特開2019-196349(P2019-196349A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特開2019-196349化合物、蛍光標識導入剤、及び蛍光標識導入方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-196349(P2019-196349A)
(43)【公開日】2019年11月14日
(54)【発明の名称】化合物、蛍光標識導入剤、及び蛍光標識導入方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 493/10 20060101AFI20191018BHJP
   C07D 311/82 20060101ALI20191018BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20191018BHJP
【FI】
   C07D493/10 CCSP
   C07D311/82ZNA
   C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2019-78203(P2019-78203)
(22)【出願日】2019年4月16日
(31)【優先権主張番号】特願2018-89292(P2018-89292)
(32)【優先日】2018年5月7日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】小野 晶
(72)【発明者】
【氏名】實吉 尚郎
【テーマコード(参考)】
4C062
4C071
【Fターム(参考)】
4C062HH21
4C071AA04
4C071AA07
4C071BB01
4C071BB07
4C071CC12
4C071DD19
4C071EE05
4C071FF17
4C071HH17
4C071JJ01
4C071KK11
4C071LL10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】細胞外では蛍光を示さない一方で、細胞に取り込まれると蛍光を発する蛍光標識をもつ化合物、及びそのような蛍光標識を導入するための蛍光標識導入剤を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表す化合物を使用する。下記一般式(1)中、Aは、細胞膜を通して細胞内へ取り込まれ得る生体物質又はその誘導体の構造を含む1価の基であり、FLは、蛍光発光を示しかつ窒素原子を有する環状骨格をもつ蛍光ユニットであり、Lは、AとFLとを結合する2価の基であり、Xは、単結合又は−C(=O)O−であり、波線で表す結合は、FLに含まれる上記窒素原子への結合であり、Arは、パラ位又はオルト位に結合を有する2価の芳香環であり、Rは、ニトロ基又は−S−S−Rであり、Rは、一価の基であり、nは、1〜3の整数である。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表す化合物。
【化1】
(上記一般式(1)中、Aは、細胞膜を通して細胞内へ取り込まれ得る生体物質又はその誘導体の構造を含む1価の基であり、FLは、蛍光発光を示しかつ窒素原子を有する環状骨格をもつ蛍光ユニットであり、Lは、AとFLとを結合する2価の基であり、Xは、単結合又は−C(=O)O−であり、波線で表す結合は、FLに含まれる前記窒素原子への結合であり、Arは、パラ位又はオルト位に結合を有する2価の芳香環であり、Rは、ニトロ基又は−S−S−Rであり、Rは、一価の基であり、nは、1〜3の整数である。)
【請求項2】
一般式(1)におけるFLが、修飾を受けてもよい下記化学式(2)又は(3)で示すローダミン110又はその誘導体からなる骨格であり、下記化学式(2)においては、アミノ基、イミノ基及びカルボキシル基の少なくとも1つに前記Lが結合し、アミノ基及びイミノ基の少なくとも1つに前記Xが1つ又は2つ結合し、下記化学式(3)においては、2つのアミノ基の1つに前記Lが結合し、残りのアミノ基に前記Xが1つ又は2つ結合する、請求項1記載の化合物。
【化2】
【請求項3】
下記一般式(4)又は(5)で表す請求項1又は2記載の化合物。
【化3】
(上記一般式(4)及び(5)中、A、L、X、Ar及びRは、前記一般式(1)におけるものと同じである。)
【請求項4】
下記一般式(6)又は(7)で表す請求項1〜3のいずれか1項記載の化合物。
【化4】
(上記一般式(6)及び(7)中、A、L、X及びRは、前記一般式(1)におけるものと同じである。)
【請求項5】
下記一般式(8)〜(10)のいずれかで表す請求項1〜4のいずれか1項記載の化合物。
【化5】
(上記一般式(8)及び(9)中、A、L及びRは、前記一般式(1)におけるものと同じである。上記一般式(10)中、A及びLは、前記一般式(1)におけるものと同じである。)
【請求項6】
Aがヌクレオチド鎖若しくはその類縁体又はペプチド鎖若しくはその類縁体である請求項1〜5のいずれか1項記載の化合物。
【請求項7】
下記一般式(1a)、(1b)又は(1c)で表す化合物を含む蛍光標識導入剤。
【化6】
(上記一般式(1a)及び(1b)中、FLは、蛍光発光を示しかつ窒素原子を有する環状骨格をもつ蛍光ユニットであり、Lは、2価の基であり、Xは、単結合又は−C(=O)O−であり、波線で表す結合は、FLに含まれる前記窒素原子への結合であり、Arは、パラ位又はオルト位に結合を有する2価の芳香環であり、Rは、ニトロ基又は−S−S−Rであり、Rは、一価の基であり、nは、1〜3の整数である。上記一般式(1c)中、A環は単環でも複数の環が縮合した構造でもよい三重結合を備えた環構造であり、A環が複数の環の縮合した構造の場合、LからA環への単結合は縮合しているどの環へ結合してもよく、Lは、2価の基であり、Xは、単結合又は−C(=O)O−であり、波線で表す結合は、FLに含まれる前記窒素原子への結合であり、Arは、パラ位又はオルト位に結合を有する2価の芳香環であり、Rは、ニトロ基又は−S−S−Rであり、Rは、一価の基であり、nは、1〜3の整数である。)
【請求項8】
一般式(1a)又は(1b)におけるFLが、修飾を受けてもよい下記化学式(2)又は(3)で示すローダミン110又はその誘導体からなる骨格であり、下記化学式(2)においては、アミノ基、イミノ基及びカルボキシル基の少なくとも1つに前記Lが結合し、アミノ基及びイミノ基の少なくとも1つに前記Xが1つ又は2つ結合し、下記化学式(3)においては、2つのアミノ基の1つに前記Lが結合し、残りのアミノ基に前記Xが1つ又は2つ結合する、請求項7記載の蛍光標識導入剤。
【化7】
【請求項9】
下記一般式(4a)、(4b)、(4c)、(5a)、(5b)又は(5c)で表す請求項7又は8記載の蛍光標識導入剤。
【化8】
(上記一般式(4a)、(4b)、(5a)及び(5b)中、L、X、Ar及びRは、前記一般式(1a)におけるものと同じである。上記一般式(4c)及び(5c)中、A環、L、X、Ar及びRは、前記一般式(1c)におけるものと同じである。)
【請求項10】
下記一般式(6a)、(6b)、(6c)、(7a)、(7b)又は(7c)で表す請求項7〜9のいずれか1項記載の蛍光標識導入剤。
【化9】
(上記一般式(6a)、(6b)、(7a)及び(7b)中、L、X、Ar及びRは、前記一般式(1a)におけるものと同じである。上記一般式(6c)及び(7c)中、A環、L、X及びRは、前記一般式(1c)におけるものと同じである。)
【請求項11】
下記一般式(8a)、(8b)、(8c)、(9a)、(9b)、(9c)、(10a)、(10b)又は(10c)で表す請求項7〜10のいずれか1項記載の蛍光標識導入剤。
【化10】
(上記一般式(8a)、(8b)、(9a)及び(9b)中、L及びRは、前記一般式(1a)におけるものと同じである。上記一般式(10a)及び(10b)中、Lは、前記一般式(1a)におけるものと同じである。上記一般式(8c)及び(9c)中、A環、L及びRは、前記一般式(1c)におけるものと同じである。上記一般式(10c)中、A環及びLは、前記一般式(1c)におけるものと同じである。)
【請求項12】
標識化する分子にアルキニル基又はアルキニレン基を導入した後、その分子に請求項7〜11のいずれか1項記載の化合物のうちアジド基を有する化合物を含む蛍光標識導入剤を反応させることを特徴とする蛍光標識導入方法。
【請求項13】
