特開2020-12228(P2020-12228A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 積水化学工業株式会社の特許一覧
特開2020-12228強化繊維束、強化繊維開繊織物、および繊維強化複合体、並びにそれらの製造方法
<>
  • 特開2020012228-強化繊維束、強化繊維開繊織物、および繊維強化複合体、並びにそれらの製造方法 図000011
  • 特開2020012228-強化繊維束、強化繊維開繊織物、および繊維強化複合体、並びにそれらの製造方法 図000012
  • 特開2020012228-強化繊維束、強化繊維開繊織物、および繊維強化複合体、並びにそれらの製造方法 図000013
  • 特開2020012228-強化繊維束、強化繊維開繊織物、および繊維強化複合体、並びにそれらの製造方法 図000014
  • 特開2020012228-強化繊維束、強化繊維開繊織物、および繊維強化複合体、並びにそれらの製造方法 図000015
  • 特開2020012228-強化繊維束、強化繊維開繊織物、および繊維強化複合体、並びにそれらの製造方法 図000016
  • 特開2020012228-強化繊維束、強化繊維開繊織物、および繊維強化複合体、並びにそれらの製造方法 図000017
  • 特開2020012228-強化繊維束、強化繊維開繊織物、および繊維強化複合体、並びにそれらの製造方法 図000018
  • 特開2020012228-強化繊維束、強化繊維開繊織物、および繊維強化複合体、並びにそれらの製造方法 図000019
  • 特開2020012228-強化繊維束、強化繊維開繊織物、および繊維強化複合体、並びにそれらの製造方法 図000020
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-12228(P2020-12228A)
(43)【公開日】2020年1月23日
(54)【発明の名称】強化繊維束、強化繊維開繊織物、および繊維強化複合体、並びにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/74 20060101AFI20191220BHJP
   B29B 11/16 20060101ALI20191220BHJP
   D06M 11/79 20060101ALI20191220BHJP
   D06M 11/83 20060101ALI20191220BHJP
   D06M 23/08 20060101ALI20191220BHJP
   D06M 15/41 20060101ALI20191220BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20191220BHJP
   D03D 15/12 20060101ALI20191220BHJP
   D06B 3/02 20060101ALI20191220BHJP
   B29K 105/10 20060101ALN20191220BHJP
【FI】
   D06M11/74
   B29B11/16
   D06M11/79
   D06M11/83
   D06M23/08
   D06M15/41
   D03D1/00 A
   D03D15/12 Z
   D06B3/02
   B29K105:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2019-183617(P2019-183617)
(22)【出願日】2019年10月4日
(62)【分割の表示】特願2019-512938(P2019-512938)の分割
【原出願日】2018年9月28日
(31)【優先権主張番号】特願2017-190269(P2017-190269)
(32)【優先日】2017年9月29日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-213391(P2017-213391)
(32)【優先日】2017年11月6日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2018-5317(P2018-5317)
(32)【優先日】2018年1月17日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅則
(72)【発明者】
【氏名】藤森 悠司
(72)【発明者】
【氏名】稲守 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】山根 俊男
【テーマコード(参考)】
3B154
4F072
4L031
4L033
4L048
【Fターム(参考)】
3B154AA14
3B154AB09
3B154BA14
3B154BB09
3B154BB32
3B154BD18
3B154BE04
3B154DA05
4F072AA04
4F072AA08
4F072AB10
4F072AB28
4F072AC10
4F072AD04
4F072AD09
4F072AD41
4F072AE23
4F072AF01
4F072AG03
4F072AH06
4F072AH49
4F072AK05
4F072AK14
4F072AL02
4F072AL11
4F072AL17
4L031AA27
4L031AB01
4L031AB32
4L031BA02
4L031BA04
4L031BA20
4L031BA31
4L033AA09
4L033AB01
4L033AB06
4L033AC15
4L033CA34
4L048AA05
4L048AA48
4L048AA51
4L048AB06
4L048AC09
4L048AC12
4L048BA02
4L048CA01
4L048CA04
4L048DA41
4L048EB00
(57)【要約】
【課題】強化繊維の開繊状態が良好に保持され、機械的強度に優れた繊維強化複合体を製造することができる強化繊維束、強化繊維繊織物、およびこれを用いた炭素繊維強化複合体、並びにこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】複数の強化繊維を含む強化繊維束であって、前記強化繊維の間に炭素同素体を含む架橋部を有する、強化繊維束とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の強化繊維を含む強化繊維束であって、
前記強化繊維の間に炭素同素体を含む架橋部を有する、強化繊維束。
【請求項2】
前記炭素同素体が無定形炭素を含む、請求項1に記載の強化繊維束。
【請求項3】
前記架橋部は、複数の炭素同素体粒子が結合して形成されている、請求項1または請求項2に記載の強化繊維束。
【請求項4】
前記架橋部は、熱硬化性樹脂、金属、シリカ、または熱可塑性樹脂からなる粒子を含む、請求項1〜3の何れか1項に記載の強化繊維束。
【請求項5】
前記強化繊維は、一方向に配向しているかまたは織物の形態である、請求項1〜4の何れか1項に記載の強化繊維束。
【請求項6】
強化繊維が炭素繊維を含む、請求項1〜5の何れか1項に記載の強化繊維束。
【請求項7】
熱硬化性樹脂、金属、シリカ、または熱可塑性樹脂からなる粒子の何れか一種以上を含む繊維前処理液と、複数の強化繊維とを接触させて含浸繊維束を製造する含浸工程と、
前記含浸繊維束を加熱して熱硬化性樹脂を炭素同素体とする炭素化工程とを含む、強化繊維束の製造方法。
【請求項8】
前記繊維前処理液は、重合反応によって熱硬化性樹脂を生成するモノマーをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
炭素繊維からなる経糸束および緯糸束から形成され、前記炭素繊維の間に、前記炭素繊維とは異なる炭素同素体を含む架橋部を有する、強化繊維開繊織物。
【請求項10】
前記架橋部は、熱硬化性樹脂、金属、シリカ、または熱可塑性樹脂からなる粒子を含む、請求項9に記載の強化繊維開繊織物。
【請求項11】
前記炭素同素体が無定形炭素を含む、請求項9または10に記載の強化繊維開繊織物。
【請求項12】
前記炭素同素体がアモルファスカーボンである、請求項9〜11の何れか一項に記載の強化繊維開繊織物。
【請求項13】
炭素繊維からなる経糸束および緯糸束から形成される強化繊維織物を準備する工程、
前記強化繊維織物を、重合反応によって熱硬化性樹脂を生成するモノマーが含まれる開繊溶液に接触させる含浸工程、および
前記含浸工程により前記モノマーを含む強化繊維織物を加熱して、前記炭素繊維の間に、前記炭素繊維とは異なる炭素同素体を含む架橋部を形成する炭素化工程、
を含む、強化繊維開繊織物の製造方法。
【請求項14】
前記開繊溶液が、さらに熱硬化性樹脂、金属、シリカ、または熱可塑性樹脂からなる粒子の何れか一種以上を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記炭素化工程の後にさらに、乾燥工程を含む、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記の各工程を経て製造された前記強化繊維開繊織物の厚みが、前記強化繊維織物の厚みに比べて2%以上増加している、請求項12〜15の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1〜6の何れか一項に記載の強化繊維束または請求項9〜12の何れか一項に記載の強化繊維開繊織物と、マトリックス樹脂とを含む繊維強化複合体。
【請求項18】
前記マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である、請求項17に記載の繊維強化複合体。
【請求項19】
請求項1〜6の何れか一項に記載の強化繊維束または請求項9〜12の何れか一項に記載の強化繊維開繊織物に、マトリックス樹脂を含ませる加熱含浸工程を含む、繊維強化複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2017年9月29日に出願された日本国特許出願2017−190269号、2017年11月6日に出願された日本国特許出願2017−213391号、および2018年1月17日に出願された日本国特許出願2018−005317号に基づく優先権を主張するものであり、これら全体の開示内容は参照されることにより、本明細書の開示の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、強化繊維束、強化繊維開繊織物、および繊維強化複合体、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
