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特開2018-201472神経幹細胞の培養方法及び神経幹細胞用培養基材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-201472(P2018-201472A)
(43)【公開日】2018年12月27日
(54)【発明の名称】神経幹細胞の培養方法及び神経幹細胞用培養基材
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0797 20100101AFI20181130BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20181130BHJP
【FI】
   C12N5/0797
   C12N15/00 AZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-114289(P2017-114289)
(22)【出願日】2017年6月9日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 平成28年12月17日 平成28年度山形県サイエンスフォーラムにおける公開
(71)【出願人】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
【住所又は居所】山形県山形市小白川町1丁目4−12
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100162422
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 将
(72)【発明者】
【氏名】干場 隆志
【住所又は居所】山形県米沢市城南四丁目3−16 国立大学法人山形大学 有機材料システム研究推進本部内
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BC41
4B065BD39
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】神経幹細胞を、生体外で、未分化状態のまま、分化能等の幹細胞性を維持したまま培養する方法又はそのための培養基材又はその材料を提供する。
【解決手段】脱細胞化マトリックス上で神経幹細胞を接着培養することを含む、神経幹細胞の培養方法であって、
前記脱細胞化マトリックスが、培養神経幹細胞に由来する細胞外マトリックスと、前記培養神経幹細胞とを含む細胞培養産物から前記培養神経幹細胞を除去して得られたものである、前記方法。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱細胞化マトリックス上で神経幹細胞を接着培養することを含む、神経幹細胞の培養方法であって、
前記脱細胞化マトリックスが、培養神経幹細胞に由来する細胞外マトリックスと、前記培養神経幹細胞とを含む細胞培養産物から前記培養神経幹細胞を除去して得られたものである、前記方法。
【請求項2】
前記細胞外マトリックスが、前記培養神経幹細胞の接着培養時又は浮遊培養時に形成されたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞外マトリックスが、ラミニンを含む培養基材上での前記培養神経幹細胞の接着培養時に形成されたものである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記脱細胞化マトリックスが、ラミニン、IV型コラーゲン、ニドゲン及びパールカンを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ラミニン、IV型コラーゲン、ニドゲン及びパールカンを含む脱細胞化細胞外マトリックスを含む、神経幹細胞用培養基材。
【請求項6】
脱細胞化細胞外マトリックスの製造方法であって、
ラミニンを含む培養基材上で神経幹細胞を接着培養して、前記神経幹細胞に由来する細胞外マトリックスと、前記神経幹細胞とを含む細胞培養産物を形成する工程、及び
前記細胞培養産物から前記神経幹細胞を除去して、脱細胞化細胞外マトリックスを形成する工程
を含み、前記脱細胞化細胞外マトリックスが、ラミニン、IV型コラーゲン、ニドゲン及びパールカンを含む、前記方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法により得られる脱細胞化細胞外マトリックス。
【請求項8】
神経幹細胞の幹細胞ニッチを提供するのに十分な、フラクトンを構成する成分を含有する、神経幹細胞由来の脱細胞化細胞外マトリックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経幹細胞の培養方法、神経幹細胞用培養基材、脱細胞化細胞外マトリックスの製造方法及び脱細胞化細胞外マトリックス等に関する。
【背景技術】
【0002】
神経幹細胞は、自己複製能と分化能を有し、神経組織の再生医療のための細胞源として期待されている。神経幹細胞を再生医療に応用するためには、生体外で、未分化状態のまま、自己複製能と分化能を維持したまま増殖させる必要がある。
細胞培養方法には、大きく分けて、接着培養と浮遊培養がある。神経幹細胞においては、特殊な培養液を用いない限り、接着培養を行うことにより分化誘導が生じてしまうことから、神経幹細胞を生体外で、未分化状態のまま、自己複製能と分化能を維持したまま増殖させるには、接着培養は適しているとは言えなかった。そのため、神経幹細胞の生体外での継代培養は、通常、浮遊状態で凝集塊を形成させて行われている(ニューロスフェア法)。しかしながら、このような浮遊培養での継代培養を繰り返し行うと、神経幹細胞の分化能等の幹細胞性が喪失してしまうという問題がある。
【0003】