標識化する分子にアジド基を導入した後、その分子に請求項7〜11のいずれか1項記載の化合物のうちアルキニル基又はA環を有する化合物を含む蛍光標識導入剤を反応させることを特徴とする蛍光標識導入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、蛍光標識導入剤及び蛍光標識導入方法に関するものであり、より詳しくは、細胞の中に取り込まれたときに蛍光を示す蛍光標識が導入された化合物、及びそのような蛍光標識を化合物に導入するための蛍光標識導入剤及び蛍光標識導入方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、DNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)といった核酸の合成法は確立されており、比較的短鎖の核酸であるオリゴヌクレオチドの自動合成機を用いた合成も行われている。こうして得られた合成オリゴヌクレオチドは、生命化学研究や医療診断等のために日常的に用いられつつある。合成オリゴヌクレオチドの有用な用途の一つに、核酸医薬がある。合成オリゴヌクレオチドは、例えば、疾患の原因となるタンパク質をコードする遺伝子から転写されたmRNAと相補的な塩基配列を持つオリゴヌクレオチドを細胞内に導入することにより、このタンパク質の合成を阻害するアンチセンス法(非特許文献1を参照。)で用いられる。
【0003】
ところで、こうしたDNAやRNAは、1ないし複数のリン酸基を持っており、それゆえ極性が高く細胞膜透過性が悪い。こうした点が核酸医薬の問題点の一つになっている。この問題に対応するために、リン酸基に含まれるOH基を細胞内の酵素で脱離可能な置換基で保護し、脂溶性を向上させる手法が用いられることがある。このような置換基で修飾された化合物は、細胞膜を通過した後に、細胞内の酵素により脱保護を受けることにより、核酸医薬としての活性を発現するプロドラッグとなる(例えば、非特許文献2を参照)。
【0004】
このように様々な工夫を施して、合成されたDNAやRNA等の分子を細胞内に取り込ませ、核酸医薬として用いる試みがなされている。そのような試みの成果を評価する方法として、合成された分子がどの程度細胞に取り込まれるかを確認する手法も必要である。このための一般的な手法として、合成された分子に蛍光性基を結合して標識した後に細胞培養液に加え、蛍光顕微鏡で細胞を観察した際に蛍光が観察されるか否かを調べる手法を挙げることができる(例えば、非特許文献3を参照)。この手法では、細胞内に取り込まれた分子が蛍光を発するため、分子が細胞内に取り込まれたか否かを直接観察することができる。
【0005】
しかし、この手法では、細胞内に取り込まれずに残った標識化合物がバックグラウンドとなり、蛍光顕微鏡での観察精度が低下する可能性もある。また、単に細胞膜に結合しただけの標識化合物と、細胞内に取り込まれた標識化合物とを区別することも容易でない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】A.M.Belikova,V.F.Zarytova,N.I.Grinrva,Tetrahedron Lett.,1967,3557−3562
【非特許文献2】P.P.Virta,H.Lonnberg,Current Medicinal Chemistry,2006,13,3441−3465
【非特許文献3】Saneyoshi et al.,Bioconjugate Chem,2016,2149
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、細胞外では蛍光を示さない一方で、細胞に取り込まれると蛍光を発する蛍光標識をもつ化合物、及びそのような蛍光標識を導入するための蛍光標識導入剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以上の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、蛍光発光を示しかつ窒素原子を有する環状骨格をもつ蛍光ユニットの窒素原子に特定の保護基を結合して消光させると、細胞外では消光している上記蛍光ユニットが、細胞内に取り込まれるとグルタチオンや酵素といった細胞内物質の働きにより脱保護されて発光することを見出した。このような作用を利用することにより、本発明者らは、細胞外では発光しない一方で、細胞内に取り込まれると発光を示す蛍光標識分子の創製に成功した。本発明は、以上の知見に基づいて完成されたものであり、以下のようなものを提供する。
【0009】
(1)本発明は、下記一般式(1)で表す化合物である。
【化1】
(上記一般式(1)中、Aは、細胞膜を通して細胞内へ取り込まれ得る生体物質又はその誘導体の構造を含む1価の基であり、FLは、蛍光発光を示しかつ窒素原子を有する環状骨格をもつ蛍光ユニットであり、Lは、AとFLとを結合する2価の基であり、Xは、単結合又は−C(=O)O−であり、波線で表す結合は、FLに含まれる上記窒素原子への結合であり、Arは、パラ位又はオルト位に結合を有する2価の芳香環であり、Rは、ニトロ基又は−S−S−Rであり、Rは、一価の基であり、nは、1〜3の整数である。)
【0010】
(2)また本発明は、一般式(1)におけるFLが、修飾を受けてもよい下記化学式(2)又は(3)で示すローダミン110又はその誘導体からなる骨格であり、下記化学式(2)においては、アミノ基、イミノ基及びカルボキシル基の少なくとも1つに上記Lが結合し、アミノ基及びイミノ基の少なくとも1つに前記Xが1つ又は2つ結合し、下記化学式(3)においては、2つのアミノ基の1つに前記Lが結合し、残りのアミノ基に上記Xが1つ又は2つ結合する、(1)項記載の化合物である。
【化2】
【0011】
(3)また本発明は、下記一般式(4)又は(5)で表す(1)項又は(2)項記載の化合物である。
【化3】
(上記一般式(4)及び(5)中、A、L、X、Ar及びRは、上記一般式(1)におけるものと同じである。)
【0012】
(4)また本発明は、下記一般式(6)又は(7)で表す(1)項〜(3)項記載の化合物である。
【化4】
(上記一般式(6)及び(7)中、A、L、X及びRは、上記一般式(1)におけるものと同じである。)
【0013】
(5)また本発明は、下記一般式(8)〜(10)のいずれかで表す(1)項〜(4)項のいずれか1項記載の化合物である。
【化5】
(上記一般式(8)及び(9)中、A、L及びRは、上記一般式(1)におけるものと同じである。上記一般式(10)中、A及びLは、上記一般式(1)におけるものと同じである。)
【0014】
(6)また本発明は、Aがヌクレオチド鎖若しくはその類縁体又はペプチド鎖若しくはその類縁体である(1)項〜(5)項のいずれか1項記載の化合物である。
【0015】
(7)また本発明は、下記一般式(1a)、(1b)又は(1c)で表す化合物を含む蛍光標識導入剤でもある。
【化6】
(上記一般式(1a)及び(1b)中、FLは、蛍光発光を示しかつ窒素原子を有する環状骨格をもつ蛍光ユニットであり、Lは、2価の基であり、Xは、単結合又は−C(=O)O−であり、波線で表す結合は、FLに含まれる前記窒素原子への結合であり、Arは、パラ位又はオルト位に結合を有する2価の芳香環であり、Rは、ニトロ基又は−S−S−Rであり、Rは、一価の基であり、nは、1〜3の整数である。上記一般式(1c)中、A環は単環でも複数の環が縮合した構造でもよい三重結合を備えた環構造であり、A環が複数の環の縮合した構造の場合、LからA環への単結合は縮合しているどの環へ結合してもよく、Lは、2価の基であり、Xは、単結合又は−C(=O)O−であり、波線で表す結合は、FLに含まれる前記窒素原子への結合であり、Arは、パラ位又はオルト位に結合を有する2価の芳香環であり、Rは、ニトロ基又は−S−S−Rであり、Rは、一価の基であり、nは、1〜3の整数である。)
【0016】
(8)また本発明は、一般式(1a)又は(1b)におけるFLが、修飾を受けてもよい下記化学式(2)又は(3)で示すローダミン110又はその誘導体からなる骨格であり、下記化学式(2)においては、アミノ基、イミノ基及びカルボキシル基の少なくとも1つに前記Lが結合し、アミノ基及びイミノ基の少なくとも1つに前記Xが1つ又は2つ結合し、下記化学式(3)においては、2つのアミノ基の1つに前記Lが結合し、残りのアミノ基に前記Xが1つ又は2つ結合する、(7)項記載の蛍光標識導入剤である。
【化7】
【0017】
(9)また本発明は、下記一般式(4a)、(4b)、(4c)、(5a)、(5b)又は(5c)で表す(7)項又は(8)項記載の蛍光標識導入剤でもある。
【化8】
(上記一般式(4a)、(4b)、(5a)及び(5b)中、L、X、Ar及びRは、上記一般式(1a)におけるものと同じである。上記一般式(4c)及び(5c)中、A環、L、X、Ar及びRは、前記一般式(1c)におけるものと同じである。)
【0018】
(10)また本発明は、下記一般式(6a)、(6b)、(6c)、(7a)、(7b)又は(7c)で表す(7)項〜(9)項のいずれか1項記載の蛍光標識導入剤である。
【化9】
(上記一般式(6a)、(6b)、(7a)及び(7b)中、L、X、Ar及びRは、上記一般式(1a)におけるものと同じである。上記一般式(6c)及び(7c)中、A環、L、X及びRは、前記一般式(1c)におけるものと同じである。)
【0019】
(11)また本発明は、下記一般式(8a)、(8b)、(8c)、(9a)、(9b)、(9c)、(10a)、(10b)又は(10c)で表す(7)項〜(10)項のいずれか1項記載の蛍光標識導入剤である。
【化10】
