特開2019-17350(P2019-17350A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特開2019-17350植物育成システム、植物育成方法および植物育成システム用プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-17350(P2019-17350A)
(43)【公開日】2019年2月7日
(54)【発明の名称】植物育成システム、植物育成方法および植物育成システム用プログラム
(51)【国際特許分類】
   A01G 31/00 20180101AFI20190111BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20190111BHJP
【FI】
   A01G31/00 612
   A01G7/00 601A
   A01G7/00 603
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-141224(P2017-141224)
(22)【出願日】2017年7月20日
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【住所又は居所】京都府京都市左京区吉田本町36番地1
(71)【出願人】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
【住所又は居所】京都府京都市南区吉祥院宮の東町2番地
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(72)【発明者】
【氏名】清水 浩
(72)【発明者】
【氏名】中村 龍平
(72)【発明者】
【氏名】中西 保之
【テーマコード(参考)】
2B022
2B314
【Fターム(参考)】
2B022AB11
2B022DA02
2B022DA17
2B314MA06
2B314MA07
2B314MA12
2B314MA18
2B314MA21
2B314MA38
2B314MA39
2B314MA40
2B314MA42
2B314MA52
2B314PA06
2B314PD42
2B314PD43
2B314PD52
2B314PD57
2B314PD58
2B314PD59
2B314PD63
(57)【要約】      (修正有)
【課題】放射温度計を用いて葉温を測定し、測定した葉温に基づいて植物の育成環境を制御することで、植物の成長度を高めて収穫量を増大することができる植物育成システムを提供する。
【解決手段】明期と暗期とが交互に繰り返される育成環境下において植物を育成する植物育成システムであって、植物の葉温を測定する放射温度計と、測定した葉温に基づいて植物の育成環境を制御する制御部とを備え、制御部は、暗期の一部期間または全期間における葉温の平均温度が、明期の一部期間または全期間における葉温の平均温度以上となるように、植物の育成環境を制御することを特徴とする植物育成システム。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明期と暗期とが交互に繰り返される育成環境下において植物を育成する植物育成システムであって、
前記植物の葉温を測定する放射温度計と、
前記測定した葉温に基づいて前記植物の育成環境を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、前記暗期の一部期間または全期間における前記葉温の平均温度が、前記明期の一部期間または全期間における前記葉温の平均温度以上となるように、前記植物の育成環境を制御することを特徴とする植物育成システム。
【請求項2】
前記育成環境は、前記植物を育成する雰囲気の温度若しくは湿度、前記植物に供給される養液の成分、濃度、pH若しくは液温、前記植物に照射する光の照度若しくは波長、前記植物に供給される二酸化炭素の濃度若しくは供給量、又は前記植物に供給される風量から選択される一つまたは複数である、請求項1記載の植物育成システム。
【請求項3】
前記植物はC植物である請求項1又は2記載の植物育成システム。
【請求項4】
前記植物は葉物野菜である請求項1〜3のいずれか記載の植物育成システム。
【請求項5】
前記育成環境は前記植物を育成する雰囲気の温度であり、前記雰囲気の平均温度を19℃以上25℃以下に制御する請求項4記載の植物育成システム。
【請求項6】
明期と暗期とが交互に繰り返される育成環境下において植物を育成する植物育成方法であって、
放射温度計を用いて前記植物の葉温を測定し、
