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特開2019-75403一軸磁気異方性バルク磁性材料及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-75403(P2019-75403A)
(43)【公開日】2019年5月16日
(54)【発明の名称】一軸磁気異方性バルク磁性材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/26 20060101AFI20190419BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20190419BHJP
   H01F 41/16 20060101ALI20190419BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20190419BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20190419BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20190419BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20190419BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20190419BHJP
【FI】
   H01F1/26
   H01F1/153 108
   H01F1/153 133
   H01F1/153 175
   H01F1/153 183
   H01F41/16
   B22F1/02 E
   B22F1/00 B
   B22F1/00 D
   B22F1/00 Y
   B22F3/00 B
   B22F3/02 M
   B22F3/02 N
   B22F3/24 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-198361(P2017-198361)
(22)【出願日】2017年10月12日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「スーパークラスタープログラム」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敏郎
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
5E049
【Fターム(参考)】
4K018AA24
4K018BA13
4K018BB01
4K018BB04
4K018BB07
4K018BC01
4K018BC08
4K018BC12
4K018BC33
4K018CA07
4K018CA09
4K018CA33
4K018CA50
4K018FA08
4K018FA50
4K018HA08
4K018KA44
5E041AA11
5E041BB01
5E041BB03
5E041BD03
5E041BD12
5E041CA01
5E041NN05
5E041NN06
5E049AC01
5E049BA11
5E049CB01
5E049EB06
5E049FC10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】10MHz〜数百MHz帯の周波数帯域において好適に使用することができる新規な磁性材料を提供する。
【解決手段】本発明の一軸磁気異方性バルク磁性材料は、一軸磁気異方性を備える扁平磁性粉末が、扁平磁性粉末の面方向を同一にして積層配向され、マトリックス材に充填されたバルク体として構成されている。一軸磁気異方性バルク磁性材料としては、扁平磁性粉末の外径をD、厚さをdとするとき、扁平比d/Dが1/10以下であるものが好適であり、扁平磁性粉末は、磁性粉末の表面が絶縁皮膜により被覆されている。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一軸磁気異方性を備える扁平磁性粉末が、扁平磁性粉末の面方向を同一にして積層配向され、マトリックス材に充填されたバルク体として構成されていることを特徴とする一軸磁気異方性バルク磁性材料。
【請求項2】
前記扁平磁性粉末の外径をD、厚さをdとするとき、扁平比d/Dが1/10以下であることを特徴とする請求項1記載の一軸磁気異方性バルク磁性材料。
【請求項3】
前記扁平磁性粉末は、磁性粉末の表面が絶縁皮膜により被覆されていることを特徴とする請求項1または2記載の一軸磁気異方性バルク磁性材料。
【請求項4】
前記扁平磁性粉末が、Fe系アモルファス合金あるいはFe系ナノ結晶合金であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の一軸磁気異方性バルク磁性材料。
【請求項5】
前記マトリックス材が、樹脂材料あるいは無機材料の少なくとも一つからなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の一軸磁気異方性バルク磁性材料。
【請求項6】
前記バルク体は、シート状であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の一軸磁気異方性バルク磁性材料。
【請求項7】
前バルク体が、厚さ方向に複数層に積層されてなることを特徴とする請求項6記載の一軸磁気異方性バルク磁性材料。