(上記一般式(8a)、(8b)、(9a)及び(9b)中、L及びRは、上記一般式(1a)におけるものと同じである。上記一般式(10a)及び(10b)中、Lは、上記一般式(1a)におけるものと同じである。上記一般式(8c)及び(9c)中、A環、L及びRは、前記一般式(1c)におけるものと同じである。上記一般式(10c)中、A環及びLは、前記一般式(1c)におけるものと同じである。)
【0020】
(12)また本発明は、標識化する分子にアルキニル基又はアルキニレン基を導入した後、その分子に(7)項〜(11)項のいずれか1項記載の化合物のうちアジド基を有する化合物を含む蛍光標識導入剤を反応させることを特徴とする蛍光標識導入方法でもある。
【0021】
(13)また本発明は、標識化する分子にアジド基を導入した後、その分子に(7)項〜(11)項のいずれか1項記載の化合物のうちアルキニル基又はA環を有する化合物を含む蛍光標識導入剤を反応させることを特徴とする蛍光標識導入方法でもある。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、細胞外では蛍光を示さない一方で、細胞に取り込まれると蛍光を発する蛍光標識をもつ化合物、及びそのような蛍光標識を導入するための蛍光標識導入剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、化合物13についてのGSHなし、GSH10mM及びGSH10μMにおける蛍光スペクトルである。
図2図2は、化合物20についてのGSHなし、GSH10mM及びGSH10μMにおける蛍光スペクトルである。
図3図3は、化合物21についてのニトロレダクターゼ及びNADHあり、並びに無しの場合における経時の蛍光スペクトル変化である。
図4図4は、蛍光標識化ODN1を10mMのGSHと反応させたときの蛍光スペクトル変化である。
図5図5は、蛍光標識化ODN2が細胞内に取り込まれたときの様子を示す蛍光顕微鏡画像である。
図6図6は、蛍光標識化ODN2の脱保護前後の紫外可視吸収スペクトル及び蛍光スペクトル変化を示すチャートであり、図6(a)が紫外可視吸収スペクトル変化を示すチャートであり、図6(b)が蛍光スペクトル変化を示すチャートである。
図7図7は、蛍光標識化ODN2のGSH存在下における時間経過に対する蛍光変化を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の化合物の一実施形態、本発明の蛍光標識導入剤の一実施形態、及び本発明の蛍光標識導入方法の一実施態様について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態又は実施態様に限定されるものではなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0025】
[化合物]
本発明の化合物は、下記一般式(1)で表す化合物である。この化合物は、細胞膜を通して細胞内へとり込まれ得る生体物質又はその構造を含むAと、蛍光発光を示す蛍光ユニットFLと、FLに結合する保護基−X−CH−Ar−Rとを備える。後述するが、Aはヌクレオチド鎖やペプチド鎖等の生体分子であり、それが蛍光ユニットFLで標識されている。しかし、FLは、保護基−X−CH−Ar−Rの存在により蛍光が消失又は弱められている。このような構造を備えた化合物が細胞内に取り込まれると、細胞内に存在するグルタチオンや各種の酵素による作用により、保護基−X−CH−Ar−RがFLから取り除かれ、FLが蛍光を示すようになる。本発明の化合物は、このようなメカニズムにより、細胞外に存在するときは蛍光を示さないか微弱な蛍光を示すに留まる一方で、細胞内に取り込まれると強い蛍光を示すようになる。このため、背景技術に記載したようなバックグラウンド蛍光による妨害をほぼ受けることなく、ヌクレオチド鎖やペプチド鎖であるAが細胞内にどの程度取り込まれるのかを蛍光顕微鏡で直接観察できるようになる。典型的には、Aはいわゆる核酸医薬となるユニットであり、この場合、核酸医薬がどの程度細胞内に取り込まれるかを評価することが可能になる。これにより、例えばオリゴヌクレオチドの配列や保護基を変えて、細胞に取り込まれやすい構造を見出すことが容易になる。また、そうしたオリゴヌクレオチドの細胞に取り込まれる速度、細胞内の移動を経時的に観察することも可能になると考えられる。
【0026】
【化11】
【0027】
上記一般式(1)において、Aは、細胞膜を通して細胞内に取り込まれ得る生体物質又はその誘導体の構造を含む一価の基である。典型的には、Aは、ヌクレオチド鎖やペプチド鎖であることを挙げられる。ヌクレオチド鎖は、複数のヌクレオチドが連続して結合したものであり、核酸医薬等として用いられる。ヌクレオチド鎖は、オリゴヌクレオチドとも呼ばれ、1〜30程度のヌクレオチドが結合したものを挙げることができる。このヌクレオチドは、デオキシリボ核酸でもリボ核酸でもよく、天然に存在するもののみならず、天然型のヌクレオチドに化学的な修飾を加えた核酸アナログであってもよい。ペプチド鎖も、単にアミノ酸のオリゴマーであるだけでなく、化学的な修飾を加えたペプチド鎖類縁体であってもよい。
【0028】
Lは、AとFLとを結合する2価の基である。生体物質又はその誘導体であるAは、例えば、ヌクレオチド鎖末端のリン酸基や、ペプチド鎖末端のアミノ基やカルボキシル基等といった官能基や、各種アミノ酸残基に由来する様々な官能基を含むので、Lは、例えばそのような官能基に対して結合したり、そのような官能基に導入されたアルキニル基やアジド基に対してクリック反応により結合したりする。Lは、AとFLを結合するものであり、その長さは短いものであっても長いものであっても構わない。Lは、Aとの結合反応で形成された残基とアルキル鎖又は(ポリ)オキシエチレン鎖のような鎖状基とを含む。例えば、クリック反応を用いてAとLとを結合させた場合、上記残基はトリアゾール環構造となる。上記アルキル基又は(ポリ)オキシエチレン鎖としては、炭素数が2〜20程度のものを挙げることができる。
【0029】
FLは、蛍光発光を示しかつ窒素原子を有する環状骨格をもつ蛍光ユニットである。FLは、それに含まれる窒素原子に保護基−X−CH−Ar−Rが結合したときに、蛍光が消光し又は微弱な蛍光しか示さない一方で、こうした保護基が取り除かれると本来の蛍光を示すようになる。このようなFLの好ましい例として、下記化学式(2)又は(3)で示すローダミン110又はその誘導体からなる骨格を持つものを挙げることができる。この場合、下記化学式(2)又は(3)で示すローダミン110又はその誘導体は、本発明の効果を損なわない範囲で各種の修飾を受けてもよい。
【0030】
【化12】
【0031】
FLが上記化学式(2)で表す骨格を有する場合、上記Lは、化学式(2)に含まれるアミノ基、イミノ基及びカルボキシル基の少なくとも1つに結合し、保護基−X−CH−Ar−Rは、化学式(2)に含まれるアミノ基及びイミノ基の少なくとも1つに結合する。また、FLが上記化学式(3)で表す骨格を有する場合、上記Lは、化学式(3)に含まれる2つのアミノ基の1つに結合し、保護基−X−CH−Ar−Rは、残りのアミノ基に結合する。なお、化学式(2)で表されるローダミン110骨格は、そのアミノ基又はイミノ基に電子求引性の置換基が結合すると、カルボキシル基が閉環した化学式(3)の構造をとることが知られている。
【0032】
上記一般式(1)中、Xは、単結合又は−C(=O)O−である。XとFLとを結合する波線は、FLに含まれる窒素原子への単結合を意味する。Arは、パラ位又はオルト位に結合を有する2価の芳香環である。パラ位に結合を有する2価の、とは、2本の結合子がそれぞれ結合する2個の炭素原子の間に2個の炭素原子が含まれているという意味であり、オルト位に結合を有する2価の、とは、2本の結合子がそれぞれ結合する2個の炭素原子が互いに隣り合っているという意味である。Arとしては、p−フェニレン基やo−フェニレン基が好ましく例示される。なお、このフェニレン基は、本発明の効果を阻害しない範囲でさらに他の置換基を有していてもよい。
【0033】
Rは、ニトロ基又は−S−S−Rである。本発明の保護基−X−CH−Ar−Rは、細胞内に存在するグルタチオンやニトロレダクターゼといった酵素によってこのRが作用を受けることにより脱離する。その機構を次の化学反応式で説明する。なお、下記の化学反応式に示す化合物は、説明のために示した本発明の一例である。
【0034】
【化13】
【0035】
上記化学反応式中、GSHは、細胞内に存在するグルタチオンである。グルタチオンにより、Rに含まれるジスルフィド結合が切断されると、ローダミン110骨格から保護基−X−CH−Ar−Rが脱離し、化合物は蛍光を発する状態になる。また、Rがニトロ基の場合には下記のような化学反応式になる。
【0036】
【化14】
【0037】
Rがニトロ基の場合には、細胞内に存在するニトロレダクターゼ及びNADHによりニトロ基がアミノ基に還元され、これに伴って保護基−X−CH−Ar−Rが脱離し、化合物は蛍光を発する状態になる。
【0038】
なお、上記の例では、細胞内に存在するグルタチオンやニトロレダクターゼにより保護基−X−CH−Ar−Rが脱離する態様を示したが、エステル結合により保護基を蛍光ユニットへ結合し、これを細胞内に存在するエステラーゼにより取り除く方法を採用してもよい。