前記暗期の一部期間または全期間における前記葉温の平均温度が、前記明期の一部期間または全期間における前記葉温の平均温度以上となるように、前記植物の育成環境を制御することを特徴とする植物育成方法。
【請求項7】
植物の葉温を測定する放射温度計を備え、明期と暗期とが交互に繰り返される育成環境下において前記植物を育成する植物育成システムに用いられるものであって、
前記測定した葉温に基づき、前記暗期の一部期間または全期間における前記葉温の平均温度が、前記明期の一部期間または全期間における前記葉温の平均温度以上となるように、前記植物の育成環境を制御する制御部としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とする植物育成システム用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射温度計によって葉温を管理して植物を育成する植物育成システム、植物育成方法および植物育成システム用プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、植物工場による食用植物の育成方法が広く普及している。植物工場とは、施設内の植物の生育に必要な環境を、照明、空調、養液供給等により人工的に制御することで、季節を問わず植物を生産することができるシステムのことである。
【0003】
植物工場による植物の育成として、植物の葉面の温度である葉温を測定し、測定した温度に基づいて植物の育成状態を管理する技術が従来知られている。例えば特許文献1には、育成する植物の葉温を放射温度計で測定し、測定している葉温の値が振動を始めたときに、生育室内の温度や植物への注水量を制御し、育成する植物が枯死しないように管理する技術が開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1に開示される従来の植物育成方法では、放射温度計で葉温を管理して育成する植物が枯死しないようにすることはできるものの、植物の成長度を高めて収穫量を増大するように葉温を管理することはされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−39212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、植物の成長度を高めて収穫量を増大することができる植物育成システム、植物育成方法および植物育成システム用プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成するため、様々な角度から検討を行った。鋭意検討を重ねた結果、暗期における葉温が明期における葉温よりも高くなるように植物の育成環境を制御することで、植物の成長度を促進することができ、単位期間あたりの植物の収穫量を増大することができることを初めて見出した。
【0008】
すなわち、本発明に係る植物育成システムは、明期と暗期とが交互に繰り返される育成環境下において植物を育成するものであって、前記植物の葉温を測定する放射温度計と、前記測定した葉温に基づいて前記植物の育成環境を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記暗期の一部期間または全期間における前記葉温の平均温度が、前記明期の一部期間または全期間における前記葉温の平均温度以上となるように、前記植物の育成環境を制御することを特徴とする。
【0009】
このようなものであれば、暗期における植物の葉温を、明期における植物の葉温よりも高くすることで、育成期間における植物の成長度を高めることができ、単位期間あたりの植物の収穫量を増大することができる。
【0010】
なお、本発明に係る植物育成システムでは育成植物の葉温を測定しているので、植物の葉面における蒸散作用を精度よく捉えることができる。さらには、熱電対等のような接触型の温度計ではなく、葉面に物理的に接触することのない放射温度計を用いて葉温を測定しているので、葉面の細胞を傷めることなく、蒸散作用をより精度よく捉えることができる。
このように、本発明に係る植物育成システムは、放射温度計を用いて葉面の温度を測定しているので、葉面における蒸散作用を極めて高い精度で捉えることができる。葉面における蒸散作用は、葉面の気孔の開閉と密接に関連しており、そして気孔の開閉は植物の光合成反応と密接に関連している。つまり、葉面における蒸散作用を精度よく捉えることにより、植物の光合成反応(光合成を行っているか否か)を精度よく捉えることができると言える。
