【解決手段】撥液性表面100を有する撥液性プラスチック成形体1において、撥液性表面100は、少なくとも一部の面にフッ素原子が分布している柱状体の接合により形成されているノーマルピラー10或いはピニングピラー20を有していることを特徴とする。
前記柱状体の接合により形成されている凸部が拡径した頭部を有する形状を有しており、該凸部の配列によりリエントラント構造が形成されている、請求項1または2に記載の撥液性プラスチック成形体。
前記表面形成工程において、前記柱状体の前記プラスチック成形体表面への接合を、該柱状体を該プラスチック成形体表面に溶射することにより行う請求項6に記載の製造方法。
前記柱状体が、少なくとも一方側端部が拡径した形態を有しており、かかる形態の柱状体の接合により、リエントラント構造の撥液性構造面が形成される請求項6〜8の何れかに記載の製造方法。
前記柱状体表面が、含フッ素化合物が配合された樹脂により形成されており、該含フッ素化合物のブリーディングにより、フッ素原子の分布が行われる請求項6〜9の何れかに記載の製造方法。
【背景技術】
【0002】
一般にプラスチックは、ガラスや金属等に比して成形が容易であり、種々の形状に容易に成形できるため、種々の用途に使用されている。その中でも、袋状容器(パウチ)やボトルなどの包装容器の分野は、プラスチックの用途の代表的な分野である。
【0003】
ところで、上記の容器に粘稠な流体が収容されている場合には、その排出性が求められる。即ち、粘稠な流体を内容物とする場合には、このような内容物を、容器内に付着残存することなく、速やかに綺麗に排出させることが求められている。
【0004】
粘稠な流動体に対する排出性を高めるためには、容器の内面を形成するプラスチック製表面の内容物に対する撥液性を高め、内容物に対する滑り性を向上させるという手段が採用される。
このような手段として、表面に凹凸を形成するという手段が知られている。
また、表面に凹凸を設けるという手段は、表面形状により物理的に撥液性を付与するというものである。即ち、凹凸面上を液が流れるときには、凹部にエアポケットが形成され、凹凸面と液体との接触状態が固液接触及び気液接触となり、しかも、気体(空気)は最も疎水性の高い物質である。このため、凹凸の粗密を適宜設定することにより、著しく高い撥液性が発現するというものである。しかしながら、かかる手段では、液が繰り返し凹凸面上を流れていくと、次第に凹部に液が溜まっていき、エアポケットが次第に失われていき、この結果、撥液性が次第に低下していくこととなる。
【0005】
凹凸表面により撥液性を発現させたときの撥液性の経時的低下が抑制されたプラスチック成形体として、特許文献1には、表面に一次凹凸が形成され、この一次凹凸の少なくとも一部に微細な二次凹凸が形成されているフラクタル的な階層表面凹凸構造を有するプラスチック成形体が、本出願人により提案されている。
この成形体では、一次凹凸の領域内に、さらに微細な二次凹凸が形成されているため、一次凹凸内への液体の侵入が有効に抑制され、一次凹凸による撥液性が安定に維持されるというものである。
しかしながら、このような手段によっても、液切れ性や液転落性の低下を抑制するには限界がある。即ち、二次凹凸内への液体の侵入を完全に防止することはできず、二次凹凸に形成されるエアポケットによる撥液性は徐々に低下していき、従って、一次凹凸内に徐々に液体が侵入することとなり、やはり、撥液性の経時的低下は免れない。
【0006】
また、特許文献2には、やはり、本出願人により上記のようなフラクタルな凹凸表面構造(粗面)が形成されている成形体に関して、かかる粗面をフッ素プラズマ処理することにより、表面を形成している樹脂中にフッ素原子を組み込むという手法が提案されている。
【0007】
上記の手段は、表面にフッ素原子を分布させるという手段により凹凸表面の撥液性を化学的に向上させるというものであり、これにより、凹凸表面を液が繰り返し流れたときの撥液性の低下はかなり改善され、また、フッ素原子の表面分布はフッ素プラズマ処理により行われているため、表面からのフッ素原子膜の剥離による表面撥液性の低下を生じることもない。
