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特開2019-137768ハードコート液及びハードコート層の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-137768(P2019-137768A)
(43)【公開日】2019年8月22日
(54)【発明の名称】ハードコート液及びハードコート層の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20190726BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20190726BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20190726BHJP
   B05D 7/02 20060101ALI20190726BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20190726BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20190726BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20190726BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20190726BHJP
【FI】
   C09D183/04
   B32B27/00 101
   B32B27/30 A
   B05D7/02
   B05D5/00 B
   B05D7/24 302Y
   C09D7/12
   C09D5/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-21845(P2018-21845)
(22)【出願日】2018年2月9日
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西 章人
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AE03
4D075BB24Z
4D075CA02
4D075CA13
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DB31
4D075DB42
4D075DB48
4D075DC01
4D075DC13
4D075DC24
4D075EA06
4D075EA41
4D075EB22
4D075EB42
4D075EB43
4D075EC30
4D075EC51
4D075EC54
4F100AD00B
4F100AK25A
4F100AK45
4F100AK52B
4F100DE01B
4F100EH462
4F100EH46B
4F100EJ65
4F100EJ862
4F100EJ86B
4F100JK06
4F100JK12B
4J038DL031
4J038HA446
4J038JA17
4J038JA25
4J038KA06
4J038NA24
(57)【要約】
【課題】 アクリル系プライマ層などのポリアクリル酸エステル誘導体の表面を荒らすことなく、ポリアクリル酸エステル誘導体との密着性に優れたハードコート層を形成することができるハードコート液を提供する。
【解決手段】 ポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂の表面を保護するハードコート層を形成するためのハードコート液であって、前記ハードコート液は、溶質成分と、水及びプロトン性有機溶媒を含む溶媒成分とからなり、前記プロトン性有機溶媒は、沸点が100℃を超える高沸点溶媒と、沸点が100℃未満の低沸点溶媒と、からなり、溶媒成分全体に占める高沸点溶媒の含有率は30〜50重量%、低沸点溶媒の含有率は25〜50重量%、水の含有率は10〜30重量%であることを特徴とするハードコート液。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂の表面を保護するハードコート層を形成するためのハードコート液であって、
前記ハードコート液は、溶質成分と、水及びプロトン性有機溶媒を含む溶媒成分とからなり、
前記プロトン性有機溶媒は、沸点が100℃を超える高沸点溶媒と、沸点が100℃未満の低沸点溶媒と、からなり、
溶媒成分全体に占める高沸点溶媒の含有率は30〜50重量%、低沸点溶媒の含有率は25〜50重量%、水の含有率は10〜30重量%であることを特徴とするハードコート液。
【請求項2】
前記プロトン性有機溶媒は、アルコール又はカルボン酸からなる請求項1に記載のハードコート液。
