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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-11193(P2020-11193A)
(43)【公開日】2020年1月23日
(54)【発明の名称】リチウムの溶離方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 49/06 20170101AFI20191220BHJP
   C22B 26/12 20060101ALI20191220BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20191220BHJP
   C22B 3/42 20060101ALI20191220BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20191220BHJP
   B01J 39/05 20170101ALI20191220BHJP
   B01J 47/02 20170101ALI20191220BHJP
   B01J 49/53 20170101ALI20191220BHJP
   C02F 1/42 20060101ALI20191220BHJP
【FI】
   B01J49/06
   C22B26/12
   H01M4/40
   C22B3/42
   C22B7/00 Z
   B01J39/05
   B01J47/02
   B01J49/53
   C02F1/42 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-134817(P2018-134817)
(22)【出願日】2018年7月18日
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100204032
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 浩之
(72)【発明者】
【氏名】池田 修
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
(72)【発明者】
【氏名】高野 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】松本 伸也
(72)【発明者】
【氏名】工藤 陽平
【テーマコード(参考)】
4D025
4K001
5H050
【Fターム(参考)】
4D025AA01
4D025AA09
4D025AB18
4D025BA09
4D025BB02
4D025BB09
4D025CA03
4K001AA34
4K001BA21
4K001CA06
4K001DB36
4K001DB37
5H050AA17
5H050BA16
5H050CA08
5H050DA02
5H050GA12
5H050GA26
5H050HA07
5H050HA10
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】リチウム二次電池用正極材料のリチウムを含有する製造工程排水からイオン交換樹脂に吸着させたリチウムの溶離方法において、溶離後のリチウム濃度を常に一定に保つ方法を提供する
【解決手段】リチウムの溶離方法であって、複数のイオン交換樹脂の一部を直列に連結して吸着工程を行い、残りの複数のイオン交換樹脂を直列に連結して溶離工程を行い、吸着工程における初段のイオン交換樹脂を溶離工程におけるイオン交換樹脂の最後に連結して溶離工程に移行させ、溶離工程における初段のイオン交換樹脂を吸着工程におけるイオン交換樹脂の最後に連結して吸着工程に移行させ、複数のイオン交換樹脂に対し吸着工程と溶離工程を交互に繰り返し行い、溶離工程における通液がBV(Bed volume)値で1.0以上、3.0以下の所定の値になったときに、溶離工程から吸着工程への移行を行うことを特徴とする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池用正極材料のリチウムを含有する製造工程排水からイオン交換樹脂に吸着させたリチウムの溶離方法であって、
複数のイオン交換樹脂の一部を直列に連結して前記製造工程排水を通水して接触させる吸着工程を行い、残りの複数のイオン交換樹脂を直列に連結して溶離液を通液して接触させる溶離工程を行い、