骨髄由来間葉系幹細胞については、幹細胞ニッチを模倣するために作製された脱細胞化マトリックスを用いることにより、通常の接着培養基板を用いるよりも長期間にわたって骨髄由来間葉系幹細胞の幹細胞性を維持し得ることが報告されている(非特許文献1)。
しかしながら、骨髄由来間葉系幹細胞は、もともと接着培養によって幹細胞性を維持したまま増殖させることができ、かつ浮遊培養では増殖できないものであり、神経幹細胞とは性質が全く異なる。また、骨髄由来間葉系幹細胞は間葉系細胞であり、I型コラーゲン等に代表される間質の細胞外マトリックスに囲まれているのに対し、神経幹細胞は、生体内では、側脳室の上衣層に存在するフラクトンと呼ばれる特異的な細胞外マトリックス構造を有する基底膜様構造に囲まれた環境(幹細胞ニッチ)にて、その性質が維持されていると考えられている。
幹細胞ニッチを模倣するために作製された、間葉系幹細胞(間葉系細胞)由来細胞外マトリックスには、主としてI型コラーゲン、III型コラーゲン、V型コラーゲン及びフィブロネクチン等が含まれることが知られている(特許文献1並びに非特許文献1及び2)。また、間葉系幹細胞の幹細胞ニッチには基底膜様構造は観察されないが、上記のとおり、神経幹細胞の幹細胞ニッチには基底膜様構造が観察され、幹細胞ニッチを構成する成分は両者で異なっている。
このように、骨髄由来間葉系幹細胞と神経幹細胞とは性質が全く異なる上に、幹細胞ニッチがどのような環境であるかについても全く異なる。そのため、神経幹細胞について、幹細胞ニッチを模倣するために脱細胞化マトリックスを作製した事例はこれまで報告されておらず、そのような試みはこれまでされてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第8961955号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Yanlai Lai, et. al., Stem Cells and Development, 2010, Vol.19, No.7, pp.1095-1107
【非特許文献2】Takashi Hoshiba, et. al., The Journal of Biological Chemistry, November 6, 2009, Vol.284, No.45, pp.31164-31173
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、神経幹細胞を、生体外で、未分化状態のまま、分化能等の幹細胞性を維持したまま増殖させ、培養する方法を提供することを目的とする。或いは、本発明は、新規な神経幹細胞用培養基材又はその材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、神経幹細胞に由来する細胞外マトリックスを脱細胞化技術により作製し、作製した脱細胞化マトリックス上で神経幹細胞を接着培養することで、神経幹細胞を、生体外で、未分化状態のまま、分化能等の幹細胞性を維持したまま培養できることを新たに見出した。本発明は、このような新たな知見に基づくものである。
【0008】
本発明の一実施態様によれば、
脱細胞化マトリックス上で神経幹細胞を接着培養することを含む、神経幹細胞の培養方法であって、
前記脱細胞化マトリックスが、培養神経幹細胞に由来する細胞外マトリックスと、前記培養神経幹細胞とを含む細胞培養産物から前記培養神経幹細胞を除去して得られたものである、前記方法が提供される。
【0009】
本発明の一実施態様では、前記培養方法において、細胞外マトリックスは、培養神経幹細胞の接着培養時又は浮遊培養時に形成されたものである。
本発明の一実施態様では、前記培養方法において、細胞外マトリックスは、ラミニンを含む培養基材上での培養神経幹細胞の接着培養時に形成されたものである。
本発明の一実施態様では、前記培養方法において、脱細胞化マトリックスは、基底膜構造を形成するのに必要なラミニン、IV型コラーゲン、ニドゲン及びパールカンを含む。
【0010】
本発明の一実施態様によれば、ラミニン、IV型コラーゲン、ニドゲン及びパールカンを含む脱細胞化細胞外マトリックスを含む、神経幹細胞用培養基材が提供される。
【0011】
本発明の一実施態様によれば、脱細胞化細胞外マトリックスの製造方法であって、
ラミニンを含む培養基材上で神経幹細胞を接着培養して、前記神経幹細胞に由来する細胞外マトリックスと、前記神経幹細胞とを含む細胞培養産物を形成する工程、及び
前記細胞培養産物から前記神経幹細胞を除去して、脱細胞化細胞外マトリックスを形成する工程
を含み、前記脱細胞化細胞外マトリックスが、ラミニン、IV型コラーゲン、ニドゲン及びパールカンを含む、前記方法が提供される。
本発明の一実施態様によれば、前記製造方法により得られる脱細胞化細胞外マトリックスが提供される。
本発明の一実施態様によれば、神経幹細胞の幹細胞ニッチを提供するのに十分な、フラクトンを構成する成分を含有する、神経幹細胞由来の脱細胞化細胞外マトリックスが提供される。
【発明の効果】
【0012】
一実施態様において、本発明の神経幹細胞の培養方法は、神経幹細胞を、生体外で、未分化状態のまま、分化能等の幹細胞性を維持したまま増殖させ、培養することができる。
一実施態様において、本発明の神経幹細胞用培養基材を用いることにより、神経幹細胞を、生体外で、未分化状態のまま、分化能等の幹細胞性を維持したまま増殖させて培養することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】マウス神経幹細胞株であるMEB5を、基材表面をラミニンでコートした培養基板上でEGF、bFGFを含むRHB-A培地を用いて5日間培養した様子を示す写真である。
図2】マウス神経幹細胞株であるMEB5を、プラスチック培養基板(組織培養用ポリスチレン(TCPS)プレート)上でEGF、bFGFを含むRHB-A培地を用いて5日間培養した様子を示す写真である。