【請求項3】
前記溶質成分は、シリコーン系成分からなる請求項1又は2に記載のハードコート液。
【請求項4】
前記シリコーン系成分は、シロキサンを含む請求項3に記載のハードコート液。
【請求項5】
前記溶質成分は、セラミック粒子を含有する請求項1〜4のいずれか一項に記載のハードコート液。
【請求項6】
ポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂の表面に請求項1〜5のいずれか一項に記載のハードコート液を塗布し、乾燥させることを特徴とするハードコート層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコート液及びハードコート層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両用の窓ガラスや、家屋、ビル等の建物に取り付けられる建材用の窓ガラスとして、これまでの無機ガラス板に代わって透明樹脂板を使用する動きが高まっている。特に、自動車等の車両では軽量化のために、窓材に透明樹脂板を用いることが提案されており、とりわけ芳香族ポリカーボネート系の透明樹脂板は、耐破壊性、透明性、軽量性、易加工性などに優れるため、有望な車両用窓材としてその使用が検討されている。しかしながら、このような透明樹脂板は、そのままガラス板の代わりに使用するには耐擦傷性や耐候性の点で問題があった。
【0003】
そこで、透明樹脂板の耐擦傷性及び耐候性を向上させる目的で、種々のハードコート剤、特にシリコーン系ハードコート剤を用いて透明樹脂板の表面に被膜を形成することが提案されている。また、シリコーン系ハードコート剤を用いて透明樹脂板上に被膜(ハードコート層)を形成させる際には、ハードコート層と透明樹脂板との密着性を向上させるために、プライマ層を用いることが提案されている。
【0004】
特許文献1には、プライマ層を介して、シリコーン系ハードコート層を樹脂基板上に形成したハードコート被膜付き樹脂基板であって、耐擦傷性に優れるとともに、ハードコート層に係る耐候密着性、耐候クラック性等の耐候性にも優れるハードコート被膜付き樹脂基板が開示されている。すなわち、樹脂基板の少なくとも一方の面上に、樹脂基板側から順にプライマ層、中間層及びハードコート層を有するハードコート被膜付き樹脂基板であって、前記プライマ層は、アクリル系ポリマーを主成分として含有し、前記ハードコート層は、オルガノポリシロキサンの硬化物を主成分として含有し、前記中間層は、前記アクリル系ポリマーと前記オルガノポリシロキサンの硬化物を主成分として含有しており、さらに、前記中間層の膜厚をMtとし、前記ハードコート層の膜厚をHtとしたときに、Mt/Htが、0.05〜1.0であるハードコート被膜付き樹脂基板が提案されている。
【0005】
また、特許文献1では、ハードコート層を形成するためのハードコート剤組成物は、通常、必須成分であるオルガノポリシロキサン、及び、任意成分である種々の添加剤等が溶媒中に溶解、分散した形態で調製される。また、前記ハードコート剤組成物中の全不揮発成分は、溶媒に安定的に溶解、分散することが必要であり、そのために溶媒は、少なくとも20質量%以上、好ましくは50質量%以上のアルコールを含有する必要があることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2011/078178号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されたハードコート被膜付き樹脂基板では、アクリル系のプライマ層の上に、アルコールを溶媒とするハードコート剤組成物を塗布してハードコート層を形成している。その結果、アルコールなどの有機溶媒は、アクリル系のプライマ層を溶解し、一旦形成されたプライマ層を荒らしてしまう結果、プライマ層とハードコート層との密着性が悪化したり、ハードコート被膜付き樹脂基板の外観が損なわれてしまうという問題があった。
【0008】
上記問題に鑑み、本発明者は鋭意検討した結果、乾燥の過程における溶媒比をコントロールすることにより、ポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂の表面を荒らすことなく、ポリアクリル酸エステル誘導体との密着性に優れたハードコート層を形成することができることを見出し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、アクリル系プライマ層などのポリアクリル酸エステル誘導体の表面を荒らすことなく、ポリアクリル酸エステル誘導体との密着性に優れたハードコート層を形成することができるハードコート液及び該ハードコート液を用いたハードコート層の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明のハードコート液は、ポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂の表面を保護するハードコート層を形成するためのハードコート液であって、