すなわち、本発明に係る植物育成システムにおいて測定する葉温は、光合成反応と密接に関連する作用である蒸散作用を高い精度で反映している。そのため、植物の育成環境を制御して、このような葉温を制御することにより、実質的に、育成植物の光合成反応を高い精度で制御することができるのである。
【0011】
なお本明細書において、“明期”とは育成する植物に照射される光の光量が所定の値以上である期間を意味し、“暗期”とは当該光の光量が所定の値未満である期間を意味する。この“明期”および“暗期”は、育成対象である植物の種類や、育成環境のうち光の照射方法により、適宜設定することができる。
【0012】
例えば、“明期”とは、育成する植物が光合成を行うことが可能な程度の光量の光が照射されている期間であり、“暗期”とは、育成する植物が光合成を行うことが可能な程度の光量の光が照射されていない期間、すなわち、育成期間のうち前記“明期”以外の期間としてよい。
【0013】
また別の例では、“明期”とは、光補償点より強い強度の光が育成する植物に照射されている期間であり、“暗期”とは、光補償点と同じ強度、又はそれより弱い強度の光が育成する植物に照射されている期間としてもよい。なお、光補償点とは、育成する植物の光合成速度と呼吸速度とが等しくなり、見かけ上、二酸化炭素の収支がゼロになる光の強度である。
【0014】
本発明に係る植物育成システムにおいて、制御する育成環境の具体的な態様としては、植物を育成する雰囲気の温度若しくは湿度、植物に供給される養液の成分、濃度、pH若しくは液温、植物に照射する光の照度若しくは波長、植物に供給される二酸化炭素の濃度若しくは供給量、又は植物に供給される風量を挙げることができる。
これらの各種育成環境を、育成する植物の光合成速度を制御するパラメータ(光合成速度制御パラメータともいう)として適宜選択して制御することで、育成する植物の光合成速度をより厳密に制御することができ、明期および暗期における植物の葉温をより正確に制御することができる。その結果、植物の成長度をより高めることができる。
【0015】
本発明に係る植物育成システムが対象とする植物は、C植物が好ましく、とりわけ、葉物野菜であることが好ましい。
このような植物であれば、本発明に係る植物育成システムにより、暗期における植物の葉温を、明期における植物の葉温よりも高くすることで、育成期間における植物の成長度をより高めることができ、単位期間あたりの植物の収穫量をより増大することができる。
【0016】
本発明に係る植物育成システムは、育成対象がリーフレタスである場合には、当該リーフレタスを育成する雰囲気の平均温度を19℃以上25℃以下に制御することが好ましい。
【0017】
このようなものであれば、育成期間におけるリーフレタスの成長度をより高めることができ、収穫量を多くすることができる。
【0018】
また、本発明に係る植物育成方法は、明期と暗期とが交互に繰り返される育成環境下において植物を育成するものであって、放射温度計を用いて前記植物の葉温を測定し、前記暗期の一部期間または全期間における前記葉温の平均温度が、前記明期の一部期間または全期間における前記葉温の平均温度以上となるように、前記植物の育成環境を制御することを特徴とする。
【0019】
このような植物育成方法であれば、上述した本発明の植物育成システムと同様の作用効果を得ることができる。
【0020】
また、本発明に係る植物育成システム用プログラムは、植物の葉温を測定する放射温度計を備え、明期と暗期とが交互に繰り返される育成環境下において前記植物を育成する植物育成システムに用いられるものであって、前記測定した葉温に基づき、前記暗期の一部期間または全期間における前記葉温の平均温度が、前記明期の一部期間または全期間における前記葉温の平均温度以上となるように、前記植物の育成環境を制御する制御部としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とする。
【0021】
放射温度計を用いて葉温を測定する植物育成システムに対して、このような植物育成システム用プログラムをインストールすることで、上述した本発明の植物育成システムと同様の作用効果を得ることができる。なお、このような植物育成システム用プログラムは電気的に配信されるものであってもよいし、CD、DVDまたはフラッシュメモリ等のプログラム記憶媒体に記憶されたものを用いて既存の装置にインストールしてもよい。
【発明の効果】
【0022】