【請求項8】
下記のa)〜c)の工程をこの順に備えることを特徴とする一軸磁気異方性バルク磁性材料の製造方法。
a)扁平磁性粉末とマトリックス材とを混錬してコンポジットスラリを調製する工程。
b)前記コンポジットスラリをシート状に成形し、コンポジットスラリに含まれている扁平磁性粉末を、面方向を同一にして積層配向させた半硬化シートを作製する工程。
c)半硬化シートを磁界中で熱処理し、半硬化シートを完全に熱硬化させるとともに一軸磁気異方性を備えるバルク体を作製する磁界中熱処理工程。
【請求項9】
前記半硬化シートを作製する工程b)の後工程として、
d)前記半硬化シートを複数枚積層し、半硬化シートの積層体を作製する工程
を備え、
前記c)工程において、前記半硬化シートの積層体に対して磁界中熱処理を施すことを特徴とする請求項8記載の一軸磁気異方性バルク磁性材料の製造方法。
【請求項10】
前記b)工程と、c)工程とを繰り返し、半硬化シートが硬化した硬化シートを複数層に積層して形成することを特徴とする請求項8記載の一軸磁気異方性バルク磁性材料の製造方法。
【請求項11】
前記b)工程においては、
一対のプレスプレート間に前記コンポジットスラリを供給し、前記プレスプレートによりコンポジットスラリを厚さ方向に加圧して前記半硬化シートを形成することを特徴とする請求項8〜10のいずれか一項記載の一軸磁気異方性バルク磁性材料の製造方法。
【請求項12】
前記b)工程においては、
ドクターブレード法を利用して前記コンポジットスラリをシート状に成形することを特徴とする請求項8〜10のいずれか一項記載の一軸磁気異方性バルク磁性材料の製造方法。
【請求項13】
前記a)工程においては、
球形の磁性粉末に扁平加工を施して扁平形状とした扁平磁性粉末を用いることを特徴とする請求項8〜12のいずれか一項記載の一軸磁気異方性バルク磁性材料の製造方法。
【請求項14】
前記球形の磁性粉末に扁平加工を施して扁平形状とした扁平磁性粉末を作製した後、
前記扁平磁性粉末に、大気中アニール処理を施して、扁平磁性粉末に残留する加工歪を除去するとともに、前記扁平磁性粉末の表面に絶縁皮膜として熱酸化膜を形成することを特徴とする請求項13記載の一軸磁気異方性バルク磁性材料の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一軸磁気異方性バルク磁性材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、低炭素社会の実現に向け、次世代のパワーエレクトロニクスとして、10MHz〜数百MHz帯域での使用を想定した超高周波電力変換技術の研究開発がはじまっている。このよう高周波領域での使用を想定した電力変換用デバイスとしてはGaNやSiC、次世代としてGa2O3やダイヤモンド系といったパワー半導体がある。
10MHz以上の高周波領域の電力変換回路において問題となるのが、高周波領域で使用することができるリアクトルやトランス用の磁性材料(磁心材料)である。これらの磁心材料にはさまざまな材料が存在するが、MHz帯以上の高周波域で使用できる可能性のある材料として現在知られているものは、Ni−Zn系フェライト材料のみである(非特許文献1、2)。
【0003】
Ni−Zn系フェライト材料は105Ω・mという高い電気抵抗率を有し、高周波用磁心材料として通信回路の小信号用インダクタに多用されてきた。しかしながら、Ni−Zn系フェライト材料であっても、自然共鳴と言われる磁気共鳴現象により使用周波数の上限が制限される。フェライト組成や結晶粒径の微細化等で透磁率を下げ、自然共鳴周波数を高くして周波数帯域を高周波側に延ばしたとしても、100MHzまでの使用が限界である。また、Ni−Znフェライトは磁束密度に対するコアロスの非線形に強く、自然共鳴周波数以下の周波数でも、磁束密度振幅の大きな高周波電力変換回路に使用する場合は磁心による損失が大きく、電力変換効率を下げる大きな要因になる。Ni−Zn系フェライト材料は飽和磁束密度が0.3T以下と低く、キュリー温度が300℃前後であるため、耐熱温度も140℃程度に制限されるという問題もあり、実際上、10MHz以上の周波数帯域をねらう磁性材料としてNi−Zn系フェライト材料は大きな課題を抱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−177271号公報
【特許文献2】特開2017−73447号公報
【特許文献3】特開2013ー155055号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】A. J. Hanson et al., IEEE Trans. Power Electron., 31(11), 7909 (2016).
【非特許文献2】A. Hariya et al., Proc. of IPEC-Hiroshima2014-ECCE-ASIA, 3630 (2014).
