が載置されている。電池3の端子32が設けられている端子面に中蓋25が配置されて、隣り合う電池3の隣り合う端子32がバスバー4により接続され、電池3が直列に接続されている。
【0034】
BMU収容部23は箱状をなし、一長側面の中央部に、外側に角型に突出した突出部23aを有する。蓋部22における突出部23aの両側には、鉛合金等の金属製で、極性が異なる一対の外部端子5,5が設けられている。BMU6は、基板に情報処理部60、電圧計測部8、及び電流計測部9を実装してなる。BMU収容部23にBMU6を収容し、カバー24によりBMU収容部23を覆うことにより、電池3とBMU6とが接続される。
【0035】
図9に示すように、情報処理部60は、CPU62と、メモリ63とを備える。
メモリ63には、本実施形態に係るSOC推定プログラム63aと、複数のSOC−OCV曲線(データ)が格納されたテーブル63bとが記憶されている。SOC推定プログラム63aは、例えば、CD−ROMやDVD−ROM、USBメモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体70に格納された状態で提供され、BMU6にインストールすることによりメモリ63に格納される。また、通信網に接続されている図示しない外部コンピュータからSOC推定プログラム63aを取得し、メモリ63に記憶させることにしてもよい。
CPU62はメモリ63から読み出したSOC推定プログラム63aに従って、後述するSOC推定処理を実行する。
【0036】
電圧計測部8は、電圧検知線を介して電池3の両端に夫々接続されており、各電池3の電圧値を所定時間間隔で測定する。
電流計測部9は、電流センサ7を介して電池3に流れる電流値を所定時間間隔で計測する。
電池モジュール1の外部端子5,5は、エンジン始動用のスターターモータ及び電装品等の負荷11に接続されている。
ECU(Electronic Control Unit)10は、BMU6及び負荷11に接続されている。
【0037】
以下、上述の一の活物質につき、充放電実験により、前記Bの反応がSOC40%以上で多く生じ、これに対応する下限電圧値がE0 Vであることが求められたとして説明する。SOCが40%以上であり、SOCが高い領域が、第1領域に相当する。
【0038】
下限電圧値としてOCVを測定できる場合、該下限電圧値は一定であってもよい。下限電圧値としてCCV(Closed Circuit Voltage)を測定する場合、蓄電素子の使用に伴う劣化の程度に対応して、下限電圧値を下げる等、更新してもよい。蓄電素子の劣化の原因として、内部抵抗の上昇、容量バランスのずれの増大等が挙げられる。容量バランスのずれとは、例えば正極における充放電反応以外の副反応の量と、負極における充放電反応以外の副反応の量とに差が生じることによって、正極及び負極のうちの一方が完全には充電されないようになり、正極と負極の、可逆的に電荷イオンが電極から出入りできる容量が相違するようになることをいう。一般的なリチウムイオン電池では、正極における副反応量が、負極における副反応量よりも小さいために、「容量バランスのずれ」が増大すると、負極を完全に充電することができなくなり、蓄電素子から可逆的に取り出せる電気量が減少する。
【0039】
充電して電圧値が下限電圧値を超えた後、到達した最大の電圧値を到達電圧値とする。
メモリ63のテーブル63bには、下限電圧値から複数の到達電圧値までの複数のSOC−OCV曲線が格納されている。例えば下限電圧値E0 Vから到達電圧値E1 VまでのSOC−OCV曲線b、下限電圧値E0 Vから到達電圧値E2 VまでのSOC−OCV曲線c、下限電圧値E0 Vから到達電圧値E3 VまでのSOC−OCV曲線dが格納されている。ここで、E1 >E2 >E3 である。なお、SOC−OCV曲線b,c,dは、後述する比較試験においても参照されるが、図示はしていない。テーブル63bには、離散的ではなく、全ての到達電圧値に対応したSOC−OCV曲線が連続的に格納されている。連続的に格納せず、隣り合うSOC−OCV曲線に基づき、該曲線間に位置すべき曲線を内挿計算により求め、電圧値及び該曲線からSOCを推定してもよい。
【0040】
以下、電圧参照用のSOC−OCV曲線の求め方について説明する。