このように構成した本発明によれば、放射温度計を用いて葉温を測定し、測定した葉温に基づいて植物の育成環境を制御することで、植物の成長度を高めて収穫量を増大することができる植物育成システム、植物育成方法および植物育成システム用プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態の植物育成システム100の全体構成を模式的に示す図である。
図2】同実施形態の、暗期における制御装置20の動作を示すフローチャートである。
図3】同実施形態の、明期における制御装置20の動作を示すフローチャートである。
図4】実施例のリーフレタスの育成における、葉温の温度変化の一例を示すグラフである。
図5】実施例のリーフレタスの育成における、明期の葉温の平均温度と暗期の葉温の平均温度の差と、地上部生体重との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明に係る植物育成システムの一実施形態について図面を参照して説明する。
【0025】
本実施形態に係る植物育成システム100は、人工光を用いた完全人工環境で植物Xを水耕栽培するためのものである。植物育成システム100は、具体的には図1に示すように、植物Xの葉温を測定する放射温度計12を備える育成室10と、植物Xの葉温の情報である葉温情報を放射温度計12から取得して育成室10内の育成環境を制御する制御装置20とを具備している。
なお、本実施形態の植物Xは食用植物であり、具体的にはリーフレタスである。
以下、各構成について説明する。
【0026】
育成室10は、植物Xを収容するとともに、植物Xの育成に必要な種々の育成環境を提供するものであり、放射温度計12と、光照射装置14と、養液槽16と、空調装置18とを備えている。
【0027】
放射温度計12は、植物Xの上方に設けられ、植物Xの葉温を測定して葉温情報として取得するものである。放射温度計12は、取得した葉温情報を含む信号を送信するための信号送信部(図示しない)を有しており、当該信号送信部により、取得した葉温情報を有線又は無線を介して制御装置20に送信できるように構成されている。本実施形態では、植物Xの育成期間のうち発芽〜収穫の期間において、植物Xの葉温を連続的に測定するように構成されている。
【0028】
光照射装置14は、LED光源を用いて植物Xに光を照射するものである。具体的には、制御装置20から、有線又は無線を介して照射パターンを含む制御信号を受信するための信号受付部(図示しない)を有しており、当該信号受付部が受信した信号に基づいて、任意の光質(波長や光量等)の光を、任意の時間帯および間隔で植物Xに照射することができるように構成されている。
【0029】
本実施形態では、光照射装置14は、1日のうち午前6:00〜午後10:00の時間帯(明期)に植物Xに光を照射し、午後10:00〜翌午前6:00の時間帯(暗期)には光を照射しないように構成されている。なお、光照射装置14は、蛍光灯やナトリウムランプを有しているものであってもよい。
【0030】
養液槽16は、植物Xを収容するとともに、植物Xの育成に必要な肥料成分を含む養液が流れるように構成されている。養液槽16は、図示しない一端開口から取込まれた養液が図示しない他端開口から排出され、排出された養液が再び前記一端開口から養液槽16内に取込まれるように(すなわち循環するように)構成されている。
【0031】
空調装置18は、温度および湿度が所望の値に調整された空気を、所望の風量で育成室10内に供給するものである。具体的には、制御装置20から有線又は無線を介して、温度、湿度および風量の目標値を含む制御信号を受信するための信号受付部(図示しない)を有しており、当該信号受付部が受信した信号に基づいて、温度および湿度が所望の値に調整された空気を育成室10内に供給できるように構成されている。
【0032】
具体的には空調装置18は、育成室10内の空気が送り込まれる空調機(図示しない)と、空調機により温度や湿度が調整された空気を複数の送風口から育成室10内に送り込む送風ダクト(図示しない)とを具備している。
【0033】
制御装置20は、光照射装置14および空調装置18に制御信号を送信して、育成室10内の温度や湿度、植物Xに光を照射する時間帯を制御するものである。制御装置20は、図示しない信号送信部および信号受信部を有しており、放射温度計12、光照射装置14および空調装置18との間で信号の送受信が可能なように構成されている。
具体的には、制御装置20は、CPU、メモリ、A/Dコンバータ等を備えたコンピュータであり、前記メモリの所定領域に格納されたプログラムに従ってCPUや周辺機器が協働することにより、図1に示すように、記憶部21、点灯制御部22、検知部23、葉温取得部24、演算部25および制御部26としての機能を発揮するように構成されたものである。