【0039】
は、一価の基である。このような一価の基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく例示される。これらのアルキル基の中でも、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基が好ましく挙げられる。
【0040】
上記一般式(1)において、nは、1〜3の整数である。nは、本発明の化合物に導入される保護基−X−CH−Ar−Rの数であり、1、2及び3のいずれの数であってもよい。これらの中でも、nは、1又は2であることが好ましい。
【0041】
本発明の化合物として、より具体的には下記一般式(4)又は(5)で表すものを好ましく挙げることができる。
【0042】
【化15】
【0043】
上記一般式(4)及び(5)において、A、L、X、Ar及びRは、上記一般式(1)におけるものと同様である。
【0044】
より具体的には、本発明の化合物として下記一般式(6)及び(7)で表すものを好ましく挙げることができる。
【0045】
【化16】
【0046】
上記一般式(6)及び(7)は、上記一般式(4)及び(5)においてArをp−フェニレン基に特定したものである。上記一般式(6)及び(7)において、A、L、X及びRは、上記一般式(1)におけるものと同様である。
【0047】
より具体的には、本発明の化合物として下記一般式(8)〜(10)で表すものを好ましく挙げることができる。
【0048】
【化17】
【0049】
上記一般式(8)及び(9)において、A、L、Rは、上記一般式(1)におけるものと同様である。また、上記一般式(10)において、A及びLは、上記一般式(1)におけるものと同様である。
【0050】
さらに具体的に本発明の化合物を説明するための一例として、ヌクレオチド鎖の5’末端を蛍光標識した化合物を下記化学式(11)及び(12)に示す。なお、下記化学式(11)及び(12)の化合物は本発明の一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
【化18】
【0052】
上記化学式(11)及び(12)において、一般式(1)における−L−FL−(X−CH−Ar)に相当する部分が、5’末端のリン酸基の酸素原子に結合したアルキレン鎖から左側の部分になる。そして、5’末端のリン酸基に結合した波線は、それ以降がヌクレオチド鎖であることを示す。この5’末端のリン酸基からヌクレオチド鎖に至る部分が、上記一般式(1)におけるAに相当する。こうした分子は、例えば、下記化学反応式のように、アルキニル基を有するホスホロアミダイト(14)を合成した後に、DNA自動合成機を使用してヌクレオチド鎖の末端にアルキニル基を導入し、その後、これを下記化学式(13)に示すアジド化合物とクリック反応により結合することで得られる。なお、下記化学反応式で示すDIPEAは、N,N−ジイソプロピルエチルアミンである。また、クリック反応は、アジド化合物とアルキニル化合物とをCu(I)化合物の存在下でカップリングさせる反応である。この反応によれば、上記化学式(12)に示す化合物のように、カップリング箇所にトリアゾール環が形成される。
【0053】
【化19】
【0054】
【化20】
【0055】
また、上記化合物(14)に代えて下記化学式(14c)で表す、環内に三重結合を持ち歪んだ環構造を有するホスホロアミダイトを用いて上記化学式(13)で表すアジド化合物とクリック反応を行ってもよい。下記化学式(14c)で表す化合物のように歪んだ環構造を有する化合物とアジド基を有する化合物とをクリック反応によりカップリングさせる場合、触媒であるCu(I)化合物が存在しなくてもカップリングを進行させることができる。なお、下記化学式(14c)で表す化合物としては、例えばGLEN RESERCH社から市販されているものを用いることができる。また、こうした歪んだ環構造としては、他に例えば下記化学式(A)で表すものを挙げることができる。
【0056】
【化21】
【0057】
次に、化合物(13)のようなアジド化合物を得るための合成スキームの一例を下記に示す。
【0058】
【化22】
【0059】
【化23】
【0060】
[蛍光標識導入剤]
下記一般式(1a)又は(1b)で表す化合物を含む蛍光標識導入剤もまた本発明の一つである。この蛍光標識導入剤は、アジド基又はアルキニル基を持ち、それぞれアルキニル基又はアジド基を持つ化合物とCu(I)化合物の存在下でクリック反応を生じてカップリングする。このため、例えばアルキニル基やアジド基を持つヌクレオチド鎖やペプチド鎖に対して、上記本発明の化合物における蛍光標識を導入するのに用いることができる。すなわち、本発明の蛍光標識導入剤は、上記本発明の化合物を合成するのに用いることができる。なお、下記一般式(1a)で表す蛍光標識導入剤は、アルキニル基を有する化合物に蛍光標識を導入するのに用いられ、下記一般式(1b)又は(1c)で表す蛍光標識導入剤は、アジド基を有する化合物に蛍光標識を導入するのに用いられる。特に、化学式(1c)で示すものは、三重結合の存在によりA環が歪んでおり、Cu(I)化合物の存在がなくともアジド基を有する化合物とクリック反応を生じてこれに蛍光標識を導入させる。この蛍光標識を導入された化合物が、細胞外の例えば培養液中等で蛍光を示さないか、微弱な蛍光しか示さない一方で、細胞内に入ると保護基−X−CH−Ar−Rが脱離して蛍光を示すようになる点は、上記本発明の化合物で既に説明した通りである。
【0061】
【化24】
【0062】
上記一般式(1a)、(1b)及び(1c)中、FLは、蛍光発光を示しかつ窒素原子を有する環状骨格をもつ蛍光ユニットである。FLは、それに含まれる窒素原子に保護基−X−CH−Ar−Rが結合したときに、蛍光が消光し又は微弱な蛍光しか示さない一方で、こうした保護基が取り除かれると本来の蛍光を示すようになる。このようなFLの好ましい例として、下記化学式(2)又は(3)で示すローダミン110又はその誘導体からなる骨格を持つものを挙げることができる。この場合、下記化学式(2)又は(3)で示すローダミン110又はその誘導体は、本発明の効果を損なわない範囲で各種の修飾を受けてもよい。
【0063】
【化25】
【0064】
FLが上記化学式(2)で表す骨格を有する場合、上記Lは、化学式(2)に含まれるアミノ基、イミノ基及びカルボキシル基の少なくとも1つに結合し、保護基−X−CH−Ar−Rは、化学式(2)に含まれるアミノ基及びイミノ基の少なくとも1つに結合する。また、FLが上記化学式(3)で表す骨格を有する場合、上記Lは、化学式(3)に含まれる2つのアミノ基の1つに結合し、保護基−X−CH−Ar−Rは、残りのアミノ基に結合する。
【0065】
上記一般式(1a)、(1b)及び(1c)中、Xは、単結合又は−C(=O)O−である。XとFLとを結合する波線は、FLに含まれる窒素原子への単結合を意味する。Arは、パラ位又はオルト位に結合を有する2価の芳香環である。「パラ位又はオルト位に結合を有する2価の」の用語については、上記本発明の化合物にて既に説明した通りである。Arとしては、p−フェニレン基やo−フェニレン基が好ましく例示される。なお、このフェニレン基は、本発明の効果を阻害しない範囲でさらに他の置換基を有していてもよい。
【0066】
Rは、ニトロ基又は−S−S−Rである。本発明の保護基−X−CH−Ar−Rは、細胞内に存在するグルタチオンやニトロレダクターゼといった酵素によってこのRが作用を受けることにより脱離する。その反応機構については、上記本発明の化合物にて既に説明した通りである。また、本発明の蛍光標識導入剤において、エステル結合により保護基を蛍光ユニットへ結合してもよい。この場合、蛍光標識を導入された化合物は、細胞内に存在するエステラーゼにより保護基−X−CH−Ar−Rが脱離することになる。
【0067】
は、一価の基である。このような一価の基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく例示される。これらのアルキル基の中でも、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基が好ましく挙げられる。
【0068】
上記一般式(1a)、(1b)及び(1c)において、nは、1〜3の整数である。nは、本発明の化合物に導入される保護基−X−CH−Ar−Rの数であり、1、2及び3のいずれの数であってもよい。これらの中でも、nは、1又は2であることが好ましい。
【0069】
上記一般式(1c)において、A環は、単環でも複数の環が縮合した構造でもよい三重結合を備えた環構造であり、A環が複数の環の縮合した構造の場合、LからA環への単結合は縮合しているどの環へ結合してもよい。三重結合の存在によりA環は歪んでおり、アジド基を持つ化合物に対するクリック反応の活性が高い。このため、化合物(1c)を用いた場合、通常のクリック反応で触媒として必要なCu(I)化合物が不要になる。A環の構造としては、下記化学式に例示するような、8員環構造又はそれが他の環と縮合した構造を好ましく挙げることができる。
【0070】