上記ハードコート液は、溶質成分と、水及びプロトン性有機溶媒を含む溶媒成分とからなり、上記プロトン性有機溶媒は、沸点が100℃を超える高沸点溶媒と、沸点が100℃未満の低沸点溶媒と、からなり、溶媒成分全体に占める高沸点溶媒の含有率は30〜50重量%、低沸点溶媒の含有率は25〜50重量%、水の含有率は10〜30重量%であることを特徴とする。
【0011】
上記ポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂との密着性に優れたハードコート層を形成するためには、ポリアクリル酸エステル誘導体及びハードコート層の両方に対する密着性に優れた中間層を形成する必要がある。中間層とは、ポリアクリル酸エステル誘導体とハードコート層を構成する樹脂とが混合してできた層であり、両方の成分を有するため、ポリアクリル酸エステル誘導体及びハードコート層との密着性に優れる。
【0012】
ハードコート液中の有機溶媒が樹脂を溶解しないと、そもそもポリアクリル酸エステル誘導体の中に浸み込むことができず中間層を形成することができない。一方、有機溶媒の含有率が適切に設定されていないと、ポリアクリル酸エステル誘導体の溶解度が高くなり、ポリアクリル酸エステル誘導体の表面を荒らしてしまう結果、プライマ層とハードコート層との密着性が悪化したり、ハードコート層を有する樹脂板の外観が損なわれてしまう。
【0013】
しかしながら、本発明のハードコート液によれば、水の含有量が10重量%以上であるので、乾燥初期のハードコート液の粘度が低い段階においては、プロトン性有機溶媒を含む溶媒成分は、ポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂の表面を荒らすことがない。また、水の含有量が30重量%以下であるので、乾燥過程でプロトン性有機溶媒とともに水は揮発してしまって残留しにくく、かつ、乾燥過程での溶質成分の相分離などの悪影響の発生を防止することができる。
【0014】
また、低沸点溶媒の含有量が25重量%以上かつ高沸点溶媒の含有量が50重量%以下であるので、塗布前のハードコート液の段階で溶質成分を充分に溶解させることができ、均一な組成を有するハードコート液を調製することができる。
さらに低沸点溶媒の含有量は50重量%以下であり、かつ、高沸点溶媒の含有量が30重量%以上と高いので、乾燥工程で液成分が蒸発していっても、高沸点溶媒の含有率は低くならず、高沸点溶媒を残留させながら高い温度まで粘度の高いハードコート液の状態を維持することができる。
このように、乾燥過程を通して、水とプロトン性有機溶媒の比率がバランスしながら蒸発し、最終段階でプロトン性有機溶媒の比率が高まりポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂の表面を溶かしながら中間層を形成する。
【0015】
加えてハードコート液の乾燥過程における粘度には、溶媒の蒸発に伴う粘度の上昇と、溶質の縮合に伴う粘度の上昇の2つの要素が影響を与えている。溶質の縮合に伴う粘度の上昇は、一定の温度を保持するだけで溶媒の蒸発を伴うことなく発現する。この効果により、乾燥過程において、樹脂表面に、溶媒で膨潤しゲル化したハードコート層が形成されるとともに、ゲル化しているのでポリアクリル酸エステルからなる樹脂表面への浸入は抑制され、ゲル状のハードコート液がゆっくりとポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂の表面に浸入することができる。その結果、硬さの硬いハードコート層を形成することができるとともに、ポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂の表面を荒らすことなく、ハードコート層とポリアクリル酸エステル誘導体の両方の成分を有する中間層を形成することができると考えられる。
【0016】
本発明のハードコート液において、上記プロトン性有機溶媒は、アルコール又はカルボン酸からなることが好ましい。
上記アルコール又は上記カルボン酸は、ポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂に対して適度な溶解度を有しており、ポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂を過度に溶解することなく、適切な厚さの中間層を形成することができる。また、これらの溶媒は、水と混合しやすく、上記ポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂に対する溶解性を調整し易い。