SOCが40%から100%までの各点のSOC(%)につき、各SOC(%)→40%→100%と変化させた場合の放電OCV曲線及び充電OCV曲線を求める。放電OCV曲線は、放電方向に微小な電流を通電させて、その際の電圧値を測定することで取得できる。又は、充電状態から各SOCまで放電し、休止させて電圧値が安定した電圧値を測定する。同様に、充電OCV曲線は、充電方向で上記の測定を実施すれば取得できる。SOC40%以上においても、前記活物質が僅かにヒステリシスを有している為、放電OCV曲線及び充電OCV曲線を平均化したOCV曲線を使用するのが好ましい。放電OCV曲線及び充電OCV曲線、又はそれらを補正したものを用いてもよい。
なお、始めに放電OCP曲線及び充電OCP曲線を求めた後、電池3の電圧参照用のSOC−OCV曲線に補正してもよい。
SOC−OCV曲線は予めテーブル63bに格納しておいてもよく、電池3の劣化を考慮し、所定の時間間隔で更新してもよい。
SOC−OCV曲線はテーブル63bに格納する場合に限定されず、メモリ63に間数式として格納してもよい。
【0041】
以下、本実施形態に係るSOC推定方法について説明する。
図10及び
図11は、CPU62によるSOC推定処理の手順を示すフローチャートである。CPU62は、所定の、又は適宜の時間間隔でS1からの処理を繰り返す。
CPU62は、電池3の端子間の電圧値及び電流値を取得する(S1)。後述する下限電圧値及び到達電圧値はOCVであるので、電池3の電流量が大きい場合、取得した電圧値をOCVに補正する必要がある。OCVへの補正値は、複数の電圧値及び電流値のデータから回帰直線を用いて、電流値がゼロである場合の電圧値を推定すること等により得られる。電池3を流れる電流量が暗電流程度に小さい(請求項6の微小電流である)場合、取得した電圧値をOCVとみなすことができる。
【0042】
CPU62は、電流値の絶対値が閾値以上であるか否かを判定する(S2)。閾値は、電池3の状態が充電状態又は放電状態と、休止状態とのいずれであるかを判定する為に設定される。CPU62は電流値の絶対値が閾値以上でないと判定した場合(S2:NO)、処理をS13へ進める。
【0043】
CPU62は、電流値の絶対値が閾値以上であると判定した場合(S2:YES)、電流値が0より大きいか否かを判定する(S3)。電流値が0より大きい場合、電池3の状態は充電状態であると判定できる。CPU62は電流値が0より大きくないと判定した場合(S3:NO)、処理をS9へ進める。
【0044】
CPU62は電流値が0より大きいと判定した場合(S3:YES)、電圧値が下限電圧値以上であるか否かを判定する(S4)。CPU62は電圧値が下限電圧値以上でないと判定した場合(S4:NO)、処理をS8へ進める。
【0045】
CPU62は電圧値が下限電圧値以上であると判定した場合(S4:YES)、電圧参照のフラグをオンにする(S5)。
CPU62は、取得した電圧値が前回の到達電圧値より大きいか否かを判定する(S6)。CPU62は電圧値が前回の到達電圧値より大きくないと判定した場合(S6:NO)、処理をS8へ進める。
【0046】
CPU62は電圧値が前回の到達電圧値より大きいと判定した場合(S6:YES)、メモリ63において、電圧値を到達電圧値に更新する(S7)。
CPU62は、電流積算によりSOCを推定し(S8)、処理を終了する。
【0047】
CPU62は電流値が0より小さく、電池3の状態が放電状態であると判定した場合、S9において、電圧値が下限電圧値未満であるか否かを判定する(S9)。CPU62は電圧値が下限電圧値未満でないと判定した場合(S9:NO)、処理をS12へ進める。
CPU62は電圧値が下限電圧値未満であると判定した場合(S9:YES)、電圧参照のフラグをオフする(S10)。
CPU62は到達電圧値をリセットする(S11)。
CPU62は、電流積算によりSOCを推定し(S12)、処理を終了する。
【0048】
CPU62は電流値の絶対値が閾値未満であり、電池3の状態が休止状態であると判定した場合、電圧参照のフラグがオンであるか否かを判定する(S13)。CPU62は電圧参照フラグがオンでないと判定した場合(S13:NO)、処理をS16へ進める。
【0049】
CPU62は電圧参照のフラグがオンであると判定した場合(S13:YES)、前回のS2で休止状態であると判定してから設定時間が経過したか否かを判定する(S14)。設定時間は、取得した電圧値をOCVとみなす為に十分な時間を予め実験により求める。休止状態であると判定してからの電流値の取得回数及び取得間隔に基づき、前記時間を超えたか否かを判定する。これにより、休止状態において、より高精度にSOCを推定することができる。