【化26】
【0071】
本発明の蛍光標識導入剤として、より具体的には下記一般式(4a)、(4b)、(4c)、(5a)、(5b)又は(5c)で表すものを好ましく挙げることができる。なお、一般式(4a)で表す蛍光標識導入剤は、アルキニル基を有する化合物に蛍光標識を行って、上記一般式(4)で表す化合物を与える。また、一般式(4b)又は(4c)で表す蛍光標識導入剤は、アジド基を有する化合物に蛍光標識を行って、上記一般式(4)で表す化合物を与える。このような法則は、他の一般式番号(5a、5b、5c、6a、6b、6c等)の付された蛍光標識導入剤についても同様である。
【0072】
【化27】
【0073】
上記一般式(4a)、(4b)、(5a)及び(5b)中、L、X、Ar及びRは、前記一般式(1a)におけるものと同様である。上記一般式(4c)及び(5c)中、A環、L、X、Ar及びRは、上記一般式(1c)におけるものと同じである。
【0074】
より具体的には、本発明の蛍光標識導入剤として下記一般式(6a)、(6b)、(6c)、(7a)、(7b)又は(7c)で表すものを好ましく挙げることができる。
【0075】
【化28】
【0076】
上記一般式(6a)、(6b)、(6c)、(7a)、(7b)及び(7c)は、上記一般式(4a)、(4b)、(4c)、(5a)、(5b)及び(5c)においてArをp−フェニレン基に特定したものである。上記一般式(6a)、(6b)、(7a)及び(7b)において、L、X、Ar及びRは、上記一般式(1a)におけるものと同様である。上記一般式(6c)及び(7c)中、A環、L、X及びRは、前記一般式(1c)におけるものと同様である。
【0077】
より具体的には、本発明の蛍光標識導入剤として下記一般式(8a)、(8b)、(8c)、(9a)、(9b)、(9c)、(10a)、(10b)又は(10c)で表すものを好ましく挙げることができる。
【0078】
【化29】
【0079】
上記一般式(8a)、(8b)、(9a)及び(9b)において、L及びRは、上記一般式(1a)におけるものと同様である。上記一般式(10a)及び(10b)において、Lは、上記一般式(1a)におけるものと同様である。上記一般式(8c)及び(9c)において、A環、L及びRは、上記一般式(1c)におけるものと同様である。上記一般式(10c)において、A環及びLは、前記一般式(1c)におけるものと同様である。
【0080】
本発明の蛍光標識導入剤を得るための合成スキームは、上記本発明の化合物の説明にて既に例示したとおりである。なお、上記例示は、アジド基を有するものだが、アルキニル基を有するものについても通常の有機合成手法にて合成することが可能である。
【0081】
[蛍光標識導入方法]
標識化する分子にアルキニル基又はアルキニレン基を導入した後、その分子に上記アジド基を有する蛍光標識導入剤を反応させることを特徴とする蛍光標識導入方法、及び標識化する分子にアジド基を導入した後、その分子に上記アルキニル基又はA環を有する蛍光標識導入剤を反応させることを特徴とする蛍光標識導入方法もまた本発明の一つである。これについては既に説明した通りなので、ここでの説明を省略する。なお、ヌクレオチド鎖にアルキニレン基を導入する場合、DNA自動合成機でヌクレオチド鎖を合成する際に、既に説明した下記化学式(14c)等で表される市販のホスホロアミダイトを用いてオリゴヌクレオチド鎖の5’末端部等にアルキニレン基を導入すればよい。化学式(14c)においてアルキニレン基を有する環状構造は、下記化学式(A)で表すものに置き換えることもできる。これらアルキニレン基を有する環状構造は歪んでおり、アジド基を有する化合物に対してCu(I)化合物からなる触媒無しにクリック反応を生じることができる。こうしたアルキニレン基を有する環状構造としては、8員環を好ましく例示できる。
【0082】
【化30】
【実施例】
【0083】
以下、実施例を示すことにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、下記の合成例における化合物番号は、上記合成スキームにて化学式に付した番号に対応する。
【0084】
・(4−メルカプトフェニル)メタノールの合成
【化31】
乾燥テトラヒドロフラン(THF、170mL)にLiAlH(5.51g、145mmol)を加えた後、氷冷下で少し撹拌し、反応容器内をアルゴンで置換した。その後、4−メルカプト安息香酸(7.57g、49.1mmol)のTHF溶液(130mL)を加え、4日間撹拌した。塩化アンモニウム飽和水溶液を加えて反応を停止し、メタノールを添加した後、超音波振動を加えることで鼠色の油状物質を溶解させ、セライトで溶かした。減圧下濃縮を行い、酢酸エチルを加え、水で2回、塩化ナトリウム飽和水溶液で1回洗浄を行った。有機相を回収し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過にて溶液を得た後これを減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1で展開、クロロホルム:メタノール=100:0で溶出)で精製し、白色固体の(4−メルカプトフェニル)メタノール(3.05g、21.8mmol、収率44%)を得た。
H−NMR(600MHz、DMSO−d) δ(ppm):7.23−7.17(4H,m,H−arom),5.29(1H,s,SH),5.12−5.11(1H,t,J=5.7Hz,OH),4.41−4.40(2H,t,J=5.5Hz,CH
【0085】
・2−(イソプロピルジスルファニル)ピリジンの合成
【化32】
エタノール(20mL)に2,2’−ジピリジルジスルフィド(11.8g、53.6mmol)を加え、さらに酢酸(1.53mL、26.8mmol)及び2−プロパンチオール(5.0mL、53.6mmol)を加えて室温で撹拌した。2日後、薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応の進行を確認し、減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で精製し、淡黄色液体の2−(イソプロピルジスルファニル)ピリジン(8.04g、43.3mmol、収率81%)を得た。
H−NMR(600MHz、DMSO−d) δ(ppm):8.45−8.44(1H,m,H−a),7.77−7.75(1H,m,H−c),7.65−7.61(1H,m,H−d),7.08−7.05(1H,m,H−b),3.18−3.10(1H,m,iPr−CH),1.34−1.32(6H,d,J=6.9Hz,iPr−CH
【0086】
・(4−(イソプロピルジスルファニル)フェニル)メタノールの合成
【化33】
エタノール(2mL)に(4−メルカプトフェニル)メタノール(945mg、6.74mmol)を加え、撹拌しながら2−(イソプロピルジスルファニル)ピリジン(2.56g、13.8mmol)及び酢酸(100μL、6.12mmol)を加えた後、室温で30分間撹拌した。TLCで原料の消失を確認し、減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=3:1で展開、ヘキサン:酢酸エチル=100:0で溶出)で精製し、透明液体の(4−(イソプロピルジスルファニル)フェニル)メタノール(1.19g、5.54mmol、収率83%)を得た。
H−NMR(600MHz、CDCl) δ(ppm):7.54−7.53(2H,d,J=8.2Hz,H−c),7.32−7.30(2H,d,J=8.6Hz,H−b),4.67(2H,s,H−a),3.08−3.04(1H,m,iPr−CH),1.30(6H,d,J=6.5,iPr−CH
【0087】
・1−(4−(クロロメチル)フェニル)−2−イソプロピルジスルファンの合成
【化34】
塩化メチレン(2mL)にトリホスゲン(219mg、738μmol)を加え、0℃で撹拌しながら、(4−(イソプロピルジスルファニル)フェニル)メタノール(503mg、2.35mmol)及びピリジン(187μL、2.32mmol)を加え、室温で9時間撹拌した。TLCで原料の消失を確認し、酢酸エチルを加え、水で3回洗浄した。有機相を回収し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過にて溶液を得た後これを減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=3:1で展開、ヘキサン:酢酸エチル=100:0で溶出)で精製し、透明液体の1−(4−(クロロメチル)フェニル)−2−イソプロピルジスルファン(320mg、1.37mmol、収率59%)を得た。
H−NMR(600MHz、CDCl) δ(ppm):7.52−7.51(2H,d,J=8.6Hz,H−c),7.32−7.31(2H,d,J=8.2Hz,H−b),4.55(2H,s,H−a),3.09−3.02(1H,m,iPr−CH),1.29(6H,d,J−6.5Hz,iPr−CH
【0088】
・化合物15の合成
【化35】