マトリックス樹脂が強化繊維によって強化された繊維強化複合材料は、軽量でありながら 強度、剛性、寸法安定性などに優れていることから、事務機器用途、自動車用途、コンピュータ用途(例えば、ICトレイ、ノートパソコンの筐体など)、止水板、風車翼などの様々な分野に広く展開され、その需要は年々増加しつつある。
【0004】
また、近年、炭素繊維の光学的反射特性を生かし、特殊な織り方をした強化繊維織物のデザイン性が注目されている。例えば炭素繊維からなる京都西陣織の生地をそのまま用いたビジネスバックや、強化繊維織物の外観を生かした自動車用フロントパネル等が販売されている。
【0005】
しかしながら、繊維強化複合材料に用いられる強化繊維は、マトリックス樹脂と化学組成および分子構造が異なり、マトリックス樹脂との親和性が低い。従って、強化繊維とマトリックス樹脂との接着性が低く、強化繊維とマトリックス樹脂との接着性の向上が課題となっている。
【0006】
熱可望性樹脂をマトリックス樹脂とする繊維強化複合材料は、コンパウンドペレットの射出成形、射出圧縮成形、押出成形、プレス成形などの様々な方法で成形される。これらの成形法では、強化繊維が繊維束の形態で使用される場合が多い。このような繊維束の形態で使用される場合には、強化繊維とマトリックス樹脂との親和性および接着性などの界面の問題に加えて、繊維束の開繊状態も繊維強化複合材料の機械的強度に大きく影響を与える。
【0007】
特に、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とした繊維強化複合材料を製造する場合、熱可塑性樹脂製のシートと強化繊維束とを加圧加熱する方法が一般に用いられる。この際、強化繊維束を構成している強化繊維の開繊が不十分であると、強化繊維間に樹脂が十分に含浸されず、繊維強化複合材料の機械的強度が低下することが知られている。
【0008】
そこで、強化繊維とマトリックス樹脂との相溶性を向上させ、強化繊維間の間隔を広げることで熱可塑性樹脂の含浸性を向上させるため、強化繊維表面に各種粒子を散布する方法や、強化繊維表面に粒子を成長させる開繊方法が検討されている。
【0009】
特許文献1(特開2013−177705号公報)には、水とアルコールを含む溶液に水分散性ポリマー粒子を分散させたエマルションに、炭素繊維束を浸漬して乾燥させて得られる炭素繊維束が開示されている。
【0010】
特許文献2(特開2014−122439号公報)には、炭素繊維束の表面に微小粒子と小粒子とを付着させる炭素繊維束の製造方法が開示されている。
【0011】
特許文献3(国際公開第2013/027674号)および特許文献4(特開2014−162116号公報)には、ナフトキサジン樹脂のモノマー溶液に炭素繊維を含浸させた後、加熱することで炭素繊維表面にスペーサーを形成したことが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示された、合成樹脂粒子を添加または表面に付着させた炭素繊維は、熱可塑性樹脂製シートと強化繊維束とを加熱しながら加圧する際に、合成樹脂粒子が圧壊または溶融し、強化繊維の開繊状態を保持することができず、強化繊維間に熱可塑性樹脂を十分に含浸させることができないという問題点を有している。
【0013】
一方、特許文献3および特許文献4に記載された炭素繊維複合材料は、炭素繊維の表面に凹凸が形成されている。炭素繊維同士が集束されると、炭素繊維の表面に形成された凹凸同士がかみ合った状態となり、炭素繊維同士がかみ合った部分の繊維間の空隙が小さくなる。その結果、炭素繊維間への熱可塑性樹脂の含浸が不十分となるという問題点を有している。
【0014】
また、本発明者らは、良好な機械物性および透明性を備えるアクリル樹脂やポリカーボネート樹脂等の樹脂は比較的溶融粘度が高く、従来の含浸方法では、強化繊維織物に前記樹脂を均一に含浸するのは容易ではないという問題を見出していた。
【0015】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、強化繊維の開繊状態が良好に保持され、機械的強度に優れた繊維強化複合体を製造することができる強化繊維束、強化繊維繊織物、およびこれを用いた炭素繊維強化複合体、並びにこれらの製造方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、透明性や意匠性等の外観に優れる強化繊維開繊織物およびこれを用いた炭素繊維強化複合体、並びにこれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決する方法を鋭意検討した結果、炭素繊維からなる経糸束および緯糸束から構成される強化繊維織物において、炭素繊維の間に、前記炭素繊維とは異なる炭素同素体を含む架橋部を備えることで、例えば、加熱および加圧時においても炭素繊維間の開繊状態を一定の間隔で保持することができ、その結果、溶融粘度が高く比較的含侵性の低い熱可塑性樹脂であっても均一に含浸でき、強化繊維織物中の未含浸部分である空隙を低減できる強化繊維開繊織物が得られること、さらにこのような強化繊維開繊織物にマトリックス樹脂を含浸させることにより、機械的強度等に優れた繊維強化複合体が得られることを見出した。本発明は係る知見によるものである。
【0017】
即ち、本発明の要旨は、以下の通りである。
[1] 複数の強化繊維を含む強化繊維束であって、
前記強化繊維の間に炭素同素体を含む架橋部を有する、強化繊維束。
[2] 前記炭素同素体が無定形炭素を含む、[1]に記載の強化繊維束。
[3] 前記架橋部は、複数の炭素同素体粒子が結合して形成されている、[1]または[2]に記載の強化繊維束。
[4] 前記架橋部は、熱硬化性樹脂、金属、シリカ、または熱可塑性樹脂からなる粒子を含む[1]〜[3]の何れかに記載の強化繊維束。
[5] 前記強化繊維は、一方向に配向しているかまたは織物の形態である、[1]〜[5]の何れか1項に記載の強化繊維束。
[6] 強化繊維が炭素繊維を含む、[1]〜[5]の何れか1項に記載の強化繊維束。
[7] 熱硬化性樹脂、金属、シリカ、または熱可塑性樹脂からなる粒子の何れか一種以上を含む繊維前処理液と、複数の強化繊維とを接触させて含浸繊維束を製造する含浸工程と、
前記含浸繊維束を加熱して熱硬化性樹脂を炭素同素体とする炭素化工程とを含む、強化繊維束の製造方法。
[8] 前記繊維前処理液は、重合反応によって熱硬化性樹脂を生成するモノマーをさらに含む、[7]に記載の方法。
[9] 炭素繊維からなる経糸束および緯糸束から形成され、前記炭素繊維の間に、前記炭素繊維とは異なる炭素同素体を含む架橋部を有する、強化繊維開繊織物。
[10] 前記架橋部は、熱硬化性樹脂、金属、シリカ、または熱可塑性樹脂からなる粒子を含む、[9]に記載の強化繊維開繊織物。
[11] 前記炭素同素体が無定形炭素を含む、[9]または[10]に記載の強化繊維開繊織物。
[12] 前記炭素同素体がアモルファスカーボンである、[9]〜[11]の何れかに記載の強化繊維開繊織物。
[13] 炭素繊維からなる経糸束および緯糸束から形成される強化繊維織物を準備する工程、
前記強化繊維織物を、重合反応によって熱硬化性樹脂を生成するモノマーが含まれる開繊溶液に接触させる含浸工程、および
前記含浸工程により前記モノマーを含む強化繊維織物を加熱して、前記炭素繊維の間に、前記炭素繊維とは異なる炭素同素体を含む架橋部を形成する炭素化工程、
を含む、強化繊維開繊織物の製造方法。
[14] 前記開繊溶液が、さらに熱硬化性樹脂、金属、シリカ、または熱可塑性樹脂からなる粒子の何れか一種以上を含む、[13]に記載の方法。
[15] 前記炭素化工程の後にさらに、乾燥工程を含む、[13]または[14]に記載の方法。
[16] 前記の各工程を経て製造された前記強化繊維開繊織物の厚みが、前記強化繊維織物の厚みに比べて2%以上増加している、[12]〜[15]の何れか一項に記載の方法。
[17] [1]〜[6]の何れか一項に記載の強化繊維束または[9]〜[12]の何れか一項に記載の強化繊維開繊織物と、マトリックス樹脂とを含む繊維強化複合体。
[18] 前記マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である、[17]に記載の繊維強化複合体。
[19] [1]〜[6]の何れか一項に記載の強化繊維束または[9]〜[12]の何れか一項に記載の強化繊維開繊織物に、マトリックス樹脂を含ませる加熱含浸工程を含む、繊維強化複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の強化繊維束および強化繊維開繊織物は、繊維の間が炭素同素体を含む架橋部によって開繊されている。そのため、加熱および加圧時においても繊維間の開繊状態を一定の間隔で保持することができ、その結果、溶融粘度が高く、比較的含侵性の低い熱可塑性樹脂であっても均一に含浸でき、強化繊維束および強化繊維織物中の未含浸部分である空隙を低減できる。
【0019】
特に本発明の強化繊維束および強化繊維開繊織物は、剛性に優れる炭素同素体を含む架橋部を有することで、繊維束の真直性が向上することに加え、成形中も繊維束の真直性が保持されることで、繊維束への樹脂含侵性が向上する。
【0020】
したがって、強化繊維束および強化繊維開繊織物の繊維間に合成樹脂等の熱可塑性樹脂を十分に含浸させることができ、機械的強度に優れた繊維強化複合体を製造することができる。
【0021】
また、本発明の強化繊維束および強化繊維開繊織物並びに繊維強化複合体は、開繊前に比べて開繊状態の形成、保持および安定により厚みが増加し、透明性の確保および光沢映え等により優れた外観を提供することができる。
【0022】
さらに、本発明の強化繊維束または強化繊維開繊織物の製造方法によれば、繊維前処理液を繊維に接触させて繊維間に熱硬化性樹脂粒子を導入した後に、当該熱硬化性樹脂粒子を炭化させて炭素同素体からなる架橋部を形成するため、繊維間に架橋部を十分に導入することができ、開繊状態の良好な強化繊維束または強化繊維開繊織物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】強化繊維束を示した模式図である。
図2】強化繊維束の他の一例を示した模式図である。
図3】強化繊維束の他の一例を示した模式図である。
図4】強化繊維束の他の一例を示した模式図である。
図5】強化繊維束の他の一例を示した模式図である。
図6】実施例A1で製造された強化繊維束を示した顕微鏡写真である。
図7】実施例A1で製造された強化繊維束を示した顕微鏡写真である。
図8】比較例A1で製造された強化繊維束を示した顕微鏡写真である。
図9】実施例B1で用いた開繊処理前の繊維束から構成される強化繊維織物の顕微鏡写真である。