【非特許文献3】Kanako Sugimura, Daisuke Shibamoto, Naoki Yabu, Tatsuya Yamamoto, Makoto Sonehara, Toshiro Sato, Tsutomu Mizuno, Hideaki Mizusaki Surface-oxidized amorphous alloy powder/epoxy-resin composite bulk magnetic core and its application to MHz switching LLC resonant converter IEEE Transactions on Magnetics ( Volume: PP, Issue: 99 ), 21 June 2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、次世代のパワーエレクトロニクスで必須となる、10MHz〜数百MHzの周波数帯域において好適に使用することができる新規な磁性材料として、一軸磁気異方性バルク磁性材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はMHz帯域での使用が可能な磁性材料として、数μm径の微細なFe系アモルファス粉末を使用する磁性材料を開発してきた。この磁性材料は、樹脂のマトリックス中に磁性粉末を充填してバルク磁性材料としたもので、球形の磁性粉末の表面を絶縁皮膜(熱酸化膜等)により被覆した磁性粉末を使用している。磁性粉末の表面を絶縁皮膜で被覆したことにより、磁性粒子内にうず電流を閉じ込めてうず電流損を抑制し、微小な磁性粒子を使用することにより高周波でも鉄損の小さいバルク磁性材料を実現した。
図1は、微細なFe系アモルファス磁性粉末を用いた樹脂との複合磁性材料と、高周波帯域における特性が優れるとして報告されている磁性材料であるNi−Znフェライトの2MHzにおけるコアロスを比較したグラフである。図1に示すように、表面を絶縁皮膜で被覆したFe系アモルファス粉末(2.56μm径)を用いた磁性材料は、これらの磁性材料と比べて数MHz帯域においてコアロスが大幅に改善されていることがわかる。
【0008】
しかしながら、10MHz〜数百MHzといったさらに高周波となる帯域において使用することを想定すると、絶縁皮膜で表面を被覆した磁性粉末を用いた磁性材料であっても使用することは困難である。
10MHz以上といった高周波帯域においてうず電流損を抑制するには、磁性粉末の粒子径をサブミクロンサイズ程度にまでに微小化する必要がある。上記磁性材料では、数μm〜10μm径程度の磁性粉末を使用しているが、サブミクロンサイズの磁性粉末を用意することは、製造方法及び製造コストの面で、実際にはきわめて困難である。磁性粉末を製造する方法にアトマイズ法がある。アトマイズ法では、さまざまな粒径の磁性粒子が混在して形成される。そのため、数μm〜10μm径の磁性粉末は、生成した磁性粉末から分級して提供されている。このような製造方法でサブミクロンサイズの磁性粉末を提供する方法は現実的でない。
【0009】
また、樹脂と複合化して磁性材料を構成する際、球形磁性粉末の反磁界による作用によって磁性材料の実効透磁率を高くすることが困難であるという問題がある。
図2に、磁性粉末を球形と仮定したときに磁性粉末に生じる反磁界の作用を示す。
図2(a)は単体の磁性粉末に外部磁界を作用させた場合で、磁性粉末の内部に反磁界が生じる作用を示す。図2(b)は磁性粉末をコンポジット化した磁性材料の場合である。この場合は、磁性粉末が近接する部位では表面磁極が打ち消し合って反磁界の発生を抑制するが、複合化した場合でも空間配置上で磁性粉末の磁極が打ち消し合わない部位が生じ、磁性粉末の表面の絶縁皮膜が存在することで反磁界を抑制する作用が減退するという問題がある。
【0010】
本発明者は、高周波領域における磁性材料として有望と考えられる磁性粉末を、10MHz〜数百MHzさらには1GHzといった、いままでにない周波数帯域においても使用することを可能にする方法として、一軸磁気異方性を付与した扁平磁性粉末を利用することを想到するに至った。
一軸磁気異方性を備える磁性材としては、磁性薄膜がよく知られている。図3(a)、(b)は一軸磁気異方性を付与した磁性膜の磁区構成を示す。図3(a)は磁化容易軸方向に磁化した180°磁区と、それと直交する90°還流磁区とが形成される場合の磁区構造を示すものである。
図3(b)は、磁性膜の磁化困難磁区方向に磁界を作用させた場合を示したもので、各々の180°磁区で、磁気モーメントは磁気トルクにより一様に磁界H方向に回転する。この現象を回転磁化と言う。
【0011】
図4は、一軸磁気異方性磁性膜についての磁化曲線を示す。磁性膜に対して磁化容易軸方向に磁界を作用させると、わずかに磁界を作用させただけで飽和磁化(Ms)する。一方、磁化困難軸方向に磁界を作用させると、磁界が強くなるとともに線形に磁化が増大していき飽和磁化(Ms)に達する。
図5は一軸磁気異方性磁性膜の透磁率の周波数特性を示す。図5に示すように、磁化容易軸方向に磁界を作用させたときは、低い周波数帯域で大きな透磁率が得られる一方、周波数がやや高くなると透磁率は急激に減少する。これに対し、磁化困難軸方向に磁界を作用させたときは、きわめて高い周波数帯域まで透磁率は一定であり、強磁性共鳴周波数frが限界周波数となる。すなわち、一軸磁気異方性を備える磁性材は、磁化困難軸方向に磁界を作用させる(回転磁化を利用する)ことにより、きわめて高い周波数帯域まで一定の透磁率た得られるという特性を有する。
【0012】
例えば、Fe73.7Si11.0B11.0Cr2.3C2.0(at.%)組成のFe系アモルファス合金組成の場合、飽和磁化Ms:1.26Tであり、800A/m以上の一軸異方性磁界Hkを誘導できれば、強磁性共鳴周波数frは1GHz以上となる。飽和磁化MsはFe、Co、Niなどの磁性元素含有量に強く依存する。一軸異方性磁界は磁界中合成や磁界中熱処理などによる原子対の方向性規則配列によって誘導可能である他、磁気歪効果による磁気弾性エネルギーによっても異方性が誘導され、材料組成にも大きく依存する。Fe、Co、Niを含む合金系材料ではPdの添加が一軸異方性の誘導を容易にするとともにPd添加量によって一軸磁気異方性磁界を変えることもできる。したがって、理論的には、Fe系アモルファス粉末の合金組成で強磁性共鳴周波数を1GHz以上にすることは可能であるが、実際には、うず電流の影響を避けるために、超微細粉末あるいは薄膜という形態で利用する必要がある。