図3】所定の培養後、神経幹細胞が分化誘導されたか否かを示す電気泳動写真である。NeuroDはニューロンの分化マーカー遺伝子、Gfapはアストロサイトの分化マーカー遺伝子、Gapdhはグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(内部コントロール遺伝子)をそれぞれ表す。
図4】脱細胞化前のサンプルについての蛍光顕微鏡写真である。
図5】脱細胞化後のサンプルについての蛍光顕微鏡写真である。
図6】遺伝子レベルでの脱細胞化マトリックスの組成検討についての電気泳動写真である。Lama1はラミニンα1鎖遺伝子、Lama2はラミニンα2鎖遺伝子、Lama3はラミニンα3鎖遺伝子、Lama4はラミニンα4鎖遺伝子、Lama5はラミニンα5鎖遺伝子、Col1a1はI型コラーゲン(α1鎖)遺伝子、Col4a1はIV型コラーゲン(α1鎖)遺伝子、Hspg2はパールカン遺伝子、Nid1はニドゲン遺伝子、Fn1はフィブロネクチン遺伝子、Gapdhはグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(内部コントロール遺伝子)をそれぞれ表す。
図7】免疫染色による、脱細胞化マトリックスのタンパク質組成の検討結果を示す写真である。
図8】脱細胞化細胞外マトリックス上で神経幹細胞を培養した際の増殖した細胞の数と、基材表面をラミニンでコートした培養基板上で神経幹細胞を培養した際の増殖した細胞の数との比較を示すグラフである。
図9】脱細胞化処理及びそれにより得られた細胞外マトリックス(ECM)の利用の概念図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳述する。
本発明の一実施態様は、
脱細胞化マトリックス上で神経幹細胞を接着培養することを含む、神経幹細胞の培養方法であって、
前記脱細胞化マトリックスが、培養神経幹細胞に由来する細胞外マトリックスと、前記培養神経幹細胞とを含む細胞培養産物から前記培養神経幹細胞を除去して得られたものである、前記方法に関する。
【0015】
神経幹細胞を生体外で培養する際、接着培養、浮遊培養のいずれかを問わず、細胞外マトリックスタンパク質が細胞から分泌され、細胞の下に細胞外マトリックスを形成することになる。本明細書において、このような細胞外マトリックスは、「培養神経幹細胞に由来する細胞外マトリックス」「培養神経幹細胞由来の細胞外マトリックス」、「神経幹細胞に由来する細胞外マトリックス」又は「神経幹細胞由来の細胞外マトリックス」とも称される。神経幹細胞を分化させずに培養し、細胞外マトリックスが形成されると、当該神経幹細胞と当該神経幹細胞から形成された細胞外マトリックスとが混在した状態で存在することになる。このような神経幹細胞と細胞外マトリックスとを含む細胞培養産物から神経幹細胞を除去することにより得られるものが、本発明の培養方法において用いられる脱細胞化マトリックス(本明細書において、「脱細胞化細胞外マトリックス」とも言う。)である。
このような脱細胞化マトリックスは、神経幹細胞の幹細胞ニッチを模倣したものであると言える。神経幹細胞の幹細胞ニッチは、種々の成分、例えば、ラミニン、IV型コラーゲン、ニドゲン及びパールカン(ヘパラン硫酸プロテオグリカン)等の種々のタンパク質により構成されている。ラミニン、IV型コラーゲン、ニドゲン及びパールカンは、基底膜様構造を構成するのに必須なタンパク質であることが知られている。そのため、本発明の神経幹細胞の培養方法において用いられる脱細胞化マトリックスは、ラミニン、IV型コラーゲン、ニドゲン及びパールカンを含むことが好ましい。ラミニンは、α3鎖を含み得る。また、本発明の神経幹細胞の培養方法において用いられる脱細胞化マトリックスは、別途、細胞外マトリックスタンパク質や生体分子又は接着分子等を添加若しくは吸着させて、又は所定の酵素処理等により生体分子又は接着分子等を取り除いて、或いは化学修飾によって、その性質を改良したものであってもよい。
【0016】
本発明の神経幹細胞の培養方法においては、このような脱細胞化マトリックス上で神経幹細胞を接着培養することが特徴である。通常、神経幹細胞においては、特殊な培養液(例えば、EGF及びbFGF添加RHB-A培地、StemPro(登録商標) NSC SFM、ビタミンA除去B-27サプリメント含有培地)を用いない限り、接着培養を行うことにより分化誘導が生じてしまうが、本発明の神経幹細胞の培養方法において、脱細胞化マトリックス上で神経幹細胞を培養する際には、特殊な培養液は不要であり、適宜、培養液を選択し得る。使用し得る培養液(培地)としては、例えば、DMEM培地、DMEM/F-12培地、α-MEM培地(いずれもEGF及び/又はbFGFを添加)等が挙げられる。また、これらの培養液中には、必要に応じて、ビタミン、補酵素、アミノ酸、金属イオン、糖、細胞増殖因子、インターロイキン、サイトカイン、血清、血清由来成分、抗生物質等を添加してもよい。具体的な一例としては、本発明の神経幹細胞の培養方法において、ニューロスフェア法で用いられる培養液、具体的には、上皮増殖因子(EGF)及び線維芽細胞増殖因子-2(FGF-2)を含む無血清培地等を使用し得る。
本発明の神経幹細胞の培養方法において、培養は、用いる神経幹細胞の種類に応じて、当業者の技術常識に基づいて適宜行うことができる。本発明の神経幹細胞の培養方法において、脱細胞化マトリックス上での神経幹細胞の培養を行う環境の温度、湿度及び二酸化炭素濃度等の培養条件や培養培地は、それぞれの細胞に適したものであれば特に限定されず、従来公知のものから選択し得る。例えば、温度は、30〜38℃、好ましくは35〜37℃の範囲内、湿度は、70〜100%、好ましくは90〜100%の範囲内、二酸化炭素濃度は、2〜8%、好ましくは4〜6%の範囲内であり得る。また、細胞の継代の時期及び方法も特に限定されず、それぞれの細胞の様子を見ながら、公知の方法に従って行うことができる。
【0017】
本発明の神経幹細胞の培養方法において、脱細胞化マトリックスは、培養神経幹細胞に由来する細胞外マトリックスと、前記培養神経幹細胞とを含む細胞培養産物から前記培養神経幹細胞を除去して得られたものであるが、培養神経幹細胞に由来する細胞外マトリックスを形成させる際の神経幹細胞の培養は、神経幹細胞を分化させない条件の下で、接着培養で行われても浮遊培養で行われてもよい。