図10】実施例B1で製造された強化繊維開繊織物の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施する好ましい形態の一例について説明する。ただし、下記の実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明は下記の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0025】
本発明の強化繊維束の一例を図面を参照しつつ説明する。強化繊維束は、複数の強化繊維と、強化繊維を架橋する、炭素同素体を含む架橋部とを有する。
【0026】
強化繊維としては、特に限定されず、例えば、特に限定されないが、ガラス繊維、炭素繊維、PENやPET等のポリエステル繊維、アラミド繊維等が挙げられ、これらのなかでもガラス繊維または炭素繊維が好ましく、各種機械物性と重量の観点から炭素繊維が最も好ましい。
【0027】
炭素繊維としては、例えば、PAN系炭素繊維、PITCH系炭素繊維などが挙げられ、曲げ強度の観点からPAN系炭素繊維が好ましい。ガラス繊維としては、例えば、Eガラス繊維などが挙げられる。
【0028】
強化繊維の平均径は、通常4μm以上であり、6μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、20μm以上がさらに好ましい。強化繊維の平均径は、通常、40μ以下であり、30μm以下が好ましく、27μm以下がより好ましい。なお、本発明において、繊維径とは、繊維の長さ方向に直交する方向に沿った断面において、この断面を包囲し得る最小径の真円の直径をいう。
【0029】
強化繊維束は、複数の強化繊維(単繊維)が集まって束となっている。繊維束を構成している強化繊維の本数は、1000〜50000本が好ましい。強化繊維が炭素繊維である場合、繊維束を構成している炭素繊維の本数は、1000〜50000本が好ましく、12000〜48000本がより好ましく、24000〜48000本がさらに好ましい。強化繊維がガラス繊維である場合、繊維束を構成しているガラス繊維の本数は、1000〜20000本が好ましい。
【0030】
強化繊維の形態は、特に限定されないが、例えば、一方向に配向している繊維、織物、編物および不織布などが挙げられ、一方向に配向している繊維および織物が好ましい。織物の形態としては、平織、綾織および朱子織などが挙げられ、これらのなかでも等方性を備える平織または綾織が好ましい。また、編物の形態としては、各繊維配向方向に繊維が直進性をもった形で配置されるノンクリンプファブリックが好ましい。
【0031】
強化繊維がシート状である場合、強化繊維の目付は、100〜400g/m2が好ましく、180〜400g/m2がより好ましい。強化繊維の目付が100g/m2以上であると、強化繊維束を用いて得られた炭素繊維強化複合体の機械的強度が向上する。強化繊維の目付が400g/m2以下であると、強化繊維間に合成樹脂を均一に含浸させることができ、強化繊維束を用いて得られた炭素繊維強化複合体の機械的強度が向上する。
【0032】
強化繊維1、1間を架橋部2が架橋している。架橋部2は、強化繊維間を架け渡すように配設されている。即ち、二つの強化繊維同士が架橋部2を介して接続一体化している。換言すれば、架橋部2は、二つの強化繊維に接続一体化することによって、二つの強化繊維は架橋部2によって接続一体化されている。
【0033】
架橋部2は炭素同素体を含んでいる。炭素同素体としては、特に限定されず、例えば、アモルファスカーボンなどの無定形炭素、黒鉛、ダイヤモンドなどが挙げられ、無定形炭素が好ましく、これらのなかでも炭素繊維との接着性の観点から、アモルファスカーボンがより好ましい。
【0034】
また、架橋部2は炭素同素体のみであってもよいが、炭素同素体以外に熱硬化性樹脂、金属、シリカ、熱可塑性樹脂を含んでもよい。例えば、架橋部に熱硬化性樹脂、金属、シリカ、熱可塑性樹脂等からなる粒子を炭素同素体で被覆した被膜粒子を架橋部に用いることで、開繊幅の向上や、機械物性の向上に繋げることができる。
【0035】
本発明において、炭素同素体のみからなる粒子、または熱硬化性樹脂、金属、シリカ、熱可塑性樹脂等で炭素同素体を被覆した粒子の総称として「炭素同素体粒子」と称することがある。
【0036】
炭素同素体以外に用いてもよい粒子としては、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、オササジン樹脂等の熱硬化性樹脂;アルミナ、チタン、鉄、アルミ等の金属;シリカ;ジビニルベンゼン架橋体、ポリオレフィン、PBT、PET、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が挙げられ、炭素同素体との相溶性の観点からオキサジン樹脂、フェノール系樹脂、シリカ、アルミナ、アルミ、ジビニルベンゼン架橋体が好ましく、オキサジン樹脂またはシリカが最も好ましい。
【0037】
架橋部2は炭素同素体粒子を含んでいることが好ましい。図1に示したように、炭素同素体粒子21は線状(数珠つなぎ状)に接続して架橋部2を形成しており、両端の炭素同素体粒子が、強化繊維に接続一体化し、2個の強化繊維は、架橋部2を介して接続一体化されている。なお、上記のように複数の炭素同素体粒子が線状に接続されている場合において、架橋部は異種の炭素同素体粒子(例えば、被膜粒子と炭素粒子)の組み合わせであってもよい。
【0038】
図1においては、炭素同素体粒子が2個、接続一体化して架橋部2を構成している場合を示したが、図2に示したように、3個以上の炭素同素体粒子21が接続一体化して架橋部2を構成していてもよい。
【0039】
架橋部2は、炭素同素体粒子21同士を互いに接続一体化させて構成されており、炭素同素体粒子21同士の接続部分には凹部22が形成されている。架橋部2を例えば、1個の棒状体から形成した場合と異なり、架橋部2には上記凹部22が形成されていることから、架橋部2の体積を抑制しつつ、強化繊維同士を接続一体化し、強化繊維の開繊を確実に維持することができる。
【0040】
さらに、架橋部2には、周方向(炭素同素体粒子の接続方向に直交する方向)の全周に亘って凹部22が形成されている。従って、強化繊維1、1間に含浸させた合成樹脂を架橋部2の凹部22内に進入させて係止された状態とすることができ、強化繊維1と合成樹脂との一体化を強固なものとし、得られる炭素繊維強化複合体の機械的強度を向上させることができる。
【0041】
架橋部2を構成している炭素同素体粒子21の平均粒子径は、通常1〜30μmであり、1〜20μmが好ましく、1〜10μmがより好ましく、2〜8μmがさらに好ましく、3〜5μmが特に好ましい。炭素同素体粒子の平均粒子径が1μm以上であると、強化繊維間への合成樹脂の含浸時に強化繊維束に加えられる熱および圧力にもかかわらず、強化繊維束の開繊を維持し、強化繊維間への合成樹脂の含浸を十分且つ均一なものとして、優れた機械的強度を有する炭素繊維強化複合体を得ることができる。炭素同素体粒子の平均粒子径が30μm以下であると、強化繊維間の空隙部を十分に確保して、強化繊維間に合成樹脂を十分に含浸させることができ、優れた機械的強度を有する炭素繊維強化複合体を得ることができる。なお、本発明において、炭素同素体粒子の平均粒子径は下記の要領で測定された値をいう。先ず、強化繊維束の400倍の拡大写真を電子顕微鏡を用いて撮影する。得られた顕微鏡写真において、画像処理によって炭素同素体粒子の粒子径を測定し、各炭素同素体粒子の粒子径の相加平均値を炭素同素体粒子の平均粒子径とする。なお、炭素同素体粒子の粒子径は、炭素同素体粒子を包囲し得る最小径の真円の直径とする。
【0042】
架橋部2を構成している炭素同素体粒子21の平均数は、1〜100個が好ましく、2〜20個がより好ましく、3〜10個が特に好ましい。架橋部を構成している炭素同素体粒子21の数とは、2個の強化繊維の接続方向(架橋部の長さ方向)における炭素同素体粒子の数をいい、各架橋部2を構成している炭素同素体粒子の数の相加平均値をいう。即ち、一方の強化繊維束に接続一体化している炭素同素体粒子を第1粒子とする。第1粒子に他方の強化繊維に向かって接続一体化している炭素同素体粒子を第2粒子とする。第2粒子に他方の強化繊維に向かって接続一体化している炭素同素体粒子を第3粒子とする。これを繰り返して、他方の強化繊維束に接続一体化している炭素同素体粒子を第n粒子としたとき、架橋部を構成している炭素同素体粒子は、n個であるとする。なお、第(n−1)粒子に、第n粒子となる炭素同素体粒子が複数個、接続一体化している場合、第(n−1)粒子に接続一体化している複数個の炭素同素体粒子はまとめて1個の炭素同素体粒子とみなす。
【0043】
さらに、上記炭素同素体粒子21を第1の炭素同素体粒子21aとした時、第1の炭素同素体粒子21aとこれに対向する強化繊維1部分との間に形成された隙間3に、第1の炭素同素体粒子21aよりも小径である、複数個の第2の炭素同素体粒子21bが配設され、これらの第2の炭素同素体粒子21bが、第1の炭素同素体粒子21aおよび強化繊維1の双方に直接、付着一体化していてもよい(図3参照)。
【0044】
なお、全ての炭素同素体粒子の平均粒子径の40%以下の直径を有する炭素同素体粒子を第2の炭素同素体粒子とする。
【0045】
第1の炭素同素体粒子21aおよび複数個の第2の炭素同素体粒子21bが強化繊維1に強固に接続一体化しており、架橋部2は、強化繊維1にさらに強固に接続一体化されている。従って、強化繊維間への合成樹脂の含浸時に強化繊維束に加えられる熱および圧力にもかかわらず、架橋部2は、強化繊維束の開繊を維持し、強化繊維間への合成樹脂の含浸を十分且つ均一なものとして、優れた機械的強度を有する炭素繊維強化複合体を得ることができる。
【0046】
第2の炭素同素体粒子21bの平均粒子径は、第1の炭素同素体粒子21aの平均粒子径の0.1〜0.9倍が好ましく、0.15〜0.7倍がより好ましく、0.2〜0.5倍が特に好ましい。第2の炭素同素体粒子21bの平均粒子径が第1の炭素同素体粒子21aの平均粒子径の0.1倍以上であると、第2の炭素同素体粒子の機械的強度を向上させつつ、架橋部と強化繊維との接続強度を向上させることができる。第2の炭素同素体粒子21bの平均粒子径が第1の炭素同素体粒子21aの平均粒子径の0.9倍以下であると、第2の炭素同素体粒子と強化繊維との接続面積を増加させて、架橋部と強化繊維との接続強度を向上させることができる。
【0047】
図1では、架橋部2を構成している炭素同素体粒子21aのうち、両端に位置する一の炭素同素体粒子21a、21aが強化繊維1、1に直接、接続一体化している場合を説明したが、図4に示したように、強化繊維1に直接、接続一体化している炭素同素体粒子21は複数個であってもよい。
【0048】
具体的には、図4に示したように、強化繊維1、1間に配設された第3の炭素同素体粒子21cと、第3の炭素同素体粒子21cよりも小径の第4の炭素同素体粒子21dとを含む架橋部2であってもよい。