【0034】
記憶部21は、前記メモリの所定領域に形成されており、葉温取得部24が取得した葉温情報が示す葉温を、時間と関連付けて記憶する。記憶部21はまた、育成室10内の温度若しくは湿度、植物Xに供給される養液の成分、濃度、pH若しくは液温、植物Xに照射する光の照度若しくは波長、植物Xに供給される二酸化炭素の濃度若しくは供給量、又は植物Xに供給される風量等の植物Xの光合成速度制御パラメータの変動値(または増減値)と、植物Xの葉温の変動値(または増減値)とを、明期および暗期ごとに関連付けて記憶している。
より具体的には、例えば光合成速度制御パラメータの変動値と、植物Xの葉温の変動値とをルックアップテーブルで記憶している態様を挙げることができる。また、各光合成速度制御パラメータの変動値を変数として、植物Xの変動値を算出する算出式を記憶している態様を挙げることができる。
【0035】
点灯制御部22は、有線又は無線を介して、照射パターンを含む制御信号を光照射装置14に送信するものである。
本実施形態の点灯制御部22は、光照射装置14に対して、1日のうち午前6:00〜午後10:00の時間帯にのみ、照明を点灯する制御信号を送信するように構成されている。
【0036】
検知部23は、育成室10内の育成環境における明期および暗期を検知するものである。本実施形態の検知部23は、時刻により明期および暗期を検知するものであり、1日のうち午前6:00〜午後10:00の時間帯を明期として検知し、午後10:00〜翌午前6:00までを暗期として検知するように構成されている。
【0037】
葉温取得部24は、有線又は無線を介して、放射温度計12から葉温情報を取得するものである。
【0038】
演算部25は、葉温取得部24から葉温情報を受け取り、検知部23から、育成室10内の育成環境が明期および暗期のいずれにあるかを示す情報(以下において、明暗情報ともいう)を受け取るとともに、記憶部21を参照して、各種光合成速度制御パラメータの増減値を決定するものである。
【0039】
具体的には、検知部23が検知した明暗情報が暗期(又は明期)を示す場合には、演算部25は、直前の明期(又は暗期)における植物Xの葉温の平均温度の値である直前明期平均葉温値(又は直前暗期平均葉温値)を算出し、算出した直前明期平均葉温値(又は直前暗期平均葉温値)と現葉温値とを比較する。そして、現葉温値から直前明期平均葉温値を引いた差の値(又は直前暗期平均葉温値から現葉温値を引いた差の値)が、0未満である場合には、当該差の値が0以上になるように各種光合成速度制御パラメータの変動値(増減値)を決定する。
当該差の値が0以上である場合には、さらに、当該差の値が予め設定した0より大きい所定の値(閾値ともいう)以上になるように、各種光合成速度制御パラメータの変動値(増減値)を決定する。当該差の値が、予め設定した所定の値以上である場合には、各種光合成速度制御パラメータの変動値(増減値)を0と決定する。
【0040】
制御部26は、前記演算部25により決定された光合成速度制御パラメータの変動値を取得するとともに、当該変動値に基づいて、各種装置等に制御信号を送信する。
本実施形態では、育成室10内に供給する空気の温度、湿度、風量等の変動値(増減値)を含む制御信号を空調装置18に送信する。
【0041】
<制御装置20の動作>
次に、本実施形態に係る植物育成システム100のうち制御装置20の動作について、図2及び図3のフローチャートを参照して説明する。
【0042】
(暗期における動作)
検知部23が検知した明暗情報が暗期を示す場合、まず、葉温取得部24は、図2に示すように放射温度計12から葉温情報を取得する(ステップS1)。葉温取得部24は、取得した葉温情報を、記憶部21および演算部25に送信する。
【0043】
次に演算部25は、記憶部21を参照して、直前明期平均葉温値を算出する(ステップS2)。
【0044】
次に演算部25は、算出した直前明期平均葉温値と、葉温取得部24から受け付けた葉温情報が示す現葉温値とを比較する(ステップS3)。そして演算部25は、現葉温値から直前明期平均葉温値を引いた値が、0以上か否かを判断する(ステップS4)。
【0045】
演算部25は、ステップS4において、現葉温値から直前明期平均葉温値を引いた値が0未満であると判断した場合には、記憶部21を参照して、当該差の値を0以上にするための、光合成速度制御パラメータの変動値を決定する(ステップS5)。
【0046】