ローダミン110塩酸塩(394mg、1.07mmol)を反応容器に加え、内部をアルゴンで置換した。これをDMFに溶解させ、NaH(32mg、1.3mmol)を加えて室温で1時間撹拌した。その後、ジ−tert−ブチルジカーボネート(221μL、962μmol)を加え、1日間撹拌した。TLCにより原料が薄くなっていることを確認し、ヘキサン:酢酸エチル=10:1の混合溶媒(66mL)中へ反応溶液を少しずつ滴下し、得られた溶液をヘキサン:酢酸エチル=20:1の混合溶媒(63mL)へ少しずつ滴下し、さらに得られた溶液をヘキサン:酢酸エチル=20:1の混合溶媒(63mL)へ少しずつ滴下した。溶媒を留去して残渣を回収し、ヘキサン:酢酸エチル:メタノール=1:1:1の混合溶媒(90mL)に溶解させた。析出した赤い固体を濾別し、溶液の方を回収した。溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=90:10で展開、ヘキサン:酢酸エチル=60:40〜40:60で溶出)で精製し、燈色固体の化合物15(188mg、434μmol、収率45%)を得た。
H−NMR(600MHz、CDCl) δ(ppm):8.23−8.21(2H,m,H−arom),8.02−8.00(1H,m,H−b),7.67−6.66(11H,m,H−arom,H−a),1.52(9H,s,Boc−CH
【0089】
・化合物16の合成
【化36】
THF(1.5mL)に化合物15(58mg、134μmol)を溶解させ、トリホスゲン(32mg、108μmol)及びN,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、68.4μL、402μmol)を加え、室温で5時間撹拌した。その後、反応溶液に塩化アンモニウム飽和水溶液(15mL)を加えて反応を停止させた。これに塩化メチレンを加え、塩化アンモニウム飽和水溶液で3回洗浄した。有機相を集めて減圧下で濃縮し、クロマトグラフィーで精製することで、淡黄色液体の化合物16(16mg、23.9μmol、収率18%)を得た。
H−NMR(600MHz、CDCl) δ(ppm):8.00(1H,d,J=7.9Hz,H−c),7.66−6.66(15H,m,Rh−Bn,H−b),5.17(2H,s,H−a),3.09−3.02(1H,m,iPr−CH),1.52(9H,s,Boc−CH),1.29(6H,d,J=6.9Hz,iPr−CH
【0090】
・化合物17の合成
【化37】
化合物16(2.5mg、3.73μmol)に4M塩酸水溶液(500μL)を加え、室温で3時間撹拌した。TLCで原料の消失を確認し、減圧下で濃縮し、酢酸エチルで3回、クロロホルムで3回共沸除去を行って、未精製のままの化合物17を赤色固体(2.0mg、3.5μmol、収率94%)として得た。これを未精製のまま次の反応に用いた。
【0091】
・化合物13の合成
【化38】
DMF(10mL)に化合物17(189mg、331μmol)を溶解させ、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC、634mg、3.32mmol)及び11−アジド−3,6,9−トリオキサウンデカン酸(394μL、1.99mmol)を順次加え、室温で2日間撹拌した。TLCにより原料消失を確認した後、酢酸エチルを加え、塩化ナトリウム飽和水溶液で2回洗浄した。有機相を集めて共沸脱水(ピリジン5回、トルエン3回)を行った。クロマトグラフィーで精製し、白色固体の化合物13(15.8mg、12.4μmol、収率6.1%)を得た。
H−NMR(600MHz、CDCl) δ(ppm):8.93(1H,s,H−i),8.03−6.72(15H,s,H−h,Rh−Bn,Bn’),5.18(2H,s,H−j),4.13(2H,s,H−g),3.78−3.63(10H,m,H−b,c,d,e,f),3.33(2H,m,H−a),3.08−3.04(1H,m,iPr−CH),1.30(6H,d,iPr−CH
【0092】
・化合物18の合成
【化39】
DMF(1mL)に化合物15(53mg、123μmol)を溶解させ、EDC(61mg、318μmol)及び11−アジド−3,6,9−トリオキサウンデカン酸(78.2μL、369μmol)を順次加え、室温で8時間撹拌した。TLCにより原料が薄くなったことを確認し、酢酸エチルを加え、塩化ナトリウム飽和水溶液で2回洗浄した。有機相を集めて、濾過し、減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1で展開、ヘキサン:酢酸エチル65:35〜55:45で溶出)で精製し、燈色固体の化合物18(45mg、69.7μmol、収率57%)を得た。
H−NMR(600MHz、CDCl) δ(ppm):8.93(1H,s,H−i),8.02(1H,d,J=7.6Hz,H−j),7.69−6.65(10H,m,H−arom),4.13(2H,m,H−g),3.69(8H,m,H−c〜f)、3.34(2H,t、J=5.0Hz,H−b)、1.52(9H,s,Boc−CH)、1.26(2H,t,J=7.0Hz,H−a)
【0093】
・化合物19の合成
【化40】
塩化メチレン(750μL)にトリフルオロ酢酸250μLを添加した溶液に化合物18(30mg、46.5mmol)を溶解させ、室温で90分間撹拌した。TLCにより原料が薄くなったことを確認した後、反応溶液にクロロホルムを加え、炭酸水素ナトリウム飽和水溶液で1回、塩化ナトリウム飽和水溶液で1回洗浄を行った。有機相を集めて、減圧下で濃縮した。その後、共沸脱水(ピリジン3回、トルエン2回)を行い、酢酸エチルで共沸除去を行った。減圧下で濃縮を行い、真空乾燥を行うことで、ピンク色固体の化合物19(45mg、69.7μmol、収率57%)を得た。
H−NMR(600MHz、CDCl) δ(ppm):8.40−6.56(10H,m,Rh−Bn),4.11(2H,d,H−g),3.75−3.62(10H,m,H−a,c,d,e,f),3.31(2H,t,J=5.0Hz,H−b)
【0094】
・化合物20の合成
【化41】
アセトニトリル(1mL)に化合物19(39.4mg、72.4μmol)を溶解させ、トリエチルアミン(TEA、100μL、72.1μmol)及び1−(4−(クロロメチル)フェニル)−2−イソプロピルジスルファン(155mg、560μmol)を加えて70℃で1日間撹拌した。TLCにより反応が進行していることを確認した後、クロマトグラフィーで精製し、燈色固体の化合物20(10.8mg、11.5μmol、収率16%)を得た。
H−NMR(600MHz、CDCl) δ(ppm):8.87(1H,s,H−h),7.98−6.40(6H,m,H−arom),4.61(4H,s,H−i),4.11(2H,s,H−g),3.65(12H,m,H−a,c〜f),3.26(2H,s,H−b),3.05(2H,d,J=6.9Hz,iPr−CH),1.29(12H,s,iPr−CH
【0095】
・化合物21の合成
【化42】
化合物15(88mg、203μmol)を無水ピリジンで共沸脱水し、ピリジン(3mL)及び4−ニトロクロロギ酸ベンジル(94mg、436μmol)を加え、150分間撹拌した。TLCにより原料が薄くなったことを確認し、酢酸エチルに溶解し、水で1回、炭酸水素ナトリウム水溶液で1回洗浄を行った。有機相を回収し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過にて溶液を得た後これを減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1で展開、ヘキサン:酢酸エチル=75:25〜60:40で溶出)で精製し、白色固体の化合物21(56mg、91.6μmol、収率45%)を得た。
H−NMR(600MHz、CDCl) δ(ppm):8.22(2H,d,J=10.0Hz,H−a,b),8.02−6.66(14H,m,Rh−Bn,Bn’),5.29(2H,s,CH),1.52(9H,s,Boc−CH
【0096】
・化合物14の合成
【化43】
5−ヘキシン−1−オール(32.3μL、300μmol)を塩化メチレンに溶解させた後、反応溶液内をアルゴン置換し、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、102μL、600μmol)及びシアノエチルジイソプロピルクロロホスホロアミダイト(100μL、450μmol)を順次加え、室温で15分間撹拌した。原料の消失をTLCにより確認した後、反応溶液に塩化メチレンを追加して、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で1回、飽和塩化ナトリウム水溶液で1回洗浄した。有機相を集めて、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過にて溶液を得た後これを減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(NHシリカゲル、ヘキサン:酢酸エチル=100:0〜50:50で展開、ヘキサン:酢酸エチル=100:0〜90:10で溶出)で精製し、透明液体の化合物14(77mg、258μmol、収率86%)を得た。