【0049】
なお、全ての炭素同素体粒子の平均粒子径の40%以下の直径を有する炭素同素体粒子を第4の炭素同素体粒子とする。
【0050】
第4の炭素同素体粒子21dは、第3の炭素同素体粒子21cの表面に複数個、付着一体化しており、複数個の第4の炭素同素体粒子21dが強化繊維1に直接、接続一体化している。
【0051】
即ち、第3の炭素同素体粒子21cとこれに対向する強化繊維1との間に、複数個の第4の炭素同素体粒子21dが介在しており、第4の炭素同素体粒子21dは、第3の炭素同素体粒子21cおよび強化繊維1に接続一体化している。
【0052】
そして、第4の炭素同素体粒子21dが強化繊維1に複数個、接続一体化しているので、強化繊維1に対する接触面積(接続面積)が大きく、架橋部2は強化繊維1に強固に接続一体化している。従って、強化繊維1、1間への合成樹脂の含浸時に強化繊維束に加えられる熱および圧力にもかかわらず、架橋部2は、強化繊維束の開繊を維持し、強化繊維間への合成樹脂の含浸を十分且つ均一なものとして、優れた機械的強度を有する繊維強化複合体を得ることができる。
【0053】
第4の炭素同素体粒子21dの平均粒子径は、第3の炭素同素体粒子21cの平均粒子径の0.1〜0.9倍が好ましく、0.2〜0.7倍がより好ましく、0.3〜0.5倍が特に好ましい。第4の炭素同素体粒子21dの平均粒子径が第3の炭素同素体粒子21cの平均粒子径の0.1倍以上であると、第4の炭素同素体粒子の機械的強度を向上させつつ、架橋部と強化繊維との接続強度を向上させることができる。第4の炭素同素体粒子21dの平均粒子径が第3の炭素同素体粒子21cの平均粒子径の0.9倍以下であると、第4の炭素同素体粒子と強化繊維との接続面積を増加させて、架橋部と強化繊維との接続強度を向上させることができる。
【0054】
図4では、第3の炭素同素体粒子21cが一つの場合を説明したが、図5に示したように、複数個の第3の炭素同素体粒子21cが、図1および図2に示したように、線状(数珠つなぎ状)に接続していてもよい。この場合、線状に接続した第3の炭素同素体粒子21cの両端の炭素同素体粒子21c1、21c1の表面に、複数個の第4の炭素同素体粒子21dが付着一体化して架橋部2が構成されている。
【0055】
上述した強化繊維束(例えば、図1〜5に示した強化繊維束)において、架橋部2の含有量は、強化繊維100質量部に対して1〜5質量部が好ましい。架橋部の含有量が1質量部以上であると、強化繊維束の開繊を十分なものとし、強化繊維間への合成樹脂の含浸を十分且つ均一なものとして、優れた機械的強度を有する素繊維強化複合体を得ることができる。架橋部の含有量が5質量部以下であると、強化繊維束の単位断面積当たりの機械的強度が向上する。
【0056】
次に、強化繊維束の製造方法を説明する。先ず、熱硬化性樹脂粒子を含む繊維前処理液と、複数の強化繊維を接触させて含浸繊維束を製造する(含浸工程)。本発明の製造方法において使用される熱硬化性樹脂粒子は、金属、シリカ、熱可塑性樹脂の少なくとも1種以上と組み合わされてもよく、金属、シリカ、熱可塑性樹脂粒子の表面の少なくとも一部に熱硬化性樹脂が被膜状に付着した被膜粒子も含まれる。なお、金属、シリカ、熱可塑性樹脂の好ましい態様については、上述の通りである。
【0057】
繊維前処理液と複数の強化繊維とを接触させる方法としては、例えば、繊維前処理液を複数の強化繊維にスプレーや刷毛などを用いて塗布する方法、繊維前処理液中に強化繊維を浸漬する方法などが挙げられる。
【0058】
繊維前処理液は、熱硬化性樹脂粒子を含む。熱硬化性樹脂粒子は、架橋部2を構成する炭素同素体粒子の原料となる。
【0059】
熱硬化性樹脂粒子を構成している熱硬化性樹脂としては、例えば、オキサジン樹脂などを挙げることができる。オキサジン樹脂としては、例えば、ベンゾオキサジン樹脂、ナフトキサジン樹脂などが挙げられ、ナフトキサジン樹脂が好ましい。
【0060】
なお、「オキサジン樹脂」とは、ベンゼン環、ナフタレン環に付加しており、酸素および窒素を含む6員環を有する樹脂をいう。ベンゾオキサジン樹脂は、下記の化学式(1)に示す構造を有する。ナフトキサジン樹脂は、下記の化学式(2)に示す構造を有する。
【0061】
【化1】
【0062】
【化2】
【0063】
繊維前処理液は、熱硬化性樹脂粒子の原料となるモノマーを含んでいてもよく、好ましくはオキサジン樹脂原料となるモノマーを含む。繊維前処理液中に、熱硬化性樹脂粒子の原料となるモノマーが含有されていると、強化繊維中に繊維前処理液を含浸させて得られる含浸繊維束の加熱時に、繊維前処理液に含まれている熱硬化性樹脂、金属、シリカ、または熱可塑性樹脂からなる粒子を核として、熱硬化性樹脂粒子を強化繊維間において容易に成長させて、強化繊維間に十分に且つ確実に配設させることができる。また、繊維前処理液中のモノマーの一部は、熱硬化性樹脂粒子を核とすることなく重合し、新たな熱硬化性樹脂粒子が生成されてもよい。
【0064】
そして、強化繊維同士は、成長した熱硬化性樹脂粒子および/または互いに接続一体化した熱硬化性樹脂粒子を介して架け渡される。即ち、二つの強化繊維同士が、成長した熱硬化性樹脂粒子および/または互いに接続一体化した熱硬化性樹脂粒子を介して接続一体化される。
【0065】
熱硬化性樹脂粒子の原料となるモノマーについて、熱硬化性樹脂粒子を構成している熱硬化性樹脂がナフトキサジン樹脂である場合を例に挙げて説明する。
【0066】
ナフトキサジン樹脂の原料となるモノマーは、フェノール類であるジヒドロキシナフタレン、ホルムアルデヒドおよびアミン類である。
【0067】
ジヒドロキシナフタレンには、多くの異性体が存在する。ジヒドロキシナフタレンの異性体としては、例えば、1,3−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレンなどが挙げられる。これらのうち、反応性の高さから、1,5−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレンが好ましく、1,5−ジヒドロキシナフタレンがより好ましい。
【0068】
ホルムアルデヒドは、ホルマリンとして用いることが好ましい。ホルマリンには、ホルムアルデヒドおよび水に加えて、安定剤として少量のメタノールが添加されていてもよい。ホルムアルデヒドに代えて、パラホルムアルデヒドを用いてもよい。
【0069】
ホルムアルデヒドは、ジヒドロキシナフタレン1モルに対して1.6〜2.4モルであることが好ましい。
【0070】
アミン類としては、一般式R−NH2で表される脂肪族アミンが好ましく用いられる。一般式R−NH2において、Rは、炭素数が5以下であるアルキル基であることが好ましい。炭素数が5以下であるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基、シクロプロピルメチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、シクロプロピルエチル基、シクロプロピルメチル基などが挙げられる。炭素数が5以下であるアルキル基としては、メチル基、エチル基およびプロピル基が好ましい。
【0071】
アミン類としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミンなどが好ましく用いられ、メチルアミンがより好ましく用いられる。
【0072】
アミン類は、ジヒドロキシナフタレン1モルに対して0.8〜1.2モルであることが好ましい。
【0073】
繊維前処理液は溶媒を含むことが好ましく、溶媒は特に限定されない。繊維前処理液が、熱硬化性樹脂粒子を構成している熱硬化性樹脂の原料となるモノマーを含む場合、繊維前処理液を構成している溶媒は、モノマーを溶解させることが好ましい。溶媒としては、特に限定されず、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、エタノールなどのアルコールなどが挙げられる。
【0074】
繊維前処理液中の溶媒の量は、硬化性樹脂粒子100質量部に対して400〜3000質量部が好ましい。
【0075】
繊維前処理液が、熱硬化性樹脂粒子を構成している熱硬化性樹脂の原料となるモノマーを含む場合、繊維前処理液中の溶媒の量は、硬化性樹脂粒子およびモノマーの総量100質量部に対して400〜3000質量部が好ましい。
【0076】
繊維前処理液の製造方法について説明する。溶媒中に熱硬化性樹脂粒子の原料となるモノマーを溶解させてモノマー溶液を作製する。このモノマー溶液を所定温度に所定時間に亘って加熱してモノマー溶液中に含まれているモノマーの一部を重合させて熱硬化性樹脂粒子を生成させて繊維前処理液を製造する。なお、熱硬化性樹脂粒子は、一次粒子として存在していてもよいし、凝集した二次粒子として存在していてもよい。
【0077】
繊維前処理液中に含まれている熱硬化性樹脂粒子の平均粒子径は、1〜10μmが好ましく、1.5〜8μmがより好ましく、2〜5μmが特に好ましい。なお、熱硬化性樹脂粒子の平均粒子径は、電子顕微鏡によって倍率1000倍にて撮影された写真上において、画像処理によって熱硬化性樹脂粒子の粒子径を測定し、各熱硬化性樹脂粒子の粒子径の相加平均値を熱硬化性樹脂粒子の平均粒子径とする。なお、熱硬化性樹脂粒子の粒子径は、熱硬化性樹脂粒子を包囲し得る最小径の真円の直径とする。
【0078】
モノマー溶液中に含まれているモノマーの転化率は、20〜90%が好ましく、30〜80%がより好ましく、40〜70%が特に好ましい。なお、モノマー転化率は、下記式に基づいて算出された値をいう。
モノマー転化率(%)=100×熱硬化性樹脂粒子の質量
【0079】
熱硬化性樹脂がナフトキサジン樹脂である場合、モノマー溶液の加熱温度は、30〜80℃が好ましく、40〜70℃がより好ましく、50〜60℃が特に好ましい。
【0080】
熱硬化性樹脂がナフトキサジン樹脂である場合、モノマー溶液の加熱時間は、10〜100分が好ましく、20〜60分がより好ましく、30〜50分が特に好ましい。
【0081】
熱硬化性樹脂がナフトキサジン樹脂である場合、熱硬化性樹脂の重合機構としては、以下の機構が考えられる。加熱によりジヒドロキシナフタレンから、疎水性のオキサジン環が形成される。さらに、このオキサジン環が開環重合して高分子量化することによってナフトキサジン樹脂が生成される。
【0082】
次に、含浸工程において製造された含浸繊維束を加熱して熱硬化性樹脂粒子を炭化させて炭素同素体粒子とし、炭素同素体粒子を含む架橋部によって強化繊維間を橋架けして強化繊維束を製造することができる(炭素化工程)。
【0083】
含浸繊維束を加熱して熱硬化性樹脂粒子を炭化させる温度は、180〜250℃が好ましく、190〜220℃がより好ましい。炭化させる温度を上記範囲内とすることによって、強化繊維を劣化させることなく、熱硬化性樹脂粒子を炭化させて炭素同素体粒子とすることができる。