吸着工程における初段のイオン交換樹脂を溶離工程におけるイオン交換樹脂の最後に連結して、該初段のイオン交換樹脂を溶離工程に移行させ、
溶離工程における初段のイオン交換樹脂を吸着工程におけるイオン交換樹脂の最後に連結して、該初段のイオン交換樹脂を吸着工程に移行させ、
前記複数のイオン交換樹脂に対し吸着工程と溶離工程を交互に繰り返し行い、
前記溶離工程における前記通液がBV(Bed volume)値で1.0以上、3.0以下の所定の値になったときに、前記溶離工程から前記吸着工程への移行を行うことを特徴とするリチウムの溶離方法。
【請求項2】
前記溶離工程における前記通液のSV(空間速度)が2hr−1以上6hr−1以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムの溶離方法。
【請求項3】
前記吸着工程における前記通水のSV(空間速度)が5hr−1以上15hr−1以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のリチウムの溶離方法。
【請求項4】
前記溶離工程後に前記イオン交換樹脂を洗浄する洗浄工程をさらに有し、
前記洗浄工程における前記イオン交換樹脂への水の通水のSV(空間速度)が2hr−1以上6hr−1以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のリチウムの溶離方法。
【請求項5】
前記イオン交換樹脂が、強酸性陽イオン交換樹脂であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のリチウムの溶離方法。
【請求項6】
前記製造工程排水はアルミニウムを含有し、前記吸着工程における前記製造工程排水のpHを9以上にすることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のリチウムの吸着方法。
【請求項7】
前記溶離工程における前記溶離液は硫酸ナトリウムを含有する水溶液であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のリチウムの溶離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極材料のリチウムを含有する製造工程排水からイオン交換樹脂に吸着させたリチウムの溶離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムは陶器やガラスの添加剤、鉄鋼連続鋳造用のガラスフラックス、グリース、医薬品、電池等、産業において広く利用されている。特に、二次電池であるリチウムイオン電池はエネルギー密度が高く、電圧が高いことから、最近ではノートパソコンなどの電子機器のバッテリーや電気自動車・ハイブリッド車の車載バッテリーとしての用途が拡大しており、需要が急増している。これに伴い、原料である水酸化リチウムや炭酸リチウムの需要が急増している。
【0003】
最近では資源の有効活用のため、リチウム二次電池用正極材料の製造工程で排出される排水(以下、「製造工程排水」ともいう)からリチウムを回収することが推進されている。
【0004】
製造工程排水からリチウムを回収する方法として、特許文献1に溶媒抽出法が、特許文献2にイオン交換膜を利用した電気透析を用いる方法が提案されている。
【0005】
また、イオン交換樹脂を用いたイオンの回収方法として、特許文献3にいわゆるメリーゴーランド方式を利用した方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−57142号公報
【特許文献2】特開2012−234732号公報
【特許文献3】特開2012−030208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の溶媒抽出法は安全上の対策が必要になることや、工程が長く、高額なコストになることが問題となる。また、特許文献2のイオン交換膜を利用した電気透析を用いる方法は、コスト面や運用面で不利である。
【0008】
一方、安価で簡便な方法としてイオン交換樹脂を用いた回収方法がある。
【0009】
