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特開2019-132154エンジンの制御方法及びエンジンの制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-132154(P2019-132154A)
(43)【公開日】2019年8月8日
(54)【発明の名称】エンジンの制御方法及びエンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/14 20060101AFI20190712BHJP
   F02D 41/32 20060101ALI20190712BHJP
   F02D 41/34 20060101ALI20190712BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20190712BHJP
   F02M 26/03 20160101ALI20190712BHJP
   F02P 5/15 20060101ALI20190712BHJP
【FI】
   F02D41/14 310D
   F02D41/32 B
   F02D41/34 E
   F02D43/00 301J
   F02D43/00 301H
   F02M26/03
   F02D43/00 301B
   F02P5/15 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2018-13277(P2018-13277)
(22)【出願日】2018年1月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】人見 光夫
(72)【発明者】
【氏名】中井 英二
(72)【発明者】
【氏名】山口 直宏
(72)【発明者】
【氏名】森本 博貴
【テーマコード(参考)】
3G022
3G062
3G301
3G384
【Fターム(参考)】
3G022AA01
3G022AA03
3G022AA05
3G022AA06
3G022AA10
3G022CA06
3G022CA07
3G022CA08
3G022CA09
3G022DA01
3G022EA01
3G022EA02
3G022GA01
3G022GA06
3G022GA07
3G022GA08
3G022GA09
3G022GA15
3G062AA05
3G062BA04
3G062BA08
3G062GA01
3G062GA02
3G062GA08
3G062GA09
3G062GA12
3G062GA14
3G062GA15
3G301HA04
3G301JA02
3G301LB04
3G301MA01
3G301MA11
3G301ND01
3G301PA01Z
3G301PA07Z
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3G301PE03Z
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3G301PF03Z
3G384AA01
3G384AA06
3G384BA09
3G384BA13
3G384BA24
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3G384FA29Z
3G384FA37Z
3G384FA40Z
3G384FA45Z
3G384FA58Z
3G384FA61Z
3G384FA86Z
(57)【要約】
【課題】エンジンの熱効率を向上させる。
【解決手段】エンジン1の制御方法は、燃焼室17内に配設された点火部(点火プラグ25)が燃焼室内に火種を作成するタイミングにおいて、少なくとも点火部の周囲に、A/F、又は、G/Fが理論空燃比よりもリーンな混合気を形成するように、燃料供給部(インジェクタ6)が燃焼室内に燃料を供給する第一燃料供給ステップ(6041)と、第一燃料供給ステップの後、圧縮行程において、点火部が燃焼室内に火種を作成する点火ステップ(6042)と、点火ステップの後、圧縮行程において、燃焼室内の混合気の燃料濃度が濃くなるよう燃料供給部が燃焼室内に燃料を供給する第二燃料供給ステップ(6043)と、を備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室内において、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、及び、排気行程を含むサイクルを実行するエンジンの制御方法であって、
点火部が前記燃焼室内に火種を作成するタイミングにおいて、少なくとも前記点火部の周囲に、空気と燃料との質量比であるA/F、又は、空気を含むガスと燃料との質量比であるG/Fが理論空燃比よりもリーンな混合気を形成するように、燃料供給部が前記燃焼室内に燃料を供給する第一燃料供給ステップと、
前記第一燃料供給ステップの後、圧縮行程において、前記点火部が前記燃焼室内に前記火種を作成する点火ステップと、
前記点火ステップの後、圧縮行程において、前記燃焼室内の混合気の燃料濃度が濃くなるよう前記燃料供給部が前記燃焼室内に燃料を供給する第二燃料供給ステップと、
を備えているエンジンの制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンの制御方法において、
前記点火部は、前記圧縮行程の期間を、前期、中前期、中後期、及び後期に四等分したときの、中後期又は中後期よりも前のタイミングで、前記火種を作成するエンジンの制御方法。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジンの制御方法において、
前記点火部は、前記圧縮行程の期間を、初期、中期、及び終期に三等分したときの、中期において、前記火種を作成するエンジンの制御方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のエンジンの制御方法において、
前記燃料供給部は、前記第二燃料供給ステップにおいて、前記燃焼室内の混合気のA/F又はG/Fが、理論空燃比、又は、理論空燃比よりもリッチになるよう、前記燃焼室内に燃料を供給するエンジンの制御方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のエンジンの制御方法において、
前記エンジンの幾何学的圧縮比は、14以上であるエンジンの制御方法。
【請求項6】
吸気行程、圧縮行程、膨張行程、及び、排気行程を含むサイクルを実行する燃焼室と、
前記燃焼室に配置された点火部と、
前記燃焼室内に燃料を供給する燃料供給部と、を備え、
前記燃料供給部は、前記点火部が前記燃焼室内に火種を作成するタイミングにおいて、少なくとも前記点火部の周囲に、空気と燃料との質量比であるA/F、又は、空気を含むガスと燃料との質量比であるG/Fが理論空燃比よりもリーンな混合気が形成されるように、前記燃焼室内に前記燃料を供給し、
前記点火部は、圧縮行程の所定のタイミングにおいて、前記燃焼室内に火種を作成し、
前記燃料供給部はまた、前記点火部が前記火種を作成した後、前記燃焼室内の混合気の燃料濃度が濃くなるよう前記燃焼室内に燃料を供給するエンジンの制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載のエンジンの制御装置において、
前記点火部は、前記圧縮行程の期間を、前期、中前期、中後期、及び後期に四等分したときの、中後期又は中後期よりも前のタイミングで、前記火種を作成するエンジンの制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載のエンジンの制御装置において、
前記点火部は、前記圧縮行程の期間を、初期、中期、及び終期に三等分したときの、中期において、前記火種を作成するエンジンの制御装置。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に記載のエンジンの制御装置において、
前記燃料供給部は、前記点火部が前記火種を作成した後、前記燃焼室内の混合気のA/F又はG/Fが、理論空燃比、又は、理論空燃比よりもリッチになるよう、前記燃焼室内に燃料を供給するエンジンの制御装置。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか1項に記載のエンジンの制御装置において、
前記エンジンの幾何学的圧縮比は、14以上であるエンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、エンジンの制御方法及びエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高負荷領域において、燃料室内の混合気を圧縮着火により燃焼させるエンジンが開示されている。このエンジンでは、高負荷かつ高回転の領域において、それぞれ圧縮着火燃焼用の混合気を形成する前段噴射と後段噴射との間の圧縮行程の後期に、着火アシストのための少量の燃料噴射を行い、点火プラグの付近にリッチな混合気を形成する。そして、点火プラグがリッチな混合気に点火を行って火炎を形成することにより、前段噴射によって形成された混合気が圧縮上死点付近において圧縮着火すると共に、その圧縮着火と同時に行われる後段噴射によって形成された混合気も、その後に圧縮着火する。
【0003】
特許文献2には、エンジン回転数が2000rpm程度の低回転の運転状態において、圧縮行程中に第1燃料噴射と、第1燃料噴射後の火花点火とを行うことにより、スプレーガイド燃焼を行うと共に、第1燃料噴射から所定のインターバルが経過した圧縮上死点前の時期に第2燃料噴射を行い、第2燃料噴射の一部を自着火により燃焼させかつ、残りを拡散燃焼させるエンジンが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許5447435号公報
【特許文献2】特開2016−89747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、熱効率の向上を主目的として幾何学的圧縮比を高くしたエンジンにおいては、点火部が、燃焼室内の混合気に火花点火を行って、混合気を火炎伝播により燃焼させると、ノッキングを含む異常燃焼が発生してしまう場合がある。異常燃焼の発生を回避するために、例えば火花点火のタイミングを遅らせると、燃焼期間が長くなると共に、燃焼重心が圧縮上死点から大きく離れてしまうため、エンジンの熱効率が低下してしまう。
【0006】
ここに開示する技術は、エンジンの熱効率を向上させる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、混合気が燃料リーンである、及び/又は、燃焼室内の流動が強い、ことによって火炎伝播による燃焼が進行しない、いわゆるブロークンリアクションゾーン(broken reaction zone)を利用することに着目をした。燃焼室内の状態がブロークンリアクションゾーンにあるときに、混合気を火炎伝播により燃焼させようとしても失火してしまうため、従来のエンジン制御においては、燃焼室内の状態がブロークンリアクションゾーンにあるときに混合気に火花点火をすることは避けていた。
【0008】
ところが、混合気を微視的に見ると、ブロークンリアクションゾーンにおいて点火部が混合気に点火をしたときには火種がなくなるのではなく、火炎伝播できない状態で火種が保存されているという新たな知見を、本願発明者らは得ることができた。そして、燃焼室内の状態がブロークンリアクションゾーンから外れると、保存されている火種によって、混合気が一斉に燃焼を開始することを、本願発明者らが見出したことによって、ここに開示する、新しい燃焼形態に係る技術を完成するに至った。
【0009】