しかしながら、フッ素原子を表面に分布させるためのフッ素プラズマ処理は、フィルムのように大面積の部分に適用する場合には、装置が大掛かりなものとなってしまい、生産コストの増大を招くという問題があり。この点での改良が望まれている。
また、上記の手段は、容器の口部を撥液性として液垂れを防止するなどの手段には好適であるが、粘稠な流動体が撥液性の表面に常時接触しているようなときには、撥液性が十分に発揮されないことがあり、さらなる改善が求められている。
【0008】
さらに、特許文献3には、リエントラント構造を有するインクジェットヘッドのノズルプレートが開示されており、このような構造を有するノズルプレートが優れた撥液性を示し、ノズルヘッドのインク汚れを有効に防止することが記載されている。
しかしながら、このようなリエントラント構造体は、フォトリソグラフィーによりノズルプレートの所定の表面部分にマスク材を形成し、次いでドライエッチング装置を用いてのエッチングによりリエントラント構造を形成する凹部を作製し、この後、マスク材を除去するという極めて面倒な手段により製造されるものであり、シリコンなどからなるインクジェットヘッドのノズルプレートには適用できるが、コストや生産性のなどの観点から、包装材の分野には全く適用できない。さらに、粘稠な液が常時接触している状態での撥液性の寿命などについても、特許文献3では全く検討されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、大面積部分へのフッ素プラズマ処理を行うことなく形成された撥液性面を有する撥液性プラスチック成形体及びその製造法を提供することにある。
本発明の他の目的は、液体、特に粘稠な流動体が常時接触している状態に保持されている場合にも、優れた撥液性が長期間にわたって維持され、しかも、包装材の分野にも適用可能な方法で製造し得る撥液性プラスチック成形体及びその製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、撥液性表面を有する撥液性プラスチック成形体において、
前記撥液性表面は、表面にフッ素原子が分布している柱状体の接合により形成されている凸部を有する凹凸面であることを特徴とする撥液性プラスチック成形体が提供される。
【0012】
本発明の撥液性プラスチック成形体においては、
(1)前記柱状体の表面が、フッ素プラズマ処理面であること、
(2)前記柱状体の接合により形成されている凸部が拡径した頭部を有する形状を有しており、該凸部の配列によりリエントラント構造が形成されていること、
(3)プラスチック成形体が、フィルムの形態を有していること、
が好適である。
特にフィルム形態の撥液性プラスチック成形体は、これを製袋して袋状容器として使用することが望ましい。
【0013】
本発明によれば、また、
所定形状に成形されたプラスチック成形体と、表面にフッ素原子が分布しているプラスチック製柱状体とを用意する工程;
前記柱状体の多数個を、前記プラスチック成形体の表面に接合することにより、撥液構造表面を形成する表面形成工程;
を含むことを特徴とする撥液性プラスチック成形体の製造方法が提供される。
【0014】
かかる製造方法においては、
(1)前記表面形成工程において、前記柱状体の前記プラスチック成形体表面への接合を、静電植毛により行うこと、
或いは、
(2)前記表面形成工程において、前記柱状体の前記プラスチック成形体表面への接合を、該柱状体を該プラスチック成形体表面に溶射することにより行うこと、
という手法を採用することができる。
【0015】
また、上記の製造方法においては、
(3)前記柱状体が、少なくとも一方側端部が拡径した形態を有しており、かかる形態の柱状体の接合により、リエントラント構造の撥液性構造面が形成されること、
(4)前記柱状体表面でのフッ素原子の分布がフッ素プラズマ処理により行われていること、
(5)前記柱状体表面が、含フッ素化合物が配合された樹脂により形成されており、該含フッ素化合物のブリーディングにより、フッ素原子の分布が行われること、