イオン交換樹脂を用いた回収方法では、リチウムを吸着させたイオン交換樹脂に溶離液を通液し、溶離後液からリチウムを回収する。しかし、リチウムは選択性が低く溶離が短期間に進行するため、安定したリチウム濃度で溶離後液を回収することが困難となる。このため、リチウム濃度の安定化に設備を要し経済性を損なう問題があった。また、溶離後液中のリチウム濃度がその都度異なるため、生産管理上の問題があった。
【0010】
上述した選択性の低いイオンを、イオン交換樹脂を用いて回収する方法として、いわゆるメリーゴーランド方式を用いる方法が特許文献3に提案されている。しかし、特許文献3では選択性の低い金属については検討されていなかった。
【0011】
このような経緯から、溶離工程において、溶離後のリチウム濃度を常に一定に保つ方法が求められてきた。
【0012】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、リチウム二次電池用正極材料のリチウムを含有する製造工程排水からイオン交換樹脂に吸着させたリチウムの溶離方法において、溶離後のリチウム濃度を常に一定に保つ方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは吸着工程でリチウムを吸着した複数本のカラムを段階的に溶離工程へ移動させて、リチウムを溶離することによって、溶離後液中のリチウム濃度の変化を抑制することが可能であることを見出した。
【0014】
上述した目的を達成する本発明の一態様は、リチウム二次電池用正極材料のリチウムを含有する製造工程排水からイオン交換樹脂に吸着させたリチウムの溶離方法であって、複数のイオン交換樹脂の一部を直列に連結して前記製造工程排水を通水して接触させる吸着工程を行い、残りの複数のイオン交換樹脂を直列に連結して溶離液を通液して接触させる溶離工程を行い、吸着工程における初段のイオン交換樹脂を溶離工程におけるイオン交換樹脂の最後に連結して、該初段のイオン交換樹脂を溶離工程に移行させ、溶離工程における初段のイオン交換樹脂を吸着工程におけるイオン交換樹脂の最後に連結して、該初段のイオン交換樹脂を吸着工程に移行させ、前記複数のイオン交換樹脂に対し吸着工程と溶離工程を交互に繰り返し行い、前記溶離工程における前記通液がBV(Bed volume)値で1.0以上、3.0以下の所定の値になったときに、前記溶離工程から前記吸着工程への移行を行うことを特徴とする。
【0015】
このようにすれば、溶離後液中のリチウム濃度を一定にすることができるため、撹拌混合槽等の溶離液全量を均一化する設備が不要となり経済的に有利となる。また、生産管理が容易となる。
【0016】
また、本発明の一態様では、前記溶離工程における前記通液のSV(空間速度)が2hr−1以上6hr−1以下としてもよい。
【0017】
このようにすれば、単位時間あたりの処理効率及びリチウムの溶離効率を向上することができる。
【0018】
また、本発明の一態様では、前記吸着工程における前記通水のSV(空間速度)が5hr−1以上15hr−1以下としてもよい。
【0019】
このようにすれば、単位時間あたりの処理効率及びリチウムの溶離効率を向上することができる。
【0020】
また、本発明の一態様では、前記溶離工程後に前記イオン交換樹脂を洗浄する洗浄工程をさらに有し、前記洗浄工程における前記イオン交換樹脂への水の通水のSV(空間速度)が2hr−1以上6hr−1以下としてもよい。
【0021】
このようにすれば、単位時間あたりの洗浄処理効率を向上することができる。
【0022】
また、本発明の一態様では、前記イオン交換樹脂が、強酸性陽イオン交換樹脂としてもよい。
【0023】
強酸性陽イオン交換樹脂は耐久性が高いため、より多く吸着工程及び溶離工程を行うことができる。
【0024】
また、本発明の一態様では、前記製造工程排水はアルミニウムを含有し、前記吸着工程における前記製造工程排水のpHを9以上としてもよい。
【0025】
このようにすれば、アルミニウムを含有する製造工程排水からリチウムを溶離する際に、イオン交換樹脂の容量の低下を抑制することができる。
【0026】
また、本発明の一態様では、前記溶離工程における前記溶離液は硫酸ナトリウムを含有する水溶液としてもよい。
【0027】
このようにすれば、溶離工程において陽イオン交換樹脂がH型からNa型に変換されるため、再生工程を省略することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、リチウム二次電池用正極材料のリチウムを含有する製造工程排水からイオン交換処理によりリチウムを溶離する方法において、溶離後液中のリチウム濃度を一定にすることで、溶離後液全量を均一化する撹拌混合槽は不要となり、払出のための最低限の容量の貯留槽のみあれば良く、経済的に有利になる上、生産管理を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】リチウム二次電池用正極材料の製造工程の概略を示すフロー図である。