具体的に、ここに開示する技術は、燃焼室内において、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、及び、排気行程を含むサイクルを実行するエンジンの制御方法に係る。このエンジンの制御方法は、点火部が前記燃焼室内に火種を作成するタイミングにおいて、少なくとも前記点火部の周囲に、空気と燃料との質量比であるA/F、又は、空気を含むガスと燃料との質量比であるG/Fが理論空燃比よりもリーンな混合気を形成するように、燃料供給部が前記燃焼室内に燃料を供給する第一燃料供給ステップと、前記第一燃料供給ステップの後、圧縮行程において、前記点火部が前記燃焼室内に前記火種を作成する点火ステップと、前記点火ステップの後、圧縮行程において、前記燃焼室内の混合気の燃料濃度が濃くなるよう前記燃料供給部が前記燃焼室内に燃料を供給する第二燃料供給ステップと、を備えている。
【0010】
この構成によると、第一燃料供給ステップは、燃焼室内に燃料を供給することにより、燃焼室内に混合気を形成する。このときに形成する混合気は、少なくとも点火部の近傍において、A/F又はG/Fが理論空燃比よりもリーンな混合気である。燃焼室内の全体又はほぼ全体に、均質なリーン混合気を形成してもよいし、点火部の近傍に、局所的に、リーンな混合気を形成してもよい。また、第一燃料供給ステップでは、後述する点火ステップよりも前に、燃焼室内に燃料を供給すればよい。例えば燃料供給部が、燃焼室内に燃料を直接噴射する構成であれば、吸気行程から圧縮行程の初期までの期間に、燃焼室内に燃料を噴射してもよい。そうすることで、点火ステップよりも前に、燃焼室内に燃料を供給することが可能になる。尚、「圧縮行程の初期」は、圧縮行程を初期、中期、後期に三等分したときの初期としてもよい。また、例えば燃料供給部が、燃焼室につながる吸気ポート内(及び燃焼室内)に燃料を噴射する構成であれば、吸気行程以前(排気行程も含む)に、吸気ポート内に燃料を噴射してもよい。そうすることによって、吸気行程の期間内に、吸気と共に燃料を燃焼室内に導入することが可能になり、点火ステップよりも前に、燃焼室内に燃料を供給することが可能になる。
【0011】
第一燃料供給ステップの後の圧縮行程に点火ステップを実行する。点火ステップは、点火部が燃焼室内に火種を作成する。点火部は、例えば電極間において火花放電を発生させる点火プラグとしてもよい。また、点火部は、例えばアーク放電やプラズマ放電を発生させるよう構成してもよい。点火部が混合気にエネルギーを付与することによって、燃焼室内に火種を形成することができる。第一燃料供給ステップにおいて形成した混合気がリーンであるため、点火ステップにおいて火種を作成しても、火炎伝播による燃焼を進行させずに、火種のままで保持することができる。つまり、点火ステップは、燃焼室の状態がブロークンリアクションゾーンにあるときに行う。火種は、燃焼室内の流動によって、燃焼室内に分散又は拡散する。
【0012】
ここで、点火ステップにおいて、点火部は、複数回の放電を行うようにしてもよい。そうすることによって、燃焼室内に作成する火種の数を増やすことができると共に、燃焼室内の流動によって、作成した火種を燃焼室内に拡散させることができる。
【0013】
点火ステップの後、圧縮行程において、第二燃料供給ステップを行う。燃料供給部は、燃焼室内に燃料を供給することにより、混合気の燃料濃度を濃くする。燃料供給部は、燃焼室内に燃料を直接噴射するよう構成してもよい。尚、第一燃料供給ステップにおいて燃料を供給する燃料供給部と、第二燃料供給ステップにおいて燃料を供給する燃料供給部とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0014】
混合気の燃料濃度を濃くすることによって、燃焼室内の状態がブロークンリアクションゾーンから外れる。また、モータリングにより、圧縮行程の終期には、燃焼室内の温度及び圧力が高くなる。点火ステップにおいて作成されかつ、燃焼室内に保存されていた火種によって、圧縮行程の後期又は膨張行程に、混合気の燃焼が開始する。より詳細に、混合気は、圧縮上死点付近において、自着火により、一斉に燃焼を開始する。この燃焼の燃焼重心は、圧縮上死点に近くなるため、エンジンの熱効率が向上する。また、燃料を追加供給するタイミング、及び/又は、追加供給する燃料量を調整すれば、混合気の燃焼開始のタイミングを調整することが可能になる。
【0015】
この燃焼形態ではまた、燃焼期間が短くなるため、ノッキングの発生を抑制することができる。また、第一燃料供給ステップにおいては、リーン混合気を形成するため、比較的早い時期に燃焼室内に混合気を形成するものの、過早着火を防止することができる。
【0016】
前記点火部は、前記圧縮行程の期間を、前期、中前期、中後期、及び後期に四等分したときの、中後期又は中後期よりも前のタイミングで、前記火種を作成する、としてもよい。
【0017】
吸気行程の期間に吸気ポートを通じて吸気が燃焼室内に導入することにより生成される燃焼室内の吸気流動は、吸気下死点付近において一旦減衰をするが、ピストンが上死点に向かって移動する圧縮行程の初期から中期にかけて期間に、いわゆるスピンアップ現象によって、燃焼室内の流動が次第に強くなり、その後、燃焼室内の流動は、圧縮行程の終期にかけて次第に弱くなる。点火部が、中後期又は中後期よりも前のタイミングで火種を作成すると、燃焼室内の流動が強いから、燃焼室内の状態がブロークンリアクションゾーンにあるときに燃焼室内に火種を作成することができる。
【0018】
前記点火部は、前記圧縮行程の期間を、初期、中期、及び終期に三等分したときの、中期において、前記火種を作成する、としてもよい。
【0019】
圧縮行程の期間における燃焼室内の流動は、圧縮行程の中期において最も高くなる。点火部が火種を作成するタイミングが早すぎても遅すぎても、火炎伝播をさせずに火種を保存することができなくなる。よって、点火部は、圧縮行程の中期において、燃焼室内に火種を作成してもよい。
【0020】
前記燃料供給部は、前記第二燃料供給ステップにおいて、前記燃焼室内の混合気のA/F又はG/Fが、理論空燃比、又は、理論空燃比よりもリッチになるよう、前記燃焼室内に燃料を供給する、としてもよい。
【0021】
こうすることで、燃焼室内の状態がブロークンリアクションゾーンを外れるようになり、燃焼室内の混合気の燃焼を開始させることが可能になる。また、燃焼室内の混合気のA/F又はG/Fを理論空燃比又は略理論空燃比にすれば、三元触媒を利用して排気ガスを浄化することができる。
【0022】
前記エンジンの幾何学的圧縮比は、14以上である、としてもよい。ここに開示するエンジンの制御方法によって、高圧縮比エンジンにおいて異常燃焼を回避しながら、熱効率を向上させることが可能になる。
【0023】
ここに開示する技術はまた、エンジンの制御装置に係る。このエンジンの制御装置は、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、及び、排気行程を含むサイクルを実行する燃焼室と、前記燃焼室に配置された点火部と、前記燃焼室内に燃料を供給する燃料供給部と、を備え、前記燃料供給部は、前記点火部が前記燃焼室内に火種を作成するタイミングにおいて、少なくとも前記点火部の周囲に、空気と燃料との質量比であるA/F、又は、空気を含むガスと燃料との質量比であるG/Fが理論空燃比よりもリーンな混合気が形成されるように、前記燃焼室内に前記燃料を供給し、前記点火部は、圧縮行程の所定のタイミングにおいて、前記燃焼室内に火種を作成し、前記燃料供給部はまた、前記点火部が前記火種を作成した後、前記燃焼室内の混合気の燃料濃度が濃くなるよう前記燃焼室内に燃料を供給する。
【0024】
前記点火部は、前記圧縮行程の期間を、前期、中前期、中後期、及び後期に四等分したときの、中後期又は中後期よりも前のタイミングで、前記火種を作成する、としてもよい。
【0025】
前記点火部は、前記圧縮行程の期間を、初期、中期、及び終期に三等分したときの、中期において、前記火種を作成する、としてもよい。
【0026】
前記燃料供給部は、前記点火部が前記火種を作成した後、前記燃焼室内の混合気のA/F又はG/Fが、理論空燃比、又は、理論空燃比よりもリッチになるよう、前記燃焼室内に燃料を供給する、としてもよい。
【0027】
前記エンジンの幾何学的圧縮比は、14以上である、としてもよい。
【発明の効果】
【0028】
前記のエンジンの制御方法及び制御装置によると、エンジンの熱効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、エンジンシステムの構成を例示する図である。
図2図2は、燃焼室の構成を例示する図である。
図3図3は、燃焼室及び吸気系の構成を例示する平面図である。
図4図4は、エンジンの制御装置の構成を例示するブロック図である。
図5図5は、図1に示すエンジンの運転領域マップを例示する図である。
図6図6は、各運転状態における燃料噴射時期及び点火時期と燃焼波形とを例示する図である。
図7図7は、スワール比測定のためのリグ試験装置を例示する図である。
図8図8は、セカンダリ通路の開口比率とスワール比との関係を例示する図である。
図9図9は、吸気行程から圧縮行程にかけての燃焼室内の流動強さの変化を例示する図である。
図10図10の上図は、エンジンの回転数に対する点火時期の変化の一例を示す図であり、図10の下図は、エンジンの回転数に対する第二噴射開始時期の変化の一例を示す図である。
図11図11は、燃料噴射と点火時期との制御に係るフローチャートである。
図12図12は、図1とは異なるエンジンシステムの構成を例示する図である。
図13図13は、図12に示すエンジンの運転領域マップを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、エンジンの制御装置及び制御方法の例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、エンジン1を有するエンジンシステムの構成を例示する図である。図2は、燃焼室17の構成を例示する図である。この図2において、上図は燃焼室17の平面視相当図であり、下図は上図のII−II線における断面図である。図3は、燃焼室17及び吸気系の構成を例示する図である。図4は、エンジンの制御装置の構成を例示するブロック図である。なお、図1において、吸気側は紙面左側であり、排気側は紙面右側である。また、図2及び図3において、吸気側は紙面右側であり、排気側は紙面左側である。
【0031】
エンジン1は、燃焼室17内において、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程を含むサイクルを繰り返すことにより運転する4ストロークエンジンである。エンジン1は、四輪の自動車に搭載される。自動車は、エンジン1が運転することによって走行する。エンジン1の燃料は、この構成例においてはガソリンである。燃料は、バイオエタノール等を含むガソリンであってもよい。エンジン1の燃料は、少なくともガソリンを含む液体燃料であれば、どのような燃料であってもよい。
【0032】
〈エンジンの構成〉
エンジン1は、多気筒エンジンである。このエンジン1は、図1に示すように、燃焼室17を有するエンジン本体2を備える。エンジン本体2は、シリンダブロック12と、シリンダブロック12の上に載置されるシリンダヘッド13とを備えている。シリンダブロック12の内部には、複数のシリンダ11が形成されている。図1及び図2では、一つのシリンダ11のみを示す。
【0033】
各シリンダ11内には、ピストン3が摺動自在に内挿されている。ピストン3は、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15に連結されている。ピストン3は、シリンダ11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画する。ここで、「燃焼室」は、ピストン3が圧縮上死点に至ったときの空間の意味に限定されない。「燃焼室」の語は広義で用いる場合がある。つまり、「燃焼室」は、ピストン3の位置に関わらず、ピストン3、シリンダ11及びシリンダヘッド13によって形成される空間を意味する場合がある。「燃焼室内」と「気筒内」とは、ほぼ同じ意味で用いる場合がある。