【0013】
しかしながら、球形の磁性粉末を用いたのでは、磁界中熱処理で一軸磁気異方性を付与しようとしても、反磁界効果によって粉末内部の有効磁界が大きく減少することと、球対称という粉末の等方的な形態のために一軸磁気異方性を誘導することは難しい。磁性粉末を使用して一軸磁気異方性を付与するには、扁平形状(平板状)とした磁性粉末を使用して扁平面内に磁界を作用させて熱処理することで180°磁区構造を形成できる。
本発明において、扁平形状の磁性粉末を使用して一軸磁気異方性バルク磁性材料を構成する理由は、扁平形状の磁性粉末を積層して磁界中熱処理すれば、一軸磁気異方性を付与することができるからである。本発明に係る一軸磁気異方性バルク磁性材料は、一軸磁気異方性を備える扁平形状の磁性粉末を、マトリックス材に充填してバルク材として構成してなるものである。
【0014】
扁平形状の磁性粉末を得るもっとも簡単な方法は、球形の磁性粉末を扁平状(平板状)に加工して扁平形状の磁性粉末にする方法である。アトマイズ法によって得られる磁性粉末はほぼ球形の磁性粉末として得られる。したがって、この磁性粉末を扁平加工することで扁平形状の磁性粉末を得ることができる。
一軸磁気異方性を備える扁平形状の磁性粉末については、使用周波数における磁界の表皮厚さ、実効透磁率、うず電流損を考慮して設計する必要があるが、出発材料である球形磁性粉末自体の大きさがサブミクロンサイズである必要はまったくない。
【0015】
前述したように、アトマイズ法で数μm〜10μm径の球形磁性粉末を得ることは容易である一方、サブミクロンサイズの磁性粉末は収量が少なくきわめて高価である。球形の磁性粉末を加工して扁平形状とした磁性粉末を用いて一軸磁気異方性を付与する方法は、サブミクロンサイズといった高価な磁性材を使用する必要がなく、かつ10MHz〜数百MHz、1GHzといった高周波帯域において使用することを可能にする磁性材料となる点できわめて有効である。
【0016】
本発明に係る一軸磁気異方性バルク磁性材料は、一軸磁気異方性を備える扁平磁性粉末が、扁平磁性粉末の面方向を同一にして積層配向され、マトリックス材に充填されたバルク体として構成されていることを特徴とするものである。
一軸磁気異方性バルク磁性材料に用いる扁平磁性粉末の扁平比は、用途によって適宜選択して用いることができるが、10MHz程度以上の周波数帯域で使用する場合には、扁平磁性粉末の外径をD、厚さをdとするとき、扁平比d/Dが1/10以下となるように設定するのがよい。
また、前記扁平磁性粉末は、磁性粉末の表面が絶縁皮膜により被覆されていることにより、うず電流損を抑制することができて有効である。
【0017】
前記扁平磁性粉末には、軟磁性材料を適宜選択して使用することができるが、Fe系アモルファス合金あるいはFe系ナノ結晶合金は、結晶質の磁性材料と比較して電気抵抗が高く、高周波領域におけるうず電流損を抑制する上で有効である。
アモルファス粒子に含まれる磁性金属としては、Fe、Co、Ni及びこれらの合金が挙げられ、アモルファス形成元素としてSi、B、P、Cなどの他に、耐食性を向上させるためのCrなどを含む。Fe系ナノ結晶合金は、前記磁性元素およびこれらの合金の他にSi、B、Cu、Nb、Bなどを含む。さらに、他には、金属ガラスと呼ばれる組成の粉末でも良い。また、一軸磁気異方性を誘導しやすくする元素(例えば、Pd)を添加することもできる。
【0018】
前記マトリックス材は扁平磁性粉末を内包してバルク体として保持するためのものである。マトリックス材としては樹脂材料の他、ガラス等の無機材料を用いることができる。
【0019】
一軸磁気異方性材料はバルク体として構成される。バルク体の大きさや形態がとくに限定されるものではなく用途に応じた所要の形態に形成され、コイルの磁心材料(コア)として所要の形状に形成されるもの等が含まれる。また、バルク体はブロック状に形成されたものの他、シート状に形成されたものも含む。
【0020】
また、本発明に係る一軸磁気異方性バルク磁性材料の製造方法は、下記のa)〜c)の工程をこの順に備えることを特徴とする。
a)扁平磁性粉末とマトリックス材とを混錬してコンポジットスラリ(または、ゲル)を調製する工程。なお、本明細書において「コンポジットスラリ」とは、磁性粉末とマトリックス材とがゲル状に混錬されてなるコンポジットゲルを含む意とする。
b)前記コンポジットスラリ(または、ゲル)をシート状に成形し、コンポジットスラリ(または、ゲル)に含まれている扁平磁性粉末を、面方向を同一にして積層配向させた半硬化シートを作製する工程。
c)半硬化シートを磁界中で熱処理し、半硬化シートを完全に熱硬化させるとともに一軸磁気異方性を備えるバルク体を作製する磁界中熱処理工程。
【0021】
また、前記半硬化シートを作製する工程b)の後工程として、d)前記半硬化シートを複数枚積層し、半硬化シートの積層体を作製する工程を備え、前記c)工程において、前記半硬化シートの積層体に対して磁界中熱処理を施すこと、
また、前記b)工程と、c)工程とを繰り返し、半硬化シートが硬化した硬化シートを複数層に積層して形成すること、
また、前記b)工程においては、一対のプレスプレート間に前記コンポジットスラリ(または、ゲル)を供給し、前記プレスプレートによりコンポジットスラリ(または、ゲル)を厚さ方向に加圧して前記半硬化シートを形成すること、