図2】シングルカラムにおける溶離工程での通液量と溶離後液中のリチウム濃度推移概念図である。
図3】本発明の一実施形態に係るリチウムの溶離方法の概略を示すフロー図である。
図4】本発明の一実施形態に係るリチウムの溶離方法におけるカラム操作方法を示した概念図である。図4(A)は吸着工程及び溶離工程における、カラムを切り替える前の状態を示した概念図である。図4(B)はカラムを切り替えた後の状態を示した概念図である。
図5】本発明の一実施形態に係る溶離工程でのBVと溶離後液中のリチウム濃度の関係を示す図である。
図6】比較例における溶離工程でのBVと溶離後液中のリチウム濃度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0031】
[1.リチウム二次電池用正極材料の製造工程の概要]
まず、リチウム二次電池用正極材料の製造工程の概要について図面を使用しながら説明する。図1は、リチウム二次電池用正極材料の製造工程の概略を示すフロー図である。リチウム二次電池用正極材料の製造工程は、図1に示すように、晶析工程S101と分離工程S102と焼成工程S103と水洗工程S104とから構成される。詳細には、晶析工程S101は、ニッケル、コバルト、又はアルミニウム等の原料からなる各硫酸金属塩の混合水溶液に、水酸化ナトリウム水溶液を加えて、これらの金属水酸化物を共沈させて金属水酸化物を含むスラリーを得る工程である。また、分離工程S102は、得られた金属水酸化物を含むスラリーから金属複合水酸化物を固液分離等により分離する工程である。また、焼成工程S103は、得られた金属複合水酸化物と水酸化リチウムとを混合し、この混合物を所定の温度で焼成することによりリチウム金属複合酸化物を得る工程である。そして、水洗工程S104は、得られたリチウム金属複合酸化物を水洗処理する工程である。
【0032】
リチウム二次電池用正極材料の製造工程のうち、水洗工程S104では、正極材料を水洗するため、リチウムイオンとアルミニウムイオンを高濃度で含む排水が排出される。
排水濃度は、例えばリチウムイオンが、1〜5g/Lであり、アルミニウムイオンが、0.04〜0.18g/Lを有している。リチウムはアルカリ金属であり、ナトリウムやカリウムと同様に水質汚濁に関する規制がない。工場の排水処理工程では通常、水質汚濁法や条例で規制された金属のみ処理して除去することから、製造工程排水中のリチウムは排水処理工程で除去されず、公共用水域に放流される。リチウムは海水に含まれる金属であり、公共用水域に放流しても環境上の問題はない。しかし、リチウムは貴重な金属であり、省資源という観点から、このような製造工程排水を公共用水域に放流することは好ましくない。そして、資源のリサイクルにおいて、製造工程において排出されるリチウムを廃棄せずに回収し有効活用することが求められている。
【0033】
製造工程排水からリチウムを回収するには、溶媒抽出法(例えば特許文献1)、イオン交換膜を利用した電気透析を用いる方法(例えば特許文献2)及びイオン交換樹脂を用いた回収方法などがある。
【0034】
しかし、溶媒抽出法を用いた場合、排水中の有機物の処理が必要となることや、消防法上の危険物を扱う設備となるため安全上の対策が必要になることや、多段抽出であるため、工程が長く、高額なコストになることが問題になる。また、イオン交換膜を利用した電気透析を用いる方法は、電気透析装置は排水処理として用いるには大規模な装置が必要となり、コスト面や運用面で不利である。
【0035】
これらの回収方法に対し、イオン交換樹脂を用いた回収方法は安価で簡便な方法として考えられる。工業的に陽イオン交換樹脂を用いる場合、カラム方式が一般的である。
【0036】
カラム方式では、イオン交換樹脂を充填したカラムに製造工程排水を通水し、リチウムをイオン交換樹脂に吸着させる。その後、カラムに溶離液を通液し、イオン交換樹脂からリチウムを溶離する。しかし、リチウムは選択性が低いためイオン交換樹脂から溶離しやすい。このため、溶離後中のリチウム濃度は溶離液の通液と共に上昇する。
【0037】