【0034】
シリンダヘッド13の下面、つまり燃焼室17の天井面は、図2の下図に示すように、傾斜面1311と傾斜面1312とによって構成されている。傾斜面1311は、吸気側から後述するインジェクタ6の噴射軸心X2に向かって上り勾配となっている。他方、傾斜面1312は、排気側から噴射軸心X2に向かって上り勾配となっている。燃焼室17の天井面は、いわゆるペントルーフ形状である。
【0035】
ピストン3の上面は、燃焼室17の天井面に向かって隆起している。ピストン3の上面には、キャビティ31が形成されている。キャビティ31は、ピストン3の上面から凹陥している。キャビティ31は、後述するインジェクタ6と向かい合う。キャビティ31の中心は、シリンダ11の中心軸X1に対して排気側にずれており、インジェクタ6の噴射軸心X2と一致している。
【0036】
キャビティ31は、凸部311を有している。凸部311は、インジェクタ6の噴射軸心X2上に設けられている。この凸部311は、略円錐形状とされており、キャビティ31の底部から燃焼室17の天井面に向かって上向きに延びている。キャビティ31は、インジェクタ6の噴射軸心X2に対して対称な形状を有している。
【0037】
キャビティ31はまた、凸部311の周囲に設けられた凹陥部312を有している。凹陥部312は、凸部311の全周を囲むように設けられている。凹陥部312の周側面は、キャビティ31の底面からキャビティ31の開口に向かって噴射軸心X2に対し傾いている。凹陥部312におけるキャビティ31の内径は、キャビティ31の底部からキャビティ31の開口に向かって次第に拡大している。
【0038】
なお、燃焼室17の形状は、図2に例示する形状に限定されるものではない。すなわち、キャビティ31の形状、ピストン3の上面の形状、及び燃焼室17の天井面の形状などは、適宜変更することが可能である。例えば、キャビティ31は、シリンダ11の中心軸X1に対して対称な形状にしてもよい。傾斜面1311と傾斜面1312とは、シリンダ11の中心軸X1に対して対称な形状にしてもよい。また、キャビティ31において、後述する点火プラグ25に向かい合う箇所に、凹陥部312よりも底の浅い浅底部を設けてもよい。
【0039】
エンジン1の幾何学的圧縮比は、14以上且つ30以下に設定されている。後述するように、エンジン1は、一部の運転領域において、SI(Spark Ignition)燃焼とCI(Compression Ignition)燃焼とを組み合わせたSPCCI(SPark Controlled Compression Ignition)燃焼を行う。SI燃焼は、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火を行うことにより開始する火炎伝播を伴う燃焼である。CI燃焼は、燃焼室17の中の混合気が自己着火することにより開始する燃焼である。これらSI燃焼とCI燃焼とを組み合わせた燃焼形態とは、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火を行って、火炎伝播による燃焼を開始させると、SI燃焼の発熱及び火炎伝播による圧力上昇を以て、燃焼室17の中の未燃混合気が圧縮着火により燃焼する形態である。このエンジン1では、混合気の自着火のためにピストン3が圧縮上死点に至ったときの燃焼室17の温度、つまり圧縮端温度を大幅に高くする必要がない。
【0040】
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、吸気ポート18が形成されている。吸気ポート18は、図3に示すように、第1吸気ポート181及び第2吸気ポート182の二つの吸気ポートを有している。第1吸気ポート181及び第2吸気ポート182は、クランクシャフト15の軸方向、つまりエンジン本体2のフロント−リヤ方向に並んでいる。吸気ポート18は、燃焼室17に連通している。吸気ポート18は、詳細な図示は省略するが、いわゆるタンブルポートである。つまり、吸気ポート18は、吸気行程時に燃焼室17の中にタンブル流が形成されるような形状を有している。
【0041】
吸気ポート18には、吸気弁21が設けられている。吸気弁21は、燃焼室17と吸気ポート18との間で吸気ポート18を開閉する。エンジン1には、吸気弁21の動弁機構が設けられている。吸気弁21は、その動弁機構によって所定のタイミングで開閉する。吸気弁21の動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構とすればよい。
【0042】
本構成例においては、可変動弁機構は、吸気弁21の開弁角を一定としつつ吸気弁21の開閉時期を可変とする位相式の可変動弁機構であって、図4に示すように、吸気電動S−VT(Sequential-Valve Timing)23を有している。吸気電動S−VT23は、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更するように構成されている。それによって、吸気弁21の開弁時期及び閉弁時期は連続的に変化する。なお、吸気弁21の動弁機構は、電動S−VTに代えて、油圧式のS−VTを有していてもよい。また、吸気弁21の動弁機構は、吸気弁21のリフト量を変更する可変動弁機構、及び/又は、吸気弁21の開弁角(開弁期間)を変更する可変動弁機構を有してもよい。
【0043】
シリンダヘッド13にはまた、シリンダ11毎に、排気ポート19が形成されている。排気ポート19も、図3に示すように、第1排気ポート191及び第2排気ポート192の二つの排気ポートを有している。第1排気ポート191及び第2排気ポート192は、エンジン本体2のフロント−リヤ方向に並んでいる。排気ポート19は、燃焼室17に連通している。
【0044】
排気ポート19には、排気弁22が設けられている。排気弁22は、燃焼室17と排気ポート19との間で排気ポート19を開閉する。エンジン1には、排気弁22の動弁機構が設けられている。排気弁22は、その動弁機構によって所定のタイミングで開閉する。排気弁22の動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構とすればよい。
【0045】
本構成例においては、可変動弁機構は、排気弁22の開弁角を一定としつつ排気弁22の開閉時期を可変とする位相式の可変動弁機構であって、図4に示すように、排気電動S−VT24を有している。排気電動S−VT24は、排気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更するように構成されている。それによって、排気弁22の開弁時期及び閉弁時期は連続的に変化する。なお、排気弁22の動弁機構は、電動S−VTに代えて油圧式のS−VTを有していてもよい。また、排気弁22の動弁機構は、排気弁22のリフト量を変更する可変動弁機構、及び/又は、排気弁22の開弁角(開弁期間)を変更する可変動弁機構を有してもよい。
【0046】
エンジン1は、吸気電動S−VT23及び排気電動S−VT24によって、吸気弁21の開弁時期と排気弁22の閉弁時期とに係るオーバーラップ期間の長さを調整する。このことによって、燃焼室17の中に熱い既燃ガスを閉じ込める。つまり、内部EGR(Exhaust Gas Recirculation)ガスを燃焼室17の中に導入する。また、オーバーラップ期間の長さを調整することによって、燃焼室17の中の残留ガス(既燃ガス)を掃気する。
【0047】
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、インジェクタ6が取り付けられている。インジェクタ6は、燃焼室17の中に燃料を直接噴射するように構成されている。インジェクタ6は、燃料供給部の一例である。インジェクタ6は、吸気側の傾斜面1311と排気側の傾斜面1312とが交差するペントルーフの谷部において燃焼室17内に臨んで配置されており、キャビティ31に対向している。
【0048】
インジェクタ6の噴射軸心X2は、図2に示すように、シリンダ11の中心軸X1に平行とされており、シリンダ11の中心軸X1よりも排気側に位置している。このインジェクタ6の噴射軸心X2とキャビティ31の凸部311の位置とは一致している。なお、インジェクタ6の噴射軸心X2は、シリンダ11の中心軸X1と一致していてもよい。その場合も、インジェクタ6の噴射軸心X2とキャビティ31の凸部311の位置とは一致していることが望ましい。
【0049】
インジェクタ6は、詳細な図示は省略するが、複数の噴口を有する多噴口型の燃焼噴射弁によって構成されている。インジェクタ6は、図2に二点鎖線で示すように、燃料噴霧が、燃焼室17の中央から放射状に広がりつつ、且つ燃焼室17の天井部から斜め下向きに広がるように燃料を噴射する。
【0050】
本構成例においては、インジェクタ6は、十個の噴口を有している。噴口は、インジェクタ6の周方向に等角度に配置されている。噴口の軸の位置は、図2の上図に示すように、後述する点火プラグ25に対してインジェクタ6の周方向にずれている。つまり、点火プラグ25は、隣り合う2つの噴口の軸に挟まれている。これにより、インジェクタ6から噴射された燃料の噴霧が、点火プラグ25に直接当たって、電極を濡らしてしまうことが回避される。
【0051】
インジェクタ6には、燃料供給システム61が接続されている。燃料供給システム61は、燃料を貯留するように構成された燃料タンク63と、燃料タンク63とインジェクタ6とを互いに連結する燃料供給路62とを備えている。燃料供給路62には、燃料ポンプとコモンレール64とが設けられている。燃料ポンプ65は、コモンレール64に燃料を圧送する。
【0052】
本構成例においては、燃料ポンプ65は、クランクシャフト15によって駆動されるプランジャー式のポンプである。コモンレール64は、燃料ポンプ65から圧送された燃料を高い燃料圧力で蓄えるように構成されている。インジェクタ6が開弁すると、コモンレール64に蓄えられていた燃料が、インジェクタ6の噴口から燃焼室17の中に噴射される。
【0053】
燃料供給システム61は、30MPa以上の高い圧力の燃料を、インジェクタ6に供給することが可能に構成されている。燃料供給システム61の最高燃料圧力は、例えば120MPa程度にしてもよい。インジェクタ6に供給する燃料の圧力は、エンジン1の運転状態に応じて変更してもよい。なお、燃料供給システム61の構成は、前記の構成に限定されない。
【0054】
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、燃焼室17内に配設された電極間において火花放電を行うことにより、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をする。点火プラグ25は、点火部の一例である。
【0055】
本構成例においては、点火プラグ25は、図2にも示すように、燃焼室17でシリンダ11の中心軸X1を挟んだ吸気側に配置されている。この点火プラグ25は、インジェクタ6に隣接しており、二つの吸気ポートの間に位置している。また、点火プラグ25は、上方から下方に向かって燃焼室17の中央に近づく方向に傾いて、シリンダヘッド13に取り付けられている。点火プラグ25の電極は、燃焼室17の中に臨んでおり、且つ燃焼室17の天井面の付近に位置している。
【0056】
エンジン本体2の一側面には、吸気通路40が接続されている。吸気通路40は、各シリンダ11の吸気ポート18に連通し、吸気ポート18を介して燃焼室17に通じている。吸気通路40は、燃焼室17に導入されるガスが流れる通路である。吸気通路40の上流端部には、新気を濾過するエアクリーナー41が設けられている。吸気通路40の下流端近傍には、サージタンク42が設けられている。サージタンク42よりも下流の吸気通路40は、シリンダ11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の下流端は、各シリンダ11の吸気ポート18に接続されている。