CPU62は設定時間が経過していないと判定した場合(S14:NO)、処理をS16へ進める。
CPU62はS16において、電流積算によりSOCを推定し、処理を終了する。
【0050】
CPU62は設定時間が経過したと判定した場合(S14:YES)、取得した電圧値はOCVとみなすことができ、電圧参照によりSOCを推定し(S15)、処理を終了する。CPU62は、メモリ63に記憶された到達電圧値に基づいて、テーブル63bから一のSOC−OCV曲線を選択する。充放電が繰り返された場合、電圧値が昇降し、即ち充電から放電へ切り換わった変曲点のうち高い変曲点が到達電圧値に設定される。該SOC−OCV曲線において、S1で取得した電圧値に対応するSOCを読み取る。
【0051】
なお、CPU62が電圧計測部8から取得する電圧値は、電流値により多少変動するので、実験により補正係数を求めて電圧値を補正することもできる。
【0052】
以下、充放電を繰り返した場合の、本実施形態に係る電圧参照によるSOC推定と、従来の電流積算によるSOC推定との差異を比較した結果について説明する。
図12は、充放電時における、時間に対する電圧値の推移を示すグラフである。横軸は時間(秒)、縦軸は充放電電圧値(VvsLi/Li
+ )である。なお、本実施例は微小電流により充放電を実施している為、通電中の電圧値は、OCVとほぼ同じ値を示すことを確認している。
図12に示すように、1回目の充電が行われて電圧値が下限電圧値E0 Vを超え、E3 Vに到達した後、1回目の放電が行われた。電圧値がE0 Vに達した後、2回目の充電が行われ、電圧値はE1 Vに達し、その後、2回目の放電が行われた。
【0053】
メモリ63には、1回目の到達電圧値としてE3 Vが記憶される。2回目の充電でE3 Vを超えた時点で到達電圧値が更新される。1回目の放電及び2回目の充電においてE3 Vに達するまでの間は、前記SOC−OCV曲線dが使用される。2回目の充電のE3 VからE1 Vまでの間はテーブル63bに記憶された別のSOC−OCV曲線が使用される。2回目の放電のE1 Vから下限電圧値のE0 Vまでの間は前記SOC−OCV曲線bが使用される。
【0054】
1回目の放電及び2回目の充電においてE3 Vに達するまでの間、並びに2回目の放電のE3 Vから下限電圧値のE0 Vまでの間の、電圧参照により算出されたSOCの推移を
図13に示す。
図14は
図12の充放電電圧値の推移において、電流積算によりSOCを算出した場合のSOCの推移を示す。
【0055】
図15は、初期品の電池3につき、
図12に示す充放電を行った場合の、本実施形態の電圧参照によりSOCを推定したときと、従来の電流積算によりSOCを推定したときとの差異を示すグラフである。横軸は時間(秒)、左側の縦軸はSOC(%)、右側の縦軸は前記差異(%)である。対照としての電流積算によるSOCの推定は、事前に放電容量を確認し、かつ精度の高い電流計を使用している為、式(1)中のQの放電容量及びIの電流値が正確である。真値に近似していると考えられる。
図中、eは電流積算により求めたSOCの推移、fは、前記SOC−OCV曲線d及びbを用いて電圧参照により求めたSOCの推移、gは差異である。差異は、(電圧参照により算出したSOC)−(電流積算により算出したSOC)により求めた。
図15より差異は略±4%未満であり、小さいことが分かる。
【0056】
図16は、初期品の電池3につき、
図12と異なるパターンの充放電を行った場合の、電圧参照によりSOCを推定したときと、電流積算によりSOCを推定したときとの差異を示すグラフである。横軸は時間(秒)、左側の縦軸はSOC(%)、右側の縦軸は前記差異(%)である。
図中、eは電流積算により求めたSOCの推移、fは、前記SOC−OCV曲線c及びbを用いて電圧参照により求めたSOCの推移、gは差異である。
図16より差異は略±3%未満であり、小さいことが分かる。
【0057】
図17は、初期品の電池3につき、
図12と異なるパターンの充放電を行った場合の、電圧参照によりSOCを推定したときと、電流積算によりSOCを推定したときとの差異を示すグラフである。横軸は時間(秒)、左側の縦軸はSOC(%)、右側の縦軸は前記差異(%)である。
図中、eは電流積算により求めたSOCの推移、fは、前記SOC−OCV曲線bを用いて電圧参照により求めたSOCの推移、gは差異である。
図17より差異は略±5%未満であり、小さいことが分かる。