ここで、図2はシングルカラムにおける溶離工程での通液量と溶離後液中のリチウム濃度推移概念図である。図2に示すように、カラム方式でイオン交換樹脂に吸着したリチウムを溶離する場合、1段のカラム(シングルカラム)では溶離液の通液と同時に鋭いピークが立ち上がり、その後、濃度が通液と共に下がる溶離曲線が得られる。このため、部分的に溶離後液を回収しようと場合、回収するタイミングによってリチウムの濃度が異なることになることから、安定したリチウム濃度で溶離後液を回収しようとした場合、溶離後液を全量タンクに貯留し、撹拌混合するなどして均一化を行う必要がある。すなわち、生産においては設備点数が増加し、経済性を損なうことになる。さらに、少量の溶離後液のみ出荷が必要な場合に、抜き出すタイミングで濃度が異なることから、生産管理の上からも望ましくない。
【0038】
しかし、溶離後液中のリチウム濃度が常に一定であれば、このような、溶離後液全量を均一化する撹拌混合槽は不要となり、払出のための最低限の容量の貯留槽のみあれば良く、経済的に有利になる上、生産管理が容易になる。
【0039】
上述した選択性の低いイオンを、イオン交換樹脂を用いて回収する方法として、いわゆるメリーゴーランド方式を用いる方法が特許文献3に提案されている。しかし、特許文献3では選択性の低い金属については検討されていなかった。
【0040】
このような経緯から、溶離工程において、溶離後液中のリチウム濃度を常に一定に保つ方法が求められてきた。
【0041】
このような実情に鑑み、発明者らは鋭意検討を重ねた結果、吸着工程でリチウムを吸着した複数本のカラムを段階的に溶離工程へ移動させて、リチウムを溶離することによって、溶離後液中のリチウム濃度の変化を抑制することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0042】
以下、本発明の一実施形態に係るリチウムの溶離方法について詳細に説明する。
【0043】
[2.リチウムの溶離方法]
本発明の一実施形態に係るリチウムの溶離方法は、リチウム二次電池用正極材料の製造工程排水からリチウムを溶離するものであって、吸着工程と、溶離工程とを有する。以下、リチウムの溶離方法の概要及び各工程をそれぞれ説明する。
【0044】
[2−1.リチウムの溶離方法の概要]
まず、リチウムの溶離方法の概要について図面を使用しながら説明する。図3は、本発明の一実施形態に係るリチウムの溶離方法の概略を示すフロー図である。本発明の一実施形態に係るリチウムの溶離方法は、図3に示すように、吸着工程S1と溶離工程S2とから構成される。
【0045】
[2−2.吸着工程]
吸着工程S1では、製造工程排水にイオン交換樹脂を接触させて、イオン交換樹脂にリチウムイオンを選択的に吸着させる。ここで、イオン交換樹脂としては、強酸性陽イオン交換樹脂が好ましい。強酸性陽イオン交換樹脂は耐久性が高いため、より多く吸着工程及び溶離工程を行うことができる。また、製造工程排水にアルミニウムが含まれる場合、アルミニウムとリチウムを含有するリチウム液はどのような金属濃度でもかまわないが、水溶液のpHを9以上に調整することで、アルミニウムイオンをアルミン酸イオン[Al(OH)にする。この液をNa型に調整したスルホン酸基を含有する強酸性陽イオン交換樹脂に通液すると、カチオンであるリチウムイオンは吸着するが、アニオンであるアルミン酸イオンは吸着しない。アルミニウムイオンはリチウムイオンより選択性が高いため製造工程排水中にアルミニウムイオンが存在する場合はリチウムを強酸性陽イオン交換樹脂に選択的に吸着させるのは困難であるが、アルミニウムイオンをアルミン酸イオンにすることでリチウムを選択的に吸着させることができる。このとき官能基が水素型(以下、H型と記載)であると、リチウムイオンと交換した水素が水素イオンとして水溶液中に放出され、樹脂近傍のpHは低下する。この場合、ろ過性の悪い水酸化アルミニウムが析出して、樹脂に付着して、通液やイオン交換反応を阻害する。最悪の場合はカラムを用いた吸着工程が不可能になる。樹脂近傍のpHがさらに低下し、アルミニウムがカチオンとして存在する酸性領域になった場合はリチウムより選択的に吸着され分離が困難になる。強酸性陽イオン交換樹脂の場合であれば、前記の水酸化アルミニウムのような塩基を分解してアルミニウムとイオン交換して吸着するため、リチウムとの分離が困難になる。
【0046】