また、前記b)工程においては、ドクターブレード法を利用して前記コンポジットスラリ(または、ゲル)をシート状に成形すること、
また、前記a)工程においては、球形の磁性粉末に扁平加工を施して扁平形状とした扁平磁性粉末を用いること、
また、前記球形の磁性粉末に扁平加工を施して扁平形状とした扁平磁性粉末を作製した後、前記扁平磁性粉末に、大気中アニール処理を施して、扁平磁性粉末に残留する加工歪を除去するとともに、前記扁平磁性粉末の表面に絶縁皮膜として熱酸化膜を形成することをそれぞれ特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る一軸磁気異方性バルク磁性材料は、扁平磁性粉末を磁性材として使用したバルク材として提供され、10MHz〜数百MHzの周波数帯域での磁性材料としてリアクトルやトランスに利用することができる。また、本発明方法によれば、一軸磁気異方性バルク磁性材料を容易にかつ確実に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】磁性粉末を用いた磁性材料とNi−Znフェライトについての2MHzにおけるコアロスを示すグラフである。
図2】球形状の磁性粉末に外部磁界を作用させたときの反磁界(a)、磁性粉末をコンポジット化したときに生じる反磁界(b)をそれぞれ示す説明図である。
図3】一軸磁気異方性を付与した磁性膜の磁区構造を示す図である。
図4】一軸磁気異方性磁性膜の磁化曲線を示す図である。
図5】一軸磁気異方性磁性膜の透磁率の周波数特性を示すグラフである。
図6】(a)扁平加工前のFe系アモルファス磁性粉末のSEM像、(b)扁平加工後のFe系アモルファス磁性粉末のSEM像である。
図7】扁平加工前と扁平加工後のFe系アモルファス磁性粉末について測定したXRDパターンを示すグラフである。
図8】扁平加工を施した磁性粉末について大気中でアニール処理したときの保磁力を測定した結果を示すグラフである。
図9】球形の磁性粉末から一軸異方性バルク材料を作製する工程を示す説明図である。
図10】球形の磁性粉末(直径D)と、磁性粉末を扁平加工して得られた平板状磁性粉末(厚さd、外径c)を示す図である。
図11】平板状の扁平磁性粉末から構成された一軸磁気異方性バルク磁性材料の内部構造を示す説明図である。
図12】扁平磁性粉末の表皮厚さを計算した結果を示すグラフである。
図13】扁平磁性粉末の扁平比を変えたときの扁平磁性粉末の真性比透磁率と実効比透磁率を計算した結果を示すグラフである。
図14】うず電流損失の周波数特性を計算した結果を示すグラフである。
図15】スイッチング電源モジュールに一軸磁気異方性バルク磁性材料を利用する例を示す説明図である。
図16】DC-DCコンバータに一軸磁気異方性バルク磁性材料を利用する例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(一軸磁気異方性磁性粉末)
本発明に係る一軸磁気異方性バルク磁性材料は、磁性材として一軸磁気異方性を付与した扁平形状の磁性粉末を使用する。扁平形状の磁性粉末を使用する理由は、磁性粉末を扁平形状とすることで、扁平磁性粉末に磁界中熱処理によって一軸磁気異方性を付与することができ、一軸磁気異方性を備える磁性粉末を含有するバルク材を構成することによって、10MHz〜数百MHz、1GHzといった高周波帯域において使用することができる磁性材料(磁心材料)を提供することができるからである。
【0025】
まず、一軸磁気異方性バルク磁性材料に用いられる磁性材について説明する。
図6は、扁平形状の磁性粉末を作製する方法として、球形の磁性粉末に扁平加工を施して扁平形状の磁性粉末を形成する実験例を示す。この実験では、アトマイズ法によって作製されたFe系アモルファス磁性粉末(Fe73.7Si11.0B11.0Cr2.3C2.0(at.%)、平均メディアン径D50;5.2μm)を使用した。
図6(a)は、実験で使用した5.2μm径のFe系アモルファス磁性粉末の扁平加工前のSEM像である。アトマイズ法では径が異なる磁性粉末が混在して生成されるため、図6(a)では、5.2μmよりも小径の磁性粉末も混在している。
図6(b)は、磁性粉末を扁平加工した後のSEM像である。画像の中央に見える磁性粉末が、薄い平板状に扁平加工されている。この扁平磁性粉末の厚さは、サブミクロンの厚さである。
【0026】
図7は、扁平加工前と扁平加工後のFe系アモルファス磁性粉末について測定したXRDパターンである。図7には、平均メディアン径D50;10.9μmのFe系アモルファス磁性粉末と5.2μmのFe系アモルファス磁性粉末について、扁平加工前(Sphere)と扁平加工後(Flake)について測定したグラフを示す。
図7に示す測定結果から、扁平加工前と扁平加工後とでXRDパターンに変化が見られず、扁平加工によって磁性粉末のアモルファス状態が維持されていることが確かめられた。
【0027】
扁平加工前のFe系アモルファス球形磁性粉末の保磁力は2〜3Oeであり、扁平加工すると加工歪によって40〜50Oeにまで増大する。図8はFe系アモルファス磁性粉末に扁平加工を施した磁性粉末について大気中で熱処理(アニール処理)することで保磁力がどのように変化するかを実験した結果を示す。