以上より、本実施形態の電圧参照によるSOCの推定は、対照の電流積算によるSOCの推定との誤差が小さく、精度が高いことが確認された。
【0058】
図18は、劣化品の電池3につき、
図12に示す充放電を行った場合の、電圧参照によりSOCを推定したときと、電流積算によりSOCを推定したときとの差異を示すグラフである。横軸は時間(秒)、左側の縦軸はSOC(%)、右側の縦軸は前記差異(%)である。テーブル63bには、実験により劣化品のSOC−OCV曲線も求めて格納されている。又は、上述したように、SOC−OCV曲線は所定時間間隔で更新されている。
図中、eは電流積算により求めたSOCの推移、fは、劣化品のSOC−OCV曲線を用いて電圧参照により求めたSOCの推移、gは差異である。
図18より差異は略±4%未満であり、小さいことが分かる。
【0059】
図19は、劣化品の電池3につき、
図16と同一のパターンの充放電を行った場合の、電圧参照によりSOCを推定したときと、電流積算によりSOCを推定したときとの差異を示すグラフである。横軸は時間(秒)、左側の縦軸はSOC(%)、右側の縦軸は前記差異(%)である。
図中、eは電流積算により求めたSOCの推移、fは、劣化品のSOC−OCV曲線を用いて電圧参照により求めたSOCの推移、gは差異である。
図19より差異は略±4%未満であり、小さいことが分かる。
【0060】
図20は、劣化品の電池3につき、
図17と同一のパターンの充放電を行った場合の、電圧参照によりSOCを推定したときと、電流積算によりSOCを推定したときとの差異を示すグラフである。横軸は時間(秒)、左側の縦軸はSOC(%)、右側の縦軸は前記差異(%)である。
図中、eは電流積算により求めたSOCの推移、fは、劣化品のSOC−OCV曲線を用いて電圧参照により求めたSOCの推移、gは差異である。
図20より差異は略±5%未満であり、小さいことが分かる。
以上より、本実施形態の電圧参照によるSOCの推定は、劣化品の電池3においても、対照の電流積算によるSOCの推定との誤差が小さく、精度が高いことが確認された。
【0061】
以上のように、本実施形態においては、ヒステリシスが小さい(ヒステリシスが実質的にない)、下限電圧値から到達電圧値までの範囲において、SOC−OCV曲線、及び現時点の電圧値に基づいてSOCを推定するので、SOCの推定の精度が良好である。従って、高精度にOCVリセットを行うことができる。
充電及び放電のいずれにおいても、SOCを推定することができる。設定した到達電圧値に基づいてSOC−OCV曲線を選択することで、複雑なパターンで、充放電が繰り返された場合に、電圧値の履歴のみにより、SOCを推定できる。また、取得した電圧値が前回の到達電圧値を超えた場合のみ、到達電圧値を更新することで、充電時の最終の電圧値に基づきSOC−OCV曲線を選択する特許文献1より高精度にSOCを推定できる。
【0062】
SOC−OCV曲線から推定できる為、蓄電量としてSOCに限定されるものではなく、電力量等、電池3に蓄えられた現在のエネルギーの量を推定することができる。
上述の比較試験では、異なる到達電圧値に対応する、3つのSOC−OCV曲線のみを使用している。到達電圧値からSOC100%の電圧値まで充電するとき、SOCを電圧参照により算出できていない。上述のように、全ての到達電圧値に対応したSOC−OCV曲線を連続的にテーブル63bに格納することで、又は、曲線間のSOC−OCV曲線を内挿計算により算出することで、前記SOCも電圧参照により推定できる。
【0063】
S1の電圧値及び電流値の取得の間隔が低頻度である場合、多くのSOC−OCV曲線を必要とせず、曲線間のSOC−OCV曲線を算出することで、SOCを推定できる。
S1の電圧値及び電流値の取得の間隔が高頻度である場合、多くのSOC−OCV曲線をテーブル63bに格納しておくのが好ましい。この場合、高精度にSOCを推定できる。
【0064】
(実施形態2)
実施形態2においては、リアルタイムにSOCを推定する場合について説明する。CPU62によるSOC推定処理が異なること以外は、実施形態1と同様の構成を有する。
以下、本実施形態のCPU62によるSOC推定処理について説明する。
【0065】
図21及び
図22は、CPU62によるSOC推定処理の手順を示すフローチャートである。CPU62は、所定の間隔でS21からの処理を繰り返す。
CPU62は、電池3の端子間の電圧値及び電流値を取得する(S21)。