制御部26は、演算部25が決定した変動値を取得し、当該変動値を含む制御信号を、空調装置18に送信する(ステップS6)。これにより空調装置18から育成室10内に供給される空気の温度、湿度、風量等の値が変動し、現葉温値から直前明期平均葉温値を引いた値が0以上になるように、植物Xの葉温が変動する。その後、ステップS3およびS4の動作を再度行う。
【0047】
演算部25は、ステップS4において、現葉温値から直前明期平均葉温値を引いた値が0以上であると判断した場合には、さらに当該差の値が0より大きい所定の値(閾値)以上か否かを判断する(ステップS5)。
【0048】
当該差の値が前記所定の値未満である場合には、記憶部21を参照して、当該差の値を前記所定の値以上にするための、光合成速度制御パラメータの変動値を決定する(ステップS5)。制御部26は、演算部25が決定した変動値を取得し、当該変動値を含む制御信号を、空調装置18に送信する(ステップS6)。これにより空調装置18から育成室10内に供給される空気の温度、湿度、風量等の値が変動し、現葉温値から直前明期平均葉温値を引いた値が前記所定の値以上になるように、植物Xの葉温が変動する。その後、ステップS3、S4及びS7の動作を再度行う。
【0049】
演算部25は、ステップS7において、現葉温値から直前明期平均葉温値を引いた値が前記所定の値以上であると判断した場合には、光合成速度制御パラメータの変動値を0に決定する。この場合、制御部26は、空調装置18に対して、変動値を含む制御信号を送信しない。すなわち、空調装置18から育成室10内に供給される空気の温度、湿度、風量等の値は変動することなく、維持される。
【0050】
(明期における動作)
検知部23が検知した明暗情報が明期を示す場合、まず、葉温取得部24は、図3に示すように放射温度計12から葉温情報を取得する(ステップS1)。葉温取得部24は、取得した葉温情報を、記憶部21および演算部25に送信する。
【0051】
次に演算部25は、記憶部21を参照して、直前暗期平均葉温値を算出する(ステップS2)。
【0052】
次に演算部25は、算出した直前暗期平均葉温値と、葉温取得部24から受け付けた葉温情報が示す現葉温値とを比較する(ステップS3)。そして演算部25は、直前暗期平均葉温値から現葉温値を引いた値が、0以上か否かを判断する(ステップS4)。
【0053】
演算部25は、ステップS4において、直前暗期平均葉温値から現葉温値を引いた値が0未満であると判断した場合には、記憶部21を参照して、当該差の値を0以上にするための、光合成速度制御パラメータの変動値を決定する(ステップS5)。
【0054】
制御部26は、演算部25が決定した変動値を取得し、当該変動値を含む制御信号を、空調装置18に送信する(ステップS6)。これにより空調装置18から育成室10内に供給される空気の温度、湿度、風量等の値が変動し、直前暗期平均葉温値から現葉温値を引いた値が0以上になるように、植物Xの葉温が変動する。その後、ステップS3及びS4の動作を再度行う。
【0055】
演算部25は、ステップS4において、直前暗期平均葉温値から現葉温値を引いた値が0以上であると判断した場合には、さらに当該差の値が0より大きい所定の値(閾値)以上か否かを判断する(ステップS5)。
【0056】
当該差の値が前記所定の値未満である場合には、記憶部21を参照して、当該差の値を前記所定の値以上にするための、光合成速度制御パラメータの変動値を決定する(ステップS5)。制御部26は、演算部25が決定した変動値を取得し、当該変動値を含む制御信号を、空調装置18に送信する(ステップS6)。これにより空調装置18から育成室10内に供給される空気の温度、湿度、風量等の値が変動し、直前暗期平均葉温値から現葉温値を引いた値が前記所定の値以上になるように、植物Xの葉温が変動する。その後、ステップS3、S4及びS7の動作を再度行う。
【0057】
演算部25は、ステップS7において、直前暗期平均葉温値から現葉温値を引いた値が前記所定の値以上であると判断した場合には、光合成速度制御パラメータの変動値を0に決定する。この場合、制御部26は、空調装置18に対して、変動値を含む制御信号を送信しない。すなわち、空調装置18から育成室10内に供給される空気の温度、湿度、風量等の値は変動することなく、維持される。
【0058】
<本実施形態の効果>
このように構成された本実施形態の植物育成システム100によれば、放射温度計を用いて植物Xの葉温を測定し、測定した葉温に基づいて空調装置18を制御することで、植物Xの育成期間の暗期の葉温の平均温度を、同期間における明期の葉温の平均温度以上にすることができる。
これにより、育成期間における植物Xの成長度を高めて、収穫量を増大することができる。