が好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の撥液性プラスチック成形体は、フッ素原子が表面に分布した凸部によって凹凸表面が形成されており、この凹凸面の凹部内に存在する空気層によって付与される撥液性と凸部表面に分布したフッ素原子による撥液性とが相俟って超撥液性ともよばれる優れた撥液性が発現しているのであるが、もっとも重要な特徴は、上記の凸部がプラスチック成形体の表面に接合により設けられていること点にある。
即ち、本発明において、フッ素原子の表面分布は、凸部に限定することができ、例えば、フッ素プラズマ処理は、凸部の形成に用いる小さな柱状体表面についてのみ行えばよい。換言すると、フィルムのように大面積を有するプラスチック成形体についても、フィルム表面全体にフッ素プラズマ処理を行わなくともよい。しかも、この撥液性プラスチック成形体は、成形体表面を直接エッチングするなどの手法を採用することなく、連続的に製造することができる。従って、本発明の撥液性プラスチック成形体は、製造コストが安価であり且つ生産性が高いという利点を有している。
【0017】
また、本発明では、プラスチック成形体の表面に接合されて配列されている凸部が拡径した頭部を有していることにより、リエントラント構造面の撥液性面とすることができ、このような場合には、この撥液性面に液体が常時接触して保持されている場合にも、その撥液性を長期にわたって安定に維持することができる。
即ち、リエントラント構造では、配列されている凸部に頭部が形成されているため、凸部間に形成されている凹部は、上部が狭くなった形状となっている。このようなリエントラント構造では、この表面を液が流れたとき、凹部内に液が入り難い構造となっており、所謂カシー(cassie)モード安定に維持されるため、液体が常時接触して保持されていた場合にも、著しく長期にわたって、撥液性が安定に保持される。
従って、本発明の撥液性プラスチック成形体は、液体が常時接触した状態で保持される包装分野(特に容器)に好適に適用され、例えば、カレーのような粘稠な流動体(例えば25℃での粘度が250mPa・s以上)を内容物として収容する袋状容器などとして使用した場合、製造から半年〜1年もの時間が経過した後でも、内部に付着残存することなく、速やかに内容物を排出することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
凹凸面による撥液性の原理を説明するための
図1を参照して、凹凸面100上に液滴が載ったCassieモードでは、凹凸面100中の凹部がエアポケットとなっており、液滴は固体と気体(空気)との複合接触となる。即ち、このような複合接触では、液滴の接触界面での半径Rは小さく、疎水性が最も高い空気に液体が接触するため、高い撥水性が発現することが知られている。即ち、見かけの接触角θ
*は180度に近い値を示す。
【0020】
一方、液滴が凹凸面100中の凹部に侵入した場合には、液滴は複合接触ではなく、固体のみとの接触であり、Wenzelモードで示される。このようなWenzelモードでは、液滴の接触界面での接触半径Rは大きく、この場合にも、見かけの接触角θ
*は180度に近く、撥液性を示すことが知られている。
【0021】
このように、WenzelモードとCassieモードのいずれの状態でも、撥液性が向上することは知られているが、撥液性を高めるためには、Wenzelモードではなく、Cassieモードを安定的に維持すること(凹部のエアポケットを安定に維持すること)が必要であると考えられている。即ち、Wenzelモードは液相と固相の界面が大きく、結果、界面に働く物理的な吸着力も大きくなるので、接触角は大きく撥液はしているが、液滴が容易に転落することはない。Cassieモードは界面が小さいため、液滴が転落する際乗り越えなければならないエネルギー障壁が低く、容易に転落し、何度でも繰り返し転落すると考えられるからである。
【0022】
本発明では、Cassieモードが安定に保持されていることが、撥液性の安定化に繋がるということを前提として、撥液性面の形態が設計されている。
【0023】
<撥液性面の形態>
撥液性面の形態を示す
図2(a)〜(c)を参照して、本発明の撥液性プラスチック成形体1は、100で示される形態の撥液性面を有しており、この撥液性面100は、凸部10或いは20の配列により形成された凹凸面となっている。