【0084】
含浸繊維束を加熱して熱硬化性樹脂粒子を炭化させる時間は、1〜100分が好ましく、2〜20分がより好ましい。炭化させる時間を上記範囲内とすることによって、強化繊維を劣化させることなく、熱硬化性樹脂粒子を炭化させて炭素同素体粒子とすることができる。
【0085】
繊維前処理液が熱硬化性樹脂粒子の原料となるモノマーを含有している場合、含浸繊維束の加熱時に、繊維前処理液に含まれている熱硬化性樹脂、金属、シリカ、または熱可塑性樹脂からなる粒子を核として、熱硬化性樹脂粒子を強化繊維間において容易に成長させる。また、繊維前処理液中に予め含まれている粒子を核とすることなく、繊維前処理液中に含まれているモノマーを重合させて熱硬化性樹脂粒子を生成し析出させてもよい。繊維前処理液中に予め含有されていた熱硬化性樹脂粒子を核として成長した熱硬化性樹脂粒子が単独でまたは互いに接続して熱硬化性樹脂列を形成しながら強化繊維と接続一体化し、強化繊維間に熱硬化性樹脂粒子が強化繊維間を架け渡した状態に十分に且つ確実に配設される。また、繊維前処理液中に予め含有されていた熱硬化性樹脂粒子を核として成長した熱硬化性樹脂粒子が、この熱硬化性樹脂粒子よりも小径の熱硬化性樹脂粒子を介して強化繊維と接続一体化し、強化繊維間に熱硬化性樹脂粒子が強化繊維間を架け渡した状態に十分に且つ確実に配設される。
【0086】
その後、熱硬化性樹脂粒子を炭化させて炭素同素体粒子とすることによって、炭素同素体粒子を含む架橋部によって強化繊維間をより確実に橋架けして強化繊維束を製造することができる。
【0087】
次に、強化繊維束を用いて繊維強化複合体を製造する要領について説明する。強化繊維束にマトリックス樹脂を含浸させることによって繊維強化複合体を製造することができる。
【0088】
マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂の何れであってもよいが、繊維強化複合体が優れた曲げ弾性率および曲げ強度を有していることから、熱可塑性樹脂が好ましい。
【0089】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂、塩ビ樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などが挙げられ、これらのなかでも、ポリカーボネート系樹脂、塩ビ樹脂、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0090】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂およびポリプロピレン系樹脂が挙げられる。ポリエチレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、低密度ポリエチレン系樹脂、中密度ポリエチレン系樹脂、高密度ポリエチレン系樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂、直鎖状中密度ポリエチレン系樹脂、直鎖状高密度ポリエチレン系樹脂などが挙げられる。
【0091】
ポリプロピレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体などが挙げられる。プロピレンと他のオレフィンとの共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体の何れであってもよい。
【0092】
なお、プロピレンと共重合されるオレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどのα−オレフィンなどが挙げられる。
【0093】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられ、不飽和ポリエステル樹脂およびエポキシ樹脂が好ましい。
【0094】
マトリックス樹脂を強化繊維束に含浸させる方法は、特に限定されない。例えば、溶融樹脂をシートダイなどを用いてフィルム状に押出し、強化繊維束上に積層した後に、加熱しながら圧縮することによりマトリックス樹脂を強化繊維束中に含浸させる方法などが挙げられる。
【0095】
強化繊維束は、強化繊維1、1間に架橋部2がその両端部を強化繊維1、1に接続一体化させた状態に配設されている。従って、マトリックス樹脂を強化繊維束中に含浸させるために強化繊維束に熱および圧力が加えられても、架橋部2は、強化繊維束の開繊状態を確実に維持することができ、強化繊維束中にマトリックス樹脂を均一に且つ十分に含浸させることができる。得られる繊維強化複合体は、優れた機械的強度を有している。
【0096】
そして、架橋部2は、炭素同素体粒子および/または炭素同素体粒子同士が接続して形成されているので、炭素同素体粒子と強化繊維束との接続部分と、炭素同素体粒子同士の接続部分とに凹部が形成されており、この部分において、マトリックス樹脂を係止させた状態に強化繊維束内にマトリックス樹脂を含浸させることができ、得られる繊維強化複合体は、強化繊維束とマトリックス樹脂との一体化に優れ、優れた機械的強度を有している。
【0097】
繊維強化複合体において、強化繊維束の含有量は10〜70質量%が好ましく、20〜50質量%がより好ましい。炭素繊維強化複合体において、マトリックス樹脂の含有量は、30〜90質量%が好ましく、50〜70質量%がより好ましい。
【0098】
本発明の構成を採用することにより、後述する実施例において、優れた特性を有する強化繊維束、強化繊維開繊織物およびそれを用いた繊維強化複合体が製造できたことを実証され、樹脂含浸性および外観に優れる強化繊維束、強化繊維開繊織物およびそれを用いた繊維強化複合体が得られている。その詳細な理由は必ずしも厳密には明らかではないものの、以下のように推測される。
【0099】
すなわち、従来の開繊技術は、繊維を横方向に広げることで、繊維と樹脂の接触面積を増やすことを特徴とする技術であるが、繊維と繊維の間の距離を拡張し、開く技術は意図されていなかった。これに対して、本発明の強化繊維束、強化繊維開繊織物および炭素繊維強化複合体は、炭素繊維の間に、炭素繊維とは異なる炭素同素体を含む架橋部によって三次元的な架橋が形成され、これにより繊維と繊維の間の距離が拡張され、樹脂含浸性および外観(光沢)に優れる強化繊維束および強化繊維織物が得られたものと推測される。
【実施例】
【0100】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0101】
[実施例A1]
<繊維前処理液の作製>
ジヒドロキシナフタレン10質量部、メチルアミン4質量部およびホルマリン(ホルムアルデヒドの含有量:37質量%)8質量部を含むモノマーと、溶媒としてエタノール水(エタノールの含有量:50質量%)600質量部とを均一に混合して、モノマーを溶解してなるモノマー溶液を作製した。
【0102】
モノマー溶液を攪拌しながら溶液温度が60℃となるように加熱して30分間に亘って保持し、モノマーの一部を重合させて、ナフトキサジン樹脂粒子を析出させて、ナフトキサジン樹脂粒子を含む繊維前処理液を作製した。
【0103】
繊維前処理液を一部取って光学顕微鏡(KEYENCE社製 商品名「VH−2500」)を用いて観察したところ、ナフトキサジン樹脂粒子を観察することができた。
【0104】
ナフトキサジン樹脂粒子の平均粒子径は3μmであった。モノマー溶液中に含まれていたモノマーの転化率は50%であり、繊維前処理液中にはモノマーが残存していた。
【0105】
<強化繊維束の開繊>
開繊前の繊維束として、PAN系炭素繊維束(炭素繊維数:3000本、炭素繊維の繊維径:7μm、目付:200g/m2、厚み:0.19mm)を平織りしてなる平織物(台湾プラスチック社製 商品名「EC3C」)を用意した。
【0106】
平織物に繊維前処理液を含浸させて含浸繊維束を作製した。平織物は、繊維前処理液を含浸することによって膨潤していた。
【0107】
平織物を200℃に保持された熱板上に3分間に亘って載置して繊維前処理液中の溶媒を蒸発させて除去した。さらに、繊維前処理液中のモノマーを重合させて、繊維前処理液中に予め含有させていたナフトキサジン樹脂粒子を核としてナフトキサジン樹脂粒子を成長させると共に、繊維前処理液中に予め含有させていたナフトキサジン樹脂粒子を核とすることなくナフトキサジン樹脂粒子を新たに析出させた。
【0108】
繊維前処理液中に予め含有されていたナフトキサジン樹脂粒子を核として成長したナフトキサジン樹脂粒子が単独で、または互いに接続して熱硬化性樹脂列を形成しながら、強化繊維と接続一体化し、強化繊維間にナフトキサジン樹脂粒子が強化繊維間を架け渡した状態に配設された。強化繊維とナフトキサジン樹脂粒子との間には、このナフトキサジン樹脂粒子よりも小径のナフトキサジン樹脂粒子が複数個介在していた。
【0109】
そして、強化繊維間に配設されたナフトキサジン樹脂粒子は直ちに炭化されて炭化化合物粒子とされて強化繊維束が作製された。強化繊維束の強化繊維間には、炭素同素体粒子を含む架橋部が配設されていた。架橋部の両端は、強化繊維に接続一体化していた。炭素同素体粒子は、アモルファスカーボンから形成されていた。
【0110】
得られた強化繊維束を光学顕微鏡(KEYENCE社製 商品名「VH−2500」)を用いて観察した拡大写真を図6および図7に示した。
【0111】
強化繊維束において、炭素同素体粒子の平均粒子径は3μmであった。大径の炭素同素体粒子の平均粒子径は5μmであった。小径の炭素同素体粒子の平均粒子径は1μmであった。架橋部を構成している炭素同素体粒子の平均数は3個であった。強化繊維束の厚みをデジタルマイクロメーター(エスコ社製 商品名「EA725EB11」)を用いて測定したところ、0.21mmであった。
【0112】
<繊維強化複合体の作製>
次に、マトリックス樹脂としてメタクリル樹脂(住友化学社製 商品名「MH」)を用意し、メタクリル樹脂をフィルム状に押出し、溶融状態のメタクリル樹脂フィルムを強化繊維束上に積層した後に、250℃に加熱しながら1MPaの圧力で3分間に亘って圧縮することによりメタクリル樹脂を強化繊維束中に含浸させて、厚みが250μmの繊維強化複合体を得た。なお、繊維強化複合体中において、強化繊維束の含有量は、40質量%であった。
【0113】
[比較例A1]
50質量%エタノール水(和光純薬社製 商品名「057−00456」)20質量部、1,5−ジヒドロキシナフタレン(和光純薬社製 商品名「048−02342」)2.0質量部、40質量%メチルアミン水溶液(和光純薬社製 商品名「132−01857」)1.0質量部および37質量%のホルムアルデヒド水溶液(和光純薬社製 商品名「064−00406」)2.0質量部をこの順番でビーカーに供給して攪拌することでモノマー溶液を作製した。