【0059】
<その他の実施形態>
なお本発明は、上述した実施形態に限られるものではない。
【0060】
上述した実施形態の植物Xはリーフレタスであったが、他の実施形態では、植物Xは、他のキク科の植物であってもよい。例えば、結球レタス、サラダナ、ステムレタス、サンチュ、コスレタス、ベビーリーフなどのレタス類が挙げられる。植物Xはまた、ルッコラ、バジル等のハーブ類、キャベツ、トレビス、ハクサイ等の結球野菜、ナス、キュウリ、トマト等の果菜類、ニンジンやダイコンなどの根菜類、さらにはコマツナ、ホウレンソウ、春菊、ステビアなどの葉菜類、カリフラワー、ブロッコリー、菜の花、アーティチョークなどの花菜類、その他花卉類等から選択されるいずれかであってもよい。
【0061】
上述した実施形態の植物育成システム100は、光照射装置14を用いた完全人工環境で植物Xを育成するものであったが、他の実施形態の植物育成装置100は、太陽光を利用した半人工環境で植物を育成するものであってもよい。このような実施形態では、検知部23は、日の出から次の日没までの時間帯(すなわち昼)を“明期”として検知し、日没から次の日の出までの時間帯を“暗期”として検知するように構成されてもよい。
【0062】
上述した実施形態では、光照射装置14の照明を点灯している時間帯を“明期”とし、光照射装置14の照明を消灯している時間帯を“暗期”としたが、これに限定されない。例えば、光照射装置14から照射される光の光量を調整して、所定の光量以上の光を照射する時間帯と、所定の光量未満の光を照射する時間帯とを繰り返して植物Xを育成する場合には、検知部23は、所定の光量以上の光を照射している時間帯を“明期”として検知し、所定の光量未満の光を照射している時間帯を“暗期”として検知するようにこうせいされてもよい。
【0063】
上述した検知部23は、時間帯または時刻により明期および暗期を検知するものであったがこれに限定されない。
例えば、育成室10内に設けた照度センサ等のセンサにより取得される育成室10内の照度に基づいて、明期および暗期を検知するものであってもよい。このようなものであれば、育成室10内の照度が所定の値以上である場合には明期として検知し、所定の値未満である場合には暗期として検知してもよい。
あるいは、検知部23は、葉温取得部24が取得した葉温情報が示す葉温に基づいて、明期および暗期を検知するものであってもよい。このようなものである場合、葉温が所定の値以上変化したことにより、育成室10内の明期と暗期とが切り替わったことを検知するものであってもよい。
【0064】
上述した実施形態の放射温度計10は、植物Xの育成期間のうち発芽〜収穫の期間において植物Xの葉温を連続的に測定するものであったが、所定の時間間隔を空けて断続的に葉温を測定するように構成されていてもよい。
【0065】
上述した植物育成システム100では、空調装置18により供給される空気の温度、湿度、風量を制御することにより、育成室10内の育成環境を制御するものであったが、これに限定されない。他の実施形態では、COを収容するボンベを、供給配管を介して空調装置18の送風ダクトに接続し、所望の量のCOを送風ダクトから育成室10内に供給するようにしてもよい。この場合、信号により開度を調整できる電磁弁を供給配管に設け、制御部26から送信される制御信号により当該電磁弁の開度を調整し、育成室10内に供給されるCO量を制御してもよい。
【0066】
他の実施形態の植物育成システム100は、養液槽16に養液を供給し、かつ循環させる養液供給装置をさらに備えていてもよい。この場合、養液供給装置は、所定の成分、成分濃度、溶存酸素濃度、pHおよび液温に調整された養液を、所望の流量で養液槽16に供給できるように構成されていてもよい。養液槽16には、循環する養液のpHを計測するpH計と電気伝導度を計測する電気伝導度計が設けられており、計測したpHおよび電気伝導度のいずれかが所定の範囲から外れた場合には、自動追肥装置によりpHおよび電気伝導度が所定の範囲内に戻されるように構成されていることが好ましい。
具体的には、養液槽16中のpHが設定範囲から外れた場合には、pH調整剤(アップ剤あるいはダウン剤)を添加して設定範囲に戻るように構成されるのが好ましい。
養液槽16中のECが設定値よりも低下した場合には、設定濃度の100倍程度の濃度の濃縮養液を添加することで、設定範囲に戻るように構成されるのが好ましい。
【0067】
養液供給装置の具体的な構成として、養液を貯蓄する養液貯蓄タンクと、養液貯蓄タンクと養液槽16の一端開口とを接続する養液導入管と、養液槽16の他端開口と養液貯蓄タンクとを接続する養液導出管と、養液導入管を介して養液槽16に所定量の養液を圧送する圧送ポンプとを備えることが好ましい。