H−NMR(600MHz、CDCl) δ(ppm):4.05(1H,m,−C≡CH),3.82−3.70(2H,m,H−f),3.66−3.49(4H,m,H−d,e),2.58(2H,t,J=6.6Hz,iPr−CH),2.16(2H,m,H−a),1.77−1.52(4H,m,H−b,c),1.18(2H,m,iPr−CH),1.12(12H,m,iPr−CH
31P−NMR(243MHz、CDCl) δ(ppm):148.01
【0097】
・化合物22の合成
【化44】
チミジン(3.35g、13.8mmol)を無水ピリジンで3回共沸脱水し、反応容器をアルゴン置換してピリジン(20mL)に溶解させた。4,4−ジメトキシトリチル(DMTr)クロリド(6.09g、18.0mmol)を加え、室温で9時間撹拌した。TLCにより原料消失を確認し、エタノールを少量加え、溶液を減圧下で濃縮した。残渣をクロロホルムに溶解させ、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、飽和塩化ナトリウム水溶液で1回洗浄した。有機相を集めて、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過にて溶液を得た後これを減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=9:1で展開、クロロホルム:メタノール=98:2で溶出)で精製し、淡黄色固体の化合物22(427mg、784μmol、収率6%)を得た。
H−NMR(600MHz、DMSO−d) δ(ppm):11.32(1H,s,NH),7.491−7.490(1H,d,J=0.6Hz,H−6),7.38−6.86(13H,m,DMTr−arom),6.20−6.18(1H,t,J=6.0Hz,H−1’),5.31−5.30(1H,d,J=6.0Hz,OH−3’),4.32−4.29(1H,m,H−4’),3.87−3.86(1H,q,J=2.0Hz,H−3’),3.72(6H,s,OCH−DMTr),3.21−3.14(2H,m,H−5’),2.25−2.11(2H,m,H−2’),1.429−1.428(3H,d,J=0.6Hz,CH−5)
【0098】
・化合物23の合成
【化45】
化合物22(4.19g、7.69mmol)を無水ピリジンで3回共沸脱水し、無水トルエンで3回共沸除去した後、反応容器をアルゴン置換して塩化メチレン(26mL)に溶解させた。N,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、2.6mL、14,9mmol)及びビス(ジイソプロピルアミノ)クロロホスフィン(3.13g、11.7mmol)を順次加え、室温で2時間撹拌した。原料の消失をTLCにより確認した後、反応溶液に塩化メチレンを追加して、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で1回、飽和塩化ナトリウム水溶液で1回洗浄した。有機相を集めて、硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過にて溶液を得た後これを減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(NHシリカゲル、ヘキサン:酢酸エチル=100:0〜20:80で展開、ヘキサン:酢酸エチル=60:40〜50:50で溶出)で精製し、白色泡状固体の化合物23(3.97g、5.12mmol、収率67%)を得た。
H−NMR(600MHz、CDCl) δ(ppm):8.23(1H、s、NH),7.66(1H,d、J=1.1Hz,H−6),7.41−6.81(13H,m、DMTr−arom)、6.44(1H,m,H−1’),4.53(1H,m,OH−3’),4.24(1H,m,H−4’),3.79(6H,s,J=2.0Hz,H−5’,5”,N−CH(i−Pr)),3.59−3.42(6H,m,OCH−DMTr),2.53(1H,m,H−5’),2.32−2.26(1H,m,H−2’),1.29(3H,d,J=0.6Hz,5−CH),1.11(24H,m,iPr−CH
31P−NMR(243MHz、CDCl) δ(ppm):116.60
【0099】
・化合物24の合成
【化46】
化合物23を反応容器に加えてアルゴン置換し、1H−テトラゾール(144mg、2.06mmol)、3−フェニル−1−プロパノール(331μL、2.43mmol)及びジイソプロピルアミン(279μL、1.99mmol)のアセトニトリル溶液(10mL)を加えた。2時間撹拌し、原料消失をTLCにより確認した後、反応溶液に塩化メチレンを追加して、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で1回、飽和塩化ナトリウム水溶液で1回洗浄した。有機相を集めて、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過にて溶液を得た後これを減圧下で濃縮した。残渣を少量の酢酸エチルに溶解させ、多量のヘキサンを加えて懸濁液にした。濾過を行って得た白色固体を酢酸エチルに溶解させ、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=100:0〜60:40で展開、ヘキサン:酢酸エチル=70:30〜60:40溶出)で精製し、白色泡状固体の化合物24(260mg、321μmol、収率15%)を得た。
H−NMR(600MHz、CDCl) δ(ppm):7.64(1H,s,NH),7.40(1H,s,H−6),7.29−7.11(18H,m,DMTr−arom,Ph−H),6.43(1H.m,H−1’),4.66(1H,d,H−4’),3.78−3.75(6H,d,DMTr−OMe),3.60−3.47(6H,m,H−5’,5”,N−CH(i−Pr)),2.71−2.58(2H,m,Ph−[CH]−CH),2.30(2H,m,Ph−CH−[CH]),1.92−1.79(2H,m,H−2’,2”),1.40(3H,s,5−CH),1.17−1.14(12H,m,iPr−CH
31P−NMR(243MHz、CDCl) δ(ppm):147.67
【0100】
[脱保護に伴う蛍光変化の評価]
本発明の化合物における蛍光標識部分にて保護基が脱離することに伴う蛍光の変化を評価した。評価に用いた化合物は、化合物13、化合物20及び化合物21である。いずれの化合物も一般式(1)におけるAを持たず蛍光標識部分のみとなるが、保護基の脱離に伴う蛍光変化を評価することは可能である。化合物13は、ジスルフィド結合を有し、グルタチオンにより脱離するカルバメート構造を有する保護基をもつ。化合物20は、ジスルフィド結合を有し、グルタチオンにより脱離する非カルバメート構造の保護基をもつ。化合物21は、ニトロフェニル基をもち、ニトロレダクターゼにより脱離する保護基をもつ。
【0101】
化合物13の200μM水溶液30μLに10×PBS(リン酸緩衝生理食塩水)400μL及び純水1000μLを加え、710μLずつ2つの容器に分けた。一方の容器に50mMグルタチオン溶液(GSH)400μL及び純水890μLを加え、GSH濃度が10mMになるように調節した。もう一方の容器には、1290μLの純水を加え、GSH未添加溶液とした。同様の手順で、GSH濃度が10μmとなる化合物13の溶液を調製した。これらGSH未添加、GSH10mM及びGSH10μMの3つの溶液について、37℃恒温槽に静置し、pH=7.4(PBS緩衝液)で反応させた。反応時間480分で蛍光測定を行い、各蛍光スペクトルを調べた。その結果を図1に示す。図1は、化合物13についてのGSH未添加、GSH10mM及びGSH10μMにおける蛍光スペクトルである。
【0102】
化合物20の200μM水溶液30μLに10×PBS(リン酸緩衝生理食塩水)600μL及び純水1200μLを加え、610μLずつ2つの容器に分けた。一方の容器に50mMグルタチオン溶液(GSH)400μL及び純水890μLを加え、GSH濃度が10mMになるように調節した。もう一方の容器には、1390μLの純水を加え、GSH未添加溶液とした。同様の手順で、GSH濃度が10μmとなる化合物20の溶液を調製した。これらGSH未添加、GSH10mM及びGSH10μMの3つの溶液について、37℃恒温槽に静置し、pH=7.4(PBS緩衝液)で反応させた。反応時間480分で蛍光測定を行い、各蛍光スペクトルを調べた。その結果を図2に示す。図2は、化合物20についてのGSH未添加、GSH10mM及びGSH10μMにおける蛍光スペクトルである。
【0103】
図1及び図2に示すように、化合物13及び化合物20のいずれについても、細胞内GSH濃度に相当する10mMにてローダミン110由来の蛍光の増加が確認された。このことは、保護基により消光していた蛍光ユニットの保護基がGSHにより脱離することで、再び蛍光を示すようになったことを示している。一方、細胞外に微量に存在するGSH濃度(10μM)やGSH未添加の場合には、蛍光の増加はごく僅かであるか、消光したままだった。