【0017】
本発明のハードコート液において、上記溶質成分は、シリコーン系成分からなることが好ましい。
上記シリコーン系成分は、硬い被膜を形成することができる上に、縮合前の原料は、プロトン性有機溶媒に溶解しやすく、本発明のハードコート液として好適に使用することができる。
【0018】
本発明のハードコート液において、上記シリコーン系成分は、シロキサンを含むことが好ましい。
上記シロキサン成分は、縮合することによりポリシロキサンの硬い被膜を形成することができるので、ハードコート層を形成するためのハードコート液として好適に使用することができる。
【0019】
本発明のハードコート液において、上記溶質成分は、セラミック粒子を含有することが好ましい。
本発明のハードコート液がセラミック粒子を含有すると、ハードコート層はセラミック粒子を含むので、さらに硬いハードコート層を形成することができる。
【0020】
本発明のハードコート層の製造方法では、ポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂の表面に上記ハードコート液を塗布し、乾燥させることを特徴とする。
本発明のハードコート層の製造方法において、ポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂の表面に上記したハードコート液を塗布し、乾燥させることにより、ポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂の表面に硬いハードコート層を形成することができるとともに、ポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂及びハードコート層に密着性を有する中間層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明のハードコート液を用いて形成した、基板上にプライマ層及びハードコート層が形成された透光板を模式的に示す断面図である。
【0022】
(発明の詳細な説明)
本発明のハードコート液は、ポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂の表面を保護するハードコート層を形成するためのハードコート液であって、
上記ハードコート液は、溶質成分と、水及びプロトン性有機溶媒を含む溶媒成分とからなり、上記プロトン性有機溶媒は、沸点が100℃を超える高沸点溶媒と、沸点が100℃未満の低沸点溶媒と、からなり、溶媒成分全体に占める高沸点溶媒の含有率は30〜50重量%、低沸点溶媒の含有率は25〜50重量%、水の含有率は10〜30重量%であることを特徴とする。
【0023】
本発明のハードコート液によれば、水の含有量が10重量%以上であるので、乾燥初期のハードコート液の粘度が低い段階においては、プロトン性有機溶媒を含む溶媒成分は、ポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂の表面を荒らすことがない。また、水の含有量が30重量%以下であるので、乾燥過程でプロトン性有機溶媒とともに水は揮発してしまって残留しにくく、乾燥過程での溶質成分の相分離などの悪影響の発生を防止することができる。
【0024】
また、低沸点溶媒の含有量が25重量%以上かつ高沸点溶媒の含有量が50重量%以下であるので、塗布前のハードコート液の段階で溶質成分を充分に溶解させることができ、さらに低沸点溶媒の含有量は50重量%以下であり、かつ、高沸点溶媒の含有量が30重量%以上と高いので、乾燥工程で液成分が蒸発していっても、高沸点溶媒の含有率は低くならず、高沸点溶媒を残留させながら高い温度まで粘度の高いハードコート液の状態を維持することができる。
このように、乾燥過程を通して、水とプロトン性有機溶媒の比率がバランスしながら蒸発し、最終段階でプロトン性有機溶媒の比率が高まりポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂の表面を溶かしながら中間層を形成する。
【0025】
加えて、溶質の縮合に伴う粘度の上昇によりハードコート液は、溶媒で膨潤、ゲル化し、ポリアクリル酸エステルからなる樹脂表面への浸入が抑制され、ゲル状のハードコート液がゆっくりとポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂の表面に浸入することができる。その結果、ポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂の表面を荒らすことなく、ハードコート層を形成することができるとともに、ハードコート層とポリアクリル酸エステル誘導体の両方の成分を有し、両者への密着性に優れた中間層を形成できると考えられる。