【0057】
吸気通路40におけるエアクリーナー41とサージタンク42との間には、スロットル弁43が設けられている。スロットル弁43は、弁の開度を調整することによって、燃焼室17への新気の導入量を調整するように構成されている。
【0058】
また、吸気通路40におけるスロットル弁43の下流には過給機44が設けられている。過給機44は、燃焼室17に導入される、吸気通路40内のガスを過給するように構成されている。
【0059】
本構成例においては、過給機44は、エンジン本体2によって駆動される機械式の過給機である。機械式の過給機44は、例えばルーツ式としてもよい。機械式の過給機44の構成は、どのような構成であってもよい。機械式の過給機44は、リショルム式、ベーン式又は遠心式であってもよい。
【0060】
過給機44とエンジン本体2との間には、電磁クラッチ45が設けられている。電磁クラッチ45は、過給機44とエンジン本体2との間で、エンジン本体2から過給機44へ駆動力を伝達したり、駆動力の伝達を遮断したりする。過給機44は、後述するように、ECU10が電磁クラッチ45の遮断及び接続を切り替えることによって、オンとオフとが切り替わる。これにより、エンジン1は、過給機44が燃焼室17に導入されるガスを過給することと、過給機44が燃焼室17に導入されるガスを過給しないこととを切り替えられるようになっている。
【0061】
吸気通路40における過給機44の下流には、インタークーラー46が設けられている。インタークーラー46は、過給機44において圧縮されたガスを冷却するように構成されている。インタークーラー46は、例えば水冷式に構成すればよい。また、インタークーラー46は、油冷式であってもよい。
【0062】
吸気通路40にはまた、バイパス通路47が接続されている。バイパス通路47は、過給機44及びインタークーラー46をバイパスするように、吸気通路40における過給機44の上流部とインタークーラー46の下流部とを互いに接続する。バイパス通路47には、エアバイパス弁48が設けられている。エアバイパス弁48は、バイパス通路47を流れるガスの流量を調整する。
【0063】
過給機44をオフにしたとき、つまり電磁クラッチ45を遮断したときには、エアバイパス弁48を全開にする。これにより、吸気通路40を流れるガスは、過給機44をバイパスして、つまり過給機44及びインタークーラー46を通らずに、バイパス通路47を通ってサージタンク42に流入し、その後にエンジン1の燃焼室17に導入される。このとき、エンジン1は、非過給、つまり自然吸気の状態で運転する。
【0064】
過給機44をオンしたとき、つまり電磁クラッチ45を接続したときには、吸気通路40を流れるガスは、過給機44及びインタークーラー46を通過した後に、サージタンク42に流入する。このとき、エアバイパス弁48が開いていると、過給機44を通過したガスの一部がサージタンク42からバイパス通路47を通って、過給機44の上流に逆流する。そうしたガスの逆流量は、エアバイパス弁48の開度に応じて変化する。吸気通路40内のガスの過給圧は、エアバイパス弁48の開度調整によって制御することができる。
【0065】
本構成例においては、過給機44とバイパス通路47とエアバイパス弁48とによって、吸気通路40に過給システム49が構成されている。
【0066】
エンジン1は、燃焼室17内にスワール流を発生させるスワール発生部を有している。スワール発生部は、図3に示すように、吸気通路40に取り付けられたスワールコントロール弁56である。スワールコントロール弁56は、第1吸気ポート181につながるプライマリ通路401と第2吸気ポート182につながるセカンダリ通路402とのうち、セカンダリ通路402に設けられている。
【0067】
スワールコントロール弁56は、セカンダリ通路402の断面を絞ることができる開度調整弁である。燃焼室17内には、このスワールコントロール弁56の開度に応じた強さのスワール流が生じる。スワール流は、矢印で示すように、図3における反時計方向に周回する(図2の白抜きの矢印も参照)。
【0068】
スワールコントロール弁56の開度が小さいと、エンジン本体2の前後方向に並んだ第1吸気ポート181及び第2吸気ポート182のうち第1吸気ポート181から燃焼室17に流入する吸気流量が相対的に増え、且つ第2吸気ポート182から燃焼室17に流入する吸気流量が相対的に減るから、燃焼室17内のスワール流が強くなる。スワールコントロール弁56の開度が大きいと、第1吸気ポート181及び第2吸気ポート182のそれぞれから燃焼室17に流入する吸気流量が略均等になるから、燃焼室17内のスワール流が弱くなる。スワールコントロール弁56を全開にすると、スワール流は発生しない。
【0069】
なお、スワール発生部は、吸気通路40にスワールコントロール弁56を取り付ける代わりに、又は、スワールコントロール弁56を取り付けることに加えて、二つの吸気弁21の開弁期間をずらし、一方の吸気弁21のみから燃焼室17の中に吸気を導入することができる構成を採用してもよい。二つの吸気弁21のうちの一方の吸気弁21のみが開弁することによって、燃焼室17の中に吸気が不均等に導入されるから、燃焼室17の中にスワール流を発生させることができる。さらに、スワール発生部は、吸気ポート18の形状を工夫することによって、燃焼室17の中にスワール流を発生させるように構成してもよい。
【0070】
エンジン本体2の他側面には、排気通路50が接続されている。排気通路50は、各シリンダ11の排気ポート19に連通し、排気ポート19を介して燃焼室17に通じている。排気通路50は、燃焼室17から排出された排気ガスが流れる通路である。排気通路50の上流部分は、詳細な図示は省略するが、シリンダ11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の上流端が、各シリンダ11の排気ポート19に接続されている。
【0071】
排気通路50には、複数(図1に示す例では2つ)の触媒コンバーターを有する排気ガス浄化システムが設けられている。上流の触媒コンバーターは、図示は省略するが、エンジンルーム内に配置されている。この上流の触媒コンバーターは、三元触媒511と、GPF(Gasoline Particulate Filter)512とを有している。他方、下流の触媒コンバーターは、エンジンルーム外に配置されている。この下流の触媒コンバーターは、三元触媒513を有している。
【0072】
なお、排気ガス浄化システムは、図例の構成に限定されるものではない。例えば、GPF512は省略してもよい。また、触媒コンバーターは三元触媒511,513に限定されない。さらに、三元触媒511,513及びGPF512の並び順は適宜変更してもよい。
【0073】
吸気通路40と排気通路50との間には、外部EGRシステムを構成するEGR通路52が設けられている。EGR通路52は、既燃ガスの一部を吸気通路40に還流させるための通路であって、吸気通路40と排気通路50とを繋いでいる。EGR通路52の上流端は、排気通路50における上流の触媒コンバーターと下流の触媒コンバーターとの間に接続されている。EGR通路52の下流端は、吸気通路40における過給機44の上流側に接続されている。外部EGRシステムは、いわゆる低圧EGRシステムである。
【0074】
EGR通路52には、水冷式のEGRクーラー53が設けられている。EGRクーラー53は、既燃ガスを冷却するように構成されている。EGR通路52にはまた、EGR弁54が設けられている。EGR弁54は、EGR通路52を流れる既燃ガスの流量を調整するように構成されている。冷却された既燃ガス、つまり外部EGRガスの還流量は、EGR弁54の開度を変更することによって調整することができる。
【0075】
本構成例においては、EGRシステム55は、EGR通路52及びEGR弁54を含んで構成された外部EGRシステムと、前述した吸気電動S−VT23及び排気電動S−VT24を含んで構成された内部EGRシステムとによって構成されている。
【0076】
エンジンシステムは、エンジン1を運転するためのECU(Engine Control Unit)10を備えている。ECU10は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラーであって、図4に示すように、プログラムを実行する中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)101と、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)により構成されてプログラム及びデータを格納するメモリ102と、電気信号の入出力をする入出力バス103とを備えている。
【0077】
このECU10は、前記のインジェクタ6、点火プラグ25、吸気電動S−VT23、排気電動S−VT24、燃料供給システム61、スロットル弁43、EGR弁54、過給機44の電磁クラッチ45、エアバイパス弁48、及びスワールコントロール弁56に接続されている。ECU10にはまた、図1及び図4に示すように、各種のセンサSW1〜SW16が接続されている。センサSW1〜SW16は、検知信号をECU10に出力する。
【0078】
当該センサには、吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されたエアフローセンサSW1及び第1吸気温度センサSW2と、吸気通路40におけるEGR通路52の接続位置よりも下流側で且つ過給機44の上流に配置された第1圧力センサSW3と、吸気通路40における過給機44の下流で且つバイパス通路47の接続位置よりも上流に配置された第2吸気温度センサSW4と、サージタンク42に取り付けられた第2圧力センサSW5と、各シリンダ11に対応してシリンダヘッド13に取り付けられた指圧センサSW6と、排気通路50に配置された排気温度センサSW7とが含まれる。
【0079】
エアフローセンサSW1は、吸気通路40を流れる新気の流量を検知する。第1吸気温度センサSW2は、吸気通路40を流れる新気の温度を検知する。第1圧力センサSW3は、過給機44に流入するガスの圧力を検知する。第2吸気温度センサSW4は、過給機44から流出したガスの温度を検知する。第2圧力センサSW5は、過給機44の下流のガスの圧力を検知する。指圧センサSW6は、各燃焼室17内の圧力を検知する。排気温度センサSW7は、燃焼室17から排出された排気ガスの温度を検知する。
【0080】
前記センサにはさらに、排気通路50における上流の触媒コンバーターよりも上流に配置されたリニアOセンサSW8と、上流コンバーターにおける三元触媒511の下流に配置されたラムダOセンサSW9と、エンジン本体2に取り付けられた水温センサSW10、クランク角センサSW11、吸気カム角センサSW12及び排気カム角センサSW13と、アクセルペダル機構に取り付けられたアクセル開度センサSW14と、EGR通路52に配置されたEGR差圧センサSW15と、燃料供給システム61のコモンレール64に取り付けられた燃圧センサSW16とが含まれる。
【0081】
リニアOセンサSW8及びラムダOセンサSW9は、それぞれ排気ガス中の酸素濃度を検知する。水温センサSW10は、冷却水の温度を検知する。クランク角センサSW11は、クランクシャフト15の回転角を検知する。吸気カム角センサSW12は、吸気カムシャフトの回転角を検知する。排気カム角センサSW13は、排気カムシャフトの回転角を検知する。アクセル開度センサSW14は、アクセル開度を検知する。EGR差圧センサSW15は、EGR弁54の上流及び下流の差圧を検知する。燃圧センサSW16は、インジェクタ6に供給される燃料の圧力を検知する。
【0082】
ECU10は、これらの検知信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断すると共に、各デバイスの制御量を計算する。ECU10は、計算した制御量に係る制御信号をインジェクタ6、点火プラグ25、吸気電動S−VT23、排気電動S−VT24、燃料供給システム61、スロットル弁43、EGR弁54、過給機44の電磁クラッチ45、エアバイパス弁48、及びスワールコントロール弁56に出力する。