実験は、平均メディアン径D50;5.2μm径と10.9μm径の球形のFe系アモルファス磁性粉末に扁平加工を施して得た扁平形状の磁性粉末をサンプルとして、大気中で熱処理をし、室温で保磁力を測定したものである。このアニール処理の実験結果から、5.2μm径のFe系アモルファス磁性粉末を扁平加工した磁性粉末については、約350℃のアニール処理により保磁力が最小(10Oe以下)になること、10.9μm径のFe系アモルファス磁性粉末を扁平加工した磁性粉末では約380℃のアニール処理により保磁力が最小(10Oe以下)になることがわかる。
【0028】
この実験結果は、Fe系アモルファス磁性粉末については、アニール処理温度を300℃程度に設定し、保磁力を下げた状態で保磁力を上回る磁界を磁性粉末に作用させて磁界中熱処理することにより、確実に磁性粉末に一軸磁気異方性を付与することができることを意味する。
上記実験はFe系アモルファス磁性粉末について行ったものであるが、Fe系アモルファス磁性粉末以外の磁性材についても、アニール温度を適当に設定することにより保磁力を下げることが可能であり、加工歪除去アニール処理とともに磁界中熱処理によって、同様に一軸磁気異方性を付与することが可能であると考えられる。
【0029】
(一軸磁気異方性バルク磁性材料の製造方法)
次に、扁平形状の磁性粉末を用いて一軸磁気異方性バルク磁性材料を製造する方法について以下に説明する。
図9は、球形の磁性粉末を扁平加工し、扁平形状の磁性粉末とマトリックス材とが混錬されたコンポジットスラリ(「コンポジットスラリ」はコンポジットゲルを含む意)を処理することにより一軸異方性バルク材料を作製する工程を示す。
【0030】
図9(a)は扁平形状の磁性粉末の作製に使用する出発材料である磁性材10を示す。磁性材10には10μm径程度の球形の軟磁性金属粉末を使用する。10μm径程度とは、数μm〜数十μm程度の磁性粉末の意である。磁性材10として、数μm径以下程度の微小な磁性粉末を用いることは排除されないが、数μm径程度以下の磁性粉末を用いることが限定されるものではない。
【0031】
磁性材10は一軸磁気異方性を付与することができる材料であればとくに使用する材料が限定されるものではない。磁性材10の例としては、飽和磁化等の磁気特性上の要請から、FeSiB系等のFe系アモルファス合金からなるもの、FeSiBCuNb系等のFe系ナノ結晶合金からなるものが用いられる。また、一軸磁気異方性を誘導するための元素、たとえばPdを添加した磁性材を使用することも可能である。
【0032】
図9(b)は、磁性材10を扁平加工して扁平磁性粉末10aを形成した状態を示す(扁平加工工程)。扁平磁性粉末10aの厚さは1μm程度以下にすればよい。扁平磁性粉末10aの厚さが問題になるのは使用する周波数帯域における表皮効果による影響である。周波数帯域が高くなるにしたがって表皮効果の影響が大きくなるから、使用する周波数帯域が高い場合には、扁平磁性粉末10aの厚さを薄くした方が表皮効果による影響を抑えることができる。使用する磁性材10の特性にもよるが、10MHz〜100MHzの周波数帯域で使用する場合であれば、扁平磁性粉末10aの厚さを1μm以下程度とすれば表皮効果による影響を小さくすることができる。
【0033】
図9(c)は、扁平磁性粉末10aを大気中で歪取りアニール処理した扁平磁性粉末10bを示す(大気中歪取りアニール処理工程)。磁性材10を機械加工によって扁平磁性粉末10aとすると、扁平磁性粉末10aには加工歪が残留する。大気中歪取りアニール処理工程は、扁平磁性粉末10aに残留する加工歪を取り除くことと、大気中で加熱することにより、扁平磁性粉末10bの表面に絶縁皮膜として熱酸化膜を形成することを目的とする。
扁平磁性粉末10bはマトリックス材に充填されてバルク材となる。扁平磁性粉末10bの表面に絶縁皮膜を形成することにより、扁平磁性粉末10bをマトリックス中に充填した状態で、扁平磁性粉末10bが相互に電気的に導通することが回避される。絶縁皮膜により扁平磁性粉末10bを相互に絶縁することにより、うず電流が生じても個々の扁平磁性粉末10b中にうず電流を閉じ込め、うず電流損を抑えることができる。
【0034】
扁平磁性粉末10aを大気中でアニール処理する方法は、扁平磁性粉末10aの加工歪を除去し、扁平磁性粉末の表面に絶縁皮膜を形成する方法として有効であるが、扁平磁性粉末の表面に酸化皮膜を形成して絶縁皮膜とする方法には、大気中におけるアニール処理の他に、酸素ガス及び/または窒素ガス等によるガスフロー熱処理や、過酸化水素水、過酸化ナトリウム、過硫酸などの酸化剤中に入れて酸化させる方法等がある。
【0035】
次に、扁平磁性粉末10bと水ガラス、耐熱樹脂の前駆体を容器中で混錬し、コンポジットスラリ12を調製する(コンポジットスラリを調製する工程)。図9(d)にコンポジットスラリ12を調製した状態を示す。
コンポジットスラリ12は、水ガラスと耐熱樹脂とをマトリックス材として、マトリックス材中に扁平磁性粉末10bを充填してバルク材を作製するためのものである。この例では、マトリックス材として水ガラスと耐熱樹脂を選んでいるが、バルク材を構成するマトリックス材は所定の耐熱性と電気的絶縁性を備えるものであれば適宜素材(樹脂材料、無機材料)を選択することができる。
【0036】
次に、コンポジットスラリ12をシート状に成形し、コンポジットスラリ12に混錬されている扁平磁性粉末10bを、面方向を揃えるように配向させ、積層させて半硬化シート16を作製する(半硬化シートを作製する工程)。
図9(e)、(f)は、半硬化シート16を作製する方法例を示す。
図9(e)は、一対のプレスプレート14a、14b間にコンポジットスラリ12を供給し、平板のプレスプレート14a、14bでコンポジットスラリ12を厚さ方向に低温プレスして半硬化シート16を形成する方法である。プレスプレート14a、14bでコンポジットスラリ12を面方向に加圧することにより、プレスプレート14a、14bの押圧面と平行に扁平磁性粉末10bの面方向が配向し、扁平磁性粉末10bが積層した形態となって充填される。