【0026】
溶媒成分全体に占める高沸点溶媒の含有率は30〜35重量%、低沸点溶媒の含有率は40〜50重量%、水の含有率は20〜25重量%が好ましい。
【0027】
ポリアクリル酸エステル誘導体としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリ2−エチルヘキシルメタクリレート、ポリヘキシルメタクリレート、ポリシクロヘキシルメタクリレート、ポリオクチルメタクリレート、ポリフェニルメタクリレート、ポリベンジルメタクリレート、ポリトリフルオロエチルメタクリレート、ポリペンタフルオロプロピルメタクリレート等が挙げられる。これらのなかでも、ポリメチルメタクリレートが好ましい。
ポリアクリル酸エステル誘導体の数平均分子量は、2000を超え、100000以下であることが好ましい。
【0028】
ポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂の形態は特に限定されず、どのような形態のものでも利用することができる。例えば、ポリメチルメタクリレート等のポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂として板状体を用い、この板状体にハードコート液を直接塗布し、ハードコート層を形成してもよく、別の種類の基材にポリアクリル酸エステル誘導体を含むプライマ液を塗布し、ポリアクリル酸エステル誘導体からなるプライマ層を形成し、その上にハードコート液を塗布し、ハードコート層を形成してもよい。基材とハードコート層との接着力がない場合でも、基材表面にポリアクリル酸エステル誘導体からなるプライマ層を形成することにより、基材とハードコート層との接着力を確保することができる。
【0029】
ポリアクリル酸エステル誘導体以外の材料からなる基材表面にポリアクリル酸エステル誘導体からなるプライマ層を形成し、その上にハードコート層を形成する場合、基材の材料としては、金属、セラミック、樹脂などを使用することができ、その種類は特に限定されない。しかし、ハードコート層を形成し表面を保護する目的でハードコート層を形成するのであるから、基材は樹脂であることが好ましく、傷を防止するハードコート層の目的から透明な樹脂であることが望ましい。従って、上記基材としては、例えば、ポリカーボネート、塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、高密度ポリエチレンなどが挙げられる。
【0030】
上記ハードコート液は、上記プロトン性有機溶媒として、沸点が100℃を超える高沸点溶媒と、沸点が100℃未満の低沸点溶媒とを含む。
上記低沸点溶媒としては、例えば、メタノール(沸点65℃)、エタノール(沸点78℃)、イソプロピルアルコール(沸点83℃)、t−ブチルアルコール(沸点83℃)などが挙げられる。これらの溶媒は、溶質の一つであるシリコーン系成分の溶解度が高く、多くの溶質を溶解させることができる。
【0031】
高沸点溶媒は、樹脂基材を用い、樹脂基材の表面にポリアクリル酸エステル誘導体からなるプライマ層を形成する場合、上記基材の熱による劣化、軟化を防止する観点から、高沸点溶媒の沸点は上記基材を構成する樹脂の軟化点以下であることが好ましい。例えば、ポリカーボネートの基材の上にポリメタクリル酸メチルからなるプライマ層を形成し、その上にハードコート層を形成する場合、ハードコート液に使用できる高沸点溶媒の沸点は、ポリカーボネートの軟化点(140℃)より低いことが好ましい。なお、プライマ層は軟らかくなっても全体の変形には影響を及ぼさないので、プライマ層の軟化点は特に考慮しなくてもよい。
【0032】
沸点が100℃を超える高沸点溶媒としては、例えば、n−ブタノール(沸点118℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM、沸点121℃)、酢酸(沸点118℃)などが挙げられる。上記高沸点溶媒は、ハードコート液の乾燥過程の後半で、溶媒中に残留する主成分となる。
【0033】
本発明のハードコート液では、上述のように、溶媒成分全体に占める高沸点溶媒の含有率は30〜50重量%、低沸点溶媒の含有率は25〜50重量%、水の含有率は10〜30重量%である。
【0034】