CPU62は、電流値の絶対値が閾値以上であるか否かを判定する(S22)。閾値は、電池3の状態が充電状態又は放電状態と、休止状態とのいずれであるかを判定する為に設定される。CPU62は電流値の絶対値が閾値以上でないと判定した場合(S22:NO)、処理をS33へ進める。
【0066】
CPU62は、電流値の絶対値が閾値以上であると判定した場合(S22:YES)、電流値が0より大きいか否かを判定する(S23)。電流値が0より大きい場合、電池3の状態は充電状態である。CPU62は電流値が0より大きくないと判定した場合(S23:NO)、処理をS29へ進める。
CPU62は電流値が0より大きいと判定した場合(S23:YES)、電圧値が前回の到達電圧値より大きいか否かを判定する(S24)。CPU62は電圧値が前回の到達電圧値より大きくないと判定した場合(S24:NO)、処理をS26へ進める。
【0067】
CPU62は電圧値が前回の到達電圧値より大きいと判定した場合(S24:YES)、電圧値を到達電圧値に更新する(S25)。
CPU62は、電圧値が下限電圧値以上であるか否かを判定する(S26)。CPU62は電圧値が下限電圧値以上でないと判定した場合(S26:NO)、電流積算によりSOCを推定し(S28)、処理を終了する。
【0068】
CPU62は電圧値が下限電圧値以上であると判定した場合(S26:YES)、電圧参照によりSOCを推定し(S27)、処理を終了する。
【0069】
テーブル63bには、下限電圧から複数の到達電圧までの複数のSOC−OCV曲線が格納されている。CPU62は、記憶された到達電圧値に対応するSOC−OCV曲線を選択し、該SOC−OCV曲線において、現時点のOCVからSOCを読み取る。CPU62は、S21で取得した電圧値及び電流値から現時点のOCVを算出する。OCVの算出は、複数の電圧値及び電流値のデータから回帰直線を用いて、電流値がゼロである場合の電圧値を推定すること等により得られる。また、電流値が暗電流の電流値のように小さい場合は、取得した電圧値をOCVに読み替えることもできる。
【0070】
CPU62は電流値が0より小さく、電池3の状態が放電状態であると判定した場合、S29において、電圧値が下限電圧値以上であるか否かを判定する(S29)。
CPU62は電圧値が下限電圧値以上であると判定した場合(S29:YES)、上記と同様にして電圧参照によりSOCを推定する(S30)。
CPU62は電圧値が下限電圧値以上でないと判定した場合(S29:NO)、到達電圧値をリセットする(S31)。
CPU62は電流積算によりSOCを推定し(S32)、処理を終了する。
【0071】
CPU62は電流値の絶対値が閾値未満であり、電池3の状態が休止状態であると判定した場合、電圧値が下限電圧値以上であるか否かを判定する(S33)。CPU62は電圧値が下限電圧値以上でないと判定した場合(S33:NO)、処理をS36へ進める。
CPU62は電圧値が下限電圧値以上であると判定した場合(S33:YES)、前回、S22で休止状態であると判定してから設定時間が経過したか否かを判定する(S34)。設定時間は、取得した電圧値をOCVとみなす為に十分な時間を予め実験により求める。
CPU62は設定時間が経過していないと判定した場合(S34:NO)、処理をS36へ進める。
CPU62は電流積算によりSOCを推定し(S36)、処理を終了する。
【0072】
CPU62は設定時間が経過したと判定した場合(S34:YES)、取得した電圧値はOCVとみなすことができ、上記と同様にして電圧参照によりSOCを推定し(S35)、処理を終了する。
【0073】
本実施形態においては、充放電時にリアルタイムにSOCを推定することができる。
本実施形態においては、ヒステリシスが実質的にない、下限電圧値から到達電圧値までの範囲において、SOC−OCV曲線、及び現時点の電圧値に基づいてSOCを推定する。従って、SOCの推定の精度が良好である。
充電及び放電のいずれにおいても、SOCを推定できる。複雑なパターンで、充放電が繰り返された場合においても、電圧値の履歴のみにより、SOCを推定できる。
電圧値を用いることができるので、蓄電量としてSOCに限定されず、電力量等、電池3に蓄えられた現在のエネルギーの量を推定することができる。
【0074】