しかし、Na型に予め調整しておくことで、このようなpH低下を防ぎ、水酸化アルミニウムやアルミニウムイオンの生成を抑制し、アルミニウムはアルミン酸イオンの状態に保持できるため、樹脂に吸着されることはない。
【0047】
また、pHの低下によりアルミニウムがカチオンとして存在する酸性領域になった場合、リチウムより選択性の高いアルミニウムが強酸性陽イオン交換樹脂に吸着して、樹脂中に蓄積し、樹脂の容量を低下させる。
【0048】
[2−3.溶離工程]
溶離工程S2ではナトリウム塩を含有する水溶液を用いてリチウムイオンを溶離する。例えば硫酸ナトリウム水溶液を用いることができる。陽イオン交換樹脂は通常酸を用いて溶離を行うが、カラムを用いて吸着と溶離を行う場合、吸着工程で通液した液が残留していると液の混合によるpH低下で水酸化アルミニウムの沈殿が発生する、アルミニウムが酸性領域でカチオンの形態になり樹脂に吸着されるなどの不具合が発生する。
【0049】
また、溶離工程から吸着工程に移行する場合も同様であり、残留している酸との混合により、pH9以上に調整したアルミニウムとリチウムを含有する水溶液のpHが低下し、pH低下で水酸化アルミニウムの沈殿が発生する、アルミニウムが酸性領域でカチオンの形態になり樹脂に吸着されるなどの不具合が発生する。
【0050】
さらに酸で溶離した場合、官能基はH型になるため、次の吸着工程を行うためにナトリウム塩を含有する水溶液を通液する必要があり、工程が増えるといったデメリットがある。溶離液にナトリウムを含む水溶液を用いれば、pH変動による不具合を回避でき、溶離と同時に官能基をNa型に戻すことができるため、工程も簡素になる。また、溶離液の流量を調整することで、溶離液のリチウムを濃縮することができる。このため、エネルギーコストの高い蒸発濃縮法を用いなくてもリチウムを回収することが可能になる。
【0051】
溶離液はリチウムとナトリウムを含有する水溶液であるが、炭酸リチウムを沈殿させて回収するには炭酸ナトリウムを添加するため、ナトリウム塩を用いることは炭酸リチウムの沈殿生成に悪影響を及ぼさない。得られた炭酸リチウムは用途に応じた品位を要求されるが、必要に応じて水洗することで、不純物となるナトリウム濃度を低減できる。
【0052】
ナトリウム塩には塩化ナトリウムや硫酸ナトリウムといったものがあるが、塩化ナトリウムを用いた場合、沈殿回収した炭酸リチウムに塩素が残留する。回収した炭酸リチウムはリチウム二次電池用正極材料の原料としてリサイクルされるが、塩素は設備の構造材を腐食するといったデメリットがあることから硫酸ナトリウムを用いることが望ましい
【0053】
[3.カラム操作方法]
まず、カラム操作方法の概要について図面を使用しながら説明する。図4は本発明の一実施形態に係るリチウムの溶離方法におけるカラム操作方法を示した概念図であり、次の手順で吸着と溶離を行う。ここで、図4(A)は吸着工程及び溶離工程におけるカラムを切り替える前の状態を示し、図4(B)はカラムを切り替えた後の状態を示している。
【0054】
本発明の一実施形態に係るリチウムの吸着方法では複数のイオン交換樹脂を使用する。そして、図4(A)、図4(B)に示すように、これらのうち、一部のイオン交換樹脂に対して吸着工程を行い、その他のイオン交換樹脂について溶離工程を行う。
【0055】
カラムを切り替える前の状態では図4(A)に示すように、上述の複数のイオン交換樹脂1から3のうち、カラム1及び2で溶離工程を、残りのカラム3で吸着工程を行う。ここで、カラム1及び2には、上記溶離工程の前に行われた吸着工程においてリチウムが吸着されている。そして、カラム1及び2を直列に連結して溶離液を通液し、溶離工程に配置する。このとき、カラム3は吸着工程に配置されている。カラムの総本数、吸着工程又は溶離工程に配置するカラムの本数は必要に応じて適宜増減させることが可能である。
【0056】
一定量の溶離液を通液した後、カラム1に充填しているイオン交換樹脂中のリチウムは全て溶離されるため、カラム1の溶離後液中リチウム濃度は0g/Lに等しくなるが、カラム2に充填しているイオン交換樹脂中にはリチウムが残っているため、溶離工程から出てくる溶離後液中のリチウム濃度は若干低くなるが、高い濃度を保持することができる。
【0057】
ここで、図4(B)に示すようにカラム1をカラム2から分離して吸着工程に配置することで、カラム1を溶離工程から吸着工程に移行させる。カラム2は溶離工程に留めおき、カラム3を、カラム2の後に直列に連結して、溶離工程の最後段に配置することで、カラム3を吸着工程から溶離工程に移行させる。ここで、カラム同士は、製造工程排水の通水や溶離液の通液に使用される通水管や通液管によって連結されている。通水管や通液管にはバルブが設けられており、カラムの分離及び連結は、バルブの開閉によって製造工程排水や溶離液等の流路を切り替えることにより行われる。