溶媒成分全体に占める高沸点溶媒の含有率が30重量%未満であると、高沸点溶媒の含有率が少なすぎるため、ハードコート液をポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂表面に塗布した後、乾燥させると、早い段階でハードコート液が蒸発してしまい中間層の形成が難しくなる。一方、溶媒成分全体に占める高沸点溶媒の含有率が50重量%を超えると、塗布する前の段階で溶質成分の溶解度が下がり、溶質成分を充分に溶かしきれず、ハードコート液に起因してポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂の表面に荒れが発生し易くなる。
【0035】
溶媒成分全体に占める低沸点溶媒の含有率が25重量%未満であると、高沸点溶媒の含有率が多くなるため、塗布する前の段階で溶質成分の溶解度が下がり、溶質成分を充分に溶かしきれず、ハードコート液に起因するポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂に荒れが発生し易くなる。一方、溶媒成分全体に占める低沸点溶媒の含有率が50重量%未満を超えると、低沸点溶媒の含有率が多くなり過ぎるため、乾燥時に、早い段階でハードコート液が蒸発してしまい中間層の形成が難しくなる。
【0036】
溶媒成分全体に占める水の含有率が10重量%未満であると、水の含有率が低すぎ、プロトン性有機溶媒の含有率が高くなりすぎるため、プロトン性有機溶媒がポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂の表面を荒らしてしまう。一方、水の含有率は30重量%を超えると、溶質の相分離などの問題が発生し易くなるとともに、乾燥の際に水が残留し易く、中間層の形成が難しくなる。
【0037】
上記溶質成分としては、シリコーン樹脂等のシリコーン系成分を含むことが好ましく、特に、シロキサンを含むことが好ましい。シロキサンは乾燥過程で縮合し、ポリシロキサンとなり硬い破膜を形成することができる。ポリシロキサンとは、主鎖が主にシロキサン結合で構成された樹脂をいい、側鎖、官能基などは特に限定されない。
シリコーン系成分のハードコート液全体に占める割合は、24〜35重量%が好ましい。
【0038】
上記溶質成分には、シリコーン系成分のほかに、セラミック粒子を含有することが好ましい。上記セラミック粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ジルコニア等が挙げられる。セラミック粒子の平均粒子径は、例えば、10〜1000nmが好ましい。セラミック粒子の平均粒子径は、レーザ回折式粒度分布測定装置で測定することができる。ハードコート液には、シリカハイブリッドコンポジットやシリカゾル等が含まれていてもよい。
セラミック粒子のシリコーン系成分とセラミック粒子の合計量に対する割合は、10〜50重量%が好ましい。
【0039】
次に、上記ハードコート液を使用したハードコート層の製造方法について説明する。
本発明のハードコート層の製造方法は、ポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂の表面に上記したハードコート液を塗布し、乾燥させることを特徴とする。
【0040】
ポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂については、本発明のハードコート液で説明したので、ここでは、その説明を省略する。
上記したように本発明では、ポリメチルメタクリレート等のポリアクリル酸エステル誘導体からなる板状体にハードコート液を直接塗布し、ハードコート層を形成してもよく、別の種類の基材にポリアクリル酸エステル誘導体を含むプライマ液を塗布し、ポリアクリル酸エステル誘導体からなるプライマ層を形成し、その上にハードコート液を塗布し、ハードコート層を形成してもよい。
ここでは、ポリカーボネート等からなる基材にポリアクリル酸エステル誘導体を含むプライマ液を塗布し、ポリアクリル酸エステル誘導体からなるプライマ層を形成し、その上にハードコート液を塗布し、ハードコート層を形成する場合について説明する。
【0041】
本発明のハードコート層の製造方法では、まず、基材表面にプライマ層を形成する。
上記プライマ層を形成する際には、ポリアクリル酸エステル誘導体とアルコール又はアミン等を含む溶媒等を調製した後、プライマ液を基材の表面に塗布し、加熱、乾燥、硬化させることによってポリアクリル酸エステル誘導体からなるプライマ層を形成することができる。
塗布の方法は特に限定されず、例えば、スプレーコート、ディップコート等が挙げられる。乾燥の温度は、120〜140℃程度が好ましく、乾燥時間は、10〜60分が好ましい。
【0042】
上記プライマ層を形成した後、本発明のハードコート液を使用し、プライマ層の表面に上記ハードコート液を塗布し、乾燥させる。
塗布の方法は特に限定されず、プライマ層形成方法と同様、例えば、スプレーコート、ディップコート等が挙げられる。乾燥の温度は、100〜140℃程度が好ましく、乾燥時間は、10〜80分が好ましい。