培養神経幹細胞に由来する細胞外マトリックスを接着培養において形成させる場合、用いる培養基材は、細胞外マトリックスが得られるものであれば特に限定されず、公知のものを使用し得る。好ましい例としては、用いる培養基材はラミニンを含むものである。ラミニンを含む培養基材としては、特に、プラスチック基材又はガラス基材等の基材表面をラミニンでコートしたものが好ましい。
培養神経幹細胞に由来する細胞外マトリックスを接着培養において形成させる際の培養条件や培養培地は、それぞれの細胞に適したものであれば特に限定されず、従来公知のものから選択し得るが、培養培地としては、EGF及びbFGF添加RHB-A培地、StemPro(登録商標) NSC SFM、ビタミンA除去B-27サプリメント含有培地等を用いることが好ましい。例えば、温度は、30〜38℃、好ましくは35〜37℃の範囲内、湿度は、70〜100%、好ましくは90〜100%の範囲内、二酸化炭素濃度は、2〜8%、好ましくは4〜6%の範囲内であり得る。また、細胞の播種は、特に限定されないが、初期細胞密度が1.5×104〜2.5×104 細胞/cm2となるように行うのが好ましい。
培養神経幹細胞に由来する細胞外マトリックスを浮遊培養において形成させる際の培養条件や培養培地は、それぞれの細胞に適したものであれば特に限定されず、従来公知のものから選択し得る。例えば、温度は、30〜38℃、好ましくは35〜37℃の範囲内、湿度は、70〜100%、好ましくは90〜100%の範囲内、二酸化炭素濃度は、2〜8%、好ましくは4〜6%の範囲内であり得る。培養培地としては、例えば、ニューロスフェア法で用いられる培養液、具体的には、上皮増殖因子(EGF)及び線維芽細胞増殖因子-2(FGF-2)を含む無血清培地等を使用し得る。
【0018】
本発明の神経幹細胞の培養方法において、脱細胞化マトリックスは、培養神経幹細胞に由来する細胞外マトリックスと、前記培養神経幹細胞とを含む細胞培養産物から前記培養神経幹細胞を除去して得られたものであるが、培養神経幹細胞の除去は、公知の脱細胞化処理により行うことができる。ここで、培養神経幹細胞の除去とは、細胞外マトリックスを壊すことなく細胞構成成分を除去することである。
脱細胞化処理としては、例えば、非イオン性界面活性剤及びアルカリ溶液を用いて細胞構成成分を可溶化し、緩衝液等の液体で洗浄することで当該細胞構成成分を除去することが挙げられる。また、細胞構成成分を除去した後、細胞外マトリックスをDNase及びRNaseで処理し、更にその後、アルデヒド等を用いて細胞外マトリックスを安定化(固定化)しても良い。より具体的には、培養神経幹細胞の除去は、培養神経幹細胞に由来する細胞外マトリックスと、前記培養神経幹細胞とを含む細胞培養産物に、Triton X-100及び水酸化アンモニウムを含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を添加し、インキュベートした後、更にDNase及びRNaseを含有するPBSを添加し、インキュベートし、その後、細胞構成成分が可溶化したPBSを除去することで行われ得る。次いで、培養神経幹細胞を除去して得られた細胞外マトリックスに、グルタルアルデヒド含有PBS及びグリシン含有PBSを添加して、細胞外マトリックスを安定化させてもよい。
【0019】
本発明の神経幹細胞の培養方法において培養される神経幹細胞は、特に限定されるものではなく、初代培養細胞、培養細胞株、組換培養細胞株、胚性幹細胞等に由来する細胞であってもよい。培養することのできる細胞の由来について、その種類は特に限定されるものではないが、例えば、哺乳類(ヒト、チンパンジー、サル、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス、ハムスター等)、鳥類(ニワトリ等)が例示される。具体的な例示として、本発明の神経幹細胞の培養方法において培養される神経幹細胞としては、初代培養細胞の他、マウス神経幹細胞株であるMEB5等が挙げられる。
本発明の神経幹細胞の培養方法において培養される神経幹細胞は、細胞外マトリックスを形成するために培養された神経幹細胞と同じ種類のものでも異なる種類のものでもよいが、同じ種類のものであることが好ましい。
本発明の神経幹細胞の培養方法により、未分化状態で、かつ自己複製能と分化能とを維持したまま、神経幹細胞を培養することができる。なお、本明細書において、「未分化状態」で培養するとは、培養後の神経幹細胞のうち未分化のものが全体の約80%以上、約90%以上、約95%以上、約99%以上又は約100%存在することを意味し得る。これは、遺伝子マーカーを検出することで確認できる。また、本明細書において、「自己複製能と分化能とを維持したまま」培養するとは、培養後の神経幹細胞のうち自己複製能と分化能とを維持したものが全体の約80%以上、約90%以上、約95%以上、約99%以上又は約100%存在することを意味し得る。これは、培養後の神経幹細胞を、分化誘導条件下で更に培養することで確認できる。
【0020】
一態様において、例えば、本発明の神経幹細胞の培養方法により、継代を5回繰り返しても、未分化状態で、かつ自己複製能と分化能とを維持した神経幹細胞を得ることができる。
一態様において、例えば、本発明の神経幹細胞の培養方法により、継代を10回繰り返しても、未分化状態で、かつ自己複製能と分化能とを維持した神経幹細胞を得ることができる。
一態様において、例えば、本発明の神経幹細胞の培養方法により、継代を20回繰り返しても、未分化状態で、かつ自己複製能と分化能とを維持した神経幹細胞を得ることができる。
【0021】
本発明の一実施態様は、
脱細胞化細胞外マトリックスの製造方法であって、
ラミニンを含む培養基材上で神経幹細胞を接着培養して、前記神経幹細胞に由来する細胞外マトリックスと、前記神経幹細胞とを含む細胞培養産物を形成する工程、及び