【0083】
例えば、ECU10は、アクセル開度センサSW12の検知信号と予め設定しているマップとに基づいて、エンジン1の目標トルクを設定すると共に、目標過給圧を決定する。そして、ECU10は、目標過給圧と、第1圧力センサSW3及び第2圧力センサSW5の検知信号から得られる過給機44の前後差圧とに基づいて、エアバイパス弁48の開度を調整することにより、過給圧が目標過給圧となるようにフィードバック制御を行う。
【0084】
また、ECU10は、エンジン1の運転状態と予め設定したマップとに基づいて目標EGR率、つまり燃焼室17の中の全ガスに対するEGRガスの比率を設定する。そして、ECU10は、目標EGR率とアクセル開度センサSW12の検知信号に基づく吸入空気量とに基づいて目標EGRガス量を決定すると共に、EGR差圧センサSW15の検知信号から得られるEGR弁54の前後差圧に基づいてEGR弁54の開度を調整することにより、燃焼室17の中に導入される外部EGRガス量が目標EGRガス量となるようにフィードバック制御を行う。
【0085】
さらに、ECU10は、所定の制御条件が成立しているときに空燃比フィードバック制御を実行する。具体的にECU10は、リニアOセンサSW8、及び、ラムダOセンサSW9によって検知された排気中の酸素濃度に基づいて、混合気の空燃比が所望の値となるように、インジェクタ6の燃料噴射量を調整する。
【0086】
尚、ECU10によるエンジン1の制御の詳細は後述する。
【0087】
〈エンジンの運転領域マップ〉
図5は、エンジン1の温間時の運転領域マップ501,502を例示している。エンジン1の運転領域マップ501,502は、エンジン1の負荷及び回転数によって定められており、エンジン1の回転数の高低に対し、二つの領域に分けられている。
【0088】
具体的に二つの領域は、エンジン回転数がN1未満である低回転側のSPCCI領域(1)と、エンジン回転数がN1以上である高回転側のCI領域(2)とである。ここで、SPCCI領域(1)は、エンジン1の全運転領域を回転数方向に、低回転領域、中回転領域及び高回転領域の略三等分にしたときの、低回転領域及び中回転領域を含む領域としてもよい。また、CI領域(2)は、高回転領域を含む領域としてもよい。回転数N1は例えば4000rpm程度としてもよい。
【0089】
図5においては、理解を容易にするために、エンジン1の運転領域マップ501,502を二つに分けて描いている。マップ501は、エンジン1の各運転状態601〜604における混合気の状態及び燃焼形態と、過給機44の駆動領域及び非駆動領域とを示している。マップ502は、各領域におけるスワールコントロール弁56の開度を示している。なお、図5における二点鎖線は、エンジン1のロード−ロードライン(Road-Load Line)を示している。
【0090】
エンジン1は、燃費の向上及び排出ガス性能の向上を主目的として、圧縮自己着火による燃焼を行う。より詳細に、エンジン1は、SPCCI領域(1)においては、前述したSPCCI燃焼を行う。また、エンジン1は、CI領域(2)においては、CI燃焼を行う。以下に、図5に示す各運転状態601〜604におけるエンジン1の運転について、図6に示す燃料噴射時期及び点火時期を参照しながら詳細に説明する。尚、図6の横軸は、クランク角を示し、図6の紙面左から右にクランク角は進む。
【0091】
〈SPCCI領域(1)の低負荷運転状態におけるエンジン制御〉
エンジン1は、エンジン1がSPCCI領域(1)において運転しているときには、前述したようにSPCCI燃焼を行う。自己着火による燃焼は、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度がばらつくと、自己着火のタイミングが大きく変化する。SPCCI燃焼は、点火プラグ25が燃焼室17の中の混合気に強制的に点火することを以て混合気が火炎伝播によりSI燃焼をすると共に、SI燃焼の発熱により燃焼室17の中の温度が高くなり、且つ火炎伝播により燃焼室17の中の圧力が上昇することを以て未燃混合気が自己着火によるCI燃焼をする。SI燃焼の発熱量を調整することによって、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度のばらつきを吸収することができる。つまり、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度がばらついていても、例えば点火タイミングの調整によってSI燃焼の開始タイミングを調整すれば、自己着火のタイミングをコントロールすることができる。
【0092】
図6の符号601は、エンジン1がSPCCI領域(1)において負荷の低い運転状態601にて運転しているときの燃料噴射時期(符号6011,6012)及び点火時期(符号6013)並びに燃焼波形(つまり、クランク角に対する熱発生率の変化を示す波形、符号6014)それぞれの一例を示している。
【0093】
SPCCI燃焼を行うときには、圧縮上死点(図6で右側のTDC:Top Dead Center)付近の所定のタイミングで、点火プラグ25が混合気に点火する。これによって、火炎伝播による燃焼が開始される。SI燃焼時の熱発生は、CI燃焼時の熱発生よりも穏やかである。したがって、熱発生率の波形は、立ち上がりの傾きが相対的に小さくなる。図示はしないが、燃焼室17の中における圧力変動(dp/dθ)も、SI燃焼時は、CI燃焼時よりも穏やかになる。
【0094】
SI燃焼によって燃焼室17の中の温度及び圧力が高まると、未燃混合気が自己着火する。図6の例では、自己着火のタイミングで、熱発生率の波形の傾きが小から大へ変化している(符号6014)。つまり、熱発生率の波形は、CI燃焼が開始するタイミングで変曲点を有している。
【0095】
CI燃焼の開始後は、SI燃焼とCI燃焼とが並行して行われる。CI燃焼は、SI燃焼よりも熱発生が大きいため、熱発生率は相対的に大きくなる。但し、CI燃焼は、圧縮上死点後に行われるため、ピストン3がモータリングによって下降しており、CI燃焼による、熱発生率の波形の傾きが大きくなりすぎることが回避される。また、CI燃焼時の圧力変動(dp/dθ)も比較的穏やかになる。
【0096】
圧力変動(dp/dθ)は、燃焼騒音を表す指標として用いることができるが、SPCCI燃焼は、前述の通り圧力変動(dp/dθ)を小さくすることができるため、燃焼騒音が大きくなり過ぎることを回避することが可能になる。それにより、燃焼騒音を許容レベル以下に抑えることができる。
【0097】
SPCCI燃焼は、CI燃焼が終了することによって終了する。CI燃焼は、SI燃焼に比べて燃焼期間が短い。よって、SPCCI燃焼は、SI燃焼よりも燃焼終了時期が早まる。言い換えると、SPCCI燃焼は、膨張行程中の燃焼終了時期を圧縮上死点に近づけることが可能である。したがって、SPCCI燃焼は、SI燃焼よりもエンジン1の燃費性能の向上に有利である。
【0098】
EGRシステム55は、SPCCI領域(1)において、エンジン1の負荷が低いときに、エンジン1の燃費性能を向上させるために、燃焼室17の中にEGRガスを導入する。
【0099】
具体的には、排気上死点付近において、吸気弁21及び排気弁22の両方が開弁するポジティブオーバーラップ期間を設けることにより、燃焼室17の中から吸気ポート18及び排気ポート19に排出した排気ガスの一部を燃焼室17の中に引き戻して再導入する、内部EGRを行う。内部EGRを行うと、燃焼室17の中に熱い既燃ガス(内部EGRガス)が導入されるため、燃焼室17の中の温度を高くすることができ、SPCCI燃焼の安定化に有利になる。
【0100】
なお、エンジン1の負荷が低いときには、EGR弁54を全閉とする。燃焼室17の中には、外部EGRガスが導入されない。
【0101】
過給機44は、SPCCI領域(1)において、エンジン1の負荷が低いときには、オフにされる。詳細には、SPCCI領域(1)における低中負荷の低回転側の領域においては、過給機44がオフにされる(S/C OFF参照)。エンジン1の負荷が低中負荷であっても、エンジン1の回転数が高くなると必要な吸気充填量を確保するために、過給機44がオンにされて、過給圧を高くする(S/C ON参照)。
【0102】
過給機44がオフにされて吸気通路40内のガスが過給されていないときには、吸気通路40内の圧力が相対的に低いから、ポジティブオーバーラップ期間中には、前述したように内部EGRガスが燃焼室17の中に導入される。
【0103】
また、過給機44がオンにされて吸気通路40内のガスが過給されているときには、吸気通路40内の圧力が相対的に高いから、ポジティブオーバーラップ期間中には、吸気通路40内のガスがエンジン本体2の燃焼室17を通過して排気通路50に吹き抜ける。それにより、燃焼室17内に残留する既燃ガスが排気通路50に押し出されて掃気される。
【0104】
スワールコントロール弁56は、エンジン1がSPCCI領域(1)において運転しているときには、全閉又は閉じ側の所定の角度とされる。それにより、燃焼室17の中に、比較的強いスワール流が形成される。スワール流は、燃焼室17の外周部において強く、中央部において弱くなる。前述したように、吸気ポート18はタンブルポートであるため、燃焼室17の中には、タンブル成分とスワール成分とを有する斜めスワール流が形成される。
【0105】
エンジン1の負荷が低いときには、スワール比は、例えば4以上になる。ここで、スワール比を定義すると、「スワール比」は、吸気流横方向角速度をバルブリフト毎に測定して積分した値を、エンジン角速度で除した値である。吸気流横方向角速度は、図7に示すリグ試験装置を用いた測定に基づいて求めることができる。
【0106】
図7に示す装置は、基台にシリンダヘッド13を上下反転して設置して、吸気ポート18を図外の吸気供給装置に接続する一方、そのシリンダヘッド13上にシリンダ36を設置すると共に、その上端にハニカム状ロータ37を有するインパルスメータ38を接続して構成されている。インパルスメータ38の下面は、シリンダヘッド13とシリンダブロックとの合わせ面から1.75Dの位置に位置づけられている。ここで、「D」はシリンダボア径を意味する。そして、当該装置は、吸気の供給に応じてシリンダ36内に生じるスワール流(図7の矢印参照)によってハニカム状ロータ37に作用するトルクをインパルスメータ38で計測し、それに基づいて、吸気流横方向角速度を求めることができる。
【0107】
図8は、エンジン1におけるスワールコントロール弁56の開度とスワール比との関係を示している。図8は、スワールコントロール弁56の開度を、セカンダリ通路402の全開断面に対する開口比率によって表している。スワールコントロール弁56が全閉のときに、セカンダリ通路402の開口比率が0%となり、スワールコントロール弁56の開度が大きくなると、セカンダリ通路402の開口比率が0%よりも大きくなる。スワールコントロール弁56が全開のときに、セカンダリ通路402の開口比率は100%となる。
【0108】
図8に例示するように、エンジン1は、スワールコントロール弁56を全閉にすると、スワール比は6程度になる。SPCCI領域(1)において、エンジン1の負荷が低いときに、スワール比は4以上且つ6以下とすればよい。スワールコントロール弁56の開度は、開口比率が0%以上且つ15%以下となる範囲で調整すればよい。
【0109】
混合気の空燃比(A/F)は、SPCCI領域(1)において、エンジン1の負荷が低いときに、燃焼室17の全体において理論空燃比よりもリーンである。つまり、燃焼室17の全体において、混合気の空気過剰率λは1を超える(λ>1)。より詳細には、燃焼室17の全体において混合気のA/Fは30以上である。こうすることで、RawNOxの発生を抑制することができ、排気ガス性能を向上させることができる。
【0110】