【0043】
乾燥工程においては、先に低沸点溶媒が蒸発し、続いて水、高沸点溶媒が順に蒸発する。
このように、乾燥過程を通して、水とプロトン性有機溶媒の比率がバランスしながら蒸発し、最終段階でプロトン性有機溶媒の比率が高まりポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂の表面を溶かしながら中間層を形成する。乾燥過程の最終段階でも、高沸点溶媒の含有率は低くならず、高沸点溶媒を残留させながら高い温度まで粘度の高いハードコート液の状態を維持することができる。加えて、溶質の縮合に伴う粘度の上昇によりハードコート液は、溶媒で膨潤、ゲル化し、ポリアクリル酸エステルからなる樹脂表面への浸入が抑制され、ゲル状のハードコート液がゆっくりとポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂の表面に浸入することができる。その結果、ポリアクリル酸エステル誘導体からなる樹脂の表面を荒らすことなく、硬さの硬いハードコート層を形成することができるとともに、ハードコート層とポリアクリル酸エステル誘導体の両方の成分を有し、両者への密着性に優れた中間層を形成することができる。
【0044】
図1は、本発明のハードコート液を用いて形成した、基板上にプライマ層及びハードコート層が形成された透光板を模式的に示す断面図である。なお、図1に示す各層の厚さは、図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の厚さの関係を表してはいない。また、基板上にプライマ層及びハードコート層が形成された樹脂板を以降は、透光板と呼ぶこととする。
【0045】
図1に示す透光板1は、樹脂製の基材11と、基材11の上に設けられたプライマ層12と、プライマ層12の上に設けられたハードコート層13と、からなる。プライマ層12とハードコート層13との間には、中間層14が形成されており、中間層14は、プライマ層12とハードコート層13との密着性に優れるため、基材11との密着性に優れた透光板を製造することができる。
【0046】
上記透光板において、基材の形状は、特に限定されるものではなく、平板、曲板、半円筒、円筒状の他、その断面の外縁の形状は、楕円形、多角形等の任意の形状であってもよい。上記透光板を自動車用等のガラスとして使用する場合、基材は、曲面状に湾曲していることが好ましい。
【0047】
上記透光板において、基材は、無色である必要はなく、有色であってもよい。
【0048】
本発明の透光板においては、サンドブラスト処理や化学薬品等によって基材の表面が粗化されていてもよい。基材の表面が粗化されていても、プライマ層及びハードコート層によって平滑化され、光が散乱されにくくすることができる。
【0049】
上記透光板において、基材の厚さは、1〜10mmであることが好ましい。
基材の厚さが上記範囲であると、例えば自動車用等のガラスとして使用する場合の機械的強度を確保することができ、さらに、透光板の全体に歪み等が発生しにくくなる。
【0050】
上記透光板において、プライマ層の厚さは特に限定されないが、基材及びハードコート層との接着性の観点から、1〜10μmが好ましく、2〜5μmがより好ましい。
【0051】
上記透光板において、ハードコート層の厚さは特に限定されないが、高い表面硬度を得る観点から、1〜10μmが好ましく、2〜5μmがより好ましい。
【0052】
上記透光板において、中間層の厚さは、0.3〜2μmであることが好ましい。
中間層の厚さが上記範囲であると、ハードコート層とプライマ層との密着性を高めることができる。
【0053】
プライマ層、中間層及びハードコート層の厚さは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて透光板の断面を観察したTEM画像から測定することができる。
【0054】
上記透光板では、プライマ層及びハードコート層は、基材の片面に設けられていてもよく、両面に設けられていてもよい。また、ハードコート層の上には、ハードコート層とは異なる材料からなるセラミック層が設けられていてもよい。
【0055】
上記した透光板は、自動車用のガラスとして使用されることが好ましく、具体的には、自動車用の窓、ランプカバー又はランプレンズに使用されることが好ましい。
【0056】
自動車用の窓としては、前後左右の窓、ルーフ等が挙げられる。中でも、リアウインドウに使用されることが好ましい。
ランプカバーとしては、ヘッドランプカバー、スモールランプカバー、ウィンカーカバー、フォグランプカバー、テールランプカバー、ブレーキランプカバー、バックランプカバー、車内灯カバー等が挙げられる。