以上のように、充放電の推移に応じて2以上の電気化学反応を生じ、一の電気化学反応が生じる場合に示す蓄電量−電圧値特性のヒステリシスが、他の電気化学反応が生じる場合の前記ヒステリシスより小さい、活物質を正極及び負極の少なくとも一方に含む蓄電素子の蓄電量を推定する蓄電量推定装置であって、前記一の電気化学反応が前記他の電気化学反応より多く生じる場合に、前記蓄電量−電圧値特性に基づいて蓄電量を推定する推定部を備える。
【0075】
蓄電量推定装置は、充電と放電とで、蓄電量に対する電圧値の変化が略一致している、一の電気化学反応が他の電気化学反応より多く(主として)生じる場合に、蓄電量−電圧値特性に基づいて蓄電量を推定する。従って、蓄電量の推定の精度が良好である。高容量で、蓄電量−電圧値特性がヒステリシスを示す活物質を有する蓄電素子の蓄電量を良好に推定できる。
充電及び放電のいずれにおいても、蓄電量を推定することができる。複雑なパターンで、充放電が繰り返された場合においても、電圧値の履歴のみにより、蓄電量を推定できる。
電圧値を用いることができるので、蓄電量としてSOCに限定されず、電力量等、蓄電素子に蓄えられた現在のエネルギーの量を推定できる。充放電曲線に基づいて、SOC0%までの放電可能なエネルギー、及びSOC100%までに必要な充電エネルギーを予測することができる。
【0076】
上述の蓄電量推定装置において、前記蓄電量−電圧値特性は、前記蓄電量が相対的に高い側の第1領域と相対的に低い側の第2領域とを有し、前記推定部は、前記第1領域の蓄電量−電圧値特性に基づいて前記蓄電量を推定することが好ましい。
【0077】
蓄電量が相対的に低い側の第2領域においては、前記他の電気化学反応が生じ易く、蓄電量−電圧値特性がヒステリシスを示す。上記構成においては、蓄電量が相対的に高い側の第1領域の蓄電量−電圧値特性に基づいて蓄電量を推定するので、推定の精度が良好である。
【0078】
蓄電量推定装置は、蓄電量−電圧値特性がヒステリシスを示す活物質を含む蓄電素子の蓄電量を推定する蓄電量推定装置であって、前記ヒステリシスの有無が実質的に切り替わる下限電圧値から複数の到達電圧値までの複数の蓄電量−電圧値特性を保持する保持部と、前記蓄電素子の電圧値を取得する電圧取得部と、該電圧取得部が取得した電圧値が前記下限電圧値を超えた後の到達電圧値を設定する設定部と、該設定部により設定した前記到達電圧値に基づいて、一の蓄電量−電圧値特性を選択する選択部と、前記一の蓄電量−電圧値特性、及び前記電圧取得部により取得した電圧値に基づいて蓄電量を推定する推定部とを備える。
【0079】
蓄電量推定装置は、ヒステリシスが実質的にない、下限電圧値から到達電圧値までの範囲において、蓄電量−電圧値特性、及び取得した電圧値に基づいて蓄電量を推定する。ヒステリシスを有する電極材料を用いた蓄電素子において、ヒステリシスが大きい反応と、ヒステリシスが実質的にない(ヒステリシスが小さい)反応とは実質的に独立して起きる。これらの反応は、互いに干渉しない。到達電圧値を超えない限り、下限電圧値とその到達電圧値との間の一義的な曲線に沿って充電及び放電が行われる。従って、蓄電量の推定の精度が良好である。
充電及び放電のいずれにおいても、蓄電量を推定することができる。電圧値の昇降に基づき到達電圧値を設定して蓄電量−電圧値特性を選択する。複雑なパターンで、充放電が繰り返された場合においても、電圧値の履歴のみにより、蓄電量を推定することができる。
電圧値を用いることができるので、蓄電量としてSOCに限定されず、電力量等、蓄電素子に蓄えられた現在のエネルギーの量を推定することができる。
【0080】
上述の蓄電量推定装置において、前記設定部は、前記到達電圧値を記憶部に記憶し、前記電圧取得部が取得した電圧値が前記記憶部に前回記憶された到達電圧値より大きい場合に、取得した電圧値を到達電圧値に更新することが好ましい。
【0081】
蓄電量推定装置は、より大きい到達電圧値(更新された到達電圧値)に基づいて蓄電量−電圧値特性を選択することで、取得した電圧値に基づいて精度良く蓄電量を推定することができる。
【0082】
上述の蓄電量推定装置において、前記電圧値は開放電圧値であってもよい。
【0083】
例えば蓄電素子が休止中であり、開放電圧値を取得できる場合等において、該開放電圧値及び蓄電量−開放電圧特性に基づいて、容易に蓄電量を推定できる。通電時の電流値が大きい場合、電圧値を開放電圧値に補正することで、通電中においても、電圧参照により蓄電量を推定することができる。
【0084】
上述の蓄電量推定装置において、前記電圧値は、前記蓄電素子を微小電流が流れる場合の電圧値であってもよい。
【0085】