SPCCI領域(1)において、エンジン1の負荷が低い運転状態601のときには、混合気は、燃焼室17の中央部と外周部との間において成層化している。燃焼室17の中央部は、点火プラグ25が配置されている部分である。燃焼室17の外周部は、中央部の周囲であって、シリンダ11のライナーに接する部分である。燃焼室17の中央部はスワール流が弱い部分であり、燃焼室17の外周部はスワール流が強い部分である、と定義してもよい。
【0111】
燃焼室17の中央部の混合気の燃料濃度は、燃焼室17の外周部の燃料濃度よりも濃い。具体的には、燃焼室17の中央部の混合気のA/Fは20以上且つ30以下であり、燃焼室17の外周部の混合気のA/Fは35以上である。なお、空燃比の値は、点火時における空燃比の値であり、このことは、以下の説明においても同じ場合がある。
【0112】
インジェクタ6は、SPCCI領域(1)において、エンジン1の負荷が低いときには、圧縮行程中において燃料を複数回に分けて燃焼室17の中に噴射する(図6の符号6011,6012)。具体的には、圧縮行程の中期と圧縮行程の終期とにそれぞれ燃料噴射を行う。ここで、圧縮行程の中期及び終期はそれぞれ、圧縮行程をクランク角度に関して初期、中期、終期に三等分したときの中期及び終期とすればよい。
【0113】
圧縮行程の中期に噴射された燃料は、点火時期までの間に燃焼室17の中で拡散し、燃焼室17内の中央部及び外周部の混合気を形成する。圧縮行程の終期に噴射された燃料は、点火をするまでの時間が短いため、あまり拡散せずに、スワール流によって燃焼室17内の中央部の点火プラグ25の付近に輸送され、圧縮行程の中期に噴射された燃料の一部と共に、燃焼室17内の中央部の混合気を形成する。前述したように、燃焼室17内の中央部と外周部とにおいて混合気が成層化する。
【0114】
燃料噴射の終了後、圧縮上死点前の所定のタイミングで、点火プラグ25は、燃焼室17の中央部の混合気に点火をする(符号6013)。このとき、燃焼室17の中央部の混合気の燃料濃度が相対的に高いため、着火性が向上すると共に、火炎伝播によるSI燃焼が安定化する。そして、SI燃焼が安定化することによって、CI燃焼が適切なタイミングで開始する。つまり、SPCCI燃焼において、CI燃焼のコントロール性が向上する。その結果、SPCCI領域(1)においてエンジン1の負荷が低いときに、燃焼騒音の発生の抑制と、燃焼期間の短縮による燃費性能の向上とが両立する。
【0115】
〈SPCCI領域(1)の中負荷運転状態におけるエンジン制御〉
図6の符号602は、エンジン1が、SPCCI領域(1)において、中負荷で運転しているときの燃料噴射時期(符号6021,6022)及び点火時期(符号6023)並びに燃焼波形(符号6024)それぞれの一例を示している。
【0116】
EGRシステム55は、エンジン1が中負荷で運転しているときも、低負荷で運転しているときと同様に、燃焼室17の中にEGRガスを導入する。具体的には、エンジン1が中負荷領域における負荷が低くかつ回転が低い状態で運転しているときには、排気上死点付近において、吸気弁21及び排気弁22の両方を開弁するポジティブオーバーラップ期間を設けることにより、燃焼室17の中から吸気ポート18及び排気ポート19に排出した排気ガスの一部を燃焼室17の中に引き戻して再導入する、内部EGRを行う。つまり、内部EGRガスを燃焼室17の中に導入する。
【0117】
過給機44は、エンジン1が中負荷領域において負荷が高い又は回転が高い状態で運転しているときには、燃料噴射量が増えることに対応して必要な吸気充填量を確保するために、オンにされる。過給機44がオンにされて吸気通路40内のガスが過給されているときには、吸気通路40内の圧力が相対的に高いから、ポジティブオーバーラップ期間中には、前述したように、燃焼室17の中の残留ガス(熱い既燃ガス)が掃気される。
【0118】
また、エンジン1が中負荷で運転しているときには、EGR通路52を通じてEGRクーラー53によって冷却した排気ガスを燃焼室17の中に導入する、外部EGRを行う。つまり、内部EGRガスに比べて温度が低い外部EGRガスを燃焼室17の中に導入する。内部EGRガス及び外部EGRガスのうちの少なくとも一方を、燃焼室17の中に導入することにより、燃焼室17の中の温度が適切な温度になるよう調整する。尚、EGR率は、エンジン1の負荷が高くなるに従い高くなる。
【0119】
また、スワールコントロール弁56は、エンジン1が中負荷で運転しているときにも、低負荷で運転しているときと同様に全閉又は閉じ側の所定の角度とする。そのことで、燃焼室17の中には、スワール比が4以上の強いスワール流が形成される。スワール流を強くすると、燃焼室17内の乱流エネルギーが高くなるから、SI燃焼の火炎が速やかに伝播してSI燃焼が安定化する。そして、SI燃焼が安定化することによって、CI燃焼のコントロール性が高まる。これにより、SPCCI燃焼におけるCI燃焼のタイミングを適正化することができる。その結果、燃焼騒音の発生を抑制することができると共に、燃費性能の向上を図ることができる。また、サイクル間におけるトルクのばらつきを抑制することができる。
【0120】
混合気の空燃比(A/F)は、エンジン1が中負荷で運転するときには、燃焼室17の全体において理論空燃比(A/F=14.7)とされる。理論空燃比であれば、三元触媒が燃焼室17から排出された排気ガスを浄化することによって、エンジン1の排気ガス性能が良好になる。混合気のA/Fは、三元触媒の浄化ウインドウの中に納まるようにすればよい。したがって、混合気の空気過剰率λは、1.0±0.2とすればよい。
【0121】
インジェクタ6は、エンジン1が中負荷で運転するときには、吸気行程と圧縮行程とに分けて燃焼を燃焼室17の中に噴射する(図6の符号6021,6022)。具体的には、吸気行程の中期から終期にかけての期間に燃料を噴射する第1噴射6021と、圧縮行程の後半に燃料を噴射する第2噴射6022とを行う。ここで、吸気行程の中期及び終期はそれぞれ、吸気行程をクランク角度に関して初期、中期、終期に三等分したときの中期及び終期とすればよい。また、圧縮行程の前半及び後半はそれぞれ、圧縮行程をクランク角度に関して前半と後半とに二等分したときの前半及び後半とすればよい。
【0122】
第1噴射6021により噴射された燃料は、点火時期から離れたタイミングで噴射されており、その噴射時にはピストン3が上死点から離れているため、キャビティ31の外の領域に形成されたスキッシュエリア171にも到達し、燃焼室17の中に略均等に分布して混合気を形成する。第2噴射6022により噴射された燃料は、ピストン3が圧縮上死点に近いタイミングで噴射されるため、キャビティ31の中に入り、キャビティ31の内の領域において混合気を形成する。
【0123】
第2噴射6022によってキャビティ31の中に燃料を噴射することに伴い、キャビティ31の内の領域においてガスの流動が発生する。燃焼室17の中の乱流エネルギーは、点火タイミングまでの時間が長いと、圧縮行程の進行に伴って減衰してしまう。ところが、第2噴射6022のタイミングは第1噴射6021よりも点火タイミングに近いため、点火プラグ25は、キャビティ31の中の乱流エネルギーが高い状態のまま、キャビティ31の内の領域の混合気に点火することができる。これにより、SI燃焼の燃焼速度が高まる。SI燃焼の燃焼速度が高まると、SI燃焼が安定化するから、SI燃焼によるCI燃焼のコントロール性が高まる。
【0124】
また、圧縮行程の後半において第2噴射6022を行うことにより、燃焼室17内の温度を燃料の気化潜熱により低下させて過早着火やノッキングなどの異常燃焼の誘発を防止することができる。さらに、第2噴射6022により噴射された燃料を火炎伝播により安定的に燃焼させることができる。第1噴射6021の噴射量と第2噴射6022の噴射量との割合は一例として、95:5としてもよい。
【0125】
燃焼室17の中には、インジェクタ6が第1噴射6021と第2噴射6022を行うことにより、全体として空気過剰率λが1.0±0.2になった略均質な混合気が形成される。混合気が略均質であるため、未燃損失の低減による燃費の向上と、スモーク(煤)の発生回避による排気ガス性能の向上とを図ることができる。
【0126】
混合気は、圧縮上死点の前の所定のタイミングで点火プラグ25が混合気に点火をする(符号6023)ことを以て、火炎伝播により燃焼する。そして、火炎伝播による燃焼の開始後、未燃混合気が自己着火して、CI燃焼する。第2噴射6022によって噴射された燃料は、主にSI燃焼する。第1噴射6021によって噴射された燃料は、主にCI燃焼する。
【0127】
〈SPCCI領域(1)の高負荷運転状態におけるエンジン制御〉
図6の符号603は、エンジン1が、SPCCI領域(1)において、高負荷で運転しているときの燃料噴射時期(符号6031)及び点火時期(符号6032)並びに燃焼波形(符号6033)それぞれの一例を示している。
【0128】
EGRシステム55は、エンジン1が高負荷で運転しているときにも、燃焼室17の中にEGRガスを導入する。
【0129】
具体的には、エンジン1が高負荷で運転しているときは、EGR通路52を通じてEGRクーラー53によって冷却した排気ガスを燃焼室17の中に導入する、外部EGRを行う。EGR率は、SPCCI領域(1)における中高負荷の領域において、エンジン1の負荷が高くなるに従って、連続的に高くなる。EGRクーラー53によって冷却した外部EGRガスを燃焼室17の中に導入することにより、燃焼室17の中の温度が適切な温度になるよう調整すると共に、混合気の過早着火やノッキングなどの異常燃焼の誘発を防止することができる。
【0130】
尚、エンジン1の負荷が全開負荷に近づくと、燃料量が増えることに対応させるため、燃焼室17内に導入する新気量を増やさなければならない。そこで、SPCCI領域(1)においてエンジン1の負荷が全開負荷に近づくと、外部EGRによるEGR率を低下させてもよい。
【0131】
また、エンジン1が高負荷で運転しているときも、排気上死点付近において、吸気弁21及び排気弁22の両方を開弁するポジティブオーバーラップ期間を設ける。
【0132】
過給機44は、エンジン1が高負荷で運転しているときにも、その全域に亘りオンにされて、過給圧を高くする(S/C ON参照)。そのことで、ポジティブオーバーラップ期間中においては、燃焼室17の中の残留ガス(既燃ガス)が掃気される。
【0133】
スワールコントロール弁56は、エンジン1が高負荷で運転するときにも、全閉又は閉じ側の所定の開度とする。そのことで、燃焼室17の中には、スワール比4以上の強いスワール流が形成される。
【0134】
混合気の空燃比(A/F)は、エンジン1が高負荷で運転するときには、燃焼室17の全体において理論空燃比又は理論空燃比よりもリッチである(つまり、混合気の空気過剰率λは、λ≦1)。
【0135】
インジェクタ6は、エンジン1が高負荷の運転状態603にて運転するときには、吸気行程において燃料噴射を開始する(符号6031)。具体的には、燃料噴射6031は、圧縮上死点前280°CAに燃料の噴射を開始してもよい。燃料噴射6031の終了は、吸気行程を超えて圧縮行程中になる場合がある。燃料噴射6031の開始を吸気行程の前半にすることによって、燃料噴霧がキャビティ31の開口縁部に当たって、一部の燃料は、燃焼室17のスキッシュエリア171、つまりキャビティ31の外の領域(図2参照)に入り、残りの燃料は、キャビティ31の内の領域に入る。このとき、スワール流は、燃焼室17の外周部において強く、燃焼室17の中央部において弱くなっている。そのため、キャビティ31の内の領域に入った燃料は、スワール流よりも内側に入る。
【0136】
スワール流に入った燃料は、吸気行程から圧縮行程の間、スワール流の中に留まり、燃焼室17の外周部においてCI燃焼用の混合気を形成する。スワール流よりも内側に入った燃料も、吸気行程から圧縮行程の間、スワール流よりも内側に留まり、燃焼室17の中央部においてSI燃焼用の混合気を形成する。
【0137】