【0114】
平織物(台湾プラスチック社製 商品名「EC3C」)とモノマー溶液とを接触させた後に、ゴムローラーでピンチすることにより、平織物にモノマー溶液を含浸させた。
【0115】
次に、平織物を2枚のポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製 賞悲鳴「G2−100」)で狭持した状態で70℃に設定された熱風オーブン中に配置し、3分間に亘って加熱した。
【0116】
ポリエチレンテレフタレートフィルムから平織物を取り外して目視確認したところ、平織物は、濡れた状態であり、溶媒が蒸発せずに残存していることが確認された。
【0117】
次に、平織物を170℃に設定された熱風オーブン中に20分に亘って放置することにより溶媒を除去して強化繊維束を得た。強化繊維束の厚みをデジタルマイクロメーター(エスコ社製 商品名「EA725EB11」)を用いて測定したところ、0.19mmであった。
【0118】
得られた強化繊維束を光学顕微鏡(KEYENCE社製 商品名「VH−2500」)を用いて観察した拡大写真を図8に示した。
【0119】
炭素同素体は強化繊維束の表面に半球状に付着一体化しているものの、炭素同素体は、強化繊維同士を架け渡した状態にはなかった。
【0120】
得られた強化繊維束を用いて実施例A1と同様の要領で繊維強化複合体を製造した。
【0121】
得られた繊維強化複合体の曲げ弾性率および曲げ強度を下記の要領で測定し、その結果を表A1に示した。
【0122】
(曲げ弾性率および曲げ強度)
ポリ塩化ビニル板(タキロン社製、厚み:4mm)の両面に繊維強化複合体を熱融着一体化させて積層体を作製した。得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度をJIS K7074に準拠して測定した。なお、市販のポリ塩化ビニル板(厚み:3mm)の曲げ弾性率および曲げ強度をJIS K7074に準拠して測定したところ、3194MPaおよび93MPaであった。
【0123】
【表1】
【0124】
[実施例B1]
<繊維前処理液の作製>
まず、1,5−ジヒドロキシナフタレン(和光純薬社製 商品名「048−02342」)10質量部、40質量%メチルアミン水溶液(和光純薬社製 商品名「132−01857」)4質量部および37質量%ホルムアルデヒド水溶液(和光純薬社製 商品名「064−00406」)8質量部を含むモノマーと、溶媒として50質量%エタノール水(和光純薬社製 商品名「057−00456」)600質量部とを均一に混合してモノマー溶液を調製した。
【0125】
次に、モノマー溶液を攪拌しながら溶液温度が60℃となるように加熱して30分間に亘って保持し、モノマーの一部を重合させて、ナフトキサジン樹脂粒子を析出させて、ナフトキサジン樹脂粒子を含む繊維前処理液を作製した。
【0126】
繊維前処理液を一部取って光学顕微鏡(KEYENCE社製 商品名「VH−2500」)を用いて観察したところ、ナフトキサジン樹脂粒子を観察することができた。
【0127】
ナフトキサジン樹脂粒子の平均粒子径は3μmであった。モノマー溶液中に含まれていたモノマーの転化率は50%であり、繊維前処理液中にはモノマーが残存していた。
【0128】
<強化繊維織物の準備>
開繊前の繊維束として、PAN系炭素繊維束(束数:3000本、繊維径:7μm、目付:200g/m2)を用い、これを平織りしてなる市販の平織物(台湾プラスチック社製炭素繊維織物 商品名「EC3C」)を準備した。
【0129】
平織物を構成する繊維束の水平方向の厚み(幅)は、経糸幅および緯糸幅のいずれも、1.50mm(10か所の平均値)であった。なお水平方向の厚み(幅)は、光学顕微鏡(KEYENCE社製 商品名「VH−2500」)による画像処理を用いて測定した(以下同じ)。
【0130】
また、平織物を構成する繊維束の垂直方向の厚みは、0.19mm(10か所の平均値)であった。なお、垂直方向の厚みは、デジタルマイクロメーター(エスコ社製 商品名「EA725EB11」)を用いて測定した(以下同じ)。
【0131】
<強化繊維織物の作製および評価>
まず、上記平織物を上記繊維前処理液に含浸させて含浸繊維束を含む炭素繊維織物を作製した。本実施例において、含浸工程は、炭素繊維織物を重合反応によって熱硬化性樹脂を生成するモノマーが含まれる繊維前処理液に接触させる工程である。具体的には、繊維束から構成される平織物を繊維前処理液に接触させた後に、ゴムローラーでピンチすることにより、平織物に繊維前処理液を含浸させた。その後、水平方向にロールで引っ張る処理を行った。目視での観察により、このように繊維前処理液を含浸することによって繊維束は表面張力により処理液を吸収して膨潤し、その後、水平方向にロールで扱うことで、繊維束は水平方向へと開繊した。このように、本実施例においては、繊維前処理液は、開繊溶液と称することができる。
【0132】
次いで、加熱処理によるさらなる開繊処理を行った。具体的には以下のとおりである。
【0133】
まず、含浸繊維束を含む平織物を、200℃に保持された熱板上に3分間に亘って載置して繊維前処理液中の溶媒を蒸発させて除去すると共に、ナフトキサジン樹脂粒子の成長および炭化が生じ、アモルファスカーボン粒子を含む炭素繊維の開繊織物を得た。
【0134】
次いで、繊維前処理液中に予め含有されていたナフトキサジン樹脂粒子を核として成長したナフトキサジン樹脂粒子が単独で、または互いに接続して熱硬化性樹脂列を形成しながら、強化繊維と接続一体化し、強化繊維間にナフトキサジン樹脂粒子が強化繊維間を架け渡した状態に配設された。強化繊維とナフトキサジン樹脂粒子との間には、このナフトキサジン樹脂粒子よりも小径のナフトキサジン樹脂粒子が複数個介在していた。
【0135】
そして、強化繊維間に配設されたナフトキサジン樹脂粒子は直ちに炭化されて炭化化合物粒子とされて強化繊維束が作製された。強化繊維束の強化繊維間には、炭素同素体粒子を含む架橋部が配設されていた。架橋部の両端は、強化繊維に接続一体化していた。炭素同素体粒子は、アモルファスカーボンから形成されていた。
【0136】
得られた強化繊維束(炭素繊維開繊織物を構成する)を光学顕微鏡(KEYENCE社製 商品名「VH−2500」)を用いて観察したところ、炭素同素体粒子の平均粒子径は3μmであった。大径の炭素同素体粒子の平均粒子径は5μmであった。小径の炭素同素体粒子の平均粒子径は1μmであった。架橋部を構成している炭素同素体粒子の平均数は3個であった。
【0137】
図9および図10に、開繊処理前の繊維束から構成される強化繊維織物、および開繊処理後の強化繊維束から構成される本発明の強化繊維開繊織物の顕微鏡写真をそれぞれ示す。図10に示したとおり、経糸束および緯糸束は、開繊処理によって、それぞれ、ほぼ隣り合った繊維束と密着していることがわかる。
【0138】
このように、本実施例においては、炭素繊維織物は、開繊処理を受けて開繊状態にあるため、炭素繊維開繊織物と称することができる。
【0139】
乾燥後の炭素繊維開繊織物を構成する得られた強化繊維束の水平方向の厚み(幅)は、経糸幅および緯糸幅のいずれも、1.99mm(10か所の平均値)であり、開繊処理前に比べて、0.49mm増加した。
【0140】
また、乾燥後の炭素繊維開繊織物を構成する得られた強化繊維束の垂直方向の厚みは、0.21mm(10か所の平均値)であり、興味深いことに、水平方向と同様に、開繊処理前に比べて増加した。通常、糸束(繊維束)が水平方向に開いた後は、垂直方向には、単繊維が積層する数が減少するために、垂直方向の厚みが減少すると考えられるが、本実施例の開繊処理では、上記のとおり、開繊処理前の0.19mmから開繊処理後の0.21mmへと、垂直方向においても、繊維束の厚みが増加していることが判明した。
【0141】
これは、上記の加熱処理で合成された耐熱性の高強度樹脂であるナフトキサジン樹脂により、繊維間が開いた状態のままで固定され保持されたためであると推察される。
【0142】
[比較例B1]
繊維前処理液として、50質量%エタノール水600gを使用した以外は、実施例B1と同様の手順で炭素繊維織物の作製および評価を行った。
【0143】
比較例B1において得られた乾燥後の強化繊維束の水平方向の厚み(幅)は、経糸幅および緯糸幅のいずれも、1.99mm(10か所の平均値)であり、処理前に比べて、0.49mm増加した。
【0144】
また、比較例B1において得られた乾燥後の強化繊維束の垂直方向の厚みは、0.16mm(10か所の平均値)であり、処理前に比べて減少した。通常、糸束(繊維束)が水平方向に開いた後は、垂直方向には、単繊維が積層する数が減少するために、垂直方向の厚みが減少すると考えられるところ、予期されるとおり、比較例B1の処理では、処理前の0.19mmから処理後の0.16mmへと、垂直方向の繊維束の厚みが減少していることが判明した。
【0145】
これは、実施例B1とは異なり、繊維間が開いた状態のままで固定されず安定的に保持されていないためであると推察される。
【0146】
[参考例B1]
比較例A1において使用した繊維前処理液を使用した以外は、実施例1と同様の手順で炭素繊維織物の作製および評価を行った。
【0147】
得られた強化繊維束を、実施例1と同様に観察したところ、炭素同素体は強化繊維束の表面に半球状に付着一体化しているものの、炭素同素体は、強化繊維同士を架橋した状態にはないことがわかった。
【0148】
参考例B1において得られた乾燥後の強化繊維束の水平方向の厚み(幅)は、経糸幅および緯糸幅のいずれも、1.99mm(10か所の平均値)であり、処理前に比べて、0.49mm増加した。
【0149】
また、参考例1において得られた乾燥後の強化繊維束の垂直方向の厚みは、0.16mm(10か所の平均値)であり、処理前に比べて減少した。通常、糸束(繊維束)が水平方向に開いた後は、垂直方向には、単繊維が積層する数が減少するために、垂直方向の厚みが減少すると考えられるところ、予期されるとおり、本比較例の処理では、処理前の0.19mmから処理後の0.16mmへと、垂直方向の繊維束の厚みが減少していることが判明した。
【0150】
これは、実施例B1とは異なり、上記の加熱処理で耐熱性の高強度樹脂であるナフトキサンジン樹脂が合成されることはなく、よって、繊維間が開いた状態のままで固定されず安定的に保持されることがないためであると推察される。
【0151】
[実施例B2]
<炭素繊維強化複合体の作製>
マトリックス樹脂としてポリプロピレン(PP)樹脂(プライムポリマー社製 商品名「J108M」)を用いた。
【0152】
ポリプロピレン樹脂をフィルム状に押出し、溶融状態のポリプロピレン樹脂フィルムを、実施例1で得られた炭素繊維開繊織物を構成する強化繊維束上に積層した後に、250℃に加熱しながら1MPaの圧力で3分間に亘って圧縮することにより、ポリプロピレン樹脂を強化繊維束中に含浸させて、厚みが250μmの炭素繊維強化複合体を得た。なお、炭素繊維強化複合体中において、強化繊維の含有量は、50質量%であった。