【0104】
リン酸緩衝液(pH=7.0)中、化合物21の濃度を10μMとし、ニトロレダクターゼ50μg/mL及びNADHを1mM含む試料Aと、ニトロレダクターゼ及びNADHを含まない試料Bとを調製した。これらの試料を37℃にて2時間反応させ、蛍光スペクトルの変化を観察した。なお、試料Aについては、ニトロレダクターゼ及びNADH添加直後(すなわち反応時間0時間)の蛍光スペクトルの変化も観察した。その結果を図3に示す。図3は、化合物21についてのニトロレダクターゼ及びNADHあり、並びに無しの場合における経時の蛍光スペクトル変化である。
【0105】
図3に示すように、化合物21は、細胞内酵素であるニトロレダクターゼ存在下でローダミン110由来の蛍光の増加が観察された。このことは、保護基により消光していた蛍光ユニットの保護基がニトロレダクターゼの還元作用により脱離することで、再び蛍光を示すようになったことを示している。
【0106】
[オリゴヌクレオチド(T20)への蛍光標識化]
次に、オリゴヌクレオチドに対する蛍光標識を行った。この蛍光標識されたオリゴヌクレオチドは、本発明の化合物に相当する。オリゴヌクレオチドは、DNA自動合成機上でホスホロアミダイド法に従って固相合成法により合成した。オリゴヌクレオチドの合成に際しては、化合物23(チミン塩基のホスホロアミダイド)を用いて、チミジンが20個連続するオリゴヌクレオチド(これをT20と呼ぶ。)を合成し、最後に化合物14(エチニル基を有するホスホロアミダイド)を結合させた。これにより、T20の5’末端にエチニル基が導入されたことになる。得られたオリゴヌクレオチドをODN1と呼ぶ。
【0107】
ODN1に対して、クリック反応により蛍光標識化を行った。ODN1(50nmol)の溶液(38μL)に、50mMのCuSOと100mMのトリス[(1−ベンジル−1H−1,2,3−トリアゾール−4−イル)メチル]アミン(TBTA)を含むメタノール溶液(25μL)、及び150mMのL−アスコルビン酸ナトリウム水溶液(25μL)を加え、さらに化合物13(1000nmol)のTHF溶液(10μL)、メタノール(50μL)、THF(25μL)及び純水(15μL)を加え、撹拌した後、24時間室温にて静置した。この反応溶液にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)飽和水溶液(300μL)及びアセトニトリル(150μL)を加え、遠心分離(14000rpm、4℃、30分間)によりCu(I)を沈殿させ、上澄み液を回収した。HPLC分取カラムを使用し、目的物のピークを単離及び精製し、蛍光標識化ODN1を得た。
【0108】
得られた蛍光標識化ODN1に対して、GSHと反応させた。反応条件は、蛍光標識化ODN1を1.0μMに対してGSHを10mMとし、37℃のリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)中にて、反応時間を480分間とした。その結果を図4に示す。図4は、蛍光標識化ODN1を10mMのGSHと反応させたときの蛍光スペクトル変化である。
【0109】
図4に示すように、蛍光標識化ODN1は、10mMのGSHと反応することで消光していた蛍光が回復することが確認された。このことから、オリゴヌクレオチド鎖に結合された蛍光標識においても、GSHの作用により保護基が脱離して蛍光が回復することが理解される。
【0110】
[オリゴヌクレオチド類縁体(T’20)への蛍光標識化、及びその細胞内導入実験]
化合物23(チミン塩基のホスホロアミダイト)に加えて、化合物24(チミン塩基のホスホロアミダイトであり、リン酸のOHにフェニルプロピル基が結合したものである。これをXで表す。)を用いて、上記ODN1と同様の手順により、(5’末端)XXXTTXXXTTXXXTTTXXXT(3’末端)のヌクレオチド鎖(これをT’20と呼ぶ。)を合成し、最後に化合物14(エチニル基を有するホスホロアミダイド)を結合させた。これにより、T’20の5’末端にエチニル基が導入されたことになる。得られたオリゴヌクレオチドをODN2と呼ぶ。ODN2は、ODN1よりも脂溶性が向上しており、細胞内への導入効率が向上すると考えられる。
【0111】
ODN2に対して、クリック反応により蛍光標識化を行った。ODN2(100nmol)の溶液(50μL)に、50mMのCuSOと100mMのTBTAを含むメタノール溶液(25μL)、及び150mMのL−アスコルビン酸ナトリウム水溶液(25μL)を加え、減圧留去することで一度溶液の液量を減らした。これに化合物13(1000nmol)のTHF溶液(20μL)、メタノール(160μL)、THF(60μL)及び純水(80μL)を加え、撹拌した後、48時間37℃にて静置した。この反応溶液にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)飽和水溶液(400μL)及びアセトニトリル(1000μL)を加え、遠心分離(14000rpm、4℃、30分間)によりCu(I)を沈殿させ、上澄み液を回収した。HPLC分取カラムを使用し、目的物のピークを単離及び精製し、蛍光標識化ODN2を得た。
【0112】
COインキュベーター内にて培養していたHela細胞を24マルウェアプレートの2穴へと移し、カバーガラスの上で継代を行った。カバーガラスにHela細胞を接着させてインキュベートし、2日後、蛍光標識化ODN2を用いた細胞内への輸送実験を行った。培地を吸出し、Opti−MEM(登録商標、以下同様である。)で洗浄を行い、2穴のうち、片方は、Opti−MEMを200μL加え、もう片方には10%PBS/Opti−MEM(200μL)で溶解させたN−エチルマレイミド(NEM)を加えた。NEMは、細胞内のGSHをブロッキングし、本発明の保護基に含まれるS−S結合への反応性を弱める作用をもつ。すなわち、上記2穴のうち、片方は細胞内GSHが作用する状態にあり、もう片方はGSHが作用しない状態にあることになる。37℃インキュベーターで30分間静置した後、溶液を吸い出し、それぞれの穴に蛍光標識化ODN2(10%PBS/Opti−MEM溶液)を200μLずつ加えた。そのマルウェアプレートをCOインキュベーターで1時間静置した後で、蛍光顕微鏡で観察し画像を得た。得られた画像を図5に示す。図5は、蛍光標識化ODN2が細胞内に取り込まれたときの様子を示す蛍光顕微鏡画像である。
【0113】
図5の左上画像は、細胞の位置を示す明視野の画像である。左下画像は、その蛍光画像である。細胞の位置に蛍光が観察されることがわかる。右下画像は、NEMで処理した細胞における蛍光画像である。NEMで処理された細胞では明確な蛍光が観察されなかったことから、細胞内のチオール(GSH)によって保護基が除去され蛍光が発生していることが示された。
【0114】
[蛍光標識化ODN2の脱保護前後の紫外可視吸収スペクトル及び蛍光スペクトル変化]
上記手順で得た蛍光標識化ODN2について、脱保護前の紫外可視吸収スペクトル及び蛍光スペクトル、並びに脱保護後の紫外可視吸収スペクトル及び蛍光スペクトルの観察を行った。紫外可視吸収スペクトル測定は、液温23℃の20mMリン酸ナトリウム水溶液(pH7.4)中で蛍光標識化ODN2の濃度を10μMとして実施し、蛍光スペクトル測定は、液温37℃の100mMリン酸ナトリウム水溶液(pH7.4)中で蛍光標識化ODN2の濃度を500nMとし、励起光の波長を495nmとして実施した。その結果を図6に示す。図6は、蛍光標識化ODN2の脱保護前後の紫外可視吸収スペクトル及び蛍光スペクトル変化を示すチャートであり、図6(a)が紫外可視吸収スペクトル変化を示すチャートであり、図6(b)が蛍光スペクトル変化を示すチャートである。なお、蛍光標識化ODN2の脱保護前後の構造は、下記化学式に示す通りである。
【0115】
【化47】
【0116】
図6(a)及び(b)に示す通り、脱保護に伴い、500nm付近に強い吸収が現れるとともに、530nm付近に強い蛍光が観察された。
【0117】
[蛍光標識化ODN2のGSH存在下における時間経過に対する蛍光変化]
上記手順で得た蛍光標識化ODN2について、GSHの存在下で、時間経過に対する蛍光変化を観察した。蛍光スペクトル変化は、液温37℃の100mMリン酸ナトリウム水溶液(pH7.4)中で蛍光標識化ODN2の濃度を500nMとし、励起波長を495nm、蛍光の検出波長を520nmとして、水溶液中のGSH濃度を0μM、10μM、1.0mMm及び10mMとしてそれぞれ測定した。その結果を図7に示す。図7は、蛍光標識化ODN2のGSH存在下における時間経過に対する蛍光変化を示すチャートである。
【0118】
図7に示す通り、GSHが添加された溶液では時間の経過とともに蛍光強度の増加が観察され、蛍光標識化ODN2が細胞内物質であるGSHの存在下で脱保護され、蛍光を発するようになることが理解できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7