図2(a)で示されている撥液性面100は、直胴形状の凸部10(以下、ノーマルピラーと呼ぶ)により、凹凸面が形成されており、このような凹凸面をピラー構造面と呼ぶ。
【0024】
一方、
図2(b)及び(c)で示されている撥液性面100を形成している凸部20は、何れも拡径した頭部20aを有しており、このような頭部20aを有する凸部20(以下、ピニングピラーと呼ぶ)によって撥液性面100が形成されている。
このような頭部20aを有するピニングピラー20により形成されている凹部100aは、凹部100aの上端が底部に比して狭くなっている形態であり、このような凹凸構造面は、リエントラント構造面と呼ばれる。
図2(b)では、通常の形態のピニングピラー20の配列によりリエントラント構造が形成されており、かかる凹凸面の形態を、シングルリエントラント構造と呼ぶ。一方、
図2(c)では、ピニングピラー20の頭部20aが折り返されて、周縁部に小さな空間20bが形成されたており、このような空間20bを有するピニングピラー20により形成される凹凸面の形態を、特にダブルリエントラント構造と呼ぶ。
【0025】
本発明では、上記のようなノーマルピラー10或いはピニングピラー20の配列により撥液性面100が形成されているのであるが、これらのピラー10,20は、何れも表面にフッ素原子が分布している柱状体を、プラスチック成形体1の表面に接合することにより撥液性面100が形成されている。
即ち、かかる撥液性面100では、凹部100a内に存在する空気層と表面に分布しているフッ素原子によって超撥液性とも呼ばれる優れた撥液性を示しているのであるが、接合されているノーマルピラー10或いはピニングピラー20の表面に限定してフッ素原子が分布しているため、その製造コストが大幅に低減され、また生産効率が大幅に向上している。
【0026】
即ち、上記のようなフッ素原子の分布構造は、上記のようなピラー10,20の形成に用いる小さな柱状体についてのみ形成すればよく、撥液性面の全体にフッ素原子を大面積部分の全体にわたって行う必要はない。従って、フッ素原子の導入処理のために大型のプラズマ装置は必要がなく、このため、製造コストを大幅に低減させることができる。これは、フィルムのように大面積を有するプラスチック成形体の表面に撥液性面を形成する場合に特に有利である。また、フッ素原子が分布した表面を有するピラー形成用の柱状体を量産してストックしておくこともできるので、生産効率も向上している。
【0027】
尚、ノーマルピラー10或いはピニングピラー20の表面に分布しているフッ素原子の分布量は、単位面積当たりのフッ素原子とカーボンとの元素比(F/C)が40%以上、特に50〜300%の範囲にあるとき、表面強度を損なわずに、上記のような安定した超撥液性を確保することができる。元素比は、X線光電子分光装置を用い、表面の元素組成を分析することにより算出することができる。
【0028】
さらに、本発明においては、特に液体が撥液性表面100に常時接触保持されている場合においても、優れた撥液性が長期にわたって維持できるという点で、
図2(b)及び(c)に示されているリエントラント構造を有していることが好ましく、特に
図2(c)で示されているダブリリエントラント構造を有していることが最も好適である。
即ち、リエントラント構造は、凹部100aの上端が底部に比して狭くなっている形態であり、液滴が凹部100aの内部に入り難い構造となっており、例えば、液体が常時接触保持されている場合においても、前述したCassieモードが長期にわたって安定に保持され、結果として、長期間経過後においても初期と同等の撥液性が維持される。
【0029】
これらの凹凸表面100上で液滴が載っている状態において、
図2(a)のピラー構造では、液滴の自重や外乱などで圧力Δpが加わるが、凹凸表面100を構成する材料に対する液滴の接触角θEが90°よりも大きい撥液状態の場合(
図2(a)ではθE=130°)、液滴の表面張力により形成されるメニスカスは下に凸の形状になるため(ピン止め効果)、液滴は凹部100aに侵入しない。
しかし液滴の接触角θEが90°以下の親液状態の場合、メニスカスは上に凸の形状になり、液滴は凹部100aに侵入する。
【0030】
これに対して、