【0153】
<曲げ弾性率および曲げ強度>
上記した炭素繊維強化複合体を、複数枚数重ねて、熱融着一体化させて積層体を作製した。得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度をJIS K7074に準拠して測定した。
【0154】
結果を表B1に示す。表B1から明らかなように、実施例B2の炭素繊維強化複合体は、後述する比較例B2の炭素繊維複合体と比べて、優れた曲げ弾性率および曲げ強度を有することが実証された。
【0155】
[比較例B2]
比較例B1で得られた炭素繊維織物を用いた以外は、実施例B2と同じマトリックス樹脂を用い、実施例B2と同様に、炭素繊維複合体を作製し、これを用いて得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度を測定した。
【0156】
結果を表B1に示す。表B1から明らかなように、比較例B2の炭素繊維複合体は、実施例B2の炭素繊維強化複合体と比べて、曲げ弾性率および曲げ強度の点で劣ることが示された。
【0157】
[実施例B3]
<炭素繊維強化複合体の作製>
マトリックス樹脂としてポリカーボネート(PC)樹脂(住友アクリル販売社製、フィルム厚み75μm、品番「C000」)を用いた。
【0158】
ポリカーボネート樹脂を、実施例B1で得られた炭素繊維開繊織物を構成する強化繊維束上に積層した後に、250℃に加熱しながら1MPaの圧力で3分間に亘って圧縮することにより、ポリカーボネート樹脂を強化繊維束中に含浸させて、厚みが250μmの炭素繊維強化複合体を得た。なお、炭素繊維強化複合体中において、強化繊維の含有量は、50質量%であった。
【0159】
<曲げ弾性率および曲げ強度>
上記した炭素繊維強化複合体を、複数枚数重ねて、熱融着一体化させて積層体を作製した。得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度をJIS K7074に準拠して測定した。
【0160】
結果を表B1に示す。表B1から明らかなように、実施例B3の炭素繊維強化複合体は、後述する比較例B3の炭素繊維複合体と比べて、優れた曲げ弾性率および曲げ強度を有することが実証された。
【0161】
[比較例B3]
比較例B1で得られた炭素繊維織物を用いた以外は、実施例B3と同じマトリックス樹脂を用い、実施例B3と同様に、炭素繊維複合体を作製し、これを用いて得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度を測定した。
【0162】
結果を表B1に示す。表B1から明らかなように、比較例B3の炭素繊維複合体は、実施例B3の炭素繊維強化複合体と比べて、曲げ弾性率および曲げ強度の点で劣ることが示された。
【0163】
[実施例B4]
<炭素繊維強化複合体の作製>
マトリックス樹脂としてポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂フィルム(住友アクリル販売社製、フィルム厚み75μm 品番「S001G」)を用いた。
【0164】
ポリメタクリル酸メチル樹脂フィルムを、実施例B1で得られた炭素繊維開繊織物を構成する強化繊維束上に積層した後に、250℃に加熱しながら1MPaの圧力で3分間に亘って圧縮することにより、ポリメタクリル酸メチル樹脂を強化繊維束中に含浸させて、厚みが250μmの炭素繊維強化複合体を得た。なお、炭素繊維強化複合体中において、強化繊維の含有量は、50質量%であった。
【0165】
<曲げ弾性率および曲げ強度>
上記した炭素繊維強化複合体を、複数枚数重ねて、熱融着一体化させて積層体を作製した。得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度をJIS K7074に準拠して測定した。
【0166】
結果を表B1に示す。表1から明らかなように、実施例B4の炭素繊維強化複合体は、後述する比較例B4の炭素繊維複合体と比べて、優れた曲げ弾性率および曲げ強度を有することが実証された。
【0167】
[比較例B4]
比較例B1で得られた炭素繊維織物を用いた以外は、実施例B4と同じマトリックス樹脂を用い、実施例B4と同様に、炭素繊維複合体を作製し、これを用いて得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度を測定した。
【0168】
結果を表B1に示す。表B1から明らかなように、比較例B4の炭素繊維複合体は、実施例B4の炭素繊維強化複合体と比べて、曲げ弾性率および曲げ強度の点で劣ることが示された。
【0169】
【表2】
【0170】
[実施例C1−1]
<炭素繊維織物の準備>
12K炭素繊維織物1:PAN系炭素繊維束(フィラメント数:12000本)を綾織平織してなる、目付量:400g/m、厚み:0.575mmの織物(台湾プラスチック社製 商品名「ECCN」)、および
12K炭素繊維織物2:PAN系炭素繊維束(フィラメント数:12000本)を平織してなる、目付量:192g/m、厚み:0.21mmの織物(東レ社製 商品名「トレカクロスCK6273C」)
を準備した。
【0171】
<熱可塑性樹脂の準備>
ポリプロピレン(PP)樹脂(プライムポリマー社製 商品名「J108M」)を100質量部と、マレイン酸変性ポリプロピレン(三洋化成工業株式会社製、商品名「ユーメックス1010」)を10質量部とを混合し、押出機にて溶融混練して製膜化したPP樹脂フィルム、および
ポリカーボネート(PC)樹脂フィルム(住友化学株式会社製 商品名「テクノロイC000」)
を準備した。
【0172】
12K炭素繊維織物1に対し、マトリックス樹脂としてPP樹脂フィルムを上下に5層積層した。積層体のサイズは200×200mmであり、厚み2mmであった。
次に、該積層体を内寸が200×200mm角の穴の開いた口の字状スペーサー内に配置し、平板金型を用いて、常温から200℃まで加熱、200℃で10分保持、さらに2MPaの圧力で10分間に亘って加熱加圧を行った。その後、同じ圧力を保持したまま約30分かけて冷却し、金型を開放しプリプレグを得た。
該プリプレグにおいて、縦方向および横方法を含め、最もピッチ幅が広くなっている部分を定規で測定した。その結果を表C1に示す。
【0173】
[実施例C1−2]
マトリックス樹脂をPC樹脂フィルムに変更し、金型温度を270℃にしたこと以外は、実施例C1−1と同様の条件でプリプレグを製造した。ピッチ幅の測定結果を表C1に示す。
【0174】
[比較例C1−1]
12K炭素繊維織物2に変更したこと以外は、実施例C1−1と同様の条件でプリプレグを製造した。ピッチ幅の測定結果を表C1に示す。
【0175】
[比較例C1−2]
12K炭素繊維織物2に変更したこと以外は、実施例C1−2と同様の条件でプリプレグを製造した。ピッチ幅の測定結果を表C1に示す。
【0176】
【表3】
【0177】
プレス成形前の炭素繊維織物1のピッチ幅は約4mmで均一であり、織物2のピッチ幅は約7.5mmで均一あったが、目付量が200g/mの織物を用いた比較例C1−1および比較例C1−2では、目ずれが発生した。これに対して、目付量が400g/mの織物を用いた実施例C1−1および実施例C1−2では、目ずれは殆ど発生せず、ピッチ幅は共に4.1mmであった。以上の結果より、目付量を特定の数値以上とすることで、炭素繊維織物の意匠性を保持できることが明らかとなった。
【0178】
[実施例C2−1]
<開繊含浸液の作製>
1,5−ジヒドロキシナフタレン(和光純薬社製 商品名「048−02342」)10質量部、メチルアミン(和光純薬社製 商品名「132−01857」)4質量部、およびホルマリン(ホルムアルデヒドの含有量:37質量%、和光純薬社製 商品名「064−00406」)8質量部を含むモノマーと、溶媒としてエタノール水(エタノールの含有量:50質量%、和光純薬社製 商品名「057−00456」)600質量部とを均一に混合して、モノマーを溶解してなる開繊含浸液を作製した。
【0179】
開繊含浸液を攪拌しながら、溶液温度が60℃となるように加熱して30分間に亘って保持し、モノマーの一部を重合させて、ナフトキサジン樹脂粒子を析出させて、ナフトキサジン樹脂粒子を含む開繊含浸液を作製した。
【0180】
開繊含浸液を一部取って光学顕微鏡(KEYENCE社製 商品名「VHX−6000」)を用いて観察したところ、ナフトキサジン樹脂粒子を観察することができた。任意の20点のナフトキサジン粒子の平均粒子径は2μmであった。また、モノマー溶液中に含まれていたモノマーの転化率は50%であり、開繊含浸液中にはモノマーが残存していた。
【0181】
<開繊炭素繊維束の作製>
12K炭素繊維織物1に開繊含浸液を含浸させて含浸繊維束を作製した。12K炭素繊維織物1は、開繊含浸液を含浸することによって膨潤していた。
【0182】
12K炭素繊維織物1を200℃に保持された熱板上に3分間に亘って載置して開繊含浸液中の溶媒を蒸発させて除去した。さらに、開繊含浸液中のモノマーを重合させて、開繊含浸液中に予め含有させていたナフトキサジン樹脂粒子を核としてナフトキサジン樹脂粒子を成長させると共に、開繊含浸液中に予め含有させていたナフトキサジン樹脂粒子を核とすることなくナフトキサジン樹脂粒子を新たに析出させた。
【0183】
開繊含浸液中に予め含有されていたナフトキサジン樹脂粒子を核として成長したナフトキサジン樹脂粒子が単独で、または互いに接続して熱硬化性樹脂列を形成しながら、炭素繊維と接続一体化し、炭素繊維間にナフトキサジン樹脂粒子が炭素繊維間を架け渡した状態に配設された。炭素繊維とナフトキサジン樹脂粒子との間には、このナフトキサジン樹脂粒子よりも小径のナフトキサジン樹脂粒子が複数個介在していた。
【0184】
そして、炭素繊維間に配設されたナフトキサジン樹脂粒子は直ちに炭化されて、炭素同位体粒子を含む開繊炭素繊維束が作製された。炭素繊維束の炭素繊維間には、炭素同素体粒子を含む架橋部が配設されていた。架橋部の両端は、炭素繊維に接続一体化していた。炭素同素体粒子は、炭素同素体から形成されていた。炭素同素体粒子の平均粒子径は3μmであった。
【0185】
<繊維強化複合材の製造および評価>
次に、上記したPP樹脂フィルムと12K炭素繊維織物1とを5層重ね合わせて、常温から200℃まで加熱、200℃で10分保持、さらに2MPaの圧力で10分間に亘って加熱加圧を行った。その後、同じ圧力を保持したまま約30分かけて冷却し、繊維強化複合材を得た。
【0186】
得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度をJIS K7074に準拠して測定した。測定結果は、下記表C2に示される通りであった。