ランプレンズとしては、ヘッドランプレンズ、スモールランプレンズ、ウィンカーレンズ、フォグランプレンズ、テールランプレンズ、ブレーキランプレンズ、バックランプレンズ、車内灯レンズ等が挙げられ、ランプカバーと一体化したものであってもよい。
【0057】
上記透光板は、自動車用のガラス以外の用途として、列車、航空機、船舶、二輪車、自転車等の自動車以外の輸送用機器用のガラス(窓、ランプカバー、各種ランプレンズ等);家屋、オフィスビル等の建築物用のガラス(窓等);室内照明(LED照明、蛍光灯)、信号機、道路灯、歩道灯、防犯灯、公園灯等の各種照明のカバー等に使用することができる。
【0058】
(実施例)
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0059】
<サンプルの作製>
[実施例1]
以下のように、樹脂製の基材の表面にプライマ層を形成した後、ハードコート層を形成することにより、実施例1のサンプルを作製した。
基材としては、100mm×100mm×5mmのポリカーボネート(旭硝子株式会社製カーボグラス(登録商標))を準備した。
アクリル系プライマ(モメンティブ社製 470 FT 2050:固形分9wt%、PGM76wt%、ジアセトンプロパノール15wt%)を満たした槽に基材をディップしたのち引き上げ、135℃で40分間乾燥させ、プライマ層を形成した。
上記工程によりプライマ層が形成された基材を、溶質として、シリコーン樹脂(モメンティブ社製 AS4700F)、高沸点溶媒として、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、n−ブタノール及び酢酸、低沸点溶媒として、メタノール及びイソプロピルアルコール(IPA)、並びに、水を下記の表1に示した割合で配合したハードコート液にディップしたのち引き上げ、140℃で60分間乾燥させ、ハードコート層及び中間層を形成し、実施例1のサンプルの製造を終了した。
【0060】
[実施例2]
ハードコート液の組成を下記の表1に記載の割合に変更したほかは、実施例1と同様にしてプライマ層及びハードコート層を有する実施例2に係る透光板を得た。
【0061】
[比較例1]
ハードコート液の組成を下記の表1に記載の割合に変更したほかは、実施例1と同様にしてプライマ層及びハードコート層を有する比較例1に係る透光板を得た。
【0062】
【表1】
【0063】
<TEM観察>
透過型電子顕微鏡(日本電子社製 JEM2010)を用いて、各サンプルの断面を観察した。加速電圧は200kVであった。
【0064】
実施例1のサンプルでは、厚さが2.6μmのプライマ層12と厚さが3.1μmのハードコート層13との間に厚さが0.55μmの中間層14が形成されていた。
また、実施例2のサンプルでは、厚さが2.8μmのプライマ層12と厚さが6.0μmのハードコート層13との間に厚さが0.48μmの中間層14が形成されていた。
一方、図3に示すように、比較例1のサンプルでは、厚さが2.6μmのプライマ層12と厚さが3.8μmのハードコート層13との間に中間層が形成されていなかった。
【0065】
上記表1に示されているように、実施例1及び実施例2では、溶媒中の水の含有量が10〜30重量%の範囲にあり、低沸点溶媒の合計含有率が25〜50重量%、高沸点溶媒の合計含有率が30〜50重量%の範囲内にあるので、ハードコート液が蒸発する過程で充分な比率の高沸点溶媒が残留し、中間層を形成したと考えられる。
一方、比較例1では、高沸点溶媒の合計量が28.6重量%と低いのに対し、低沸点溶媒の含有率が53.3重量%と高かったので、ハードコート液が蒸発する過程で充分な比率の高沸点溶媒が残留せず、中間層を形成できなかったと考えられる。
【0066】
<耐久性の評価>
以下に示す煮沸試験を行い、ハードコート層とプライマ層との密着性を評価することにより、各サンプルの耐久性を評価した。
【0067】
各サンプルのハードコート層に碁盤目のクロスカット(1mmのマス目を100個)を施した後、常圧下において、100℃のイオン交換水に2時間浸漬させた。その後、JIS Z 1522適合品のセロハン粘着テープ(ニチバン社製)をハードコート層の上に貼り付け、指で強く押し付けた後、90°方向に剥離し、ハードコート層が剥離した個数により評価を行った。
【0068】
実施例1及び実施例2のサンプルの剥離個数は0個、比較例1のサンプルの剥離個数は14個であった。実施例1及び実施例2と比較例1との比較から、プライマ層とハードコート層との間に中間層を形成することにより、ハードコート層とプライマ層との密着性を高めることができることが確認された。
【符号の説明】
【0069】
1 透光板
11 基材
12 プライマ層
13 ハードコート層
14 中間層
図1