図2(b)及び(c)のリエントラント構造では、液滴の接触角θEが90°以下の親液状態であっても(
図3ではθE=20°)、表面張力により形成されるメニスカスは下に凸の形状になるため(ピン止め効果)、液滴は凹部100aに侵入しない。
特に
図2(c)のダブルリエントラント構造では曲率の小さなメニスカスが形成され、大きな圧力ΔP(>Δp)が加わってもメニスカスが反転することが無いため、優れた撥液性が長時間維持される。
【0031】
上述した本発明で採用される
図2(b)及び(c)のリエントラント構造において、初期撥液性と共に、ピン止め効果を十分に発揮させて長期にわたって撥液性を維持するためには、ピニングピラー20のピッチpが1〜500μm程度であり、且つ凹部100aの深さdが、5〜200μm程度の範囲にあると共に、ピニングピラー20の頭部20aでツバ幅f1、ツバ厚さe1、第二ツバ幅f2、第二ツバ厚さe2が1〜10μm程度であることが好適である。
また、この凹凸表面100を占めるピニングピラー20の頭部20aの単位投影面積当たりの面積割合Φは0.05〜0.8の範囲が好適である。
【0032】
本発明において、上記のような撥液性表面100が形成されるプラスチック成形体1は、所定形状に成形され得る限り任意のプラスチック、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂などにより形成されていてよく、この成形体1の用途に応じて、適宜の樹脂を選択すればよく、多層構造とすることも可能である。
一般に、包装材分野では、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンもしくはプロピレンと他のオレフィンとの共重合体などに代表されるオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルが表面形成用の樹脂として代表的である。
さらに、用途に応じては、プラスチック成形体1の背面にアルミ箔等の金属箔が接着固定されていてもよいし、ノーマルピラー10或いはピニングピラー20のみが他の樹脂で形成されることもある。
【0033】
<撥液性プラスチック成形体の製造>
上述した撥液性表面100を有する本発明の撥液性プラスチック成形体は、接合法により製造される。
【0034】
この方法を実施するためには、前述したプラスチック成形体1と共に、ピラー形成用の柱状体を用意する。
かかる柱状体としては、
図3に示された形態のものが使用される。
図5において、この柱状体は40で示されている。
【0035】
例えば
図3(a)に示されている柱状体40は、ノーマルピラー10の形成に使用されるものであり、直胴形状を有しており、例えばプラスチック材料の溶融押出等により形成される。
また、
図3(b)及び(c)に示されている柱状体40は、リエントラント構造を形成するピニングピラー20の形成に使用されるものである。
例えば、
図3(b)の柱状体40は、プラスチック製の短繊維を切断することにより得られるものであり、短繊維の切断により、両端部40aが拡径した形状となり、この拡径した部分の一方が、ピニングピラー20の頭部20aに相当するものとなる。
また、
図3(c)に示されている形態の柱状体40は、やはりプラスチック製繊維から形成されている撚糸を切断することにより得られる。かかる柱状体40においても、切断により端部40bが拡径した形態となり、この端部40bがピニングピラー20の頭部20aに相当するものとなる。この
図3(c)の柱状体40は、撚糸の切断により得られたものであるため、端部40aが折り返された形態を有しており、従って、特に
図2(c)のダブルリエントラント構造の形成に好適に適用される。
【0036】
尚、上述した柱状体40を形成するプラスチック材料としては、プラスチック製成形体1の表面に融着接合しやすい樹脂材料のものが使用されるが、一般的には、ナイロン製のものが安価であり且つ容易に入手できるという点で好適に使用されるが、プラスチック成形体1の表面と同じ樹脂材料を紡糸しても良い。
また、柱状体40の太さや長さは、前述したノーマルピラー或いはピニングピラー20に対応した大きさを有していればよい。