【0187】
[実施例C2−2]
実施例C2−1で作製した開繊含浸液において、1,5−ジヒドロキシナフタレン12部、メチルアミン11部、ホルマリン6部に変更した以外は実施例C2−1と同様の方法で開繊含浸液を作製した。
【0188】
上記で得られた開繊含浸液の一部を50%エタノール水溶液で希釈し、その少量を採取してプレパラート上に滴下し、溶媒を蒸発させた後、光学顕微鏡(KEYENCE社製 装置名「VHX−6000」)により、粒子の形状および分散性を確認した。結果として、個々の粒子(一次粒子)は真球状に近い形状であり、一部に、一次粒子が20個程度凝集している箇所も観察されるものの、全体として、良好な分散性を示した。また、粒子の粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製 商品名「SALD−2200」)で測定した結果、平均粒子径であるメディアン径(D50)は3.1μmであった。
【0189】
<開繊炭素繊維束の作製>
実施例C2−2で作製した開繊含浸液を用いたこと以外は、実施例C2−1と同様の方法で開繊炭素繊維束を作製した。炭素同素体粒子の平均粒子径は4μmであった。
【0190】
実施例C2−2で作製した開繊炭素繊維束を用いたこと以外は、実施例C2−1と同様の方法で繊維強化複合材を作製し積層体を得た。得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度について、実施例2−1と同様にして測定した。測定結果は、下記表C2に示される通りであった。
【0191】
[実施例C2−3]
<開繊含浸液の作製>
1,5−ジヒドロキシナフタレン10質量部、40質量%メチルアミン水溶液4質量部、およびホルマリン(ホルムアルデヒドの含有量:37質量%)8質量部からなるモノマーと、溶媒としてエタノール水(エタノールの含有量:50質量%)600質量部とを均一に混合して、モノマーを溶解してなる開繊含浸液を作製した。
【0192】
次に該開繊含浸液にシリカ粒子(日揮触媒化成株式会社製、商品名「ESPHERIQUE N150」、平均粒子径10μm、比表面積5m/g)を20質量部添加した。
【0193】
<開繊炭素繊維束の作製>
続いて、12K炭素繊維織物1を用意し、上記の開繊含浸液に浸漬した後に引き上げ、その後、200℃で2分間加熱した。この加熱によって、ナフトキサジン樹脂の重合反応と、炭化が生じ、ナフトキサジン樹脂由来の炭素同素体が生成し、開繊炭素繊維束が得られた。開繊炭素繊維束におけるシリカ粒子および炭素同素体の合計付着量は、1質量%であった。また、被膜粒子の平均粒子径は6μmであった。
【0194】
<繊維強化複合材の製造および評価>
実施例C2−3で作製した開繊炭素繊維束を用いたこと以外は、実施例C2−1と同様の方法で繊維強化複合材を作製し積層体を得た。得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度について、実施例C2−1と同様にして測定した。測定結果は、下記表C2に示される通りであった。
【0195】
[比較例C2−1]
<繊維強化複合材の製造および評価>
開繊処理を行っていない12K炭素繊維織物1を用いたこと以外は、実施例C2−3と同様の方法でプリプレグを作製した。
【0196】
比較例C2−1で製造した炭素繊維束を用いたこと以外は、実施例C2−1と同様の方法で繊維強化複合材を作製し積層体を得た。得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度について、実施例C2−1と同様にして測定した。測定結果は、下記表C2に示される通りであった。なお、表中、RCFとは、繊維強化複合材に占める炭素繊維含有率(体積%)を表す。
【0197】
【表4】
【0198】
上記評価結果から、未開繊の炭素繊維束からなる織物を用いた積層体(比較例C2−1)に対して、開繊炭素繊維束からなる織物を用いた積層体(実施例C2−1〜C2−3)は、意匠性を維持しながら、機械強度が向上していることが明らかになった。また、実施例C2−1の積層体よりも、大きなスペーサー粒子によって開繊された開繊炭素繊維束を用いた積層体(実施例C2−2、C2−3)の方が、理論曲げ弾性率に対する曲げ弾性率の比が向上し、機械強度が著しく向上していることが明らかとなった。これは、大きなスペーサー粒子によって炭素繊維束が十分に開繊され、マトリックス樹脂の含浸性が向上したことによるものであると考えられる。
【0199】
[実施例C3−1]
PP樹脂フィルムをPC樹脂フィルムに変更し、金型温度を270℃とした以外は実施例C2−1と同様の方法で繊維強化複合材を作製した。
【0200】
得られた繊維強化複合材を、複数枚数重ねて、熱融着一体化させて積層体を製造した。得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度をJIS K7074に準拠して測定した。測定結果は、下記表C3に示される通りであった。
【0201】
[実施例C3−2]
PP樹脂フィルムをPC樹脂フィルムに変更し、金型温度を270℃とした以外は実施例C2−2と同様の方法で繊維強化複合材を作製し積層体を得た。得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度について、実施例C3−1と同様にして測定した。測定結果は、下記表C3に示される通りであった。
【0202】
[実施例C3−3]
PP樹脂フィルムをPC樹脂フィルムに変更し、金型温度を270℃とした以外は実施例C2−3と同様の方法で繊維強化複合材を作製し積層体を得た。得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度について、実施例C3−1と同様にして測定した。測定結果は、下記表C3に示される通りであった。
【0203】
[比較例C3−1]
PP樹脂フィルムをPC樹脂フィルムに変更し、金型温度を270℃とした以外は比較例C2−1と同様の方法で繊維強化複合材を作製し積層体を得た。得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度について、実施例C3−1と同様にして測定した。測定結果は、下記表C3に示される通りであった。なお、表中、RCFとは、繊維強化複合材に占める炭素繊維含有率(体積%)を表す。
【0204】
【表5】
【0205】
上記評価結果から、マトリックス樹脂をPC樹脂に変更しても、表C2で示した結果と同様に、開繊炭素繊維束を用いた積層体の方が、理論曲げ弾性率に対する曲げ弾性率の比が向上し、意匠性を維持しながら機械強度が著しく向上していることが明らかとなった。
【0206】
[実施例D1]
<開繊炭素繊維束の作製>
1,5−ジヒドロキシナフタレン10質量部、40質量%メチルアミン水溶液4質量部、およびホルマリン(ホルムアルデヒドの含有量:37質量%)8質量部からなるモノマーと、溶媒としてエタノール水(エタノールの含有量:50質量%)800質量部とを均一に混合して、モノマーを溶解してなるモノマー溶液を作製した。
【0207】
次に上記モノマー溶液にジビニルベンゼン架橋重合体からなる粒子(積水化学工業株式会社社製、商品名「ミクロパールSP」、平均粒径3μm)を10質量部添加し、開繊含浸液を作製した。
【0208】
続いて、PAN系炭素繊維束から構成される炭素繊維織物(炭素繊維数:3000本、炭素繊維の平均径:7μm、目付:200g/m2、厚み:0.19mm、平織)を用意し、上記の開繊含浸液に浸漬した後に引き上げ、その後、200℃で2分間加熱した。この加熱によって、ナフトキサジン樹脂の重合反応と、炭化が生じ、ナフトキサジン樹脂由来のアモルファスカーボンが生成し、開繊炭素繊維束の織物が得られた。開繊炭素繊維束における有機粒子および炭素同素体の合計付着量は、1質量%であった。
【0209】
<炭素繊維強化複合体の作製および評価>
マトリックス樹脂としてポリカーボネート(PC)樹脂(エスカーボシート株式会社製 商品名「TECHNOLLOY C000」)を用いた。ポリカーボネート樹脂をフィルム状に押出し、溶融状態のポリカーボネート樹脂フィルムを、上記で得られた開繊炭素繊維束からなる織物上に積層し、その後、270℃に加熱しながら3MPaの圧力で15分間に亘って圧縮することにより、ポリカーボネート樹脂を開繊炭素繊維束中に含浸させて、厚みが400μmの炭素繊維強化複合体を得た。なお、炭素繊維強化複合体中において、炭素繊維の含有量は、50体積%であった。
【0210】
得られた炭素繊維強化複合体を、複数枚数重ねて、熱融着一体化させて積層体を作製した。得られた積層体の曲げ強度を、レバー式小型手動計測(株式会社イマダ製 スタンド型番:SVL−1000N)および、デジタルフォースゲージ (株式会社イマダ製 型番:DSV−1000N)を組み合わせた簡易型曲げ試験装置で計測した(圧子:直径4mm、試験方法:3点曲げ試験)。計測した試験体は、厚さ0.4mm〜0.5mm、幅15mm、長さ40mmであり、支点間距離を16mmとして5試験体を測定し、得られた最大試験力から曲げ応力を算出した。測定結果は、下記表D1に示される通りであった。
【0211】
[実施例D2]
<開繊炭素繊維束の作製>
平均粒径が10μmのジビニルベンゼン架橋重合体からなる粒子(積水化学工業株式会社社製、商品名「ミクロパールSP」)を用いたこと以外は、実施例D1と同様にして開繊炭素繊維束からなる織物を製造した。開繊炭素繊維束における有機粒子および炭素同素体の合計付着量は、1質量%であった。また、光学顕微鏡画像における任意の10点の被膜有機粒子の直径を測定した結果、その平均は11μmであった。
【0212】
<炭素繊維強化複合体の作製および評価>
実施例D2の開繊炭素繊維束からなる織物を用いたこと以外は、実施例D1と同様にして炭素繊維強化複合体を作製した。実施例D1と同様にして、実施例D2の炭素繊維強化複合体から積層体を作製し、曲げ強度を作製した。測定結果は、下記表D1に示される通りであった。
【0213】
[比較例D1]
<炭素繊維強化複合体の作製および評価>
開繊されていない炭素繊維束を用いたこと以外は、実施例D1と同様にして炭素繊維強化複合体を作製した。実施例D1と同様にして、比較例D1の炭素繊維強化複合体から積層体を作製し、曲げ強度を作製した。測定結果は、下記表D1に示される通りであった。
【0214】
【表6】
【0215】
以上、本発明の好ましい実施形態に従い限定的ではなく例示的に本発明を説明したが、当業者であれば、添付された特許請求の範囲によって規定される発明の範囲から逸脱することなく、その変形および/または修正を行うことが可能であると理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10