エンジン1が高負荷で運転するときには、燃焼室17における外周部の混合気の燃料濃度が中央部の混合気の燃料濃度よりも濃く、且つ燃焼室17における外周部の混合気の燃料量が中央部の混合気の燃料量よりも多くなるようにする。
【0138】
具体的には、燃焼室17における中央部の混合気の空気過剰率λは、好ましくは1以下であり、燃焼室17における外周部の混合気の空気過剰率λは、1以下、好ましくは1未満である。燃焼室17における中央部の混合気の空燃比(A/F)は、例えば13以上且つ理論空燃比(14.7)以下としてもよい。燃焼室17における中央部の混合気の空燃比は、理論空燃比よりもリーンであってもよい。
【0139】
また、燃焼室17における外周部の混合気の空燃比は、例えば11以上且つ理論空燃比以下であってもよく、好ましくは11以上且つ12以下としてもよい。燃焼室17の外周部の空気過剰率λを1未満にすると、外周部は混合気中の燃料量が増えるため、燃料の気化潜熱によって温度が低下する。燃焼室17の全体の混合気の空燃比は、12.5以上且つ理論空燃比以下であってもよく、好ましくは12.5以上且つ13以下としてもよい。
【0140】
点火プラグ25は、圧縮上死点付近において、燃焼室17内の混合気に点火をする(符号6032)。点火プラグ25は、例えば圧縮上死点後に点火を行ってもよい。点火プラグ25は燃焼室17の中央部に配置されているため、点火プラグ25の点火によって、中央部の混合気が火炎伝播によるSI燃焼を開始する。点火プラグ25付近の混合気の燃料濃度が高くなっているから、SPCCI燃焼において、点火プラグ25の点火後に、安定して火炎を伝播させることができる。
【0141】
エンジン1の負荷が高くなると、燃料噴射量が多くなると共に、燃焼室17の温度も高くなるため、CI燃焼が早期に開始しやすい状況になる。つまり、エンジン1の負荷が高いと、混合気の過早着火やノッキングなどの異常燃焼が発生しやすい。しかしながら、前述したように、燃焼室17の外周部の温度が燃料の気化潜熱によって低下するから、混合気に火花点火をした後、CI燃焼がすぐに開始してしまうことを回避することができる。
【0142】
エンジン1の負荷が高いときのSPCCI燃焼では、燃焼室17の中において混合気を成層化することと、燃焼室17の中に強いスワール流を発生させることとによって、CI燃焼の開始までにSI燃焼を十分に行うことができる。その結果、燃焼騒音の発生を抑制することができると共に、燃焼温度が高くなり過ぎることがなくてNOxの生成も抑制される。また、サイクル間におけるトルクのばらつきを抑制することができる。
【0143】
また、燃焼室17の外周部の温度が低いことも、CI燃焼を緩やかにするので、燃焼騒音の発生を抑制するのに有利になる。さらに、CI燃焼によって燃焼期間が短くなるから、エンジン1の負荷が高いときに、トルクの向上及び熱効率の向上を図ることができる。よって、エンジン1では、負荷が高い領域においてSPCCI燃焼を行うことにより、燃焼騒音を回避しながら燃費性能を向上させることができる。
【0144】
〈CI領域(2)におけるエンジン制御〉
エンジン1の回転数が高いと、クランク角が1°変化するのに要する時間が短くなる。そのため、例えば高負荷領域の高回転領域においては、SPCCI燃焼を行うために燃焼室17内に混合気の成層化をすることが困難になる。その一方で、エンジン1の幾何学的圧縮比が高いため、特に高負荷領域においてSI燃焼を行おうとすると、ノッキング等の異常燃焼が発生する恐れがある。そこで、エンジン1は、高回転側のCI領域(2)において運転しているときには、新しい形態のCI燃焼を行う。CI領域(2)は、低負荷から高負荷までの負荷方向における全域に広がっている。
【0145】
このCI燃焼は、いわゆるブロークンリアクションゾーンを利用する。ブロークンリアクションゾーンは、混合気が燃料リーンである、及び/又は、燃焼室17内の流動が強いことにより、点火プラグ25が混合気に点火を行っても、火炎伝播による燃焼が進行しないような、燃焼室17内の状態をいう。CI領域(2)における燃焼形態は、ブロークンリアクションゾーンにおいて点火プラグ25が混合気に点火をしたときには、火種が無くなるのではなく、混合気を微視的に見ると、火炎伝播できない状態で火種が保存されていることが、新たな知見として得られたことに基づいている。
【0146】
図6の符号604は、エンジン1がCI領域(2)において、高負荷で運転している状態604のときの燃料噴射時期(符号6041、6043)及び点火時期(符号6042)並びに燃焼波形(符号6044)それぞれの一例を示している。
【0147】
混合気の空燃比(A/F)は、エンジン1がCI領域(2)において運転するときには、基本的に、燃焼室17の全体において理論空燃比(A/F=14.7)とされる。混合気の空気過剰率λは1.0±0.2とすればよい。なお、CI領域(2)内の全負荷を含む高負荷領域においては、混合気の空気過剰率λを1未満にしてもよい。
【0148】
また、図5のマップ501に示すように、過給機44は、エンジン1がCI領域(2)において運転しているときにも、その全域に亘りオンにされて、過給圧を高くする(S/C ON参照)。
【0149】
図9は、吸気行程から圧縮行程にかけての燃焼室17内の流動強さの変化を例示している。エンジン1は、エンジン1がCI領域(2)において運転するときには、図5のマップ502に示すように、スワールコントロール弁56を全開にする。それにより、燃焼室17内にはスワール流が発生せず、タンブル流のみが発生する。このようにスワールコントロール弁56を全開にすることによって、エンジン1の回転数が高いときに、ポンプ損失を低減しながら、充填効率を高めることができる。
【0150】
吸気行程において燃焼室17内に吸気が流入するに従ってタンブル流が発生し、燃焼室17内の流動は次第に強まる。吸気行程において強まった燃焼室17内の流動は、吸気行程の終期において、一旦、減衰するが、圧縮行程においてピストン3が上死点に向かって上昇するに伴い、いわゆるスピンアップ現象によって、燃焼室17内の流動は、再び強くなる。燃焼室17内の流動は、図9に白抜きの矢印で示すように、圧縮行程を初期、中期、及び、終期に三等分したときの中期の始まりから、圧縮行程を前期、中前期、中後期、及び、終期に四等分したときの中後期の終わりにかけての特定期間において、所定以上の強さになる(図9の破線参照)。特定期間においては、燃焼室17内のタンブル比が所定以上になる。なお、「タンブル比」は、燃焼室17の重心(該重心の位置は燃焼室17の容積の変化に応じて変化する)を通るクランクシャフト15に平行な軸回りの吸気の角速度ωを、クランクシャフト15の角速度ωcで割った値である。吸気の角速度ωは、以下のようにして求めることができる。すなわち、吸気行程の開始から圧縮行程の終了までの微少クランク角毎に、燃焼室17内を多数の微少部分に区画して、前記軸回りの該各微少部分の質点(空気)の角運動量Lと、該各微少部分の質点の慣性モーメントIとを求め、その角運動量Lの全微少部分の合計値を全微少クランク角にわたって積算した値を、慣性モーメントIの全微少部分の合計値を全微少クランク角にわたって積算した値で割ることで、吸気の角速度ωを求めることができる。
【0151】
特定期間又は特定期間よりも前に、燃焼室17内に理論空燃比よりも燃料濃度がリーンな混合気を形成しておくと、特定期間に点火プラグ25が混合気に点火をしても、火炎伝播による燃焼が進行しない。つまり、CI領域(2)においては、燃焼室17内の状態がブロークンリアクションゾーンにあるときに点火プラグ25が混合気に点火をすることによって、火炎伝播による燃焼を開始させずに、燃焼室17内に火種を保存しておく。
【0152】
その後、クランク角が進行することに伴って燃焼室17内の流動が弱くなると共に、混合気の燃料濃度が高くなるように、燃焼室17内に燃料を追加供給すると、燃焼室17内の状態がブロークンリアクションゾーンから外れる。また、圧縮行程の後期においては、モータリングにより燃焼室17内の温度及び圧力が高まる。その結果、保存されていた火種により、混合気は、圧縮行程の後期又は膨張行程において燃焼を開始する。
【0153】
次に、図6を参照しながら、燃料噴射制御及び点火制御について、具体的に説明をする。インジェクタ6は、エンジン1がCI領域(2)において運転しているときには、吸気行程において燃料噴射(つまり、第一燃料噴射6041)を行う。第一燃料噴射は、例えば一括噴射によって構成してよいし、分割噴射によって構成してもよい。吸気行程中に燃料噴射を開始することによって、燃焼室17の中に均質又は略均質な混合気を形成することが可能になる。このときに形成される混合気の、空気と燃料との質量比であるA/F、又は、空気を含むガスと燃料との質量比であるG/Fは、理論空燃比よりもリーンである。第一燃料噴射6041の噴射量は、エンジン1の負荷と、後述する第二燃料噴射6043との分割比とによって定まる。尚、燃料の噴射期間は、第一燃料噴射6041の噴射量に応じて変化する。第一燃料噴射6041の噴射開始時期は、少なくとも、前述した特定期間又は特定期間よりも前に、燃焼室17内に理論空燃比よりも燃料濃度がリーンな混合気を形成することができるように、第一燃料噴射6041の噴射量に応じて適宜、設定してもよい。
【0154】
点火プラグ25は、第一燃料噴射の噴射終了後に、混合気に点火を行う(符号6042)。図10の上図1001は、CI領域(2)においてエンジン1が高負荷で運転しているときの、点火時期を例示している。図10の回転数N1は、図5に示すマップの回転数N1に対応している。図10の上図1001の縦軸は、クランク角を示しており、縦軸の上側は進角側を示している。
【0155】
図10の上図1001において、ハッチングを付した範囲が、点火プラグ25の点火時期を示している。点火プラグ25は、ハッチングを付した範囲内の、適宜のタイミングで混合気に点火する。
【0156】
点火プラグ25は、圧縮行程の中後期又は中後期よりも前の圧縮行程において、混合気に点火を行う。このことにより、火炎伝播による燃焼を進行させずに、燃焼室17内に火種を保存することが可能になる。火種は、燃焼室17内の流動によって分散又は拡散する。図9から明らかなように、圧縮行程中において、点火時期が遅すぎても早すぎても、燃焼室17内の流動が弱いときに点火をしてしまうことになる。そのため、燃焼室17内がブロークンリアクションゾーンにあるときに、点火プラグ25が混合気に点火をするよう、図10の上図1001に例示するように、点火時期は、進角限界(上図1001における上側の線)及び遅角限界(上図1001における下側の線)を有している。点火プラグ25は、圧縮行程を、初期、中期、及び終期に三等分したときの、例えば中期の期間内に、混合気に点火を行ってもよい。
【0157】
CI領域(2)において点火プラグ25が点火をするタイミングは、図10の上図1001に一点鎖線で例示するように、同じ運転状態でSI燃焼を行う場合に設定することができるMBT(Minimum advance for Best Torque)よりも大幅に進角している(MBTは、例えば圧縮行程の終期である)。
【0158】
点火時期は、エンジン1の回転数の高低に応じて変化させてもよい。上図1001の例では、エンジン1の回転数が高くなるに従い、点火時期を進角させている。エンジン1の回転数が高くなることに伴う進角限界の変化は、遅角限界の変化よりも大きい(つまり、上図1001における上側の線の傾きは、下側の線の傾きよりも大きい)。
【0159】
尚、点火プラグ25は、特定期間内において複数回の点火を行ってもよい。燃焼室17内に作成する火種の数を増やすことができると共に、燃焼室17内の強い流動によって、たくさんの火種を燃焼室17内に拡散させることができる。そうすることで、混合気の着火性が向上すると共に、混合気の燃焼期間を、さらに短くすることが可能になる。
【0160】