【0058】
カラム3にはリチウムが交換容量一杯のリチウムが吸着しているため、図4(A)における溶離工程で若干低くなった溶離後液中のリチウム濃度は、図4(B)における溶離工程において再び高い濃度に戻ることができる。
【0059】
そして、図4(B)における溶離工程においてカラム2に充填しているイオン交換樹脂中のリチウムが全て溶離された後は、カラム2をカラム3から分離して吸着工程に配置し、カラム1をカラム3の後に直列に連結して、溶離工程の最後段に配置するというように同様の操作を繰り返し、イオン交換樹脂に対し吸着工程と溶離工程を交互に繰り返し行う。そして、吸着工程から溶離工程に、溶離工程から吸着工程にカラムを切り替えながら連続的にリチウムの溶離を行うことで、常に高いリチウム濃度の溶離後液を得ることが可能になる。
【0060】
また、図示しないが、吸着工程と溶離工程との間は適宜必要に応じて、水洗などの洗浄工程を入れても良い。
【0061】
以上の説明は、溶離工程におけるカラムが2本の場合であって、1本目に配置されていたカラム1内のイオン交換樹脂からリチウムが全て溶離された場合を説明している。しかし、溶離工程において分離し、吸着工程へ移すカラムは1本に限定されない。上述したようにカラムの総本数、吸着工程又は溶離工程に配置するカラムの本数は必要に応じて適宜増減させることが可能である。溶離工程におけるカラムが2本以上の複数本の場合であって、1本目及びその後に連結された複数の(以下、「初段の」という)カラム内のイオン交換樹脂からリチウムが全て溶離される場合は、当該複数のカラム(初段のカラム)及び当該複数のイオン交換樹脂(初段のイオン交換樹脂)について上記溶離、吸着工程を行うことが可能である。
【0062】
また、以上の説明では吸着工程におけるカラムは1本である。しかし、上述したようにカラムの本数は必要に応じて適宜増減させることが可能であり、吸着工程において複数のカラムを直列に連結することが可能である。そして、吸着工程から溶離工程へ移すカラムも1本に限られない。吸着工程において複数のカラムが直列に連結されている場合、初段のカラム及び初段のイオン交換樹脂を吸着工程から溶離工程へ移すことができる。
【0063】
リチウム二次電池用正極材料の製造工程排水からリチウムを溶離する場合、具体的には以下の方法を用いることで、溶離後液中のリチウム濃度を一定にすることができる。
【0064】
(工程1:吸着工程)
吸着工程では、カラム5〜8本を配置する。カラム1本目より直列にリチウム二次電池用正極材料の製造工程排水を直列に5〜8本のカラムに通水する。吸着工程のSV(空間速度)は、5hr−1以上、15hr−1以下が好ましい。SV(空間速度)が5hr−1未満では、製造工程排水の流量が小さくなり吸着工程で処理されるリチウムが減少するため、単位時間あたりの処理効率が悪化する。SV(空間速度)が15hr−1を超える場合、製造工程排水の流量が大きくなり、リチウムがイオン交換樹脂に吸着しきれず流出してしまうため、リチウムの吸着効率が悪くなる。
【0065】
また、カラムを切り替えるタイミングはリチウム二次電池用正極材料の製造工程排水中のリチウム濃度によって異なるが、リチウムイオン濃度が1〜5g/Lの場合、BV(Bed Volume)は、2.5以上、7.5以下が好ましい。ここで本願におけるBVは、1本のカラムに充填されたイオン交換樹脂の体積に対する値をいう。BVが2.5未満では、リチウムがイオン交換樹脂に十分吸着されていない状態で吸着工程から溶離工程に切り替えられるため、交換容量より少ない量のリチウムしかイオン交換樹脂に吸着できない。このため、リチウムの吸着に必要なイオン交換樹脂の量が増加する。BVが7.5を超える場合、製造工程排水の流量が大きくなり、リチウムがイオン交換樹脂に吸着しきれず流出してしまうため、リチウムの吸着効率が悪くなる。
【0066】
(工程2:洗浄工程)
吸着後の洗浄工程ではカラム2本を配置する。カラムが切替り吸着工程より移動してきたカラムに順次、水を通液して洗浄する。SV(空間速度)は、2hr−1以上、6hr−1以下が好ましい。洗浄工程のSV(空間速度)はカラムが洗浄工程内にいる間にカラム内のリチウム二次電池用正極材料の製造工程排水が置換できる速度であれば良い。