【0037】
本発明においては、プラスチック系製袋1表面への接合に先立って、上記の柱状体40の表面にフッ素原子を分布させる。
このようなフッ素原子の分布は、柱状体40の成形に用いるプラスチック中にブリーディング性の含フッ素化合物を配合しておくという手段(ブリーディング法)や、フッ素プラズマ処理により行うことができる。
【0038】
ブリーディング法に使用される含フッ素化合物としては、含フッ素アルキル基を有する変性オレフィン系樹脂や、含フッ素シランカップリング剤、含フッ素系界面活性剤などを挙げることができる。特に、柱状体40の形成にオレフィン系樹脂が使用される場合には、上記の変性オレフィン系樹脂が好適である。
かかる含フッ素変性オレフィン系樹脂としては、例えば下記式で表されるフルオロアルキル基2鎖型ポリマーが知られている。(例えば、川瀬徳三;超撥水・超撥油技術,繊消誌,55(6),2014参照)
【化1】
上記式中、nは、繰り返し単位の数を示す整数であり、
Rfは、パーフロロヘキシル基(C
6F
13)である。
【0039】
また、フッ素プラズマ処理は、それ自体公知の方法で行うことができる。例えば、CF
4ガスやSiF
4ガスなどを使用し、柱状体40を、一対の電極間に配置し、高周波電界を印加することにより、フッ素原子のプラズマ(原子状フッ素)を生成させ、これを柱状体40の表面に衝突させることによって、柱状体表面の樹脂の分子鎖中にフッ素原子を組み込むことができる。即ち、表面の樹脂が気化乃至分解し、同時に、フッ素原子が組み込まれることとなる。
【0040】
本発明においては、柱状体40の表面に選択的にフッ素原子を分布できるという点で、フッ素プラズマ処理により、柱状体40の表面(即ち、ノーマルピラー10或いはピニングピラー20の表面)にフッ素原子を分布させることができるという点で最も好適である。即ち、柱状体40は非常に大きさの小さなものであるため、ブリーディング法では、フッ素化合物の配合により成形性が損なわれたり、或いは成形条件の変更が必要となってしまうからである。
また、かかるフッ素プラズマ処理は、小さな柱状体40の表面を処理するものであるため、フィルム表面の処理のように大型のもの装置を用いる必要はない。
【0041】
上述した柱状体40のプラスチック成形体1の表面への外添接合は、静電植毛或いは溶射により行うことができる。これらの接合方法を
図4及び
図5に示した。
尚、
図4及び
図5では、プラスチック成形体1としてフィルム形状のものを示した。
【0042】
静電植毛による接合;
図5を参照して、この方法では、原反ローラ51にプラスチック成形体であるフィルム1が巻かれており、このフィルム1を巻き取りローラ53で巻き取る搬送路で、静電植毛による接合が行われる。
【0043】
即ち、原反ローラ51に対面して塗布ローラ55が配置され、この塗布ローラ55により、フィルム1の一方の面(撥液性面となる面)にヒートシールラッカーが塗布される。
また、原反ローラ51と巻き取りローラ53の間に、一対の電極57(陽極57a,陰極57b)と、オーブン59が配置されており、ヒートシールラッカーが塗布されたフィルム1は、一対の電極57間を通り、オーブン59で加熱された後、巻き取りローラ53で巻き取られる構造となっている。
【0044】
上記のような構造において、陰極57b上には、前述したノーマルピラー10或いはピニングピラー20を形成するための柱状体40が保持されており、また、フィルム1は、ヒートシールラッカーが塗布された面が陰極側となるようにして陽極57aに沿って移動する。このようにしてフィルム1が電極57間を通過するときに、電源61により直流電圧(通常、40kV程度)が印加され、これにより、陰極57b上の柱状体40が電界に沿って飛翔し、フィルム1のヒートシールラッカーが塗布された面に付着する。このようにして表面に柱状体1が付着しているフィルム1は、オーブン59中で加熱し、柱状体40がしっかりとフィルム1の表面に固定され、これにより、フィルム1の表面には、ノーマルピラー10或いはピニングピラー20が接合し、所定の撥液性面100が形成された状態で巻き取りローラ53に巻き取られ、これにより、外添接合工程が完了する。
【0045】
溶射法による接合;