点火プラグ25が混合気に点火をした後の圧縮行程の期間において、インジェクタ6は、燃焼室17内に、燃料を噴射する(つまり、第二燃料噴射6043)。燃焼室17内の混合気の燃料濃度が高くなる。第二燃料噴射6043によって混合気のA/F又はG/Fは、理論空燃比、又は、理論空燃比よりもリッチになる。混合気の燃料濃度が高くなると共に、燃焼室17内の流動が弱くなることに伴い、燃焼室17内の状態は、ブロークンリアクションゾーンから外れる。また、燃焼室17内の温度及び圧力は、圧縮上死点に近づくに従いモータリングにより高まる。そうして、圧縮上死点付近において、保存されていた火種により、混合気が、自着火により、一斉に燃焼を開始する(符号6044)。この燃焼の燃焼重心は、圧縮上死点に近くなるため、エンジン1の熱効率が向上する。また、この燃焼形態では、燃焼期間が短くなるため、ノッキングの発生を抑制することができる。
【0161】
燃焼室17内の混合気の燃料濃度に応じて、燃焼室17の状態がブロークンリアクションゾーンを外れるか否かが変化する。燃焼室17の状態がブロークンリアクションゾーンを外れるタイミングが変化することによって、混合気の燃焼が開始するタイミングが変化する。そのため、混合気が適切なタイミングで燃焼を開始するように、第二燃料噴射6043の噴射量を適宜調整してもよい。
【0162】
第二燃料噴射6043は、図6に例示するように、点火プラグ25が混合気に点火をした後に行えばよい。燃料噴射6043の噴射終了時期が遅くなると、第二燃料噴射6043により噴射した燃料の気化時間が短くなって、排気エミッション性能や、燃費性能に不利になる恐れがある。第二燃料噴射6043の噴射開始時期は、第二燃料噴射6043の噴射量に基づいて、第二燃料噴射6043の噴射終了時期が遅くならないように、適宜、設定すればよい。例えば図10の下図1002は第二燃料噴射6043の噴射開始時期を例示している。図10の下図1002の縦軸は、クランク角を示しており、縦軸の上側は進角側を示している。同図1002においてハッチングを付した範囲が、第二燃料噴射6043の噴射開始時期を示している。インジェクタ6は、ハッチングを付した範囲内の、適宜のタイミングで、第二燃料噴射6043を行う。
【0163】
第二燃料噴射6043の噴射開始時期を変更すると、燃焼室17の状態がブロークンリアクションゾーンを外れるタイミングが変更される。従って、インジェクタ6による第二燃料噴射6043の噴射開始時期を変更することによって、混合気の燃焼開始のタイミングを変更することが可能になる。第二燃料噴射6043の噴射開始時期は、混合気が適切なタイミングで燃焼を開始するように、調整してもよい。
【0164】
第二燃料噴射6043の噴射開始時期は、エンジン1の回転数の高低に応じて変更してもよい。具体的には、エンジン1の回転数が高くなるほど、点火タイミングを進角させることに対応して、第二燃料噴射6043の噴射開始時期を進角させてもよい。下図1002の例では、エンジン1の回転数が高くなるに従い、第二燃料噴射開始時期を進角させている。エンジン1の回転数が高くなることに伴う進角限界の変化(つまり、下図1002における上側の線の傾き)は、遅角限界(つまり、下図1002における下側の線の傾き)の変化よりも大きい。
【0165】
第一燃料噴射6041の噴射量と第二燃料噴射6043の噴射量との比率は、適宜、設定すればよい。
【0166】
EGRシステム55は、エンジン1の運転状態がCI領域(2)にあるときには、燃焼室17の中に、外部EGRガス及び/又は内部EGRガスを導入する。燃焼室17内のEGR率は、混合気が燃焼を開始するタイミングが適切なタイミングとなるように、調整してもよい。
【0167】
また、混合気が燃焼を開始するタイミングが適切なタイミングとなるよう、CI領域(2)においては、圧縮行程における適宜のタイミングで、燃焼室17内に水を噴射してもよい。
【0168】
尚、図5に示すマップ501、502において、CI領域(2)の全域に亘って、前述した燃焼形態を採用してもよいし、CI領域(2)のR−Lラインよりも上側の負荷領域において、前述した燃焼形態を採用してもよい。
【0169】
〈エンジンの制御プロセス〉
図11は、前述したエンジン1の制御に係りECU10が実行する制御フローチャートを例示している。
【0170】
まず、フローがスタートした後のステップS1において、ECU10は、各種センサSW1〜SW16の信号を読み込む。ECU10は、続くステップS2において、エンジン1の運転状態が高回転領域であるか否かを判断する。高回転領域は、前述したCI領域(2)に相当する。ECU10は、ステップS2において、エンジン回転数がN1以上であるか否かを判断するようにしてもよい。ステップS2の判断がYESのときには、制御プロセスはステップS3に進み、ステップS2の判断がNOのときには、制御プロセスはステップS6に進む。
【0171】
ステップS3〜S5は、CI領域(2)における制御ステップである。ステップS3〜S5は、この順番にステップが進行する。
【0172】
ECU10は先ず、ステップS3において、インジェクタ6による第一燃料噴射を実行する。これにより、燃焼室17内に理論空燃比よりもリーンな混合気が形成される。続くステップS4において、ECU10は、所定時期に点火プラグ25による点火を実行する。前述したように、点火プラグ25は、圧縮行程の中後期以前に、点火を行う。そして、ECU10は、ステップS5において、インジェクタ6による第二燃料噴射を実行する。その結果、圧縮上死点の付近において、混合気が、燃焼室17に予め作成された火種により、自着火によって、一斉に燃焼を開始する。
【0173】
一方、ステップS6においては、エンジン1の負荷に応じて、SPCCI領域(1)における制御を行う。
【0174】
〈エンジンの変形例〉
なお、ここに開示する技術は、前述した構成のエンジン1に適用することに限定されない。エンジンの構成は、様々な構成を採用することが可能である。
【0175】
図12は、変形例に係るエンジン100の構成を示している。エンジン100は、機械式過給機44に代えて、ターボ過給機70を備えている。
【0176】
ターボ過給機70は、吸気通路40に配置されたコンプレッサ71と、排気通路50に配置されたタービン72とを備えている。タービン72は、排気通路50に流れる排気ガスによって回転する。コンプレッサ71は、タービン72の回転駆動によって回転し、燃焼室17に導入される吸気通路40内のガスを過給する。
【0177】
排気通路50には、排気バイパス通路73が設けられている。排気バイパス通路73は、タービン72をバイパスするように、排気通路50におけるタービン72の上流部と下流部とを互いに接続する。排気バイパス通路73には、ウェイストゲート弁74が設けられている。ウェイストゲート弁74は、排気バイパス通路73を流れる排気ガスの流量を調整する。
【0178】
本構成例においては、ターボ過給機70とバイパス通路47とエアバイパス弁48と排気バイパス通路73とウェイストゲート弁74とによって、吸気通路40及び排気通路50に過給システム49が構成されている。
【0179】
エンジン100は、エアバイパス弁48及びウェイストゲート弁74の開閉状態を切り替えることによって、ターボ過給機70が燃焼室17内に導入されるガスを過給することと、ターボ過給機70が燃焼室17内に導入されるガスを過給しないこととを切り替えるようになっている。
【0180】
燃焼室17内に導入されるガスを過給しないときには、ウェイストゲート弁74を開く。これにより、排気通路50を流れる排気ガスは、タービン72をバイパスして、つまりタービン72を通らずに、排気バイパス通路73を通って触媒コンバーターに流れる。そうすると、タービン72は排気ガスの流れを受けないため、ターボ過給機70は駆動しない。このとき、エアバイパス弁48は全開とする。これにより、吸気通路40を流れるガスは、コンプレッサ71及びインタークーラー46を通らずに、バイパス通路47を通ってサージタンク42に流入する。
【0181】
燃焼室17内に導入されるガスを過給するときには、ウェイストゲート弁74を全開よりも閉じる。これにより、排気通路50を流れる排気ガスの少なくとも一部は、タービン72を通過して触媒コンバーターに流れる。そうすると、タービン72が排気ガスを受けて回転し、ターボ過給機70が駆動する。ターボ過給機70が駆動すると、吸気通路40内のガスがコンプレッサ71の回転により過給される。このとき、エアバイパス弁48が開いていると、コンプレッサ71を通過したガスの一部がサージタンク42からバイパス通路47を通って、コンプレッサ71の上流に逆流する。吸気通路40内のガスの過給圧は、前記の機械式過給機を用いる場合と同様に、エアバイパス弁48の開度調整によって制御することができる。
【0182】
こうしたターボ過給機70による吸気通路40内のガスの過給と非過給とは、例えば、図13に示すマップ503に従って切り替えられるようになっていてもよい。すなわち、SPCCI領域(1)において負荷の低い領域においてはターボ過給機70による過給は行わず(T/C OFF参照)、SPCCI領域(1)における中負荷及び高負荷領域、並びに、CI領域(2)においては、ターボ過給機70による過給を行う(T/C ON参照)ようにしてもよい。負荷が低い領域においては、トルク要求が低いため、過給の必要性が低い上に、混合気を理論空燃比よりもリーンにするため、排気ガスの温度が低くなる。三元触媒511、513を活性温度に維持するために、ウェイストゲート弁74を開いてタービン72をバイパスすることにより、タービン72における放熱を回避して、高温の排気ガスを三元触媒511、513に供給することができる。
【0183】
ターボ過給機70を備えたエンジン100は、図11に示すフローチャートに従って運転を制御してもよい。エンジン100においても、エンジン100の回転数が高いときに、異常燃焼を回避しつつ、熱効率を向上させることができる。
【0184】
なお、図示は省略するが、ここに開示する技術は、過給機を備えていない自然吸気エンジンに適用することが可能である。
【0185】
〈その他の構成例〉
前記の構成では、エンジン1がCI領域(2)において運転しているときの点火タイミングを、燃焼室17内の流動強さが所定以上のときに行うようにしているが(図9の特定期間の矢印を参照)、点火タイミングは、必ずしも流動強さが所定以上のときでなくてもよい。ブロークンリアクションゾーンは、混合気の燃料濃度と、燃焼室17内の流動強さとの二つのパラメータに関係するが、混合気のA/F又はG/Fが理論空燃比よりもリーンな混合気に点火をすることによって、火炎伝播を進行させずに、火種を保存することができる場合がある。この場合は、点火後に、第二燃料噴射6043を行うことにより、混合気の燃料濃度が濃くなって、燃焼室17内の状態がブロークンリアクションゾーンを外れることにより、圧縮上死点の付近において、混合気が、自着火によって、燃焼を開始するようになる。
【0186】
また、前記の構成では、第一燃料噴射6041により、燃焼室17内に、A/F、又は、G/Fが理論空燃比よりもリーンな混合気を、均質又は略均質となるように形成しているが、第一燃料噴射6041の噴射時期を調整することによって、点火を行うタイミングにおいて、点火プラグ25の近傍に局所的に、A/F、又は、G/Fが理論空燃比よりもリーンな混合気を形成してもよい。
【0187】
インジェクタは、燃焼室17内に燃料を直接噴射するインジェクタに加えて、吸気ポート内に臨んで配設されたポートインジェクタを設けるようにしてもよい。特に、吸気行程において燃料を噴射する第一燃料噴射は、ポートインジェクタによって行ってもよい。
【0188】
また、エンジン1は、火花放電を行う点火プラグ25に代えて、燃焼室17内において、例えばアーク放電やプラズマ放電を発生させる点火部を、備えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0189】
1、100 エンジン
6 インジェクタ(燃料供給部)
10 ECU(制御部)
17 燃焼室
25 点火プラグ(点火部)
S3 第一燃料供給ステップ
S4 点火ステップ
S5 第二燃料供給ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13