図9(f)は、ドクターブレード法を利用してコンポジットスラリ12をシート状に成形する方法である。ブレード15でコンポジットスラリ12をシート状に押し出すようにすることにより、扁平磁性粉末10bの面方向が揃うように配向し、シート状に成形された半硬化シート16を得ることができる。図9(g)は、コンポジットスラリ12をシート状に成形して得られた半硬化シート16を示す。
【0037】
次に、半硬化シート16を複数枚積層し、低温で加圧して半硬化シートの積層体18を作製する(半硬化シートの積層体を作製する工程:図9(h))。この工程では、作製しようとするバルク体の大きさ、厚さに応じて、必要な大きさ及び必要な枚数の半硬化シート16を積層し、低温加熱して加圧することにより半硬化シートの積層体18を作製する。
【0038】
次に、半硬化シートの積層体18を磁界中で熱処理し、半硬化シートの積層体18を完全に熱硬化させるとともに一軸磁気異方性を備えるバルク体20を作製する(磁界中熱処理工程:図9(i))。
この工程では、半硬化シートの積層体18を構成する半硬化シート16の面方向、すなわち半硬化シート16中の扁平磁性粉末10bの面方向に平行に磁界HDCを作用させながら半硬化シートの積層体18を熱硬化させる。磁界HDCを作用させながら熱硬化させることにより、磁界HDCを作用させた方向が磁化容易軸となるバルク体20が得られる。
半硬化シートの積層体18を加熱する温度と、作用させる磁界は、半硬化シートの積層体18を完全に熱硬化させることができ、かつ扁平磁性粉末10bに一軸磁気異方性を付与することができる磁界の強さに設定すればよい。
前述したように、たとえばFe系アモルファス磁性材料を用いる場合であれば、加熱温度300℃〜400℃程度、磁界100Oe以上に設定することで確実に一軸磁気異方性を備えるバルク体20を得ることができる。
【0039】
図9(j)が得られた一軸磁気異方性バルク磁性材料である。この一軸磁気異方性バルク磁性材料は、水ガラスと耐熱樹脂からなるマトリックス材中に、絶縁皮膜により表面が被覆された扁平磁性粉末10bが面方向をそろえて配向し、厚さ方向に積層して充填された形態のバルク体として得られる。
一軸磁気異方性バルク磁性材料は、扁平磁性粉末10bの面に平行に磁界を作用させた方向が磁化容易軸方向、扁平磁性粉末10bの面内で磁化容易軸方向と直交する方向が磁化困難軸方向である。したがって、この一軸磁気異方性バルク磁性材料をリアクトルやトランス用の磁性材料として使用する場合は、図9(j)に示すように、磁化困難軸方向が作用する配置、設計として使用する。前述したように、一軸磁気異方性バルク磁性材料は磁化困難軸方向に磁界を作用させることで、きわめて高周波帯域(10MHz〜数百MHz)においても透磁率が劣化せず、好適な磁性材料として使用することができる。
【0040】
なお、上述した一軸磁気異方性バルク磁性材料の製造方法においては、球形の磁性粉末を出発材料とし、この磁性材料に機械的な扁平加工を施して扁平磁性粉末を作製したが、扁平磁性粉末を作製する方法は、扁平加工する方法に限定されるものではなく、他の方法によって作製した扁平磁性粉末であってももちろん使用することができる。
アトマイズ法は磁性粉末を量産する既存の方法として知られている。アトマイズ法によって作製される磁性粉末はおおよそ球形の磁性粉末であり、この磁性粉末を扁平加工して扁平磁性粉末を得る方法は既存の磁性粉末を利用することができる点で有用である。また、一軸磁気異方性を付与する扁平磁性粉末は、サブミクロンサイズといった微小粉末である必要はなく、10μm径程度の球形磁性粉末を扁平加工して利用することができる。アトマイズ法であれば、10μm径程度の球形磁性粉末を作製することは容易であり、微小粉末の製造コストを安価に抑えることができるという利点もある。
【0041】
(一軸磁気異方性バルク磁性材料の特性評価)
次に、バルク体として形成された一軸磁気異方性バルク磁性材料の磁気的な特性評価について説明する。
図10に球形の磁性粉末(直径D)と、磁性粉末を扁平加工して得られた平板状磁性粉末(厚さd、外径c)を示す。球形の磁性粉末を扁平加工して平面形状が円形の均一厚さの平板状の扁平磁性粉末が得られたとして、そのときの扁平比はd/Dとなる。
図11は、平板状の扁平磁性粉末から構成された一軸磁気異方性バルク磁性材料の内部構造を示す。図では平板状の扁平磁性粉末が面方向を同一の向きとし、厚さ方向には交互の平面配置になるように配列した状態を示す。マトクッス材に扁平磁性粉末を配向させて充填した状態では、図11に示した配置と略類似した配置に扁平磁性粉末が配列すると考えてよい。
バルク体として形成した一軸磁気異方性バルク磁性材料に外部磁界を作用させると、反磁界(図の矢印方向)が発生するが、バルク体に充填されている磁性材が扁平磁性粉末であるため、扁平磁性粉末の端面に生じた磁極が、隣り合った扁平磁性粉末の対向する磁極と打ち消し合い、反磁界を小さくするように作用する。
【0042】
バルク体の一軸磁気異方性磁性材料の実効透磁率については以下のように考えることができる。
まず、扁平磁性粉末単体の実効透磁率をμs.eff.、扁平磁性粉末を集合させたときの実効透磁率をμs.eff._とすると、扁平磁性粉末を集合させたときは、反磁界効果の減少によって集合状態にある扁平磁性粉末の実効透磁率は単体状態の実効透磁率より高くなり、
μs.eff._>μs.eff.