電流値が小さいときの電圧値を開放電圧値とみなすことで、容易に電圧値から蓄電量を推定することができ、蓄電素子の充放電中においても、蓄電量を推定できる。
【0086】
上述の蓄電量推定装置において、前記蓄電量はSOCであることが好ましい。
【0087】
高容量材料についてSOCを推定することで、既存の制御システムへの適用性が向上する。SOCに基づいて、放電可能エネルギーのような蓄電量を容易に算出することができる。蓄電量推定装置は、OCVとSOCとが一対一対応しない、ヒステリシスを有する電極材料を用いた蓄電素子の充電状態を、特別なセンサや追加の部品を要することなく、高精度に推定することができる。
【0088】
蓄電モジュールは、複数の蓄電素子と、上述のいずれかの蓄電量推定装置とを備える。
【0089】
車両用の蓄電モジュールや産業用の蓄電モジュールは、典型的には複数の蓄電素子が直列に接続される。複数の蓄電素子が直列及び並列に接続される場合もある。蓄電モジュールの性能を発揮するためには、各蓄電素子のSOCを精度良く推定し、複数の蓄電素子間でSOCのばらつきが生じた時にはバランシング処理を行う必要がある。たとえ各蓄電素子が高容量であっても、複数の蓄電素子間のSOCのばらつきを検出できなければ、蓄電モジュールの性能を使い切ることができない。上述の蓄電量推定装置によって各蓄電素子のSOCを高精度に推定できるので、蓄電モジュールの性能を最大限発揮することが出来る。蓄電モジュールは、特に高容量に対する要求が高い、EVやPHEVの動力源として好適に使用される。
【0090】
蓄電量推定方法は、蓄電量−電圧値特性がヒステリシスを示す活物質を含む蓄電素子の蓄電量を推定する蓄電量推定方法であって、前記ヒステリシスの有無が実質的に切り替わる下限電圧値から複数の到達電圧値までの複数の蓄電量−電圧値特性を保持し、取得する電圧値が前記下限電圧値を超えた後の到達電圧値を設定し、設定した到達電圧値に基づいて、一の蓄電量−電圧値特性を選択し、前記一の蓄電量−電圧値特性、及び取得した電圧値に基づいて蓄電量を推定する。
【0091】
上記方法においては、ヒステリシスが実質的にない、下限電圧値から到達電圧値までの範囲において、蓄電量−電圧値特性、及び取得した電圧値に基づいて蓄電量を推定する。従って、蓄電量の推定の精度が良好である。高容量で、蓄電量−電圧値特性がヒステリシスを示す活物質を有する蓄電素子の蓄電量を良好に推定できる。
充電及び放電のいずれにおいても、蓄電量を推定することができる。電圧値の昇降に係る変曲点を到達電圧値に設定して蓄電量−電圧値特性を選択する。複雑なパターンで、充放電が繰り返された場合においても、電圧値の履歴のみにより、蓄電量を推定できる。
電圧値を用いることができるので、蓄電量としてSOCに限定されず、電力量等、蓄電素子に蓄えられた現在のエネルギーの量を推定できる。
【0092】
コンピュータプログラムは、蓄電量−電圧値特性がヒステリシスを示す活物質を含む蓄電素子の蓄電量を推定するコンピュータに、前記蓄電素子の電圧値を取得し、取得した電圧値が、ヒステリシスの有無が実質的に切り替わる下限電圧値を超えたか否かを判定し、前記電圧値が前記下限電圧値を超えたと判定した場合に、到達電圧値を設定し、設定した前記到達電圧値に基づき、前記下限電圧値から複数の到達電圧値までの複数の蓄電量−電圧値特性を参照して、一の蓄電量−電圧値特性を選択し、前記一の蓄電量−電圧値特性、及び取得した電圧値に基づいて蓄電量を推定する。
【0093】
本発明は上述した実施の形態の内容に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。即ち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
本発明に係る蓄電量推定装置は、車載用のリチウムイオン二次電池に適用される場合に限定されず、鉄道用回生電力貯蔵装置、太陽光発電システム等の他の蓄電モジュールにも適用できる。微小電流が流れる蓄電モジュールにおいては、蓄電素子の正極端子・負極端子間の電圧値、又は、蓄電モジュールの正極端子・負極端子間の電圧値をOCVとみなすことができる。
蓄電素子は、リチウムイオン二次電池に限定されるものではなく、ヒステリシス特性を有する他の二次電池や電気化学セルであってもよい。
【0094】