【0068】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【実施例】
【0069】
本発明の適用性を確証するため、以下のようにしてラボ実験を実施した。
【0070】
<材料および方法>
育成する植物として、食用植物であるリーフレタスの品種である“グリーンウェーブ”を用いた。人工光を用いた完全人工環境で水耕栽培が可能な育成チャンバーを4つ(チャンバーA〜D)用意し、各チャンバー内の設定温度を異なる温度にしてリーフレタスを1つずつ栽培し、これを9回実施した(すなわち、36個のリーフレタスを栽培した)。育成チャンバーA〜Dの設定温度は、1〜3回目は[A:15℃、B:20℃、C:25℃、D:30℃]とし、4〜9回目は[A:19℃、B:22℃、C:25℃、D:28℃]とした。
【0071】
リーフレタスへの人工光の照射は、チャンバーの上部に設けたLED照明(エスペックミック社製,EM1134660)により行った。リーフレタスの育成期間中、午前6:00〜午後10:00の時間帯は照明を点灯(明期)し、午後10:00〜翌午前6:00の間は照明を消灯(暗期)した。
【0072】
リーフレタスの育成環境のうち、養液槽に供給する養液の成分、濃度、pH、濃度および流量、チャンバーに供給するCO濃度は、全ての育成チャンバーにおいて同条件とし、具体的には以下のように設定した。
・養液の成分:大塚A処方(OATアグリオ株式会社)
・養液の濃度:EC 2.0±0.2dS/m
・養液のpH:5.5−6.5
・養液の温度:約20℃
・養液の流量:ポンプ流量 約1000リットル/時間
・供給する空気のCO濃度:約400ppm
【0073】
育成チャンバーの上部に放射温度計(株式会社堀場製作所製 非接触温度センサ IT−450S)を設け、育成期間中のリーフレタスの葉温を連続的に測定しプロットした。
育成チャンバーA〜Dの設定温度を[A:15℃、B:20℃、C:25℃、D:30℃]とした場合における葉温の測定結果の一つを、図4に示す。
【0074】
育成チャンバーの養液槽上の育苗トレイにリーフレタスの種を置いた後、14日後にリーフレタスを収穫した。そして収穫したリーフレタスの全体重から根の部分を取り除き、可食部の重さである地上部生体重を測定した。また収穫後、各リーフレタスについて、育成期間中の全ての明期における葉温の平均温度から、全ての暗期における葉温の平均温度を引いて、昼夜間温度差を算出した。このようにして栽培した各リーフレタスの昼夜間温度差および地上部生体重をプロットしたものを、図5に示す。
【0075】
<結果および考察>
(チャンバー内設定温度と葉温との関係について)
図4に一例を示すように、育成チャンバーA〜Dの設定温度を[A:15℃、B:20℃、C:25℃、D:30℃]とした測定では、チャンバーAおよびDにおける葉温の変化の挙動と、チャンバーBおよびCにおける葉温の変化の挙動とは異なるものとなった。
具体的には、図4の四角の点線で囲んでいる部分に顕著に示されるように、チャンバーAおよびチャンバーDでは、明期から暗期に切り替わった直後に葉温が低下し、暗期から明期に切り替わった直後に葉温が上昇した。また、明期における葉温は、暗期における葉温よりも概ね高くなった。これに対して、チャンバーBおよびチャンバーCでは、明期から暗期に切り替わった直後に葉温が上昇し、暗期から明期に切り替わった直後に葉温が低下した。また、明期における葉温は、暗期における葉温よりも概ね低くなった。
同様の傾向は、育成チャンバーA〜Dの設定温度を[A:15℃、B:20℃、C:25℃、D:30℃]とした他の例においても見られた。
【0076】
(昼夜間温度と地上部生体重との関係について)
図5に示すように、昼夜間温度差が0℃以下であるリーフレタス、すなわち育成期間中の暗期の葉温の平均温度が明期の葉温の平均温度以上であるリーフレタスは、昼夜間温度差が0℃を超えるリーフレタス、すなわち育成期間中の暗期の葉温の平均温度が明期の葉温の平均温度未満であるリーフレタスと比較して、地上部生体重が総じて大きくなる傾向があることが分かった。
【0077】
以上のことより、育成期間中における暗期の葉温の平均温度を明期の葉温の平均温度以上にすることで、リーフレタスの成長度を高められることを確認できた。
【符号の説明】
【0078】
100・・・植物育成システム
X・・・植物
10・・・育成室
12・・・放射温度計
20・・・制御装置
26・・・制御部
図1
図2
図3
図4
図5