前記細胞培養産物から前記神経幹細胞を除去して、脱細胞化細胞外マトリックスを形成する工程
を含み、前記脱細胞化細胞外マトリックスが、ラミニン、IV型コラーゲン、ニドゲン及びパールカンを含む、前記方法に関する。なお、ラミニンはα3鎖を含み得る。
また、本発明の一実施態様は、当該製造方法により得られる脱細胞化細胞外マトリックス、具体的には、神経幹細胞を分化させずに又は分化させない条件の下で培養し、細胞外マトリックスを形成させることで、当該神経幹細胞と当該神経幹細胞から形成された細胞外マトリックスとが混在した状態で存在することになり、このような神経幹細胞と細胞外マトリックスとを含む細胞培養産物から神経幹細胞を除去することにより得られる脱細胞化細胞外マトリックスに関する。このような脱細胞化細胞外マトリックスは、神経幹細胞の幹細胞ニッチを模倣したものであると言える。しかしながら、脱細胞化細胞外マトリックスの構成成分は極めて多様であり、ラミニン、IV型コラーゲン、ニドゲン及びパールカン以外の成分も含み得ることは当然のことである。そのため、上記製造方法により得られる脱細胞化細胞外マトリックスに関し、その構成成分を部分的に特定できたとしても、全体の構成成分や、全体の構成成分に基づく構造又は特性を特定することは極めて困難であることから、本願出願時において上記製造方法により得られる脱細胞化細胞外マトリックスをその構造又は特性により直接特定することは不可能又は非実際的である。
【0022】
本発明の脱細胞化細胞外マトリックスの製造方法において、ラミニンを含む培養基材上で神経幹細胞を接着培養して、前記神経幹細胞に由来する細胞外マトリックスと、前記神経幹細胞とを含む細胞培養産物を形成する工程は、神経幹細胞の種類に応じて、神経幹細胞を分化させない条件の下で、当業者の技術常識に基づいて適宜行うことができる。当該工程における、ラミニンを含む培養基材上での神経幹細胞の接着培養の培養条件や、使用される培養培地は、それぞれの細胞に適したものであれば特に限定されず、従来公知のものから選択し得るが、培養培地としては、EGF及びbFGF添加RHB-A培地、StemPro(登録商標) NSC SFM、ビタミンA除去B-27サプリメント含有培地等を用いることが好ましい。例えば、温度は、30〜38℃、好ましくは35〜37℃の範囲内、湿度は、70〜100%、好ましくは90〜100%の範囲内、二酸化炭素濃度は、2〜8%、好ましくは4〜6%の範囲内であり得る。また、細胞の播種は、特に限定されないが、1週間程度で十分に培養を行うことを想定した場合には、初期細胞密度が1.5×104〜2.5×104 細胞/cm2となるように行うのが好ましい。さらに培養期間は5日間あるいはそれ以上が好ましい。
本発明の脱細胞化細胞外マトリックスの製造方法において使用されるラミニンを含む培養基材としては、特に、プラスチック基材又はガラス基材等の基材表面をラミニンでコートしたものが好ましい。
【0023】
本発明の脱細胞化細胞外マトリックスの製造方法において、神経幹細胞に由来する細胞外マトリックスと、前記神経幹細胞とを含む細胞培養産物から前記神経幹細胞を除去して、脱細胞化細胞外マトリックスを形成する工程は、公知の脱細胞化処理により行うことができる。ここで、神経幹細胞の除去とは、細胞外マトリックスを壊すことなく細胞構成成分を除去することである。
脱細胞化処理としては、例えば、非イオン性界面活性剤及びアルカリ溶液を用いて細胞構成成分を可溶化し、緩衝液等の液体で洗浄することで当該細胞構成成分を除去することが挙げられる。また、細胞構成成分を除去した後、細胞外マトリックスをDNase及びRNaseで処理し、更にその後、アルデヒド等を用いて細胞外マトリックスを安定化(固定化)しても良い。より具体的には、培養神経幹細胞の除去は、培養神経幹細胞に由来する細胞外マトリックスと、前記培養神経幹細胞とを含む細胞培養産物に、Triton X-100及び水酸化アンモニウムを含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を添加し、インキュベートした後、更にDNase及びRNaseを含有するPBSを添加し、インキュベートし、その後、細胞構成成分が可溶化したPBSを除去することで行われ得る。次いで、培養神経幹細胞を除去して得られた細胞外マトリックスに、グルタルアルデヒド含有PBS及びグリシン含有PBSを添加して、細胞外マトリックスを安定化させてもよい。
【0024】
本発明の脱細胞化細胞外マトリックスの製造方法においては、得られた脱細胞化細胞外マトリックスに、別途、細胞外マトリックスタンパク質や生体分子又は接着分子を添加若しくは吸着させて、又は所定の酵素処理等により脱細胞化細胞外マトリックスから特定の生体分子又は接着分子を取り除くことを行ってもよい。これにより、脱細胞化細胞外マトリックスの性質を改良することも可能である。また、得られた脱細胞化細胞外マトリックスを公知の方法で、例えば、酵素処理、界面活性剤処理等により可溶化することもでき、このように可溶化したものを別の基材に塗布して用いることもできる。
本発明の脱細胞化細胞外マトリックスの製造方法において用いられる神経幹細胞は、特に限定されるものではなく、初代培養細胞、培養細胞株、組換培養細胞株、胚性幹細胞等由来の細胞であってもよい。培養することのできる細胞の由来について、その種類は特に限定されるものではないが、例えば、哺乳類(ヒト、チンパンジー、サル、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス、ハムスターなど)、鳥類(ニワトリなど)などが例示される。具体的な例示として、本発明の脱細胞化細胞外マトリックスの製造方法において用いられる神経幹細胞としては、マウス神経幹細胞株であるMEB5、P19、NG108-15、neuro2a(C1300)、ヒト神経幹細胞株であるSH-SY5Y、NTERA2 cl.D1(NT2/D1)等が挙げられる。
【0025】