図5を参照して、この方法では、原反ローラ51にプラスチック成形体であるフィルム1が巻かれており、このフィルム1を巻き取りローラ53で巻き取る搬送路で、前述した柱状体40を溶射することによりが行われる。
【0046】
即ち、この搬送路には、溶射装置71と陽極3が対面するように配置されており、フィルム1は、その一方の面が陽極73に沿って且つ溶射装置71と陽極73との間を移動するように構成されている。
【0047】
溶射装置71は、内部がストレートな筒状空間となっている金属製ノズル75、このノズルの筒状空間内に溶射メディアをストレートに供給するための溶射メディア供給管77及び溶射メディアを加熱するためのホットエア供給管79を備えている。
【0048】
即ち、溶射法では、溶射メディアとして前述した柱状体40を使用し、陰極73上を通過するフィルム1の表面に、加熱された柱状体40を吹き付けることにより、フィルム1の表面に柱状体40を接合してノーマルピラー10或いはピニングピラー20が配列された撥液性面100が形成される。
【0049】
例えば、溶射装置71において、溶射メディア供給管71には、前述した柱状体40が供給される。また、ホットエア供給管77からは、溶射メディアである柱状体40を加熱するためのホットエアが供給される。ホットエアの温度は、フィルム1の表面に付きけられた柱状体40がフィルム1表面に溶融接合するが、その形態が維持される程度の温度に加熱されるように設定される。具体的な温度は、柱状体40の材質によっても異なるが、ポリエチレン製の場合、フィルム1表面直前の温度が400〜500℃程度になるように設定される。
尚、
図5に示されているように、溶射メディア供給管77は、柱状体40が一定の方向を指向した状態でフィルム1の表面に吹き付けられるように、ノズル75の中心に向かってストレートに延びているが、ホットエア供給管79は、柱状体40を均一に加熱するために、溶射メディア供給管77を取り巻くように傾斜し且つ複数本設けられている。
【0050】
上記のようにして柱状体40をホットエアにより加熱して吹き付ける際に、陽極73とノズル75との間に電源81により電圧(通常、40kV程度)を印加しておく。これにより、加熱された柱状体40は、電界に沿って陽極73上のフィルム1の表面に対して垂直に吹き付けられる。
【0051】
このようにして加熱された柱状体40がフィルム1の表面に吹き付けられて接合されて所定の撥液性面100が形成され、この状態で巻き取りローラ53にフィルム1が巻き取られ、この接合工程が完了する。
【0052】
尚、上述した
図4及び
図5の例では、成形体1がフィルムの形態を有している場合を例に採ったが、フィルムの形態を有していない場合にも、ローラによる搬送を行わないのであれば、同様にして柱状体40の接合によりノーマルピラー10或いはピニングピラー20が配列された凹凸面構造を有する撥液性面を形成できることは、当業者には自明のことである。
【0053】
このようにして得られた本発明の撥液性プラスチック成形体は、種々の流動体に対して優れた撥液性もしくは滑り性を有しているため、これを利用して種々の用途に適用される。特に、
図2(b)或いは(c)で示されているリエントラント構造を表面に有する本発明の撥液性プラスチック成形体では、液体が常時接触保持されている場合にも長期にわたって初期と同様、優れた撥液性が発揮され、しかも、上述したリエントラント構造はレトルト殺菌等の加熱処理によっても損なわれないため、包装分野に好適に適用される。
【0054】
例えば、フィルムの形態を有するものは、製袋等の後加工により、内容物が長期保存される袋状容器或いはチューブ容器として最も好適に使用される。特に粘度(25℃)が250mPa以上の粘稠なペースト状の内容物が収容されている場合にも、優れた撥液性により、速やかに且つ容器内に内容物が付着残存せず、きれいに排出することができる。
このようなペースト状の内容物としては、カレー、とろみを付けた各種食品、プリンやヨーグルトなどのゲル状物質、ジャム、シャンプー、コンディショナー、液体洗剤、練り歯磨きなどが代表的である。
勿論、袋状容器あるいはチューブ容器に限らず、カップ形態或いはトレイ形態の容器にも本発明を適用できる。