となる。
また、バルク体である一軸磁気異方性磁性材料の実効透磁率<μs.eff.>は、集合状態にある扁平磁性粉末が非磁性マトリックス材で単純希釈されるので、以下のようになる。
<μs.eff.>=K・μs.eff._ K(0<K<1)
K:扁平磁性粉末の体積充填率
すなわち、バルク体の一軸磁気異方性磁性材料の実効透磁率は、扁平磁性粉末の体積充填率を高くすることによって大きくすることができる。また、バルク体を構成する扁平磁性粉末の実効透磁率を大きくすることによっても大きくすることができる。
【0043】
図12は、使用周波数における扁平磁性粉末の表皮厚さを計算した結果を示す。
図12は、磁性粉末としてFe系アモルファス合金(電気抵抗率ρ=1.3×10-6Ω・m、飽和磁化Ms=1.3T)を使用した場合で、異方性磁界Hk=2388A/m(30Oe)、Hk=1592A/m(20Oe)、Hk=796A/m(10Oe)としたときの値を示す。
図12は、周波数100MHzでの表皮厚さは1〜3μm程度であり、扁平磁性粉末の厚さとして想定している厚さよりもはるかに厚く、1GHzにおける表皮厚さも0.5μm〜0.8μm程度であり、扁平加工による実験で確認している厚さ0.1μmであれば、十分に表皮効果による問題を回避することができる。
【0044】
図13はFe系アモルファス合金を使用した場合における、扁平磁性粉末の真性比透磁率と実効比透磁率について、扁平磁性粉末の扁平比を変えたときの計算結果を示す。図13では扁平比d/D=1/10、1/20、1/40とした場合を示す。
図13に示す計算結果は、扁平比を小さくする(より薄く扁平加工する)ことで実効比透磁率が高くなること、3種のFe系アモルファス合金のいずれについても、1GHz〜10GHzの高周波帯域でまったく実効比透磁率が低下せず、高周波帯域における磁気特性がきわめて優れていることを示す。
【0045】
図14はFe系アモルファス合金を使用した場合におけるうず電流損失の周波数特性を評価したグラフである。扁平磁性粉末の厚さ0.5μm、扁平磁性粉末の体積充填率K=0.5として、交流励磁の磁束密度振幅Bmを10mTから100mTの四通りでうず電流を計算し、周波数特性として示している。
図14には1W/cm3のうず電流損のラインが引いてある。一軸磁気異方性バルク磁性材料鉄心をDC-DCコンバータのリアクトルやトランスに使用する場合、鉄心の磁束密度振幅Bmとコンバータの動作周波数fをうず電流損1W/cm3のラインを下回るように設定すれば、うず電流損1W/cm3以下で使用できる。本発明によれば、100MHzの周波数では20mTの磁束密度振幅でうず電流損は1W/cm3以下となり、このような低損失材料は従来のバルク体磁性材料では実現困難である。実際には、損失の発生にともなう発熱と熱伝導、放熱で決まる温度上昇限度によって単位体積当たりのうず電流損を設定することになり、それに合わせて、磁束密度振幅Bmと使用周波数fを決定することになる。
【0046】
上述した扁平磁性粉末を磁性材として用いたバルク体の一軸磁気異方性磁性材料の特性評価結果は、本発明に係る一軸磁気異方性バルク磁性材料であれば100MHz程度の周波数帯域において好適な磁性材料として十分に利用できることを示している。また、一軸磁気異方性バルク磁性材料を適当に設計すること、扁平粉末の厚さを薄くすることで1GHzの周波数帯域で使用することができる可能性を備えていることを示す。
【0047】
(一軸磁気異方性バルク磁性材料の用途例)
本発明に係る一軸磁気異方性バルク磁性材料は従来の磁性材料では適用できない10MHz〜数百MHzの高周波帯域において磁心材料として使用することができる。
図15は、有機インターポーザの内層の一部に一軸磁気異方性磁性層を用い、リアクトルをインターポーザに内蔵してスイッチング電源モジュールを構成する例である。この例では、コイルの磁心材料として一軸磁気異方性磁性材料のコンポジットからなるシートをラミネートする操作と、銅めっきによりコイルパターンを形成する操作を複合化することにより、一軸磁気異方性バルク磁性材料30を磁心材料とするコイル32を有機インターポーザに内蔵し、リアクトル内蔵インターポーザを構成することができる。
【0048】
図16は積層セラミック基板ベースのDC-DCコンバータモジュールに一軸磁気異方性バルク磁性材料を利用する例である。基板に一軸磁気異方性バルク磁性材料からなるコア40を埋め込み、このコア40に導線を巻回することにより、一軸磁気異方性バルク磁性材料をコア材としたトランスを構築することができる。
図15、16に示したデバイスは、ともに一軸磁気異方性バルク磁性材料を磁心材料として利用することにより、10MHz〜数百MHzの周波数帯域で使用することができるものである。
上記例は、本発明に係る一軸磁気異方性バルク磁性材料の使用例として示したものであり、本発明に係る一軸磁気異方性バルク磁性材料は種々の超高周波電力回路に応用利用することが可能であり、とくに10MHz〜数百MHzの周波数帯域における磁性材料として好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0049】
10、10a、10b 扁平磁性粉末
12 コンポジットスラリ
14a、14b プレスプレート
16 半硬化シート
18 半硬化シートの積層体
20 バルク体
30 一軸磁気異方性バルク磁性材料
40 コア
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
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