本発明の一実施態様は、ラミニン、IV型コラーゲン、ニドゲン及びパールカンを含む脱細胞化細胞外マトリックスを含む、神経幹細胞用培養基材に関する。このような脱細胞化細胞外マトリックスは、神経幹細胞の幹細胞ニッチを模倣したものであると言える。ここで、ラミニンはα3鎖を含み得る。
なお、間葉系幹細胞の幹細胞ニッチには基底膜様構造は観察されないが、神経幹細胞の幹細胞ニッチには基底膜様構造が観察され、幹細胞ニッチを構成する成分は両者で異なっているところ、ラミニン、IV型コラーゲン、ニドゲン及びパールカンは、基底膜様構造を構成するのに必須なタンパク質であることが知られている。
また、本発明の神経幹細胞用培養基材に含まれる脱細胞化細胞外マトリックスは、上記した脱細胞化細胞外マトリックスの製造方法により得られるものであってもよい。
【0026】
本発明の神経幹細胞用培養基材は、別途、細胞外マトリックスタンパク質や生体分子を含み得る。別途、細胞外マトリックスタンパク質や生体分子又は接着分子を含むことで、脱細胞化細胞外マトリックスの性質を改良することも可能である。
本発明の神経幹細胞用培養基材は、ディッシュ、プレート及びフラスコ等の培養容器に付着させ得る。培養容器の材質としては、プラスチック製やガラス製等、公知のものを用い得る。本発明の神経幹細胞用培養基材は、別の基質や接着分子を介して培養容器に付着させてもよい。また、本発明の神経幹細胞用培養基材は、公知の方法で、例えば、酵素処理、界面活性剤処理等により可溶化し、このように可溶化したものを別の基材に塗布して用いることもできる。
本発明の一実施態様において、本発明の神経幹細胞用培養基材を備える、神経幹細胞培養用キットが提供される。当該キットは、本発明の神経幹細胞用培養基材を備える容器とは別の容器に、それぞれ、培養する細胞や、培養培地等を備えることができる。また、当該キットは、使用説明書等や、培養に使用する器具等を備えていてもよい。
【0027】
本発明の一実施態様は、神経幹細胞の幹細胞ニッチを提供するのに十分な、フラクトンを構成する成分を含有する、神経幹細胞由来の脱細胞化細胞外マトリックスに関する。神経幹細胞ニッチを提供するフラクトンを構成する成分には、少なくとも、ラミニン、IV型コラーゲン、ニドゲン及びパールカンが含まれる。なお、ラミニンはα3鎖を含み得る。
ここで、脱細胞化細胞外マトリックスが、神経幹細胞の幹細胞ニッチを提供するのに十分な、フラクトンを構成する成分を含有するか否かは、神経幹細胞を、当該脱細胞化細胞外マトリックス上で、未分化状態のまま、分化能等の幹細胞性を維持したまま培養できるかを試験することにより判別し得る。例えば、神経幹細胞を、特殊な培養液(例えば、EGF及びbFGF添加RHB-A培地、StemPro(登録商標) NSC SFM、ビタミンA除去B-27サプリメント含有培地)を用いずに、脱細胞化細胞外マトリックス上で、未分化状態のまま、分化能等の幹細胞性を維持したまま培養できるのであれば、その脱細胞化細胞外マトリックスは、神経幹細胞の幹細胞ニッチを提供するのに十分な、フラクトンを構成する成分を含有するものである。
神経幹細胞は、特に限定されるものではなく、初代培養細胞、培養細胞株、組換培養細胞株、胚性幹細胞等由来の細胞であってもよい。例えば、神経幹細胞としては、マウス神経幹細胞株であるMEB5、P19、NG108-15、neuro2a(C1300)、ヒト神経幹細胞株であるSH-SY5Y、NTERA2 cl.D1(NT2/D1)等が挙げられる。
神経幹細胞の幹細胞ニッチを提供するのに十分な、フラクトンを構成する成分を含有する、神経幹細胞由来の脱細胞化細胞外マトリックスは、上記した本発明の脱細胞化細胞外マトリックスの製造方法により得られるものであってもよい。
【実施例】
【0028】
以下において、本発明について、具体的な実施例を参照しながら更に詳細に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
脱細胞化細胞外マトリックスの作製
1.神経幹細胞の培養
マウス神経幹細胞株であるMEB5を、プラスチック基材表面をラミニン-111でコートした培養基板(以下、「ラミニン基板」と言う。)上に初期細胞密度が2×104 細胞/cm2となるよう播種し、タカラバイオ株式会社製のRHB-A(登録商標)にEGF及びFGF-2をそれぞれ10 μg/mL添加したものを培養液として用いて、37℃、二酸化炭素濃度5%の条件下で5日間培養した。培養後の様子を撮影したものを図1に示す。
また、培養基板をラミニン基板からプラスチック培養基板(組織培養用ポリスチレン(TCPS)プレート)に替えた以外は同様にして、MEB5を5日間培養した。培養後の様子を撮影したものを図2に示す。
ラミニン基板を用いた場合には、図1に示されるとおり、極めて良好にMEB5を培養することができ、ラミニン基板は基板表面に細胞外マトリックスを形成させるのに適していることがわかった。一方、TCPSプレートを用いた場合には、図2に示されるとおり、細胞が浮遊、凝集してしまい、上記の培養条件では細胞外マトリックスを形成させるのに適した十分な培養を行うことはできなかった。
【0030】
2.分化誘導の有無の確認
(1)RNA抽出
培養期間を1週間に変更した以外は上記1.のとおりラミニン基板上でMEB5を培養した後、培地を捨て、Sepasol(登録商標)RNA I Super G(ナカライテスク株式会社)を1 mL滴下することで培養細胞を回収した。回収した細胞溶液にクロロホルム200 μLを加え、12,000×g、15分の条件で遠心分離を行い、RNAの含まれる水相とフェノール相とに分離した。分離した溶液から水相のみを取り出し、イソプロパノール(和光純薬工業株式会社、カタログ番号325-00045)を500 μL加えた後に12,000×gで10分間遠心分離することでRNAを沈殿させた。上清を捨て、残ったRNAに70 v/v%のエタノール(和光純薬工業株式会社、カタログ番号057-00456)を1 mL滴下することで洗浄した。12,000×gで5分間遠心分離したのち、エタノールを捨て、10 μLのDEPC処理水(ナカライテスク株式会社、カタログ番号36415-41)にRNAを溶解させることで、細胞からRNAを抽出した。