監視装置100又はBMU6が蓄電量推定装置である場合に限定されない。CMU(Cell Monitoring Unit)が蓄電量推定装置であってもよい。蓄電量推定装置は、監視装置100等が組み込まれた蓄電モジュールの一部であってもよい。蓄電量推定装置は、蓄電素子や蓄電モジュールとは別個に構成されて、蓄熱量推定対象の蓄電素子を含む蓄電モジュールに、蓄熱量の推定時に接続されてもよい。蓄熱量推定装置は、蓄電素子や蓄電モジュールを遠隔監視してもよい。
本発明に係る蓄電量推定装置は、充放電の推移に応じて2以上の電気化学反応を生じ、一の電気化学反応が生じる場合に示す蓄電量−電圧値特性のヒステリシスが、他の電気化学反応が生じる場合の前記ヒステリシスより小さい、活物質を正極及び負極の少なくとも一方に含む蓄電素子の蓄電量を推定する蓄電量推定装置であって、
ここで、「一の電気化学反応が生じる場合」とは、「同時に一群として電気化学反応が生じる場合」を含む。「他の電気化学反応が生じる場合」とは、「同時に一群として電気化学反応が生じる場合」を含む。
SOCが40%から100%までの各点のSOC(%)につき、各SOC(%)→40%→100%と変化させた場合の放電OCV曲線及び充電OCV曲線を求める。放電OCV曲線は、放電方向に微小な電流を通電させて、その際の電圧値を測定することで取得できる。又は、充電状態から各SOCまで放電し、休止させて電圧値が安定した電圧値を測定する。同様に、充電OCV曲線は、充電方向で上記の測定を実施すれば取得できる。SOC40%以上においても、前記活物質が僅かにヒステリシスを有している為、放電OCV曲線及び充電OCV曲線を平均化したOCV曲線を使用するのが好ましい。放電OCV曲線及び充電OCV曲線、又はそれらを補正したものを用いてもよい。
充放電の推移に応じて2以上の電気化学反応を生じ、一の電気化学反応が生じる場合に示す蓄電量−電圧値特性のヒステリシスが、他の電気化学反応が生じる場合の前記ヒステリシスより小さい、活物質を正極及び負極の少なくとも一方に含む蓄電素子の蓄電量を推定する蓄電量推定装置であって、
、蓄電量−電圧値特性に基づいて蓄電量を推定する。従って、蓄電量の推定の精度が良好である。高容量で、蓄電量−電圧値特性がヒステリシスを示す活物質を有する蓄電素子の蓄電量を良好に推定できる。
充電及び放電のいずれにおいても、蓄電量を推定することができる。複雑なパターンで、充放電が繰り返された場合においても、電圧値の履歴のみにより、蓄電量を推定できる。
電圧値を用いることができるので、蓄電量としてSOCに限定されず、電力量等、蓄電素子に蓄えられた現在のエネルギーの量を推定できる。充放電曲線に基づいて、SOC0%までの放電可能なエネルギー、及びSOC100%までに必要な充電エネルギーを予測することができる。
り替わる下限電圧値から複数の到達電圧値までの複数の蓄電量−電圧値特性を保持する保持部と、前記蓄電素子の電圧値を取得する電圧取得部と、該電圧取得部が取得した電圧値が前記下限電圧値を超えた後の到達電圧値を設定する設定部と、該設定部により設定した前記到達電圧値に基づいて、一の蓄電量−電圧値特性を選択する選択部と、前記一の蓄電量−電圧値特性、及び前記電圧取得部により取得した電圧値に基づいて蓄電量を推定する推定部とを備える。
り替わる下限電圧値から複数の到達電圧値までの複数の蓄電量−電圧値特性を保持し、取得する電圧値が前記下限電圧値を超えた後の到達電圧値を設定し、設定した到達電圧値に基づいて、一の蓄電量−電圧値特性を選択し、前記一の蓄電量−電圧値特性、及び取得した電圧値に基づいて蓄電量を推定する。
コンピュータプログラムは、蓄電量−電圧値特性がヒステリシスを示す活物質を含む蓄電素子の蓄電量を推定するコンピュータに、前記蓄電素子の電圧値を取得し、取得した電圧値が、ヒステリシスの有無
り替わる下限電圧値を超えたか否かを判定し、前記電圧値が前記下限電圧値を超えたと判定した場合に、到達電圧値を設定し、設定した前記到達電圧値に基づき、前記下限電圧値から複数の到達電圧値までの複数の蓄電量−電圧値特性を参照して、一の蓄電量−電圧値特性を選択し、前記一の蓄電量−電圧値特性、及び取得した電圧値に基づいて蓄電量を推定する処理を実行させる。
充放電の推移に応じて2以上の電気化学反応を生じ、一の電気化学反応が生じる場合に示す蓄電量−電圧値特性のヒステリシスが、他の電気化学反応が生じる場合の前記ヒステリシスより小さい、活物質を正極及び負極の少なくとも一方に含む蓄電素子の蓄電量を推定する蓄電量推定装置であって、
反応の比率が、他の領域の反応の比率に対して、一の電気化学反応側にある領域で、前記蓄電量−電圧値特性に基づいて蓄電量を推定する推定部を備える、蓄電量推定装置。