【0067】
(工程3:溶離工程)
溶離工程では、カラム2本を配置する。カラムが切替り洗浄工程より移動してきたカラムに順次、溶離液を通液して溶離する。吸着工程のSV(空間速度)は、2hr−1以上、6hr−1以下が好ましい。SV(空間速度)が2hr−1未満では、リチウムを溶離した溶離液の量が小さくなり単位時間あたりの処理効率が悪化する。SV(空間速度)が6hr−1を超える場合、リチウムの溶離に関与しない溶離液の量が大きくなるため、リチウムの溶離効率が悪くなる。
【0068】
また、カラムを切り替えて溶離工程から吸着工程に移行するタイミングはBV(Bed Volume)は、1.0以上、3.0以下である。BVが1.0未満では、リチウムが十分溶離されていない状態で溶離工程から吸着工程に切り替えられるため、リチウムの溶離効率が悪くなる。BVが3.0を超える場合、溶離後液中のリチウム濃度が鋭いピークで立ち上がった後に溶離工程から吸着工程に切り替えられるため、溶離後液中のリチウム濃度が一定にならない。
【0069】
(工程4:洗浄工程)
溶離後の洗浄工程では、カラム2本を配置する。カラムが切替り溶離工程より移動してきたカラムに順次、水を通液して洗浄する。通液速度は工程2の洗浄工程と同様に、カラムが洗浄工程内にいる間にカラム内の溶離液が置換できる速度であれば良い。SV(空間速度)は、2hr−1以上、6hr−1以下が好ましい。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
<実施例>
連続カラム装置(Outotec Inc.製)を使用し、溶離操作を行った。連続カラム装置の容量250mL/本カラム20本の内カラム2本分を溶離工程に用いた。そのカラムには240mL/本の強酸性陽イオン交換樹脂(住化ケムテック社製:デュオライトC20LF)を充填しており、リチウムを吸着工程で交換容量一杯に吸着させた。溶離工程では、その2本のカラムに対して、硫酸ナトリウム濃度が約150g/Lの溶離液をSV4=16mL/minの流量で流しカラム内の強酸性陽イオン交換樹脂と接触させリチウムを溶離させた。BV2毎に、溶離工程初段のカラムを吸着工程最終段に切り替える作業を繰り返した。溶離中は2本目のカラムからの溶離後液をBV2毎にサンプリングし、ICP−AESで溶離後液中のリチウム濃度を測定した。
【0072】
溶離液のBVと溶離後液中のリチウム濃度の関係を図5に示す。BV10以降、溶離後液中のリチウム濃度は4000〜5000mg/Lの範囲に安定することがわかる。
【0073】
<比較例>
容量1Lの1本のカラム内に1Lの強酸性イオン交換樹脂(住化ケムテック社製:デュオライトC20LF)を充填し、吸着工程でリチウムを交換容量一杯に吸着させた。
【0074】
このカラムに硫酸ナトリウム濃度が約150g/Lの溶離液をSV4=67mL/minの流量で流しカラム内の強酸性陽イオン交換樹脂と接触させリチウムを溶離させた。溶離中はカラムからの流出液をBV1毎にサンプリングし、ICP−AESで溶離後液中のリチウム濃度を測定した。このときの溶離液のBVと溶離後液中リチウム濃度の関係を図6に示す。
【0075】
実施例と異なり、溶離後液中リチウム濃度は溶離開始から直ぐに上昇し、BV2をピークにその後直ぐに濃度減少していることがわかる。このことから、1本のカラムのみで溶離を行おうとした場合、安定したリチウム濃度で連続的に溶離後液を得ることが難しいことがわかる。また、リチウムは選択性が低く急速に溶離が進行するため、1本の大容量のカラムから溶離を行うよりも、複数本の小容量のカラムから順次連続的に溶離を行うことで、溶離後液中のリチウム濃度を一定に保つことができたと考えられる。
【0076】
なお、上記のように本発明の各実施形態及び各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0077】
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、リチウムの溶離方法の構成、動作も本発明の各実施形態及び各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0078】
S1 吸着工程、S2 溶離工程、 S101 晶析工程、S102 分離工程、S103 焼成工程、S104 水洗工程 1、2、3 カラム
図1
図2
図3
図4
図5
図6