(2)cDNA合成
ナノドロップ2000c(サーモサイエンティフィック)を用いて、260、280及び320 nmの波長のRNA溶液の吸光度を測定し、260 nmの波長の吸光度をもとにRNAの濃度を計算した。RNAの濃度から、次に行う逆転写反応に必要なRNA量を計算し、テンプレートとなるRNAを1 μg用いて、ランダムヘキサマーをプライマーとした逆転写キット(ReverTra Ace-α-(登録商標)、東洋紡株式会社、カタログ番号FSK-101)と混合した。RNAと前記逆転写キットとの混合溶液をサーマルサイクラー(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社、T100(商標)、カタログ番号186-1096J1)にセットし、逆転写反応を行うことによって、サンプルのcDNAを合成した。
(3)半定量PCR
各cDNAサンプルを20倍以上に希釈した溶液を用いて、半定量PCRを実施した。各サンプルあたり、希釈cDNAサンプルを3 μL、下表1に示すプライマー溶液(2 μM)を5 μL、10×NH4 Reaction Bufferを1.25 μL、50 mM 塩化マグネシウム溶液を1 μL、10 mM dNTP Mixを0.25 μL、BIOTAQ DNA Polymerase 0.2 μL(以上、BIOTAQ DNA Polymeraseキット、BIOLINE社)を混合し、半定量PCRを実施した。PCR終了後、1%アガロースゲル電気泳動を行い、PCR産物を検出した。結果を図3に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
また、MEB5を、以下のとおり培養したもの(ニューロスフェア培養サンプル及び分化誘導培養サンプル)についても、上記(1)〜(3)同様にRNA抽出、cDNA合成及び半定量PCRを行い、PCR産物を検出した。結果を図3に示す。
上記1.のとおりMEB5を培養した接着培養サンプルと、ニューロスフェア培養サンプルについては、ニューロン分化マーカー遺伝子もアストロサイト分化マーカー遺伝子も検出されず、分化誘導されていないことが確認できた。一方、分化誘導培養サンプルについては、ニューロン分化マーカー遺伝子及びアストロサイト分化マーカー遺伝子が検出され、分化誘導されたことが確認できた。
・ニューロスフェア培養サンプル
トリプシンにより単細胞となるように分散させた細胞を、6ウェル プラスチックマイクロプレート(IWAKI社)に、2×104 細胞/cm2となるように播種し、10 ng/mL EGF、5 μg/mLインスリン、50 μg/mL ホロトランスフェリン、10 ng/mL ビオチン、30 nM 亜セレン酸ナトリウムを含むDMEM培地(Life Technologies社)中で4日間培養した。
・分化誘導培養サンプル
トリプシンにより単細胞となるように分散させた細胞を、ラミニンをコートした6ウェル プラスチックマイクロプレート(IWAKI社)に、10×104 細胞/cm2となるように播種し、5 μg/mLインスリン、50 μg/mL ホロトランスフェリン、10 ng/mL ビオチン、30 nM 亜セレン酸ナトリウムを含むDMEM培地(Life Technologies社)中で3日間培養した。
【0033】
3.脱細胞化処理
培養期間を1週間に変更した以外は上記1.のとおりMEB5を培養したラミニン基板から培養液を吸引して除去した後、ラミニン基板をPBSで2回洗浄した。洗浄後のラミニン基板には、MEB5に由来する細胞外マトリックスとMEB5とが混在した状態で存在しているため、このような細胞培養産物からMEB5を除去するために以下のとおり処理を行った。
(1)ラミニン基板上に、0.5% Triton X-100(Alfa Aesar社)及び20 mM NH4OH(和光純薬工業株式会社)を含有するPBSを添加して、37℃で5分間インキュベートした。
(2)(1)で添加したPBSを吸引して除去した後、PBSで2回洗浄した。
(3)100 μg/mL DNase I(Roche Diagnostics社)及び100 μg/mL RNase A(ナカライテスク株式会社)を含有するPBSを添加して、37℃で1時間インキュベートした。
(4)(3)で添加したPBSを吸引して除去した後、PBSで2回洗浄した。
(5)0.1%グルタルアルデヒド(和光純薬工業株式会社)を含有するPBSを添加して、4℃で6時間インキュベートした。
(6)(5)で添加したPBSを吸引して除去した後、PBSで1回洗浄した。
(7)0.1 M グリシン(和光純薬工業株式会社)を含有するPBSを添加して、4℃で3時間以上インキュベートした。
(8)(7)で添加したPBSを吸引して除去した後、PBSで1回洗浄した。
(9)使用までPBS中で-80℃にて凍結し、保存した。
【0034】
4.脱細胞化の確認
上記3.のとおり脱細胞化処理を行って細胞外マトリックスが形成されたラミニン基板(脱細胞化後のサンプル)において、以下のとおり処理を行った。
(1)1% Triton X-100(Alfa Aesar社)を含有するPBSを添加して、室温で2分間処理した。
(2)(1)で添加したPBSを吸引して除去した後、PBSで2回洗浄した。
(3)0.2 unit/mL Alexa Fluor 488 ファロイジンコンジュゲート(Life Technologies社)を含有するPBSを添加して、暗所にて室温で1時間インキュベートした。これによって細胞質タンパク質であるアクチンフィラメントを染色した。
(4)(3)で添加したPBSを吸引して除去した後、PBSで2回洗浄した。
(5)10 μg/mL Hoechst 33258(同仁化学研究所)を含有するPBSを添加して、暗所にて室温で5分間インキュベートした。これによって細胞核を染色した。
(6)(5)で添加したPBSを吸引して除去した後、PBSで2回洗浄した。
【0035】
また、脱細胞化前のサンプルとして、培養期間を1週間に変更した以外は上記1.のとおりMEB5を培養したラミニン基板から培養液を吸引して除去した後、ラミニン基板をPBSで2回洗浄し、0.1%グルタルアルデヒド(和光純薬工業株式会社)を含有するPBSを添加後4℃で6時間インキュベートし、更に0.1 M グリシン(和光純薬工業株式会社)を含有するPBSを添加後4℃で3時間インキュベートして得たものを準備した。この脱細胞化前のサンプルについて、上記3.(1)〜(6)の操作を行った。
脱細胞化前のサンプル及び脱細胞化後のサンプルについて上記のとおり処理を行った後、蛍光顕微鏡で観察を行った。脱細胞化前のサンプルについての蛍光顕微鏡写真を図4に、脱細胞化後のサンプルについての蛍光顕微鏡写真を図5に示す。
脱細胞化前のサンプルについては、アクチンフィラメントが緑色に染色されただけでなく、細胞核が青色に染色されていた。一方、脱細胞化後のサンプルについては、アクチンフィラメントが緑色に染色されただけで、青色に染色された部分は観察されなかったことから、脱細胞化処理が適切に行われたことが確認された。
【0036】
(実施例2)
脱細胞化細胞外マトリックスの組成検討
(1)遺伝子レベルでの組成検討
上記実施例1の2.(1)〜(3)に記載の方法のとおり、但し、2.(3)において表1に示すプライマーに代えて下表2に示すプライマーを用いて、PCR産物を検出した。ここでは、フィブロネクチン、I型コラーゲン(α1鎖)、ラミニンα5、ラミニンα1、ラミニンα2、ラミニンα3、ラミニンα4、ニドゲン、IV型コラーゲン(α1鎖)及びHspg2(パールカン)について検出を行った。また、上記実施例1の2.に記載のとおり得たニューロスフェア培養サンプル及び分化誘導培養サンプルについても同様にPCR産物の検出を行った。結果を図6に示す。
この結果より、作製した脱細胞化細胞外マトリックスは、少なくとも、ラミニン(α3鎖)、IV型コラーゲン、ニドゲン及びパールカンを含むものであると考えられる。神経幹細胞のための幹細胞ニッチは、側脳室の上衣層に存在するフラクトンと呼ばれる特異的な細胞外マトリックス構造を有する基底膜様構造に囲まれた環境であり、主に、ラミニン、IV型コラーゲン、ニドゲン及びパールカン等のタンパク質を含むと考えられている。そのため、作製した脱細胞化細胞外マトリックスは、神経幹細胞のための幹細胞ニッチを模倣したものであると言える。
なお、ニューロスフェア培養サンプルについては、ラミニン基板上で接着培養した場合と同様の結果が得られた。
一方で、分化誘導培養サンプルについては、ラミニン(α3鎖)は検出できなかった。これは、分化誘導培養サンプルに由来する細胞外マトリックスは、上記のとおり作製した脱細胞化細胞外マトリックスとは組成が異なることを示唆している。
【0037】
【表2】
【0038】
(2)タンパク質レベルでの組成検討
96ウェルマイクロウェルプレートにて、上記3のとおり脱細胞化処理を行って作製した脱細胞化マトリックスに、ブロッキングワン(ナカライテスク株式会社)を100 μL/ウェル添加し、室温で30分間インキュベートした。その後、PBSで2回洗浄した後、抗フィブロネクチン抗体(ベクトンディッキンソン社)あるいは抗ラミニンα3鎖抗体(SantaCruz社)を含むCan Get Signal(東洋紡)を50 μL/ウェル添加し、37℃で2時間反応させた。反応後、PBSで3回洗浄し、さらに対応するペルオキシダーゼ結合2次抗体と37℃で1時間、反応させた。反応終了後、3,3’-ジアミノベンジジン(DAKO社)で15分間反応後、ミリQ水で洗浄し、乾燥させた。乾燥後、イメージスキャナーでデータの取り込みを行った。結果を図7に示す。
図7に示される9つのウェル中、左上4つのウェルにて茶色の発色が観察され、タンパク質の存在が確認できた。この結果より、作製した脱細胞化細胞外マトリックスは、少なくとも、フィブロネクチン及びラミニンα3鎖を含むことが確認できた。
【0039】
(実施例3)
脱細胞化細胞外マトリックス上での神経幹細胞の培養
マウス神経幹細胞株であるMEB5を、作製した脱細胞化細胞外マトリックス上に初期細胞密度が1×104 細胞/cm2となるよう播種し、タカラバイオ株式会社製のDMEMにEGFを10 μg/mL添加したものを培養液として用いて、37℃、二酸化炭素濃度5%の条件下で3日間培養した。細胞数を、培養1日目、2日目、及び3日目において、それぞれWST-8法を用いて算出した。その結果を図8に示す。
また、培養基板を、作製した脱細胞化細胞外マトリックスから単なるラミニン基板に替えた以外は同様にして、MEB5を3日間培養した。同様に、細胞数を、培養1日目、2日目、及び3日目において、それぞれWST-8法を用いて算出した。その結果を図8に示す。
作製した脱細胞化細胞外マトリックスを使用した場合、ラミニン基板を使用した場合とほぼ同等の細胞増殖性が見られ、作製した脱細胞化細胞外マトリックスは、神経幹細胞の培養のために使用するのに十分適したものであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明における、脱細胞化処理及びそれにより得られた細胞外マトリックス(ECM)の利用に関する概念図を図9に示す。脱細胞化細胞外マトリックスは、神経幹細胞の幹細胞ニッチを模倣したものであると言えることから、神経幹細胞を脱細胞化細胞外マトリックス上で接着培養することにより、神経幹細胞を、未分化状態のまま、分化能等の幹細胞性を維持したまま培養することが可能である。
本発明によれば、神経幹細胞を、生体外で、未分化状態のまま、分化能等の幹細胞性を維持したまま増殖させ、培養する方法を提供することができる。また、そのような培養のための神経幹細胞用培養基材又はその材料を提供することができる。よって、本発明の培養方法及び培養基材等は、再生医療等への応用が期待できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]